(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182462
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】箔糸用金属材および箔糸ならびに箔糸を用いて形成される撚糸および布
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20221201BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20221201BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C22C21/02
C22C21/06
C22C21/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090033
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 夏歩
(72)【発明者】
【氏名】金子 洋
(72)【発明者】
【氏名】荻原 吉章
(72)【発明者】
【氏名】藤原 英道
(57)【要約】
【課題】芯材、特に比較的小さな外径(例えば1.0mm以下)を有する芯材に対して巻き付けた場合における曲げ割れを防止もしくは抑制することのできる箔糸用金属材および箔糸ならびに箔糸を用いて形成される撚糸および布を提供すること。
【解決手段】糸状の芯材2に対してスパイラル状に巻き付けられて箔糸3を構成するリボン形状を有する金属材1であって、金属材1は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなり、金属材1の幅方向断面が略長方形状をなし、かつ、金属材1の幅方向断面で見て、幅方向中央部4の厚さt1が、幅方向端部5の厚さt2に対して、1.05倍以上1.20倍以下であり、引張強度が270MPa以上750MPa以下である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状の芯材に対してスパイラル状に巻き付けられて箔糸を構成するリボン形状を有する箔糸用金属材であって、
前記金属材は、
アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなり、
前記金属材の幅方向断面が略長方形状をなし、かつ、
前記金属材の幅方向断面で見て、幅方向中央部の厚さが、幅方向端部の厚さに対して、1.05倍以上1.20倍以下であり、
引張強度が270MPa以上750MPa以下であることを特徴とする箔糸用金属材。
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、マグネシウムが0.10質量%以上1.80質量%以下、ケイ素が0.20質量%以上2.10質量%以下、鉄が0.01質量%以上2.00質量%以下を含有し、残部がアルミニウムおよび不可避不純物からなる合金組成を有する請求項1に記載の箔糸用金属材。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、マグネシウムが0.10質量%以上1.80質量%以下、ケイ素が0.20質量%以上2.10質量%以下、鉄が0.01質量%以上2.00質量%以下を含有し、さらに、チタン、ホウ素、銅、銀、亜鉛、ニッケル、コバルト、金、マンガン、クロム、バナジウム、ジルコニウムおよびスズからなる群から選択される少なくとも1種の成分を合計で0.02質量%以上2.00量%以下含有し、残部がアルミニウムおよび不可避不純物からなる合金組成を有する請求項1に記載の箔糸用金属材。
【請求項4】
前記金属材は、
平均厚さが、0.005mm以上0.500mm以下、
平均幅が、0.10mm以上2.00mm以下、かつ、
前記幅方向断面で測定したときの断面積が、0.80mm2以下である請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の箔糸用金属材。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の箔糸用金属材を、前記芯材に対してスパイラル状に巻き付けて構成される箔糸。
【請求項6】
前記金属材の幅(W)は、前記芯材の外径(D)に対する比(W/D)が、0.5超え5.0未満である請求項5に記載の箔糸。
【請求項7】
少なくとも2本以上の請求項6に記載の箔糸を撚り合わせて形成される撚糸。
【請求項8】
複数本の請求項6に記載の箔糸を組み合わせて形成される布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、箔糸用金属材に関し、特に、高強度のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるリボン形状を有する箔糸用金属材および箔糸ならびに箔糸を用いて形成される撚糸および布に関する。
【背景技術】
【0002】
箔糸は、リボン形状の金属箔と芯材とを有しており、芯材にリボン形状の金属箔をスパイラル状に巻き付けて構成される。そのため、箔糸は、同じ外径の金属線材と比較して、高疲労寿命化できると共に、使用する金属量を低減して軽量化できるなどの利点を有している。
【0003】
箔糸は、上述した利点を有しているため、例えば、特許文献1には、音響スピーカー用のリード線(錦糸線)として、芯材に銅箔を巻き付けて構成した箔糸を用いることが記載されている。また、箔糸は、同じ外径の金属線材と比較して、軽量であることや、屈曲疲労寿命に優れていることから、繰り返し折り曲げられる可能性のある用途での使用が提案されている。例えば、特許文献2には、耐屈曲性が要求されるロボット用ケーブルやセンサ用ケーブルなどの用途として、高抗張力繊維糸に銅合金箔テープを巻き付けて構成した箔糸を使用することが記載されている。
【0004】
なお、特許文献3には、芯材に対して複数の導電性繊維を螺旋状に巻き付けて構成した導電糸が記載されており、また、導電性繊維として銅や銅合金、銀、鉄、ステンレスなどの導電性を有する金属繊維を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭53-99479号公報
【特許文献2】実開平5-53045号公報
【特許文献3】特許第5352795号公報
【特許文献4】特許第6430080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、衣類型のヒーターや、衣類あるいは帽子などに装着するカメラなどのいわゆるウェアラブルデバイスでの箔糸の使用が検討されている。しかしながら、このような肌に触れる可能性のあるウェアラブルデバイスでは、金属アレルギーのリスクや、汗との反応による箔糸の変色、軽量化、材料コストなどの点で、箔糸を構成する材料として上述した銅系材料や鉄系材料などの使用は好ましくない。
【0007】
そこで、上述した銅系材料や鉄系材料などに替えて、アルミニウムやアルミニウム合金などによって箔糸を構成することができれば、上述した金属アレルギーのリスクや変色、軽量化、材料コストなどの問題を解決できる可能性がある。しかしながら、公知の箔糸は、特許文献1乃至3に記載されているように、銅系材料や鉄系材料などを用いて形成されており、アルミニウムやアルミニウム合金などから成る金属箔を、芯材にスパイラル状に巻き付けて構成される箔糸については、現状では存在しない。
【0008】
また、本出願人は、特許文献4に、アルミニウム合金の組成を最適化し、また、ビッカース硬さを所定範囲内にすることによって、従来になく強度を増大させたリボン形状を有するアルミニウム合金材を提案した。しかしながら、特許文献4には、線径の小さい繊維にリボン形状を有するアルミニウム合金材を巻き付けて構成される箔糸については記載されておらず、特に、線径の小さい芯材に対してリボン形状を有するアルミニウム合金材を巻き付けるときの曲げ割れや線破断などについて、何ら考慮していない。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、芯材、特に比較的小さな外径(例えば0.1mm以下)を有する芯材に対して巻き付けた場合における曲げ割れを防止もしくは抑制することのできる箔糸用金属材および箔糸ならびに箔糸を用いて形成される撚糸および布を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、箔糸用金属材を、銅および銅合金と同程度以上の引張強度を有するアルミニウムもしくはアルミニウム合金によって構成し、その箔糸用金属材の幅方向断面で見て、幅方向中央部分の厚さを、幅方向端部の厚さに対して所定範囲内に設定することによって、特に比較的小さな外径(例えば0.1mm以下)を有する芯材に対して箔糸用金属材をスパイラル状に巻き付けて箔糸を形成した場合であっても、曲げ割れを有効に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)糸状の芯材に対してスパイラル状に巻き付けられて箔糸を構成するリボン形状を有する箔糸用金属材であって、前記金属材は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなり、前記金属材の幅方向断面が略長方形状をなし、かつ、前記金属材の幅方向断面で見て、幅方向中央部の厚さが、幅方向端部の厚さに対して、1.05倍以上1.20倍以下であり、引張強度が270MPa以上750MPa以下であることを特徴とする箔糸用金属材である。
【0012】
(2)前記アルミニウム合金は、マグネシウムが0.10質量%以上1.80質量%以下、ケイ素が0.20質量%以上2.10質量%以下、鉄が0.01質量%以上2.00質量%以下を含有し、残部がアルミニウムおよび不可避不純物からなる合金組成を有する上記の(1)に記載の箔糸用金属材である。
【0013】
(3)前記アルミニウム合金は、マグネシウムが0.10質量%以上1.80質量%以下、ケイ素が0.20質量%以上2.10質量%以下、鉄が0.01質量%以上2.00質量%以下を含有し、さらに、チタン、ホウ素、銅、銀、亜鉛、ニッケル、コバルト、金、マンガン、クロム、バナジウム、ジルコニウムおよびスズからなる群から選択される少なくとも1種の成分を合計で0.02質量%以上2.00量%以下含有し、残部がアルミニウムおよび不可避不純物からなる合金組成を有する上記の(1)に記載の箔糸用金属材である。
【0014】
(4)前記金属材は、平均厚さが、0.005mm以上0.500mm以下、平均幅が、0.10mm以上2.0mm以下、かつ、前記幅方向断面で測定したときの断面積が、0.80mm2以下である上記の(1)ないし(3)のいずれか一項に記載の箔糸用金属材である。
【0015】
(5)上記の(1)ないし(4)のいずれか一項に記載の箔糸用金属材を、前記芯材に対してスパイラル状に巻き付けて構成される箔糸である。
【0016】
(6)前記金属材の幅(W)は、前記芯材の外径(D)に対する比(W/D)が、0.5超え5.0未満である上記の(5)に記載の箔糸用金属材である。
【0017】
(7)少なくとも2本以上の上記の(6)に記載の箔糸を撚り合わせて形成される撚糸である。
【0018】
(8)複数本の上記の(6)に記載の箔糸を組み合わせて形成される布である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、芯材、特に比較的小さな外径(例えば0.1mm以下)を有する芯材に対して巻き付けた場合における曲げ割れを防止もしくは抑制することのできる箔糸用金属材および箔糸ならびに箔糸を用いて形成される撚糸および布の提供が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る箔糸用金属材の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る箔糸を構成する糸状の芯材の一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る箔糸の一例を示す図である。
【
図4】箔糸用金属材の幅方向断面を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態に係る箔糸用金属材およびこれを用いた箔糸について、以下で説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る箔糸用金属材の一例を示す図であり、
図2は、本発明の実施形態における箔糸を構成する糸状の芯材の一例を示す図であり、
図3は、本発明の実施形態に係る箔糸の一例を示す図であり、
図4は、箔糸用金属材の幅方向断面を拡大して示す図である。
【0023】
[箔糸用金属材]
箔糸用金属材(以下、単に「金属材」と記載する。)1は、
図1に示すリボン形状を有し、
図2に示す糸状の芯材2に対してスパイラル状に巻き付けられて、箔糸3を構成する。ここで、「リボン形状」とは、扁平な糸状やテープ形状、帯形状などを意味する。より具体的には、金属材1の幅方向断面が、
図4に示すように、略長方形状を成している。そして、金属材1は、その幅方向断面で見て、幅方向中央部(以下、単に「中央部」と記載する場合がある。)4の厚さt1は、幅方向端部(以下、単に「端部」と記載する場合がある。)5の厚さt2に対して1.05倍以上1.20倍以下になるように設定されている。また、
図4に示す金属材1は、厚さtが、中央部4から両端部5に向かって次第に薄くなるように形成されている。
【0024】
上記の略長方形状とは、一例として四隅を滑らかに湾曲させかつ互いに滑らかに接続させた長方形状や扁平な楕円形状、扁平な長円形状などを含む。
図4に示す実施形態の金属材1では、その幅方向の両端に位置する端面が凸状の曲面を成している場合を示している。なお、金属材1の幅方向とは、
図4に示すように、略長方形状を成す金属材1の長辺が延在する方向(
図4での左右方向)を意味しており、厚さとは、略長方形状を成す金属材1の短辺が延在する方向(
図4での上下方向)の長さを意味している。
【0025】
さらに、金属材1の幅方向中央部4とは、
図4に示す金属材1の幅方向断面において、金属材1の幅W、つまり凸曲面を成す両端面の頂点を結んだ線分の中点位置を中心とする部分を意味する。また、金属材1の幅方向端部5とは、金属材1の幅方向断面において、幅方向中央部4から前記頂点までの長さを測定した場合において、幅方向中央部4から前記頂点までの長さの95%の長さに相当する位置を中心とする部分を意味している。金属材1の幅方向端部5は、芯材2に対して、
図3に示すように、金属材1をスパイラル状に巻き付けて箔糸3を形成した場合に、芯材2に対して金属材1が接触する部分のうち、前記幅方向で最も外側に位置する部分を意味している。なお、金属材の幅方向端部5は実験などにより予め求めることができる。
【0026】
そして、本発明の実施形態では、端部5の厚さt2に対する中央部4の厚さt1の比(t1/t2比)が、上述したように1.05倍以上1.20倍以下になるように設定されている。前記t1/t2比が1.05未満であると、芯材2に対して
図3に示すように金属材1をスパイラル状に巻き付けたときに、薄く圧延する際に発生したせん断帯を起点に破断しやすくなるため、線破断が生じやすくなる。前記t1/t2比が1.20倍を超えると、中央部が厚くなることで、曲げ径が同じ場合曲げ条件が厳しくなるため、せん断帯が生じやすくなって、せん断体が発生した部分から曲げ割れが発生しやすくなる。このため、本発明では、端部5の厚さt2に対する中央部4の厚さt1の比(t1/t2比)は、1.05倍以上1.20倍以下になるように設定した。なお、線破断とは、金属材1がその引張強度を超えて引き延ばされて破断することを意味する。また、せん断帯とは、曲げや圧延など、金属に局所的なひずみが加わった際に、箔の長手方向に対し35度前後傾いた薄い板状の組織である。これは、曲げや圧延などの、変形箇所に制約のある局所的な変形により、当該箇所に大きなせん断ひずみを受けることにより発生している。長期で使用した場合には疲労などによって、このせん断帯の形成が進むと、せん断帯が形成された位置の近傍に多くのせん断帯が形成され、当該箇所より曲げ割れや破断に繋がる。
【0027】
また、金属材1の幅Wは、金属材1を巻き付ける芯材2の外径Dに対する比(W/D比)が0.5を超え5.0未満となるように設定することが好ましい。すなわち、W/D比が0.5以下の場合は、金属材1の幅Wが相対的に狭くなるか、あるいは、芯材2の外径が相対的に太くなる。そのため、芯材2の単位長さ当たりに巻き付けられる金属材1の巻き付け量あるいは撚り込み率が高くなることによって、通電した場合の抵抗の上昇や、単位長さ当たりの箔糸3の重量増加、屈曲やねじれによる金属材1の巻きほどけに起因する金属材1の破断の懸念がある。最悪の場合、通電用途でショートする可能性がある。また、材料コストが増大する可能性がある。
【0028】
一方、W/D比が5.0以上の場合は、金属材1の幅Wが相対的に広くなるか、あるいは、芯材2の外径が相対的に細くなる。そのため、金属材1を芯材2に巻き付けた際の曲げ径が小さくなって、箔糸3への加工あるいは製造段階で曲げ割れが生じる可能性がある。また、箔糸3を屈曲させた時の曲げ径が小さいと、金属材の隙間6から露出している芯材2の部分だけでなく、芯材2に巻き付けた金属材1の部分も一緒に曲げられる場合があり、この場合には、金属材1で曲げ割れや破断が生じる可能性がある。したがって、W/D比は、0.5を超え5.0未満となるように設定することが好ましい。
【0029】
金属材1の材質は、例えば(純)アルミニウムもしくはアルミニウム合金によって構成することができ、その引張強度は270MPa以上750MPa以下であることが必要である。すなわち、金属材1を、例えば図示しないボビンあるいはロールに巻き取るときには、巻きほぐれが生じないようにするために、所定の張力を金属材1に生じさせた状態で巻き取る。したがって、巻き取り時に金属材1が破断しないようにするために、上記の引張強度が270MPa以上であることが必要である。また、引張強度が750MPa超えると、ボビンあるいはロールに巻き取るときに、いわゆる巻きほぐれが生じて巻き取りにくくなるからである。
【0030】
純アルミニウムとしては、99質量%以上のアルミニウムを含有する1000系アルミニウムを挙げることができる。また、アルミニウム合金としては、断線や割れなどの加工欠陥が起こらないように、所望の細径までの伸線加工や圧延加工を実施するためには、母相やアルミニウム合金が、それらの加工時の変形に耐えうる構造である必要がある。これを踏まえて本発明の実施形態では、アルミニウム合金としては、6000系アルミニウム合金や8000系アルミニウム合金などが好ましく、強度や加工性の点で、それらのアルミニウム合金のうち、6000系アルミニウムがより好ましい。
【0031】
[アルミニウム合金の組成]
金属材1を構成するアルミニウム合金の組成について具体的に説明すると、クラスタや金属間化合物、析出物の組成から、添加元素の比率を調整する必要がある。これを踏まえて、金属材1を構成するアルミニウム合金材は、マグネシウムが0.10質量%以上1.80質量%以下、ケイ素が0.20質量%以上2.10質量%以下、鉄が0.01質量%以上2.00質量%以下を含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物からなる合金組成を有していることが好ましい。なお、以下の説明では、上述した各元素のそれぞれを、元素記号で記す。
【0032】
<マグネシウム:0.10質量%以上1.80質量%以下>
Mg(マグネシウム)は、アルミニウム母材中に固溶して強化する作用を有するとともに、Siとの相乗効果によって引張強度を向上させる作用を持つ。しかしながら、Mg含有量が0.10質量%未満だと、上記作用効果が不十分であり、また、Mg含有量が1.80質量%を超えると、晶出物が形成され、加工性(伸線加工性や曲げ加工性等)が低下する。したがって、Mg含有量は0.10~1.80質量%とし、好ましくは0.40~1.40質量%である。
【0033】
<ケイ素:0.20質量%以上2.10質量%以下>
Si(ケイ素)は、アルミニウム母材中に固溶して強化する作用を有するとともに、Mgとの相乗効果によって引張強度や耐屈曲疲労特性を向上させる作用を持つ。しかしながら、Si含有量が0.20質量%未満だと、上記作用効果が不十分であり、また、Si含有量が2.10質量%を超えると、晶出物が形成され、加工性が低下する。したがって、Si含有量は0.20~2.10質量%とし、好ましくは0.40~1.40質量%である。
【0034】
<鉄:0.01質量%以上2.00質量%以下>
Fe(鉄)は、主にAl-Fe系の金属間化合物を形成することによって結晶粒の微細化に寄与するとともに、引張強度を向上させる元素である。ここで、金属間化合物とは2種類以上の金属によって構成される化合物をいう。Feは、Al中に655℃で0.05質量%しか固溶できず、室温では更に少ないため、Al中に固溶できない残りのFeは、Al-Fe系、Al-Fe-Si系、Al-Fe-Si-Mg系等の金属間化合物として晶出または析出する。これらのようにFeとAlとで主に構成される金属間化合物を本明細書ではFe系化合物と呼ぶ。この金属間化合物は、結晶粒の微細化に寄与するとともに、引張強度を向上させる。Fe含有量が0.01質量%未満だと、これらの作用効果が不十分であり、また、Fe含有量が2.00質量%を超えると、晶出物が多くなり、加工性が低下する。ここで、晶出物とは、合金の鋳造凝固時に生ずる金属間化合物をいう。したがって、Fe含有量は0.01~2.00質量%とし、好ましくは0.05~0.28質量%であり、より好ましくは0.05~0.23質量%である。なお、鋳造時の冷却速度が遅い場合は、Fe系化合物の分散が疎となり、悪影響度が高まる。
【0035】
また、金属材1を構成するアルミニウム合金材は、マグネシウムが0.10質量%以上1.80質量%以下、ケイ素が0.20質量%以上2.10質量%以下、鉄が0.01質量%以上2.00質量%以下を含有し、さらに、チタン、ホウ素、銅、銀、亜鉛、ニッケル、コバルト、金、マンガン、クロム、バナジウム、ジルコニウムおよびスズからなる群から選択される少なくとも1種の成分を合計で0.02質量%以上2.00量%以下含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物からなる合金組成を有していることが好ましい。
【0036】
<希土類元素、チタン、ホウ素、銅、銀、亜鉛、ニッケル、コバルト、金、マンガン、クロム、バナジウム、ジルコニウムおよびスズからなる群から選択される少なくとも1種の成分:合計で0.02質量%以上2.00量%以下>
RE(希土類元素)、Cu(銅)、Ag(銀)、Zn(亜鉛)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Au(金)、Mn(マンガン)、Cr(クロム)、V(バナジウム)、Zr(ジルコニウム)、Sn(スズ)、Ti(チタン)、B(ホウ素)はいずれも、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに強度や耐熱性を向上させる元素であり、任意添加成分として、必要に応じて適宜添加することができる。これらの成分が、耐熱性を向上させるメカニズムとしては、例えば上記成分の原子半径と、アルミニウムの原子半径との差が大きいために結晶粒界のエネルギーを低下させる機構や、上記成分の拡散係数が大きいために粒界に入り込んだ場合に粒界の移動度を低下させる機構、空孔との相互作用が大きく空孔をトラップするために拡散現象を遅延させる機構等が挙げられ、これらの機構が相乗的に作用しているものと考えられる。なお、REは、希土類元素を意味し、ランタン、セリウム、イットリウムなどの17種類の元素が含まれ、これらの17種類の元素は同等の効果を有し、化学的に単元素の抽出が難しいため、本発明では総量として規定する。
【0037】
RE、B、Cu、Ag、Zn、Ni、Ti、Co、Au、Mn、Cr、V、Zr、Snはいずれも、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、これらの任意添加成分の含有量の合計を0.02質量%以上とすることが好ましい。しかし、これらの成分の含有量の合計が、2.00質量%超だと、加工性が低下するおそれがある。したがって、RE、Cu、Ag、Zn、Ni、Co、Au、Mn、Cr、V、Zr、Sn、TiおよびBからなる群から選択される1種以上を含有する場合には、それらの含有量の合計は、2.00質量%以下とし、好ましくは0.06~2.00質量%、より好ましくは0.30~1.20質量%である。これらの成分は、1種のみが単独で含まれていてもよいし、2種以上の組み合わせで含まれていてもよい。特に、腐食環境で使用される場合の耐食性を配慮するとZn、Ni、Co、Mn、Cr、V、Zr、Sn、TiおよびBから選択される1種以上を含有することが好ましい。
【0038】
<Ti:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Tiは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性と、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用を有する元素である。鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、耐熱性を向上させる作用を十分に発揮させるには、Tiの含有量を0.005質量%以上とすることが好ましい。これに加えて、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用も十分に発揮させるには、Tiの含有量を0.06質量%以上とすることがより好ましく、0.30質量%以上とすることがさらに好ましい。他方で、Tiの含有量を2.000質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Tiの含有量は、好ましくは2.000質量%以下、より好ましくは1.500質量%以下、さらに好ましくは1.200質量%以下とする。なお、Tiは、任意添加元素成分であるので、Tiを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、Ti含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0039】
<B:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Bは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性と、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用を有する元素である。鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、耐熱性を向上させる作用を十分に発揮させるには、Bの含有量を0.005質量%以上とすることが好ましい。これに加えて、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用も十分に発揮させるには、Bの含有量を0.06質量%以上とすることがより好ましく、0.30質量%以上とすることがさらに好ましい。他方で、Bの含有量を2.000質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Bの含有量は、好ましくは2.000質量%以下、より好ましくは1.500質量%以下、さらに好ましくは1.200質量%以下とする。なお、Bは、任意添加元素成分であるので、Bを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、B含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0040】
<Cu:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Cuは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性を向上させる作用を有する元素である。このような作用を十分に発揮させるには、Cuの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましい。他方で、Cuの含有量を2.00質量%超とすると、加工性が低下するとともに、耐腐食性が低下する。したがって、Cuの含有量は、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.20質量%以下とする。なお、Cuは、任意添加元素成分であるので、Cuを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、Cu含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0041】
<Ag:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Agは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性を向上させる作用を有する元素である。このような作用を十分に発揮させるには、Agの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましい。他方で、Agの含有量を2.00質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Agの含有量は、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.20質量%以下とする。なお、Agは、任意添加元素成分であるので、Agを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、Ag含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0042】
<Zn:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Znは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性と、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用を有する元素である。このような作用を十分に発揮させるには、Znの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましい。他方で、Znの含有量を2.00質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Znの含有量は、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.20質量%以下とする。なお、Znは、任意添加元素成分であるので、Znを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、Zn含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0043】
<Ni:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Niは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性と、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用を有する元素である。このような作用を十分に発揮させる観点から、Niの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましい。他方で、Niの含有量を2.00質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Niの含有量は、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.20質量%以下とする。なお、Niは、任意添加元素成分であるので、Niを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、Ni含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0044】
<Co:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Coは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性と、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用を有する元素である。このような作用を十分に発揮させるには、Coの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましい。他方で、Coの含有量を2.00質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Coの含有量は、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.20質量%以下とする。なお、Coは、任意添加元素成分であるので、Coを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、Co含有量の下限値は0.00質量%する。
【0045】
<Au:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Auは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性を向上させる作用を有する元素である。このような作用を十分に発揮させるには、Auの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましい。他方で、Auの含有量を2.00質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Auの含有量は、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.20質量%以下とする。なお、Auは、任意添加元素成分であるので、Auを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、Au含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0046】
<Mn:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Mnは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性と、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用を有する元素である。このような作用を十分に発揮させるには、Mnの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましい。他方で、Mnの含有量を2.00質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Mnの含有量は、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.20質量%以下とする。なお、Mnは、任意添加元素成分であるので、Mnを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、Mn含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0047】
<Cr:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Crは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性と、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用を有する元素である。このような作用を十分に発揮させるには、Crの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましい。他方で、Crの含有量を2.00質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Crの含有量は、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.20質量%以下とする。なお、Crは、任意添加元素成分であるので、Crを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、Cr含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0048】
<V:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Vは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性と、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用を有する元素である。このような作用を十分に発揮させるには、Vの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましい。他方で、Vの含有量を2.00質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Vの含有量は、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.20質量%以下とする。なお、Vは、任意添加元素成分であるので、Vを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、V含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0049】
<Zr:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Zrは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性と、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用を有する元素である。このような作用を十分に発揮させるには、Zrの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましい。他方で、Zrの含有量を2.00質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Zrの含有量は、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.20質量%以下とする。なお、Zrは、任意添加元素成分であるので、Zrを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、Zr含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0050】
<Sn:0.00質量%以上2.00質量%以下>
Snは、鋳造時の結晶粒を微細化させ、また、特定空隙の数を低減させ、さらに、耐熱性と、腐食環境で使用される場合の耐食性を向上させる作用を有する元素である。このような作用を十分に発揮させるには、Snの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましい。他方で、Snの含有量を2.00質量%超とすると、加工性が低下する。したがって、Snの含有量は、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.20質量%以下とする。なお、Snは、任意添加元素成分であるので、Snを添加しない場合には、不純物レベルの含有も考慮して、Sn含有量の下限値は0.00質量%とする。
【0051】
<残部:アルミニウムおよび不可避不純物>
上述した成分以外の残部は、Alおよび不可避不純物である。ここでいう不可避不純物は、製造工程上、不可避的に含まれ得る含有レベルの不純物を意味する。不可避不純物は、その含有量によってはアルミニウム合金の導電率を低下させる要因にもなり得る。そのため、不可避不純物によるアルミニウム合金の導電率の低下を考慮して不可避不純物の含有量をある程度抑制することが好ましい。不可避不純物としては、例えば、Bi(ビスマス)、Pb(鉛)、Ga(ガリウム)、Sr(ストロンチウム)などを挙げることができる。なお、これらの各元素の含有量は、上記元素毎に0.05質量%以下、上記各元素の総量で0.15質量%以下であることが好ましい。
【0052】
また、本実施形態の金属材1は、芯材、特に比較的小さな外径(例えば1.0mm以下)を有する芯材2に対してスパイラル状に巻き付けて箔糸3を形成するために使用される金属材1である。このため、金属材1は、平均厚さが、0.005mm以上0.500mm以下、平均幅が、0.10mm以上2.00mm以下、かつ、前記幅方向断面で測定したときの断面積が、0.80mm2以下であることが好ましい。
【0053】
本発明の実施形態の箔糸3は、外径が例えば1.0mm以下と細い外径を有する場合を想定しているため、箔糸3の寸法に対する金属材1の影響を最小限に留め、かつ、金属材1の屈曲特性つまり巻き付けやすさを確保する必要がある。これらを踏まえて、本発明の実施形態では、金属材1の前記断面積が0.8mm2以下とすることが好ましい。また、金属材1の前記断面積の下限値は、特に限定はしないが、箔糸製造の際に、破断することなく巻き取れることを考慮して0.001mm2以上に設定されている。
【0054】
また、本実施形態の金属材1は、箔糸3を構成するのに用いる金属材として開発されたものであるため、繊維を主とした芯材に巻き付けられることが必要である。特許文献4に記載のアルミニウム合金材は、本実施形態の金属材1よりも幅や厚みが大きいが、市販の繊維を含む樹脂製の芯材への巻き付けのためには、芯材の径を想定して箔の幅や厚みを規定する必要がある。本実施形態の金属材1は、上記した外径の小さい箔糸3を構成することを想定して開発したものであって、金属材1の厚さtや幅Wの範囲を規定している。具体的には、金属材1の平均厚さtは、0.005mm以上0.500mm以下であることが好ましく、0.005mm以上0.250mm以下であることがより好ましい。また、平均幅Wが0.10mm以上2.00mm以下であることが好ましく、0.10mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。なお、金属材1の幅W、厚さtおよび断面積などは金属材1の断面を例えば光学顕微鏡や電子顕微鏡などによって撮影し、その撮影した画像に基づいて算出することができる。
【0055】
金属材1の両端部は凸曲面を成しているので、金属材1における長手方向に2.00mm間隔で5箇所について幅Wや厚さtを測定し、それらの算術平均値を上記の幅Wや厚さtとして記載してある。具体的には、「平均厚さ」」とは、中央部4の厚さt1と両端部5の各厚さt2とを合算し、その合計値をそれらの数で除算して算術平均値を求め、さらに長手方向5箇所の平均値を意味する。また、「平均幅」とは、幅Wの長手方向5箇所の平均値を意味する。
【0056】
本実施形態の金属材1は、幅方向端部5の厚さt2に対する幅方向中央部4の厚さt1の比(t1/t2比)が、1.05以上1.20以下の範囲内になるように設定されている。なお、上記の平均幅Wが0.10mm未満の場合は、単位長さ当たりの芯材2に対する金属材1の巻き付け量が多くなって、単位長さ当たりの箔糸3の重量や材料コストが増大する可能性があり、一方、平均幅Wが2.00mmよりも広い場合は、箔糸3を屈曲させた場合に、芯材2に巻き付けた金属材1において曲げが生じやすくなり、金属材1にいわゆる曲げ割れが生じる可能性がある。
【0057】
さらに、本発明の実施形態に係る金属材1は、ビッカース硬さHVが90以上250以下であることが好ましい。ビッカース硬さは、一般に引張強度とほぼ比例関係にあり、伸線加工時や、芯材2に金属材1を巻き付けて箔糸3を構成する成形工程などでは、金属材1に所定の張力が生じるため、その張力によって破断しないようにするために、ビッカース硬さが90以上であることが好ましい。なお、ビッカース硬さが90とは、銅系材料及び鉄系材料と同等の硬度である。そのため、本発明の実施形態に係る金属材1は、銅系材料及び鉄系材料と同等以上の硬度を有している。なお、金属材1のビッカース硬さは、105以上であることが好ましく、115以上であることがより好ましく、130以上であることが更に好ましく、150以上であることがまた更に好ましく、220以上であることが最も好ましい。また、ビッカース硬さが250を超えると、ボビン等に巻き取るときに、いわゆる巻きほぐれが生じて巻き取りにくくなる可能性があるためである。なお、ビッカース硬さは、JIS Z2244-1:2020に規定の方法に準拠して測定し、引張強度は、JIS Z2241:2011に規定の方法に準拠して測定する。
【0058】
また、金属材1の厚さtに対する芯材2外径Dの比(D/t比)は、1.0より大きい値に設定されている。D/t比が1.0以下であると、芯材2に金属材1を巻き付けたときに、芯材2に金属材1を巻き付けた部分(以下、屈曲部と記す。)での金属材1の曲げ径が小さくなる。そのため、屈曲部で金属材1に生じる歪が大きくなる。その場合、屈曲部において、せん断帯や曲げ割れが生じ、これが破断の起点となる可能性があるので、これを避けるためである。
【0059】
[芯材]
次に、本発明の箔糸3を構成する芯材2について説明する。芯材2は、金属材1が巻き付けられるものであって、その芯材2は、例えば合成樹脂材料によって構成された複数の繊維を束ね、あるいは撚り合わせることによって構成され、いわゆる中実の線状や中空の線状に構成されている。合成樹脂材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂や、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などを挙げることができる。または、ケブラー(登録商標)やザイロン(登録商標)などの高強度繊維や、熱または紫外線などによって硬化あるいは変性する樹脂から成る繊維によって芯材2を構成してもよい。あるいは、糸状あるいは線状の繊維に対して熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などを含浸させて芯材2を構成してもよい。さらに、糸状に成形した半田やフラックスなどであってもよい。芯材2は、要は、金属材1が巻き付けられる糸状あるいは線状に構成されていればよく、芯材2を構成する材料あるいは素材は、特には限定されない。芯材2の外径Dは、例えば、金属材1の平均幅Wが0.10mm以上2.00mm以下に設定される場合には、W/D比が0.5超え5.0未満となるようにするため、0.02mm以上4.0mm以下に設定することが好ましい。
【0060】
[箔糸]
そして、このようにして構成された芯材2に対して、当該芯材2の長さ方向あるいは軸線方向に一定の間隔で隙間6を形成するように、
図3に示すように、スパイラル状に金属材1を巻き付けて箔糸3を構成する。その隙間6は箔糸3に曲げ変形させる外力を箔糸3に加えた場合に、曲げを生じる部分であり、その隙間6の大きさあるいは幅は実験により予め定めることができる。また、これにより芯材2に対する金属材1の巻き付け量を少なくして単位長さあたりの箔糸3の重量を低減すると共に、材料コストを削減することができる。
【0061】
したがって、本発明の実施形態によれば、金属材1を構成するアルミニウムやアルミニウム合金に対する加工の度合いが大きいため、リボン形状を有する金属材1の強度を、銅系材料や鉄系材料などによって構成されたリボン形状を有する箔糸用金属材とほぼ同程度にすることができる。また、上記の金属材1は
図4に示すように、両端部5の厚さt2に対する中央部4の厚さt1の比(t1/t2比)が1.05以上から1.20以下の範囲内にあるため、芯材2にスパイラル状に巻き付けて箔糸3を作製した場合に、芯材2と両端面との接触を抑制することができる。そのため、芯材2に金属材1を巻き付けるときに、両端面に応力が集中することを抑制することができ、これにより金属材1に損傷が生じることを防止もしくは抑制することができる。
【0062】
さらに、上記のW/D比が0.5超え5.0未満であるため、芯材2に対する金属材1の巻き付け量が過度に多くなることを防止もしくは抑制することができる。その結果、単位長さあたりの箔糸3の重量や材料コストの増大を防止もしくは抑制することができる。また、芯材2に金属材1を巻き付けるときに、金属材1のいわゆる曲げ径が過度に小さくなることを防止もしくは抑制することができ、巻き付けの際に金属材1にせん断帯が生じたり、いわゆる曲げ割れが生じたりすることを防止もしくは抑制することができる。さらに、箔糸3を曲げたときには、主として上述した隙間6で曲げが生じるから、芯材2に巻き付けた金属材1で曲げが生じることを防止もしくは抑制することができる。それらの結果、繰り返し外力を加えて曲げ変形させたとしても損傷しにくく、しかも、軽量かつ材料コストを低く抑えた箔糸3を得ることができる。
【0063】
[金属材1の製造方法]
本発明の実施形態に係る金属材1の製造方法について説明する。本発明の実施形態では、純アルミニウムや、上述した合金組成を有するアルミニウム合金によって構成された線状の加工用素材すなわち粗線を用意し、その粗線に対し、伸線加工および圧延加工を行って金属材1を製造する。上記の粗線を構成するアルミニウム合金は上記合金組成を有するものであれば特には限定されない。すなわち、粗線は例えば押出材、鋳塊材、熱間圧延材、冷間圧延材などであってよい。その粗線に対して伸線加工を行って所定太さの細線を形成する。伸線加工は例えば従来知られた引き抜き加工と称される伸線加工や、異形ダイスによる伸線加工などであってよい。なお、本発明の実施形態に係る金属材1の製造方法では、従来、伸線加工の前に行われる時効析出熱処理を行わない。
【0064】
伸線加工の加工度ηは5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、7以上であることが更に好ましい。加工度ηの上限は特に規定されないが、通常は15である。なお、加工度ηは、伸線加工後の粗線の断面積s2に対する伸線加工前の粗線の断面積s1(s1>s2)の比を対数で表したものであり、下記の式(1)で表すことができる。
加工度η(無次元)=ln(s1/s2) ・・・・・(1)
【0065】
また、本発明の実施形態に係る金属材1の製造方法では、伸線加工の加工率Rは、98.2%以上とすることが好ましく、99.8%以上とすることがより好ましい。なお、加工率Rは、上述した各断面積s1,s2に基づいて、下記の式(2)で表すことができる。
加工率R(%)={(s1-s2)/s1}×100 ・・・・・(2)
【0066】
次いで、伸線加工によって形成した細線を上述したリボン形状に加工する圧延加工を行う。その圧延加工は従来知られたロール圧延や、平線圧延やサテライトミル圧延などであってよいが、このときに、端部5の厚さt2に対する中央部4の厚さt1のt1/t2比が上述したように1.05倍以上1.20倍以下となるように圧延加工を行う。端部5の厚さt2に対する中央部4の厚さt1のt1/t2比を1.05倍以上にすることは圧延加工時に裂けなどによる欠陥を防ぐために圧延加工上も好ましい。その中央部4の厚さt1と端部5の厚さt2との差は、例えば、上記の細線を押しつぶす圧延ロールの形状を適宜変更することによって行うことができる。具体的には、圧延ロールのうち、端部5を形成する部分に対して中央部4を形成する部分を窪ませる。あるいは、一対のロール間に上記の細線を通して押し潰すときに、細線の半径方向で、細線の中央部を挟んで両側部分に対して前記中央部よりも圧力を掛ける。こうすることにより、
図1や
図4に示す断面図において、端部5に対して中央部4の板厚が厚い金属材1を構成することができる。
【0067】
また、上述した圧延加工において、幅拡がり率Sは1.4以上6.0以下であることが好ましく、1.7以上5.0以下であることがより好ましく、2.0以上4.0以下であることが更に好ましく、2.3以上3.5以下であることが最も好ましい。なお、幅拡がり率Sは伸線加工後の細線の直径をW1、圧延加工後のリボン形状を有する細線の幅をW2とするとき、下記式(3)で表すことができる。
幅拡がり率S=W2/W1 ・・・・・(3)
【0068】
なお、圧延加工の後に、伸線加工を行ってもよい。要は、金属材1の端部5の厚さt2に対する中央部4の厚さt1のt1/t2比(t1/t2)が上述した範囲にあり、かつ所定の太さあるいは幅のリボン形状を有する細線が得られればよい。さらに、残留応力の解放や伸びの向上を目的として、圧延加工や伸線加工の後に調質焼鈍を行ってもよい。調質焼鈍は処理温度50℃以上160℃以下、保持時間1時間以上48時間以下で行うことが好ましい。処理温度が50℃未満の場合には、残留応力の解放や伸びの向上といった効果が得られにくく、160℃を超えると回復や再結晶によって結晶粒の成長が起き、強度が低下する傾向にある。なお、このような熱処理の諸条件は、不可避不純物の種類や量及び、用いるアルミニウム合金素材の固溶・析出状態によって、適宜調節することができる。
【0069】
本発明の実施形態では、上述したように、粗線に対して高い加工度(度合い)の加工が行われる。その結果、長尺のリボン形状を有する高強度の金属材1を得ることができる。金属材1の長さは、少なくとも10m以上である。製造時の金属材1の長さの上限は特に設けないが、作業性等を考慮し、6000m程度とすることが好ましい。
【0070】
[用途]
本発明の実施形態に係る金属材1や箔糸3は、銅系材料や鉄系材料などによって構成されたリボン形状を有する箔糸用金属材や箔糸とほぼ同程度の強度を有しているので、それらの銅系材料や鉄系材料などによって構成された箔糸用金属材や箔糸に替えて用いることができる。具体的には、例えば、少なくとも2本以上の箔糸3を撚り合わせて構成される撚糸や撚線、あるいは、複数本の箔糸3を組み合わせ、あるいは、編んで構成される布などを挙げることができる。また、衣類型のヒーターや、衣類に装着されるセンサ、カメラなどのウェアラブルデバイスに用いることができる。さらに、本発明の実施形態における箔糸3は電線やケーブルなどの導電部材や、アルミ導体や敷線などの導電材料、シールド材、ウェアラブル製品、モータなどの巻線、線状磁石、筋電義手や筋電義肢、プリプレグ類、錦糸線などに用いることができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0072】
[実施例]
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1ないし実施例6および比較例1ないし比較例6)
表1に示す合金組成を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金の粗線を用意し、これを使用して、上述した伸線加工や圧延加工を行って、表1に示す、t1/t2比、平均厚さt、平均幅W、断面積S、引張強度およびビッカース硬さを有するリボン形状の金属材1を作製した。そして、外径0.06mmのアラミド繊維から成る芯材2に対して、
図3に示すようにスパイラル状に金属材1を巻き付けて箔糸3を作製した。
【0073】
[性能評価方法]
<線破断の有無の評価方法>
箔糸3を作製するときに、金属材1に破断が生じたか否かを観察することによって線破断の有無を評価した。
【0074】
<せん断帯の有無の評価方法>
芯材2に巻き付け金属材1の表面を、光学顕微鏡や電子顕微鏡によって300倍程度の倍率で拡大して観察し、せん断帯の形成の有無を評価した。
【0075】
【0076】
[評価]
表1に示すように、実施例1ないし実施例6では、いずれも箔糸3を構成する金属材1に、線破断や、せん断帯の形成は認められなかった。
【0077】
これに対して、比較例1および2は、引張強度が本発明の適正範囲外であるため、金属材1に線破断が生じていた。
【0078】
比較例3および4は、t1/t2比および引張強度が本発明の適正範囲外であるため、金属材1に線破断が生じていた。
【0079】
比較例5は、t1/t2比が本発明の適正範囲よりも大きい数値だったため、金属材1に線破断が生じているだけではなく、せん断帯の形成も認められた。なお、比較例3は、比較例5と同様、t1/t2比が本発明の適正範囲よりも大きい数値であったが、引張強度が本発明の適正範囲よりも小さく柔らかいために、せん断帯が形成することはなかった。
【0080】
比較例6は、t1/t2比が本発明の適正範囲よりも小さい数値だったため、金属材1に線破断が生じた。
【符号の説明】
【0081】
1 金属材
2 芯材
3 箔糸
4 幅方向中央部
5 幅方向端部
6 隙間