(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184163
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】浸炭部品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20221206BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20221206BHJP
C22C 38/18 20060101ALI20221206BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20221206BHJP
C21D 9/32 20060101ALN20221206BHJP
C21D 9/40 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C22C38/00 301N
C22C38/54
C22C38/18
C21D1/06 A
C21D9/32 A
C21D9/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091852
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】大西 真也
(72)【発明者】
【氏名】常陰 典正
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA18
4K042AA22
4K042BA03
4K042BA04
4K042CA02
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
(57)【要約】
【課題】 高Crであっても安定な浸炭層が得られる浸炭部品の提供。
【解決手段】 質量%で、C:0.10~0.40%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~5.00%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%、残部がFeおよび不可避不純物からなり、浸炭された状態であって、O量が5%以上含まれる表面近傍の領域を表面からのスケール厚みとした場合に、スケール厚みのいずれの深さにおいてもスケール内に含有されるMn量が10%未満であって、その表面の硬さが700Hv以上であって、その表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%である浸炭部品。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.10~0.40%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~5.00%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%、残部がFeおよび不可避不純物からなり、浸炭された状態であって、
O量が5%以上含まれる表面近傍の領域を表面からのスケール厚みとした場合に、スケール厚みのいずれの深さにおいてもスケール内に含有されるMn量が10%未満であって、
その表面の硬さが700Hv以上であって、
その表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%である
浸炭部品。
【請求項2】
質量%で、C:0.10~0.40%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~5.00%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%を主成分とし、
さらに、選択的付加的成分として Nb:0.02~0.10%、Ni:5.00%以下,Mo:1.00%以下,Ti:0.20%以下,B:0.010~0.050%のうち、少なくとも1種類を含有し、
残部がFeおよび不可避不純物からなり、浸炭された状態であって、
O量が5%以上含まれる表面近傍の領域を表面からのスケール厚みとした場合に、スケール厚みのいずれの深さにおいてもスケール内に含有されるMn量が10%未満であって、
その表面の硬さが700Hv以上であって、
表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%である浸炭部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸炭部品に関する。とりわけ、特に高Cr鋼材を用いながら浸炭阻害の発生が抑制可能な浸炭部品に関する。
【背景技術】
【0002】
浸炭焼入れは代表的な鋼材の表面硬化処理の1つであり、歯車や軸受などの高い疲労強度・耐摩耗性が必要とされる浸炭部品に用いられている。このような部品の鋼材としては、日本産業規格(JIS)に規定されるSCM420やSCR420といった鋼が一般的には用いられている。もっとも、昨今の部品の使用環境はより過酷化しつつあるので、さらなる浸炭部品の長寿命化や高強度化が求められている。
【0003】
そこで、これまでにも、質量%で、C:0.10~0.35%、Si:0.40~0.80%、Mn:0.15~1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.20~2.50%、Ni:0.20%以下、Mo:0.10%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、該鋼はガス浸炭した時に最大粒界酸化の深さD1が10μm以下、合金欠乏層である不完全焼入層の最大深さD2が8~20μm、かつD2-D1が2~15μmであり、浸炭異常層の残った状態の浸炭肌を有することを特徴とする耐ピッチング特性に優れた機械構造用肌焼鋼が提案されている(特許文献1参照。)。
この提案は、ピッチングの起点となりうる粒界酸化の深さまでマルテンサイトよりも軟質な不完全焼き入れ層が覆うことで、粒界酸化を不完全焼き入れ層と一緒に摩耗させ、長寿命化する方策である。
【0004】
また、質量%で、C:0.10~0.35%、Si:0.25~0.80%、Mn:0.30~1.80%、P:0.030%以下、S:0.035%以下、Cr:2.00~3.50%、Mo:0.04~0.50%、Al:0.003~0.100%、N:0.002~0.050%を含有し、Si+0.5Cr≧1.5かつSi、Cr、Moの合計量が3.0%以上を満たし、残部がFeおよび不可避不純物からなるものとし、浸炭処理または浸炭窒化処理ならびに焼入焼戻し処理を行った際の、表面から20μmにおけるC濃度を、0.7~1.0%とし、同じくMs≦215℃以下とし、残留γ量が体積%で20≦γ≦50%である、特に歯車の水素浸入環境化での使用の際に耐ピッチング特性に優れた歯車用はだ焼鋼が提案されている(特許文献2参照。)。
これは、脆化の原因となる水素の拡散速度を抑制させる残留γを安定化させ、歯車の耐ピッチング特性を向上させる方策である。
【0005】
また、質量%で、C:0.13~0.35%、Si:0.20~0.65%、Mn:0.50~1.80%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:2.30~3.50%を含有し、さらに、Ni:0.10~0.50%、Mo:0.03~0.50%から選択した1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、
図2に示す浸炭焼入パターンおよび焼戻し後の該鋼の最表面から100~300μmの母相成分中に固溶したSi、Mn、Cr、Ni、Moの合計は3.0%以上であり、さらに残留γ量は20~50vol%であって、その他残部はマルテンサイト組織である、耐白色組織変化はく離寿命に優れる軸受用鋼が提案されている(特許文献3参照。)。
これは、水素環境下において、水素を起因とする白色組織変化を抑制することで軸受の剥離寿命を向上させる技術である。
【0006】
また、質量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.20~0.50%、Mn:0.20~1.20%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Cr:2.60~4.50%、Mo:0.10~0.40%、Ni:0.20%以下、Cu:0.20%以下を含有し、残部が鉄(Fe)および不可避不純物である合金鋼からなり、任意の切断面で面積320mm2当たりに存在する直径10μm以上の酸化物系介在物が10個以下である素材を、所定形状に加工した後、浸炭または浸炭窒化と焼入れ焼戻しを行って得られる風力発電設備用転がり軸受が提案されている(特許文献4参照。)。
これは高Crとすることで水素によるマルテンサイトからフェライトへの組織変化を抑制し、高強度化を達成する技術である。
【0007】
いずれの提案においても、Crは1.20%を上回る量で添加させる必要がある。このように部品の長寿命化や高強度化を図る方策として、CrをJISに規定する鋼以上に含有させることを念頭に置くものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-98426号公報
【特許文献2】特許6347926号公報
【特許文献3】特許6639839号公報
【特許文献4】特許5982782号公報
【特許文献5】特許6308382号公報
【特許文献6】特許4327812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
もっとも、これら提案の技術はいずれも高Crであることから、浸炭した際に鋼材の表面にCr酸化物が形成されやすく、浸炭時に炭素の侵入が阻害されてしまうリスクが顕在化してしまう問題がある。
【0010】
そこで、Cr酸化物層を所定の厚さ以下にすることで無害化しようとする方策が提案されている(特許文献5参照。)。また、浸炭前にCr酸化物形成の原因となる、Crの濃化が生じる加工変質層を除去する方策も提案されている(特許文献6参照。)。
【0011】
しかしながら、こうした提案では、いずれにしても浸炭条件に左右されることから、完全に阻害を避けることができるとはいい難く、未だに十分な改善方法が確立されていないのが現状である。
【0012】
そこで、本発明が解決する課題は、浸炭条件に左右されず、高Cr材でありつつも浸炭阻害を抑制した浸炭部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討の結果、Crと同時にMnの酸化物も浸炭特性に悪影響を与え、さらにその浸炭特性への作用はCr酸化物による影響よりも大きいことが判明した。
そして、鋼の成分を本発明成分の範囲とし、低Мnとすると、浸炭中に浸炭特性にとって特に有害なMn酸化物ができにくくなるので、浸炭条件に大きく左右されることなく、部品を長寿命化するための浸炭後の表面硬さと表面炭素量が安定に規定を満たした浸炭部品を提供することができることを見出した。
【0014】
そこで、本発明の課題を解決するための第1の手段は、
質量%で、C:0.10~0.40%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~5.00%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%、残部がFeおよび不可避不純物からなり、浸炭された状態であって、
O量が5%以上含まれる表面近傍の領域を表面からのスケール厚みとした場合に、スケール厚みのいずれの深さにおいてもスケール内に含有されるMn量が10%未満であって、
その表面の硬さが700Hv以上であって、
表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%である浸炭部品である。
【0015】
その第2の手段は、
質量%で、C:0.10~0.40%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20~0.60%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~5.00%、Al:0.003~0.050%、N:0.005~0.020%を主成分とし、
さらに、選択的付加的成分として Nb:0.02~0.10%、Ni:5.00%以下,Mo:1.00%以下,Ti:0.20%以下,B:0.010~0.050%のうち、少なくとも1種類を含有し、
残部がFeおよび不可避不純物からなり、
浸炭された状態であって、
O量が5%以上含まれる表面近傍の領域を表面からのスケール厚みとした場合に、スケール厚みのいずれの深さにおいてもスケール内に含有されるMn量が10%未満であって、
その表面の硬さが700Hv以上であって、
表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%である浸炭部品である。
50~1.00%であること、を特徴とする浸炭部品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、高Cr鋼材でありながらも、Mn酸化物の生成を抑制することで、浸炭条件に左右されにくく、浸炭条件に特段の工夫をせずとも、一般的な浸炭条件であれば、浸炭阻害が抑制された浸炭部品を得ることができる。
そこで、本発明によると、浸炭後に700Hv以上の優れた表面硬さであって、表面から500μm深さまでの炭素量が0.50~1.00%である適正な炭素濃度分布の浸炭部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】浸炭性の評価に用いる試験片の説明図である。
図1(a)に正面図を、
図1(b)に側面図を示す。
【
図2】浸炭処理条件の一例を示す温度-時間の工程図である。上から順に、実施例に用いた浸炭条件1、2、3における熱処理手順を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態の説明に先だって、まず、本発明の浸炭部品に用いる鋼材の化学組成を規定した理由を以下に説明する。以下の%は質量%である。
【0019】
C:0.10~0.40%
Cは、機械構造用部品として浸炭処理後の浸炭層ならびに芯部強度を確保するために必要な元素である。0.10%未満ではその効果が十分に得られず、反対に0.40%を超えると芯部の靭性を低下させる。そのためCの含有量を0.10~0.40%とする。より望ましくはCは0.15~0.30%とする。
【0020】
Si:0.20~0.80%
Siは、鋼の溶製時の脱酸に必要な元素であり、焼き入れ性を向上させる効果を持つ元素である。0.20%未満では脱酸効果が十分でなく、0.80%を超えると加工性を低下させる。そのためSiの含有量を0.20~0.80%とする。より望ましくはSiは0.35~0.65%とする。
【0021】
Mn:0.20~0.60%
Mnは、本発明において最も重要な元素成分である。鋼の溶製時の脱酸に必要な元素であるとともに、焼入性を向上させる元素である。Mnは0.20%未満では脱酸効果が十分でなく、0.60%を超えると浸炭阻害が生じうるスケールが生成してしまう。そのためMnの含有量を0.20~0.60%とする。より好ましくはMnは0.20~0.40%とする。
【0022】
P:≦0.030%
Pは不可避的不純物であり、0.030%を超えると、粒界偏析によって靱性が低下することとなる。そこで、Pは0.030%以下とする。
【0023】
S:≦0.030%
Sは不可避的不純物であり、0.030%を超えると、MnSの形成によって靱性が低下し、疲労強度も低下する。そこで、Sは0.030%以下とする。
【0024】
Cr:1.60~5.00%
Crは焼き入れ性向上を向上させる元素である。鋼の焼き入れ性を確保するためにCrは1.60%以上の添加が必要である。しかし、Crを5.00%を超えて添加すると、鋼材表面にCr系主体の酸化被膜が形成し、浸炭条件によらず、浸炭を阻害することとなる。そこで、Crは1.60~5.00%とし、より望ましくはCrは1.70~3.00%とする。
【0025】
Al:0.003~0.050%
Alは、脱酸のために必要な元素である。しかし、Alは0.003%未満ではその効果が十分に得られず、Alの添加量を増やすと、鋼中に生成されるアルミナ系介在物が増加することにより、疲労強度が低下する。そのためAlの含有量を0.003~0.050%とする。より望ましくはAlを0.010~0.030%とする。
【0026】
N:0.005~0.200%
NはAl、Nb、Ti等と結合して窒化物を形成しやすく、結晶粒微細化に有効で、疲労強度を高める効果がある。これらの効果を得るためにはNは、0.005%以上の添加が必要である。しかし、Nは0.200%を超えて添加すると窒化物が析出しすぎてしまい疲労強度が低下する。そこでNの含有量は、0.005~0.200%とする。より望ましくはNを0.050~0.150%とする。
【0027】
以下、選択的付加的成分について説明する。
【0028】
Nb:0.02~0.10%
Nbは選択的付加的成分の1つである。C、Nと炭窒化物を形成し、ピンニング効果により結晶粒が微細化することで疲労強度が向上する元素である。もっとも、Nb含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。そこで、Nbを添加する場合は、0.02~0.10%とする。
【0029】
Ni:5.00%以下
Niは選択的付加的成分の1つである。Niは鋼の焼入れ性を高めるのに有効な元素であるが、高価であるため、工業上その含有量の最小化が求められている。そのため、Niの添加は5.00%以下とする。
【0030】
Mo:1.00%以下
Moは選択的付加的成分の1つである。Moは焼き入れ性の向上および靭性の向上に有効な元素である。もっとも、Moが過多になると加工性の低下および素材コストの上昇につながってしまう。そのためMoの添加は1.00%以下とする。
【0031】
Ti:0.20%以下
Tiは選択的付加的成分の1つである。TiはC、Nと炭窒化物を形成し、ピンニング効果により結晶粒が微細化することで疲労強度が向上する。もっとも、Ti含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。そのため、Tiの添加は0.20%以下とする。
【0032】
B:0.010~0.050%
Bは選択的付加的成分の1つである。Bは焼き入れ性を向上させるとともにPの粒界析出を阻害することで靭性を向上させる働きを有する元素である。この効果を得るためにはBを0.010%以上添加することが望ましい。もっとも、Bが0.050%を超えるとその効果は飽和する。そこで添加するBの添加は0.010~0.050%とする。
【0033】
次に、本発明に規定する鋼材を浸炭した浸炭部品の浸炭後の表面の性状について規定した理由を述べる。
【0034】
O量が5%以上含まれる表面近傍の領域を表面からのスケール厚みとした場合に、スケール厚みのいずれの深さにおいてもスケール内に含有されるMn量が10%未満であること:
スケール内に含有されるMn量は、浸炭時の浸炭阻害抑制のための指標である。この指標のMn量が10%を上回ると、部品を浸炭する際、炭素の侵入がMn酸化物に阻害され、浸炭後に硬さが得られにくくなる。スケール内部のいずれの深さでもMn量が10%以下であることを満足していると、浸炭した際に、浸炭条件に左右されることなく、特有の浸炭条件を用いずとも、浸炭阻害の発生を抑制することができる。
【0035】
浸炭後の最表面の硬さが700Hv以上:
浸炭部品の表面硬さが700Hv未満であると、浸炭部品、例えば歯車や軸受などにおいて、所定の強度特性が得られず、部品の寿命が短くなる。そこで、浸炭された最表面硬さは700Hv以上と規定する。
【0036】
浸炭後の表面から500μm深さまでの炭素量は0.50%~1.00%とすること:
浸炭後の表面から500μm深さまでの炭素量が0.50%未満であると、浸炭が正常に行えておらず、疲労強度が低くなる。また、表面から500μm深さまでの炭素量が1.00%を超えると炭化物が析出しすぎてしまい、効果が飽和する。したがって、浸炭後の表面から500μm深さまでの炭素量は0.50%~1.00%とする
【0037】
(実施例)
表1に示された化学組成からなる鋼種名A~Mの100kg鋼塊を、それぞれ真空溶解炉にて溶製した。その後、これらA~Mの各鋼を1250℃で12時間以上ソーキングを行い、熱間鍛造して直径32mmの棒鋼に製造し、900℃で4時間保持した後空冷して焼きならし処理を行うことで供試材を得た。
【0038】
【0039】
これらの供試材を、
図1に示す寸法に加工し、
図2に示す浸炭条件が異なる3条件でそれぞれガス浸炭することで試験片を得た。ここで、浸炭条件1は通常用いられる浸炭条件であり、浸炭条件2は浸炭温度が低めであり、浸炭条件3は浸炭時間を短めに設定している。
【0040】
<評価項目>
浸炭後の試験片の特性については、(1)表面~O量が5%以上含まれる範囲までをスケール厚みとしたときに、スケール内部のMn量(グロー放電発光分光分析装置を用いて測定)、(2)浸炭後の表面硬さ(Hv硬さ試験機を用いて測定)、(3)浸炭後の表面炭素濃度(浸炭後に試験片を切り出し、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定)をそれぞれ評価した。以下に、詳細な測定方法について説明する。
【0041】
(1)スケール内部のMn量の測定に用いた「グロー放電発光分光分析装置」とは、高電圧に印加したArイオンを試料表面に衝突(スパッタ)させ、はじき出した原子をプラズマ状態に励起させることで生じる光の波長と強度を検出することで、試料深さ方向の元素の定量・定性分析が実施可能な装置である。
今回の実施例では、浸炭ままの試験片をグロー放電発光分光分析装置にセットし、スパッタ条件に関して、φ2mmの銅電極、Arガス圧を600Pa、高周波印加電圧を25Wで実施し、スケールに含まれるMnの量を測定した。
【0042】
(2)また、各試験片に対して、Hv硬さ試験機を用いて浸炭面の任意の箇所を5回、荷重300kgfで測定し、その測定結果の平均値を当該試験片の浸炭後の表面硬さ(ビッカース硬さ)とした。
【0043】
(3)浸炭後の試験片を半割し、切断面が表面に現れるように導電性樹脂に埋め込み、研磨をした。その後、EPMAを用いて、浸炭された表面から深さ方向に500μm深さまでの炭素量を10μm間隔で測定し、その平均値を表面炭素濃度とした。この値が0.50~1.00%を満たすかを評価する。
【0044】
鋼種A~Mの化学成分の鋼からなる試験片に対して浸炭条件1~3にて浸炭し、各浸炭後の試験片に対して、上記(1)、(2)、(3)の評価を行った。各試験片の評価結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
本発明鋼の化学成分からなる鋼種A~Jは、浸炭条件1~3のいずれの試験片についても、スケール内のMn量がいずれの深さでも10%を超えることはなかったので、浸炭阻害が生じることはなく、また、浸炭後の表面硬さは700Hv以上であり、表面炭素濃度も0.50~1.00%であった。したがって、特段な浸炭条件を見出さずとも、一般的な浸炭によって、十分な強度が得られるので、疲労寿命が確保されることとなる。
【0047】
他方、比較鋼の化学成分からなる鋼種K~Mでは、そのほとんどがスケール内の最大Mn量が10%を超えており、10%を超えた試験片はいずれも表面硬さが得られておらず、表面炭素濃度も不足しているなど、浸炭が阻害されるものとなった。
【0048】
鋼種Kは、Mnの含有量が0.60%、Crの含有量が5.00%を超えており、CrおよびMnのスケールが十分に生成してしまい、浸炭阻害が生じやすくなっているためと思われる。また、鋼種LはCrの含有量が5%を超えており、浸炭した際に鋼材の表面にCr酸化物が形成するため、炭素の侵入が阻害されてしまい、硬さが得られなかったものと思われる。鋼種Mは、Mnの量が0.60%を超えており、鋼材表面にMn系主体の酸化被膜が形成し、浸炭条件によらず、浸炭を阻害したため、硬さが得られず、表面炭素濃度も低かったと思われる。
【符号の説明】
【0049】
1 試験片