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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183857
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】自動分析装置および検体分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/00 20060101AFI20221206BHJP
   G01N 21/59 20060101ALI20221206BHJP
   G01N 21/47 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G01N35/00 E
G01N35/00 A
G01N21/59
G01N21/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091360
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 興子
(72)【発明者】
【氏名】藪谷 千枝
(72)【発明者】
【氏名】足立 作一郎
(72)【発明者】
【氏名】飯島 昌彦
【テーマコード(参考)】
2G058
2G059
【Fターム(参考)】
2G058GA01
2G058GA08
2G058GB10
2G058GD01
2G058GD05
2G058GD06
2G058GE01
2G059AA01
2G059BB13
2G059DD04
2G059EE01
2G059EE02
2G059FF04
2G059MM05
2G059PP01
(57)【要約】
【課題】従来、光散乱検出法において定量範囲を外れた高濃度検体には再検が必要となり、長い計測時間を要していた。
【解決手段】検体と試薬との反応液について、吸光光度計から第1光量値及び散乱光度計から第2光量値を取得し、あらかじめ定めた第1測光ポイントでの第2光量値に基づき、第2光量値に基づく定量分析の可否を判定し、第2光量値に基づく定量分析を否と判定する場合には、反応液に試薬を追加で分注し、追加分注後の測光ポイントでの第1光量値に基づく定量分析を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬との反応液を収容するセルが円周上に配置される反応ディスクと、
前記反応ディスク上のセルに検体を分注する検体分注機構と、
前記反応ディスク上のセルに試薬を分注する試薬分注機構と、
第1の光源から照射され、前記反応ディスク上のセルに収容された反応液を透過した光を測光する吸光光度計と、
第2の光源から照射され、前記反応ディスク上のセルに収容された反応液を散乱した光を測光する散乱光度計と、
前記反応ディスク、前記検体分注機構及び前記試薬分注機構を駆動させる制御回路と、
検体計測プログラムを実行し、前記検体計測プログラムにしたがって前記制御回路を制御するデータ処理部と、を有し、
前記データ処理部は、前記検体分注機構により分注した検体と前記試薬分注機構により分注した試薬との反応液について、前記吸光光度計から第1光量値及び前記散乱光度計から第2光量値を取得し、あらかじめ定めた第1測光ポイントでの前記第2光量値に基づき、前記第2光量値に基づく定量分析の可否を判定し、前記第2光量値に基づく定量分析を否と判定する場合には、前記試薬分注機構により前記反応液に前記試薬を追加で分注し、追加分注後の測光ポイントでの前記第1光量値に基づく定量分析を行う自動分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記データ処理部は、前記第2光量値に基づく定量分析を可と判定する場合には、前記第1測光ポイント前後の測光ポイントでの前記第2光量値に基づく定量分析を行う自動分析装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記データ処理部は前記第1光量値に基づく定量分析のための第1の検量線と前記第2光量値に基づく定量分析のための第2の検量線を保持しており、
前記第1の検量線は、濃度の異なる標準液について、前記検体計測プログラムにおける前記第2光量値に基づく定量分析を否と判断されるときの計測条件にしたがって取得される前記第1光量値に基づいて作成された検量線であり、
前記第2の検量線は、濃度の異なる標準液について、前記検体計測プログラムにおける前記第2光量値に基づく定量分析を可と判断されるときの計測条件にしたがって取得される前記第2光量値に基づいて作成された検量線である自動分析装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記データ処理部は、前記第1測光ポイントでの前記第2光量値があらかじめ設定された閾値光量を上回った場合に、前記第2光量値に基づく定量分析を否と判定する自動分析装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記データ処理部は、前記閾値光量を、標準液について前記検体計測プログラムにおける前記第2光量値に基づく定量分析を可と判断されるときの計測条件にしたがって取得される前記第2光量値に基づいて設定する自動分析装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記吸光光度計において、前記第1の光源と透過光受光器が前記反応ディスク上のセルを挟むように配置され、
前記散乱光度計において、前記第2の光源と散乱光受光器が前記反応ディスク上のセルを挟むように配置され、
前記吸光光度計が前記反応液を透過した光を測光する測光ポイント間の時間間隔、または前記散乱光度計が前記反応液を散乱した光を測光する測光ポイント間の時間間隔は、回転駆動される前記反応ディスクが1回転する時間である自動分析装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記検体計測プログラムにおける測定条件を設定するためのパラメータ設定画面を表示する表示部を有し、
前記パラメータ設定画面は、前記反応液に前記試薬の追加分注を行うかどうか選択する選択部を有する自動分析装置。
【請求項8】
検体と試薬との反応液を収容するセルが円周上に配置される反応ディスクと、前記反応ディスク上のセルに検体を分注する検体分注機構と、前記反応ディスク上のセルに試薬を分注する試薬分注機構と、第1の光源から照射され、前記反応ディスク上のセルに収容された反応液を透過した光を測光する吸光光度計と、第2の光源から照射され、前記反応ディスク上のセルに収容された反応液を散乱した光を測光する散乱光度計と、前記反応ディスク、前記検体分注機構及び前記試薬分注機構を駆動させる制御回路と、検体計測プログラムを実行し、前記検体計測プログラムにしたがって前記制御回路を制御するデータ処理部と、を備える自動分析装置を用いた検体分析方法であって、
前記検体分注機構は、前記反応ディスク上のセルに検体を分注し、
前記試薬分注機構は、前記セルに試薬を分注し、
前記データ処理部は、前記検体と前記試薬との反応液について、少なくとも前記散乱光度計から第2光量値を取得し、
前記データ処理部は、あらかじめ定めた第1測光ポイントでの前記第2光量値に基づき、前記第2光量値に基づく定量分析の可否を判定し、
前記データ処理部が前記第2光量値に基づく定量分析を否と判定する場合には、前記試薬分注機構は、前記セルに前記試薬を追加で分注し、
前記データ処理部は、前記試薬が追加された前記反応液について、少なくとも前記吸光光度計から第1光量値を取得し、追加分注後の測光ポイントでの前記第1光量値に基づく定量分析を行う検体分析方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記データ処理部は、前記第2光量値に基づく定量分析を可と判定する場合には、前記第1測光ポイント前後の測光ポイントでの前記第2光量値に基づく定量分析を行う検体分析方法。
【請求項10】
請求項8において、
前記データ処理部は前記第1光量値に基づく定量分析のための第1の検量線と前記第2光量値に基づく定量分析のための第2の検量線を保持しており、
前記第1の検量線は、濃度の異なる標準液について、前記検体計測プログラムにおける前記第2光量値に基づく定量分析を否と判断されるときの計測条件にしたがって取得される前記第1光量値に基づいて作成された検量線であり、
前記第2の検量線は、濃度の異なる標準液について、前記検体計測プログラムにおける前記第2光量値に基づく定量分析を可と判断されるときの計測条件にしたがって取得される前記第2光量値に基づいて作成された検量線である検体分析方法。
【請求項11】
検体と試薬との反応液を収容するセルが円周上に配置される反応ディスクと、
前記反応ディスク上のセルに検体を分注する検体分注機構と、
前記反応ディスク上のセルに試薬を分注する試薬分注機構と、
第1の光源から照射され、前記反応ディスク上のセルに収容された反応液を透過した光を測光する吸光光度計と、
第2の光源から照射され、前記反応ディスク上のセルに収容された反応液を散乱した光を測光する散乱光度計と、
前記反応ディスク、前記検体分注機構及び前記試薬分注機構を駆動させる制御回路と、
検体計測プログラムを実行し、前記検体計測プログラムにしたがって前記制御回路を制御するデータ処理部と、を有し、
前記データ処理部は、前記検体分注機構により分注した検体と前記試薬分注機構により分注した第1試薬及び第2試薬との第1の反応液について、前記散乱光度計から第2光量値を取得し、あらかじめ定めた第1測光ポイントでの前記第2光量値に基づき、前記第2光量値に基づく定量分析の可否を判定し、前記第2光量値に基づく定量分析を否と判定する場合には、前記検体分注機構により分注した前記検体と前記試薬分注機構により分注した前記第1試薬及び前記第2試薬との第2の反応液について、前記吸光光度計から第1光量値を取得し、前記第1光量値に基づく定量分析を行い、
前記第1の反応液における前記第1試薬と前記第2試薬との液量比は、前記第2の反応液における前記第1試薬と前記第2試薬との液量比と異なる自動分析装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記データ処理部は、前記第2光量値に基づく定量分析を可と判定する場合には、前記第1の反応液についての前記第2光量値に基づく定量分析を行う自動分析装置。
【請求項13】
請求項12において、
前記データ処理部は前記第1光量値に基づく定量分析のための第1の検量線と前記第2光量値に基づく定量分析のための第2の検量線を保持しており、
前記第1の検量線は、濃度の異なる標準液について、前記検体計測プログラムにおける前記第2光量値に基づく定量分析を否と判断されるときの計測条件にしたがって取得される前記第1光量値に基づいて作成された検量線であり、
前記第2の検量線は、濃度の異なる標準液について、前記検体計測プログラムにおける前記第2光量値に基づく定量分析を可と判断されるときの計測条件にしたがって取得される前記第2光量値に基づいて作成された検量線である自動分析装置。
【請求項14】
請求項11において、
前記第1試薬は緩衝液であり、前記第2試薬はラテックス試液であり、
前記第2の反応液におけるラテックス試液の濃度は、前記第1の反応液におけるラテックス試液の濃度よりも高い自動分析装置。
【請求項15】
請求項11において、
前記検体計測プログラムにおける測定条件を設定するためのパラメータ設定画面を表示する表示部を有し、
前記パラメータ設定画面は、前記第2の反応液による前記第1光量値に基づく定量分析を行うかどうか選択する選択部を有する自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検査用の自動分析装置および検体分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査用の自動分析装置では、血液や尿などの生体試料(以下、検体と呼ぶ)に含まれる測定対象成分の濃度を光学的な測定に基づいて検出している。具体的には、まず検体と検査項目に対応する試薬とを混合した反応液に光を照射した際に生じる濁度変化を計測する。次に、計測した濁度変化のうち、一定時間における計測値あるいは計測値の変化量を抽出し、検査項目ごとに予め用意しておいた検量線と比較して検体中の測定対象成分の濃度を定量する。このとき、計測および定量可能な範囲(以降、「定量範囲」と記載する場合がある)を外れた検体は、検体量を変更して再検査(以降、「再検」や「再計測」と記載する場合がある)をしている。例えば、定量範囲を下回った場合は検体量を増やした増量再検を実施し、定量範囲を上回った場合は検体量を減らした減量再検を実施している。
【0003】
測定対象成分の測定方法としては、反応液の透過光量を測定する吸光光度法を用いるものが多い中、近年、吸光光度法よりも高感度に計測可能な光散乱検出法を用いる方法が報告されている。これら2つの検出法は特性に違いがあり、例えば、定量範囲が異なるといった違いがある。そこで、これら2つの光度計の定量範囲の違いを利用し、2種類の光度計を1台の装置に搭載して計測のダイナミックレンジを拡大した自動分析装置が開発されている(特許文献1)。広いダイナミックレンジの実現は、定量範囲を逸脱する検体数を低減することに繋がり、結果的に検体量を変更した再検率の低減に繋がる。
【0004】
また、減量再検や増量再検を実施するものの、定量結果を得るまでの時間を短縮する方法が特許文献2に開示されている。特許文献2では、検体と試薬とを混合した反応液の計測途中の計測値を予め設定された閾値と比較し、閾値を超えた場合に初回計測の結果を待たずに検体量を変更した再検を開始する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-6160号公報
【特許文献2】特開平4-249744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光散乱検出法は高感度な計測に特化しており定量範囲は広くない。このため、測定対象成分の濃度が高いことにより定量範囲を外れた高濃度検体は、従来、検体量を減らした減量再検などを実施する。このため、定量結果を得るまでに初検と再検の2回分の時間を要する。また、高濃度検体の計測に適している吸光光度法との併用により定量範囲を拡大することも可能ではあるものの、各検出法に適した試薬の濃度範囲は異なるため、検出法ごとに試薬が必要とされる。
【0007】
また、近年では、試薬の高感度等により、1回の計測に用いる検体量が少量化されている。この場合、元々少量の検体に対して、さらに検体量を減らした減量再検を行うとすれば、わずかな分注精度のばらつきが検査結果に与える影響も大きくなり、定量結果の精度を低下させるおそれもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施の形態である自動分析装置は、検体と試薬との反応液を収容するセルが円周上に配置される反応ディスクと、反応ディスク上のセルに検体を分注する検体分注機構と、反応ディスク上のセルに試薬を分注する試薬分注機構と、第1の光源から照射され、前記反応ディスク上のセルに収容された反応液を透過した光を測光する吸光光度計と、第2の光源から照射され、反応ディスク上のセルに収容された反応液を散乱した光を測光する散乱光度計と、反応ディスク、検体分注機構及び試薬分注機構を駆動させる制御回路と、検体計測プログラムを実行し、検体計測プログラムにしたがって制御回路を制御するデータ処理部と、を有し、
データ処理部は、検体分注機構により分注した検体と試薬分注機構により分注した試薬との反応液について、吸光光度計から第1光量値及び散乱光度計から第2光量値を取得し、あらかじめ定めた第1測光ポイントでの第2光量値に基づき、第2光量値に基づく定量分析の可否を判定し、第2光量値に基づく定量分析を否と判定する場合には、試薬分注機構により反応液に試薬を追加で分注し、追加分注後の測光ポイントでの第1光量値に基づく定量分析を行う。
【発明の効果】
【0009】
高濃度検体であった場合でも、結果取得までの時間を短縮できる。上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の分析動作のフローの例である。
図2】結果取得までの反応過程と所要時間を従来法と実施例1とで比較した概略図である。
図3】自動分析装置の全体概略構成図である。
図4】実施例1のアプリケーションパラメータの設定画面の一例である。
図5】測光ポイントと光量の関係の一例を示す図である。
図6】散乱光計測用検量線の例である。
図7】吸光計測用検量線の例である。
図8】実施例2の分析動作のフローの例である。
図9】実施例2の結果取得までの反応過程と所要時間の例である。
図10】実施例2のアプリケーションパラメータの設定画面の一例である。
図11】測光ポイントと光量の関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例0012】
実施例1では、光散乱検出法で計測する項目に関して、計測された光量値を予め設定しておいた閾値光量と計測中に比較し、レンジオーバー判定に該当した場合には反応液にラテックス試液を追加することにより吸光光度法で計測を継続する。
【0013】
従来、ラテックス免疫比濁法では、検体と第一試薬(緩衝液)と第二試薬(ラテックス試液)をそれぞれ一回ずつの添加により混合する。添加する順は、例えば、検体、緩衝液、ラテックス試液の順である。ラテックス試液添加後に生じる反応液の濁度変化を光計測し、検体中の測定対象成分の濃度を定量する。このとき、例えば定量範囲の上限を外れた検体は、検体の添加量を減らして再検を実施していた。実施例1では、光散乱検出法を主とする項目において、定量範囲の上限を外れた場合に再検することなく一回の計測により濃度を定量する。
【0014】
図1に実施例1の分析動作のフローの例を示す。まず、検体と緩衝液とラテックス試液をそれぞれ一回ずつ分注した反応液の散乱光計測を開始する(S101)。反応液を構成する検体、緩衝液、ラテックス試液の分注順は、緩衝液が最後に分注されなければよく、例えば、検体、緩衝液、ラテックス試液の順である。計測された光量を予め設定しておいた閾値光量と計測中に比較し、レンジオーバー判定を実施する(S102)。レンジオーバーと判定された場合、反応液にラテックス試液を追加し、検出器を散乱光度計から吸光光度計に切り替えて計測を継続し(S106)、計測終了後(S107)、吸光光度計の計測結果に基づき定量された濃度を出力する(S108)。一方、レンジオーバー判定(S102)において、レンジ内と判定された場合は、検出器を切り替えることなく、かつ、反応液への追加もなく、計測を継続する(S103)。計測終了後(S104)、散乱光度計の計測結果に基づき定量された濃度を出力する(S105)。
【0015】
ステップS106の動作では、吸光光度計だけの計測に切り替えてもよいし、吸光光度計の計測と併せて散乱光度計の計測も継続しておいてもよい。また、計測開始(S101)の時点で、散乱光度計の計測だけでなく吸光光度計の計測も並行して実施しておいてもよい。この場合、ステップS104の動作では散乱光度計の結果を優先出力し、ステップS108の動作では吸光光度計の結果を優先出力すればよい。
【0016】
図2は、結果取得までの反応過程及び所要時間を従来法と実施例1とで比較した概略図である。反応過程の横軸は測光ポイント(経過時間)、縦軸は光量を意味している。反応過程201、203は、測定対象成分の濃度が濃いために、ラテックス試液添加後の計測途中で計測範囲を超えて光量が頭打ちになった反応過程である。このため、従来法1、2ではそれぞれ、反応過程202、204として示される、検体量を減らした再検を実施する。
【0017】
従来法1では、初検(反応過程201)の計測終了後に、検体量を減らした再検(反応過程202)を開始する。この場合、例えば一回あたりの計測時間が10分であるとすると、最終的な定量結果を得るまでに合計20分を要することになる。従来法2では、初検(反応過程203)のラテックス試液添加後の計測途中の光量から測定対象成分の濃度を算出し、予め設定された閾値と比較して閾値を超えた場合に再検(反応過程204)を開始する。この場合、例えば一回あたりの計測時間が10分であり、初検の7分目の時点で再検を開始したとすると、最終的な定量結果を得るまでに合計17分を要する。従来法1と比較すると、定量結果の取得までに3分の短縮を図れることとなる。
【0018】
これに対して、実施例1では、図1に示したように、ラテックス試液を添加した後の計測途中における光量値を予め設定しておいた閾値光量と比較し、レンジオーバー判定に該当した場合に反応液にラテックス試液を追加し、検出器を散乱光度計から吸光光度計に切り替えて計測を継続して濃度を定量する。反応過程205は実施例1の反応過程の例であり、レンジオーバーと判定され、検出器を切り替えて計測が継続される場合の反応過程の例である。2回目のラテックス試液の添加までの反応過程が散乱光時計で計測されたデータ(●)であり、2回目のラテックス試液の添加後の反応過程が吸光光度計で計測されたデータ(▲)である。2回目のラテックス試液の追加により吸光光度法に適した試薬濃度にし、散乱光度計の計測よりも定量範囲が広い吸光光度計での計測に切り替えることで、再検することなく一度の計測時間で濃度を定量することが可能となる。このように、実施例1では、従来法と比べて定量結果の取得までの時間を大きく短縮できる。
【0019】
(自動分析装置)
自動分析装置100の全体概略構成を図3に示し、基本的な装置動作について説明する。なお、例示であり、以下の例に限定されるものではない。
【0020】
自動分析装置100は、検体ディスク103、試薬ディスク106、反応ディスク109の3種類のディスクと、これらのディスク間で検体や試薬を移動させる検体分注機構110、試薬分注機構111と、3種類のディスクや分注機構を駆動させる駆動部117と、駆動部を制御する制御回路118と、反応液の吸光度を計測する吸光度計測回路119と、反応液からの散乱光を計測する散乱光計測回路120と、各計測回路で計測されたデータを処理するデータ処理部121と、データ処理部121とのインターフェースである操作部122と、情報を印刷して出力するプリンター123と、ネットワーク等と接続する通信インターフェース124とを有して概略構成される。
【0021】
検体ディスク103の円周上には、検体101の収容容器であるサンプルカップ102が複数配置される。検体101は血液、尿、髄液、標準液などである。試薬ディスク106の円周上には、試薬104の収容容器である試薬ボトル105が複数配置される。試薬には第一試薬(緩衝液)と第二試薬(ラテックス試液)を含む。反応ディスク109の円周上には、検体101と試薬104を混合させた反応液107の収容容器であるセル108が複数配置される。各ディスクは駆動部117に含まれるモーターによって回転させられ、このモーターは制御回路118で制御される。
【0022】
検体分注機構110は、時計回り及び反時計回りに回転する検体ディスク103上に配置されたサンプルカップ102からセル108に検体101を一定量移動させる際に使用する機構である。検体分注機構110は、例えば検体101を吐出または吸引するノズルと、ノズルを所定の位置に移動させるロボットと、検体101をノズルから吐出またはノズルに吸引するポンプで構成される。このロボットやポンプは、駆動部117に相当する。
【0023】
試薬分注機構111は、時計回り及び反時計回りに回転する試薬ディスク106上に配置された試薬ボトル105からセル108に試薬104を一定量移動させる際に使用する機構である。試薬分注機構111は、例えば試薬104を吐出または吸引するノズルと、ノズルを所定の位置に移動させるロボットと、試薬104をノズルから吐出またはノズルに吸引するポンプで構成される。このロボットやポンプは、駆動部117に相当する。
【0024】
セル108は、反応ディスク109において、温度及び流量が制御された恒温槽内の恒温流体112に浸漬されている。このため、セル108及びその中の反応液107は、反応ディスク109の回転に伴う移動中も、その温度は一定温度に保たれる。本実施例の場合、恒温流体112として水を使用し、その温度は制御回路118により37±0.1℃に温度調整される。勿論、恒温流体112として使用する媒体や温度は一例である。
【0025】
攪拌機構113は、セル108内で、検体101と試薬104とを攪拌して混合させる機構である。攪拌機構113は、例えば検体101と試薬104との混合液を攪拌する攪拌棒と、攪拌棒を所定の位置に移動させるロボットと、攪拌棒を回転させるモーターで構成される。このロボットやモーターは、駆動部117に相当する。
【0026】
洗浄機構114は、分析処理が終了したセル108から反応液107を吸引し、空になったセル108を洗浄する機構である。洗浄機構114は、例えば、分析終了後の反応液107を吸引するノズルと、反応液107が吸引された後のセル108に洗浄水を吐出するノズルと、洗浄水を吸引するノズルと、ノズルを動かす機構で構成される。この機構は駆動部117に含まれる。洗浄終了後のセル108には、再び、検体分注機構110から次の検体101が分注され、試薬分注機構111から新しい試薬104が分注され、新たな分析処理に使用される。
【0027】
反応ディスク109の円周上の一部には、吸光度計測部115と散乱光計測部116が配置される。
【0028】
吸光度計測部115は、光源と透過光受光器を有し、光源と透過光受光器とは反応ディスク109上のセル108を挟むように配置されている。例えば、光源がハロゲンランプであり、光源から射出された光をセル108に照射し、セル108に収容された反応液107を透過した光を回折格子で分光し、フォトダイオードアレイで受光する構造である。フォトダイオードアレイで受光する波長は、340nm,405nm,450nm,480nm,505nm,546nm,570nm,600nm,660nm,700nm,750nm,800nmである。これら受光器による受光信号は、吸光度計測回路119を通じ、データ処理部121の記憶部121aに送信される。ここで、吸光度計測回路119は、一定時間毎に各波長域の受光信号を取得し、取得された光量値をデータ処理部121に出力する。吸光度計測部115と吸光度計測回路119を吸光光度計と総称する。
【0029】
散乱光計測部116は、光源と透過光受光器と散乱光受光器とを有し、光源と透過光受光器及び散乱光受光器とは反応ディスク109上のセル108を挟むように配置されている。例えば、光源がLEDであり、光源から射出された光をセル108に照射し、セル108に収容された反応液107を透過した光は透過光受光器で、反応液107で散乱した光は散乱光受光器で受光される。照射光の波長には、例えば700nmを使用する。散乱光計測では、検体に含まれる夾雑物(乳ビ、溶血、黄疸)の影響をより受けにくく、可視光である600nm~800nmの波長の照射光を使用するのが好ましい。光源は、LED以外に、レーザ光源、キセノンランプ、ハロゲンランプ等を用いてもよい。受光器には例えばフォトダイオードが使用される。透過光及び散乱光受光器による受光信号は、散乱光計測回路120を通じ、データ処理部121の記憶部121aに送信される。散乱光計測回路120も、一定時間毎に受光信号を取得し、取得された光量値をデータ処理部121に出力する。散乱光受光器は、例えば、反応ディスク109の回転によるセル108の移動方向に対して概ね垂直となる面内に配置される。このとき、受光器としてラインセンサを使用し、複数角度の散乱光を一度に受光する構成であってもよい。ラインセンサを用いることにより、受光角度の選択肢を広げることができる。また、受光器を直接配置するのではなく、ファイバやレンズなどの光学系を配置し、別位置に配置された散乱光受光器に光を導くようにしてもよい。散乱光計測部116と散乱光計測回路120を散乱光度計と総称する。
【0030】
反応ディスク109は1サイクルで回転駆動される回転量は一定量とされている。吸光光度計、散乱光度計はそれぞれ、吸光度計測部115、散乱光計測部116を通過するセル108について計測を行うため、吸光光度計がセル108内の反応液107を測光する測光ポイント間の時間間隔、散乱光度計がセル108内の反応液を測光する測光ポイント間の時間間隔は、反応ディスク109が1回転する時間となり、一定時間となる。
【0031】
データ処理部121は、記憶部121aと解析部121bを備えている。記憶部121aには制御プログラム、計測プログラム、データ解析プログラム、検量線データ、計測データ、解析結果等が格納される。計測プログラムは、例えば、検量線生成用データの計測プログラムや検体計測プログラムである。検体計測プログラムには、図1に示したような計測途中の光量を閾値光量と比較して次の動作を決定するプログラムが含まれる。操作部122あるいは通信インターフェース124を介して分析の依頼がデータ処理部121に入力されると、該当する計測プログラムが実行され、制御プログラムが働く。制御プログラムは制御回路を動かし、制御回路が駆動部を動かすことで、各機構に働きかけ分析が実施される。吸光度計測回路119及び散乱光計測回路120を介してデータ処理部121に出力された計測データは、記憶部121aに格納され、データ解析プログラムと一緒に解析部121bに読み出される。データ解析プログラムは、例えば、検量線生成プログラム、検量線を用いて検体濃度を定量するプログラム、検量線や検体計測結果に対してエラーを判断するプログラムなどである。データ解析プログラムに従って解析された解析結果などは、記憶部121aに戻されて保持される。記憶部121aに格納された解析結果やエラー情報は操作部122の表示部122aに表示され、必要であればプリンター123で印刷出力される。データ処理部121は、例えば、CPU等のプロセッサにより実現される。
【0032】
操作部122は、表示部122aと、入力部としてのキーボード122bとマウス122cを備える。入力は、キーボード122bによる他に、表示部122aの画面をタッチして入力してもよいし、表示部122aの画面に表示されているものをマウス122cで選択することで入力してもよい。
【0033】
通信インターフェース124は、例えば、病院内のネットワークと接続され、HIS(Hospital Information System)やLIS(Laboratory Information System)と通信される。
【0034】
(分析動作)
はじめに、分析に必要なパラメータを設定する。図4に実施例1のアプリケーションパラメータの設定画面の一例を示す。まず、分析項目設定画面501から、定量したい項目、検体量、分析依頼方法、分析中R3追加の実施有無、出力単位を入力する。本実施例では、光散乱分析を主とする項目を対象としているため、「分析依頼方法」に「光散乱分析」を選択した例を示している。「分析中R3追加の実施」では、試薬R3追加実施の有無を選択することにより、実施例1による計測か、従来法による計測かを選択できる。ここでは、「分析中R3追加の実施」を「する」と選択した例を示している。
【0035】
次に、散乱光度計と吸光光度計での計測に必要なパラメータを入力する。散乱光度計の計測におけるパラメータ画面502には、分析法、演算に使用する測光ポイント、試薬分注量、受光角度、定量範囲に加え、チェック実施測光ポイントと閾値光量が含まれている。チェック実施測光ポイントと閾値光量は、図4のようにアプリケーションパラメータの設定画面に表示されて、ユーザーにより設定可能なパラメータとして扱われてもよいし、設定画面に表示されることなく、項目ごとに規定値が計測プログラムなどに格納されていてもよい。吸光光度計の計測におけるパラメータ画面503には、分析法、演算に使用する測光ポイント、波長、R3の分注量、定量範囲が含まれている。
【0036】
ここでは、試薬をR1、R2、R3と表現し、数字が小さい順に分注されるものとする。R1が緩衝液、R2とR3がラテックス試液の分注を示す。吸光光度計の計測パラメータにおけるR1とR2の数値は、散乱光度計の計測パラメータにおけるR1とR2の数値と同じになる。実施例1の計測法では、光散乱分析として計測中に分注された試薬がそのまま使用されるためである(図2に示す反応過程205を参照)。
【0037】
分析法としては、例えば、1ポイント分析法、2ポイントレート分析法、2ポイントエンド分析法などがある。図4では、2ポイントエンド分析法を選択した例を示した。2ポイントエンド分析法では2点の測光ポイント間の変化光量が濃度の定量に使用される。2点の測光ポイントは、図4に示す測光ポイントの入力欄にて指定される。定量範囲の数値は測定対象成分の濃度値であり、定量範囲の下限値と上限値を示すものである。
【0038】
散乱光度計の計測におけるパラメータのうち、チェック実施測光ポイントと閾値光量は、図1のレンジオーバー判定(S102)で使用される情報である。チェック実施測光ポイントと閾値光量は、ユーザーによって設定されてもよいし、標準液の計測値を用いて装置内で自動計算されてもよいし、試薬メーカから提供されてもよい。また、散乱光計測における最高濃度の標準液の計測値(光量)をそのまま閾値光量としてもよい。ユーザーによる設定の場合は、アプリケーションパラメータの設定画面に入力欄を設けておくとよい。それ以外の場合は、アプリケーションパラメータの設定画面に入力欄を必ずしも表示する必要はない。チェック実施測光ポイントは、R2分注後のポイント以上、R3分注前のポイント以下となる。
【0039】
ここで、R3分注まで実施したときの測光ポイントと光量の関係の一例を図5に示す。図5は、測光ポイント5と6の間でR2を分注し、測光ポイント16と17の間でR3を分注した例である。R3分注までの光量は散乱光時計で計測された散乱光強度(●)であり、R3分注後の光量は吸光光度計で計測された吸光度(▲)を意味する。図5の例の場合、「チェック実施測光ポイント」は測光ポイント6~16の間に設定されることとなる。
【0040】
分析に必要なパラメータを設定した後は、校正(キャリブレーション)を実施する。キャリブレーションでは、検体濃度が既知である標準液を計測し、測定対象成分の濃度と光量の関係を示す検量線を取得する。本実施例の場合、検量線は2つ用意する。1つは、検体とR1とR2を混合した反応液を散乱光度計で計測した場合の検量線であり、光散乱検出法により計測が終了した場合に使用する(図1のステップS105)。この検量線を散乱光計測用検量線とし、図6に一例を示す。もう1つは、検体とR1とR2とR3を混合した反応液を吸光光度計で計測した場合の検量線であり、光散乱検出法から吸光光度法に切り替えて計測が終了した場合に使用する(図1のステップS108)。この検量線を吸光計測用検量線とし、図7に一例を示す。
【0041】
図6図7の横軸は測定対象成分の濃度であり、縦軸はアプリケーションパラメータでそれぞれ設定した分析法と測光ポイントに従って算出した光量である。例えば、図4のアプリケーションパラメータに従う場合、散乱光度計の分析法は2ポイントエンド分析法、測光ポイントは7と22であることから、散乱光度計の計測では測光ポイント7と22の光変化量(散乱光強度変化量)となる。吸光光度計の分析法は2ポイントエンド分析法、測光ポイントは19と34であることから、吸光光度計の計測では測光ポイント19と34の光変化量(吸光度変化量)となる。散乱光計測用検量線(図6)では例えば、濃度が500 ng/mL以下の範囲の検量線を有効範囲とし、吸光計測用検量線(図7)では例えば、濃度が400から1000 ng/mLの範囲の検量線を有効範囲とする。有効範囲が重複する濃度領域(本例では400から500 ng/mLの範囲)が存在するものの、どちらの検量線を使用するかは図1のフローチャートに従い、使用した光度計に由来する検量線を用いるものとする。
【0042】
キャリブレーション後、未知濃度の検体を計測する。計測時の動作フローは図1のとおりである。具体的には、例えば、未知濃度の検体と緩衝液(R1)とラテックス試液(R2)をセル108に分注して散乱光計測を開始する(S101)。このときの検体、R1、R2の分注量は、アプリケーションパラメータのうち、散乱光度計のパラメータとして設定された量である。「チェック実施測光ポイント」の光量が取得された時点で、チェック実施測光ポイントの光量を「閾値光量」と計測中に比較して、レンジオーバー判定を実施する(S102)。チェック実施測光ポイントと閾値光量は、規定値またはアプリケーションパラメータの設定画面から設定された値が計測プログラムなどに格納されている。レンジ内と判定された場合は、散乱光計測を継続する(S103)。計測終了後(S104)、取得された反応過程から、アプリケーションパラメータのうち散乱光度計のパラメータとして設定した「分析法」と「測光ポイント」に従って光量を算出する。この光量を散乱光計測用検量線の光量と比較して濃度を定量し、出力する(S105)。例えば、図4の散乱光度計のアプリケーションパラメータに従う場合、分析法は2ポイントエンド分析法、測光ポイントは7と22であることから、これらの測光ポイント間の散乱光変化量を算出し、散乱光計測用検量線(図6)の散乱光変化量と比較して濃度を定量する。
【0043】
これに対して、レンジオーバー判定(S102)においてレンジオーバーと判定された場合は、ラテックス試液を追加(R3分注)して検出器を散乱光度計から吸光光度計に切り替えて計測を継続する(S106)。このときのR3の分注量は、アプリケーションパラメータのうち、吸光光度計のパラメータとして設定された量である。計測終了後(S107)、取得された反応過程から、アプリケーションパラメータのうち吸光光度計のパラメータとして設定した「分析法」と「測光ポイント」に従って光量を算出する。この光量を吸光計測用検量線(図7)の光量と比較して濃度を定量し、出力する(S108)。
【0044】
実施例1では、計測途中の光量を予め設定した閾値光量と比較してレンジオーバー判定を実施する例を示したが、光量を用いた判定以外でもよい。例えば、任意の測光ポイントにおける光量から一定時間経過後の光量を推定し、推定光量を別途設定した閾値光量と比較してもよい。また、任意の測光ポイントにおける光量あるいは一定時間経過後の推定光量から検体濃度を推定し、別途設定した閾値濃度と比較してもよい。また、R2添加後の任意の測光ポイント間の反応過程の傾きを、別途設定した閾値傾きと比較してレンジオーバー判定してもよい。
【実施例0045】
実施例2では、光散乱検出法で計測する項目に関して、計測された光量値を予め設定しておいた閾値光量と計測中に比較し、レンジオーバー判定に該当した場合には吸光光度法に適した試薬濃度になるように試薬の液量比を変更し、初検の計測が終了する前に吸光光度法で再計測を開始する。
【0046】
図8に実施例2の分析動作のフローの例を示す。まず、検体と緩衝液とラテックス試液をそれぞれ一回ずつ分注した反応液の散乱光計測を開始する(S301)。反応液を構成する検体、緩衝液、ラテックス試液の分注順は、緩衝液が最後に分注されなければよく、例えば、検体、緩衝液、ラテックス試液の順である。計測された光量を予め設定しておいた閾値光量と計測中に比較し、レンジオーバー判定を実施する(S302)。レンジオーバーと判定された場合、緩衝液とラテックス試液の液量比を変更し、初検の計測が終了する前に吸光光度法に適した試薬濃度で吸光計測を開始する(S306)。計測終了後(S307)、吸光光度計の計測結果に基づき定量された濃度を出力する(S308)。一方、レンジオーバー判定(S302)において、レンジ内と判定された場合は、散乱光度計の計測を継続する(S303)。計測終了後(S304)、散乱光度計の計測結果に基づき定量された濃度を出力する(S305)。
【0047】
計測開始(S301)の時点における緩衝液とラテックス試液の分注タイミングは、実施例1で説明したR1、R2、R3の分注タイミングのうち、緩衝液がR1、ラテックス試液がR2のタイミングとする場合、緩衝液がR1、ラテックス試液がR3のタイミングとする場合の2通りが考えられる。
【0048】
図9は、実施例2の結果取得までの反応過程及び所要時間の概略図である。反応過程の横軸は測光ポイント(経過時間)、縦軸は光量を意味している。反応過程401は、測定対象成分の濃度が濃いために、ラテックス試液添加後の計測途中で計測範囲を超えて光量が頭打ちになった散乱光計測の反応過程である。反応過程402は、検体量は初検と同じで、緩衝液とラテックス試液の液量比を初検から変更し、吸光光度法に適した試薬濃度で吸光計測を行う例を示している。この場合、例えば一回あたりの計測時間が10分であり、初検の7分目の時点で再検を開始したとすると、最終的な定量結果を得るまでに合計17分を要する。定量結果を得るまでの時間は、実施例1の従来法2(図2を参照)と同等であるが、実施例2の手法の場合、試薬濃度を変更して定量範囲に応じた検出器を使用するため、検体量の変更だけによる再検よりも定量範囲を拡張できる可能性が高い。
【0049】
実施例2を実現する自動分析装置の構成は実施例1(図3)と同様であるため、ここでは説明の重複を避ける。
【0050】
(分析動作)
はじめに、分析に必要なパラメータを設定する。図10に実施例2のアプリケーションパラメータの設定画面の一例を示す。まず、分析項目設定画面601から、定量したい項目、分析依頼方法、再検時光度計変更の可否、計測途中の再検の実施の有無、出力単位を入力する。本実施例では、光散乱分析を主とする項目を対象としているため、「分析依頼方法」に「光散乱分析」を選択した例を示している。「再検時光度計変更」の可否と「計測途中再検の実施」の有無を選択することにより、実施例2による計測か、従来法による計測かを選択できる。図10では、「再検時光度計変更」を「可」、「計測途中再検の実施」を「有」と選択した例(実施例2による計測を選択)である。
【0051】
次に、散乱光度計と吸光光度計での計測に必要なパラメータを入力する。散乱光度計の計測におけるパラメータ画面602には、分析法、演算に使用する測光ポイント、検体量、試薬分注量、受光角度、定量範囲に加え、チェック実施測光ポイントと閾値光量が含まれている。チェック実施測光ポイントと閾値光量は、図10のようにアプリケーションパラメータの設定画面に表示されて、ユーザーにより設定可能なパラメータとして扱われてもよいし、設定画面に表示されることなく、項目ごとに規定値が計測プログラムなどに格納されていてもよい。吸光光度計の計測におけるパラメータ画面603には、分析法、演算に使用する測光ポイント、波長、検体量、試薬分注量、定量範囲が含まれている。
【0052】
ここでは、試薬をR1、R2、R3と表現し、数字が小さい順に分注されるものとする。R1が緩衝液、R2とR3がラテックス試液の分注を示す。ここでは、緩衝液をR1のタイミングで、ラテックス試液をR3のタイミングで分注する例を示している。R2がゼロであるのは、R2の分注タイミングでは何も分注されないことを意味している。R3をゼロとしてR2にラテックス試液の分注量を設定もありうる。
【0053】
吸光光度計の計測パラメータにおけるR1とR2あるいはR3の数値は、散乱光度計の数値と異なる。吸光光度計と散乱光度計とでは反応液中のラテックス試液の好適な濃度が異なり、吸光光度計では濃い方が望ましい。このため、吸光光度計の計測パラメータにおけるR1(緩衝液)の量は散乱光度計の計測パラメータのR1よりも小さくし、吸光光度計の計測パラメータにおけるR2あるいはR3(ラテックス試液)の量は散乱光度計の計測パラメータのR2あるいはR3よりも大きくすることが望ましい。また、このとき、R1とR2あるいはR3の合計量は、各光度計間で等しくなるように設定することが望ましいが、各光度計で合計量が異なった場合でも各光度計でキャリブレーションを実施するため問題ではない。検体量は、各光度計で同じ量であってもよいし、異なってもよい。検体量が異なる場合もまた、各光度計で計測条件に応じたキャリブレーションを実施するため問題ではない。
【0054】
分析法、測光ポイント、定量範囲の説明は実施例1と同じであるため、ここでは説明の重複を避ける。
【0055】
散乱光度計の計測におけるパラメータのうち、チェック実施測光ポイントと閾値光量は、図8のレンジオーバー判定(S302)で使用される情報である。チェック実施測光ポイントと閾値光量は、ユーザーによって設定されてもよいし、標準液の計測値を用いて装置内で自動計算されてもよいし、試薬メーカから提供されてもよい。また、散乱光計測における最高濃度の標準液の計測値(光量)をそのまま閾値光量としてもよい。ユーザーによる設定の場合は、アプリケーションパラメータの設定画面に入力欄を設けておくとよい。それ以外の場合は、アプリケーションパラメータの設定画面に入力欄を必ずしも表示する必要はない。チェック実施測光ポイントは、R2あるいはR3分注後のポイント以上となる。
【0056】
ここで、散乱光計測においてR1とR3の分注が実施されたときの測光ポイントと光量(散乱光強度)の関係の一例を図11に示す。図11は、測光ポイント16と17の間でR3を分注した例である。この場合、「チェック実施測光ポイント」は17以上かつ計測終了測光ポイント(図11では34)以下の数値で設定されることとなる。この例の場合、チェック実施測光ポイントが17に近い数値であるほど、レンジオーバー判定を早く実施することができ、再検スタートのタイミングが早くなる。
【0057】
分析に必要なパラメータを設定した後は、キャリブレーションを実施する。キャリブレーションでは、検体濃度が既知である標準液を計測し、測定対象成分の濃度と光量の関係を示す検量線を取得する。実施例2でも検量線は2つ用意する。1つは、散乱光度計で計測した場合の散乱光計測検量線であり、もう1つは吸光光度計で計測した場合の吸光計測用検量線である。検量線の縦軸の光量は、アプリケーションパラメータで設定した分析法と測光ポイントに従って算出された光量である。各光度計に設定されたアプリケーションパラメータに従って散乱光度計の計測と吸光光度計の計測を独立で実施することによって取得できる。
【0058】
キャリブレーション後、未知濃度の検体を計測する。計測時の動作フローは図8のとおりである。具体的には、例えば、未知濃度の検体と緩衝液(R1)とラテックス試液(R3)をセル108に分注して散乱光計測を開始する(S301)。このときの検体、R1、R3の分注量は、アプリケーションパラメータのうち、散乱光度計のパラメータとして設定された量である。「チェック実施測光ポイント」の光量が取得された時点で、チェック実施測光ポイントの光量を「閾値光量」と計測中に比較して、レンジオーバー判定を実施する(S302)。チェック実施測光ポイントと閾値光量は、規定値またはアプリケーションパラメータの設定画面から設定された値が計測プログラムなどに格納されている。レンジ内と判定された場合は、散乱光計測を継続する(S303)。計測終了後(S304)、取得された反応過程から、アプリケーションパラメータのうち散乱光度計のパラメータとして設定した「分析法」と「測光ポイント」に従って光量を算出する。この光量を散乱光計測用検量線の光量と比較して濃度を定量し、出力する(S305)。例えば、図10の散乱光度計のアプリケーションパラメータに従う場合、分析法は2ポイントエンド分析法、測光ポイントは20と32であることから、これらの測光ポイント間の散乱光変化量を算出し、散乱光計測用検量線の散乱光変化量と比較して濃度を定量する。
【0059】
これに対して、レンジオーバー判定(S302)においてレンジオーバーと判定された場合は、新たに未知濃度の検体と緩衝液(R1)とラテックス試液(R3)を新たなセル108に分注して吸光光度計で再計測を開始する(S306)。このときの検体、R1、R3の分注量は、アプリケーションパラメータのうち、吸光光度計のパラメータとして設定された量である。この計測は、散乱光計測が終了する前に開始される。計測終了後(S307)、取得された反応過程から、アプリケーションパラメータのうち吸光光度計のパラメータとして設定した「分析法」と「測光ポイント」に従って光量を算出する。この光量を吸光計測用検量線の光量と比較して濃度を定量し、出力する(S308)。
【0060】
本実施例では、初検が終了する前に、吸光光度法に適した試薬濃度で吸光計測を開始する点が特徴であり、定量結果を得るまでの時間短縮の他、定量範囲に応じた検出器の使用による定量範囲の拡張が効果となる。
【0061】
実施例2では、計測途中の光量を予め設定した閾値光量と比較してレンジオーバー判定を実施する例を示したが、光量を用いた判定以外でもよい。例えば、任意の測光ポイントにおける光量から一定時間経過後の光量を推定し、推定光量を別途設定した閾値光量と比較してもよい。また、任意の測光ポイントにおける光量あるいは一定時間経過後の推定光量から検体濃度を推定し、別途設定した閾値濃度と比較してもよい。また、R2あるいはR3添加後の任意の測光ポイント間の反応過程の傾きを、別途設定した閾値傾きと比較してレンジオーバー判定してもよい。
【0062】
本発明は、以上説明した実施例1、2に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。本実施例ではラテックス免疫比濁項目を例にして、抗体または抗原が感作されたラテックス試液と測定対象成分(抗原または抗体)を含む標準液や検体を混合し、抗原抗体反応によって生じるラテックス凝集反応を、散乱光度計あるいは吸光光度計によって計測する場合を説明したが、ラテックス免疫比濁項目に限定されるものではない。例えば、抗体または抗原を感作した不溶性担体(シリカ粒子、磁性粒子、金属コロイド等)と測定対象成分(抗原または抗体)を含む標準液や検体を混合し、抗原抗体反応によって生じる粒子の凝集反応を散乱光度計あるいは吸光光度計で計測する系でもよい。また、定量する測定対象成分は濃度ではなく活性値である場合もある。
【0063】
上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、同一の構成または他の構成を追加・削除・置換することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
100:自動分析装置、101:検体、102:サンプルカップ、103:検体ディスク、104:試薬、105:試薬ボトル、106:試薬ディスク、107:反応液、108:セル、109:反応ディスク、110:検体分注機構、111:試薬分注機構、112:恒温流体、113:攪拌機構、114:洗浄機構、115:吸光度計測部、116:散乱光計測部、117:駆動部、118:制御回路、119:吸光度計測回路、120:散乱光計測回路、121:データ処理部、121a:記憶部、121b:解析部、122:操作部、122a:表示部、122b:キーボード、122c:マウス、123:プリンター、124:通信インターフェース、201,202,203,204,205,401,402:反応過程、501,601:分析項目設定画面、502,503,602,603:パラメータ画面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11