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特開2022-184634アンチエイジング剤およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184634
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】アンチエイジング剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20221206BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 36/05 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A23L33/10
A61P43/00 105
A61P3/00
A61K36/05
A61K31/715
A61P39/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092585
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 卓司
(72)【発明者】
【氏名】町原 加代
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD33
4B018MD89
4B018ME06
4B018ME10
4B018MF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086GA17
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB22
4C086ZC21
4C088AA12
4C088BA12
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZB22
4C088ZC21
(57)【要約】
【課題】本発明は、ミトコンドリア活性化作用などの優れた作用を示すアンチエイジング剤とその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るアンチエイジング剤は、有効成分としてアルスロスピラ属藻類由来の多糖類を含有することを特徴とする。また、本発明に係るアンチエイジング剤の製造方法は、アルスロスピラ属藻類から、フェノール水溶液またはトリクロロ酢酸水溶液を用いて多糖類を抽出する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてアルスロスピラ属藻類由来の多糖類を含有することを特徴とするアンチエイジング剤。
【請求項2】
前記アルスロスピラ属藻類がアルスロスピラ・プラテンシスである請求項1に記載のアンチエイジング剤。
【請求項3】
ミトコンドリア活性化作用を示す請求項1または2に記載のアンチエイジング剤。
【請求項4】
抗酸化作用を示す請求項1~3のいずれかに記載のアンチエイジング剤。
【請求項5】
コラーゲン生合成増強作用を示す請求項1~4のいずれかに記載のアンチエイジング剤。
【請求項6】
アンチエイジング剤を製造するための方法であって、
アルスロスピラ属藻類から、フェノール水溶液またはトリクロロ酢酸水溶液を用いて多糖類を抽出する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記アルスロスピラ属藻類としてアルスロスピラ・プラテンシスを用いる請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア活性化作用などの優れた作用を示すアンチエイジング剤とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本における平均寿命は20世紀後半に著しい伸長を遂げ、世界有数の長寿国となった。その一方で、加齢による問題も健在化してきている。例えば、加齢による老化の表現型としては、認知力の低下、筋力の衰え、骨粗鬆症、内臓脂肪の増加、心血管機能の低下、不眠などが挙げられる。
【0003】
かつては加齢のプロセスは非常に複雑で、介入など不可能であると思われていた。しかし近年、科学の進歩により、加齢は細胞生物学的なプロセスの一つとして介入の可能性があることが明らかにされ、加齢という生物学的プロセスに介入し、加齢に伴う動脈硬化やがんといった加齢関連疾患の発症確率を下げ、生活の質(QOL:Quality Of Life)を維持しつつ健康長寿をめざすアンチエイジング技術が検討されている。
【0004】
ところで、スピルリナ(Spirulina)と呼ばれる藻類は、藍藻類の一種で、今から30億年以上も昔に地球上に誕生した最古の植物の一つであり、多種類の栄養素が豊富に含まれていることから、最近、食生活の偏りがちな現代人の栄養補助食品として利用されている。
【0005】
例えば特許文献1には、スピルリナ自体がヒドロキシラジカル消去能を有することが示されており、肝炎の予防や治療に有効であることが記載されている。また、特許文献2には、スピルリナから抽出される青色色素タンパク質であるフィコシアニンを含む化粧料が開示されており、かかる化粧料が抗老化作用や美白作用などを示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-256230号公報
【特許文献2】特開2020-183356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、スピルリナは、栄養補助食品の他、予防剤や治療剤などの有効成分としての利用が検討されている。しかし、例えば特許文献2に記載の抗老化作用や美白作用については、スピルリナ由来のタンパク質を含む化粧料の塗布により肌に弾力を感じるかや肌が白いと感じるかといった主観的な定性的評価しか為されていない。
そこで本発明は、ミトコンドリア活性化作用などの優れた作用を示すアンチエイジング剤とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、アルスロスピラ属藻類から抽出された多糖類が、客観的に優れたアンチエイジング作用を示すことを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] 有効成分としてアルスロスピラ属藻類由来の多糖類を含有することを特徴とするアンチエイジング剤。
[2] 前記アルスロスピラ属藻類がアルスロスピラ・プラテンシスである前記[1]に記載のアンチエイジング剤。
[3] ミトコンドリア活性化作用を示す前記[1]または[2]に記載のアンチエイジング剤。
[4] 抗酸化作用を示す前記[1]~[3]のいずれかに記載のアンチエイジング剤。
[5] コラーゲン生合成増強作用を示す前記[1]~[4]のいずれかに記載のアンチエイジング剤。
[6] アンチエイジング剤を製造するための方法であって、
アルスロスピラ属藻類から、フェノール水溶液またはトリクロロ酢酸水溶液を用いて多糖類を抽出する工程を含むことを特徴とする方法。
[7] 前記アルスロスピラ属藻類としてアルスロスピラ・プラテンシスを用いる前記[6]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアルスロスピラ属藻類由来の多糖類は、ミトコンドリアの活性化、抗酸化作用、コラーゲンや小胞体のフォールディングに関与する分子シャペロンの生合成の増強作用、コラーゲンの生合成の増強作用など、客観的で且つ優れたアンチエイジング作用を示す。また、本発明に係る多糖類は、それ自体が栄養補助食品などとして利用されているスピルリナ(アルスロスピラ属藻類)に由来するものであるからか、グラム陰性菌からのエンドトキシンの抽出方法と同様の方法で抽出されるものでありながら、細胞毒性が低いことが実験的に証明されている。よって本発明は、優れたアンチアンチエイジング剤に関する技術として、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明に係るスピルリナ多糖類による老化細胞中のミトコンドリアの活性化の指標となるJC-1蛍光強度を示すグラフである。
図2図2は、本発明に係るスピルリナ多糖類を含む培地で培養した老化細胞におけるミトコンドリアスーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)の遺伝子発現の経時的変化を示すグラフである。
図3図3は、本発明に係るスピルリナ多糖類を含む培地で培養した老化細胞におけるミトコンドリアスーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)の生合成量の経時的変化を示すイムノブロッティング写真である。
図4図4は、本発明に係るスピルリナ多糖類を含む培地で培養した老化細胞の酸化活性を示すグラフである。
図5図5は、本発明に係るスピルリナ多糖類を含む培地で培養した老化細胞のコラーゲン産生量を示すグラフである。
図6図6(1)は、コントロールsiRNAまたはミトコンドリアスーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)に対するsiRNAで形質転換した老化細胞を、本発明に係るスピルリナ多糖類で処理した場合または処理しなかった場合におけるSOD2の産生能を示すイムノブロッティング写真であり、図6(2)は、コラーゲンの産生量を示すグラフである。
図7図7(1)は、本発明に係るスピルリナ多糖類(SPC)またはリポ多糖(LPS)を含む培地で培養した老化細胞におけるミトコンドリアスーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)の相対的遺伝子発現量を示すグラフであり、図7(2)は、サイトカインであるIL-6の相対的遺伝子発現量を示すグラフである。
図8図8(1)は、本発明に係るスピルリナ多糖類を含む培地で培養した老化細胞における小胞体分子シャペロンHSP47の相対的遺伝子発現量を示すグラフであり、図8(2)は、小胞体分子シャペロンGRP78の相対的遺伝子発現量を示すグラフである。
図9図9は、本発明に係るスピルリナ多糖類の細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るアンチエイジング剤は、有効成分としてアルスロスピラ属藻類由来の多糖類を含有する。
【0013】
アルスロスピラ属藻類は、幅5~8μm、長さ300~500μmほどの、藍藻綱ユレモ目アルスロスピラ属に属し、淡水域に生息するらせん形藻類であり、一般的にスピルリナと呼ばれることもある。
【0014】
本発明で用い得るアルスロスピラ属藻類は、アンチエイジング効果を示す多糖類を含むものであれば特に制限されないが、例えば、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis,別名:Spirulina pacifica)、アルスロスピラ・マキシマ(Arthrospira maxima)、アルスロスピラ・ゲイトレリ(Arthrospira geitleri)、アルスロスピラ・サイアミーゼ(Arthrospira siamese)、スピルリナ・メイヤー(Spirulina major)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)等が挙げられ、アルスロスピラ・プラテンシスおよび/またはアルスロスピラ・マキシマが好ましく、アルスロスピラ・プラテンシスがより好ましい。
【0015】
多糖類とは、単糖分子がグリコシド結合により結合したポリマーをいう。本発明では、後述する通りグラム陰性細菌からエンドトキシンを抽出する方法と同様の方法でアルスロスピラ属藻類から有効成分を抽出する一方で、抽出物はエンドトキシンの様な毒性を示さないため、有効成分は多糖構造を有するが、エンドトキシンの毒性の原因であるリピドAは有さないと考えられる。一方、本発明に係る多糖類は、多糖構造を有する他、ペプチド、アミノ酸、リン酸基、炭化水素基などの構造も有する可能性がある。
【0016】
本発明に係る多糖類は、ミトコンドリアを活性化することが本発明者らの実験により見出されている。ミトコンドリアは、糖質、タンパク質、脂質などの代謝をつかさどり、エネルギー物質であるATPや熱を産生する。よって、本発明に係る多糖類は、ミトコンドリアの活性化を通じて、恒常的な生命活動を維持するためのエネルギーの供給に寄与したり、また、精神的な安定をもたらす4-アミノ酪酸(GABA)や血糖値を低下させるインスリンの分泌を促進することも考えられる。
【0017】
また、本発明に係る多糖類は、本発明者らの実験的知見により、ミトコンドリアの抗酸化酵素の遺伝子発現と生合成を促進することが明らかにされている。生体内の活性酸素は、本来は体内に侵入した細菌やウイルスを攻撃して生体を保護する重要な働きを有するが、過剰な活性酸素は正常な細胞まで攻撃したり、また、活性酸素により生じた過酸化脂質が更に活性酸素を生じるという悪循環に陥ることがある。抗酸化酵素は、過剰な活性酸素を分解して無害化するものであるため、例えば、本発明に係る多糖類は、ミトコンドリアの抗酸化酵素の活性化を通じてミトコンドリアを活性化する他、健康の維持や肌の状態の維持に寄与することが考えられる。
【0018】
更に、本発明者らは、本発明に係る多糖類がコラーゲンの生合成を促進することを実験的に証明している。コラーゲンは、皮膚、腱、軟骨などを構成する繊維状のタンパク質であるが、加齢によりその前駆体からコラーゲンを生成する酵素が減少し、コラーゲンの生合成量が低下して、シワの発生や肌の張りの減少などに繋がることが知られている。よって、本発明に係る多糖類により、加齢によるシワの発生や肌の張りの減少など、肌の状態が改善されることが考えられる。
【0019】
本発明に係るアンチエイジング剤は、有効成分としてアルスロスピラ属藻類由来の多糖類を含有する。有効成分とは、本発明に係るアンチエイジング剤に含まれる成分のうちアンチエイジング効果を発揮する成分をいい、換言すれば、本発明に係るアンチエイジング剤は、アンチエイジング効果が発揮される量の多糖類を含む。具体的には、特に制限されないが、例えば、本発明に係るアンチエイジング剤における多糖類の割合を10質量%以上、100質量%以下とすることができる。また、本発明に係るアンチエイジング剤が外用剤である場合には、多糖類の割合を0.1質量%以上、10質量%以下にすることもできる。
【0020】
本発明に係るアンチエイジング剤の投与頻度や投与量は、投与対象の年齢、性別、状態などに応じて適宜調整すればよく、アンチエイジング効果を発揮できる量を投与対象へ投与する。例えば、1日当たりのアンチエイジング剤の投与量としては10mg/kg体重以上、1g/kg体重以下とすることができる。また、本発明に係るアンチエイジング剤が外用剤である場合には、一日当たりのアンチエイジング剤の塗布量としては0.1mg以上、10mg以下とすることもできる。1日当たりの投与回数や塗布回数は特に限定されず、所望の投与範囲内において、単回または数回に分けて投与または塗布すればよい。
【0021】
本発明に係るアンチエイジング剤は、ヒトに限らず、ヒト以外の動物にも投与可能である。投与対象動物としては、例えば、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ラマなどの家畜;競走馬などの競技動物;イヌ、ネコなどの愛玩動物;マウス、ラット、モルモット、ウサギなどの実験動物;ニワトリ、アヒル、七面鳥、駝鳥などの家禽などが挙げられる。
【0022】
本発明に係るアンチエイジング剤の剤形は特に制限されず、例えば、多糖類自体であってもよいし、他の成分と組み合わせた組成物であってもよいし、これらの溶液または懸濁液であってもよい。本発明に係るアンチエイジング剤の剤形としては、特に制限されないが、例えば、錠剤、散剤、カプセル剤、糖衣錠、顆粒剤、液剤、外用剤などを挙げることができる。本発明に係るアンチエイジング剤には、剤形に合わせ、薬学上許容される添加剤を用いてもよい。かかる添加剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、甘味料、凝集防止剤、防腐剤、有効成分の溶解補助剤、安定化剤などを挙げることができる。
【0023】
本発明に係るアンチエイジング剤の有効成分である多糖類は、グラム陰性細菌からエンドトキシン(リポ多糖)を抽出する方法と同様の方法によって、アルスロスピラ属藻類から抽出することができる。かかる方法としては、Westphal法やTCA抽出法が挙げられる。
【0024】
Westphal法は、フェノール水溶液を使って膜成分を解離させ、多糖を水相中に抽出する方法である。原料であるアルスロスピラ属藻類としては、その培養液を用いてもよいが、精製の観点から、アルスロスピラ属藻類自体やその乾燥体を用いることが好ましい。例えば、アルスロスピラ属藻類の水分散液にフェノール水溶液を添加する。この際、加熱することにより、細胞が破壊される。加熱温度は適宜調整すればよいが、例えば、50℃以上、100℃未満とすることができる。この際、水とフェノールの合計に対するフェノールの割合は、例えば、30質量%以上、60質量%以下とすることができる。また、水とフェノールは完全に混和せず、二層に分離することがあるので、激しく撹拌することが好ましい。撹拌時間としては、例えば、5分間以上、30分間以下とすることができる。
【0025】
TCA抽出法は、トリクロロ酢酸(TCA)を使ってアルスロスピラ属藻類から多糖類を抽出する方法である。例えば、アルスロスピラ属藻類の冷分散液に、冷トリクロロ酢酸を加え、1時間以上、10時間以下程度振盪することにより多糖類を抽出する。この際における抽出溶媒全体に対するTCAの濃度は、例えば、15質量%以上、30質量%以下とすることができる。この方法は比較的温和な抽出法である。
【0026】
抽出後は、一般的な方法により多糖類を精製すればよい。精製方法としては、例えば、分液、透析、濃縮、遠心分離、凍結乾燥などが挙げられる。
【0027】
本発明に係る多糖類は、以下の実施例の通り、ミトコンドリアの活性化、抗酸化作用、コラーゲンや小胞体のフォールディングに関与する分子シャペロンの生合成の増強作用、コラーゲンの生合成の増強作用など、客観的で且つ優れたアンチエイジング作用を示す。また、本発明に係る多糖類は、以下の実施例の通り、それ自体が栄養補助食品などとして利用されているスピルリナ(アルスロスピラ属藻類)に由来するものであり、グラム陰性菌からのエンドトキシンの抽出方法と同様の方法で抽出されるものでありながら、細胞毒性が低い。よって本発明に係るアンチアンチエイジング剤は、アンチエイジング効果に優れた健康食品などとして恒常的に摂取することも可能である。
【0028】
例えば、本発明に係る多糖類は、アンチアンチエイジング剤として、一般的な飲食品とすることも可能である。本発明に係る多糖類を添加する飲食品は特に限定されないが、例えば、乳飲料、清涼飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンク、美容ドリンク、液体栄養剤などの飲料;チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ケーキ、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、半片などの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;パン、ハム、雑炊、米飯、スープ、各種レトルト食品、各種冷凍食品などが挙げられる。本発明に係る多糖類を含有する飲食品は、いわゆる健康食品、サプリメント、機能性食品、機能性表示食品、栄養補助食品、特定保健用食品、栄養機能食品、介護食品、スマイルケア食、咀嚼・嚥下補助食品、濃厚流動食品、病者用食品などの用途に用いることができる。
【実施例0029】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0030】
実施例1: Westphal法によるスピルリナ抽出物の製造
スピルリナ・パシフィカ(Spirulina pacifica)は、Cyanotech社により、食用スピルリナ(Arthrospira (Spirulina) platensis)の菌株から1984年に最初に選択されたものである。
乾燥したスピルリナ・パシフィカの細胞(10g)をアセトンで洗浄し、蒸留水(55mL)に分散させた後、68℃で激しく攪拌しながら90%フェノール水(45mL)を加えた。撹拌を120分間継続した後、混合物を濾過し、二層に分かれた濾液を分液した。得られた水相から、透析により残存するフェノールを除去した。具体的には、濾液を透析膜(「RC透析用チューブ」スペクトラム社製)に入れ、水(2L)に浸漬して4℃で48時間保持することにより残存フェノールを除去した。次いで、凍結乾燥した。
得られた粗精製物(0.1g)を水(10mL)に溶解し、100,000gで6時間超遠心分離に付すことにより、固形分を除去し、上清を凍結乾燥することにより、ゼリー状の堆積物が得られた。Westphal画分は、得られたゼリー堆積物から得られた。
得られた抽出物を質量スペクトル分析およびドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析したところ、その分子量は1000~20,000と推定された。分析の参考として、E.coli 055:B5 LPS(Smooth type,Sigma-Aldrich社製)を使用した。
なお、一般的にWestphal法によればグラム陰性菌からリポ多糖が抽出されるが、以下の実験により、本発明に係る抽出物は、スピルリナに由来するものであることからか、エンドトキシンであるリポ多糖とは異なる特性を示すことが明らかとなり、リポ多糖の毒性の原因であるリピドAは含まないと考えられることから、以下、得られた抽出物を「スピルリナ多糖類」という。
【0031】
試験例1: ミトコンドリア活性試験
(1)ミトコンドリア活性試験
MEMα培地に、10%FBS、100μg/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンを配合した培地を用い、ヒト皮膚線維芽細胞(NB1RGB細胞)を80~89日間培養することにより、老化細胞とした。
実施例1で製造したスピルリナ多糖類を前記培地に150μg/mLの割合で添加し、前記ヒト皮膚線維芽老化細胞を更に37℃で24時間培養した。比較のために、別途、スピルリナ多糖類を添加しない以外は同様にして培養した。
次いで、ミトコンドリアの活性を、ミトコンドリア膜電位検出キット(「JC-1 MitoMP Detection kit」Dojindo社製)を使って、製造元のプロトコルに従って、JC-1(Dojindo Molecular Technologies社製)染色により測定した。蛍光は、535nm/590nmおよび485nm/535nmのフィルターペアを使用して、蛍光マイクロプレートリーダー(「Infinite M200」TECAN社製)で測定した。
ミトコンドリアの活性が高い場合には膜電位差が維持され、低分子蛍光色素であるJC-1が凝集して、より波長の長い蛍光が発せられ、活性が低下すると膜電位差も低下し、JC-1が単量体となって、より波長の短い蛍光が発せられる。よって、ミトコンドリアの活性は、535nm/590nmで測定されたより長波長の蛍光と485nm/535nmで測定されたより低波長の蛍光の比率として測定できる。結果を、対照例に対するスピルリナ多糖類処理例の比として図1に示す。図1中、「*」は、二元配置分散分析に続くTukey’s testによりp<0.05で有意差があることを示す。
図1に示される結果の通り、スピルリナ多糖類で処理した老化細胞では、未処理老化細胞に比較して、ミトコンドリアが有意に活性化されていることが明らかにされた。
【0032】
(2)mRNAの発現解析
試験例1(1)と同様にして、スピルリナ多糖類を150μg/mLの割合で添加した培地を用い、ヒト皮膚線維芽老化細胞を更に37℃で24時間培養し、培養開始から0,3,6,12,及び24時間後に試料を採取し、高効率リアルタイムPCR用マスターミックス(「THUNDERBIRD(R) Next SYBR(R) qPCR Mix」東洋紡社製)を使って、ミトコンドリアの抗酸化酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)の遺伝子発現を定量した。全RNAは、内部標準としてβ-アクチン相補DNAを使用して、各反応でノーマライズした。結果を図2に示す。図2中、「*」は、二元配置分散分析に続くTukey’s testによりp<0.05で有意差があることを示す。
図2に示される結果の通り、本発明に係るスピルリナ多糖類によりミトコンドリアの抗酸化酵素SOD2遺伝子の発現が促進され、SOD2 mRNAの産生が促進されることが明らかとなった。
【0033】
(3)SOD2生合成量の解析
抗SOD2抗体(Cell Signaling Technology社製)と抗β-actin(sigma社製)を用い、SOD2生合成量を解析した。
具体的には、試験例1(2)と同様にして得た試料からタンパク質溶液を調製し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動に付した後、メンブレンに転写し、抗SOD2抗体製品を1000倍に、抗β-アクチン抗体を10000倍に希釈し、メンブレンを浸漬し、4℃で18時間インキュベートした後、洗浄した。次いで、HRP標識抗ウサギおよび抗マウス二次抗体製品(Promega社製)を5000倍に希釈し、メンブレンを浸漬し、常温で1時間インキュベートした後、洗浄した。次に、メンブランをルミノール反応溶液に浸漬し、発光するまで常温で5~10分間インキュベートした後、X線フィルムに感光させて現像した。
SOD2のバンドの蛍光強度を、各試料におけるβ-アクチンのバンドの蛍光強度で補正した。結果を図3に示す。図3中の「Intensity」は、上記補正値を示す。
図3に示される結果の通り、本発明に係るスピルリナ多糖類により、ミトコンドリアの抗酸化タンパク質SOD2の生合成量が経時的に増加していることが明らかとなった。
【0034】
(4)抗酸化活性測定: (Dojindo社: SOD assay kit)
試験例1(1)と同様にして、スピルリナ多糖類を150μg/mLの割合で添加した培地を用い、ヒト皮膚線維芽老化細胞を更に37℃で24時間培養し、試料を得た。比較のために、別途、スピルリナ多糖類を添加しない以外は同様に培養して試料を得た。
得られた試料の抗酸化活性を、抗酸化能測定キット(「SOD Assay Kit-WST」Dojindo Molecular Technologies社製)を用い、製造元のプロトコルに従って評価した。蛍光は、380nm/485nmのフィルターペアを備えた蛍光マイクロプレートリーダー(「Infinite M200」TECAN社製)で測定した。結果を図4に示す。図4中、「*」は、二元配置分散分析に続くTukey’s testによりp<0.05で有意差があることを示す。
図4に示される結果の通り、コントロールの細胞での活性酸素(ROS)の消去能は27%であったが、本発明に係るスピルリナ多糖類で処理した細胞では活性酸素消去能が47%へと増加していたことから、スピルリナ多糖類で処理した細胞では抗酸化活性が有意に上昇していることが分かった。
【0035】
以上の実験結果により、本発明に係るスピルリナ多糖類により、老化細胞のミトコンドリアが活性化され、特にミトコンドリアの抗酸化酵素の発現が促進されることが明らかにされた。
【0036】
試験例2: コラーゲン産生能試験
(1)コラーゲン産生能試験
試験例1(1)と同様にして、スピルリナ多糖類を150μg/mLの割合で添加した培地を用い、ヒト皮膚線維芽老化細胞を更に37℃で24時間培養し、試料を得た。比較のために、別途、スピルリナ多糖類を添加しない以外は同様に培養して試料を得た。得られた試料から細胞溶解液を調製し、含まれるタンパク質濃度を揃えた細胞溶解液1μLあたりの細胞層中のコラーゲンの量を、コラーゲン定量キット(コスモバイオ社製)を使用して、製造元のプロトコルに従って評価した。蛍光は、380nm/485nmのフィルターペアを備えた蛍光マイクロプレートリーダー(「Infinite M200」TECAN社製)で測定した。結果を図5に示す。図5中、「*」は、二元配置分散分析に続くTukey’s testによりp<0.05で有意差があることを示す。
図5に示される結果の通り、スピルリナ多糖類を添加しないで培養したコントロール老化細胞のコラーゲン産生量は14μg/mLであったが、本発明に係るスピルリナ多糖類を含む培養液中で培養された老化細胞では19μg/mLへと増加していた。よって、本発明に係るスピルリナ多糖類で処理した細胞では、コラーゲン産生能が有意に上昇していることが分かった。
【0037】
(2)siRNAによる形質転換
ミトコンドリアの抗酸化タンパク質SOD2の遺伝子に対するsiRNA(配列番号1および配列番号2)またはコントロールsiRNA(Santa Cruz Biotechnology社製)と、LipofectamineTM RNAiMAXトランスフェクション試薬(Invitrogen社製)を製造元の指示に従って使用して、試験例1(1)と同様にして得られたヒト皮膚線維芽細胞老化細胞を形質転換した。
次いで、試験例1(1)と同様にして、スピルリナ多糖類を150μg/mLの割合で添加した培地を用い、ヒト皮膚線維芽老化細胞を更に37℃で24時間培養し、試料を得た。比較のために、別途、スピルリナ多糖類を添加しない以外は同様に培養して試料を得た。
得られた試料から、試験例1(3)と同様にしてSOD2生合成量を測定し、また、試験例2(1)と同様にしてコラーゲン産生量を測定した。SOD2生合成量を図6(1)に、コラーゲン産生量を図6(2)に示す。図6(2)中、「SPC」はスピルリナ多糖類を示し、「*」は、二元配置分散分析に続くTukey’s testによりp<0.05で有意差があることを示す。
図6に示される結果の通り、siRNAによりSOD2の生合成を抑制すると、スピルリナ多糖類(SPC)によるコラーゲン生合成量の増加効果も阻害されることから、スピルリナ多糖類によるコラーゲン産生能の増強効果は、SOD2の発現増加、即ちミトコンドリアの抗酸能増加に依存していることが示唆された。
【0038】
試験例3: リポ多糖との比較
試験例1(1)と同様にして、スピルリナ多糖類を150μg/mL、又はリポ多糖(「リポポリサッカライド」富士フィルム和光純薬社製)を1μg/mLの割合で添加した培地を用い、ヒト皮膚線維芽老化細胞を更に37℃で24時間培養し、試料を得た。比較のために、別途、スピルリナ多糖類およびリポ多糖を添加しない以外は同様に培養して試料を得た。次いで、試験例1(2)と同様にして、SOD2 mRNA、又はサイトカインであるIL-6 mRNAの発現量を測定した。SOD2 mRNA発現量の結果を図7(1)に、IL-6 mRNA発現量の結果を図7(2)に示す。図7中、「SPC」はスピルリナ多糖類を示し、「LPS」はリポ多糖を示し、「*」は、二元配置分散分析に続くTukey’s testによりp<0.05で有意差があることを示す。
図7に示される結果の通り、本発明に係るスピルリナ多糖類(SPC)は、ミトコンドリアの抗酸化タンパク質SOD2の生合成を強く促進する一方で、サイトカインIL-6の生合成促進効果は弱いといえる。それに対してリポ多糖(LPS)は、SOD2の生合成促進効果はSPCの約0.4倍と非常に弱い一方で、IL-6の生合成促進効果は約3倍と非常に強い。
この様に、リポ多糖(LPS)はグラム陰性菌からWestphal法などにより精製され、エンドトキシンとも呼ばれ毒性の高いものであるのに対して、本発明に係るスピルリナ多糖類は、スピルリナから同じくWestphal法などにより精製されるものであるが、炎症や免疫疾患の発症に関与するサイトカインであるIL-6を誘導するといった毒性は低い一方で、ミトコンドリアの抗酸化タンパク質SOD2の生合成を強く促進する作用を示す。
【0039】
試験例4: 小胞体シャペロンの発現量測定
Hsp47は小胞体に局在し、コラーゲンのフォールディングに必須の分子シャペロンであり、小胞体内で三重らせん構造に結合することで、その安定化に寄与している。また、GRP78は、小胞体でのタンパク質のフォールディングや組み立てに関与する分子シャペロンである。そこで、本発明に係るスピルリナ多糖類の、これら分子シャペロンに対する作用効果を調べた。
試験例1(1)と同様にして、スピルリナ多糖類を100μg/mLまたは150μg/mLの割合で添加した培地を用い、ヒト皮膚線維芽老化細胞を更に37℃で24時間培養し、試料を得た。比較のために、別途、スピルリナ多糖類を添加しない以外は同様に培養して試料を得た。次いで、試験例1(2)と同様にして、Hsp47 mRNA、又はGRP78 mRNAの発現量を測定した。Hsp47 mRNA発現量の結果を図8(1)に、GRP78 mRNA発現量の結果を図8(2)に示す。図8中、「SPC」はスピルリナ多糖類を示し、「*」は、二元配置分散分析に続くTukey’s testによりp<0.05で対照例(SPC添加無し)に対して有意差があることを示す。
図8に示される結果の通り、本発明に係るスピルリナ多糖類は、コラーゲンや小胞体のフォールディングに関与する分子シャペロン遺伝子の発現を促進することから、コラーゲンを含む様々なタンパク質の産生を促進していると考えられる。
【0040】
試験例5: 細胞毒性試験
本発明に係るスピルリナ多糖類の細胞毒性を、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)法により試験した。
具体的には、試験例1(1)と同様にして、スピルリナ多糖類を0~150μg/mLの割合で添加した培地を用い、ヒト皮膚線維芽老化細胞を37℃で24時間培養した。次いで、培地中のMTT濃度が1mg/mLになるよう培地にMTT溶液を添加し、更に1~2時間インキュベートした。次に、2-プロパノールとHClを、それぞれ最終濃度が50%および20mMになるように添加した後、570nmの吸光度を、無限F50R分光光度計(TECAN社製)を使用して測定した。結果を図9に示す。
図9に示される結果の通り、本発明に係るスピルリナ多糖類は、試験したいずれの濃度でも、細胞に対して毒性を示さなかった。
【0041】
試験例6: 成分分析
実施例1で得られた抽出物はWestphal法により得られたものであるため多糖類であると予想された。そこで、得られた抽出物(スピルリナ多糖類)に含まれる糖類の量を測定した。
具体的には、Total Carbohydrate Assay kit(CELL BIOLABS社製)を用い、フェノール硫酸法により糖類の含量を求めた。当該キットによれば、試料中の全糖類は硫酸により加水分解されてフルフラールおよびフルフラール誘導体となり、更にキット試薬と反応させることにより色素が形成される。次いで、吸光度を測定し、測定値をグルコース検量線と照らし合わせ、総糖類含量を求める。吸光度は、492nmのフィルターを使用して、プレートリーダー(「Infinite F50」TECAN社製)で測定した。
その結果、グルコース換算で、スピルリナ多糖類の66±11%が糖類であることが分かった。残部の約34%は、十分に分解されなかった多糖類や、グルコースに比べて反応性の低い糖類、或いは多糖類に結合したペプチド、アミノ酸、リン酸基などであり、抽出物のほとんどは多糖類であると考えられる。
図1
図2
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図4
図5
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図7
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図9