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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182761
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20221201BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20221201BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221201BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221201BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20221201BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/485
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0566
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090485
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158610
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 新吾
(72)【発明者】
【氏名】植苗 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】秋本 順二
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀明
(72)【発明者】
【氏名】矢野 誠一
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL03
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ15
5H029DJ16
5H029EJ04
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ07
5H050AA02
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050DA03
5H050DA10
5H050EA08
5H050FA16
5H050FA17
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】非水電解液二次電池において、電極の電子伝導性を向上させ、入出力特性を改善する。
【解決手段】非水電解液二次電池は、リチウムを含む遷移金属複合酸化物を活物質とする正極と、負極と、非水電解液とを備えている。その負極は、一般式としてHTi1225で表せるチタン酸化物の粒子であるチタン酸化物粒子と、バインダーと、チタン酸化物に対して0.3wt%以上5.0wt%以下のシングルカーボンナノチューブとを含む。そのチタン酸化物粒子の二次粒子径D50が1μm以上15μm以下であり、且つ二次粒子径D90が50μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを含む遷移金属複合酸化物を活物質とする正極と、
負極と、
非水電解液と
を備え、
前記負極は、
一般式としてHTi1225で表せるチタン酸化物の粒子であるチタン酸化物粒子と、
バインダーと、
前記チタン酸化物に対して0.3wt%以上5.0wt%以下のシングルカーボンナノチューブと
を含み、
前記チタン酸化物粒子の二次粒子径D50が1μm以上15μm以下であり且つ二次粒子径D90が50μm以下である、非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記チタン酸化物粒子は、比表面積が15m/g以上150m/g以下である、
請求項1記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、パーソナルコンピューター及び携帯電話等のポータブル機器に普及している。近年では、電気自動車(以下、EVと略して記載する場合がある)、産業用ロボット、メガーソーラー及び家庭で用いられる定置型電源等に向けて大型電池が開発され、今後も更に市場が拡がることが予想される。このような新しい市場特にEVでリチウムイオン二次電池に要求される特性は、高容量化である。しかし、現時点における従来のLi遷移金属複合酸化物正極と黒鉛負極の組合せでは、既に電池の容量が限界に達している。正極の高電圧化及び高容量Si化合物負極の開発においても、現行電池と同等もしくは現行電池を上回る容量に達するサイクルが得られず実用化に至っていない。また、最近では固体電解質電池や有機硫黄/Li金属電池等の新型電池も開発が進んでいるが、生産性も含めて課題が多く大型化への実用化には道半ばである。
リチウムイオン二次電池に対して、インフラストラクチャーのひとつとして非接触充電を含む充電環境整備の開発が進んでいる。そのため、入出力特性が優れたリチウムイオン二次電池を開発することにより、短時間で充電できれば前記のような高容量化への課題が解決される。
例えば、非特許文献1(東芝レビューVol.71 No.2 pp44)で示される東芝SCiB(登録商標)では、20C相当の充電に対応しており、数分で100%充電近くまで可能な電池が開発されている。また、同電池では、例えば特許文献1(特開平6-275263公報)で開示されている一般式LiTi12で示される活物質を負極に採用するが、当該材料の充放電電位が1.5V(vs.Li/Li+)以上であるため、従来採用されている黒鉛の課題であったLi析出の問題が通常の充放電においては全くなくなる。特に高入力では過電圧が大きくなるため、前記問題は重要である。一方、LiTi12は低電子伝導性であるため、黒鉛、カーボンブラックといった導電助剤を電極に添加する必要性がある。LiTi12の本来の理論容量が175mAh/gであって黒鉛の理論的な容量である372mAh/gに比して低く、更に前記助剤を添加することで極めて容量が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】東芝レビューVol.71 No.2 pp44
【特許文献1】特開平6-275263号公報
【特許文献2】特開2008-255000号公報
【特許文献3】特開2020-117416号公報
【特許文献4】特許第6030708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の負極材料が持つ問題点を解決する材料として、例えば特許文献2(特開2008-255000号公報)には、一般式HTi1225で示される新規チタン酸化物が示されている。HTi1225の充放電電位は、約1.5V(vs.Li/Li)と従来のスピネル系チタン酸リチウムLiTi12同様に高いため、Li析出の問題を回避できる。また、特許文献2には、LiTi12の理論容量が約175mAh/gであるのに対して、HTi1225の容量が200~230mAh/g程度であることが示されている。
さらに、特許文献3(特開2020-117416号公報)には、HTi1225の新たな製造方法により、容量が270~320mAh/gに向上することが示されている。さらに、特許文献4(特許第6030708号公報)には、一般式TiNbで示される新規チタン酸化物が示されている。特許文献4では、TiNbにより黒鉛に匹敵する容量が得られている。
しかしながら、いずれの負極材料についても活物質の低電子伝導性の問題については解決されていない。
【0005】
本発明の課題は、非水電解液二次電池において、電極の電子伝導性を向上させ、入出力特性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係る非水電解液二次電池は、リチウムを含む遷移金属複合酸化物を活物質とする正極と、負極と、非水電解液とを備えている。その負極は、一般式としてHTi1225で表せるチタン酸化物の粒子であるチタン酸化物粒子と、バインダーと、チタン酸化物に対して0.3wt%以上5.0wt%以下のシングルカーボンナノチューブとを含む。そのチタン酸化物粒子の二次粒子径D50が1μm以上15μm以下であり、且つ二次粒子径D90が50μm以下である。
非水電解液二次電池は、チタン酸化物粒子が、比表面積が15m/g以上150m/g以下である、ように構成されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る非水電解液二次電池は、電極の電子伝導性が向上し、入出力特性が改善される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(1)全体構成
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、リチウムを含む遷移金属複合酸化物を活物質とする正極と、負極と、非水電解液とを備えている。負極は、一般式としてHTi1225で表せるチタン酸化物の粒子であるチタン酸化物粒子と、バインダーと、チタン酸化物に対して0.3wt%以上5.0wt%以下のシングルカーボンナノチューブとを含んでいる。二次粒子のD50は1μm以上15μm以下であることが好ましく、D90は50μm以下である。
【0009】
本実施形態に用いるHTi1225は、一次粒子が造粒して二次粒子を形成している。二次粒子径のD50が1μm未満であると、電極ペースト作製時に分散性が悪化するため、バインダー及び/または溶剤を過剰に添加する必要があり、活物質濃度が相対的に低下することとなる。一方、二次粒子径のD50が15μmを超える場合、またはD90が50μmを超える場合には電極シートの平滑性が損なわれること及び、カーボン被着による電子伝導性の寄与を受けないHTi1225の割合が多くなることにより、特性が悪化するおそれがある。
【0010】
Ti1225は負極活物質としては比表面積が大きいものであり、利用率の向上には寄与するが、電子伝導性に乏しいため、黒鉛またはカーボンブラックなどの導電助剤をより多く配合することが考えられる。そこで、入出力を改善することを目的として、黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラック、気相法炭素繊維(VGCF(登録商標))、マルチウォ―ルカーボンナノチューブといった既存の導電助剤を添加した電極を検討した結果、助剤量を10wt%以上と大幅に増加させることで改善されることが判った。しかし、一方でこのような助剤の比表面積が大きいためバインダー量も増加させないと電極の機械的強度が得られなかった。一般的にバインダー例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸はいずれも低電子伝導性であるため増加させることで入出力を低下させる。このような検討の結果、導電助剤としてシングルカーボンナノチューブを用いることで上記既存の導電助剤に比して低添加量で入出力特性が飛躍的に改善され、従来の助剤では発現できなかった容量が得られることが判った。これはシングルカーボンナノチューブが比表面積の大きいHTi1225の粒子表面を覆うことで電子伝導性を効率的に改善できるものと考えられる。一般的なカーボンブラック等の導電助剤は、活物質の表面だけでなく活物質間の空間に多く存在するため、前述の表面導電性を十分高くするためにはその添加量を多くしなければならない。マルチウォ―ルカーボンナノチューブは、大半が活物質の表面に存在するが、その繊維長が短いために表面導電性を高くするためには多く添加しなければならず、活物質間の導電性には寄与しにくい。それらに対し、シングルカーボンナノチューブは、繊維長が長いために少量で前述のように表面だけでなく活物質間の導電性にも寄与するために低添加量で所望の特性を満足されるものと考えられる。更に比表面積が小さくて15m/gに満たない場合は導電助剤の表面存在確率が小さくても問題にならないが、比表面積が大きい本実施形態のHTi1225の粒子の場合は活物質を構成する一次粒子間の導電性が高電流密度で充放電される入出力特性に反映されると考えられる。シングルカーボンナノチューブを用いれば、このように添加量を低減することによりバインダー量を低減しても電極の機械的強度が低下しなかった。そこでこのシングルカーボンナノチューブをHTi1225の合成時に含有もしくは担持させることで電極作製時に添加しなくても入出力特性が改善され、通常のHTi1225に添加した場合に比して入出力特性が更に向上した。
【0011】
シングルカーボンナノチューブをHTi1225に含有または担持させる方法としては、HTi1225の粉体に対して分散機またはメカノケミカルなどによりシングルカーボンナノチューブを混合被着させる方法または、HTi1225の製造工程でHTi1225あるいはその前工程で得られるチタン酸リチウムのプロトン交換体がスラリー化している工程でシングルカーボンナノチューブを湿式混合し、同時乾燥させる方法などが挙げられる。HTi1225の粒子表面にシングルカーボンナノチューブをより均一に分散被着させるためには、スラリー化の状態で湿式混合して同時乾燥させる方法がより好ましい。
上述の構成を有する非水電解液二次電池は、電極の電子伝導性が向上し、入出力特性が改善されている。
【0012】
(2)全体構成の負極について
本実施形態に係る負極に用いられる活性物質の比表面積は特に限定されるものではない。しかし、後述するように、上述の負極を、比表面積が15m/g以上、150m/g以下である活物質を含むバインダーを用いて形成することが好ましい。HTi1225は、LiTi12同様低電子伝導性であると同時に、比表面積がLiTi12に比して数倍大きい。またHTi1225の表面積は、一般的に採用されている黒鉛に比した場合10倍以上大きい。
Ti1225の好ましい製造工程においては後述するが、チタン原料とリチウム原料とを混合し、水熱合成法により比較的低温で前駆体であるチタン酸リチウムを合成することが好ましく、反応を十分に完結させるために、原料となるチタン化合物は粒子径が5nm以上、200nm以下であるものを用いることが好ましい。このようにして得たHTi1225は、原料であるチタン化合物の形状を一次粒子として残したものとなり、比表面積は15m/g以上、150m/g以下になる。
【0013】
(3)詳細構成
(3-1)HTi1225の合成方法およびシングルカーボンナノチューブを混合する方法
Ti1225の合成方法およびシングルカーボンナノチューブを混合する方法について、以下に記載する。
(3-1-1)HTi1225の合成
本実施形態に用いるHTi1225の合成方法は、チタン酸リチウム合成工程と、チタン酸リチウム熱処理工程と、リチウム/プロトン交換工程と、プロトン交換体熱処理工程を含む。
チタン酸リチウム合成工程では、チタン化合物を含有するチタン原料と、リチウム化合物を含有するリチウム原料とを混合し、混合物を熱処理などにより結晶成長させて、チタン酸リチウムを得る。より具体的には、水熱合成法などによって、チタン原料とリチウム原料を含む混合物を結晶成長させる。
チタン原料としては、チタン化合物を含むものであれば特に制限されず、例えば、TiO、Ti、TiO等の酸化物、TiO(OH)、TiO・xHO(xは任意)等で表される酸化チタン水和物、塩化チタン及び硫酸チタンなどの無機チタン化合物、チタンイソプロポキシド及びチタンブトキシドなどの有機チタン化合物等が挙げられる。これらの中でも特に酸化チタンまたは酸化チタン水和物が好ましい。
チタン化合物が粒子状である場合、一次粒子径は5nm以上、200nm以下であることが好ましい。水熱合成法において適切に反応条件を選択することにより、チタン原料の一次粒子形状を維持したままHTi1225を合成することができる。また、チタン化合物の一次粒子径が5nmより小さい場合、粒子凝集が強く、凝集が解けない場合は未反応部分が残存するおそれがある。一次粒子径が200nmより大きい場合についても、粒子内部まで反応が進行しない恐れがある。
リチウム原料としては、リチウム化合物を含むものであれば特に制限されず、例えば、LiO、Liなどの酸化物、LiCO、LiNO等の塩類、LiOHなどの水酸化物が挙げられる。これらの中でも特にLiOHなどの水酸化物が好ましい。
チタン原料とリチウム原料を含む混合物は、チタン原料とリチウム原料を乾式混合しても良いし、水、エタノール等の液体にチタン原料とリチウム原料を溶解または懸濁して得ても良い。
【0014】
チタン酸リチウム合成工程は、上記のチタン原料とリチウム原料を含む混合物を熱処理することにより結晶成長させる工程を含む。結晶成長させる方法としては、一般的なセラミックス微粒子の合成方法である固相反応法または、沈殿法、ゾルゲル法、水熱合成法などの液相法を用いることができるが、中でも水熱合成法が特に好ましい。
水熱合成法で結晶させる場合、チタン原料としてはTiOが好ましく、リチウム原料としてはLiOH・HOが好ましい。さらに、チタン原料の重量に対するリチウム原料の重量の比が1倍(チタン原料の物質量に対するリチウム原料の物質量の比で約2.3倍)以上であることが好ましい。水熱合成における反応温度と反応時間の制約は特にないが、150℃以上の反応温度と3時間以上の反応時間が好ましい。
水熱合成による結晶成長により、チタン酸リチウムが得られる。チタン酸リチウムとしては、LiTiO、LiTi、LiTi、LiTi12等が挙げられるが、中でもLiTiOであることが好ましい。
水熱合成により得られたチタン酸リチウムは、濾過、自然沈降、遠心分離などの公知の方法により回収できる。回収したチタン酸リチウムには未反応のLiOHが含まれるため、洗浄を行うことが好ましい。洗浄に用いる溶媒は水または低濃度の塩酸、硝酸などの無機酸を用いても良い。洗浄後のチタン酸リチウムは、箱型乾燥機、スプレードライヤー等、公知の方法により乾燥される。
【0015】
チタン酸リチウム熱処理工程では、チタン酸リチウム合成工程で得られたチタン酸リチウムを熱処理する。この熱処理により、チタン酸リチウムの結晶構造内に浸入している溶媒分子を除去すると同時に、チタン酸リチウムは岩塩型結晶構造を備えるLiTiOが主相であるが、一部が単斜晶系結晶構造を備えるLiTiOに変化する。複合化結晶構造を備えることにより、チタン原子の格子サイトの配列は、岩塩型結晶構造もしくは単斜晶系結晶構造の単一構造を備えるLiTiOと比較して不規則となる。このため、この複合化された構造のLiTiOは、単一構造のLiTiOと比べて、後のチタン酸リチウムのプロトン交換体の熱処理工程における脱水過程で、アナターゼ及びルチルなどの二酸化チタンに変化しにくくなる。
チタン酸リチウム熱処理工程は、空気中または窒素もしくはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で行う。熱処理温度は100℃以上、600℃以下であることが好ましい。100℃未満の焼成温度では岩塩型結晶構造から単斜晶系結晶構造への相変化が進みにくく、600℃を超える温度では岩塩型結晶構造のほとんどが単斜晶系結晶構造に変化してしまう。熱処理温度は200℃から500℃であることがより好ましい。また、熱処理時間は0.5時間から100時間の間が好ましく、1時間から30時間がより好ましい。
【0016】
リチウム/プロトン交換工程では、熱処理チタン酸リチウムのリチウムをプロトンと交換する。すなわち、熱処理チタン酸リチウムを酸性水溶液に浸し、プロトン交換反応を適用することにより、熱処理チタン酸リチウム中のほぼ全てのリチウムが水素と交換されたチタン酸リチウムのプロトン交換体が得られる。このとき、チタン酸リチウムを酸性水溶液中に分散させ、一定時間保持した後、フィルター濾過や遠心分離等で分離し、乾燥することが好ましい。
リチウム/プロトン交換工程で使用する酸としては、塩酸、硫酸、および硝酸の一種類以上を含む任意の濃度の水溶液が好ましく、濃度0.1Nから1.0Nの希塩酸がより好ましい。リチウムをプロトンと交換するときの処理時間は、10時間から10日間、好ましくは1日から7日間である。リチウムをプロトンと交換するときの処理温度は室温(20℃)以上100℃未満が好ましい。
【0017】
チタン酸リチウムのプロトン交換体の乾燥は、箱型乾燥機、スプレードライヤーなどの公知の方法が使用できる。なお、乾燥前のプロトン交換体にカーボン等の導電助剤を混合添加しても良い。導電助剤の混合添加は、プロトン交換体をスラリー状とし、撹拌混合するなどの方法が挙げられる。必要に応じて分散剤の添加や分散機などを使用しても良い。
プロトン交換体熱処理工程では、リチウム/プロトン交換工程で得られたチタン酸リチウムのプロトン交換体を熱処理する。熱処理により、プロトン交換体の脱水反応が進行してチタン酸化物HTi1225が得られる。熱処理の雰囲気は、空気中、窒素若しくはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中、水素ガス含有雰囲気中、または減圧下などが挙げられるが、不活性ガス雰囲気中または減圧雰囲気中が好ましい。また、熱処理の温度は、200℃以上600℃以下が好ましく、260℃以上500℃以下がより好ましい。熱処理時間は、通常0.5時間から100時間であり、1時間から30時間がより好ましい。酸素を含む雰囲気下での焼成、および600℃以上の高温での焼成は、副反応であるアナターゼやルチル等の生成を促進することになるため、上記の熱処理雰囲気、温度、時間で実施することが好ましい。
【0018】
プロトン交換体熱処理工程によって得られるHTi1225は、Cu-Kαを線源とした粉末XRD測定において、特許文献3(特開2008-255000号公報)と同様のピーク位置にピークを示していればよい。また、ピーク強度比は異なっていてもよい。ピーク強度比の違いは、一次粒子が微細化したことによって、ある特定の結晶面の結晶成長が乏しくなったためであり、特に25°付近に現れる(110)面に由来するピークや48°付近に現れる(020)面に由来するピークは強度が著しく弱くなったり、近隣のピークと重なって判別しにくくなったりする。
また、アナターゼやルチルなどの二酸化チタンが、不純物としてHTi1225に少量含まれる場合もあるが、少量であればHTi1225の電池特性にほとんど影響しない。HTi1225の二酸化チタンの含有量は、粉末XRD測定で求められるHTi1225の(003)面の28°付近に現れるピーク高さIと、二酸化チタンのメインピーク(アナターゼでは25°付近に現れる(101)面、ルチルでは27°付近に現れる(110)面)のピーク高さIの比I/Iで算出される。なお、ピーク高さは、ピークの前後にある極小点の高さ同士を結んだ直線をベースとし、このベースからピーク頂点までの高さである。HTi1225のI/Iは、5倍以下であれば好ましく、3倍以下であればより好ましい。
【0019】
Ti1225の粒子形状は特に制限されないが、負極電極層の充填密度を高めるためには球状や多面体状などの等方性形状が好ましい。
また、HTi1225の粒子形状は一次粒子が集合した二次粒子となっていることが好ましい。二次粒子形状であることによって、リチウムイオン電池の負極電極層作製において活物質であるHTi1225の流動性、付着性、充填性など、ハンドリングや粉体特性が向上し、電池特性の一層の改良に繋がる。好ましい平均二次粒子径D50の範囲は、1μm~15μmであり、D90は50μm以下である。二次粒子径のD50が1μm未満であると、電極ペースト作製時の分散性が悪化する。一方、二次粒子径のD90が50μmを超えると電極シートの平滑性が損なわれることや、カーボン被着による電子伝導性の寄与を受けないHTi1225の割合が多くなるおそれがある。粒子径と同時にこれに依存する比表面積については15m/g以上、150m/g以下が望ましい。15m/g未満の場合は一次粒子径が大きくなるため電池にした場合の電流密度が高くなるため入出力特性を低下させる。一方、150m/gを超える場合にはHTOのかさ密度が大きくなりすぎて機械的強度を維持するためにバインダー量を多くしなければならないこと及び電極密度低下による容量低下が大きくなる。二次粒子を造粒形成する方法としては、チタン酸リチウムのプロトン交換体を含むスラリーをスプレードライヤーなどにより噴霧乾燥する方法が好ましい。
【0020】
(3-1-2)シングルカーボンナノチューブの混合
シングルカーボンナノチューブをHTi1225に混合被着させる方法として、HTi1225の製造工程でHTi1225あるいはその前工程で得られるチタン酸リチウムのプロトン交換体がスラリー化している工程でシングルカーボンナノチューブを湿式混合し、同時乾燥させる方法などが挙げられる。HTi1225の粒子にシングルカーボンナノチューブをより均一に分散被着させるためには、スラリーに湿式混合して同時乾燥させる方法がより好ましい。
特にチタン酸リチウムのプロトン交換体を乾燥する直前の工程で、プロトン交換体をスラリー状とし、シングルカーボンナノチューブを撹拌混合し、スプレードライヤーなどで噴霧乾燥して、シングルカーボンナノチューブをチタン酸リチウムのプロトン交換体の粒子表面に混合被着することが好ましい。
チタン酸リチウムのプロトン交換体のスラリーにシングルカーボンナノチューブを添加する場合、分散剤や界面活性剤を添加しても良く、また湿式ビーズミルやメディアレス分散機などを用いた分散を併用しても良い。
シングルカーボンナノチューブの含有量や担持量については特に制限されないが、HTi1225に対して0.3wt%以上、5wt%以下であることが好ましい。HTi1225に対して0.3wt%未満では入出力が従来助剤を電極に添加した場合と同等以下しか得られず、5wt%を超えると負極活物質濃度が相対的に低くなるため容量低下につながると同時に接着強度が低下し導電性が逆に低下することになり、一方で強度向上を目的にバインダー量を増加させると更に容量低下を引起すことになる。
【0021】
(3-2)電池の作製方法
以下に本実施形態の構成を有する電池の作製方法を示す。
シングルカーボンナノチューブを含有もしくは担持させたHTi1225負極のバインダーとしては例えばポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルクロリド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアミドイミド、ポリアミドなどが挙げられ、これらのうちの1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。導電助剤については基本的に不要であるが、シングルカーボンナノチューブの担う電子伝導性は近接粒子同士に限定されることから、複数粒子をまたぐ長距離的な電子伝導性を補助するために例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、VGCF(登録商標)等を混合してもよい。
【0022】
正極については活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な、リチウムを含む遷移金属複合酸化物(リチウム含有遷移金属複合酸化物)が使用される。リチウム含有遷移金属複合酸化物としては、LiCoO、LiNiO、LiNiCoMnO、LiMnなどの層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物などが挙げられ、これらのうちの1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PVDF、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。導電助剤には、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、シングルカーボンナノチューブなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。これら正極活物質や、バインダー、導電助剤などを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶媒に分散させ、集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダ処理などのプレス処理を施す工程を経て製造される。ただし、正極の製造方法は、前記の方法に制限される訳ではなく、他の製造方法で製造してもよい。集電体としては、従来から知られているアルミニウムまたはアルミニウム合金、ステンレス鋼などを用いることができる。集電体の厚みは特に限定されないが、通常1~50μmである。
【0023】
(3-2-1)電池の構成の一例
本実施形態の非水電解液二次電池は、正極、負極、セパレータ、および非水電解液を有してもよい。
非水電解液には、有機溶媒にリチウム塩を溶解させることによって調製した電解液を使用することができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC),ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリルなどが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。リチウム塩としては、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsFなどが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。また、サイクル等改善する目的で3-プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビニレンカーボネートを含有させることもできる。セパレータとしてはポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン製の微多孔膜やセルロース等の不織布を用いることができる。また無機フィラーを主体として含む多孔質層とから構成された積層型のセパレータを使用することができる。
【0024】
(3-2-2)電池の形態
本実施形態に係る非水電解液二次電池の形態には、特に制限はない。本実施形態に係る非水電解液二次電池の形態としては、例えば、コイン形、ボタン形、シート形、積層形、円筒形、扁平形、角形、電気自動車などに用いる大型のものなど、いずれであってもよい。
【実施例0025】
以下に実施形態に係る電池の作製方法を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
(正極電極の作製)
正極活物質としてLiNiCoMn(5:2:3)O、導電助剤としてカーボンブラック、バインダーとしてPVDFを用い、重量比で96:2:2となるようにアルミニウム箔に塗布し、乾燥、加圧することにより、正極を作製した。シングルカーボンナノチューブを含有するHTi1225(以下、HTO/SCNTと記載する場合がある)は以下のようにして合成した。HTi1225に対するシングルカーボンナノチューブの含有量は1wt%とした。
(負極活物質HTi1225の合成)
(チタン酸リチウム合成工程)
水酸化リチウム一水和物(和光純薬製)1000g、及びイオン交換水5000mLを、内容積10Lのチタン製水熱反応容器に入れ、撹拌器で撹拌して水酸化リチウム一水和物を全て溶解させた。ここに、二酸化チタン(堺化学工業製 SSP-25、結晶形: アナターゼ、一次粒子径: 約5nm)1000gを加え、撹拌混合を行い、酸化チタンと水酸化リチウム一水和物の混合スラリーを得た。混合スラリーを撹拌しながら、オートクレーブを用いて180℃、24時間、水熱反応を行った。
水熱反応後のスラリーを、ブフナー漏斗および5C濾紙を用いて全量吸引濾過を行い、濾紙上の固形分を回収した。回収した固形分は、0.05mol/Lの塩酸水溶液に約10g/Lの濃度になるように再懸濁し、1時間撹拌を継続した。その後、ブフナー漏斗および5C濾紙を用いて全量吸引濾過を行い、濾紙上の固形分を回収した。ろ過後の固形分を磁性皿に入れ、130℃に設定した箱型乾燥機で一昼夜乾燥した。乾燥後の固形物を、乾式コーヒーミルで解砕し、チタン酸リチウムを得た。
(チタン酸リチウム熱処理工程)
上記チタン酸リチウムをアルミナの焼成容器に入れ、箱型焼成炉を用いて、大気中で200℃/hの昇温速度で300℃まで加熱し、300℃で5時間保持、その後炉内で室温まで自然冷却を行うことで、チタン酸リチウム熱処理品を得た。
上記チタン酸リチウム熱処理品を、粉末X線回折装置(Rigaku製RINT TTR-III、X線源: CuKα)を用いて結晶相を同定し、岩塩型結晶構造と単斜晶系結晶構造のLiTiOが混在した構造であることを確認した。
【0026】
(チタン酸リチウム熱処理品のリチウム/プロトン交換工程)
上記チタン酸リチウム熱処理品を、0.5mol/Lの塩酸水溶液に約25g/Lの濃度となるよう懸濁し、撹拌器を用いて12時間撹拌を継続した。その後撹拌を停止し、さらに12時間程度静置した。静置後のスラリーを、ブフナー漏斗及び5C濾紙を用いて吸引濾過して固形分を得た。得られた固形分は、イオン交換水に再懸濁して再度吸引濾過を行うことにより水洗した。最終的に濾液の伝導度が100μS/cmを下回るまで水洗工程を繰り返した。
プロトン交換品は、LiTiOのリチウムがプロトンに置換されたものであるので、HTiOの組成に相当するものである。プロトン交換体を熱処理することにより脱水が起こり、HTi1225が形成される。上記水洗後の固形分(ケーキ)のHTi1225としての含有量を算出するために、少量の固形分を磁製るつぼに秤量し、箱型乾燥機において130℃で一晩乾燥を行い、さらに雰囲気焼成炉で窒素気流中、350℃、5時間の焼成を行った。室温まで冷却後に焼成炉から取り出し秤量した。水洗後固形分中のHTi1225の含有量(濃度)は次式1で与えられる。
式1: HTi1225の含有量(濃度)= 焼成後粉体重量(g)/水洗後固形分重量(g)×100(%)
焼成後の粉体を乳鉢で軽く解砕したのち、BET一点法(マウンテック社製: Macsorb HM-1220)にてHTi125の比表面積を測定した。得られたHTi1225の比表面積は62m/gであった。
また、粉末X線回折法(Rigaku製RINT TTR-III、X線源:CuKα)にて結晶相の同定を行った。得られた回折パターンは、HTi1225およびアナターゼTiOに帰属された。HTi1225の(003)面の28°付近に現れるピーク高さIと、アナターゼTiOの25°付近に現れる(101)面のピーク高さIの比I/Iは、0.7であった。
【0027】
(シングルカーボンナノチューブの混合)
Ti1225として約200g/Lの濃度となるように、水洗後の固形分(ケーキ)をイオン交換水に懸濁、撹拌を行うことによりプロトン交換体のスラリーを作製した。さらに、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウム系分散剤(KFケミカル製、ディスパーサントA40)を固形分に対して5wt%添加して、撹拌した。スラリーを目開き45μmのSUS製標準篩に通し、篩残りがないことを確認した。楠本化成製シングルカーボンナノチューブ分散液を固形分換算で、HTi1225に対して1wt%となるように秤量し、スラリーに添加して1時間撹拌を継続した。
プロトン交換体とシングルカーボンナノチューブの混合スラリーは、スプレードライヤー(藤崎電機製: 四流体ノズル式マイクロミストスプレードライヤー MDL-050M)により乾燥造粒を行った。運転条件は、熱風入口温度250℃、出口温度110℃、Air量30L/minとした。
(プロトン交換体の熱処理工程)
得られたプロトン交換体とカーボンナノチューブの混合造粒粉を、雰囲気焼成炉にて窒素気流中、350℃、5時間の焼成を行った。
【0028】
(二次粒子径の測定)
上記工程により得られたHTi1225とカーボンナノチューブ混合焼成品(HTO/SCNT)の二次粒子径の測定は、レーザー回折型粒度分布測定装置(堀場製作所製: LA-950)により実施した。分散媒には0.025%ヘキサメタリン酸ナトリウムを使用、LA-950本体の超音波分散を1分間実施、屈折率の設定は2.52とした。粒度分布測定装置により計測した粒度分布は、約0.5μmから20μm付近にかけた一山の分布となり、D50は2.6μm、D90は8.1μmであった。なお、粒度分布のD50及びD90の定義については体積基準粒度分布において、小さい方から50%となる粒子径をD50、90%となる粒子径をD90として表記した。ここで、粒度分布の測定値は一次粒子に分散したものではなく凝集状態を反映していることから、二次粒子径と表現した。また、粒子形状の観察を、走査型電子顕微鏡(日本電子製:JSM-7000F)により行った。1μmから10μm程度の造粒した二次粒子が形成されていることを確認した。
【0029】
(負極電極の作製)
このようにして作製したHTO/SCNTをSBR、CMCをバインダーとして用い重量比で97:1:2となるようにCu箔に塗布し、乾燥、加圧することにより、負極を作製した。
(カード型セルの作製)
各電極を所定のサイズに切断し、ポリエチレン製セパレーターを介して積層し、樹脂ラミネートしたアルミニウム箔で包装した。次に電解液として1Mol/LiPF6/EC:DEC(3:7)を用いて包装容器に注入し、封口してカード型セルを作製した。本セルでは対向する正極容量に対する負極容量の比を0.9として正極容量によってセル容量を規制した。
【0030】
(実施例2)
正極活物質としてLiNiCoMn(5:2:3)O、導電助剤としてカーボンブラック、バインダーとしてPVDFを用い、重量比で96:2:2となるようにAl箔に塗布し、乾燥、加圧することにより、正極を作製した。負極活物質としては、実施例1のHTi1225の合成におけるシングルカーボンナノチューブの混合工程において、シングルカーボンナノチューブの添加量をHTi1225に対して0.5wt%となるようにした他は、実施例1同様にしてHTO/SCNTを合成した。
得られたHTO/SCNTをバインダーとしてPVDFを用いてAl箔に塗布し負極を作製した。(HTO/SCNT)/PVDFの重量比は96/4とした。以下実施例1と同様にカード型セルを作製した。
【0031】
(実施例3)
正極活物質としてLiNiCoMn(5:2:3)O、導電助剤としてカーボンブラック、バインダーとしてPVDFを用い、重量比で96:2:2となるようにAl箔に塗布し、乾燥、加圧することにより、正極を作製した。負極活物質としては、実施例1のHTi1225の合成におけるシングルカーボンナノチューブの混合工程において、シングルカーボンナノチューブの添加量をHTi1225に対して3wt%となるようにした他は、実施例1同様にしてHTO/SCNTを合成した。
得られたHTO/SCNTをバインダーとしてPVDFを用いてAl箔に塗布し負極を作製した。(HTO/SCNT)/PVDFの重量比は96/4とした。以下実施例1と同様にカード型セルを作製した。
【0032】
(比較例1)
実施例1のHTi1225の合成においてシングルカーボンナノチューブの混合工程において、シングルカーボンナノチューブの添加を行わなかった他は、実施例1同様の手順でHTi1225を合成した。
実施例1においてHTi1225、シングルカーボンナノチューブ、SBR、CMCを96:1:1:2重量比とした負極を用いたことを除いては、全て同様に、電極、電池を作製した。
(比較例2)
比較例1においてHTi1225、アセチレンブラック、PVDFを80:10:10重量比とした負極を用いたことを除いては、全て同様に、電極、電池を作製した。
(比較例3)
比較例1においてHTi1225、アセチレンブラック、SBR、CMCを90:5:2:3重量比とした負極を用いたことを除いては、全て同様に、電極、電池を作製した。
【0033】
(比較例4)
実施例1においてシングルカーボンナノチューブ分散液の代わりにマルチウォ―ルカーボンナノチューブ分散液を用いたことを除いては、全て同様に、電極、電池を作製した。
(比較例5)
実施例1においてシングルカーボンナノチューブ含有量を0.2wt%としたことを除いては、全て同様に、電極、電池を作製した。
(比較例6)
実施例1においてシングルカーボンナノチューブ含有量を6wt%としたことを除いては、全て同様に、電極、電池を作製した。
【0034】
(比較例7)
正極活物質としてLiNiCoMn(5:2:3)O、導電助剤としてカーボンブラック、バインダーとしてPVDFを用い、重量比で96:2:2となるようにAl箔に塗布し、乾燥、加圧することにより、正極を作製した。シングルカーボンナノチューブ含有HTi1225(HTO/SCNT)は以下のようにして合成した。HTi1225に対するシングルカーボンナノチューブの含有量は1wt%とした。
負極活物質としては、実施例1のHTi1225の合成におけるチタン酸リチウム合成工程において、チタン原料として二酸化チタン(堺化学工業製 R-310, 結晶形: ルチル、一次粒子径: 約150nm)を使用した他は、実施例1同様にしてHTi1225を合成した。HTi1225の比表面積は10m/gであった。また、粉末X線回折法により得られた回折パターンは、HTi1225、アナターゼTiOおよびルチルTiOに帰属された。HTi1225の(003)面の28°付近に現れるピーク高さIと、アナターゼTiOの25°付近に現れる(101)面のピーク高さIの比I/Iは、4.8であった。また、ルチルTiOの27°付近に現れる(110)面のピーク高さIとの比I/Iは2.9であった。
Ti1225とシングルカーボンナノチューブとの混合は実施例1同様にして行った。得られたHTO/SCNTの粒度分布は、約0.1μmから30μm付近にかけた二山の分布となり、D50は0.7μm、D90は9.3μmであった。
このようにして作製したHTO/SCNTを用いてSBR、CMCをバインダーとして用い重量比で97:1:2となるようにCu箔に塗布し、乾燥、加圧することにより、負極を作製したが、塗膜のCu箔からの剥がれが多かったためCMC量を増加させ93:1:6とすることで電極を作製した。以降は実施例1と全て同様に、電極、電池を作製した。
【0035】
(比較例8)
正極活物質としてLiNiCoMn(5:2:3)O、導電助剤としてカーボンブラック、バインダーとしてPVDFを用い、重量比で96:2:2となるようにAl箔に塗布し、乾燥、加圧することにより、正極を作製した。シングルカーボンナノチューブ含有HTi1225(HTO/SCNT)は以下のようにして合成した。HTi1225に対するシングルカーボンナノチューブの含有量は1wt%とした。
負極活物質としては、実施例1のHTi1225の合成におけるシングルカーボンナノチューブの混合工程において、プロトン交換体とシングルカーボンナノチューブとを混合したスラリーを、ブフナー漏斗と5C濾紙を用いて吸引濾過を行い、濾紙上の固形分を回収した。ろ過後の固形分を130℃に設定した箱型乾燥機で一晩乾燥し、乾燥後の固形物を乾式コーヒーミルで解砕することによりHTO/SCNTを得た。得られたHTO/SCNTの粒度分布は約0.5μm~300μm付近にかけた二山の分布となり、D50は3.8μm、D90は56.8μmであった。
このようにして作製したHTO/SCNTを用いてSBR、CMCをバインダーとして用い重量比で97:1:2となるようにCu箔に塗布し、乾燥、加圧することにより、負極を作製したが、塗膜の二次元的連続性が低下し塗布量ばらつきが大きくなり面内均一性が低下した。以降は実施例1と全て同様に、電極、電池を作製した
【0036】
(実施例と比較例の対比)
これらの実施例及び比較例の各電池について、3V 0.2C CCCV充電、1V終止0.2C放電を3cycle行った後、3V 1C CCCV充電後、1V終止20C放電及び1V 0.2C CCCV放電後、3V 20C CCCV充電を行った。表1に初回放電容量、出力評価として0.2C放電容量に対する20C放電容量の比率を、入力評価として20C充電での総充電容量に対するCC充電時容量の比率をそれぞれ示した。実施例では20Cでの入出力が何れも60%以上得られかつ70mAh以上の容量が得られたのに対して比較例1でシングルカーボンナノチューブを混合しただけのものは入出力が低下した。比較例2、3のように他の導電助剤では著しく低下し、初回容量も低かった。比較例4ではマルチウォ―ルカーボンナノチューブを合成時に使用したが入出力の改善は見られなかった。一方比較例5のように合成時の含有量が少ないと効果が得られにくかった。逆に比較例6では含有量を多くしすぎると活物質層とAl集電体との接着強度の低下によると考えられる導電性の低下で容量低下及び入出力が低下した。比較例7ではHTOの一次粒子径が大きくなったことにより、比表面積が小さくなり電流密度が高くなるため、充放電に伴う活物質粒子内部へのリチウムイオンの挿入・脱離が緩慢になったことにより、初回容量、20℃入出力とも大幅に低下する結果となった。比較例8では負極電極の塗布量ばらつきの影響により20C入出力が低下した。
【表1】