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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184322
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】貼付剤の製造方法および貼付剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/32 20060101AFI20221206BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092097
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土居 真
(72)【発明者】
【氏名】高須 展夫
(72)【発明者】
【氏名】花輪 剛久
(72)【発明者】
【氏名】河野 弥生
(72)【発明者】
【氏名】石川 葉月
(72)【発明者】
【氏名】日塔 理恵子
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA72
4C076EE06
4C076FF01
4C076FF63
4C076GG01
(57)【要約】
【課題】貼付剤の使用時における薬剤血中濃度をより安定化させることができ、濃度の管理を容易に行うこと。
【解決手段】ハイドロゲルからなるゲル状部を有する貼付剤の製造方法であって、ハイドロゲルを構成する高分子材料を含む高分子溶液を所定の厚さに塗布する塗布工程と、塗布された高分子溶液に放射線を照射することによりゲル化させてゲル層を形成する硬化工程と、塗布工程と硬化工程とを順次複数回実行することにより、ゲル層を複数層積層させてゲル状部を形成する積層工程と、を含み、硬化工程において、高分子溶液の放射線の吸収線量の分布における浸透深さが、所定の厚さより大きく、かつ吸収線量の分布がピークとなる深さが所定の厚さ未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロゲルからなるゲル状部を有する貼付剤の製造方法であって、
前記ハイドロゲルを構成する高分子材料を含む高分子溶液を所定の厚さに塗布する塗布工程と、
塗布された前記高分子溶液に放射線を照射することによりゲル化させてゲル層を形成する硬化工程と、
前記塗布工程と前記硬化工程とを順次複数回実行することにより、前記ゲル層を複数層積層させて前記ゲル状部を形成する積層工程と、を含み、
前記硬化工程において、前記高分子溶液の前記放射線の吸収線量の分布における浸透深さが、前記所定の厚さより大きく、かつ前記吸収線量の分布がピークとなる深さが前記所定の厚さ未満である
ことを特徴とする貼付剤の製造方法。
【請求項2】
前記貼付剤が、前記ゲル状部に薬剤が含有されて構成され、
前記薬剤の放出側または前記放出側の反対側に形成される少なくとも1層の第1ゲル層を形成する前記高分子溶液に照射する前記放射線の照射量と、前記第1ゲル層が形成された側とは反対側に形成される少なくとも1層の第2ゲル層を形成する前記高分子溶液に照射する前記放射線の照射量とが異なる
ことを特徴とする請求項1に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項3】
前記貼付剤が、前記ゲル状部に薬剤が含有されて構成され、
前記薬剤の放出側または前記放出側の反対側に形成される少なくとも1層の第1ゲル層となる前記高分子溶液に照射する前記放射線の照射量が、前記第1ゲル層が形成された側とは反対側に形成される少なくとも1層の第2ゲル層となる前記高分子溶液に照射する前記放射線の照射量よりも大きい
ことを特徴とする請求項1または2に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項4】
前記硬化工程において、前記放射線が電子線である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項5】
前記放射線の照射エネルギーが40keV以上500keV以下である
ことを特徴とする請求項4に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項6】
前記電子線の前記高分子溶液に照射する照射量の前記高分子溶液の表面から10g/m2以上50g/m2以下の深さまでの平均値が、5kGy以上300kGy以下である
ことを特徴とする請求項4または5に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項7】
前記ゲル層における所望とする拡散係数に基づいて、前記高分子溶液に照射する前記放射線の照射量を選択する
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項8】
前記高分子材料がポリビニルアルコールを含む
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項9】
前記高分子溶液に薬剤が含有されている
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項10】
前記ゲル層を形成した後に、前記ゲル層に薬剤を添加する
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項11】
ハイドロゲルからなるゲル状部を有する貼付剤であって、
前記ゲル状部が、複数のゲル層が積層されて構成される
ことを特徴とする貼付剤。
【請求項12】
前記ゲル状部は、前記ハイドロゲルを構成する高分子材料を含む高分子溶液の塗布と、前記高分子溶液に対する放射線によるゲル化とによる前記ゲル層が複数積層されてなる
ことを特徴とする請求項11に記載の貼付剤。
【請求項13】
前記複数のゲル層のうちの少なくとも1層の第1ゲル層の拡散係数と、
前記複数のゲル層のうちの前記第1ゲル層とは異なる少なくとも1層の第2ゲル層の拡散係数とが異なる
ことを特徴とする請求項11または12に記載の貼付剤。
【請求項14】
前記ゲル状部が薬剤を含み、
前記第1ゲル層が前記薬剤の放出側または前記放出側とは反対側に設けられ、前記第2ゲル層が前記第1ゲル層の形成された側とは反対側に設けられ、
前記第1ゲル層の拡散係数が、前記第2ゲル層の拡散係数より小さい
ことを特徴とする請求項13に記載の貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼付剤の製造方法および貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬物治療において、利便性の観点から経口製剤が繁用されている。ところが、薬物には苦味や不快な味を有するものが多く、患者の服薬に関するアドヒアランスの低下の原因となっている。そこで、近年、経皮吸収型製剤としてハイドロゲルなどの各種ゲルが着目されている。ハイドロゲルは、創傷被覆材や経皮吸収用粘着ゲルなどに使用されている。
【0003】
特許文献1には、ビソプロロールおよび/またはその薬学的に許容される塩を含む貼付剤であって、該ビソプロロールのヒト皮膚(腹部)透過速度の24時間値が、ヒト皮膚(腹部)透過速度の最大値の15~60%であり、該貼付剤の基剤が、分子中にカルボキシル基を含有するアクリル酸を含むアクリル系高分子を含み、一日一回の繰り返し投与用である貼付剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/080199号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術においては、薬剤血中濃度を治療濃度域である有効域に維持するために、約1日毎に貼付剤の交換が必要になるのみならず、薬剤血中濃度の増減変化が大きく不安定であるため、濃度の管理が困難であるという問題がある。そのため、薬剤血中濃度を安定化させることができ、濃度の管理が容易になる貼付剤が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、貼付剤の使用時における薬剤血中濃度をより安定化させることができ、濃度の管理を容易に行うことができる貼付剤の製造方法および貼付剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る貼付剤の製造方法は、ハイドロゲルからなるゲル状部を有する貼付剤の製造方法であって、前記ハイドロゲルを構成する高分子材料を含む高分子溶液を所定の厚さに塗布する塗布工程と、塗布された前記高分子溶液に放射線を照射することによりゲル化させてゲル層を形成する硬化工程と、前記塗布工程と前記硬化工程とを順次複数回実行することにより、前記ゲル層を複数層積層させて前記ゲル状部を形成する積層工程と、を含み、前記硬化工程において、前記高分子溶液の前記放射線の吸収線量の分布における浸透深さが、前記所定の厚さより大きく、かつ前記吸収線量の分布がピークとなる深さが前記所定の厚さ未満であることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る貼付剤の製造方法は、上記の発明において、前記貼付剤が、前記ゲル状部に薬剤が含有されて構成され、前記薬剤の放出側または前記放出側の反対側に形成される少なくとも1層の第1ゲル層を形成する前記高分子溶液に照射する前記放射線の照射量と、前記第1ゲル層が形成された側とは反対側に形成される少なくとも1層の第2ゲル層を形成する前記高分子溶液に照射する前記放射線の照射量とが異なることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る貼付剤の製造方法は、上記の発明において、前記貼付剤が、前記ゲル状部に薬剤が含有されて構成され、前記薬剤の放出側または前記放出側の反対側に形成される少なくとも1層の第1ゲル層となる前記高分子溶液に照射する前記放射線の照射量が、前記第1ゲル層が形成された側とは反対側に形成される少なくとも1層の第2ゲル層となる前記高分子溶液に照射する前記放射線の照射量よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る貼付剤の製造方法は、上記の発明において、前記硬化工程において、前記放射線が電子線であることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る貼付剤の製造方法は、この構成において、前記放射線の照射エネルギーが40keV以上500keV以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る貼付剤の製造方法は、これらの構成において、前記電子線の前記高分子溶液に照射する照射量の前記高分子溶液の表面から10g/m2以上50g/m2以下の深さまでの平均値が、5kGy以上300kGy以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る貼付剤の製造方法は、上記の発明において、前記ゲル層における所望とする拡散係数に基づいて、前記高分子溶液に照射する前記放射線の照射量を選択することを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る貼付剤の製造方法は、上記の発明において、前記高分子材料がポリビニルアルコールを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る貼付剤の製造方法は、上記の発明において、前記高分子溶液に薬剤が含有されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る貼付剤の製造方法は、上記の発明において、前記ゲル層を形成した後に、前記ゲル層に薬剤を添加する。
【0017】
本発明の一態様に係る貼付剤は、ハイドロゲルからなるゲル状部を有する貼付剤であって、前記ゲル状部が、複数のゲル層が積層されて構成されることを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る貼付剤は、上記の発明において、前記ゲル状部は、前記ハイドロゲルを構成する高分子材料を含む高分子溶液の塗布と、前記高分子溶液に対する放射線によるゲル化とによる前記ゲル層が複数積層されてなることを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る貼付剤は、上記の発明において、前記複数のゲル層のうちの少なくとも1層の第1ゲル層の拡散係数と、前記複数のゲル層のうちの前記第1ゲル層とは異なる少なくとも1層の第2ゲル層の拡散係数とが異なることを特徴とする。
【0020】
本発明の一態様に係る貼付剤は、この構成において、前記ゲル状部が薬剤を含み、前記第1ゲル層が前記薬剤の放出側または前記放出側とは反対側に設けられ、前記第2ゲル層が前記第1ゲル層の形成された側とは反対側に設けられ、前記第1ゲル層の拡散係数が、前記第2ゲル層の拡散係数より小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る貼付剤の製造方法および貼付剤は、貼付剤の使用時における薬剤血中濃度を安定化させることができ、濃度の管理を容易に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の一実施形態による貼付剤の製造装置の概略構成を示す概略図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による貼付剤の製造装置の概略を示す側面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態による貼付剤の製造装置における電子線の照射エネルギーごとの吸収線量と浸透深さとの関係を示すグラフである。
図4図4は、本発明の一実施形態による貼付剤の製造装置による5層のゲル状部を製造する場合の電子線の吸収線量および積算量を示すグラフである。
図5図5は、本発明の一実施形態による貼付剤の構成の第1変形例を示す断面図である。
図6図6は、本発明の一実施形態による貼付剤の構成の第2変形例を示す断面図である。
図7図7は、本発明の一実施形態による貼付剤の構成の第2変形例のさらなる変形例を示す断面図である。
図8A図8Aは、本発明の一実施形態による貼付剤の構成の第2-1変形例を示す断面図である。
図8B図8Bは、本発明の一実施形態による貼付剤の構成の第2-2変形例を示す断面図である。
図8C図8Cは、本発明の一実施形態による貼付剤の構成の第2-3変形例を示す断面図である。
図9図9は、本発明の一実施形態による貼付剤の構成の第2-3変形例を示す断面図である。
図10図10は、本発明の一実施形態の第1実施例および第2実施例による貼付剤のゲル状部における層ごとの吸収線量および積算量を示すグラフである。
図11図11は、本発明の一実施形態の第3実施例による貼付剤のゲル状部における層ごとの吸収線量および積算量を示すグラフである。
図12図12は、本発明の一実施形態の第4実施例による貼付剤のゲル状部における層ごとの吸収線量および積算量を示すグラフである。
図13図13は、本発明の一実施形態の第1~第3実施例による貼付剤の溶出試験結果における照射量ごとの亜鉛の溶出率の時間変化を示すグラフである。
図14図14は、本発明の一実施形態による貼付剤の製造方法における電子線の照射量に応じた時定数および膨潤速度の変化を示すグラフである。
図15図15は、本発明の一実施形態による貼付剤を使用した場合の照射量の種類ごとの薬剤血中濃度の時間変化を示すグラフである。
図16図16は、本発明の一実施形態の第5実施例による貼付剤のゲル状部における層ごとの吸収線量および積算量を示すグラフである。
図17図17は、本発明の一実施形態の第6実施例による貼付剤のゲル状部における層ごとの吸収線量および積算量を示すグラフである。
図18図18は、その他の実施例による貼付剤内の膜厚方向の薬剤濃度の時間変化を示すグラフである。
図19図19は、本発明の一実施形態のその他の実施例および比較例による貼付剤を使用した場合の薬剤血中濃度の時間変化を示すグラフである。
図20図20は、本発明の一実施形態による貼付剤のゲル状部の製造方法の第3変形例を説明するための断面図および照射量分布を示すグラフである。
図21A図21Aは、本発明の一実施形態による貼付剤のゲル状部の製造方法の第4変形例を説明するための断面図およびゲル内薬剤濃度分布を示すグラフである。
図21B図21Bは、本発明の一実施形態の第4変形例を説明するための薬剤血中濃度の投与時間変化を示すグラフである。
図22図22は、本発明の一実施形態による貼付剤のゲル状部の製造方法の第5変形例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の一実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。
【0024】
(貼付剤の製造装置)
先ず、本発明の一実施形態による貼付剤の製造装置について説明する。図1は、一実施形態による貼付剤の製造装置の概略構成を示す概略図である。
【0025】
図1に示すように、一実施形態による貼付剤の製造装置1は、電子線照射部11、および供給ノズル12aを有するゲル溶液供給部12を有して構成される。また、電子線照射部11における電子線の照射側には、ハイドロゲルからなるゲル状部21を支持するための支持体13が設けられている。なお、貼付剤をゲル状部21のみから構成する場合は、支持体13とゲル状部21とを容易に剥離するために、支持体13の材料としては、ゲル状部21が固着しない材料が選ばれる。一方、支持体13を貼付剤の一部としたり支持体13にゲル状部21を固着させたりする場合には、支持体13の材料としては、ゲル状部21が固着しやすい材料が選ばれる。
【0026】
支持体13上には、ゲルを複数層に積層させるための積層部14が設けられている。積層部14は、ゲル化される前の溶液を所定領域に制限するための領域確定手段である。本実施形態によるゲル化される前の溶液の溶質としては、電子線などの放射線によって架橋しゲル化可能な各種の高分子材料を採用できる。高分子材料としては具体的に例えば、以下の化学式(1)で表されるポバールや化学式(2)で表されるエクセバール(登録商標)や(いずれも、クラレ社製)などのポリビニルアルコール(PVA)系樹脂を採用できる。
【0027】
【化1】
なお、m、nは自然数である。
【0028】
【化2】
なお、Rは疎水基、m、nは自然数である。
【0029】
また、上述した材料以外にも、セルロース系の高分子材料として、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース(低分子量~高分子量)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびメチルセルロースなどが挙げられる。水溶性合成樹脂からなる高分子材料として、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド(低分子量~高分子量)などが挙げられる。糖鎖の高分子材料としては、κ(カッパ)またはι(イオタ)カラギーナン、およびアルギン酸ナトリウムが挙げられる。高分子材料としては、アクリル酸、およびポリビニルピロリドン(PVP)(低分子量~高分子量)などが挙げられる。また、ゲル化される前の溶液の溶媒としては、水が挙げられるが、必ずしも水に限定されない。さらに、高分子材料の水溶液に、貼付剤から放出するための薬剤を添加しておくことも可能である。
【0030】
(貼付剤の製造方法)
次に、本実施形態による貼付剤の製造方法について説明する。図2は、貼付剤の製造方法を説明するための貼付剤の製造装置の側面図である。図2に示すように、まず、上述した高分子溶液211を、供給ノズル12aから積層部14内の底面、すなわち支持体13の表面に滴下して塗布する塗布工程を行う。ここで、高分子溶液211は、1回の滴下によって典型的には、例えば0.01mm以上0.5mm以下の範囲で、例えば、0.1mm以上1.5mm以下の貼付剤の厚さに対して適切な膜厚、例えば積層数が4層~10層の範囲になるように滴下して塗布される。
【0031】
なお、滴下時に支持体13を回転させたり(スピンコート法)、滴下後にブレード板を走査させたり(ブレード法)することによって、塗布膜厚を均一化しても良い。また、積層部14を設けることなく、支持体13の全面に高分子溶液211を塗布しても良い。さらに、上述の方法以外にも、ディップ法や沈降法などの塗布膜厚を所定な膜厚で均一化することができる方法であれば、種々の方法を採用することができる。
【0032】
次に、電子線照射部11から積層部14内の高分子溶液211に所定の照射エネルギーおよび所定の照射量で電子線を照射する。照射エネルギーおよび照射量の詳細については、後述する。電子線照射部11は、積層部14内の高分子溶液211に電子線を照射しつつ走査する。ここで、走査速度Vは、例えば1~10m/min程度であるが限定されない。高分子溶液211に含まれる高分子材料に電子線が照射されると、電子線の照射エネルギーによって分子結合が切断されて、活性点(ラジカル)が発生し、分子鎖間でラジカルが反応することによって、結合を形成する架橋反応が生じる硬化工程が実行される。高分子溶液211においては、含有される高分子材料に架橋反応が生じるとゲル化して硬化する。この硬化工程により、ゲル状の層(以下、ゲル層)が形成される。
【0033】
このような高分子溶液211の塗布および電子線の照射を、順次、複数回行うことによって積層工程が実行される。積層工程において、積層部14内に複数のゲル層21a,21b,21c,21dが積層された積層構造を有するゲル状部21が形成される。なお、高分子溶液211の滴下、および電子線の照射を繰り返す回数は、2回以上であれば良く、好適には4回であるが、3回であっても5回以上であっても良い。
【0034】
ここで、高分子溶液211に対する電子線の照射の影響について説明する。図3は、本実施形態による貼付剤の製造装置1における電子線の照射エネルギーごとの吸収線量と浸透深さとの関係を示すグラフである。なお、図3に示すグラフは、水または水溶液に対して電子線を照射した場合を示し、吸収線量は相対値である。
【0035】
図3に示すように、電子線の照射エネルギーを50keVとした場合、電子線が到達する浸透深さは50μm程度であって、吸収線量は、液面から増加して深さが15μm程度で最大になる。また、電子線の照射エネルギーを75keVとした場合、電子線が到達する浸透深さは100μm程度、吸収線量は液面から増加して深さが30μm程度で最大となる。すなわち、電子線の照射エネルギーを増加させると、浸透深さおよび吸収線量が最大になる深さは増加する一方、吸収線量の最大値は、照射エネルギーが50keVの場合に比して小さくなる。電子線の照射エネルギーを100keVとした場合には、電子線が到達する浸透深さは200μm程度、吸収線量は液面から増加して深さが50μm程度で最大になって、浸透深さおよび吸収線量が最大になる深さは増加する一方、最大値は照射エネルギーが50keVおよび75keVの場合に比して小さくなる。電子線の照射エネルギーを順次150keV、200keV、および250keVとした場合も、照射エネルギーの増加に伴って電子線の到達する浸透深さおよび吸収線量が最大になる深さは増加する一方、吸収線量の最大値は順次小さくなる。このように、吸収線量は、照射された上面から所定の深さで最大となり、この所定の深さの前後で低くなる山状の分布(以下、山状分布)を有する。また、吸収線量は、水(比重が1)などの液体に与えられるエネルギー分布に相当する。なお、水以外の他の液体、溶液、または溶媒であっても、線量と浸透深さ分布については、図3に示すグラフと相対的に同様の傾向を有すると考えられる。本発明者の知見によれば、浸透深さは比重に反比例する。そのため、横軸の浸透深さの単位をμmからg/m2に変更することによって、分布を算出できる。なお、電子線照射装置の走査、エリア照射などの方法、電子線取出し窓部および窓部から照射部までの距離、ガスなどの条件によって、エネルギー減衰や散乱による影響を受ける場合がある。そのため、照射エネルギーの絶対値や分布は装置条件によって異なるので、装置条件に合わせた適切な照射エネルギーや膜厚条件に制御することが好ましい。
【0036】
図3から、電子線に関しては、照射エネルギーを250keVとした場合であっても、浸透深さは800μm程度であって、浸透深さは浅いことが分かる。一方で、図3から、吸収線量に関しては、照射エネルギーが低くなるほど吸収線量の最大値が大きくなることが分かる。すなわち、電子線を水溶液などの液体に照射する場合、浸透深さを浅くしつつ溶液に与えるエネルギー効率を高くできることが分かる。これにより、照射エネルギーを大きくする必要性が低いことから、貼付剤の製造装置1における電子線照射部11を小型化できるとともに、遮蔽機構(図示せず)を簡易にできるので、低コスト化を図ることができる。さらに、照射エネルギーを抑制できるので、溶液に対する熱的な損傷を低減できる。また、電子線を照射することにより、滅菌や殺菌の効果を得ることができるので、いわゆるクリーンプロセスを実現できる。
【0037】
次に、高分子溶液211の滴下を4回、および電子線の照射を5回行うことによって、例えば4層のゲル層21a~21dからなるゲル状部21を形成する場合について説明する。図4は、本実施形態による貼付剤の製造装置1による4層のゲル層を積層させる場合の電子線の吸収線量および積算量を示すグラフである。なお、図4に示すグラフにおいては、膜厚が小さい側を薬剤の放出側とする。また、本実施形態においては、貼付剤の製造においては、ゲル層21a~21dを1層目から4層目まで順次積層させた後、さらに5回目の電子線(図4中、5層目)を照射する場合を例とする。
【0038】
ここで、図2に示すように、ゲル層21a~21dを順次積層させる場合、ゲル層21a~21dを1層形成するごとに、高分子溶液211の滴下および電子線の照射を行う。この場合、電子線の照射エネルギーが小さすぎると、浸透深さが不十分になって、滴下した高分子溶液211の一部がゲル化する一方で、残部において架橋反応が弱くゲル化が進行しない状態になる。そのため、1回に滴下する高分子溶液211の厚さに応じて、電子線の照射エネルギーを選択することが好ましい。
【0039】
すなわち、高分子溶液211を積層部14内に所定の厚さまで所定量滴下した後に、高分子溶液211に電子線を照射する一連の処理を繰り返すと、図4に示すように、それぞれのゲル層21a~21dにおける吸収線量の分布はそれぞれ、山状分布を有する。電子線の到達深さが、塗布された高分子溶液211の厚さよりも小さいと、電子線が到達していない部分のゲル化が進行しない。そこで、電子線の照射エネルギーは、塗布されゲル化していない高分子溶液211の厚さよりも電子線の到達深さが大きい照射エネルギーに選ぶことが好ましい。また、山状分布の吸収線量が最大となる到達深さが、塗布された高分子溶液211の厚さよりも大きくなると、すでにゲル化した下層のゲル層において吸収線量が最大をとることになるため、照射エネルギーの損失が大きくなる。そのため、照射エネルギーは、塗布された高分子溶液211の厚さよりも小さい到達深さにおいて、吸収線量が最大になるような照射エネルギーとすることが好ましい。以上のことを考慮すると、具体的に例えば、図4に示す例において、高分子溶液211の1回の滴下による厚さを例えば約250μmとすると、図3に示す吸収線量の分布に基づいて、電子線の照射エネルギーは、例えば200keV程度にすることが好ましい。
【0040】
また、ゲル状部21を形成するためには、それぞれのゲル層21a~21dを互いに接着させる必要がある。そこで、それぞれのゲル層21a~21dにおける吸収線量の山状分布の裾部分が重なるようにする。これにより、ゲル層21a~21dの間において、架橋によるゲル化に必要な電子線の吸収線量の積算量を確保できる。すなわち、電子線の吸収線量が山状分布であることから、ゲル層21a~21dのそれぞれの間において、下層のゲル層21a~21cの上面の架橋が深さ方向の中央部に比して弱い状態のまま、上層のゲル層21b~21dが形成されることになる。この場合に、上層のゲル層21b~21dの形成によって、下層のゲル層21a~21cとの界面部分において、架橋によるゲル化に必要な吸収線量の積算量を確保する。これにより、上層のゲル層21b~21dの下面と下層のゲル層21a~21cの上面との間で架橋反応を進めて、上層のゲル層21b~21dと下層のゲル層21a~21cとを接着させることができる。
【0041】
ところが、最上層のゲル層21dは、さらに上層にゲル層が存在しないため、積算量を確保するために、最後となる5回目の電子線の照射を行うことにより、吸収線量の積算量を確保する。ここで、最上層のゲル層21dにおいて架橋が弱い状態になる部分は、深さ方向に関してゲル層21dにおいて吸収線量が最大になる略中央部分より上方側(電子線が照射される側)となる。そのため、最後の電子線の照射における照射エネルギーとしては、ゲル層21dにおいて、最後から1回前である4回目の電子線の照射による吸収線量が最大になる部分より、浸透深さが大きく、かつ吸収線量が最大になる深さが小さい照射エネルギーを選択することが好ましい。これにより、最上層のゲル層21dの上部における吸収線量の積算量が確保されて、架橋反応が進むため、最上層のゲル層21dの上部においてもゲル化を促進することができる。なお、電子線の最後の照射における照射量は、最上層のゲル層21dの上部のゲル化が可能な照射量を選択することが好ましい。図4に示す例においては、ゲル層21a~21dの形成における照射量(kGy)を互いに同じ照射量とし、5回目(5層目)の照射量をゲル層21a~21dの形成における照射量(kGy)の例えば30%程度としている。以上により、支持体13上に複数のゲル層21a~21dが積層されたゲル状部21が形成され、貼付剤2が形成される。
【0042】
(第1変形例)
次に、上述した一実施形態の第1変形例による貼付剤について説明する。図5は、本実施形態による貼付剤の構成の第1変形例を示す断面図である。図5に示すように、第1変形例による貼付剤2Aは、支持体22、ゲル状部21、および剥離ライナー23から構成される。貼付剤2Aにおいては、一実施形態による支持体22の主面に、複数のゲル層21a~21dが積層された膏体としてのゲル状部21が設けられている。貼付剤2Aにおいては、ゲル状部21の支持体22とは反対側の面に、剥離紙としての剥離ライナー23が設けられている。なお、剥離ライナー23とゲル状部21との間に、粘着層が設けられていても良い。
【0043】
また、剥離ライナー23は、ゲル層21dの塗布後に配置し、電子線を照射することで、ゲル層21dのゲル化と剥離ライナーの密着および殺菌とを、併せて実施することも可能である。また、ゲル層21dのゲル化後に剥離ライナー23を設置して電子線を照射することにより、密着と殺菌を実施しても良い。さらに、剥離ライナー23とゲル状部21との剥離性、およびゲル状部21の皮膚との粘着性を有する最適条件に制御することが好ましい。なお、上述した順序と反対に、剥離ライナー23の上層にゲル状部21および支持体22を順次積層する事も可能である。
【0044】
第1変形例による貼付剤2Aは、剥離ライナー23を剥離した後、ゲル状部21のゲル層21dの側を対象物、例えば人体の皮膚などに貼り付けることにより、ゲル状部21に含まれている薬剤が皮膚に浸透して、人体などに吸収される。
【0045】
(第2変形例)
次に、上述した一実施形態の第2変形例による貼付剤について説明する。図6は、本実施形態による貼付剤の構成の第2変形例を示す断面図である。図6に示すように、第2変形例による貼付剤2Bは、支持体22、ゲル状部21、放出制御膜24、粘着層25、および剥離ライナー23を有して構成される。貼付剤2Bにおいては、一実施形態による支持体22の主面に、膏体としてのゲル状部21が設けられている。貼付剤2Bにおいては、ゲル状部21の支持体22とは反対側の面に、放出制御膜24が設けられている。放出制御膜24は、ゲル状部21に含まれる薬剤の放出を制御するための膜である。放出制御膜24のゲル状部21とは反対側に面には、粘着層25を介して剥離紙としての剥離ライナー23が設けられている。
【0046】
第2変形例による貼付剤2Bは、粘着層25から剥離ライナー23を剥離して、粘着層25を対象物、例えば人体の皮膚などに貼り付ける。これにより、ゲル状部21に含まれる薬剤が放出制御膜24によって放出量が制御され、皮膚に浸透して、人体などに吸収される。なお、放出制御膜24および粘着層25は、ハイドロゲル以外の材料とすることも可能であり、積層時における照射量を変化させることにより、ハイドロゲルによって放出制御性および粘着性に関して同様の機能を有する膜を形成することも可能である。
【0047】
上述した貼付剤2Bは、化学合成による低分子化合物の薬剤を放出する貼付剤であるが、さらにワクチンやホルモン製剤、抗体医薬、核酸医薬品などの、人体の表皮を透過しない中高分子化合物の薬剤を放出する貼付剤の場合、表皮を透過させるために、マイクロニードルを設置することが好ましい。図7は、第2変形例のさらなる変形例(第2-1変形例、第2-2変形例、第2-3変形例)による貼付剤2Bを示す断面図である。図8A図8B、および図8Cはそれぞれ、第2-1変形例、第2-2変形例、および第2-3変形例による図7に示す領域Sの部分の粘着層26を示す拡大断面図である。図7に示すように、第2-1~第2-3変形例による貼付剤においては、粘着層26の剥離ライナー23側に、マイクロニードルが形成されている。
【0048】
(第2-1変形例)
図7および図8Aに示すように、第2-1変形例による貼付剤2Bにおいては、マイクロニードル材である粘着層26Aがポーラス状(多孔質状)に構成されている。第2-1変形例による貼付剤2Bにおいては、粘着層26Aの全体が薬剤を透過する構造を有する。
【0049】
(第2-2変形例)
図7および図8Bに示すように、第2-2変形例による貼付剤2Bにおいては、マイクロニードル材である粘着層26Bのマイクロニードル間に孔29bが形成されている。第2-2変形例による貼付剤2Bにおいては、薬剤が、孔29bを通過してマイクロニードルの表面を浸透する構造を有する。
【0050】
(第2-3変形例)
図7および図8Cに示すように、第2-3変形例による貼付剤2Bにおいては、マイクロニードル材である粘着層26Bのそれぞれのマイクロニードルの略中心に、それぞれ細孔29cが形成されている。第2-3変形例による貼付剤2Bにおいては、薬剤が、細孔29cを通過する構造を有する。
【0051】
(第2-4変形例)
図9は、第2変形例のさらなる変形例である第2-4変形例による貼付剤2Bを示す断面図である。図9に示すように、第2変形例による貼付剤2Bの支持体22Aの表面の少なくとも一部、好適にはゲル状部21と接する部分の支持体22Aの全ての領域に、ゲル状部21の内部の水分を蒸発させるための細孔29aを設けることも可能である。支持体22Aの部分に適切に細孔29aを設けることによって、ゲル状部21から大気に水分が蒸発するため、薬剤の体内への吸収に伴うゲル状部21の内部の薬剤濃度の低下を抑制することができ、薬剤濃度を略一定に維持できる。これにより、薬剤の有効時間を延長させることができるとともに、バイオアベイラビリティをさらに向上させることが可能になる。なお、薬剤としては、低分子化合物、中分子化合物、および高分子化合物のいずれ化合物の薬剤であっても良い。
【0052】
(実施例)
次に、上述した一実施形態による貼付剤の製造方法に基づいた実施例について説明する。
【0053】
表1は、第1実施例、第2実施例、および第3実施例を示す。第1~第3実施例において電子線の照射における電子線加速電圧を約250kVとし、この場合の照射エネルギーは、上述したエネルギーの減衰の影響によって、200keV程度になる。また、高分子材料としては、化学式(1)に示す質量体積パーセント濃度が10%のPVAを用い、高分子溶液211に含有される薬剤を例えば質量体積パーセント濃度が5%の塩化亜鉛(ZnCl2)とする。1回の高分子溶液211の塗布する厚さは、約250μmとする。これにより、ゲル状部21の膜厚は1mm程度に形成される。さらに、ゲル層21dを薬剤の放出側とする。
【0054】
【表1】
【0055】
第1実施例においては、1層目のゲル層21aから4層目のゲル層21dの形成において、電子線の照射量を100kGyとする。なお、上述したように膜厚方向に沿って吸収線量が変化する分布を有し、エネルギーが低いことから、ゲル状部21に到達までの加速エネルギーの損失量も大きく電子線照射装置ごとに線量分布や照射エネルギー量が異なる。そのため、表1に記載された照射量の値はあくまでも参考値であって、それぞれの照射装置によって加速電圧や照射量などの条件が異なり適宜調整される。
【0056】
第2実施例においては、1層目のゲル層21aから4層目のゲル層21dの形成において、電子線の照射量を50kGyとする。第3実施例においては、1層目のゲル層21aから3層目のゲル層21cの形成における電子線の照射量を100kGyとし、4層目のゲル層21dの形成における電子線の照射量を半分の50kGyとする。第4実施例においては、第3の実施例とは反対に、1層目のゲル層21aから3層目のゲル層21cの形成における電子線の照射量を50kGyとし、4層目のゲル層21dの形成における電子線の照射量を2倍の100kGyとする。
【0057】
図10は、本実施形態の第1実施例および第2実施例による貼付剤2のゲル状部21における各ゲル層21a~21dの吸収線量および積算量を示すグラフである。図11は、本実施形態の第3実施例による貼付剤2のゲル状部21における各ゲル層21a~21dの吸収線量および積算量を示すグラフである。図12は、本実施形態の第4実施例による貼付剤2のゲル状部21における各ゲル層21a~21dの吸収線量および積算量を示すグラフである。なお、図10図11、および図12はそれぞれ、第1,第2実施例、第3実施例、および第4実施例による図4に対応するグラフであり、吸収線量は相対値である。
【0058】
図10に示すように、第1および第2実施例のように、1層目のゲル層21aから4層目のゲル層21dの形成において、それぞれ同じ照射量で照射した場合、山状分布の頂部がそれぞれのゲル層21a~21dの厚さの範囲内に存在し、吸収線量の山状分布の裾部が重なるようにする。これにより、1層目~4層目のゲル層21a~21dの形成において吸収線量の積算量が6~12(相対値)程度まで維持され、ゲル層21dの上面において吸収線量が低下する。これに対し、図11に示すように、4層目のゲル層21dの形成時における照射量を、1層目~3層目のゲル層21a~21cの半分程度にした場合、1層目~3層目のゲル層21a~21cの形成において吸収線量の積算量が6~12(相対値)程度に維持され、4層目のゲル層21dにおいて吸収線量の積算量が6以下に低下する。第4実施例においては、図12に示すように、第3実施例とは反対に、4層目のゲル層21dの形成時における照射量を、1層目~3層目のゲル層21a~21cの2倍程度にした場合、1層目~3層目のゲル層21a~21cの形成において吸収線量の積算量が3~6(相対値)程度に維持され、4層目のゲル層21dにおいて吸収線量の積算量が8以上にまで増加する。
【0059】
図13は、上述した第1~第4実施例による貼付剤の製造方法によって製造された貼付剤2から薬剤としての亜鉛の溶出率の時間変化を示すグラフである。なお、亜鉛の溶出率の時間変化の計測はパドル法を採用した。表1、図10、および図11または図12に示すようにして貼付剤2のゲル状部21を製造した場合、薬剤の溶出率は、図13に示すように変化する。図13から、時間の経過に伴って、第3実施例および第4実施例(50/100kGy)による貼付剤2の亜鉛の溶出率の変化は、どちらの場合でもほぼ同じ変化となり、0~20分程度の初期段階においては、第2実施例(50kGy)と同様の傾向を示し、60分以上の時間が経過すると、第1実施例(100kGy)と同様の傾向を有することが分かる。
【0060】
以上の薬剤溶出試験の結果から、電子線照射量をゲル層21a~21dごとに制御して積層した貼付剤において、薬剤の血中濃度の有効時間の拡大に求められる初期放出速度が速く、後期の放出速度が遅い特性が得られることが分かる。第3実施例においては、放出速度の速い4層目のゲル層21dから先に薬剤の放出が始まるため、初期の放出速度が速く後期の放出速度が遅くなると考えられる。第4実施例においては反対に、放出側の4層目のゲル層21dの放出速度が遅くなる特性ではあるが、1層目~3層目のゲル層21a~21cの初期の高い薬剤濃度および濃度差に影響されて初期速度が速く、後期になるに従って4層目のゲル層21dの放出特性に影響されて放出速度が遅くなると考えられる。
【0061】
照射線量によってゲルからの溶出速度が変化する要因としては、高分子溶液211内の高分子材料の量に対して高分子同士がどの程度架橋してゲル化したか(ゲル分率)が異なることが考えられる。ゲル化した比率が高いほど、ネットワーク(架橋)が形成されて水や薬剤の拡散抵抗になることに起因して、速度が遅くなると考えられる。そこで本発明者は、ゲル状部21のゲル分率について実験および検討を行った。ゲル分率は、ゲルを乾燥機中において35℃の温度で24時間乾燥させてまず水分を追出して重量計測し、還流装置中において24時間洗浄後に35℃の温度で24時間乾燥させてゲル化していない残留高分子を追出して重量を計測し、その差よりゲル分率は、以下の(3)式で算出される。
ゲル分率=W1/W0×100 …(3)
0は、最初の乾燥させたゲルの重量(mg)、W1は、洗浄後に乾燥させたゲルの重量(mg)である。
【0062】
ゲル分率に関する本発明者による実験および検討によれば、照射量が50kGy以上200kGy以下の範囲において、ゲル分率は90%以上であることが確認された。そのため、高分子溶液211に含まれる高分子材料のほとんどがゲル化しており、薬剤の放出速度の変化の主因ではないと考えられる。なお、高分子材料および薬剤の種類によっては、照射量によってゲル分率が大きく変化して、速度変化の主因となる可能性も考えられる。
【0063】
次に、ゲルの吸水量が大きく、その吸水速度が遅いほうが薬剤および水の拡散速度が遅くなると考えられることから、本発明者が第1~第4実施例によるゲル状部21の膨潤度および膨潤速度について実験を行った。膨潤度は、電子線の照射量を50kGy以上200kGy以下の範囲において3~6程度の変化になる一方、膨潤速度は、同じ範囲において2倍程度の差であることが確認された。図13に示した薬剤溶出速度との相関関係は、溶出速度が遅いゲルが膨潤度が大きく、膨潤速度が遅い傾向を有することが確認された。一例として第2実施例によるゲル状部21の膨潤速度は、第1実施例によるゲル状部21の膨潤速度の略2倍程度であった。なお、膨潤度は、以下の(4)式によって算出される。
膨潤度=(Ws-Wd)/Wd …(4)
dは、膨潤前の乾燥状態のゲルの重量(mg)、Wsは、膨潤後のゲルの重量(mg)である。また、膨潤速度には定められたものはないが、本実施形態においては膨潤度の測定において、膨潤度が飽和するまでの時間で表している。
【0064】
本発明者は、以上の結果に基づいて、貼付剤の製造方法における電子線の照射量に応じた時定数および膨潤速度、膨潤度の変化について相関関係の評価、および検討を行った。図14は、本実施形態による貼付剤の製造方法における電子線の照射量に応じた薬剤溶出および膨潤の時定数および膨潤度の変化を示すグラフである。ここで、時定数とは、到達飽和量の63%に到達する時間である。図14から、膨潤度も時定数においても、所定の照射量においてピークを持つ傾向となることが分かる。なお、相対値を用いて示しているのは、高分子材料、溶媒、または薬剤によって数値が異なるためであり、本実施形態によるPVAハイドロゲルの塩化亜鉛の放出においては、ピーク値が50~100kGyの間で最大になり、膨潤度と時定数とにおいて傾向がほぼ同じであることが確認された。
【0065】
本発明者は、本実施形態の第1、第2、および第4実施例による貼付剤の製造方法によって製造した貼付剤2を使用した場合の薬剤を塩化亜鉛とした血中濃度の時間変化についてシミュレーションを行った。図15は、第1~第2、および第4実施例による貼付剤の製造方法によって製造した貼付剤2を使用した場合の塩化亜鉛の血中濃度の時間変化を示すグラフである。なお、図15において、時間T0は例えば37分程度であり、時間T1は例えば31分程度である。
【0066】
図15から、第1実施例(ゲル層21a~21dの形成において照射量が全て100kGy)においては、有効時間がT0となっていることが分かる。第2実施例(ゲル層21a~21dの形成において照射量が全て50kGy)においては、塩化亜鉛の放出量が多く、有効時間がT0+T1となり、第1の実施例の有効時間の約2倍になっていることが分かる。第4実施例においては、第1~3層(ゲル層21a~21c)の形成における電子線の照射量を第2実施例による電子線の照射量(50kGy)と同様にし、放出側となる第4層(ゲル層21d)の形成における電子線の照射量を第1実施例による電子線の照射量(100kGy)と同様にしている。これによって、第4実施例による貼付剤2の場合には、第4層(ゲル層21d)により初期の放出速度および放出量を抑制することができ、最大値を有効域内に抑えることができるとともに、第1実施例による貼付剤2に比して、薬剤血中濃度が有効域にある時間を約2倍に延長できることが分かる。
【0067】
これに対し、第1実施例による貼付剤は、第4実施例による貼付剤と比較すると、最大値が有効域内にあるものの、全体的に薬剤の放出が遅く少ないことが分かる。第2実施例による貼付剤は、第4実施例による貼付剤と比較すると、放出速度が速いため最大値が有効濃度域を大きく超えることが分かる。なお、シミュレーションに必要な薬剤のゲル内拡散係数は、図13のパドル法による塩化亜鉛溶出測定結果の時定数とは以下の(5)式の関係であることから、パドル法の条件を一次元拡散モデル化して換算係数を算出し求めた。
拡散係数=換算係数/時定数 …(5)
【0068】
算出した照射量が100kGy(第1実施例による貼付剤2のゲル状部21)の場合の拡散係数は、3.5×10-6cm2/sであり、照射量が50kGy(第2実施例による貼付剤2のゲル状部21)の場合の拡散係数は、7.0×10-6cm2/sである。以上のことから、第4実施例による貼付剤2の製造方法のように、積層する高分子溶液211に照射する電子線の照射量を変化させることにより、薬剤のゲル中拡散速度を約2倍に変化させることができれば、薬剤有効時間を約2倍に延長できることがわかる。すなわち、拡散速度比分のゲルを積層することによって、薬剤の有効時間の拡大を含め、薬剤放出量が制御可能となる。
【0069】
なお、以上のシミュレーションにおいて用いた塩化亜鉛(ZnCl)は、人体の体内の経皮吸収薬として用いられるものではなく、分子量が低く高い拡散速度を有するため、短時間実験による確認の容易さから用いた。実際に適用されるメトロニダゾールなどの経皮吸収薬剤における有効時間は、例えば8~12時間程度となる。これらの薬剤は分子が大きく、それに応じてゲル内の拡散速度も塩化亜鉛の10倍以上遅くなるため、実際の経皮吸収薬剤の薬剤有効時間も同様に拡散速度比の延長が可能となる。
【0070】
【表2】
【0071】
表2は、第5実施例および第6実施例を示す。第5実施例および第6実施例において電子線の照射における電子線加速電圧を50kVとし、この場合の照射エネルギーは40keV程度になる。また、高分子材料としては、20%濃度のセルロース系の高分子材料であるヒプロメロースを用いる。また、薬剤はゲル状部21を形成した後に含浸させるものとする。高分子溶液211を滴下して塗布する厚さは、薬剤を放出する側の最表層の1層目を、第5実施例においては約10μm、第6実施例においては約5μmとし、2回目~4回目(2層目~4層目)をそれぞれ約20μmとする。これにより、ゲル状部21の膜厚は約60~70μm程度に形成される。
【0072】
第5実施例においては、すべてのゲル層の形成における電子線の照射量を50kGyとする。第6実施例においては、1層目のゲル層の形成における照射量を他のゲル層の形成における電子線の照射量の2/3の30kGyとし、2層目から5層目のゲル層の形成において、電子線の照射量を50kGyとする。
【0073】
図16は、本実施形態の第5実施例による貼付剤のゲル状部における層ごとの吸収線量および積算量を示すグラフである。表2に示すように、第5実施例においては、照射エネルギーを40keVとしていることから、図16から、電子線の浸透深さは40μm程度であることが分かる。また、図17から、2層目のゲル層から5層目のゲル層の形成においては、吸収線量の積算量(相対値)が15~25の間で推移していることが分かる。これに対して、1層目のゲル層の形成においては、吸収線量の積算量が10~13と2~5層目のゲル層の場合に比して、約半減していることが分かる。このゲルにモデル薬剤として、質量体積パーセント濃度が10%のトラマドール塩酸塩の水溶液を含浸させ、薬剤放出特性を測定したところ、第5実施例による時定数が約60分であったのに対し、第6実施例による時定数が約5倍の約300分程度である結果が得られた。この結果は、高分子溶液211に対する電子線の照射によるゲルの薬剤放出特性が、図14に示す時定数変化が約30kGyで最大となり、50kGyにてその約1/5になる特性を有することに起因すると考えられる。
【0074】
第5実施例および第6実施例による貼付剤の製造方法により製造された貼付剤においては、薬剤の放出側(1層目側)において拡散係数が小さく(時定数が大きく)、2層目から5層目のゲル層において拡散係数が大きく(時定数が小さく)、約5倍程度になることにより、図13で示したと同様の作用により、放出時間が延長されたものである。
【0075】
(その他の実施例)
上述したように、形成時における電子線の照射量を変えることによって、貼付剤2のゲル状部21のゲル層21a~21dの拡散係数を変えることができる。そこで、複数のゲル層21a~21dが積層されたゲル状部21において、薬剤の放出側の第1ゲル層としての少なくとも1層のゲル層21dの拡散係数を小さくする。一方、ゲル状部21において、薬剤の放出側とは反対側の第2ゲル層としての少なくとも1層のゲル層21aの拡散係数を大きくして貼付剤を製造する。第6実施例と同じ方法および条件で製造した貼付剤に、実用の経皮吸収薬であって、小高血圧や狭心症治療薬であるビソプロロールフマル酸塩を含浸させた場合の一次元拡散モデルによる血中濃度の時間変化の効果予測を行った。図18は、その結果を示し、横軸の膜厚方向の貼付剤内の薬剤濃度の時間変化を示すグラフである。図16に示したように、薬剤の放出側と反対側で積層されたゲル層の形成時における電子線の放射量を、薬剤の放出側で積層されたゲル層の形成時における電子線の照射量の1.5~5倍または反対に0.5倍とすることによって、薬剤の拡散係数比を約1/5倍程度にすることが可能であるため、図18の解析条件では拡散係数が大きいゲル層の拡散係数を22.2×10-11cm2/s、放出側から0.01mmまでの拡散係数の小さいゲル層の拡散係数を4.4×10-11cm2/sとしている。
【0076】
図19は、図18に示した解析によるその他の実施例および従来技術による貼付剤を使用した場合の薬剤血中濃度の時間変化を示すグラフである。なお、比較例としては、降圧剤であるビソプロロールフマル酸塩を粘着剤に含浸させた従来の経皮吸収剤であるビソノテープを用いた。この貼付剤においては、ゲル状部の拡散係数は4.4×10-11cm2/sであり、ビソノテープでの血中濃度の公知の測定データに基づいて算出した値である。図19に示すように、その他の実施例による貼付剤の製造方法により製造された貼付剤によれば、比較例による貼付剤に比して、初期の濃度上昇速度を遅くすることなくほぼ維持することができ、濃度最大値は同じとなって、薬剤の有効域の上限を超えることなく、薬剤を放出する有効時間を、24時間から120時間程度の約5倍に延長できるという、血中濃度の時間変化を好適に制御可能であることが確認された。
【0077】
(第3変形例)
次に、本発明の一実施形態による貼付剤の製造方法の第3変形例について説明する。図20は、本実施形態による貼付剤のゲル状部の製造方法の第3変形例を説明するための断面図および電子線の照射量の分布を示すグラフである。
【0078】
図20に示すように、第3変形例による貼付剤の製造方法においては、まず、下層における高分子溶液211を滴下および塗布した後に電子線を照射して下層のゲル層21eを形成する際には、電子線の照射量を大きくする。なお、最下層のゲル層21eのみならず、最下層から複数層分のゲル層の形成時に、電子線の照射量を大きくするようにしても良く、最下層は人体の皮膚との密着性を向上できる照射量に調整しても良い。その後、高分子溶液211の滴下および電子線の照射を順次繰り返し行う際に、電子線の照射量を、積層方向に沿って、中央部に向けて低減させ、中央部から上層部に向けて増加させるようにする。これにより、複数層のゲル層21fが中間層として形成される。
【0079】
その後、最上層のゲル層21gを形成する前に、中間層となるゲル層21fに薬剤を添加して含浸させる。なお、電子線の照射に耐性のある薬剤の場合には、あらかじめ高分子溶液211に薬剤を添加して、高分子溶液211を滴下して電子線を照射することを繰り返して、ゲル状部21Cを形成しても良い。ゲル層21fに薬剤が含浸された後、高分子溶液211を滴下および塗布して、照射量を大きくした電子線を照射する。これにより、ゲル層21e,21f,21gからなるゲル状部21Cが形成される。ここで、電子線の照射量を増加させてゲル層を形成すると、拡散係数が小さくなるため、ゲル層21eが設けられた側を人体の皮膚などに接することにより、薬剤の体内への吸収量を抑制、制御することができる。一方、ゲル層21gは、空気中への水分の蒸発量を抑制したり制御したりすることによって、薬剤の体内への放出に伴ってゲル内の薬剤濃度の低下を抑制したり制御したりできる。
【0080】
(第4変形例)
次に、本発明の一実施形態による貼付剤の製造方法の第4変形例について説明する。図21Aは、本実施形態による貼付剤のゲル状部の製造方法の第4変形例を説明するための断面図およびゲル内薬剤濃度分布を示すグラフである。図21Bは、本実施形態の第4変形例を説明するための薬剤血中濃度の投与時間変化を示すグラフである。
【0081】
図21Aに示すように、第4変形例による貼付剤の製造方法においては、少なくとも1層の拡散制御層28を形成した後、複数層のゲル層からなるゲル積層27aを形成する。拡散制御層28は、電子線照射量を制御したハイドロゲルに加え、より拡散性を制御するために、例えば電子線の照射によってグラフト重合する高分子材料の添加や、単独のグラフト重合膜により形成できる。また、ゲル積層27aの形成方法は、一実施形態と同様である。その後、ゲル積層27aの上層に、拡散制御層28、ゲル積層27b、拡散制御層28、ゲル積層27c、および拡散制御層28を順次形成する。これにより、ゲル状部21Dが形成される。
【0082】
ゲル状部21Dの形成時において、薬剤の濃度は、ゲル積層27a,27b、27cにおいて互いに略等しく、人体への貼付までは両面ともにシールされ、その状態が維持される。ここで、ゲル積層27aおよびゲル積層27cのそれぞれの面に設けられたシール材(図示せず)を除去し、ゲル積層27aの側を人体の皮膚に接触させて、ゲル積層27aを薬剤の放出側とし、ゲル積層27cを水分の蒸発側とする。これにより、ゲル状部21Dの内部において、ゲル積層27aは人体への薬剤の放出によって薬剤濃度が減少する一方、ゲル積層27cは水分の蒸発によって薬剤濃度が上昇する。この場合、ゲル積層27bはその中間の濃度に維持される。それぞれのゲル積層27a~27cの間に設けられた拡散制御層28によって薬剤の移動が抑制されたり制御されたりして、ゲル積層27a,27bを構成するゲル層内の濃度をほぼ同じ濃度にするとともに、各層間の濃度差を一定に維持する。これによりゲル積層27aからの薬剤放出量を一定に制御できるため、図21Bに示すように、血中濃度を所定の有効域内に長時間にわたって略一定に維持することができる。
【0083】
(第5変形例)
次に、本発明の一実施形態による貼付剤の製造方法の第5変形例について説明する。図22は、本発明の一実施形態による貼付剤のゲル状部の製造方法の第5変形例を説明するための断面図である。
【0084】
図22に示すように、第5変形例による貼付剤の製造方法においては、積層部14の代わりに、貼付剤2Eを構成するゲル状部を形成するための凹部が形成された鋳型16を用いる。また、鋳型16における凹部の底面には凸状部17が複数設けられている。鋳型16において、上述した一実施形態によるゲル状部の製造方法と同様にして、供給ノズル12aから高分子溶液211を滴下して塗布した後、電子線照射部11から電子線を照射することにより架橋反応を生じさせて、ゲル層21a,21b,21c,21dを順次積層する。この際、それぞれのゲル層21a~21dの内部に細孔29を形成する。空孔や高濃度薬剤の含浸用の細孔29の形成方法としては例えば、高分子溶液211に予め電子線を照射することによりガスが発生する、二酸化炭素などを溶解させたり、発泡材を混合させたり、点形状のマスクを高分子溶液211の塗布された上面に配置して電子線を照射したりすることで可能である。なお、電子線の照射エネルギーは例えば50~300keV程度である。これにより、薬物の放出側(ゲル層21a)に凸状部17の形状に倣った吸盤状の凹凸と、加圧変形時に空孔が密着して真空状態になる細孔29が形成されて、いわゆる吸盤の機能を有する第5変形例による貼付剤2Eが製造される。なお、ゲル状部21を形成した後に、それぞれの細孔29に高濃度の薬剤を含浸させて、薬剤放出時間を拡大させることも可能である。その他の製造方法は、一実施形態と同様である。第5変形例による貼付剤の製造方法により製造された貼付剤は、例えば口腔内用製剤に使用できる。
【0085】
従来、アクリル、ゴム、またはシリコン系などの粘着剤に薬剤を溶解させて含浸後に、塗布および乾燥させて貼付剤を製造していたため、薬剤の放出特性の制御が困難であった。さらに、従来、貼付剤の皮膚に接触する部分は湿潤状態である必要があり、皮膚状態に影響を受けて、薬剤の放出安定性が低いという問題があった。
【0086】
これに対し、以上説明した一実施形態においては、薬剤を溶解させた高分子溶液211を滴下して、スピンコート、ブレードコート、ディップコートなどの方法を用いて所定の厚さに塗布し、この所定の厚さより浸透深さが大きく、ピークが所定の深さ未満になるような照射エネルギーの電子線を照射して、ゲル層21a~21dを形成している。さらに、ゲル層21a~21dの形成において電子線の照射量を変化させながら、ゲル層21a~21dを互いに接着させながら積層させている。これにより、ゲル層21a~21dごとに膜質を任意に変化させることが可能となるので、例えば、薬剤の放出側のゲル層21aの放出速度を小さくし、薬剤の放出側とは反対側のゲル層21b~21dの放出速度を大きくするように貼付剤2のゲル状部21を形成することができる。この場合、初期の放出速度は大きいままで、放出時間が長い貼付剤を製造することができ、4日以上の血中濃度有効域を有する貼付剤を製造することが可能になる。また、ゲル状部21の材料をPVAから構成していることにより、湿潤した生体適合性、安全性の高いゲルによって、人体の皮膚にやさしく、放出特性も安定化可能となる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いても良く、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により本発明は限定されることはない。
【0088】
例えば、上述の一実施形態においては、硬化させるゲル状部21の高分子材料の種類に応じて、電子線照射部11の代わりに、γ線などの放射線を照射可能な放射線照射部や、レーザ光などを照射可能なレーザ光照射部を採用しても良い。なお、放射線とは、高い運動エネルギーをもって流れる物質粒子であるアルファ線、ベータ線(電子線)、中性子線、陽子線、重イオン線、中間子線などの粒子放射線、および高エネルギーの電磁波(ガンマ線やX線)などの電磁放射線を含む。
【0089】
また、上述した一実施形態による薬剤としては、放射線耐性があり、あらかじめ高分子溶液に添加して塗布し、電子線照射を繰り返してハイドロゲル貼付剤化が可能な薬剤、具体的には、褥瘡用の塩化亜鉛、抗菌剤系のメトロニダゾール、ゲンタマイシン硫酸塩、塩化セチルピリジニウム、およびポリヘキサメチレンビグアニドなどや、狭心症薬の硝酸イソソルビド、ホルモン剤のエストラジオールなどの低分子化学合成薬を挙げることができる。また、貼付剤の製造方法としてハイドロゲル化後に含浸する方法においては、薬剤の制約はなく、すでに経皮吸収剤として用いられているものを含め、ニトログリセリン、ニコチン、ツロブテロール、フェンタニル、テストステロン、ノルスパン、ロチゴチン、およびリバスチグミンなどの狭心症、気管支炎、疼痛、パーキンソン病、認知症、ホルモン等の各種低分子化学合成薬が適用可能であり、これらはあらかじめ高分子溶液に添加する方法に適用できる可能性もある。さらに、上述した一実施形態による薬剤としては、中分子系薬剤や高分子系薬剤への適用も可能であり、インフルエンザワクチンやペプチドワクチンなどのワクチン、インシュリンを含むペプチド系製剤、核酸医薬品全般、医薬品以外のコラーゲンやヒアルロン酸なども挙げることができる。
【符号の説明】
【0090】
1 製造装置
2,2A,2B,2E 貼付剤
11 電子線照射部
12 ゲル溶液供給部
12a 供給ノズル
13,22 支持体
14 積層部
16 鋳型
17 凸状部
21,21C,21D ゲル状部
21a,21b,21c,21d,21e,21f,21g ゲル層
23 剥離ライナー
24 放出制御膜
25 粘着層
27a,27b,27c ゲル積層
28 拡散制御層
29 細孔
211 高分子溶液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
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図12
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図20
図21A
図21B
図22