IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧

<>
  • 特開-脱水素用触媒 図1
  • 特開-脱水素用触媒 図2
  • 特開-脱水素用触媒 図3
  • 特開-脱水素用触媒 図4
  • 特開-脱水素用触媒 図5
  • 特開-脱水素用触媒 図6
  • 特開-脱水素用触媒 図7
  • 特開-脱水素用触媒 図8
  • 特開-脱水素用触媒 図9
  • 特開-脱水素用触媒 図10
  • 特開-脱水素用触媒 図11
  • 特開-脱水素用触媒 図12
  • 特開-脱水素用触媒 図13
  • 特開-脱水素用触媒 図14
  • 特開-脱水素用触媒 図15
  • 特開-脱水素用触媒 図16
  • 特開-脱水素用触媒 図17
  • 特開-脱水素用触媒 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182945
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】脱水素用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/62 20060101AFI20221201BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20221201BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20221201BHJP
   C07C 5/333 20060101ALI20221201BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
B01J23/62 Z
B01J23/89 Z
C07C11/06
C07C5/333
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166497
(22)【出願日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2021090373
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「インターメタリック反応場でのプロトニクスを利用した高効率触媒の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】古川 森也
(72)【発明者】
【氏名】中谷 勇希
(72)【発明者】
【氏名】林田 英悟
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169BC17A
4G169BC17B
4G169BC21A
4G169BC21B
4G169BC22A
4G169BC22B
4G169BC23A
4G169BC23B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CB07
4G169CB63
4G169DA06
4G169EB18Y
4G169EB19
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC12
4H006BA09
4H006BA11
4H006BA26
4H006BA30
4H006BA55
4H039CA29
4H039CC10
(57)【要約】
【課題】従来の触媒に比べて長寿命なプロパンの脱水素反応によってプロピレンを製造するための脱水素用触媒の提供。
【解決手段】プロパンの脱水素反応によってプロピレンを製造するための脱水素用触媒であって、活性成分として、白金元素と、M1元素と、を含み、M2元素を含んでもよく、前記M1元素は、ガリウム元素、コバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、錫元素、及び鉄元素からなる群から選択される1種以上の元素であり、前記M2元素は、鉛元素、及びカルシウム元素からなる群から選択される1種以上の元素であり、前記白金元素と、前記M1元素と、が合金を形成している脱水素用触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロパンの脱水素反応によってプロピレンを製造するための脱水素用触媒であって、
活性成分として、白金元素と、M1元素と、を含み、M2元素を含んでもよく、
前記M1元素は、ガリウム元素、コバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、錫元素、及び鉄元素からなる群から選択される1種以上の元素であり、
前記M2元素は、鉛元素、及びカルシウム元素からなる群から選択される1種以上の元素であり、
前記白金元素と、前記M1元素と、が合金を形成している脱水素用触媒(但し、M1元素として錫元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、M1元素としてガリウム元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、M1元素としてコバルト元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、M1元素として銅元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、M1元素としてゲルマニウムのみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、及びM1元素としてゲルマニウムのみを含みM2元素としてカルシウム元素のみを含む脱水素用触媒を除く)。
【請求項2】
前記M1元素としてガリウム元素を含む、請求項1に記載の脱水素用触媒。
【請求項3】
前記M2元素として鉛元素を含む、請求項2に記載の脱水素用触媒。
【請求項4】
前記鉛元素が、前記合金の表面に原子として存在している、請求項3に記載の脱水素用触媒。
【請求項5】
前記M1元素としてコバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、及び錫元素を含む、請求項2に記載の脱水素用触媒。
【請求項6】
前記M1元素としてコバルト元素、銅元素、及び鉄元素を含む、請求項2に記載の脱水素用触媒。
【請求項7】
前記M1元素として銅元素を含む、請求項1に記載の脱水素用触媒。
【請求項8】
前記M2元素としてカルシウム元素を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の脱水素用触媒。
【請求項9】
前記活性成分が、シリカ担体に担持されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の脱水素用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水素用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンは、樹脂、界面活性剤、染料、医薬品など、様々な化学物質を製造するための基幹化学品である。近年、スチームクラッカーの原料が原油由来のナフサからシェールガス由来のエタンにシフトしているため、プロピレンの供給が減少している。
【0003】
このような背景もあり、プロパンの脱水素反応によるプロピレンの製造が注目されている。プロパンの脱水素反応は吸熱反応であるため、反応の進行には600℃以上の高温が必要である。プロパンの脱水素用触媒としては、従来広範な研究が行われており、白金金属を含む触媒が知られている。しかしながら、従来の白金金属を含む触媒を用いて600℃以上でプロパンの脱水素反応を行うと、コークの堆積及び/又はシンタリングによって活性が低下する。
【0004】
非特許文献1には、白金-錫合金を含む触媒が開示されている。白金-錫合金を含む触媒を用いることで、従来の白金金属を含む触媒よりも600℃以上のプロパンの脱水素反応において、活性の低下が抑制されることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Feng et al., Chin. J. Chem. Eng., 2014, 22, 1232.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載のプロパンの脱水素用触媒の触媒寿命は充分ではない。本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、従来の触媒に比べて長寿命な、プロパンの脱水素反応によってプロピレンを製造するための脱水素用触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
[1] プロパンの脱水素反応によってプロピレンを製造するための脱水素用触媒であって、活性成分として、白金元素と、ガリウム元素と、M元素と、を含み、前記M元素は、鉛元素、カルシウム元素、コバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、及び錫元素からなる群から選択される1種以上の元素である、脱水素用触媒。
[2] 前記M元素として鉛元素を含む、[1]に記載の脱水素用触媒。
[3] 前記M元素としてコバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、及び錫元素を含む、[1]に記載の脱水素用触媒。
[4] 前記M元素としてカルシウム元素を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の脱水素用触媒。
[5] 前記白金元素と、前記ガリウム元素と、が合金を形成しており、前記M元素が前記合金の表面に存在している、[1]~[4]のいずれか一項に記載の脱水素用触媒。
[6] 前記白金元素と、前記ガリウム元素と、前記M元素と、が合金を形成している[1]~[5]のいずれか一項に記載の脱水素用触媒。
[7] 前記活性成分が、シリカ担体に担持されている、[1]~[6]のいずれか一項に記載の脱水素用触媒。
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、以下の態様も有する。
[8] プロパンの脱水素反応によってプロピレンを製造するための脱水素用触媒であって、活性成分として、白金元素と、M1元素と、を含み、M2元素を含んでもよく、前記M1元素は、ガリウム元素、コバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、錫元素、及び鉄元素からなる群から選択される1種以上の元素であり、前記M2元素は、鉛元素、及びカルシウム元素からなる群から選択される1種以上の元素であり、前記白金元素と、前記M1元素と、が合金を形成している脱水素用触媒(但し、M1元素として錫元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、M1元素としてガリウム元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、M1元素としてコバルト元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、M1元素として銅元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、M1元素としてゲルマニウムのみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、及びM1元素としてゲルマニウムのみを含みM2元素としてカルシウム元素のみを含む脱水素用触媒を除く)。
[9] 前記M1元素としてガリウム元素を含む、[8]に記載の脱水素用触媒。
[10] 前記M2元素として鉛元素を含む、[9]に記載の脱水素用触媒。
[11] 前記鉛元素が、前記合金の表面に原子として存在している、[10]に記載の脱水素用触媒。
[12] 前記M1元素としてコバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、及び錫元素を含む、[9]に記載の脱水素用触媒。
[13] 前記M1元素としてコバルト元素、銅元素、及び鉄元素を含む、[9]に記載の脱水素用触媒。
[14] 前記M1元素として銅元素を含む、[8]に記載の脱水素用触媒。
[15] 前記M2元素としてカルシウム元素を含む、[8]~[14]のいずれか一項に記載の脱水素用触媒。
[16] 前記活性成分が、シリカ担体に担持されている、[8]~[15]のいずれか一項に記載の脱水素用触媒。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の触媒に比べて長寿命なプロパンの脱水素反応によってプロピレンを製造するための脱水素用触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】白金-ガリウム合金の結晶構造(単位格子)を示す図である。
図2】白金-ガリウム合金の表面((111)面)の原子配列を示す図である。
図3】鉛原子が白金-ガリウム合金の表面のPtサイトを選択的に被覆する推定メカニズムを示す図である。
図4】白金-ガリウム-コバルト-銅-ゲルマニウム-錫合金の結晶構造(単位格子)を示す図である。
図5】実施例1、比較例1~7の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図6】実施例1~4、比較例3の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図7】実施例5~7、比較例3の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図8】実施例5、7の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図9】実施例6、8、9、比較例3の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図10】比較例3、8~11の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図11】実施例6、比較例3、12、13の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図12】比較例3、14~18の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図13】実施例6、比較例19~21の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図14】実施例6、比較例22~24の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図15】実施例10、比較例25の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図16】実施例5、10の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図17】実施例10の触媒を用いたプロパンの脱水素反応の結果を示す図である。
図18】実施例10~12、比較例25の触媒を用いたプロパンの脱水素反応結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0012】
≪脱水素用触媒≫
本発明の第1の脱水素用触媒は、プロパンの脱水素反応によってプロピレンを製造するための脱水素用触媒である。脱水素用触媒は、活性成分として、白金元素と、ガリウム元素と、M元素と、を含み、前記M元素は、鉛元素、カルシウム元素、コバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、及び錫元素からなる群から選択される1種以上の元素である。M元素は1種のみでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0013】
本発明の第2の脱水素用触媒は、活性成分として、白金元素と、M1元素と、を含み、M2元素を含んでもよく、前記M1元素は、ガリウム元素、コバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、錫元素、及び鉄元素からなる群から選択される1種以上の元素であり、
前記M2元素は、鉛元素、及びカルシウム元素からなる群から選択される1種以上の元素である。前記白金元素と、M1元素と、が合金を形成している。M1元素は1種のみでもよいし、2種以上含んでもよい。M2元素は1種のみでもよいし、2種でもよい。
但し、第2の脱水素用触媒には、M1元素として錫元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、M1元素としてガリウム元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、M1元素としてコバルト元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、M1元素として銅元素のみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒、及びM1元素としてゲルマニウムのみを含みM2元素を含まない脱水素用触媒は含まれない。
第2の脱水素用触媒に含まれる、M1元素及びM2元素の種類の和は、2~8であることが好ましく、2~6であることがより好ましい。
【0014】
第1の脱水素用触媒の1実施形態においては、前記活性成分は、白金元素と、ガリウム元素と、が合金を形成していることが好ましい。第2の脱水素用触媒の1実施形態においては、M1元素として、ガリウムを含むことが好ましい。すなわち、前記活性成分は、白金-ガリウム合金を含むことが好ましい。第1の脱水素用触媒の場合、M元素は、白金-ガリウム合金の表面に存在していることが好ましい。白金-ガリウム合金の表面に存在するM元素の形態は、原子であることが好ましい。白金-ガリウム合金の表面に存在していないM元素の形態は、金属でもよく、酸化物でもよい。M元素が2種以上含まれる場合は、M元素の一部又は全部が合金を形成していてもよい。
【0015】
第1の脱水素用触媒の1実施形態においては、前記活性成分は、白金元素と、ガリウム元素と、M元素と、が合金を形成していることが好ましい。すなわち、前記活性成分は、白金-ガリウム-M合金を含むことが好ましい。M元素が2種以上含まれる場合、白金元素と、ガリウム元素と、全てのM元素と、が合金を形成してもよく、白金元素と、ガリウム元素と、一部のM元素と、が合金を形成していてもよい。第2の脱水素用触媒の1実施形態においては、M1元素として、ガリウム及びその他の元素を含むことが好ましい。
【0016】
第1の脱水素用触媒及び第2の脱水素用触媒の1実施形態においては、活性成分は、シリカ担体に担持されていることが好ましい。活性成分が、シリカ担体に担持されることにより、脱水素用触媒の表面の活性成分の活性点の数を増やすことができる。シリカ担体は、本分野で公知のシリカ担体を使用することができる。シリカ担体は、多孔質シリカ担体であることが好ましい。
【0017】
第1の脱水素用触媒及び第2の脱水素用触媒において、脱水素用触媒の総質量に対する、前記活性成分の含有割合は、0.25~21質量%であることが好ましく、2~16質量%であることがより好ましく、2~11質量%であることがさらに好ましい。活性成分の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、プロピレン選択率及び触媒寿命が向上する。活性成分の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0018】
第1の脱水素用触媒及び第2の脱水素用触媒において、脱水素用触媒の総質量に対する、白金元素の含有割合は、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましく、0.5~3質量%であることがさらに好ましい。白金元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒活性が向上する。白金元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、プロピレン選択率が向上する。
【0019】
第1の脱水素用触媒及び第2の脱水素用触媒において、脱水素用触媒の総質量に対する、ガリウム元素の含有割合は、0.05~6質量%であることが好ましく、0.5~7質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることがさらに好ましい。ガリウム元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、プロピレン選択率が向上する。ガリウム元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0020】
第1の脱水素用触媒及び第2の脱水素用触媒において、脱水素用触媒の総質量に対する、M元素の含有割合は、0.1~5質量%であることが好ましく、1~4質量%であることがより好ましく、1~3質量%であることがさらに好ましい。M元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、プロピレン選択率が向上する。M元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0021】
本明細書において、「白金元素、ガリウム元素、M元素、M1元素、M2元素」の含有割合は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)により測定することができる。例えば、脱水素用触媒を塩酸に溶解させた後に、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて各金属量の測定を行うことができる。
【0022】
第1の脱水素用触媒及び第2の脱水素用触媒の物性値は、以下の範囲であることが好ましい。
【0023】
第1の脱水素用触媒及び第2の脱水素用触媒の窒素吸着によるBET比表面積は、300~900m/gであることが好ましく、400~900m/gであることがより好ましく、500~900m/gであることがさらに好ましい。脱水素用触媒の比表面積が前記範囲の下限値以上であると、触媒活性が向上する。
本明細書において、「BET比表面積」は、窒素吸着測定により測定することができる。
【0024】
以下、第1の脱水素用触媒におけるM元素の組み合わせの好ましい態様について例を挙げて説明を行う。また同様に、第2の脱水素用触媒におけるM1元素、M2元素の組み合わせの好ましい態様について例を挙げて説明を行う。なお、上述の触媒の物性値の好ましい範囲、好ましい担体の種類等は、以下の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態、第4実施形態の脱水素用触媒においても適用することができる。
【0025】
<第1実施形態>
第1実施形態の脱水素用触媒(以下、「脱水素用触媒1」ともいう。)の活性成分は、第1の脱水素用触媒の場合、白金元素と、ガリウム元素と、M元素として鉛元素を含む。M元素として、鉛元素以外の元素を含んでもよいが、M元素は、鉛元素のみであることが好ましい。脱水素用触媒1の活性成分は、第2の脱水素用触媒の場合、白金元素と、M1元素としてガリウム元素と、M2元素として鉛元素を含む。M1元素として、ガリウム元素以外の元素を含んでもよいが、M1元素は、ガリウム元素のみであることが好ましい。M2元素として、鉛元素以外の元素を含んでもよいが、M2元素は、鉛元素のみであることが好ましい。
【0026】
脱水素用触媒1の活性成分において、白金元素と、ガリウム元素は、合金を形成していることが好ましい。すなわち、前記活性成分は、白金-ガリウム合金を含むことが好ましい。鉛元素は、白金-ガリウム合金の表面に存在していることが好ましい。すなわち、前記活性成分は、鉛元素(鉛原子)が白金-ガリウム合金の表面に存在している複合体を含むことが好ましい。白金-ガリウム合金の表面に存在していない鉛元素の形態は、金属でもよく、酸化物でもよい。第1の脱水素用触媒において、鉛元素以外のM元素が含まれる場合は、鉛元素の一部又は全部が鉛元素以外のM元素と合金を形成していてもよい。第2の脱水素用触媒において、鉛元素の一部又は全部がM1元素と合金を形成していてもよい。
【0027】
脱水素用触媒1の総質量に対する、前記活性成分の含有割合は、0.25~21質量%であることが好ましく、2~16質量%であることがより好ましく、2~11質量%であることがさらに好ましい。活性成分の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。活性成分の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0028】
脱水素用触媒1の総質量に対する、白金元素の含有割合は、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましく、0.5~3質量%であることがさらに好ましい。白金元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒活性が向上する。白金元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、プロピレン選択率が向上する。
【0029】
脱水素用触媒1の総質量に対する、ガリウム元素の含有割合は、0.05~6質量%であることが好ましく、0.5~7質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることがさらに好ましい。ガリウム元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、プロピレン選択率が向上する。ガリウム元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0030】
脱水素用触媒1の総質量に対する、鉛元素の含有割合は、0.1~5質量%であることが好ましく、1~4質量%であることがより好ましく、1~3質量%であることがさらに好ましい。鉛元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、プロピレン選択率が向上する。鉛元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0031】
脱水素用触媒1における、ガリウム元素に対する白金元素のモル比(Pt/Ga)は、0.3~1であることが好ましく、0.5~1であることがより好ましく、0.7~1であることがさらに好ましい。Pt/Gaが前記範囲の下限値以上であると、プロピレン選択率が向上する。Pt/Gaが前記範囲の上限値以下であると、プロピレン選択率が向上する。
【0032】
脱水素用触媒1における、鉛元素に対する白金元素のモル比(Pt/Pb)は、1.2~2.5であることが好ましく、1.3~2であることがより好ましく、1.5~2であることがさらに好ましい。Pt/Pbが前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Pt/Pbが前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0033】
脱水素用触媒1における、白金元素とガリウム元素の合計に対する鉛元素のモル比(Pb/(Pt+Ga))は、0.2~0.6であることが好ましく、0.3~0.6であることがより好ましく、0.3~0.5であることがさらに好ましい。Pb/(Pt+Ga)が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Pb/(Pt+Ga)が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0034】
脱水素用触媒1の活性成分である、前記複合体の平均粒子径は、0.2~4nmであることが好ましく、0.2~3nmであることがより好ましく、0.2~2.8nmであることがさらに好ましい。複合体の平均粒子径が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。複合体の平均粒子径が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。複合体の平均粒子径は、走査型透過顕微鏡(STEM)により測定することができる。具体的な複合体の平均粒子径の測定方法は、後述の実施例において説明する。
【0035】
白金-ガリウム合金の結晶構造は、空間群(P23)に属することが知られている。図1に白金-ガリウム合金の結晶構造(単位格子)を示す。白金-ガリウム合金の表面((111)面)の原子配列は図2で示される。白金-ガリウム合金の表面には、3個の白金原子が接しているサイト(以下、「Ptサイト」ともいう。)と、1個の白金原子が3個のガリウム原子に囲まれているサイト(以下、「Ptサイト」ともいう)が存在する。図2中の白の丸がGa原子であり、濃い黒の丸がPtサイトのPt原子であり、薄い黒の丸がPtサイトのPt原子を表している(図3においても同様である)。
【0036】
本願の発明者らが、検討を行った所、Ptサイトではプロパンの脱水素反応のみならず、コークを生成する副反応が起こり、Ptサイトでは実質的にプロパンの脱水素反応のみが進行することを見出した。上述した通り、脱水素用触媒は、前記副反応由来のコークの堆積により活性が低下する。すなわち、Ptサイト由来の副反応を抑制することができれば、脱水素用触媒の活性低下が抑制されると考えられる。
【0037】
結晶構造により、Ptサイトの数と、Ptサイトの数の割合は決定される。したがって、白金-ガリウム合金の表面のPtサイトの数と、Ptサイトの数を制御することは困難である。本願の発明者らは、Ptサイトを白金、ガリウム以外の原子で被覆することにより、Ptサイトの副反応を抑制することができないか検討を行った。その結果、本願の発明者らは、鉛原子を用いると、Ptサイトは被覆されず、Ptサイトのみが被覆され、Ptサイトの副反応が抑制されることを見出した。
【0038】
図3は、鉛原子が白金-ガリウム合金の表面のPtサイトを選択的に被覆する推定メカニズムを示す図である。上述した通り、Ptサイトは、3個の白金原子が接しているサイトであり、Ptサイトは、1個の白金原子が3個のガリウム原子に囲まれているサイトである。図3に示されるように、鉛原子は、Ptサイトの3個の白金原子の隙間に位置することによりPtサイトを安定的に被覆することができると考えられる。一方、Ptサイトは、1個の白金原子であるため、安定性の観点から鉛原子は、Ptサイトを被覆することができないと考えられる。以上のメカニズムにより、鉛原子がPtサイトのみを選択的に被覆することが可能であると考えられる。
【0039】
本願の発明者らは、鉛原子以外の元素(例えば、インジウム元素、錫元素)についても同様の検討を行ったが、Ptサイトを選択的に被覆することが可能な元素は鉛原子のみであることを見出した。
【0040】
鉛原子のPtサイトへの被覆は、CO吸着IR(infrared absorption spectrometry)により確認することができる。具体的には、脱水素用触媒1に一酸化炭素を吸着させた状態でIRを測定した際に、2040cm-1のピーク強度に対する2080cm-1のピーク強度の割合が、0.1以下であることにより、鉛原子がPtサイトを被覆していると判断することができる。CO吸着IRにおける2040cm-1のピークはPtサイトに由来するピークであり、2080cm-1のピークはPtサイトに由来するピークである。
【0041】
脱水素用触媒1のCO吸着により測定される白金元素の分散度は、1~10%であることが好ましく、2~8%であることがより好ましく、3~7%であることがさらに好ましく、3~6%であることが特に好ましい。鉛原子がPtサイトを被覆することにより、白金元素の分散度は低下する。
【0042】
鉛原子が白金-ガリウム合金の表面に存在していることはXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)測定により確認することができる。鉛原子が白金-ガリウム合金の表面に存在していると、Arにより脱水素用触媒1のスパッタリングを行ったときに、Pt4fに由来する結合エネルギー(eV)の増大が観測される。Pt4fに由来する結合エネルギー(eV)の増大は、鉛原子がスパッタリングにより除去されたことによりPbからPtへの電子供与が消失することに起因する。本実施形態においては、スパッタリング前の脱水素用触媒1のPt4fに由来する結合エネルギー(eV)を、0.5nmスパッタリングを行った後の脱水素用触媒1のPt4fに由来する結合エネルギー(eV)で除した値が0.3以下であることが好ましい。
【0043】
<第2実施形態>
第2実施形態の脱水素用触媒(以下、「脱水素用触媒2」ともいう。)の活性成分は、第1の脱水素用触媒の場合、白金元素と、ガリウム元素と、M元素としてコバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、及び錫元素を含む。M元素として、上述の元素以外の元素を含んでもよいが、M元素は、上述の元素のみであることが好ましい。脱水素用触媒2の活性成分は、第2の脱水素用触媒の場合、白金元素と、M1元素としてガリウム元素、コバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、及び錫元素を含む。M1元素として、上述の元素以外の元素を含んでもよいが、M1元素は、上述の元素のみであることが好ましい。また、M2元素を含んでもよい。
【0044】
脱水素用触媒2の活性成分において、白金元素と、ガリウム元素と、コバルト元素と、銅元素と、ゲルマニウム元素と、錫元素と、は合金を形成していることが好ましい。すなわち、前記活性成分は、白金-ガリウム-コバルト-銅-ゲルマニウム-錫合金(以下、「6元素合金」ともいう。)を含むことが好ましい。
【0045】
脱水素用触媒2の総質量に対する、前記活性成分の含有割合は、0.3~28質量%であることが好ましく、0.3~18質量%であることがより好ましく、0.3~11.5質量%であることがさらに好ましい。活性成分の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。活性成分の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒寿命が向上する。
【0046】
脱水素用触媒2の総質量に対する、白金元素の含有割合は、0.1~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましく、0.1~1質量%であることがさらに好ましい。白金元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。白金元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒寿命が向上する。
【0047】
脱水素用触媒2の総質量に対する、ガリウム元素の含有割合は、0.05~5質量%であることが好ましく、0.05~3質量%であることがより好ましく、0.05~2質量%であることがさらに好ましい。ガリウム元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。ガリウム元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0048】
脱水素用触媒2の総質量に対する、コバルト元素の含有割合は、0.03~3質量%であることが好ましく、0.03~2質量%であることがより好ましく、0.03~1.5質量%であることがさらに好ましい。コバルト元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。コバルト元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0049】
脱水素用触媒2の総質量に対する、銅元素の含有割合は、0.03~4質量%であることが好ましく、0.03~3質量%であることがより好ましく、0.03~2質量%であることがさらに好ましい。銅元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。銅元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0050】
脱水素用触媒2の総質量に対する、ゲルマニウム元素の含有割合は、0.03~4質量%であることが好ましく、0.03~3質量%であることがより好ましく、0.03~2質量%であることがさらに好ましい。ゲルマニウム元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。ゲルマニウム元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0051】
脱水素用触媒2の総質量に対する、錫元素の含有割合は、0.06~7質量%であることが好ましく、0.06~4質量%であることがより好ましく、0.06~3質量%であることがさらに好ましい。錫元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。錫元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0052】
本発明者らが、6元素合金の結晶構造を解析した所、白金-ゲルマニウム合金と同じ、FeAs結晶構造であることが判明した。本発明者らがさらに検討を進めた所、白金-ゲルマニウム合金中の白金のサイトには、白金、コバルト、銅が位置し、ゲルマニウムのサイトには、ガリウム、ゲルマニウム、錫が位置することが判明した。以下、白金、コバルト、銅を総称して、「遷移金属群1」、ガリウム、ゲルマニウム、錫を総称して、「典型金属群1」ともいう。
【0053】
遷移金属群1の総モル数に対する、典型金属群1の総モル数の割合(典型金属群1/遷移金属群1)は、0.8~1.5であることが好ましく、0.9~1.3であることがより好ましく、1~1.2であることがさらに好ましい。典型金属群1/遷移金属群1が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。典型金属群1/遷移金属群1が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0054】
遷移金属群1の総モル数に対する、白金元素のモル数の割合(Pt/遷移金属群1)は、0.1~0.5であることが好ましく、0.2~0.5であることがより好ましく、0.2~0.4であることがさらに好ましく、0.2~0.35であることが特に好ましい。Pt/遷移金属群1が前記範囲の下限値以上であると、触媒活性が向上する。Pt/遷移金属群1が前記範囲の上限値以下であると、触媒寿命が向上する。
【0055】
遷移金属群1の総モル数に対する、コバルト元素のモル数の割合(Co/遷移金属群1)は、0.25~0.45であることが好ましく、0.30~0.45であることがより好ましく、0.30~0.40であることがさらに好ましい。Co/遷移金属群1が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Co/遷移金属群1が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0056】
遷移金属群1の総モル数に対する、銅元素のモル数の割合(Cu/遷移金属群1)は、0.25~0.45であることが好ましく、0.30~0.45であることがより好ましく、0.30~0.40であることがさらに好ましい。Cu/遷移金属群1が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Cu/遷移金属群1が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0057】
典型金属群1の総モル数に対する、ガリウム元素のモル数の割合(Ga/典型金属群1)は、0.30~0.50であることが好ましく、0.35~0.50であることがより好ましく、0.35~0.45であることがさらに好ましい。Ga/典型金属群1が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Ga/典型金属群1が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0058】
典型金属群1の総モル数に対する、ゲルマニウム元素のモル数の割合(Ge/典型金属群1)は、0.20~0.40であることが好ましく、0.25~0.40であることがより好ましく、0.20~0.40であることがさらに好ましい。Ge/典型金属群1が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Ge/典型金属群1が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0059】
典型金属群1の総モル数に対する、錫元素のモル数の割合(Sn/典型金属群1)は、0.20~0.40であることが好ましく、0.25~0.40であることがより好ましく、0.25~0.35であることがさらに好ましい。Sn/典型金属群1が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Sn/典型金属群1が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0060】
脱水素用触媒2の活性成分である、6元素合金の平均粒子径は、0.1~4nmであることが好ましく、0.1~3nmであることがより好ましく、0.1~2.2nmであることがさらに好ましい。6元素合金の平均粒子径が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。6元素合金の平均粒子径が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。6元素合金の平均粒子径は、TEM、STEMにより測定することができる。具体的には、前記脱水素用触媒1の活性成分である前記複合体の平均粒子径の測定方法と同じ方法により測定することができる。
【0061】
上述した通り、脱水素用触媒1の白金-ガリウム合金の表面には、3個の白金原子が接しているPtサイトと、1個の白金原子が3個のガリウム原子に囲まれているPtサイトが存在し、Ptサイトではプロパンの脱水素反応のみならず、コークを生成する副反応が起こる。脱水素用触媒1では、Ptサイトを鉛原子で被覆することにより副反応を抑制する。この場合、被覆されたPtサイト由来のPtを有効利用することが難しくなる。
【0062】
図4に6元素合金の結晶構造(単位格子)を示す。図4に示されるように、脱水素用触媒2中の6元素合金は特異な結晶構造を有する。6元素合金とすることにより、3個の白金原子が接しているPtサイトが実質的に存在せず、1個の白金原子のみが露出したPtサイトのみが実質的に存在する構造を有する活性成分とすることができる。
【0063】
図4に示される結晶構造を有する場合、X線回折パターンにおいて、2θ=42~47°の位置に、(PtGe)由来のピークが確認される。
脱水素用触媒のXRDパターンは、CuKαを線源とする、粉末X線回折測定により得ることができる。例えば、粉末状の脱水素用触媒について、X線回折装置(例えば、株式会社リガク製、MiniFlex II/AP)を用いて、XRDパターンを得ることができる。
【0064】
<第3実施形態>
第3実施形態の脱水素用触媒(以下、「脱水素用触媒3」ともいう。)の活性成分は、第2の脱水素用触媒において、白金元素と、M1元素としてガリウム元素、コバルト元素、銅元素、及び鉄元素を含む。M1元素として、上述の元素以外の元素を含んでもよいが、M1元素は、上述の元素のみであることが好ましい。また、M2元素を含んでもよい。
【0065】
脱水素用触媒3の活性成分において、白金元素と、ガリウム元素と、コバルト元素と、銅元素と、鉄元素と、は合金を形成している。すなわち、前記活性成分は、白金-ガリウム-コバルト-銅-鉄合金(以下、「5元素合金」ともいう。)を含むことが好ましい。
【0066】
脱水素用触媒3の総質量に対する、前記活性成分の含有割合は、0.3~28質量%であることが好ましく、0.3~18質量%であることがより好ましく、0.3~11.5質量%であることがさらに好ましい。活性成分の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。活性成分の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒寿命が向上する。
【0067】
脱水素用触媒3の総質量に対する、白金元素の含有割合は、0.1~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましく、0.1~1質量%であることがさらに好ましい。白金元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。白金元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒寿命が向上する。
【0068】
脱水素用触媒3の総質量に対する、ガリウム元素の含有割合は、0.05~5質量%であることが好ましく、0.05~3質量%であることがより好ましく、0.05~2質量%であることがさらに好ましい。ガリウム元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。ガリウム元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0069】
脱水素用触媒3の総質量に対する、コバルト元素の含有割合は、0.03~3質量%であることが好ましく、0.03~2質量%であることがより好ましく、0.03~1.5質量%であることがさらに好ましい。コバルト元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。コバルト元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0070】
脱水素用触媒3の総質量に対する、銅元素の含有割合は、0.03~4質量%であることが好ましく、0.03~3質量%であることがより好ましく、0.03~2質量%であることがさらに好ましい。銅元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。銅元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0071】
脱水素用触媒3の総質量に対する、鉄元素の含有割合は、0.03~3質量%であることが好ましく、0.03~2質量%であることがより好ましく、0.03~1.5質量%であることがさらに好ましい。鉄元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。鉄元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0072】
本発明者らが、5元素合金の結晶構造を解析した所、ランダム面心立方格子(fcc)構造であることが判明した。ランダムfcc構造とは、上記5元素がfcc構造中の各サイトにランダムに存在する構造である。以下、白金、コバルト、銅、鉄を総称して、「遷移金属群2」ともいう。
【0073】
遷移金属群2の総モル数に対する、ガリウムのモル数の割合(Ga/遷移金属群2)は、0.3~0.4であることが好ましく、0.35~0.37であることがより好ましく、0.35~0.355であることがさらに好ましい。Ga/遷移金属群2が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Ga/遷移金属群2が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0074】
遷移金属群2の総モル数に対する、白金元素のモル数の割合(Pt/遷移金属群2)は、0.05~0.15であることが好ましく、0.1~0.15であることがより好ましく、0.11~0.12であることがさらに好ましい。Pt/遷移金属群2が前記範囲の下限値以上であると、触媒活性が向上する。Pt/遷移金属群2が前記範囲の上限値以下であると、触媒寿命が向上する。
【0075】
遷移金属群2の総モル数に対する、コバルト元素のモル数の割合(Co/遷移金属群2)は、0.15~0.2であることが好ましく、0.16~0.19であることがより好ましく、0.17~0.18であることがさらに好ましい。Co/遷移金属群2が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Co/遷移金属群2が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0076】
遷移金属群2の総モル数に対する、銅元素のモル数の割合(Cu/遷移金属群2)は、0.15~0.2であることが好ましく、0.16~0.19であることがより好ましく、0.17~0.18であることがさらに好ましい。Cu/遷移金属群2が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Cu/遷移金属群2が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0077】
遷移金属群2の総モル数に対する、鉄元素のモル数の割合(Fe/遷移金属群2)は、0.15~0.2であることが好ましく、0.16~0.19であることがより好ましく、0.17~0.18であることがさらに好ましい。Fe/遷移金属群2が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Fe/遷移金属群2が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0078】
脱水素用触媒3の活性成分である、5元素合金の平均粒子径は、1~7nmであることが好ましく、1~5nmであることがより好ましく、1~3nmであることがさらに好ましい。5元素合金の平均粒子径が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。5元素合金の平均粒子径が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。5元素合金の平均粒子径は、TEM、STEMにより測定することができる。具体的には、前記脱水素用触媒1の活性成分である前記複合体の平均粒子径の測定方法と同じ方法により測定することができる。
【0079】
ランダムfcc構造を有する場合、X線回折パターンにおいて、2θ=36~44°の位置に、(111)由来のピークが確認される。
【0080】
<第4実施形態>
第4実施形態の脱水素用触媒(以下、「脱水素用触媒4」ともいう。)は、第1の脱水素用触媒の場合、M元素としてカルシウム元素を含む。脱水素用触媒4は、第2の脱水素用触媒の場合、M2元素としてカルシウム元素を含む。
以下、脱水素用触媒4の特に好ましい態様について説明を行う。
【0081】
一実施形態の場合、脱水素用触媒4の活性成分は、第1の脱水素用触媒の場合、白金元素と、ガリウム元素と、M元素としてカルシウム元素を含む。M元素として、カルシウム以外の元素を含んでもよい。一実施形態の場合、M元素として、カルシウム元素のみを含むことが好ましい。脱水素用触媒4の活性成分は、第2の脱水素用触媒の場合、白金と、M1元素としてガリウム元素と、M2元素としてカルシウム元素を含む。
以下、白金元素と、ガリウム元素と、カルシウム元素と、を含む脱水素用触媒4を、「脱水素用触媒4-1」ともいう。
【0082】
他の一実施形態の場合、脱水素用触媒4の活性成分は、第1の脱水素用触媒の場合、M元素として、さらに鉛元素を含むことが好ましい。脱水素用触媒4の活性成分は、第2の脱水素用触媒の場合、M2元素としてさらに鉛元素を含むことが好ましい。
以下、白金元素と、ガリウム元素と、鉛元素と、カルシウム元素と、を含む脱水素用触媒4を、「脱水素用触媒4-2」ともいう。脱水素用触媒4-2は、上述した脱水素用触媒1において、さらにカルシウム元素を含む態様である。
【0083】
さらに他の一実施形態の場合、脱水素用触媒4の活性成分は、第1の脱水素用触媒の場合、M元素として、コバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、錫元素、及びカルシウム元素を含むことが好ましい。脱水素用触媒4の活性成分は、第2の脱水素用触媒の場合、M1元素として、ガリウム元素、コバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、及び錫元素を含み、M2元素としてカルシウム元素を含むことが好ましい。
以下、白金元素と、ガリウム元素と、コバルト元素と、銅元素と、ゲルマニウム元素と、錫元素と、カルシウム元素と、を含む脱水素用触媒4を、「脱水素用触媒4-3」ともいう。脱水素用触媒4-3は、上述した脱水素用触媒2において、さらにカルシウム元素を含む態様である。
【0084】
さらに他の一実施形態の場合、脱水素用触媒4の活性成分は、第2の脱水素用触媒において、M1元素として、ガリウム元素、コバルト元素、銅元素、及び鉄元素を含み、M2元素としてカルシウム元素を含むことが好ましい。
以下、白金元素と、ガリウム元素と、コバルト元素と、銅元素と、鉄元素と、カルシウム元素と、を含む脱水素用触媒4を、「脱水素用触媒4-4」ともいう。脱水素用触媒4-4は、上述した脱水素用触媒3において、さらにカルシウム元素を含む態様である。
【0085】
さらに他の一実施形態の場合、脱水素用触媒4の活性成分は、第2の脱水素用触媒において、M1元素として、銅元素を含み、M2元素としてカルシウム元素を含むことが好ましい。M1元素としては銅元素のみを含むことが好ましい。M2元素としてはカルシウム元素のみを含むことが好ましい。
以下、白金元素と、銅元素と、カルシウム元素と、を含む脱水素用触媒4を、「脱水素用触媒4-5」ともいう。
【0086】
脱水素用触媒4-5の総質量に対する、前記活性成分の含有割合は、1.1~28質量%であることが好ましく、1.1~18質量%であることがより好ましく、1.1~11.5質量%であることがさらに好ましい。活性成分の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。活性成分の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒寿命が向上する。
【0087】
脱水素用触媒4-5の総質量に対する、白金元素の含有割合は、0.1~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましく、0.1~1質量%であることがさらに好ましい。白金元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。白金元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒寿命が向上する。
【0088】
脱水素用触媒4-5の総質量に対する、銅元素の含有割合は、1~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることがさらに好ましい。銅元素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。銅元素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0089】
脱水素用触媒4-5における、白金元素に対する銅元素のモル比(Cu/Pt)は、15~50であることが好ましく、20~50であることがより好ましく、25~50であることがさらに好ましい。Cu/Ptが前記範囲の下限値以上であると、プロピレン選択率が向上する。Cu/Ptが前記範囲の上限値以下であると、プロピレン選択率が向上する。
【0090】
脱水素用触媒4におけるカルシウム元素の形態は、特に限定されないが、酸化物であることが好ましい。
【0091】
M元素として、カルシウム元素のみを含む場合(すなわち、脱水素用触媒4-1である場合)、脱水素用触媒4-1の活性成分において、白金元素と、ガリウム元素とが合金を形成していることが好ましい。白金-ガリウム合金の好ましい態様については、上述した通りである。すなわち、脱水素用触媒4-1の活性成分は、白金-ガリウム合金と酸化カルシウムの複合体であることが好ましい。
【0092】
この場合、脱水素用触媒4-1における、白金元素に対するカルシウム元素のモル比(Ca/Pt)は、3~7であることが好ましく、3~5であることがより好ましく、4~5であることがさらに好ましい。Ca/Ptが前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Ca/Ptが前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0093】
M元素として、カルシウム元素及び鉛元素を含む場合(すなわち、脱水素用触媒4-2である場合)、脱水素用触媒4-2の活性成分は、上述の脱水素用触媒1の活性成分に含まれる鉛元素(鉛原子)が白金-ガリウム合金の表面に存在している複合体と酸化カルシウムと、を含む複合体を含むことが好ましい。
【0094】
この場合、脱水素用触媒4-2における、白金元素に対するカルシウム元素のモル比(Ca/Pt)は、3~7であることが好ましく、3~5であることがより好ましく、4~5であることがさらに好ましい。Ca/Ptが前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Ca/Ptが前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0095】
M元素として、カルシウム元素、コバルト元素、銅元素、ゲルマニウム元素、及び錫元素を含む場合(すなわち、脱水素用触媒4-3である場合)、脱水素用触媒4-3の活性成分は、上述の脱水素用触媒2の活性成分に含まれる6元素合金と酸化カルシウムと、を含む複合体であることが好ましい。
【0096】
この場合、脱水素用触媒4-3における、白金元素に対するカルシウム元素のモル比(Ca/Pt)は、9~20であることが好ましく、11~18であることがより好ましく、12~17であることがさらに好ましい。Ca/Ptが前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Ca/Ptが前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0097】
脱水素用触媒4-4である場合、脱水素用触媒4-4の活性成分は、上述の脱水素用触媒3の活性成分に含まれる5元素合金と酸化カルシウムと、を含む複合体であることが好ましい。
【0098】
この場合、脱水素用触媒4-4における、白金元素に対するカルシウム元素のモル比(Ca/Pt)は、10~20であることが好ましく、12~18であることがより好ましく、14~16であることがさらに好ましい。Ca/Ptが前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Ca/Ptが前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0099】
脱水素用触媒4-5である場合、脱水素用触媒4-5の活性成分は、白金-銅合金と酸化カルシウムの複合体であることが好ましい。
【0100】
この場合、脱水素用触媒4-5における、白金元素に対するカルシウム元素のモル比(Ca/Pt)は、10~20であることが好ましく、12~18であることがより好ましく、14~16であることがさらに好ましい。Ca/Ptが前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。Ca/Ptが前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0101】
さらに他の一実施形態の場合、脱水素用触媒4の活性成分は、第1の脱水素用触媒の場合、M元素として、さらに銅元素及びコバルト元素を含むことが好ましい。脱水素用触媒4の活性成分は、第2の脱水素用触媒の場合、M1元素としてガリウム元素、銅元素、及びコバルト元素を含むことが好ましい。
【0102】
脱水素用触媒4におけるカルシウム元素の役割は、上述のPtサイトの選択性・耐久性を向上させる電子的効果であると考えられる。なお、本願の発明者らは、カルシウム元素と類似の性質を有する、カルシウム元素以外のアルカリ土類金属、アルカリ金属などについても検討を行ったが、このような効果が得られるのは、カルシウム元素のみであることを見出した。
【0103】
≪脱水素用触媒の製造方法≫
本実施形態の脱水素用触媒の製造方法は、シリカ担体に、前記活性成分の原料化合物を含む含浸液を含浸して含浸体を得る含浸工程と、前記含浸体を還元ガス雰囲気で還元焼成する還元焼成工程及び/又は酸化ガス雰囲気で酸化焼成する酸化焼成工程と、を含む。
【0104】
<含浸工程>
第1の脱水素用触媒製造の含浸工程において使用される白金元素を含む原料化合物、ガリウム元素を含む原料化合物、及びM元素を含む原料化合物、並びに第2の脱水素用触媒製造の含浸工程において使用される白金元素を含む原料化合物、M1元素を含む原料化合物、及びM2元素を含む原料化合物(以下、全ての原料化合物を総称して「活性成分の原料化合物」ともいう。)としては、特に制限はないが、例えば、塩化物、硫化物、硝酸塩、炭酸塩等の無機塩;シュウ酸塩、アセチルアセトナート塩、ジメチルグリオキシム塩、エチレンジアミン酢酸塩等の有機塩;キレート化合物;カルボニル化合物;シクロペンタジエニル化合物;アンミン錯体;アルコキシド化合物;アルキル化合物等が挙げられる。
【0105】
含浸方法としては、シリカ担体を、前記シリカ担体の全細孔容積に対して過剰の含浸液に浸した後に後述の乾燥工程において溶媒を全て乾燥させることにより、活性成分を担持する蒸発乾固法、シリカ担体を、シリカ担体の全細孔容積に対して過剰の含浸液に浸した後に濾過等の固液分離し、その後溶媒を乾燥させることにより活性成分が担持された触媒を得る平衡吸着法、シリカ担体に、シリカ担体の全細孔容積とほぼ等量の含浸液を含浸し、後述の乾燥工程において、溶媒を全て乾燥させることにより、有機酸を担持する細孔充填法が例として挙げられる。なお、シリカ担体に、2種類以上の活性成分の原料化合物を含浸させる方法としては、これら各成分を同時に含浸させる一括含浸法でもよく、個別に含浸させる逐次含浸法でもよい。
【0106】
含浸液は、活性成分の原料化合物を溶媒に溶解することにより調製することができる。溶媒としては、活性成分の原料化合物を溶解可能であり、かつ、後述の乾燥工程により揮発除去される溶媒であれば特に限定されないが、例えば、水、エタノール、アセトン等が挙げられる。
【0107】
含浸液中の溶媒の乾燥は、本分野で公知の方法により行うことができ、乾燥温度、乾燥時間、乾燥雰囲気は、除去する溶媒により適宜調整することができる。
【0108】
還元焼成工程における還元ガスとしては水素、一酸化炭素等が挙げられ、不活性ガスで希釈したガスを用いてもよい。還元焼成の温度は、500~800℃であることが好ましく、500~700℃であることがより好ましく、600~700℃であることが好ましい。
還元焼成の時間は、0.2~3時間でもよく、0.5~2時間でもよく、0.5~1時間でもよい。
【0109】
酸化焼成工程における酸化ガスとしては酸素、空気等が挙げられ、不活性ガスで希釈したガスを用いてもよい。酸化焼成の温度は、200~600℃であることが好ましく、200~500℃であることがより好ましく、200~400℃であることが好ましい。
酸化時間は、0.5~3時間でもよく、0.5~2時間でもよく、0.5~1時間でもよい。
【0110】
第1の脱水素用触媒において、脱水素用触媒1を製造する場合、M元素を含む原料化合物として、鉛元素を含む原料化合物を使用する。脱水素用触媒2を製造する場合、M元素を含む原料化合物として、コバルト元素を含む原料化合物、銅元素を含む原料化合物、ゲルマニウム元素を含む原料化合物、及び錫元素を含む原料化合物を使用する。脱水素用触媒4を製造する場合、M元素を含む原料化合物として、カルシウム元素を含む原料化合物を使用する。
【0111】
第2の脱水素用触媒において、脱水素用触媒1を製造する場合、M1元素を含む原料化合物として、ガリウム元素を含む原料化合物、M2元素を含む原料化合物として、鉛元素を含む原料化合物を使用する。脱水素用触媒2を製造する場合、M1元素を含む原料化合物として、ガリウム元素を含む原料化合物、コバルト元素を含む原料化合物、銅元素を含む原料化合物、ゲルマニウム元素を含む原料化合物、及び錫元素を含む原料化合物を使用する。脱水素用触媒3を製造する場合、M1元素を含む原料化合物として、ガリウム元素を含む原料化合物、コバルト元素を含む原料化合物、銅元素を含む原料化合物、及び鉄元素を含む原料化合物を使用する。脱水素用触媒4を製造する場合、M2元素を含む原料化合物として、カルシウム元素を含む原料化合物を使用する。
【0112】
≪プロピレンの製造方法≫
本実施形態のプロピレンの製造方法は、本発明の脱水素用触媒と、プロパンを含む原料ガスと、を接触処理させ、プロパンの脱水素反応によりプロピレンを製造する方法である。
【0113】
プロピレン製造方法は、例えば、上述の脱水素用触媒を反応器に充填し、プロパンを含む原料ガスを流通させることにより実施することができる。反応方式は、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、例えば、固定床式、流動床式、移動床式が挙げられ
固定床式が好ましい。
【0114】
プロピレンの製造方法は、上述の脱水素用触媒を、単独の反応装置に充填して行う一段のプロピレンの製造方法でもよく、複数の反応装置に充填して行う多段連続方式のプロピレンの製造方法でもよい。
【0115】
原料ガス100体積%に対するプロパンの含有割合は、20~100体積%であることが好ましく、50~100体積%であることがより好ましい。原料ガス中のプロパン以外のガスとしては、例えば、ヘリウム、窒素等の不活性ガスが挙げられる。
【0116】
原料ガスは水素を含んでいてもよい。原料ガスが水素を含むことにより、コークの生成が抑制される。原料ガス100体積%に対する水素の含有割合は、10~40体積%であることが好ましく、10~20体積%であることがより好ましい。水素の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、触媒寿命が向上する。水素の含有割合が前記範囲の上限値以下であると、触媒活性が向上する。
【0117】
反応温度は、550~650℃であることが好ましく、580~620℃であることがより好ましい。反応温度が前記範囲の下限値以上であると、平衡転化率が上がる。反応温度が前記範囲の上限値以下であると、活性成分のシンタリングが抑制され、活性の低下が抑制される。
【0118】
反応圧力は、0.1~0.3MPaであることが好ましく、0.1~0.25MPaであることがより好ましく、0.1~0.2MPaであることがさらに好ましい。
【0119】
脱水素用触媒に対する、原料ガス中のプロパンの重量空間速度(Weight Hourly Space Velocity)は、2~4hr-1であることがより好ましく、2~3hr-1であることがさらに好ましい。WHSVが前記範囲の下限値以上であると、生産性が向上する。
【0120】
本実施形態のプロピレンの製造方法に供される原料ガス中のプロパンとしては、シェールガス由来のプロパン、ナフサ由来のプロパン、バイオマス由来のプロパン等が例として挙げられる。
【0121】
本発明の脱水素用触媒を用いることにより、より長期にわたりプロピレンを製造することが可能となる。
【実施例0122】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0123】
<脱水素用触媒のキャラクタリゼーション>
脱水素用触媒のキャラクタリゼーションとして、透過電子顕微鏡観察、CO吸着を行った。
【0124】
(透過電子顕微鏡観察)
各例の脱水素用触媒の活性成分の粒子径の測定はエネルギー分散型X線(EDX)分析装置を備えた透過型電子顕微鏡(FEI Titan G-2)により、300kVの加速電圧で実施した。各例の脱水素用触媒をエタノールで超音波処理した後、炭素膜で支持されたMoグリッド上に分散して観察を行った。粒度分布は、10枚の画像で無作為に選択した100個以上の粒子(活性成分)の最長径を観察し、これらの平均を平均粒子径とした。透過電子顕微鏡観察を行った脱水素用触媒については、平均粒子径を表2、3、5に示す。
【0125】
(CO吸着)
各例の脱水素用触媒のCO吸着測定により、脱水素用触媒の白金の分散度を測定した。分散度とは、脱水素用触媒に含まれる白金の総量に対する、表面に露出している白金の割合である。脱水素用触媒50~100mgに水素が5体積%、アルゴンが95体積%の混合ガスを40NmL/minで流通させ、600℃で30分間前処理を行い、その後、ヘリウムをパージしながら、液体窒素で冷却した。次に一酸化炭素が10体積%、ヘリウムが90体積%の混合ガスをパルス法で導入し、触媒に吸着しなかった一酸化炭素をTCD検出器により定量し、一酸化炭素が触媒に吸着しなくなるまで混合ガスの導入を行った。脱水素用触媒に吸着した一酸化炭素量から、白金1原子に対して一酸化炭素1分子が吸着するという前提で白金の分散度を計算した。CO吸着測定を行った脱水素用触媒については、Ptの分散性の結果を表2、3に示す。
【0126】
<プロパンの脱水素反応>
各例の脱水素用触媒を必要に応じて石英砂で希釈して、直径6mm、長さ30cmの石英製の円筒型の固定床反応管に充填して触媒層を形成した。次いで、水素を触媒層に流通させ、前処理を行った。その後、プロパンを含む原料ガスを触媒層に流通させプロパンの脱水素反応を行った。詳細な反応条件を表1に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
反応器から排出されたガスをオンライン熱伝導度検出ガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所、製品名「GC-8A」)で分析した。反応器出口ガスには、プロピレン、プロパン、エチレン、エタン、メタンが検出された。
【0129】
プロパンの転化率は、下式1により計算した。
【0130】
【数1】
前記式1中、[Cinletは反応器に供給したプロパンの流量(mol/min)を示し、[Coutletは反応器から排出されたプロパンの流量(mol/min)を示す。
【0131】
プロピレンの選択率は、下式2により計算した。
【0132】
【数2】
前記式2中、[C]は反応器から排出されたプロピレンの流量(mol/min)を示し、[C]は反応器から排出されたエタンの流量(mol/min)を示し、[C]は反応器から排出されたエチレンの流量(mol/min)を示し、[CH]は反応器から排出されたメタンの流量(mol/min)を示す。
【0133】
プロピレンの収率は、反応器に供給したプロパンの流量(mol/min)/反応器から排出されたプロピレンの流量(mol/min)×100により計算した。
【0134】
脱水素用触媒の平均触媒寿命は、一次失活モデルにより計算した。具体的には、下式3及び下式4により脱水素用触媒の平均触媒寿命を計算した。
【0135】
【数3】
前記式3中、Kは失活速度定数(h-1)を示し、tは反応時間(h)を示し、convstartは反応開始時のプロパンの転化率(%)を示し、convendは反応時間t(h)におけるプロパンの転化率(%)を示す。
【0136】
【数4】
前記式4中、τは平均触媒寿命(h)を示す。
【0137】
<反応後の脱水素用触媒の炭素量の測定>
各例の脱水素用触媒の反応後の炭素量はMicrotracBEL社製のBELCAT IIにより測定した。20時間反応後の脱水素用触媒(石英砂は除く)10mgにヘリウムを20NmL/minで流通させ、300℃で30分間前処理を行い、その後室温に降温した。次に酸素が2体積%、ヘリウムが98体積%の混合ガスを50NmL/minで流通させながら、100~800℃まで昇温速度2℃/minで加熱した。出口ガスの二酸化炭素の量をオンライン質量計により定量した。なお、表中の単位がa.u.の場合は炭素量の相対比を示し、単位がgcoke/gcatの場合、触媒1g当たりの炭素量の絶対値を意味する。
【0138】
[実施例1]
シリカ(富士シリシア化学株式会社製、製品名「CARiACT G-6」、比表面積673m/g)に、Pt源としてPt(NH(NO、Ga源としてGa(NO・nHO(n=7~9)、Pb源としてPb(NOを表2に記載の触媒1の組成になるようにイオン交換水に溶解させた含浸液を細孔充填法で含浸した。含浸体を密封された丸底フラスコ内で、室温で一晩保存し、続いて、液体窒素で凍結し、-5℃、真空中で凍結乾燥させた。得られた粉末をさらに90℃のオーブンで一晩乾燥し、その後空気雰囲気下、400℃で1時間焼成を行い、その後、水素を流通させながら(0.1MPa、50NmL/min)、700℃で1時間還元焼成を行い、シリカにPt、Ga、及びPbが担持された触媒1を得た。
【0139】
[比較例1]
Ga(NO・nHO(n=7~9)とPb(NOを添加せず、表2に記載の触媒2の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、シリカにPtが担持された触媒2を得た。
【0140】
[比較例2]
Pb(NOを添加せず、表2に記載の触媒3の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、シリカにPt及びGaが担持された触媒3を得た。
【0141】
[比較例3]
Pb(NOを添加せず、表2に記載の触媒4の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、シリカにPt及びGaが担持された触媒4を得た。
【0142】
[比較例4]
Ga(NO・nHO(n=7~9)とPb(NOを添加せず、Sn源としてSnClを添加し、表2に記載の触媒5の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、シリカにPt及びSnが担持された触媒5を得た。
【0143】
[比較例5]
Ga(NO・nHO(n=7~9)とPb(NOを添加せず、Sn源としてSnClを添加し、表2に記載の触媒6の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、シリカにPt及びSnが担持された触媒6を得た。
【0144】
[比較例6]
Ga(NO・nHO(n=7~9)とPb(NOを添加せず、In源としてIn(NO・nHO(n=8.8:ICPにより測定)を添加し、表2に記載の触媒7の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、シリカにPt及びInが担持された触媒7を得た。
【0145】
[比較例7]
Ga(NO・nHO(n=7~9)を添加せず、表2に記載の触媒8の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、シリカにPt及びPbが担持された触媒8を得た。
【0146】
実施例1、比較例1~7の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、表1の反応条件1とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図5に示す。PtとGaとM元素としてPbを含む実施例1の触媒は、比較例1~7の触媒と比較して、プロパンの転化率の経時の低下が極めて抑制された。また、高いプロピレン選択率を示した。さらに表1に示されるように、反応後触媒炭素量が極めて少ないことがわかった。
【0147】
[実施例2]
表2に記載の触媒9の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、シリカにPt、Ga、及びPbが担持された触媒9を得た。
【0148】
[実施例3]
表2に記載の触媒10の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、シリカにPt、Ga、及びPbが担持された触媒10を得た。
【0149】
[実施例4]
表2に記載の触媒11の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、シリカにPt、Ga、及びPbが担持された触媒11を得た。
【0150】
実施例1~4、比較例3の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、表1の反応条件1とした。但し、反応温度は650℃とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図6に示す。PtとGaとM元素としてPbを含む実施例1~4の触媒は、比較例3の触媒と比較して、プロパンの転化率の経時の低下が抑制された。また、高いプロピレン選択率を示した。
【0151】
【表2】
【0152】
[実施例5]
シリカ(富士シリシア化学株式会社製、製品名「CARiACT G-6」、比表面積673m/g)に、Pt源としてPt(NH(NO、Ga源としてGa(NO・nHO(n=7~9)、Pb源としてPb(NO、Ca源としてCa(NO・4HOを表3に記載の触媒12の組成になるようにイオン交換水に溶解させた含浸液を細孔充填法で含浸した。含浸体を密封された丸底フラスコ内で、室温で一晩保存し、続いて、液体窒素で凍結し、-5℃、真空中で凍結乾燥させた。得られた粉末をさらに90℃のオーブンで一晩乾燥し、その後空気雰囲気下、600℃で1時間焼成を行い、その後、水素を流通させながら(0.1MPa、50NmL/min)、700℃で1時間還元焼成を行い、シリカにPt、Ga、Pb、及びCaが担持された触媒12を得た。
【0153】
[実施例6]
Pb(NOを添加せず、表3に記載の触媒13の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例5と同様にして、シリカにPt、Ga、及びCaが担持された触媒13を得た。
【0154】
[実施例7]
Ca(NO・4HOを添加せず、表3に記載の触媒14の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例5と同様にして、シリカにPt、Ga、及びPbが担持された触媒14を得た。
【0155】
実施例5~7、比較例3の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、実施例6と比較例3に関しては表1の反応条件3とし、実施例5と7に関しては表1の反応条件2とした。プロパンの相対転化率の経時変化を図7に示す。なお、図7中のNormalized CH conv.(相対転化率)とは、各触媒における反応時間0~70hにおける最高転化率を100%としたときの相対的な転化率である。Pt及びGaのみを含む比較例3の触媒に比べ、Pt、Ga、及びCaを含む実施例6の触媒は、転化率の経時の低下が抑制された。同様にPt、Ga、及びPbを含む実施例7の触媒に比べ、Pt、Ga、Pb、及びCaを含む実施例5の触媒は、転化率の経時の低下が抑制された。図8に実施例5の触媒及び実施例7の触媒のプロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図8に示す。
【0156】
[実施例8]
表3に記載の触媒15の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びCaが担持された触媒15を得た。
【0157】
[実施例9]
表3に記載の触媒16の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びCaが担持された触媒16を得た。
【0158】
実施例6、8、9、比較例3の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、表1の反応条件3とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図9に示す。Pt、Ga、及びCaを含む実施例6、8、9の触媒は、Pt及びGaを含む比較例3の触媒と比較していずれの反応経過時間においてもプロピレンの収率が高かった。また、Ca/Ptのモル比が7である実施例9の触媒に比べ、Ca/Ptのモル比が5の実施例6の触媒及びCa/Ptのモル比が3の実施例8の触媒の方がプロパン転化率及びプロピレン選択率の低下が抑制された。
【0159】
[比較例8]
Ca(NO・4HOを添加せず、Na源としてNaNOを添加し、表3に記載の触媒17の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びNaが担持された触媒17を得た。なお、Pt:Naのモル比は1:5とした。
【0160】
[比較例9]
Ca(NO・4HOを添加せず、K源としてKNOを添加し、表3に記載の触媒18の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びKが担持された触媒18を得た。なお、Pt:Kのモル比は1:5とした。
【0161】
[比較例10]
Ca(NO・4HOを添加せず、Rb源としてRbCOを添加し、表3に記載の触媒19の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びRbが担持された触媒19を得た。なお、Pt:Rbのモル比は1:5とした。
【0162】
[比較例11]
Ca(NO・4HOを添加せず、Cs源としてCsNOを添加し、表3に記載の触媒20の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びCsが担持された触媒20を得た。なお、Pt:Csのモル比は1:5とした。
【0163】
比較例3、8~11の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、表1の反応条件3とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図10に示す。Caの代わりにアルカリ金属を用いた比較例8~11の触媒のプロパン転化率は極めて低くなった。
【0164】
[比較例12]
Ca(NO・4HOを添加せず、Mg源としてMg(NO・6HOを添加し、表3に記載の触媒21の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びMgが担持された触媒21を得た。なお、Pt:Mgのモル比は1:5とした。
【0165】
[比較例13]
Ca(NO・4HOを添加せず、Sr源としてSr(NOを添加し、表3に記載の触媒22の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びSrが担持された触媒22を得た。なお、Pt:Srのモル比は1:5とした。
【0166】
実施例6、比較例3、12、13の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、表1の反応条件3とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図11に示す。Caの代わりに同じアルカリ土類金属であるSrを用いた比較例13の触媒のプロパン転化率は極めて低くなった。また、Caの代わりに同じアルカリ土類金属であるMgを用いた比較例12の触媒はMgを含まない比較例3の触媒とほぼ同等のプロパン転化率となり、経時のプロパン転化率の低下の抑制の効果は確認されなかった。
【0167】
[比較例14]
Ca(NO・4HOを添加せず、Y源としてY(NO3・6HOを添加し、表3に記載の触媒23の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びYが担持された触媒23を得た。なお、Pt:Yのモル比は1:5とした。
【0168】
[比較例15]
Ca(NO・4HOを添加せず、La源としてLa(NO3・6HOを添加し、表3に記載の触媒24の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びLaが担持された触媒24を得た。なお、Pt:Laのモル比は1:5とした。
【0169】
[比較例16]
Ca(NO・4HOを添加せず、Ce源としてCe(NO3・6HOを添加し、表3に記載の触媒25の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びCeが担持された触媒25を得た。なお、Pt:Ceのモル比は1:5とした。
【0170】
[比較例17]
Ca(NO・4HOを添加せず、Nd源としてNd(NO3・6HOを添加し、表3に記載の触媒26の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びNdが担持された触媒26を得た。なお、Pt:Ndのモル比は1:5とした。
【0171】
[比較例18]
Ca(NO・4HOを添加せず、Sm源としてSm(NO3・6HOを添加し、表3に記載の触媒27の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例6と同様にして、シリカにPt、Ga、及びSmが担持された触媒27を得た。なお、Pt:Smのモル比は1:5とした。
【0172】
比較例3、14~18の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、表1の反応条件3とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図12に示す。Caの代わりにY、La、Ce、Nd、Smを用いた比較例14~18の触媒のプロパン転化率は極めて低くなった。
【0173】
【表3】
【0174】
[比較例19]
マグネシアに、Pt源としてPt(NH(NO、Ga源としてGa(NO・nHO(n=7~9)を表4に記載の触媒28の組成になるようにイオン交換水に溶解させた含浸液を蒸発乾固法で含浸した。含浸体を、50℃、減圧の条件で乾燥させた。得られた粉末をさらに90℃のオーブンで一晩乾燥し、その後空気雰囲気下、600℃で1時間焼成を行い、その後、水素を流通させながら(0.1MPa、50NmL/min)、700℃で1時間還元焼成を行い、マグネシアにPt及びGaが担持された触媒28を得た。
【0175】
[比較例20]
担体としてマグネシアに代えてセリアを使用した以外は、比較例19と同様にして表4に記載の触媒29を得た。
【0176】
[比較例21]
担体としてマグネシアに代えてジルコニアを使用した以外は、比較例19と同様にして表4に記載の触媒30を得た。
【0177】
実施例6、比較例19~21の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、表1の反応条件3とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図13に示す。比較例19~21の触媒のプロパン転化率は極めて低かった。
【0178】
[比較例22]
担体としてマグネシアに代えてアルミナを使用した以外は、比較例19と同様にして表4に記載の触媒31を得た。
【0179】
[比較例23]
担体としてマグネシアに代えてチタニアを使用した以外は、比較例19と同様にして表4に記載の触媒32を得た。
【0180】
[比較例24]
担体としてマグネシアに代えてMgAlを使用した以外は、比較例19と同様にして表4に記載の触媒33を得た。
【0181】
実施例6、比較例22~24の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、表1の反応条件3とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図14に示す。比較例22~24の触媒のプロパン転化率は極めて低かった。
【0182】
【表4】
【0183】
[実施例10]
シリカ(富士シリシア化学株式会社製、製品名「CARiACT G-6」、比表面積673m/g)に、Pt源としてPt(NH(NO、Co源としてCo(NO・6HO、Cu源としてCu(NO・3HO、Ga源としてGa(NO・nHO(n=7~9)、Ge源として(NHGeF、Sn源として(NHSnCl、Ca源としてCa(NO・4HOを表5に記載の触媒34の組成になるようにイオン交換水に溶解させた含浸液を細孔充填法で含浸した。含浸体を密封された丸底フラスコ内で、室温で一晩保存し、続いて、液体窒素で凍結し、-5℃、真空中で凍結乾燥させた。得られた粉末をさらに90℃のオーブンで一晩乾燥し、その後空気雰囲気下、400℃で1時間焼成を行い、その後、水素を流通させながら(0.1MPa、50NmL/min)、700℃で1時間還元焼成を行い、シリカにPt、Co、Cu、Ga、Ge、Sn、及びCaが担持された触媒34を得た。
【0184】
[比較例25]
シリカ(富士シリシア化学株式会社製、製品名「CARiACT G-6」、比表面積673m/g)に、Pt源としてPt(NH(NO、Ge源として(NHGeF、Ca源としてCa(NO・4HOを表5に記載の触媒35の組成になるようにイオン交換水に溶解させた含浸液を細孔充填法で含浸した。含浸体を密封された丸底フラスコ内で、室温で一晩保存し、続いて、液体窒素で凍結し、-5℃、真空中で凍結乾燥させた。得られた粉末をさらに90℃のオーブンで一晩乾燥し、その後空気雰囲気下、300℃で1時間焼成を行い、その後、水素を流通させながら(0.1MPa、50NmL/min)、700℃で1時間還元焼成を行い、シリカにPt、Ge、及びCaが担持された触媒35を得た。
【0185】
[実施例11]
シリカ(富士シリシア化学株式会社製、製品名「CARiACT G-6」、比表面積673m/g)に、Pt源としてPt(NH(NO、Co源としてCo(NO・6HO、Cu源としてCu(NO・3HO、Ga源としてGa(NO・nHO(n=7~9)、Fe源としてFe(NO・6HO、Ca源としてCa(NO・4HOを表5に記載の触媒36の組成になるようにイオン交換水に溶解させた含浸液を細孔充填法で含浸した。含浸体を密封された丸底フラスコ内で、室温で一晩保存し、続いて、液体窒素で凍結し、-5℃、真空中で凍結乾燥させた。得られた粉末をさらに90℃のオーブンで一晩乾燥し、その後空気雰囲気下、400℃で1時間焼成を行い、その後、水素を流通させながら(0.1MPa、50NmL/min)、700℃で1時間還元焼成を行い、シリカにPt、Co、Cu、Ga、Fe、及びCaが担持された触媒36を得た。
【0186】
[実施例12]
シリカ(富士シリシア化学株式会社製、製品名「CARiACT G-6」、比表面積673m/g)に、Pt源としてPt(NH(NO、Cu源としてCu(NO・3HO、Ca源としてCa(NO・4HOを表5に記載の触媒37の組成になるようにイオン交換水に溶解させた含浸液を細孔充填法で含浸した。含浸体を密封された丸底フラスコ内で、室温で一晩保存し、続いて、液体窒素で凍結し、-5℃、真空中で凍結乾燥させた。得られた粉末をさらに90℃のオーブンで一晩乾燥し、その後空気雰囲気下、400℃で1時間焼成を行い、その後、水素を流通させながら(0.1MPa、50NmL/min)、700℃で1時間還元焼成を行い、シリカにPt、Cu、及びCaが担持された触媒37を得た。
【0187】
[実施例13]
表5に記載の触媒38の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例10と同様にして、シリカにPt、Co、Cu、Ga、Ge、Sn、及びCaが担持された触媒38を得た。
【0188】
[実施例14]
表5に記載の触媒39の組成になるように含浸液の組成を変更した以外は、実施例10と同様にして、シリカにPt、Co、Cu、Ga、Ge、Sn、及びCaが担持された触媒39を得た。
【0189】
【表5】
【0190】
実施例10、比較例25の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、実施例10の触媒に関しては表1の反応条件4とし、比較例25の触媒に関しては表1の反応条件5とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図15に示す。Pt、Co、Cu、Ga、Ge、Sn、及びCaを含む実施例10の触媒は、プロパン転化率の経時の低下が抑制され、250h経過時においてもプロパン転化率はほとんど低下しなかった。
【0191】
実施例10、実施例5の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、実施例10の触媒に関しては表1の反応条件4とし、実施例5の触媒に関しては表1の反応条件2とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図16に示す。Pt、Ga、Pb、及びCaを含む実施例5の触媒、Pt、Co、Cu、Ga、Ge、Sn、及びCaを含む実施例10の触媒ともに、プロパン転化率の経時の低下が抑制され、250h経過時においてもプロパン転化率はほとんど低下しなかった。なかでも実施例10の触媒はプロパン転化率の経時の低下の効果が顕著に確認された。
【0192】
実施例10の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応の寿命試験を行った。なお、反応条件としては、表1の反応条件6とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図17に示す。Pt、Co、Cu、Ga、Ge、Sn、及びCaを含む実施例10の触媒は、プロパン転化率の経時の低下が抑制され、45日経過時においてもプロパン転化率はほとんど低下しなかった。
【0193】
実施例10~12、比較例25の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、実施例10の触媒に関しては表1の反応条件4とし、実施例11の触媒に関しては表1の反応条件8とし、実施例12の触媒に関しては表1の反応条件4とし、比較例25の触媒に関しては表1の反応条件5とした。プロパンの転化率の経時変化及びプロピレンの選択率の経時変化を図18に示す。実施例10の触媒、実施例11の触媒は、比較例25の触媒に比べ、プロパンの転化率、プロピレンの選択率ともに極めて高いことがわかった。また、実施例12の触媒は、比較例25の触媒に比べ、プロピレンの選択率が高いことがわかった。
【0194】
実施例10、11、13、14、比較例25の触媒を用いて、プロパンの脱水素反応を行った。なお、反応条件としては、実施例10の触媒に関しては表1の反応条件4とし、実施例13の触媒に関しては表1の反応条件7とし、実施例14の触媒に関しては表1の反応条件5とし、実施例11の触媒に関しては表1の反応条件8とし、比較例25の触媒に関しては表1の反応条件5とした。前記式3及び前記式4により計算された平均触媒寿命τを表6に示す。実施例10の触媒、実施例11の触媒、実施例13の触媒、実施例14の触媒は、比較例25の触媒に比べ、平均触媒寿命が極めて長いことがわかった。実施例10の触媒、実施例13の触媒、実施例14の触媒は、含まれる元素の種類は同じであるが、実施例14の触媒→実施例13の触媒→実施例10の触媒の順で前記Pt/遷移金属群1の割合が低くなっている。前記Pt/遷移金属群1の割合が最も低い0.25である実施例10の触媒では特に平均触媒寿命が長いことがわかった。
【0195】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0196】
本発明に係る脱水素用触媒は、長期にわたりプロピレンを製造することができるため有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18