(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183986
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】燃料電池部材被覆用組成物、燃料電池用セパレータの製造方法、燃料電池用セパレータおよび燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20221206BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20221206BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20221206BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20221206BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20221206BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20221206BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221206BHJP
【FI】
H01M8/0228
C08K3/01
C08L27/18
H01M8/0206
H01M8/0213
H01M8/0221
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091559
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
(72)【発明者】
【氏名】栗原 舞
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
【テーマコード(参考)】
4J002
5H126
【Fターム(参考)】
4J002BD151
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA036
4J002DA076
4J002DA086
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE136
4J002FD116
4J002GQ02
4J002HA08
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD04
5H126DD05
5H126DD14
5H126GG02
5H126GG05
5H126GG19
5H126HH01
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】導電性が高く、基材との密着性に優れ、かつ表面が平滑な外観に優れた組成物、該組成物を用いた燃料電池用セパレータと燃料電池の提供。
【解決手段】
カルボニル基含有基または水酸基含有基を有する熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子および導電性フィラーを含み、前記粒子と前記導電性フィラーの合計質量を100質量%として、前記粒子の含有量が10質量%以上40質量%未満、前記導電性フィラーの含有量が60質量%超90質量%以下である燃料電池部材被覆用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボニル基含有基または水酸基含有基を有する熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子および導電性フィラーを含み、前記粒子と前記導電性フィラーの合計質量を100質量%として、前記粒子の含有量が10質量%以上40質量%未満、前記導電性フィラーの含有量が60質量%超90質量%以下である燃料電池部材被覆用組成物。
【請求項2】
前記粒子の含有量が20質量%以上35質量%以下、前記導電性フィラーの含有量が65質量%以上80質量%以下である請求項1に記載の燃料電池部材被覆用組成物。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、主鎖炭素数1×106個あたり、10個以上5000個以下のカルボニル基含有基または水酸基含有基を有するポリマーである請求項1または2に記載の燃料電池部材被覆用組成物。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度が200℃以上320℃以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池部材被覆用組成物。
【請求項5】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのフッ素含有量が70から76質量%である請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池部材被覆用組成物。
【請求項6】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーがエチレンに基づく単位、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の単位とテトラフルオロエチレンに基づく単位とを含む共重合体である請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池部材被覆用組成物。
【請求項7】
液状化合物を含む請求項1から6のいずれか1項に記載の燃料電池部材被覆組成物。
【請求項8】
前記液状化合物が水である請求項7に記載の燃料電池部材被覆用組成物。
【請求項9】
前記粒子と前記導電性フィラーの合計量を95質量%以上100%以下含む請求項1から6のいずれか1項に記載の燃料電池部材被覆用組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の組成物を燃料電池用基板に接触させ、溶融焼成して被覆層を形成する燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項11】
燃料電池用基板の材質が金属または炭素のいずれかである請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
ガス流通用の溝部を有し、カルボニル基含有基または水酸基含有基を有する熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーを10質量%以上40質量%未満、および導電性フィラーを60質量%超90質量%以下含有する被覆層を表面に有する燃料電池用セパレータ。
【請求項13】
前記被覆層中の、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が20質量%以上35質量%以下、前記導電性フィラーの含有量が65質量%以上80質量%以下である請求項12に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項14】
前記被覆層中の、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーと前記導電性フィラーの合計量が95質量%以上100%以下である請求項12または13に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項15】
アノード、カソード、両電極間に配置された固体高分子電解質、および前記両極の外側にガス流通用の溝部を有し、カルボニル基含有基または水酸基含有基を有する熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が10質量%以上40質量%未満であり導電性フィラーの含有量が60質量%超90質量%以下である被覆層を表面に有するセパレータを含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池部材被覆用組成物、燃料電池用セパレータの製造方法および燃料電池用セパレータに関する。さらに本発明は燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは、低誘電率および低誘電正接といった電気特性に優れていることから、近年ではプリント配線基板をはじめ、各種の電気、電子用途に広く用いられている。これら用途に用いる場合、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む分散液として、金属やフィルム等の各種基板に塗付する方法が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
これら用途の一つとして燃料電池部材であるセパレータや集電体が挙げられる。特許文献2にはポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンをバインダー樹脂としてセパレータのコート層に用いることが記載されている。
特許文献3には電気的導電性粒子と特定のフルオロポリマー粒子を含む組成物が記載されている。該組成物は燃料電池、電界セル等の電気化学的装置の部品の用途に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2016/159102号
【特許文献2】特開2018-73603号公報
【特許文献3】特表2018-537557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池部材に用いる材料としては、電気伝導性だけでなく、撥水性等の撥液性,基材との密着性,耐腐食性、成形品とした時の外観平滑性や加工性等の様々な特性が重要となる。
特許文献2に記載の組成物において、ポリテトラフルオロエチレンを使用した場合、撥水性、撥液性および耐腐食性は優れるが、電気伝導性と基材との密着性に関しては未だ改良の余地がある。また、分散液とした時の分散液の物性の調整が困難であったり、燃料電池部材の耐食性が低下する場合があった。
【0006】
特許文献3に記載の組成物は、電気伝導性を向上させる為に、導電性フィラーの含有量が高く、その結果、基材との密着性や成形品の外観が低下する場合がある。
したがって、導電性が高く、基材との密着性に優れ、かつ表面が平滑な外観に優れた成形品と与える燃料電池部材被覆用組成物の開発が望まれている。
【0007】
本発明者らは、導電性フィラーと特定のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を含む組成物が、導電性が高く、基材との密着性に優れ、かつ表面が平滑な外観に優れた成形品を与えることを見出した。また本発明者らはかかる組成物は液状化合物を含む分散液としても、導電性フィラーの分散安定性に優れることを知得し、本発明を完成した。
本発明は、導電性フィラーと特定のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を含む燃料電池部材被覆用組成物、該組成物を用いた燃料電池用セパレータの製造方法、および該組成物から得られる被覆層を有する燃料電池用セパレータの提供を目的とする。また本発明は該燃料電池用セパレータを含む燃料電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]
カルボニル基含有基または水酸基含有基を有する熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子および導電性フィラーを含み、前記粒子と前記導電性フィラーの合計質量を100質量%として、前記粒子の含有量が10質量%以上40質量%未満、前記導電性フィラーの含有量が60質量%超90質量%以下である燃料電池部材被覆用組成物。
[2]
前記粒子の含有量が20質量%以上35質量%以下、前記導電性フィラーの含有量が65質量%以上80質量%以下である前記[1]に記載の燃料電池部材被覆用組成物。
[3]
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、主鎖炭素数1×106個あたり、10個以上5000個以下のカルボニル基含有基または水酸基含有基を有するポリマーである前記[1]または[2]に記載の燃料電池部材被覆用組成物。
[4]
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度が200℃以上320℃以下である前記[1]から[3]のいずれかに記載の燃料電池部材被覆用組成物。
[5]
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのフッ素含有量が70から76質量%である前記[1]から[4]のいずれかに記載の燃料電池部材被覆用組成物。
[6]
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーがエチレンに基づく単位、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の単位とテトラフルオロエチレンに基づく単位とを含む共重合体である前記[1]から[5]のいずれかに記載の燃料電池部材被覆用組成物。
[7]
液状化合物を含む前記[1]から[6]のいずれかに記載の燃料電池部材被覆組成物。
[8]
前記液状化合物が水である前記[7]に記載の燃料電池部材被覆用組成物。
[9]
前記粒子と前記導電性フィラーの合計量を95質量%以上100%以下含む前記[1]から[6]のいずれかに記載の燃料電池部材被覆用組成物。
[10]
前記[1]から[9]に記載の組成物を燃料電池用基板に接触させ、溶融焼成して被覆層を形成する燃料電池用セパレータの製造方法。
[11]
燃料電池用基板の材質が金属または炭素のいずれかである前記[10]に記載の製造方法。
[12]
ガス流通用の溝部を有し、カルボニル基含有基または水酸基含有基を有する熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーを10質量%以上40質量%未満、および導電性フィラーを60質量%超90質量%以下含有する被覆層を表面に有する燃料電池用セパレータ。
[13]
前記被覆層中の、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が20質量%以上35質量%以下、前記導電性フィラーの含有量が65質量%以上80質量%以下である前記[12]に記載の燃料電池用セパレータ。
[14]
前記被覆層中の、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーと前記導電性フィラーの合計量が95質量%以上100%以下である前記[12]または[13]に記載の燃料電池用セパレータ。
[15]
アノード、カソード、両極間に配置された固体高分子電解質、および前記両極の外側にガス流通用の溝部を有し、カルボニル基含有基または水酸基含有基を有する熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が10質量%以上40質量%未満であり導電性フィラーの含有量が60質量%超90質量%以下である被覆層を表面に有するセパレータを含む燃料電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性フィラーと特定のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を含有し、特に液状組成物とした時の分散安定性に優れた組成物が提供される。該組成物は、導電性が高く、基材との密着性に優れ、かつ表面が平滑な外観に優れた成形品を与える。また該組成物を用いた燃料電池用セパレータの製造方法が提供される。本発明によれば、該組成物を用いることで燃料電池用セパレータ、該燃料電池用セパレータを含む燃料電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマー」とは、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとも記す)に基づく単位(以下、TFE単位とも記す)を含むポリマーであり、荷重49Nの条件下、ポリマーの溶融温度よりも20℃以上高い温度において、溶融流れ速度が0.1から1000g/10分となる温度が存在する溶融流動性のポリマーを意味する。
「ポリマーの溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ポリマーのガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「粒子または導電性フィラーの平均粒径」は、対象物である粒子または導電性フィラーの粒径をレーザー回折・散乱法によって測定し、得られた粒径の体積基準累積50%径(以下、「D50」とも記す)である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒子の粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「粒子のD90」は、粒子の累積体積粒径であり、「D50」と同様にして求められる粒子の体積基準累積90%径である。
「粒子の比表面積」は、ガス吸着(定容法)BET多点法により測定される値である。
「液状組成物の粘度」は、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下で対象物について測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「モノマーに基づく単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
【0011】
本発明の燃料電池部材被覆用組成物(以下、本組成物とも記す)は、カルボニル基含有基または水酸基含有基を有する熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)の粒子(以下、「本粒子」とも記す。)と導電性フィラー(以下、「本フィラー」とも記す。)を含み、本粒子と本フィラーの合計質量を100質量%として、本粒子の含有量が10質量%以上40質量%未満、本フィラーの含有量が60質量%超90質量%以下である。
【0012】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは剛直性に富むポリマーであるため、表面エネルギーが低く、その粒子同士は凝集しやすい。また、テトラフルオロエチレン系ポリマーは導電性フィラーとの親和性が低いため、テトラフルオロエチレン系ポリマー中に導電性フィラーが良好に分散した組成物を得るのは困難であると考えられた。
しかし、本発明者は、所定の熱溶融性を有し、分子運動の自由度が比較的高いとも言えるテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を用いることで、粒子の凝集が抑制され、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と導電性フィラーの相互作用が相対的に高まり、分散性に優れた組成物が形成されやすくなる点を知得した。
そして、かかる組成物は、分散安定性と流動性にも優れており、それから形成される成形物は、導電性が高く、基材との密着性に優れ、かつ表面が平滑な外観に優れた燃料電池用部材を与えることを見出した。
【0013】
本法におけるFポリマーは、カルボニル基含有基または水酸基含有基を有する。
カルボニル基含有基は、カルボニル基(>C(O))を含む基であり、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH2)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)およびカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CF2CH2OHまたは-C(CF3)2OHがより好ましい。
【0014】
Fポリマーにおけるカルボニル基含有基または水酸基含有基の数は、主鎖炭素数1×106個あたり、10から5000個が好ましく、50から4000個がより好ましく、100から2000個がさらに好ましい。この場合、Fポリマーが本フィラーと相互作用しやすく、本組成物が加工性や安定性に優れやすい。なお、Fポリマーにおけるカルボニル基含有基または水酸基含有基の数は、ポリマーの組成または国際公開第2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0015】
カルボニル基含有基または水酸基含有基はポリマーが含有する単位に含まれていてもよく、ポリマー主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者のポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基としてカルボニル基含有基を有するポリマーや、プラズマ処理、電離線処理や放射線処理によって調製された、カルボニル基含有基または水酸基含有基を有するポリマーが挙げられる。
【0016】
Fポリマーのフッ素含有量は、耐ラジカル性の観点から70から76質量%であるのが好ましい。かかるフッ素含有量が高いFポリマーは、電気物性、撥液性、耐酸性、耐ラジカル性等の物性に優れる反面、基材密着性が低く本フィラーとの親和性が低い。そのため例えば液状組成物を調製した際に、その分散性が低下しやすく、それから形成される被覆層の基材密着性が低下しやすい。本組成物では前記本粒子を用いることで、フッ素含有量の多いFポリマーを用いても、本フィラーの分散性に優れた組成物が得られ、基材密着性の高い被覆層が形成できる。
【0017】
Fポリマーの溶融温度は200℃以上が好ましく、260℃以上がより好ましい。Fポリマーの溶融温度は、320℃以下が好ましい。Fポリマーの溶融温度は、200℃以上320℃以下が特に好ましい。
Fポリマーのガラス転移点は、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。Fポリマーのガラス転移点は、150℃以下が好ましく、125℃がより好ましい。
【0018】
Fポリマーとしては、TFE単位およびエチレンに基づく単位を含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEとも記す)に基づく単位(以下、PAVE単位とも記す)を含むポリマー(以下、PFAとも記す)またはTFEとヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を含むコポリマー(以下、FEPとも記す)が好ましい。TFE単位とPFA単位を含む共重合体またはTFE単位とFEP単位を含む共重合体がより好ましく、TFE単位とPFA単位を含む共重合体がさらに好ましい。これらのポリマーには、さらに他のコモノマーに基づく単位が含まれていてもよい。
PAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3またはCF2=CFOCF2CF2CF3(以下、PPVEとも記す)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0019】
Fポリマーは、TFE単位およびPAVE単位を含み、カルボニル基含有基を有する共重合体が好ましく、TFE単位、PAVE単位およびカルボニル基含有基を有するモノマーに基づく単位を含むポリマーであるのがより好ましく、全単位に対して、これらの単位をこの順に、90から99モル%、0.5から9.97モル%、0.01から3モル%、含むポリマーであるのがさらに好ましい。かかるポリマーを含有した場合、本フィラーとの接着性に優れやすい。また、後述する本組成物から形成される被覆層が緻密になり低線膨張性に優れやすい。
カルボニル基含有基を有するモノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸および5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましい。
かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0020】
本粒子は、Fポリマーを含有する粒子であり、粒子中のFポリマーの量は、80質量%以上であるのが好ましく、100質量%であるのがより好ましい。
本粒子の平均粒径であるD50は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。本粒子のD50は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また、本粒子のD90は、50μm以下であるのがより好ましい。本粒子のD50およびD90が、かかる範囲にあれば、その表面積が大きくなり、本粒子の分散性が一層改良されやすい。
【0021】
本粒子は、Fポリマーと異なる他の樹脂または無機物を含有してもよい。
他の樹脂の具体例としては、芳香族ポリエステル、芳香族ポリイミド、芳香族マレイミドポリアミドイミド、スチレンエラストマー、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、マレイミド等の耐熱性樹脂が挙げられる。
【0022】
無機物の具体例としては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、窒化ホウ素、メタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)が挙げられる。
これら無機物は、その表面の少なくとも一部が表面処理されているのが好ましい。表面処理に用いられる表面処理剤としては、トリメチロールエタン、ペンタエリストール、プロピレングリコール等の多価アルコール、ステアリン酸、ラウリン酸等の飽和脂肪酸およびそれらのエステル、アルカノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアミン、パラフィンワックス、シランカップリング剤、シリコーン、ポリシロキサンが挙げられ、シランカップリング剤が好ましい。
【0023】
本粒子が無機物を含む場合、本粒子はFポリマーをコアとし、無機物をシェルに有するコアシェル構造を有するか、Fポリマーをシェルとし、無機物をコアに有するコアシェル構造を有するのが好ましい。かかる本粒子は、例えば、Fポリマーの粒子と、無機物の粒子とを衝突または凝集等により合着させて得られる。
【0024】
本フィラーは、導電性を有するフィラーであり、金属フィラー、金属酸化物フィラー、炭素フィラーなどがある。
金属フィラーは、金、銀、白金、ニッケル、銅、亜鉛、錫、アルミニウム、鉄等の金属、または黄銅、ステンレス、青銅等の金属合金が挙げられる。
金属酸化物フィラーは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズが挙げられ、これら金属酸化物にアルミニウムまたは酸化アンチモン等をドープすることで導電性が与えられる。
【0025】
炭素系フィラーは導電性を有する炭素材料であり、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー等の導電性炭素繊維、導電性グラファイト、導電性カーボンブラック、導電性フラーレン等が挙げられる。これらは2種類以上を併せて使用してもよい。
導電性カーボンブラックは、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、オイルファーネス系カーボンブラック、オイルファーネス系酸化カーボンブラック等が挙げられる。
導電性カーボンナノチューブは縮合ベンゼン環からなるグラッフェンシートが円筒状にまるまったものであり、単層ナノチューブ、多層ナノチューブおよび気相成長炭素繊維が挙げられる。
これら導電性フィラーの中では、金属フィラーまたは炭素フィラーが好ましく、炭素フィラーがより好ましい。炭素フィラーとしてはカーボンブラック、カーボンナノチューブが好ましく、カーボンブラックがより好ましい。
本フィラーは繊維状、粒子状、フレーク状等が挙げられ、繊維状または粒子状が好ましい。粒子状の場合、規則的な形状であっても不規則な形状であってもよい。粒子の場合、その平均粒径はD50で1500μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。平均粒径は、10μmから150μmがさらに好ましい。
【0026】
本組成物中、前記本粒子および前記本フィラーの合計質量を100質量%として、本粒子の含有量は10質量%以上40質量%未満、本フィラーの含有量は60質量%超90質量%以下である。本組成物の導電性の観点から、本粒子および本フィラーの合計質量を100質量%として、本粒子の含有量は20質量%以上35質量%以下、本フィラーの含有量は65質量%以上80質量%以下が好ましい。
【0027】
本組成物はさらに液状化合物を含む液状組成物(以下、「本液状組成物」とも記す。)であってもよい。
液状化合物は本粒子または本フィラーを少なくとも分散、またはゲル化する機能を有する液体であり、本液状組成物は、通常、スラリー状またはゲル状である。
なお、液状とは25℃で粘度が10mPa・s以下となる状態を意味する。
前記液状化合物は、本組成物を後述する燃料電池部材の被覆層として用いた場合、本フィラーの分布を均一とし、また、空隙を抑制する観点から、脱気されているのが好ましい。
【0028】
液状化合物は、水であってもよく、非水系液状化合物であってもよい。また液状化合物は非プロトン性液状化合物であってもよく、プロトン性液状化合物であってもよい。
非水系液状化合物としては、アミド、ケトン、エステル、グリコールが挙げられる。具体的な非水系液状化合物としては、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコールが挙げられ、N-メチル-2-ピロリドン、エチレングリコール、プロピレングリコールが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがより好ましい。
【0029】
液状化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。2種以上の場合、異種の液状化合物は相溶するのが好ましい。
液状化合物の沸点は、90℃以上250℃以下が好ましい。
これら液状化合物のなかでも取り扱いの観点から水が好ましい。
【0030】
本液状組成物中の本粒子と本フィラーの合計量の含有量は30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。前記含有量は80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。この場合、本液状組成物が分散安定性に優れやすく、また本組成物を後述する燃料電池部材の被覆層として用いた場合、被覆層が緻密になり、導電性と外観に優れやすい。
【0031】
本液状組成物は分散安定性とハンドリング性とをより向上する観点から、さらにノニオン性界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤の親水部位は、オキシアルキレン基またはアルコール性水酸基を有するのが好ましい。
界面活性剤の疎水部位は、アセチレン基、ポリシロキサン基、ペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルケニル基を有するのが好ましい。換言すれば、界面活性剤は、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤が好ましく、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。
かかる界面活性剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(株式会社ネオス社製 フタージェントは登録商標)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製 サーフロンは登録商標)、「メガファック」シリーズ(DIC株式会社製 メガファックは登録商標)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業株式会社製 ユニダインは登録商標)、「BYK-347」、「BYK-349」、「BYK-378」、「BYK-3450」、「BYK-3451」、「BYK-3455」、「BYK-3456」(ビックケミー・ジャパン株式会社社製)、「KF-6011」、「KF-6043」(信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
界面活性剤を含有する場合、本液状組成物中の界面活性剤の含有量は、1質量%以上15質量%以下が好ましい。この場合、成分間の親和性が増し、本液状組成物の分散安定性とハンドリング性がより向上しやすい。
【0032】
本液状組成物の粘度は、50mPa・s以上が好ましく、75mPa・s以上がより好ましく、100mPa・s以上がさらに好ましい。本液状組成物の粘度は、10000mPa・s未満が好ましく、5000mPa・s以下がより好ましく、1000mPa・s以下がさらに好ましい。
また、本液状組成物のチキソ比は、1.0から2.2が好ましい。かかるチキソ比を有する本液状組成物は塗工性と均質性に優れる。なお、チキソ比は、回転数が30rpmの条件で測定される本液状組成物の粘度を、回転数が60rpmの条件で測定される本液状組成物の粘度で除して算出される。
【0033】
本液状組成物の分散層率は60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。分散層率の上限は100%である。本法で得られる分散液は、前記のとおり、分散性と分散安定性に優れやすい。
なお、「液状組成物の分散層率」とは、18mLの液状組成物を内容積30mLのスクリュー管に入れ、25℃にて14日静置した際、静置前後の、スクリュー管中の液状組成物全体の高さと分散層の高さとから、以下の式により算出される値である。なお、静置後に分散層が確認されず、状態に変化がない場合には、液状組成物全体の高さに変化がないとして、分散層率は100%とする。分散層率が大きいほど分散安定性に優れる。
分散層率(%)=(分散層の高さ)/(液状組成物全体の高さ)×100
【0034】
本組成物は、前記液状化合物および界面活性剤以外にも、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、各種フィラー等の添加剤をさらに含有してもよい。
【0035】
本組成物が前記液状化合物を含まない場合、前記本粒子と本フィラーの合計質量は、本組成物の全質量を100質量%として、95質量%から100質量%が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0036】
本組成物は本粒子と本フィラーと、必要に応じて前記液状化合物や各種添加剤とを、所定量、混合して得られる。混合にはタンブラーやヘンシェルミキサー等の各種混合機が用いられる。
混合後、さらに混錬してもよい。混練に際しては、撹拌槽と、一軸あるいは多軸の撹拌羽根を備えた混練機を使用するのが好ましい。撹拌羽根の数は、高い混練作用を得るためには二つ以上の撹拌羽根のものが好ましい。混練の方法はバッチ式、連続式いずれでもよい。
バッチ式混練に用いられる混練機は、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサーまたはプラネタリーミキサーが好ましく、プラネタリーミキサーがより好ましい。
連続式混練機としては、二軸型押出混練機や石臼型混練機が挙げられる。
本組成物が液状化合物を含まない場合、本組成物は粉状でもペレット状でもよい。
【0037】
本組成物が前記液状分散媒を含有する本液状組成物の場合、本粒子と本フィラーを前記液状化合物に添加してもよいし、本粒子と前記液状化合物とを混合し、そこへ前記本フィラーを添加してもよいし、本フィラーと前記液状化合物とを混合し、そこへ前記本粒子を添加してもよい。
本粒子、本フィラーと前記液状化合物を混合する場合、脱気しながら混合してもよい。また本粒子、本フィラーと前記液化合物とを混合した後、しばらく放置してもよい。
本粒子、本フィラー、液状化合物、界面活性剤または前記添加剤の添加は連続的に行っても間欠的に行ってもよい。
【0038】
本粒子と本フィラー等を予め混合し、得られた混合物を前記液状化合物とさらに混練してもよい。混練に際しては閉鎖系で混練するのが好ましい。
混練に際しては、前記と同じ混練機が挙げられる。
得られる本液状組成物の分散性の観点から、本粒子または本フィラーと前記液状化合物とを混練してペースト状の液状組成物とし、さらに液状化合物と混練して本液状組成物とする方法が好ましい。ペースト状の液状組成物の粘度は通常、10000mPa・s以上、場合により25000mPa・s以上である。ペースト状の液状組成物の粘度は、100000mPa・s以下が好ましく、80000mPa・s以下がより好ましい。
【0039】
前記本組成物を燃料電池用基板に接触させ、溶融焼成して被覆層を形成することで燃料電池用部材とすることができる。燃料電池用基板としては燃料電池用セパレータまたは燃料電池用集電板となる基板が挙げられる。
集電板となる基板は、その形状が、通常シート状もしくは板状である。集電板となる基板の材質としては、金属および炭素が挙げられる。金属としてはアルミニウム、チタン、ステンレス、鉄、鋼、銅、亜鉛、スズ、マグネシウム、マンガン、シリコン、ニッケル、鉛、ビスマス、リチウム、バナジウム、モリブデン、ジルコニウム、パラジウム、およびこれらの合金が挙げられる。耐酸化性などの耐久性を向上させるために、基板の表面に金やロジウムなどの貴金属メッキ、あるいはダイヤモンドライクカーボンなどで表面処理したものも使用できる。
【0040】
セパレータとなる基板は、その形状が、通常シート状もしくは板状であり、その片面もしくは両面に凹凸状の溝部が形成されている。該溝部はガス流路として、反応ガスである水素等の燃料ガスや酸素等の酸化剤ガスの供給を行う。通常、溝の深さは0.05から2mmであり、溝の幅やリブ幅も同様である。セパレータの厚さとしては、燃料電池の大きさや用途に応じて適宜設定されるが、通常0.1から3mm 程度である。
【0041】
セパレータとなる基板の材質としては、金属および炭素が挙げられる。金属としてはアルミニウム、チタン、ステンレス、鉄、鋼、銅、亜鉛、スズ、マグネシウム、マンガン、シリコン、ニッケル、鉛、ビスマス、リチウム、バナジウム、モリブデン、ジルコニウム、パラジウム、およびこれらの合金が挙げられる。また、基板の表面には必要に応じて表面処理、プライマーなどを施すことができる。
セパレータとなる基板のガス流路形状としては、燃料電池のガス供給口からガス排出口までを一本の蛇行状流路で繋いだサーペンタイン流路が挙げられる。
【0042】
前記本組成物を燃料電池用基板に接触させる方法は、予め本組成物をシート状とし燃料電池用基板と加熱または加圧により圧着する方法、予め本組成物をシート状とし燃料電池用基板と接着剤等により接着させる方法、本組成物を燃料電池用基板上に溶融押出しする方法、液状化合物を含有する本液状組成物を燃料電池用基板に塗付し、加熱する方法等が挙げられる。
塗布の方法は、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法が挙げられる。
【0043】
前記方法により本組成物を燃料電池用基板に接触し、溶融焼成することで被覆層が形成される。溶融焼成は通常、300から400℃の温度範囲で行われる。
予め本組成物をシート状とし燃料電池用基板と加熱または加圧により圧着する方法、予め本組成物をシート状とし燃料電池用基板と接着剤等により接着させる方法、本組成物を燃料電池用基板上に溶融押出しする方法等により、本組成物を燃料電池用基板と接触させた場合、接触後、基板と本組成物を前記溶融焼成温度にて前記Fポリマーを焼成することでFポリマーの焼成物を含む被覆層が形成される。
【0044】
液状化合物を含有する本液状組成物を燃料電池用基板に塗付し、加熱する方法により本組成物を燃料電池用基板と接触させた場合、塗布後、加熱して液状化合物を除去した後に、前記溶融焼成温度にて加熱によりFポリマーを焼成することでFポリマーの焼成物を含む被覆層が形成される。液状化合物を除去する工程で空気を吹き付けるのが好ましい。
【0045】
本液状組成物の塗布、溶融焼成の工程は1回でも2回以上でもよい。例えば、前記本液状組成物を塗布し、加熱により液状化合物を除去し膜を形成する。形成した膜の上にさらに前記本液状組成物を塗布して加熱により液状化合物を除去し、さらに加熱によりFポリマーを焼成して形成してもよい。平滑性に優れた厚い膜を得やすい観点から、本液状組成物の塗布、乾燥、焼成の工程を複数回行ってもよい。
【0046】
形成された被覆層中のFポリマーの含有量は、Fポリマーおよび本フィラーの合計質量を100質量%として、10質量%以上40質量%未満、形成された被覆層中の本フィラーの含有量は60質量%超90質量%以下である。被覆層の導電性の観点から、Fポリマーおよび本フィラーの合計質量を100質量%として、形成された被覆層中のFポリマーの含有量は20質量%以上35質量%以下、形成された被覆層中の本フィラーの含有量は65質量%以上80質量%以下が好ましい。
【0047】
前記被覆層は燃料電池用基板の少なくとも一部を被覆すればよく、基板を連続的に被覆しても断続的に被覆してもよい。得られる燃料電池の性能の観点から基板全体を被覆しているのが好ましい。
【0048】
被覆層の厚さは、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。厚さの上限は、200μmである。この範囲において、耐クラック性に優れた被覆層を容易に形成できる。
被覆層と燃料電池用基板との剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましい。上記剥離強度は、100N/cm以下が好ましい。
【0049】
前記燃料電池用集電板となる基板上に前記方法にて被覆層を形成させれば燃料電池用集電板となる。燃料電池用セパレータとなる基板上に前記方法にて被覆層を形成させれば燃料電池用セパレータとなる。
例えば前記方法により、ガス流通用の溝部を有し、前記Fポリマーを10質量%以上40質量%未満、および本フィラーを60質量%超90質量%以下含有する被覆層を表面に有する燃料電池用セパレータ(以下、「本セパレータ」とも記す。)が得られる。被覆層中のFポリマーと本フィラーの含有量は前記のとおりである。
【0050】
前記本セパレータは燃料電池に好適に用いられる。
燃料電池は使用する電解質により、いくつかのタイプに分類することができるが、本セパレータは、電解質が固体電解質である固体高分子燃料電池により好適に用いることができる。
【0051】
燃料電池は、例えば、固体高分子電解質を挟むように対向配置されたカソードとアノード、両電極の外側にガス流通用の溝部を有するセパレータを有する。燃料電池はさらにガス拡散層、集電版を有し、またアノードはアノード触媒層、カソードはカソード触媒層を有してもよい。たとえば集電板、セパレータ、ガス拡散層、カソード触媒層を有するカソード、固体高分子電解質、アノード触媒層を有するアノード、ガス拡散層、セパレータ、集電板という順の構成を有する固体高分子燃料電池が挙げられる。
【0052】
前記構成の固体高分子燃料電池では、セパレータは、反応ガスである水素等の燃料ガスや酸素等の酸化剤ガスの供給、排出を行う。アノードおよびカソード触媒層に、ガス拡散層を通じてそれぞれ均一に反応ガスが供給されると、両電極に備えられた触媒と電解質との境界において、反応ガスである気相、電解質膜である液相、両電極が持つ触媒である固相の三相界面が形成される。そして、電気化学反応を生じさせることで直流電流が発生し、集電板を通して外部へ電流を取り出すことが出来る。
【0053】
燃料電池用触媒材料は、公知もしくは市販のものを使用することができる。例えば、触媒粒子が、触媒担持体としての炭素粒子、酸化物粒子、あるいは窒化物粒子上に担持された触媒が挙げられる。
触媒粒子としては、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム又はこれらの合金等が挙げられる。
触媒担持体としては、前記本フィラーで挙げた炭素フィラーと同様のものが挙げられる。 酸化物粒子としては、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ等が挙げられる。
窒化物粒子としては、例えば、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、窒化タンタル、窒化クロム、窒化バナジウム等が挙げられる。
【0054】
市販の燃料電池用触媒材料としては、例えば、TEC10E50E、TEC10E70TPM、TEC10V30E、TEC10V50E、TEC66E50等の白金担持炭素粒子、TEC66E50、TEC62E58等の白金-ルテニウム合金担持炭素粒子(いずれも田中貴金属工業社製)が挙げられる。
前記構成の固体高分子燃料電池において、セパレータを前記本セパレータとすることで、電池特性に優れた固体高分子燃料電池が得られる。
【0055】
以上、本組成物、燃料電池用セパレータの製造方法、本セパレータおよび燃料電池について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本組成物、本セパレータおよび燃料電池は上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。また燃料電池用セパレータの製造方法は、上記実施形態の構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてよい。
【実施例0056】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例では、以下の成分を用いた。
[粒子]
粒子1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含むポリマー1(溶融温度:300℃)からなる粒子(D50:2.1μm)
[導電性フィラー]
フィラー1:導電性カーボンブラック(デンカ株式会社製「デンカブラック」)
[界面活性剤]
界面活性剤1:シリコーン系界面活性剤(ビックケミー・ジャパン株式会社社製「BYK-3450」)
【0057】
1.液状組成物の製造例
ジルコニアボール入りのポットに、粒子1と界面活性剤1とアンモニア水とを投入し、150rpmにて1時間、ポットを転がして組成物1を調製した。なお、界面活性剤1の量は、粒子1の量に対して5質量%とした。さらに、ポットにフィラー1を投入し、ポット内容物の液物性を調整するための水と、ポット内容物のpHを調整するためのpH緩衝剤とを投入しつつポットを転がして、40質量部の粒子1と60質量部のフィラー1を含む液状組成物を得た。
粒子1とフィラー1の組成比を、下表1に示すとおり変更した以外は、例1と同様にして、液状組成物1-2から1-5を得た。
【0058】
【0059】
2.燃料電池用セパレータの製造例
液状組成物1-1に、片面に流路幅が1.0mm、リブ幅が1.0mm、流路深さが0.6mmのサーペンタイン型流路が形成された、材質がSUS304、厚さが100μmのセパレータ基板を浸漬した。セパレータ基板を引き上げて120℃で乾燥した後、380℃にて加熱焼成して、粒子1の溶融焼成物であるポリマー1とフィラー1を含む厚さが30μmの層で被覆されたセパレータ1-1を得た。
液状組成物1-1を液状組成物1-2から1-5に変更する以外は同様にして、セパレータ1-2から1-5をそれぞれ得た。
【0060】
3.評価
3-1.外観
それぞれのセパレータの外観を目視にて確認し、以下の評価基準によって評価した。
[評価基準]
○:層の表面が全体にわたって平坦であり、ブツやハジキが視認できない。
△:層の表面の一部にブツやハジキが視認されるが、層が欠損している箇所はない。
×:層の表面の一部にブツやハジキが視認され、流層に欠損している箇所がある。
【0061】
3-2.密着性
それぞれのセパレータを、90℃の25質量%硫酸水溶液中に一週間浸漬させた後、水洗して乾燥し、碁盤目状の切り込みを入れ、粘着テープによる剥離試験に供した。層の剥離度合いを以下の評価基準によって評価した。
○:層の全体が剥離しない。
△:層の端部が部分的に剥離する。
×:層の全体が剥離する。
以上の評価結果を、まとめて下表2に示す。
【0062】
【0063】
また、セパレータ1-2、1-3及び1-4は、体積抵抗率が、いずれも1.0×10-4Ω・cm未満であり、燃料電池用セパレータとして必要な導電性を備えていることを確認した。セパレータ1-1の体積抵抗率は、1.0×10-4Ω・cm以上であった。
上記結果から明らかなように、本組成物は、導電性が高く、基材との密着性に優れ、かつ表面が平滑な外観に優れた成形品を与える。したがって本組成物を用いた燃料電池用セパレータおよび該セパレータを用いた燃料電池はその特性に優れる。