(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184180
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】光ファイバ母材の製造装置及び光ファイバ母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/018 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C03B37/018 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091872
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【弁理士】
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正
【テーマコード(参考)】
4G021
【Fターム(参考)】
4G021EA03
4G021EB11
4G021EB12
4G021EB14
4G021EB26
(57)【要約】
【課題】バーナ部からの輻射熱を遮熱する。
【解決手段】本発明に係る光ファイバ母材の製造装置は、光ファイバ母材の原料ガスから生成したガラススートを含む火炎を、棒状の出発基材に吹き付けるバーナ部と、前記出発基材の長手方向に沿って前記バーナ部を移動させる移動機構と、前記バーナ部と一体となって移動する帯状の遮熱部材と、前記遮熱部材が掛け渡された複数のローラと、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ母材の原料ガスから生成したガラススートを含む火炎を、棒状の出発基材に吹き付けるバーナ部と、
前記出発基材の長手方向に沿って前記バーナ部を移動させる移動機構と、
前記バーナ部と一体となって移動する帯状の遮熱部材と、
前記遮熱部材が掛け渡された複数のローラと、
を備えることを特徴とする光ファイバ母材の製造装置。
【請求項2】
前記遮熱部材は、前記バーナ部の移動に伴って、前記長手方向における前記バーナ部の一端部から押し出す力を受けるともに、前記バーナ部の他端部から前記押し出す力と同一方向に引き取る力を受ける、
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項3】
前記バーナ部は、前記遮熱部材に形成された貫通孔に嵌入している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項4】
前記遮熱部材に張力を印加する張力印加機構、
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項5】
前記張力印加機構は、前記複数のローラのうちの少なくとも1つを駆動し、ローラ間の距離を調整する、
ことを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項6】
前記張力印加機構は、前記遮熱部材の一部に設けられ、前記長手方向に沿って伸縮する弾性部材である、
ことを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項7】
前記複数のローラは、3つ以上設けられる、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項8】
前記バーナ部による輻射熱から遮熱される対象物は、前記遮熱部材を挟んで前記出発基材とは反対側に配置される、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項9】
前記対象物は、輪形状をなす前記遮熱部材の内側に配置される、
ことを特徴とする請求項8に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項10】
光ファイバ母材の原料ガスから生成したガラススートを含む火炎を、バーナ部から棒状の出発基材に吹き付ける工程と、
前記出発基材の長手方向に沿って前記バーナ部を移動させる工程と、
を備え、
帯状の遮熱部材が、複数のローラに掛け渡され、前記バーナ部と一体となって移動する、
ことを特徴とする光ファイバ母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材の製造装置及び光ファイバ母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、出発基材の長手方向に沿ってバーナ部が往復移動しながら光ファイバ母材の外周面に対してガラススートを含む火炎を吹き付ける光ファイバ母材の製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、製造対象の光ファイバ母材が大きくなるに伴って、光ファイバ母材の製造工程に要する時間は長くなる。その結果、装置内で発生する熱量が更に増加するため、装置内にある機械部品や電子機器類がバーナ部からの輻射熱によって劣化してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、バーナ部からの輻射熱を遮熱できる光ファイバ母材の製造装置及び光ファイバ母材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、光ファイバ母材の原料ガスから生成したガラススートを含む火炎を、棒状の出発基材に吹き付けるバーナ部と、前記出発基材の長手方向に沿って前記バーナ部を移動させる移動機構と、前記バーナ部と一体となって移動する帯状の遮熱部材と、前記遮熱部材が掛け渡された複数のローラと、を備えることを特徴とする光ファイバ母材の製造装置が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によれば、光ファイバ母材の原料ガスから生成したガラススートを含む火炎を、バーナ部から棒状の出発基材に吹き付ける工程と、前記出発基材の長手方向に沿って前記バーナ部を移動させる工程と、を備え、帯状の遮熱部材が、複数のローラに掛け渡され、前記バーナ部と一体となって移動する、ことを特徴とする光ファイバ母材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バーナ部からの輻射熱を遮熱できる光ファイバ母材の製造装置及び光ファイバ母材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置の全体構成を示す概略図である。
【
図2】第1実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置における内部構造を説明する斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置において遮熱カーテンに張力を印加する構造を説明する模式図である。
【
図4A】第1実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置において遮熱カーテンとバーナ部との間で作用する力を説明する模式図である。
【
図4B】第1実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置において遮熱カーテンとバーナ部との間で作用する力を説明する模式図である。
【
図5】第1実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【
図6】第1実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置におけるガラススート形成時の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】第1実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置との比較例となる製造装置における内部構造を説明する斜視図である。
【
図8】第2実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置において遮熱カーテンに張力を印加する構造を説明する模式図である。
【
図9】第3実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置の全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置100の全体構成を示す概略図である。本実施形態では、製造装置100は、OVD法(外付け法)によって出発基材の外周面にガラススートを堆積させることで、光ファイバ母材10を製造する。また、本明細書における「光ファイバ母材」の語句は、光ファイバ用の多孔質ガラス母材(多孔質光ファイバ母材)及び多孔質ガラス部材を焼結ガラス化した母材の総称を意味する。
【0012】
また、
図1に示すように、製造装置100は、反応容器101と、スピンドル機構102と、チャック103と、ターゲットロッド104と、ダミーロッド105と、バーナ106と、ガイドレール107と、トラバースモータ108と、一対のローラ109a、109bと、ローラ位置移動機構110と、遮熱カーテン111とを備える。
【0013】
また、製造装置100は、原料ガス供給装置112と、原料ガス供給ライン113と、キャリアガス供給装置114と、キャリアガス供給ライン115と、燃焼ガス供給装置116と、燃焼ガス供給ライン117と、排気機構118とを更に備える。
【0014】
スピンドル機構102は、出発基材としてのターゲットロッド104の両端に一対のチャック103を介して接続され、ターゲットロッド104を回転自在に保持している。
【0015】
また、スピンドル機構102は、制御系(後述する制御部200)からの指示に従ってターゲットロッド104を例えば水平方向に駆動することにより、反応容器101への光ファイバ母材10の搬入及び反応容器101からの光ファイバ母材10の搬出を行う。
【0016】
また、スピンドル機構102は、制御系からの指示に従って、ターゲットロッド104を回転軸として回転方向Rにターゲットロッド104を回転させる。
【0017】
ダミーロッド105は、ターゲットロッド104の両端部に溶融固定された棒状部材である。スピンドル機構102は、一対のチャック103によって把持されたダミーロッド105及びターゲットロッド104を回転させる。
【0018】
バーナ106は、制御系からの指示に従い、燃焼ガス供給装置116から供給される燃焼ガスにより火炎FLを形成する。本明細書では、バーナ106を「バーナ部」とも呼ぶ。
【0019】
また、バーナ106は、原料ガス供給装置112から供給される原料ガスを上述の火炎FL内で例えば加水分解してガラススート(ガラス微粒子)を形成し、ガラススートを含む火炎FLをターゲットロッド104に吹きつける。これにより、バーナ106は、ターゲットロッド104上にガラススートを堆積させ光ファイバ母材10を形成する。
【0020】
例えば、製造装置100において製造される光ファイバ母材10は、ターゲットロッド104及び堆積スート104aからなる。OVD工程では、出発基材としてのターゲットロッド104は光ファイバのコア部とクラッド部の一部になる部分である。堆積スート104aは、ターゲットロッド104の外周に形成される。堆積スート104aは、光ファイバのクラッド部になる部分である。
【0021】
トラバースモータ108は、回転駆動することで、ガイドレール107に沿ってバーナ106を往復移動させる。ガイドレール107は、ターゲットロッド104の長手方向Lと平行に設置された部材である。ガイドレール107には、例えば螺旋状の溝が外周に形成されている。また、バーナ106の土台部分には、ガイドレール107の溝と嵌め合う溝が形成されている。このため、トラバースモータ108の回転によりガイドレール107が回転すると、バーナ106が移動する。このように、トラバースモータ108及びガイドレール107は、バーナ106の移動機構を構成する。
【0022】
一対のローラ109a、109bは、バーナ106の移動領域であるガイドレール107を間に挟んで対向配置されている。また、一対のローラ109a、109bには、遮熱カーテン111が掛け渡されている。一対のローラ109a、109bは、バーナ106と遮熱カーテン111が一体して移動する際に、遮熱カーテン111から受ける力によって回転する。
【0023】
図1において、ローラ位置移動機構110は、一対のローラ109a、109bにそれぞれ接続されている。ローラ位置移動機構110は、矢印に示されるように一対のローラ109a、109bを水平方向にそれぞれ移動できる。ただし、ローラ位置移動機構110は、ローラ109a、109bの両方を移動しなくてもよい。すなわち、ローラ位置移動機構110は、一対のローラ109a、109bの少なくとも1つを駆動することで、一対のローラ109a、109bのローラ間の距離を調整する。これにより、本実施形態のローラ位置移動機構110は、遮熱カーテン111に対して矢印方向(水平方向)に張力を印加する張力印加機構を構成する。
【0024】
遮熱カーテン111は、ターゲットロッド104の長手方向Lに沿って、バーナ106と一体となって移動する帯状の遮熱部材である。遮熱カーテン111は、バーナ106からの輻射熱を十分に遮熱できる遮熱性(断熱性)と、一対のローラ109a、109bに巻き掛けることができる柔軟性とを兼ね備える素材によって形成されると好適である。
【0025】
図2は、本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置100における内部構造を説明する斜視図である。なお、
図2においては、説明の便宜上、ガイドレール107やトラバースモータ108等の図示を省略している。また、図中の一点鎖線は、装置内での熱の移動方向の一例を示している。
【0026】
図2に示されるように、バーナ106と遮熱カーテン111は、一体化されている。バーナ106における火炎FLの放出部分は、遮熱カーテン111に形成された貫通孔111aを通りターゲットロッド104側に突出している。
【0027】
また、
図2は、バーナ106による輻射熱から遮熱される遮熱対象物Tが、無端のベルト状に形成された遮熱カーテン111の内側の空間内に配置される一例を示している。遮熱対象物Tの具体例としては、上述した原料ガス供給ライン113、キャリアガス供給ライン115及び燃焼ガス供給ライン117等の配管の他、電子機器(不図示)、機械部品、制御ケーブル等が挙げられる。なお、遮熱対象物Tの配置はこれに限られない。遮熱対象物Tは、遮熱カーテン111を挟んでターゲットロッド104とは反対側に配置されていればよい。
【0028】
図3は、本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置100において遮熱カーテン111に張力を印加する構造を説明する模式図である。ローラ位置移動機構110は、一対のローラ109a、109bのうちの少なくとも1つを駆動し、ローラ間の距離を調整する。例えば、
図3に示すように、ローラ位置移動機構110がローラ109aを矢印C1の方向(左方向)に、ローラ109bを矢印C2の方向(右方向)にそれぞれ駆動した場合には、一対のローラ109a、109bのローラ間の距離が拡がり、遮熱カーテン111に張力が印加される。逆に、ローラ位置移動機構110がローラ109aを右方向に、ローラ109bを左方向にそれぞれ駆動した場合には、一対のローラ109a、109bのローラ間の距離が狭まり、遮熱カーテン111に付加される張力は低減する。
【0029】
図4A及び
図4Bは、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置100において遮熱カーテン111とバーナ106との間で作用する力を説明する模式図である。
図4Aに示すように、バーナ106が矢印Aの方向へ移動する場合には、遮熱カーテン111は、バーナ106の端部Pから長手方向Lに沿って押し出す力を受けて矢印Dの方向へ移動する。同時に、遮熱カーテン111は、バーナ106の端部Qから長手方向Lに沿って引き取る力を受け、矢印Eの方向へ移動する。押し出す力の方向と引き取る力の方向は同一である。
【0030】
一方、
図4Bに示すように、バーナ106が矢印Bの方向へ移動する場合には、遮熱カーテン111は、バーナ106の端部Qから長手方向Lに沿って押し出す力を受けて矢印Fの方向へ移動する。同時に、遮熱カーテン111は、バーナ106の端部Pから長手方向Lに沿って引き取る力を受け、矢印Gの方向へ移動する。押し出す力の方向と引き取る力の方向は同一である。
【0031】
原料ガス供給装置112は、制御系からの指示に従い、図示しないマスフローコントローラと原料ガス供給ライン113とを介して光ファイバ母材合成の原料ガスをバーナ106に供給する。
【0032】
原料ガスとしては、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメトキシメチルシラン、テトラメトキシシラン等を用いることができる。
【0033】
キャリアガス供給装置114は、制御部200からの指示に従い、マスフローコントローラ(不図示)とキャリアガス供給ライン115とを介してバーナ106にキャリアガスを供給する。キャリアガスは、バーナ106内で原料ガスと混合される。
【0034】
キャリアガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、酸素と不活性ガスとの混合ガス、酸素を用いることができる。
【0035】
燃焼ガス供給装置116は、制御系からの指示に従い、マスフローコントローラ(不図示)と燃焼ガス供給ライン117とを介してバーナ106に燃焼ガスを供給する。燃焼ガスには、例えば、水素、酸素が含まれる。
【0036】
排気機構118は、ターゲットロッド104を介してガイドレール107に対向するように、ガイドレール107の側を向いて設置されている。排気機構118は、バーナ106による火炎FLの燃焼後の排気を排気口に集めるために、バーナ106の水平方向に沿った移動領域(可動域)の全てにわたって排気フード(図示しない)を有してもよい。
【0037】
また、排気機構118は、図示しないポンプ及び弁を有しており、制御部200からの指示に従って該ポンプを駆動することにより、反応容器101の給気側から排気側に向う気体(排気ガスG1)の流れを形成し、反応容器101内の排気を行う。すなわち、ターゲットロッド104上に堆積できなかった余剰なガラススートは排気機構118により排気される。これにより、バーナ106の火炎FLを安定化させることができる。
【0038】
図5は、本実施形態に係る制御系の概略構成を示すブロック図である。制御部200は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU(Central Processing Unit)201と、CPU201によって実行される様々な制御プログラムなどを格納するROM(Read Only Memory)202とを有する制御装置である。また、制御部200は、CPU201の処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)203と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの不揮発性メモリ204とを更に有する。
【0039】
また、制御部200には、所定の指令あるいはデータなどを入力するキーボードあるいは各種スイッチなどを含む入力操作部205と、製造装置100の入力・設定状態などをはじめとする種々の表示を行う表示部206(例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ)とが接続されている。
【0040】
また、制御部200には、スピンドル機構102、バーナ106、トラバースモータ108、ローラ位置移動機構110、原料ガス供給装置112、キャリアガス供給装置114、燃焼ガス供給装置116、及び排気機構118がそれぞれ駆動回路207a~207hを介して接続されている。このように、製造装置100の各機器は制御部200によって制御される。
【0041】
以下、上述のように構成された製造装置100の動作について図面を参照しながら説明する。
【0042】
図6は、本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置100におけるガラススート形成時の処理の一例を示すフローチャートである。なお、この処理は一例であり、任意に変更可能である。
【0043】
先ず、制御部200は、スピンドル機構102を制御し、反応容器101内に出発基材であるターゲットロッド104を搬入し(ステップS101)、所定の位置にターゲットロッド104を配置する(ステップS102)。
【0044】
次に、制御部200は、ROM202又はRAM203に記憶されている製造条件を参照し、ガラススート形成工程を開始する(ステップS103)。
【0045】
制御部200は、ガラススート形成工程において、ターゲットロッド104の外周面にガラススートを堆積させる(ステップS104)。
【0046】
具体的には、ガラススート形成工程において、制御部200は、スピンドル機構102を制御し、ターゲットロッド104を回転軸として回転方向Rにターゲットロッド104を回転させる。
【0047】
また、ガラススート形成工程において、制御部200は、燃焼ガス供給装置116を制御してバーナ106に燃焼ガスを供給してバーナ106で火炎FLを形成するとともに、原料ガス供給装置112からバーナ106に供給されたガラス原料ガスを火炎FL内で加水分解してガラススート(ガラス微粒子)を形成し、ガラススートを含む火炎FLをターゲットロッド104に吹きつける。これにより、ターゲットロッド104の外周面にガラススートが堆積する。
【0048】
次に、制御部200は、出発基材(ターゲットロッド104)の長手方向Lに沿って、バーナ106及び遮熱カーテン111を一体的に往復移動させる(ステップS105)。
【0049】
具体的には、制御部200は、ターゲットロッド104の長手方向Lに沿って移動しているバーナ106の位置がターゲットロッド104の左端又は右端に達すると、トラバースモータ108の回転を制御し、バーナ106の移動方向を逆方向に切り替える。往復運動の繰り返しにより、ガラススートが長手方向Lにおいて均一の厚みでターゲットロッド104の外周面に堆積される。
【0050】
また、遮熱カーテン111は、一対のローラ109a、109bに掛け渡され、バーナ106と一体化されている。バーナ106が長手方向Lに沿って移動すると、遮熱カーテン111も同一方向に移動するため、一対のローラ109a、109bは遮熱カーテン111の移動に伴って回転する。遮熱カーテン111は、一対のローラ109a、109bが回転することにより、円滑に移動できる。
【0051】
次に、制御部200は、経過時間がガラススート形成工程の終了時間であるか否かを判定する(ステップS106)。
【0052】
ここで、制御部200は、経過時間が終了時間であると判定した場合(ステップS106:YES)には、処理はステップS107へ移行する。
【0053】
これに対し、制御部200は、経過時間が終了時間ではないと判定した場合(ステップS106:NO)には、処理はステップS104へ戻る。
【0054】
次に、制御部200は、ガラススート形成工程を終了する(ステップS107)。具体的には、制御部200は、原料ガス供給装置112、キャリアガス供給装置114及び燃焼ガス供給装置116をそれぞれ制御し、ガス供給を停止する。また、制御部200は、スピンドル機構102を制御し、ターゲットロッド104の回転を停止する。
【0055】
そして、制御部200は、スピンドル機構102を介してターゲットロッド104を駆動し、ターゲットロッド104の表面にガラススートが堆積した光ファイバ母材10を反応容器101から搬出し(ステップS108)、処理を終了する。
【0056】
以上のように、本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置100によれば、遮熱カーテン111がバーナ106と一体的に移動する。これにより、バーナ106からの輻射熱による遮熱対象物Tの劣化及び変性を抑制でき、その結果、故障や発塵のリスクを低減できる。また、遮熱対象物Tが制御系の電子部品である場合には、熱による制御系の誤動作も抑制し得る。
【0057】
本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置100によれば、バーナ106及びバーナ106により加熱されるターゲットロッド104(光ファイバ母材)に対して、各種の遮熱対象物T(配管、駆動部品、制御ケーブル等)が遮熱カーテン111を挟んで反対側に配置される。これにより、バーナ106からの輻射熱による遮熱対象物Tの劣化及び変性を更に抑制できる。
【0058】
図7は、本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置100との比較例となる製造装置における内部構造を説明する斜視図である。
図7に示す装置では、製造装置100の場合と異なり、2つに分かれた遮熱カーテン111の間に、バーナ106が移動するための開口部OP(隙間)が存在している。この場合、遮熱カーテン111がバーナ106の近傍に設けられていても、バーナ106による輻射熱は開口部OPを介して遮熱対象物Tに伝わってしまう。
【0059】
これに対し、本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置100によれば、遮熱カーテン111には、ターゲットロッド104と対向する面側に、バーナ106が遮熱カーテン111に形成された貫通孔111aに嵌入するように設けられている。バーナ106の吐出口は、ターゲットロッド104側に突出している。バーナ106の吐出口の周囲には、遮熱カーテン111が隙間なく延在している。輻射熱の影響を最も受けるバーナ106の近傍に遮熱カーテン111が存在しているため、比較例のような装置構造の場合よりもバーナ106からの輻射熱を確実に遮熱できる。
【0060】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置300について
図8を用いて説明する。
図8は、本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置300において遮熱カーテン111に張力を印加する構造を説明する模式図である。なお、上述した第1実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置100と同様の構成要素については同一の符号を付し説明を省略し又は簡略にする。
【0061】
本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置300の基本的構成は、第1実施形態に係る製造装置100の構成とほぼ同様である。製造装置300は、張力印加機構を構成する部材が製造装置100と異なっている。
【0062】
図8に示すように、製造装置300では、遮熱カーテン111において熱源であるバーナ106が設けられている面とは反対側であって一対のローラ109a、109bの下方に位置する面の一部に、バネ119が設けられている。バネ119は、矩形状の遮熱カーテン111の一端部と他端部とを連結しており、長手方向Lに沿って伸縮する弾性部材である。遮熱カーテン111は、バネ119を介して両端部が連結されることで、輪形状をなしている。遮熱カーテン111が一対のローラ109a、109bに掛け渡されたとき、バネ119では、一端部が矢印Jの方向に、他端部が矢印Kの方向に移動するように弾性変形する。これにより、バネ119は、遮熱カーテン111に対して張力を印加できる。
【0063】
以上のように、本実施形態に係る製造装置300では、遮熱カーテン111に対してバネ119から張力が印加される。すなわち、一対のローラ109a、109bを駆動することなく、第1実施形態の場合よりも簡易な構造によって遮熱カーテン111に対して張力を印加できる。また、遮熱カーテン111を一対のローラ109a、109bに掛け渡す際又は取り外す際にはバネ119の伸縮を利用することで、遮熱カーテン111の取り付け及び取り外しも容易になる、
【0064】
また、本実施形態に係る製造装置300によれば、ローラ位置移動機構110を省略することができるため、製造コストを更に抑制できる利点もある。
【0065】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置400について
図9を用いて説明する。
図9は、本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置400の全体構成を示す概略図である。なお、上述した第1実施形態に係る光ファイバ母材の製造装置と同様の構成要素については同一の符号を付し説明を省略し又は簡略にする。
【0066】
本実施形態に係る光ファイバ母材10の製造装置400の基本的構成は、第1実施形態の構成とほぼ同様である。製造装置400は、一対のローラ109a、109bに加えて、ローラ109c、109dを更に備える点で製造装置100と異なっている。
【0067】
図9に示すように、ローラ109c、109dは、鉛直方向(図中、上下方向)においてローラ109a、109bから離間して配置される。そして、遮熱カーテン111は、4つのローラ109a~109dに掛け渡されている。
【0068】
以上のように、本実施形態に係る製造装置400では、遮熱カーテン111が4つのローラ109a~109dに掛け渡されるため、遮熱カーテン111の内側には、第1実施形態の場合よりも更に広い空間が形成される。その結果、当該内部空間に遮熱対象物Tが配置された場合には、第1実施形態の場合よりも輻射熱からの影響を受けにくくできる効果を奏する。
【0069】
なお、上述した実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0070】
[変形実施形態]
上述した実施形態では、遮熱カーテン111が掛け渡されるローラの数が2つ又は4つの場合について例示したが、ローラの数はこれらに限られない。例えば、ローラは、少なくとも2つあればよく、3つ以上としてもよい。
【0071】
上述した実施形態では、バーナ106による輻射熱から遮熱する遮熱対象物Tが、遮熱カーテン111の内側の空間に配置される場合について例示したが、遮熱対象物Tが配置される位置は、遮熱カーテン111の内側の空間でなくてもよい。遮熱対象物Tは、遮熱カーテン111を挟んでターゲットロッド104とは反対側に配置されていればよい。例えば、遮熱対象物Tは、鉛直方向において、遮熱カーテン111の底面の下側に配置されてもよい。
【0072】
上述した第2実施形態では、張力印加機構の一例としてバネ119を用いる一例を示したが、他の弾性部材を用いてもよい。例えば、バネ119の代わりに、樹脂製の弾性部材を用いてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10・・・光ファイバ母材
100,300,400・・・製造装置
101・・・反応容器
102・・・スピンドル機構
103・・・チャック
104・・・ターゲットロッド
105・・・ダミーロッド
106・・・バーナ
107・・・ガイドレール
108・・・トラバースモータ
109a、109b、109c、109d・・・ローラ
110・・・ローラ位置移動機構
111・・・遮熱カーテン
111a・・・貫通孔
112・・・原料ガス供給装置
113・・・原料ガス供給ライン
114・・・キャリアガス供給装置
115・・・キャリアガス供給ライン
116・・・燃焼ガス供給装置
117・・・燃焼ガス供給ライン
118・・・排気機構
119・・・バネ
200・・・制御部
201・・・CPU
202・・・ROM
203・・・RAM
204・・・不揮発性メモリ
205・・・入力操作部
206・・・表示部
207a~207h・・・駆動回路