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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185238
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】バンドパスフィルター、センサー
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20221207BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092770
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】小玉 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】矢内 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】谷 武晴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 峻也
【テーマコード(参考)】
2H148
2H149
【Fターム(参考)】
2H148AA06
2H148AA12
2H148AA18
2H148AA22
2H148AA24
2H149AA22
2H149BA05
2H149BA22
2H149EA10
2H149FA27W
2H149FD04
2H149FD28
2H149FD47
(57)【要約】
【課題】透過帯域における光の透過度が高く、かつ、透過帯域のうち高い透過度を示す波長範囲が広いバンドパスフィルター、および、センサーを提供する。
【解決手段】反射部材Aと、反射部材Bと、を有するバンドパスフィルターであって、反射部材Aの反射中心波長と反射部材Bの反射中心波長との差分が、反射部材Aによる反射帯域の半値半幅および反射部材Bによる反射帯域の半値半幅の合計よりも大きく、反射部材Aが、第1コレステリック液晶層と第2コレステリック液晶層とを有し、第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1が、第2コレステリック液晶層の複屈折Δn2よりも大きく、かつ、反射部材Bが、第3コレステリック液晶層と第4コレステリック液晶層とを有し、第3コレステリック液晶層の複屈折Δn3が、第4コレステリック液晶層の複屈折Δn4よりも大きい、バンドパスフィルター。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射部材Aと、反射部材Bと、を有するバンドパスフィルターであって、
前記反射部材Aの反射中心波長と前記反射部材Bの反射中心波長との差分が、前記反射部材Aによる反射帯域の半値半幅および前記反射部材Bによる反射帯域の半値半幅の合計よりも大きく、
前記反射部材Aが、第1コレステリック液晶層と第2コレステリック液晶層とを有し、前記第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1が、前記第2コレステリック液晶層の複屈折Δn2よりも大きく、かつ、
前記反射部材Bが、第3コレステリック液晶層と第4コレステリック液晶層とを有し、前記第3コレステリック液晶層の複屈折Δn3が、前記第4コレステリック液晶層の複屈折Δn4よりも大きい、バンドパスフィルター。
【請求項2】
前記複屈折Δn1に対する前記複屈折Δn2の比率が0.3超0.7未満であり、かつ、
前記複屈折Δn3に対する前記複屈折Δn4の比率が0.3超0.7未満である、
請求項1に記載のバンドパスフィルター。
【請求項3】
前記第1コレステリック液晶層の厚みd1に対する前記第2コレステリック液晶層の厚みd2の比率が0.1~1.0であり、かつ、
前記第3コレステリック液晶層の厚みd3に対する前記第4コレステリック液晶層の厚みd4の比率が0.1~1.0である、
請求項1または2に記載のバンドパスフィルター。
【請求項4】
前記反射部材Aの反射中心波長、および、前記反射部材Bの反射中心波長がいずれも600nm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のバンドパスフィルター。
【請求項5】
前記反射部材Aの反射帯域と前記反射部材Bの反射帯域との間に存在する前記バンドパスフィルターの透過帯域の半値全幅が、前記透過帯域の透過中心波長の1.5~15.0%の範囲に含まれる、請求項1~4のいずれか1項に記載のバンドパスフィルター。
【請求項6】
前記第1コレステリック液晶層の熱膨張係数が50ppm/℃以上であり、かつ、
前記第3コレステリック液晶層の熱膨張係数が50ppm/℃以上である、
請求項1~5のいずれか1項に記載のバンドパスフィルター。
【請求項7】
前記反射部材Aの反射中心波長λおよび前記反射部材Bの反射中心波長λが、面内の少なくとも1方向において、中心部から離間するに従って増加する、請求項1~6のいずれか1項に記載のバンドパスフィルター。
【請求項8】
光源と、
前記光源の発光ピーク波長の光を透過する請求項1~7のいずれか1項に記載のバンドパスフィルターと、
前記バンドパスフィルターが透過した光を受光する受光素子と、を有するセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンドパスフィルターおよびセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
バンドパスフィルターは、所定の波長領域の光を透過させることができ、各種光学センサーに適用されている。このようなバンドパスフィルターを用いることにより、例えば、光学センサーに含まれる光源から出射された光のうち、被対象物にて反射された光のみを選択的に透過させ、各種素子にて受光させることができる。
バンドパスフィルターを適用した光学センサーとしては、例えば、モーションキャプチャー、自動車の自動運転、および、ロボットの自動制御等に、対象物との距離を測定するための測距センサー(デプスセンサー)が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、コレステリック液晶相の選択反射特性を利用した反射膜を用いるバンドパスフィルターが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-344634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、光学センサーによる測定精度の向上がより一層求められている。より具体的には、光学センサーに用いるバンドパスフィルターの透過性能を向上することにより、光学センサーの受光量を増加し、SN比(signal-noise ratio)を向上することが求められている。
【0006】
そこで、本発明者らは、特許文献1に記載された態様を参考にして、選択反射波長の範囲が異なるコレステリック液晶相からなるコレステリック液晶層を複数備えるバンドパスフィルターの透過性能について検討を行ったところ、バンドパスフィルターの透過帯域における光の透過度が必ずしも高くなく、また、透過帯域のうち高い透過度を示す波長範囲が必ずしも広くないことから、バンドパスフィルターの透過性能の更なる改良が必要であることを知見している。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、透過帯域の透過率が高く、かつ、透過帯域のうち透過率が高い領域の比率が大きいバンドパスフィルター、および、センサーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
〔1〕 反射部材Aと、反射部材Bと、を有するバンドパスフィルターであって、上記反射部材Aの反射中心波長と上記反射部材Bの反射中心波長との差分が、上記反射部材Aによる反射帯域の半値半幅および上記反射部材Bによる反射帯域の半値半幅の合計よりも大きく、上記反射部材Aが、第1コレステリック液晶層と第2コレステリック液晶層とを有し、上記第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1が、上記第2コレステリック液晶層の複屈折Δn2よりも大きく、かつ、上記反射部材Bが、第3コレステリック液晶層と第4コレステリック液晶層とを有し、上記第3コレステリック液晶層の複屈折Δn3が、上記第4コレステリック液晶層の複屈折Δn4よりも大きい、バンドパスフィルター。
〔2〕 上記複屈折Δn1に対する上記複屈折Δn2の比率が0.3超0.7未満であり、かつ、上記複屈折Δn3に対する上記複屈折Δn4の比率が0.3超0.7未満である、〔1〕に記載のバンドパスフィルター。
〔3〕 上記第1コレステリック液晶層の厚みd1に対する上記第2コレステリック液晶層の厚みd2の比率が0.1~1.0であり、かつ、上記第3コレステリック液晶層の厚みd3に対する上記第4コレステリック液晶層の厚みd4の比率が0.1~1.0である、〔1〕または〔2〕に記載のバンドパスフィルター。
〔4〕 上記反射部材Aの反射中心波長、および、上記反射部材Bの反射中心波長がいずれも600nm以上である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のバンドパスフィルター。
〔5〕 上記反射部材Aの反射帯域と上記反射部材Bの反射帯域との間に存在する上記バンドパスフィルターの透過帯域の半値全幅が、上記透過帯域の透過中心波長の1.5~15.0%の範囲に含まれる、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のバンドパスフィルター。
〔6〕 上記第1コレステリック液晶層の熱膨張係数が50ppm/℃以上であり、かつ、上記第3コレステリック液晶層の熱膨張係数が50ppm/℃以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のバンドパスフィルター。
〔7〕 上記反射部材Aの反射中心波長λおよび上記反射部材Bの反射中心波長λが、面内の少なくとも1方向において、中心部から離間するに従って増加する、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のバンドパスフィルター。
〔8〕 光源と、上記光源の発光ピーク波長の光を透過する〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のバンドパスフィルターと、上記バンドパスフィルターが透過した光を受光する受光素子と、を有するセンサー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透過帯域の透過率が高く、かつ、透過帯域のうち透過率が高い領域の比率が大きいバンドパスフィルター、および、センサーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るバンドパスフィルターの構成の一例を示す概念図である。
図2】本発明に係るバンドパスフィルターの光学特性の一例を概念的に示すグラフである。
図3】本発明に係るバンドパスフィルターの使用態様の一例を示す概念図である。
図4】本発明に係るバンドパスフィルターの構成の他の例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のバンドパスフィルターについて、添付の図面に示される好適例を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよびメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味で使用される。
【0014】
本明細書において、可視光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の光であり、380~780nmの波長領域の光である。紫外光は10nm以上380nm未満の波長領域の光であり、赤外光は780nmを超える波長領域の光である。
【0015】
[バンドパスフィルター]
本発明に係るバンドパスフィルター(以下、単に「バンドパスフィルター」ともいう。)は、反射部材Aと、反射部材Bと、を有する。
反射部材Aおよび反射部材Bは、反射部材Aの反射中心波長と反射部材Bの反射中心波長との差分が、反射部材Aによる反射帯域の半値半幅および反射部材Bによる反射帯域の半値半幅の合計よりも大きい。
更に、反射部材Aは、第1コレステリック液晶層と第2コレステリック液晶層とを有し、第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1が第2コレステリック液晶層の複屈折Δn2よりも大きく、かつ、反射部材Bは、第3コレステリック液晶層と第4コレステリック液晶層とを有し、第3コレステリック液晶層の複屈折Δn3が第4コレステリック液晶層の複屈折Δn4よりも大きい。
以下、図面を参照しながら、本発明に係るバンドパスフィルターについて説明する。
【0016】
図1は、本発明に係るバンドパスフィルターの構成の一例を示す概念図である。図1では、バンドパスフィルターの厚み方向(積層方向)の断面における各層の構成を示している。
図1において、バンドパスフィルター10は、反射部材A20と、反射部材B22とを有する。
反射部材A20は、第1コレステリック液晶層31と、第1コレステリック液晶層31の両面(2つの主面)に配置された第2コレステリック液晶層32とからなる1組の積層体で構成されている。
反射部材B22は、第3コレステリック液晶層33と、第3コレステリック液晶層33の両面(2つの主面)に配置された第4コレステリック液晶層34とからなる1組の積層体で構成されている。
【0017】
本発明に係るバンドパスフィルターの構成は、図1に示す態様に制限されない。
例えば、本発明に係るバンドパスフィルターは、反射部材Aとして、第1コレステリック液晶層および第2コレステリック液晶層を有し、右円偏光の選択反射特性を有する少なくとも1組の積層体Aと、第1コレステリック液晶層および第2コレステリック液晶層を有し、左円偏光の選択反射特性を有する少なくとも1組の積層体Aとを有していてもよい。
また、本発明に係るバンドパスフィルターは、反射部材Bとして、第3コレステリック液晶層および第4コレステリック液晶層を有し、右円偏光の選択反射特性を有する少なくとも1組の積層体Bと、第3コレステリック液晶層および第4コレステリック液晶層を有し、左円偏光の選択反射特性を有する少なくとも1組の積層体Bとを有していてもよい。
各コレステリック液晶層および各積層体における、右円偏光または左円偏光の選択反射特性については、後述する。
【0018】
図2は、本発明に係るバンドパスフィルターの光学特性の一例を概念的に示すグラフである。
図2において、横軸は波長を示し、縦軸は透過率を示す。図2は、反射部材Aとして、上記積層体Aおよび積層体Aを有し、かつ、反射部材Bとして、上記積層体Bおよび積層体Bを有するバンドパスフィルターの透過スペクトルを示している。
このような構成を有するバンドパスフィルターの透過スペクトルには、図2に示すように、反射部材Aに由来し、反射中心波長λに近い波長の光を反射する反射帯域200と、反射部材Bに由来し、反射中心波長λに近い波長の光を反射する反射帯域300と、反射帯域200および反射帯域300に挟まれる透過帯域100とが存在する。
【0019】
また、図2に、反射部材Aに由来する反射帯域200の反射中心波長λ、半値全幅F、および、半値半幅H、並びに、反射部材Bに由来する反射帯域300の反射中心波長λ、半値全幅F、および、半値半幅Hを示す。
本明細書において、半値全幅(単に「半値幅」とも言う。)とは、対象となる物(部材)の透過スペクトルにおいて、透過率50%を示す2つの波長の差分(単位:nm)を意味し、半値半幅とは、半値全幅を2等分した値(単位:nm)を意味する。また、本明細書において、反射中心波長とは、対象となる物(部材)の透過スペクトルにおいて、透過率50%を示す2つの波長の算術平均値(単位:nm)を意味する。
【0020】
本発明に係るバンドパスフィルターは、図2に示すように、反射部材Aの反射中心波長λと反射部材Bの反射中心波長λとの差分(|λ-λ|)が、反射部材Aによる反射帯域200の半値半幅Hおよび反射部材Bによる反射帯域300の半値半幅Hの合計よりも大きいことを特徴とする。即ち、本発明に係るバンドパスフィルターは、下記の式(1)を満たす。
|λ-λ| > H+H (1)
上記式(1)を満たすことにより、反射帯域200および反射帯域300に含まれる波長の光を反射し、反射帯域200および反射帯域300に挟まれる透過帯域100に含まれる波長の光を透過させるという、バンドパスフィルターとしての機能を発揮させることができる。
【0021】
なお、バンドパスフィルターの各反射部材が右円偏光用または左円偏光用の積層体のみで構成される場合等のように、対象物(部材)における透過率の極小値Tmin(%)が0%超である場合、反射帯域の半値全幅は、下記の式で表される半値透過率:T1/2(%)を示す2つの波長の差分(単位:nm)として求めることができ、得られた半値全幅から、半値半幅および反射中心波長を求めることができる。
半値透過率を求める式: T1/2=100-(100-Tmin)/2
【0022】
更に、本発明に係るバンドパスフィルターは、反射部材Aが、第1コレステリック液晶層と第2コレステリック液晶層とを有し、第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1が第2コレステリック液晶層の複屈折Δn2よりも大きく、かつ、反射部材Bが、第3コレステリック液晶層と第4コレステリック液晶層とを有し、第3コレステリック液晶層の複屈折Δn3が第4コレステリック液晶層の複屈折Δn4よりも大きいとの要件を満たす。本発明に係るバンドパスフィルターは、反射部材AおよびBのそれぞれが複屈折Δnの異なる複数のコレステリック液晶層を有することにより、透過帯域の透過率が高く、かつ、透過帯域のうち透過率が高い領域の比率が大きいという効果を奏することができる。
以下、バンドパスフィルターにおいて、透過帯域の全波長範囲に対して透過率が高い波長範囲の比率が大きいことを「高透過帯域比が大きい」ともいい、透過帯域の透過率が高いこと、および/または、透過帯域の高透過帯域比が大きいことを「本発明の効果が優れる」ともいう。
【0023】
上記要件を満たすことにより本発明の効果が得られる詳細な理由としては、以下の理由が考えられる。コレステリック液晶層からなる反射層を複数積層して、それぞれの反射層(コレステリック液晶相)に由来する複数の反射帯域を形成することにより、各反射帯域に含まれる波長の光を反射し、それら複数の反射帯域に挟まれた透過帯域に含まれる波長の光を透過させるバンドパスフィルターが得られる。このバンドパスフィルターの各反射帯域において、所望の反射帯域の外側近傍にも光を反射する領域(サイドローブ)が生じることがある。反射帯域にサイドローブが生じると、反射帯域に挟まれる透過帯域における光の透過率が低下し、バンドパスフィルターの透過特性が低下してしまうと考えられる。
それに対して本発明に係るバンドパスフィルターでは、上記反射部材AおよびBのそれぞれが、複屈折Δnが異なる複数のコレステリック液晶層を有することにより、それぞれのコレステリック液晶層で発生するサイドローブが互いに干渉し合って両者が弱め合い、各反射帯域のサイドローブが低減される。その結果、バンドパスフィルターの透過特性が改善されたと推測される。
【0024】
バンドパスフィルターは、それぞれが複屈折Δnの異なる複数のコレステリック液晶層を有する反射部材Aおよび反射部材Bを備えるものであれば、特に制限されない。
以下の説明において、特に言及する場合を除いて、反射部材Aと反射部材Bとを区別する必要が無い場合は、反射部材Aおよび反射部材Bを総称して「反射部材」とも表記する。同様に、特に言及する場合を除いて、各コレステリック液晶層を区別する必要が無い場合は、総称して「コレステリック液晶層」とも表記する。
【0025】
反射部材の反射中心波長は、バンドパスフィルターの目的に応じて、適宜調整可能であり、可視光領域、紫外光領域、および、赤外光領域のいずれの領域に位置してもよい。反射部材の反射中心波長が可視光領域に位置する場合、青色光領域、緑色光領域、および、赤色光領域のいずれに位置してもよい。
バンドパスフィルターを測距センサーに用いる場合、反射部材の反射中心波長がいずれも赤外光領域に存在することが好ましい。より具体的には、反射部材Aの反射中心波長λ、および、反射部材Bの反射中心波長λがいずれも600nm以上であることが好ましく、700nm以上であることがより好ましい。この場合の上限値は特に制限されず、例えば3000nm以下であってよい。
反射部材の反射中心波長は、反射部材が有する各コレステリック液晶層の反射中心波長を後述する方法で調整することにより、制御できる。
【0026】
選択反射を示す反射帯域の半値全幅は、バンドパスフィルターが上記式(1)を満たす限り、特に制限されず、例えば、30~500nmであり、透過領域以外の光を遮光できる点で50~500nmが好ましく、100~500nmがより好ましい。
反射帯域の半値全幅は、反射部材が有する各コレステリック液晶層におけるコレステリック液晶相の選択反射帯域の半値全幅を後述する方法で調整することにより、制御できる。
反射部材の反射中心波長、半値全幅および半値半幅は、反射部材の反射スペクトルを紫外可視近赤外分析光度計を用いて測定し、得られた反射スペクトルから求めることができる。
【0027】
バンドパスフィルターは、図2に示すように、反射部材Aによる反射帯域200および反射部材Bによる反射帯域300に含まれる波長の光を反射し、反射帯域200および反射帯域300に挟まれる透過帯域100に含まれる波長の光を透過させる機能を有する。
バンドパスフィルターが有する透過帯域の透過中心波長λは、バンドパスフィルターの目的に応じて、適宜調整可能であり、可視光領域、紫外光領域、および、赤外光領域のいずれの領域に位置してもよい。透過帯域の透過中心波長λが可視光領域に位置する場合、青色光領域、緑色光領域、および、赤色光領域のいずれに位置してもよい。
バンドパスフィルターを測距センサーに用いる場合、透過帯域の透過中心波長λが赤外光領域に存在することが好ましい。より具体的には、透過帯域の透過中心波長λは、700~3000nmの範囲に含まれることが好ましく、800~2000nmの範囲に含まれることがより好ましい。
【0028】
バンドパスフィルターの透過帯域の半値全幅Fは、特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、20nm以上が好ましい。
また、バンドパスフィルターにおいて、透過帯域の半値全幅Fは、本発明の効果がより優れる点で、透過帯域の透過中心波長λの30.0%以下であることが好ましく、15.0%以下であることがより好ましく、10.0%以下であることが更に好ましい。下限値は特に制限されず、例えば5%以上であり、1.5%以上が好ましい。
【0029】
なお、本明細書において、バンドパスフィルターが有する透過帯域の透過中心波長λは、下記式(3)で表される。
λ = {(λ+H)+(λ-H)}/2 (3)
また、本明細書において、バンドパスフィルターが有する透過帯域の半値全幅Fは、下記式(4)で表される。
= {(λ-H)-(λ-H)} (4)
なお、上記式(3)および(4)においては、反射部材Aの反射中心波長λが、反射部材Bの反射中心波長λよりも短波長である場合を意図している。
透過帯域の透過中心波長λおよび半値全幅Fは、各反射部材の反射中心波長および半値半幅を上記の方法で調製することにより、制御できる。
【0030】
バンドパスフィルターは、反射部材AおよびBとして、右円偏光を反射する積層体Aおよび積層体Bからなる組み合わせのみを有していてもよく、左円偏光を反射する積層体Aおよび積層体Bからなる組み合わせのみを有していてもよく、右円偏光を反射する積層体Aおよび積層体Bからなる組み合わせと左円偏光を反射する積層体Aおよび積層体Bからなる組み合わせの両者を有していてもよい。
反射部材が有する右円偏光および左円偏光のいずれかの選択反射特性は、反射部材が有するコレステリック液晶相由来の螺旋構造に起因する。即ち、反射部材の選択反射特性は、反射部材が有するコレステリック液晶層に形成されるコレステリック液晶相の螺旋構造により制御できる。
反射部材の選択反射特性は、コレステリック液晶層に右円偏光および/または左円偏光を入射することにより確認できる。
【0031】
バンドパスフィルターにおける各反射部材の配置は特に制限されない。例えば、光の入射側から、反射部材Aおよび反射部材Bの順で配置されていてもよいし、反射部材Bおよび反射部材Aの順で配置されていてもよい。
また、反射部材として複数の積層体が存在する場合(例えば、右円偏光を反射する積層体と左円偏光を反射する積層体とを備える場合)、これら複数の積層体が隣同士で配置されていてもよく、別の層を介して配置されていてもよい。
バンドパスフィルターが反射部材Aとして積層体Aおよび積層体Aを有し、かつ、反射部材Bとして積層体Bおよび積層体Bを有する場合の層構成を、以下に例示する。
・積層体A/積層体B/積層体A/積層体B
・積層体A/積層体A/積層体B/積層体B
・積層体A/積層体A/積層体B/積層体B
・積層体B/積層体A/積層体A/積層体B
【0032】
バンドパスフィルターは、本発明の効果を阻害しない限り、反射部材Aおよび反射部材Bに加えて、反射部材Aの反射中心波長λおよび反射部材Bの反射中心波長λとは異なる反射中心波長を有する反射部材を備えていてもよい。
【0033】
〔反射部材〕
反射部材について、より詳しく説明する。
反射部材Aは、第1コレステリック液晶層と第2コレステリック液晶層とを有する積層体で構成された部材であって、第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1が第2コレステリック液晶層の複屈折Δn2よりも大きいことを特徴とする。
また、反射部材Bは、第3コレステリック液晶層と第4コレステリック液晶層とを有する積層体であって、第3コレステリック液晶層の複屈折Δn3が第4コレステリック液晶層の複屈折Δn4よりも大きいことを特徴とする。
【0034】
第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1と、第2コレステリック液晶層の複屈折Δn2とは、複屈折Δn1が複屈折Δn2よりも大きい値であれば、特に制限されない。
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、複屈折Δn1に対する複屈折Δn2の比率(Δn2/Δn1)は、0.95以下が好ましく、0.9未満がより好ましく、0.7未満が更に好ましい。上記比率の上限は、本発明の効果がより優れる点で、0.2以上が好ましく、0.3超がより好ましく、0.4超が更に好ましく、0.5超が特に好ましい。
第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1は、特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.08以上が好ましく、0.11以上がより好ましく、0.17以上がさらに好ましい。上限は特に制限されず、0.5以下であってよい。
【0035】
第3コレステリック液晶層の複屈折Δn3と、第4コレステリック液晶層の複屈折Δn4とは、複屈折Δn3が複屈折Δn4よりも大きい値であれば、特に制限されない。
第3コレステリック液晶層の複屈折Δn3および第4コレステリック液晶層の複屈折Δn4の好ましい範囲については、上記の第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1および第2コレステリック液晶層の複屈折Δn2の好ましい範囲とそれぞれ同じである。
【0036】
なお、本明細書において、物体の複屈折(上記Δn1~Δn4等)は、25℃における透過中心波長λでの測定値に該当する。
各コレステリック液晶層の複屈折は、後述する実施例に記載する方法で測定できる。
【0037】
第1コレステリック液晶層の反射中心波長λと、第2コレステリック液晶層の反射中心波長λとの差分は特に制限されないが、例えば、反射中心波長λに対して5.0%未満であり、本発明の効果がより優れる点で、反射中心波長λに対して2.0%未満が好ましく、反射中心波長λに対して1.0%未満がより好ましく、反射中心波長λに対して0.5%未満が更に好ましい。下限は特に制限されず、反射中心波長λと反射中心波長λとの差分が反射中心波長λに対して0.0%であってもよい。
第3コレステリック液晶層の反射中心波長λと、第4コレステリック液晶層の反射中心波長λとの差分の好ましい範囲も、上記の反射中心波長λと反射中心波長λとの差分の好ましい範囲と同じである。
各コレステリック液晶層の反射中心波長の制御については、後述する。
【0038】
第1コレステリック液晶層の厚みd1、第2コレステリック液晶層の厚みd2、第3コレステリック液晶層の厚みd3、および、第4コレステリック液晶層の厚みd4は、特に制限されない。
第1コレステリック液晶層の厚みd1および第3コレステリック液晶層の厚みd3は、例えば、透過中心波長λの0.5~4.0倍であり、透過中心波長λの1.0~3.0倍が好ましい。
第2コレステリック液晶層の厚みd2および第4コレステリック液晶層の厚みd4は、例えば、透過中心波長λの4.0~8.0倍であり、透過中心波長λの5.0~7.0倍が好ましい。
【0039】
第1コレステリック液晶層の厚みd1に対する第2コレステリック液晶層の厚みd2の比率(d2/d1)は、本発明の効果がより優れる点で、0.1~1.0が好ましく、0.2~0.8がより好ましく、0.3~0.6が更に好ましい。なかでも、第1コレステリック液晶層の両面に1つの第2コレステリック液晶層が配置されている場合、上記比率(d2/d1)は、0.3超0.5未満が特に好ましい。
第3コレステリック液晶層の厚みd3に対する第4コレステリック液晶層の厚みd4の比率(d4/d3)の好ましい範囲についても、上記比率(d2/d1)と同じである。
なお、各コレステリック液晶層の厚みは、干渉膜厚計(例えば商品名「BW-A501」、ニコン製)を用いて測定できる。
【0040】
反射部材の反射中心波長は、面内方向において一定であってよい。なお、ここで、反射部材の反射中心波長が一定とは、反射部材の面内のいずれの方向においても実質的に同一であることを意図する。実質的に同一とは、反射中心波長の最大値と最小値との差分が5nm以下であることを意図する。
【0041】
また、反射部材は、面内の少なくとも1方向において、面内の中心部から離間するに従って反射中心波長が増加(長波長側にシフト)していてもよい。
図3は、バンドパスフィルターの使用態様の一例を示す概念図である。図3に示す態様において、測定光LおよびLは、レンズ40を通過した後、バンドパスフィルター12に入射している。ここで、レンズ40およびバンドパスフィルター12の中心部に近い位置で入射する測定光Lは、バンドパスフィルター12の主面に対して略垂直に入射するのに対して、レンズ40およびバンドパスフィルター12の中心部から離間した周縁部の位置で入射する測定光Lは、バンドパスフィルター12の主面に対して斜めに入射する。
このとき、反射部材の反射中心波長が面内において一定であるバンドパスフィルターを使用すると、バンドパスフィルターの中心部から離間した周縁部等の位置においては、バンドパスフィルターの主面に対する光の入射角が大きくなるに従って、反射部材の反射帯域が短波長側にシフトするいわゆる「ブルーシフト」と呼ばれる現象が生じる。その結果、本来透過すべき測定光が長波長側の反射帯域を有する反射部材によって反射されるとともに、低波長側の反射帯域を有する反射部材によって反射されるべき外光等の光が透過して、受光素子(図示しない)に到達してしまう。ブルーシフトへの対応として、バンドパスフィルターの透過帯域を移動または広げることも考えられるが、その場合、SN比が低下してしまう。
【0042】
それに対して、図3に示す使用態様において、面内の中心部から離間するに従って反射中心波長が増加する反射部材、即ち、面内の中心部から離間するに従って反射帯域が長波長側にシフトする反射部材を備えるバンドパスフィルター12を用いることにより、周縁部においてレンズ40を通過した光が斜めに入射してブルーシフトが生じる場合であっても、光源が発光する波長の光を透過して外光を反射する、バンドパスフィルターとしての波長選択性を維持できる。これにより、広い入射角の範囲に対応するためにバンドパスフィルターの透過帯域を広く設定する必要がなくなるため、透過帯域をより狭くでき、結果として、バンドパスフィルターのSN比の向上および透過率の向上を図ることができる。
面内の中心部から離間するに従って反射中心波長が増加する反射部材は、面内の中心部から離間するに従って、反射中心波長がパターン状に段階的に増加する反射部材であってもよく、反射中心波長が連続して増加する面内グラジエントを有する反射部材であってもよい。上記の反射中心波長の増加する方向は、面内のいずれか1方向のみであってもよく、面内の中心部から放射状に広がる方向であってもよい。
【0043】
上記の面内の中心部から離間するに従って反射中心波長が増加する反射部材は、例えば、後述するように、反射部材が備える少なくとも1つのコレステリック液晶層として、面内の中心部から離間するに従って螺旋ピッチPが広がるように、コレステリック液晶相を固定したコレステリック液晶層を用いればよい。
【0044】
<コレステリック液晶層>
コレステリック液晶層は、液晶化合物(液晶材料)が螺旋状にコレステリック配向されて形成されるコレステリック液晶相を固定してなる層である。即ち、コレステリック液晶層は、液晶化合物をコレステリック配向して固定した層である。
コレステリック液晶層は、コレステリック液晶相の螺旋ピッチによって定まる反射中心波長を有し、反射中心波長を含む波長域の光を反射し、他の波長域の光を透過する。即ち、コレステリック液晶層において、反射波長は、コレステリック液晶相の螺旋ピッチに依存している。
なお、コレステリック液晶層においては、コレステリック液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、層中の液晶化合物はもはや液晶性を示していなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0045】
<<コレステリック液晶相>>
コレステリック液晶相は、螺旋構造に由来する特定選択反射を示す。
コレステリック液晶相において、選択反射の中心波長(反射中心波長)λは、コレステリック液晶相における螺旋ピッチP(=螺旋の周期)に依存し、コレステリック液晶相の平均屈折率nとλ=n×Pの関係に従う。そのため、この螺旋ピッチPを調節することによって、反射中心波長を調節できる。
コレステリック液晶相の反射中心波長は、螺旋ピッチPが長いほど、長波長になる。なお、螺旋ピッチPとは、上述したように、コレステリック液晶相の螺旋構造1ピッチ分(螺旋の周期)であり、言い換えれば、螺旋の巻き数1回分であり、すなわち、コレステリック液晶相を構成する液晶化合物のダイレクター(棒状液晶であれば長軸方向)が360°回転する螺旋軸方向の長さである。
【0046】
コレステリック液晶層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM(Scanning Electron Microscope))で観察すると、コレステリック液晶相に由来して、厚み方向に明線(明部)と暗線(暗部)とを交互に有する縞模様が観察される。螺旋ピッチPは、厚み方向の明線2本および暗線3本分の長さ、すなわち、厚み方向の暗線3本および明線2本分の長さに等しい。
【0047】
コレステリック液晶相の螺旋ピッチPは、コレステリック液晶層を形成する際に、液晶化合物と共に用いるキラル剤の種類、および、キラル剤の添加濃度に依存する。従って、これらを調節することによって、所望の螺旋ピッチを得ることができる。
なお、螺旋ピッチPの調節については富士フイルム研究報告No.50(2005年)p.60-63に詳細な記載がある。螺旋のセンスおよびピッチの測定法については「液晶化学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および、「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載される方法を用いることができる。
【0048】
コレステリック液晶相は、特定の波長において左右いずれかの円偏光に対して選択反射性を示す。反射光が右円偏光であるか左円偏光であるかは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向(センス)による。コレステリック液晶相による円偏光の選択反射は、コレステリック液晶層の螺旋の捩れ方向が右の場合は右円偏光を反射し、螺旋の捩れ方向が左の場合は左円偏光を反射する。従って、コレステリック液晶相における螺旋の捩れ方向は、コレステリック液晶層に右円偏光および/または左円偏光を入射させることで、確認できる。
なお、コレステリック液晶相の旋回の方向は、コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類および/または添加されるキラル剤の種類によって調節できる。
【0049】
また、選択反射を示す反射帯域(円偏光反射波長域)の半値幅(nm)は、コレステリック液晶相の複屈折Δnと螺旋ピッチPとに依存し、Δλ=Δn×Pの関係に従う。そのため、反射波長帯域の波長幅の制御は、Δnを調節して行うことができる。Δnは、コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類およびその混合比率、ならびに、配向固定時の温度により調節できる。
半値幅は、バンドパスフィルターの用途に応じて調節すればよい。1次光の半値幅は、例えば、30nm以上であればよい。
【0050】
コレステリック液晶層において、反射中心波長には、制限はなく、バンドパスフィルターを用いるセンサーの用途に応じて、適宜、設定すればよい。
具体的には、コレステリック液晶層において、反射中心波長は、センサーが用いる測定光の波長に応じて、適宜、設定すればよい。例えば、バンドパスフィルターを測距センサーに用いる場合、コレステリック液晶層の反射中心波長がいずれも赤外光領域に存在することが好ましい。より具体的には、コレステリック液晶層の反射中心波長は、600nm以上であることが好ましく、700nm以上であることがより好ましい。この場合の上限値は特に制限されず、3000nm以下であってよい。
【0051】
上述のとおり、コレステリック液晶層の反射中心波長は、螺旋ピッチPに依存する。螺旋ピッチPは、コレステリック液晶層の反射スペクトルを紫外可視近赤外分析光度計を用いて測定し、得られた反射スペクトルから反射中心波長を求め、得られた反射中心波長とコレステリック液晶層の平均屈折率nとから算出できる。また、螺旋ピッチPは、「液晶化学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載の方法で測定してもよい。
【0052】
コレステリック液晶層の螺旋ピッチPは、面内方向において一定であってよい。なお、ここで、螺旋ピッチPが一定とは、螺旋ピッチPが、コレステリック液晶層の面内のいずれの方向においても実質的に同一であることを意図する。実質的に同一とは、螺旋ピッチP間の差の絶対値が30nm以下であることを意図する。
【0053】
コレステリック液晶層の螺旋ピッチPは、面内の少なくとも1方向において、面内の中心部から離間するに従って広がっていてもよい。このようなコレステリック液晶相を有するコレステリック液晶層を用いることにより、上述した面内の少なくとも1方向において面内の中心部から離間するに従って反射中心波長が増加する反射部材が形成できる。
上記の面内の中心部から離間するに従って螺旋ピッチPが広がるコレステリック液晶層は、目的とする反射部材の反射特性に応じて、面内の中心部から離間するに従って、螺旋ピッチPがパターン状に段階的に広がっていてもよく、螺旋ピッチPが連続して広がるグラジエントを有していてもよい。また、上記の螺旋ピッチPの広がる方向は、面内のいずれか1方向のみであってもよく、面内の中心部から放射状に広がる方向であってもよい。
【0054】
<<コレステリック液晶層の形成方法>>
コレステリック液晶層は、コレステリック液晶相を層状に固定して形成できる。
コレステリック液晶相を固定した構造は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持されている構造であればよく、典型的には、重合性液晶化合物をコレステリック液晶相の配向状態としたうえで、紫外線照射、加熱等によって重合、硬化し、流動性が無い層を形成して、同時に、外場または外力によって配向形態に変化を生じさせることない状態に変化した構造が好ましい。
なお、コレステリック液晶相を固定した構造においては、コレステリック液晶相の光学的性質が保持されていれば十分であり、コレステリック液晶層において、液晶化合物は液晶性を示さなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、液晶性を失っていてもよい。
【0055】
コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層の形成に用いる材料としては、一例として、液晶化合物を含む液晶組成物が挙げられる。液晶化合物は重合性液晶化合物であることが好ましい。
また、コレステリック液晶層の形成に用いる液晶組成物は、さらに界面活性剤およびキラル剤を含んでいてもよい。
【0056】
<<重合性液晶化合物(棒状液晶化合物)>>
重合性液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよい。
コレステリック液晶相を形成する棒状の重合性液晶化合物の例としては、棒状ネマチック液晶化合物が挙げられる。棒状ネマチック液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、および、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0057】
重合性液晶化合物は、重合性基を液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、およびアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基がより好ましい。重合性基は種々の方法で、液晶化合物の分子中に導入できる。重合性液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1~6個、より好ましくは1~3個である。
重合性液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、米国特許第5622648号明細書、米国特許第5770107号明細書、国際公開第95/022586号、国際公開第95/024455号、国際公開第97/000600号、国際公開第98/023580号、国際公開第98/052905号、特開平1-272551号公報、特開平6-016616号公報、特開平7-110469号公報、特開平11-080081号公報、および、特開2001-328973号公報等に記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0058】
また、上記以外の重合性液晶化合物としては、特開昭57-165480号公報に開示されているようなコレステリック相を有する環式オルガノポリシロキサン化合物等を用いることができる。さらに、上述の高分子液晶化合物としては、液晶を呈するメソゲン基を主鎖、側鎖、あるいは主鎖および側鎖の両方の位置に導入した高分子、コレステリル基を側鎖に導入した高分子コレステリック液晶、特開平9-133810号公報に開示されているような液晶性高分子、および、特開平11-293252号公報に開示されているような液晶性高分子等を用いることができる。
【0059】
熱膨張係数が優れる点で、重合性基の個数が1個の重合性液晶化合物と、重合性基の個数が2個の重合性液晶化合物を併用することが好ましい。重合性基の個数が1個の重合性液晶化合物としては、特開2018-012830公報、特開平8-092556公報、および、特開平10-087565公報に開示されているような液晶性化合物等を用いることができる。
液晶組成物中に占める重合性基の個数が1個の重合性液晶化合物の割合は、熱膨張係数に優れる点で5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。一方、重合性基の個数が1個の重合性液晶化合物が多すぎる場合、硬化後のコレステリック液晶層が溶媒等により膨潤しやすく、所望の光学構成を得ることが困難となる。従って、膨潤耐性に優れる点で70質量%未満が好ましく、40質量%未満がより好ましい。
【0060】
熱膨張係数が優れる点で、置換基として3個以上の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖アルキル、アルコキシまたはアルケニルを有する重合性液晶化合物を用いることが好ましい。1つ以上のCH2基は、それぞれ独立して、酸素原子同士が直接結合しないように、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCOO-または-C≡C-により置き換えられていてもよい。炭素原子数としては、液晶性と熱膨張係数を両立できる点で6~18が好ましく、8~12がより好ましい。前記置換基は重合性液晶化合物中の芳香環に対して直接置換していてもよく、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基、アミド基、カルボニル基、エステル基等の2価の連結基を介して置換していてもよい。
液晶組成物中に占める前記置換基を有する重合性液晶化合物の割合は、熱膨張係数に優れる点で5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。上限としては特にないが、例えば70質量%未満である。
【0061】
熱膨張係数が優れる点で、連結基として6個以上の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖アルキレン、アルケニレン基を有する重合性液晶化合物を用いることが好ましい。1つ以上のCH2基は、それぞれ独立して、酸素原子同士が直接結合しないように、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCOO-または-C≡C-により置き換えられていてもよい。炭素原子数としては、液晶性と熱膨張係数を両立できる点で6~18が好ましく、8~12がより好ましい。
液晶組成物中に占める前記置換基を有する重合性液晶化合物の割合は、熱膨張係数に優れる点で5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。上限としては特にないが、例えば70質量%未満である。
【0062】
<<円盤状液晶化合物>>
円盤状液晶化合物としては、例えば、特開2007-108732号公報および特開2010-244038号公報等に記載のものを好ましく用いることができる。
【0063】
また、液晶組成物中の重合性液晶化合物の添加量は、液晶組成物の固形分質量(溶媒を除いた質量)に対して、75~99.9質量%であることが好ましく、80~99質量%であることがより好ましく、85~90質量%であることが更に好ましい。
【0064】
<<界面活性剤>>
コレステリック液晶層を形成する際に用いる液晶組成物は、界面活性剤を含んでいてもよい。
界面活性剤は、安定的に、または迅速に、コレステリック液晶相の配向に寄与する配向制御剤として機能できる化合物が好ましい。界面活性剤としては、例えば、シリコ-ン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤が挙げられ、フッ素系界面活性剤が好ましく例示される。
【0065】
界面活性剤の具体例としては、特開2014-119605号公報の段落[0082]~[0090]に記載の化合物、特開2012-203237号公報の段落[0031]~[0034]に記載の化合物、特開2005-099248号公報の段落[0092]および[0093]中に例示されている化合物、特開2002-129162号公報の段落[0076]~[0078]および段落[0082]~[0085]中に例示されている化合物、ならびに、特開2007-272185号公報の段落[0018]~[0043]等に記載のフッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、などが挙げられる。
なお、界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
フッ素系界面活性剤として、特開2014-119605号公報の段落[0082]~[0090]に記載の化合物が好ましい。
【0066】
液晶組成物中における、界面活性剤の添加量は、液晶化合物の全質量に対して0.01~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.02~1質量%が更に好ましい。
【0067】
<<キラル剤(光学活性化合物)>>
キラル剤(カイラル剤)はコレステリック液晶相の螺旋構造を誘起する機能を有する。キラル剤は、化合物によって誘起する螺旋の捩れ方向または螺旋周期ピッチが異なるため、目的に応じて選択すればよい。
キラル剤には制限はなく、公知の化合物(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4-3項、TN(twisted nematic)、STN(Super Twisted Nematic)用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)、イソソルビド、および、イソマンニド誘導体等を用いることができる。
キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体が含まれる。キラル剤は、重合性基を有していてもよい。キラル剤と液晶化合物とがいずれも重合性基を有する場合は、重合性キラル剤と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル剤が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であることが好ましい。従って、キラル剤の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基またはアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性基であることがより好ましく、エチレン性不飽和重合性基であることが更に好ましい。
また、キラル剤は、液晶化合物であってもよい。
【0068】
キラル剤が光異性化基を有する場合には、塗布、配向後に活性光線などのフォトマスク出射によって、発光波長に対応した所望の反射波長のパターンを形成することができるので好ましい。光異性化基としては、フォトクロッミック性を示す化合物の異性化部位、アゾ基、アゾキシ基、または、シンナモイル基が好ましい。具体的な化合物として、特開2002-080478号公報、特開2002-080851号公報、特開2002-179668号公報、特開2002-179669号公報、特開2002-179670号公報、特開2002-179681号公報、特開2002-179682号公報、特開2002-338575号公報、特開2002-338668号公報、特開2003-313189号公報、および、特開2003-313292号公報等に記載の化合物を用いることができる。
【0069】
液晶組成物における、キラル剤の含有量は、液晶化合物の含有モル量に対して0.01~200モル%が好ましく、1~30モル%がより好ましい。
【0070】
<<重合開始剤>>
液晶組成物が重合性化合物を含む場合は、重合開始剤を含むことが好ましい。紫外線出射により重合反応を進行させる態様では、使用する重合開始剤は、紫外線出射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であることが好ましい。
光重合開始剤の例には、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、米国特許第2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、米国特許第2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)、ならびに、オキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)が挙げられる。
【0071】
液晶組成物中の光重合開始剤の含有量は、液晶化合物の含有量に対して、0.1~20質量%が好ましく、0.5~12質量%がより好ましい。
【0072】
<<架橋剤>>
液晶組成物は、硬化後の膜強度向上、耐久性向上のため、任意に架橋剤を含有していてもよい。架橋剤としては、紫外線、熱、および、湿気等で硬化するもことが好適に使用できる。
架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレートおよびエチレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]および4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネートおよびビウレット型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ならびに、ビニルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物などが挙げられる。また、架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を用いることができ、膜強度および耐久性向上に加えて生産性を向上させることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
架橋剤の含有量は、液晶組成物の固形分質量に対して、3~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。架橋剤の含有量が上記範囲内であれば、架橋密度向上の効果が得られやすく、コレステリック液晶相の安定性がより向上する。
【0073】
<<その他の添加剤>>
液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、および、金属酸化物微粒子等を、光学的性能等を低下させない範囲で添加することができる。
【0074】
液晶組成物は、コレステリック液晶層を形成する際には、液体として用いられることが好ましい。
液晶組成物は溶媒を含んでいてもよい。溶媒には、制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有機溶媒が好ましい。
有機溶媒には、制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、および、エーテル類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、環境への負荷を考慮した場合にはケトン類が好ましい。
【0075】
コレステリック液晶層を形成する際には、コレステリック液晶層の形成面に液晶組成物を塗布して、液晶化合物をコレステリック液晶相の状態に配向した後、液晶化合物を硬化して、コレステリック液晶層とすることが好ましい。
例えば、配向膜上にコレステリック液晶層を形成する場合には、配向膜に液晶組成物を塗布して、液晶化合物をコレステリック液晶相の状態に配向した後、液晶化合物を硬化して、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層を形成することが好ましい。
液晶組成物の塗布は、インクジェットおよびスクロール印刷等の印刷法、ならびに、スピンコート、バーコートおよびスプレー塗布等のシート状物に液体を一様に塗布できる公知の方法が全て利用可能である。
【0076】
塗布された液晶組成物は、必要に応じて乾燥および/または加熱され、その後、硬化され、コレステリック液晶層を形成する。この乾燥および/または加熱の工程で、液晶組成物中の液晶化合物がコレステリック液晶相に配向すればよい。加熱を行う場合、加熱温度は、200℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。
【0077】
配向させた液晶化合物は、必要に応じて、さらに重合される。重合は、熱重合、および、光出射による光重合のいずれでもよいが、光重合が好ましい。光出射は、紫外線を用いることが好ましい。出射エネルギーは、20mJ/cm~50J/cmが好ましく、50~1500mJ/cmがより好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下または窒素雰囲気下で光出射を実施してもよい。出射する紫外線の波長は250~430nmが好ましい。
【0078】
コレステリック液晶層の厚みの好ましい範囲については、上記の通りである。コレステリック液晶層の厚みについては、バンドパスフィルターの用途、コレステリック液晶層に要求される光の反射率、および、コレステリック液晶層の形成材料等に応じて、必要な光の反射率が得られる厚みを、適宜、設定すればよい。
【0079】
<<コレステリック液晶層の作用>>
次に、上述の構成を有するコレステリック液晶層の作用について説明する。
コレステリック液晶層に、反射波長の光が入射するとコレステリック液晶相によって、コレステリック液晶相の旋回方向に応じた、右円偏光および左円偏光のいずれかの円偏光が反射される。これにより、反射中心波長の周辺の波長域の光を、ほぼ一様に高い反射率で反射する。
【0080】
コレステリック液晶層は、その熱膨張係数が20ppm/℃以上であることが好ましく、50ppm/℃以上がより好ましく、100ppm/℃以上が更に好ましい。
ここで、環境温度が高くなるに従って、レーザーの出力波長が長波長側にシフトすることが知られており、従来、バンドパスフィルターをレーザーと組み合わせて使用する場合、レーザーの出力波長の変動に対応するためにバンドパスフィルターの透過帯域を広く設計しておく必要があった。それに対して、コレステリック液晶層の熱膨張係数が上記の範囲にあると、環境温度が高くなるに従って、コレステリック液晶層は膨張する。コレステリック液晶層が膨張して厚み方向に伸長すると、コレステリック液晶相の螺旋構造が厚み方向に伸長して、コレステリック液晶層の反射帯域が長波長側にシフトする。従って、環境温度が高くなった場合であっても、バンドパスフィルターの透過帯域を長波長側にシフトさせ、レーザー等の光源の発光波長の変動に追従させることができる。よって、熱膨張係数が上記の範囲にあるコレステリック液晶層を用いることにより、環境温度による光源の発光波長の変動に伴う受光素子における受光量の低下を抑制できるため、透過帯域がより狭いバンドパスフィルターを用いてSN比の更なる向上を図ることができる。
【0081】
コレステリック液晶層の熱膨張係数の上限値は特に制限されないが、600ppm/℃以下が好ましく、500ppm/℃以下がより好ましい。
【0082】
熱膨張係数は、JIS K 7197等の公知の方法で測定でき、例えば、熱機械分析装置(TMA NETZSCH社製 TMA4000SE)を用いた熱機械特性測定によって求められる。測定条件は、例えば、サンプルサイズは、5mm×20mm、チャック間距離は15mm、チャック部分の長さは上下ともに2.5±0.5mmとし、-20℃~60℃の範囲で5℃/minで温度を変え、その際のチャック距離の変位量を計測する。また、荷重についてはサンプルに3gの一定加重をかけて計測する。続いて-20℃~60℃の変位量のデータの近似直線の傾きを求め温度1℃変化あたりの変位量を求める。さらに、その傾きをサンプルセット時のチャンキング間距離である15mmで割ることで、熱膨張係数を算出することができる。
【0083】
<反射部材の他の態様>
なお、図1に示すバンドパスフィルターにおいては、第1コレステリック液晶層31の両面に第2コレステリック液晶層32が配置されているが、反射部材の層構成は図1に示す形態に限定されない。
例えば、第1コレステリック液晶層の片面のみに第2コレステリック液晶層が配置されていてもよい。本発明の効果がより優れる点で、第1コレステリック液晶層の両面のそれぞれに第2コレステリック液晶層が配置されていることが好ましい。
また、第1コレステリック液晶層の片面または両面に複数の第2コレステリック液晶層が配置されていてもよい。
【0084】
また、反射部材Aは、第1コレステリック液晶層および第2コレステリック液晶層とは異なる第5コレステリック液晶層を有していてもよく、反射部材Bは、第3コレステリック液晶層および第4コレステリック液晶層とは異なる第6コレステリック液晶層を有していてもよい。
【0085】
図4は、本発明に係るバンドパスフィルターの他の構成例を示す概念図であり、バンドパスフィルターの厚み方向(積層方向)の断面における各層の構成を示している。
図4に示すバンドパスフィルター14は、反射部材A24と、反射部材B26とを有し、反射部材A24は、第5コレステリック液晶層35、第2コレステリック液晶層32、第1コレステリック液晶層31、第2コレステリック液晶層32、および、第5コレステリック液晶層35をこの順に積層してなる積層体であり、反射部材B26は、第6コレステリック液晶層36、第4コレステリック液晶層34、第3コレステリック液晶層33、第4コレステリック液晶層34、および、第6コレステリック液晶層36をこの順に積層してなる積層体である。
さらに、第5コレステリック液晶層35の複屈折Δn5は、第2コレステリック液晶層32の複屈折Δn2よりも小さく、第6コレステリック液晶層36の複屈折Δn6は、第4コレステリック液晶層34の複屈折Δn4よりも小さい。
反射構造Aを構成する積層体の表面側に、複屈折Δnが第2コレステリック液晶層よりも小さい第5コレステリック液晶層を設け、かつ、反射部材Bを構成する積層体の表面側に、複屈折Δnが第4コレステリック液晶層よりも小さい第6コレステリック液晶層を設けることにより、各反射帯域のサイドローブが更に低減され、本発明の効果がより優れるバンドパスフィルターを得ることができる。
【0086】
なお、反射部材Aが上記の第5コレステリック液晶層を有する態様、および、反射部材Bが第6コレステリック液晶層を有する態様は、上記図4に示すものに限定されない。
例えば、反射部材Aを構成する積層体の主面の一方のみに第5コレステリック液晶層が配置されていてもよく、反射部材Bを構成する積層体の主面の一方のみに第6コレステリック液晶層が配置されていてもよい。
本発明の効果がより優れる点で、反射部材Aを構成する積層体の両面側のそれぞれに第5コレステリック液晶層が配置されていることが好ましく、反射部材Bを構成する積層体の両面側のそれぞれに第6コレステリック液晶層が配置されていることが好ましい。
即ち、本発明の効果がより優れる点で、反射部材Aとしては、第5コレステリック液晶層、第2コレステリック液晶層、第1コレステリック液晶層、第2コレステリック液晶層、および、第5コレステリック液晶層をこの順で有する積層体がより好ましい。同様に、本発明の効果がより優れる点で、反射部材Bとしては、第6コレステリック液晶層、第4コレステリック液晶層、第3コレステリック液晶層、第4コレステリック液晶層、および、第6コレステリック液晶層をこの順で有する積層体がより好ましい。
【0087】
反射部材Aが第5コレステリック液晶層を有する場合における、複屈折Δn2に対する複屈折Δn5の比率(Δn5/Δn2)、および、反射部材Bが第6コレステリック液晶層を有する場合における、複屈折Δn4に対する複屈折Δn6の比率(Δn6/Δn4)は、本発明の効果がより優れる点で、0.2~0.6が好ましく、0.3~0.5がより好ましい。
反射部材Aが有する第5コレステリック液晶層、および、反射部材Bが有する第6コレステリック液晶層の複屈折Δn以外の態様については、好ましい態様も含めて、上記コレステリック液晶層と同様である。
【0088】
バンドパスフィルターは、上記反射部材以外の他の層を有していてもよい。反射部材以外の他の層としては、例えば、支持体、および、配向膜が挙げられる。
【0089】
〔支持体〕
支持体は、反射部材を支持する部材である。支持体としては、反射部材を支持できる部材であれば、各種のシート状物(フィルム、板状物)が利用可能である。
支持体は、バンドパスフィルターの透過帯域において十分な透過率を有するものを用いることが好ましい。
【0090】
支持体の厚みは、反射部材を支持できる厚みであれば、制限はなく、バンドパスフィルターの用途および支持体の形成材料等に応じて、適宜設定すればよい。
支持体の厚みは、1~2000μmが好ましく、3~500μmがより好ましく、5~250μmが更に好ましい。
【0091】
支持体は単層であっても、多層であってもよい。
単層である場合の支持体としては、ガラス、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル、および、ポリオレフィン等の材料からなる支持体が例示される。多層である場合の支持体の例としては、上述の単層の支持体のいずれかを基板として含み、この基板の表面に他の層を設けたものが例示される。
【0092】
環境温度が変化する場合に、支持体の表面に配置されるコレステリック液晶層の厚み方向の伸縮をより促すことができる点で、支持体の熱膨張係数は、コレステリック液晶層の熱膨張係数よりも低いことが好ましく、20ppm/℃以上低いことがより好ましい。
【0093】
支持体の表面にコレステリック液晶層を形成した後、支持体を剥離して、他の支持体等の部材に転写してもよい。すなわち、支持体は仮支持体であってもよい。
支持体が仮支持体である場合には、コレステリック液晶層を作製する際に用いられる各種の仮支持体が例示される。例えば、仮支持体としては、ガラス、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル、および、ポリオレフィン等の部材からなるフィルム状の部材が例示される。また、これらの材料からなる層を複数層有する多層の支持体であってもよい。
【0094】
〔配向膜〕
配向膜は、支持体の表面(上面)に形成される。
配向膜は、コレステリック液晶層を形成する際に、液晶化合物を所定の配向状態に配向するための配向膜である。
【0095】
配向膜は、公知の各種のものが利用可能である。
例えば、ポリマーなどの有機化合物からなるラビング処理膜、無機化合物の斜方蒸着膜、マイクログルーブを有する膜、ならびに、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチルなどの有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB(Langmuir-Blodgett:ラングミュア・ブロジェット)膜を累積させた膜、光配向性の素材に偏光または非偏光を出射して配向膜とした光配向膜が例示される。
【0096】
配向膜は、配向膜の形成材料に応じた、公知の方法で形成すればよい。
例えば、ラビング処理による配向膜は、ポリマー層の表面を紙または布で一定方向に数回こすることにより形成できる。
配向膜に使用する材料としては、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特開平9-152509号公報に記載された重合性基を有するポリマー、特開2005-097377号公報、特開2005-099228号公報、および、特開2005-128503号公報記載の配向膜等の形成に用いられる材料が好ましい。
また、配向膜を形成せずに、支持体にラビング処理およびレーザー加工等の処理を施すことで、支持体を配向膜として作用させてもよい。
【0097】
配向膜は、光配向性の素材に偏光または非偏光を照射して配向膜とした、いわゆる光配向膜も好適に利用される。すなわち、配向膜として、支持体上に、光配向材料を塗布して形成した光配向膜が、好適に利用される。
偏光の照射は、光配向膜に対して、垂直方向または斜め方向から行うことができ、非偏光の照射は、光配向膜に対して、斜め方向から行うことができる。
【0098】
配向膜に用いられる光配向材料としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-076839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-094071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号公報および特許第4151746号公報に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報および特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/またはアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号公報および特許第4205198号公報に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報および特許第4162850号公報に記載の光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミドおよび光架橋性ポリエステル、ならびに、特開平9-118717号公報、特表平10-506420号公報、特表2003-505561号公報、国際公開第2010/150748号、特開2013-177561号公報および特開2014-012823号公報に記載の光二量化可能な化合物が挙げられ、特にシンナメート化合物、カルコン化合物およびクマリン化合物が、好ましい例として例示される。
中でも、アゾ化合物、光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミド、光架橋性ポリエステル、シンナメート化合物、および、カルコン化合物は、好適に利用される。
【0099】
配向膜の厚みには制限はなく、配向膜の形成材料に応じて、必要な配向機能を得られる厚みを、適宜、設定すればよい。
配向膜の厚みは、0.01~5μmが好ましく、0.05~2μmがより好ましい。
【0100】
[センサー]
本発明のセンサーは、光源と、光源の発光ピーク波長の光を透過するバンドパスフィルターと、バンドパスフィルターが透過した光を受光する受光素子と、を有する。
バンドパスフィルターは、光源の発光ピーク波長の光を含む波長域の光を透過し、その波長域の長波長側および短波長側の波長域の光を反射することで、光源の発光ピーク波長の光を抽出する。
【0101】
〔光源〕
センサーに用いる光源は、特に制限されず、光学的なセンサーにおいて光源として用いられている公知の各種の光源が、利用可能である。
光源としては、例えば、水銀灯などの電球、蛍光灯、ハロゲンランプ、LED(Light Emitting Diode)、および、半導体レーザーなどのレーザーが挙げられる。
なお、光源の出射光は、拡散光でも、コリメートされた光ビームのような平行光でもよい。また、センサーにおいては、必要に応じて、光源が出射した光を一次元的または二次元的に走査(スキャン)してもよい。
中でも、センサーのSN比を向上する観点から、狭帯域な光を照射できる、LED(Light Emitting Diode)、および、半導体レーザーなどのレーザーを用いることが好ましい。
【0102】
また、センサーのSN比を向上する観点から、光源の発光ピークの半値幅は30nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましく、10nm以下が更に好ましい。
【0103】
ここで、光源がLED(Light Emitting Diode)または半導体レーザーなどのレーザーである場合、温度による発光波長(ピーク波長)の変化の割合は、およそ0.1~0.7nm/℃程度である。
【0104】
光源が出射する光の波長も、特に制限されず、可視光でも、赤外線および紫外線などの非可視光でもよい。中でも非可視光である赤外線は、光源が出射する光として好適に利用される。
光源が出射する光は、無偏光でも偏光でもよい。光源が偏光を出射する場合には、出射光は直線偏光でも円偏光でもよい。
【0105】
〔受光素子〕
受光素子は、光源が出射し、対象物で反射された測定光を、バンドパスフィルターを介して、受光する機能を有する。
受光素子は、特に制限されず、光学的なセンサーにおいて受光素子として用いられている公知の各種の受光素子(光検出器(素子))がいずれも利用可能である。
受光素子としては、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサー、および、CCD(Charge-Coupled Device)センサーが例示される。
受光素子は、空間的な分解能を有さないものでもよいが、光をライン状に検出するラインセンサー、または、光を2次元的に検出するエリアセンサーが好ましく、特にエリアセンサーが好ましい。
【0106】
上記のセンサーによる対象物の測定は、光学的なセンサーで行われている公知の測定が、各種、利用可能である。従って、対象物は制限されず、人物でも、動物でも、物でもよい。
対象物の測定としては、対象物までの距離の測定(測距)、対象物の形状の測定、対象物の動きの測定、および、対象物の識別が例示される。これらの測定は、いずれも公知の測定方法であってよく、例えば、センサーは、タイムオブフライト方式(ToF(Time of Flight))によって対象物までの距離を測定するセンサーであってもよい。
より具体的には、光源が出射して、対象物によって反射された測定光を、バンドパスフィルターを介して受光素子で測光し、測光結果を解析することで、対象物との距離等の測定を行うことができる。その際、センサーに入射する、太陽光および照明等の外光はバンドパスフィルターを透過しないため、バンドパスフィルターにより受光素子に入射する外光をカットすることができ、ノイズを抑制できる。
【0107】
上記のセンサーは、必要な情報が含まれる波長のみを選択するセンサーなど、あらゆる用途に用いることができる。例えば、国際公開2018/010675号に述べられているような通信分野に用いられる光通信用の波長選択素子として用いることができる。
【0108】
以上、本発明のバンドパスフィルターおよびセンサーについて詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例0109】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、物質量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0110】
[原料]
コレステリック液晶層形成用の液晶組成物を調製するために、下記の原料を使用した。
【0111】
(棒状液晶化合物)
【化1】
【0112】
(キラル剤)
【化2】
【0113】
(レベリング剤)
【化3】
【0114】
(重合開始剤)
・Irgacure(登録商標)OXE01(BASF社製)
(溶剤)
・クロロホルム
【0115】
[実施例1]
〔コレステリック液晶層形成用液晶組成物の調製〕
コレステリック液晶層形成用の液晶組成物として、下記表1に記載の組成を有する液晶組成物を調製した。
表1に、コレステリック液晶層の形成に用いた液晶組成物の組成を示す。表1の「層構成」の「反射部材」および「コレステリック液晶層」欄は、各実施例および各比較例において、「液晶組成物」欄に示す液晶組成物を用いて形成した反射部材およびコレステリック液晶層を示す。また、「液晶組成物 組成」の各成分欄に示す数値は、液晶組成物の調製に用いた原料成分の使用量(単位質量部)を示し、「固形分濃度」欄は、調製された液晶組成物に含まれる溶剤以外の成分の含有量(単位質量%)を示す。なお、各液晶組成物を調製する際、形成するコレステリック液晶層で反射させる光の偏光特性に合わせて、キラル剤CD-1およびキラル剤CD-2のいずれか一方を使用した。
例えば、実施例1では、100質量部の棒状液晶化合物LC-1と、3.0質量部のキラル剤CD-1(またはキラル剤CD-2)と、3.0質量部の重合開始剤OXE01と、0.1質量部のレベリング剤S-1と、固形分濃度が29質量%となるクロロホルムとを混合して、「反射部材A」の「第1コレステリック液晶層」を形成するための液晶組成物を調製した。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
〔右円偏光用バンドパスフィルターの形成〕
(工程1)
洗浄したガラス基板上に、ポリイミド配向膜形成用組成物「SE-130」(日産化学社製)を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を焼成した後、ラビング処理することにより、配向膜付き基板を作製した。
【0119】
この配向膜のラビング処理面に、表1に記載の第2コレステリック液晶層形成用液晶組成物(キラル剤CD-1含有)30μLを、回転数1500rpm、10秒間の条件でスピンコートすることにより、組成物層を形成した後、形成された組成物層を80℃で1分間乾燥(熟成)して液晶化合物を配向させた。
【0120】
(工程2)
液晶化合物を配向させた組成物層に対して、70℃の窒素雰囲気下、500mJ/cmの照射量で紫外線(水銀ランプ)を照射することにより、硬化処理を実施した。これにより、第2コレステリック液晶層を形成した。
【0121】
表1に記載の対応する液晶組成物を塗布および硬化して各コレステリック液晶層を形成すること、並びに、その際に形成されるコレステリック液晶層の厚さが後述する表2に記載の厚さとなるように液晶組成物の塗布量を調整すること以外は、上記と同様の手法にて、形成された第2コレステリック液晶層上に、第1コレステリック液晶層、第2コレステリック液晶層、第4コレステリック液晶層、第3コレステリック液晶層、および、第4コレステリック液晶層を、この順序で積層し、右円偏光用バンドパスフィルターを得た。
なお、第1コレステリック液晶層、第2コレステリック液晶層、第4コレステリック液晶層、第3コレステリック液晶層、および、第4コレステリック液晶層の塗布に関しては、下地となる液晶層表面の配向機能を適用することで、塗布された液晶層の配向を促すこととし、配向膜は形成せずに各液晶組成物を塗布した。配向膜を形成せずに塗布することによって得られた右円偏光用バンドパスフィルターは、第1コレステリック液晶層の両主面に第2コレステリック液晶層が配置しており、右円偏光を反射する積層体Aと、第3コレステリック液晶層の両主面に第4コレステリック液晶層が配置しており、右円偏光を反射する積層体Bと、を備える。
【0122】
〔全光用バンドパスフィルターの形成〕
キラル剤CD-1を含むコレステリック液晶層形成用液晶組成物の代わりにキラル剤CD-2を含むコレステリック液晶層形成用液晶組成物を用いて、各コレステリック液晶層を形成すること以外は、上記の各コレステリック液晶層の形成方法に従って、右円偏光用バンドパスフィルターの第4コレステリック液晶層上に、第2コレステリック液晶層、第1コレステリック液晶層、第2コレステリック液晶層、第4コレステリック液晶層、第3コレステリック液晶層、および、第4コレステリック液晶層を、配向膜を形成せずに塗布することによってこの順序で積層し、実施例1の全光用バンドパスフィルター1を作製した。
実施例1の全光用バンドパスフィルター1は、上記積層体Aと、上記積層体Bと、第1コレステリック液晶層の両主面に第2コレステリック液晶層が配置しており、左円偏光を反射する積層体Aと、第3コレステリック液晶層の両主面に第4コレステリック液晶層が配置しており、左円偏光を反射する積層体Bとを備える。
また、実施例1の全光用バンドパスフィルター1は、反射部材Aとして上記の積層体Aおよび積層体Aを備え、反射部材Bとして、上記の積層体Bおよび積層体Bを備える。
【0123】
〔コレステリック液晶層の特性〕
以下の方法で、バンドパスフィルターを構成する各コレステリック液晶層の特性を求めた。
具体的には、上記配向膜付き基板上に表1に記載したコレステリック液晶層形成用液晶組成物を塗布して、コレステリック液晶層を単独で有するサンプルを作製し、得られたサンプルを紫外可視近赤外分析光度計(「UV-3100」、島津製作所社製)を用いて測定することにより、コレステリック液晶層の反射スペクトルを測定した。得られた反射スペクトルから、各コレステリック液晶層の反射中心波長λ~λを求めた。次に、コレステリック液晶層の平均屈折率nを1.55とみなし、得られた反射中心波長λ~λから、各コレステリック液晶層の螺旋ピッチを算出した。また、干渉膜厚計BW-A501(ニコン製)を用いて各コレステリック液晶層の厚み(μm)を測定した。
上記で得られたコレステリック液晶層の平均屈折率n、厚みおよび螺旋ピッチを固定値とし、Δnを変数として変化させて反射スペクトルを計算し、反射スペクトルの実測値との誤差が最小となるように最適化を行い、得られた最適値を各コレステリック液晶層(コレステリック液晶相)の複屈折Δnとした。なお、反射スペクトルの計算にはLCD Master1D(シンテック製、Ver9.8.0.0)を使用した。
【0124】
〔バンドパスフィルターの測定および評価〕
上記の方法で作製した全光用バンドパスフィルター1の透過スペクトルを、紫外可視近赤外分析光度計(「UV-3100」、島津製作所社製)を用いて測定した。
これにより、実施例1の全光用バンドパスフィルター1は、反射部材Aに対応し、反射中心波長λが838nmであり、半値半幅が59nmである反射帯域と、反射部材Bに対応し、反射中心波長λが985nmであり、半値半幅が71nmである反射帯域とを有することが確認された。
また、実施例1の全光用バンドパスフィルター1は、透過中心波長λが906nmであり、半値全幅が30nmである透過帯域を有することが確認された。
【0125】
更に、実施例1で作製された全光用バンドパスフィルター1の透過性能を評価した。各評価結果を後述する表2に示す。
【0126】
(透過性の評価基準)
全透過帯域のうち、透過率が80%以上である帯域(以下「高透過帯域」ともいう。)を求め、高透過帯域が連続する範囲(単位nm)から、下記の評価基準に基づいてバンドパスフィルターの透過性を評価した。なお、連続する高透過帯域が複数存在する場合は、高透過帯域が連続する範囲の最大値を採用して上記評価を行った。
A:高透過帯域が連続する範囲が20nm以上である。
B:高透過帯域が連続する範囲が15nm以上20nm未満である。
C:高透過帯域が連続する範囲が10nm以上15nm未満である。
D:高透過帯域が存在するが、高透過帯域が連続する範囲は10nm未満である。
E:高透過帯域が存在しない。
【0127】
(高透過帯域比の評価基準)
バンドパスフィルターの高透過帯域比について、透過帯域において透過率が50%以上である帯域が連続する範囲(単位nm)に対する上記の高透過帯域が連続する範囲の比率を算出し、下記の評価基準に基づいて評価した。なお、連続して透過率が50%以上である帯域が複数存在する場合は、透過率が50%以上である帯域が連続する範囲の最大値を採用して上記評価を行った。
【0128】
(高透過帯域比の評価基準)
A:高透過帯域比が75%以上である
B:高透過帯域比が60%以上75%未満である。
C:高透過帯域比が40%以上60%未満である。
D:高透過帯域比が1%以上40%未満である。
E:高透過帯域比が1%未満であるか、または、透過率が80%以上である帯域が存在しない。
【0129】
[実施例2~18、比較例1]
実施例1に記載の方法に従って、上記表1に記載の液晶組成物を用いて、下記表2に示すコレステリック液晶層を備える全光用バンドパスフィルターを作製し、得られたバンドパスフィルターの測定および評価を行った。
上記表1に、各実施例および比較例で使用したコレステリック液晶層形成用の液晶組成物の組成を示す。また、下記表2に、各実施例および比較例において作製されたバンドパスフィルターにおける、層構成、各コレステリック液晶層の特性、反射帯域の特性、透過帯域の特性、および、上記透過性能の評価結果を示す。
【0130】
表2中、「層構成」欄は、各バンドパスフィルターが備える反射部材およびコレステリック液晶層の構成を示す。なお、表2では、反射部材Aとしては、第1コレステリック液晶層および第2コレステリック液晶層からなる1組の右円偏光用積層体の構成のみを記載し、反射部材Bとしては、第3コレステリック液晶層および第4コレステリック液晶層からなる1組の右円偏光用積層体の構成のみを記載するが、各実施例および各比較例においては、上記の右円偏光用積層体と、右円偏光用積層体と同じ構成を有する左円偏光用積層体とを備えるバンドバスフィルターを作製した。
表2中、「コレステリック液晶層の特性」欄は、反射部材AまたはBを構成する第1~第6コレステリック液晶層のそれぞれの、厚みd(d1~d6、単位μm)、複屈折Δn(Δn1~Δn6)、および、反射中心波長(λ~λ、単位nm)を示す。
表2中、「反射帯域の特性」の「反射中心波長」欄および「半値半幅」欄は、反射部材AまたはBに対応する各反射帯域について、各バンドパスフィルターの透過スペクトルから算出された反射中心波長(λおよびλ、単位nm)および半値半幅(単位nm)の数値を示す。「Δn比率」欄は、反射部材Aにおける第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1に対する第2コレステリック液晶層の複屈折Δn2の比率(Δn2/Δn1)、または、反射部材Bにおける第3コレステリック液晶層の複屈折Δn3に対する第4コレステリック液晶層の複屈折Δn4の比率(Δn4/Δn3)を示す。「厚みd比率」欄は、反射部材Aにおける第1コレステリック液晶層の厚みd1に対する第2コレステリック液晶層の厚みd2の比率(d2/d1)、または、反射部材Bにおける第3コレステリック液晶層の厚みd3に対する第4コレステリック液晶層の厚みd4の比率(d4/d3)を示す。
表2中、「透過帯域の特性」の「透過中心波長」欄および「半値全幅」欄は、各バンドパスフィルターの透過帯域の透過中心波長λ(単位nm)および半値全幅(単位nm)の数値を示す。「半値全幅/中心波長比率」欄は、上記透過帯域の中心波長に対する上記透過帯域の半値全幅の比率を示す。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
【表6】
【0135】
表2に示すように、本発明に係るバンドパスフィルターは、透過帯域の透過性および高透過帯域比がいずれも優れることが確認された。
【0136】
上記比率(Δn2/Δn1)および上記比率(Δn4/Δn3)が0.30超である場合、透過帯域の透過性および高透過帯域比がより優れ、上記比率(Δn2/Δn1)および上記比率(Δn4/Δn3)が0.40超である場合、透過帯域の透過性および高透過帯域比が更に優れ、上記比率(Δn2/Δn1)および上記比率(Δn4/Δn3)が0.50超である場合、透過帯域の透過性および高透過帯域比の両者が特に優れることが確認された(実施例1~6の比較)。
上記比率(Δn2/Δn1)および上記比率(Δn4/Δn3)が0.70未満である場合、透過帯域の透過性および高透過帯域比がより優れることが確認された(実施例6および7の比較)。
【0137】
上記の第1コレステリック液晶層の厚みd1に対する第2コレステリック液晶層の厚みd2の比率(d2/d1)および第3コレステリック液晶層の厚みd3に対する第4コレステリック液晶層の厚みd4の比率(d4/d3)が0.30超0.50未満である場合、透過帯域の透過性および高透過帯域比がより優れることが確認された(実施例5、8および9の比較)。
【0138】
反射部材Aにおいて第1コレステリック液晶層の両面に第2コレステリック液晶層が積層されており、反射部材Bにおいて第3コレステリック液晶層の両面に第4コレステリック液晶層が積層されている場合、反射部材Aにおいて第1コレステリック液晶層の片面のみに第2コレステリック液晶層が積層されており、反射部材Bにおいて第3コレステリック液晶層の片面にのみ第4コレステリック液晶層が積層されている場合と比較して、透過帯域の透過性および高透過帯域比がより優れることが確認された(実施例5および10の比較)。
【0139】
第1コレステリック液晶層の反射中心波長λと第2コレステリック液晶層の反射中心波長λとの差分が反射中心波長λに対して2.0%未満であり、かつ、第3コレステリック液晶層の反射中心波長λと第4コレステリック液晶層の反射中心波長λとの差が反射中心波長λに対して2.0%未満である場合、透過帯域の高透過性がより優れることが確認され、第1コレステリック液晶層の反射中心波長λと第2コレステリック液晶層の反射中心波長λとの差が反射中心波長λに対して1.0%未満であり、かつ、第3コレステリック液晶層の反射中心波長λと第4コレステリック液晶層の反射中心波長λとの差が反射中心波長λに対して1.0%未満である場合、透過帯域の透過性および高透過帯域比が更に優れることが確認された(実施例5、11および12の比較)。
【0140】
上記透過帯域の透過中心波長λに対する上記透過帯域の半値全幅の比率が15.0%以下である場合、透過帯域の透過性および高透過帯域比が更に優れることが確認された(実施例5、13および14の比較)。
【0141】
第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1が0.11以上であり、第3コレステリック液晶層の複屈折Δn3が0.11以上である場合、透過帯域の高透過帯域比がより優れることが確認され、第1コレステリック液晶層の複屈折Δn1が0.17以上であり、第3コレステリック液晶層の複屈折Δn3が0.17以上である場合、透過帯域の透過性および高透過帯域比が更に優れることが確認された(実施例5、16、17および18の比較)。
【0142】
[実施例19]
上記〔コレステリック液晶層の特性〕に記載の方法に従って、実施例18で作製したバンドパスフィルターが有する第1コレステリック液晶層を単独で有するサンプルを作製し、上述の方法に従って第1コレステリック液晶層の熱膨張係数を測定したところ、実施例17の第1コレステリック液晶層の熱膨張係数は200ppm/℃であった。同様の測定を行った結果、実施例18のバンドパスフィルターが有する第2~第4コレステリック液晶層の熱膨張係数はいずれも200ppm/℃であった。
【0143】
実施例18で作製されたバンドパスフィルターに対し、室温(25℃)において905nmの波長の光を照射するレーザーを用いて、上記バンドパスフィルターおよびレーザーが存在する環境の温度を変えながら、照射光の透過の可否を確認した。その結果、上記バンドパスフィルターは、室温(25℃)から120℃までの範囲のいずれの環境下においても、レーザーから照射される光を透過することが確認された。
【0144】
なお、実施例1~17の各バンドパスフィルターが備える第1コレステリック液晶層~第6コレステリック液晶層の熱膨張係数を上述した方法で測定したところ、いずれも50ppm/℃以上であった。
【0145】
[実施例20]
実施例1の〔右円偏光用バンドパスフィルターの形成〕における(工程1)および(工程2)の間に、下記工程3を実施すること以外は、実施例1に記載の方法に従って、実施例20の全光用バンドパスフィルター20を作製した。
【0146】
(工程3)
液晶化合物を配向させた組成物層に対して、室温(25℃)かつ酸素雰囲気下、面内の中心部に向かって365nmの光の透過率が減衰しているカットフィルターを介して、光源(UVP社製、2UV・トランスイルミネーター)を用いて、波長365nmの光を照射した。
【0147】
その結果、得られた全光用バンドパスフィルター19が有する各コレステリック液晶層には、面内の中心部から周辺部に向かって離間するに従って反射中心波長が長波長側にシフトする放射状の面内グラジエントが形成されていたことが確認された。
【0148】
実施例1で作製された全光用バンドパスフィルター1と、上記の面内グラジエントを有する実施例19の全光用バンドパスフィルター19を用いて、図3に示すように、それぞれのバンドパスフィルターの前面に凸レンズを設置し、波長905nmのレーザー光を凸レンズを介してバンドパスフィルターに照射した。
実施例1の全光用バンドパスフィルター1を用いた場合、中心部近傍では波長905nmのレーザー光を透過するが、中心部から離間した周辺部では、レンズを通過した際の屈折により全光用バンドパスフィルター1に対するレーザー光の入射角が大きくなり、その結果、レーザー光が反射され、透過しなかった。
それに対し、実施例20の全光用バンドパスフィルター20を用いた場合、中心部近傍はもちろんのこと、入射角が大きいレーザー光が入射する周辺部においても、レーザー光が透過したことが確認された。
【符号の説明】
【0149】
10,12,14 バンドパスフィルター
20,24 反射部材A
22,26 反射部材B
31 第1コレステリック液晶層
32 第2コレステリック液晶層
33 第3コレステリック液晶層
34 第4コレステリック液晶層
35 第5コレステリック液晶層
36 第6コレステリック液晶層
40 レンズ
100 透過帯域
200,300 反射帯域
図1
図2
図3
図4