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特開2022-182829Qスイッチ構造体及びQスイッチ構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182829
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】Qスイッチ構造体及びQスイッチ構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/113 20060101AFI20221201BHJP
   H01S 3/02 20060101ALI20221201BHJP
   H01S 3/106 20060101ALI20221201BHJP
   G02F 1/09 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01S3/113
H01S3/02
H01S3/106
G02F1/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090575
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聡明
(72)【発明者】
【氏名】後藤 太一
(72)【発明者】
【氏名】井上 光輝
【テーマコード(参考)】
2K102
5F172
【Fターム(参考)】
2K102AA27
2K102CA28
5F172AL08
5F172NN13
5F172NN20
5F172NQ70
5F172WW20
(57)【要約】
【課題】 レーザー装置の小型化に寄与し、かつ高いビーム品質を有するQスイッチ構造体を提供する。
【解決手段】 固体レーザー媒体と、磁気光学材と、を備え、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が接合一体化されたQスイッチ構造体であって、前記固体レーザー媒体の一面に第1の対接着剤反射防止膜が形成されており、前記磁気光学材の一面に第2の対接着剤反射防止膜が形成されており、前記固体レーザー媒体の第1の対接着剤反射防止膜と、前記磁気光学材の第2の対接着剤反射防止膜が、前記固体レーザー媒体から発振されるレーザーのレーザー発振波長において透光性を有する透光性材料を介して接着されているものであるQスイッチ構造体。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体レーザー媒体と、
磁気光学材と、
を備え、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が接合一体化されたQスイッチ構造体であって、
前記固体レーザー媒体の一面に第1の対接着剤反射防止膜が形成されており、
前記磁気光学材の一面に第2の対接着剤反射防止膜が形成されており、
前記固体レーザー媒体の第1の対接着剤反射防止膜と、前記磁気光学材の第2の対接着剤反射防止膜が、前記固体レーザー媒体から発振されるレーザーのレーザー発振波長において透光性を有する透光性材料を介して接着されているものであることを特徴とするQスイッチ構造体。
【請求項2】
前記透光性材料が、ショアD硬度80以下である有機接着剤であるか、又は、無機透光性材料であることを特徴とする請求項1に記載のQスイッチ構造体。
【請求項3】
前記有機接着剤が、シリコーン樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂の少なくともいずれか1種であることを特徴とする請求項2に記載のQスイッチ構造体。
【請求項4】
前記無機透光性材料が、水ガラス又はガラス転移点が500℃以下の低融点ガラスからなるガラス材料であることを特徴とする請求項2に記載のQスイッチ構造体。
【請求項5】
前記透光性材料の透光性が、前記レーザー発振波長において透過率95%以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体。
【請求項6】
前記磁気光学材がビスマス置換希土類鉄ガーネットであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体。
【請求項7】
前記固体レーザー媒体は、Nd、Yb及びCrからなる群から選ばれる1種をドープした、YAl12、GdGa12及びYVOからなる群から選ばれる1種のセラミックスから選択されるものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体と、磁束発生器とが、一対の共振ミラーの間に配置されていることを特徴とするQスイッチ固体レーザー装置。
【請求項9】
固体レーザー媒体と、
磁気光学材と、
を備え、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が接合一体化されたQスイッチ構造体を製造する方法であって、
前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材を準備する工程と、
前記固体レーザー媒体の一面に第1の対接着剤反射防止膜を形成する工程と、
前記磁気光学材の一面に第2の対接着剤反射防止膜を形成する工程と、
前記固体レーザー媒体の第1の対接着剤反射防止膜と、前記磁気光学材の第2の対接着剤反射防止膜を、前記固体レーザー媒体から発振されるレーザーのレーザー発振波長において透光性を有する透光性材料を介して接着する工程と
を有することを特徴とするQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項10】
前記接着を、前記透光性材料として、ショアD硬度80以下である有機接着剤を用いて行うか、又は、無機透光性材料を用いて行うことを特徴とする請求項9に記載のQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項11】
前記有機接着剤として、シリコーン樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂の少なくともいずれか1種を用いることを特徴とする請求項10に記載のQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項12】
前記無機透光性材料として、水ガラス又はガラス転移点が500℃以下の低融点ガラスからなるガラス材料を用いることを特徴とする請求項10に記載のQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項13】
前記ガラス材料を、熱拡散接合又は真空下での密着接合により、前記第1の対接着剤反射防止膜及び前記第2の対接着剤反射防止膜に接着することを特徴とする請求項12に記載のQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項14】
前記透光性材料として、前記レーザー発振波長において透過率95%以上の透光性を有するものを用いることを特徴とする請求項9から請求項13のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項15】
前記磁気光学材をビスマス置換希土類鉄ガーネットとすることを特徴とする請求項9から請求項14のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項16】
前記固体レーザー媒体を、Nd、Yb及びCrからなる群から選ばれる1種をドープした、YAl12、GdGa12及びYVOからなる群から選ばれる1種のセラミックスから選択されるものとすることを特徴とする請求項9から請求項15のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体の製造方法。
【請求項17】
請求項9から請求項16のいずれか1項に記載のQスイッチ構造体の製造方法により製造されたQスイッチ構造体を用いて、該Qスイッチ構造体と、磁束発生器を、一対の共振ミラーの間に配置してQスイッチ固体レーザー装置を製造することを特徴とするQスイッチ固体レーザー装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Qスイッチ構造体及びQスイッチ構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光計測や光磁気記録等のレーザー応用機器において、光源であるレーザー媒体の高出力化と小型化が課題となっている。小型化且つ高出力化の観点で磁気光学材(「MO材」とも呼ばれる)を発信機構としたQスイッチが注目を集めている。
【0003】
Qスイッチを具備するレーザー装置として、第1共振ミラーと固体レーザー材料とQスイッチと第2共振ミラーを、その順序で配置したレーザー装置が知られている。すなわち、第1共振ミラーと第2共振ミラーで構成される一対の共振ミラーの間に、固体レーザー材料とQスイッチを配置したレーザー装置が知られている。
【0004】
非特許文献1には、一対の共振ミラーの間に固体レーザー材料とQスイッチを配置した小型のレーザー装置が開示されているが、そのQスイッチは可飽和現象を利用する受動Qスイッチであり、Qスイッチを能動的に制御することができない。
【0005】
非特許文献2に、電気光学効果を利用してQスイッチを能動的に制御する技術が開示されているが、固体レーザー材料の厚みが0.5mmであるのに対し、Qスイッチの厚みが5mmもあり、Qスイッチがレーザー装置の小型化の障害となっている。
【0006】
非特許文献3に、音響光学効果を利用してQスイッチを能動的に制御する技術が開示されているが、Qスイッチの厚みが32mmもあり、Qスイッチがレーザー装置の小型化の障害となっている。
【0007】
従来の技術では、Qスイッチを能動的に制御可能とすると、そのQスイッチが大型化してしまってレーザー装置の小型化の障害となっていた。そこで、レーザー装置の小型化とQスイッチの能動化を両立させることが求められていた。
【0008】
特許文献1には、レーザー装置の小型化の障害とならないという制約の中でQスイッチを能動化する技術として、固体レーザー材料とQスイッチが一対の共振ミラーの間に配置されており、Qスイッチが磁気光学効果を呈する膜と磁束発生器の組み合わせで構成されており、固体レーザー材料に励起光を入射し、磁束発生器にパルスを加えると、パルスレーザーを発光するQスイッチ固体レーザー装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-79283号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】T.Taira, M.Tsunekane, K.Kanehara, S.Morishima, N.Taguchi and A. Sugiura: “7. Promise of Giant Pulse Micro-Laser for Engine Ignition”, Journal of Plasma and Fusion Research, Vol. 89, No.4, pp.238-241(2013)
【非特許文献2】T.Taira, and T.Kobayashi: “Q-Switching and Frequency Doubling of Solid-State Lasers by a Single Intracavity KTP Crystal”, IEEE Journal of Quantum Electronics of Vol. 30, No.3, pp.800-804(1994)
【非特許文献3】Gooch & Housego Co.Ltd., Product number 1-QS041-1, 8C10G-4-GH21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1には、上記のように、磁気光学(MO)機構を用いたQスイッチが記載されている。レーザー装置の小型化の観点では、固体レーザー媒体と磁気光学機構との間の空間は少ない方が望ましい。特許文献1の図13において、固体レーザー媒体と磁気光学膜等が一体化した構成が提案されている。ただし、その具体的な一体化方法は提案されていない。
【0012】
また、磁気光学機構を用いたQスイッチにおいて、磁気スイッチ(磁束変化で発生)起動に伴う振動や、磁気光学機構と固体レーザー媒体間の光共振、磁気光学材の固定差異による歪に起因した磁区模様の変化に伴う出力不安定化、スイッチング速度のバラツキ、両者の空間発生に伴う共振器長の増大とそれによるスイッチング速度の劣化が課題として挙げられる。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、レーザー装置の小型化に寄与し、かつ高いビーム品質を有するQスイッチ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記問題を解決するために、本発明では、固体レーザー媒体と、磁気光学材と、を備え、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が接合一体化されたQスイッチ構造体であって、前記固体レーザー媒体の一面に第1の対接着剤反射防止膜が形成されており、前記磁気光学材の一面に第2の対接着剤反射防止膜が形成されており、前記固体レーザー媒体の第1の対接着剤反射防止膜と、前記磁気光学材の第2の対接着剤反射防止膜が、前記固体レーザー媒体から発振されるレーザーのレーザー発振波長において透光性を有する透光性材料を介して接着されているものであることを特徴とするQスイッチ構造体を提供する。
【0015】
このようなQスイッチ構造体であれば、固体レーザー媒体と磁気光学材が接合一体化しているため、小型のQスイッチ構造体とすることができる。また、固体レーザー媒体と磁気光学材が、透光性材料を介して接着されているため、ビーム品質の高いQスイッチ構造体とすることができる。すなわち、接合歪による光学特性の劣化を緩和することができる。なお、本発明では、固体レーザー媒体と磁気光学材の一体化した組み合わせを、Qスイッチ構造体と称する。Qスイッチ構造体は、磁束発生器との組み合わせにより、Qスイッチとして機能させることができる。
【0016】
また、前記透光性材料が、ショアD硬度80以下である有機接着剤であるか、又は、無機透光性材料であることが好ましい。
【0017】
本発明のQスイッチ構造体では、透光性材料としてショアD硬度80以下である有機接着剤を用いた場合、固体レーザー媒体と磁気光学材を接合する際の歪を低減することができ、高いビーム品質を得ることができる。また、透光性材料として、無機透光性材料を用いた場合、光作用による劣化が抑制されており、高いビーム品質を得ることができる。
【0018】
また、前記有機接着剤が、シリコーン樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂の少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0019】
このような有機接着剤はショアD硬度が低く、固体レーザー媒体と磁気光学材を接合する際の歪の低減をより効果的に行うことができる。また、これらは耐候性および耐光性も優れている。
【0020】
また、前記無機透光性材料が、水ガラス又はガラス転移点が500℃以下の低融点ガラスからなるガラス材料であることが好ましい。
【0021】
これらのガラス材料は、安定であるとともに無機透光性材料として比較的硬度が低いため、固体レーザー媒体と磁気光学材の接合部の歪の緩和に効果的に寄与する。また、これらは耐候性および耐光性も優れている。
【0022】
また、前記透光性材料の透光性が、前記レーザー発振波長において透過率95%以上であることが好ましい。
【0023】
本発明のQスイッチ構造体において透光性材料がこのような高い透過率を有することにより、Qスイッチの透光性も高くすることができる。
【0024】
また、前記磁気光学材がビスマス置換希土類鉄ガーネットであることが好ましい。
【0025】
また、前記固体レーザー媒体は、Nd、Yb及びCrからなる群から選ばれる1種をドープした、YAl12、GdGa12及びYVOからなる群から選ばれる1種のセラミックスから選択されるものであることが好ましい。
【0026】
これらの材料は、本発明のQスイッチ構造体として好ましく用いることができる。
【0027】
また、本発明は、上記のQスイッチ構造体と、磁束発生器とが、一対の共振ミラーの間に配置されていることを特徴とするQスイッチ固体レーザー装置を提供する。
【0028】
このような、本発明のQスイッチ構造体を備えるQスイッチ固体レーザー装置は、固体レーザー媒体と磁気光学材がレーザー発振波長において透光性を有する透光性材料で接着されて一体化しているため、小型でビーム品質の高いQスイッチ構造体とすることができる。
【0029】
また、本発明は、固体レーザー媒体と、磁気光学材と、を備え、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材が接合一体化されたQスイッチ構造体を製造する方法であって、前記固体レーザー媒体と前記磁気光学材を準備する工程と、前記固体レーザー媒体の一面に第1の対接着剤反射防止膜を形成する工程と、前記磁気光学材の一面に第2の対接着剤反射防止膜を形成する工程と、前記固体レーザー媒体の第1の対接着剤反射防止膜と、前記磁気光学材の第2の対接着剤反射防止膜を、前記固体レーザー媒体から発振されるレーザーのレーザー発振波長において透光性を有する透光性材料を介して接着する工程とを有することを特徴とするQスイッチ構造体の製造方法を提供する。
【0030】
このようなQスイッチ構造体の製造方法により、固体レーザー媒体と磁気光学材の接合一体化を簡便に行うことができる。また、固体レーザー媒体と磁気光学材を、透光性材料を介して接着するため、小型のQスイッチ構造体とすることができるとともに、ビーム品質の高いQスイッチ構造体とすることができる。
【0031】
また、前記接着を、前記透光性材料として、ショアD硬度80以下である有機接着剤を用いて行うか、又は、無機透光性材料を用いて行うことが好ましい。
【0032】
本発明のQスイッチ構造体の製造方法では、透光性材料としてショアD硬度80以下である有機接着剤を用いた場合、固体レーザー媒体と磁気光学材を接合する際の歪を低減することができ、高いビーム品質を得ることができる。また、透光性材料として、無機透光性材料を用いた場合、光作用による劣化が抑制されており、高いビーム品質を得ることができる。
【0033】
また、前記有機接着剤として、シリコーン樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂の少なくともいずれか1種を用いることが好ましい。
【0034】
このような有機接着剤はショアD硬度が低く、固体レーザー媒体と磁気光学材を接合する際の歪の低減をより効果的に行うことができる。
【0035】
また、前記無機透光性材料として、水ガラス又はガラス転移点が500℃以下の低融点ガラスからなるガラス材料を用いることが好ましい。
【0036】
これらのガラス材料は、安定であるとともに無機透光性材料として比較的硬度が低いため、固体レーザー媒体と磁気光学材の接合部の歪の緩和に効果的に寄与する。
【0037】
また、前記ガラス材料を、熱拡散接合又は真空下での密着接合により、前記第1の対接着剤反射防止膜及び前記第2の対接着剤反射防止膜に接着することが好ましい。
【0038】
このような熱拡散接合又は真空下での密着接合により、ガラス材料を介した固体レーザー媒体と磁気光学材の接合を簡便に行うことができる。
【0039】
また、前記透光性材料として、前記レーザー発振波長において透過率95%以上の透光性を有するものを用いることが好ましい。
【0040】
透光性材料をこのような高い透過率を有するものとすることにより、Qスイッチ構造体の透光性も高くすることができる。
【0041】
また、前記磁気光学材をビスマス置換希土類鉄ガーネットとすることが好ましい。
【0042】
また、前記固体レーザー媒体を、Nd、Yb及びCrからなる群から選ばれる1種をドープした、YAl12、GdGa12及びYVOからなる群から選ばれる1種のセラミックスから選択されるものとすることが好ましい。
【0043】
これらの材料は、本発明のQスイッチ構造体の製造方法において好ましく用いることができる。
【0044】
また、本発明は、上記のQスイッチ構造体の製造方法により製造されたQスイッチ構造体を用いて、該Qスイッチ構造体と、磁束発生器を、一対の共振ミラーの間に配置してQスイッチ固体レーザー装置を製造することを特徴とするQスイッチ固体レーザー装置の製造方法を提供する。
【0045】
このようなQスイッチ固体レーザー装置の製造方法は、固体レーザー媒体と磁気光学材が透光性材料を介して接着されているため、小型のQスイッチ固体レーザー装置とすることができるとともに、ビーム品質の高いQスイッチ固体レーザー装置とすることができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明のQスイッチ構造体であれば、固体レーザー媒体と磁気光学材が接合一体化しているため、小型のQスイッチ構造体とすることができる。また、固体レーザー媒体と磁気光学材が、透光性材料を介して接着されているため、ビーム品質の高いQスイッチ構造体とすることができる。すなわち、接合歪による光学特性の劣化を緩和することができる。これにより、振動抑制、固体レーザー媒体と磁気光学材の両者間の光共振の防止、共振器長の短縮とそれに伴うスイッチング速度の向上を計ることができる。また、本発明のQスイッチ構造体の製造方法は、そのようなQスイッチ構造体を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明のQスイッチ構造体の構造の一例を模式的に示す概略図である。
図2】本発明のQスイッチ構造体の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図3】本発明のQスイッチ構造体の構造の一例(第1の態様)を模式的に示す断面図である。
図4】本発明のQスイッチ構造体の構造の一例(第2の態様)を模式的に示す断面図である。
図5】本発明のQスイッチ構造体の構造の一例(第3の態様)を模式的に示す断面図である。
図6】本発明のQスイッチ構造体を備えるQスイッチ固体レーザー装置の一例を模式的に示す断面図である。
図7】本発明のQスイッチ構造体の製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明について図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
本発明のQスイッチ構造体の構造の一例について、図1図2を参照して説明する。図1にはQスイッチ構造体の構造の概略図、図2にはその断面図を示した。
【0050】
本発明のQスイッチ構造体100は、固体レーザー媒体1と、磁気光学材2とを備えており、固体レーザー媒体1と磁気光学材2は接合一体化されている。さらに、本発明では、固体レーザー媒体1の一面に第1の対接着剤反射防止膜1aが形成されており、磁気光学材2の一面に第2の対接着剤反射防止膜2aが形成されている。さらに、固体レーザー媒体1の第1の対接着剤反射防止膜1aと、磁気光学材2の第2の対接着剤反射防止膜2aが、固体レーザー媒体1から発振されるレーザーのレーザー発振波長において透光性を有する透光性材料3を介して接着されている。
【0051】
このようなQスイッチ構造体であれば、固体レーザー媒体1と磁気光学材2が接合一体化しているため、小型のQスイッチ構造体100とすることができる。また、固体レーザー媒体1と磁気光学材2が、透光性材料3を介して接着されているため、ビーム品質の高いQスイッチ構造体とすることができる。
【0052】
また、透光性材料3の透光性が、レーザー発振波長において透過率95%以上(挿入損失0.2dB以下)であることが好ましく、透過率98%以上(挿入損失0.1dB以下)であることがさらに好ましい。このような透過率を有するように透光性材料の種類や厚さを選定することは、容易に行うことができる。なお、透過率は厚さにも依存し、材料の厚さが厚い程透過率は低下する。
【0053】
なお、本発明の説明における透過率の定義は以下の通りである。ここでの「ワーク」とは光(電磁波)が透過する対象を指す。
透過率(%)=(ワーク透過時の光量/ワーク無し時の光量)×100
挿入損失(dB)= -10×log10(ワーク透過時の光量/ワーク無し時の光量)
【0054】
また、本発明のQスイッチ構造体100において、固体レーザー媒体1の材料としては固体レーザー媒体として使用可能な材料を用いることができる。その中でも、Nd、Yb及びCrからなる群から選ばれる1種をドープした、YAl12、GdGa12及びYVOからなる群から選ばれる1種のセラミックスから選択されるものであることが好ましい。また、本発明のQスイッチ構造体100において、磁気光学材2の材料としては磁気光学材として使用可能な材料を用いることができる。その中でも、ビスマス置換希土類鉄ガーネットであることが好ましい。
【0055】
また、本発明のQスイッチ構造体100において、第1の対接着剤反射防止膜1a及び第2の対接着剤反射防止膜2aの材料としては、固体レーザー媒体1、磁気光学材2の表面に、1層目にTiO層やTa層を形成し、その上にSiO層を形成した2層構造等が挙げられる。これらの対接着剤反射防止膜は、異種材料間の界面で生じる光反射を抑制することができる膜として機能する。
【0056】
さらに、本発明では、図1、2に示した透光性材料3が、ショアD硬度80以下である有機接着剤であるか、又は、無機透光性材料であることが好ましい。以下、透光性材料3がショアD硬度80以下である有機接着剤の場合を第1の態様として、透光性材料3が無機透光性材料である場合を第2の態様及び第3の態様として説明する。なお、図1、2と共通の事項については重複する説明を省略する。
【0057】
[第1の態様]
図3に、本発明のQスイッチ構造体の構造の一例(第1の態様)の断面図を示した。この態様では、固体レーザー媒体1と磁気光学材2は、透光性材料としてショアD硬度80以下である有機接着剤13を介して接着されている。この場合、有機接着剤である透光性材料13は、シリコーン樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂の少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0058】
このようなQスイッチ構造体10は、透光性材料としてショアD硬度80以下という、比較的硬度の低い有機接着剤13を用いているため、固体レーザー媒体と磁気光学材を接合する際の歪を低減することができ、高いビーム品質を得ることができる。有機接着剤13の層の厚さは、0.005~0.040mm(5~40μm)であることが好ましい。このような厚さの有機接着剤13の厚さであれば、歪の緩和を行うことができるとともに、透光性を高く保つことができる。特に、材料にもよるが、上記の厚さの場合は、レーザー発振波長1064nm付近における有機接着剤13の層における透過率を95%以上にすることが可能である。
【0059】
[第2、第3の態様]
次に、透光性材料3が無機透光性材料である場合の態様(第2、第3の態様)を説明する。この場合は、図1、2に示したように、透光性材料3(この場合、無機透光性材料)を介して固体レーザー媒体1と磁気光学材2が接合されている。特に、無機透光性材料が、水ガラス又はガラス転移点が500℃以下の低融点ガラスからなるガラス材料であることが好ましい。以下、「ガラス転移点が500℃以下の低融点ガラス」は単に「低融点ガラス」とも称する。なお、ガラス転移点は400℃以下であることがより好ましい。
【0060】
このように、上記第1の態様のように固体レーザー媒体1と磁気光学材2を接合に有機接着剤を用いる代わりに、本発明では、無機透光性材料を用いてもよい。透光性材料3として無機透光性材料を用いる利点は以下の通りである。近年、Qスイッチを具備する固体レーザー装置で発振する光は直径0.3mm程度のビーム径で1mJを超えるパワーとなってきており、出力がますます強くなってきている。今後、従来よりもさらに大きなパワーが接合界面を透過するとき、透光性材料3が有機接着剤であると、有機結合的な結合部が破断すること、及び、周辺へ影響を及ぼすことが懸念される。その際、固体レーザー媒体1と磁気光学材2の接合材料を無機材料に置き換えると、そのような高出力による懸念は解消する。ただし、その際、無機材料の種類によっては、接合歪により光ビームが変質する可能性がある。この影響を防ぐ為、接合界面に予め歪緩和層を介することができる。
【0061】
無機透光性材料としては、固体レーザー媒体1の線膨張係数と磁気光学材2の線膨張係数の間の値の線膨張係数を有する透光性材料を用いることが好ましい。
【0062】
<第2の態様>
図4に示した第2の態様のQスイッチ構造体20では、固体レーザー媒体1と磁気光学材2は、透光性材料として無機透光性材料23を介して接着されている。また、固体レーザー媒体1の第1の対接着剤反射防止膜1aと無機透光性材料23の間、及び、磁気光学材2の第2の対接着剤反射防止膜2aと無機透光性材料23の間は、それぞれ、歪緩和層25、26を介して接着されている。
【0063】
<第3の態様>
図5に示した第3の態様のQスイッチ構造体30では、固体レーザー媒体1と磁気光学材2は、固体レーザー媒体1の第1の対接着剤反射防止膜1aと、磁気光学材2の第2の対接着剤反射防止膜2aの間が、透光性材料として無機透光性材料33を介して、直接接着されている。
【0064】
無機透光性材料としては、水ガラス又は低融点ガラスからなるガラス材料や、その他に、ホウケイ酸ガラスや石英ガラス、常磁性ガーネットが例示される。
【0065】
このうち、水ガラス又は低融点ガラスからなるガラス材料は、第2の態様及び第3の態様の両方が可能である。ホウケイ酸ガラスや石英ガラス、常磁性ガーネットは、第2の態様であることが好ましい。第2の態様の場合、歪緩和層25、26は、水ガラス又は低融点ガラスからなるガラス材料を用いることができる。すなわち、固体レーザー媒体1(固体レーザー媒体1に形成した第1の対接着剤反射防止膜1a)と接触させる材料及び磁気光学材2(磁気光学材2に形成した第2の対接着剤反射防止膜)と接触させる材料は、ともに水ガラス又は低融点ガラスからなるガラス材料で有ることが好ましい。これらのガラス材料は、安定であるとともに無機透光性材料として比較的硬度が低いため、固体レーザー媒体と磁気光学材の接合部の歪の緩和に効果的に寄与する。
【0066】
上記したようなQスイッチ構造体100、10、20、30は、磁気光学材2と磁束発生器との組み合わせにより、Qスイッチとして機能する。図6には、Qスイッチ固体レーザー装置の構造の一例を示した。図6には図1、2のQスイッチ構造体100を代表として図示した。Qスイッチ固体レーザー装置80は、上記のQスイッチ構造体100と、磁束発生器83とが、一対の共振ミラー(第1の共振ミラー81、第2の共振ミラー82)の間に配置されている。図6中ではこれらの構造全てが接合一体化した例を示している。ただし、本発明では、Qスイッチ構造体100を構成する固体レーザー媒体1と磁気光学材2が接合一体化していればよく、その他の構造材料は適宜配置することができる。例えば、磁束発生器は、永久磁石と励磁コイルの組み合わせとすることができ、励磁コイルは永久磁石の周囲に配置するなどすることができる。
【0067】
[Qスイッチ構造体の製造方法]
次に、本発明のQスイッチ構造体の製造方法を説明する。本発明のQスイッチ構造体の製造方法は、図1図2に示したような、固体レーザー媒体1と、磁気光学材2とを備え、固体レーザー媒体1と磁気光学材2が接合一体化されたQスイッチ構造体100を製造する方法であり、本発明では、固体レーザー媒体1と磁気光学材2を準備する工程と、固体レーザー媒体1の一面に第1の対接着剤反射防止膜1aを形成する工程と、磁気光学材2の一面に第2の対接着剤反射防止膜2aを形成する工程と、固体レーザー媒体1の第1の対接着剤反射防止膜1aと、磁気光学材2の第2の対接着剤反射防止膜2aを、固体レーザー媒体1から発振されるレーザーのレーザー発振波長において透光性を有する透光性材料3を介して接着する工程とを有する。
【0068】
図7を参照して本発明のQスイッチ構造体の製造方法をより詳細に説明する。まず、図7のS1に示したように、固体レーザー媒体1と磁気光学材2を準備する(工程S1)。ここで準備する固体レーザー媒体1と磁気光学材2は、上記の材料を用いることができる。
【0069】
次に、図7のS2に示したように、固体レーザー媒体1の一面に第1の対接着剤反射防止膜1aを形成する(工程S2)。また、図7のS3に示したように、磁気光学材2の一面に第2の対接着剤反射防止膜2aを形成する(工程S3)。これらの対接着剤反射防止膜の材料は、上記のものを用いることができる。反射防止膜はイオンアシスト電子ビーム真空蒸着、イオンビームスパッタリング等にて形成する事が出来る。材料表面に第1層としてTiOやTa層を形成し、その上に第2層としてSiO層を形成する等により構成される。なお、工程S2とS3の順番は問わない。
【0070】
次に、図7のS4に示したように、固体レーザー媒体1の第1の対接着剤反射防止膜1aと、磁気光学材2の第2の対接着剤反射防止膜2aを接着する(工程S4)。このとき、固体レーザー媒体1から発振されるレーザーのレーザー発振波長において透光性を有する透光性材料を用いる。
【0071】
工程S4の接着工程については、透光性材料として、ショアD硬度80以下である有機接着剤を用いて行う(図3に示した第1の態様)か、無機透光性材料を用いて行う(図4に示した第2の態様、図5に示した第3の態様)ことが好ましい。
【0072】
[第1の態様]
第1の態様の有機接着剤13としては、シリコーン樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂の少なくともいずれか1種を用いることができる。通常の有機接着剤の作用により、固体レーザー媒体1の第1の対接着剤反射防止膜1aと、磁気光学材2の第2の対接着剤反射防止膜2aを接着することができる。これにより、図3に示したQスイッチ構造体10を製造することができる。透光性材料としてショアD硬度80以下である有機接着剤を用いた場合、簡便な方法で、固体レーザー媒体1と磁気光学材2を接合する際の歪を低減することができ、高いビーム品質を得ることができる。
【0073】
[第2の態様、第3の態様]
【0074】
無機透光性材料を用いて接着を行う方法は様々あり、公知の方法を用いて行うことができる。特に、以下のようにして接着を行うことが好ましい。
【0075】
<第2の態様>
第2の態様では、上記のように、無機透光性材料23として、ホウケイ酸ガラスや石英ガラス、常磁性ガーネットを用いることができる。この場合、上記のように、歪緩和層25、26として、水ガラス又は低融点ガラスからなるガラス材料を用いることが好ましい。この態様におけるQスイッチ構造体20の製造方法についてより具体的に説明する。
【0076】
磁気光学材2としてBi-RIGを用いた場合を例として説明する。まず、磁気光学材(Bi-RIG)2と無機透光性材料23を接合する。このときに用いる無機透光性材料23はBi-RIGと固体レーザー媒体の線膨張係数の間の値を有するものが好ましい。このとき、無機透光性材料23自体が水ガラス又は低融点ガラスで形成されることも考えられるが、その場合、歪緩和層25、26にも水ガラス又は低融点ガラスを採用することができるので、後述の第3の態様と同様の構成となる。
【0077】
第2の態様の場合、予め磁気光学材2であるBi-RIGに反射防止膜(金属酸化膜)2aを電子ビーム蒸着法により形成し、この上に歪緩和層26である水ガラス又は低融点ガラス層を形成することができる。このうち、水ガラスについては、ケイ酸ナトリウム水溶液を加熱する事で粘性を帯びた液体となり、これを媒体表面に塗布する事により形成することができる。また、低融点ガラス層は、電子ビーム蒸着法等の化学気相成長法により形成することができる。この時、形成される低融点ガラスとしては、従来用いられているPbO、B、TeO、Bi等を主成分としたガラス材料を使用することができる。このとき、水ガラス又は低融点ガラスの厚さが1×10-8m~1×10-5m(すなわち、10nm~10μm)となるように形成することが好ましく、0.010~0.100mmとなるように形成することがより好ましい。歪緩和層26である水ガラス又は低融点ガラス層の厚さが1×10-8m以上となることにより十分な接合強度を得ることができる。また、この厚さを1×10-5m以下とすることにより光の透過率低下を抑制できる。
【0078】
次に、磁気光学材2であるBi-RIG上に形成した、歪緩和層26である水ガラス又は低融点ガラスと、無機透光性材料23の接合面を貼り合せ熱処理を行う。これにより磁気光学材2であるBi-RIGと無機透光性材料23が一体成形される。接合温度が低ければ接合面が受ける熱応力を小さくすることができるので、できるだけ低い温度で溶融固着することが好ましい。この接合温度は例えば、ガラス転移点+30℃以下とすることができる。
【0079】
さらに、無機透光性材料23上に歪緩和層25である水ガラス又は低融点ガラスを形成する。この方法は、上記と同様にして行うことができる。
【0080】
次に歪緩和層25である水ガラス又は低融点ガラスと固体レーザー媒体1とを接合する。この接合方法は、半導体のSOI構造を有するウエーハを製造する際に用いられている方法に類似しており、この場合の接合力はファン・デル・ワールス力、水素結合、共有結合などが考えられる。双方の接合する表面に親水化処理を行い、それらの接合面で貼り合せ、その後、熱処理によって、十分な接合強度を得ることができる。
【0081】
より具体的には以下のようにして歪緩和層25である水ガラス又は低融点ガラスと固体レーザー媒体1とを接合することができる。まず、ワーク表面を洗浄し親水化処理を行う。この洗浄は通常の湿式洗浄が有効であるが、さらに短波長紫外線処理(UV処理)やプラズマ処理を併用することが効果的である。親水処理では一般的なアンモニア過水(アンモニア水、過酸化水素水、純水の混合液)や硝酸、塩酸の希釈液もしくはこれら希釈液に過酸化水素水を添加した溶液が有効である。次に純水による洗浄を行い、親水処理液を除去する。このようにして前処理を行った接合面を対向させ貼り合せる。より接合を容易にするために純水などの極性分子を主成分とした液体を接合面に塗布した後、液体を介して貼り合せることが望ましい。その後、接合体を自然乾燥もしくは真空乾燥させることで弱い接合力で固定される。その後、80~200℃程度の温度で熱処理することで十分な接合力を得ることができる。
【0082】
<第3の態様>
第3の態様では、図5に示したように、固体レーザー媒体1の第1の対接着剤反射防止膜1aと、磁気光学材2の第2の対接着剤反射防止膜2aの間を、透光性材料として無機透光性材料33を介して、直接接着する。この方法においては、固体レーザー媒体1がNd:YAG等のガーネット材料である場合に、膨張係数が近い、水ガラス又は低融点ガラスからなるガラス材料を無機透光性材料33として用いることが好ましい。直接の接合方法としては、上記の第2の態様の歪緩和層25、26である水ガラス又は低融点ガラスと、固体レーザー媒体1及び/又は磁気光学材2との接合の場合と同様の方法により行うことができる。
【0083】
上記のように、第2の態様、第3の態様のいずれの場合でも、ガラス材料は、熱拡散接合又は真空下での密着接合により、第1の対接着剤反射防止膜や第2の対接着剤反射防止膜に接着することが好ましい。
【0084】
以上のようなQスイッチ構造体の製造方法により製造されたQスイッチ構造体を用いて、該Qスイッチ構造体と、磁束発生器を、一対の共振ミラーの間に配置してQスイッチ固体レーザー装置を製造することができる。
【実施例0085】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
[実施例1-1~1-8]
以下のようにして、図1、2に示したQスイッチ構造体100を製造した。
【0087】
まず、固体レーザー媒体1としてNd:YAGを、磁気光学材2としてビスマス置換希土類鉄ガーネット((RBi)Fe12 通称:Bi-RIG)を準備した(図7の工程S1)。
【0088】
次に、固体レーザー媒体1の一方の表面に対空気反射防止膜(材質は媒体表面にTa/その上層にSiO)を、もう一方の表面(接合面となる面)に対接着剤用反射防止膜(材質は媒体表面にTiO/その上層にSiO)を形成した(図7の工程S2)。また、磁気光学材2の一方の表面(接合面となる面)に対接着剤用反射防止膜(材質は磁気光学材表面にTiO/その上層にSiO)を形成し、もう一方の表面に対空気用反射防止膜(材質は磁気光学材表層にTa/その上層にSiO)を形成した(図7の工程S3)。
【0089】
次に、透光性材料3として、有機接着剤(図3の有機接着剤である透光性材料13)を用いて、接着を行った(図7の工程S4)。このとき、硬化後のショアD硬度が異なる有機接着剤を用いて接着を行った。使用した接着剤は、KJR9022、LPS5400、LPS5547F、KJR632(以上、信越化学工業株式会社製)、Epo-tek OD2002、Epo-tek 302-3M、Epo-tek 353ND、Epo-tek 301(以上、Epoxy Technology社製)である。
【0090】
接合歪の評価は、レーザー光源から平行光を取り出し偏光子/検光子を介して受光器に入れる光学系において偏光子/検光子の間に接合ワークを配置、光を固体レーザー媒体1の表面に入射させ、磁気光学材2を出射した光の消光比を測定することで行った。用いた接着剤と、ショアD硬度、1064nm域での光透過率を表1に示した。
【0091】
【表1】
【0092】
実施例1-1~1-8において、小型で歪が緩和されたQスイッチ構造体が得られた。また、消光比は、30dB以上であればよいが、特に35dB以上の数値が得られる値を、歪が小さく、特に良好な値であると定義すると、実施例1-1~1-6で特に良好な値が得られた。なお、光出力が増大した場合も、接合条件を見直すことで出力劣化の少ないQスイッチを得ることができた。
【0093】
[実施例2]
以下のようにして、図1、2に示したQスイッチ構造体100を製造した。
【0094】
まず、固体レーザー媒体1としてNd:YAGを、磁気光学材2としてビスマス置換希土類鉄ガーネット((RBi)Fe12 通称:Bi-RIG)を準備した(図7の工程S1)。次に、固体レーザー媒体1の一方の表面に対空気反射防止膜(媒体表層にTiO/その上層にSiO)を、もう一方の表面(接合面となる面)に対接着剤用反射防止膜(媒体表面にTiO/その上層にSiO)を形成した(図7の工程S2)。また、磁気光学材2の一方の表面(接合面となる面)に対接着剤用反射防止膜(磁気光学材表面にTiO/その上層にSiO)を形成し、もう一方の表面に対空気用反射防止膜(磁気光学材表面にTiO/その上面にSiO)を形成した(図7の工程S3)。
【0095】
次に、透光性材料3として、無機透光性材料(図5の無機透光性材料33)を用いて、以下のようにして接着を行った(図7の工程S4)。
【0096】
磁気光学材2の耐接着剤用反射防止膜上に、無機透光性材料33である低融点ガラス層(PbO-ZnO-B)を化学気相成長法により形成した。このときの厚さは0.050mmとした。次に、磁気光学材2の無機透光性材料33形成面と、固体レーザー媒体1の表面をアンモニア過水により洗浄し、親水化処理を行った。その後純水による洗浄を行った。このようにして前処理を行った接合面を対向させ貼り合せた。その後、接合体を真空乾燥させて固定した。その後、400℃の温度で熱処理することで無機透光性材料33と固体レーザー媒体1の表面を接合した。このようにして、図5に示したQスイッチ構造体30を製造した。
【0097】
製造したQスイッチ構造体に、実施例1-1~1-8と同様にレーザー光を透過させ接合歪評価を行い、消光比35dB以上を得ることができた。また、このQスイッチ構造体を使用しQスイッチ固体レーザー装置に組込み、出力を10mJに上げ連続使用したが、出力の経時劣化は見られなかった。
【0098】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0099】
100、10、20、30…Qスイッチ構造体、
1…固体レーザー媒体、 1a…第1の対接着剤反射防止膜、
2…磁気光学材、 2a…第2の対接着剤反射防止膜、
3…透光性材料、
13…有機接着剤である透光性材料、
23、33…無機透光性材料、
25、26…歪緩和層、
80…Qスイッチ固体レーザー装置、
81…第1の共振ミラー、 82…第2の共振ミラー、 83…磁束発生器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7