(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182809
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】Qスイッチ構造体及びQスイッチ構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/11 20060101AFI20221201BHJP
H01S 3/16 20060101ALI20221201BHJP
H01S 3/06 20060101ALI20221201BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01S3/11
H01S3/16
H01S3/06
C04B35/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090546
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聡明
(72)【発明者】
【氏名】後藤 太一
(72)【発明者】
【氏名】井上 光輝
【テーマコード(参考)】
5F172
【Fターム(参考)】
5F172AE11
5F172AL08
5F172AL10
5F172NN13
5F172NQ23
(57)【要約】
【課題】 レーザー装置の小型化に寄与し、かつ高い光出力に対応できるQスイッチを提供する。
【解決手段】 固体レーザー媒体と、磁気光学材とを備え、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が接合一体化されたQスイッチ構造体であって、前記固体レーザー媒体の厚さが1mm以上であり、前記固体レーザー媒体と、前記磁気光学材が直接接合されているものであるQスイッチ構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体レーザー媒体と、
磁気光学材と
を備え、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が接合一体化されたQスイッチ構造体であって、
前記固体レーザー媒体の厚さが1mm以上であり、
前記固体レーザー媒体と、前記磁気光学材が直接接合されているものであることを特徴とするQスイッチ構造体。
【請求項2】
前記磁気光学材は、固体レーザー媒体を基板として該固体レーザー媒体上に結晶成長したものであり、それにより前記固体レーザー媒体と接合一体化されたものであることを特徴とする請求項1に記載のQスイッチ構造体。
【請求項3】
前記磁気光学材がビスマス置換希土類鉄ガーネットであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のQスイッチ構造体。
【請求項4】
前記固体レーザー媒体は、Nd、Yb及びCrからなる群から選ばれる1種をドープした、Y3Al5O12、Gd3Ga5O12及び(GdCa)3(GaMgZr)5O12からなる群から選ばれる1種のセラミックスから選択されるものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体と、磁束発生器とが、一対の共振ミラーの間に配置されていることを特徴とするQスイッチ固体レーザー装置。
【請求項6】
固体レーザー媒体と、
磁気光学材と
を備え、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が接合一体化されたQスイッチ構造体を製造する方法であって、
厚さ1mm以上を有する前記固体レーザー媒体を準備する工程と、
前記固体レーザー媒体を基板として、該固体レーザー媒体上に前記磁気光学材を結晶成長させる工程と
を有し、これにより、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が直接接合されて一体化したQスイッチ構造体を製造することを特徴とするQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項7】
前記結晶成長の方法を、液相エピタキシャル成長法とすることを特徴とする請求項6に記載のQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項8】
前記磁気光学材をビスマス置換希土類鉄ガーネットとすることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項9】
前記固体レーザー媒体を、Nd、Yb及びCrからなる群から選ばれる1種をドープした、Y3Al5O12、Gd3Ga5O12及び(GdCa)3(GaMgZr)5O12からなる群から選ばれる1種のセラミックスから選択されるものとすることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項6から請求項9のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体の製造方法により製造されたQスイッチ構造体を用いて、該Qスイッチ構造体と、磁束発生器を、一対の共振ミラーの間に配置してQスイッチ固体レーザー装置を製造することを特徴とするQスイッチ固体レーザー装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Qスイッチ構造体及びQスイッチ構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光計測や光磁気記録等のレーザー応用機器において、光源であるレーザー媒体の高出力化と小型化が課題となっている。小型化且つ高出力化の観点で磁気光学材(「MO材」とも呼ばれる)を発信機構としたQスイッチが注目を集めている。
【0003】
Qスイッチを具備するレーザー装置として、第1共振ミラーと固体レーザー材料とQスイッチと第2共振ミラーを、その順序で配置したレーザー装置が知られている。すなわち、第1共振ミラーと第2共振ミラーで構成される一対の共振ミラーの間に、固体レーザー材料とQスイッチを配置したレーザー装置が知られている。
【0004】
非特許文献1には、一対の共振ミラーの間に固体レーザー材料とQスイッチを配置した小型のレーザー装置が開示されているが、そのQスイッチは可飽和現象を利用する受動Qスイッチであり、Qスイッチを能動的に制御することができない。
【0005】
非特許文献2に、電気光学効果を利用してQスイッチを能動的に制御する技術が開示されているが、固体レーザー材料の厚みが0.5mmであるのに対し、Qスイッチの厚みが5mmもあり、Qスイッチがレーザー装置の小型化の障害となっている。
【0006】
非特許文献3に、音響光学効果を利用してQスイッチを能動的に制御する技術が開示されているが、Qスイッチの厚みが32mmもあり、Qスイッチがレーザー装置の小型化の障害となっている。
【0007】
従来の技術では、Qスイッチを能動的に制御可能とすると、そのQスイッチが大型化してしまってレーザー装置の小型化の障害となっていた。そこで、レーザー装置の小型化とQスイッチの能動化を両立させることが求められていた。
【0008】
特許文献1には、レーザー装置の小型化の障害とならないという制約の中でQスイッチを能動化する技術として、固体レーザー材料とQスイッチが一対の共振ミラーの間に配置されており、Qスイッチが磁気光学効果を呈する膜と磁束発生器の組み合わせで構成されており、固体レーザー材料に励起光を入射し、磁束発生器にパルスを加えると、パルスレーザーを発光するQスイッチ固体レーザー装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】T.Taira, M.Tsunekane, K.Kanehara, S.Morishima, N.Taguchi and A. Sugiura: “7. Promise of Giant Pulse Micro-Laser for Engine Ignition”, Journal of Plasma and Fusion Research, Vol. 89, No.4, pp.238-241(2013)
【非特許文献2】T.Taira, and T.Kobayashi: “Q-Switching and Frequency Doubling of Solid-State Lasers by a Single Intracavity KTP Crystal”, IEEE Journal of Quantum Electronics of Vol. 30, No.3, pp.800-804(1994)
【非特許文献3】Gooch & Housego Co.Ltd., Product number 1-QS041-1, 8C10G-4-GH21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1には、上記のように、磁気光学(MO)機構を用いたQスイッチが記載されている。レーザー装置の小型化の観点では、固体レーザー媒体と磁気光学機構との間の空間は少ない方が望ましい。特許文献1の
図13において、固体レーザー媒体と磁気光学膜等が一体化した構成が提案されている。ただし、その具体的な一体化方法は提案されていない。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、レーザー装置の小型化に寄与し、かつ高い光出力に対応できるQスイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記問題を解決するために、本発明では、固体レーザー媒体と、磁気光学材とを備え、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が接合一体化されたQスイッチ構造体であって、前記固体レーザー媒体の厚さが1mm以上であり、前記固体レーザー媒体と、前記磁気光学材が直接接合されているものであることを特徴とするQスイッチ構造体を提供する。
【0014】
このようなQスイッチ構造体であれば、固体レーザー媒体と磁気光学材が接合一体化しているため、小型のQスイッチ構造体とすることができる。また、固体レーザー媒体と磁気光学材が直接接合であるため、間に材料を介した場合のような、間の材料の劣化等による性能の低下がない。なお、本発明では、固体レーザー媒体と磁気光学材の一体化した組み合わせを、Qスイッチ構造体と称する。Qスイッチ構造体は、磁束発生器との組み合わせにより、Qスイッチとして機能させることができる。
【0015】
また、本発明のQスイッチ構造体では、前記磁気光学材は、固体レーザー媒体を基板として該固体レーザー媒体上に結晶成長したものであり、それにより前記固体レーザー媒体と接合一体化されたものであることが好ましい。
【0016】
このような結晶成長による接合一体化であれば、固体レーザー媒体と磁気光学材の接合構造を簡便に形成できる。
【0017】
また、前記磁気光学材がビスマス置換希土類鉄ガーネットであることが好ましい。
【0018】
また、前記固体レーザー媒体は、Nd、Yb及びCrからなる群から選ばれる1種をドープした、Y3Al5O12、Gd3Ga5O12及び(GdCa)3(GaMgZr)5O12からなる群から選ばれる1種のセラミックスから選択されるものであることが好ましい。
【0019】
これらの材料は、本発明のQスイッチ構造体として好ましく用いることができる。
【0020】
また、本発明は、上記のQスイッチ構造体と、磁束発生器とが、一対の共振ミラーの間に配置されていることを特徴とするQスイッチ固体レーザー装置を提供する。
【0021】
このような、本発明のQスイッチ構造体を備えるQスイッチ固体レーザー装置は、固体レーザー媒体と磁気光学材が直接接合であるため、小型化されているとともに、固体レーザー媒体と磁気光学材が直接接合であるため、間に介される材料の劣化等による性能の低下がない。
【0022】
また、本発明は、固体レーザー媒体と、磁気光学材とを備え、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が接合一体化されたQスイッチ構造体を製造する方法であって、厚さ1mm以上を有する前記固体レーザー媒体を準備する工程と、前記固体レーザー媒体を基板として、該固体レーザー媒体上に前記磁気光学材を結晶成長させる工程とを有し、これにより、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が直接接合されて一体化したQスイッチ構造体を製造することを特徴とするQスイッチ構造体の製造方法を提供する。
【0023】
このようなQスイッチ構造体の製造方法は、固体レーザー媒体と磁気光学材の接合一体化を簡便に行うことができる。また、固体レーザー媒体と磁気光学材を直接接合することができるため、製造したQスイッチ構造体における固体レーザー媒体と磁気光学材の間に介される材料の劣化等による性能の低下がない。
【0024】
この場合、前記結晶成長の方法を、液相エピタキシャル成長法とすることが好ましい。
【0025】
このように、液相エピタキシャル成長法を用いることにより、Qスイッチ構造体における固体レーザー媒体と磁気光学材の接合一体化をより簡便に行うことができる
【0026】
また、前記磁気光学材をビスマス置換希土類鉄ガーネットとすることが好ましい。
【0027】
また、前記固体レーザー媒体を、Nd、Yb及びCrからなる群から選ばれる1種をドープした、Y3Al5O12、Gd3Ga5O12及び(GdCa)3(GaMgZr)5O12からなる群から選ばれる1種のセラミックスから選択されるものとすることが好ましい。
【0028】
これらの材料は、本発明のQスイッチ構造体の製造方法において好ましく用いることができる。
【0029】
また、本発明は、上記のQスイッチ構造体の製造方法により製造されたQスイッチ構造体を用いて、該Qスイッチ構造体と、磁束発生器を、一対の共振ミラーの間に配置してQスイッチ固体レーザー装置を製造することを特徴とするQスイッチ固体レーザー装置の製造方法を提供する。
【0030】
このようなQスイッチ固体レーザー装置の製造方法は、Qスイッチ構造体における固体レーザー媒体と磁気光学材が直接接合であるため、小型化されたQスイッチ固体レーザー装置を製造できるとともに、固体レーザー媒体と磁気光学材が直接接合であるため、それらの間に介される材料の劣化等による性能の低下がない。
【発明の効果】
【0031】
本発明のQスイッチ構造体は、固体レーザー媒体と磁気光学材が接合一体化しているため、小型のQスイッチ構造体とすることができる。また、固体レーザー媒体と磁気光学材が直接接合であるため、間に介される材料の劣化等による性能の低下がない。そのため、より高い光出力に対応できる。また、固体レーザー媒体と磁気光学材が接合一体化しているため、両部材の距離は0であり、レーザー装置の小型化に寄与する。さらに、磁気スイッチ(磁束変化で発生)起動に伴う振動や、磁気光学材と固体レーザー媒体間の光共振、磁気光学材の固定差異による歪に起因した磁区模様の変化に伴う出力不安定化、スイッチング速度のバラツキ、両者の空間発生に伴う共振器長の増大とそれによるスイッチング速度の劣化等が防止できる。また、本発明のQスイッチ構造体の製造方法は、そのようなQスイッチ構造体を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明のQスイッチ構造体の構造の一例を模式的に示す概略図である。
【
図2】本発明のQスイッチ構造体の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明のQスイッチ構造体を備えるQスイッチ固体レーザー装置の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明のQスイッチ構造体の製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明について図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明のQスイッチ構造体の構造の一例について、
図1、
図2を参照して説明する。
図1にはQスイッチ構造体の構造の概略図、
図2にはその断面図を示した。
【0034】
本発明のQスイッチ構造体10は、固体レーザー媒体11と、磁気光学材12とを備えており、固体レーザー媒体11と磁気光学材12は接合一体化されている。さらに、本発明では、固体レーザー媒体11の厚さが1mm以上であり、固体レーザー媒体11と、磁気光学材12が直接接合されているものであることを特徴とする。
【0035】
より具体的には、磁気光学材12は、固体レーザー媒体11を基板として該固体レーザー媒体11上に結晶成長したものであり、そのような結晶成長により固体レーザー媒体11と接合一体化されたものであることが好ましい。
【0036】
このようなQスイッチ構造体10は、磁気光学材12と磁束発生器との組み合わせにより、Qスイッチとして機能する。
図3には、Qスイッチ固体レーザー装置の構造の一例を示した。Qスイッチ固体レーザー装置20は、上記のQスイッチ構造体10と、磁束発生器23とが、一対の共振ミラー(第1の共振ミラー21、第2の共振ミラー22)の間に配置されている。
図3中ではこれらの構造全てが接合一体化した例を示している。ただし、本発明では、Qスイッチ構造体10を構成する固体レーザー媒体11と磁気光学材12が接合一体化していればよく、その他の構造材料は適宜配置することができる。例えば、磁束発生器は、永久磁石と励磁コイルの組み合わせとすることができ、励磁コイルは永久磁石の周囲に配置するなどすることができる。
【0037】
本発明のQスイッチ構造体10において、固体レーザー媒体11の材料としては固体レーザー媒体として使用可能な材料を用いることができる。その中でも、固体レーザー媒体11を基板とした場合の結晶成長を考慮すると、その材料は、Nd、Yb及びCrからなる群から選ばれる1種をドープした、Y3Al5O12、Gd3Ga5O12及び(GdCa)3(GaMgZr)5O12からなる群から選ばれる1種のセラミックスから選択されるものであることが好ましい。また、本発明のQスイッチ構造体10において、磁気光学材12の材料としては磁気光学材として使用可能な材料を用いることができる。その中でも、上記結晶成長を考慮すると、磁気光学材12をビスマス置換希土類鉄ガーネットとすることが好ましい。
【0038】
[Qスイッチ構造体の製造方法]
次に、本発明のQスイッチ構造体の製造方法を説明する。本発明のQスイッチ構造体の製造方法は、
図1、
図2に示した、固体レーザー媒体11と、磁気光学材12とを備え、固体レーザー媒体11と磁気光学材12が接合一体化されたQスイッチ構造体10を製造する方法であり、本発明では、厚さ1mm以上を有する固体レーザー媒体11を準備する工程と、固体レーザー媒体11を基板として、該固体レーザー媒体11上に磁気光学材12を結晶成長させる工程とを有し、これにより、固体レーザー媒体11と磁気光学材12が直接接合されて一体化したQスイッチ構造体10を製造する。
【0039】
図4を参照して本発明のQスイッチ構造体の製造方法をより詳細に説明する。まず、
図4のS1に示したように、厚さ1mm以上を有する固体レーザー媒体11を準備する(工程S1)。ここで準備する固体レーザー媒体11は、結晶成長用基板として用いるため、厚さ1mm以上を有する必要がある。固体レーザー媒体11の材料としては固体レーザー媒体として使用可能な材料を用いることができる。その中でも、Nd、Yb及びCrからなる群から選ばれる1種をドープした、Y
3Al
5O
12、Gd
3Ga
5O
12及び(GdCa)
3(GaMgZr)
5O
12からなる群から選ばれる1種のセラミックスから選択されるものであることが好ましい。これらのイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)、CaMgZr置換型ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(SGGG)は、固体レーザー媒体として優れているだけでなく、後述する磁気光学材12がビスマス置換希土類鉄ガーネットである場合に、特に好ましい。
【0040】
次に、
図4のS2に示したように、固体レーザー媒体11を基板として、該固体レーザー媒体11上に磁気光学材12を結晶成長させる(工程S2)。このとき、液相エピタキシャル成長法(LPE)により磁気光学材12を結晶成長させることが好ましい。液相エピタキシャル成長の方法としては、通常の方法を採用することができる。例えば、白金ルツボ中で磁気光学材12の材料を加熱融解し、磁気光学材12の融液面に基板である固体レーザー媒体11の一面に付けることによって行うことができる。
【0041】
磁気光学材12の材料としては一般に磁気光学材として使用可能な材料を用いることができる。その中でも、磁気光学材12をビスマス置換希土類鉄ガーネットとすることが好ましい。ビスマス置換希土類鉄ガーネットは、Qスイッチを構成する磁気光学材12の材料として優れている。また、結晶成長用基板でもある固体レーザー媒体11の材料として、上記のイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)、又はCaMgZr置換型ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(SGGG)を用いる場合、磁気光学材12がビスマス置換希土類鉄ガーネットであれば、同じガーネット同士であるため結晶成長しやすい。
【0042】
以上のようなQスイッチ構造体の製造方法により製造されたQスイッチ構造体を用いて、該Qスイッチ構造体と、磁束発生器を、一対の共振ミラーの間に配置してQスイッチ固体レーザー装置を製造することができる。
【実施例0043】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
[実施例1-1]
以下のようにして、
図1、2に示したQスイッチ構造体10を製造した。
【0045】
まず、CaMgZr置換型ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(SGGG)にNdをドープした固体レーザー媒体11(Nd:SGGG)を準備した(
図4の工程S1)。この固体レーザー媒体11は、厚さ1.5mmであり、直径1インチ(25.4mm)の基板材とした。この固体レーザー媒体11を結晶成長用基板として用いた。
【0046】
次に、白金ルツボ中に、Tb
4O
7、Eu
2O
3、Fe
2O
3、Ga
2O
3、Bi
2O
3を投入し、1050℃で加熱溶融した。その後、加熱溶融した融液を850℃へ低下させた。次に、上記の結晶成長用基板である固体レーザー媒体11を、白金ルツボ中の融液面に付け、LPE法で250μm結晶成長させた(
図4の工程S2)。これにより、固体レーザー媒体11上に磁気光学材12(ビスマス置換希土類鉄ガーネット)を結晶成長させ、固体レーザー媒体11と磁気光学材12が直接接合して一体化したQスイッチ構造体10を製造した。
【0047】
この磁気光学材12の結晶表面、及び、基板である固体レーザー媒体11の表面に光学研磨を施し、波長1064nmの赤外線を照射したときにファラデー回転角度45degとなるように調整した。
【0048】
このQスイッチ構造体10(固体レーザー媒体11と磁気光学材12の一体化したサンプル)の光学特性を評価するため、磁気光学材12及び固体レーザー媒体11の表面(研磨面)の双方に耐空気反射防止膜コーティングを施し、光学特性評価を行った。その結果、挿入損失1.1dB、消光比29dBを得た。なお、消光比が30dBに満たないのは、固体レーザー媒体11と磁気光学材12の間の屈折率差に伴う界面反射の影響であり、この材料の組み合わせとしては許容範囲内である。
【0049】
[実施例1-2]
実施例1-1と同様にQスイッチ構造体10を製造したが、ファラデー回転角度を22.5degに研磨で厚さ調整した。このとき、実施例1-1と同様に光学特性評価を行ったところ、挿入損失0.65dB、消光比29dBを得、回転角度は小さいが磁気光学材12の部分での挿入損失を低減することができた。
【0050】
[実施例1-3]
実施例1-1と同様に製造したQスイッチ構造体10において、固体レーザー媒体11の表面に第1の共振ミラー21の層、磁気光学材12の表面に第2の共振ミラー22の層を形成することで、Qスイッチ固体レーザー装置20を製造することができた。
【0051】
[実施例2-1]
以下のようにして、
図1、2に示したQスイッチ構造体10を製造した。
【0052】
まず、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)にNdをドープした固体レーザー媒体11(Nd:GGG)を準備した(
図4の工程S1)。この固体レーザー媒体11は、厚さ1.5mmであり、直径1インチ(25.4mm)の基板材とした。この固体レーザー媒体11を結晶成長用基板として用いた。
【0053】
次に、白金ルツボ中に、Tb
4O
7、Yb
2O
3、Fe
2O
3、Al
2O
3、Bi
2O
3を投入し、1100℃で加熱溶融した。その後、加熱溶融した融液を850℃へ低下させた。次に、上記の結晶成長用基板である固体レーザー媒体11を、白金ルツボ中の融液面に付け、LPE法で300μm結晶成長させた(
図4の工程S2)。これにより、固体レーザー媒体11上に磁気光学材12(ビスマス置換希土類鉄ガーネット)を結晶成長させ、固体レーザー媒体11と磁気光学材12が直接接合して一体化したQスイッチ構造体10を製造した。
【0054】
この磁気光学材12の結晶表面、及び、基板である固体レーザー媒体11の表面に光学研磨を施し、波長1064nmの赤外線を照射したときにファラデー回転角度22.5degとなるように調整した。
【0055】
このQスイッチ構造体10(固体レーザー媒体11と磁気光学材12の一体化したサンプル)の光学特性を評価するため、磁気光学材12及び固体レーザー媒体11の表面(研磨面)の双方に耐空気反射防止膜コーティングを施し、光学特性評価を行った。その結果、挿入損失0.7dB、消光比30dBを得た。なお、消光比が30dBと低いのは、固体レーザー媒体11と磁気光学材12の間の屈折率差に伴う界面反射の影響であり、この材料の組み合わせとしては許容範囲内である。
【0056】
[実施例2-2]
実施例2-1と同様に製造したQスイッチ構造体10において、固体レーザー媒体11の表面に第1の共振ミラー21の層、磁気光学材12の表面に第2の共振ミラー22の層を形成することで、Qスイッチ固体レーザー装置20を製造することができた。
【0057】
[実施例3-1]
以下のようにして、
図1、2に示したQスイッチ構造体10を製造した。
【0058】
まず、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)にNdをドープした固体レーザー媒体11(Nd:GGG)を準備した(
図4の工程S1)。この固体レーザー媒体11は、厚さ1.5mmであり、直径1インチ(25.4mm)の基板材とした。この固体レーザー媒体11を結晶成長用基板として用いた。
【0059】
次に、白金ルツボ中に、Pr
2O
3、Lu
2O
3、Fe
2O
3、Ga
2O
3、Bi
2O
3を投入し、1100℃で加熱溶融した。その後、加熱溶融した融液を850℃へ低下させた。次に、上記の結晶成長用基板である固体レーザー媒体11を、白金ルツボ中の融液面に付け、LPE法で120μm結晶成長させた(
図4の工程S2)。これにより、固体レーザー媒体11上に磁気光学材12(ビスマス置換希土類鉄ガーネット)を結晶成長させ、固体レーザー媒体11と磁気光学材12が直接接合して一体化したQスイッチ構造体10を製造した。
【0060】
この磁気光学材12の結晶表面、及び、基板である固体レーザー媒体11の表面に光学研磨を施し、波長1064nmの赤外線を照射したときにファラデー回転角度7.5degとなるように調整した。
【0061】
このQスイッチ構造体10(固体レーザー媒体11と磁気光学材12の一体化したサンプル)の光学特性を評価するため、磁気光学材12及び固体レーザー媒体11の表面(研磨面)の双方に耐空気反射防止膜コーティングを施し、光学特性評価を行った。その結果、挿入損失0.6dB、消光比30dBを得た。
[実施例3-2]
実施例3-1と同様に製造したQスイッチ構造体10において、固体レーザー媒体11の表面に第1の共振ミラー21の層、磁気光学材12の表面に第2の共振ミラー22の層を形成することで、Qスイッチ固体レーザー装置20を製造することができた。
【0062】
実施例3-1、3-2の組成では、磁気光学材12が面内磁気異方性を示し、磁気ヒステリシスが急峻であることから、Qスイッチを作製した場合の低磁束駆動が可能になる。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。