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特開2022-185222マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌検出に用いるオリゴヌクレオチド及びその検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185222
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌検出に用いるオリゴヌクレオチド及びその検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20221207BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20221207BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/6888 Z ZNA
C12N15/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092745
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 華苗
(72)【発明者】
【氏名】俵田 隆哉
(72)【発明者】
【氏名】東田 悟
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 試料中に存在するマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌を特異的に増幅し、かつ偽陽性が発生しにくい検出方法を提供する。
【解決手段】マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列またはその相補配列を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブであって、配列番号3に記載の塩基配列もしくは該配列の相補配列の少なくとも連続する14塩基からなることを特徴とするマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌を検出するためのオリゴヌクレオチドを用いて検出する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列またはその相補配列を検出するためのオリゴヌクレオチドであって、配列番号3に記載の塩基配列もしくは該配列の相補配列の少なくとも連続する14塩基からなることを特徴とするマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌を検出するためのオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
前記オリゴヌクレオチドが蛍光色素で標識され、かつ相補的な2本鎖を形成すると蛍光特性が変化するように構成されたオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項1に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
前記オリゴヌクレオチドがインターカレーター性蛍光色素で標識されてなることを特徴とする請求項2に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列またはその相補配列を検出する方法であって請求項1から3のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチドを使用することを特徴とするマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出方法。
【請求項5】
一組のプライマーセットを用いて、特定塩基配列又はその相補配列を増幅する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載のマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出方法。
【請求項6】
前記一組のプライマーセットが、配列番号9に記載の配列にハイブリダイズする第一のプライマー、あるいは/および配列番号24に記載の配列にハイブリダイズする第二のプライマー、からなることを特徴とする請求項4または5に記載のマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出方法。
【請求項7】
前記第一のプライマーが、配列番号9に記載の配列又は相補配列中、連続する16~26塩基からなり、かつ第二プライマーが配列番号24に記載の配列又は相補配列中、連続する19~26塩基からなることを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載のマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出方法。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド、及び請求項6又は7に記載のプライマーを含んでなる、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス検出用試薬キット。
【請求項9】
配列番号12に記載の配列である第一のプライマーと配列番号25に記載の第二のプライマーを含んでなる、請求項8に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれるマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌を迅速、高感度かつ特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドおよび該オリゴヌクレオチドを用いたマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非結核性抗酸菌の一種であるマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス(Mycobacteroides abscessus complex)はアブセッサス症の原因菌であり、人に病原性を示す。マイコバクテリウム・アブセッサスコンプレックスは他の非結核性抗酸菌と同様に環境常在菌であり、環境水、特に水道水が感染源と考えられているおり、アブセッサス症患者数は日本における非結核性抗酸菌症患者の中ではMAC症、カンサシー症に次いで多く、特にアブセッサス症は近年増加傾向にあるといわれている。アブセッサス症における感染部位は主に肺で、肺疾患を引き起し、また、稀にリンパ節、皮膚、泌尿器などへ感染して各種病変を引き起こす。また、肺アブセッサス症の臨床症状は結核とほぼ同様であることが知られている一方で、結核とは異なりヒトからヒトへの感染はしないと考えられている。したがって、結核の否定や治療方針の決定には臨床症状による診断のみではなく原因菌を同定することが非常に重要とされている。このことから、治療方針の早期策定のためにマイコバクテリウム・アブセッサスコンプレックスを簡便、迅速かつ正確に同定することは大変重要とされている。
【0003】
一般にマイコバクテリウム・アブセッサスコンプレックスの同定検査はDNA-DNAハイブリダイゼーション(特許文献1)、質量分析を用いた方法などにより同定されている。DNA-DNAハイブリダイゼーションや質量分析は、多数の菌種を一度に同定することが可能であることから有用ではあるが、検体を用いた菌の培養操作が必要となるため迅速性に乏しく、早期に診断することができない問題がある。このため、培養操作を介さず迅速に検査を行うための、高感度かつ簡便な検査が望まれている。
【0004】
本発明で使用されたTRC法(特許文献2、特許文献3)では精製から検出まで一体となった装置が市販されており、1時間程度で結果を得ることができるため、十分な迅速性を備えている。また、感度、特異度ともに他の核酸増幅による検出法と遜色はない。
【0005】
マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックスの属する非結核性抗酸菌は現在190種以上報告されており非常に多様性に富む一方で、その遺伝子配列は似通っているものも多い。したがって、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックスのみを鑑別することが可能なマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス遺伝子を、高感度かつ特異的に検出するプライマーセットやオリゴヌクレオチドプローブを設計することは極めて困難であった。特に比較的低温の一定温度(例えば、40℃から50℃)条件下でRNAの増幅が可能な増幅方法を利用する場合、増幅対象核酸が高次構造を形成しやすくなるため、当該プライマーセットやオリゴヌクレオチドプローブの設計はさらに困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-61155号公開
【特許文献2】特開2000-14400号公報
【特許文献3】特開2001-37500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、試料中に存在するマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌に由来する核酸を高感度、迅速に増幅し、かつ偽陽性が発生しにくい特異的なオリゴヌクレオチド、および該オリゴヌクレオチドを用いたマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列またはその相補配列を検出するためのオリゴヌクレオチドであって、配列番号3に記載の塩基配列もしくは該配列の相補配列の少なくとも連続する14塩基からなることを特徴とするマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌を検出するためのオリゴヌクレオチド。
(2)前記オリゴヌクレオチドが蛍光色素で標識され、かつ相補的な2本鎖を形成すると蛍光特性が変化するように構成されたオリゴヌクレオチドであることを特徴とする(1)に記載のオリゴヌクレオチド。
(3)前記オリゴヌクレオチドがインターカレーター性蛍光色素で標識されてなることを特徴とする(2)に記載のオリゴヌクレオチド。
(4)マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列またはその相補配列を検出する方法であって(1)から(3)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドを使用することを特徴とするマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出方法。
(5)一組のプライマーセットを用いて、特定塩基配列又はその相補配列を増幅する工程を含むことを特徴とする(4)に記載のマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出方法。
(6)前記一組のプライマーセットが、配列番号9に記載の配列にハイブリダイズする第一のプライマー、あるいは/および配列番号24に記載の配列にハイブリダイズする第二のプライマー、からなることを特徴とする(4)または(5)に記載のマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出方法。
(7)前記第一のプライマーが、配列番号9に記載の配列又は相補配列中、連続する19~26塩基からなり、かつ第二プライマーが配列番号24に記載の配列又は相補配列中、連続する16~26塩基からなることを特徴とする(4)から(6)のいずれかに記載のマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出方法。
(8)(1)から(3)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチド、及び(6)又は(7)に記載のプライマーを含んでなる、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス検出用試薬キット。
(9)配列番号12に記載の配列である第一のプライマーと配列番号25に記載の第二のプライマーを含んでなる、(8)に記載のキット。
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明中において試料とは、喀痰、胃液、胸水、腹水、尿などの体液や気管支洗浄液、組織、培養液などがあげられる。
【0012】
本発明において、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列とは、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の23S rRNAもしくは23S rDNAに配列のうち、配列番号1(GenBank No.CU458896.1の1465775番目から1466012番目までの塩基配列)に記載の塩基配列を含む連続した250塩基以下の塩基配列のことをいう。
【0013】
すなわち本発明では、前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸が検出されることになる。
【0014】
本発明のオリゴヌクレオチドを用いたマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAの特定塩基配列またはその相補配列を含む核酸の検出は、従来から知られた核酸検出方法を利用することができる。具体的には、
(A)電気泳動や液体クロマトグラフィーを用いた方法、
(B)検出可能な標識で標識されたオリゴヌクレオチドプローブによるハイブリダイゼーション法、
(C)当該特定塩基配列またはその相補配列を含む核酸を、一組のプライマーセットを用いて増幅した増幅産物の塩基配列の一部とハイブリダイズすることで蛍光特性が変化するように設計された蛍光色素標識オリゴヌクレオチドを用いた方法、
などがあげられる。前記(C)の蛍光色素標識オリゴヌクレオチドの一例として、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用した蛍光標識オリゴヌクレオチドや、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0015】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの一例として、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAの特定塩基配列または当該特定塩基配列の相補配列を含む核酸の一部と相補的なオリゴヌクレオチドの3’末端側、5’末端側、リン酸ジエステル部または塩基部分に、適当なリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドがある。前記オリゴヌクレオチドはマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAの特定塩基配列(または当該特定塩基配列の相補配列)と相補的2本鎖を形成すると、インターカレーター性蛍光色素部分が前記相補的2本鎖部分にインターカレートすることで蛍光特性が変化するプローブである。標識するインターカレーター性蛍光色素に特に限定はなく、オキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド、ヘミシアニン等の汎用されている蛍光色素、およびこれらの誘導体の中から、蛍光強度や蛍光特性を考慮して、適宜選定すればよい。なお3’末端側に蛍光色素を標識する場合を除き、オリゴヌクレオチドの3’末端側は当該末端側からの核酸伸長反応を防止する意味で、グリコール酸などの適当な修飾がされているとよい。
【0016】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドを構成するオリゴヌクレオチドとして、特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸と相補的な配列をもち、配列番号3(GenBank No.CU458896.1の1465926番目から1465942番目までの塩基配列)に記載の塩基配列中、少なくとも14塩基からなる連続する塩基配列又はその相補配列を含むオリゴヌクレオチドをあげることができる。中でもより好ましくは、配列番号5に記載の塩基配列またはその相補配列と相補的な配列をもつオリゴヌクレオチド、配列番号7に記載の塩基配列またはその相補配列と相補的な配列でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0017】
本発明における条件の例として、42℃において、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%のポリビニルピロリドン、50mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムが存在する条件や、本明細書の実施例に記載の核酸増幅条件があげられる。また、前述した条件下で、前記特定塩基配列と、十分に特異的かつ高効率にハイブリダイゼーション可能であれば、第一及び第二のプライマーの塩基配列は、前記特定塩基配列と比較して置換、欠失、付加、修飾があってもよい。第一及び第二のプライマーの長さは任意に設定できるが、好ましくは10塩基から50塩基までの範囲である。なお、もっとも好ましい態様では、特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドとは、対象塩基配列に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドである。
【0018】
本発明は、試料中に含まれるマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAの特定塩基配列の3’末端部と相補的な配列を有する第一のプライマーとして、配列番号10に記載の塩基配列(GenBank No.CU458896.1の1465969番目から1466010番目までの塩基配列)またはその相補配列と特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを、また試料中に含まれるマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAの特定塩基配列の5’末端部と相同的な配列を有する第二のプライマーとして、配列番号23に記載の塩基配列(GenBank No.CU458896.1の1465775番目から1465918番目までの塩基配列)またはその相補配列と特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いることを特徴としている。
【0019】
その中でも第一のプライマー及び第二のプライマーが16~26塩基からなることが好ましい。
【0020】
第一のプライマーの一例として、配列番号10に記載の塩基配列またはその相補配列中、連続する19~26塩基であるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0021】
第ニのプライマーの一例として、配列番号23に記載の塩基配列またはその相補配列中、連続する16~26塩基からなるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0022】
中でもマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAを迅速かつ特異的に検出可能であるという点で、第一のプライマーが配列番号11、12、13、14、15、16、17,18,19、20、21、22のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが、配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーセットが好ましい。その中でも第一のプライマーと第二のプライマーの組み合わせが、配列番号14と65、14と71、16と65、16と67、16と71、22と65、22と67、22と71、20と65、20と67、20と69、20と73、18と63、18と65、18と69、12と25、12と27、12と29、12と31、12と33、12と35、12と37、12と39、12と41、12と43、12と45、12と47、12と49、12と51、12と53、12と55、12と57、12と59、12と61のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーセットが更に好ましい。
【0023】
本発明のプライマーセットは、RT-PCR法等、当業者が通常用いる核酸増幅法を利用した、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAの特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅するためのプライマーセットとして有用である。なお、第一または第二のプライマーのいずれか一方の5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターをさらに付加させると、前記プロモーターに対応したRNAポリメラーゼを用いて、RNAポリメラーゼのプロモーターを付加した特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸が合成されるため、これら核酸からNASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)法、TMA(Transcription-Mediated Amplification)法、TRC(Transcription-Reverse transcription Concerted reaction)法といった一定温度でRNAを増幅する方法を用いて、RNAを増幅させることができる点で好ましい。プライマーの5’末端側に付加するプロモーターは、RNA増幅に用いるRNAポリメラーゼ(例えば、分子生物学の分野で汎用される、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼやSP6 RNAポリメラーゼ)に対応したプロモーターを用いればよい。また前記プロモーターに、転写効率に影響を及ぼすことが知られている転写開始領域をさらに付加してもよい。RNA増幅に用いるRNAポリメラーゼとしてT7 RNAポリメラーゼを用いたときの、プライマーの5’末端側に付加するプロモーター(T7プロモーター)の具体例として、配列番号73に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0024】
本発明のオリゴヌクレオチドを用いてマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAを検出するには、例えば以下の(1)から(6)に示す工程により実施すればよい。
(1)配列番号10記載の塩基配列またはその相補配列とで特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである第一のプライマーがマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAにハイブリダイズし、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成し、前記RNAとのRNA-DNA2本鎖を生成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素により、前記RNA-DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)該1本鎖DNAに、配列番号23記載の塩基配列またはその相補配列と特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである第二のプライマーがハイブリダイズし(ここで前記第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターが付加される)、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、特定塩基配列または特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーターを含む2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生産する工程、
(5)該RNA転写産物が、前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
(6)配列番号3またはその相補配列を含むオリゴヌクレオチドであって、特定塩基配列または特定塩基配列に相補的な配列に対し、ハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドにインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドを用いて、前記RNA転写産物量を経時的に測定する工程。
【0025】
前記(1)の工程で用いるRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、前記(2)の工程で用いるRNase H活性を有する酵素、および前記(3)の工程で用いるDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素は、それぞれ別個あるいは種々の組合せで添加することもできるが、前記活性を併せ持つレトロウイルス由来の逆転写酵素を使用することもできる。該逆転写酵素は特に限定されないが、分子生物学の分野で汎用される、AMV(Avian Myeloblastosis Virus)逆転写酵素、MMLV(Molony Murine Leukemia Virus)逆転写酵素、RAV(Rous Associated Virus)逆転写酵素、HIV(Human Immunodeficiency Virus)逆転写酵素などが使用できる。
【0026】
前述した態様によるマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNA検出方法における反応温度は、使用する各酵素の耐熱性や活性、ならびにプライマー/プローブのTm等に依存するが、使用する酵素がAMV逆転写酵素およびT7 RNAポリメラーゼであり、プライマー/プローブの長さが14から26塩基の範囲である場合は、35から65℃の範囲で反応温度を設定すればよく、40から50℃の範囲で設定するとより好ましい。
【0027】
前述した態様によるマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNA検出方法は、蛍光強度を経時的に測定することから有意な蛍光増加が認められた任意の時間で測定を終了することが可能であり、核酸増幅および測定をあわせて通例20分以内で終了することが可能である。
【0028】
前述した態様によるマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNA検出方法は、前述した第一のプライマー、第二のプライマー、およびインターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドを含むマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNA試薬に試料を添加し、経時的に蛍光検出可能な温調ブロックに載置することで、自動的にマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAを増幅し検出することができる。本発明のマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAを検出するためのオリゴヌクレオチドは、配列番号3~8記載の塩基配列からなるものが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明のオリゴヌクレオチドは、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAに特異的な配列(特定塩基配列)およびその相補配列の一部にハイブリダイズすることより、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌23S rRNAの特定塩基配列またはその相補配列を特異的に検出させることができる。
【0030】
本発明のオリゴヌクレオチド及び該オリゴヌクレオチドを用いたマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出方法は、試料中に含まれるマイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌を迅速、高感度に検出でき、かつ偽陽性の発生も極めて少なく特異性が高い。そのため、検査結果を早急に医師に提示することが可能となり、感染拡大防止や、適切な薬剤の投与による耐性菌の発生防止に寄与するものと考えられる。
【実施例0031】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0032】
実施例1 標準RNA調製 もしくは菌培養液の希釈物
後述の実施例で使用する、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の亜種のひとつであるマイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・アブセッサス(Mycobacteroides abscessus subsp. abscessus)標準RNA、およびマイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・マシリエンセ(Mycobacteroides abscessus subsp. massiliense)を以下に示す方法で調製した。なお調製した標準RNAの定量は、260nmにおける吸光度を基に実施した。
(1)マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の一種であるマイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・アブセッサス標準RNA
23S rRNA配列に基づき人工的に23S rRNA遺伝子を作製し、インビトロ転写した後、転写産物を精製することで、マイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・マシリエンセ標準RNAを調製した。
(2)マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の一種であるマイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・マシリエンセ標準RNA
23S rRNA配列に基づき人工的に23S rRNA遺伝子を作製し、インビトロ転写した後、転写産物を精製することで、マイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・マシリエンセ標準RNAを調製した。
【0033】
実施例2 インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの調製
下記(A)に示す、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチド(以下、INAFプローブと記載する)を特開2000-316587号公報で開示の方法に基づき作製した。
(A)配列番号3に記載の塩基配列またはその相補配列、配列番号5に記載の塩基配列またはその相補配列、配列番号7に記載の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号3おいては5’末端から5番目のチミンと6番目のアデニンとの間に、配列番号5及び7においては、5’末端から3番目のチミンと4番目のアデニンとの間に、リンカーを介してチアゾールオレンジを標識したもの。
【0034】
実施例3 マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス23S rRNA検出用オリゴヌクレオチドの検討
表1に示す、第一のプライマー、第二のプライマーおよびINAFプローブの組み合わせ(以下、オリゴヌクレオチドの組み合わせと記載する)を用いて、以下に示す方法で評価した。なお表1に記載のINAFプローブは実施例2で作製したプローブである。
(1)実施例1で調製した標準RNAのうち、マイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・アブセッサス標準RNAおよびマイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・マシリエンセ標準RNA(実施例1(1)、実施例1(2))は、RNA希釈液(10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA、0.02% コール酸ナトリウム)を用いて1000コピー/15μLになるように希釈し、これらをRNA試料として用いた。
(2)以下の組成からなる反応液を蒸発乾燥用チューブに分注し、蒸発乾燥した。
【0035】
反応液の組成:濃度はRNA試料、開始液、添加後(30μL中)の最終濃度
60mM Tris-HCl緩衝液(pH8.35)
300mM トレハロース
各0.39mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各2.1mM ATP、CTP、UTP
1.5mM GTP
3.2mM ITP
0.2μM 第一のプライマー(各配列番号の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの5’末端側にT7プロモータ(配列番号53)を付加したもの)
0.2μM 第二のプライマー
75nM INAFプローブ(実施例2で調製したもの)
0.038mg/mL 牛血清アルブミン
142U T7 RNAポリメラーゼ
6.4U AMV逆転写酵素
(3)上記の蒸発乾燥後にRNA試料を15μL添加後、46℃で5分間保温し、その後、以下の組成からなる開始液15μLを添加し撹拌した。
【0036】
酵素液の組成:反応時(30μL中)の最終濃度
11.50% ジメチルスルホキシド
20.5mM 塩化マグネシウム
104mM 塩化カリウム
(4)引き続き蒸発乾燥用チューブを直接測定可能な温調機能付き蛍光分光光度計を用い、46℃で反応させると同時に反応溶液の蛍光強度を経時的に20分間測定した。
【0037】
開始液を加え撹拌を終えた時点を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時間の蛍光強度値をバックグラウンドの蛍光強度比で割った値)が1.60を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした。結果を表1、2及び3に示す。実験は、各々の組合せごとに2回数測定し、その平均値を使用した。「N.D.」は反応開始後20分後の蛍光強度比が1.60以下(陰性判定)であったことを意味する。
【0038】
マイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・アブセッサス23S rRNAの検出性能(表1)については、本実施例で検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせA01からA19、A38、A39のうち、いずれもが1000コピー/testのマイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・アブセッサス23S rRNAを20分以内に検出した。特に、オリゴヌクレオチドの組み合わせA38、A39は1000コピー/testのマイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・アブセッサス23S rRNAを平均で5分以内に検出しており、マイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・アブセッサス23S rRNAを迅速に検出可能なオリゴヌクレオチドの組み合わせといえる。
【0039】
マイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・マシリエンセ23S rRNAの検出性能(表1)については、本実施例で検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせA20からA39のうち、いずれもが1000コピー/testのマイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・マシリエンセ23S rRNAを平均で5分以内に検出しており、マイコバクテリウム・アブセッサス サブスピーシーズ・マシリエンセ23S rRNAを迅速に検出可能なオリゴヌクレオチドの組み合わせといえる。
【0040】
【表1】
【0041】
マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックスには、マイコバクテリウム・アブセッサス・サブスピーシーズ・アブセッサス、マイコバクテリウム・アブセッサス・サブスピーシーズ・ボレッティ、マイコバクテリウム・アブセッサス・サブスピーシーズ・マシリエンセの三種類の亜種が存在する。
【0042】
本実施例で検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせのうち、検出時間が5分以内であった組合せのうちからA39を用いて、 マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の亜種全種類の検出(表2)及び交差反応性(表3)を実施した。
【0043】
マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の検出については、2CFU/testのマイコバクテリウム・アブセッサス・サブスピーシーズ・アブセッサス、マイコバクテリウム・アブセッサス・サブスピーシーズ・ボレッティ、あるいはマイコバクテリウム・アブセッサス・サブスピーシーズ・マシリエンセを検出した。交差反応性については、2×10CFU/testの非結核性抗酸菌20菌種を検出せず、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌に対して高い特異性を有しており、本実施例で検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせは、マイコバクテリウム・アブセッサス コンプレックス菌の23S rRNAを特異的に検出可能なオリゴヌクレオチドの組み合わせといえる。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【配列表】
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