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特開2022-185465リチウム含有酸化物及び固体電解質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185465
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】リチウム含有酸化物及び固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20221207BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20221207BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20221207BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20221207BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/08
H01B13/00 Z
H01M10/0562
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093168
(22)【出願日】2021-06-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】土居 篤典
(72)【発明者】
【氏名】陰山 洋
(72)【発明者】
【氏名】タッセル セドリック
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA16
5G301CA18
5G301CA26
5G301CA27
5G301CA28
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】イオン伝導性に優れるリチウム含有酸化物、該リチウム含有酸化物を含む燒結体及び電解質組成物並びに固体電解質の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム含有酸化物は、立方晶のガーネット構造を有し、19F核の共鳴周波数が564MHzである条件下で固体19F-NMRスペクトルを測定した際に、ポリテトラフルオロエチレンの化学シフトを-122ppmとして、-100~50ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶のガーネット構造を有し、
19F核の共鳴周波数が564MHzである条件下で固体19F-NMRスペクトルを測定した際に、ポリテトラフルオロエチレンの化学シフトを-122ppmとして、-100~50ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測される、リチウム含有酸化物。
【請求項2】
Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測される、請求項1に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項3】
フッ素原子を含み、立方晶のガーネット構造を有し、
Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも2本のピークが観測される、リチウム含有酸化物。
【請求項4】
Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に、2ppm以下の半値幅を有する少なくとも2本のピークが観測される、請求項3に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項5】
Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に2本のピークが観測され、
前記2本のピークの面積強度の和に対する、より小さい面積強度を有するピークの面積強度の比が0.3%以上である、請求項3又は4に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項6】
19F核の共鳴周波数が564MHzである条件下で固体19F-NMRスペクトルを測定した際に、ポリテトラフルオロエチレンの化学シフトを-122ppmとして、-100~50ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測される、請求項5に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項7】
ICP発光分光分析法により測定された原子数の比について、Laを3としたときに、Liが5~12、Zrが1~3である、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項8】
粉末X線回折チャートにおいて、16.0~17.0°におけるピークの強度に対する、28.5~29.0°におけるピークの強度が0.5以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム含有酸化物を含む、焼結体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム含有酸化物を含む、電解質組成物。
【請求項11】
リチウム含有酸化物にトポタクティック反応を行う工程を備える、固体電解質の製造方法。
【請求項12】
前記トポタクティック反応が900℃以下の温度で行われる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記トポタクティック反応により、リチウム含有酸化物にアニオンが導入され、
前記アニオンが、ハロゲン、カルコゲン、窒素及びリンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含む、請求項11又は12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記トポタクティック反応において、前記リチウム含有酸化物と金属フッ化物とを反応させる、請求項11~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記金属フッ化物が、GaF、MgF、NiF及びZnFの少なくとも一種である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記固体電解質がガーネット型結晶構造を有する、請求項11~15のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有酸化物及び固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質は、例えば、イオン伝導材料などとして、近年、様々な分野で盛んに研究がおこなわれている)。特に、LiLaZr12(LLZO)等のリチウム含有酸化物は、リチウムイオン電池の固体電解質層として有用であることから、特に注目を集めている(特許文献1~7、非特許文献1~4)。電池の電解質を、従来の電解液から固体電解質に置換した全固体電池は、溶媒を使用しないことから、高容量化、急速充放電が可能であること、難燃性であり、溶媒の分解がないことから安全であること、高温耐久性が有り、冷却設備が不要であることから、パックエネルギー密度の向上が可能であることなど、多くの利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2015/065879号
【特許文献2】特開2020-087770号公報
【特許文献3】国際公開2015/079509号
【特許文献4】中国特許出願公開第102780028号明細書
【特許文献5】中国特許出願公開第102780031号明細書
【特許文献6】中国特許出願公開第102867987号明細書
【特許文献7】中国特許出願公開第102867988号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】LIU Cai et al., "High Ion Conductivity in Garnet-type F-dopedLi7La3Zr2O12", Journal ofInorganic Materials, Vol. 30 No. 9, p995-1000, Sep., 2015.
【非特許文献2】Yao Lu et al., "Effects of Fluorine Doping on Structural andElectrochemical Properties of Li6.25Ga0.25La3Zr2O12as Electrolytes for Solid-State Lithium Batteries", ACS Appl. Mater.Interfaces 2019, 11, p2042-2049.
【非特許文献3】Stephen R. Yeandel et al., "Structure and Lithium-Ion Dynamicsin Fluoride-Doped Cubic Li7La3Zr2O12(LLZO) Garnet for Li Solid-State Battery Applications", J. Phys. Chem. C2018, 122, p27811-27819.
【非特許文献4】Qiuying Li et al., "Investigation the electrochemicalproperties of LiCl-LiBr-LiF-doped Li7La3Zr2O12electrolyte for lithium thermal batteries", Ionics (2020), 26, p3875-3882.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の固体電解質は、イオン伝導性について未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたものであり、イオン伝導性に優れるリチウム含有酸化物を提供することを目的とする。また、本発明は、イオン伝導性に優れる固体電解質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリチウム含有酸化物は、立方晶のガーネット構造を有し、19F核の共鳴周波数が564MHzである条件下で固体19F-NMRスペクトルを測定した際に、ポリテトラフルオロエチレンの化学シフトを-122ppmとして、-100~50ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測されるものである。当該リチウム含有酸化物は、Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測されると好ましい。
【0008】
本発明のリチウム含有酸化物は、フッ素原子を含み、立方晶のガーネット構造を有し、Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも2本のピークが観測されるものであってもよい。当該リチウム含有酸化物は、19F核の共鳴周波数が564MHzである条件下で固体19F-NMRスペクトルを測定した際に、ポリテトラフルオロエチレンの化学シフトを-122ppmとして、-100~50ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測されると好ましい。
【0009】
本発明のリチウム含有酸化物は、Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に、2ppm以下の半値幅を有する少なくとも2本のピークが観測されると好ましい。
【0010】
本発明のリチウム含有酸化物は、Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に2本のピークが観測され、当該2本のピークの面積強度の和に対する、より小さい面積強度を有するピークの面積強度の比が0.3%以上であると好ましい。
【0011】
本発明のリチウム含有酸化物は、ICP発光分光分析法により測定された原子数の比について、Laを3としたときに、Liが6~12、Zrが1~3であると好ましい。
【0012】
本発明のリチウム含有酸化物は、粉末X線回折チャートにおいて、16.0~17.0°におけるピークの強度に対する、28.5~29.0°におけるピークの強度が0.5以下であると好ましい。
【0013】
本発明の焼結体は、上記リチウム含有酸化物を含む。
【0014】
本発明の電解質組成物は、上記リチウム含有酸化物を含む。
【0015】
本発明の固体電解質の製造方法は、リチウム含有酸化物にトポタクティック反応を行う工程を備える。
【0016】
上記トポタクティック反応が900℃以下の温度で行われると好ましい。
【0017】
上記トポタクティック反応により、リチウム含有酸化物にアニオンが導入され、当該アニオンが、ハロゲン、カルコゲン、窒素及びリンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含むと好ましい。
【0018】
上記トポタクティック反応において、前記リチウム含有酸化物と金属フッ化物とを反応させると好ましい。
【0019】
上記金属フッ化物が、GaF、MgF、NiF及びZnFの少なくとも一種であると好ましい。
【0020】
上記固体電解質がガーネット型構造を有すると好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、イオン伝導性に優れるリチウム含有酸化物を提供することができる。また、本発明によれば、イオン伝導性に優れる固体電解質の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<リチウム含有酸化物>
本実施形態のリチウム含有酸化物は、フッ素原子を含み、立方晶のガーネット構造を有し、以下の条件(1)及び条件(2)の少なくとも一方を満たすものである。
条件(1):19F核の共鳴周波数が564MHzである条件下で固体19F-NMRスペクトルを測定した際に、ポリテトラフルオロエチレンの化学シフトを-122ppmとして、-100~50ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測される。
条件(2):Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも2本のピークが観測される。
また、条件(1)において、化学シフトの基準となるポリテトラフルオロエチレンのピークは、-CF-CF-単位のフッ素原子に帰属されるピークである。
このようなリチウム含有酸化物は、イオン伝導性(リチウムイオン伝導性)に優れる。なお、条件(1)及び(2)で言うピークはNMRの共鳴ピークであり、スピニングサイドバンドを含まないことは言うまでもない。なお、以下では、固体19F-NMRスペクトルにおける化学シフトは、19F核の共鳴周波数が564MHzである条件下で測定された、ポリテトラフルオロエチレンの化学シフトを-122ppmとした場合の化学シフトを意味するものとし、固体Li-NMRスペクトルにおける化学シフトは、Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件で測定された、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとした場合の化学シフトを意味するものとする。また、固体19F-NMRスペクトル及び固体Li-NMRスペクトルのその他の測定条件としては、例えば、実施例における測定条件が挙げられる。
【0023】
上記リチウム含有酸化物がリチウムイオン伝導性に優れる理由は必ずしも定かではないが、その理由について本発明者らは以下のように考えている。
まず、条件(1)について、従来のフッ素を含むガーネット構造を有するリチウム含有酸化物(例えば、比較例2及び3)では、固体19F-NMRスペクトルにおいて、-100~50ppmの化学シフトの範囲内にピークは観測されない。そのため、本実施形態のリチウム含有酸化物に含まれるフッ素の少なくとも一部は、化合物中で、従来のフッ素を含むリチウム含有酸化物におけるフッ素とは異なる環境下に置かれていると言える。これにより、リチウム含有酸化物の結晶構造及び電荷状態に局所的に影響を与え、化合物中のリチウムイオンの分布又は移動性に影響を与えていると考えられる。
また、条件(2)について、従来のリチウム含有酸化物(例えば、比較例3)では、固体Li-NMRスペクトルにおいて、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に単一のピークしか観測されない。そのため、条件(2)を満たすリチウム含有酸化物は、従来のリチウム含有酸化物とは異なる環境に置かれたリチウムイオンを含むと言える。かかるリチウムイオンは移動性が高いため、電圧を印加した際に容易に移動し、リチウムイオン伝導性の向上に寄与しているものと考えられる。
条件(1)又は(2)を満たすリチウム酸化物は、結晶系が立方晶である場合にリチウムイオン伝導性の向上が見られる。一方、例えば、正方晶等、立方晶以外の結晶系の場合は、条件(1)又は(2)を満たしたとしても、リチウムイオン伝導性の向上が見られない。
【0024】
条件(1)について、リチウム含有酸化物は、固体19F-NMRスペクトルを測定した際に、-75~25ppmの範囲に少なくとも1本のピークが観測されると好ましく、-50~0ppmの範囲に少なくとも1本のピークが観測されるとより好ましく、-30~-10ppmの範囲に少なくとも1本のピークが観測されると更に好ましい。これらの化学シフトの範囲内におけるピークの本数は、5本以下であると好ましく、3本以下であるとより好ましく、1又は2本であると更に好ましく、1本であると特に好ましい。
【0025】
条件(2)について、リチウム含有酸化物は、固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、-3~12ppmの範囲に少なくとも2本のピークが観測されると好ましく、0~10ppmの範囲に少なくとも2本のピークが観測されるとより好ましく、1.35~5ppmの範囲に少なくとも2本のピークが観測されると更に好ましい。これらの化学シフトの範囲内におけるピークの本数は、5本以下であると好ましく、3本以下であるとより好ましく、2本であると更に好ましい。また、これらの化学シフトの範囲内には、2ppm以下の半値幅を有する少なくとも2本のピークが観測されてもよい。
【0026】
条件(2)の化学シフトの範囲内に観測されるピークのうち、最大の面積強度を有するピークを第1のピークとした場合、条件(2)の化学シフトの範囲内に観測されるピークの面積強度の合計に対する第1のピーク以外の面積強度の合計の比が0.3%以上であると好ましく、0.5~20%であるとより好ましく、0.7~15%であると更に好ましく、1.0~12%であると特に好ましい。条件(2)の化学シフトの範囲内に2本のピークしか観測されなかった場合、より面積強度の小さいピークを第2のピークとすると、第1のピーク及び第2のピークの面積強度の合計に対する第2のピークの面積強度の比が上記範囲であると好ましい。第1のピークは、48gリチウム席を占めるリチウムに由来するピークであってよい。条件(2)について、観測されるピークのうち、少なくとも一つは、-2~2.3ppmの範囲に観測されると好ましく、0~2ppmの範囲に観測されるとより好ましく、1.35~2ppmの範囲に観測されると更に好ましい。また、条件(2)について、観測されるピークのうち少なくとも一つは、1.3ppm以下の半値幅を有すると好ましく、1ppm以下の半値幅を有すると好ましい。上記第2のピークは、-2~2.3ppmの範囲に観測され、1.3ppm以下の半値幅を有すると好ましく、1.35~2ppmの範囲に観測され、1ppm以下の半値幅を有するとより好ましい。
【0027】
条件(1)及び(2)は、一方のみ満たされていても、本発明の効果を奏するものの、条件(1)及び(2)の両方を満たしていたほうがより好ましい。条件(1)を満たす場合、リチウム含有酸化物は、固体Li-NMRスペクトルにおいて、フッ化リチウムの化学シフトを0ppmとしたときに、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測されるものであってよく、-3~12ppmの範囲に少なくとも1本のピークが観測されると好ましく、0~10ppmの範囲に少なくとも1本のピークが観測されるとより好ましい。これらの化学シフトの範囲内におけるピークの本数は、5本以下であると好ましく、3本以下であるとより好ましく、1又は2本であると更に好ましく、1本であると特に好ましい。また、これらの化学シフトの範囲内におけるピークには、48gリチウム席を占めるリチウムに由来するピークが含まれていてよい。
【0028】
本実施形態のリチウム含有酸化物としては、特に限定されないが、La及びZrを含むリチウム含有酸化物であると好ましい。そのようなリチウム含有酸化物における、Li、La及びZrの原子数の比は、Laを3としたときに、Liが5~12であり、Zrが1~3であると好ましく、Liが6~8であり、Zrが1~2.5であるとより好ましい。リチウム含有酸化物における、Li、La及びZrの原子数の比は、例えば、ICP発光分光分析により測定することができる。
【0029】
本実施形態のリチウム含有酸化物は、La及びZrを含むと共に、更にLi、La及びZr以外の金属元素を含んでいてもよい。そのような金属元素としては、Mg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属、Ga、Ta、Nb、Y等の金属元素が挙げられる。リチウム含有酸化物におけるアルカリ土類金属の原子数の比は、Laを3としたときに0.2以下であってよく、0.01~0.15であってよい。リチウム含有酸化物におけるTaの原子数の比は、Laを3としたときに0.01~1以下であってよく、0.05~0.6であってよい。リチウム含有酸化物におけるGaの原子数の比は、Laを3としたときに0.01~1以下であってよく、0.1~0.6であってよい。
【0030】
リチウム含有酸化物における、各原子数の比は、例えば、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析により測定することができる。
【0031】
本実施形態のリチウム含有酸化物が立方晶の結晶構造を有することは、例えば、粉末X線回折測定により確認することができる。また、本実施形態のリチウム含有酸化物は、CuKα線を用いて粉末X線回折測定をした際に、粉末X線回折チャートにおいて、16.0~17.0°におけるピークの強度に対する、28.5~29.0°におけるピークの強度が0.5以下であると好ましく、0.3以下であってよく、0.15以下であってよく、0.1以下であってよい。ここで、各ピークのピーク強度とは、回折チャートにおける各ピークの最大値を意味する。28.5~29.0°におけるピークは、LaZr及び類似の化学構造を有する化合物であると考えられる。そのような化合物は、リチウムイオン伝導性に寄与しない不純物であり、含有量は少ないほうが好ましく、測定限界の範囲で検出されないことがより好ましい。
【0032】
本実施形態のリチウム含有酸化物は、リチウムイオン伝導性に優れることから、イオン伝導性材料として好適であり、例えば、リチウムイオン電池の固体電解質に使用することができる。
【0033】
本実施形態のリチウム含有酸化物の形状は、特に限定されず、粉末であってもよいし、ペレット状などの形状に賦形されたものであってもよい。また、粉末を焼結した焼結体であってもよく、結合剤により粉末を結合した結合体であってもよい。また、他の成分と混合して組成物として使用することもできる。そのような組成物としては、例えば、リチウムイオン電池等の固体電解質として使用するための電解質組成物が挙げられる。電解質組成物は、リチウム含有酸化物以外の成分としてイオン伝導性材料、イオン液体、高分子材料等を含んでいてもよい。
【0034】
<リチウムイオン電池>
本実施形態のリチウム含有酸化物は、リチウムイオン電池(全固体電池)の固体電解質として有用である。リチウムイオン電池は、一次電池及び二次電池のいずれであってもよい。本実施形態のリチウム含有酸化物を固体電解質として用いた場合、溶媒を必要としないため、固体電解質の電位窓が広く、従来の電解液を使用したリチウムイオン電池の正極又は負極の材料として公知のものに限らず、より高電位の電極も使用することができる。
【0035】
リチウムイオン電池の正極としては特に限定されず、正極活物質を含み、且つ必要に応じて導電助剤、結合剤等を含むものであってよい。正極は、これらの材料を含む層が集電体上に形成されたものであってよい。正極活物質としては、例えば、リチウム(Li)と、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属とを含むリチウム含有複合金属酸化物が挙げられる。このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMn、LiNiMnCo1-x-y[0<x+y<1])、LiNiCoAl1-x-y[0<x+y<1])、LiCr0.5Mn0.5、LiFePO、LiFeP、LiMnPO、LiFeBO、Li(PO、LiCuO、LiFeSiO、LiMnSiOなどが挙げられる。
【0036】
リチウムイオン電池の負極としては特に限定されず、負極活物質を含み、且つ必要に応じて導電助剤、結合剤等を含むものであってよい。負極は、これらの材料を含む層が集電体上に形成されたものであってよい。負極活物質としては、例えば、Nb、V、TiO、In、ZnO、SnO、NiO、ITO(Indium Tin Oxide)、AZO(Al-doped Zinc Oxide)、FTO(F-doped Tin Oxide)、TiOのアナターゼ相とルチル相、LiTi12、LiTiなどのリチウム複合金属酸化物、Li、Si、Sn、Si-Mn、Si-Co、Si-Ni、In、Auなどの金属及びこれらの金属を含む合金、グラファイト等の炭素材料、当該炭素材料の層間にリチウムイオンが挿入された物質などを挙げることができる。
【0037】
集電体の材質は特に限定されず、Cu、Mg、Ti、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Ge、In、Au、Pt、Ag、及びPd等の金属の単体又は合金であってよい。
【0038】
<固体電解質の製造方法>
本実施形態の固体電解質の製造方法は、リチウム含有酸化物にトポタクティック反応を行う工程を備える。
本実施形態の固体電解質の製造方法は、上記本実施形態のリチウム含有酸化物を製造するのに適した方法でもある。
【0039】
ここで、トポタクティック反応とは、ホストであるリチウム含有酸化物の基本骨格が保たれたまま、ドーパントに含まれる元素がアニオン等の化学種としてリチウム含有酸化物に導入される反応である。リチウム含有酸化物に導入される化学種は、リチウム含有酸化物の一部の原子又は原子団と置換してもよいし、リチウム含有酸化物の構造内に挿入されてもよい。トポタクティック反応により、リチウム含有酸化物にはアニオンが導入されてよく、当該アニオンがリチウム含有酸化物に含まれる一部のアニオンと置換してもよい。
基本骨格となる結晶構造としては特に限定はされないが、ガーネット型の結晶構造、ペロブスカイト型の結晶構造、層状岩塩型構造、NASICON型結晶構造、LISICON型結晶構造、又はオリビン型結晶構造等の結晶構造を有していてよく、非晶質であってもよい。特に、ガーネット型の結晶構造、ペロブスカイト型の結晶構造、層状岩塩型構造、NASICON型結晶構造、LISICON型結晶構造、又はオリビン型結晶構造の結晶構造を有していることが好ましい。
【0040】
トポタクティック反応は、900℃以下で行われることが好ましく、50~800℃で行われることがより好ましく、100~700℃で行われることが更に好ましく、150~600℃で行われることが更になお好ましく、200~500℃で行われることが特に好ましい。トポタクティック反応を行う時間は特に制限されないが、例えば、30分~48時間であってよく、5~36時間であってよい。
【0041】
リチウム含有酸化物は、リチウム元素以外の元素を含んでいてよい。リチウム元素以外の元素としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属元素、希土類元素、遷移金属元素、カルコゲン、ハロゲン、周期表における第15族(窒素族)の元素、周期表における第14族(炭素族)の元素、周期表における第13族(ホウ素族)の元素が挙げられる。なお、本明細書において、遷移金属元素とは、周期表における第4族~第12族の元素を意味するものとする。つまり、遷移金属元素との用語に亜鉛族を含めるものとする。
【0042】
アルカリ金属は、Na、K、Rb、及びCsならなる群から選択される少なくとも一種であってよく、Na、及びKならなる群から選択される少なくとも一種であってよく、Naであってよい。
【0043】
アルカリ土類金属元素は、Be、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択される少なくとも一種であってよく、Mg、Ca、及びSrならなる群から選択される少なくとも一種であってよく、Srであってよい。
【0044】
希土類元素は、Sc、Y及びランタノイドであってよく、Sc、Y、La及びNdからなる群から選択される一種であってよい。
【0045】
遷移金属元素は、周期表における第4周期~第6周期の遷移金属元素であってよく、Zr、Ta、Ti、V、Sb及びNbからなる群から選択される少なくとも一種であってよく、Zr、Ta、及びNbからなる群から選択される少なくとも一種であってよい。
【0046】
カルコゲンは、O、S、Se、及びTeからなる群から選択される少なくとも一種であってよく、O及びSの少なくとも一方であってよい。ハロゲンは、F、Cl、Br、及びIからなる群から選択される一種であってよく、Fであってよい。
【0047】
周期表における第15族(窒素族)の元素は、N及びPの少なくとも一方であってよく、Nであってよい。周期表における第14族(炭素族)の元素は、C、Ge周期表における第13族(ホウ素族)の元素は、B、Al、Ga及びInからなる群から選択される少なくとも一種であってよく、Gaであってよい。
【0048】
リチウム含有酸化物は、ガーネット型の結晶構造、ペロブスカイト型の結晶構造、層状岩塩型構造、NASICON型結晶構造、LISICON型結晶構造、又はオリビン型結晶構造等の結晶構造を有していてよく、非晶質であってもよい。特に、ガーネット型の結晶構造、ペロブスカイト型の結晶構造、層状岩塩型構造、NASICON型結晶構造、LISICON型結晶構造、又はオリビン型結晶構造が好ましい。
【0049】
ガーネット型結晶構造を有するリチウム含有酸化物としては、LiLaZr12、LiLaNb12、LiBaLaTaO12等が挙げられ、これら化合物の元素の一部をN、F、Al、Sr、Sc、Nb、Ta、Sb、及びランタノイド元素からなる群から選択された少なくとも一種の元素で置換したガーネット類似型結晶も上記リチウム含有酸化物として使用できる。ペロブスカイト型結晶構造を有するリチウム含有酸化物としては、Li0.35La0.55TiO、Li0.2La0.27NbO等が挙げられ、これら化合物の元素の一部をN、F、Al、Sr、Sc、Nb、Ta、Sb及びランタノイド元素からなる群から選択された少なくとも一種の元素で置換したペロブスカイト類似型結晶も上記リチウム含有酸化物として使用できる。NASICON型結晶構造を有するリチウム含有酸化物としては、Li1.3Ti1.7Al0.3(PO、Li1.4Al0.4Ti1.6(PO、Li1.4Al0.4Ti1.4Ge0.2(PO等が挙げられ、これら化合物の元素の一部をN、F、Al、Sr、Sc、Nb、Ta、Sb及びランタノイド元素からなる群から選択された少なくとも一種で置換したNASICON類似型結晶も上記リチウム含有酸化物として使用できる。LISICON型結晶を有するリチウム含有酸化物としては、Li14ZnGe16等が挙げられ、これら化合物の元素の一部をN、F、Al、Sr、Sc、Nb、Ta、Sb及びランタノイド元素からなる群から選択された少なくとも一種の元素で置換したLiSICON類似型結晶も上記リチウム含有酸化物として使用できる。リチウム含有酸化物は、Li3.40.6Si0.4、Li3.60.4Ge0.6、Li2+x1-x、などのその他の結晶構造を有するものであってもよい。
【0050】
リチウム含有酸化物は、当該リチウム含有酸化物に含まれる各種元素を含む化合物を原料に固相反応を行って得られたものであってよい。原料としては、例えば、リチウム源としてLiを含む化合物、ランタン源としてLaを含む化合物、ジルコニウム源としてZrを含む化合物、ガリウム源としてGaを含む化合物等が挙げられる。
【0051】
リチウム源としては、塩化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム金属塩、リチウムメトキシド等のリチウムアルコキシドなどが挙げられる。これらの原料は1種又は2種以上を用いることができる。
【0052】
ランタン源としては、例えば、塩化ランタン、硝酸ランタン、酢酸ランタン等のランタン金属塩、ランタントリメトキシド等のランタンアルコキシドが挙げられる。これらの原料は1種又は2種以上を用いることができる。
【0053】
ジルコニウム源としては、例えば、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等のジルコニウム金属塩、ジルコニウムテトラメトキシド等のジルコニウムアルコキシドが挙げられる。これらの原料は1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
ガリウム化合物(ガリウム源)としては、例えば、臭化ガリウム、塩化ガリウム、沃化ガリウム、硝酸ガリウムなどのガリウム金属塩、ガリウムトリメトキシド等のガリウムアルコキシドなどが挙げられる。これらの原料は1種又は2種以上を用いることができる。
【0055】
固相反応は、これらの各主原料の粉末の混合物を調整した上で、当該混合物を加熱することにより行われる。加熱温度としては特に制限はないが、例えば、900~1200℃程度であってよい。
【0056】
ドーパントとしては、導入すべき元素を含む化合物であれば特に問題はないが、例えば、導入すべき元素を含むアニオンを有するドーパントが好ましい。アニオンとしては、ハロゲン、カルコゲン、窒素及びリンからなる群から選ばれる一種以上の元素を含むアニオンが好ましく、ハロゲン化物イオンがより好ましく、フッ化物イオンが更に好ましい。
【0057】
フッ化物イオンを含むドーパントとしては、金属フッ化物が挙げられる。金属フッ化物としては特に限定されないが、アルカリ金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物、遷移金属フッ化物、周期表における第13族の金属元素のフッ化物等が挙げられる。アルカリ金属フッ化物としてはLiF、NaF、KF等が挙げられる。アルカリ土類金属フッ化物としては、MgF、CaF、SrF、BaF等が挙げられ、MgFが好ましい。遷移金属フッ化物としては、周期表における第4周期~第6周期の遷移金属のフッ化物が挙げられ、NiF又はZnFが好ましい。周期表における第13族の金属元素のフッ化物としては、GaF等が挙げられる。金属フッ化物はGaF、MgF、NiF及びZnFの少なくとも一種であると好ましい。
【0058】
ドーパントの使用量は、ドーパントとリチウム含有酸化物との合計量100質量%に対して、0.05~25質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることがより好ましく、1~18質量%であるとより好ましい。
【0059】
粉末のリチウム含有酸化物及び粉末のドーパントを混合して加熱することによりトポタクティック反応を行ってよい。トポタクティック反応は、減圧下で行うことが好ましく、例えば、減圧下でパイレックス(登録商標)チューブ等の容器に粉末のリチウム含有酸化物及び粉末のドーパントを封入して、容器を加熱することにより行ってよい。粉末のリチウム含有酸化物及び粉末のドーパントは、粉末の混合物として使用してもよいが、ペレット等の所定の形状に賦形してからトポタクティック反応に供してもよい。
【0060】
得られた固体電解質は、粉末であってもよいが、粉末を焼結した焼結体として使用してもよい。焼結方法として特に制限はないが、放電プラズマ焼結法等により焼結することができる。
【0061】
本発明の固体電解質の製造方法によって、イオン伝導性(アルカリイオン伝導性)の高い固体電解質が得られる理由は、必ずしも定かではないが、本発明者らはその理由について以下のように考えている。まず、特許文献1~7及び非特許文献1~4に記載されるとおり、従来の固体電解質は、ドープすべき元素(例えばフッ素)を導入する際に、リチウム含有酸化物の原料とドープすべき元素を含む化合物とを一緒に1000℃等の高温で焼成する(高温固相反応)ことにより合成されている。一方、本実施形態では、先に合成したリチウム含有酸化物にトポタクティック反応を行っているため、リチウム含有酸化物の基本骨格が保たれたまま穏やかに反応が進行される。そのため、従来の高温固相反応では得られない準安定な相が得られるものと考えられる。
【0062】
本実施形態の固体電解質の形状は、特に限定されず、粉末であってもよいし、ペレット状などの形状に賦形されたものであってもよい。また、粉末を焼結した焼結体であってもよく、結合剤により粉末を結合した結合体であってもよい。また、他の成分と混合して組成物として使用することもできる。そのような組成物としては、例えば、リチウムイオン電池等の電池、キャパシタなどの蓄電デバイスの固体電解質として使用するための電解質組成物が挙げられる。電解質組成物は、固体電解質以外の成分としてイオン伝導性材料、イオン液体、高分子材料等を含んでいてもよい。
【実施例0063】
<実施例1>
まず、1.30gのLiCO、2.46gのLa及び1.24gのZrOを粉砕しながら混合した。得られた粉体を空気中でMgOるつぼ中で、1000℃で10時間焼成して未ドープのLiLaZr12(LLZO)を得た。
得られたLLZOに、金属フッ化物としてGaFを、LLZO100質量%に対して10質量%の量で添加し、これらを粉砕しながら混合した。得られた粉体を賦形して直径約6mmのペレットとした。当該ペレットをパイレックスチューブに入れ、パイレックスチューブ内を脱気し、封管した。パイレックスチューブ中のペレットを400℃で24時間加熱した後、ペレットを取り出し粉砕して、粉末状のフッ素ドープしたLLZO(固体電解質)を得た。
【0064】
<固体19F-NMRの測定>
以下の条件により、実施例1の固体電解質に固体19F-NMRの測定を行った。
装置:JNM-ECZ600R(日本電子株式会社製)
観測核:19F(19F核の共鳴周波数として564MHz)
マジック角回転(MAS)周波数:20kHz
測定方法:ハーンエコー法
待ち時間及び積算回数:15秒または60秒、128回
測定温度:室温
基準物質:ポリテトラフルオロエチレンの-CF-CF-単位のフッ素原子に由来するピークの化学シフトを-122ppmに設定
なお、ポリテトラフルオロエチレンについて、実施例及び比較例の試料と同一の条件で試料とは別に測定したデータを基準として使用した(つまり、外部標準として使用した。)。
PTFEはバルカー社製のテープシール(型番20-E)を細かく裁断した試料を使用した。
【0065】
<固体Li-NMRの測定>
以下の条件により、実施例1の固体電解質に固体Li-NMRの測定を行った。
装置:AVANCE300(Bruker社製)
観測核:Li(Li核の共鳴周波数として44.1MHz)
マジック角回転(MAS)周波数:10kHz
測定方法:シングルパルス法(Bruker社標準パルスシークエンスzg使用)
励起パルス幅:π/4パルス
待ち時間及び積算回数:40秒、2048回
測定温度:室温
基準物質:1mol/LのLiCl水溶液について観測されるピークを1.19ppmに設定
【0066】
得られた固体Li-NMRスペクトルには、-5~15ppmの化学シフトの範囲に強度が大小二つのピークが観測された。ここで、大きいピークの面積強度は、大きいピークを最小二乗法でガウシアンによりフィッティングを行うことで面積強度を算出した。
また、小さいピークの面積強度は、元のスペクトルから上記の方法のフィッティングにより得られた大きいピークのスペクトルを引き算して得られたスペクトルについて、最小二乗法でガウシアンによりフィッティングを行うことで面積強度を算出した。面積強度の大きいほうのピークを第1のピークとし、面積強度の小さいほうのピークを第2のピークとする。表1に第1及び第2のピークのそれぞれの位置及び半値幅を示す。
また、第1及び第2のピークの面積強度の和に対する第2のピークの面積強度の割合(単に面積比とも呼ぶ。)を表1に示す。
固体19F-NMRスペクトルには、-100~50ppmの化学シフトの範囲内に一つのピークが観測された。具体的には、-24.1ppmの位置にピークが観測された。
【0067】
<粉末X線回折の測定>
装置:UltimaIV(Rigaku社製、線源:CuKα線)を用いて粉末X線回折の測定を行った。実施例1の固体電解質の粉末X線回折チャートには、2θ=16.0~17.0°の位置に単一のピークが観測されたため、立方晶のガーネット型構造を有していることが確認された。また、未ドープのLLZOは正方晶のガーネット型構造であることを確認した。
また、粉末X線回折チャートにおいて、2θ=28.5~29.0°にピークが観測された。当該ピークの、16.0~17.0°におけるピークの強度に対する強度比(以下、単にピーク強度比とも呼ぶ。)を算出した。結果を表1に示す。
【0068】
<ICP発光分光分析>
装置:ICP-AES(Agilent Technologies社製 5110)を用いて実施例1の固体電解質にICP発光分光分析を行い、Li、La及びZrの含有割合(Laの含有を3とした場合)を求めた。分析方法は、加圧酸分解で、ICP-AES法によって実施した。前処理条件は、塩酸と硫酸を3対1のモル比で混合した混酸により100℃で20時間分解し、実施した。結果を表1に示す。
【0069】
<イオン伝導率の測定>
実施例1の固体電解質を、装置LABOX-325R(株式会社シンタ―ランド製)を用いて、真空中、1100℃において3分間、印加圧力40MPaの条件で放電プラズマ焼結に供し、厚さ0.5mm及び直径3~5mmの円盤状の焼結体を得た。当該焼結体の互いに対向する円形の二つ面にそれぞれスパッタリングにより金層を形成して評価用試験片を得た。
室温(25℃)において、インピーダンスアナライザー(Sl1260、Sl1296、solartron社製)を用いて、0.1から1MHzの周波数、10mVの振幅の条件下で測定を行い、得られたナイキストプロットについて等価回路を仮定してフィッティングを行うことで、上記評価用試験片のイオン伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
<比較例1>
実施例1で製造した上記未ドープのLLZOについて、実施例1と同様に各種測定を行った。結果を表1及び表2に示す。なお、粉末X線回折測定の結果、16~17°の位置に2本の分裂したピークが観測されたため、正方晶のガーネット型構造を有していることが確認された。また、イオン導電率の測定については、プレス成形後、空気中で1000℃で10時間焼成した円盤状の焼結体について実施した。その他の結果を表1及び2に示す。
【0071】
<実施例2>
まず、1.16gのLiCO、2.37gのLa3、1.17gのZrO、0.12gのGa、0.07gのSrCO、0.11gのTaを粉砕しながら混合した。得られた粉体を空気中でMgOるつぼ中で、1000℃で10時間焼成してLi6.25Ga0.25La2.9Sr0.1Zr1.9Ta0.112を得た。
得られたLi6.25Ga0.25La2.9Sr0.1Zr1.9Ta0.112に、金属フッ化物としてGaFを、Li6.25Ga0.25La2.9Sr0.1Zr1.9Ta0.112の量100質量%に対して1質量%の量で添加し、これらを粉砕しながら混合した。得られた粉体を賦形して直径約6mmのペレットとした。当該ペレットをパイレックスチューブに入れ、パイレックスチューブ内を脱気し、封管した。パイレックスチューブ中のペレットを400℃で24時間加熱後、ペレットを取り出して粉砕し、粉末状のフッ素ドープしたリチウム含有酸化物(固体電解質)を得た。得られた固体電解質について、実施例1と同様に各種測定を行った。粉末X線回折測定の結果、16~17°の位置に単一のピークが観測されたため、立方晶のガーネット型構造を有していることが確認された。また、上記のLi6.25Ga0.25La2.9Sr0.1Zr1.9Ta0.112も立方晶のガーネット型構造を有していることを確認した。その他の結果を表1及び2に示す。
【0072】
<実施例3>
まず、1.29gのLiCO、2.34gのLa3、0.95gのZrO、0.42gのTaを粉砕しながら混合した。得られた粉体を空気中でMgOるつぼ中で、1000℃で10時間焼成してLi6.6LaZr1.6Ta0.412を得た。
得られたLi6.6LaZr1.6Ta0.412に、金属フッ化物としてMgFを、Li6.6LaZr1.6Ta0.412の量100質量%に対して2質量%の量で添加し、これらを粉砕しながら混合した。得られた粉体を賦形して直径約6mmのペレットとした。当該ペレットをパイレックスチューブに入れ、パイレックスチューブ内を脱気し、封管した。パイレックスチューブ中のペレットを400℃で24時間加熱後、ペレットを取り出して粉砕し、粉末状のフッ素ドープしたリチウム含有酸化物(固体電解質)を得た。得られた固体電解質について、実施例1と同様に各種測定を行った。粉末X線回折測定の結果、16~17°の位置に単一のピークが観測されたため、立方晶のガーネット型構造を有していることが確認された。また、上記のLi6.6LaZr1.6Ta0.412も立方晶のガーネット型構造を有していることを確認した。その他の結果を表1及び2に示す。
【0073】
<実施例4>
金属フッ化物としてMgFを用い、添加量をLLZO量100質量%に対して20質量%の量で添加したこと以外は、実施例1と同様に固体電解質を合成し、各種測定を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0074】
<比較例2>
原料として1.13gのLiCO、2.49gのLa、1.25gのZrO及び0.13gのLiFを混合し、空気中でMgOるつぼ中で1000℃で10時間焼成してLiLaZr11Fの組成の固体電解質の粉末を得た。かかる固体電解質は、国際公開2015/065879号公報のリチウム含有酸化物(特に実施例2等)と同様の方法で製造されたものである。得られた固体電解質の粉末に実施例1と同様の方法で放電プラズマ焼結及び、各種測定を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0075】
<比較例3>
特開2020-087770号公報の実施例3と同様の方法によりLi5.55Ga0.5La2.95Ca0.05Zr11Fを合成した。すなわち、0.87gのLiCO、2.48gのLa、1.27gのZrO、0.24gのGa、0.02gのCaF、0.12gのLiFを混合し、空気中でMgOるつぼ中で1000℃で10時間焼成して、Li5.55Ga0.5La2.95Ca0.05Zr11Fの組成の固体電解質粉末を得た。イオン導電率の測定については、プレス成形後、空気中で1000℃で10時間焼成した円盤状の焼結体について実施した。結果を表1及び表2に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】

NT:測定していない
【0078】
トポタクティック反応により合成された実施例1~4の固体電解質は、いずれも高温固相合成で得られた比較例1~3の固体電解質よりも高いイオン伝導率を示した。また、実施例1、実施例3、及び実施例4の固体電解質では、固体19F-NMRスペクトルにおいて、-100~50ppmの化学シフトの範囲内にピークが観測され、且つ固体Li-NMRスペクトルにおいて-5~15ppmの化学シフトの範囲内に2本のピークが観測された。一方、従来の製法で合成した比較例3では、固体19F-NMRスペクトルにおいて-100~50ppmの化学シフトの範囲内にピークは観測されず、固体Li-NMRスペクトルにおいても-5~15ppmの化学シフトの範囲内に1本のピークしか観測されなかった。また、従来の製法で合成した比較例2では、固体19F-NMRスペクトルにおいて-100~50ppmの化学シフトの範囲内にピークは観測されず、固体Li-NMRスペクトルにおいては-5~15ppmの化学シフトの範囲内に2本のピークが観測されたものの、結晶系が正方晶であった。このことから、実施例1、実施例3及び実施例4の固体電解質では、フッ素が置かれた環境が従来とは異なることがわかる。また、実施例1~4と比較例3との比較から、立方晶相中におけるリチウムが置かれた環境が異なることがわかる。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶のガーネット構造を有し、
19F核の共鳴周波数が564MHzである条件下で固体19F-NMRスペクトルを測定した際に、ポリテトラフルオロエチレンの化学シフトを-122ppmとして、-100~50ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測され、
Sc、Y、La又はNdを含む希土類元素を含有する、リチウム含有酸化物。
【請求項2】
Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測される、請求項1に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項3】
フッ素原子を含み、立方晶のガーネット構造を有し、
Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも2本のピークが観測され、
Sc、Y、La又はNdを含む希土類元素を含有する、リチウム含有酸化物。
【請求項4】
Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に、2ppm以下の半値幅を有する少なくとも2本のピークが観測される、請求項3に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項5】
Li核の共鳴周波数が44.1MHzである条件下で固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-5~15ppmの化学シフトの範囲内に2本のピークが観測され、
前記2本のピークの面積強度の和に対する、より小さい面積強度を有するピークの面積強度の比が0.3%以上である、請求項3又は4に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項6】
19F核の共鳴周波数が564MHzである条件下で固体19F-NMRスペクトルを測定した際に、ポリテトラフルオロエチレンの化学シフトを-122ppmとして、-100~50ppmの化学シフトの範囲内に少なくとも1本のピークが観測される、請求項5に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項7】
ICP発光分光分析法により測定された原子数の比について、Laを3としたときに、Liが5~12、Zrが1~3である、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項8】
粉末X線回折チャートにおいて、16.0~17.0°におけるピークの強度に対する、28.5~29.0°におけるピークの強度が0.5以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項9】
Zr、Ta、Ti、V、Sb及びNbからなる群から選択される少なくとも一種の元素を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項10】
La及びZrを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のリチウム含有酸化物を含む、焼結体。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載のリチウム含有酸化物を含む、電解質組成物。
【請求項13】
リチウム含有酸化物に900℃以下の温度でトポタクティック反応を行うことによりアニオンを導入する工程を備え、
前記アニオンがフッ化物イオンを含む、固体電解質の製造方法。
【請求項14】
前記アニオンが、フッ化物イオン以外のアニオンを更に含み、当該フッ化物イオン以外のアニオンがハロゲン、カルコゲン、窒素及びリンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含む、請求項13記載の製造方法。
【請求項15】
前記トポタクティック反応において、前記リチウム含有酸化物と金属フッ化物とを反応させる、請求項13又は14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記金属フッ化物が、GaF、MgF、NiF及びZnFの少なくとも一種である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記固体電解質がガーネット型結晶構造、ペロブスカイト型の結晶構造、層状岩塩型構造、NASICON型結晶構造、LISICON型結晶構造、又はオリビン型結晶構造の結晶構造を有する、請求項13~16のいずれか一項に記載の製造方法。