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特開2022-183853塑性加工における亀裂進展予測方法、プログラム、および亀裂進展予測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183853
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】塑性加工における亀裂進展予測方法、プログラム、および亀裂進展予測装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20221206BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20221206BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20221206BHJP
   B21D 22/00 20060101ALI20221206BHJP
   G06F 113/22 20200101ALN20221206BHJP
【FI】
G01N3/00 T
G06F30/23
G06F30/10 200
B21D22/00
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091354
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】向瀬 レミ
(72)【発明者】
【氏名】小林 康彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 俊樹
【テーマコード(参考)】
2G061
4E137
5B146
【Fターム(参考)】
2G061AA12
2G061AA15
2G061BA03
2G061BA18
2G061DA11
2G061DA12
4E137BA04
4E137CB01
4E137DA02
4E137FA40
5B146AA06
5B146DJ07
5B146DJ14
5B146DL08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被加工材の塑性変形の状況を考慮して、亀裂の発生位置とその進展挙動を高い精度で、かつ短時間で予測する方法を提供する。
【解決手段】塑性加工シミュレーションにより、被加工材の破壊値を計算しS1、破壊値が予め設定した閾値を上回る位置を亀裂発生位置として決定しS2、破壊値が初めて閾値を上回るシミュレーションステップを亀裂発生ステップとして特定しS3、亀裂発生位置での亀裂発生ステップにおける亀裂が発生した法線方向を特定しS4、亀裂発生ステップ以降の各シミュレーションステップにおける亀裂の法線方向を特定しS5、被加工材についての亀裂進展の評価値を計算するS6。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塑性加工で被加工材に発生する亀裂の進展を予測する、亀裂進展予測方法において、
前記塑性加工に対する塑性加工シミュレーションにより:
前記被加工材への亀裂の発生の判断と、
前記亀裂が発生した亀裂発生位置を特定し、
前記塑性加工シミュレーション後に:
特定された前記亀裂発生位置において亀裂が発生した、前記塑性加工シミュレーションにおける亀裂発生ステップを特定し、
前記亀裂発生ステップおよび前記亀裂発生位置における前記亀裂の法線方向を示す初期亀裂発生法線ベクトルを特定し、
前記初期亀裂発生法線ベクトルに基づき、前記亀裂発生ステップ以降のシミュレーションステップにおける亀裂法線ベクトルを特定することで、当該亀裂の進展を予測する、
亀裂進展予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の亀裂進展予測方法において、
前記亀裂発生ステップを、破壊条件式の履歴に基づいて特定する、
亀裂進展予測方法。
【請求項3】
請求項1に記載の亀裂進展予測方法において、
前記亀裂発生ステップに関し:
前記塑性加工シミュレーションで得た前記亀裂発生位置に関する状態情報、を用いて前記初期亀裂発生法線ベクトルを特定し、
以下の要件をいずれも満たす複数の初期亀裂面内ベクトルを特定する、
亀裂発生法線ベクトルと垂直であり、
当該亀裂発生位置が始点、前記被加工材内を終点とし、
それぞれが互いに異なる方向である、
亀裂進展予測方法。
【請求項4】
請求項3に記載の亀裂進展予測方法において、
前記亀裂発生ステップより後のシミュレーションステップ各々に関し:
当該シミュレーションステップにおける、前記初期亀裂面内ベクトルの終点の変位後の位置を特定し、
前記変位後の位置を終点とする、亀裂面内ベクトルを特定し、
前記亀裂面内ベクトルに基づいて、亀裂法線ベクトルを特定し、
前記亀裂法線ベクトルに基づいて、前記亀裂の進展の予測を行う、
亀裂進展予測方法。
【請求項5】
請求項3に記載の亀裂進展予測方法において、
前記塑性加工シミュレーションでは、有線要素法を用いて前記被加工材を複数の要素に分割し、
前記複数の初期亀裂面内ベクトルにおける終点と始点は、同じ要素内である塑性加工における亀裂進展予測方法。
【請求項6】
請求項3に記載の亀裂進展予測方法において、
予め特定された亀裂面内ベクトルを、前記亀裂発生法線ベクトルを回転軸として、所定角度を繰り返し回転させることで、前記複数の候補位置を特定する塑性加工における亀裂進展予測方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の亀裂進展予測方法を、コンピュータに実行させる亀裂進展予測プログラム。
【請求項8】
処理部と塑性加工シミュレーションプログラムを格納したメモリを有し、塑性加工で被加工材に発生する亀裂の進展を予測する、亀裂進展予測装置において、
前記処理部は、前記塑性加工シミュレーションプログラムを実行することで:
前記塑性加工に対する塑性加工シミュレーションにより:
前記被加工材への亀裂の発生の判断と、
前記亀裂が発生した亀裂発生位置を特定し、
前記塑性加工シミュレーション後に:
特定された前記亀裂発生位置において亀裂が発生した、前記塑性加工シミュレーションにおける亀裂発生ステップの特定と、
前記亀裂発生ステップおよび前記亀裂発生位置における前記亀裂の法線方向を示す初期亀裂発生法線ベクトルの特定と、
前記初期亀裂発生法線ベクトルに基づき、前記亀裂発生ステップ以降のシミュレーションステップにおける亀裂法線ベクトルを特定することで、当該亀裂の進展を予測する、
亀裂進展予測装置。
【請求項9】
請求項8に記載の亀裂進展予測装置において、
前記処理部は、前記亀裂発生ステップを、破壊条件式の履歴に基づいて特定する、
亀裂進展予測装置。
【請求項10】
請求項8に記載の亀裂進展予測装置において、
前記処理部は、前記亀裂発生ステップに関し:
前記塑性加工シミュレーションで得た前記亀裂発生位置に関する状態情報、を用いて前記初期亀裂発生法線ベクトルを特定し、
以下の要件をいずれも満たす複数の初期亀裂面内ベクトルを特定する、
亀裂発生法線ベクトルと垂直であり、
当該亀裂発生位置が始点、前記被加工材内を終点とし、
それぞれが互いに異なる方向である、
亀裂進展予測装置。
【請求項11】
請求項10に記載の亀裂進展予測装置において、
前記処理部は、前記亀裂発生ステップより後のシミュレーションステップ各々に関し:
当該シミュレーションステップにおける、前記初期亀裂面内ベクトルの終点の変位後の位置を特定し、
前記変位後の位置を終点とする、亀裂面内ベクトルを特定し、
前記亀裂面内ベクトルに基づいて、亀裂法線ベクトルを特定し、
前記亀裂法線ベクトルに基づいて、前記亀裂の進展の予測を行う、
亀裂進展予測装置。
【請求項12】
請求項10に記載の亀裂進展予測装置において、
前記処理部は、
前記塑性加工シミュレーションでは、有線要素法を用いて前記被加工材を複数の要素に分割し、
前記複数の初期亀裂面内ベクトルにおける終点と始点は、同じ要素内である塑性加工における亀裂進展予測装置。
【請求項13】
請求項10に記載の亀裂進展予測装置において、
前記処理部は、
予め特定された亀裂面内ベクトルを、前記亀裂発生法線ベクトルを回転軸として、所定角度を繰り返し回転させることで、前記複数の候補位置を特定する塑性加工における亀裂進展予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性加工工程で被加工材に発生する亀裂の進展を予測する予測方法、プログラム、装置に関する。なお、塑性加工には、鍛造加工、圧延加工などの熱間加工が含まれる。
【背景技術】
【0002】
昨今、様々な分野で被加工材に対する塑性加工が行われている。この塑性加工での被加工材については、亀裂に対する分析や対策を検討することが求められている。例えば、航空機エンジンや発電用ガスタービンに用いられる超耐熱合金は、低温で脆化する特性を持ち、その加工性は温度に大きく依存する。このため、超耐熱合金の熱間加工工程において、金型形状や加工条件が適切でない場合に加工中に亀裂が生じるリスクがあり、加工品の修正工数の増大や不良発生の原因となる。そこで、製品の短納期化と品質の安定化を実現するには、亀裂の発生位置と大きさを設計段階で予測して事前に亀裂の抑制対策を検討する必要がある。
【0003】
従来から、亀裂を予測する方法として、例えば、有限要素法によって破壊を評価する指標を算出して、閾値と比較することで亀裂の発生位置を予測する手法が一般的に知られている。この亀裂の進展に対する予測について、特許文献1には、亀裂が発生してない状態において、所定の負荷条件下での応力状態を求めた後、亀裂の末端位置と先端位置を直線で結んだ仮想亀裂が存在する状態において、亀裂が存在しない状態での応力状態を反映して応力拡大係数を求め、亀裂の進展方向を求める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-216184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1では、亀裂の進展を予測するための方法が記載されているが、亀裂の近傍において材料が塑性変形した時の亀裂の取り扱いについては記載されていないため、塑性変形による亀裂の向きの変化を追跡することができない。そのため、亀裂に作用する応力成分を把握することができず、被加工材の塑性変形とともに亀裂が進展していく状況での適用はできなかった。
【0006】
以上のように、特許文献1では、被加工材の塑性変形を伴う亀裂の進展を高い精度で、かつ短時間で予測することはできなかった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、塑性加工を行う場合における、被加工材の塑性変形の状況を考慮して、亀裂の発生位置とその進展を高い精度で、かつ短時間で予測する可能とするである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記の課題を解決するために、本発明は、塑性加工で被加工材に発生する亀裂の進展を予測する、亀裂進展予測方法において、前記塑性加工に対する塑性加工シミュレーションにより:
前記被加工材への亀裂の発生の判断と、
前記亀裂が発生した亀裂発生位置を特定し、
前記塑性加工シミュレーション後に:
特定された前記亀裂発生位置において亀裂が発生した、前記塑性加工シミュレーションにおける亀裂発生ステップを特定し、
前記亀裂発生ステップおよび前記亀裂発生位置における前記亀裂の法線方向を示す初期亀裂発生法線ベクトルを特定し、
前記初期亀裂発生法線ベクトルに基づき、前記亀裂発生ステップ以降のシミュレーションステップにおける亀裂法線ベクトルを特定することで、当該亀裂の進展を予測する、
亀裂進展予測方法である。
【0009】
また、本発明には、亀裂進展予測方法を実行する亀裂進展予測装置や亀裂進展予測方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムである亀裂進展予測プログラム自体もしくはこれを格納した記憶媒体も含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塑性加工における欠陥の進展をより容易に、つまり、より少ない計算量を抑止し、かつ高精度に予想することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態の亀裂進展予測装置の構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態の亀裂進展予測方法の全体の流れを示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態における亀裂進展予測方法のステップS1の詳細を示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態で用いられる加工条件情報を示す図である。
図5】本発明の一実施形態を適用した場合における破壊値とシミュレーションステップの関係を示す図である。
図6】本発明の一実施形態を適用した場合における亀裂面を亀裂するベクトルの配置を示す図である。
図7】本発明の一実施形態を適用した円柱形状の主ロールと円柱形状のマンドレルでリングを圧延するプロセスを説明する図である。
図8】本発明の一実施形態を適用した破壊値と亀裂進展の評価値を示す図である。
図9】本発明の一実施形態のステップS4における亀裂発生ステップで特定される法線方向を示す図である。
図10】本発明の一実施形態のステップS5における亀裂発生ステップの次のシミュレーションステップで特定される法線方向を示す図である。
図11】本発明の一実施形態のステップS5における図10の次のシミュレーションステップで特定される法線方向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。本実施形態では、被加工材に対する塑性加工のシミュレーション(塑性加工シミュレーション)での処理について説明する。ここで、本実施形態における亀裂とは、ひび、割れ、裂け、破壊、破損など、時間の経過に応じて進展する欠陥を示す。さらに、進展とは、「進行」「進捗」といった表現は問わず、亀裂における時間の経過と共に変化する状況を示し、その大きさないし長さを示す進展量や進展方向の他、形状を含めてもよい。
<システム構成>
まず、図1に、本実施形態での亀裂進展を予測する亀裂進展予測装置100の構成を示す。亀裂進展予測装置100は、いわゆるコンピュータで実現できる。このため、亀裂進展予測装置100は、CPUの如き演算装置で実現できる処理部1100を有する。処理部1100は、メモリ1200に格納された塑性加工シミュレーションプログラム1210に従って、各種演算を実行する。この内容は、後述する。また、塑性加工シミュレーションプログラム1210は、図示しないネットワークを介して配信されたり、これを格納した記憶媒体を介して亀裂進展予測装置100に格納することが可能である。なお、塑性加工シミュレーションプログラム1210は、ソルバープログラムと、ポストプロセッサプログラムと、の集合であることが一例である。しかし、塑性加工シミュレーションプログラム1210は、他のプログラムでもよく、プリプロセッサプログラムといった他のプログラムを集合対象としてもよい。また、塑性加工シミュレーションプログラムは、本実施例では亀裂の進展を予測する趣旨で用いていることから、亀裂進展予測プログラムと呼ぶことがある。
【0013】
また、亀裂進展予測装置100は、利用者へ情報を提供する出力部1300を有する。これは、表示モニタなどで実現できる。さらに、亀裂進展予測装置100は、利用者からの操作を受け付ける入力部1400を有する。これは、キーボードやマウス等のポインティングデバイスなどで実現できる。ここで、出力部1300や入力部1400は、亀裂進展予測装置100と別筐体の端末装置で実現してもよい。この場合、端末装置は、PCの他、タブレットやスマートフォンなどで実現できる。
【0014】
さらに、亀裂進展予測装置100は、各種情報を記憶する記憶装置を備える。記憶装置には、被加工材特性情報1001、加工条件情報1002やシミュレーション結果情報1003が記憶されている。これらの内容は、後述する。なお、記憶装置については、亀裂進展予測装置100と別筐体のファイルシステムなどで実現してもよい。
【0015】
なお、本実施形態では、亀裂進展予測装置100をソフトウエアに従って処理を実行するコンピュータとして記載する。但し、ソフトウエア全体もしくはその一部を、専用回路やFPGA(Field Programmable Gate Array)などハードウエアで実現してもよい。
<亀裂進展予測方法>
図2は、本実施形態の亀裂進展を予測する亀裂進展予測方法の全体の処理を示すフローチャートである。以下、図2に従って、亀裂進展予測方法について説明する。なお、この際、各処理の主体を処理部1100として記載するが、これは、上述のように塑性加工シミュレーションプログラム1210に従った処理となる。
【0016】
以下では、まず、図2のフローチャート全体の概要を説明し、次に、各ステップの詳細を説明する。ステップS1において、処理部1100は、所定の加工方法を再現する塑性加工シミュレーションを開始する。このために、処理部1100は、入力部1400を介して利用者から入力されるシミュレーション指示を受け付ける。そして、処理部1100は、シミュレーション指示に含まれる被加工材における破壊値を計算する。
【0017】
次に、ステップS2において、処理部1100は、ステップS1で計算した破壊値が塑性加工シミュレーションの最終ステップにおいて予め設定した閾値を上回る物質点(位置)を候補位置として特定する。そして、処理部1100は、これらの中から、特定した候補位置から入力部1400を介して、利用者が選択した候補位置を亀裂発生位置として決定する。なお、処理部1100は、候補位置を1つに特定し、これを亀裂発生位置として決定してもよい。
【0018】
次に、ステップS3において、処理部1100は、ステップS2で決定した亀裂発生位置において、破壊値が初めて閾値を上回るシミュレーションステップを、亀裂発生ステップとして特定する。
【0019】
次に、ステップS4において、処理部1100は、亀裂発生位置での亀裂発生ステップにおける亀裂が発生した法線方向を特定する。この法線方向とは、亀裂面に対する法線方向であり、亀裂法線ベクトルを特定することで実現できる(以下、同じ)。
【0020】
次に、ステップS5において、処理部1100は、亀裂発生ステップ以降の各シミュレーションステップにおける亀裂の法線方向を特定する。つまり、処理部1100は、破壊値が初めて閾値を上回るシミュレーションステップ以降の各シミュレーションステップにおける亀裂の法線方向を特定する。このことで、被加工材に対する亀裂の予測が可能となる。
【0021】
そして、ステップS6において、処理部1100は、ステップS6までの処理結果を用いて、被加工材についての亀裂進展の評価値を計算する。この評価値は亀裂の進展の度合いを表すパラメータで、亀裂の進展深さと相関がある。なお、ステップS6での評価値の計算は省略してもよい。以上で、亀裂進展予測方法の全体についての説明を終了する。以下、亀裂進展予測方法における各ステップの詳細を説明する。なお、各ステップの詳細の説明については、以下の順序で行う。まず、図3を用いて、ステップS1の詳細を説明する。次に、ステップS2~ステップS6の詳細を説明する。
<<ステップS1:破壊値の計算工程>>
ステップS1では、処理部1100は、図3に示す本実施形態における亀裂進展予測方法のステップS1の詳細を示すフローチャートに従って、被加工材における破壊値を計算する。この破壊値は、亀裂が生成する評価指標となる。このため、この破壊値を用いることで、亀裂の発生有無が判定できる。
【0022】
まず、ステップS1001において、処理部1100は、シミュレーション指示に含まれる被加工材の加工前の形状および金型形状を、被加工材特性情報1001から読み込む。例えば、加工が圧延であった場合、金型形状としてロール形状を読み込む。このように、本ステップでは、処理部1100は、被加工材の加工の特性を示す情報を読込むことになる。
【0023】
次に、ステップS1002において、処理部1100は、被加工材の応力ひずみ曲線および熱物性を、被加工材特性情報1001から読み込む。例えば、熱物性として、被加工材の密度、熱伝導率、放射率など用いることができる。このように、本ステップでは、処理部1100は、被加工材自体の特性を示す情報を読込むことになる。また、被加工材特性情報1001は、被加工材の加工の特性を示す情報や被加工材自体の特性を示す情報を含む。
【0024】
次に、ステップS1003において、処理部1100は、被加工材特性情報1001から亀裂進展予測モデルを読み込む。この亀裂進展予測モデルの情報は、亀裂の発生を評価する指標である破壊値Cの計算式、亀裂発生の判定で使用する指標の閾値である閾値C0、および亀裂進展の計算式を含む。
【0025】
次に、ステップS1004において、処理部1100は、加工条件情報1002から当該被加工材の加工条件を読み込む。この加工条件情報1002を、図4に示す。図4に示すように、加工条件には、被加工材の加熱温度、被加工材を加熱炉から取り出してから加工機に設置するまでの時間、加工時の圧下速度、圧下量などを用いることができる。また、加工が圧延であった場合は、ロールの回転数を用いることができる。なお、本実施形態では、加工条件として、これらのうち、少なくとの1つを用いることが可能である。
【0026】
次に、ステップS1005において、処理部1100は、ステップS1001にて読み込んだ被加工材の形状と金型形状を、それぞれ有限要素法の各要素に分割する。
【0027】
次に、ステップS1006において、処理部1100は、加工時間を複数の時間区分、つまり、塑性加工シミュレーションにおける各シミュレーションステップに分割する。
【0028】
次に、ステップS1007において、処理部1100は、ステップS1001~1005で読み込んだ各情報に基づいて、有限要素法によってステップS1006で分割された各シミュレーションステップiにおける状態情報(より具体的に言うとすれば、塑性加工シミュレーションで得た有限要素法における要素の状態情報)を計算する。状態情報として、例えば最大主応力σ_max、ミーゼスの相当応力σ_eff、相当塑性ひずみε、応力成分σを計算する。なお、応力成分σの一例として、σ_xx、σ_yy、σ_zz、σ_xy、σ_yz、σ_xzが含まれる。そして、処理部1100は、これら結果である状態情報を記憶装置もしくはメモリ1200に記憶する。
【0029】
次に、ステップS1008において、処理部1100は、ステップS1006で分割された各シミュレーションステップiにおける破壊値のC(i)を算出する。このために、処理部1100は、各シミュレーションステップiの状態情報を、ステップS1003にて読み込んだ亀裂進展予測モデルに適用して算出を行う。また、処理部1100は、この破壊値C(i)を、有限要素法における要素ごとに算出する。そして、処理部1100は、算出された破壊値のC(i)を、メモリ1200に記録する。以上で、ステップS1の処理を終了する。
<<ステップS2:亀裂発生位置の決定工程>>
ステップS2では、処理部1100は、ステップS1で計算した各破壊値C(i)から、塑性加工シミュレーションの最終シミュレーションステップにおける各要素の破壊値C(n)を特定する。そして、処理部1100は、破壊値C(n)と予め記憶装置に設定された閾値C0を比較する。この結果、閾値C0以上の破壊値C(n)を示す位置を候補位置として特定する。そして、出力部1300が、この候補位置および対応する破壊値C(n)を出力する。処理部1100は、この出力に応じて入力部1400を介して利用者が指定した1以上の候補位置を、亀裂発生位置として決定する。なお、上述のとおり、処理部1100が自動的に亀裂発生位置を決定してもよい。
【0030】
この結果、処理部1100は、決定された亀裂発生位置を、メモリ1200に記録することが望ましい。なお、本実施形態における亀裂発生位置とは、亀裂が発生、つまり、閾値C0以上の破壊値C(n)を示す有限要素法の要素そのもの、要素内の位置もしくは要素間の境界面上の接点を示す。
<<S3:亀裂発生ステップの特定工程>>
ステップS3では、処理部1100は、塑性加工シミュレーションを進め、ステップS2で決定された亀裂発生位置おける破壊値C(i)とステップS1006で分割された各シミュレーションステップiの関係を求める。この結果、処理部1100は、図5に示す破壊値とシミュレーションステップの関係を取得することになる。
【0031】
そして、処理部1100は、亀裂発生位置における破壊値C(i)が初めて閾値C0以上となるシミュレーションステップiを特定する。つまり、処理部1100は、(数1)および(数2)の関係を満たすシミュレーションステップiを特定する。なお、破壊値C(i)は。時間経過、つまり、シミュレーションステップの進捗に応じて、単調増加する性質を有する。
【0032】
【数1】
【0033】
【数2】
【0034】
<<S4:亀裂発生ステップにおける亀裂の法線方向の特定工程>>
次に、ステップS4について、図9も参照しながら説明する。図9は、ステップS4における亀裂発生ステップで特定される法線方向を示す図である。図9のうち、(a)は、被加工材の模式的に立方体で表したもので、各要素(立方体を区切る実線で区切られた領域として図9(a)では示される。以後同様である)で構成される。なお、図9(a)では、紙面正面に露出した要素は5×5の25ある。このうち、断面Aを例に、つまり、(b)を用いて亀裂発生ステップでの法線方向の特定を説明する。
【0035】
まず、ステップS4では、処理部1100は、ステップS2で決定された亀裂発生位置において、破壊値C(i)が初めて閾値C0以上となるシミュレーションステップにおける亀裂法線ベクトルN0を、当該ステップにおける亀裂発生位置に関する状態情報を用いて特定する。本実施形態では、亀裂が最大主応力方向に垂直に発生する場合を例として、亀裂法線ベクトルN0を特定する。なお、亀裂法線ベクトルN0は、亀裂発生法線ベクトルとも称する。
【0036】
図9(b)に示す例では、シミュレーションステップi=10が亀裂発生ステップとする。また、断面Aの中央上部に、ステップS2で決定された亀裂発生位置が存在しているものとする。さらに、亀裂が発生する要因である引っ張り(応力)が、断面Aに掛かっている。このため、亀裂発生位置には、引っ張りに応じた最大主応力が、相反する方向に生じる。なお、図9(b)における座標軸は、図示したとおりである。処理部1100は、この最大応力を含む亀裂に関する状態情報を用いて、図9(b)に示す亀裂発生ステップにおける亀裂法線ベクトルN0が特定される。
【0037】
そして、処理部1100は、亀裂法線ベクトルN0をメモリ1200に記録する。なお、ここでは亀裂が最大主応力方向に垂直に発生することを前提とした例を示しているが、亀裂発生ステップにおける亀裂面の裂発生法線方向、に関して他の決め方があれば、その決め方を用いても良い。このようにして、処理部1100は、亀裂発生ステップにおける亀裂の法線方向を特定できる。
【0038】
そして、処理部1100は、亀裂法線ベクトルN0から、亀裂法線ベクトルN0を規定する亀裂面内ベクトルU0および亀裂面内ベクトルV0を特定できる。ここで、本実施形態では、これら亀裂面内ベクトルU0および亀裂面内ベクトルV0の特定については、ステップS5で実行する。なお、図9(b)では、亀裂面内ベクトルU0は、図面上に垂直に方向である。
【0039】
また、本実施形態では、亀裂面内ベクトルV0は、図示したとおり隣接する他の要素が終点となるベクトルとなる。但し、他の要素に限定されず、始点と同じ要素内としてもよい。
【0040】
なお、図9乃至11の例では説明の簡易化のために、亀裂面内ベクトルU0は、図面上紙面に対して、垂直とした。そして、図10図11では図示を省略する。これら亀裂面内ベクトルU0および亀裂面内ベクトルV0の特定方法は種々想定できるが、その一例はステップS5の詳細説明において記載する。
<<S5:亀裂発生ステップ以降の亀裂の法線方向の計算工程>>
ステップS5では、亀裂発生位置における亀裂発生以降の亀裂の法線方向を求める。まず、処理部1100は、ステップS4にて特定した亀裂法線ベクトルN0に垂直であり、かつ互いに異なる方向の亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0を特定する。このために、この一例を図6に示す。ここで、ベクトルU0とV0の始点は、亀裂発生位置にあるので、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0の始点と終点によって亀裂面を規定することができる。
【0041】
ここで、これら亀裂面内ベクトルU0および亀裂面内ベクトルV0の特定方法を説明する。処理部1100が、(数3)の関係を満足するように亀裂面内ベクトルU0および亀裂面内ベクトルV0決めることで、亀裂法線ベクトルN0に垂直であり、同一方向でない(180度反対方向でないことも含む)ため亀裂面を規定するベクトルとして用いることができる。つまり、亀裂法線ベクトルN0が、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0の外積として規定できる。
【0042】
【数3】
【0043】
また、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0は、以下の(数4)(数5)を満たすことも必要になる。
【0044】
【数4】
【0045】
【数5】
【0046】
ここで、(数4)(数5)には無数の解が存在するが、処理部1100は、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0の決め方についてルールを設けることで、一意的に亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0を示す解を特定することができる。本実施形態では、処理部1100は、以下の(数6)~(数8)で示されるルールを設定する。
【0047】
【数6】
【0048】
【数7】
【0049】
【数8】
【0050】
なお、N0x、N0y、N0zはそれぞれ亀裂法線ベクトルN0のx成分、y成分、z成分であり、U0x、U0y、U0zはそれぞれ亀裂面内ベクトルU0のx成分、y成分、z成分である。ここで、これら(数6)~(数8)により、処理部1100は、亀裂面内ベクトルU0のx成分、y成分とz成分を算出する。
【0051】
そして、処理部1100は、亀裂法線ベクトルN0を回転軸とし、ベクトルU0を繰り返し前記角度θ分回転させることで、亀裂法線ベクトルN0に垂直であり、ベクトルU0と同一方向でないベクトルを得ることになる。このようにして、処理部1100は、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0の候補を得ることができる。なお、角度θは入力条件として設定でき、例えばステップS1003において亀裂進展予測モデルを読み込む際に、入力部1400を介して入力し、メモリ1200に記録することができる。また、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0の決定に際し、(数3)に示す関係を満足していれば、他の例を用いても良い。
【0052】
さらに、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0の終点位置は、亀裂発生ステップから塑性加工シミュレーションの最終ステップまでの各シミュレーションステップにおける亀裂面を規定することになる。このため、これらは被加工材内部の位置を終点として設定する必要がある。そこで、処理部1100は、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0の候補終点について、被加工材内部の点であるかを判定する。そして、処理部1100は、候補終点の内、被加工材内部にある候補位置を2つ選択する。つまり、処理部1100は、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0で1つずつの終点を特定する。
【0053】
さらに、処理部1100は、候補終点の選択を、例えば始点に最も近い候補終点から距離が小さい順に選択することで行ってもよい。
【0054】
亀裂法線ベクトルN0の方向は、は亀裂面内ベクトルU0と面内V0の大きさに依存するため、処理部1100は、予め設定されたこれらを所定の大きさにすることが好ましい。つまり、処理部1100は、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0の大きさdu、dvを入力条件とする。そして、予めメモリ1200に記録された処理部1100は、入力条件du、dvと同じ大きさになるように亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0を計算する。なお、以後の説明では亀裂発生ステップにおける各ベクトル、位置を「初期」を付与して呼ぶことがある。例えば、初期亀裂面内ベクトルU0、V0、初期亀裂法線ベクトルN0、といった呼び方である。
【0055】
次に、処理部1100は、亀裂発生ステップから塑性加工シミュレーションの最終ステップまでの各シミュレーションステップにおける亀裂面内ベクトルU(i)と亀裂面内ベクトルV(i)を特定する。なお、当該特定は、各々のシミュレーションステップにおける、前記初期亀裂面内ベクトルU0、V0の終点の変位後の位置を特定し、前記変位後の位置を終点とする、亀裂面内ベクトルを算出することで行われる。なお、終点位置の変位は、有限要素法による塑性加工シミュレーションでは、各要素の変形・変位を各シミュレーションステップ毎に計算していることを利用して取得する。
【0056】
そして、処理部1100は、これらを用いて各シミュレーションステップの亀裂面の法線ベクトルN(i)を(数9)によって特定し、メモリ1200に記録する。
【0057】
【数9】
【0058】
ここで、亀裂面内ベクトルU(i)と亀裂面内ベクトルV(i)の特定の具体的な一例を、図10および図11を用いて説明する。図10は、ステップS5における亀裂発生ステップの次のシミュレーションステップ(i=11)で特定される法線方向を示す図である。
【0059】
シミュレーションステップ(i=11)では、引っ張りにより、断面Aが変形する。そこで、処理部1100は、この断面Aの変形に応じて、亀裂面内ベクトルU(i=11)と亀裂面内ベクトルV(i=11)を特定する。つまり、断面Aが図9から図10にかけて、図面上上下方向に潰れることになる。このため、処理部1100は、亀裂面内ベクトルV0の終点が、変形分だけ変位した位置を終点とする亀裂面内ベクトルVを特定することになる。なお、処理部1100は、亀裂面内ベクトルU(i=11)の終点については、亀裂面内ベクトルU0が引っ張りの影響を受けない方向であるため、亀裂面内ベクトルU0の終点と同様であると特定する。
【0060】
このように、ステップS5において、処理部1100は、引っ張りなどの亀裂の要因に応じた亀裂面内ベクトルの終点を特定し、これを用いて亀裂面ないし亀裂法線ベクトルN(i)を特定している。なお、この亀裂面ないし亀裂法線ベクトルN(i)の特定はあくまでも一例であり、これに限定されない。
【0061】
そして、処理部1100は、亀裂面内ベクトルV(i=11)と亀裂面内ベクトルU(i=11)を、数9に適用して、亀裂法線ベクトルN(i=11)を特定する。このことで、処理部1100は、亀裂の進展方向を特定することができる。この亀裂法線ベクトルN(i=11)は、図10に示す方向となる。
【0062】
さらに、処理部1100は、(数10)および(数11)を用いて、亀裂の進展量を算出する。
【0063】
【数10】
【0064】
【数11】
【0065】
この結果、処理部1100は、図10のD(i=11)で示される進展量で、亀裂進展方向の先端を示す亀裂進展先に亀裂が進展したと予測できる。
【0066】
なお、(数10)および(数11)は、一例であり、他の数式などの条件を用いてもよい。
【0067】
続いて、以上の処理を、各シミュレーションステップで実行する。図11は、図10の次のシミュレーションステップで特定される法線方向を示す図である。図11において、断面Aは引っ張りにより、図10に示す断面よりもさらに潰れた形状となっている。このため、処理部1100は、この変形に応じて、亀裂面内ベクトルV(i=11)よりも、図上横方向(平行な方向)となる亀裂面内ベクトルV(i=12)を特定する。この結果、処理部1100は、法線ベクトルN(i=11)よりも図上で下向きとなる法線ベクトルN(i=12)を特定することになる。また、処理部1100は、シミュレーションステップi=12における亀裂進展先を、図示すようなi=11から進んだ位置として特定することになる。
【0068】
このように、本実施形態では、ステップS4およびステップS5において、処理部1100が、以下の処理を実行している。
(1)亀裂発生ステップで、状態情報から法線ベクトルN0を特定
(2)この法線ベクトルN0から、亀裂面内ベクトルU0、亀裂面内ベクトルV0を特定
(3)次のシミュレーションステップにおける亀裂面内ベクトルU(i)、亀裂面内ベクトルV(i)を、引っ張り等の要因に応じた変形および変位を考慮して亀裂面内ベクトルU0、亀裂面内ベクトルV0から特定
(4)次に、各シミュレーションステップにおける亀裂面内ベクトルU(i)、亀裂面内ベクトルV(i)から法線ベクトルN(i)を特定
(5)(3)(4)を繰り返し、シミュレーションステップごとに実行することで、各シミュレーションステップの法線ベクトルを、連続的・伝搬的に特定
また、処理部1100は、上述のように、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0の始点と終点を用いて、亀裂発生ステップ以降の塑性加工シミュレーションの最終ステップまでの各シミュレーションステップにおける亀裂法線ベクトルを計算する。そして、処理部1100は、これをメモリ1200に記録する。なお、処理部1100は、各シミュレーションステップで、亀裂面内ベクトルUiと亀裂面内ベクトルViの始点を算出してもよいし、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0の始点を流用してもよい。さらに、本実施例では、亀裂面内ベクトルU0と亀裂面内ベクトルV0の終点を始点と異なる要素内になるように設定したが、同じ要素内としてもよい。
【0069】
また、ステップS4において、処理部1100は、亀裂発生位置の近傍における被加工材の局所的な変形と回転を、例えば連続体力学の変形勾配テンソルや変位勾配テンソルによって特定することもできる。このことで、ステップS5において、処理部1100は、亀裂発生ステップ以降における亀裂の法線方向、つまり、亀裂法線ベクトルN(i)を特定することができる。
【0070】
例えば、シミュレーションステップi=1の被加工材の形状を基準配置に、シミュレーションステップi=2の被加工材の形状を現在配置とした場合の変形勾配テンソルをF、さらに変形勾配テンソルを転置し、かつ逆行列をとったテンソルをF^(-T)とする。このとき、i=2における亀裂法線ベクトルN(i=2)は、i=1における亀裂法線ベクトルN(i=1)にF^(-T)を作用させることによって表現することができる。具体的には、処理部1100は、以下の破壊条件式である(数12)の履歴を用いて、法線ベクトルN(i=2)を特定する。
【0071】
【数12】
【0072】
なお、本実施形態では、時間に関するパラメータとして、シミュレーションステップ(i)で規定したが、時間、時刻(t)を用いてもよい。
<<S6:亀裂進展の評価値の計算工程>>
ステップS6では、処理部1100は、亀裂発生位置において、塑性加工シミュレーションの最終ステップまでの各シミュレーションステップにおける亀裂の法線ベクトルN(i)から単位法線ベクトルを求める。そして、処理部1100は、亀裂発生位置における応力成分σ_xx、σ_yy、σ_zz、σ_xy、σ_yz、σ_xzと単位法線ベクトルから亀裂面に作用する応力ベクトルを計算する。そして、ステップS1003にて読み込んだ亀裂進展の計算式を用いて、亀裂の進展の評価値を計算する。なお、処理部1100は、当該評価値をメモリ1200に記録することが望ましい。そして、処理部1100は、評価値を含む各工程(ステップ)の結果を、シミュレーション結果情報1003として記録することが望ましい。さらに、出力部1300が、シミュレーション結果情報1003を出力することが望ましい。
<検証例>
本実施形態は、リング圧延に対して適用可能である。このうち、熱間リング圧延工程において、亀裂の発生が比較的多いNi基合金について、本実施形態へ適用した例を示す。
【0073】
Ni基合金製の矩形の被加工材1を900℃に加熱した後、図7に示す円柱形状の主ロール2と円柱形状のマンドレル3でリングを圧延するプロセスの塑性加工シミュレーションによって、亀裂の発生を判定した。なお、被加工材1の寸法は、内径:450mm、外径600mm、高さ:500mmである。
【0074】
ここでは、破壊値Cの計算式と、亀裂進展の計算式として、それぞれ以下の(数13)~(数18)を用いた。なお、ここでは閾値C0は1に等しく、破壊値Cが1を超えたら亀裂が発生したと判定される。また、この判定は、本実施例の亀裂進展予測装置100の処理部1100で実行可能である。
【0075】
【数13】
【0076】
【数14】
【0077】
【数15】
【0078】
ここで、Ccは温度依存の固有閾値である。
【0079】
【数16】
【0080】
【数17】
【0081】
【数18】
【0082】
ここで、σ_cは亀裂面に作用する垂直応力成分である。
【0083】
シミュレーションの最終ステップにおいて破壊値Cが閾値C0を超過した点の中からリングの上端面内側角部の点P1を選択し、P1に亀裂進展の評価を行った。図8にP1おける破壊値Cと亀裂進展の評価値の履歴を示す。破壊値が閾値を超過した時刻以降に亀裂進展の評価値が計算でき、有限要素モデルの修正なく容易に亀裂進展の予測ができることが確認できた。
【0084】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態のある構成の一部を別の構成に置き換えることが可能である。本実施形態の構成に、他の構成を加えることも可能である。つまり、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0085】
以上の本発明の一実施形態によれば、亀裂発生時の亀裂法線方向を特定し、当該時刻における亀裂面を規定するベクトルの座標を記録しているため、亀裂発生以降の亀裂面の法線方向が追跡でき、亀裂進展の評価が可能になる。
【符号の説明】
【0086】
1 被加工材、2 主ロール、3 マンドレル、100 亀裂進展予測装置、1100 処理部、1200 メモリ、1210 塑性加工シミュレーションプログラム、1300 出力部、1400 入力部、1001 被加工材特性情報、1002 加工条件情報、1003 シミュレーション結果情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11