(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185440
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】有効成分担持粉体および化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/37 20060101AFI20221207BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20221207BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20221207BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20221207BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
A61K8/37
A61K8/25
A61Q19/08
A61Q19/00
A61K8/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093136
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】有福 直樹
(72)【発明者】
【氏名】福寿 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 友彦
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB032
4C083AB171
4C083AB172
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC151
4C083AC152
4C083AC351
4C083AC352
4C083AC432
4C083AD092
4C083AD152
4C083BB11
4C083BB25
4C083BB26
4C083BB48
4C083BB51
4C083CC01
4C083CC04
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD41
4C083EE07
4C083EE12
4C083EE16
(57)【要約】
【課題】徐放性を有する有効成分担持粉体の提供。
【解決手段】本発明の有効成分担持粉体は、油溶性の有効成分と、エステル油剤と、エアロゲルと、を含む。エステル油剤のIOB値は0.4以下である。エステル油剤の粘度は7.0mPa・s以上30.0mPa・s未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油溶性の有効成分と、エステル油剤と、エアロゲルと、を含む有効成分担持粉体であって、
前記エステル油剤のIOB値は0.4以下であり、
前記エステル油剤の粘度は7.0mPa・s以上30.0mPa・s未満である、
有効成分担持粉体。
【請求項2】
前記エアロゲルがシリカエアロゲルである、請求項1に記載の有効成分担持粉体。
【請求項3】
前記エアロゲルの平均円形度が0.8以上である、請求項1または2に記載の有効成分担持粉体。
【請求項4】
前記エアロゲルのメタノール湿潤性を表すM値が20以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の有効成分担持粉体。
【請求項5】
コールターカウンター法により測定された、前記エアロゲルの体積基準累積50%径(D50)が1μm以上200μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の有効成分担持粉体。
【請求項6】
前記有効成分が、殺菌剤、消炎剤、美白剤およびアンチエイジング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の有効成分である、請求項1~5のいずれか1項に記載の有効成分担持粉体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の有効成分担持粉体を含む、化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分担持粉体および当該有効成分担持粉体を含む化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカを用いた化粧料の研究開発が盛んに行われている。例えば、特許文献1には、油剤を予め含浸させた、表面処理を行っていない多孔質粉体シリカを配合する化粧崩れ防止用粉体化粧料が記載されている。また、特許文献2には、非水溶性皮膚有益剤で含浸された多孔質球状崩壊性シリカを含む皮膚ケア処理用組成物が記載されている。
【0003】
また、化粧料の用途に適したシリカの研究開発も行われている。例えば、特許文献3には、断熱性に優れ、平均粒径が1~20μm程度であり、形状が球状であるエアロゲル(シリカエアロゲル)を効率良く製造する方法が記載されている。また、特許文献4には、HLBが20以下の界面活性剤の存在下、W/Oエマルジョンを形成させた後、W相をゲル化させて製造された多孔質球状金属酸化物が記載されている。当該金属酸化物は界面活性剤を吸着していないため、化粧料および樹脂等への添加剤として有用であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-1997号公報
【特許文献2】特表2005-517770号公報
【特許文献3】国際公開第2012/057086号
【特許文献4】特開2014-218433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、有効成分をゆっくりと放出させることによって当該有効成分の効果を持続させる、徐放性を有する化粧料のニーズが高まっている。一方、徐放性を有する化粧料の原料となる粉体の実現には至っていない。したがって、有効成分を担持させた粉体の徐放性に関するさらなる研究開発が望まれている。
【0006】
本発明の一態様は、徐放性を有する有効成分担持粉体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る有効成分担持粉体は、油溶性の有効成分と、エステル油剤と、エアロゲルと、を含む有効成分担持粉体であって、エステル油剤のIOB値は0.4以下であり、エステル油剤の粘度は7.0mPa・s以上30.0mPa・s未満である。
【0008】
上記構成によれば、有効成分をゆっくりと放出し、長時間にわたって当該有効成分の作用を持続させることができる。
【0009】
上記エアロゲルはシリカエアロゲルであってもよい。本構成によれば、有効成分の担持性に優れた有効成分担持粉体を提供することができる。
【0010】
上記エアロゲルの平均円形度は0.8以上であってもよい。本構成によれば、有効成分担持粉体を化粧料の原料として使用したときに、流動性および充填性、ローリング性が良く、優れた触感を有する化粧料を提供することができる。
【0011】
上記エアロゲルのメタノール湿潤性を表すM値は20以上であってもよい。本構成によれば、有効成分担持粉体は化粧料原料として適した疎水性を有する。
【0012】
コールターカウンター法により測定された、上記エアロゲルの体積基準累積50%径(D50)は1μm以上200μm以下であってもよい。本構成によれば、有効成分担持粉体を化粧料の原料として使用したときに、外観保持性が良く、滑らかな触感を有する化粧料を提供することができる。
【0013】
上記有効成分は、殺菌剤、消炎剤、美白剤およびアンチエイジング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の有効成分であってもよい。本構成によれば、所望の作用を有する化粧料を提供することができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係る化粧料は、上記有効成分担持粉体を含む。本構成によれば、有効成分をゆっくりと放出し、長時間にわたって当該有効成分の作用を持続させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、徐放性を有する有効成分担持粉体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、有効成分を担持させた粉体(有効成分担持粉体)について詳細な検討を重ねた結果、新規の知見を得ることに成功した。すなわち、特定のエステル油剤、有効成分およびエアロゲルを用いて有効成分担持粉体を調製することによって、有効成分をゆっくりと放出し、長時間にわたって当該有効成分の作用を持続させることができることを本発明者らは独自に見出した。
【0017】
〔有効成分担持粉体〕
本実施形態に係る有効成分担持粉体は、有効成分と、エステル油剤と、エアロゲルと、を含む。
【0018】
(エステル油剤)
上記エステル油剤のIOB値は0.4以下である。IOB値とは、無機性値の有機性値に対する比率を表す値(無機性/有機性比;Inorganic/Organic Balance)である。具体的には、有機概念図法における無機性値(IV;Inorganic Value)/有機性値(OV;Organic Value)である。有機概念図法については、例えば、甲田善生、有機概念図-基礎と応用(三共出版、1934)(新版1984)に記載されている。
【0019】
エステル油剤のIOB値の下限は、有効成分をゆっくりと放出し、長時間にわたって当該有効成分の作用をより持続させることができるという点等で、0.10以上であることが好ましく、0.12以上であることがより好ましい。また、エステル油剤のIOB値の上限は、0.40以下であることが好ましく、0.34以下であることが好ましい。IOB値が0.4を超えると、水に溶解し易くなり、有効成分担持粉体が徐放性を有することが困難となる。また、IOB値が0.1未満になると、べたつく感触を生じ、肌触りが悪化する場合がある。
【0020】
2種類以上のエステル油剤のIOB値は、各エステル油剤のIOB値を質量比で加重平均した値である。
【0021】
また、上記エステル油剤の粘度は7.0mPa・s以上30.0mPa・s未満である。本明細書において、エステル油剤の粘度は20℃における粘度である。粘度は、B型粘度計によって測定される値である。
【0022】
エステル油剤の粘度の下限は8.5mPa・s以上であることが好ましく、10.0mPa・s以上であることがより好ましい。粘度が7.0mPa・s未満であると、有効成分を含んだエステル油剤が担持体から放出され易くなり、有効成分担持粉体が徐放性を有することが困難となる。また、エステル油剤の粘度の上限は25.0mPa・s以下であることが好ましく、20.0mPa・s以下であることがより好ましい。粘度が30.0mPa・s以上であると、有効成分を含んだエステル油剤が担持体に留まり易く(放出され難く)なり、有効成分担持粉体が徐放性を有することが困難となる。
【0023】
エステル油剤は、モノエステルであってもよく、ジエステルであってもよく、トリエステルであってもよい。また、エステル油剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
モノエステルの例として、炭素数6以上22以下の脂肪酸と炭素数4以上30以下の1価アルコールとのエステルが挙げられる。脂肪酸は直鎖脂肪酸であっても分岐脂肪酸であってもよい。また、アルコールは直鎖アルコールであっても分岐アルコールであってもよい。モノエステルの具体例として、イソノナン酸イソノニルおよびイソノナン酸イソトリデシル等のイソノナン酸エステル;パルミチン酸エチルヘキシル等のパルミチン酸エステル;ミリスチン酸エステル、オレイン酸エステル、ラウリン酸エステル、ステアリン酸エステル、リノール酸エステル、カプリル酸エステル、リシノール酸エステル等が挙げられる。有効成分をゆっくりと放出し、長時間にわたって当該有効成分の作用を持続させることができるという点で、エステル油剤に使用されるモノエステルは、炭素数9以上16以下の脂肪酸と炭素数9以上13以下の1価アルコールとのエステルが好ましい。
【0025】
ジエステルの例として、炭素数6以上22以下の脂肪酸と炭素数2以上30以下の2価アルコールとのエステルが挙げられる。脂肪酸は直鎖脂肪酸であっても分岐脂肪酸であってもよい。また、アルコールは直鎖アルコールであっても分岐アルコールであってもよい。ジエステルの具体例として、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール等が挙げられる。有効成分をゆっくりと放出し、長時間にわたって当該有効成分の作用を持続させることができるという点で、エステル油剤に使用されるジエステルは、炭素数8以上10以下の脂肪酸と炭素数5以上15以下の2価アルコールとのエステルが好ましい。
【0026】
トリエステルの例として、炭素数2以上22以下の脂肪酸と炭素数3以上30以下の3価アルコールとのエステルが挙げられる。脂肪酸は直鎖脂肪酸であっても分岐脂肪酸であってもよい。また、アルコールは直鎖アルコールであっても分岐アルコールであってもよい。トリエステルの具体例として、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリイソパルミチン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル等が挙げられる。有効成分をゆっくりと放出し、長時間にわたって当該有効成分の作用を持続させることができるという点で、エステル油剤に使用されるトリエステルは、炭素数8以上10以下の脂肪酸と炭素数3以上15以下の3価アルコールとのエステルが好ましい。
【0027】
(エアロゲル)
本明細書において、エアロゲルは、多孔質な構造を有し分散媒体として気体を伴う固体材料を意味し、特に空隙率60%以上の固体材料を意味する。なお、空隙率とは、見掛けの体積中に含まれている気体の量を体積百分率で表した値である。
【0028】
エアロゲルはシリカエアロゲルが好ましい。シリカエアロゲルはシリカ骨格を有するエアロゲルを意味する。シリカエアロゲルは高い空隙率を有するにもかかわらず、優れた機械強度を示す。
【0029】
エアロゲルの平均円形度の下限は0.8以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましく、0.90以上であることがさらに好ましい。平均円形度が上記範囲内であると、有効成分担持粉体を化粧料の原料として使用したときに、流動性および充填性、ローリング性が良く、優れた触感を有する化粧料を提供することができる。平均円形度は走査電子顕微鏡(SEM)を用いた画像解析法により算出される値である。
【0030】
具体的には、平均円形度は、2000個以上のエアロゲルについてSEMにより1000倍の倍率で観察したSEM像を画像解析して得られる円形度の相加平均値である。エアロゲルの円形度は下記式(1)により求められる値である。
C=4πS/L2 ・・・(1)
式(1)中、Cは円形度を表す。Sは当該エアロゲルが画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該エアロゲルの外周部の長さ(周囲長)を表す。
【0031】
エアロゲルのメタノール湿潤性を表すM値の下限は20以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、35以上であることがさらに好ましい。M値が上記下限以上であると、皮脂等の油分と有効成分担持粉体との接触した際に、油分の吸収性が高く、吸収した油分とエステル油剤とが混じり合うことによって、有効成分を徐々に放出させることができる。また、エアロゲルのM値の上限は60以下であることが好ましく、55以下であることがより好ましく、50以下であることがさらに好ましい。M値が上記上限以下であると、十分な量の有効成分をエアロゲルの細孔内に担持させることができる。
【0032】
M値の測定方法は、0.2gのエアロゲルを50mLの水が入った容量250mLのビーカーに加え、マグネチックスターラーにより撹拌する。ここに、ビュレットを使用してメタノールをサンプルに直接接触しないようにチューブを用いて添加し、サンプルの全量が溶液中に分散し懸濁したところを終点として滴定する。終点におけるメタノール-水混合溶媒中のメタノールの容量百分率(vol%)をM値とする。M値は下記式(2)により求められる値である。
M値=メタノール滴下量(mL)/(メタノール滴下量(mL)+50mL)×100 ・・・(2)
【0033】
エアロゲルの体積基準累積50%値(D50)の下限は1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。また、エアロゲルのD50の上限は200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。D50が上記範囲内であると、有効成分担持粉体を化粧料の原料として使用したときに、外観保持性が良く、滑らかな触感を有する化粧料を提供することができる。エアロゲルのD50はコールターカウンターによって測定される値である。
【0034】
エアロゲルの吸油量の下限は400mL/100g以上であることが好ましく、500mL/100g以上であることがより好ましく、550mL/100g以上であることがさらに好ましい。また、エアロゲルの吸油量の上限は800mL/100g以下であることが好ましく、750mL/100g以下であることがより好ましく、700mL/100g以下であることがさらに好ましい。吸油量が上記範囲内であると、有効成分担持粉体を化粧料の原料として使用したときに、外観保持性が良く、滑らかな触感を有する化粧料を提供することができる。吸油量は、JIS K5101-13-1「精製あまに油法」記載の方法に測定される値である。
【0035】
エアロゲルの比表面積の下限は350m2/g以上であることが好ましく、400m2/g以上であることがより好ましく、500m2/g以上であることがさらに好ましい。また、エアロゲルの比表面積の上限は1000m2/g以下であることが好ましく、900m2/g以下であることがより好ましく、850m2/g以下であることがさらに好ましい。比表面積が上記範囲内であると、エアロゲルは有効成分の担持性に優れているという効果を奏する。比表面積は、BET法によって測定される値である。
【0036】
具体的には、測定対象のサンプルを、1kPa以下の真空下において200℃の温度で3時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を測定する。そして、当該吸着等温線をBET法により解析して求めた値が比表面積である。その際の解析に用いる圧力範囲は、相対圧0.1~0.25の範囲である。
【0037】
エアロゲルの細孔容積の下限は3mL/g以上であることが好ましく、3.5mL/g以上であることがより好ましく、4.0mL/g以上であることがさらに好ましい。また、エアロゲルの細孔容積の上限は6mL/g以下であることが好ましく、5.5mL/g以下であることがより好ましく、5.0mL/g以下であることがさらに好ましい。細孔容積が上記範囲内であるとエアロゲルは、有効成分の充填性に優れているという効果を奏する。細孔容積は、BJH法によって測定される値である。
【0038】
具体的には、測定対象のサンプルを、1kPa以下の真空下において200℃の温度で3時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を測定する。そして、当該吸着等温線をBJH法(Barrett, E. P.;Joyner, L. G.; Halenda, P. P., J. Am. Chem. Soc. 73, 373 (1951))により解析することによって、細孔半径1nm以上100nm以下の細孔に由来する細孔容積が得られる。
【0039】
エアロゲルの細孔半径のピークの下限は10nm以上であることが好ましく、12nm以上であることがより好ましく、13nm以上であることがさらに好ましい。また、エアロゲルの細孔半径のピークの上限は40nm以下であることが好ましく、35nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。また、細孔半径が1nm~100nmの範囲内に全細孔容積の70容量%以上の細孔が存在することが好ましい。細孔半径のピークが上記範囲内であるとエアロゲルは、有効成分の充填性に優れている、エアロゲルの細孔への油分の吸収力が高い等の効果を奏する。細孔半径は、BJH法によって測定される値である。
【0040】
具体的には、測定対象のサンプルを、1kPa以下の真空下において200℃の温度で3時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を測定する。そして、当該吸着等温線をBJH法により解析して得られる、細孔半径の対数による累積細孔容積の微分を縦軸にとり細孔半径を横軸にとってプロットした細孔分布曲線(体積分布曲線)が最大のピーク値をとる細孔半径を、細孔半径のピークとする。
【0041】
エアロゲルの疎水性を表す炭素含有量(C値)の下限は7.5質量%以上であることが好ましく、8.0質量%以上であることがより好ましく、8.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、エアロゲルのC値の上限は20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましい。C値が上記範囲内であると、有効成分担持粉体は化粧料原料として適した疎水性を有するという効果を奏する。
【0042】
C値は、1000~1500℃程度の温度において、空気中または酸素中でエアロゲルを酸化処理した際に発生する二酸化炭素の量を定量することにより、測定することができる。
【0043】
エアロゲルは公知の方法によって調製することができる。例えば、特許文献3または4に記載の方法によって調製することができる。
【0044】
(有効成分)
上記有効成分は油溶性であり、水に不溶または難溶である。有効成分の例として、殺菌剤、消炎剤、美白剤およびアンチエイジング剤等が挙げられる。有効成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。有効成分は、徐放性の点等で、IOB値が0.0以上1.0以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.6以下であることがさらに好ましい。
【0045】
殺菌剤の例として、安息香酸、ウンデシレン酸、サリチル酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸メチル)等の有機酸およびその誘導体;イソプロピルメチルフェノール、オルトフェニルフェノール、クロルチモール、クロルフェネシン、p-クロロ-m-クレゾール、ジクロロベンジルアルコール、チオビスクロロフェノール、チモール、トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル、パラクロルフェノール、ハロカルバン、フェノキシエタノール、フェノール、ヘキサクロロフェン等のフェノール類;等が挙げられる。
【0046】
消炎剤の例として、グアイアズレン、グリチルリチン酸、および、グリチルレチン酸等が挙げられる。
【0047】
美白剤の例として、ジパルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルおよびテトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル等のアスコルビン酸の脂溶性誘導体;ルシノール;リノール酸;リノレン酸;等が挙げられる。
【0048】
アンチエイジング剤の例として、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル等が挙げられる。
【0049】
本実施形態に係る有効成分担持粉体に含まれる有効成分の含有量の下限は、当該有効成分担持粉体全体の質量に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、有効成分の含有量の上限は、当該有効成分担持粉体全体の質量に対して、12質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましい。有効成分の含有量が上記範囲内であると、有効成分の作用を十分に発揮させることができる。
【0050】
本実施形態に係る有効成分担持粉体に含まれるエアロゲルの含有量の下限は、当該有効成分担持粉体全体の質量に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、エアロゲルの含有量の上限は、当該有効成分担持粉体全体の質量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。エアロゲルの含有量が上記上限以下であると、有効成分をゆっくりと放出し、長時間にわたって当該有効成分の作用をより持続させることができる。
【0051】
本実施形態に係る有効成分担持粉体に含まれるエステル油剤の含有量の下限は、当該有効成分担持粉体全体の質量に対して、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。また、エステル油剤の含有量の上限は、当該有効成分担持粉体全体の質量に対して、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。エステル油剤の含有量が上記範囲内であると、適量のエステル油剤と皮脂等の油分とが混じり合うことによって、有効成分担持粉体に担持された有効成分をゆっくりと放出し、長時間にわたって当該有効成分の作用をより持続させることができる。
【0052】
(有効成分担持粉体の調製方法)
有効成分担持粉体は例えば、エステル油剤、エアロゲルおよび有効成分を混合することによって調製することができる。
【0053】
〔化粧料〕
本実施形態に係る化粧料は、上記有効成分担持粉体を含む。当該化粧料の形態は、粉末状、ローション状、溶液状、乳液状、クリーム状、軟膏状およびゲル状等が挙げられる。化粧料の具体例として、乳液、化粧水、ジェル、クリーム、パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、美容液、軟膏、パック、マスク等が挙げられる。化粧料は公知の方法によって製造することができる。
【0054】
本実施形態に係る化粧料を肌に塗布すると、皮脂等の油分とエステル油剤が混じり合いながら、有効成分がゆっくりと放出し、長時間にわたって当該有効成分の作用を持続させることができる。
【0055】
本実施形態に係る有効成分担持粉体等によれば、徐放性を有する化粧料を提供することができる。すなわち、少量の化粧料の使用で効果を持続させることができるので、有効成分等の消費量を低減させることができる。したがって、持続可能な生産消費形態を確保することができ、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0056】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例0057】
以下の実施例中、特に記載がない限り、%は質量%を表す。
【0058】
〔調製例〕シリカエアロゲルの調製
特許文献4に記載される調製方法に従ってシリカエアロゲルを調製した。そして、以下の項目について試験を行った。
【0059】
(平均円形度の測定)
2000個以上の球状金属酸化物についてSEM(日立ハイテクノロジーズ製S-5500、加速電圧3.0kV、二次電子検出)を用いて倍率1000倍で観察したSEM像を画像解析し、前述の定義に従って平均円形度を算出した。
【0060】
(BET比表面積、BJH細孔容積、細孔半径のピーク)
BET比表面積、BJH細孔容積、および細孔半径のピークの測定は、前述の定義に従って日本ベル株式会社製BELSORP-miniにより行った。
【0061】
(D50)
D50は、コールターカウンター法によって、精密粒度分布測定装置Multisizer3(ベックマン・コールター株式会社製)によって測定した。
【0062】
(吸油量)
吸油量の測定は、JIS K5101-13-1に規定されている「精製あまに油法」により行った。
【0063】
(C値)
C値の測定はelementar社vario MICRO cubeを用いて、温度1150℃において酸素とヘリウムをフローしながらで酸化処理し、発生した二酸化炭素の量を定量することにより測定し、金属酸化物粉末全量を基準(100質量%)とする質量%で算出した。
【0064】
(M値)
シリカエアロゲルサンプル0.2gを50mLの水が入った容量250mLのビーカーに加え、マグネチックスターラーにより撹拌した。撹拌後、ビュレットを使用してメタノールをサンプルに直接接触しないようにチューブを用いて添加し、サンプルの全量が溶液中に分散し懸濁したところを終点として滴定した。終点におけるメタノール-水混合溶媒中のメタノールの容量百分率(vol%)を、上記式(2)から算出しM値とした。
【0065】
調製したシリカエアロゲルの物性を表1に示す。このシリカエアロゲルは特許文献4に記載される調製方法によって調製した。
【0066】
【0067】
〔実施例1〕有効成分担持粉体の調製
有効成分としてイソプロピルメチルフェノール(IPMP)、エステル油剤としてイソノナン酸イソノニル(IOB値:0.2)、エアロゲルとしてシリカエアロゲルを用意した。
【0068】
エステル油剤15.0gにIPMP0.1gを溶解させた。次に、3.0gのシリカエアロゲルを混合させることによって、IPMP担持粉体(有効成分担持粉体)を調製した。
【0069】
〔実施例2~7および比較例1~3〕有効成分担持粉体の調製
エステル油剤を表2に記載のエステル油剤に変更した以外は、実施例1と同じ方法により、IPMP担持粉体を調製した。
【0070】
〔評価例〕
マイクロチューブに実施例および比較例で調製したIPMP担持粉体をそれぞれ0.5g投入した。投入後、500μLのスクワランをマイクロチューブに投入した。そして、マイクロチューブをボルテックスミキサー(VORTEX-GENIE2)で撹拌し、30秒間超音波処理した。超音波装置として、ブランソン製のブランソニック1510を使用した。そして、ミックスローター(MX-T6-Pro)で50rpmにおいて1時間または5時間で撹拌した。
【0071】
撹拌後、マイクロチューブを遠心分離(15000rpm、15分間)に供した。遠心分離装置としてTOMY KINTAROを使用した。そして、上澄み液をシリンジ(0.45μm、PTFE)でろ過した。ろ液を300μL回収した。そして、回収したろ液にメタノールを900μL加えて、ボルテックスミキサーで撹拌し、サンプルとした。
【0072】
上位サンプルを石英セル(行路長1cm)に投入し、紫外可視分光光度計(UV-1280、島津製作所製)を用いて波長279nmの吸光度(W1)を測定した。
【0073】
また、各エステル油剤420μLおよびスクワラン500μLをマイクロチューブに入れ、さらにメタノール900μLを加えてボルテックスミキサーで撹拌して得られた溶液の波長279nmの吸光度(W0)を測定した。
【0074】
そして、W1の値からからW0の値を差し引いた値を基に、スクワランを投入してから1時間後および5時間後のIPMP放出濃度を算出した。
【0075】
各実施例および比較例で使用したエステル油剤の粘度およびIOB値、ならびに、各実施例および比較例で調製した有効成分担持粉体の評価結果を表2に示す。表2中、エステル油剤の粘度は、JIS Z 8803に準じ、B型粘度計(TOKIMEC、BL型)を使用して20℃の粘度(mPa・s)を測定した。
【0076】
また、表2中、「1H」および「5H」はそれぞれ、スクワランを投入してから1および5時間後のIPMP放出濃度を表す。5H/1Hは、スクワランを投入してから1時間後のIPMP放出濃度に対する、スクワランを投入してから5時間後のIPMP放出濃度の比を示す。5H/1Hの値が1.2を超えたときに、評価した有効成分担持粉体は徐放性を有すると判断した。また、Nは評価回数を示し、「1H」および「5H」の測定値は平均値である。
【0077】
【0078】
表1に示すように、実施例1~7の有効成分担持粉体は5H/1Hの値が1.2を超え、徐放性を有することが分かった。
【0079】
〔評価例〕化粧水の調製
表3に示す配合量で化粧水を調製した。IPMP担持粉体は実施例3で調製したIPMP担持粉体を使用した。IPMP担持粉体とグリセリンを混合後、表3に示す成分を混合させることによってジェル状の化粧水が得られた。
【0080】