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特開2022-184523生地加熱食品用ミックス、該生地加熱食品用ミックスを用いた生地および食品、並びに、生地および食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184523
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】生地加熱食品用ミックス、該生地加熱食品用ミックスを用いた生地および食品、並びに、生地および食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/08 20060101AFI20221206BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20221206BHJP
   A21D 8/04 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A21D2/08
A21D10/00
A21D8/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092428
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】岸野 智
(72)【発明者】
【氏名】坂口 龍太
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB05
4B032DB06
4B032DB10
4B032DB11
4B032DB24
4B032DK51
4B032DL20
(57)【要約】
【課題】生地加熱食品において、バッター生地加熱食品においてはとろみがあり、しっとりとしたやわらかな食感と保形性とを、ドウ生地加熱食品においてはしっとりとしたやわらかな食感と保形性とを両立し得る技術を提供すること。
【解決手段】本技術では、粘度が10,000mPa・s以下のバッター生地用、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部を含むドウ生地用の生地加熱食品用ミックスであって、トランスグルタミナーゼを含む、生地加熱食品用ミックスを提供する。本技術に係る生地加熱食品用ミックスにおけるトランスグルタミナーゼの量は、穀粉類100gあたりの酵素活性として、0.5~110単位とすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度が10,000mPa・s以下のバッター生地用、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部を含むドウ生地用の生地加熱食品用ミックスであって、
トランスグルタミナーゼを含む、生地加熱食品用ミックス。
【請求項2】
穀粉類100gあたりの酵素活性として、0.5~110単位のトランスグルタミナーゼを含む、請求項1に記載の生地加熱食品用ミックス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の生地加熱食品用ミックスを用いた生地。
【請求項4】
請求項3に記載の生地の加熱物を含む食品。
【請求項5】
冷凍された、請求項3に記載の生地、または、請求項4に記載の食品。
【請求項6】
トランスグルタミナーゼを添加する工程を含む、
粘度が10,000mPa・s以下のバッター生地、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部を含むドウ生地の製造方法。
【請求項7】
トランスグルタミナーゼを添加して、粘度が10,000mPa・s以下のバッター生地、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部を含むドウ生地を調製する生地調製工程と、
該生地調製工程で調製された生地を加熱する加熱工程と、
を含む、食品の製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程後の食品を凍結する冷凍工程を含む、請求項7に記載の食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生地加熱食品用ミックス、該生地加熱食品用ミックスを用いた生地および食品、並びに、生地および食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小麦粉生地加熱食品の軟化を防止する目的で、トランスグルタミナーゼが用いられている。例えば、特許文献1では、水分含量の少ない、一定の好ましい硬さを特徴とする菓子類の製造法において、トランスグルタミナーゼを添加し、作用させることで、軟化を防止する技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2では、ケーキ類の製造方法において、トランスグルタミナーゼを原料に添加配合することにより、沈みのない食感の良好なケーキを製造する技術が開示されている。
【0004】
さらに、非特許文献1には、トランスグルタミナーゼを添加することにより、小麦粉生地の破断強度および破断距離が増加すること、製パン時にトランスグルタミナーゼを添加することにより、発酵体積および焼成体積ならびに硬さが増加することが記載されている。
【0005】
一方、たこ焼や多加水のパン・ドーナツ等の生地を焼成、油ちょう、蒸し等の加熱調理により製造される生地加熱食品は、とろみのあるやわらかな食感が好まれるが、やわらかくとろみのあるものは、つぶれやすいといった問題がある。また、とろみがあり、やわらかな生地加熱食品をチルドまたは冷凍処理したチルド食品や冷凍食品は、喫食前に電子レンジ等で加熱した場合、とろみが損なわれたり、つぶれやすくなったりする課題がある。特に、とろみをつける目的で使用される酵素(α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、キシラナーゼ等)、加工でん粉(ヒドロキシプロピル化でん粉、アセチル化でん粉、酸化でん粉)、セルロースエーテル、糖類、乳化剤、油脂、ベーキングパウダー等を含む生地加熱食品では、よりつぶれが発生しやすく、外観が損なわれるといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-191820号公報
【特許文献2】特開平2-286031号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本食品保蔵科学会誌 VOL.30 NO.1 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生地加熱食品において、バッター生地加熱食品においてはとろみがあり、しっとりとしたやわらかな食感と保形性とを、ドウ生地加熱食品においてはしっとりとしたやわらかな食感と保形性とを、両立し得る技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、従来から小麦粉生地加熱食品の軟化防止の目的で使用されていたトランスグルタミナーゼを、特定の粘度または特定の水分量の生地に用いることで、生地加熱食品の保形性を付与しつつ、意外にも、バッター生地加熱食品においてはとろみがあり、しっとりとしたやわらかな食感、ドウ生地加熱食品においてはしっとりとしたやわらかな食感をも維持することを見出し、本技術を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本技術では、まず、粘度が10,000mPa・s以下のバッター生地用、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部を含むドウ生地用の生地加熱食品用ミックスであって、
トランスグルタミナーゼを含む、生地加熱食品用ミックスを提供する。
本技術に係る生地加熱食品用ミックスにおけるトランスグルタミナーゼの量は、穀粉類100gあたりの酵素活性として、0.5~110単位とすることができる。
【0011】
本技術では、次に、本技術に係る生地加熱食品用ミックスを用いた生地を提供する。
本技術では、また、本技術に係る生地の加熱物を含む食品を提供する。
本技術に係る生地、および、食品は、冷凍されていてもよい。
【0012】
本技術では、さらに、トランスグルタミナーゼを添加する工程を含む、
粘度が10,000mPa・s以下のバッター生地、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部を含むドウ生地の製造方法を提供する。
本技術では、また、トランスグルタミナーゼを添加して、粘度が10,000mPa・s以下のバッター生地、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部を含むドウ生地を調製する生地調製工程と、
該生地調製工程で調製された生地を加熱する加熱工程と、
を含む、食品の製造方法を提供する。
本技術に係る食品の製造方法では、前記加熱工程後の食品を凍結する冷凍工程を行うこともできる。
【0013】
本技術において、「生地加熱食品」とは、たこ焼、明石焼、お好み焼、ねぎ焼、いか焼(大阪風)、チヂミ、もんじゃ焼、熊本ちょぼ焼、洋食焼、どんどん焼、スポンジケーキ、パウンドケーキ、ホットケーキ、パンケーキ、クレープ、ワッフル、ベビーカステラ等のバッター生地加熱食品;イーストドーナツ、パン類、多加水パン類等のドウ生地加熱食品、を含む概念である。
【0014】
また、本技術において、バッター生地の粘度は、下記の方法にて測定した値である。
[粘度の測定方法]
生地200gを専用容器(約230ml容量)に入れ、B型粘度計:TVB-10M(東機産業株式会社製)(プランジャーNo.22(SPINDLE No.M3/CORD No.22)使用)を用いて、回転数12rpm、温度23±1℃で測定した。
【発明の効果】
【0015】
本技術によれば、生地加熱食品において、バッター生地加熱食品においてはとろみがあり、しっとりとしたやわらかな食感と保形性とを、ドウ生地加熱食品においてはしっとりとしたやわらかな食感と保形性とを、両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0017】
<生地加熱食品用ミックス>
本技術に係る生地加熱食品用ミックスは、粘度が10,000mPa・s以下のバッター生地用、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部を含むドウ生地用の生地加熱食品用ミックスである。以下、本技術に係る生地加熱食品用ミックスに用いる成分について、詳細に説明する。なお、本技術において、「水分」とは、液体材料に含まれる水分をいう。例えば、全卵、牛乳、しょうゆ等の液体調味料等を用いる場合には、これらに含まれる水分も含む概念である。なお、本技術において、全卵中の水分量は75.0%、しょうゆ中の水分量は69.7%として計算した値である(日本食品標準成分表2020年度版参照)。
【0018】
(1)穀粉類
本技術において、「穀粉類」とは、小麦粉、デュラム小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、トウモロコシ粉等の穀粉(加熱処理したものを含む);澱粉(加工澱粉類を含む)を含む概念である。本技術では、これらの穀粉類を1種または2種以上任意に組み合わせて用いることができる。
【0019】
本技術に係る生地加熱食品用ミックス中の穀粉類の含有量は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、目的の生地加熱食品の種類や求められる特性に応じて、自由に設定することができる。本技術において、生地加熱食品用ミックス中の穀粉類の含有量は、50質量%以上が好ましく、80~99質量%がより好ましく、85~95質量%が更に好ましい。
【0020】
(2)トランスグルタミナーゼ
トランスグルタミナーゼは、「アミン導入システム」とも呼ばれ、第1アミン、アンモニア、ヒドロキシルアミン、ジアミノ酸、モノアミノ酸エステル等を、受容体である蛋白質やペプチドに導入する反応を触媒する酵素であり、蛋白質中のリジン残基のε-アミノ基がグルタミンのアミド基と入れ替わることにより、架橋を形成する反応を触媒することが知られている。トランスグルタミナーゼは、モルモット(Guinea pig)の肝臓中に存在することが知られている他、様々な微生物が生産することが知られている。
【0021】
本技術に係る生地加熱食品用ミックスは、トランスグルタミナーゼを含むことを特徴とする。トランスグルタミナーゼは、小麦粉生地加熱食品の軟化防止作用があることが知られていたが、粘度が10,000mPa・s以下のバッター生地、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部を含むドウ生地に、トランスグルタミナーゼを用いることで、生地加熱食品に保形性を付与しつつも、とろみのあるやわらかな食感も維持させることに成功した。更に、生地加熱食品を冷凍保管後、再加熱した場合においても、生地加熱食品の保形性を維持しつつも、とろみのあるやわらかな食感も維持させることにも成功した。
【0022】
本技術において、トランスグルタミナーゼの使用量は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されないが、穀粉類100gあたりの酵素活性として、0.5~110単位で用いることが好ましく、1.0~100単位で用いることがより好ましく、3.0~50単位で用いることが更に好ましい。トランスグルタミナーゼの使用量を、穀粉類100gあたりの酵素活性として、0.5単位以上とすることで、生地加熱食品に保形性を更に向上させることができる。また、110単位以下とすることで、とろみのあるやわらかな食感を更に向上させることができる。
【0023】
(3)その他
本技術に係る生地加熱食品用ミックスには、穀粉類、トランスグルタミナーゼの他に、一般的な生地加熱食品用ミックスに用いられている材料や添加物を1種または2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。例えば、マルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、キシラナーゼ等のトランスグルタミナーゼ以外の酵素;大豆蛋白質、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳等の蛋白素材;食物繊維;澱粉分解物、デキストリン、ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、マルトース等の糖質類;食塩、炭酸カルシウム等の塩類;膨張剤、増粘剤、乳化剤、酵素、pH調整剤、ビタミン類、イースト、イーストフード、甘味料、香辛料、調味料、ミネラル類、色素、香料等を適宜含有させることができる。
【0024】
<生地>
本技術に係る生地は、本技術に係る生地加熱食品用ミックスを用いることを特徴とする。具体的には、本技術に係る生地加熱食品用ミックスに、水、および必要に応じてその他の原料が添加混合された生地であって、粘度が10,000mPa・s以下となるように調整されたバッター生地、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部含むドウ生地である。
【0025】
生地の調整時に添加するその他の原料としては、目的の生地加熱食品の種類や求められる特性に応じて、自由に選択することができる。例えば、だし汁、醤油等の調味料、動物性または植物性の油脂、卵液(卵白、卵黄、または全卵)、牛乳、豆乳、山芋や長芋のすりおろし、イースト、イーストフード等が挙げられる。
【0026】
本技術に係る生地は、常温、冷蔵、チルド、冷凍等の状態で流通させることができる。例えば、冷蔵バッター、冷凍バッター、冷蔵生地玉、成形冷蔵生地、冷凍生地玉、成形冷凍生地、ホイロ済み冷凍生地等の形態で流通させることが可能である。
【0027】
<食品>
本技術に係る食品は、本技術に係る生地の加熱物を含むことを特徴とする。生地の加熱物とは、生地を、焼成、蒸し、油ちょう、マイクロ波加熱等、本技術の効果を損なわない限り、1種または2種以上の加熱方法を自由に選択して加熱した物である。
【0028】
本技術に係る食品の具体例としては、たこ焼、明石焼、お好み焼、ねぎ焼、いか焼(大阪風)、チヂミ、もんじゃ焼、熊本ちょぼ焼、洋食焼、どんどん焼、スポンジケーキ、パウンドケーキ、ホットケーキ、パンケーキ、クレープ、ワッフル、ベビーカステラ等のバッター生地加熱食品;イーストドーナツ、パン等の多加水パン類等のドウ生地加熱食品が挙げられる。
【0029】
本技術に係る食品は、常温、冷蔵、チルド、冷凍等の状態で流通させることができる。前述した通り、本技術では、トランスグルタミナーゼを、特定の粘度または特定の水分量の生地に用いることで、生地加熱食品を冷凍保管後、再加熱した場合においても、生地加熱食品の保形性を維持しつつも、とろみのあるやわらかな食感も維持させることに成功した。即ち、本技術に係る食品は、常温、冷蔵、チルド、冷凍等での保存後に、再加熱した場合においても、保形性の維持と、とろみのあるやわらかな食感の維持とを、両立し得る食品である。
【0030】
<生地の製造方法、食品の製造方法>
本技術に係る生地の製造方法は、トランスグルタミナーゼを添加する工程を含み、粘度が10,000mPa・s以下のバッター生地、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部を含むドウ生地を調製する方法である。また、本技術に係る食品の製造方法は、トランスグルタミナーゼを添加して、粘度が10,000mPa・s以下のバッター生地、または、穀粉類100質量部に対し水分55~80質量部を含むドウ生地を調製する生地調製工程と、該生地調製工程で調製された生地を加熱する加熱工程と、を含む方法である。
【0031】
本技術において、生地の調製は、トランスグルタミナーゼを添加する工程を含む他は、一般的な生地の調製方法を自由に選択して用いることができる。具体的には、例えば、生地を調製する生地調製工程と、調製された生地にトランスグルタミナーゼを添加する工程と、を行うことで、本技術に係る生地を調製することができる。また、前述した生地加熱食品用ミックスを製造する工程と、該生地加熱食品用ミックスを用いて生地を製造する工程と、を行うことで、本技術に係る生地を調製することもできる。生地加熱食品用ミックスを用いて生地を製造する工程としては、例えば、本技術に係る生地加熱食品用ミックスと、水、全卵、牛乳、豆乳等の液状材料と、必要に応じてその他の材料と、を混合することで、生地を調製することができる。また、前記混合後に、必要に応じて、混捏工程、発酵工程(一次発酵、二次発酵)、分割、成形等を、適宜選択して行うことができる。また、製造目的の食品がベーカリー製品である場合、オールインミックス法、別立て法、共立て法、中種法、ストレート法、ノータイム法、冷蔵醗酵法、湯種法等の一般的なベーカリー製品用生地の製造方法も適宜選択して用いることができる。
【0032】
本技術に係る食品の製造方法において、前記加熱工程における加熱方法は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、焼成、蒸し、油ちょう、マイクロ波加熱等、1種または2種以上の加熱方法を自由に選択して用いることができる。
【0033】
本技術に係る食品の製造方法では、前記加熱工程後の食品を凍結する冷凍工程を行うことも可能である。冷凍工程における冷凍条件は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設定することができる。
【0034】
本技術に係る食品の製造方法では、前記加熱工程後の食品を、再加熱する再加熱工程を行うことも可能である。例えば、前記冷凍工程を行った後の冷凍食品や、常温、冷蔵またはチルド状態等で保存された食品を、再加熱して喫食することができる。再加熱方法も、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、焼成、蒸し、油ちょう、マイクロ波加熱等、1種または2種以上の加熱方法を自由に選択して用いることができる。
【0035】
前述の通り、本技術では、トランスグルタミナーゼを、特定の粘度のバッター生地または特定の水分量のドウ生地に用いることで、生地加熱食品を冷凍保管後、再加熱した場合においても、生地加熱食品の保形性を維持しつつも、とろみや、しっとりとしたやわらかさのある食感も維持させることに成功した。即ち、本技術に係る食品の製造方法で製造された食品は、常温、冷蔵、チルド、冷凍等での保存後に、再加熱した場合においても、保形性の維持と、とろみややわらかさのある食感の維持とを、両立し得る食品である。
【実施例0036】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0037】
<実験例1>
実験例1では、異なる組成の生地加熱食品用ミックスを用いてバッター生地加熱食品を製造した場合に、バッター生地の加熱後の外観(形状)および食感(とろみ)、並びに生地加熱食品を冷凍保存後、再加熱した際の保形性(形状)および食感(とろみ)への影響を調べた。実験例1では、バッター生地加熱食品の一例として、たこ焼を製造した。
【0038】
(1)たこ焼用ミックス、たこ焼用生地の調製
表1および表2に記載する配合割合で各材料を混合し、たこ焼用ミックスを調製した。ミキサーに、表1および表2に記載する割合で、しょうゆ、サラダ油、及び水(液体材料)を投入し、これに前記のたこ焼用ミックスを加え、撹拌混合して、たこ焼用生地(バッター)(サンプル1-1~1-21)を調製した。
【0039】
(2)たこ焼用生地の粘度測定
前述した測定方法を用いて、前記で調製したたこ焼用生地の粘度を測定した。
【0040】
(3)たこ焼の製造
自動焼成機の焼型の穴(40個)(穴径:43mm、深さ:34mm)に離型油を噴霧塗布した後、自動計量充填機を用いて、前記で調製したバッターを充填し(約22g/個)、次いで各穴に茹でたこの切り身(4g)を投入した。ガスバーナー加熱により170~190℃に制御された自動焼成機にて、約14分間加熱焼成を行った。焼成完了後、焼型を自動反転して、焼成したたこ焼を排出した。
【0041】
(4)加熱後の評価
製造したたこ焼の外観(形状)および食感(とろみ)について、下記の評価基準に基づいて、訓練を受けた専門のパネル10名が評価を行い、その平均点を評価点とした。
【0042】
<外観(形状)>
5:全ての製品がきれいな球状をしており、非常に良好
4:全ての製品の形状(球状)が整っており、良好
3:形状はやや不揃いであるが、形状不良製品(球状に成形できない)は一つもない
2:50%未満のたこ焼が形状不良製品(球状に成形できない)である
1:50%以上のたこ焼が形状不良製品(球状に成形できない)である
【0043】
<食感(とろみ)>
5:しっとりとした、やわらかなとろみが強く、口溶けが非常に良好
4:しっとりとした、やわらかなとろみがあり、口溶けが良好
3:とろみを感じ、口溶けが良好
2:とろみが弱く、やや口溶けが悪い
1:とろみが全くなく、口溶けが悪い
【0044】
(5)たこ焼の冷凍保存、再加熱
前記で製造したたこ焼を、-20℃で7日間保存した後、冷凍状態のまま、マイクロ波加熱(600Wで3分30秒間(6個あたり)の電子レンジ加熱)により再加熱を行った。
【0045】
(6)再加熱後の評価
再加熱後のたこ焼の保形性(形状)について、下記の評価基準に基づいて、訓練を受けた専門のパネル10名が評価を行い、その平均点を評価点とした。また、再加熱後のたこ焼の食感(とろみ)について、前記と同様の評価方法により評価を行った。
【0046】
<保形性(形状)>
5:全ての製品がきれいな形状であり、非常に良好
4:全ての製品の形状(球状)が整っており、良好
3:形状はやや不揃いであるが、形状不良製品(球状が保たれていない)は一つもない
2:50%未満のたこ焼がつぶれを発生した形状不良製品(球状が保たれていない)である
1:50%以上のたこ焼がつぶれを発生した形状不良製品(球状が保たれていない)である
【0047】
(7)結果
結果を表1および表2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
(8)考察
表1に示す通り、トランスグルタミナーゼを用いたサンプル1-1~1-12は、焼成後の外観(形状)および食感(とろみ)、並びに冷凍保存後再加熱後の保形性(形状)および食感(とろみ)の全ての評価が良好であった。
【0051】
一方、トランスグルタミナーゼを用いなかったサンプル1-13~1-21は、いずれかの評価が劣っていた。具体的には、穀粉類に対する水分の量が少ないサンプル1-13は、焼成後の外観(形状)および生地加熱食品を冷凍保存後、再加熱した際の保形性(形状)の評価は良好であったものの、冷凍保存後再加熱後の食感(とろみ)の評価が、劣っていた。これに対して、水分の量を多くすることで、焼成後の食感(とろみ)および冷凍保存後再加熱後の食感(とろみ)の評価は向上するが、焼成後の外観(形状)および冷凍保存後再加熱後の保形性(形状)の評価が低下することが分かった(サンプル1-14)。さらに、澱粉を加えることで、食感のなめらかさが際立ち、焼成後の食感(とろみ)および冷凍保存後再加熱後の食感(とろみ)の評価はさらに向上するが、焼成後の外観(形状)および冷凍保存後再加熱後の保形性(形状)の評価が低下することが分かった(サンプル1-15)。
【0052】
また、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、トレハロース、またはカビ由来α-アミラーゼを加えることで、焼成後の食感(とろみ)および冷凍保存後再加熱後の食感(とろみ)の評価はさらに向上するが、焼成後の外観(形状)および冷凍保存後再加熱後の保形性(形状)の評価が低下することが分かった(サンプル1-16~1-18)。
【0053】
グルテンを加えることで、焼成後の外観(形状)および冷凍保存後再加熱後の保形性(形状)の評価は向上するものの、焼成後の食感(とろみ)および冷凍保存後再加熱後の食感(とろみ)の評価は低下することが分かった(サンプル1-19)。これに、HPMCを加えることで、焼成後の食感(とろみ)の評価は若干向上するものの、冷凍保存後再加熱後の食感(とろみ)の評価は劣ったままで、焼成後の外観(形状)および冷凍保存後再加熱後の保形性(形状)の評価は低下することが分かった(サンプル1-20)。また、サンプル1-19に、カビ由来α-アミラーゼを加えることで、焼成後の食感(とろみ)および冷凍保存後再加熱後の食感(とろみ)の評価は向上したが、焼成後の外観(形状)および冷凍保存後再加熱後の保形性(形状)の評価は低下することが分かった(サンプル1-21)。
【0054】
これらの結果から、焼成後の外観(形状)および冷凍保存後再加熱後の保形性(形状)の評価が向上する成分と、焼成後の食感(とろみ)および冷凍保存後再加熱後の食感(とろみ)の評価が向上する成分とを組み合わせても、焼成後の外観(形状)および冷凍保存後再加熱後の保形性(形状)の評価と、焼成後の食感(とろみ)および冷凍保存後再加熱後の食感(とろみ)の評価を同時に向上させることは難しいことが分かった。
【0055】
<実験例2>
実験例2では、異なる組成の生地加熱食品用ミックスを用いてバッター生地加熱食品を製造した場合に、バッター生地の加熱後の外観(形状)および食感(しっとり感)への影響を調べた。実験例2では、生地加熱食品の一例として、型焼菓子を製造した。
【0056】
(1)ケーキ用ミックス、ケーキ用生地の調製
表3に記載する配合割合で各材料を混合し、ケーキ用ミックスを調製した。ミキサーに、表3に記載する割合で、液状油脂、全卵(液)、及び水(液体材料)を投入し、これに前記のケーキ用ミックスを加え、撹拌混合して、ケーキ用生地(バッター)(サンプル2-1~2-6)を調製した。
【0057】
(2)ケーキ用生地の粘度測定
前述した測定方法を用いて、前記で調製したケーキ用生地の粘度を測定した。
【0058】
(3)型焼菓子の製造
130℃に加熱した複数の半球状の窪み(穴径:43mm、深さ:34mm)を有する焼き型にサラダ油を引き、各生地12gを流し入れた後、フィリング(モアロクリーム:ソントン食品工業株式会社)3gを加え10分間焼成し、釣鐘状の焼き菓子を製造した。
【0059】
(4)加熱後の評価
製造した型焼菓子の外観(形状)および食感(しっとり感)について、下記の評価基準に基づいて、訓練を受けた専門のパネル10名が評価を行い、その平均点を評価点とした。
【0060】
<外観(形状)>
5:全ての製品がきれいな形状でつぶれもなく、非常に良好である
4:全ての製品の形状が整っており、良好である
3:形状はやや不揃いであるが、つぶれで形状が保たれていない製品は一つもない
2:50%未満の製品につぶれが生した形状不良製品である
1:50%以上の製品につぶれが発生した形状不良製品である
【0061】
<食感(しっとり感)>
5:非常にしっとりとした食感であり、非常に良好である
4:しっとりとした食感であり、良好である
3:ややしっとりとした食感であり、良好である
2:しっとりとした食感に欠け、悪い
1:しっとりとした食感に欠けパサついた食感であり、非常に悪い
【0062】
(5)結果
結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
(6)考察
表3に示す通り、トランスグルタミナーゼを用いたサンプル2-1~2-4は、焼成後の外観(形状)および食感(しっとり感)のいずれの評価も良好であった。特に、2-4は、2-3と比較すると水分量が大幅に少ないにも関わらず、良好なしっとり感が維持されていることが分かった。
【0065】
一方、トランスグルタミナーゼを用いなかったサンプル2-5、および2-6は、いずれかの評価が劣っていた。具体的には、穀粉類に対する水分の量が少ないサンプル2-5は、焼成後の外観(形状)の評価は良好であったものの、焼成後の食感(しっとり感)の評価が、劣っていた。これに対して、水分の量を多くすることで、焼成後の食感(しっとり感)の評価は向上するが、焼成後の外観(形状)の評価が低下することが分かった(サンプル2-6)。
【0066】
<実験例3>
実験例3では、異なる組成の生地加熱食品用ミックスを用いてドウ生地加熱食品を製造した場合に、ドウ生地の成形時の作業性、加熱後のボリューム感、外観(形状・色)および食感(しっとり感)への影響を調べた。実験例3では、生地加熱食品の一例として、イーストドーナツを製造した。
【0067】
(1)ドーナツ用ミックス、イーストドーナツ用生地の調製
表4に記載する配合割合で各材料を混合し、ドーナツ用ミックスを調製した。ミキサーに、表4に記載する割合で、前記のドーナツ用ミックス、イースト、全卵、イーストフード、水を投入し、捏ね上げ温度25℃にて、低速4分、中速8分混捏後、マーガリンを加えて、さらに、低速3分、中速7分混捏してイーストドーナツ用生地(ドウ)(サンプル3-1~3-7)を調製した。
【0068】
(2)イーストドーナツの製造
イーストドーナツ用生地を調製後、室温にて10分間のフロアタイムをとり、50gずつに分割し、さらに室温にて15分間のベンチタイムをとった。その後、餡30gを包んで成形し、36℃にて60分間ホイロをとった後、180℃で7分間油ちょうし、イーストドーナツを製造した。
【0069】
(3)成形作業性の評価
成形作業中の作業性について、について、下記の評価基準に基づいて、訓練を受けた専門のパネル10名が評価を行い、その平均点を評価点とした。
【0070】
<成形作業性>
5:べたつきが全くなく、非常に良好である
4:べたつきがなく、良好である
3:べたつきがわずかであり、良好である
2:べたつきがあり、作業性が悪い
1:べたつきがひどく、作業性が非常に悪い
【0071】
(4)加熱後の評価
製造したイーストドーナツのボリューム感、外観(形状・色)および食感(しっとり感)について、下記の評価基準に基づいて、訓練を受けた専門のパネル10名が評価を行い、その平均点を評価点とした。
【0072】
<ボリューム感>
5:ボリューム感があり、非常に良好である
4:ボリューム感があり、良好である
3:ややボリューム感があり、良好である
2:ボリューム感がややなく、悪い
1:伸びが全くなく、非常に悪い
【0073】
<外観(形状・色)>
5:色付き・形状とも非常に良好である
4:色付き・形状とも良好である
3:色付き・形状ともやや良好である
2:色付き・形状ともやや悪い
1:色付き・形状とも非常に悪い(潰れ・裂け等がみられる)
【0074】
<食感(しっとり感)>
5:非常にソフトで非常にしっとりとした食感であり、非常に良好である
4:ソフトでしっとりとした食感であり、良好である
3:ソフトでややしっとりした食感であり、良好である
2:ソフトさ・しっとり感に欠け、悪い
1:ソフトさ。しっとり感がなく、重い食感であり、非常に悪い
【0075】
(5)イーストドーナツの冷凍保存、再加熱
前記で製造したイーストドーナツを、-20℃で7日間保存した後、冷凍状態のまま、マイクロ波加熱(700Wで30秒間(1個あたり)の電子レンジ加熱)により再加熱を行った。
【0076】
(6)再加熱後の評価
再加熱後のイーストドーナツの外観(形状)について、下記の評価基準に基づいて、訓練を受けた専門のパネル10名が評価を行い、その平均点を評価点とした。また、再加熱後のたこ焼の食感(しっとり感)について、前記と同様の評価方法により評価を行った。
【0077】
<外観(形状)>
5:形状が非常に良好である
4:形状が良好である
3:形状がやや良好である
2:形状がやや悪い(しわがみられる)
1:形状が非常に悪い(しわが多くみられる)
【0078】
(7)結果
結果を表4に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
(8)考察
表4に示す通り、トランスグルタミナーゼを用いたサンプル3-1~3-5は、成形作業性、焼成後のボリューム感、外観(形状・色)および食感(しっとり感)、並びに冷凍保存後再加熱後の外観(形状)および食感(しっとり感)の全ての評価が良好であった。
【0081】
一方、トランスグルタミナーゼを用いなかったサンプル3-6、および3-7は、いずれかの評価が劣っていた。具体的には、穀粉類に対する水分の量が少ないサンプル3-6は、成形作業性、焼成後のボリューム感、外観(形状・色)、冷凍保存後再加熱後の外観(形状)の評価は良好であったものの、焼成後および冷凍保存後再加熱後の食感(しっとり感)の評価が、劣っていた。これに対して、水分の量を多くすることで、焼成後および冷凍保存後再加熱後の食感(しっとり感)の評価は向上するが、成形作業性、焼成後のボリューム感、外観(形状・色)の評価が低下することが分かった(サンプル3-7)。