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特開2022-184636熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184636
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20221206BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20221206BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221206BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20221206BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/013
C08K3/22
C08K5/5415
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092587
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】森村 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】石原 靖久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇則
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP03Y
4J002CP04X
4J002CP12W
4J002CP13W
4J002CP14W
4J002DE099
4J002DE146
4J002DE147
4J002DE148
4J002EC019
4J002EX039
4J002FA086
4J002FA087
4J002FB096
4J002FB097
4J002FB098
4J002FD069
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD208
4J002FD319
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れた熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を提供する。
【解決手段】熱伝導性シリコーン組成物であって、(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー、(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー、(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラーからなる熱伝導性充填材、(D)白金族金属系硬化触媒、及び(E)付加反応制御剤を含むものであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記(C-1)~(C-3)からなる熱伝導性充填材:4,000~5,800質量部、
(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー:1,400~3,000質量部、
(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー:500~2,300質量部、
(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラー:1,000~1,800質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm、及び
(E)付加反応制御剤:0.01~2.0質量部
を含むものであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
更に、(F)成分として、
(F-1)下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物、及び
Si(OR4-a-b (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、Rは独立に炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基であり、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
(F-2)下記一般式(2)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン、
【化1】
(式中、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
からなる群から選ばれる1種以上を前記(A)成分の100質量部に対して、0.01~300質量部で含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
更に、(G)成分として、酸化セリウムを前記(A)成分の100質量部に対して、8.0~25.0質量部で含有するものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物のアスカーC硬度計で測定した硬さにおいて、150℃×500時間エージング後の硬さが、エージング前の硬さに対して、-5ポイント以上、40ポイント以下のものであることを特徴とする請求項3に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
更に、(H)成分として、下記一般式(3)で表される23℃における動粘度が10~100,000mm/sのオルガノポリシロキサン
【化2】
(式中、Rは独立に炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基、dは5~2,000の整数である。)
を前記(A)成分の100質量部に対して、0.1~100質量部で含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
23℃におけるフローテスタ粘度計で測定した前記熱伝導性シリコーン組成物の粘度が2,000Pa・s以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物のホットディスク法により測定した23℃における熱伝導率が、6.5W/m・K以上のものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項8】
前記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の1mm厚における絶縁破壊電圧が10kV/mm以上のものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物であることを特徴とする熱伝導性シリコーン硬化物。
【請求項10】
前記熱伝導性シリコーン硬化物の形状がシート状のものであることを特徴とする請求項9に記載の熱伝導性シリコーン硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューター、デジタルビデオディスク、携帯電話等の電子機器に使用されるCPU、ドライバICやメモリー等のLSIチップは、高性能化・高速化・小型化・高集積化に伴い、それ自身が大量の熱を発生するようになった。その熱によるチップの温度上昇はチップの動作不良、破壊を引き起こすため、動作中のチップの温度上昇を抑制するための多くの熱放散方法及びそれに使用する熱放散部材が提案されている。
【0003】
従来、電子機器等においては、動作中のチップの温度上昇を抑えるために、アルミニウムや銅等の熱伝導率の高い金属板を用いたヒートシンクが使用されている。このヒートシンクは、そのチップが発生する熱を伝導し、その熱を外気との温度差によって表面から放出する。
【0004】
チップから発生する熱をヒートシンクに効率よく伝えるために、ヒートシンクをチップに密着させる必要がある。しかし、各チップの高さの違いや組み付け加工による公差があるため、柔軟性を有するシートや、グリースをチップとヒートシンクとの間に介装させ、これらの部材を介してチップからヒートシンクへの熱伝導を実現している。
【0005】
シートはグリースに比べ、取り扱い性に優れており、熱伝導性シリコーンゴム等で形成された熱伝導性シート(熱伝導性シリコーンゴムシート)は様々な分野に用いられている。
【0006】
例えば、シリコーンゴム等の合成ゴム100質量部に酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、水和酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の金属酸化物を配合した絶縁性組成物が開示されている(特許文献1)。
【0007】
一方、電子機器の高集積化が進み、装置内の集積回路素子の発熱量が増加したため、従来の冷却方法では不十分な場合がある。特に、モバイルノートパソコンやタブレットの場合、機器内部の空間が狭いため大きなヒートシンクや冷却ファンを取り付けることができない。更に、これらの機器では、プリント基板上に集積回路素子が搭載されており、基板の材質に熱伝導性の悪いガラス補強エポキシ樹脂やポリイミド樹脂が用いられているので、従来のように放熱絶縁シートを介して基板に熱を逃がすことができない。
【0008】
そこで、このような場合には、集積回路素子の近傍に自然冷却タイプあるいは強制冷却タイプの放熱部品を設置し、素子で発生した熱を放熱部品に伝える方式が用いられる。この方式で素子と放熱部品を直接接触させると、表面の凹凸のため熱の伝わりが悪くなる。更に、放熱絶縁シートを介して取り付けても放熱絶縁シートの柔軟性がやや劣るため、熱膨張により素子と基板との間に応力がかかり、破損するおそれがある。
【0009】
また、各回路素子に放熱部品を取り付けるには、広いスペースが必要となり、機器の小型化が難しくなる。そこで、いくつかの素子を1つの放熱部品に組み合わせて冷却する方式が採られることもある。
【0010】
そこで、素子ごとに高さが異なることにより生じる種々の隙間を埋めることができる低硬度の高熱伝導性材が必要になる。このような課題に対して、熱伝導性に優れ、柔軟性があり、種々の隙間に対応できる熱伝導性シートが要望される。
【0011】
この場合、シリコーン樹脂に金属酸化物等の熱伝導性材料を混入したものを成形したシートで、強度を持たせたシリコーン樹脂層の上に、変形し易いシリコーン層が積層されたシートが開示されている(特許文献2)。また、熱伝導性充填材を含有し、アスカーC硬度が5~50であるシリコーンゴム層と、直径0.3mm以上の孔を有する多孔性補強材層を組み合わせた熱伝導性複合シートが開示されている(特許文献3)。また、可とう性の三次元網状体又はフォーム体の骨格格子表面を熱伝導性シリコーンゴムで被覆したシートも提案されている(特許文献4)。さらに、補強性を有したシートあるいはクロスを内蔵し、少なくとも一方の面が粘着性を有しているような、アスカーC硬度が5~50で、厚さ0.4mm以下の熱伝導性複合シリコーンシートが開示されている(特許文献5)。そして、付加反応型液状シリコーンゴムと熱伝導性絶縁性セラミック粉末を含有し、その硬化物のアスカーC硬度が25以下で熱抵抗が3.0℃/W以下である放熱スペーサーも開示されている(特許文献6)。
【0012】
これら熱伝導性シリコーン硬化物は、絶縁性も要求されることが多いため、熱伝導性充填材として酸化アルミニウム(アルミナ)が用いられることが多い。一般的に、不定形のアルミナは球状のアルミナに比べ、熱伝導率を向上させる効果が高い。しかし、シリコーンに対する充填性が悪く、充填率を上げると材料粘度が上昇し、加工性が悪くなるという欠点がある。また、アルミナはモース硬度が9と非常に硬い。そのために、特に粒子径が10μm以上である不定形アルミナを用いた熱伝導性シリコーン組成物は、製造時に反応釜の内壁や撹拌羽根を削ってしまうという問題があった。それにより、熱伝導性シリコーン組成物に反応釜や撹拌羽根の成分が混入し、熱伝導性シリコーン組成物、及びこれを用いた硬化物の絶縁性が低下する。また、反応釜と撹拌羽根のクリアランスが広がるため、撹拌効率が落ちてしまい、同条件で製造しても一定の品質が得られなくなる。また、それを防ぐためには部品を頻繁に交換する必要がある、というような問題があった。
【0013】
この問題を解決するために、球状アルミナ粉のみを使用する方法もあるが、高熱伝導化のためには、不定形アルミナに比べ、大量に充填する必要があり、組成物の粘度が上昇し、加工性が悪化する。また、相対的に組成物及びその硬化物におけるシリコーンの存在量が減少するため、硬度が上昇してしまい、圧縮性に劣るものになる。大粒径の球状アルミナを用いることで、充填量に対する熱伝導率向上効果を改善する方法もあるが、球状アルミナの粒子径が大きすぎると、プレス成形時に球状アルミナと樹脂の分離が発生し、シート端部がフィラーリッチ部となり脆化してしまう問題があった。この場合、シート成形における材料収率が大きく低下してしまう。
【0014】
また、熱伝導率を上げるためには、一般的に熱伝導率の高い熱伝導性充填材、例えば窒化アルミニウムや窒化ホウ素等の熱伝導性充填材を使用する方法があるが、コストが高く、加工も難しい、というような問題があった。
【0015】
また、シリコーン硬化物中のアルミナ粉の充填量が高くなると、高温で長時間使用した時に、硬化物の硬度が顕著に低下する傾向があり、振動が強いモジュール等、用途によっては復元性が不足することで密着不良が発生し、経時で熱抵抗が上昇する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開昭47-032400号公報
【特許文献2】特開平02-196453号公報
【特許文献3】特開平07-266356号公報
【特許文献4】特開平08-238707号公報
【特許文献5】特開平09-001738号公報
【特許文献6】特開平09-296114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れた熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。特に、6.5W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。このような熱伝導性シリコーン組成物であれば、例えば電子機器内の発熱部品と放熱部品の間に設置されて放熱に用いられる熱伝導性樹脂成形体として好適に用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明では、熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記(C-1)~(C-3)からなる熱伝導性充填材:4,000~5,800質量部、
(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー:1,400~3,000質量部、
(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー:500~2,300質量部、
(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラー:1,000~1,800質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm、及び
(E)付加反応制御剤:0.01~2.0質量部
を含むものである熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【0019】
このような熱伝導性シリコーン組成物であれば、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れた熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を与えるものとなる。
【0020】
また、本発明では、更に、(F)成分として、
(F-1)下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物、及び
Si(OR4-a-b (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、Rは独立に炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基であり、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
(F-2)下記一般式(2)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン、
【化1】
(式中、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
からなる群から選ばれる1種以上を前記(A)成分の100質量部に対して、0.01~300質量部で含有するものであることが好ましい。
【0021】
このような熱伝導シリコーン組成物であれば、オイル分離を誘発しない。
【0022】
また、本発明では、更に、(G)成分として、酸化セリウムを前記(A)成分の100質量部に対して、8.0~25.0質量部で含有するものであることが好ましい。
【0023】
このような熱伝導シリコーン組成物であれば、耐熱性が向上する。
【0024】
また、本発明では、前記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物のアスカーC硬度計で測定した硬さにおいて、150℃×500時間エージング後の硬さが、エージング前の硬さに対して、-5ポイント以上、40ポイント以下のものであることが好ましい。
【0025】
このような熱伝導性シリコーン組成物の硬化物であれば、高温で長時間使用しても硬度の低下が小さいものとなる。
【0026】
また、本発明では、更に、(H)成分として、下記一般式(3)で表される23℃における動粘度が10~100,000mm/sのオルガノポリシロキサン
【化2】
(式中、Rは独立に炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基、dは5~2,000の整数である。)
を前記(A)成分の100質量部に対して、0.1~100質量部で含有するものであることが好ましい。
【0027】
このような熱伝導シリコーン組成物であれば、柔軟性に優れ、得られる硬化物のオイルブリードが発生しづらくなる。
【0028】
また、本発明では、23℃におけるフローテスタ粘度計で測定した前記熱伝導性シリコーン組成物の粘度が2,000Pa・s以下のものであることが好ましい。
【0029】
このような熱伝導シリコーン組成物であれば、成形性(加工性)に優れる。
【0030】
また、本発明では、前記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物のホットディスク法により測定した23℃における熱伝導率が、6.5W/m・K以上のものであることが好ましい。
【0031】
このような熱伝導性シリコーン組成物の硬化物であれば、熱伝導性に優れる。
【0032】
前記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の1mm厚における絶縁破壊電圧が10kV/mm以上のものであることが好ましい。
【0033】
このような熱伝導性シリコーン組成物の硬化物であれば、使用時に安定的に絶縁を確保することができる。
【0034】
また、本発明では、上記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物である熱伝導性シリコーン硬化物を提供する。
【0035】
このような熱伝導性シリコーン硬化物であれば、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れたものとなる。
【0036】
また、本発明では、前記熱伝導性シリコーン硬化物の形状がシート状のものであることができる。
【0037】
このような熱伝導性シリコーン硬化物であれば、取り扱い性に優れる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下の不定形アルミナ及び平均粒径が8μmを超えて40μm以下の球状アルミナと、平均粒径が70μmを超えて135μm以下の球状アルミナとを特定の配合量で併用することで、粒径が小さい球状アルミナの欠点を大粒径球状アルミナが補い、大粒径球状アルミナの欠点を粒径が小さい球状アルミナが補うことで、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れた、特に6.5W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性シリコーン硬化物、及びシート状に成型させた熱伝導性シリコーン成型物を提供することができる。また、酸化セリウムの添加により、高温保存時における硬化物の硬度低下を抑制した熱伝導性シリコーン組成物を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
上述のように、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れた熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物の開発が求められていた。
【0040】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下の不定形アルミナ及び平均粒径が8μmを超えて40μm以下の球状アルミナと、平均粒径が70μmを超えて135μm以下の球状アルミナとを特定の配合量で併用することで上記問題を解決することができることを見出した。即ち、比表面積が小さい70μmを超えて135μm以下の球状アルミナを多く配合することで、効果的に熱伝導性を向上させることが可能であり、かつ粘度が低く加工性に優れたシリコーン組成物及びその硬化物を提供できる。
【0041】
また40μm以下の平均粒径を有する球状アルミナ及び不定形アルミナを併用することにより、組成物の流動性が向上し、加工性が改善する。更に8μmを超えた粒子には球状アルミナを使用するため、反応釜や撹拌羽根の磨耗が抑えられ、絶縁性が向上する。
【0042】
つまり、粒径が小さい球状アルミナの欠点を大粒径球状アルミナが補い、大粒径球状アルミナの欠点を粒径が小さい球状アルミナ及び不定形アルミナが補うことで、圧縮性、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れた、特に6.5W/m・K以上の熱伝導率を有するコストの低い熱伝導性シリコーン組成物及び硬化物を与えることができることを見出した。
また上記熱伝導性シリコーン組成物に酸化セリウムを添加することにより、高温保存時における硬化物の硬度低下を抑制できることも見出した。
【0043】
即ち、本発明は、熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記(C-1)~(C-3)からなる熱伝導性充填材:4,000~5,800質量部、
(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー:1,400~3,000質量部、
(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー:500~2,300質量部、
(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラー:1,000~1,800質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm、及び
(E)付加反応制御剤:0.01~2.0質量部
を含むものである熱伝導性シリコーン組成物である。
【0044】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
[熱伝導性シリコーン組成物]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記(C-1)~(C-3)からなる熱伝導性充填材:4,000~5,800質量部、
(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー:1,400~3,000質量部、
(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー:500~2,300質量部、
(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラー:1,000~1,800質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm、及び
(E)付加反応制御剤:0.01~2.0質量部
を必須成分として含有する。以下、各成分について詳述する。
【0046】
[(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン]
(A)成分である1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンであり、本発明の熱伝導性シリコーン硬化物の主剤となるものである。通常は主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるのが一般的であるが、これは分子構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよいが、硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0047】
ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の官能基としては、以下に例示する1価炭化水素基が挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。これらの1価炭化水素基の中で、好ましくは炭素原子数が1~10、より好ましくは炭素原子数が1~6のものである。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素原子数1~3のアルキル基、及びフェニル基が好適に用いられる。また、ケイ素原子に結合したアルケニル基以外の官能基は全てが同一であることに限定するものではない。
【0048】
また、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の通常炭素原子数が2~8程度のものが挙げられ、中でもビニル基、アリル基等の低級アルケニル基が好ましく、特に好ましくはビニル基である。なお、アルケニル基は、分子中に2個以上存在することが必要であるが、得られる硬化物の柔軟性がよいものとするため、分子鎖末端のケイ素原子にのみ結合して存在することが好ましい。
【0049】
このオルガノポリシロキサンの23℃における動粘度は、通常、10~100,000mm/s、特に好ましくは500~50,000mm/sの範囲である。前記動粘度がこの範囲内であれば、得られる組成物の保存安定性が良く、伸展性が悪くならない。なお、本明細書において、動粘度はJIS Z 8803:2011に記載の方法でキャノン-フェンスケ型粘度計を用いて23℃で測定した場合の値である。
【0050】
この(A)成分の1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、1種単独でも、動粘度が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
[(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に直接結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。即ち、1分子中に少なくとも2個以上、好ましくは2~100個のケイ素原子に直接結合する水素原子(ヒドロシリル基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分の架橋剤として作用する成分である。即ち、(B)成分中のヒドロシリル基と(A)成分中のアルケニル基とが、後述する(D)成分の白金族金属系硬化触媒により促進されるヒドロシリル化反応により付加して、架橋構造を有する3次元網目構造を与える。なお、ヒドロシリル基の数が2個未満の場合、硬化しない。
【0052】
ケイ素原子に直接結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均構造式(4)で示されるものが用いられるが、これに限定されるものではない。
【化3】
(式中、Rは独立に水素原子、又は炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる1価炭化水素基である。ただし、1分子中の2個以上、好ましくは2~10個のRは水素原子である。また、eは1以上の整数、好ましくは10~200の整数である。)
【0053】
式(4)中、Rは独立に水素原子、又は炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる1価炭化水素基である。ただし、1分子中の2個以上、好ましくは2~10個のRは水素原子である。Rの水素原子以外の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基が挙げられる。これらの1価炭化水素基の中で、好ましくは炭素原子数が1~10、特に好ましくは炭素原子数が1~6のものであり、中でも、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素原子数1~3のアルキル基、及びフェニル基が好適に用いられる。また、Rは全てが同一であることに限定するものではない。また、eは1以上の整数、好ましくは10~200の整数である。
【0054】
(B)成分の添加量は、(B)成分由来のヒドロシリル基が(A)成分由来のアルケニル基1モルに対して0.1~5.0モルとなる量、即ちケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量であり、好ましくは0.3~2.0モルとなる量、更に好ましくは0.5~1.0モルとなる量である。(B)成分由来のヒドロシリル基の量が(A)成分由来のアルケニル基1モルに対して0.1モル未満であると硬化しない、又は硬化物の強度が不十分で成形体としての形状を保持できず取り扱えない場合がある。また5.0モルを超えると硬化物の柔軟性がなくなり、硬化物が脆くなる。
【0055】
[(C)熱伝導性充填材]
(C)成分である熱伝導性充填材は、下記(C-1)~(C-3)成分からなるものである。
(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー、
(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー、
(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラー、
なお、本発明において、上記平均粒径は、日機装(株)製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXにより、レーザ回折・散乱法にて測定した体積基準の累積平均粒径(メディアン径)の値である。
【0056】
(C-1)成分の球状アルミナフィラーは、熱伝導率を優位に向上させることができる。球状アルミナフィラーの平均粒径は70μmを超えて135μm以下であり、70μmを超えて120μm以下であることが好ましく、さらに70μmを超えて100μm以下であることがより好ましい。平均粒径が70μm以下であると、熱伝導性を向上させる効果が低くなり、また、組成物の粘度が上昇し、加工性が悪くなる。また、平均粒径が135μmより大きいと、反応釜や撹拌羽根の磨耗が顕著となり、組成物の絶縁性が低下する懸念がある。さらに、プレス成形時に球状アルミナと樹脂の分離が発生し、シート端部がフィラーリッチ部となり脆化してしまう問題があった。この場合、シート成形における材料収率が大きく低下してしまう。(C-1)成分の球状アルミナフィラーとしては1種又は2種以上を複合して用いてもよい。2種以上を複合して用いる場合は、それぞれ上記平均粒径の範囲を満たせばよい。
【0057】
(C-2)成分の球状アルミナフィラーは、組成物の熱伝導率を向上させるとともに、不定形アルミナフィラーと反応釜や撹拌羽根の接触を抑制し、磨耗を抑えるバリア効果を提供する。平均粒径は8μmを超えて40μm以下であり、10~40μmであることが好ましい。平均粒径が8μm以下であると、バリア効果が低下し、不定形アルミナフィラーによる反応釜や撹拌羽根の磨耗が顕著となる。
【0058】
(C-3)成分の不定形アルミナフィラーは、組成物の熱伝導率を向上させる役割も担うが、その主な役割は組成物の粘度調整、滑らかさ向上、充填性向上である。(C-3)成分の平均粒径は0.4μmを超えて4μm以下であり、0.6~3μmであることが、上記した特性発現のためにより好ましい。
【0059】
(C-1)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1,400~3,000質量部であり、好ましくは1,600~2,500質量部である。少なすぎると熱伝導率の向上が困難であり、多すぎると反応釜や撹拌羽根の磨耗が顕著となり、組成物の絶縁性が低下する。
【0060】
(C-2)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して500~2,300質量部であり、好ましくは1,000~1,800質量部である。少なすぎると熱伝導率の向上が困難であり、多すぎると組成物の流動性が失われ、成形性が損なわれる。
【0061】
(C-3)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1,000~1,800質量部であり、好ましくは1,100~1,500質量部である。少なすぎると熱伝導率の向上が困難であり、多すぎると組成物の流動性が失われ、成形性が損なわれる。
【0062】
更に、(C)成分の配合量(即ち、上記(C-1)~(C-3)成分の合計配合量)は、(A)成分100質量部に対して4,000~5,800質量部であることが必要であり、好ましくは4,500~5,000質量部である。この配合量が4,000質量部未満の場合には、得られる組成物の熱伝導率が悪くなる。5,800質量部を超える場合には、組成物の流動性が失われ、成形性が損なわれる。
【0063】
上記配合量で(C)成分を用いることで、上記した本発明の効果がより有利にかつ確実に達成できる。
【0064】
[(D)白金族金属系硬化触媒]
(D)成分の白金族金属系硬化触媒は、(A)成分由来のアルケニル基と、(B)成分由来のヒドロシリル基の付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、HPtCl・nHO、HPtCl・nHO、NaHPtCl・nHO、KaHPtCl・nHO、NaPtCl・nHO、KPtCl・nHO、PtCl・nHO、PtCl、NaHPtCl・nHO(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0又は6である。)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照)、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照)、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム-オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。
【0065】
(D)成分の配合量は、(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppmであり、好ましくは50~1,000ppmである。(D)成分の配合量が少なすぎると付加反応が進まず、多すぎると経済的に不利であるため好ましくない。
【0066】
[(E)付加反応制御剤]
(E)成分の付加反応制御剤は、通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応制御剤を全て用いることができる。例えば、1-エチニル-1-ヘキサノール、3-ブチン-1-オール、エチニルメチリデンカルビノール等のアセチレン化合物や各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。(E)成分を配合する場合の使用量としては、(A)成分100質量部に対して0.01~2.0質量部、特に0.1~1.2質量部程度が望ましい。(E)成分の配合量が少なすぎると付加反応の進行により組成物の取り扱い性に劣る場合があり、多すぎると硬化反応が進まず、成形効率が損なわれる場合がある。
【0067】
[(F)表面処理剤]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、組成物調製時に(C)成分である熱伝導性充填材を疎水化処理し、(A)成分であるアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンとの濡れ性を向上させ、(C)成分である熱伝導性充填材を(A)成分からなるマトリックス中に均一に分散させることを目的として、(F)成分の表面処理剤を配合することができる。該(F)成分としては、特に限定されないが、特に下記に示す(F-1)成分及び(F-2)成分からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0068】
(F-1)成分は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物である。
Si(OR4-a-b (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、Rは独立に炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基であり、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
【0069】
上記一般式(1)において、Rで表される炭素原子数6~15のアルキル基の例としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。このRで表されるアルキル基の炭素原子数が6~15の範囲を満たすと(A)成分の濡れ性が十分に向上し、取り扱い性がよく、組成物の低温特性が良好なものとなる。
【0070】
で表される炭素原子数1~5のアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。炭素原子数6~12のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等が挙げられる。そして、炭素原子数7~12のアラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等が挙げられる。中でも、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素原子数1~3のアルキル基、及びフェニル基が挙げられる。Rで表される炭素原子数1~6のアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0071】
(F-2)成分は、下記一般式(2)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンである。
【化4】
(式中、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
【0072】
で表される炭素原子数1~6のアルキル基としては、例えば、前記Rで例示されたアルキル基と同じものが例示できる。cは5~100、好ましくは5~70、特に好ましくは10~50の整数である。
【0073】
(F)成分の表面処理剤としては、(F-1)成分と(F-2)成分のいずれか一方でも両者を組み合わせて配合しても差し支えない。
【0074】
(F)成分を配合する場合の配合量としては、(A)成分100質量部に対して0.01~300質量部、特に0.1~200質量部であることが好ましい。(F)成分の配合量が前記範囲内であるとオイル分離を誘発しない。
【0075】
[(G)酸化セリウム]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、耐熱性の改善、特には、前記組成物の硬化物の軟化劣化を抑制することを目的として、熱安定剤として(G)酸化セリウムを配合してもよい。酸化セリウムを配合する場合は、(A)成分100質量部に対して、8.0~25.0質量部、より好ましくは9.0~14.0質量部である。配合量がこの範囲にあると、150℃の高温で保存しても、硬度の低下が見られないので好ましい。
【0076】
酸化セリウムを添加した場合、前記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物は、耐熱性に優れたものとなる。具体的には、前記硬化物のアスカーC硬度計で測定した硬さにおいて、150℃×500時間エージング後の硬さが、エージング前の硬さに対して、-5ポイント以上、+40ポイント以下であることが好ましく、-3ポイント以上+20ポイント以下であることがより好ましい。
【0077】
[(H)オルガノポリシロキサン]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、熱伝導性シリコーン組成物の粘度調整剤等の特性付与を目的として、(H)成分として、下記一般式(3)で表される23℃における動粘度が10~100,000mm/sのオルガノポリシロキサンを配合することができる。(H)成分は、可塑剤として作用する。(H)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【化5】
(式中、Rは独立に炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基、dは5~2,000の整数である。)
【0078】
上記一般式(3)において、Rは独立に炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基である。Rの具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。中でも、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素原子数1~3のアルキル基、及びフェニル基が挙げられるが、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0079】
dは要求される粘度の観点から、好ましくは5~2,000の整数で、特に好ましくは10~1,000の整数である。
【0080】
また、(H)成分の23℃における動粘度は、好ましくは10~100,000mm/sであり、特に100~10,000mm/sであることが好ましい。該動粘度が10mm/s以上であれば、得られる組成物の硬化物がオイルブリードを発生することもない。該動粘度が上記範囲内であれば、得られる熱伝導性シリコーン組成物の柔軟性に優れる。
【0081】
(H)成分を本発明の熱伝導性シリコーン組成物に配合する場合、その配合量は特に限定されず、所望の効果が得られる量であればよいが、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは1~50質量部である。前記配合量がこの範囲にあると、硬化前の熱伝導性シリコーン組成物に良好な流動性、作業性を維持し易く、また(C)成分の熱伝導性充填材を該組成物に充填するのが容易である。
【0082】
[その他の成分]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、本発明の目的に応じて、更に他の成分を配合しても差し支えない。例えば、酸化鉄等の耐熱性向上剤;シリカ等の粘度調整剤;着色剤;離型剤等の任意成分を配合することができる。
【0083】
[熱伝導性シリコーン組成物の調製]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上述した各成分を常法に準じて均一に混合することにより調製することができる。
【0084】
[組成物の粘度]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の粘度は、23℃において2,000Pa・s以下が好ましく、より好ましくは1,500Pa・s以下である。粘度がこの範囲内であれば成形性が損なわれることがない。なお、本発明において、この粘度はフローテスタ粘度計による測定に基づく。
【0085】
[熱伝導性シリコーン硬化物]
本発明の熱伝導性シリコーン硬化物は、上述した本発明の熱伝導性シリコーン組成物を常法に準じて硬化したものである。本発明の熱伝導性シリコーン硬化物の形状は特に限定されないが、シート状であることが好ましい。
【0086】
[熱伝導性シリコーン硬化物の製造方法]
熱伝導性シリコーン組成物を成形する硬化条件としては、公知の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物と同様でよく、例えば、常温でも十分硬化するが、必要に応じて加熱してもよい。好ましくは100~120℃で8~12分で付加硬化させるのがよい。このような本発明のシリコーン硬化物は熱伝導性に優れる。
【0087】
[成形体の熱伝導率]
本発明における成形体(熱伝導性シリコーン硬化物)の熱伝導率は、ホットディスク法により測定した23℃における測定値が6.5W/m・K以上、特に7.0W/m・K以上であることが望ましい。
【0088】
[成形体の絶縁破壊電圧]
本発明における成形体の絶縁破壊電圧は、1mm厚の成形体の絶縁破壊電圧をJIS K 6249:2003に準拠して測定したときの測定値が、10kV/mm以上、より好ましくは12kV/mm以上であることが好ましい。絶縁破壊電圧が10kV/mm以上の成形体であれば、使用時に安定的に絶縁を確保することができる。なお、このような絶縁破壊電圧は、フィラーの種類や純度を調整することにより、調整することができる。
【0089】
[成形体の硬度]
本発明における成形体の硬度は、アスカーC硬度計で測定した23℃における測定値が60以下、好ましくは40以下、より好ましくは30以下であることが好ましく、また5以上であることが好ましい。硬度がこの範囲内であれば、被放熱体の形状に沿うように変形し、被放熱体に応力をかけることなく良好な放熱特性を示すことができる。なお、このような硬度は、(A)成分と(B)成分の比率を変えて、架橋密度を調整することにより、調整することができる。
【実施例0090】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、組成物の粘度は23℃においてフローテスタ粘度計により測定した。測定装置としては島津製作所製のCFT-500EXを使用した。ダイ穴径をφ2mm、ダイ長さを2mm、試験荷重を10kgとして時間とストロークをプロットし、傾きから粘度を算出した。また、平均粒径は日機装(株)製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXにより、レーザ回折・散乱法にて測定した体積基準の累積平均粒径(メディアン径)の値である。
【0091】
下記実施例及び比較例に用いられる(A)~(H)成分を下記に示す。
【0092】
(A)成分:下記式(5)で示されるオルガノポリシロキサン。
【化6】
(式中、Xはビニル基であり、fは下記粘度を与える数である。)
(A-1)動粘度:600mm/s
(A-2)動粘度:30,000mm/s
【0093】
(B-1)成分:下記式(6-1)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン。
【化7】
(B-2)成分:下記式(6-2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン。
【化8】
【0094】
(C)成分:平均粒径が下記の通りである球状アルミナフィラー、不定形アルミナフィラー。
(C-1)成分:平均粒径が98.8μmの球状アルミナフィラー。
(C-2)成分:平均粒径が23.4μmの球状アルミナフィラー。
(C-3)成分:平均粒径が1.7μmの不定形アルミナフィラー。
(C-4)成分:平均粒径が143μmの球状アルミナフィラー(比較例用)。
(C-5)成分:平均粒径が3.2μmの球状アルミナフィラー(比較例用)。
【0095】
(D)成分:5質量%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液。
【0096】
(E)成分:エチニルメチリデンカルビノール。
【0097】
(F)成分:下記式(7)で示される平均重合度が30の片末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン。
【化9】
【0098】
(G)成分:酸化セリウム。
【0099】
(H)成分:下記式(8)で示されるジメチルポリシロキサン。
【化10】
【0100】
[実施例1~4、比較例1~4]
実施例1~4及び比較例1~4において、上記(A)~(H)成分を下記表1に示す所定の量を用いて下記のように熱伝導性シリコーン組成物を調製し、成形硬化させ、下記方法に従って熱伝導性シリコーン組成物の粘度、熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率、硬さ、絶縁破壊電圧、及び硬化後シートの表面の気泡、シート端部の脆化を測定又は観察した。結果を表1に併記する。
【0101】
[熱伝導性シリコーン組成物の調製]
(A)、(C)、(F)、(G)、(H)成分を下記表1の実施例1~4及び比較例1~4に示す所定の量で加え、プラネタリーミキサーで60分間混練した。そこに(D)成分を下記表1の実施例1~4及び比較例1~4に示す所定の量で加え、更にセパレータとの離型を促す内添離型剤として、信越化学製のフェニル変性シリコーンオイルであるKF-54を有効量加え、30分間混練した。
そこに更に(B)、(E)成分を下記表1の実施例1~4及び比較例1~4に示す所定の量で加え、30分間混練し、熱伝導性シリコーン組成物を得た。
【0102】
[成形方法]
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物を長さ60mm×幅60mmで、厚さ6mmもしくは1mmの金型に流し込み、プレス成形機を用い、120℃、10分間で成形硬化した。
【0103】
[評価方法]
熱伝導性シリコーン組成物の粘度:
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物の粘度を、フローテスタ粘度計にて、23℃環境下で測定した。
【0104】
成形性:
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物を、プレス成型機を用いて、120℃、10分間の条件で1mm厚のシート状に成形硬化させ厚さ1mmの金型を用いてシートを成形し、シート表面の気泡有無、シート端部の脆化有無を目視、指触にて確認した。
【0105】
熱伝導率:
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物を、プレス成型機を用いて、120℃、10分間の条件で6mm厚のシート状に成形硬化させ、そのシートを2枚用いて、熱伝導率計(商品名:TPS-2500S、京都電子工業(株)製)により前記シートの熱伝導率を測定した。
【0106】
絶縁破壊電圧:
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物を、プレス成型機を用いて、120℃、10分間の条件で1mm厚のシート状に成形硬化させ、JIS K 6249に準拠して絶縁破壊電圧を測定した。
【0107】
硬さ:
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物を上記と同様に6mm厚のシート状に成形硬化させ、そのシートを2枚重ねてアスカーC硬度計で測定した。
【0108】
150℃、500時間エージング後の硬さ:
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物を、プレス成型機を用いて、120℃、10分間の条件で6mm厚のシート状に成形硬化させた熱伝導性シリコーン硬化物を、150℃の高温炉に500時間エージング(保存)したのち、そのシートを2枚重ねてアスカーC硬度計で測定した。
【0109】
【表1】
表中、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン中の全アルケニル基量に対するオルガノハイドロジェンポリシロキサン中の全ケイ素原子に直接結合した水素原子量を、H/Viとする。
【0110】
実施例1~4では、熱伝導性シリコーン組成物の粘度、成形性、熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率、絶縁破壊電圧、硬さとも良好な結果であった。また、酸化セリウムを添加した場合(実施例2~4)、さらに150℃の高温で保存しても、軟化劣化による硬度の低下はみられなかった。
【0111】
比較例1のように熱伝導性充填材((C)成分)の配合量が少なすぎると、熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率が低下した。一方で、比較例2のように熱伝導性充填材((C)成分)の配合量が多すぎると、熱伝導性充填材の濡れ性が不足し、グリース状の均一な熱伝導性シリコーン組成物を得ることができなかった。
【0112】
比較例3のように(C-1)成分と(C-3)成分の配合量が少なすぎ、(C-2)成分の配合量が多すぎる場合、熱伝導性シリコーン組成物の粘度が顕著に上昇し、シート成形時に表面の気泡が発生して成形性が低下した。また、絶縁性の低下が確認された。比較例4のように、(C-1)成分を入れずに、(C-4)として平均粒径が135μmを超えたものを入れた場合、シート成形時に端部の脆化が発生した。さらに、絶縁性の低下も確認された。
【0113】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。