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特開2022-182279レーザ溶接方法、レーザ溶接装置、および電気装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182279
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法、レーザ溶接装置、および電気装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20221201BHJP
【FI】
B23K26/21 L
B23K26/21 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089748
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
(72)【発明者】
【氏名】繁松 孝
(72)【発明者】
【氏名】茅原 崇
(72)【発明者】
【氏名】金子 昌充
(72)【発明者】
【氏名】梅野 和行
(72)【発明者】
【氏名】西野 史香
(72)【発明者】
【氏名】松本 暢康
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA06
4E168BA28
4E168BA74
4E168BA87
4E168BA88
4E168CA06
4E168CA11
4E168CB04
4E168CB22
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA29
4E168DA42
4E168DA43
4E168EA05
4E168EA08
4E168EA15
4E168EA17
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】例えば、溶接のために被覆が除去された芯線の露出区間をより短くすることが可能となるような、改善された新規なレーザ溶接方法、レーザ溶接装置、および電気装置を得る。
【解決手段】レーザ溶接方法は、例えば、第一導線の長手方向である第一方向の端部において被覆から露出した芯線の第一端部と、第二導線の第一方向の端部において被覆から露出した芯線の第二端部と、をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、第一端部および第二端部を、第一方向に延びるとともに当該第一方向と交差した第二方向に隣り合うように配置する工程と、第一端部および第二端部のうち少なくとも一方に、第一方向と交差した第三方向に掃引しながらレーザ光を0.2[sec]未満の時間で照射することにより、第一端部と第二端部との間で掛け渡された溶融池を形成する工程と、溶融池を固化する工程と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第一導線の長手方向である第一方向の端部において前記被覆から露出した前記芯線の第一端部と、金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第二導線の前記第一方向の端部において前記被覆から露出した前記芯線の第二端部と、をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、
前記第一端部および前記第二端部を、当該第一方向と交差した第二方向に隣り合うように配置する工程と、
前記第一端部および前記第二端部のうち少なくとも一方に、前記第一方向と交差した第三方向に掃引しながらレーザ光を0.2[sec]未満の時間で照射することにより、前記第一端部と前記第二端部との間で掛け渡された溶融池を形成する工程と、
前記溶融池を固化する工程と、
を備えた、レーザ溶接方法。
【請求項2】
前記第一端部および前記第二端部のうち少なくとも一方の、前記第一方向における露出長さが、10[mm]以下である、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記第一端部および前記第二端部の双方の前記第一方向における露出長さが、10[mm]以下である、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記溶融池を形成する工程では、前記レーザ光を直線状に掃引する、請求項1~3のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記第三方向は、前記第二方向と交差した、請求項1~4のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
前記溶融池を形成する工程は、前記レーザ光を複数回掃引する工程を含む、請求項1~5のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項7】
前記レーザ光を複数回掃引する工程は、前記レーザ光を掃引する第一掃引工程と、当該第一掃引工程よりも前記第一方向と交差した仮想平面の単位面積あたりのパワー密度が低い状態で前記レーザ光を掃引する第二掃引工程と、を含む、請求項6に記載のレーザ溶接方法。
【請求項8】
前記第二掃引工程における前記レーザ光の掃引速度が、前記第一掃引工程における前記レーザ光の掃引速度よりも高い、請求項7に記載のレーザ溶接方法。
【請求項9】
前記第二掃引工程における前記レーザ光のパワーが、前記第一掃引工程における前記レーザ光のパワーよりも低い、請求項7または8に記載のレーザ溶接方法。
【請求項10】
前記レーザ光を複数回掃引する工程は、前記レーザ光を所定の強度および所定の掃引速度で掃引する第三掃引工程と、当該第三掃引工程より後に、前記所定の強度より低い強度での前記レーザ光の掃引、前記所定の掃引速度より速い掃引速度での前記レーザ光の掃引、および前記所定の強度より低い強度であるとともに前記所定の掃引速度より速い掃引速度での前記レーザ光の掃引のうち少なくとも一つの掃引を実行する第四掃引工程と、を含む、請求項6に記載のレーザ溶接方法。
【請求項11】
前記溶融池を形成する工程は、前記第三方向に沿って前記レーザ光を掃引する工程と、前記第三方向と反対の方向である第四方向に沿って前記レーザ光を掃引する工程と、を含む、請求項1~6のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項12】
前記溶融池を形成する工程は、前記レーザ光を前記第一端部上で掃引する工程と、前記レーザ光を前記第二端部上で掃引する工程と、を含む、請求項1~11のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項13】
前記溶融池を形成する工程において、前記レーザ光は、複数のビームを含む、請求項1~12のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項14】
前記溶融池を形成する工程において、前記レーザ光は、波長が互いに異なる複数のビームを含む、請求項13に記載のレーザ溶接方法。
【請求項15】
前記複数のビームは、前記レーザ光の掃引方向に離間した、請求項13または14に記載のレーザ溶接方法。
【請求項16】
前記溶融池を形成する工程において、前記レーザ光は、第一パワー密度の少なくとも一つのビームを含む第一部位と、前記第一パワー密度とは異なる第二パワー密度の少なくとも一つのビームを含む第二部位と、を含む、請求項13~15のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項17】
前記溶融池を形成する工程において、前記第一部位と前記第二部位とが、前記レーザ光の掃引方向に互いに離間した、請求項16に記載のレーザ溶接方法。
【請求項18】
前記第二部位は、前記第一部位の周囲を取り囲む、請求項16に記載のレーザ溶接方法。
【請求項19】
前記第二部位の前記レーザ光のパワーに対する前記第一部位の前記レーザ光のパワーの比が、3/7以上かつ7/3以下である、請求項18に記載のレーザ溶接方法。
【請求項20】
前記レーザ光の掃引速度が、150[mm/sec]以上である、請求項1~19のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項21】
前記溶融池を形成する工程では、複数のレーザ光を並行して照射する、請求項1~20のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項22】
前記溶融池を形成する工程は、少なくとも1つのレーザ光を前記第一端部へ照射すると同時に他の少なくとも1つのレーザ光を前記第二端部へ照射する工程を含む、請求項21に記載のレーザ溶接方法。
【請求項23】
前記溶融池を形成する工程において、前記第一端部、前記第二端部、前記溶融池、および前記被覆のうち少なくとも一つに向けて、不活性ガスを供給する、請求項1~22のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項24】
前記芯線は、銅系金属またはアルミニウム系金属である、請求項1~23のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項25】
前記被覆は、ポリエーテルエーテルケトンを含む、請求項1~23のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項26】
金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第一導線の当該芯線において前記被覆から露出した第一露出部と、金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第二導線の当該芯線において前記被覆から露出した第二露出部と、をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、
前記第一露出部および前記第二露出部のうち少なくとも一方に、レーザ光を掃引しながら0.2[sec]未満の時間で照射することにより、前記第一露出部と前記第二露出部とに渡る溶融池を形成する工程と、
前記溶融池を固化する工程と、
を備えた、レーザ溶接方法。
【請求項27】
金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第一導線の当該芯線において前記被覆から露出した第一露出部と、金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第二導線の当該芯線において前記被覆から露出した第二露出部と、をレーザ溶接するレーザ溶接装置であって、
レーザ光を出力する光源と、
前記光源からの前記レーザ光を出力する光学ヘッドと、
を備え、
前記光学ヘッドが、前記第一露出部および前記第二露出部のうち少なくとも一方に、レーザ光を掃引しながら0.2[sec]未満の時間で照射することにより、前記第一露出部と前記第二露出部とに渡る溶融池を形成する、レーザ溶接装置。
【請求項28】
金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第一導線と、
金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第二導線と、
前記第一導線の前記被覆から露出した第一露出部と前記第二導線の前記被覆から露出した第二露出部との間に渡る溶接部と、
を備え、
前記第一露出部および前記第二露出部のうち少なくとも一方において、前記溶接部と前記被覆との間の露出長さが、10[mm]以下である、電気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法、レーザ溶接装置、および電気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平角線のような導線の被覆が除去され芯線が露出した部位をレーザ溶接する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-142283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の溶接では、当該溶接において生じた熱の被覆への影響を低減するため、溶接箇所において、被覆が長めに除去される場合がある。この場合において、被覆が除去された芯線の露出区間が長くなるほど、短絡が生じやすくなったり、当該導線を有した電気装置が大型化しやすくなったりする虞がある。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、溶接のために被覆が除去された芯線の露出区間をより短くすることが可能となるような、改善された新規なレーザ溶接方法、レーザ溶接装置、および電気装置を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ溶接方法は、例えば、金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第一導線の長手方向である第一方向の端部において前記被覆から露出した前記芯線の第一端部と、金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第二導線の前記第一方向の端部において前記被覆から露出した前記芯線の第二端部と、をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、前記第一端部および前記第二端部を、第一方向に延びるとともに当該第一方向と交差した第二方向に隣り合うように配置する工程と、前記第一端部および前記第二端部のうち少なくとも一方に、前記第一方向と交差した第三方向に掃引しながらレーザ光を0.2[sec]未満の時間で照射することにより、前記第一端部と前記第二端部との間で掛け渡された溶融池を形成する工程と、前記溶融池を固化する工程と、を備える。
【0007】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記第一端部および前記第二端部のうち少なくとも一方の、前記第一方向における露出長さが、10[mm]以下であってもよい。
【0008】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記第一端部および前記第二端部の双方の前記第一方向における露出長さが、10[mm]以下であってもよい。
【0009】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記溶融池を形成する工程では、前記レーザ光を直線状に掃引してもよい。
【0010】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記第三方向は、前記第二方向と交差してもよい。
【0011】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記溶融池を形成する工程は、前記レーザ光を複数回掃引する工程を含んでもよい。
【0012】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記レーザ光を複数回掃引する工程は、前記レーザ光を掃引する第一掃引工程と、当該第一掃引工程よりも前記第一方向と交差した仮想平面の単位面積あたりのパワー密度が低い状態で前記レーザ光を掃引する第二掃引工程と、を含んでもよい。
【0013】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記第二掃引工程における前記レーザ光の掃引速度が、前記第一掃引工程における前記レーザ光の掃引速度よりも高くてもよい。
【0014】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記第二掃引工程における前記レーザ光のパワーが、前記第一掃引工程における前記レーザ光のパワーよりも低くてもよい。
【0015】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記レーザ光を複数回掃引する工程は、前記レーザ光を所定の強度および所定の掃引速度で掃引する第三掃引工程と、当該第三掃引工程より後に、前記所定の強度より低い強度での前記レーザ光の掃引、前記所定の掃引速度より速い掃引速度での前記レーザ光の掃引、および前記所定の強度より低い強度であるとともに前記所定の掃引速度より速い掃引速度での前記レーザ光の掃引のうち少なくとも一つの掃引を実行する第四掃引工程と、を含んでもよい。
【0016】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記溶融池を形成する工程は、前記第三方向に沿って前記レーザ光を掃引する工程と、前記第三方向と反対の方向である第四方向に沿って前記レーザ光を掃引する工程と、を含んでもよい。
【0017】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記溶融池を形成する工程は、前記レーザ光を前記第一端部上で掃引する工程と、前記レーザ光を前記第二端部上で掃引する工程と、を含んでもよい。
【0018】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記溶融池を形成する工程において、前記レーザ光は、複数のビームを含んでもよい。
【0019】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記溶融池を形成する工程において、前記レーザ光は、波長が互いに異なる複数のビームを含んでもよい。
【0020】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記複数のビームは、前記レーザ光の掃引方向に離間してもよい。
【0021】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記溶融池を形成する工程において、前記レーザ光は、第一パワー密度の少なくとも一つのビームを含む第一部位と、前記第一パワー密度とは異なる第二パワー密度の少なくとも一つのビームを含む第二部位と、を含んでもよい。
【0022】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記溶融池を形成する工程において、前記第一部位と前記第二部位とが、前記レーザ光の掃引方向に互いに離間してもよい。
【0023】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記第二部位は、前記第一部位の周囲を取り囲んでもよい。
【0024】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記第二部位の前記レーザ光のパワーに対する前記第一部位の前記レーザ光のパワーの比が、3/7以上かつ7/3以下であってもよい。
【0025】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記レーザ光の掃引速度が、150[mm/sec]以上であってもよい。
【0026】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記溶融池を形成する工程では、複数のレーザ光を並行して照射してもよい。
【0027】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記溶融池を形成する工程は、少なくとも1つのレーザ光を前記第一端部へ照射すると同時に他の少なくとも1つのレーザ光を前記第二端部へ照射する工程を含んでもよい。
【0028】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記溶融池を形成する工程において、前記第一端部、前記第二端部、前記溶融池、および前記被覆のうち少なくとも一つに向けて、不活性ガスを供給してもよい。
【0029】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記芯線は、銅系金属またはアルミニウム系金属であってもよい。
【0030】
前記レーザ溶接方法にあっては、前記被覆は、ポリエーテルエーテルケトンを含んでもよい。
【0031】
本発明のレーザ溶接方法は、例えば、金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第一導線の当該芯線において前記被覆から露出した第一露出部と、金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第二導線の当該芯線において前記被覆から露出した第二露出部と、をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、前記第一露出部および前記第二露出部のうち少なくとも一方に、レーザ光を掃引しながら0.2[sec]未満の時間で照射することにより、前記第一露出部と前記第二露出部とに渡る溶融池を形成する工程と、前記溶融池を固化する工程と、を備える。
【0032】
本発明のレーザ溶接装置は、例えば、金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第一導線の当該芯線において前記被覆から露出した第一露出部と、金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第二導線の当該芯線において前記被覆から露出した第二露出部と、をレーザ溶接するレーザ溶接装置であって、レーザ光を出力する光源と、前記光源からの前記レーザ光を出力する光学ヘッドと、を備え、前記光学ヘッドが、前記第一露出部および前記第二露出部のうち少なくとも一方に、レーザ光を掃引しながら0.2[sec]未満の時間で照射することにより、前記第一露出部と前記第二露出部とに渡る溶融池を形成する。
【0033】
本発明の電気装置は、例えば、金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第一導線と、金属材料で作られた芯線と当該芯線を取り囲む被覆とを有した第二導線と、前記第一導線の前記被覆から露出した第一露出部と前記第二導線の前記被覆から露出した第二露出部との間に渡る溶接部と、を備え、前記第一露出部および前記第二露出部のうち少なくとも一方において、前記溶接部と前記被覆との間の露出長さが、10[mm]以下である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、例えば、被覆に対する熱影響を低減し、被覆が除去された芯線の露出区間をより短くすることが可能となるような、改善された新規なレーザ溶接方法、レーザ溶接装置、および電気装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、第1実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図2図2は、実施形態のレーザ溶接方法の対象物の溶接前における例示的かつ模式的な側面図である。
図3図3は、実施形態のレーザ溶接方法の対象物の溶接後における例示的かつ模式的な側面図である。
図4図4は、実施形態のレーザ溶接方法の対象物としての部材を含む平角線の例示的かつ模式的な斜視図である。
図5図5は、実施形態のレーザ溶接方法の手順の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、第1実施形態のレーザ溶接装置におけるレーザ光のビームパターンの一例を示す模式的な平面図である。
図7図7は、実施形態のレーザ溶接方法におけるレーザ光の掃引経路の一例を示す模式的な平面図である。
図8図8は、実施形態のレーザ溶接方法におけるレーザ光の照射時間および芯線の露出長さに応じた被覆の状態の一例を示すグラフである。
図9図9は、実施形態のレーザ溶接方法によって良好な溶接状態の溶接部が得られた対象物のサンプルを側方から見た場合のX線透過画像である。
図10図10は、実施形態のレーザ溶接装置におけるレーザ光のビームパターンの別の一例を示す模式的な平面図である。
図11図11は、実施形態のレーザ溶接方法におけるレーザ光の掃引経路の別の一例を示す模式的な平面図である。
図12図12は、第2実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図13図13は、第2実施形態のレーザ溶接装置におけるレーザ光のビームパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の例示的な実施形態および変形例が開示される。以下に示される実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態および変形例に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0037】
以下の実施形態および変形例は、同様の構成要素を有している。以下では、それら同様の構成要素については、共通の符号を付与するとともに、重複する説明を省略する場合がある。
【0038】
また、各図において、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表している。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに直交している。Z方向は、対象物Wとなる複数の部材が延びる方向である。なお、Z方向は、略鉛直上方であるが、鉛直上方に対して傾いていてもよい。
【0039】
また、本明細書において、序数は、方向や、工程、部材、部位、物理量等を区別するために便宜上付与されており、優先度や順番を示すものではない。
【0040】
[第1実施形態]
[レーザ溶接装置およびレーザ溶接の概要]
図1は、第1実施形態のレーザ溶接装置100の概略構成を示す図である。図1に示されるように、レーザ溶接装置100は、レーザ装置110と、光学ヘッド120と、光ファイバ130と、駆動機構140と、センサ150と、制御装置200と、を備えている。
【0041】
レーザ溶接装置100は、レーザ溶接の対象物Wの表面にレーザ光Lを照射する。レーザ光Lのエネルギによって、対象物Wが部分的に溶融し、冷却されて固化することにより、当該対象物Wが溶接される。対象物Wは、複数の部材を有しており、レーザ溶接によって、当該複数の部材に渡る溶融池が形成され、当該溶融池が固化されることにより、複数の部材が接合される。
【0042】
対象物Wとなる複数の部材は、それぞれ、例えば、銅や銅合金のような銅系の金属材料や、アルミニウムやアルミニウム合金のようなアルミニウム系の金属材料等で、作られうる。複数の部材は、同じ金属材料で作られてもよいし、互いに異なる金属材料で作られてもよい。なお、対象物Wとなる複数の部材は、導体である。
【0043】
レーザ装置110は、レーザ発振器を備えており、一例としては、数kWのパワーのシングルモードのレーザ光を出力できるよう構成されている。なお、レーザ装置110は、例えば、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWのパワーのマルチモードのレーザ光を出力できるよう構成されてもよい。また、レーザ装置110は、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等、様々なレーザ光源を備えてもよい。また、レーザ装置110は、例えば、400[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長のレーザ光を出力する。
【0044】
レーザ装置110は、例えば、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長のレーザ光を出力する。レーザ装置110が有するレーザ発振器は、光源の一例である。
【0045】
また、レーザ装置110は、レーザ光の連続波を出力してもよいし、レーザ光のパルスを出力してもよい。
【0046】
制御装置200は、レーザ装置110の作動を制御することができる。例えば、制御装置200は、レーザ光を出力したり、レーザ光の出力を停止したり、出力強度を変更したりするよう、レーザ装置110を制御することができる。
【0047】
光ファイバ130は、レーザ装置110と光学ヘッド120とを光学的に接続している。言い換えると、光ファイバ130は、レーザ装置110から出力されたレーザ光を光学ヘッド120に導く。レーザ装置110が、シングルモードレーザ光を出力する場合、光ファイバ130は、シングルモードレーザ光を伝播するよう構成される。この場合、シングルモードレーザ光のMビーム品質は、1.3以下に設定される。Mビーム品質は、M2ファクタとも称されうる。
【0048】
光学ヘッド120は、レーザ装置110からのレーザ光を伝送して出力し、対象物Wに照射する光学装置である。光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と、集光レンズ122と、ミラー124と、DOE125と、ガルバノスキャナ126と、を有している。コリメートレンズ121、集光レンズ122、ミラー124、DOE125、およびガルバノスキャナ126は、光学部品とも称されうる。
【0049】
コリメートレンズ121は、光ファイバ130を介して入力されたレーザ光をコリメートする。コリメートされたレーザ光は、平行光になる。
【0050】
ミラー124は、コリメートレンズ121で平行光となったレーザ光を反射し、ガルバノスキャナ126へ向かわせる。
【0051】
ガルバノスキャナ126は、複数のミラー126a,126bを有している。複数のミラー126a,126bの角度を変更することで、光学ヘッド120からのレーザ光Lの出射方向を切り替え、これにより、対象物Wの表面上でレーザ光Lの照射位置を変更することができる。ミラー126a,126bの角度は、それぞれ、例えば制御装置200によって制御された不図示のモータによって変更される。レーザ光Lを照射しながら、レーザ光Lの出射方向を変更することにより、対象物Wの表面上で、レーザ光Lを掃引することができる。
【0052】
集光レンズ122は、ガルバノスキャナ126から到来した平行光としてのレーザ光を集光し、レーザ光L(出力光)として、対象物Wへ照射する。
【0053】
また、DOE125(DOE:diffractive optical element、回折光学素子)は、コリメートレンズ121で平行光となったレーザ光のビームを成形する。DOE125は、ビームシェイパの一例である。
【0054】
駆動機構140は、対象物Wに対する光学ヘッド120の相対的な位置を変更する。駆動機構140は、例えば、モータのような回転機構や、当該回転機構の回転出力を減速する減速機構、減速機構によって減速された回転を直動に変換する運動変換機構等を、有する。制御装置200は、対象物Wに対する光学ヘッド120のX方向、Y方向、およびZ方向における相対位置が変化するよう、駆動機構140を制御することができる。駆動機構140は、支持機構(不図示)に支持されている複数の対象物Wのうち、レーザ溶接を行う対象物Wを変更する(切り替える)ことができる。また、駆動機構140は、対象物Wにおけるレーザ光Lの照射位置を変更することができる。また、駆動機構140は、対象物Wに対するレーザ光Lの照射方向を変更するのに伴って照射点を変更するのに利用されうる。さらに、駆動機構140は、レーザ光Lが対象物Wの表面上に照射されている状態で、当該照射位置を変更することができる。すなわち、駆動機構140は、対象物Wの表面上で、レーザ光Lを掃引することができる。
【0055】
図2は、対象物Wの溶接する前の状態を示す側面図である。図2に示されるように、対象物Wは、二つの部材20(21,22)を有している。二つの部材20は、いずれも金属材料で作られている。
【0056】
二つの部材20は、いずれもZ方向に延びており、Z方向の端部20a(21a,22a)を有している。端部20aは、Z方向と交差して広がっている。すなわち、端部20aは、X方向に延びるとともにY方向に延びている。Z方向は、第一方向の一例である。端部21aは、第一端部の一例であり、端部22aは、第二端部の一例である。
【0057】
二つの部材20は、Z方向と交差したX方向に互いに隣り合い、かつX方向に並ぶように配置される。X方向において互いに面する側面21a1,22a1の間には、隙間gが形成されている。X方向は、第二方向の一例である。
【0058】
なお、端部21a,22aは、それぞれ、Z方向に対して僅かに傾斜し、隙間gがZ方向に向かうほど小さくなるように配置されてもよい。すなわち、二つの部材20は、少なくとも部分的に接触していてもよい。つまり、隙間gの大きさは、0以上である。また、図2の例では、端部21aと端部22aとは、X方向に並び、Z方向における位置が同じであるが、これには限定されず、端部21aと端部22aとは、Z方向にずれていてもよい。
【0059】
また、対象物W、すなわち二つの部材20の溶接に際し、光学ヘッド120は、レーザ光Lを、端部20aに向けて照射する。レーザ光Lの照射方向は、Z方向の反対方向か、あるいはZ方向の反対方向に対して傾斜した方向である。
【0060】
また、レーザ光Lは、端部21aおよび端部22aの双方に照射してもよいし、端部21aおよび端部22aのうちいずれか一方のみに照射してもよい。
【0061】
図3は、対象物Wに溶接部23(溶融池)が形成された状態を示す側面図である。二つの端部20aのうちいずれか一方に対するレーザ光Lの照射により、図3に示されるように、端部20aのそれぞれにおいて部材20は溶融し、二つの端部20a上で掛け渡された状態に溶接部23が形成される。溶接部23は、二つの端部20a間で掛け渡された状態に形成された溶融池が、冷却され、固化したものである。流動性を有した金属材料である溶融池は、表面張力によってZ方向に膨らんだ形状を有している。これに伴って、当該溶融池が固化した溶接部23もZ方向に膨らんだ形状を有している。溶接部23は、二つの部材21,22を機械的に接続する。また、二つの部材21,22が導電性を有する金属であるため、溶接部23は、当該二つの部材21,22を電気的に接続する。
【0062】
センサ150(図1参照)は、例えば、対象物Wに形成される溶融池を撮影するカメラである。この場合、センサ150は、動きセンサの一例である。制御装置200は、センサ150によって取得される画像から、溶融池の表面の動き(経時変化)を取得することができる。
【0063】
また、センサ150は、溶融池の温度を検出することが可能なサーマルカメラであってもよい。この場合、センサ150は、温度センサの一例である。制御装置200は、センサ150によって取得される温度画像から、溶融池の温度を取得することができる。
【0064】
図4は、部材20を含む導線10の斜視図である。部材20は、一例として、図4に示されるような導線10の芯線(内部導体)である。導線10は、部材20と、部材20の被覆30と、を有している。本実施形態では、一例として、導線10は、平角線である。
【0065】
部材20は、導電性を有した金属材料で作られている。部材20の、延び方向に対して直交する断面の形状は、略四角形状である。
【0066】
また、被覆30は、部材20を取り囲んでいる。被覆30は、絶縁性を有しており、例えば、エナメルや、合成樹脂材料等で作られる。被覆30は、ポリイミドやポリアミドイミドで構成されるエナメル層のみを有してもよいし、エナメル層と当該エナメル層を取り囲む押出樹脂層とを有してもよい。また、合成樹脂材料は、一例としては、ポリエーテルエーテルケトンであるが、これには限定されない。
【0067】
レーザ溶接装置100は、このような導線10の芯線としての部材20の被覆30から露出した端部20a同士のレーザ溶接に、適用される。この場合、溶接に先立ち、二つの導線10の延び方向の端部の近傍において、被覆30が除去される。部材20の露出区間20bの長さEは、部材20の端部20aから被覆30の端部30aまでの、長手方向(Z方向)の長さであり、露出長さの一例である。端部21aに設けられる露出区間20bは、第一露出部の一例であり、端部22aに設けられる露出区間20bは、第二露出部の一例である。また、二つの導線10は、第一導線および第二導線の一例である。
【0068】
図2に示されるように、同じ方向(延び方向)を向く姿勢で隣り合うように配置された二つの部材20の端部20aを含む露出区間20bが、レーザ溶接装置100によって溶接される。
【0069】
導線10は、電気装置としての回転電機に設けられるセグメントコイル(巻線)を構成してもよい。本実施形態のレーザ溶接装置100によるレーザ溶接方法は、ステータコアにセットされた互いに隣り合うセグメントコイルの端部の溶接に適用することができる。すなわち、図3に示される対象物Wは、電気装置の一部であってもよい。
【0070】
また、導線10は、平角線には限定されず、例えば、丸線のような、他の導線であってもよい。
【0071】
また、溶接に際し、本実施形態では、ガスノズル127から、端部20a(21a,22a)、溶融池、および被覆30のうち、少なくともいずれか一つに向けて、ガスGが供給される。ガスGは、不活性ガスであり、アシストガスとも称されうる。不活性ガスは、ここでは、化学的に安定し反応が生じ難いガスを指し、例えば、窒素や、アルゴン、二酸化炭素、あるいはこれらの混合ガスを含むものとする。ガスGを供給することにより、端部20aや溶融池の酸化を抑制することができるとともに、端部20aや、溶融池、被覆30等を適宜に冷却し、溶接において生じた熱による被覆30の劣化を抑制することができる。
【0072】
図5は、レーザ溶接方法の手順を示すフローチャートである。図5に示されるように、まずは、対象物Wとしての二つの導線10の被覆30が部分的に除去され、部材20の露出区間20bが形成される(S1)。
【0073】
次に、対象物Wがセットされる(S2)。S2では、図2に示されるように、端部20a(21a,22a)が、Z方向に延びるとともに、X方向に隣り合うように、配置される。
【0074】
次に、二つの端部20a(21a,22a)のうち少なくとも一方に、レーザ光Lが照射されることにより、溶融池が形成される(S3)。S3において、レーザ光Lは、Z方向と交差した方向に掃引されながら照射される。
【0075】
次に、溶融池が冷却されることにより固化し、図3に示されるような、二つの端部20a間、すなわち二つの導線10間に渡る溶接部23が形成される(S4)。S4において、溶融池は、自然冷却されてもよいし、強制冷却されてもよい。
【0076】
[レーザ光のビームパターン]
図6は、本実施形態の光学ヘッド120から出力されたレーザ光Lのビームパターンの一例を示す平面図である。図6では、ビームB1を実線で示し、ビームB2を破線で示している。
【0077】
図6に示されるように、レーザ光Lは、複数のビームB1,B2を含むとともに、少なくとも一つのビームB1と、少なくとも一つのビームB2と、を含んでいる。ビームB1,B2のパワー密度は、互いに異なっていてもよい。このようなビームB1,B2は、DOE125によって形成しかつ配置することができる。なお、DOE125を交換することにより、ビームB1,B2の形状、配置、パワー密度等を変更することができる。
【0078】
ビームB1およびビームB2のそれぞれは、そのビームの光軸方向と直交する断面の径方向において、例えばガウシアン形状のパワー分布を有する。ただし、ビームB1およびビームB2のパワー分布はガウシアン形状に限定されない。なお、図6において、当該ビームB1,B2を表す円の直径が、各ビームB1,B2のビーム径である。各ビームB1,B2のビーム径は、そのビームのピークを含み、ピーク強度の1/e以上の強度の領域の径として定義することができる。また、図示されないが、円形でないビームの場合は、平面視において掃引方向SDに対する垂直方向における、ピーク強度の1/e以上の強度となる領域の長さをビーム径と定義できる。
【0079】
レーザ光Lのうち、ビームB1を含む部位は、第一部位の一例であり、ビームB2を含む部位は、第二部位の一例である。図6の例では、レーザ光Lは、第一部位を構成する一つのビームB1と、第二部位を構成する複数のビームB2とを含んでいる。
【0080】
ビームB2を有する第二部位は、周状に形成され、ビームB1を有した第一部位を取り囲むように配置されている。また、第一部位と第二部位とは、掃引方向SDに離間している。
【0081】
図6の例では、第一部位の掃引方向SDにおける幅D1は、円形であるビームB1の直径であり、ピーク強度の1/e以上の強度の領域の径として定義される。また、第二部位の掃引方向SDにおける幅D2は、平面視で掃引方向SDと直交する方向に最も離間した二つのビームB2の中心間の距離として定義される。
【0082】
[掃引経路]
図7は、端部21a,22aにおけるレーザ光Lの掃引経路R1の一例を示す説明図(平面図)である。本実施形態では、レーザ光Lは、Z方向と交差する方向に、掃引経路R11,R12,R13,R14の順に、直線状に掃引される。掃引経路R11,R12は、レーザ光Lが、端部21a上を掃引される経路であり、掃引経路R13,R14は、レーザ光Lが、端部22a上を掃引される経路である。このように、端部21a,22aにレーザ光Lを照射し、当該端部21a,22a上に溶融池を形成する工程(S3)は、レーザ光Lを複数回掃引する工程を含む。
【0083】
図7に示されるように、端部21aおよび端部22aは、平面視において、いずれも四角形状の形状を有しており、本実施形態では、一例として、X方向に延びた辺とY方向に延びた辺とを有するとともに、X方向に相対的に短くかつY方向に相対的に長い、長方形状の形状を有している。この場合、Y方向は幅方向あるいは断面の長手方向と称することができ、X方向は厚さ方向あるいは断面の短手方向と称することができる。なお、図7の例では、一例として、端部21aおよび端部22aは同一の形状を有しているが、これには限定されない。
【0084】
図7の例において、レーザ光Lは、例えば、端部21aのX方向の中心C1よりも端部22aに近い領域A1と、端部22aのX方向の中心C2よりも端部21aに近い領域A2と、において掃引されている。ただし、掃引される位置、すなわち照射領域は、領域A1,A2内には限定されない。
【0085】
また、掃引経路R11,R13にあっては、レーザ光Lは、Y方向に掃引され、掃引経路R12,R14にあっては、レーザ光Lは、Y方向の反対方向に掃引されている。Y方向およびY方向の反対方向は、第三方向の一例である。また、Y方向は、第四方向の一例である。
【0086】
[実験結果]
発明者らは、図6に示されるビーム形状のレーザ光Lを図7に示される経路で照射しながら掃引することにより端部21a,22aを溶接する実験を行った。当該実験では、レーザ光Lの照射時間、および露出区間20bの長さE(露出長さ、図4参照)について、溶接において生じた熱による被覆30への影響を低減することが可能である条件を見出した。さらに、発明者らは、レーザ光Lの第一部位と第二部位との出力比、第二部位の幅D2、および掃引速度について、良好な溶接を実行可能な条件を見出した。これら実験では、被覆30がポリエーテルエーテルケトンで作られ、X方向の長さが約1.5[mm]およびY方向の長さが約3.1[mm]の銅系金属で作られた部材20の端部21a,22aに対して、波長が1070[nm]であるレーザ光Lを照射し、溶融池が形成されていない状態における端部21a,22aでのビームB1のスポットの直径を約200[μm]とした。なお、本実験ではレーザ光Lの照射時間を0.06[sec]以上とし、レーザ光Lの第二部位の出力に対する第一部位の出力の比(出力比)を5/5としている。また、各照射時間でのレーザ光Lの照射により端部21a,22aの溶接が完了するよう、レーザ装置の出力を3[kW]~6[kW]の範囲で調整している。
【0087】
発明者らは、レーザ光Lの照射時間、および端部20aにおける芯線としての部材20の露出区間20bの長さEに応じた、被覆30の状態を調べた。図8は、その実験結果の一例を示すグラフであり、縦軸を被覆の剥離長に対応する露出長さ[mm]、横軸をレーザの照射時間[sec]としている。図8では、被覆30の状態について、熱による劣化が殆ど見られない最良状態を◎とし、熱による劣化が僅かに見られるものの絶縁性等の所要性能が得られる優良状態を○とし、熱による劣化が生じ絶縁性等の所要性能が得られなくなる不良状態を×とした。
【0088】
図8に示されるように、レーザ光Lの照射時間を0.2[sec]未満、より好ましくは0.1[sec]未満とすることにより、露出区間20bの長さEを、6[mm]以上かつ10[mm]以下、さらには6[mm]以上かつ8[mm]以下のように短くした場合にあっても、被覆30の状態を、最良状態または優良状態に維持できることが判明した。このようにして、部材21および部材22の露出区間20bの長さEのうちいずれか一方、または双方を6[mm]以上かつ10[mm]以下、さらには6[mm]以上かつ8[mm]以下としても、被覆30の熱による劣化の影響を低減しつつ溶接を行うことができる。
【0089】
また、発明者らは、レーザ光Lの第二部位の出力に対する第一部位の出力の比(出力比)、および第二部位の幅D2(図6参照)をパラメータとする実験を行い、良好な溶接を実行可能な条件を見出した。表1は、その実験結果の一例を示す。表1では、溶接(工程S3、S4)で発生したスパッタの数が25以下である最良状態を◎とし、25を超えるとともに60以下である優良状態○とする。
【表1】
表1に示されるように、第二部位の幅D2は、第一部位の幅D1の5倍以下であるのが好ましく、2倍を超え4倍以下であるのがより好ましく、3.6倍以下であるのがより一層好ましいことが判明した。また、出力比は、3/7以上であるのが好ましく、7/3以下であるのがより好ましく、4/6以上6/4以下であるのがより一層好ましいことが判明した。
【0090】
さらに、発明者らは、出力比、およびレーザ光Lの掃引速度をパラメータとする実験を行い、良好な溶接を実行可能な条件を見出した。表2は、その実験結果の一例を示す。表2では、溶接で発生したスパッタの数が25以下である最良状態を◎とし、25を超えるとともに60以下である優良状態○とし、50を超える良好状態を△とした。
【表2】
表2に示されるように、掃引速度は、溶接時の過剰な入熱を抑制しスパッタの発生を低減する観点から、150[mm/sec]以上であるのが好ましく、200[mm/sec]以上であるのがより好ましいことが判明した。また、出力比は、3/7を超えるのが好ましく、7/3以下であるのがより好ましく、4/6以上6/4以下であるのがより一層好ましいことが判明した。
【0091】
また、発明者らの実験的な研究により、溶融池を形成する工程(S3)において、複数回の掃引を行う場合にあっては、後の掃引工程におけるレーザ光Lの照射方向と交差した仮想平面(例えば、端部20aの端面と略重なる仮想平面)の単位面積あたりのパワー密度を、前の掃引工程における当該仮想平面の単位面積あたりのパワー密度よりも低くすることにより、よりスパッタやブローホールのような溶接不良が少ない、より良好な溶接状態が得られることが判明した。前の掃引工程は、第一掃引工程の一例であり、後の掃引工程は、第二掃引工程の一例である。
【0092】
図9は、良好な溶接状態の溶接部23が得られた対象物Wのサンプルを側方から見た場合のX線透過画像である。当該対象物Wを構成する部材21,22(20)の材質は、無酸素銅であり、対象物Wの溶接において、レーザ光Lの照射時間は0.064[sec]、出力は6[kW]、出力比は5/5(=1)、また、掃引速度は200[mm/sec]とした。図9から明らかとなるように、当該サンプルにおいては、ブローホールは極めて少なかった。
【0093】
仮想平面の単位面積あたりのパワー密度は、掃引速度が高いほど低くなり、レーザ光Lのパワーが低いほど低くなる。よって、後の掃引工程においては、掃引速度を前の掃引工程よりも高くするか、レーザ光Lのパワーを前の掃引工程よりも低くするか、あるいは掃引速度を前の掃引工程よりも高くするとともにレーザ光Lのパワーを前の工程よりも低くすることにより、後の掃引工程において、前の掃引工程よりも、仮想平面の単位面積あたりのパワー密度をより低くし、ひいてはより良好な溶接状態を得ることができる。より具体的には、例えば、溶融池を形成する工程(S3)において、所定の回数(例えば、3回)以上の掃引を行う場合、所定の回数より前の掃引時よりも掃引速度を速くする掃引、所定の回数より前の掃引時よりもレーザ光Lのパワーを低減する掃引、および所定の回数より前の掃引時よりも掃引速度を速くするとともに所定の回数より前の掃引時よりもレーザ光Lのパワーを低減する掃引、のうち少なくとも一つの掃引を実行することで、より良好な溶接状態を得ることができる。
【0094】
以上、説明したように、本実施形態のレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置100によれば、溶融池を形成する工程(S3)において、端部21a(第一端部)および端部22a(第二端部)のうち少なくとも一方に、Z方向(第一方向)と交差したY方向またはY方向の反対方向(第三方向)に掃引しながらレーザ光Lを0.2[sec]未満の時間で照射することにより、端部21aと端部22aとの間で掛け渡された溶融池を形成することができる。
【0095】
レーザ光Lのこのような照射により、溶接において生じた熱による被覆30の劣化を抑制することができる。また、導線10において、溶接のための露出区間20bの長さEを、例えば、10[mm]以下のように、比較的短くすることができるため、例えば、露出区間20bを介した短絡がより生じ難くなるとともに、部材20および被覆30を有した導線10を含む電気装置の大型化を抑制することができる、といった効果が得られる。
【0096】
また、本実施形態では、上述したように露出区間20bの長さEが比較的短い導線10の被覆30を、合成樹脂材料としてのポリエーテルエーテルケトンを含む材料によって作ることができる。すなわち、本実施形態によれば、電気装置の導線10の被覆30として、ポリイミド等よりも絶縁性が高い、すなわちより高耐圧のポリエーテルエーテルケトンを含む被覆30を採用することができるので、例えば、より高耐圧であるとともに、より短絡が生じ難く、かつよりコンパクトな電気装置を構成しやすくなる。
【0097】
また、本実施形態では、レーザ光LのビームB1を含む第一部位と、ビームB2を含む第二部位とが、少なくとも掃引方向SDに互いに離間している。本実施形態によれば、例えば、ビームB1を含むレーザ光Lの第一部位によってキーホール状態となる溶融池が形成される前に、ビームB2を含むレーザ光Lの第二部位によって端部21a,22aを予備的に加熱することができ、これにより端部21a,22aの急激な温度上昇を抑制することができるので、溶融池をより安定化させ、ひいては、スパッタやブローホールのような溶接不良が生じるのを抑制することができる。
【0098】
[ビーム形状の別の例(変形例)]
図10は、レーザ光Lのビームパターンの別の例を示す平面図である。図10の例では、ビームB2を含む第二部位は、周状(環状)の形状を有していない。ただし、この例でも、ビームB2を含む第二部位は、ビームB1を含むレーザ光Lの第一部位に対して、掃引方向SDおよび当該掃引方向SDの反対方向に離間して配置されている。図10のようなビームパターンによっても、対象物Wを、レーザ光Lの第一部位が照射される前に、レーザ光Lの第二部位によって予備的に加熱することができるので、上記実施形態と同様の効果が得られる。また、図10の例によれば、光学ヘッド120をZ軸回りに回転させることなく、レーザ光Lを図10の掃引方向SDとは反対方向に掃引する場合にあっても、予備的加熱によって溶接不良を抑制する効果が得られる。また、図6の例のように、第二部位が環状の形状を有している場合には、光学ヘッド120をZ軸回りに回転させることなく、Z方向と交差する任意の方向に掃引する場合において、予備的加熱によって溶接不良を抑制する効果が得られる。すなわち、ビームB1を含む第一部位に対し、掃引方向の前方に、ビームB2を含む第二部位の少なくとも一部が存在すれば、予備的加熱によって溶接不良を抑制する効果が得られる。
【0099】
[掃引経路の別の例(変形例)]
図11は、端部21a,22aにおけるレーザ光Lの掃引経路R1,R2の図7とは異なる例を示す説明図(平面図)である。この例では、端部20a上の複数箇所(例えば2箇所)にレーザ光Lを同時並行的に照射することにより、溶融池を形成する。具体的には、端部21a上でレーザ光Lを掃引経路R11(R1)に掃引するのと並行して、端部22a上でレーザ光Lを掃引経路R21(R2)で掃引し、その後、端部21a上でレーザ光Lを掃引経路R12(R1)で掃引するのと並行して、端部22a上でレーザ光Lを掃引経路R22(R2)で掃引する。
【0100】
このような方法によれば、溶融池を形成する工程をより短時間で終わらせることができるので、溶接において生じた熱による被覆30の劣化を、さらに抑制することができる。なお、このような複数箇所へのレーザ光Lの照射は、複数の光学ヘッド120によって実行してもよいし、一つの光学ヘッド120から複数のレーザ光Lを分岐して照射してもよい。
【0101】
[第2実施形態]
図12は、第2実施形態のレーザ溶接装置100Aの概略構成を示す図である。図12に示されるように、レーザ溶接装置100Aは、複数のレーザ装置111,112(110)を有している。
【0102】
レーザ装置111は、上記第1実施形態と同様であり、例えば、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光を出力する。レーザ装置111は、第一レーザ装置とも称されうる。レーザ装置111が有するレーザ発振器は、光源であり、第一レーザ発振器とも称されうる。
【0103】
他方、レーザ装置112は、例えば、300[nm]以上かつ600[nm]以下の波長の第二レーザ光を出力する。レーザ装置112は、第二レーザ装置とも称されうる。レーザ装置112が有するレーザ発振器は、光源であり、第二レーザ発振器とも称されうる。
【0104】
銅系材料やアルミニウム系材料については、第二レーザ光の方が第一レーザ光よりも吸収率が高く、かつ反射率が低い。
【0105】
また、レーザ装置111,112は、それぞれ、レーザ光の連続波を出力してもよいし、レーザ光のパルスを出力してもよい。
【0106】
フィルタ123は、第一レーザ光を透過し、かつ第二レーザ光を透過せずに反射するハイパスフィルタである。ミラー124からの第一レーザ光は、フィルタ123を透過し、ガルバノスキャナ126へ向かう。他方、コリメートレンズ121からの第二レーザ光は、フィルタ123で反射され、ガルバノスキャナ126へ向かう。フィルタ123は、光学部品とも称されうる。
【0107】
なお、図示しないが、光学ヘッド120Aは、適宜、第一レーザ光または第二レーザ光のビームを成形するDOE125を有してもよい。
【0108】
図13は、本実施形態の光学ヘッド120Aから出力されたレーザ光Lのビームパターンの一例を示す平面図である。図6に示されるように、レーザ光Lは、複数のビームB1,B2を含んでいる。ビームB1は、第一レーザ光によるビームであり、レーザ光Lの第一部位を構成している。また、ビームB2は、第二レーザ光によるビームであり、レーザ光Lの第二部位を構成している。ビームB2は、対象物Wによる吸収率が高く、熱伝導型の溶融池を形成する。本実施形態によれば、掃引方向SDへの掃引により、ビームB1によってキーホール型の溶融池が形成される前に、より穏やかな熱伝導型の溶融池が形成されるため、端部21a,22aの急激な温度上昇を抑制し、ひいては、スパッタやブローホールのような溶接不良を抑制することができる。
【0109】
波長が異なるビームB1,B2のパターンは、図13の例には限定されず、掃引方向SDへのレーザ光Lの掃引に際し、端部21a,22aの各位置において、ビームB1による第一部位が到達する前に、ビームB2による第二部位が到達するように構成されればよい。すなわち、ビームB1を含む第一部位に対し、掃引方向の前方に、ビームB2を含む第二部位の少なくとも一部が存在すれば、予備的加熱によって溶接不良を抑制する効果が得られる。
【0110】
以上、本発明の実施形態および変形例が例示されたが、上記実施形態および変形例は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0111】
例えば、対象物は、三つ以上の部材を含んでもよい。また、対象物に含まれる複数の部材は、同一の部材でなくてもよい。また、対象物は、並べられたり突き合わせられたりした複数の部材には限定されず、重ね合わせられた複数の部材であってもよい。
【0112】
また、複数の導線のうち少なくとも一つの導線の露出区間は、導線の長手方向の中間位置に設けられてもよい。
【0113】
また、レーザ光の照射に際し、公知のウォブリングや、ウィービング、出力変調等が行われ、溶融池の表面積が調節されてもよい。
【符号の説明】
【0114】
10…導線(第一導線、第二導線)
20…部材
20a…端部
20b…露出区間(第一露出部、第二露出部)
21…部材(芯線)
21a…端部(第一端部)
21a1…側面
22…部材(芯線)
22a…端部(第二端部)
22a1…側面
23…溶接部(溶融池)
30…被覆
30a…端部
100,100A…レーザ溶接装置
110,111,112…レーザ装置(光源)
120,120A…光学ヘッド
121…コリメートレンズ
122…集光レンズ
123…フィルタ
124…ミラー
125…DOE
126…ガルバノスキャナ
126a,126b…ミラー
127…ガスノズル
130…光ファイバ
140…駆動機構
150…センサ
200…制御装置
A1,A2…領域
B1…ビーム(第一部位)
B2…ビーム(第二部位)
C1,C2…中心
D1…幅
D2…幅
E…長さ(露出長さ)
g…隙間
G…ガス
L…レーザ光
R1,R11,R12,R13,R14,R2,R21,R22…掃引経路
SD…掃引方向
W…対象物
X…方向(第二方向)
Y…方向(第三方向、第四方向)
Z…方向(第一方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13