(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182237
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】鉱石スラリーの製造方法、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20221201BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/08
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089697
(22)【出願日】2021-05-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佳智
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA03
4K001DB03
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】例えばニッケル酸化鉱石の湿式製錬における浸出処理に供する鉱石スラリーに関して、凝集剤の添加量を抑えながら、そのスラリー濃度を効果的に高めることができる方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、ニッケル酸化鉱石をスラリー化して鉱石スラリーを製造する方法であって、ニッケル酸化鉱石のD90平均粒径を60μm以上として鉱石スラリーの沈降濃縮を行う処理を含む。この製造方法においては、沈降濃縮において添加する凝集剤の添加量を鉱石1トンあたり80g以下とし、鉱石スラリーの濃度を34質量%以上に調整する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石をスラリー化して鉱石スラリーを製造する方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石のD90平均粒径を60μm以上として鉱石スラリーの沈降濃縮を行う処理を含む、鉱石スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記沈降濃縮において添加する凝集剤の添加量を鉱石1トンあたり80g以下とし、
前記鉱石スラリーの濃度を34質量%以上に調整する、
請求項1に記載の鉱石スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記ニッケル酸化鉱石のD50平均粒径を10μm以上とする、
請求項1又は2に記載の鉱石スラリーの製造方法。
【請求項4】
D90平均粒径が60μm未満の鉱石粒子に、D90平均粒径が60μmより大きい鉱石粒子を添加し混合することによって、前記ニッケル酸化鉱石のD90平均粒径を60μm以上とし、
前記D90平均粒径が60μmより大きい鉱石粒子は、分級装置による分級操作で得られる大粒径側のものである、
請求項1乃至3のいずれかに記載の鉱石スラリーの製造方法。
【請求項5】
ニッケル酸化鉱石をスラリー化して鉱石スラリーを調製する鉱石スラリー調製工程と、
前記鉱石スラリーに対して硫酸を添加して浸出処理を施す浸出工程と、を有し、
前記鉱石スラリー調製工程では、前記ニッケル酸化鉱石のD90平均粒径を60μm以上として鉱石スラリーの沈降濃縮を行う処理を含む、
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項6】
前記沈降濃縮において添加する凝集剤の添加量を鉱石1トンあたり80g以下とし、
前記鉱石スラリーの濃度を34質量%以上に調製する、
請求項4に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石スラリーの製造方法、並びにその製造方法を適用したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低品位ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧硫酸浸出に基づく湿式製錬方法において、浸出工程に供給される鉱石は、解砕機や湿式篩によって所定の大きさ以下のものが取り出され、スラリー化される。
【0003】
また、通常、その鉱石スラリーは、所定の酸消費量、浸出液のニッケル(Ni)濃度、及びその他の不純物濃度となるように、数種類の鉱石をブレンドして調製される。ところが、この時点で得られる鉱石スラリーのスラリー濃度(固形分率)は、10質量%~15質量%程度と低いためNi含有量も相応に少なく、このままの状態で浸出工程に供給すると、得られる浸出液は液量が多くNi濃度も低くなる。このような浸出液からは、効率的にニッケルを回収できないという問題が生じる。
【0004】
そのため、スラリー濃度の低い鉱石スラリーは、シックナー等の沈降濃縮装置を利用して、スラリー濃度を上げる濃縮操作を行ってから浸出工程へと供給される。シックナーにおいては、鉱石種によってシックニング(シックナーでの沈降濃縮)挙動が異なるため、ブレンドした鉱石の種類、ブレンドの比率、シックニングに使用するシックナーの形状や大きさ、用いる凝集剤の種類、量等に依存する。
【0005】
鉱石スラリーのスラリー濃度が高いほど、浸出工程での処理における単位時間当たりのニッケル通過量が増え、ニッケル回収効率が高くなる。そのため、スラリー濃度は、可能な限り高いことが求められる。
【0006】
スラリー濃度を高めるために、一般的に凝集剤を用いて濃縮が行われるが、凝集剤の添加量が増加すると薬剤コストが増大する。通常、凝集剤の主成分は高分子炭化水素であるため、液中の炭素品位は上昇する。そして、凝集剤に備わる粘性や炭素品位は、浸出工程での処理を減速させる要因となる。なお、一般的には、凝集剤の添加量としては、100g/t-鉱石以下程度とすることが望ましい。
【0007】
例えば特許文献1には、粒度が調整された鉱石を含む鉱石スラリーをシックナーに装入して濃縮する際、その鉱石スラリーに添加する凝集剤の添加量及び鉱石スラリーの濃縮後の温度を規定するとともに、凝集剤については分子量と予め希釈しておく希釈率を規定することで、鉱石スラリーの濃度と粘度を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、例えばニッケル酸化鉱石の湿式製錬における浸出処理に供する鉱石スラリーに関して、凝集剤の添加量を抑えながら、そのスラリー濃度を効果的に高めることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、鉱石スラリーを構成するニッケル酸化鉱石の粒度が沈降濃縮の処理における沈降速度に影響し、特定の粒度分布を有するように鉱石の粒度を調整することで、鉱石スラリーの濃度を所望とする高濃度の範囲に効率的に調整できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル酸化鉱石をスラリー化して鉱石スラリーを調製する方法であって、前記ニッケル酸化鉱石のD90平均粒径を60μm以上として鉱石スラリーの沈降濃縮を行う処理を含む、鉱石スラリーの製造方法である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記沈降濃縮において添加する凝集剤の添加量を鉱石1トンあたり80g以下とし、前記鉱石スラリーの濃度を34質量%以上に調整する、鉱石スラリーの製造方法である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記ニッケル酸化鉱石のD50平均粒径を10μm以上とする、鉱石スラリーの製造方法である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、D90平均粒径が60μm未満の鉱石粒子に、D90平均粒径が60μmより大きい鉱石粒子を添加し混合することによって、前記ニッケル酸化鉱石のD90平均粒径を60μm以上とし、前記D90平均粒径が60μmより大きい鉱石粒子は、分級装置による分級操作で得られる大粒径側のものである、鉱石スラリーの製造方法である。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、ニッケル酸化鉱石をスラリー化して鉱石スラリーを調製する鉱石スラリー調製工程と、前記鉱石スラリーに対して硫酸を添加して浸出処理を施す浸出工程と、を有し、前記鉱石スラリー調製工程では、前記ニッケル酸化鉱石のD90平均粒径を60μm以上として鉱石スラリーの沈降濃縮を行う処理を含む、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0016】
(6)本発明の第6の発明は、第5の発明において、前記沈降濃縮において添加する凝集剤の添加量を鉱石1トンあたり80g以下とし、前記鉱石スラリーの濃度を34質量%以上に調製する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、例えばニッケル酸化鉱石の湿式製錬における浸出処理に供する鉱石スラリーに関して、凝集剤の添加量を抑えながら、そのスラリー濃度を効果的に高めることができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ニッケル湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。
【
図2】粒度分布の異なる2種類の鉱石を用いて沈降濃縮の試験を行ったときの、凝集剤の添加量とスラリー濃度との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更が可能である。
【0020】
≪1.鉱石スラリーの製造方法≫
本実施の形態に係る方法は、ニッケル酸化鉱石をスラリー化して鉱石スラリーを製造する方法(以下、単に「製造方法」ともいう)である。この製造方法は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、浸出工程での浸出処理に供する鉱石スラリーを調製する鉱石スラリー調製工程での処理に適用することができる。
【0021】
具体的に、本実施の形態に係る製造方法においては、鉱石に水を添加して得られる鉱石スラリーを、シックナー等の沈降濃縮装置を使用して沈降濃縮を行う処理を含む。このような沈降濃縮により、鉱石スラリーのスラリー濃度を高める。そして、本実施の形態に係る製造方法では、その沈降濃縮において、ニッケル酸化鉱石のD90平均粒径を60μm以上に調整し、粒度を調整した鉱石スラリーに対して沈降濃縮を行うことを特徴とする。
【0022】
本発明者による検討の結果、鉱石スラリーを構成するニッケル酸化鉱石の粒度が沈降濃縮の処理における沈降速度に影響し、特定の粒度、すなわちD90平均粒径が60μm以上となるように粒度調整することで、鉱石スラリーの濃度(スラリー濃度:鉱石スラリーにおける固形分濃度)を所望の高濃度の範囲に効率的に調整できることがわかった。
【0023】
また、本実施の形態に係る製造方法によれば、沈降濃縮において凝集剤の添加量に依存することなく、効果的にスラリー濃度を高めた鉱石スラリーを製造することができる。具体的には、沈降濃縮において添加する凝集剤の添加量を、例えば鉱石1トンあたり80g以下という従来よりも少ない量で、スラリー濃度を34質量%以上の高濃度に調整することができる。すなわち、凝集剤の薬剤コストを増大させることなく、経済的にも極めて効率的な操作によって、高濃度の鉱石スラリーを製造することができる。
【0024】
ニッケル酸化鉱石の粒度調整の方法は、特に限定されず、公知の方法により行うことができる。例えば、鉱石に対して粉砕処理や解砕処理を行ってある程度の大きさにしたのち、分級装置を用いて所定の分級粒度(分級点)で分級処理を施す。
【0025】
また、鉱石を粉砕等して粒度を調整することに限らず、例えば、D90平均粒径が60μm未満の鉱石粒子に対してD90平均粒径が60μmより大きい鉱石粒子を所定の割合で混合することで、沈降濃縮する処理対象の鉱石を調製するようにしてもよい。このような粒度調整の方法によれば、粉砕や解砕といった複雑な操作を行うことなく、例えば篩分けのような操作に基づき適切な粒径の鉱石粒子を添加して混合するという簡易な操作により行うことができ、効率的な処理対象の調製を行うことができる。また、小粒径の鉱石粒子も併せて処理できるため、沈降濃縮処理の対象としての鉱石粒子の適用範囲を拡げることができる。なおこのとき、添加するD90平均粒径が60μmより大きい鉱石粒子(大粒径の鉱石粒子)は、分級装置による分級操作して得られる大粒径側のもの(例えば60μm篩による篩分け操作で分級される篩上の鉱石粒子)であり、その添加量は、混合して得られる沈降濃縮の処理対象の鉱石のD90平均粒径が60μm以上となるまでとする。
【0026】
このような粒度調整によって、D90平均粒径が60μm以上となるようにする。なお、平均粒径の上限値は、浸出効率を高める観点から100μm以下とすることが好ましく、90μm以下とすることがより好ましく、85μm以下とすることが特に好ましい。D90平均粒径とは、それぞれの粒子の体積を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径(全体体積を100%にして粒度分布の累積曲線を求めるとき、累積曲線が90%となる点の粒径)を意味する。また、D90平均粒径は、例えば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0027】
ニッケル酸化鉱石のD90平均粒径の制御は、篩の目開きにより簡単に行うことができ、目標とするD90平均粒径の値の1倍~2倍の目開きの篩を用いるとよい。例えば、篩にかける前の鉱石粒子の体積が粒径について一様分布であれば、D90平均粒径は篩の目開きの0.9倍程度になる。また、小さな鉱石粒子が多い場合には篩の目開きの0.5倍程度となり、大きな鉱石粒子が多い場合でも篩の目開きの1.0倍程度までとなる。なお、後述する実施例では、篩の目開きの0.7倍(31÷45)であった。
【0028】
また、ニッケル酸化鉱石の粒度に関して、D50平均粒径が10μm以上の条件をさらに満たすことを好ましい。D50平均粒径は、13μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることが特に好ましい。D50平均粒径とは、それぞれの粒子の体積を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の50%となる粒径(全体体積を100%にして粒度分布の累積曲線を求めるとき、累積曲線が50%となる点の粒径)を意味する。また、D90平均粒径と同様に、D50平均粒径は、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0029】
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法≫
上述した鉱石スラリーの製造方法は、例えば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける、浸出工程での浸出処理に供する鉱石スラリーを調製する処理(鉱石スラリー調製工程)に好ましく適用することができる。本実施の形態に係る製造方法によれば、凝集剤の薬剤コストを抑えながら高濃度のスラリー濃度からなる鉱石スラリーを調製できるため、そのような鉱石スラリーを湿式製錬プロセスにおける浸出処理に供することで、ニッケルやコバルトの浸出効率を高めて回収率を向上させることができる。
【0030】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、例えば高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケルを浸出させて回収する製錬プロセスである。
図1は、ニッケル湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。
【0031】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、ニッケル酸化鉱石をスラリー化して鉱石スラリーを調製する鉱石スラリー調製工程S1と、鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で酸浸出処理を施す浸出工程S2と、浸出液のpHを調整して不純物元素を含む中和澱物を分離しニッケルを含む中和後液を得る中和工程S3と、中和後液に硫化剤を添加して硫化処理を施してニッケルを含む硫化物(ニッケル硫化物)を生成させるニッケル回収工程S4と、を有する。
【0032】
(1)鉱石スラリー調製工程
鉱石スラリー調製工程S1は、処理対象のニッケル酸化鉱石に対して水を添加してスラリー化し、鉱石スラリーを調製する工程である。
【0033】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石は、ニッケルやコバルトを含有する鉱石であり、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は0.8質量%~2.5質量%程度であり、ニッケルは水酸化物、又は含水ケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は10質量%~50質量%程度であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄が含水ケイ苦土鉱物等に含有される。
【0034】
ここで、本実施の形態では、鉱石スラリー調製工程S1において、スラリー化して得られた鉱石スラリーに対して、シックナー等の沈降濃縮装置を用いた濃縮処理を行うことを含む。このとき、鉱石スラリーを構成するニッケル酸化鉱石の粒度を、D90平均粒径で60μm以上となるように調整し、粒度調整した鉱石スラリーに対して沈降濃縮を行うことを特徴としている。
【0035】
鉱石スラリーの調製については、上で詳述した鉱石スラリーの製造方法における処理と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【0036】
このような方法により沈降濃縮を行って鉱石スラリーを調製することで、凝集剤の薬剤コストを低減させながら、高濃度のスラリー濃度を有する鉱石スラリーを調製することができる。具体的には、凝集剤の添加量を、鉱石1トンあたり80g以下という少ない量に抑えながら、スラリー濃度を34質量%以上の高濃度に調整することができる。
【0037】
(2)浸出工程
浸出工程S2は、鉱石スラリー調製工程S1を経て得られた鉱石スラリーに対して、例えば高圧酸浸出法を用いた酸浸出処理を施す工程である。具体的には、オートクレーブ等の加圧反応容器内に鉱石スラリーを装入し、そこに硫酸を添加して、220℃~280℃程度の高温の温度条件下で加圧しながら鉱石スラリーを攪拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる。
【0038】
浸出処理では、下記式(i)~(iii)で表される浸出反応と下記式(iv)及び(v)で表される高温熱加水分解反応が生じ、ニッケルやコバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。
・浸出反応
MO+H2SO4→MSO4+H2O ・・・(i)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)3+3H2SO4→Fe2(SO4)3+6H2O ・・・(ii)
FeO+H2SO4→FeSO4+H2O ・・・(iii)
・高温熱加水分解反応
2FeSO4+H2SO4+1/2O2→Fe2(SO4)3+H2O ・・・(iv)
Fe2(SO4)3+3H2O→Fe2O3+3H2SO4・・・(v)
【0039】
酸浸出処理で用いる硫酸使用量としては、特に限定されず、鉱石中の鉄が浸出され、へマタイトに変化するのに必要な化学当量よりもやや過剰量、例えば、鉱石1トン当り300~400kgが用いられる。
【0040】
本実施の形態においては、高濃度のスラリー濃度からなる鉱石スラリーを調製し、その鉱石スラリーに対して浸出処理を行うようにしているため、硫酸使用量を過度に増加させることなく、効率的にかつ効果的にニッケルやコバルトを浸出させることができる。
【0041】
なお、浸出処理により生成した浸出スラリーは、多段階で洗浄しながら固液分離に供することで、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素を含む浸出液と浸出残渣とを分離する。
【0042】
(3)中和工程
中和工程S3は、浸出液のpHを調整する中和処理を施し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケルやコバルトを含む中和後液を得る工程である。
【0043】
具体的に、中和工程S3では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和後液のpHが4以下、好ましくは3.0~3.5、より好ましくは3.1~3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加して、中和後液と不純物元素として3価の鉄やアルミニウム等を含む中和澱物スラリーとを生成させる。中和工程S3では、このようにして不純物を中和澱物として除去し、ニッケル回収用の母液となる中和終液を生成させる。
【0044】
(4)ニッケル回収工程
ニッケル回収工程S4は、ニッケル回収用の母液である中和終液に対して、硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化反応を生じさせ、ニッケルやコバルトを含む硫化物(以下、単に「ニッケル硫化物」ともいう)と貧液とを生成させ回収する工程である。
【0045】
ニッケル回収用の母液は、浸出液から中和工程S3を経て不純物成分が低減された硫酸酸性溶液である。ニッケル回収用の母液には、不純物成分として鉄、マグネシウム、マンガン等が数g/L程度含まれている可能性があるが、これら不純物成分は、回収するニッケルに対して硫化物としての安定性が低く、したがって生成するニッケル硫化物に含まれることはない。
【0046】
ニッケル回収工程S4における硫化処理は、母液に対して硫化水素ガス等を吹き込んで硫化反応を行う硫化反応槽にて行われる。硫化反応により生成した硫化物を含んだ硫化反応後のスラリーに対しては、沈降分離処理が施され、沈殿物であるニッケル硫化物が装置の底部より分離回収され、一方で、水溶液成分はオーバーフローして貧液として回収される。回収した貧液は、ニッケル等の有価金属濃度が極めて低い溶液であり、硫化されずに残留した鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む。
【0047】
なお、中和工程を経て得られる中和終液中に亜鉛が含まれる場合には、ニッケル硫化物を生成させる硫化処理に先立って、亜鉛を硫化物として分離回収する脱亜鉛処理を行うようにしてもよい。脱亜鉛処理においては、硫化反応の際に硫化水素ガス濃度等の反応条件を控え目にすることで硫化反応の速度を抑制し、亜鉛と比較して高濃度で共存するニッケルの共沈を抑制する。
【実施例0048】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
下記表1に化学組成及び比重を示すニッケル酸化鉱石を用いて、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出処理に供する鉱石スラリーを調製した。なお、高温加圧硫酸浸出法による浸出処理では、主にLimonite鉱を原料として用いるが、Saprolite鉱は硫酸の過剰消費を招くMg品位がLimonite鉱に比較して高いものの、Ni品位が高いことからその不純物の影響度に応じて一部を混合して用いることができる。
【0050】
【0051】
ニッケル酸化鉱石を粉砕機により粉砕し、目開き45μm、1.4mmの篩で篩別処理を施した。下記表2に、それぞれの篩の篩下の粒度分布を示す。なお、D10、D50、D90の各平均粒径は、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めた。表2に示すように、45μm篩での篩下鉱石粒子のD90平均粒径は31μmであり、1.4mm篩での篩下鉱石粒子のD90平均粒径は62μmであった。
【0052】
【0053】
このようにして得られた各粒度のニッケル酸化鉱石を純水で希釈してスラリー濃度11質量%の鉱石スラリーとした。その後、スラリー濃度を高めるための沈降濃縮処理を行い、沈降濃縮挙動を調査した。沈降濃縮処理は、シックナーを使用して行い、凝集剤としてはアニオン性凝集剤であるPA804(栗田工業株式会社製)を純水で希釈して0.03質量%に調製したものを用いた。具体的には、鉱石スラリーに所定量の凝集剤を添加してスラリーを沈降濃縮させ、沈降した鉱石スラリー中の固体濃度(
図2に示すスラリー濃度)を測定した。
【0054】
図2は、鉱石に対する凝集剤の添加割合F
floc(単位:g・t
-1)とスラリー濃度W(Underflow concentration, 単位:mass%)との関係を、2種類の粒度分布について調査した結果を示す。
【0055】
図2に示されるように、45μm篩による篩下の鉱石からなる鉱石スラリーでは、凝集剤添加量を増加させてもスラリー濃度に変化はなく、その濃度は約31質量%程度であった。これに対して、1.4mm篩による篩下の鉱石(D90平均粒径が60μm以上の鉱石)からなる鉱石スラリーの場合では、凝集剤添加量を増加させるとスラリー濃度が上昇していき、しかもその凝集剤添加量は50g/t-Ore程度の少量で、スラリー濃度を34質量%以上にすることができた。
【0056】
1.4mm篩による篩下の鉱石には、45μm篩による篩下の鉱石と同様の粒子も含まれているが、そのほかに45μm以上の鉱石粒子を含むことにより、より好ましくは60μm以上の鉱石粒子を10%以上含むことで、より効率的にかつ有効に沈降濃縮できたと考えられる。つまり、大粒径の鉱石粒子を含むことにより、沈降濃縮が比較的難しい0μm~45μm程度の鉱石粒子も一緒に処理することができ、工業的に有用であることがわかる。
【0057】
なお、このような結果から、仮に、D90平均粒径が60μmを下回る鉱石粒子を沈降濃縮したいときには、45μm篩や60μm篩等の分級装置で得られた篩上の大粒径の鉱石粒子を添加することで、より沈降濃縮を効率よく進めることができることがわかる。ここでいう大粒径の鉱石粒子は、D90平均粒径が60μm以上の鉱石粒子であり、その添加量としては、沈降濃縮する対象の鉱石粒子のD90平均粒径が60μm以上となるまでとする。