(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182321
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】光導波路素子、光変調素子の作製方法、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089825
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本谷 将之
(72)【発明者】
【氏名】平田 章太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡橋 宏佑
(72)【発明者】
【氏名】片岡 優
(72)【発明者】
【氏名】高野 真悟
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA22
2K102BA03
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA23
2K102CA28
2K102DA05
2K102DB04
2K102DB05
2K102DC08
2K102DD05
2K102EA02
2K102EA12
2K102EA14
2K102EA22
2K102EB10
2K102EB16
2K102EB30
(57)【要約】
【課題】光導波路素子において、作用電極の下地層のオーバエッチングを防止してその上部の導電層のオーバハングの発生を防止すること。
【解決手段】基板と、基板に形成された光導波路と、光導波路を伝搬する光波を制御する作用電極と、を含み、作用電極は、第1材料からなる第1下地層と、第1下地層の上の第1導電層と、第1導電層の上の第2下地層であって第1材料と異なる第2材料からなる第2下地層と、第2下地層の上の第2導電層と、で構成され、光導波路の延伸方向に垂直な断面において、第2下地層の端部は第2導電層に覆われている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板に形成された光導波路と、前記光導波路を伝搬する光波を制御する作用電極と、を含む光導波路素子であって、
前記作用電極は、
第1材料からなる第1下地層と、
前記第1下地層の上の第1導電層と、
前記第1導電層の上の第2下地層であって前記第1材料と異なる第2材料からなる第2下地層と、
前記第2下地層の上の第2導電層と、で構成され、
前記光導波路の延伸方向に垂直な断面において、前記第2下地層の端部は、前記第2導電層に覆われている、
光導波路素子。
【請求項2】
前記作用電極に接続された配線電極を備え、
前記配線電極は、前記作用電極から延在する前記第2導電層を含む、
請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記第2材料はチタン(Ti)で構成され、
前記第1導電層および前記第2導電層は、金(Au)で構成されている、
請求項1または2に記載の光導波路素子。
【請求項4】
前記第1材料は、ニオブ(Nb)で構成されている、
請求項3に記載の光導波路素子。
【請求項5】
前記第1下地層の厚さは30nm以下であり、
前記第2下地層の厚さは100nm以上である、
請求項4に記載の光導波路素子。
【請求項6】
前記光導波路は、前記基板上に延在する凸部により構成される凸状光導波路である、
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項7】
前記光導波路を前記基板の面内において前記作用電極と共に挟むグラウンド電極を有し、
前記作用電極とグラウンド電極との間隔は、1.0μm以上、5.0μm以下である、
請求項6に記載の光導波路素子。
【請求項8】
前記基板上の領域のうち、前記光導波路の入力端から出力端までの経路以外の領域に、前記第1材料とは異なる第3材料からなる第3下地層と、該第3下地層の上の第3導電層と、で構成される導体パターンが形成されている、
請求項1ないし7のいずれか一項に光導波路素子。
【請求項9】
前記第3材料は、前記光導波路を伝搬する光の波長における光吸収係数が、前記第1材料よりも大きい、
請求項8に記載の光導波路素子。
【請求項10】
請求項3に記載の光導波路素子の作製方法であって、
前記第2導電層を構成する金の一部をメッキにより形成する工程を含む、
光導波路素子の作製方法。
【請求項11】
光の変調を行う光変調素子である請求項1ないし9のいずれか一項に記載の光導波路素子と、
前記光導波路素子を収容する筐体と、
前記光導波路素子に光を入力する光ファイバと、
前記光導波路素子が出力する光を前記筐体の外部へ導く光ファイバと、
を備える光変調器。
【請求項12】
光の変調を行う光変調素子である請求項1ないし9のいずれか一項に記載の光導波路素子と、
前記光導波路素子を収容する筐体と、
前記光導波路素子に光を入力する光ファイバと、
前記光導波路素子が出力する光を前記筐体の外部へ導く光ファイバと、
前記光導波路素子を駆動する駆動回路と、
を備える光変調モジュール。
【請求項13】
請求項11に記載の光変調器または請求項12に記載の光変調モジュールと、
前記光導波路素子に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路と、
を備える光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子、光変調素子の作製方法、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商用の光ファイバ通信システムでは、基板上に形成された光導波路と、光導波路に電界を作用させて光波を制御する作用電極と、で構成される光導波路素子としての光変調素子を組み込んだ光変調器が多く用いられている。中でも、電気光学効果を有するLiNbO3(以下、LNともいう)を基板に用いた光変調素子は、光の損失が少なく且つ高速な光変調特性を実現し得ることから、高速・大容量の基幹光伝送ネットワークやメトロネットワークの光ファイバ通信システムに広く用いられている。
【0003】
そのような光変調素子の小型化、高速化、省電力化の一つの策として、基板中における信号電界と導波光との相互作用をより強めるべく(すなわち、電界効率を高めるべく)LN基板を薄膜化した光変調器や、LN基板の表面に帯状の凸部を形成することで構成されるリブ型光導波路またはリッジ型光導波路(以下、総称して凸状光導波路という)を用いた光変調器も実用化されつつある(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
また、動作速度の高速化のため、従来、作用電極を伝搬する電気信号の速度と光導波路を伝搬する光波の速度とを整合させつつ、作用電極のインピーダンスを所定の範囲に設定するために、基板上において作用電極を2段で構成することが知られている(例えば、特許文献3参照)。また、現在では、さらなる高速化のため、電界効率を更に高めるべく、作用電極の1段目を凸状光導波路に対しより近接して設ける検討も進められている。
【0005】
しかしながら、このように2段電極を凸状光導波路に近接させていくと、電極を形成する過程において、基板上には複雑且つ微細な凹凸形状が存在することとなり得る。このため、例えばパターニング工程中において基板上に形成した金属膜をエッチングする場合には、当該基板上における凹凸構造の偏在等に起因して金属膜のエッチングレートが基板面内において異なるものとなり得る。その結果、
図12に示すように、例えば、凸状光導波路700a、700bの近傍の微細な凹凸部分に形成された不要な下地層702(図示黒塗の層)をエッチングする際に(
図12の(a))、作用電極704a、704b、704cの2段目の下地層702が、例えばその上部の導電層706との間にまで広範囲に過剰にエッチング(いわゆるオーバーエッチング)され、導電層706のオーバハングを生じてしまうという状況が発生し得る(
図12の(b))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-264548号公報
【特許文献2】国際公開第2018/1031916号明細書
【特許文献3】特開平9-185025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景より、光導波路素子において、電極下地層のオーバエッチングを防止してその上部の導電層のオーバハングの発生を防止することのできる電極構造の実現が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の態様は、基板と、前記基板に形成された光導波路と、前記光導波路を伝搬する光波を制御する作用電極と、を含む光導波路素子であって、前記作用電極は、第1材料からなる第1下地層と、前記第1下地層の上の第1導電層と、前記第1導電層の上の第2下地層であって前記第1材料と異なる第2材料からなる第2下地層と、前記第2下地層の上の第2導電層と、で構成され、前記光導波路の延伸方向に垂直な断面において、前記第2下地層の端部は、前記第2導電層に覆われている。
本発明の他の態様によると、前記作用電極に接続された配線電極を備え、前記配線電極は、前記作用電極から延在する前記第2導電層を含む。
本発明の他の態様によると、前記第2材料はチタン(Ti)で構成され、前記第1導電層および前記第2導電層は、金(Au)で構成されている。
本発明の他の態様によると、前記第1材料は、ニオブ(Nb)で構成されている。
本発明の他の態様によると、前記第1下地層の厚さは30nm以下であり、前記第2下地層の厚さは100nm以上である。
本発明の他の態様によると、前記光導波路は、前記基板上に延在する凸部により構成される凸状光導波路である。
本発明の他の態様によると、前記光導波路を前記基板の面内において挟む2つの前記作用電極を有し、2つの前記作用電極の間隔は、0.1μm以上、5.0μm以下である。
本発明の他の態様によると、前記基板上の領域のうち、前記光導波路の入力端から出力端までの経路以外の領域に、前記第1材料とは異なる第3材料からなる第3下地層と、該第3下地層の上の第3導電層と、で構成される導体パターンが形成されている。
本発明の他の態様によると、前記第3材料は、前記光導波路を伝搬する光の波長における光吸収係数が、前記第1材料よりも大きい。
本発明の他の態様は、前記第2導電層を構成する金の一部をメッキにより形成する工程を含む、光導波路素子の作製方法である。
本発明の他の態様は、光の変調を行う光変調素子である上記いずれかの光導波路素子と、前記光導波路素子を収容する筐体と、前記光導波路素子に光を入力する光ファイバと、前記光導波路素子が出力する光を前記筐体の外部へ導く光ファイバと、を備える光変調器である。
本発明の他の態様は、光の変調を行う光変調素子である上記いずれかの光導波路素子と、前記光導波路素子を収容する筐体と、前記光導波路素子に光を入力する光ファイバと、前記光導波路素子が出力する光を前記筐体の外部へ導く光ファイバと、前記光導波路素子を駆動する駆動回路と、を備える光変調モジュールである。
本発明の更に他の態様は、前記光変調器または前記光変調モジュールと、前記光導波路素子に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路と、を備える光送信装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光導波路素子において、作用電極の下地層のオーバエッチングを防止してその上部の導電層のオーバハングの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る光変調素子の構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す光変調素子のII-II断面図である。
【
図3】
図1に示す光変調素子のIII-III断面図である。
【
図5】
図2に示すB部における電極形成工程について説明するための図である。
【
図6】種々の金属を第1下地層とした場合の、第1下地層の厚さに対する光吸収損失増加量のシミュレーション結果である。
【
図7】第1の実施形態の変形例に係る光変調素子の構成を示す図である。
【
図8】
図7に示す光変調素子のVIII-VIII断面図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る光変調器の構成を示す図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態に係る光変調モジュールの構成を示す図である。
【
図11】本発明の第4の実施形態に係る光送信装置の構成を示す図である。
【
図12】従来の光導波路素子における電極形成について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光導波路素子である光変調素子100の構成を示す図である。光変調素子100は、例えば、光通信用として一般に用いられている1.3μm帯及び又は1.55μm帯を含む近赤外波長域の波長を動作光波長とする。
【0012】
光変調素子100は、基板102に形成された光導波路104で構成される。基板102は、例えば、20μm以下(例えば2μm)の厚さに加工され薄板化された、電気光学効果を有するXカットのLN基板である。光導波路104は、薄板化された基板102の表面に形成された帯状に延在する凸部で構成される凸状光導波路(例えば、リブ型光導波路又はリッジ型光導波路)である。
【0013】
基板102は、例えば矩形であり、図示上下方向に延在して対向する図示左右の2つの辺140a、140b、および図示左右方向に延在して対向する図示上下の辺140c、140dを有する。
【0014】
光変調素子100は、2つのネスト型マッハツェンダ型光導波路108a、108bによりDP-QPSK光変調器を構成する。ネスト型マッハツェンダ型光導波路108aは2つのマッハツェンダ型光導波路110aおよび110bを含む。また、ネスト型マッハツェンダ型光導波路108bは、2つのマッハツェンダ型光導波路110cおよび110dを含む。
【0015】
マッハツェンダ型光導波路110aおよび110bは、それぞれ、2本の並行導波路112a、112bおよび112c、112dを有する。また、マッハツェンダ型光導波路110cおよび110dは、それぞれ、2本の並行導波路112e、112fおよび112g、112hを有する。
【0016】
基板102の図示左側の辺140aの図示下側において光導波路104の入力導波路106に入射した入力光(図示右方を向く矢印)は、光の伝搬方向が180度折り返された後、2つの光に分岐され、2つのネスト型マッハツェンダ型光導波路108a、108bにより、それぞれQPSK変調される。QPSK変調された2つの光は、それぞれ出力導波路126a、126bを介して基板102の図示左側の辺140aの図示上側から出力される(図示左方を向く2つの矢印)。
【0017】
これら2つの出力光は、基板102から出射したのち、例えば、偏波合成器により偏波合成されて一つの光ビームにまとめられ、DP-QPSK変調された光信号として伝送用光ファイバへ送出される。
【0018】
ネスト型マッハツェンダ型光導波路108aにおけるQPSK変調のため、マッハツェンダ型光導波路110aの2本の並行導波路112aと112bとの間、およびマッハツェンダ型光導波路110bの2本の並行導波路112cと112dとの間には、それぞれ、変調のための高周波電気信号が入力される信号電極114-1aおよび114-1bが配されている。
【0019】
また、ネスト型マッハツェンダ型光導波路108bにおけるQPSK変調のため、マッハツェンダ型光導波路110cの2本の並行導波路112eと112fとの間、およびマッハツェンダ型光導波路110dの2本の並行導波路112gと112hとの間には、それぞれ、変調のための高周波電気信号が入力される信号電極114-1cおよび114-1dが配されている。
【0020】
信号電極114-1aは、並行導波路112aおよび112bのそれぞれを挟んで対向するグラウンド電極114-2a、114-2bと共にコプレーナ型伝送線路を構成し、信号電極114-1bは、並行導波路112cおよび112dのそれぞれを挟んで対向するグラウンド電極114-2b、114-2cと共にコプレーナ型伝送線路を構成する。
【0021】
信号電極114-1cは、並行導波路112eおよび112fのそれぞれを挟んで対向するグラウンド電極114-2c、114-2dと共にコプレーナ型伝送線路を構成し、信号電極114-1dは、並行導波路112eおよび112fのそれぞれを挟んで対向するグラウンド電極114-2d、114-2eと共にコプレーナ型伝送線路を構成する。
【0022】
以下、ネスト型マッハツェンダ型光導波路108a、108bを総称してネスト型マッハツェンダ型光導波路108ともいうものとする。また、マッハツェンダ型光導波路110a、110b、110c、110d、110e、110f、110g、110hを総称してマッハツェンダ型光導波路110ともいうものとする。また、並行導波路112a、112b、112c、112d、112e、112f、112g、112hを総称して並行導波路112ともいうものとする。また、信号電極114-1a、114-1b、114-1c、114-1dを総称して信号電極114-1ともいうものとする。また、グラウンド電極114-2a、114-2b、114-2c、114-2d、114-2eを総称してグラウンド電極114-2ともいうものとする。
【0023】
また、信号電極114-1およびグラウンド電極114-2を総称して作用電極114というものとする。作用電極114である信号電極114-1およびグラウンド電極114-2は、光導波路104を伝搬する光波を制御する。また、信号電極114-1とグラウンド電極114-2とは、光導波路104の並行導波路112を基板102の面内において挟む2つの作用電極114である。
【0024】
信号電極114-1a、114-1b、114-1c、114-1dの図示右端部は、信号配線電極118-1a、118-1b、118-1c、118-1dにそれぞれ接続されている。また、信号電極114-1a、114-1b、114-1c、114-1dの図示左端部は、信号配線電極118-1e、118-1f、118-1g、118-1hにそれぞれ接続されている。
【0025】
グラウンド電極114-2a、114-2b、114-2c、114-2d、114-2eの図示右端は、それぞれグラウンド配線電極118-2a、118-2b、118-2c、118-2d、118-2eに接続されている。これにより、信号配線電極118-1a、118-1b、118-1c、118-1dは、これらの信号配線電極に隣接するグラウンド配線電極118-2a、118-2b、118-2c、118-2d、118-2eと共に、コプレーナ型伝送線路を構成する。
【0026】
同様に、グラウンド電極114-2a、114-2b、114-2c、114-2d、114-2eの図示左端は、それぞれグラウンド配線電極118-2f、118-2g、118-2h、118-2i、118-2jに接続されている。これにより、信号配線電極118-1e、118-1f、118-1g、118-1hは、これらの信号配線電極に隣接するグラウンド配線電極118-2f、118-2g、118-2h、118-2i、118-2jと共に、コプレーナ型伝送線路を構成する。
【0027】
基板102の図示下側の辺140dまで延在する信号配線電極118-1e、118-1f、118-1g、118-1hは、基板102の外部において所定のインピーダンスを持つ終端抵抗により終端される。
【0028】
これにより、基板102の図示上側の辺140cまで延在する信号配線電極118-1a、118-1b、118-1c、118-1dから入力される高周波電気信号は、進行波となって信号電極114-1a、114-1b、114-1c、114-1dを伝搬し、それぞれ、マッハツェンダ型光導波路110a、110b、110c、110dを伝搬する光波を変調する。
【0029】
以下、信号配線電極118-1a、118-1b、118-1c、118-1d、118-1e、118-1f、118-1g、118-1hを総称して信号配線電極118-1ともいうものとする。また、グラウンド配線電極118-2a、118-2b、118-2c、118-2d、118-2e、118-2f、118-2g、118-2h、118-2i、118-2jを総称してグラウンド配線電極118-2ともいうものとする。また、信号配線電極118-1およびグラウンド配線電極118-2を総称して、配線電極118ともいうものとする。すなわち、信号配線電極118-1およびグラウンド配線電極118-2は、作用電極114に接続された配線電極118である。
【0030】
基板102には、また、マッハツェンダ型光導波路110a、110bのバイアス点を調整するためのバイアス電極132aと、マッハツェンダ型光導波路110c、110dのバイアス点を調整するためのバイアス電極132bと、ネスト型マッハツェンダ型光導波路108a、108bのバイアス点を調整するためのバイアス電極132cが設けられている。
【0031】
図2は、
図1に示す光変調素子100のII-II断面矢視図である。また、
図3は、
図1に示す光変調素子100のIII-III断面矢視図である。基板102は、その裏面(図示下側の面)が支持板142により支持され補強されている。支持板142は、例えばガラスである。基板102の図示上面には、並行導波路112a、112b、112c、および112dが、それぞれ、基板102上に形成された凸部144a、144b、144c、および144dにより凸状光導波路として構成されている。なお、図示4つの点線楕円は、それぞれ、凸状光導波路である並行導波路112a、112b、112c、および112dを伝搬する光を模式的に示している。以下、凸部144a、144b、144c、144dを含め、光導波路104を構成する基板102上の凸部を総称して凸部144ともいうものとする。
【0032】
図2を参照し、基板102上には、作用電極114である信号電極114-1bおよびグラウンド電極114-2b、114-2cが、並行導波路112cおよび112dを基板102の面内において挟む位置に配されている。信号電極114-1bおよびグラウンド電極114-2b、114-2cは、それぞれ、第1段目電極150a、150b、150cと、第2段目電極152a、152b、152cと、で構成される2段電極である。
【0033】
図4は、
図2におけるA部の部分詳細図である。信号電極114-1bは、第1下地層154aと、第1下地層154aの上の第1導電層156aと、第1導電層156aの上の第2下地層158aと、第2下地層158aの上の第2導電層160aと、で構成されている。第1下地層154aと第1導電層156aとは第1段目電極150aを構成し、第2下地層158aと第2導電層160aとは第2段目電極152aを構成する。
【0034】
第1下地層154aは第1材料から成り、第2下地層158aは、第1材料とは異なる第2材料から成る。本実施形態では、第1材料はニオブ(Nb)であり、第2材料はチタン(Ti)である。また、第1導電層156および第2導電層160は、ともに金(Au)である。
【0035】
そして、並行導波路112の延伸方向に垂直な断面において、第2下地層158aの並行導波路112c側の端部162aは、第2導電層160aに覆われている。同様に、並行導波路112の延伸方向に垂直な断面において、第2下地層158aの並行導波路112d側の端部162bは、第2導電層160aに覆われている。
【0036】
また、グラウンド電極114-2bは、第1下地層154bと、第1下地層154bの上の第1導電層156bと、第1導電層156bの上の第2下地層158bと、第2下地層158bの上の第2導電層160bと、で構成されている。第1下地層154bと第1導電層156bとは第1段目電極150bを構成し、第2下地層158bと第2導電層160bとは第2段目電極152bを構成する。第1下地層154bは第1材料から成り、第2下地層158bは、第1材料とは異なる第2材料から成る。そして、並行導波路112の延伸方向に垂直な断面において、第2下地層158bの並行導波路112c側の端部162cは、第2導電層160bに覆われている。
【0037】
同様に、グラウンド電極114-2cは、第1下地層154cと、第1下地層154cの上の第1導電層156cと、第1導電層156cの上の第2下地層158cと、第2下地層158cの上の第2導電層160cと、で構成されている。第1下地層154cと第1導電層156cとは第1段目電極150cを構成し、第2下地層158cと第2導電層160cとは第2段目電極152cを構成する。第1下地層154cは第1材料から成り、第2下地層158cは、第1材料とは異なる第2材料から成る。そして、並行導波路112の延伸方向に垂直な断面において、第2下地層158cの並行導波路112d側の端部162dは、第2導電層160cに覆われている。
【0038】
信号電極114-1b以外の他の信号電極114-1a、114-1c、114-1d、およびグラウンド電極114-2b、114-2c以外の他のグラウンド電極114-2a、114-2d、114-2eも、上記の信号電極114-1aおよびグラウンド電極114-2a、114-2bと同様に構成される。以下、信号電極114-1およびグラウンド電極114-2の第1下地層、第1導電層、第2下地層、および第2導電層のそれぞれを総称して、第1下地層154、第1導電層156、第2下地層158、および第2導電層160ともいうものとする。
【0039】
また、
図4に示す第1段目電極150a、150b、150cを含め、作用電極114の第1下地層154と第1導電層156とが構成する第1段目電極を総称して第1段目電極150というものとする。また、第2段目電極152a、152b、152cを含め、作用電極114の第2下地層158と第2導電層160とが構成する第2段目電極を総称して第2段目電極152というものとする。また、端部162a、162b、162c、162dを含め、第2下地層158の、隣接する並行導波路112の側の端部を総称して端部162ともいうものとする。
【0040】
すなわち、光変調素子100では、作用電極114である信号電極114-1およびグラウンド電極114-2は、それぞれ、第1材料からなる第1下地層154と、第1下地層154の上の第1導電層156と、第1導電層156cの上の第2下地層158であって第1材料とは異なる第2材料からなる第2下地層158と、第2下地層158の上の第2導電層160と、で構成されている。そして、並行導波路112の延伸方向に垂直な断面において、作用電極114の第2下地層158の並行導波路112側の端部162は、第2導電層160に覆われている。
【0041】
図2を参照し、基板102上には、グラウンド電極114-2bに接続されたグラウンド配線電極118-2bが設けられている。グラウンド配線電極118-2bは、グラウンド電極114-2bの第2段目電極152bが基板102上を図示左方に延在して構成される。すなわち、グラウンド配線電極118-2bは、グラウンド電極114-2bから延在する第2導電層160bを含む。本実施形態では、グラウンド配線電極118-2bと並行導波路112a、112bとの間には、樹脂層146が設けられている。
【0042】
図3を参照し、基板102上には、信号電極114-1bに接続された信号配線電極118-1bが設けられている。信号配線電極118-1bは、
図2のグラウンド配線電極118-2bと同様に、信号電極114-1bの第2段目電極152aが基板102上を図示左方に延在して構成される。すなわち、信号配線電極118-1bは、信号電極114-1bから延在する第2導電層160を含む。本実施形態では、信号配線電極118-1bと並行導波路112a、112b、112cとの間には、樹脂層146が設けられている。
【0043】
グラウンド配線電極118-2b以外の他のグラウンド配線電極118-2も、
図2のグラウンド配線電極118-2bと同様に構成される。また、信号配線電極118-1b以外の他の信号配線電極118-1も、信号配線電極118-1bと同様に構成される。
【0044】
すなわち、光変調素子100は、作用電極114に接続された配線電極118を備え、配線電極118は、作用電極114から延在する第2導電層160を含む。そして、配線電極118と、当該配線電極118の下にある光導波路104との間には、樹脂層146が形成されている。
【0045】
上記の構成を有する光変調素子100は、作用電極114である信号電極114-1およびグラウンド電極114-2の第1下地層154を構成する第1材料が、第2下地層158を構成する第2材料とは異なる材料、例えばニオブで構成される。ニオブは、電極の下地層材料として従来より一般に用いられているチタンに比べて、光変調素子100の動作光波長(例えば、光通信用波長である1.3μm帯及び又は1.55μm帯)における光吸収係数が小さい。このため、これら作用電極114の第1段目電極150を、並行導波路112に対し、従来に比べてより近接して配置することができる。例えば、本実施形態では、並行導波路112を挟む2つの作用電極114である信号電極114-1とグラウンド電極114-2との間隔W(
図4参照)は、1.0μm以上、5.0μm以下である。
【0046】
その一方、光変調素子100では、第2下地層158の第2材料は、第1材料とは異なる材料、例えば従来と同様のチタンを用い得るので、第2段目電極152を第1段目電極150に堅牢に固定することができる。その結果、光変調素子100では、従来に比べて駆動電圧が小さく且つ高速な光変調動作を高信頼度で実現することができる。
【0047】
また、特に、光変調素子100では、
図4に示すように、並行導波路112の延伸方向に垂直な断面において、作用電極114である信号電極114-1およびグラウンド電極114-2の、第2下地層158の並行導波路112側の端部162が、第2下地層158の上の第2導電層160に覆われている。これにより、光変調素子100では、作用電極114の第2導電層160の形成後に基板102に残存する第2材料(第2下地層158の材料)の膜をエッチングする際に、第2導電層160下部の第2下地層158がオーバエッチングされるのを防止することができる。その結果、光変調素子100では、第2下地層158のオーバエッチングにより第2導電層160において
図12に示すようなオーバハングが発生してしまうのを防止することができる。
【0048】
図5は、
図2のA部における、光変調素子100の電極形成工程の一例を示す図である。
図5の(a)は、基板102上に第1材料から成る第1層170と、Auで構成される第2層172と、を形成して第1回目のパターンニングを行ったのち、第2材料から成る第3層176およびAu薄膜である第4層178を形成した状態を示している。ここで、第4層178のAu薄膜は、例えば電子ビーム蒸着で形成される。
【0049】
なお、
図5の(a)、(b)、(c)の各図において、右側に示す第1層170,第2層172、第3層176、第4層178、および後述するレジスト180および第5層182のそれぞれと同種のハッチングで示された他のそれぞれの層も、第1層170,第2層172、第3層176、第4層178、レジスト180、および第5層182であるものと理解されたい。
【0050】
図5の(a)において、第1層170および第2層172は、上記第1回目のパターンニングにより、並行導波路112cおよび112dの上部から除去されている。このため、並行導波路112cおよび112dの上部およびその周辺には、第3層176と第4層178が形成された状態となっている。
図5の(a)では、さらに、第3層176及び第4層178をエッチングするためのレジスト180が、第4層178の上に形成されている。
【0051】
図5の(b)は、
図5の(a)に示す状態において第2層172の上に形成された第3層176及び第4層178をエッチングしたのち、第4層178の上にメッキによりAu厚膜の第5層182を形成してパターンニングした状態を示している。共にAuで構成される第4層178と第5層182とで、信号電極114-1bの第2導電層160が構成される。グラウンド電極114-2cおよび114-2dも同様である。すなわち、光変調素子100の作製方法(作製工程)には、第2導電層を構成する金の一部をメッキにより形成する工程が含まれる。
【0052】
なお、
図5の(b)において、並行導波路112cおよび112dの上部およびその周辺にある第3層176及び第4層178は、第5層182のAu厚膜をメッキにより形成する際に基板102の上面における電位ムラを低減してAu厚膜の均質性を確保するために残されていたものである。
【0053】
図5(c)は、並行導波路112cおよび112dの上部およびその周辺にある第3層176及び第4層178をエッチングにより除去した状態を示している。図示のように、信号電極114-1bの第2下地層158の、並行導波路112c、112dの側のそれぞれの端部162a、162bは、第2下地層158の上の第2導電層160に覆われているので、第2下地層158のオーバエッチングは発生しない。したがって、オーバハングのない良好な側面を有する第2段目電極152aが形成され得る。グラウンド電極114-2cおよび114-2dも同様である。
【0054】
ところで、本実施形態では、信号電極114-1の第1段目電極150を構成する第1下地層154は、ニオブ(Nb)で構成されるものとした。ニオブは、第1下地層154の材料として従来一般に用いられているチタン(Ti)に比べて、光変調素子100の動作光波長が含まれる近赤外波長域における光吸収係数が小さい。このため、光変調素子100では、作用電極114を、並行導波路112に対し、従来に比べてより近接して設けることができる。したがって、光変調素子100では、電界効率を高めて高速かつ低電圧の動作を実現することができる。
【0055】
なお、第1下地層154を構成する材料は、上記のように、従来用いられているチタンに比べて動作光波長における光吸収係数の小さい材料であればよく、ニオブ(Nb)には限られない。
図6は、種々の金属により第1下地層154を構成した場合の、第1下地層154の厚さに対する並行導波路112cにおける光吸収損失増加量の、シミュレーション結果である。
図6には、第1段目電極150に第1下地層154を用いない場合(Au単膜(第1導電層156のみ)の場合)に加えて、第1下地層154の材料としてTi、Al(アルミニウム)、及びNbを用いた場合の計算結果が示されている。
【0056】
図6において、横軸は、第1下地層154の厚さt、縦軸は、その第1下地層154に隣接する並行導波路112の単位長さ(1cm)当たりの光吸収損失量である。シミュレーションでは、第1導電層156としてAuを仮定し、動作光波長として1.55μmを仮定した。また、光吸収損失の算出に際し、Ti、Al、及びNbの光吸収スペクトルから得られる各金属の動作波長1.55μmでの光吸収量を用いた。
【0057】
ライン200で示すAu単膜の(下地層が存在しない)場合の光吸収損失α0は、上記構成におけるバックグラウンドとしての光吸収損失であり、この基準ラインからの光吸収損失の増加分として、第1下地層154における光吸収損失を評価し得る。
【0058】
ライン202、204、及び206は、それぞれ、第1下地層154を構成する金属をTi、Al、及びNbで構成した場合の光吸収損失を示している。これらの金属においては、ライン202で示すTiが最も光吸収損失が大きく、その膜厚と共に光吸収損失が大きく増加していく。
【0059】
一方、動作波長を光吸収域に含まないAl及びNbを第1下地層154とした場合を示すライン204、206は、Tiの場合(ライン202)に比べて光吸収損失が大幅に軽減されることが判る。
図6に示す評価結果の範囲では、第1下地層154がAlの場合(ライン204)において最も光吸収損失が小さく、且つ下地層の厚さに対して光吸収損失はほぼ一定である。しかしながら、Alは、一般的には基板への固着強度は低いことが知られている。
【0060】
図6のライン206及び200より、Nbで構成される第1下地層154の厚さは、30nm以下であることが望ましい。Nbの下地層の厚さがこの範囲であれば、光吸収損失を、Au単膜での値α
0に対し2倍の2α
0以下、または従来のTiを用いた第1下地層154の場合の値、約6α
0に対し、1/3以下の値に抑制することができる。
【0061】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、上述した第1の実施形態に係る光変調素子100を用いた光変調器である。
図9は、第2の実施形態に係る光変調器400の構成を示す図である。光変調器400は、筐体402と、当該筐体402内に収容された光変調素子100と、中継基板406と、を有する。筐体402は、最終的にはその開口部に板体であるカバー(不図示)が固定されて、その内部が気密封止される。
【0062】
光変調器400は、また、光変調素子100の変調に用いる高周波電気信号を入力するための信号ピン408と、光変調素子100の動作点の調整に用いる電気信号を入力するための信号ピン410と、を有する。
【0063】
さらに、光変調器400は、筐体402内に光を入力するための入力光ファイバ414と、光変調素子100により変調された光を筐体402の外部へ導く出力光ファイバ420と、を筐体402の同一面(本実施形態では、図示左側の面)に有する。
【0064】
ここで、入力光ファイバ414及び出力光ファイバ420は、固定部材であるサポート422及び424を介して筐体402にそれぞれ固定されている。入力光ファイバ414から入力された光は、サポート422内に配されたレンズ430によりコリメートされた後、レンズ434を介して光変調素子100へ入力される。ただし、これは一例であって、光変調素子100への光の入力は、従来技術に従い、例えば、入力光ファイバ414を、サポート422を介して筐体402内に導入し、当該導入した入力光ファイバ414の端面を光変調素子100の基板102の端面に接続することで行うものとすることもできる。
【0065】
光変調素子100から出力される光は、光学ユニット416と、サポート424に配されたレンズ418と、を介して出力光ファイバ420に結合される。光学ユニット416は、光変調素子100から出力される2つの変調光を一つのビームに結合する偏波合成器を含み得る。
【0066】
中継基板406は、当該中継基板406に形成された導体パターン(不図示)により、信号ピン408から入力される高周波電気信号および信号ピン410から入力される動作点(バイアス点)調整用等の電気信号を、光変調素子100へ中継する。中継基板406上の上記導体パターンは、例えばワイヤボンディング等により、光変調素子100の配線電極118の一端を構成するパッドにそれぞれ接続される。また、光変調器400は、所定のインピーダンスを有する終端器412を筐体402内に備える。
【0067】
上記の構成を有する光変調器400は、上述した第1の実施形態に係る光変調素子100を用いて構成されるので、従来に比べて駆動電圧が小さく且つ高速な光変調動作を高信頼度で実現することができる。
【0068】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、上述したいずれかの実施形態または変形例に係る光変調素子を用いた光変調モジュール500である。
図10は、本実施形態に係る光変調モジュール500の構成を示す図である。
図10において、
図9に示す第2の実施形態に係る光変調器400と同一の構成要素については、
図9に示す符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した
図9についての説明を援用する。
【0069】
光変調モジュール500は、
図9に示す光変調器400と同様の構成を有するが、中継基板406に代えて、回路基板506を備える点が、光変調器400と異なる。回路基板506は、駆動回路508を備える。駆動回路508は、信号ピン408を介して外部から供給される例えば変調信号に基づいて、光変調素子100を駆動する高周波電気信号を生成し、当該生成した高周波電気信号を光変調素子100へ出力する。
【0070】
上記の構成を有する光変調モジュール500は、上述した第1の実施形態に係る光変調素子100を用いて構成されるので、従来に比べて駆動電圧が小さく且つ高速な光変調動作を高信頼度で実現することができる。
【0071】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。本実施形態は、第2の実施形態に係る光変調器400を搭載した光送信装置600である。
図11は、本実施形態に係る光送信装置600の構成を示す図である。この光送信装置600は、光変調器400と、光変調器400に光を入射する光源604と、変調器駆動部606と、変調信号生成部608と、を有する。なお、光変調器400及び変調器駆動部606に代えて、上述した光変調モジュール500を用いることもできる。
【0072】
変調信号生成部608は、光変調器400に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路であり、外部から与えられる送信データに基づき、光変調器400に当該変調データに従った光変調動作を行わせるための高周波信号である変調信号を生成して、変調器駆動部606へ出力する。
【0073】
変調器駆動部606は、変調信号生成部608から入力される変調信号を増幅して、光変調器400が備える光変調素子100の信号電極を駆動するための高周波電気信号を出力する。尚、上述したように、光変調器400および変調器駆動部606に代えて、例えば変調器駆動部606に相当する回路を含む駆動回路508を筐体402の内部に備えた、光変調モジュール500を用いることもできる。
【0074】
上記高周波電気信号は、光変調器400の信号ピン408に入力されて、光変調素子100を駆動する。これにより、光源604から出力された光は、光変調器400により変調され、変調光となって光送信装置600から出力される。
【0075】
上記の構成を有する光送信装置600は、上述した第2の実施形態に係る光変調器400および第3の実施形態に係る光変調モジュール500と同様に、小型で且つ波長依存性の少ない変調動作が可能な光変調素子100等を用いているので、従来に比べて駆動電圧が小さく且つ高速な光変調動作を高信頼度で実現して、良好な光伝送を行い得る。
【0076】
なお、本発明は上記実施形態の構成およびその代替構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0077】
例えば、
図1に示す光変調素子100において、配線電極118、およびバイアス電極132a、132b、132cの配線(以下、バイアス電極配線)の経路は、
図1に記載の経路には限られない。基板102上における配線電極118およびバイアス電極配線の経路は、従来技術に従い、光導波路104に作用しない限り任意である。例えば、配線電極118は、光導波路104に作用しないように、信号電極114-1から直線状に延在していてもよい。また、バイアス電極配線は、例えば、入力導波路106および出力導波路126a、126bが形成されている辺140aに対向する辺140bに達するように、任意の経路で形成されていてもよい。
【0078】
また、基板102上の領域のうち、光導波路104の光信号の入力端から出力端までの経路以外の領域に、第1材料とは異なる第3材料からなる第3下地層と、該第3下地層の上の第3導電層と、で構成される導体パターンが形成されていてもよい。ここで入力端とは光が入射される入力導波路106の端部であり、出力端とは入力端から入射された光が出力される出力導波路126a、126bの端部である。また、光導波路104の光信号の入力端から出力端までの経路以外の領域とは、光信号として用いられない不要な光が伝搬する領域をいう。例えば、Y分岐導波路に付加されて不要な放射光を伝搬させる放射光用導波路や、迷光が伝搬する基板102上の領域等は、上記“入力端から出力端までの経路以外の領域”である。
【0079】
図7は、
図1に示す光変調素子100の変形例に係る、光信号の入力端から出力端までの経路以外の領域に第3下地層および第3導電層が形成された光変調素子100-1の構成を示す図である。
図7において、
図1に示す構成要素と同じ構成要素については、
図1における符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した
図1についての説明を援用する。
【0080】
図7に示す光変調素子100-1では、
図1に示す光変調素子100の構成要素に加えて、ネスト型マッハツェンダ型光導波路108bを構成するY分岐導波路である合波部128に、合波されることなく漏れ出る放射光を伝搬させるための放射光用導波路130aおよび130bが設けられている。そして、放射光用導波路130aが形成された基板102上の領域に、放射光用導波路130aの少なくとも一部を覆うように、導体パターン194aが形成されている。
【0081】
図8は、
図7におけるVIII-VIII断面矢視図であり、放射光用導波路130aが形成された部分の断面図である。放射光用導波路130aを覆う導体パターン194aは、上述した第1材料とは異なる第3材料からなる第3下地層190と、第3下地層190の上の第3導電層192と、で構成されている。
【0082】
ここで、上記第3材料は、光導波路104を伝搬する光の波長における光吸収係数が、第1材料よりも大きいものとすることができる。第3材料は、例えばニッケルである。これにより、放射光用導波路130aを伝搬する不要光は、第3下地層190を構成するニッケルにより効率的に吸収される。この場合にも、第1材料は、上述したニオブを用いることができる。また、第3材料は、チタンであるものとすることができる。
【0083】
図7に示す光変調素子100-1には、また、基板102のうち、光導波路104の光入力端(図示左側の辺140aのうち入力導波路106の端部が形成された部分)に隣接する図示点線矩形で示す矩形領域196に重なるように、入力導波路106を避けて導体パターン194bおよび194cが形成されている。導体パターン194b、194cは、
図8に示す導体パターン194aと同様に、第3下地層と、第3下地層の上の第3導電層と、で構成されている。これにより、上記光入力端から入射して入力導波路106に結合することなく基板102を伝搬する不要光を、導体パターン194b、194cにより効果的に吸収することができる。
【0084】
なお、基板102上に形成する第3下地層の位置は、導体パターン194a、194b、194cの位置に限定されず、不要光を吸収し得る任意の位置とすることができる。また、
図7の例では、合波部128に設けられた一方の放射光用導波路130aに第3下地層190を含む導体パターン194aが形成されるものとしたが、放射光用導波路130bにも同様の導体パターンを形成してもよい。また、光導波路104が含む他の任意のY分岐部分にも放射光用導波路を設け、そのそれぞれに、第3下地層を含む同様の導体パターンを形成してもよい。なお、例えば、放射光用導波路130aの端部に受光素子を配置して、放射光用導波路130aから出力される光の光量をモニタする場合には、当該放射光用導波路130aの端部は、光導波路104の光信号の出力端となるため、第3下地層を含む導体パターンは形成されない。
【0085】
これらの構成によれば、光波を制御する作用電極による光波の吸収を抑制するとともに、基板102を伝搬する不要光を効果的に除去することができる。
【0086】
また、第1の実施形態では、本発明に係る光導波路素子の一例として、LN(LiNbO3)である基板102により構成される光変調素子100を示したが、本発明に係る光導波路素子は、これには限られない。光導波路素子は、任意の材料(LNのほか、InP、Siなど)の基板で構成される、任意の機能(光変調のほか、光スイッチ、光方向性結合器など)を有する素子であるものとすることができる。そのような素子は、例えば、いわゆるシリコン・フォトニクス導波路デバイスであり得る。
【0087】
また、上述した実施形態では、基板102は、一例としてXカット(基板法線方向が結晶軸のX軸)のLN基板(いわゆるX板)であるものしたが、ZカットのLN基板を基板102として用いることもできる。
【0088】
以上説明したように、上述した実施形態に係る光導波路素子である光変調素子100は、基板102と、基板102に形成された光導波路104と、光導波路104を伝搬する光波を制御する作用電極114(すなわち、信号電極114-1およびグラウンド電極114-2)と、を含む。作用電極114は、第1材料(例えば、ニオブ)からなる第1下地層154と、第1下地層154の上の第1導電層156と、第1導電層156の上の第2下地層158であって第1材料と異なる第2材料(例えばチタン)からなる第2下地層158と、第2下地層158の上の第2導電層160と、で構成される。そして、並行導波路112の延伸方向に垂直な断面において、第2下地層158の光導波路104の側の端部、例えば光導波路104の一部である並行導波路112の側の端部162が、第2導電層160に覆われている。
【0089】
この構成によれば、第2導電層160の下部の第2下地層158のオーバエッチングを防止して、良好な側面状態を有する信号電極114-1を形成することができるので、動作安定性が高く長期信頼性の高い光導波路素子を実現することができる。
【0090】
また、光変調素子100は、作用電極114に接続された配線電極118を備える。配線電極118は、作用電極114から延在する第2導電層160を含む。この構成によれば、作用電極114の第2段目電極152を形成する際に配線電極118を同時に作製することができる。
【0091】
また、第2下地層158を構成する第2材料はチタン(Ti)であり、第1導電層156および第2導電層160は金(Au)で構成されている。この構成によれば、下地層の材料および導電層の材料としてそれぞれ従来用いられていたチタンおよび金を用いて、第2下地層158,第1導電層156、および第2導電層160が形成されるので、従来と同様の工程により、これらの層を形成することができる。
【0092】
また、第1下地層154を構成する第1材料は、ニオブ(Nb)である。この構成によれば、下地層の材料として従来用いられていたチタンを用いて第1下地層を構成する場合に比べて、作用電極114の第1段目電極150を並行導波路112に近接して設けることができるので、電界効率を高めて高速、低電圧駆動の光導波路素子を実現することができる。
【0093】
また、光変調素子100では、ニオブで構成される第1下地層154の厚さは30nm以下であり、第2下地層158の厚さは100nm以上である。この構成によれば、第1下地層154を構成するニオブにより並行導波路112に発生する光吸収損失の増加を抑制しつつ、十分な厚さの第2下地層158により第2段目電極152を第1段目電極150の上に堅牢に固定することができる。
【0094】
また、光変調素子100を構成する光導波路104は、基板102上に延在する凸部144により構成される凸状光導波路である。この構成によれば、さらに電界効率を高めて、更に駆動電圧の低い、高速かつ低損失の光変調素子を実現することができる。
【0095】
また、光変調素子100は、基板102の面内において光導波路104の並行導波路112を挟む2つの作用電極114(すなわち、信号電極114-1とグラウンド電極114-2)を有する。そして、これら2つの作用電極114の間隔は、1.0μm以上、5.0μm以下である。この構成によれば、基板102上に3μm前後の間隔で微細な凹凸が存在する場合でも、作用電極114の第2下地層158のオーバエッチングを防止して、良好な側面形状の作用電極114を形成することができる。
【0096】
また、光変調素子100の作製工程には、第2導電層160の一部の金をメッキにより形成する工程が含まれる。この構成によれば、第2導電層160の形成後まで基板102上の微細な隙間に第2下地層158と同じ第2材料の層を維持しなければならない場合でも、その後の第2材料のエッチングに際して作用電極114の第2下地層158がオーバエッチングされるのを防止して、良好な側面形状の作用電極114を形成することができる。
【0097】
また、上述した第2の実施形態に係る光変調器400は、光の変調を行う光変調素子100と、光変調素子100を収容する筐体402と、光変調素子100に光を入力する入力光ファイバ414と、光変調素子100が出力する光を筐体402の外部へ導く出力光ファイバ420と、を備える。
【0098】
また、上述した第3の実施形態に係る光変調モジュール500は、光変調素子100と、光変調素子100を収容する筐体402と、光変調素子100に光を入力する入力光ファイバ414と、光変調素子100が出力する光を筐体402の外部へ導く出力光ファイバ420と、光変調素子を駆動する駆動回路508と、を備える。
【0099】
また、上述した第4の実施形態に係る光送信装置600は、第2の実施形態に係る光変調器400または第3の実施形態に係る光変調モジュール500と、光変調素子100に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路である変調信号生成部608と、を備える。
【0100】
これらの構成によれば、消費電力が小さく高速かつ低損失の光変調器400、光変調モジュール500、又は光送信装置600を実現することができる。
【符号の説明】
【0101】
100、100-1…光変調素子、102…基板、104…光導波路、106…入力導波路、108a、108b…ネスト型マッハツェンダ型光導波路、110、110a、110b、110c、110d…マッハツェンダ型光導波路、112、112a、112b、112c、112d、112e、112f、112g、112h…並行導波路、114、704a、704b、704c…作用電極、114-1、114-1a、114-1b、114-1c、114-1d、704…信号電極、114-2、114-2a、114-2b、114-2c、114-2d、114-2e…グラウンド電極、118…配線電極、118-1、118-1a、118-1b、118-1c、118-1d、118-1e、118-1f、118-1g、118-1h…信号配線電極、118-2、118-2a、118-2b、118-2c、118-2d、118-2e、118-2f、118-2g、118-2h、118-2i、118-2j…グラウンド配線電極、126a、126b…出力導波路、128…合波部、130a、130b…放射光用導波路、132a、132b、132c…バイアス電極、140a、140b、140c、140d…辺、142…支持板、144、144a、144b、144c、144d…凸部、146…樹脂層、150a、150b、150c…第1段目電極、152、152a、152b、152c…第2段目電極、154、154a、154b、154c…第1下地層、156、156a、156b、156c…第1導電層、158、158a、158b、158c…第2下地層、160、160a、160b、160c…第2導電層、162、162a、162b…端部、170…第1層、172…第2層、176…第3層、178…第4層、180…レジスト、182…第5層、190…第3下地層、192…第3導電層、194a、194b、194c…導体パターン、196…矩形領域、200、202、204、206…ライン、402…筐体、406…中継基板、408、410…信号ピン、412…終端器、414…入力光ファイバ、416…光学ユニット、418、430、434…レンズ、420…出力光ファイバ、422、424…サポート、506…回路基板、508…駆動回路、600…光送信装置、604…光源、606…変調器駆動部、608…変調信号生成部、700a、700b…凸状光導波路、702…下地層、706…導電層。