(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184635
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】被験試料の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20221206BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20221206BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20221206BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221206BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
C12Q1/06 ZNA
C12Q1/6851 Z
A61K45/00
A61P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092586
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】渥美 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】玉置 寛子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 郁尚
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文裕
(72)【発明者】
【氏名】石井 健
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045CA20
2G045DA14
2G045DA36
2G045DB07
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB05
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX01
4C084AA17
4C084NA05
4C084ZB111
(57)【要約】
【課題】被験試料が有する抗炎症作用を容易に評価することができる、新たな指標に基づく被験試料の評価方法を提供すること。
【解決手段】被験試料が有する抗炎症作用を評価する被験試料の評価方法であって、被験試料とマクロファージとを接触させ、当該マクロファージのTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有する抗炎症作用を評価することを特徴とする、被験試料の評価方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験試料が有する抗炎症作用を評価する被験試料の評価方法であって、
被験試料とマクロファージとを接触させ、当該マクロファージのTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有する抗炎症作用を評価することを特徴とする、被験試料の評価方法。
【請求項2】
被験試料が有する抗細胞死作用を評価する被験試料の評価方法であって、
被験試料とマクロファージとを接触させ、当該マクロファージのTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有する抗細胞死作用を評価することを特徴とする被験試料の評価方法。
【請求項3】
前記マクロファージが、GM-CSFマクロファージおよび/またはM-CSFマクロファージである、請求項1または2に記載の被験試料の評価方法。
【請求項4】
前記TRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象が、NLRP3の産生量の抑制、Caspase-1の産生量の抑制、およびサイトカインの産生量の抑制からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1~3のいずれか1項に記載の被験試料の評価方法。
【請求項5】
マクロファージのTRPV4を活性化する物質を有効成分として含む、NLRP3および/またはCaspase-1の産生量を抑制する剤。
【請求項6】
マクロファージのTRPV4を活性化する物質を有効成分として含む、抗炎症剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験試料が有する抗炎症作用または抗細胞死作用を評価する被験試料の評価方法に関する。本発明はまた、NLRP3(NLR family, pyrin domain cantaining 3)および/またはCaspase-1の産生量を抑制する剤、ならびに抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
TRPチャネルは、感覚受容に関与する一群のタンパク質ファミリーである。TRPチャネルは、酵母から哺乳類まで幅広く存在することが知られており、ヒトでは、TRPC、TRPV、TPPM、TRPA、TRPPおよびTRPMLの6つのサブファミリーに属する全29種類の遺伝子の存在が知られている。
【0003】
TRPチャネルの1つであるTRPV4は、発見当初は浸透圧センサーとして同定されたが、その後、温度(25~34℃)や化学物質等で活性化されることが明らかとなっている。また、TRPV4は、感覚神経、視床下部、皮膚、腎臓、肺、内耳等の様々な組織で発現しており、浸透圧刺激、機械刺激による痛みや炎症性の痛みの伝達に重要な役割を果たしていることも知られている。
【0004】
本発明者らは、以前に、単球のTRPV4に着目して研究を進める中で、単球のTRPV4をTRPV4のアクチベーター(GSK1016790A)により活性化することで、各種アジュバントの刺激に応じて種々のサイトカイン(例えば、炎症性サイトカイン、ケモカイン等)および細胞接着分子の産生量が減少することを発見し、当該発見に基づき、単球を対象とする被験試料の抗炎症作用を評価する方法について出願を行った(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記技術は優れたものであるが、単球は血液中に存在するものであるため、さらに皮膚等への局在性を考慮した、新たな指標に基づく評価方法の開発をすることには技術的な意義がある。
【0007】
そこで、本発明の一態様は、被験試料が有する抗炎症作用等を容易に評価することができる、新たな指標に基づく被験試料の評価方法およびその利用技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、マクロファージのTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を指標とすることにより、被験試料が有する抗炎症作用等を容易に評価することができることを初めて見出した。そして、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の一実施形態は、以下の構成を包含する。
<1>被験試料が有する抗炎症作用を評価する被験試料の評価方法であって、
被験試料とマクロファージとを接触させ、当該マクロファージのTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有する抗炎症作用を評価することを特徴とする、被験試料の評価方法。
<2>被験試料が有する抗細胞死作用を評価する被験試料の評価方法であって、
被験試料とマクロファージとを接触させ、当該マクロファージのTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有する抗細胞死作用を評価することを特徴とする被験試料の評価方法。
<3>前記マクロファージが、GM-CSFマクロファージおよび/またはM-CSFマクロファージである、<1>または<2>に記載の被験試料の評価方法。
<4>前記TRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象が、NLRP3の産生量の抑制、Caspase-1の産生量の抑制、およびサイトカインの産生量の抑制からなる群より選択される少なくとも一つである、<1>~<3>のいずれかに記載の被験試料の評価方法。
<5>マクロファージのTRPV4を活性化する物質を有効成分として含む、NLRP3および/またはCaspase-1の産生量を抑制する剤。
<6>マクロファージのTRPV4を活性化する物質を有効成分として含む、抗炎症剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、被験試料が有する抗炎症作用を容易に評価することができる被験試料の評価方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】単球およびマクロファージにおけるTRPV4のmRNAの発現を示す図である。
【
図2】単球およびマクロファージにおけるTRPV4のmRNAの発現を示すグラフである。
【
図3】マクロファージにおけるTRPV4活性化後のIL-1βの産生量を示す図である。
【
図4】マクロファージにおけるTRPV4活性化後のIL-1βのmRNA量を示す図である。
【
図5】マクロファージにおけるTRPV4活性化後のNLRP3の産生量を示す図である。
【
図6】マクロファージにおけるTRPV4活性化後のCaspase-1の産生量を示す図である。
【
図7】アトピー性皮膚炎患者由来皮膚組織または健常者由来皮膚組織における、TRPV4のmRNAの発現、およびマクロファージの染色を示す図である。
【
図8】アトピー性皮膚炎患者由来皮膚組織(表皮および真皮)または健常者由来皮膚組織(表皮および真皮)における、TRPV4のmRNAの発現、およびマクロファージの染色を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
〔1.概要〕
本発明の一実施形態に係る被験試料の評価方法は、(1)被験試料が有する抗炎症作用を評価する被験試料の評価方法(以下、「本評価方法(1)」とも称する。)、または(2)被験試料が有する抗細胞死(抗アポトーシス)作用を評価する被験試料の評価方法(以下、「本評価方法(2)」とも称する。)であって、被験試料とマクロファージとを接触させ、当該マクロファージのTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有する抗炎症作用を評価することを特徴とする。以下、「本評価方法(1)」および「本評価方法(2)」を、まとめて「本評価方法」と称することがある。
【0013】
上述の通り、本発明者らは、以前に、単球のTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を指標とした、被験試料の抗炎症作用を評価する評価方法を報告している。上記技術は優れたものであるが、単球は血液中に存在するものであるため、さらに皮膚等への局在性を考慮した、新たな指標に基づく評価方法の開発には技術的な意義があると考えた。
【0014】
本発明者らは、新たな指標に基づく評価方法について鋭意検討を行う中で、以下の知見を得ることに成功した。
・GM-CSFマクロファージおよびM-CSFマクロファージでは、単球と同様に、TRPV4が発現している。
・前記マクロファージでは、単球に比べて、TRPV4の発現量が高い。
・前記マクロファージのTRPV4をTRPV4のアクチベーター(GSK1016790A)により活性化すると、IL-1βの産生量およびmRNA量が減少する。
・前記マクロファージのTRPV4をTRPV4のアクチベーター(GSK1016790A)により活性化すると、NLRP3の産生量、およびCaspase-1の産生量が減少する。
【0015】
従来の評価方法における単球は、生体内で血中から皮膚組織に移動したあと、マクロファージへ分化する。この分化後のマクロファージは皮膚組織に局在することから当該マクロファージを対象とする被験試料の抗炎症作用を評価する方法は、血中に存在し遊走する単球を用いた評価方法と比べて、化粧品等の皮膚外用剤の開発において、技術的意義が高い。
【0016】
また、マクロファージでは、単球に比べて、TRPV4の発現量が多いことから、マクロファージを対象とした本評価方法は、より鋭敏に被験試料の抗炎症作用を評価できるという利点を有する。
【0017】
〔2.被験試料の評価方法〕
本評価方法(1)では、被験試料とマクロファージとを接触させ、当該マクロファージのTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有する抗炎症作用を評価する。本評価方法(1)では、マクロファージのTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を指標とすることにより、被験試料が有する抗炎症作用を評価することができる。
【0018】
本評価方法(1)の具体例としては、特に限定されないが、例えば、
(1A):マクロファージと被験試料とを接触させ、TRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定するステップ、
(1B):マクロファージのTRPV4の機能の抑制条件下に、当該マクロファージと被験試料とを接触させ、TRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定するステップ、および
(1C):ステップ(1A)および(1B)で測定された生理学的事象に基づき、被験試料によるマクロファージのTRPV4に対する活性促進作用を評価し、当該活性促進作用の評価結果に基づき、前記被試験料が有する抗炎症作用を評価するステップ
を含む方法等が挙げられる。
【0019】
また、本評価方法(2)では、被験試料とマクロファージとを接触させ、当該マクロファージのTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有する抗細胞死作用を評価する。本評価方法(2)では、マクロファージのTRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を指標とすることにより、被験試料が有する抗細胞死作用を評価することができる。
【0020】
本評価方法(2)の具体例としては、特に限定されないが、例えば、
(2A):マクロファージと被験試料とを接触させ、TRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定するステップ、
(2B):マクロファージのTRPV4の機能の抑制条件下に、当該マクロファージと被験試料とを接触させ、TRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定するステップ、および
(2C):ステップ(2A)および(2B)で測定された生理学的事象に基づき、被験試料によるマクロファージのTRPV4に対する活性促進作用を評価し、当該活性促進作用の評価結果に基づき、前記被試験料が有する抗細胞死作用を評価するステップ
を含む方法等が挙げられる。
【0021】
本発明の一実施形態において、上記ステップ(2A)および(2B)は、本評価方法(1)におけるステップ(1A)および(1B)と同じステップであり得る。
【0022】
以下、「ステップ(1A)」および「ステップ(2A)」を、まとめて「ステップ(A)」と称し、「ステップ(1B)」および「ステップ(2B)」を、まとめて「ステップ(B)」と称し、「ステップ(1C)」および「ステップ(2C)」を、まとめて「ステップ(C)」と称することがある。
【0023】
(ステップ(A))
ステップ(A)では、マクロファージと被験試料とを接触させ、TRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定する。
【0024】
マクロファージは、炎症性のマクロファージであるGM-CSF(granulocyte macrophage-colony stimulating factor)マクロファージ(「M1型マクロファージ」とも称する。)であってもよく、抗炎症のマクロファージであるM-CSF(macrophage-colony stimulating factor)マクロファージ(「M2型マクロファージ」とも称する。)であってもよい。以下、「GM-CSFマクロファージ」および「M-CSFマクロファージ」を、まとめて「マクロファージ」と称する。
【0025】
マクロファージは、単離された株化されていないマクロファージ(以下、「単離マクロファージ」と称する。)であってもよく、マクロファージ株化細胞であってもよく、インビトロで単球から分化させたマクロファージであってもよい。単離マクロファージの供給源としては、特に限定されないが、例えば、ヒト末梢血、ヒト骨髄、マウス末梢血、マウス骨髄等が挙げられる。単離マクロファージとしては、例えば、ヒト単離マクロファージ、マウス単離マクロファージ等が挙げられる。ヒト単離GM-CSFマクロファージは、CD14陰性、CD11b陽性、CD80陽性TNFalpha陽性およびCD68陽性(CD14-CD11b+CD68+)を示す。ヒト単離M-CSFマクロファージは、CD68陽性、CD163陽性、Arginase 1陽性、IL-10陽性、CD206陽性、TNFalpha陰性、およびCD80陰性(CD68+CD163+Arginase 1+IL-10+CD206+TNFalpha-CD80-)を示す。マウス単離GM-CSFマクロファージは、CD80陽性、CD86陽性、CD36陽性、CD68陽性、CD32陽性、CD16陽性、IFNgammaR陽性、COX2陽性、iNOS陽性、IRF5陽性およびCD163陰性(CD80+CD86+CD36+CD68+CD32+CD16+IFNgammaR+COX2+iNOS+IRF5+CD163-)を示す。マウス単離M-CSFマクロファージは、CD163陽性、CD200陽性、CD301陽性、CXCR1陽性、DC209陽性、Dectin-1陽性、Arginase 1陽性、IRF4陽性、PPARgamma陽性、IL-10陽性(CD163+CD200+CD301+CXCR1+DC209+Dectin-1+Arginase 1+IRF4+PPARgamma+IL-10+)を示す。
【0026】
マクロファージ株化細胞としては、特に限定されないが、例えば、RAW-264.7、J774、MV-4-11、KG-1等が挙げられる。
【0027】
インビトロで単球からマクロファージを分化させる方法としては、特に限定されないが、例えば、GM-CSFおよび/またはM-CSFを含有する単球用培地において、単球の生理学的機能の維持に適した培養条件下に単球を培養すること等によって行なうことができる。
【0028】
単球用培地におけるGM-CSFおよび/またはM-CSFの量は、単球の数等によって異なるので一概に決定することができないことから、単球の数等に応じて適宜決定することが好ましい。単球用培地におけるGM-CSFおよび/またはM-CSFの量は、特に限定されないが、例えば、5ng/mL以上であり、好ましくは、10ng/mL以上である。また、単球用培地におけるGM-CSFおよび/またはM-CSFの量の上限は、特に限定されないが、例えば、200ng/mL以下であり、好ましくは100ng/mL以下である。単球用培地は、特に限定されないが、例えば、後述する被験試料の溶媒として用いられるマクロファージ用培地と同様である。培養条件は、特に限定されないが、例えば、後述するマクロファージと被験試料との接触の際に用いられる培養条件と同様である。
【0029】
単球とGM-CSFおよび/またはM-CSFとの接触時間は、単球からマクロファージへ分化するのに十分な時間であれば特に限定されないが、例えば、3日間以上であり、好ましくは5日間以上である。
【0030】
本評価方法において、上記の方法により、単球からマクロファージへ分化させたものをそのまま用いてもよいし、純化したマクロファージを用いてもよい。
【0031】
マクロファージを純化する方法としては、特に限定されないが、例えば、フローサイトメトリー、磁気細胞分離法等により行うことができる。フローサイトメトリー、磁気細胞分離法によってGM-CSFマクロファージを純化する場合、GM-CSFマクロファージのマーカーとしては、特に限定されないが、例えば、CD14、CD11b、CD68、CD80、CD163等が挙げられる。これらのGM-CSFマクロファージのマーカーのなかでは、単球とGM-CSFマクロファージとを容易に区別する観点から、CD14、CD11bおよびCD68が好ましい。GM-CSFマクロファージは、「CD14陰性、CD11b陽性およびCD68陽性」を示すことを指標として検出し、分離することができる。また、フローサイトメトリーによってM-CSFマクロファージを純化する場合、M-CSFマクロファージのマーカーとしては、特に限定されないが、例えば、CD68、CD163、Arginase-1、IL-10等が挙げられる。これらのM-CSFマクロファージのマーカーのなかでは、単球とM-CSFマクロファージとの容易に区別化する観点から、Arginase-1、IL-10およびCD163が好ましい。M-CSFマクロファージは、「CD68陽性、CD163陽性、Arginase 1陽性、IL-10陽性、CD206陽性、TNFalpha陰性およびCD80陰性」を示すことを指標として検出し、分離することができる。
【0032】
TRPV4は、例えば、細胞外液の浸透圧の減少等によって活性化する非選択性陽イオンチャネルの1つであり、TRPV4は、GenBankアクセッション番号:NM_021625に示されるアミノ酸配列を有する。
【0033】
被験試料としては、特に限定されないが、例えば、無機化合物、有機化合物、植物抽出物、細胞培養上清、細胞抽出物等が挙げられる。被験試料は、液体である場合、そのまま用いてもよく、必要に応じて溶媒で希釈して用いてもよい。また、被験試料は、固体である場合、溶媒に溶解させて用いることができる。
【0034】
溶媒は、被験試料の種類、測定対象の生理学的事象の種類等によって異なるので一概には決定することができないことから、被験試料の種類、測定対象の生理学的事象の種類等に応じて適宜決定することが好ましい。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、生理的食塩水、リン酸緩衝生理的食塩水、精製水、エタノール、エタノール水溶液、カルシウム含有溶液〔組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、2mM塩化カルシウム、10mMグルコースおよび10mM2-〔4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル〕エタンスルホン酸(HEPES)塩酸緩衝液(pH7.4)〕、カルシウム不含溶液〔組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、5mMグリコールエーテルジアミン四酢酸、10mMグルコースおよび10mMのHEPES塩酸緩衝液(pH7.4)〕、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。
【0035】
マクロファージと被験試料との接触は、例えば、被験試料を含有するマクロファージ用培地において、マクロファージの生理学的機能の維持に適した培養条件下にマクロファージを培養すること等によって行うことができる。
【0036】
マクロファージ用培地は、例えば、基本培地に培地添加物を添加することによって調製することができる。培地添加物としては、特に限定されないが、例えば、血清、抗生物質等が挙げられる。基本培地としては、特に限定されないが、例えば、RPMI1640培地、MEM培地、IMDM培地、Ham’s F12培地等が挙げられる。マクロファージ用培地は、血清飢餓培地であってもよく、非血清飢餓培地であってもよい。血清飢餓培地は、通常、好ましくは、0~1%(v/v)、より好ましくは、0~0.5%(v/v)の血清濃度を有する。非血清飢餓培地は、通常、好ましくは、2~10%(v/v)、より好ましくは、5~10%(v/v)の血清濃度を有する。これらのマクロファージ用培地のなかでは、種々の生理活性物質を含有する血清を含むので被験試料の効果をより特異的に評価することができることから、血清飢餓培地が好ましい。
【0037】
マクロファージ用培地における被験試料の量は、被験試料の種類、マクロファージの数等によって異なるので一概に決定することができないことから、被験試料の種類、マクロファージの数等に応じて適宜決定することが好ましい。マクロファージと被験試料との接触に用いられるマクロファージ用培地は、被験試料の溶媒として用いられるマクロファージ用培地と同様である。マクロファージと被験試料との接触時間は、被験試料の種類、培養温度等によって異なるので一概に決定することができないことから、被験試料の種類、培養温度等に応じて適宜決定することが好ましい。マクロファージと被験試料との接触時間は、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、0.15時間以上であり、より好ましくは、0.5時間以上であり、さらに好ましくは、1時間以上であり、特に好ましくは、3時間以上である。また、マクロファージと被験試料との接触時間の上限は、前記と同様に抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、72時間以下であり、より好ましくは、12時間以下であり、さらに好ましくは、8時間以下である。
【0038】
培養条件には、培養温度、培養雰囲気における二酸化炭素濃度等が含まれる。培養温度は、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、35℃以上であり、より好ましくは、36.5℃以上である。培養温度の上限は、前記と同様に抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、38℃以下であり、より好ましくは、37.5℃以下である。培養雰囲気における二酸化炭素濃度は、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、4%(v/v)以上であり、より好ましくは、5%(v/v)以上である。培養雰囲気における二酸化炭素濃度の上限は、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、10%(v/v)以下であり、より好ましくは、7%(v/v)以下である。
【0039】
TRPV4の活性化を介して引き起こされる生理学的事象としては、特に限定されないが、例えば、(i)マクロファージのTRPV4の活性化に起因する炎症関連因子またはそのmRNAの発現量の減少、(ii)炎症関連因子が、その前駆体から成熟する際に必要なNLRP3および/またはCaspase-1、またはそのmRNAの発現量の減少、(iii)マクロファージのTRPV4の活性化に起因するマクロファージの細胞内カルシウムイオン濃度の増加、(iv)マクロファージのTRPV4の活性化に起因するマクロファージの膜電位の増加等が挙げられる。
【0040】
TRPV4の活性化を介して引き起こされる生理学的事象の測定法としては、特に限定されないが、例えば、以下の測定法1~測定法4等が挙げられる。
【0041】
<測定法1>
測定法1では、生理学的事象として、前記「(i)マクロファージのTRPV4の活性化に起因する炎症関連因子またはそのmRNAの発現量の減少」が用いられる。測定法1は、
(1a):マクロファージと炎症惹起物質とを接触させるステップ、および
(1b):炎症関連因子またはそのmRNAの発現量を測定するステップ
を含む。
【0042】
マクロファージと炎症惹起物質との接触は、例えば、炎症惹起物質を含有するマクロファージ用培地において、マクロファージの生理学的機能の維持に適した培養条件下にマクロファージを培養すること等によって行うことができる。
【0043】
炎症惹起物質としては、特に限定されないが、例えば、リポ多糖;K3CpG等のCpGオリゴヌクレオチド;Pam3CSK4等のリポペプチド;Poly I:C等が挙げられる。
【0044】
マクロファージ用培地における炎症惹起物質の量は、炎症惹起物質の種類、マクロファージの数等によって異なるので一概に決定することができないことから、炎症惹起物質の種類、マクロファージの数等に応じて適宜決定することが好ましい。培養条件は、マクロファージと被験試料との接触の際に用いられる培養条件と同様である。
【0045】
測定法1をステップ(A)に用いる場合、測定法1のステップ(1a)では、被験試料および炎症惹起物質は、同時にマクロファージに接触させてもよく、別々にマクロファージに接触させてもよい。
【0046】
被験試料および炎症惹起物質を同時にマクロファージに接触させる場合、例えば、被験試料と炎症惹起物質とを含有するマクロファージ用培地等を用いることができる。被験試料および炎症惹起物質を同時にマクロファージに接触させる際の培養温度は、前記培養条件における培養温度と同様である。マクロファージと被験試料と炎症惹起物質との接触時間は、被験試料の種類、炎症惹起物質の種類、培養温度等によって異なるので一概に決定することができないことから、被験試料の種類、炎症惹起物質の種類、培養温度等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0047】
被験試料および炎症惹起物質を別々にマクロファージに接触させる場合、被験試料をマクロファージに接触させた後、炎症惹起物質を当該マクロファージに接触させてもよく、炎症惹起物質をマクロファージに接触させた後、被験試料を当該マクロファージに接触させてもよい。炎症惹起物質とマクロファージとを接触させる際の培養温度は、前記培養条件における培養温度と同様である。マクロファージと炎症惹起物質との接触時間は、炎症惹起物質の種類、培養温度等によって異なるので一概に決定することができないことから、炎症惹起物質の種類、培養温度等に応じて適宜決定することが好ましい。マクロファージと炎症惹起物質との接触時間は、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、0.15時間以上であり、より好ましくは、0.5時間以上であり、さらに好ましくは、1時間以上であり、特に好ましくは、3時間以上であり、とりわけ好ましくは、6時間以上である。マクロファージと炎症惹起物質との接触時間の上限は、前記と同様に抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、72時間以下であり、より好ましくは、12時間以下であり、さらに好ましくは、8時間以下である。
【0048】
炎症関連因子は、炎症部位に存在する因子である。炎症関連因子としては、特に限定されないが、例えば、IFN-α、IFN-γ、IL-1a、IL-1β、IL-12p70、IL-13、IL-17α、IL-4、IL-6、TNF-α、GM-CSF等の炎症性サイトカイン;IP-10,MCP-1、MIP-1α、MIP-1β等のケモカイン;E-セレクチン、P-セレクチン、sICAM-1等の細胞接着因子等が挙げられる。これらの炎症関連因子のなかでは、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、IFN-α、IFN-γ、IL-1a、IL-1β、IL-12p70、IL-13、IL-17α、IL-4、IL-6、TNF-α、GM-CSF、IP-10,MCP-1、MIP-1α、MIP-1β、E-セレクチン、P-セレクチン、およびsICAM-1が好ましい。
【0049】
炎症関連因子の発現量の測定法としては、特に限定されないが、例えば、酵素標識免疫測定方法(以下、「ELISA」と称する。)、ウエスタンブロッティング法、免疫蛍光染色法、蛍光活性化セルソーティング(以下、「FACS」と称する。)、蛍光標識ビーズを用いたマルチプレックスアッセイ等が挙げられる。炎症関連因子のmRNAの発現量の測定法としては、特に限定されないが、例えば、リアルタイムRT-PCR、ノーザンブロッティング法等が挙げられる。
【0050】
ELISAおよびウエスタンブロッティング法に用いられる抗体としては、特に限定されないが、例えば、炎症関連物質に対する抗体またはその抗体断片等が挙げられる。炎症関連物質に対する抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。炎症関連物質に対する抗体およびその抗体断片として、商業的に入手可能な抗体およびその抗体断片を用いることができる。
【0051】
リアルタイムRT-PCR法に用いられるプライマー対としては、特に限定されないが、例えば、炎症関連因子をコードする核酸の塩基配列の一部からなるプライマーと当該核酸のアンチセンス鎖の塩基配列の一部からなるプライマーとからなるプライマー等が挙げられる。プライマー対としては、商業的に入手可能なプライマー対を用いることができる。
【0052】
ノーザンブロッティング法に用いられるプローブとしては、特に限定されないが、例えば、炎症関連因子をコードする核酸の全部または一部からなる核酸、炎症関連因子をコードする核酸のアンチセンス鎖の全部または一部からなる核酸等が挙げられる。プローブが炎症関連因子をコードする核酸の一部からなる核酸または当該核酸のアンチセンス鎖の一部からなる核酸である場合、プローブの長さは、炎症関連因子の種類等によって異なるので一概には決定することができないことから、炎症関連因子の種類等に応じて適宜決定することが好ましい。プローブの長さは、炎症関連因子の発現量の測定精度を向上させる観点から、通常、好ましくは20~500ヌクレオチド長である。
【0053】
<測定法2>
測定法2では、生理学的事象として、前記「炎症関連因子が、その前駆体から成熟する際に必要なNLRP3および/またはCaspase-1、またはそのmRNAの発現量の減少」が用いられる。測定法2は、
(2a):<測定法1>におけるステップ(1a)と同様のステップ
(2b):NLRP3および/またはCaspase-1の産生量、またはそのmRNAの発現量を測定するステップ
を含む。
【0054】
マクロファージは、炎症性刺激(例えば、LPSによる刺激)を受けると、過栄養により生体内に蓄積した刺激性の代謝物(尿酸塩結晶や遊離脂肪酸等)に反応するNLRP3を介して、NLRP3インフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体を形成する。NLRP3インフラマソームは、Caspase-1を活性化し、炎症関連因子の前駆体を切断して、成熟化させる。例えば、炎症関連因子がIL-1βである場合、NLRP3インフラマソームにより、IL-1βの前駆体であるpro-IL-1βが切断され、活性型となる。細胞外に放出された活性化型IL-1βは、その後の炎症応答を促進する。NLRP3インフラマソームの過度の活性化は、例えば、痛風関節炎または糖尿病等の炎症性疾患の発症と密接に関わる。また、NLRP3インフラマソームを構成するCaspase-1の活性化は、細胞死の1つである、パイロトーシスを誘導する。このように、NLRP3およびCaspase-1は、炎症関連因子の成熟化および細胞死に関連しているため、NLRP3および/またはCaspase-1の産生量、またはそのmRNAの発現量を指標とすることにより、被験試料が有する抗炎症作用および/または抗細胞死作用を評価することができる。
【0055】
また、上述の通り、IL-1βを含む炎症関連因子は、mRNAの発現、およびその後のタンパク質の成熟化の少なくとも2段階で制御される。すなわち、マクロファージのTRPV4の活性化は、直接的に炎症関連因子の産生量を減少させるだけでなく、その成熟機構に関与し、炎症応答を促進するNLRP3インフラマソームの産生量や活性化も抑制し得る。なお、IL-1β、NLRP3およびCaspase-1は、それぞれ、以下のGenBankアクセッション番号で示される遺伝子である。
・IL-1β:NC_000002.12(ヒト)
・NLRP3:NC_000001.11(ヒト)
・Caspase-1:NC_000011.10(ヒト)
ステップ(2a)は、<測定法1>におけるステップ(1a)と同様のステップであり、<測定法1>に記載の内容が援用される。
【0056】
NLRP3およびCaspase-1の発現量の測定法としては、特に限定されないが、例えば、ELISA、ウエスタンブロッティング法、免疫蛍光染色法、FACS、蛍光標識ビーズを用いたマルチプレックスアッセイ等が挙げられる。NLRP3およびCaspase-1のmRNAの発現量の測定法としては、特に限定されないが、例えば、リアルタイムRT-PCR、ノーザンブロッティング法等が挙げられる。
【0057】
ELISAおよびウエスタンブロッティング法に用いられる抗体としては、特に限定されないが、例えば、NLRP3およびCaspase-1に対する抗体またはその抗体断片等が挙げられる。NLRP3およびCaspase-1に対する抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。炎症関連物質に対する抗体およびその抗体断片として、商業的に入手可能な抗体およびその抗体断片を用いることができる。
【0058】
リアルタイムRT-PCR法に用いられるプライマー対としては、特に限定されないが、例えば、NLRP3およびCaspase-1をコードする核酸の塩基配列の一部からなるプライマーと当該核酸のアンチセンス鎖の塩基配列の一部からなるプライマーとからなるプライマー等が挙げられる。プライマー対としては、商業的に入手可能なプライマー対を用いることができる。
【0059】
ノーザンブロッティング法に用いられるプローブとしては、特に限定されないが、例えば、NLRP3およびCaspase-1をコードする核酸の全部または一部からなる核酸、NLRP3およびCaspase-1をコードする核酸のアンチセンス鎖の全部または一部からなる核酸等が挙げられる。プローブがNLRP3およびCaspase-1をコードする核酸の一部からなる核酸または当該核酸のアンチセンス鎖の一部からなる核酸である場合、プローブの長さは、適宜決定することが好ましい。プローブの長さは、NLRP3およびCaspase-1の発現量の測定精度を向上させる観点から、通常、好ましくは20~500ヌクレオチド長である。
【0060】
<測定法3>
測定法3では、生理学的事象として、前記「(iii)マクロファージのTRPV4の活性化に起因するマクロファージの細胞内カルシウムイオン濃度の増加」が用いられる。マクロファージの細胞内カルシウムイオン濃度は、カルシウム指示薬をマクロファージに導入し、マクロファージ内のカルシウムイオンと結合したカルシウム指示薬の量を指標として測定することができる。
【0061】
カルシウム指示薬は、カルシウムイオンと結合したカルシウム指示薬の量を簡便な操作で測定することができることから、カルシウムイオンとの結合前後の変化を光学的特性の変化等によって検出することができる試薬であることが好ましい。光学的特性の変化としては、特に限定されないが、例えば、蛍光強度の変化、吸光度の変化等が挙げられる。カルシウム指示薬としては、特に限定されないが、例えば、カルシウムイオンとの結合前後に蛍光強度が変化する蛍光カルシウム指示薬等が挙げられる。カルシウム指示薬の具体例としては、特に限定されないが、1-[6-アミノ-2-(5-カルボキシ-2-オキサゾリル)-5-ベンゾフラニルオキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸ペンタアセトキシメチルエステル(以下、「Fura 2-AM」と称する。)、1-[2-アミノ-5-(2,7-ジクロロ-6-ヒドロキシ-3-オキソ-9-キサンテニル)フェノキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸テトラアセトキシメチルエステル(以下、「Fluo 3-AM」と称する。)、1-[2-アミノ-5-(2,7-ジフルオロ-6-アセトキシメトキシ-3-オキソ-9-キサンテニル)フェノキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸テトラアセトキシメチルエステル(以下、「Fluo 4-AM」と称する。)等の蛍光カルシウム指示薬等が挙げられる。カルシウム指示薬のなかでは、カルシウムイオンの動態と夾雑物質の動態とを区別化し、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、カルシウムイオンとの結合前後に蛍光強度が変化する蛍光カルシウム指示薬が好ましく、Fura 2-AM、Fluo 3-AMおよびFluo 4-AMがより好ましい。
【0062】
蛍光カルシウム指示薬は、1種類の励起波長を有していてもよく、2種類以上の励起波長を有していてもよい。カルシウム指示薬が蛍光カルシウム指示薬である場合、当該蛍光カルシウム指示薬は、蛍光強度の測定が容易であり、検出強度が高いことから、2種類の励起波長を有する蛍光カルシウム指示薬が好ましい。細胞内カルシウム濃度の変化の測定に際して、1種類の励起波長を有する蛍光カルシウム指示薬を用いる場合、当該励起波長における蛍光強度に基づき、細胞内カルシウム濃度の変化を測定することができる。細胞内カルシウム濃度の変化の測定に際し、2種類以上の励起波長を有する蛍光カルシウム指示薬を用いる場合、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、当該2種類以上の励起波長から選ばれた2種類の励起波長(第1励起波長および第2励起波長)を選択し、第1励起波長および第2励起波長のそれぞれにおける蛍光強度から算出された蛍光強度比に基づき、細胞内カルシウム濃度の変化を測定することができる。細胞内カルシウム濃度の測定に際し、例えば、2種類の励起波長を有する蛍光カルシウム指示薬であるFURA 2-AMを用いる場合、第1励起波長における蛍光強度(以下、「第1蛍光強度」ともいう)として励起波長340nmにおける蛍光強度および第2励起波長における蛍光強度(以下、「第2蛍光強度」ともいう)として励起波長380nmにおける蛍光強度を用いることができる。蛍光強度比は、例えば、式(I):
[蛍光強度比]=[第1蛍光強度]/[第2蛍光強度] (I)
に基づいて求めることができる。
【0063】
マクロファージに蛍光カルシウム指示薬を導入する方法としては、特に限定されないが、例えば、マクロファージが入った還流チャンバー内で蛍光カルシウム指示薬を含有する緩衝液を循環させる方法等が挙げられる。指示薬導入後の単マクロファージと被験試料とを接触させる方法としては、特に限定されないが、例えば、蛍光カルシウム指示薬が導入されたマクロファージが入った還流チャンバー内で蛍光カルシウム指示薬を含有する緩衝液を循環させる方法等が挙げられる。被験試料接触後の細胞とカルシウムイオンとを接触させる方法としては、特に限定されないが、例えば、カルシウムイオンを含有し、被験試料を含まない緩衝液を循環させる方法等が挙げられる。緩衝液としては、特に限定されないが、例えば、HEPES緩衝液等が挙げられる。マクロファージに蛍光カルシウム指示薬を導入する際の温度、マクロファージと被験試料との接触温度およびマクロファージとカルシウムイオンとの接触温度は、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、35℃以上であり、より好ましくは、36.5℃以上である。マクロファージに蛍光カルシウム指示薬を導入する際の温度、マクロファージと被験試料との接触温度およびマクロファージとカルシウムイオンとの接触温度の上限は、前記と同様に抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、38℃以下であり、より好ましくは、37.5℃以下である。マクロファージと被験試料との接触時間は、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、0.5分間以上であり、より好ましくは、1分間以上であり、細胞内カルシウムの変化を的確に評価する観点から、好ましくは、1時間以下であり、より好ましくは、0.5時間以下である。マクロファージとカルシウムイオンとの接触時間は、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、1分間以上であり、より好ましくは、5分間以上である。マクロファージとカルシウムイオンとの接触時間の上限は、前記と同様に抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、2時間以下であり、より好ましくは、1時間以下である。
【0064】
<測定法4>
測定法4では、生理学的事象として、前記「(iv)マクロファージのTRPV4の活性化に起因するマクロファージの膜電位の増加」が用いられる。マクロファージの膜電位の測定法としては、特に限定されないが、例えば、ホールセル法、セルアタッチ法等のパッチクランプ法等が挙げられる。
【0065】
(ステップ(B))
ステップ(B)では、マクロファージのTRPV4の機能の抑制条件下に、当該マクロファージと被験試料とを接触させ、TRPV4の活性化によって引き起こされる生理学的事象を測定する。ステップ(B)における生理学的事象の測定は、マクロファージのTRPV4の機能の抑制条件下に行なうことを除き、ステップ(A)と同様の条件および方法によって行なうことができる。また、ステップ(B)で測定される生理学的事象は、ステップ(A)で測定された生理学的事象と同じ種類の生理学的事象である。
【0066】
マクロファージのTRPV4の機能を抑制する方法としては、特に限定されないが、例えば、TRPV4活性抑制剤とマクロファージのTRPV4とを接触させる方法、マクロファージのTRPV4をノックダウンまたはノックアウトさせる方法等が挙げられる。
【0067】
TRPV4活性抑制剤としては、特に限定されないが、例えば、2-メチル-1-[3-(4-モルホリニル)プロピル]-5-フェニル-N-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-ピロール-3-カルボキサミド(以下、「HC-067047」と称する。)、3-([1,4’-ビピペリジン]-1’-イルメチル)-7-ブロモ-N-(1-フェニルシクロプロピル)-2-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-キノリンカルボキサミド(以下、「GSK2193874」と称する。)、N-[4-[[4-(1-メチルエチル)-1-ピペラジニル]スルホニル]フェニル]-2-ニトロ-4-(トリフルオロメチル)ベンザミド塩酸塩(以下、「RN9893塩酸塩」と称する。)、2,4-ジクロロ-N-(1-メチルエチル)-N-{2-[(1-メチルエチル)アミノ]エチル}ベンゼンスルホンアミド(以下、「RN-1734」と称する。)、ルテニウムレッド等のTRPV4アンタゴニスト等が挙げられる。これらのTRPV4活性抑制剤のなかでは、マクロファージのTRPV4の活性化を介して引き起こされる生理学的事象を的確に測定する観点から、TRPV4アンタゴニストが好ましく、HC-067047、GSK2193874、RN9893塩酸塩、RN-1734およびルテニウムレッドがより好ましく、HC-067047およびGSK2193874がさらに好ましい。
【0068】
マクロファージのTRPV4に接触させるTRPV4活性抑制剤の量は、TRPV4活性抑制剤の種類、マクロファージの数等によって異なるので一概には決定することができないことから、TRPV4活性抑制剤の種類、マクロファージの数等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0069】
TRPV4活性抑制剤とマクロファージのTRPV4との接触は、マクロファージのTRPV4の機能の抑制条件下での被験試料の作用を的確に評価する観点から、マクロファージと被験試料との接触前または接触と同時に行なうことが好ましい。
【0070】
TRPV4活性抑制剤とマクロファージのTRPV4との接触をマクロファージと被験試料との接触前に行なう場合、TRPV4活性抑制剤とマクロファージのTRPV4との接触時間は、抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、5分間以上であり、より好ましくは、15分間以上である。TRPV4活性抑制剤とマクロファージのTRPV4との接触をマクロファージと被験試料との接触前に行なう場合、TRPV4活性抑制剤とマクロファージのTRPV4との接触時間の上限は、前記と同様に抗炎症作用または抗細胞死作用、好ましくは、マクロファージのTRPV4の活性化を介した抗炎症作用または抗細胞死作用を的確に評価する観点から、好ましくは、24時間以下であり、より好ましくは、1時間以下である。
【0071】
TRPV4活性抑制剤とマクロファージのTRPV4との接触をマクロファージと被験試料との接触と同時に行なう場合、TRPV4活性抑制剤とマクロファージのTRPV4との接触時間は、マクロファージのTRPV4と被験物質との接触時間と同様である。
【0072】
マクロファージのTRPV4をノックダウンさせる方法としては、特に限定されないが、例えば、RNAサイレンシング法によってTRPV4遺伝子の発現を阻害する方法、ドミナント・ネガティブ変異体を発現させることによって正常なTRPV4の機能を阻害する方法等が挙げられる。マクロファージのTRPV4をノックアウトさせる方法としては、特に限定されないが、例えば、相同組換法によってTRPV4遺伝子を破壊する方法、ゲノム編集技術によってTRPV4遺伝子を破壊する方法等が挙げられる。
【0073】
(ステップ(C))
ステップ(C)では、ステップ(A)および(B)で測定された生理学的事象に基づき、被験試料によるマクロファージのTRPV4に対する活性促進作用を評価し、当該活性促進作用の評価結果に基づき、前記被験試料が有する抗炎症作用および/または抗細胞死作用を評価する。
【0074】
ステップ(A)および(B)で測定された生理学的事象が「(i)マクロファージのTRPV4の活性化に起因する炎症関連因子またはそのmRNAの発現量の減少」である場合、被験試料は、以下の指標(1a)および(1b)の少なくとも1つの指標に基づいてマクロファージのTRPV4に対して活性促進作用を有すると評価される。
【0075】
<指標(1a)>
ステップ(A)で測定された炎症関連因子の発現量がステップ(B)で測定された炎症関連因子の発現量と比べて少ないこと。
【0076】
<指標(1b)>
ステップ(A)で測定された炎症関連因子のmRNAの発現量がステップ(B)で測定された炎症関連因子のmRNAの発現量と比べて少ないこと。
【0077】
ステップ(A)および(B)で測定された生理学的事象が「(ii)炎症関連因子が、その前駆体から成熟する際に必要なNLRP3および/またはCaspase-1、またはそのmRNAの発現量の減少」である場合、被験試料は、以下の指標(2a)および(2b)の少なくとも1つの指標に基づいてマクロファージのTRPV4に対して活性促進作用を有すると評価される。
【0078】
<指標(2a)>
ステップ(A)で測定されたNLRP3および/またはCaspase-1の産生量がステップ(B)で測定されたNLRP3および/またはCaspase-1の産生量と比べて少ないこと。
【0079】
<指標(2b)>
ステップ(A)で測定されたNLRP3および/またはCaspase-1のmRNAの発現量がステップ(B)で測定されたNLRP3および/またはCaspase-1のmRNAの発現量と比べて少ないこと。
【0080】
ステップ(A)および(B)で測定された生理学的事象が「(iii)マクロファージのTRPV4の活性化に起因するマクロファージの細胞内カルシウムイオン濃度の増加」である場合、被験試料は、以下の指標(3a)に基づいてマクロファージのTRPV4に対して活性促進作用を有すると評価される。
【0081】
<指標(3a)>
ステップ(A)で測定されたマクロファージの細胞内カルシウムイオン濃度がステップ(B)で測定されたマクロファージの細胞内カルシウムイオン濃度と比べて高いこと。
【0082】
ステップ(A)および(B)で測定された生理学的事象が「(iv)マクロファージのTRPV4の活性化に起因するマクロファージの膜電位の増加」である場合、被験試料は、以下の指標(4a)に基づいてマクロファージのTRPV4に対して活性促進作用を有すると評価される。
【0083】
<指標(4a)>
ステップ(A)で測定されたマクロファージの膜電位がステップ(B)で測定されたマクロファージの膜電位と比べて大きいこと。
【0084】
被験試料は、マクロファージのTRPV4に対して活性促進作用を有する場合、抗炎症作用および/または抗細胞死作用、好ましくは、TRPV4の活性化を介した抗炎症作用および/または抗細胞死作用を有すると評価されることができる。被験試料は、マクロファージのTRPV4に対して活性促進作用を有しない場合、抗炎症作用および/または抗細胞死作用、好ましくは、TRPV4の活性化を介した抗炎症作用および/または抗細胞死作用を有していないと評価されることができる。
【0085】
以上説明したように、本発明の被験試料の評価方法によれば、被験試料が有する抗炎症作用および/または抗細胞死作用、好ましくは、TRPV4の活性化を介した抗炎症作用および/または抗細胞死作用を容易に評価することができる。
【0086】
(その他)
本発明の一実施形態において、本評価方法は、マクロファージと単球とを組み合わせて行ってもよい。複数の細胞を使用することで、複数の指標で評価することが可能となり、より高精度の、多様なスクリーニングができる。
【0087】
マクロファージと単球との組み合わせは、例えば、GM-CSFマクロファージと単球との組み合わせ、M-CSFマクロファージと単球との組み合わせ、GM-CSFマクロファージとM-CSFマクロファージと単球との組み合わせであり得る。この場合において、単球を用いた評価方法は、例えば、上記ステップ(1A)~(1C)またはステップ(2A)~(2C)の「マクロファージ」を「単球」に入れ替えて、行うことができる。
【0088】
〔3.NLRP3および/またはCaspase-1の産生量を抑制する剤、および抗炎症剤〕
本発明の一実施形態において、マクロファージのTRPV4を活性化する物質を有効成分として含む、NLRP3および/またはCaspase-1の産生量を抑制する剤(以下、「本抑制剤」と称する。)を提供する。
【0089】
本明細書において、「NLRP3および/またはCaspase-1の産生量を抑制する剤」とは、当該物質の存在下において、当該物質の非存在下と比して、NLRP3および/またはCaspase-1の産生量が低減(抑制)される物質を意図する。本抑制剤は、例えば、抗細胞死作用を示す薬剤として使用し得る。
【0090】
また、本発明の一実施形態において、マクロファージのTRPV4を活性化する物質を有効成分として含む、抗炎症剤(以下、「本抗炎症剤」と称する。)を提供する。
【0091】
本明細書において、「抗炎症剤」とは、当該物質の存在下において、当該物質の非存在下と比して、炎症が低減(抑制)される物質を意図する。本抗炎症剤は、例えば、化学物質、薬物等の化学刺激、熱覚刺激(例えば、43℃前後の刺激)、痛み刺激、機械刺激等による炎症を低減することができる。
【0092】
(有効成分)
本抑制剤および本抗炎症剤は、有効成分として、マクロファージのTRPV4を活性化する物質を含む。
【0093】
本明細書において、「マクロファージのTRPV4を活性化する物質」とは、マクロファージのTRPV4の活性を正に制御し得る物質であれば、特段限定されない。マクロファージのTRPV4を活性化する物質としては、特に限定されないが、例えば、GSK1016790A、4alpha-PDD、5′,6′-Epoxyeicosatrienoic acid、アラキドン酸等が挙げられる。
【0094】
また、本発明の一実施形態において、マクロファージのTRPV4を活性化する物質は、本評価方法を用いて、抗炎症作用および/または抗細胞死作用、好ましくは、TRPV4の活性化を介した抗炎症作用および/または抗細胞死作用を有すると評価された被験物質であり得る。
【0095】
本抑制剤および本抗炎症剤は、有効成分として、マクロファージのTRPV4を活性化する物質を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0096】
(その他の成分)
本抑制剤および本抗炎症剤は、上述した有効成分(マクロファージのTRPV4を活性化する物質)以外の成分(その他の成分)を含有していてもよい。その他の成分は、薬学的に許容され得る成分であればよく、例えば、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、溶媒、経皮吸収促進剤等であり得る。
【0097】
前記緩衝剤の例としては、リン酸またはリン酸塩、ホウ酸またはホウ酸塩、クエン酸またはクエン酸塩、酢酸または酢酸塩、炭酸または炭酸塩、酒石酸または酒石酸塩、ε-アミノカプロン酸、トロメタモール等が挙げられる。前記リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられる。前記ホウ酸塩としては、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等が挙げられる。前記クエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等が挙げられる。前記酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。前記炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。前記酒石酸塩としては、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム等が挙げられる。
【0098】
前記pH調整剤の例としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0099】
前記等張化剤の例としては、イオン性等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等)、非イオン性等張化剤(グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール等)が挙げられる。
【0100】
前記防腐剤の例としては、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール等が挙げられる。
【0101】
前記抗酸化剤の例としては、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0102】
前記高分子量重合体の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、アテロコラーゲン等が挙げられる。
【0103】
前記賦形剤の例としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロース等が挙げる。
【0104】
前記溶媒の例としては、水、生理的食塩水、アルコール等が挙げられる。
【0105】
本抑制剤および本抗炎症剤は、上述したその他の成分として、有効成分が有する効果を向上させる作用を有する物質(以下、「向上剤」と称する場合がある。)を含んでもよい。向上剤は、有効成分との併用により、有効成分が有する効果に対する向上作用を有する物質である。向上剤は、それぞれ単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0106】
向上剤としては、例えば、無機化合物、有機化合物、植物抽出物、微生物培養物、微生物抽出物、ノニオン界面活性剤等の界面活性剤等が挙げられる。これらの物質のなかでも、有効成分の効果をより向上させることができることから、界面活性剤が好ましく、ノニオン界面活性剤がより好ましい。
【0107】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油等のポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン界面活性剤;グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド等のポリオキシアルキレン鎖を有しないノニオン界面活性剤等が挙げられる。これらのノニオン界面活性剤のなかでも、有効成分が有する効果をより向上させる観点から、ポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン界面活性剤が好ましい。
【0108】
(有効成分、およびその他の成分の含有量)
本抑制剤および本抗炎症剤の有効成分の量は、当該有効成分が所望の効果を発揮する限り、特に限定されない。当該有効成分の量は、例えば、薬剤の総重量に対して、0.001重量%~100重量%であってもよく、0.01重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~95重量%であってもよく、0.1重量%~90重量%であってもよく、0.1重量%~80重量%であってもよく、0.1重量%~70重量%であってもよく、0.1重量%~60重量%であってもよく、0.1重量%~50重量%であってもよく、0.1重量%~40重量%であってもよく、0.1重量%~30重量%であってもよく、0.1重量%~20重量%であってもよく、0.1重量%~10重量%であってもよい。
【0109】
本抑制剤および本抗炎症剤に含まれる有効成分以外の成分の量は、特に限定されない。当該有効成分以外の成分の量は、例えば、薬剤の総重量に対して、0重量%~99.999重量%であってもよく、0重量%~99.99重量%であってもよく、0重量%~99.9重量%であってもよく、5重量%~99.9重量%であってもよく、10重量%~99.9重量%であってもよく、20重量%~99.9重量%であってもよく、30重量%~99.9重量%であってもよく、40重量%~99.9重量%であってもよく、50重量%~99.9重量%であってもよく、60重量%~99.9重量%であってもよく、70重量%~99.9重量%であってもよく、80重量%~99.9重量%であってもよく、90重量%~99.9重量%であってもよい。
【0110】
(投与対象、および投与経路)
本抑制剤および本抗炎症剤の投与対象としては、特に限定されず、ヒトであってもよく、非ヒト動物(例えば、家畜、愛玩動物、実験動物等)であってもよい。非ヒト動物としては、例えば、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット等が挙げられる。
【0111】
本抑制剤および本抗炎症剤は、任意の投与経路によって投与対象に投与され得る。投与経路の例としては、皮下投与、皮内投与、経皮投与、眼内投与、口腔内投与、経粘膜投与等が挙げられる。有効成分の機能を維持しやすいことから、非経口投与が好ましく、非経口投与の中でも、経皮投与、または、眼球、口腔、その他粘膜等を介した経粘膜投与が好ましい。
【0112】
(製剤および処方)
有効成分、および、その他の成分を原料として、公知の手法により、例えば、ホモミキサーや万能ミキサーで混合することにより、本抑制剤および本抗炎症剤を製剤することができる。
【0113】
本抑制剤および本抗炎症剤を投与する場合、所望の効果が得られるならば、投与量に制限はない。本抑制剤および本抗炎症剤を投与する場合、所望の効果が得られるならば、投与間隔に制限はない。前記投与間隔は、例えば、1時間~6箇月間に1回であり、1時間に1回、2時間に1回、3時間に1回、6時間に1回、12時間に1回、1日間に1回、2日間に1回、3日間に1回、4日間に1回、5日間に1回、6日間に1回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1箇月間に1回、2箇月間に1回、3箇月間に1回、4箇月間に1回、5箇月間に1回、6箇月間に1回、等であり得る。
【0114】
(治療、改善または予防する方法)
本抑制剤または本抗炎症剤を被験体に投与する工程を含む、皮膚のそう痒、紅潮、発疹、疼痛、湿疹、および/または炎症を治療、改善または予防する方法も本発明に包含される。被検体は、皮膚のそう痒、紅潮、発疹、疼痛、湿疹、および/または炎症を伴う疾患の治療、改善または予防が必要な被験体、または、化学物質、あるいは、薬物等による刺激に関連した皮膚のそう痒、紅潮、発疹、疼痛、湿疹、および/または炎症の治療、改善または予防が必要な被験体等であり得る。例えば、被験体は、当該疾患に罹患した被験体、または、当該化学物質に接触した被験体等であり得る。被験体はヒトまたは非ヒト動物であり得る。皮膚のそう痒、紅潮、発疹、疼痛、湿疹、および/または炎症に関連した疾患としては、例えば、刺激性接触皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、乾癬等が挙げられる。また、本抑制剤または本抗炎症剤を被験体に投与する工程を含む、TRPV4の活性を抑制する方法も本発明に包含される。本抑制剤または本抗炎症剤は、例えば、被験体の皮膚に塗布され得る。
【0115】
(その他)
本発明の一実施形態において、本抑制剤または本抗炎症剤は、皮膚外用剤として製剤することができる。本抑制剤または本抗炎症剤を皮膚外用剤として製剤する場合、本抑制剤または本抗炎症剤は、有効成分以外のその他の任意成分を含み得る。その他の任意成分としては、例えば、低級アルコール;紫外線吸収剤;粉体;酸化防止剤;防腐剤(メチルパラベン等);香料;着色剤;キレート剤;清涼剤;増粘剤;ビタミン類;中和剤;アミノ酸;pH調整剤;美白剤;抗炎症剤;消臭剤;動植物抽出物;金属封鎖剤(エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等)等の添加剤等が挙げられる。これらその他の任意成分は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0116】
本抑制剤または本抗炎症剤を皮膚外用剤として製剤する場合、本抑制剤または本抗炎症剤の投与剤型は、特に限定されないが、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ゲル状クリーム剤、リニメント剤、ローション剤、スプレー剤、エアゾール剤、乳液、化粧水(ローション)、美容液(セラム)、ジェル等であることが好ましい。
【0117】
また、本抑制剤または本抗炎症剤を皮膚外用剤として製剤する場合、本抑制剤または本抗炎症剤の適用部位は、特に限定されず、例えば、顔(額、目元、目じり、頬、口元など)、腕、肘、手の甲、指先、足、膝、かかと、首、脇、背中等である。
【0118】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0119】
以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0120】
〔単球の単離〕
健常ボランティア由来末梢血から、ヒトリンパ球分離用媒体(GEヘルスケア、商品名:Ficoll-Paque PLUS)を用いた密度勾配遠心法により、末梢血単核細胞(Peripheral blood mononuclear cells;PBMC)を分離した。分離したPBMCにACK buffer(150mM NH4Cl、10mM KHCO3、0.1mM EDTA)を加え、15分間室温で静置し、混入した赤血球を溶血した。次に、Dead Cell Removal Kit(Miltenyi Biotec、型番:130-090-101)で死細胞を磁気標識し、MACSカラム(Miltenyi Biotec、商品名:LSカラム、型番:130-042-401)を通すことで死細胞を除いた。PBMCに含まれるCD14陽性細胞を、CD14 Micro Beads(Miltenyi Biotec、型番:130-050-201)を用いて磁気標識した。MACSカラムを用いた磁気分離によって、CD14陽性細胞群を得た。以下、この細胞群を単球と定義した。
【0121】
〔細胞培養法〕
上記〔単球の単離〕に記載の方法で得られた単球を、20%FBS(ウシ胎仔血清)(SIGMA、型番:172012)含有RPMI1640培地(gibco、型番:11875-093)中で培養した。
【0122】
〔マクロファージの分化方法〕
上記〔単球の単離〕に記載の方法で得られた単球を、20%FBSおよび抗生物質(gibco、antibiotic-antimycotic)を含有するRPMI1640培地中で、7日間培養した。単球をGM-CSFマクロファージに分化させるために、50ng/ml GM-CSF(SHENANDOAH、型番:100-08)を添加して培養した。また、単球をM-CSFマクロファージに分化させるために、50ng/ml M-CSF(SHENANDOAH、型番:100-03)を添加して培養した。培養開始後2日目または5日目に、培養開始時と同じ試薬を含むRPMI1640培地を追加した。7日間培養後の接着細胞を、GM-CSFマクロファージまたはM-CSFマクロファージと定義した。
【0123】
〔1.マクロファージにおけるTRPV4の発現〕
TRPV4のmRNA発現を確認するため、上記〔単球の単離〕に記載の方法で得られた単球(day0 単球)、コントロールとして7日間培養した単球(day7 単球)、および上記〔マクロファージの分化方法〕に記載の方法で得られたマクロファージを準備した。細胞をPBSで洗浄し、Trireagent(Molecular Research社製、型番:TR118)を用いて全RNAを抽出した。抽出した全RNAは、実験を行うまで-80℃に保存した。
【0124】
室温に戻したのち、クロロホルムを加え、RNAを含む水層を回収し、これにイソプロパノールを加え、RNAを沈殿させた。70%エタノールで洗浄しRNAse free waterにとかし、RNAサンプルを得た。このRNAサンプルから、逆転写酵素(QIAGEN社製、商品名:QuantiTect reverse transcription kit、型番:205315)を用い、cDNAを作製した。このcDNAとSYBR Green mix(TOYOBO社製、商品名:THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix、型番:QPS-201)とを用い、リアルタイムPCR装置でcDNAを検出した。得られたデータより、mRNA量を算出した。内在性コントロールとしては、18s RNAを使用した。なお、プライマーは、以下のものを使用した。結果を
図1および2に示す(
図2において、n=10)。
【0125】
【0126】
図1より、単球、GM-CSFマクロファージ、およびM-CSFマクロファージのいずれにおいても、TRPV4が発現していることが分かった。また、
図2より、マクロファージでは、単球に比べて、TRPV4の発現量が中央値で、GM―CSFマクロファージでは約6.6倍、M―CSFマクロファージでは約6.9倍多いことが分かった。
【0127】
〔2.TRPV4活性化によるIL-1β産生量の抑制〕
上記〔マクロファージの分化方法〕に記載の方法で調製したマクロファージを、当該マクロファージを含むディッシュにTrypLE express(gibco、型番:12604-013)を添加し、37℃、15分間置きピペッティングすることで回収した。0.5% FBS(ウシ胎仔血清)および30μM HC067047を含有するRPMI1640培地(gibco、型番:11875-093)中で、前記マクロファージを30分間培養した後、10ng/ml LPSおよび/または10μM GSK1016790Aで6時間刺激した。
【0128】
刺激後、前記マクロファージを含む培養上清に、0.1 v/v%になるようポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテル(TritonX-100)を加え、氷上に静置することにより、細胞ライセートを調製した。調製した細胞ライセートはアッセイに使用するまで、4℃で保存した。14000 rpm、4℃、5分間遠心分離し、その上清をサンプルとした。前記サンプルを用いて、キット(R&D社製、商品名:Human IL-1β/IL-1F2 Duo Set ELISA)のプロトコールに従い、IL-1βを検出した。また、プレートリーダー(TECAN、商品名:インフィニットF200 PRO)を用いて、吸光度を測定した。LPS単独刺激時のサイトカイン量に対するサイトカイン産生量の変化について、Steel検定を用い、有意差があるか比較した。結果を
図3に示す(
図3において、n=10)。
【0129】
図3より、GM-CSFマクロファージおよびM-CSFマクロファージのいずれにおいても、TRPV4の活性化剤であるGSK1016790Aの同時添加により、IL-1βの産生量は、LPS単独刺激時よりも、有意に減少することが分かった。また、前記いずれのマクロファージにおいても、TRPV4の阻害剤であるHC067047の前処理により、その効果が打ち消されることが確認できた。
【0130】
〔3.TRPV4活性化によるIL-1βのmRNA量の抑制〕
IL-1βのmRNA発現を確認するため、上記〔マクロファージの分化方法〕に記載の方法で得られたマクロファージを、0.5% FBS(ウシ胎仔血清)含有するRPMI1640培地(gibco、型番:11875-093)中で6時間培養した。TRPV4の阻害剤であるHC067047(TCORIS、型番:4100)を30μMの濃度で30分間処理した後、IL-1βを誘導するために10ng/ml LPS(SIGMA、型番:L2630)で刺激した。LPS刺激と同時に、TRPV4の活性化剤であるGSK1016790A(wako、型番:073-06491)を10μM加えた。6時間培養後、細胞をPBSで洗浄し、Trireagent(Molecular Research社製、型番:TR118)で全RNAを抽出した。抽出した全RNAは、実験を行うまで-80℃に保存した。
【0131】
上記〔1.マクロファージにおけるTRPV4の発現〕に記載の方法と同様の方法で、cDNAを作製し、リアルタイムPCR装置でcDNAを検出した。得られたデータより、mRNA量を算出した。内在性コントロールとしては、GAPDHを使用した。なお、プライマーは、以下のものを使用した。結果を
図4に示す(
図4において、n=10)。
【0132】
【0133】
図4より、GM-CSFマクロファージおよびM-CSFマクロファージのいずれにおいても、TRPV4の活性化剤であるGSK1016790Aの同時添加により、IL-1βのmRNA量は、LPS単独刺激時よりも、有意に減少することが分かった。また、前記いずれのマクロファージにおいても、TRPV4の阻害剤であるHC067047の前処理により、その効果が打ち消されることが確認できた。
【0134】
〔4.TRPV4活性化によるNLRP3およびCaspase-1産生量の抑制〕
TRPV4の発現を確認するため、上記〔単球の単離〕に記載の方法で得られた単球(day0 単球)、上記〔マクロファージの分化方法〕に記載の方法で得られたマクロファージを準備した。また、polyethleneimine(Polysciences社製)を用いて、pcDNA3.1-TRPV4をHEK293T細胞に発現させ、ポジティブコントロールとした。
【0135】
NLRP3およびCaspase-1のタンパク質発現レベルを確認するため、上記〔マクロファージの分化方法〕に記載の方法で調製したマクロファージを、0.5% FBS(ウシ胎仔血清)および30μM HC067047を含有するRPMI1640培地(gibco、型番:11875-093)中で、30分間培養した後、10ng/ml LPSおよび/または10μM GSK1016790Aで6時間刺激した。
【0136】
細胞をPBSで洗浄後、プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を含む2×Laemmli Sample Buffer(BIO RAD社製、型番:#1610737)で溶解させた。細胞溶解液に含まれるDNAを超音波により破砕し、さらに95℃、10分間加熱することでサンプルを調製した。得られたサンプルに含まれる各タンパク質を検出するために、一次抗体として抗TRPV4抗体(abcam社製、型番:ab39260)、抗NLRP3抗体(abcam社製、型番:ab263899)、および抗Caspase-1抗体(Cell Singaling TECHNOLOGY社製、型番:#3866)を用いた。タンパク質を定量化するための基準となるβ-アクチンを検出するために、抗β-アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology社製、型番:sc-1616)を用いた。結果を
図5および6に示す。
【0137】
図5および6より、GM-CSFマクロファージおよびM-CSFマクロファージのいずれにおいても、TRPV4の活性化剤であるGSK1016790Aの同時添加により、NLRP3およびCaspase-1産生量は、LPS単独刺激時よりも、有意に減少することが分かった。また、前記いずれのマクロファージにおいても、TRPV4の阻害剤であるHC067047の前処理により、その効果が打ち消されることが確認できた。
【0138】
〔5.疾患皮膚におけるTRPV4の検出〕
アトピー性皮膚炎患者由来皮膚組織または健常者由来皮膚組織を、TRPV4のmRNAを標識するプローブを用いて、ハイブリダイゼーション法により標識した。また、免疫染色法を用いてマクロファージのマーカーであるCD11bを認識する抗体を用いて染色した。
【0139】
RNAscope Multiplex Fluorescent Reagent Kit v2(ACD社製、型番:323110)のプロトコールに従い、ハイブリダイゼーションを行った。TRPV4を認識するプローブ(ACD社製、商品名:RNAscope Probe Hs-TRPV4、型番:452221)は、1500倍希釈したOpa1520(ACD社製、商品名:Opa1520 Reagent Pack、型番:FP1487001KT)で染色した。核は、RNAscope Multiplex Fluorescent Reagent Kit v2に含まれるDAPIで染色した。ハイブリダイゼーション後の皮膚組織を、10 v/v% FBSと0.1 v/v% TritonX-100を含有するPBSと室温で30分反応させ、ブロッキングした。その後、抗CD11b抗体(abcam社製、商品名:Anti-CD11b antibody、型番:ab52478)を、一晩4℃で反応させた。反応後の皮膚組織を、界面活性剤含有PBS溶液を用いて洗浄した。洗浄後の皮膚組織を、蛍光色素にて標識された抗ラビットIgG抗体(サーモフィッシャー社製、商品名:Donkey Anti-Rabbit IgG H&L(蛍光色素:Alexa Fluor(登録商標)594、カタログナンバー:A-21207))と、室温(25℃)で2時間反応させることにより、染色した。染色後の皮膚組織を、界面活性剤含有PBS溶液を用いて洗浄した。次いで、洗浄後の皮膚組織を、共焦点顕微鏡(オリンパス(株)製、品番:FV1200)を用いて観察した。結果を
図7および8に示す。
【0140】
図7および8より、アトピー性皮膚炎患者由来皮膚組織と健常者由来皮膚組織とでは、マクロファージにおけるTRPV4の発現量に差異が見られることが確認された。この結果より、マクロファージにおけるTRPV4を指標とした抗炎症作用物質の評価は、有用であることが推察される。