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特開2022-182569セラミックス基複合材の成形方法及びセラミックス基複合材
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  • 特開-セラミックス基複合材の成形方法及びセラミックス基複合材 図1
  • 特開-セラミックス基複合材の成形方法及びセラミックス基複合材 図2
  • 特開-セラミックス基複合材の成形方法及びセラミックス基複合材 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182569
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】セラミックス基複合材の成形方法及びセラミックス基複合材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20221201BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20221201BHJP
   C04B 35/573 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C04B35/80
B32B9/00 A
C04B35/573
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090193
(22)【出願日】2021-05-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人 科学技術振興機構「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第二期 統合型材料開発システムにおけるマテリアル革命/セラミックス基複合材料の航空機エンジン部材化技術の開発」に係る委託研究、 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 浩庸
(72)【発明者】
【氏名】西口 輝一
(72)【発明者】
【氏名】関川 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】福島 明
(72)【発明者】
【氏名】吉川 健
(72)【発明者】
【氏名】江阪 久雄
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA00B
4F100AA00D
4F100AA00E
4F100AB00B
4F100AB00D
4F100AB00E
4F100AD00B
4F100AD00D
4F100AD00E
4F100AD08A
4F100AD08B
4F100AD08C
4F100AD08D
4F100AD08E
4F100AD11B
4F100AD11D
4F100AD11E
4F100AK00A
4F100AK00B
4F100AK00C
4F100AK00D
4F100AK00E
4F100AK53A
4F100AK53C
4F100AK53E
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA08
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100BA26A
4F100BA26B
4F100BA26C
4F100BA26D
4F100BA26E
4F100CA23A
4F100CA23C
4F100CA23E
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100DG01C
4F100DG01D
4F100DG01E
4F100DG12B
4F100DG12D
4F100DG12E
4F100DG15B
4F100DG15D
4F100DG15E
4F100DH00A
4F100DH00C
4F100DH00E
4F100EJ48B
4F100EJ48D
4F100EJ48E
4F100EJ82A
4F100EJ82B
4F100EJ82C
4F100EJ82D
4F100EJ82E
4F100YY00B
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】成形不良の発生を抑制しつつ、好適にセラミックス基複合材を成形する。
【解決手段】溶融金属を含浸させてセラミックス基複合材を成形するセラミックス基複合材の成形方法において、母材樹脂が含浸した強化繊維の層である繊維層を複数積層すると共に、前記繊維層の層間に、前記溶融金属の含浸方向に延在する繊維を含むマトリックス層を配置して積層体を形成するステップと、形成した前記積層体を炭化させることにより、前記積層体の積層方向に直交する面内方向に亘って前記マトリックス層に含浸経路を形成するステップと、前記含浸経路が形成された前記積層体に、前記溶融金属を含浸させるステップと、を実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を含浸させてセラミックス基複合材を成形するセラミックス基複合材の成形方法において、
母材樹脂が含浸した強化繊維の層である繊維層が複数積層されると共に、前記繊維層の層間に、前記溶融金属の含浸方向に延在する繊維を含むマトリックス層が配置された積層体を形成するステップと、
形成した前記積層体を炭化させることにより、前記積層体の積層方向に直交する面内方向に亘って前記マトリックス層に含浸経路を形成するステップと、
前記含浸経路が形成された前記積層体に、前記溶融金属を含浸させるステップと、を実行するセラミックス基複合材の成形方法。
【請求項2】
前記マトリックス層の前記繊維は、不織布、織布、または一方向材となっている請求項1に記載のセラミックス基複合材の成形方法。
【請求項3】
前記マトリックス層の前記繊維の繊維径は、0.5~20μmとなっている請求項1または2に記載のセラミックス基複合材の成形方法。
【請求項4】
前記マトリックス層の前記繊維の繊維径は、1~7μmとなっている請求項3に記載のセラミックス基複合材の成形方法。
【請求項5】
前記マトリックス層の前記繊維の繊維径は、1~5μmとなっている請求項4に記載のセラミックス基複合材の成形方法。
【請求項6】
前記マトリックス層の前記繊維は、目付量が、20g/m以下である請求項1から5のいずれか1項に記載のセラミックス基複合材の成形方法。
【請求項7】
前記マトリックス層の前記繊維は、目付量が、8g/m以下である請求項6に記載のセラミックス基複合材の成形方法。
【請求項8】
前記マトリックス層の前記繊維は、バインダ樹脂を付着させた炭素繊維、バインダ樹脂を付着させた無機繊維、または有機繊維である請求項1から7のいずれか1項に記載のセラミックス基複合材の成形方法。
【請求項9】
前記バインダ樹脂及び前記有機繊維は、前記母材樹脂よりも分解温度が低い樹脂となっている請求項8に記載のセラミックス基複合材の成形方法。
【請求項10】
前記マトリックス層に含浸経路を形成するステップでは、前記積層体を炭化させる前に、前記積層体の前記マトリックス層の前記繊維を溶解させる請求項1から9のいずれか1項に記載のセラミックス基複合材の成形方法。
【請求項11】
セラミックス基強化繊維を含む層である繊維層と、
積層方向に積層された複数の前記繊維層の層間に設けられ、前記繊維層の積層方向に直交する面内方向に亘って形成された含浸経路に溶融金属を含浸させて反応させることにより形成されたマトリックス層と、を備えるセラミックス基複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックス基複合材の成形方法及びセラミックス基複合材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス基複合材の成形方法として、MI(melt-infiltrated)法を用いたセラミックス基複合材の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この製造方法では、樹脂バインダ及び細孔形成剤を含有するマトリックススラリーを、繊維強化材料に含浸させてプリフォームとし、プリフォームを加熱して、樹脂バインダを炭化させると共に細孔形成剤により気孔の形成を促進させることで多孔質プリフォームを形成する。この後、製造方法では、多孔質プリフォームの気孔内に溶融ケイ素を充填することで、炭化ケイ素を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-241327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
母材樹脂となるマトリックススラリーには、炭素、炭化ケイ素等の多量のフィラーを含む場合がある。この場合、特許文献1のように細孔形成剤を用いて多孔質プリフォームを形成しても、フィラーにより溶融ケイ素が含浸する含浸経路が分断されることで、適切な含浸経路を形成することが困難な場合がある。適切な含浸経路が形成されない場合、溶融ケイ素の含浸が途中で止まることによって、未含浸部位が形成され、ボイドまたはクラック等が発生する可能性がある。また、細孔形成剤により大きな気孔が形成される場合、溶融ケイ素が含浸したとしても、炭素と未反応となる未反応ケイ素が発生する可能性がある。これにより、成形されたセラミックス基複合材の強度が低下する可能性がある。
【0005】
そこで、本開示は、成形不良の発生を抑制しつつ、好適にセラミックス基複合材を成形することができるセラミックス基複合材の成形方法及びセラミックス基複合材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のセラミックス基複合材の成形方法は、溶融金属を含浸させてセラミックス基複合材を成形するセラミックス基複合材の成形方法において、母材樹脂が含浸した強化繊維の層である繊維層を複数積層すると共に、前記繊維層の層間に、前記溶融金属の含浸方向に延在する繊維を含むマトリックス層を配置して積層体を形成するステップと、形成した前記積層体を炭化させることにより、前記積層体の積層方向に直交する面内方向に亘って前記マトリックス層に含浸経路を形成するステップと、前記含浸経路が形成された前記積層体に、前記溶融金属を含浸させるステップと、を実行する。
【0007】
本開示のセラミックス基複合材は、セラミックス基強化繊維を含む層である繊維層と、積層方向に積層された複数の前記繊維層の層間に設けられ、前記繊維層の積層方向に直交する面内方向に亘って形成された含浸経路に溶融金属を含浸させて反応させることにより形成されたマトリックス層と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、成形不良の発生を抑制しつつ、好適にセラミックス基複合材を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係るセラミックス基複合材を示す断面図である。
図2図2は、本実施形態に係るセラミックス基複合材の成形方法の一例を示す説明図である。
図3図3は、本実施形態に係るセラミックス基複合材の成形方法の他の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0011】
[実施形態]
図1は、本実施形態に係るセラミックス基複合材を示す断面図である。図2は、本実施形態に係るセラミックス基複合材の成形方法の一例を示す説明図である。図3は、本実施形態に係るセラミックス基複合材の成形方法の一例を示す説明図である。
【0012】
本実施形態に係るセラミックス基複合材の成形方法は、溶融含浸法(MI法)を用いた成形方法となっている。セラミックス基複合材としては、例えば、SiC(炭化ケイ素)複合材であり、具体的には、SiC繊維強化SiC基複合材(SiC/SiC複合材)である。セラミックス基複合材の成形方法の説明に先立ち、図1を参照して、SiC/SiC複合材であるセラミックス基複合材1について説明する。なお、セラミックス基複合材は、SiC/SiC複合材に、特に限定されず、本実施形態の成形方法により成形可能なセラミックス基複合材であれば、何れであってもよい。
【0013】
(セラミックス基複合材)
図1に示すように、セラミックス基複合材1は、セラミックス基強化繊維を含む繊維層5と、積層方向に積層された複数の繊維層5の層間に設けられるマトリックス層6と、を備えている。
【0014】
繊維層5は、繊維が主体の層であり、セラミックス基強化繊維として、SiC繊維が適用されている。繊維層5は、母材樹脂を炭素繊維に含浸させたプリプレグを積層・硬化させ予備成型体とし、予備成型体を炭化させて溶融金属としての溶融ケイ素を含浸させて反応させることにより形成される。プリプレグとしては、例えば、SiC繊維の繊維方向が一方向となる一方向材が用いられ、繊維方向を異ならせながら積層される。母材樹脂は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。また、母材樹脂は、フィラーを含んでおり、フィラーとしては、粉体となる炭素及び粉体となる炭化ケイ素の少なくとも一方が用いられる。このように、母材樹脂は、フィラーを含む熱硬化性樹脂となっている。
【0015】
マトリックス層6は、炭化ケイ素を含む層となっている。マトリックス層6は、後述する繊維11(図2参照)を炭化させることにより含浸経路8が形成され、この含浸経路8に溶融ケイ素を含浸させて反応させることで形成される。マトリックス層6に形成される含浸経路8は、繊維層5の積層方向に直交する面内方向に亘って、溶融ケイ素が充填される空間が連通するように形成されている。そして、この含浸経路8に溶融ケイ素が含浸することで、マトリックス層6は、炭化ケイ素が含浸経路8に沿って形成された層となる。
【0016】
(セラミックス基複合材の成形方法)
次に、図2を参照して、セラミックス基複合材1の成形方法について説明する。セラミックス基複合材1の成形方法では、先ず、予備成型体となる繊維層5とマトリックス層6とが積層された積層体を形成する(ステップS1)。ステップS1では、繊維層5と繊維11を含まないマトリックス層6とが一体化されたプリプレグを複数積層し、プリプレグの層間に、繊維11を配置する。つまり、ステップS1では、プリプレグと繊維11とを交互に繰り返し積層していく。なお、ステップS1においては、プリプレグと繊維11とをさらに一体化したシートとし、複数のシートを繰り返し積層してもよい。この後、ステップS1では、積層したプリプレグを加熱することで、マトリックス層6を溶融させて繊維11と一体化させ、さらに加熱することで、繊維層5とマトリックス層6とを熱硬化させることで、積層体を形成する。このため、積層体の面内方向に亘って延在する繊維11が含まれたマトリックス層6が形成される。マトリックス層6に用いられる繊維11は、バインダ樹脂を付着させた炭素繊維、バインダ樹脂を付着させたSiC繊維などの無機繊維、または有機繊維である。なお、有機繊維にもバインダ樹脂を付着させてもよい。また、マトリックス層6に用いられる繊維11は、不織布、織布、または一方向材となっている。このため、マトリックス層6に用いられる繊維11は、その繊維方向が、積層体の面内方向に沿う方向となる。
【0017】
マトリックス層6を炭化させると、繊維11は、炭素繊維及びSiC繊維の場合、バインダ樹脂が炭化することで、また、有機繊維の場合、繊維自体が炭化することで、繊維方向(面内方向)に沿って含浸経路8が形成されることとなる。このとき、バインダ樹脂及び有機繊維は、繊維層5の母材樹脂よりも分解温度が低い樹脂となっている。例えば、母材樹脂としてエポキシ樹脂が用いられる場合、バインダ樹脂及び有機繊維は、PVC(polyvinyl chloride、ポリ塩化ビニル)、PMMA(Poly Methyl Methacrylate、アクリル)等が用いられる。
【0018】
マトリックス層6の繊維11は、その繊維径が、0.5~20μmとなっており、より好ましくは、繊維径が、1~7μmとなっており、さらに好ましくは、繊維径が、1~5μmとなっている。また、マトリックス層6の繊維11は、目付量が、20g/m以下となっており、好ましくは、目付量が、8g/m以下となっている。
【0019】
続いて、セラミックス基複合材1の成形方法では、形成した積層体を炭化させることにより、積層体の面内方向に亘ってマトリックス層6に含浸経路8を形成する(ステップS2)。ステップS2では、積層体を炭化させることにより、含浸経路8を形成した積層体を、セラミックス基複合材1の前駆体として形成する。ステップS2では、マトリックス層6の繊維11が炭素繊維及びSiC繊維の場合、繊維11に付着したバインダ樹脂が炭化することで、溶融ケイ素が含浸する含浸経路8が形成されると共に、含浸経路8内に炭素が形成される。また、ステップS2では、マトリックス層6の繊維11が有機繊維である場合、繊維11自体が炭化することで、溶融ケイ素が含浸する含浸経路8が形成されると共に、含浸経路8内に炭素が形成される。ステップS2において形成される含浸経路8は、母材樹脂が炭化することにより発生する分解ガスの脱ガス経路としても機能するため、積層体の割れを抑制することが可能となる。
【0020】
この後、セラミックス基複合材1の成形方法では、前駆体となる含浸経路8が形成された積層体に、溶融ケイ素を含浸させる(ステップS3)。ステップS3では、ステップS2において形成された含浸経路8に沿って溶融ケイ素が含浸する。含浸した溶融ケイ素は、含浸経路8内の炭素、炭化した母材樹脂に含まれる炭素、母材樹脂に含有されたフィラーの炭素と反応することで、炭化ケイ素となる。なお、マトリックス層6の繊維11が炭素繊維である場合、溶融ケイ素は、炭素繊維と反応することで、SiC繊維を生成する。そして、ステップS3の実行により、セラミックス基複合材1の成形方法が終了となる。
【0021】
例えば、繊維層5の母材樹脂として、含浸し難い条件となるフィラー入り母材樹脂を適用し、繊維11として、繊維径が7μmとなり、目付量が8g/mとなる炭素繊維の不織布を適用し、この不織布に16重量%分のPVAバインダ樹脂を付着させた場合、形成された含浸経路8に溶融ケイ素が含浸されることを確認している。
【0022】
次に、図3を参照して、セラミックス基複合材1の成形方法の他の一例について説明する。図3の成形方法では、マトリックス層6に含浸経路8を形成するステップS2において、積層体を炭化させる前に、積層体のマトリックス層6の繊維11または繊維11に付着させたバインダ樹脂を溶解させている。つまり、図3の成形方法では、マトリックス層6に用いられる繊維11を溶解させる場合、溶媒によって溶解する繊維が用いられる。また、図3の成形方法では、マトリックス層6に用いられる繊維11が溶解しない場合、繊維11にバインダ樹脂を付着させることが好ましい。なお、図3に示すステップS1及びステップS3は、図2に示すステップS1及びステップS3と同様であるため、説明を省く。
【0023】
ステップS2では、形成した積層体を、溶媒を溜めた液槽15に浸漬させることで、積層体のマトリックス層6の繊維11またはバインダ樹脂を溶解させる(ステップS2a)。なお、溶媒としては、例えば、酸が用いられる。ステップS2aでは、マトリックス層6の繊維11またはバインダ樹脂を溶解させることで、積層体の面内方向に亘ってマトリックス層6に含浸経路8を形成する。そして、ステップS2aでは、繊維11の溶解後、積層体を液槽15から引き上げ、積層体を適宜洗浄する。続いて、ステップS2では、繊維11またはバインダ樹脂が除去された積層体を炭化させることにより、マトリックス層6内に残存する母材樹脂を炭化させる(ステップS2b)。ステップS2bでは、ステップS2aにおいて含浸経路8が形成されていることから、母材樹脂、及び残存する繊維11を炭化させることで、含浸経路8内に炭素を形成する。
【0024】
このように、図3の成形方法においても、ステップS2において、含浸経路8が形成されると共に、含浸経路8内に炭素が形成される。なお、含浸経路8の中空領域(空洞)が大きい場合、ステップS2の炭化工程では、含浸経路8内に炭素が形成され難いものの、その後のステップS3の含浸工程で、含浸経路8の周囲から供給される炭素と、含浸経路8に浸透した溶融ケイ素とが化合することで、炭化ケイ素が形成され、含浸経路8が炭化ケイ素となる。
【0025】
以上のように、実施形態に記載のセラミックス基複合材1の成形方法及びセラミックス基複合材1は、例えば、以下のように把握される。
【0026】
第1の態様に係るセラミックス基複合材1の成形方法は、溶融金属(例えば、溶融ケイ素)を含浸させてセラミックス基複合材1を成形するセラミックス基複合材1の成形方法において、母材樹脂が含浸した強化繊維の層である繊維層5が複数積層されると共に、前記繊維層5の層間に、前記溶融金属の含浸方向に延在する繊維11を含むマトリックス層6が配置された積層体を形成するステップS1と、形成した前記積層体を炭化させることにより、前記積層体の積層方向に直交する面内方向に亘って前記マトリックス層6に含浸経路8を形成するステップS2と、前記含浸経路8が形成された前記積層体に、前記溶融金属を含浸させるステップS3と、を実行する。
【0027】
この構成によれば、マトリックス層6に、溶融金属の含浸方向に延在する繊維11を含ませることで、積層体のマトリックス層6の面内方向に亘って含浸経路8を形成することができる。このため、含浸経路8を分断することなく、適切な含浸経路8を形成できることから、溶融ケイ素を含浸経路8に沿って適切に含浸させることができ、ボイド、クラック及び未反応Siの形成等の成形不良の発生を抑制し、セラミックス基複合材を好適に成形することができる。
【0028】
第2の態様として、前記マトリックス層6の前記繊維11は、不織布、織布、または一方向材となっている。
【0029】
この構成によれば、マトリックス層6の層内に亘って含浸経路8を適切に形成することができる。
【0030】
第3の態様として、前記マトリックス層6の前記繊維11の繊維径は、0.5~20μmとなっている。
【0031】
この構成によれば、溶融金属が含浸し易い含浸経路8を形成することができるため、炭素と溶融金属との反応を効率良く行うことができる。
【0032】
第4の態様として、前記マトリックス層6の前記繊維11の繊維径は、1~7μmとなっている。
【0033】
また、第5の態様として、前記マトリックス層6の前記繊維11の繊維径は、1~5μmとなっている。
【0034】
これらの構成によれば、溶融金属がより含浸し易い含浸経路8を形成することができるため、炭素と溶融金属との反応をより効率良く行うことができる。
【0035】
第6の態様として、前記マトリックス層6の前記繊維11は、目付量が、20g/m以下である。
【0036】
この構成によれば、マトリックス層6における繊維11の配置を均一できる目付量とすることができるため、含浸経路8をマトリックス層6に均一に形成することができる。
【0037】
第7の態様として、前記マトリックス層の前記繊維は、目付量が、8g/m以下である。
【0038】
この構成によれば、マトリックス層6における繊維11の配置をより均一にできる目付量とすることができるため、含浸経路8をマトリックス層6により均一に形成することができる。
【0039】
第8の態様として、前記マトリックス層6の前記繊維11は、バインダ樹脂を付着させた炭素繊維、バインダ樹脂を付着させた無機繊維、または有機繊維である。
【0040】
この構成によれば、繊維11の選択肢を増やしつつ、含浸経路8内に炭素を適切に形成することができる。
【0041】
第9の態様として、前記バインダ樹脂及び前記有機繊維は、前記母材樹脂よりも分解温度が低い樹脂となっている。
【0042】
この構成によれば、積層体の炭化時において、バインダ樹脂及び有機繊維の揮発成分を、母材樹脂よりも先に揮発させることができる。これにより、含浸経路8を母材樹脂の揮発成分が揮発するための流路として用いることができるため、クラックの発生を抑制することができる。
【0043】
第10の態様として、前記マトリックス層6に含浸経路8を形成するステップでは、前記積層体を炭化させる前に、前記積層体の前記マトリックス層6の前記繊維11を溶解させる。
【0044】
この構成によれば、含浸経路8の形成を、繊維11を溶解させることで形成することが可能となる。
【0045】
第11の態様に係るセラミックス基複合材1は、セラミックス基強化繊維を含む層である繊維層5と、積層方向に積層された複数の前記繊維層5の層間に設けられ、前記繊維層5の積層方向に直交する面内方向に亘って形成された含浸経路8に溶融金属を含浸させて反応させることにより形成されたマトリックス層6と、を備える。
【0046】
この構成によれば、含浸経路8に沿って炭化セラミックスを形成することができるため、強度の高いものとすることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 セラミックス基複合材
5 繊維層
6 マトリックス層
8 含浸経路
11 繊維
15 液槽
図1
図2
図3