(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018370
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】エマルジョン、注射剤、及びエマルジョンを調製する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/107 20060101AFI20220120BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220120BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20220120BHJP
A61P 1/08 20060101ALI20220120BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20220120BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220120BHJP
【FI】
A61K9/107
A61K47/10
A61K31/5377
A61P1/08
A61K47/24
A61K47/44
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020121438
(22)【出願日】2020-07-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520262412
【氏名又は名称】▲輔▼必成(上海)医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】天野 陽平
(72)【発明者】
【氏名】片桐 一美
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB11
4C076CC10
4C076DD37
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD63F
4C076DD67
4C076EE23
4C076EE53A
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC73
4C086GA07
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA22
4C086MA66
4C086NA03
4C086ZA71
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エタノールを実質的に添加することなく、安定性に優れたアプレピタント含有エマルジョンを提供する。
【解決手段】アプレピタント、乳化剤、油、ポリエチレングリコール及び水を含み、エタノールを実質的に添加しないエマルジョン。更にpH調節物質を含み、pHが8.0~9.0である、エマルジョン。前記アプレピタントの含有量が、全量を基準として、0.50w/v%以上0.90w/v%以下であり、前記乳化剤の含有量が、全量を基準として、12.0w/v%以上18.0w/v%以下である、エマルジョン。前記乳化剤がリン脂質である、エマルジョン。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルジョンであって、
アプレピタント、乳化剤、油、ポリエチレングリコール及び水を含み、エタノールを実質的に添加しない、エマルジョン。
【請求項2】
請求項1に記載のエマルジョンであって、
pH調節物質を更に含み、
pHが8.0~9.0である、エマルジョン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエマルジョンであって、
前記アプレピタントの含有量が、全量を基準として、0.50w/v%以上0.90w/v%以下であり、
前記乳化剤の含有量が、全量を基準として、12.0w/v%以上18.0w/v%以下である、エマルジョン。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のエマルジョンであって、
前記乳化剤がリン脂質である、エマルジョン。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のエマルジョンであって、
前記油の含有量が、全量を基準として、7.0w/v%以上12.0w/v%以下である、エマルジョン。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のエマルジョンであって、
前記ポリエチレングリコールの平均分子量が、260以上1100以下である、エマルジョン。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のエマルジョンであって、
前記ポリエチレングリコールの含有量が、エマルジョン全量を基準として、0.5w/v%以上10.0w/v%以下である、エマルジョン。
【請求項8】
注射剤であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載のエマルジョンからなる注射剤。
【請求項9】
エマルジョンを調製する方法であって、
アプレピタント及びポリエチレングリコールを混合し、薬液相を生じさせること、
乳化剤、油及び水を混合し、乳化相を生じさせること、
前記薬液相と前記乳化相を混合し、エマルジョンを生じさせること、
前記エマルジョンを滅菌すること、を含む、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
pH調節物質を混合し、前記エマルジョンのpHを8.0~9.0に調整することを更に含む、方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の方法であって、
エタノールを除去することを含まない、方法。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載の方法であって、
前記乳化相を生じさせる際に、前記乳化剤、前記油及び前記水に加えて更に等張化剤及び/又は緩衝液を混合する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョン、注射剤、及びエマルジョンを調製する方法に関する。より具体的には、本発明は、アプレピタントを含有するエマルジョン、注射剤、及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アプレピタントは、体系名5-[[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)モルホリノ-4-イル]メチル]-1,2-ジヒドロ-3H-1,2,4-トリアゾール-3-オンと称される化合物である。アプレピタントは、ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗作用を有し、抗腫瘍剤の副作用である悪心、嘔吐を抑制する制吐剤として使用されている。
【0003】
アプレピタントは難溶性の化合物であり、主に経口投与用の製剤として調製されている。一方、非経口投与(例えば、静脈内投与)に適した製剤として、例えば、特許文献1には、アプレピタント;11重量/重量%~15重量/重量%の乳化剤;油;アルコールである共乳化剤;張性調節物質;pH調節物質;および水を含む、注射可能なエマルジョンであって、前記エマルジョンのpHは、約7.5~9.0の範囲である、エマルジョンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に開示されるエマルジョンは、安定性に改善の余地があった。また、特許文献1に開示されるエマルジョンは、注射剤としては高濃度のエタノールを含有する必要があり、エタノールに耐性のない患者への投与が困難であった。そこで、本発明は、エタノールを実質的に添加することなく、安定性に優れたアプレピタント含有エマルジョンを提供することを目的とする。本発明はまた、当該エマルジョンを調製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]エマルジョンであって、
アプレピタント、乳化剤、油、ポリエチレングリコール及び水を含み、エタノールを実質的に添加しない、エマルジョン。
[2][1]に記載のエマルジョンであって、
pH調節物質を更に含み、
pHが8.0~9.0である、エマルジョン。
[3][1]又は[2]に記載のエマルジョンであって、
上記アプレピタントの含有量が、全量を基準として、0.50w/v%以上0.90w/v%以下であり、
上記乳化剤の含有量が、全量を基準として、12.0w/v%以上18.0w/v%以下である、エマルジョン。
[4][1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョンであって、
上記乳化剤がリン脂質である、エマルジョン。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のエマルジョンであって、
上記油の含有量が、全量を基準として、7.0w/v%以上12.0w/v%以下である、エマルジョン。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のエマルジョンであって、
上記ポリエチレングリコールの平均分子量が、260以上1100以下である、エマルジョン。
[7][1]~[6]のいずれかに記載のエマルジョンであって、
上記ポリエチレングリコールの含有量が、エマルジョン全量を基準として、0.5w/v%以上10.0w/v%以下である、エマルジョン。
[8]注射剤であって、
[1]~[7]のいずれかに記載のエマルジョンからなる注射剤。
[9]エマルジョンを調製する方法であって、
アプレピタント及びポリエチレングリコールを混合し、薬液相を生じさせること、
乳化剤、油及び水を混合し、乳化相を生じさせること、
上記薬液相と上記乳化相を混合し、エマルジョンを生じさせること、
上記エマルジョンを滅菌すること、を含む、方法。
[10][9]に記載の方法であって、
pH調節物質を混合し、上記エマルジョンのpHを8.0~9.0に調整することを更に含む、方法。
[11][9]又は[10]に記載の方法であって、
エタノールを除去することを含まない、方法。
[12][9]~[11]のいずれかに記載の方法であって、
上記乳化相を生じさせる際に、上記乳化剤、上記油及び上記水に加えて更に等張化剤及び/又は緩衝液を混合する、方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エタノールを実質的に添加することなく、安定性に優れたアプレピタント含有エマルジョンを提供することができる。本発明に係るエマルジョンは、エタノールを実質的に添加していないことから、エタノールに耐性のない患者への投与も可能である。本発明によればまた、エタノールを実質的に添加することなく、安定性に優れたアプレピタント含有エマルジョンを調製する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
<本発明の特徴>
(エマルジョン)
本発明は、アプレピタント、乳化剤、油、ポリエチレングリコール及び水を含み、エタノールを実質的に添加しない、エマルジョンを提供することに特徴を有する。
【0010】
(注射剤)
本発明は、本発明に係るエマルジョンからなる注射剤を提供することに特徴を有する。
【0011】
(エマルジョンの製造方法)
本発明は、エマルジョンを調製する方法であって、アプレピタント及びポリエチレングリコールを混合し、薬液相を生じさせること、乳化剤、油及び水を混合し、乳化相を生じさせること、薬液相と乳化相を混合し、エマルジョンを生じさせること、エマルジョンを滅菌すること、を含む、方法を提供することに特徴を有する。
【0012】
<エマルジョン>
本実施形態に係るエマルジョンは、アプレピタント、乳化剤、油、ポリエチレングリコール及び水を含み、エタノールを実質的に添加しないものである。本実施形態に係るエマルジョンは、水中油型(O/W型)であってもよく、油中水型(W/O型)であってもよいが、医薬製剤として使用する観点からは、水中油型(O/W型)であることが好ましい。
【0013】
(アプレピタント)
アプレピタントは、体系名5-[[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)モルホリノ-4-イル]メチル]-1,2-ジヒドロ-3H-1,2,4-トリアゾール-3-オンと称される化合物である。アプレピタントは、公知の方法により合成してもよく、また市販品を入手して使用してもよい。
【0014】
(アプレピタントの含有量)
アプレピタントの含有量は、エマルジョン全量を基準として、0.50w/v%以上0.90w/v%以下であってよい。アプレピタントの含有量がこの範囲内にあると製薬上有用である。また、優れた安定性を有するという観点から、アプレピタントの含有量は、エマルジョン全量を基準として、0.60w/v%以上0.80w/v%以下が好ましく、0.65w/v%以上0.75w/v%以下がより好ましく、0.70w/v%以上0.74w/v%以下が更に好ましい。
【0015】
(乳化剤)
乳化剤は、薬学的に許容可能なものであれば、特に制限されない。乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、リン脂質(例えば、卵黄リン脂質、大豆リン脂質)が挙げられる。これらの中でも安定性の向上効果がより優れることから、リン脂質が好ましく、卵黄リン脂質がより好ましい。乳化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。乳化剤は、市販されているものを入手して使用してもよい。
【0016】
(乳化剤の含有量)
乳化剤の含有量は、エマルジョン全量を基準として、12.0w/v%以上18.0w/v%以下であってよい。乳化剤の含有量がこの範囲内にあると製薬上充分な量のアプレピタントを可溶化することができる。また、優れた安定性を有するという観点から、乳化剤の含有量は、エマルジョン全量を基準として、12.5w/v%以上17.0w/v%以下であることが好ましく、13.0w/v%以上16.0w/v%以下であることがより好ましく、13.5w/v%以上15.5w/v%以下であることが更に好ましく、14.0w/v%以上15.0w/v%以下であることが更により好ましい。
【0017】
(アプレピタントと乳化剤の含有量比)
アプレピタントと乳化剤の含有量比は、1:10~1:30(重量比)であることが好ましく、1:15~1:25(重量比)であることがより好ましく、1:18~1:22(重量比)であることがより好ましい。
【0018】
(油)
油は、薬学的に許容可能なものであれば、特に制限されない。油の具体例としては、例えば、ダイズ油、オリーブ油、ゴマ油、ナタネ油、ラッカセイ油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、サフラワー油、綿実油及び中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)が挙げられる。これらの中でも安定性の向上効果がより優れることから、ダイズ油が好ましい。油は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。油は、市販されているものを入手して使用してもよい。
【0019】
(油の含有量)
油の含有量は、エマルジョン全量を基準として、7.0w/v%以上12.0w/v%以下であってよい。油の含有量がこの範囲内にあると製薬上充分な量のアプレピタントを可溶化することができる。また、優れた安定性を有するという観点から、油の含有量は、エマルジョン全量を基準として、7.5w/v%以上11.5w/v%以下であることが好ましく、8.0w/v%以上11.0w/v%以下であることがより好ましく、8.5w/v%以上10.5w/v%以下であることが更に好ましく、9.0w/v%以上10.0w/v%以下であることが更により好ましい。
【0020】
(ポリエチレングリコール)
本実施形態に係るエマルジョンは、溶媒としてポリエチレングリコールを含有する。これにより、製薬上充分な量のアプレピタントを可溶化できると共に、エマルジョンの安定性が向上する。
【0021】
(ポリエチレングリコールの平均分子量)
ポリエチレングリコールの平均分子量は、260以上1100以下であることが好ましい。これにより、エマルジョンの安定性が向上する効果がより顕著に発揮される。また、エマルジョンの安定性が向上する効果がより顕著に発揮されると共に、医薬製剤としての適性がより高くなることから、ポリエチレングリコールの平均分子量は、260以上800以下であることがより好ましく、260以上600以下であることが更に好ましく、260以上440以下であることが更により好ましい。なお、本明細書において、ポリエチレングリコールの平均分子量は、数平均分子量を意味する。
【0022】
ポリエチレングリコールは、薬学的に許容可能なものであれば、特に制限されない。ポリエチレングリコールは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。ポリエチレングリコールは、市販されているものを入手して使用してもよい。
【0023】
市販されているポリエチレングリコールとしては、例えば、PEG100、PEG200、PEG300、PEG400、PEG500、PEG600、PEG700、PEG800、PEG900、PEG1000等が挙げられる。ポリエチレングリコールとしては、PEG300以上が好ましく、PEG300~PEG1000がより好ましく、PEG400が更に好ましい。
【0024】
(ポリエチレングリコールの含有量)
ポリエチレングリコールの含有量は、エマルジョン全量を基準として、0.5w/v%以上10.0w/v%以下であってよい。ポリエチレングリコールの含有量がこの範囲内にあると製薬上充分な量のアプレピタントを可溶化できると共に、エマルジョンの安定性が向上する。エマルジョンの安定性が向上する効果がより顕著に発揮されるという観点から、ポリエチレングリコールの含有量は、エマルジョン全量を基準として、1.0w/v%以上5.0w/v%以下であることが好ましく、1.5w/v%以上4.0w/v%以下であることがより好ましく、2.0w/v%以上3.5w/v%以下であることが更に好ましく、2.5w/v%以上3.0w/v%以下であることが更により好ましく、2.8w/v%であることが特に好ましい。
【0025】
(等張化剤)
本実施形態に係るエマルジョンは、等張化剤を更に含むものであってよい。等張化剤は、エマルジョンの浸透圧比を調節するために添加されるものであり、薬学的に許容可能なものであれば、特に制限されない。等張化剤としては、例えば、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、グルコース、トレハロース、マルトース、スクロース、ラフィノース、ラクトース、デキストラン等を使用することができる。これらの中でも注射剤の添加物としての使用実績が多いことから、スクロースが好ましい。等張化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。等張化剤は、市販されているものを入手して使用してもよい。
【0026】
(等張化剤の含有量)
等張化剤の含有量は、エマルジョンの浸透圧比を所望の値に調節する量であればよく、適宜設定されてよい。これに限られるものではないが、等張化剤の含有量の一例として、例えば、エマルジョン全量を基準として、0w/v%以上25w/v%以下であってよく、0w/v%以上20w/v%以下であってよく、0w/v%以上15w/v%以下であってよく、0w/v%以上10w/v%以下であってよい。
【0027】
(pH調節物質)
本実施形態に係るエマルジョンは、pH調節物質を更に含むものであってよい。pH調節物質は、エマルジョンのpHを調節するために添加されるものであり、薬学的に許容可能なものであれば、特に制限されない。pH調節物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、塩酸、オレイン酸、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム等を使用することができる。pH調節物質は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。pH調節物質は、市販されているものを入手して使用してもよい。pHが8.0~9.0のエマルジョンに調整しやすいことから、オレイン酸及びオレイン酸塩がよく、特にオレイン酸ナトリウムがよい。
【0028】
(pH調節物質の含有量)
pH調節物質の含有量は、エマルジョンのpHを所望の値に調節する量であればよく、適宜設定されてよい。これに限られるものではないが、pH調節物質の含有量の一例として、例えば、0.1w/v%以上1w/v%以下であってよく、さらに、0.6w/v%以上0.8w/v%以下であってよい。
【0029】
(エタノール)
本実施形態に係るエマルジョンは、エタノールを実質的に添加しないものである。従来のアプレピタント製剤は、アプレピタントを可溶化するためにエタノールを添加することが通常であったが、本実施形態に係るエマルジョンは、エタノールを実質的に添加することなく、アプレピタントを可溶化することができる。
【0030】
(エタノールの含有量)
本実施形態に係るエマルジョンは、エタノールを実質的に添加しないものであるため、エタノールを実質的に含有しないものである。エタノールを実質的に含有しないとは、エマルジョン全量を基準として、エタノールの含有量が0.05w/v%以下であることをいい、好ましくは0.04w/v%以下であり、より好ましくは0.03w/v%以下である。
【0031】
(緩衝剤)
本実施形態に係るエマルジョンは、緩衝剤を更に含むものであってよい。緩衝剤を更に含むことによって、エマルジョンのpHを安定に保つことができる。緩衝剤は、薬学的に許容可能なものであれば、特に制限されない。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、トリス緩衝剤が挙げられる。緩衝剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。緩衝剤は、市販されているものを入手して使用してもよい。
【0032】
(エマルジョンのpH)
本実施形態に係るエマルジョンのpHは、8.0以上9.0以下であることが好ましい。pHがこの範囲にあると、アプレピタントの析出を充分に抑制することができる。
【0033】
(エマルジョンの平均粒子経)
本実施形態に係るエマルジョンの平均粒子経は、通常60nm以上140nm以下である。医薬製剤として好適に使用できる観点から、本実施形態に係るエマルジョンの平均粒子経は、70nm以上140nm以下であることが好ましく、80nm以上140nm以下であることがより好ましい。エマルジョンの平均粒子経は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
本実施形態に係るエマルジョンは、安定性が向上しているため、保存時の平均粒子経の増大が抑制されている。本実施形態に係るエマルジョンは、例えば、40℃で1週間保存したときの平均粒子経が、通常60nm以上140nm以下であり、好ましくは70nm以上140nm以下であり、より好ましくは80nm以上140nm以下である。また、本実施形態に係るエマルジョンは、例えば、40℃で1週間保存したときの平均粒子経が、保存前の平均粒子経に対して、90%以上110%以下の範囲内にあってもよい。
【0035】
(エマルジョンの用途)
本実施形態に係るエマルジョンは、アプレピタント製剤として使用することができる。製剤形態は特に制限されず、例えば、注射剤、経口剤等であってよいが、本実施形態に係るエマルジョンは、注射剤として好適に使用することができる。アプレピタント製剤としての用法及び用量は、既存のアプレピタント製剤の用法及び用量に準じて設定することができる。
【0036】
<エマルジョンの調製方法>
本実施形態に係るエマルジョンの調製方法は、アプレピタント及びポリエチレングリコールを混合し、薬液相を生じさせること(薬液相形成ステップ)、乳化剤、油及び水を混合し、乳化相を生じさせること(乳化相形成ステップ)、薬液相と乳化相を混合し、エマルジョンを生じさせること(エマルジョン形成ステップ)、及びエマルジョンを滅菌すること(滅菌ステップ)を含む。
【0037】
本実施形態に係るエマルジョンの調製方法は、pH調節物質を混合し、エマルジョンのpHを8.0~9.0に調整すること(pH調整ステップ)を更に含むものであってよい。pH調整ステップは、滅菌ステップより前に実施することが好ましい。
【0038】
本実施形態に係るエマルジョンは、エタノールを実質的に添加することなく、アプレピタントを可溶化することができることから、本実施形態に係るエマルジョンの調製方法は、エタノールを除去すること(エタノール除去ステップ)を必要としない。
【0039】
(薬液相形成ステップ)
薬液相形成ステップは、アプレピタント及びポリエチレングリコールを混合し、薬液相を生じさせることを含む。ポリエチレングリコールを使用することで、アプレピタントが可溶化した薬液相を得ることができる。アプレピタント及びポリエチレングリコールを混合する条件としては、例えば、50~70℃にて150~250rpmで10~30分間加熱及び攪拌する条件を例示できる。
【0040】
(乳化相形成ステップ)
乳化相形成ステップは、乳化剤、油及び水を混合し、乳化相を生じさせることを含む。乳化相は、水中油型(O/W型)であることが好ましい。乳化剤、油及び水を混合する条件としては、例えば、50~70℃にて5,000~15,000rpmで10~30分間加熱及び攪拌する条件を例示できる。乳化相形成ステップは、乳化剤、油及び水に加えて、更に等張化剤及び/又は緩衝液を混合し、乳化相を生じさせるものであってよい。緩衝液は、例えば、上述した緩衝剤を水に溶解させた溶液を使用することができる。
【0041】
(エマルジョン形成ステップ)
エマルジョン形成ステップは、薬液相と乳化相を混合し、エマルジョンを生じさせることを含む。エマルジョンの形成は、常法に従って実施することができる。
【0042】
エマルジョン形成ステップは、粗乳化物を形成した後、精乳化することによって実施してもよい。粗乳化物は、例えば、薬液相を乳化相に一定の速度で緩やかに滴下し、次いで50~70℃にて5,000~15,000rpmで10~30分間加熱及び攪拌することで形成させることができる。粗乳化物の平均粒子経は、通常0.1~10μmの範囲である。次いで、例えば、高圧乳化機、超音波乳化機を使用して粗乳化物を精乳化することでエマルジョンを生じさせることができる。精乳化は、例えば、50~70℃の温度条件下、50~200MPaの圧力で3~30回通液を行うことで実施することができる。精乳化することで得られるエマルジョンの平均粒子経は、通常50~150nmの範囲である。高圧乳化機や超音波乳化機を使用して精乳化することで、粗乳化物のさらなる微細化も可能である。高圧乳化機としては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)、スターバースト((株)スギノマシン製)等のチャンバー型高圧ホモジナイザー、又は、ゴーリンタイプホモジナイザー(APV社製)、ラニエタイプホモジナイザー(ラニエ社製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ホモゲナイザー(三和機械(株)製)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ(株)製)、超高圧ホモジナイザー(イカ社製)等の均質バルブ型高圧ホモジナイザーが挙げられ、超音波乳化機としては、ソニファイアー450(ブランソン製)、MIDSONIC200(カイジョー製)等が挙げられる。
【0043】
(滅菌ステップ)
滅菌ステップは、エマルジョンを滅菌することを含む。エマルジョンの滅菌は、常法に従って実施することができる。具体的には、例えば、エマルジョンを孔径0.2~0.22μmのメンブレンフィルター(例えば、ナイロンシリンジフィルター)を通過させることで滅菌することができる。
【0044】
(pH調整ステップ)
pH調整ステップは、pH調節物質を混合し、エマルジョンのpHを8.0~9.0に調整することを含む。pH調整ステップは、必要に応じて実施すればよく、必須のステップではない。pH調整ステップは、滅菌ステップの前に実施することが好ましい。具体的には、例えば、薬液相形成ステップでpH調節物質を更に添加すること、乳化相形成ステップでpH調節物質を更に添加すること、エマルジョン形成ステップでpH調節物質を更に添加すること等により、pH調整ステップを実施することができる。pH調節物質の添加量は、最終的に得られるエマルジョンのpHが8.0~9.0の範囲内になるように設定することができる。
【0045】
本実施形態に係る調製方法で得られるエマルジョンは、医薬用途に好適に使用することができる。
【実施例0046】
以下、本発明を試験例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
〔参考例1:安定性の評価系の確認〕
(エマルジョンの調製)
表1に示す組成に従い、特許文献1に記載された方法を参考にして、エマルジョンを調製した。具体的にはまず、アプレピタント(東京化成工業社製)、卵黄リン脂質(卵黄レシチンE-80,Lipoid社製)、ダイズ油(日局 ダイズ油,カネダ社製)をエタノール(エタノール 1級,関東化学社製)に分散させた。得られた溶液に水、スクロース(スクロース 特級,関東化学社製)、オレイン酸ナトリウム(オレイン酸ナトリウム 1級,関東化学社製)を添加し、10分間激しく振盪攪拌した。得られた混合液を超音波発生器(ソニファイアー450,ブランソン社製)で20分間乳化した。さらに、pH調整剤(塩酸又は水酸化ナトリウム)を添加し、pH8.0に調整することで乳化物を得た。得られた乳化物を孔径0.2μmのメンブレンフィルター(Millex-GS 0.22μm,ミリポア社製)を通して滅菌し、試験製剤1のエマルジョンを得た。
【0048】
【0049】
(pHの測定)
エマルジョンのpHは、株式会社堀場製作所製pHメーター(型名F-52)を用いて測定した。
【0050】
(平均粒子経の測定)
エマルジョンの平均粒子径は、動的光散乱法を利用した測定装置(ゼータサイザーナノS,マルバーン社製)により、Z平均粒子径として測定した。具体的には、25℃において633nmのレーザー光を照射し、粒子から散乱される散乱光強度をマイクロ秒単位の時間変化で測定した。測定された粒子に起因する散乱強度の分布を、装置付属のデータ解析ソフト(ゼータサイザーナノ S,マルバーン社製)を使用して、キュムラント解析法により算出した。なお、キュムラント解析法とは、Z平均粒子径を算出するために正規分布に当てはめて解析する方法である。
【0051】
(安定性評価)
調製した試験製剤を5℃で1カ月若しくは2カ月保存、25℃で1カ月若しくは2カ月保存、又は40℃で1週間保存した後、平均粒子径を測定した。結果を表2に示す。なお、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)の安定性ガイドラインでは、25℃で2ヵ月間の保存条件は、5℃で1年間の保存条件に相当する。
【0052】
【0053】
表2に示したとおり、5℃での保存は2カ月後まで平均粒子径の変化は認められなかった。25℃での保存は保存期間と比例して平均粒子径の増大が認められた。40℃での保存は1週間後には油相と水相に分離した。これらの結果から、40℃1週間の保存は、25℃2カ月の保存と同等以上の加速条件であることが示された。よって、以後の安定性評価は、40℃で1週間保存した前後のエマルジョンの平均粒子径を測定することにより実施した。
【0054】
〔試験例1:各種溶媒が安定性に及ぼす効果の評価〕
一般的に医薬的に許容される各種溶媒(エタノール、ポリエチレングリコール(PEG400,丸石製薬製,数平均分子量380~420)、プロピレングリコール(PG,丸石製薬製)及びグリセリン(Gly,阪本薬品工業製))をそれぞれ使用し、各溶媒が安定性に及ぼす効果を評価した。具体的には、表3に示す組成に従い、アプレピタントを添加しなかったこと以外は参考例1に記載の方法と同様にして、試験製剤1-1~1-5のエマルジョンを得た。
【0055】
【0056】
(安定性評価)
各試験製剤を40℃で1週間保存し、保存前後の平均粒子径を測定した。また、40℃1週間保存後の平均粒子径が140nm以下の場合を「〇」、特に保存前の平均粒子径と同等である場合を「◎」、それ以外(40℃1週間保存後の平均粒子径が140nm超の場合)を「×」として判定を行った。結果を表4に示す。
【0057】
【0058】
表4に示したとおり、溶媒を含まない試験製剤1-5は、安定性に問題があることが分かる。一般的に医薬的に許容される各種溶媒の中でもポリエチレングリコール(PEG400)を含み、エタノールを実質的に添加しない試験製剤1-1は、40℃1週間保存後も平均粒子径の増大が認められず、安定性を向上させる効果が特に優れていた。
【0059】
〔試験例2:ポリエチレングリコールが安定性に及ぼす効果の評価〕
ポリエチレングリコールとして、PEG300(ポリエチレングリコール300,関東化学社製,数平均分子量285~315)、PEG400(日局マクロゴール400,丸石製薬社製,数平均分子量380~420)及びPEG1000(ポリエチレングリコール1000,関東化学社製,数平均分子量950~1050)を使用し、表5に示す組成に従い、試験例1と同様にして、試験製剤2-1~2-4のエマルジョンを得た。なお、使用したPEGの平均分子量は、いずれも滴定法によって算出された数平均分子量である。
【0060】
【0061】
(安定性評価)
各試験製剤を40℃で1週間保存し、保存前後の平均粒子径を測定した。また、試験例1と同様の基準で判定を行った。結果を表6に示す。
【0062】
【0063】
表6に示すとおり、ポリエチレングリコールの平均分子量が260以上(PEG300以上)のとき、40℃1週間保存後も平均粒子径の増大が認められず、安定性を向上させる効果が特に優れていた。
【0064】
〔実施例1:アプレピタント製剤の安定性の評価〕
表7に示す組成に従い、実施例製剤1及び比較例製剤1~2のエマルジョンを調製した。
【0065】
(実施例製剤1の調製)
まず、アプレピタント(東京化成工業社製)及びポリエチレングリコール(PEG400,日局マクロゴール400,丸石製薬社製,数平均分子量380~420)を混合し、60℃にて200rpmで15分間加熱及び撹拌することで溶解させ薬液相を得た。次に、卵黄リン脂質(卵黄レシチンPL-100M,キユーピー株式会社製)、ダイズ油(日局ダイズ油,カネダ社製)、スクロース(スクロース 特級,関東化学社製)、pH調節物質(オレイン酸ナトリウム 1級,関東化学社製)及び水を混合し、60℃にて8,000rpmで5分間加熱及び撹拌することで乳化相を形成させた。次いで、薬液相を乳化相に滴下し、60℃にて8,000rpmで5分間加熱及び撹拌することで粗乳化物を形成させた。その後、超音波乳化機(ソニファイアー450,ブランソン社製)を使用して20分間、粗乳化物を精乳化した。さらに、pH調整剤(塩酸又は水酸化ナトリウム)を添加し、pH8.6に調整することで乳化物を得た。得られた乳化物を0.2μmのナイロンシリンジフィルター(Millex-GS 0.22μm,ミリポア社製)を通して滅菌し、実施例製剤1のエマルジョンを得た。
【0066】
(比較例製剤1~2の調製)
比較例製剤1のエマルジョンは、参考例1の試験製剤1と同様の手順で調製した。比較例製剤2のエマルジョンは、エタノールを加えなかったこと以外は、参考例1の試験製剤1と同様の手順で調製した。なお、比較例製剤1及び比較例製剤2のpHは、それぞれ8.0及び8.4であった。
【0067】
【0068】
(安定性評価)
各製剤をバイアル瓶へ充填および打栓し、40℃で1週間保存し、保存前後の平均粒子径を測定した。また、試験例1と同様の基準で判定を行った。さらに、40℃で1週間保存した後の各製剤に対し、目視でアプレピタント結晶の析出の有無を判定した。結果を表8に示す。
【0069】
【0070】
表8に示したとおり、溶媒(ポリエチレングリコール及びエタノール)なしで調製した比較例製剤2は、エマルジョンを調製することすらできなかった。40℃1週間保存後、溶媒としてエタノールを使用した比較例製剤1が平均粒子径が140nmを超えたのに対し、溶媒としてポリエチレングリコールを使用した実施例製剤1は、平均粒子径の増大が認められず、優れた安定性を有していた。
【0071】
〔実施例2:アプレピタント製剤の安定性の評価〕
表9に示す組成に従い、実施例製剤2~5のエマルジョンを調製した。実施例製剤2~5のエマルジョンは、実施例1の実施例製剤1と同様の手順で調製した。なお、実施例製剤3は、pH調節物質として、オレイン酸ナトリウム(オレイン酸ナトリウム 1級,関東化学社製)に代えて、オレイン酸(エクストラオレイン99,日油社製)を用いた。実施例製剤2、実施例製剤3、実施例製剤4及び実施例製剤5のpHは、それぞれ8.9、8.3、8.7及び8.8であった。
【0072】
【0073】
(安定性評価)
各製剤に対し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表10に示す。
【0074】
【0075】
表10に示したとおり、本発明に係るアプレピタント製剤(実施例製剤2~5)は、40℃1週間保存後も、平均粒子径の増大が認められず、優れた安定性を有していた。