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特開2022-184646モータ装置およびモータ装置の駆動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184646
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】モータ装置およびモータ装置の駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/22 20060101AFI20221206BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20221206BHJP
【FI】
H02P25/22
H02M7/48 M
H02M7/48 F
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092616
(22)【出願日】2021-06-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】521210667
【氏名又は名称】株式会社A.H.MotorLab
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】新口 昇
(72)【発明者】
【氏名】平田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】高原 一晶
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛典
(72)【発明者】
【氏名】竹村 望
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505BB06
5H505DD03
5H505DD05
5H505DD08
5H505DD11
5H505EE08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HA09
5H505HB01
5H505JJ17
5H505JJ24
5H505LL22
5H505LL55
5H505MM07
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA22
5H770DA30
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770JA17X
5H770LA05X
5H770LA06X
5H770LA07X
5H770LB05
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】一つの回転子に2系統の三相巻線を備えるモータの各相を制御するスイッチが故障した場合にも、トルク低下を抑制して回転を継続することが可能なモータ装置およびモータ装置の駆動方法を提供する。
【解決手段】回転軸を中心に回転可能に配置された回転子(10)と、内周に複数のティース部(22)が形成された固定子(20)を有するモータ部と、モータ部に電力を供給するスイッチインバータ部と、スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御するスイッチ制御部と、半導体リレーを制御するリレー制御部を備え、複数のティース部には第1系統の三相巻線と第2系統の三相巻線とが巻回されており、スイッチインバータ部から第1系統および第2系統の三相巻線に電流を供給し、リレー制御部は故障スイッチがある場合に半導体リレーを選択的に解放するモータ装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有するモータ部と、
前記モータ部に電力を供給するスイッチインバータ部と、
前記スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御するスイッチ制御部とを備えるモータ装置であって、
前記複数のティース部には、U1相、V1相およびW1相からなる第1系統の三相巻線と、U2相、V2相およびW2相からなる第2系統の三相巻線とが巻回されており、
前記スイッチインバータ部は、第1電位と第2電位の間にU列スイッチ群、V列スイッチ群およびW列スイッチ群が並列に接続され、
前記U列スイッチ群に前記U1相および前記U2相が接続され、前記V列スイッチ群に前記V1相および前記V2相が接続され、前記W列スイッチ群に前記W1相および前記W2相が接続され、
前記第1系統と前記第2系統では、誘起電圧の位相が異なり、
前記スイッチインバータ部と、前記U1相、前記V1相、前記W1相、前記U2相、前記V2相および前記W2相との間には、それぞれU1半導体リレー、V1半導体リレー、W1半導体リレー、U2半導体リレー、V2半導体リレー、およびW2半導体リレーが接続されており、
前記各半導体リレーを制御するリレー制御部を備えることを特徴とするモータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ装置であって、
前記U列スイッチ群は、前記第1電位から順にU列上段スイッチ、U列中段スイッチおよびU列下段スイッチが直列接続され、
前記V列スイッチ群は、前記第1電位から順にV列上段スイッチ、V列中段スイッチおよびV列下段スイッチが直列接続され、
前記W列スイッチ群は、前記第1電位から順にW列上段スイッチ、W列中段スイッチおよびW列下段スイッチが直列接続され、
前記U列上段スイッチと前記U列中段スイッチの間に前記U1相が接続され、前記U列中段スイッチと前記U列下段スイッチの間に前記U2相が接続され、
前記V列上段スイッチと前記V列中段スイッチの間に前記V1相が接続され、前記V列中段スイッチと前記V列下段スイッチの間に前記V2相が接続され、
前記W列上段スイッチと前記W列中段スイッチの間に前記W1相が接続され、前記W列中段スイッチと前記W列下段スイッチの間に前記W2相が接続されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ装置であって、
前記故障検出部が、前記スイッチインバータ部に正常動作しない故障スイッチの故障モードと故障位置を検出した場合には、
前記リレー制御部は、前記故障モードに前記故障位置に基づいて、前記何れかの半導体リレーを開放し、
前記スイッチ制御部は、前記故障モードに前記故障位置に基づいて、前記スイッチインバータ部を制御することを特徴とするモータ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ装置であって、
前記故障モードがオープン故障または地絡故障の場合には、
前記リレー制御部は、前記第1系統および前記第2系統における前記故障位置の列に接続された前記半導体リレーを開放し、
前記スイッチ制御部は、前記スイッチインバータ部における前記故障位置に対応する列全体にオフ信号を送出することを特徴とするモータ装置。
【請求項5】
請求項3に記載のモータ装置であって、
前記故障モードがショート故障の場合には、
前記リレー制御部は、前記故障スイッチが接続されている前記第1系統または前記第2系統に接続されている前記半導体リレーを開放することを特徴とするモータ装置。
【請求項6】
請求項3に記載のモータ装置であって、
前記故障モードがショート故障であり、前記故障位置が前記各スイッチ群において前記第1電位に一番近いものでない場合には、
前記リレー制御部は、前記第1系統および前記第2系統における前記故障位置の列に接続された前記半導体リレーを開放し、
前記スイッチ制御部は、前記スイッチインバータ部における前記故障位置に対応する列全体にオフ信号を送出することを特徴とするモータ装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記スイッチ制御部は、信号波と搬送波の比較によりパルス信号を生成し、前記各スイッチをPWM(Pulth Width Modulation)変調制御することを特徴とするモータ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のモータ装置であって、
前記スイッチインバータ部に正常動作しない故障スイッチが含まれる場合には、
前記信号波は、前記第1系統と前記第2系統とで位相が異なり、振幅が互いにオフセットされていることを特徴とするモータ装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載のモータ装置であって、
前記スイッチインバータ部に正常動作しない故障スイッチが含まれない場合には、
前記信号波は、前記第1系統と前記第2系統とで振幅および位相が同じであることを特徴とするモータ装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記三相巻線は、前記ティース部の複数にまとめて巻回された分布巻きとして構成されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項11】
請求項1から9の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記三相巻線は、個々の前記ティース部に巻回された集中巻きとして構成されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項12】
一つの回転子に対して第1系統および第2系統の三相巻線を備え、インバータスイッチ部からの出力により回転するモータ装置の駆動方法であって、
前記インバータスイッチ部の故障スイッチを検出する故障検出工程と、
前記故障スイッチの検出結果に応じて、前記第1系統および前記第2系統の三相巻線と前記スイッチインバータ部の間に接続された半導体リレーを制御するリレー制御工程と、
前記第1系統および前記第2系統の各相における電流値を取得する電流値取得工程と、
前記各相の前記電流値に基づいて、前記第1系統に対する第1指令電圧および前記第2系統に対する第2指令電圧を算出する指令電圧算出工程と、
搬送波の電圧と、前記第1指令電圧および前記第2指令電圧を比較して、前記第1系統と前記第2系統についてのゲート信号を決定するゲート信号決定工程と、
前記ゲート信号に基づいて前記インバータスイッチ部のオン信号/オフ信号を決定するインバータスイッチ制御工程と、を備えることを特徴とするモータ装置の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ装置およびモータ装置の駆動方法に関し、特に2系統の三相巻線を備えるモータ装置およびモータ装置の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々な技術分野において、交流の周波数を変化させることで回転数を制御でき、安定した回転数を得られる三相モータが動力源として用いられている。また、一つの回転子に対して2系統の三相巻線(コイル)を備えたモータ装置も提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
図11は、従来から提案されている三相巻線を2系統備えたモータ装置の駆動回路を簡略化して示す回路図である。図11に示すようにモータ装置は、第1系統の三相巻線としてU相コイルU1、V相コイルV1、W相コイルW1を有し、第2系統の三相巻線としてU相コイルU2、V相コイルV2、W相コイルW2を有している。また、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に、上段スイッチと下段スイッチの直列接続が6列並列接続されており、各上段スイッチと下段スイッチの間が各相の巻線(コイル)の一端に接続されている。各相の巻線の他端は、中性点に接続されている。また、各相の巻線とインバータスイッチの間にはそれぞれリレーが接続されている。
【0004】
図11に示したモータ装置の駆動回路では、12個のスイッチを用いた6相インバータが構成されており、各相がHigh信号の場合には上段スイッチをオンにして下段スイッチをオフにし、各相がLow信号の場合には上段スイッチをオフにして下段スイッチをオンにする制御が行われる。ここで、High信号時には電源電圧から上段スイッチを経て各巻線および中性点に電流が供給される。また、Low信号時には中性点から各巻線および下段スイッチを経て接地電圧に電流が流れる。これにより、2系統の三相巻線でそれぞれ三相交流によるモータ装置の駆動制御を行うことができる。
【0005】
図11に示した例では、6相インバータに含まれるスイッチの何れか一つが故障した場合であっても、故障スイッチが含まれる系統の各相に接続されたリレーを開放することで、故障スイッチが含まれる系統全体を切り離し、残りの系統の三相巻線で回転子の回転を継続することができる。一例としては、図11中のU1相の上段スイッチがオープン故障、ショート故障、地絡故障などの故障スイッチである場合には、U1相、V1相およびW1相に接続された3つのリレーを開放して第1系統の三相巻線を切り離し、U2相、V2相およびW2層の第2系統の三相巻線で回転を継続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-162333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図11に示した従来のモータ装置では、各インバータで2系統の三相巻線の各々を個別に制御できるため、複雑な回転制御を行うことができるが、6相のインバータを用いるため12個のスイッチが必要であり、回路に含まれるスイッチ数が増加してしまう。駆動回路に搭載されるスイッチ数が増加すると、回路の搭載面積の増大や、発熱量の増加、コストの増加などの問題が生じるうえに、回路全体でのスイッチ故障の発生確率が増加するという問題があった。また、一つの相に含まれるスイッチが故障しただけで1系統の三相巻線による回転に切り替えるため、故障していない残りの5相を有効に活用できずトルクの低下幅が大きいという問題があった。また故障スイッチが発生した系統を切り離すリレーとして半導体リレーを用いる場合には、順方向への電流供給が継続されるため、スイッチ故障が発生した系統を切り離すことが困難であった。
【0008】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、一つの回転子に2系統の三相巻線を備えるモータの各相を制御するスイッチが故障した場合にも、トルク低下を抑制して回転を継続することが可能なモータ装置およびモータ装置の駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のモータ装置は、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有するモータ部と、前記モータ部に電力を供給するスイッチインバータ部と、前記スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御するスイッチ制御部とを備えるモータ装置であって、前記複数のティース部には、U1相、V1相およびW1相からなる第1系統の三相巻線と、U2相、V2相およびW2相からなる第2系統の三相巻線とが巻回されており、前記スイッチインバータ部は、第1電位と第2電位の間にU列スイッチ群、V列スイッチ群およびW列スイッチ群が並列に接続され、前記U列スイッチ群に前記U1相および前記U2相が接続され、前記V列スイッチ群に前記V1相および前記V2相が接続され、前記W列スイッチ群に前記W1相および前記W2相が接続され、前記第1系統と前記第2系統では、誘起電圧の位相が異なり、前記スイッチインバータ部と、前記U1相、前記V1相、前記W1相、前記U2相、前記V2相および前記W2相との間には、それぞれU1半導体リレー、V1半導体リレー、W1半導体リレー、U2半導体リレー、V2半導体リレー、およびW2半導体リレーが接続されており、前記各半導体リレーを制御するリレー制御部を備えることを特徴とする。
【0010】
このような本発明のモータ装置では、スイッチインバータ部と2系統の三相巻線との間に接続された半導体リレーをリレー制御部が制御することで、スイッチに故障が発生した場合でも、選択した相を適切に切り離して残りの相でトルク低下を抑制して回転を継続することが可能となる。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記U列スイッチ群は、前記第1電位から順にU列上段スイッチ、U列中段スイッチおよびU列下段スイッチが直列接続され、前記V列スイッチ群は、前記第1電位から順にV列上段スイッチ、V列中段スイッチおよびV列下段スイッチが直列接続され、前記W列スイッチ群は、前記第1電位から順にW列上段スイッチ、W列中段スイッチおよびW列下段スイッチが直列接続され、前記U列上段スイッチと前記U列中段スイッチの間に前記U1相が接続され、前記U列中段スイッチと前記U列下段スイッチの間に前記U2相が接続され、前記V列上段スイッチと前記V列中段スイッチの間に前記V1相が接続され、前記V列中段スイッチと前記V列下段スイッチの間に前記V2相が接続され、前記W列上段スイッチと前記W列中段スイッチの間に前記W1相が接続され、前記W列中段スイッチと前記W列下段スイッチの間に前記W2相が接続されている。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記故障検出部が、前記スイッチインバータ部に正常動作しない故障スイッチの故障モードと故障位置を検出した場合には、前記リレー制御部は、前記故障モードに前記故障位置に基づいて、前記何れかの半導体リレーを開放し、前記スイッチ制御部は、前記故障モードに前記故障位置に基づいて、前記スイッチインバータ部を制御する。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記故障モードがオープン故障または地絡故障の場合には、前記リレー制御部は、前記第1系統および前記第2系統における前記故障位置の列に接続された前記半導体リレーを開放し、前記スイッチ制御部は、前記スイッチインバータ部における前記故障位置に対応する列全体にオフ信号を送出する。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記故障モードがショート故障の場合には、前記リレー制御部は、前記故障スイッチが接続されている前記第1系統または前記第2系統に接続されている前記半導体リレーを開放する。
【0015】
また、本発明の一態様では、前記故障モードがショート故障であり、前記故障位置が前記各スイッチ群において前記第1電位に一番近いものでない場合には、前記リレー制御部は、前記第1系統および前記第2系統における前記故障位置の列に接続された前記半導体リレーを開放し、前記スイッチ制御部は、前記スイッチインバータ部における前記故障位置に対応する列全体にオフ信号を送出する。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記スイッチ制御部は、信号波と搬送波の比較によりパルス信号を生成し、前記各スイッチをPWM(Pulth Width Modulation)変調制御する。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記スイッチインバータ部に正常動作しない故障スイッチが含まれる場合には、前記信号波は、前記第1系統と前記第2系統とで位相が異なり、振幅が互いにオフセットされている。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記スイッチインバータ部に正常動作しない故障スイッチが含まれない場合には、前記信号波は、前記第1系統と前記第2系統とで振幅および位相が同じである。
【0019】
また、本発明の一態様では、前記三相巻線は、前記ティース部の複数にまとめて巻回された分布巻きとして構成されている。
【0020】
また、本発明の一態様では、前記三相巻線は、個々の前記ティース部に巻回された集中巻きとして構成されている。
【0021】
また、上記課題を解決するために、本発明のモータ装置の駆動方法は、一つの回転子に対して第1系統および第2系統の三相巻線を備え、インバータスイッチ部からの出力により回転するモータ装置の駆動方法であって、前記インバータスイッチ部の故障スイッチを検出する故障検出工程と、前記故障スイッチの検出結果に応じて、前記第1系統および前記第2系統の三相巻線と前記スイッチインバータ部の間に接続された半導体リレーを制御するリレー制御工程と、前記第1系統および前記第2系統の各相における電流値を取得する電流値取得工程と、前記各相の前記電流値に基づいて、前記第1系統に対する第1指令電圧および前記第2系統に対する第2指令電圧を算出する指令電圧算出工程と、搬送波の電圧と、前記第1指令電圧および前記第2指令電圧を比較して、前記第1系統と前記第2系統についてのゲート信号を決定するゲート信号決定工程と、前記ゲート信号に基づいて前記インバータスイッチ部のオン信号/オフ信号を決定するインバータスイッチ制御工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、一つの回転子に2系統の三相巻線を備えるモータの各相を制御するスイッチが故障した場合にも、トルク低下を抑制して回転を継続することが可能なモータ装置およびモータ装置の駆動方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係るモータ装置の概要を示す図であり、図1(a)はスイッチインバータ部の構成を示す回路図であり、図1(b)はモータ部の構造例を示す模式図である。
図2】正常時にモータ装置の駆動を制御する方法について説明する模式図である。
図3】正常時制御のシミュレーション結果を示すグラフであり、図3(a)はトルク波形を示し、図3(b)はd,q軸電流波形を示し、図3(c)は相電流波形を示している。
図4】故障時にモータ装置の駆動を制御する方法について説明する模式図であり、1系統の3相で駆動する場合を示している。
図5】故障時制御パターン1でのシミュレーション結果を示すグラフであり、図5(a)はトルク波形を示し、図5(b)は相電流波形を示している。
図6】故障時にモータ装置の駆動を制御する方法について説明する模式図であり、2系統の4相で駆動する場合を示している。
図7】故障時制御(2系統4相)におけるV1相とV2相の信号波と搬送波について説明するグラフであり、図7(a)はV1相を示し、図7(b)はV2相を示し、図7(c)はV1相とV2相を重ね合わせた結果を示している。
図8】故障時制御(2系統4相)における信号波と搬送波の比較結果を示すグラフであり、図8(a)はV1相とV2相の信号波および搬送波の波形を示し、図8(b)はV1相の比較結果を示し、図8(c)はV2相の比較結果を示している。
図9】故障時制御パターン2でのシミュレーション結果を示すグラフであり、図9(a)はトルク波形を示し、図9(b)は相電流波形を示している。
図10】第1系統と第2系統の三相巻線で誘起電圧に位相差が無い比較例における故障時制御パターン2でのシミュレーション結果を示すグラフであり、図10(a)はトルク波形を示し、図10(b)は相電流波形を示している。
図11】従来から提案されている三相巻線を2系統備えたモータ装置の駆動回路を簡略化して示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。図1は、本実施形態に係るモータ装置の概要を示す図であり、図1(a)はスイッチインバータ部の構成を示す回路図であり、図1(b)はモータ部の構造例を示す模式図である。
【0025】
図1(a)に示すように、本実施形態のスイッチインバータ部は、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に3つのスイッチ群(U列スイッチ群、V列スイッチ群、W列スイッチ群)が並列に接続されている。各スイッチ群には、3つのスイッチが含まれて直列接続されており、合計9個のスイッチでスイッチインバータ部が構成されている。また、三相交流で駆動されるモータ部は、U1相、V1相、W1相の3つの巻線(コイル)で構成される第1系統の三相巻線と、U2相、V2相、W2相の3つの巻線で構成される第2系統の三相巻線を備えている。また、各スイッチはスイッチ制御部(図示省略)によって動作が制御される。また、スイッチの故障を検出する故障検出部(図示省略)を別途備えており、故障検出部はスイッチ制御部からの制御信号と実際の各スイッチの動作を比較して、各スイッチの正常動作、オープン故障、ショート故障、地絡故障を判別する。
【0026】
U列スイッチ群には、電源電圧側から順にU列上段スイッチUuと、U列中段スイッチUmと、U列下段スイッチUlとが直列接続されている。また、U列上段スイッチUuとU列中段スイッチUmの間がU1半導体リレーSSRu1を介してU1相の一端に接続されている。また、U列中段スイッチUmとU列下段スイッチUlの間がU2半導体リレーSSRu2を介してU2相の一端に接続されている。
【0027】
V列スイッチ群には、電源電圧側から順にV列上段スイッチVuと、V列中段スイッチVmと、V列下段スイッチVlとが直列接続されている。また、V列上段スイッチVuとV列中段スイッチVmの間がV1半導体リレーSSRv1を介してV1相の一端に接続されている。また、V列中段スイッチVmとV列下段スイッチVlの間がV2半導体リレーSSRv2を介してV2相の一端に接続されている。
【0028】
W列スイッチ群には,電源電圧側から順にW列上段スイッチWuと、W列中段スイッチWmと、W列下段スイッチWlとが直列接続されている。また、W列上段スイッチWuとW列中段スイッチWmの間がW1半導体リレーSSRw1を介してW1相の一端に接続されている。また、W列中段スイッチWmとW列下段スイッチWlの間がW2半導体リレーSSRw2を介してW2相の一端に接続されている。
【0029】
また、第1系統の三相巻線であるU1相とV1相とW1相の他端は共通の中性点に接続され、第2系統の三相巻線であるU2相とV2相とW2相の他端は共通の中性点に接続されている。図1(a)に示したように、スイッチインバータ部の各スイッチ間を2系統の三相巻線に接続することで、スイッチ制御部で9個のスイッチを制御、U1相、V1相、W1相、U2相、V2相およびW2相の合計6相を制御することができる。
【0030】
U1半導体リレーSSRu1、U2半導体リレーSSRu2、V1半導体リレーSSRv1、V2半導体リレーSSRv2、W1半導体リレーSSRw1およびW2半導体リレーSSRw2は、制御信号が印加されることで半導体材料で構成された開閉素子が制御され、閉成時に電流を導通し、開放時に電流を遮断する電子部品である。各半導体リレーは後述するようにリレー制御部によって開閉動作が制御される。ここで半導体リレーの具体的構成は限定されず、公知のものを用いることができる。
【0031】
図1(b)に示すように、モータ部は回転子(ロータ)10と、回転子10の周囲に配置された固定子(ステータ)20を備えている。また、回転子10には、外周に沿って磁石のN極11NとS極11Sが複数交互に配置されている。また固定子20は、コアバック部21と複数のティース部22を備えている。図1(b)は回転軸を中心にモータ部を4分割し、一部のみ構造を抽出して模式的に示すものであり、角度や長さは実際のモータとは一致していない。
【0032】
コアバック部21は、回転子10の外側に回転子10の外周を円周状に取り囲むように配置された部分であり、内周に複数のティース部22が等間隔に突出して形成されている。コアバック部21には公知のものを用いることができ、構成する材料や構造は限定されない。また、コアバック部21よりも外周には別途モータハウジング等の部材が設けられている。
【0033】
ティース部22は、コアバック部21の内周面から回転子10に向かって突出して形成された突起状部分であり、各ティース部22は同じ長さと形状で形成されるとともに等間隔に配置されており、各ティース部22の間には間隔が設けられてスロットを構成している。各ティース部22およびスロットには、巻線が巻回されてコイルが構成されて、巻線に電流が流れることでティース部22に磁界が発生する。
【0034】
図1(b)に示した例では、モータ部は10極60スロットの分布巻きとして構成されており、U1+からU1-まで、U2+からU2-まで、V1+からV1-まで、V2+からV2-まで、W1+からW1-まで、およびW2+からW2-までの複数のティース部22が一括して巻線が巻回されており、それぞれの巻線がU1相、U2相、V1相、V2相、W1相およびW2相を構成している。
【0035】
図1(b)に示すように、U1相、V1相およびW1相は、それぞれ1/3周期の差で配置されており第1系統の三相巻線を構成している。同様に、U2相、V2相およびW2相も、それぞれ1/3周期の差で配置されており第2系統の三相巻線を構成している。また、第1系統と第2系統の三相巻線は、誘起電圧の位相が1/12周期だけ異なっており、第1系統よりも第2系統のほうが回転子10の回転方向における下流に位置するように構成されている。図1(b)では10極60スロットの例を示したが、第1系統と第2系統で誘起電圧の位相が異なっていれば、極数およびスロット数は限定されない。また、ティース部22への各相の巻回方法も分布巻きに限定されず集中巻きであってもよい。
【0036】
次に、モータ装置の制御方法について説明する。はじめに、スイッチ制御部から各スイッチにオン信号およびオフ信号を送出するとともに、回路各部の電位または電流を測定し、各スイッチが正常動作するか故障しているかを検出する(故障検出工程)。ここで正常動作時とは、スイッチインバータ部に含まれるスイッチが全て正常に制御可能であり、ショート故障、オープン故障、地絡故障のいずれでもないことを意味している。スイッチの故障モードのうちショート故障は常時導通する故障であり、オープン故障は常時開放する故障であり、地絡故障は常時接地電位になる故障である。故障検出工程は、通常動作とは別に実行するとしてもよく、モータ装置の通常の駆動制御時に並行して行うとしてもよい。リレー制御部は、故障検出部が検出したスイッチインバータ部の状態に応じて、正常時動作と故障時動作を切り替えて、各リレーの閉成と開放を制御する。
【0037】
(正常時制御:2系統での6相ベクトル制御)
故障検出部が故障スイッチを発見しない場合には、リレー制御部は正常時制御を実行して、全てのリレーが閉成されて2系統の三相巻線の全ての相を用いて回転動作が行われる。
【0038】
図2は、正常時にモータ装置の駆動を制御する方法について説明する模式図である。図2に示したように、モータ装置の正常時制御では、モータ部のU1相、V1相、W1相、U2相、V2相およびW2相を流れる駆動電流(相電流)iu1,iv1,iw1,iu2,iv2およびiw2をそれぞれモニターする(電流値取得工程)。得られた各駆動電流から第1系統と第2系統の平均の相電流i,i,iを求め、さらに三相dq変換を行って回転座標系に変換し電流i,iを求める。
【0039】
次に、得られた電流i,iを入力値としてPI制御を行い、電流制御または回転速度制御のために電圧値v ,v を得る。得られた電圧値v ,v は回転座標系であるため、三相逆dq変換を行って、指令電圧v ,v ,v を得る。また、第1系統の指令電圧vu1 ,vv1 ,vw1 と第2系統の指令電圧vu2 ,vv2 ,vw2 をv ,v ,v に設定する。得られた第1系統の指令電圧vu1 ,vv1 ,vw1 および第2系統の指令電圧vu2 ,vv2 ,vw2 は、それぞれ周期的に変化するU1相、V1相、W1相、U2相、V2相およびW2相の信号波となる(指令電圧算出工程)。
【0040】
次に、得られた各相の信号波と搬送波との大小関係を比較し、信号波が搬送波よりも大きい場合をHigh信号とし、信号波が搬送波よりも小さい場合をLow信号として、第1系統と第2系統へのゲート信号を決定する(ゲート信号決定工程)。正常時制御では、図2に示したように第1系統と第2系統の相電流を平均化して指令電圧を同じにしているため、第1系統と第2系統の信号波は振幅および位相が同じで一致する。したがって、正常時制御では信号波と搬送波の大小比較結果が第1系統と第2系統で同じとなり、ゲート信号のHighとLowは同じタイミングで変化する。
【0041】
次に、決定されたゲート信号(High信号とLow信号)に基づいて、9スイッチインバータで構成されているスイッチインバータ部への入力信号を制御する(インバータスイッチ制御工程)。具体的には表1に示すように、第1系統と第2系統のHigh信号とLow信号の組み合わせに応じて、上段スイッチ、中段スイッチおよび下段スイッチのオンオフを制御する。表1および以下の図ではU相の場合のみを示して説明するが、V相およびW相についても同様の制御を行う。これは、正常時動作においても故障時動作においても同様である。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示したように、U1相とU2相が共にHigh信号の場合(パターン1)には、U列上段スイッチUuのゲートにはオン信号を入力し、U列中段スイッチUmのゲートにはオン信号を入力し、U列下段スイッチUlのゲートにはオフ信号を入力する。U1相とU2相が共にLow信号の場合(パターン2)には、U列上段スイッチUuのゲートにはオフ信号を入力し、U列中段スイッチUmのゲートにはオン信号を入力し、U列下段スイッチUlのゲートにはオン信号を入力する。図2に示した正常時制御では、第1系統と第2系統の相電流を平均化して指令電圧を同じにしているため、常にパターン1,2の制御がスイッチインバータ部に加えられる。
【0044】
パターン1では、U列上段スイッチUuがオン、U列中段スイッチUmがオン、U列下段スイッチUlがオフとされる。したがって、U列上段スイッチUuとU列中段スイッチUmの間の電位Vumは、U列上段スイッチUuの順方向電圧だけ電源電圧(+V)から電圧降下したものとなり、U1相の巻線に電位Vumが印加される。また、U列中段スイッチUmとU列下段スイッチUlの間の電位Vmlは、U列上段スイッチUuおよびU列中段スイッチUmの順方向電圧だけ電源電圧(+V)から電圧降下したものとなり、U2相の巻線に電位Vmlが印加される。
【0045】
パターン2では、U列上段スイッチUuがオフ、U列中段スイッチUmがオン、U列下段スイッチUlがオンとされる。したがって、電位Vumは、U列中段スイッチUmおよびU列下段スイッチUlの順方向電圧だけ接地電圧(0)から高い電圧となり、U1相の巻線に印加される。また電位Vmlは、U列下段スイッチUlの順方向電圧だけ接地電圧(0)から高い電圧となり、U2相の巻線に印加される。
【0046】
U1相がHigh信号で、U2相がLow信号の場合(パターン3)、およびU1相がLow信号で、U2相がHigh信号の場合(パターン4)には、ともにU列上段スイッチUuのゲートにはオン信号を入力し、U列中段スイッチUmのゲートにはオフ信号を入力し、U列下段スイッチUlのゲートにはオン信号を入力する。
【0047】
パターン3,4では、U列上段スイッチUuがオン、U列中段スイッチUmがオフ、U列下段スイッチUlがオンとされる。したがって、電位Vumは、U列上段スイッチUuの順方向電圧だけ電源電圧(+V)から電圧降下したものとなり、U1相の巻線に電位Vumが印加される。また電位Vmlは、U列下段スイッチUlの順方向電圧だけ接地電圧(0)から高い電圧となり、U2相の巻線に印加される。パターン3,4ではスイッチに印加される信号が同じになるが、各系統の電位差によって電流が発生するので、U1相がLow信号の場合にU列上段スイッチUuがオンであっても問題ない。
【0048】
上述したように、正常時制御のモータ装置では、スイッチ制御部からインバータスイッチング部の各スイッチにパルス信号が加えられる。つまり、スイッチ制御部は、信号波と搬送波の比較によりパルス信号を生成し、各スイッチをPWM(Pulth Width Modulation)変調制御する。
【0049】
図3は、正常時制御のシミュレーション結果を示すグラフであり、図3(a)はトルク波形を示し、図3(b)はd,q軸電流波形を示し、図3(c)は相電流波形を示している。図3(a)~図3(c)の横軸は時間(秒)を示し、図3(a)の縦軸はトルク(Nm)を示し、図3(b)(c)の縦軸は電流値(A)を示している。また、図3(c)において各プロットは、それぞれU1相、V1相、W1相、U2相、V2相およびW2相の相電流iu1,iv1,iw1,iu2,iv2およびiw2を示している。
【0050】
正常時制御では図3(a)に示したように、回転子10に加わるトルクはわずかなトルク脈動が存在するが常に正の値となる。また、図3(b)に示したように、d-q座標軸での電流値は略一定となる。また、図3(c)に示したように、第1系統と第2系統の三相巻線の6相全てに相電流が供給されており、6相全ての電流値が同時に0になるタイミングが存在しない。これにより、正常時制御では6相全ての相電流で安定してトルクを発生させ、回転子10の回転を継続できる。
【0051】
(故障時制御)
故障検出部が故障スイッチを発見した場合には、該当スイッチを特定する情報とその故障モードを記憶装置に記録し、リレー制御部が後述する故障時制御パターン1または故障時制御パターン2に応じて特定の相を切り離す。このとき、切り離し対象とされる相の選択は、故障検出部が検出した故障スイッチの故障モードおよび故障位置によって異なる。また、スイッチ制御部は、故障スイッチの故障モードおよび故障位置に応じて、制御する対象のスイッチとその制御パターンを決定する。
【0052】
(故障時制御パターン1:1系統での3相ベクトル制御)
図4は、故障時にモータ装置の駆動を制御する方法について説明する模式図であり、1系統の3相で駆動する場合を示している。図4に示したように、モータ装置の故障時制御パターン1では、U1半導体リレーSSRu1、V1半導体リレーSSRv1およびW1半導体リレーSSRw1が開放されて、モータ部のU1相、V1相およびW1相はスイッチインバータ部から切り離されており、相電流iu1,iv1,iw1が0となっている。そこで、残りの3相であるV2相、W2相およびV2相を流れる駆動電流(相電流)iv2,iv2およびiw2をそれぞれモニターする(電流値取得工程)。得られた各相電流に3相dq変換を行って回転座標系に変換し電流i,iを求める。
【0053】
次に、得られた電流i,iを入力値としてPI制御を行い、電流制御または回転速度制御のために電圧値v ,v を得る。得られた電圧値v ,v は回転座標系であるため、三相逆dq変換を行って、指令電圧v ,v ,v を得る。また、第2系統の指令電圧vu2 ,vv2 ,vw2 をv ,v ,v に設定する。得られた第2系統の指令電圧vu2 ,vv2 ,vw2 は、それぞれ周期的に変化するU2相、V2相およびW2相の信号波となる(指令電圧算出工程)。
【0054】
次に、得られた各相の信号波と搬送波との大小関係を比較し、信号波が搬送波よりも大きい場合をHigh信号とし、信号波が搬送波よりも小さい場合をLow信号として、第2系統へのゲート信号を決定する(ゲート信号決定工程)。つまり故障時制御パターン1では、第1系統の三相巻線は切り離されて第2系統の三相巻線で通常の三相モータとして回転を継続する。ここで、スイッチインバータ部においてゲート信号が印加される対象のスイッチは、後述するように故障スイッチの故障モードと位置によって決められる。
【0055】
図5は、故障時制御パターン1でのシミュレーション結果を示すグラフであり、図5(a)はトルク波形を示し、図5(b)は相電流波形を示している。図5(a)(b)の横軸は時間(秒)を示し、図5(a)の縦軸はトルク(Nm)を示し、図5(b)の縦軸は電流値(A)を示している。また、図5(b)において各プロットは、それぞれU1相、V1相、W1相、U2相、V2相およびW2相の相電流iu1,iv1,iw1,iu2,iv2およびiw2を示している。
【0056】
故障時制御パターン1では図5(a)に示したように、回転子10に加わるトルクには周期的な変動が生じるが常に正の値となる。また、d-q座標軸での電流値にも周期的な変動が生じるが、q軸電流は常に正である。また、図5(b)に示したように、第1系統の三相巻線であるU1相、V1相およびW1相はU1半導体リレーSSRu1、V1半導体リレーSSRv1およびW1半導体リレーSSRw1で切り離されているため相電流iu1、iv1およびiw1は0である。したがって、第2系統の三相巻線であるU2相、V2相およびW2相に流れる相電流iu2、iv2およびiw2による三相交流で、回転子10の回転を継続できる。
【0057】
(故障時制御パターン2:2系統での4相ベクトル制御)
図6は、故障時にモータ装置の駆動を制御する方法について説明する模式図であり、2系統の4相で駆動する場合を示している。図6に示したように、モータ装置の故障時制御パターン2では、U1半導体リレーSSRu1とU2半導体リレーSSRu2が開放されて、モータ部のU1相とU2相はスイッチインバータ部から切り離されており、相電流iu1,iu2が0となっている。そこで、残りの4相であるV1相、W1相、V2相およびW2相を流れる駆動電流(相電流)iv1,iw1,iv2およびiw2をそれぞれモニターする(電流値取得工程)。得られた各相電流に6相dq変換を行って回転座標系に変換し電流i,iを求める。
【0058】
次に、得られた電流i,iを入力値としてPI制御を行い、電流制御または回転速度制御のために電圧値v ,v を得る。得られた電圧値v ,v は回転座標系であるため、6相逆dq変換を行って、指令電圧vu1 ,vv1 ,vw1 ,vu2 ,vv2 ,vw2 を得る。ここで、U1相とU2相は切り離されているため、vu1 とvu2 は0となる。得られた第1系統の第1指令電圧vv1 ,vw1 および第2系統の第2指令電圧vv2 ,vw2 は、それぞれ周期的に変化するV1相、V2相、W1相およびW2相の信号波となる(指令電圧算出工程)。故障時制御では、各系統での演算によってそれぞれ第1系統の第1指令電圧vv1 ,vw1 および第2系統の第2指令電圧vv2 ,vw2 が算出され、互いに位相の異なる信号波とされる。
【0059】
次に、得られた各相の信号波と搬送波との大小関係を比較し、信号波が搬送波よりも大きい場合をHigh信号とし、信号波が搬送波よりも小さい場合をLow信号として、第1系統と第2系統へのゲート信号を決定する(ゲート信号決定工程)。故障時制御におけるゲート信号決定工程は、後述するように信号波の振幅を圧縮およびオフセットして行う。
【0060】
図7は、故障時制御(2系統4相)におけるV1相とV2相の信号波と搬送波について説明するグラフであり、図7(a)はV1相を示し、図7(b)はV2相を示し、図7(c)はV1相とV2相を重ね合わせた結果を示している。図7(a)~図7(c)において横軸は位相角度を示し、縦軸は電圧を示している。ここで電圧の最大値および最小値として±1Vが示されているが、簡便のために規格化した表現を用いるものであり、現実の電圧値は限定されない。また、グラフ中の破線は搬送波の信号波形を示しており、ここでは三角波を用いている。図7(a)中の実線はV1相の信号波の波形を示しており指令電圧vv1 の変化を示している。また、図7(b)中の一点鎖線はV2相の信号波の波形を示しており指令電圧vv2 の変化を示している。図7では簡便のために搬送波の周波数を小さくして周期を長くして示しているが、実際のモータ装置においては5kHz~15kHz程度の高周波な搬送波が用いられる。
【0061】
図7(a)(b)に示したように、故障時制御では第1系統と第2系統で個別に指令電圧を算出しているため、V1相の信号波とV2相の信号波は、位相が1/12周期(30°)異なったものとなっている。これは、図1(b)に示したようにV1相とV2相が1/12ずれたティース部22に巻回されていることに起因する。図7(a)(b)で示したように、第1系統のV1相と第2系統のV2相では信号波に位相差が生じているため、そのまま搬送波と比較すると、V1相の指令電圧vv1 よりもV2相の指令電圧vv2 のほうが大きくなる場合が発生してしまう。
【0062】
本実施形態では、これを回避するために、V1相およびV2相の信号波の振幅をそれぞれオフセットし、常に指令電圧vv1 が指令電圧vv2 よりも大きくなるように補正したうえで、搬送波と比較を行う。具体例としては、図7(c)に示したように、V1相の振幅を半分にして最大電圧が+1で最小電圧が0となるようにオフセットし、V2相の振幅を半分にして最大電圧が0で最小電圧が-1となるようにオフセットを行う。つまり、電源電圧に近い第1系統のV1相での信号波の最小値と、接地電圧に近い第2系統のV2相での信号波の最大値が同じとなるように補正してからゲート信号決定工程を実行する。
【0063】
図8は、故障時制御(2系統4相)における信号波と搬送波の比較結果を示すグラフであり、図8(a)はV1相とV2相の信号波および搬送波の波形を示し、図8(b)はV1相の比較結果を示し、図8(c)はV2相の比較結果を示している。図8(a)において横軸は位相角度を示し、縦軸は電圧を示している。図8(b)(c)では、横軸は図8(a)と同じ位相角度を示しており、横軸の軸上がLow信号を示し、横軸から離れた位置がHigh信号を示している。また、図8(a)~図8(c)にわたって垂直に引かれた薄い破線は、図8(a)における搬送波と信号波の交点を示している。
【0064】
図8(a)に示したように、本実施形態ではV1相とV2相の信号波で位相が異なっており、振幅も互いにオフセットされているため、信号波と搬送波との交点はV1相とV2相で異なっている。つまり、V1相とV2相ではHigh信号とLow信号の切り替わるタイミングが異なる。また、V1相の信号波は最小値が0にオフセットされ、V2相の信号波は最大値が0にオフセットされているため、常に指令電圧vv1 が指令電圧vv2 よりも大きくなり、V2相がHigh信号になるのは、V1相がHigh信号の期間内に限定される。よって、故障時制御ではV1相とV2相が共にHigh信号か共にLow信号の場合と、V1相がHigh信号でV2相がLow信号の場合が存在する。したがって故障時制御のモータ装置では、スイッチ制御部から表1のパターン1,2,3に従ってインバータスイッチング部の各スイッチにパルス信号が加えられる。
【0065】
故障時制御パターン2では、上述したように故障スイッチに対応したU1半導体リレーSSRu1とU2半導体リレーSSRu2を開放してU1相とU2相を切り離し、第1系統をV1相とW1相で駆動し、第2系統をV2相とW2相で駆動する。これにより、2系統の3相巻線のうち4相を用いて回転子の回転を継続することができる。
【0066】
図9は、故障時制御パターン2でのシミュレーション結果を示すグラフであり、図9(a)はトルク波形を示し、図9(b)は相電流波形を示している。図9(a)(b)の横軸は時間(秒)を示し、図9(a)の縦軸はトルク(Nm)を示し、図9(b)の縦軸は電流値(A)を示している。また、図9(b)において各プロットは、それぞれU1相、V1相、W1相、U2相、V2相およびW2相の相電流iu1,iv1,iw1,iu2,iv2およびiw2を示している。
【0067】
故障時制御パターン2では図9(a)に示したように、回転子10に加わるトルクには周期的な変動が生じるが常に正の値となる。また、d-q座標軸での電流値にも周期的な変動が生じるが、q軸電流は常に正である。また、図9(b)に示したように、第1系統と第2系統の三相巻線のうち、U1相とU2相はU1半導体リレーSSRu1およびU2半導体リレーSSRu2で切り離されているため相電流iu1とiu2は0である。また、V1相とW1相の相電流iv1とiw1は同時に0となるタイミングがあるが、V2相とW2相の相電流iv2とiw2が同時に0となるタイミングとは異なっている。したがって、4相全ての電流値が同時に0になるタイミングが存在しない。これにより、故障時制御では故障スイッチに対応する相を切り離して、4相の相電流で常にトルクを発生させ、回転子10の回転を継続できる。
【0068】
図10は、第1系統と第2系統の三相巻線で誘起電圧に位相差が無い比較例における故障時制御パターン2でのシミュレーション結果を示すグラフであり、図10(a)はトルク波形を示し、図10(b)は相電流波形を示している。図10(a)(b)の横軸は時間(秒)を示し、図10(a)の縦軸はトルク(Nm)を示し、図10(b)の縦軸は電流値(A)を示している。また、図10(b)において各プロットは、それぞれU1相、V1相、W1相、U2相、V2相およびW2相の相電流iu1,iv1,iw1,iu2,iv2およびiw2を示している。
【0069】
図10に示した比較例では、第1系統と第2系統の三相巻線の間に、誘起電圧の位相差が無いモータ装置において、U1半導体リレーSSRu1とU2半導体リレーSSRu2を開放した場合を想定している。したがって、U1相とU2相を切り離し、V1相、V2相、W1相、W2相の2系統4相ベクトル制御をシミュレーションしている。このような誘起電圧の位相差が無いモータ装置としては、例えば8極12スロット等が挙げられる。
【0070】
この比較例では、図10(b)に示したように、第1系統と第2系統の三相巻線のうち、U1相とU2相はU1半導体リレーSSRu1およびU2半導体リレーSSRu2で切り離されているため相電流iu1とiu2は0である。また、V1相、W1相、V2相およびW2相の相電流iv1、iw1、v2およびiw2が同時に0となるタイミングが存在する。これにより、図10(a)に示したように、回転子10に加わるトルクには大きな変動が生じ、トルクが負の値となる瞬間も存在している。したがって、2系統の三相巻線に誘起電圧の位相差が無い場合には、故障時制御パターン2の2系統4相制御では、故障スイッチに対応する相を切り離して、4相の相電流で常にトルクを発生させることができず、回転子10の回転を継続できないことが理解できる。
【0071】
次に、故障検出部が故障スイッチを検出した場合のリレー制御部およびスイッチ制御部の動作について条件毎に説明する。後述するように、故障検出部が検出した故障スイッチの故障モードが、オープン故障、ショート故障、地絡故障の場合、および故障スイッチの位置によって故障時制御パターン1と故障時制御パターン2のどちらかが選択され、リレー制御部は各半導体リレーの閉成と開放を決定する。また、スイッチ制御部は、故障スイッチの故障モードと位置に応じて、制御対象とするスイッチと制御信号を決定する。
【0072】
(オープン故障)
スイッチインバータ部に含まれるスイッチの何れかがオープン故障の場合には、故障時制御パターン2が選択され、2系統での4相ベクトル制御が実施される。この場合には、リレー制御部は第1系統および第2系統における故障スイッチに対応する相の半導体リレーを開放する。また、スイッチ制御部は故障スイッチに対応する列全体にオフ信号を送出し、非導通とする。これにより、オープン故障のスイッチが含まれる列に対応した2つの相を切り離し、残りの2系統4相でモータ部の回転が継続される。これは、複数のスイッチが直列接続されているスイッチ群でオープン故障が発生した場合には、電源電圧と接地電圧が各スイッチに適切に印加されないため、当該列のスイッチ群を用いた相電流の制御が不可能になるからである。
【0073】
具体例としてU列スイッチ群に含まれる何れかのスイッチがオープン故障した場合について、リレー制御部とスイッチ制御部の動作を表2および表3を用いて説明する。U列スイッチ群の何れかがオープン故障の故障スイッチであるため、表2に示したように、U列スイッチ群に接続されているU1相およびU2相が切り離し対象とされる。したがって、リレー制御部は、U1半導体リレーSSRu1とU2半導体リレーSSRu2に対してオフ信号を送出して開放し、相電流iu1およびiu2が0となる。また、V列スイッチ群およびW列スイッチ群に接続されているV1半導体リレーSSRv1、V2半導体リレーSSRv2、W1半導体リレーSSRw1およびW2半導体リレーSSRw2には、オン信号を送出して閉成する。
【0074】
また表3に示したように、スイッチ制御部は、故障スイッチに対応した列であるU列スイッチ群に含まれるU列上段スイッチUu、U列中段スイッチUmおよびU列下段スイッチUlに対して常にオフ信号を送出して非導通とする。また、故障スイッチが含まれていないV列スイッチ群およびW列スイッチ群には、図6図9で示した故障時制御パターン2の2系統4相ベクトル制御を実施し、モータ部の回転を継続する。表2、表3ではU列スイッチ群にオープン故障の故障スイッチが存在する場合を示したが、V列スイッチ群またはW列スイッチ群にオープン故障が存在する場合にも、故障スイッチが含まれる列に接続された半導体リレーをオフとし、故障スイッチが含まれる列の全スイッチをオープンとすることで、同様に2系統4相ベクトル制御を行うことができる。
【0075】
【表2】
【表3】
【0076】
(ショート故障:上段)
スイッチインバータ部に含まれる上段スイッチの何れかがショート故障の場合には、故障時制御パターン1が選択され、1系統での3相ベクトル制御が実施される。この場合には、リレー制御部は故障スイッチに接続された半導体リレーを含んだ系統の三相全てを開放する。また、スイッチ制御部は故障スイッチに対応する上段全てに常時オン信号を送出し、導通とする。これにより、ショート故障のスイッチに対応した系統の三相巻線を切り離し、残りの1系統3相でモータ部の回転が継続される。これは、上段のスイッチがショート故障すると、電源電圧の電位がそのまま中段のスイッチに加わり、当該上段スイッチでは相電流を制御できなくなるためである。また、故障スイッチに接続された相の半導体リレーを開放しても、半導体リレーの順方向には電流が流れてしまうため、同系統の他の2相も同時に開放して同系統の3相全てを切り離す必要がある。
【0077】
具体例としてU列上段スイッチUuがショート故障した場合について、リレー制御部とスイッチ制御部の動作を表4および表5を用いて説明する。U列上段スイッチUuがショート故障の故障スイッチであるため、表4に示したように、U列上段スイッチUuが接続されているU1半導体スイッチSSRu1と、これを含む第1系統のU1相、V1相およびW1相が切り離し対象とされる。したがってリレー制御部は、第1系統に接続されているU1半導体リレーSSRu1、V1半導体リレーSSRv1およびW1半導体リレーSSRw1に対してオフ信号を送出して開放し、相電流iu1、iv1およびiw1が0となる。また、第2系統に接続されているU2半導体リレーSSRu2、V2半導体リレーSSRv2およびW2半導体リレーSSRw2には、オン信号を送出して閉成する。
【0078】
また表5に示したように、スイッチ制御部は、故障スイッチが接続された第1系統のV列上段スイッチVu、W列上段スイッチWuに対して常にオン信号を送出して導通とする。また、故障スイッチが接続されていない第2系統では、U列下段スイッチUl、V列下段スイッチVl、W列下段スイッチWlに対して、電流値取得工程、指令電圧算出工程、ゲート信号決定工程の各工程を実施し、1系統での三相ベクトル制御を行う。また、各列の下段スイッチに印加されるHigh信号とLow信号を反転させた反転信号を、U列中段スイッチUm、V列中段スイッチVm、W列中段スイッチWmに対して印加する。
【0079】
表4、表5ではU列上段スイッチUuにショート故障の故障スイッチが存在する場合を示したが、V列上段スイッチVuまたはW列上段スイッチWuにショート故障が存在する場合にも、故障スイッチが接続された半導体リレーを含む系統の半導体リレー全てオフとし、第1系統の上段スイッチを常時オンにし、中段スイッチに反転信号を入力し、下段スイッチを三相ベクトル制御することで、同様に1系統3相ベクトル制御を行うことができる。
【0080】
【表4】
【表5】
【0081】
(ショート故障:中段)
スイッチインバータ部に含まれる中段スイッチの何れかがショート故障の場合にも、故障時制御パターン1が選択され、1系統での3相ベクトル制御が実施される。この場合には、リレー制御部は故障スイッチに接続された第1系統または第2系統の三相全てを開放する。また、スイッチ制御部は故障スイッチに対応する中段全てに常時オン信号を送出し、導通とする。これにより、選択された系統の三相巻線を切り離し、残りの1系統3相でモータ部の回転が継続される。これは、中段のスイッチがショート故障すると、上段と下段の2つのスイッチの直列接続と等価になるためであり、上段と下段のスイッチで3相交流を供給することができるからである。また、故障スイッチに接続された列の半導体リレーを開放しても、半導体リレーの順方向には電流が流れてしまうため、同系統の他の2相も同時に開放して同系統の3相全てを切り離す必要がある。
【0082】
具体例としてU列中段スイッチUmがショート故障した場合について、リレー制御部とスイッチ制御部の動作を表4および表6を用いて説明する。U列中段スイッチUmがショート故障の故障スイッチであるため、表4に示したように、第1系統のU1相、V1相およびW1相が切り離し対象とされる。したがってリレー制御部は、第1系統に接続されているU1半導体リレーSSRu1、V1半導体リレーSSRv1およびW1半導体リレーSSRw1に対してオフ信号を送出して開放し、相電流iu1、iv1およびiw1が0となる。また、第2系統に接続されているU2半導体リレーSSRu2、V2半導体リレーSSRv2およびW2半導体リレーSSRw2には、オン信号を送出して閉成する。ここでは第1系統が切り離し対象とされた例を示しているが、中段スイッチのショート故障時には第1系統と第2系統のどちらを切り離し対象として、残りの1系統で三相ベクトル制御を行うかは任意である。
【0083】
また表6に示したように、スイッチ制御部は、故障スイッチに対応する段であるV列中段スイッチVm、W列中段スイッチWmに対して常にオン信号を送出して導通とする。また、切り離し対象とされていない第2系統では、U列下段スイッチUl、V列下段スイッチVl、W列下段スイッチWlに対して、電流値取得工程、指令電圧算出工程、ゲート信号決定工程の各工程を実施し、1系統での三相ベクトル制御を行う。また、切り離し対象とされた第1系統では、各列の下段スイッチに印加されるHigh信号とLow信号を反転させた反転信号を、U列上段スイッチUu、V列上段スイッチVu、W列上段スイッチWuに対して印加する。
【0084】
表4、表6ではU列中段スイッチUmにショート故障の故障スイッチが存在する場合を示したが、V列中段スイッチVmまたはW列中段スイッチWmにショート故障が存在する場合にも、切り離し対象とされた系統の全ての半導体リレーをオフとし、中段スイッチを常時オンにし、切り離し対象とされた系統に接続された上段または下段に反転信号を入力し、残りの段のスイッチを三相ベクトル制御することで、同様に1系統3相ベクトル制御を行うことができる。
【0085】
【表6】
【0086】
(ショート故障:下段)
スイッチインバータ部に含まれる下段スイッチの何れかがショート故障の場合にも、故障時制御パターン1が選択され、1系統での3相ベクトル制御が実施される。この場合には、リレー制御部は故障スイッチに接続された半導体リレーを含んだ系統の三相全てを開放する。また、スイッチ制御部は故障スイッチに対応する下段全てに常時オン信号を送出し、導通とする。これにより、ショート故障のスイッチに対応した系統の三相巻線を切り離し、残りの1系統3相でモータ部の回転が継続される。これは、下段のスイッチがショート故障すると、接地電圧の電位がそのまま中段のスイッチに加わり、当該下段スイッチでは相電流を制御できなくなるためである。また、故障スイッチに接続された相の半導体リレーを開放しても、半導体リレーの順方向には電流が流れてしまうため、同系統の他の2相も同時に開放して同系統の3相全てを切り離す必要がある。
【0087】
具体例としてU列下段スイッチUlがショート故障した場合について、リレー制御部とスイッチ制御部の動作を表7および表8を用いて説明する。U列下段スイッチUlがショート故障の故障スイッチであるため、表7に示したように、U列下段スイッチUlが接続されているU2半導体スイッチSSRu2と、これを含む第2系統のU2相、V2相およびW2相が切り離し対象とされる。したがってリレー制御部は、第2系統に接続されているU2半導体リレーSSRu2、V2半導体リレーSSRv2およびW2半導体リレーSSRw2に対してオフ信号を送出して開放し、相電流iu2、iv2およびiw2が0となる。また、第1系統に接続されているU1半導体リレーSSRu1、V1半導体リレーSSRv1およびW1半導体リレーSSRw1には、オン信号を送出して閉成する。
【0088】
また表8に示したように、スイッチ制御部は、故障スイッチが接続された第2系統のV列下段スイッチVl、W列下段スイッチWlに対して常にオン信号を送出して導通とする。また、故障スイッチが接続されていない第1系統では、U列上段スイッチUu、V列上段スイッチVu、W列上段スイッチWuに対して、電流値取得工程、指令電圧算出工程、ゲート信号決定工程の各工程を実施し、1系統での三相ベクトル制御を行う。また、各列の上段スイッチに印加されるHigh信号とLow信号を反転させた反転信号を、U列中段スイッチUm、V列中段スイッチVm、W列中段スイッチWmに対して印加する。
【0089】
表7、表8ではU列下段スイッチUlにショート故障の故障スイッチが存在する場合を示したが、V列下段スイッチVlまたはW列下段スイッチWlにショート故障が存在する場合にも、故障スイッチが接続された半導体リレーを含む系統の半導体リレー全てオフとし、上段スイッチを三相ベクトル制御し、中段スイッチに反転信号を入力し、下段スイッチを常時オンにすることで、同様に1系統3相ベクトル制御を行うことができる。
【0090】
【表7】
【表8】
【0091】
上述したU列中断スイッチUmまたはU列下段スイッチUlがショート故障の場合には、故障時制御パターン2を用いて、故障スイッチが含まれる列に対応した2系統の2相のみを切り離し対象として、残りの2系統4相でベクトル制御することもできる。しかし、トルク脈動を抑制するという観点からは、上述した故障時制御パターン1を用いて、1系統での3相ベクトル制御で回転を継続することが好ましい。
【0092】
上述したU列上段スイッチUuがショート故障の場合には、故障スイッチが含まれる列に対応した2系統の2相のみを切り離し対象として、残りの2系統4相でベクトル制御することができない。これは、半導体リレーでは開放状態でも順方向に電流が流れてしまうためである。つまり、2系統の4相ベクトル制御では、ショート故障したスイッチと半導体リレーと巻線と中性点が導通しているため、開放している半導体リレーを介して中性点に電流が流れて、同じ系統の他相での相電流を適切に制御できなくなるためである。
【0093】
(地絡故障:上段)
スイッチインバータ部に含まれる上段スイッチの何れかが地絡故障した場合には、電源電圧と地絡した故障スイッチが短絡し、スイッチインバータ部の全体に電圧が印加されなくなるため、モータ部を回転させることができない。
【0094】
(地絡故障:中段)
スイッチインバータ部に含まれる中段スイッチの何れかが地絡故障の場合には、故障時制御パターン2が選択され、2系統での4相ベクトル制御が実施される。この場合には、リレー制御部とスイッチ制御部の動作は、表2および表3に示したオープン故障と同様となる。つまりリレー制御部は、第1系統および第2系統における故障スイッチに対応する相の半導体リレーを開放する。また、スイッチ制御部は故障スイッチに対応する列全体にオフ信号を送出し、非導通とする。これにより、地絡故障のスイッチが含まれる列に対応した2つの相を切り離し、残りの2系統4相でモータ部の回転が継続される。これは、中段で地絡故障が発生した場合には、当該列の中段および下段の電位が接地電位となり、当該列での相電流の制御が不可能になるからである。
【0095】
(地絡故障:下段)
スイッチインバータ部に含まれる下段スイッチの何れかが地絡故障の場合には、故障時制御パターン1が選択され、1系統での3相ベクトル制御が実施される。この場合には、リレー制御部とスイッチ制御部の動作は、表7および表8に示した下段ショート故障と同様となる。つまりリレー制御部は、故障スイッチに接続された半導体リレーを含んだ系統の三相全てを開放する。また、スイッチ制御部は故障スイッチに対応する下段全てに常時オン信号を送出し、導通とする。これにより、地絡故障のスイッチに対応した系統の三相巻線を切り離し、残りの1系統3相でモータ部の回転が継続される。これは、下段のスイッチの地絡故障は、下段のスイッチのショート故障と同様に、接地電圧の電位がそのまま中段のスイッチに加わり、当該下段スイッチでは相電流を制御できなくなるためである。また、故障スイッチに接続された相の半導体リレーを開放しても、半導体リレーの順方向には電流が流れてしまうため、同系統の他の2相も同時に開放して同系統の3相全てを切り離す必要がある。
【0096】
上述したように本実施形態のモータ装置では、一つの回転子10に2系統の三相巻線を備えるモータの各相を個別に制御して、回転子10の回転を継続しながらも、スイッチ数を低減できる。また、故障検出部でスイッチインバータ部の故障を検出し、故障モードと位置に応じて最適な故障時制御パターンを選択することで、回転子10の回転を継続することができる。また、任意のスイッチのオープン故障と中段スイッチの地絡故障では、2系統の4相を用いたベクトル制御で回転子10の回転を継続できるため、トルクの低下を抑制することができる。
【0097】
(第1実施形態の変形例)
次に、本発明の第1実施形態の変形例について説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。本変形例では、故障時制御パターン2において第1系統と第2系統の信号波をオフセットする際の比率を第1実施形態と異ならせる。本変形例でも第1系統の第1指令電圧vv1 ,vw1 および第2系統の第2指令電圧vv2 ,vw2 を算出して、V1相とV2相で位相の異なる信号波を求めるまでは第1実施形態と同様である。
【0098】
具体例としては、V1相の振幅を1/4にして最大電圧が+1で最小電圧が0.5となるようにオフセットし、V2相の振幅を3/4にして最大電圧が0.5で最小電圧が-1となるようにオフセットを行う。つまり、電源電圧に近い第1系統のV1相での信号波の最小値と、接地電圧に近い第2系統のV2相での信号波の最大値が同じとなるように補正してからゲート信号決定工程を実行する。ここでは、V1相とV2相の信号波の振幅を1:3となるように変更したが、他の比率であってもよい。
【0099】
本変形例では、V1相およびV2相の信号波と搬送波の交点は、図7に示したものよりも高電位側になる。したがって、V1相およびV2相の両者において、ゲート信号がHigh信号になる期間が図8に示したものよりも長くなる。
【0100】
上述したように本変形例のモータ装置では、V1相とV2相の信号波をオフセットする際に、任意の比率で振幅を変更することで、V1相とV2相のゲート信号におけるHigh信号のデューティ比を調整することが可能であり、モータ装置の回転制御における自由度が向上する。
【0101】
(第2実施形態)
第1実施形態では、モータ部として10極60スロットの分布巻きの構成を示したが、異なる極数、スロット数、巻回方法であってもよい。本発明の正常時制御および故障時制御は、第1系統と第2系統で誘起電圧に位相差が生じる場合に適用することができる。本発明を適用可能な条件は、曲数をPとしスロット数をSとしたときにP:Sの比率で表すことができる。具体的には集中巻きモータであればP:S=10:12、14:10、分布巻きモータであればP:S=2:12等に適用可能である。逆に、第1系統と第2系統で誘起電圧に位相差が生じない場合には、故障時制御においてトルクが0になる瞬間が生じてしまうため、本発明は適用できない。具体的には集中巻きモータであればP:S=2:3、分布巻きモータであればP:S=1:3に適用することはできない。
【0102】
(第3実施形態)
第1実施形態では、N極11NおよびS極11Sを構成する磁石として永久磁石を用いたものを示したが、一つの回転子に対して2系統の三相巻線が用いられるモータ装置であれば、モータ部の種類に依存せず誘導機やシンクロナスリラクタンスモータ等にも適用可能である。
【0103】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0104】
10…回転子
11N…N極
11S…S極
20…固定子
21…コアバック部
22…ティース部
図1
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