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  • 特開-ケラチノサイト分化誘導剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182819
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ケラチノサイト分化誘導剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/661 20060101AFI20221201BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20221201BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20221201BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20221201BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A61K31/661
A61K8/55 ZNA
A61Q7/00
A23L33/10
A61P17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090560
(22)【出願日】2021-05-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ「画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明」研究開発領域」「脂質による体表面バリア形成の分子機構の解明」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】向井 克之
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 靖之
(72)【発明者】
【氏名】湯山 耕平
(72)【発明者】
【氏名】門出 健次
(72)【発明者】
【氏名】村井 勇太
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE02
4B018MD07
4B018MD45
4B018ME14
4B018MF10
4C083AD571
4C083CC37
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA42
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA92
(57)【要約】      (修正有)
【課題】より効率的にケラチノサイト分化誘導が可能な有効成分を提供する。
【解決手段】スフィンゴイド塩基-1-リン酸を含む、ケラチノサイト分化誘導剤とする。好ましくは、スフィンゴイド塩基-1-リン酸のスフィンゴイド塩基が植物由来であり、より好ましくは、スフィンゴイド塩基-1-リン酸が、トランス-4,シス-8-スフィンガジエニン-1-リン酸である、ケラチノサイト分化誘導剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴイド塩基-1-リン酸を含む、ケラチノサイト分化誘導剤。
【請求項2】
前記スフィンゴイド塩基-1-リン酸のスフィンゴイド塩基が植物由来である、請求項1に記載のケラチノサイト分化誘導剤。
【請求項3】
前記スフィンゴイド塩基-1-リン酸が、トランス-4,シス-8-スフィンガジエニン-1-リン酸である、請求項2に記載のケラチノサイト分化誘導剤。
【請求項4】
前記スフィンゴイド塩基-1-リン酸のスフィンゴイド塩基が動物由来である、請求項1に記載のケラチノサイト分化誘導剤。
【請求項5】
前記スフィンゴイド塩基-1-リン酸が、トランス-4-スフィンゲニン-1-リン酸である、請求項4に記載のケラチノサイト分化誘導剤。
【請求項6】
医薬品である、請求項1~5のいずれかに記載のケラチノサイト分化誘導剤。
【請求項7】
飲食品である、請求項1~5のいずれかに記載のケラチノサイト分化誘導剤。
【請求項8】
化粧品である、請求項1~5のいずれかに記載のケラチノサイト分化誘導剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ケラチノサイト分化誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚は、表皮、真皮及び皮下組織の三層から構成され、なかでも表皮は、皮膚の最外層に位置し、外界との境目になる器官であり、水分蒸散、微生物や物理化学的な刺激等から生体を防御するバリアとしての役割を果たしている。
【0003】
表皮は、内側から「基底層」、「有棘層」、「顆粒層」および「角質層(角層)」に分けられ、主にケラチノサイト(角化細胞)と呼ばれる細胞から構成されている。ケラチノサイトは、最下層の基底層では分裂能力を有する未熟な細胞として単層を形成し、分裂増殖して上層に押し上げられながらその過程で細胞分化(「角化」)を起こして、最終的に核のない死細胞である角質細胞となり、垢となって脱落していく。表皮では、このケラチノサイトの増殖、移動、分化、そして脱落の過程が一定の周期で生じて常に角質層が円滑にターンオーバーすることによって恒常性が保たれているが、例えば加齢や疾患等によって、ケラチノサイトの増殖や分化が抑制されると、皮膚の機能が十分果たせなくなる。このように、ケラチノサイトの分化促進は、皮膚の新陳代謝の促進、皮膚のバリア機能の維持、および皮膚の創傷の治癒において重要である。
【0004】
ケラチノサイトの分化を促進しうる薬剤について、これまでに種々研究されている。例えば、特許文献1には、プロラクチンが皮膚繊維芽細胞からのコラーゲン産生促進作用ならびに表皮ケラチノサイトの分化促進作用を有することが開示されている。また、特許文献2には、植物由来セラミドを有効成分とするケラチノサイト分化誘導剤が開示されており、具体的に、未分化ヒト正常表皮角化細胞(ケラチノサイト、NHEK)を培養した培地1mLに5mMのセラミド溶液を5μL加えた場合に、植物由来セラミドではケラチノサイト分化誘導能が認められ、動物由来セラミドではケラチノサイト分化誘導能が認められないことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-149557号公報
【特許文献2】特開2018-177684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり植物由来セラミドにはケラチノサイト分化誘導剤の有効成分としての機能が認められるが、ケラチノサイト分化誘導能を発現させるには細胞実験でも25μM程度が必要となる点で、効果発現の効率に改善の余地がある。
【0007】
本開示は、より効率的に(つまり、より少量で)ケラチノサイト分化誘導が可能な有効成分を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、植物性セラミドの代謝物である植物性スフィンゴイド塩基をリン酸化した構造とすることによって、植物性セラミドよりも1オーダー又は2オーダーもの少ない量であってもケラチノサイトの分化誘導が可能となることを予期せず見出した。さらに、ケラチノサイト分化誘導が無い動物性セラミドの代謝物である動物性スフィンゴイド塩基をリン酸化した構造とすることによって、少量であってもケラチノサイトの分化誘導能を発現することも予期せず見出した。本開示はこの知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. スフィンゴイド塩基-1-リン酸を含む、ケラチノサイト分化誘導剤。
項2. 前記スフィンゴイド塩基-1-リン酸のスフィンゴイド塩基が植物由来である、項1に記載のケラチノサイト分化誘導剤。
項3. 前記スフィンゴイド塩基-1-リン酸が、トランス-4,シス-8-スフィンガジエニン-1-リン酸である、項2に記載のケラチノサイト分化誘導剤。
項4. 前記スフィンゴイド塩基-1-リン酸のスフィンゴイド塩基が動物由来である、項1に記載のケラチノサイト分化誘導剤。
項5. 前記スフィンゴイド塩基-1-リン酸が、トランス-4-スフィンゲニン-1-リン酸である、項4に記載のケラチノサイト分化誘導剤。
項6. 医薬品である、項1~5のいずれかに記載のケラチノサイト分化誘導剤。
項7. 飲食品である、項1~5のいずれかに記載のケラチノサイト分化誘導剤。
項8. 化粧品である、項1~5のいずれかに記載のケラチノサイト分化誘導剤。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、より効率的にケラチノサイト分化誘導が可能な有効成分が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】動物型S1P及び植物型S1Pのケラチノサイト分化誘導効果を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、スフィンゴイド塩基-1-リン酸を含む、ケラチノサイト分化誘導剤である。以下、本開示のケラチノサイト分化誘導剤の実施形態について詳述する。
【0013】
有効成分
本開示のケラチノサイト分化誘導剤の有効成分であるスフィンゴイド塩基-1-リン酸は、セラミドの代謝物に相当するスフィンゴイド塩基の1位の炭素原子に結合した水酸基がリン酸化した構造を有する。スフィンゴイド塩基は、少なくとも1位と3位の炭素原子に水酸基が結合し且つ2位の炭素原子にアミノ基が結合した長鎖アミノアルコールである。スフィンゴイド塩基の炭素数としては特に限定されないが、例えば12~22、好ましくは16~19、より好ましくは18が挙げられる。スフィンゴイド塩基としては、植物性セラミドの代謝物である植物性スフィンゴイド塩基であってもよいし、動物性セラミドの代謝物である動物性スフィンゴ塩基であってもよい。
【0014】
上記植物性セラミドの由来植物としては特に限定されず、例えば、コンニャク、サツマ芋、ジャガ芋、サト芋、ヤマ芋、ナガ芋、タロイモ等の芋類;コメ、コムギ等の穀類;アーモンド、アオサ、アオノリ、アカザ、アカシア、アカネ、アカブドウ、アカマツ(松ヤニ、琥珀、コーパルを含む。以下マツ類については同じ)、アガリクス、アキノノゲシ、アケビ、アサガオ、アザレア、アジサイ、アシタバ、アズキ、アスパラガス、アセロラ、アセンヤク、アニス、アボガド、アマクサ、アマチャ、アマチャヅル、アマナツ、アマリリス、アルテア、アルニカ、アロエ、アンジェリカ、アンズ、アンコール、アンソッコウ、イグサ、イザヨイバラ、イチイ、イチジク、イチョウ、イヨカン、イランイラン、ウイキョウ、ウーロン茶、ウコン、ウスベニアオイ、ウツボグサ、ウド、ウメ、ウラジロガシ、温州ミカン、エイジツ、エシャロット、エゾウコギ、エニシダ、エノキタケ、エルダーフラワー、エンドウ、オーキッド、オウゴンカン、オオバコ、オオヒレアザミ、オオムギ、オケラ、オスマンサス、オトギリソウ、オドリコソウ、オニドコロ、オリーブ、オレガノ、オレンジ(オレンジピールを含む)、カーネーション、カカオ、カキ、カキドオシ、カクテルフルーツ、カッコン、カシワ、カタクリ、カボチャ、カミツレ、カムカム、カモミール、カラスウリ、カラマツ、カラマンダリン、カリン、ガルシニア、カルダモン、カワチバンカン、カンペイ、キイチゴ、キウイ、キキョウ、キャベツ(ケールを含む)、キャラウェイ、キュウリ、キヨミ、キンカン、ギンナン、グァバ、クコ、クズ、クチナシ、クミン、クランベリー、クルミ、グレープフルーツ、クレメンタイン、クローブ、クロマツ、クロマメ、クロレラ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、コケモモ、コショウ、コスモス、ゴボウ、ゴマ、コマツナ、コリアンダー、コンブ、サーモンベリー、サイプレス、ザクロ、サトウキビ、サトウダイコン、サフラン、ザボン、サンザシ、サンショウ、シイタケ、シクラメン、シソ、シメジ、シャクヤク、ジャスミン、ジュズダマ、シュンギク、ショウガ、ショウブ、シラカシ、ジンチョウゲ、シンナモン、スイカ、スイトピー、スイートスプリング、スギナ、スターアニス、スターアップル、スダチ、ステビア、スモモ、セージ(サルビア)、セトカ、ゼニアオイ、セミノール、セロリ、センキュウ、センブリ、ソバ、ソラマメ、ダイコン、ダイズ(おからを含む)、ダイダイ、タイム、タケノコ、タマネギ、タラゴン、タロイモ、タンカン、タンゴール、タンジン、タンゼロ、タンポポ、チコリ、ツキミソウ、ツクシ、ツバキ、ツボクサ、ツメクサ、ツルクサ、ツルナ、ツワブキ、ディル、デコポン、テンジクアオイ(ゼラニウム)、トウガ、トウガラシ、トウキ、トウチュウカソウ、トウモロコシ、ドクダミ、トコン、トチュウ、トネリコ、ナズナ、ナツミ、ナツミカン、ナツメグ、ナンテン、ニガウリ、ニガヨモギ、ニラ、ニンジン、ニンニク、ネギ、ノコギリソウ、ノコギリヤシ、ノビル、バーベナ、パーム、パイナップル、ハイビスカス、ハコベ、バジル、パセリ、ハダカムギ、ハッサク、ハッカ、ハトムギ、バナナ、バナバ、バニラ、パプリカ、ハマメリス、ハルカ、ハルミ、ハレヒメ、バンペイユ、ビート、ピーマン、ヒガンバナ、ヒシ、ヒジキ、ピスタチオ、ヒソップ(ヤナギハッカ)、ヒナギク、ヒナゲシ、ヒノキ、ヒバ、ヒマシ、ヒマワリ、ヒメノツキ、ヒュウガナツ、ビワ、ファレノプシス、フェネグリーク、フキノトウ、ブラックベリー、プラム、ブルーベリー(ビルベリーを含む)、プルーン、ブンタン、ヘチマ、ベニバナ、ベニマドンナ、ベラドンナ、ベルガモット、ホウセンカ、ホウレンソウ、ホオズキ、ボダイジュ、ボタン、ホップ、ホホバ、ポンカン、マイタケ、マオウ、マカ、マカデミアンナッツ、マーコット、マタタビ、マリーゴールド、マリヒメ、マンゴー、ミツバ、ミネオラ、ミモザ、ミョウガ、ミルラ、ムラサキ、メース、メリッサ、メリロート、メロン、メン(綿実油粕を含む)、モヤシ、ヤグルマソウ、ヤマユリ、ヤマヨモギ、ユーカリ、ユキノシタ、ユズ、ユリ、ヨクイニン、ヨメナ(アスター)、ヨモギ、ライム、ライムギ、ライラック、ラズベリー、ラッカセイ、ラッキョウ、リンゴ(アップルファイバーを含む)、リンドウ、レイコウ、レイシ、レタス、レモン、レンゲソウ、レンコン、ローズヒップ、ローズマリー、ローリエ、ワケギ、ワサビ(セイヨウワサビを含む)等が挙げられ、ケラチノサイト分化誘導効果をより一層効率的に発現させる観点から、より好ましくはコンニャク、サツマ芋、ジャガ芋、サト芋、ヤマ芋、ナガ芋等の芋類;コメ;コムギ、より好ましくは芋類、更に好ましくはコンニャクが挙げられる。
【0015】
植物性セラミドの代謝物である植物由来のスフィンゴイド塩基の具体例としては特に限定されないが、通常、少なくとも8-9位炭素間結合が二重結合であるものが挙げられ、具体的には、4-ヒドロキシ-トランス-8-スフィンゲニン、4-ヒドロキシ-シス-8-スフィンゲニン、トランス-8-スフィンゲニン、シス-8-スフィンゲニン、トランス-4,トランス-8-スフィンガジエニン、トランス-4,シス-8-スフィンガジエニン、シス-8-スフィンゲニン等が挙げられる。これらの中でも、ケラチノサイト分化誘導効果をより一層効率的に発現させる観点から、より好ましくはトランス-4,シス-8-スフィンガジエニン、トランス4-トランス8-スフィンガジエニン、シス-8-スフィンゲニンが挙げられ、さらに好ましくはトランス-4,シス-8-スフィンガジエニンが挙げられる。
【0016】
すなわち、本開示の好ましい実施形態における有効成分の具体例としては、下記式(i)に示すトランス-4,シス-8-スフィンガジエニン-1-リン酸、下記式(ii)に示すトランス4-トランス8-スフィンガジエニン-1-リン酸、下記式(iii)に示すシス-8-スフィンゲニン-1-リン酸が挙げられ、特に好ましくは下記式(i)に示すトランス-4,シス-8-スフィンガジエニン-1-リン酸が挙げられる。
【0017】
【化1】
【0018】
上記動物性セラミドの由来動物としては特に限定されず、例えば、ウニ、ヒトデ、タコ、イカ等の棘皮動物及び軟体動物、ヒト、ウマ、ウシ、ヤギ等の哺乳動物等が挙げられる。
【0019】
動物性セラミドの代謝物である動物由来のスフィンゴイド塩基の具体例としては、通常、少なくとも4-5位炭素間結合が二重結合であるものが挙げられ、具体的には、スフィンゴシン(トランス-4-スフィンゲニン)が挙げられる。
【0020】
すなわち、本開示の好ましい実施形態における有効成分の別の具体例としては、下記式(iv)に示すトランス-4-スフィンゲニン-1-リン酸が挙げられる。
【0021】
【化2】
【0022】
本開示のケラチノサイト分化誘導剤において、有効成分は、スフィンゴイド塩基-1-リン酸のいずれか1種を単独で用いてもよいし、異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。ケラチノサイト分化誘導効果をより一層効率的に発現させる観点から、上記の有効成分の中でも、好ましくは植物由来のスフィンゴイド塩基-1-リン酸が挙げられる。
【0023】
スフィンゴイド塩基-1-リン酸の合成方法としては、スフィンゴ糖脂質を原料とする方法、及び長鎖エナールと4-カルボニルオキサゾリジン化合物とを原料とする方法等が挙げられる。
【0024】
スフィンゴイド塩基-1-リン酸の合成方法のうち、スフィンゴ糖脂質を原料とする方法の具体例としては、スフィンゴ糖脂質を加水分解に供し、糖及び脂肪酸を遊離させる工程、加水分解物からスフィンゴイド塩基を回収する工程、及びスフィンゴイド塩基をリン酸化する工程を含む方法が挙げられる。
【0025】
上記のスフィンゴイド糖脂質は、セラミドの第1級アルコール性ヒドロキシ基に糖が結合した糖脂質であり、糖としては、グルコース、ガラクトース、又は糖鎖等が挙げられる。この合成方法において、原料となるスフィンゴイド糖脂質としては、上記の植物又は動物から抽出して調製したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0026】
スフィンゴイド塩基-1-リン酸の合成方法のうち、長鎖エナールと4-カルボニルオキサゾリジン化合物とを原料とする方法の具体例としては、長鎖エナールと4-カルボニルオキサゾリジン化合物とをアルドール縮合してエノンを合成する工程と、エノンのカルボニル基を還元する工程と、オキサゾリジン環を開環して水酸基を生じさせる工程と、水酸基をリン酸化する工程とを含む。
【0027】
上記の長鎖エナールは、合成すべきスフィンゴイド塩基-1-リン酸の炭素数より3少ない炭素数のエナール(二重結合を有する長鎖アルデヒド)である。上記の4-カルボニルオキサゾリジン化合物は、オキサゾリジン環を基本骨格とし、オキサゾリジン環の2位の水素の少なくともいずれかがアルキル基で置換されていてもよく、3位にN-保護基を有し、α水素を有するカルボニル基が4位に結合している化合物である。上記保護基としては、アミノ窒素の保護基となりうる基であれば特に限定されず、例えば、t-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、p-メトキシベンジルオキシカルボニル基、2-(p-ビフェニル)インプロピルオキシカルボニル基等が挙げられる。上記アルキル基としては、炭素数1~6、好ましくは1~5、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~3、一層好ましくは1~2のアルキル基が挙げられる。α水素を有するカルボニル基としては、例えば2-モノ-又はジーアルコキシホスホリルアセチル基、好ましくは2-ジアルコキシホスホリルアセチル基が挙げられる。当該アルコキシ基としては、炭素数1~6、好ましくは1~5、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~3、一層好ましくは1~2のアルコキシ基が挙げられる。
【0028】
本開示のケラチノサイト分化誘導剤におけるスフィンゴイド塩基-1-リン酸の含有量としては、本開示の効果を奏する限りにおいて特に制限されず、用途、剤型、投与形態等に応じて適宜調整することができる。
【0029】
添加成分
本開示のケラチノサイト分化誘導剤は、前述したスフィンゴイド塩基-1-リン酸以外に、本開示の効果を損なわない範囲で、剤型に応じて、他の添加成分を含有していてもよい。本開示のケラチノサイト分化誘導剤に含有され得る添加成分としては、例えば、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、植物抽出エキス類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、アルコール、多価アルコール、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤などが挙げられる。これらの添加成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加成分の含有量については、使用する添加成分の種類や本開示のケラチノサイト分化誘導剤の剤型等に応じて適宜設定される。
【0030】
剤型・製剤形態・用途
本開示のケラチノサイト分化誘導剤の剤型については、特に制限されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよく、ケラチノサイト分化誘導剤の種類や用途に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
本開示のケラチノサイト分化誘導剤の投与方法としては、特に制限されず、適用する疾患の種類等に応じて適宜選択すればよく、全身投与であっても、局所投与であってもよい。具体的には、経口、経血管内(動脈内又は静脈内)、経皮、経腸、経肺、経鼻投与等が挙げられる。血管内投与には、血管内注射、持続点滴も含まれる。なかでも、投与が容易な点で、経皮投与、経口投与が好ましい。
【0032】
本開示のケラチノサイト分化誘導剤の製剤形態については、特に制限されず、投与方法に適した製剤形態に適宜設定することができ、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、噴霧剤、乳液剤、懸濁液剤、パップ剤、貼付剤、リニメント剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤、注射剤、点滴剤、坐剤等の任意の製剤形態を挙げることができる。例えば、本開示のケラチノサイト分化誘導剤の投与形態が経皮投与である場合は、経皮投与が可能であることを限度として特に制限されないが、具体的には、化粧品、医薬品(外用医薬品)等の皮膚外用剤が挙げられる。
【0033】
例えば、本開示のケラチノサイト分化誘導剤を化粧品として使用する場合、本開示のケラチノサイト分化誘導剤を香粧学的に許容される基材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような化粧料の形態としては、特に制限されないが、具体的には、クリーム剤、乳液、化粧水(ローション)、パック、洗浄剤、メーキャップ化粧料、頭皮・毛髪用品、オイル、リップ、口紅、ファンデーション、アイライナー、頬紅、マスカラ、アイシャドー、マニキュア・ペディキュア(及び除去剤)、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント、パーマネント剤、染毛料、ひげ剃り剤、石けん(ハンドソープ、ボディソープ、洗顔料)などが挙げられる。
【0034】
また、本開示のケラチノサイト分化誘導剤を医薬品(外用医薬品)に使用する場合、本開示のケラチノサイト分化誘導剤を単独で、又は他の薬理活性成分、薬学的に許容される基剤や添加成分等と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような外用医薬品の形態としては、特に制限されないが、具体的には、乳液剤、懸濁液剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、噴霧剤、貼付剤、パップ剤、リニメント剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤などの経皮投与製剤などが挙げられる。
【0035】
本開示のケラチノサイト分化誘導剤が皮膚外用剤の製剤形態である場合、有効成分であるスフィンゴイド塩基-1-リン酸の含有量としては、ケラチノサイトの分化が誘導される限り特に制限されず、製剤形態に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~90質量%が挙げられ、好ましくは0.2~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%が挙げられる。
【0036】
また、本開示のケラチノサイト分化誘導剤の製剤形態について、例えば、本開示のケラチノサイト分化誘導剤の投与形態が経口投与である場合は、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、具体的には、飲食品及び医薬品(内服用医薬品)が挙げられる。
【0037】
本開示のケラチノサイト分化誘導剤を飲食品として使用する場合、本開示のケラチノサイト分化誘導剤を、そのまま又は他の食品素材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような飲食品としては、一般の飲食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品等が挙げられる。これらの飲食品の形態として、特に制限されないが、具体的にはカプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、リポソーム製剤等のサプリメント;栄養ドリンク、果汁飲料、炭酸飲料、乳酸飲料等の飲料;団子、アイス、シャーベット、グミ、キャンディー等の嗜好品;等が例示される。これらの飲食品の中でも、好ましくはサプリメント、より好ましくはカプセル剤が挙げられる。
【0038】
本開示のケラチノサイト分化誘導剤を医薬品(内服用医薬品)として使用する場合、本開示のケラチノサイト分化誘導剤を、そのまま又は他の添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような内服用医薬品としては、具体的には、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、シロップ剤、リポソーム製剤等が挙げられる。これらの内服用医薬品の中でも、好ましくはカプセル剤、更に好ましくはソフトカプセル剤が挙げられる。
【0039】
本開示のケラチノサイト分化誘導剤が飲食品又は医薬品(内服用医薬品)の製剤形態である場合、有効成分であるスフィンゴイド塩基-1-リン酸の含有量としては、ケラチノサイトの分化が誘導される限り特に制限されず、製剤形態に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~90質量%が挙げられ、好ましくは0.2~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%が挙げられる。
【0040】
本開示のケラチノサイト分化誘導剤は、ケラチノサイトの分化誘導の用途に使用される。また、本開示のケラチノサイト分化誘導剤は、ケラチノサイトの分化を誘導することによって改善が見込まれる症状や疾患の治療又は予防目的で使用することができる。具体的には、本開示のケラチノサイト分化誘導剤は、皮膚の老化、シミ、シワ、たるみ、そばかす等の防止;乾癬、角化症、皮膚炎等の皮膚疾患の改善等に好適に適用することができる。
【0041】
本開示のケラチノサイト分化誘導剤の使用量については、特に制限されず、製剤形態、用途、投与対象等に応じて、ケラチノサイトの分化を誘導できる有効量を適宜設定すればよい。
【0042】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【実施例0043】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【0044】
[合成例]
本開示のスフィンゴイド塩基-1-リン酸を、以下のようにして合成した。
【0045】
化合物(1)の合成
100mLのナス型フラスコに、tert-ブチル(S)-4-(2-(ジメトキシホスホリル)アセチル)-2,2-ジメチルオキサゾリジン-3-カルボン酸エステル(930mg,2.65mmol)及び(Z)-ペンタデカ-5-エナール(476mg,2.12mmol)を1:1の体積比率のテトラヒドロフラン/水溶媒30mLに溶解させ、炭酸カリウム(1.83g,13.25mmol)を加えて、反応温度を40℃に上げ、12時間反応させた。反応後、溶媒をエバポレータで除去し、残った反応物残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=体積比10:1)で精製することで、化合物(1)(810mg,収率87%)を無色油状で得た。
【0046】
1H NMR (500MHz, CDCl3) δ = 7.01 - 6.81 (m, 1 H), 6.31 - 6.18 (m, 1 H), 5.51 - 5.20 (m, 2 H), 4.73 - 4.41 (m, 1 H), 4.12 (d, J = 7.9 Hz, 1 H), 4.00 - 3.81 (m, 1 H), 2.31 - 1.12 (m, 35 H), 0.89 (t, 3H).
13C NMR (126MHz, CDCl3) δ = 188.1, 186.1, 146.7, 130.5, 126.4, 125.5, 94.1, 81.4, 66.9, 64.1, 32.7-24.1.
HRMS (m/z): [M+H]+ calculated for C26H46NO4: 435.3347; found 435.3343.
【0047】
【化3】
【0048】
化合物(2)の合成
0.2M Zn(BH42のテトラヒドロフラン溶液を-78℃にて攪拌し、化合物(1)(733mg,1.68mmol)をゆっくり滴下しながら加えた。反応温度を徐々に0℃に上げ、その後、6時間、攪拌させた。飽和塩化アンモニウム水溶液をゆっくり滴下し、反応をクエンチ後、反応化合物を酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて乾燥させた。酢酸エチルをエバポレーターで除去後、残った反応物残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=体積比6:1)で精製することで、化合物(2)(580mg,収率78%)を無色油状で得た。
【0049】
1H NMR (500MHz, CDCl3) δ = 5.86 - 5.12 (m, 4 H), 4.22 - 3.74 (m, 4H), 2.17 - 0.61 (m, 35 H), 0.89 (t, 3H).
13C NMR (126MHz, CDCl3) δ = 186.1, 132.1, 131.5, 131.4, 127.7, 93.4, 80.1, 73.5, 64.6, 62.1, 32.5-21.2, 21.6, 13.1.
HRMS (m/z): [M+H]+ calculated for C26H48NO4: 447.3821; found 447.3834.
【0050】
【化4】
【0051】
化合物(3)の合成
化合物(2)(398mg,0.91mmol)をメタノール(20mL)に溶解し、そこにp-トルエンスルホン酸(50mg,0.26mmol)を加え、24時間、室温で攪拌した。炭酸水素ナトリウムにて反応を中和後、メタノールをエバポレーターで除去し、残った反応物残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=体積6:1→1:1)で精製することで、化合物(3)(251mg,収率69%)を無色油状で得た。
【0052】
1H NMR (500MHz, CDCl3) δ = 5.87 - 5.10 (m, 4 H), 4.20 (br. s., 1 H), 3.92 - 3.40 (m, 5 H), 2.07 (br. s., 4 H), 2.00 - 1.87 (m, 2 H), 1.40 (br. s., 9 H), 1.23 (br. s., 14 H), 0.84 (t, J = 6.6 Hz, 3 H).
13C NMR (126MHz, CDCl3) δ = 156.3, 133.0, 129.5, 128.5, 79.6, 74.0, 62.3, 55.6, 32.4, 31.9, 29.7, 29.5, 29.3, 28.3, 27.3, 26.7, 22.6, 14.0.
【0053】
【化5】
【0054】
化合物(4)の合成
化合物(3)(170mg,0.427mmol)をジクロロメタン(3mL)に溶解し、0℃に冷却後、N-メチルイミダゾール(50.6μL,0.642mmol)とジメチルクロロホスホネート(55.3μL,0.513mmol)をゆっくり滴下し、加えた。反応温度を室温に上げ、1時間攪拌後、再び反応温度を0℃に冷やした。飽和塩化アンモニウム水溶液をゆっくり滴下し、反応をクエンチ後、反応化合物をジクロロメタンにて抽出し、硫酸マグネシウムにて乾燥させた。ジクロロメタンをエバポレーターで除去後、残った反応物残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=体積比1:2)で精製することで、化合物(4)(174mg,収率80%)を無色油状で得た。
【0055】
1H NMR (500MHz, CDCl3) δ = 5.78 - 5.11 (m, 4 H), 4.32 - 4.17 (m, 1 H), 4.13 - 4.01 (m, 2 H), 3.74 (brs, 1 H), 3.72 (s, 3 H), 3.70 (s, 3 H), 3.62 (br. s., 1 H), 2.04 (br. s., 4 H), 1.94 (q, J = 6.7 Hz, 2 H), 1.37 (br. s., 9 H), 1.28 - 1.15 (m, 14 H), 0.81 (t, J = 7.1 Hz, 3 H).
13C NMR (126MHz, CDCl3) δ = 155.6, 133.4, 130.5, 129.2, 128.5, 79.4, 72.2, 66.7, 66.6, 55.0, 54.4, 32.4, 31.8, 29.6, 29.5, 29.5, 29.2, 28.3, 28.2, 27.2, 26.7, 22.6.
【0056】
【化6】
【0057】
化合物(5)の合成
化合物(4)(63mg,0.124mmol)をアセトニトリル(2mL)に溶解し、0℃に冷却後、テトラメチルシリルブロミド(78μL,0.6mmol)をゆっくり滴下し、加えた。反応温度を室温に上げ、3時間攪拌後、アセトニトリルをエバポレーターで除去した。さらに95:5の体積比率のメタノール/水溶液(5mL)を反応系に加え、1時間、室温で攪拌し、過剰のテトラメチルシリルブロミドを分解後、溶媒をエバポレーターで除去し、反応物残渣を得た。残渣物はアンバライトXAD4樹脂に供し、メタノール水溶液(0%から50体積%の濃度勾配をかけた。)によって溶出することで、化合物(i)(32.3mg,68%)を白色粘性状で得た。以下において、化合物(i)を「植物型S1P」とも記載する。
【0058】
1H NMR (500MHz, CD3OD): δ = 5.91 (m, 1 H), 5.34 - 5.59 (m, 3 H), 4.14 - 4.38 (m, 2 H), 4.09 (m, 1 H), 3.42 (m, 1 H), 1.92 - 2.18 (m, 6 H), 1.31 (brs., 14 H), 0.85 - 0.97 (t, 3 H).
13C NMR (126MHz, CD3OD): δ = 134.9, 130.1, 128.4, 127.2, 69.2, 62.6, 55.6, 32.2, 31.7, 29.5, 29.4, 29.1, 28.9, 26.9, 26.3, 22.4, 13.1.
【0059】
【化7】
【0060】
[試験例]
以下のスフィンゴイド塩基-1-リン酸を用い、ケラチノサイト分化誘導能を試験した。なお、スフィンゴイド塩基の記載形式である「dw:x」において、wは1分子当たりのスフィンゴイド部分の炭素数を表し、xは不飽和結合の数を表す。
【0061】
・植物型S1P:上記合成例で得られた化合物(i)であり、d18:24t8c-1Pとも表される。また、トランス-4,シス-8-スフィンガジエニン-1-リン酸、又は、(2S,3R,4E,8Z)-2-amino-3-hydroxyoctadeca-4,8-dien-1-yl dihydrogen phosphateと称呼される。
・動物型S1P:化合物(iv)であり、d18:24t-1Pとも表される。また、トランス-4-スフィンゲニン-1-リン酸、又は、(2S,3R,4E,8Z)-2-amino-3-hydroxyoctadeca-4,8-dien-1-yl dihydrogen phosphateと称呼される。
【0062】
12ウェルプレート(培養面積3.8cm2)に、ヒト皮膚ケラチノサイト(NHEK/SVTERT3-5:Evercyte製)細胞を1ウェルあたり0.4×105個となるように播種し、KGM-Gold Keratinocyte Growth Medium Bullet Kit(Lonza製)の培地1mLを加え、37℃、5%CO2の条件下で終夜培養した。ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた動物型S1P(d18:24t-1P)又は植物型S1P(d18:24t8c-1P)を終濃度0.1μM又は1μMとなるようにKGM-Gold Keratinocyte Growth Medium Bullet Kitの培地1mLに加えて攪拌し、動物型S1P又は植物型S1Pの懸濁液を調製した。コントロールには同体積のDMSOを用いた。各ウェルの培地を除去した後、調製した動物型S1P又は植物型S1Pの懸濁液を1mLずつ加え、24時間37℃、5%CO2の条件下で培養した。
【0063】
24時間後に、PureLink RNA Mini Kit(Invitrogen製)を用いて全RNA溶液を精製し、PrimeScriptTM RT reagent Kit(Perfect Real Time)(TAKARA製)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAをTB Green(R) Premix Ex TaqTM II (Tli RNaseH Plus)を用いて定量PCRを行った。
【0064】
具体的には、PCR用96ウェルプレートにTB Green Premix Ex Taq II5μL、水3.4μL、cDNA溶液1μL、10μMフォワード及びリバースプライマーの混合溶液0.4μL、ROX Reference Dye II0.2μLを加え、Stratagene製リアルタイム定量PCRシステムMx3000Pを用いて標準プログラムでPCRを行い、比較Ct法でINV(involucrin)のmRNA量を比較定量した。INVは、細胞表面で皮膚バリアを担う表皮セラミドの足場になるタンパク質であり、NHEKの分化が進むことで発現量が増大する遺伝子であり、この遺伝子の発現量が増大すると、NHEKの分化が進んでいる(つまり、ケラチノサイト分化誘導能が認められる)と判断できる。また、内部標準として60SリボソームタンパクP0(RPLP0)を用い、同様にしてその発現量を測定した。mRNA量は、各遺伝子のコントロール群のmRNA量を1としたときの相対量で示した。得られた値について、StudentのT検定による有意差検定を行った。なお、使用したプライマーに関する情報を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
結果を図1に示す。図1から明らかなとおり、未分化NHEKを動物型S1P又は植物型S1Pで処理することで、コントロール群と比べて、INVの発現量が有意に増大することが認められた。つまり、動物型S1P及び植物型S1Pいずれについてもケラチノサイト分化誘導が認められた。
【0067】
また、植物型S1Pの0.1μM処理濃度におけるINV発現量が動物型S1Pの1μM処理濃度におけるINV発現量と同等であったことから、植物型S1Pのほうが一層高いケラチノサイト分化誘導効果が認められた。
【配列表フリーテキスト】
【0068】
配列番号1は、INV用フォワードプライマーである。
配列番号2は、INV用リバースプライマーである。
配列番号3は、RPLP0用フォワードプライマーである。
配列番号4は、RPLP0用リバースプライマーである。
図1
【配列表】
2022182819000001.app