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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182823
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 15/00 20060101AFI20221201BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C30B15/00 Z
C30B29/06 502E
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090565
(22)【出願日】2021-05-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 寛貴
(72)【発明者】
【氏名】松本 克
(72)【発明者】
【氏名】小内 駿英
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝世
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG20
4G077HA12
(57)【要約】
【課題】育成中の単結晶を効率よく冷却することで該単結晶の成長速度の高速化を図ることが可能な単結晶製造装置を提供すること。
【解決手段】原料融液を収容するルツボ及び原料融液を加熱するヒーターを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの上部に連設され、成長した単結晶が引き上げられ収容される引上げチャンバーと、引上げ中の単結晶を取り囲むようにメインチャンバーの少なくとも天井部から原料融液表面に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒とを有したチョクラルスキー法によって単結晶を育成する単結晶成長装置であって、冷却筒の内側に嵌合される第一の冷却補助筒と、第一の冷却補助筒の外側に下端側から螺合される第二の冷却補助筒とを備え、かつ冷却筒の底面と第二の冷却補助筒の上面との間隙が0mm以上1.0mm以下であることを特徴とする単結晶製造装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料融液を収容するルツボ及び前記原料融液を加熱するヒーターを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの上部に連設され、成長した単結晶が引き上げられ収容される引上げチャンバーと、前記引上げ中の単結晶を取り囲むように前記メインチャンバーの少なくとも天井部から原料融液表面に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒とを有したチョクラルスキー法によって単結晶を育成する単結晶成長装置であって、
前記冷却筒の内側に嵌合される第一の冷却補助筒と、前記第一の冷却補助筒の外側に下端側から螺合される第二の冷却補助筒とを備え、かつ前記冷却筒の底面と前記第二の冷却補助筒の上面との間隙が0mm以上1.0mm以下であることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項2】
前記第一の冷却補助筒及び前記第二の冷却補助筒の材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン、及びタングステンのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の単結晶製造装置。
【請求項3】
前記第二の冷却補助筒の下端は、前記第一の冷却補助筒の下端よりも前記原料融液表面に向かって下方に位置することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶等の単結晶製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンやガリウム砒素などの半導体基板は単結晶で構成され、小型から大型までのコンピュータのメモリ等に使用されており、記憶装置の大容量化、低コスト化、高品質化が要求されている。
【0003】
従来、これらの半導体基板の要求を満たす単結晶を製造する為の単結晶製造方法の1つとして、坩堝内に収容されている溶融状態の半導体原料に種結晶を浸した後、これを引き上げることで、大直径かつ高品質の単結晶を製造するチョクラルスキー法(CZ法)が知られている。
【0004】
以下、従来のCZ法による単結晶製造装置について、シリコン単結晶の育成を例にして、図4を参照しながら説明する。
【0005】
CZ法で単結晶を育成する際に使用される単結晶製造装置(従来例)400は、一般に原料融液5が収容された昇降可能な石英るつぼ3及び石英るつぼ3を支持する黒鉛るつぼ4と、該るつぼ3及び4を取り囲むように配置されたヒーター2と、ヒーター2を取り囲むように配置された断熱材18とが、単結晶(以下、単に結晶という場合がある)6を育成するメインチャンバー1内に配置されており、メインチャンバー1の上部には育成した単結晶6を収容し、取り出すための引上げチャンバー7が連設されている。
【0006】
単結晶製造装置400は、ガス導入口11、ガス流出口12、冷却筒13、冷却補助筒14および熱遮蔽部材17を更に含むことが出来る。
【0007】
このような単結晶製造装置400を使用して単結晶6を製造する場合には、種結晶8を原料融液5に浸漬し、回転させながら静かに上方に引き上げて棒状の単結晶6を成長させると同時に、所望の直径と結晶品質を得るための融液面の高さが常に一定に保たれるように、結晶の成長に合わせ、るつぼ3及び4を上昇させている。
【0008】
そして、単結晶6を育成する際には、種ホルダー9に取り付けられた種結晶8を原料融液に浸した後、引上げ機構(不図示)により種結晶8を所望の方向に回転させながら静かにワイヤー10を巻き上げ、種結晶8の先端部に単結晶6を成長させている。
【0009】
上述のCZ法による単結晶6の製造において、単結晶中に形成されるグローンイン(Grown-in)欠陥は結晶内温度勾配と単結晶の引き上げ速度(成長速度)の比で制御可能であり、これをコントロールすることで無欠陥の単結晶6を引き上げることが可能である(特許文献1)。
【0010】
従って、無欠陥結晶を製造する上でも、単結晶6の成長速度を高速化して生産性の向上を図る上でも、育成中の単結晶6の冷却効果を高めることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11-157996号公報
【特許文献2】特開2009-161416号公報
【特許文献3】特開2020-152612号公報
【特許文献4】特開2014-43386号公報
【特許文献5】特許6825728号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、効率よく単結晶を冷却する方法として、結晶周りに配置され、水冷された冷却筒に、軸方向に切れ目を有した、黒鉛材などの冷却補助筒を嵌合し、融液表面に向かって延伸する方法が提案されている(特許文献2)。しかしこの方法では、水冷された冷却筒と冷却補助筒の密着性が悪く、結晶の熱を効率的に排熱することが難しいという課題がある。
【0013】
そこで、特許文献3では、軸方向に切れ目を有する冷却補助筒に径拡大部材を押し込むことで、冷却筒と冷却補助筒を密着させる方法が提案されている。冷却補助筒の密着性を高めることで、冷却補助筒から冷却筒への伝熱を向上させ、結晶の引上げ速度を向上させることが可能となった。
【0014】
また、特許文献4の図2では、冷却筒の内面を冷却補助筒で密着させ、融液面に対面する冷却筒の底面を遮熱部材でカバーするHZ構造が開示されている。
【0015】
さらに、特許文献5では、更なる結晶成長速度高速化のため、冷却筒の原料融液に対面する底面を、冷却補助筒の内側から外側に突出する鍔により覆うことで、冷却補助筒を低温化し、引上げ中の結晶を効率的に冷却する構造が提案されている。しかしこの方法では、冷却筒底面と冷却補助筒鍔間の距離・密着性は寸法公差により決定されるため、安定した結晶成長速度の高速化が難しい課題がある。場合によっては、冷却筒と鍔が固く嵌合し、操業時の熱膨張により破損し、操業継続が困難となる場合がある。そこで、冷却筒内面と冷却補助筒外面を密着させながら、冷却筒底面と冷却補助筒鍔部上面の距離を適切に制御し、寸法公差に因らず、安全かつ安定的に結晶成長速度の高速化を達成する方策が必要である。
【0016】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、育成中の単結晶を効率よく冷却することで該単結晶の成長速度の高速化を図ることが可能な単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明では、原料融液を収容するルツボ及び前記原料融液を加熱するヒーターを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの上部に連設され、成長した単結晶が引き上げられ収容される引上げチャンバーと、前記引上げ中の単結晶を取り囲むように前記メインチャンバーの少なくとも天井部から原料融液表面に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒とを有したチョクラルスキー法によって単結晶を育成する単結晶成長装置であって、
前記冷却筒の内側に嵌合される第一の冷却補助筒と、前記第一の冷却補助筒の外側に下端側から螺合される第二の冷却補助筒とを備え、かつ前記冷却筒の底面と前記第二の冷却補助筒の上面との間隙が0mm以上1.0mm以下であることを特徴とする単結晶製造装置を提供する。
【0018】
このような単結晶製造装置によれば、第一の冷却補助筒の外側に第二の冷却補助筒が下端側から螺合されていることにより、原料融液表面と対面する冷却筒の底面と第二の冷却補助筒の上面との間隙を寸法公差に因らず調整することが可能となり、結晶成長速度を安定的に高速化できる。
【0019】
さらに、前記冷却筒の底面と前記第二の冷却補助筒の上面との間隙を0mm以上1.0mm以下とすることにより、育成中の単結晶からの熱を効率よく排熱することができ、結晶成長速度の高速化が達成できる。
【0020】
前記第一の冷却補助筒及び前記第二の冷却補助筒の材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン、及びタングステンのいずれかであることが好ましい。
【0021】
このような材質の第一の冷却補助筒及び第二の冷却補助筒を用いれば、結晶からの輻射熱を効率よく吸収し、その熱を冷却筒に効率よく伝達することができる。
【0022】
前記第二の冷却補助筒の下端は、前記第一の冷却補助筒の下端よりも前記原料融液表面に向かって下方に位置することが好ましい。
【0023】
このようにすれば、結晶成長速度のより著しい高速化が達成される。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明の単結晶製造装置は、強制冷却された冷却筒と冷却筒の内側に嵌合された第一の冷却補助筒とを有し、第一の冷却補助筒の外側に下端側から第二の冷却補助筒を螺合し、原料融液表面と対向する冷却筒の底面と第二の冷却補助筒の上面との間隙を0mm以上1.0mm以下とすることで、育成中の単結晶からの熱を効率よく排熱することが可能となり、単結晶の成長速度の高速化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の単結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の単結晶製造装置の他の一例を示す概略断面図である。
図3】比較例1で使用した単結晶製造装置を示す概略断面図である。
図4】一般的な単結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
図5】実施例1及び比較例1での冷却筒の底面と第二の冷却補助筒の上面(第一の冷却補助筒の鍔部の上面)との間隙を示すグラフである。
図6】実施例1及び比較例1で得られた無欠陥結晶の結晶成長速度を示すグラフである。
図7】実施例3及び比較例2で得られた、冷却筒の底面と第二の冷却補助筒の上面との間隙と、結晶成長速度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
上述のように、CZ法による単結晶の製造において、生産性の向上を図り、コストを低減する為には、単結晶の成長速度を高速化することが一つの大きな手段であり、単結晶の成長速度を高速化する為には、単結晶からの輻射熱を効率的に除去し、結晶の温度勾配を増大すればよいことが知られている。
【0027】
そのため、特許文献5にあるように、引き上げ中の単結晶を取り囲む、冷却媒体で強制冷却された冷却筒に対し、例えば黒鉛材から為る冷却補助筒を嵌合しながら、原料融液に対面する冷却筒底面を、冷却筒の内側から外側に向けて突出する冷却補助筒鍔で覆うことで、単結晶の熱を効率的に排熱している。
【0028】
特許文献5に示されるように、冷却筒底面と冷却補助筒と間の距離は近いほど結晶成長速度が高速化するが、両者の距離は冷却筒および冷却補助筒の公差により決定されるため、結晶成長速度を安定的に高速化することが難しい課題がある。冷却筒と冷却補助筒鍔部と間の距離が極端に小さい場合には、かたく嵌合し、操業中に破損、操業継続が不可能となるケースもある。結晶成長速度を安定的に高速化するには、冷却筒底面と冷却補助筒間の距離を適切に制御することが重要となる。
【0029】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、原料融液を収容するルツボ及び前記原料融液を加熱するヒーターを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの上部に連設され、成長した単結晶が引き上げられ収容される引上げチャンバーと、前記引上げ中の単結晶を取り囲むように前記メインチャンバーの少なくとも天井部から原料融液表面に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒を有したチョクラルスキー法によって単結晶を育成する単結晶成長装置であって、前記冷却筒の内側に嵌合される第一の冷却補助筒と、前記第一の冷却補助筒の外側に下端側から螺合される第二の冷却補助筒とを備えることを特徴とする単結晶製造装置により、冷却筒と冷却補助筒と間の距離を適切に制御し、冷却補助筒を効率的に冷却し、単結晶からの輻射熱を効率良く排熱することで、単結晶の成長速度の著しい高速化を達成することを想定し、本発明を完成させた。
【0030】
即ち、本発明は、原料融液を収容するルツボ及び前記原料融液を加熱するヒーターを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの上部に連設され、成長した単結晶が引き上げられ収容される引上げチャンバーと、前記引上げ中の単結晶を取り囲むように前記メインチャンバーの少なくとも天井部から原料融液表面に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒とを有したチョクラルスキー法によって単結晶を育成する単結晶成長装置であって、
前記冷却筒の内側に嵌合される第一の冷却補助筒と、前記第一の冷却補助筒の外側に下端側から螺合される第二の冷却補助筒とを備え、かつ前記冷却筒の底面と前記第二の冷却補助筒の上面との間隙が0mm以上1.0mm以下であることを特徴とする単結晶製造装置である。
【0031】
以下、本発明の実施形態の一例を、図1を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、図4に示した従来装置と同じものについては説明を適宜省略することがある。
【0032】
図1に示す本発明の単結晶製造装置100は、原料融液5を収容する石英るつぼ3及び黒鉛るつぼ4、並びに原料融液5を加熱するヒーター2を格納するメインチャンバー1と、メインチャンバー1の上部に連設され、成長した単結晶6が引上げられて収容される引上げチャンバー7と、引上げ中の単結晶6を取り囲むようにメインチャンバー1の少なくとも天井部から原料融液表面5aに向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒13と、冷却筒13の内側に嵌合された第一の冷却補助筒14と、第一の冷却補助筒14の外側に下端14b側から螺合された第二冷却補助筒15とを有する単結晶製造装置100である。
【0033】
単結晶製造装置100では、第一の冷却補助筒14の外側に下端側から第二の冷却補助筒15を螺合することで、原料融液5と対向する冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙を調節することが出来る。より詳細には、冷却筒13の内側に嵌合された第一の冷却補助筒14のうち原料融液表面5aに向かって延伸した部分14aの外側に、この部分14aの下端14b側から、第二の冷却補助筒15が螺合している。それにより、図1に示すように、冷却筒13の底面13aと、第二の冷却補助筒15の上面15aとが対面している。第一の冷却補助筒14の外側に下端14b側から第二の冷却補助筒15を螺合した状態で、上に向かって第二の冷却補助筒15を締め上げる又は下端14b側に向けて第二の冷却補助筒15を下げることにより、冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙を、寸法公差に因らず安定的に且つ容易に調整することができる。
【0034】
本発明では、前記冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙を、0mm以上1.0mm以下とする。冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙が1.0mmを超えると、第一の冷却補助筒および第二の冷却補助筒が十分に低温化せず、単結晶成長速度の高速化が達成できない。間隙が1.0mm以下であれば、単結晶の成長速度の著しい高速化が達成できる。図1に示すように、冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙が0mmの場合に両者は接触して密着し結晶成長速度が最大となる。
【0035】
さらに、結晶からの輻射熱を効率よく吸収し、その熱を冷却筒に効率よく伝達する為、本発明では、第一の冷却補助筒14及び第二の冷却補助筒15の材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン及びタングステンのいずれか1つ以上であることが好ましい。上記材質の中でも、特に、熱伝導率が金属と比較して同等以上であり、かつ輻射率が金属より高い黒鉛材が好ましい。
【0036】
第二の冷却補助筒15の下端15bは、例えば図2に示す例の単結晶製造装置200のように、第一の冷却補助筒14の下端14bよりも原料融液表面5aに向かって下方に位置することが望ましい。このようにすれば、冷却筒13により冷却された第二の冷却補助筒15が引上げ中の単結晶6と対向し、結晶からの熱を効率的に排熱することができ、結晶成長速度の著しい高速化が達成される。
【0037】
図1及び図2の単結晶製造装置100及び200は、第一の冷却補助筒14の内側に嵌合された径拡大部材16を更に含む。第一の冷却補助筒14に径拡大部材16を嵌合することで、冷却筒13と第一の冷却補助筒14の密着性を高めることができ、それにより、第一の冷却補助筒14から冷却筒13への伝熱を向上させ、結晶の引上げ速度を更に向上させることが可能となる。
【実施例0038】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
図1に示すような単結晶製造装置100を4台使用し単結晶製造を行った。冷却筒13と第一の冷却補助筒14は径拡大部材16により密着させた。第一の冷却補助筒14の外側に対し下端14b側から第二の冷却補助筒15を螺合した。原料融液5と対向する冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとが密着していることを実測により確認した。すなわち、実施例1では、冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙が0mmであった。第二の冷却補助筒15は冷却筒13の底面13aの面積をすべて覆う構造とした。第二の冷却補助筒15の軸方向の長さは70mmとし、第二の冷却補助筒15の下端15bは、第一の冷却補助筒14の下端14bよりも50mm上方に位置するものとした。第一の冷却補助筒14および第二の冷却補助筒15の材質は、熱伝導率が金属と比較して同等以上であり、かつ輻射率が金属よりも高い黒鉛材を使用した。
【0040】
このような単結晶製造装置100を使用し単結晶6を育成し、全てが無欠陥となる成長速度を求めた。無欠陥結晶を得るための成長速度はそのマージンが非常に狭い為、適切な成長速度が判断しやすい。単結晶の欠陥の有無の評価は、作製した単結晶からサンプルを切り出し、無欠陥領域になったかどうかを選択エッチングにより評価した。
【0041】
(実施例2)
図2に示すような単結晶製造装置200を4台使用し単結晶製造を行った。第二の冷却補助筒15の下端が、第一の冷却補助筒14の下端14bよりも50mm下方に位置すること以外は、実施例1に記載のものと、同様の装置および条件を用いて単結晶製造を行った。
【0042】
(比較例1)
図3に示すような単結晶製造装置300を10台使用し単結晶製造を行った。第一の冷却補助筒14は、原料融液5と対向する冷却筒13の底面13aを、冷却筒13の内側から外側に向けて突出することで覆う鍔14cを有する形状とした。このとき原料融液5と対向する冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙を0.4mmとなるように設計した。寸効公差を考慮すると、これ以上間隔が狭くなるような設計はできない。また、鍔14cは冷却筒13の底面13aの全面積を覆う形状とし、鍔部14cの厚さは70mmとした。冷却筒13の底面13aと第一の冷却補助筒14の鍔部14cの上面との間隙は、実測により測定した。
また、単結晶製造装置300は、図1及び図2に示す第二の冷却補助筒15を有していなかった。それ以外の条件は、実施例1と同様の装置及び条件を用いて単結晶製造を行った。
【0043】
(実施例3)
図1に示すような単結晶製造装置100を使用し単結晶製造を行った。原料融液5と対向する冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙を、螺合により0~1.0mmとし、結晶成長速度を求めた。それ以外の条件は、実施例1に記載のものと同様の装置および条件を用いて単結晶製造を行った。
【0044】
(比較例2)
図1に示すような単結晶製造装置100を使用し単結晶製造を行った。原料融液5と対向する冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙を、螺合により1.1~1.4mmとし、結晶成長速度を求めた。それ以外の条件は、実施例1に記載のものと同様の装置および条件を用いて単結晶製造を行った。
【0045】
実施例1で実測した冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙、比較例1で実測した冷却筒13の底面13aと第一の冷却補助筒14の鍔部14cの上面との間隙を図5に示した。実施例1ではすべての操業において間隙が0mmであるのに対し、比較例1では冷却筒13および第一の冷却補助筒14の寸法公差により間隙が0~1.0mmと大きくばらついた。
【0046】
図6に、実施例1及び比較例1で得られた無欠陥結晶の結晶成長速度を示した。実施例1及び比較例1の結晶成長速度はそれぞれ全操業の平均値とし、比較例1の結晶成長速度の平均値を1に規格化した場合の相対値として示した。実施例1の結晶成長速度は比較例1と比べ3.7%高速化した。比較例1では図5に示した冷却筒13および第一の冷却補助筒14の寸法公差により、冷却筒13の底面13aと第一の冷却補助筒14の鍔部14cの上面との間隙がばらつき、平均の結晶成長速度が小さくなった一方で、実施例1では安定して高い結晶成長速度が得られた。
【0047】
図7に、実施例3及び比較例2で行った、冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙を、螺合により0~1.4mmの間で調整した場合の結晶成長速度を示した。図7における結晶成長速度は、冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aとの間隙が1.0mmの場合の結晶成長速度を1に規格化した場合の相対値として示した。間隙が0mmの場合に結晶成長速度は最大1.090と最大であった。一方、間隙が1.1mm以上となると、結晶成長速度が0.965と著しく低下した。間隙が1.1mm以上の場合には冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の距離が大きく、第一の冷却補助筒14と第二の冷却補助筒15が十分に低温化せず、単結晶からの輻射熱を効率よく除去することが出来ていないことが分かる。以上のことから、冷却筒13の底面13aと第二の冷却補助筒15の上面15aの間隙は1.0mm以下であれば、結晶成長速度の著しい高速化が実現できることが分かる。
【0048】
以下の表1に、実施例1、実施例2及び比較例1で得られた結晶成長速度をまとめた。表1における結晶成長速度は、比較例1の結晶成長速度の平均値を1に規格化した場合の相対値として示した。実施例1は比較例1と比べ3.7%、実施例2は比較例1と比べ8.0%の結晶成長速度の高速化となった。
【0049】
【表1】
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0051】
1…メインチャンバー、 2…ヒーター、 3…石英るつぼ、 4…黒鉛るつぼ、 5…原料融液、 5a…原料融液表面、 6…単結晶、 7…引上げチャンバー、 8…種結晶、 9…種ホルダー、 10…ワイヤー、 11…ガス導入口、 12…ガス流出口、13…冷却筒、 13a…冷却筒の底面、 14…第一の冷却補助筒(冷却補助筒)、 14a…第一の冷却補助筒の一部、 14b…第一の冷却補助筒の下端、 15…第二の冷却補助筒、 15a…第二の冷却補助筒の上面、 15b…第二の冷却補助筒の下端、 16…径拡大部材、 17…熱遮蔽部材、 18…断熱材、 100…単結晶製造装置(実施例1)、 200…単結晶製造装置(実施例2)、 300…単結晶製造装置(比較例1)、400…単結晶製造装置(従来例)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-11-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料融液を収容するルツボ及び前記原料融液を加熱するヒーターを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの上部に連設され、成長した単結晶が引き上げられ収容される引上げチャンバーと、前記引上げ中の単結晶を取り囲むように前記メインチャンバーの少なくとも天井部から原料融液表面に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒とを有したチョクラルスキー法によって単結晶を育成する単結晶成長装置であって、
前記冷却筒の内側に嵌合される第一の冷却補助筒と、前記第一の冷却補助筒の外側に下端側から螺合される第二の冷却補助筒とを備え、かつ前記冷却筒の底面と前記第二の冷却補助筒の上面との間隙が0mm以上1.0mm以下であることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項2】
前記第一の冷却補助筒及び前記第二の冷却補助筒の材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン、及びタングステンのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の単結晶製造装置。
【請求項3】
前記第二の冷却補助筒の下端は、前記第一の冷却補助筒の下端よりも前記原料融液表面に向かって下方に位置することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の単結晶製造装置。
【請求項4】
前記第一の冷却補助筒及び前記第二の冷却補助筒の材質は黒鉛材であり、
前記単結晶製造装置は、前記第一の冷却補助筒と前記冷却筒とを密着させるように前記第一の冷却補助筒の内側に篏合された径拡大部材を更に備えるものであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料融液を収容するルツボ及び前記原料融液を加熱するヒーターを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの上部に連設され、成長した単結晶が引き上げられ収容される引上げチャンバーと、前記引上げ中の単結晶を取り囲むように前記メインチャンバーの少なくとも天井部から原料融液表面に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒とを有したチョクラルスキー法によって単結晶を育成する単結晶成長装置であって、
前記冷却筒の内側に嵌合される第一の冷却補助筒と、前記第一の冷却補助筒の外側に下端側から螺合される第二の冷却補助筒とを備え、かつ前記冷却筒の底面と前記第二の冷却補助筒の上面との間隙が0mm以上1.0mm以下であり、
前記第一の冷却補助筒及び前記第二の冷却補助筒の材質は黒鉛材であり、
前記単結晶製造装置は、前記第一の冷却補助筒と前記冷却筒とを密着させるように前記第一の冷却補助筒の内側に篏合された径拡大部材を更に備えるものであることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項2】
前記第二の冷却補助筒の下端は、前記第一の冷却補助筒の下端よりも前記原料融液表面に向かって下方に位置することを特徴とする請求項1に記載の単結晶製造装置。
【手続補正書】
【提出日】2022-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料融液を収容するルツボ及び前記原料融液を加熱するヒーターを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの上部に連設され、成長した単結晶が引き上げられ収容される引上げチャンバーと、前記引上げ中の単結晶を取り囲むように前記メインチャンバーの少なくとも天井部から原料融液表面に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒とを有したチョクラルスキー法によって単結晶を育成する単結晶製造装置であって、
前記冷却筒の内側に嵌合される第一の冷却補助筒と、前記第一の冷却補助筒の外側に下端側から螺合される第二の冷却補助筒とを備え、かつ前記冷却筒の底面と前記第二の冷却補助筒の上面との間隙が0mm以上1.0mm以下であり、
前記第一の冷却補助筒及び前記第二の冷却補助筒の材質は黒鉛材であり、
前記単結晶製造装置は、前記第一の冷却補助筒と前記冷却筒とを密着させるように前記第一の冷却補助筒の内側に篏合された径拡大部材を更に備えるものであることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項2】
前記第二の冷却補助筒の下端は、前記第一の冷却補助筒の下端よりも前記原料融液表面に向かって下方に位置することを特徴とする請求項1に記載の単結晶製造装置。