(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182419
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】加工装置
(51)【国際特許分類】
B24B 7/04 20060101AFI20221201BHJP
B24B 41/047 20060101ALI20221201BHJP
F16C 32/04 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B24B7/04 A
B24B41/047
F16C32/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089963
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 政良
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
3J102
【Fターム(参考)】
3C034AA08
3C034BB06
3C034BB73
3C043BA03
3C043BA13
3C043CC04
3C043DD02
3C043DD04
3C043DD05
3C043DD06
3J102AA01
3J102BA03
3J102BA18
3J102CA09
3J102CA11
3J102CA16
3J102DA03
3J102DA07
3J102DA12
3J102DA26
3J102FA16
3J102GA07
(57)【要約】
【課題】硬質の被加工物を研削又は研磨する場合においても、スピンドル回転軸を回転可能に支持して良好な加工を可能とする。
【解決手段】加工装置に、被加工物の加工中に回転軸41に対して保持テーブルから離反する方向にかかるスラスト荷重を軽減する軽減ユニット48を備えることにより、当該スラスト荷重が打ち消される方向の力が作用し、回転軸41にかじりが生じるおそれを低減することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持テーブルと、
該保持テーブルに保持された被加工物を加工する加工工具と、
該加工工具を該保持テーブルに対して接近させて加工する加工送りユニットと、
該加工工具が先端に固定されるスピンドルユニットと、を備える加工装置であって、
該スピンドルユニットは、
一端において該加工工具を支持する回転軸と、
該回転軸を回転可能に支持するベアリングと、
被加工物の加工中に該回転軸に対して該保持テーブルから離反する方向にかかるスラスト荷重を軽減する軽減ユニットと、
を有することを特徴とする加工装置。
【請求項2】
該軽減ユニットは、
該回転軸に固定された第1の磁石と、
該第1の磁石よりも該保持テーブルから離れた位置に設置され、該第1の磁石と対向し、該第1の磁石と反発する第2の磁石と、を有し、
該第1の磁石と該第2の磁石との反発力によって、被加工物の加工中に、該回転軸に対して該保持テーブルから離反する方向にかかるスラスト荷重を軽減することを特徴とする
加工装置。
【請求項3】
該軽減ユニットは、
該回転軸に固定された吸着部と、
該吸着部よりも該保持テーブル側に設置され、該吸着部と対向し、該吸着部を引きつける第3の磁石と、を有し、
該吸着部が該第3の磁石に引きつけられることで、被加工物の加工中に、該回転軸に対して該保持テーブルから離反する方向にかかるスラスト荷重を軽減することを特徴とする
請求項1に記載の加工装置。
【請求項4】
該吸着部は、磁性体または磁石であることを特徴とする
請求項3に記載の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を研削又は研磨する加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピンドルの先端に研削砥石や研磨ホイールなどの加工工具が装着された加工装置においては、被加工物をチャックテーブルにおいて保持し、被加工物と回転する加工工具とを接近させながら被加工物を加工する。通常、スピンドルの回転軸は、エアベアリングによって非接触状態で支持されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被加工物がサファイア、SiC(炭化ケイ素)、LT(リチウムタンタレート)のように硬質の場合は、加工工具を被加工物に対して押圧して加工する必要があるが、押圧力が強くなると、スピンドルの回転軸を支持する軸受に対し、保持テーブルから離反する方向にスラスト荷重がかかる。そして、そのスラスト荷重がエアベアリングによる支持力を上回ってしまうと、研削ホイール等の反対側の端部においてエアによる回転軸の支持ができなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような問題にかんがみなされたもので、硬質の被加工物を研削又は研磨する場合においても、回転軸を回転可能に支持して良好な加工を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被加工物を保持する保持テーブルと、該保持テーブルに保持された被加工物を加工する加工工具と、該加工工具を該保持テーブルに対して接近させて加工する加工送りユニットと、該加工工具が先端に固定されるスピンドルユニットと、を備える加工装置であって、該スピンドルユニットは、一端において該加工工具を支持する回転軸と、該回転軸を回転可能に支持するエアベアリングと、被加工物の加工中に該回転軸に対して該保持テーブルから離反する方向にかかるスラスト荷重を軽減する軽減ユニットと、を有する。
該軽減ユニットは、該回転軸に固定された第1の磁石と、該第1の磁石よりも該保持テーブルから離れた位置に設置され、該第1の磁石と対向し、該第1の磁石と反発する第2の磁石と、を有し、該第1の磁石と該第2の磁石との反発力によって、被加工物の加工中に、該回転軸に対して該保持テーブルから離反する方向にかかるスラスト荷重を軽減するようにしてもよい。
また、該軽減ユニットは、該回転軸に固定された吸着部と、該吸着部よりも該保持テーブル側に設置され、該吸着部と対向し、該吸着部を引きつける第3の磁石と、を有し、該吸着部が該第3の磁石に引きつけられることで、被加工物の加工中に、該回転軸に対して該保持テーブルから離反する方向にかかるスラスト荷重を軽減するようにしてもよい。
該吸着部は、磁性体または磁石である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の加工装置は、被加工物の加工中に回転軸に対して保持テーブルから離反する方向にかかるスラスト荷重を軽減する軽減ユニットを備えるため、当該スラスト荷重が打ち消される方向の力が作用することにより、回転軸にかじりが生じるおそれを低減することができる。したがって、硬質の被加工物を研削又は研磨する場合においても、回転軸を回転可能に支持することができ、良好な加工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】スピンドルユニットの第1例を示す縦断面図である。
【
図4】スピンドルユニットの第2例を示す縦断面図である。
【
図5】スピンドルユニットの第3例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示す研削装置1は、被加工物を保持する保持テーブル2と、保持テーブル2に保持された被加工物100を研削する加工機構3と、加工機構3を被加工物に対して接近及び離反させる加工送りユニット7とを備えている。
【0010】
保持テーブル2は、上面において被加工物100を吸引保持可能であり、Z軸方向の回転軸20を軸として回転可能となっている。
【0011】
加工機構3は、スピンドルユニット4の先端に加工工具である研削ホイール5が装着されて構成されている。スピンドルユニット4は、Z軸方向の軸心40を有するスピンドル41と、スピンドル41を回転させるモータ42と、スピンドル41の下端に連結されたフランジ43とを備えている。
【0012】
フランジ43には、加工工具である研削ホイール5が装着されている。研削ホイール5は、フランジ43を介してスピンドル41の一端に支持されており、フランジ43に取り付けられる基台51と、基台51の下面に環状に固着された複数の研削砥石52とを備えている。
【0013】
このように構成される研削装置1では、被加工物100を保持した保持テーブル2を回転させるとともに、研削ホイール5を回転させながら加工送りユニット7が加工機構3を下降させることにより、被加工物100の上面が研削される。
【0014】
図2に示す研磨装置10は、
図1に示した研削ホイール5に代えて研磨ホイール6を装着しており、それ以外の部位は研削装置1と同様に構成されるため、
図1と共通の符号を付し、その説明を省略することとする。
【0015】
研磨ホイール6は、フランジ43に取り付けられる基台61と、基台61の下面に固着された円形の研磨パッド62とを備えている。
【0016】
研磨装置10では、被加工物100を保持した保持テーブル2を回転させるとともに、研磨ホイール6を回転させながら加工送りユニット7が加工機構3を下降させることにより、被加工物100の上面が研削される。
【0017】
以下では、研削装置1及び研磨装置10に共通する構成について説明する。
図3に示すように、スピンドル41は、モータ42によって回転駆動される回転軸411と、スピンドル41の軸方向に離間する第1大径部412及び第2大径部413と、第1大径部412と第2大径部413との間に位置する被支持軸414とを備えている。スピンドル41の内部には、軸方向に貫通し研削液を通す研削液流路415が形成されている。
【0018】
スピンドルユニット4は、スピンドル41を回転可能に支持するエアベアリング44と、エアベアリング44を支持するハウジング45とを備えている。
【0019】
エアベアリング44は、ハウジング45の内部に形成されたエア流路451に連通している。エア流路451は、エア流入部452及びエア排出部453において開口している。エアベアリング44は、第1大径部412に向けて上向きにエアを噴出することにより第1大径部412をスラスト方向に支持する第1スラストベアリング441と、第2大径部413に向けて下向きにエアを噴出することにより第2大径部413をスラスト方向に支持する第2スラストベアリング442と、被支持軸414に向けてエアを噴出することによりスピンドル41をラジアル方向に支持するラジアルベアリング443とを備えている。エア流入部452から流入したエアは、エア流路451を通り、第1スラストベアリング441、第2スラストベアリング442及びラジアルベアリング443おいて噴出されてスピンドル41を非接触にて支持する。
【0020】
第1スラストベアリング441の上部には、圧力センサ444が配設されている。圧力センサ444は、第1スラストベアリング441と第1大径部412との間の圧力を計測する。
【0021】
モータ42は、回転軸411に連結されたロータ421と、ロータ421の外周側に配設されたステータコイル422とを備えている。ステータコイル422の外周側は、ウォータージャケット46によって覆われ、ロータ421及びステータコイル422の上方は、エンドカバー47によって覆われている。
【0022】
回転軸411の上端よりも保持テーブル2に若干近い側の外周側には、第1の磁石481が設けられている。一方、エンドカバー47の内周側には、第2の磁石482が設けられている。第1の磁石481と第2の磁石482とは、Z軸方向、すなわちスピンドル41の軸方向に対向した位置関係となっており、第1の磁石481は、第2の磁石482よりも保持テーブル2に近い側に位置している。第1の磁石481と第2の磁石482とは、互いが反発し合う関係となっている。
なお、第2の磁石482の位置は、第1の磁石481との間で反発力が生じる位置であればよく、エンドカバー47の内周側には限られない。
【0023】
第1の磁石481には、例えば永久磁石が用いられる。一方、第2の磁石482には、例えば電磁石が用いられる。第2の磁石482を永久磁石としてもよいが、電磁石とすると、電流の強弱によって反発力を制御することができる。
【0024】
第2の磁石482は、イモネジ483によってエンドカバー47に対して可動式にて取り付けられる。すなわち、第2の磁石482は、イモネジ483によって緩みを防止しつつ、調整された位置において第2の磁石482を固定することができる。
また、第2の磁石482と回転軸411との間には隙間484があるため、この隙間484に指が入らないようにするためのカバー485が架設されている。
【0025】
図1に示した研削装置1及び
図2に示した研磨装置10において、加工工具である研削ホイール5又は研磨ホイール6を回転させながら下降させて被加工物100に接触させると、スピンドル41にはスラスト方向上方に向く荷重がかかる。しかしながら、第1の磁石481と第2の磁石482とが反発しあうため、保持テーブル2から離反する方向のスラスト荷重が磁力によって低減される。したがって、被加工物100が硬質である場合も、スピンドル41とエアベアリング44との間でかじりが生じるおそれを低減することができる。
このように、第1の磁石481と第2の磁石482とは、スピンドル41が保持テーブル2から離反する方向のスラスト荷重を軽減する軽減ユニット48として機能する。
【0026】
スピンドル41が保持テーブル2から離反する方向に上昇すると、圧力センサ444の測定値が上昇するが、第2の磁石として電磁石を用いた場合は、圧力センサ444の測定値に応じて第2の磁石482に供給する電流を調整することにより、圧力センサ444の測定値が許容値の範囲内となるように制御し、これによりスピンドル41のZ軸方向の位置を安定させてかじりが生じるおそれを低減することができる。
【0027】
なお、第1の磁石481として電磁石を用いることも可能ではあるが、その場合は電磁石への給電用の配線が回転しないようにするための機構を備える必要があるため、第2の磁石482を電磁石とすることが望ましい。
【0028】
第1の磁石481及び第2の磁石482の双方に永久磁石を用いることもできる。ただし、スピンドル41に装着される加工工具と被加工物との組み合わせによってスピンドル41に作用するスラスト荷重が異なり、圧力センサ444の測定値も異なるため、加工工具と被加工物との組み合わせごとに、保持テーブル2から離反する方向に発生するスラスト荷重を測定しておき、スラスト荷重を軽減させるのに必要な反発力を算出し、加工開始前に、軽減ユニット48において生ずる反発力が算出した反発力になるように、第2の磁石482の位置を調整する。これにより、加工工具と被加工物との組み合わせに対応して軽減ユニット48における反発力を調整することができる。
【0029】
図4に示すスピンドルユニット4は、
図3に示した軽減ユニット48に代えて、軽減ユニット49を備えている。また、
図4においては、
図3の研削装置1に備えた圧力センサ444に相当するものを図示していないが、これに相当するものを備えてもよい。
【0030】
軽減ユニット49は、回転軸411の上端部外周側に配設された吸着部491と、吸着部491を磁力によって引き付ける第3の磁石492とを備えている。吸着部491は、磁石又は磁性体のリングプレートで構成され、エンドカバー47よりも上端側に突出した位置に配設されている。
【0031】
第3の磁石492は、回転軸411の軸方向において吸着部491と対向し、吸着部491よりも保持テーブル2に近い側であり、電磁石で構成され、コイル493及びヨーク494、495に固定されており、ヨーク494はエンドカバー47にネジ止めされている。吸着部491と第3の磁石492とは、Z軸方向、すなわち回転軸411の軸方向に、ヨーク495を介して対面した状態となっている。コイル493に電流を流すことにより吸着部491が第3の磁石492に引きつけられ、これにより、被加工物100の加工中に、回転軸411に対して保持テーブル2から離反する方向にかかるスラスト荷重を軽減することができる。スピンドルユニット4が圧力センサを備える場合は、圧力センサの測定値に応じて第3の磁石492に供給する電流を調整することにより、圧力センサの測定値が許容値の範囲内となるように制御し、これによりスピンドル41のZ軸方向の位置を安定させることができる。
【0032】
なお、吸着部491を電磁石とすることも可能ではあるが、その場合は給電用の配線が回転しないようにするための機構を備える必要があるため、第3の磁石492を電磁石とすることが望ましい。また、吸着部491だけでなく、第3の磁石を永久磁石とすることもできる。
【0033】
また、第3の磁石492の位置は、吸着部491との間で吸引力が生じる位置であればよいため、吸着部491よりも保持テーブル2に近い位置であればよく、エンドカバー47の内周側には限られない。
【0034】
図5に示すスピンドルユニット4は、
図4に示すスピンドルユニット4と同様に構成されるが、スピンドルユニット4のハウジング45の下部と、スピンドルユニット4を下から支持する支持部材70との間に圧力センサ71を備えている。この場合も、圧力センサ71の測定値に応じて第3の磁石の磁力を制御することにより、スピンドル41の位置を安定させることができる。
【0035】
なお、軽減ユニットを構成する2つの磁石の配設位置は、片方がスピンドル41側、他方がハウジング45、ウォータージャケット46又はエンドカバー47側のいずれかであればよく、
図3~
図5に示した位置には限定されない。
また本実施形態は、エアベアリングを用いて説明したが、ベアリングの種類はエアに限定されない。
【符号の説明】
【0036】
1:研削装置 10:研磨装置
2:保持テーブル 20:回転軸
3:加工機構
4:スピンドルユニット
40:軸心
41:スピンドル 411:回転軸 412:第1大径部 413:第2大径部
414:被支持軸 415:研削液流路
42:モータ 421:ロータ 422:ステータコイル
43:フランジ
44:エアベアリング 441:第1スラストベアリング
442:第2スラストベアリング 443:ラジアルベアリング 444:圧力センサ
45:ハウジング 451:エア流路 452:エア流入部 453:エア排出部
46:ウォータージャケット 47:エンドカバー
48:軽減ユニット 481:第1の磁石 482:第2の磁石
483:イモネジ 484:隙間 485:カバー
49:軽減ユニット 491:吸着部 492:第3の磁石 493:コイル
494、495:ヨーク
5:研削ホイール 51:基台 52:研削砥石
6:研磨ホイール 61:基台 62:研磨パッド
7:加工送りユニット 70:支持部材 71:圧力センサ
100:被加工物