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特開2022-185476配電設備管理装置、配電設備管理方法及び配電設備管理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185476
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】配電設備管理装置、配電設備管理方法及び配電設備管理プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20221207BHJP
   G01W 1/00 20060101ALI20221207BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H02J3/00 170
G01W1/00 Z
H02J13/00 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093194
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木原 直人
(72)【発明者】
【氏名】平口 博丸
(72)【発明者】
【氏名】朱牟田 善治
(72)【発明者】
【氏名】服部 康男
(72)【発明者】
【氏名】須藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】揚田 剛士
(72)【発明者】
【氏名】武村 順三
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AA04
5G064AC08
5G064BA02
5G064CB06
5G064DA03
5G066AA03
5G066AE01
5G066AE05
5G066AE07
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】配電設備の安全性及び信頼性を向上させる、配電設備管理装置、配電設備管理方法及び配電設備管理プログラムを提供する。
【解決手段】気象計算部12は、特定時点での気象情報を基に、計算領域の各地点での時間経過に応じた気象情報を求める気象計算を行う。海塩飛散計算部13は、気象計算部12により求められた気象情報を基に、各地点での時間経過に応じた海塩飛散量を算出する。海塩付着量計算部15は、各地点での時間経過に応じた気象情報及び海塩飛散量を基に、各地点での配電設備への海塩付着量を算出する。更新設備決定部16は、計算領域において過去に発生した海塩急速汚損による被害発生数の増加率を基に閾値決定基準位置及び閾値決定基準時刻を特定し、特定した閾値決定基準位置及び閾値決定基準時刻における配電設備への海塩付着量を閾値とし、閾値を超えた配電設備を海塩被害の発生する可能性が高い配電設備として特定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定時点での気象情報を基に、計算領域の各地点における時間経過に応じた気象情報を求める気象計算を行う気象計算部と、
前記気象計算部により求められた前記気象情報を基に、各前記地点における前記時間経過に応じた海塩飛散量を算出する海塩飛散計算部と、
各前記地点における前記時間経過に応じた前記気象情報及び前記海塩飛散量を基に、各前記地点における配電設備への海塩付着量を算出する海塩付着量計算部と、
前記計算領域において過去に発生した海塩急速汚損による被害発生数の増加率を基に閾値決定基準位置及び閾値決定基準時刻を特定し、特定した前記閾値決定基準位置及び前記閾値決定基準時刻における前記配電設備への海塩付着量を閾値とし、前記閾値を超えた配電設備を海塩被害の発生する可能性が高い配電設備として特定する更新設備決定部と
を備えたことを特徴とする配電設備管理装置。
【請求項2】
前記海塩付着量計算部は、前記気象情報から各前記地点における前記配電設備に対する雨洗効果を求め、前記雨洗効果を基に前記海塩付着量を算出することを特徴とする請求項1に記載の配電設備管理装置。
【請求項3】
過去の統計気象データを基に、各前記地点における海塩の濃度の空間分布を表す平均飛来海塩量を算出する平均飛来海塩量算出部をさらに備え、
前記更新設備決定部は、前記平均飛来海塩量を基に前記計算領域における海塩の飛来が多いエリアを特定し、特定した前記エリアを基に、前記海塩被害の発生する可能性が高い配電設備を特定する請求項1又は2に記載の配電設備管理装置。
【請求項4】
前記更新設備決定部は、前記各地点の環境情報及び配電設備の設置状況を基に、前記海塩被害の発生する可能性が高い配電設備を特定する請求項1~3のいずれか一つに記載の配電設備管理装置。
【請求項5】
特定時点での気象情報を基に、計算領域の各地点における時間経過に応じた気象情報を求める気象計算を行い、
求めた前記気象情報を基に、各前記地点における前記時間経過に応じた海塩飛散量を算出し、
各前記地点における前記時間経過に応じた前記気象情報及び前記海塩飛散量を基に、各前記地点における配電設備への海塩付着量を算出し、
前記計算領域において過去に発生した海塩急速汚損による被害の数の増加率が所定値以上である前記海塩急速汚損による被害が発生した位置及び時間における前記配電設備への海塩付着量を閾値とし、
前記閾値を超えた配電設備を海塩被害の発生する可能性が高い配電設備として特定する
ことを特徴とする配電設備管理方法。
【請求項6】
特定時点での気象情報を基に、計算領域の各地点における時間経過に応じた気象情報を求める気象計算を行い、
求めた前記気象情報を基に、各前記地点における前記時間経過に応じた海塩飛散量を算出し、
各前記地点における前記時間経過に応じた前記気象情報及び前記海塩飛散量を基に、各前記地点における配電設備への海塩付着量を算出し、
前記計算領域において過去に発生した海塩急速汚損による被害の数の増加率が所定値以上である前記海塩急速汚損による被害が発生した位置及び時間における前記配電設備への海塩付着量を閾値とし、
前記閾値を超えた配電設備を海塩被害の発生する可能性が高い配電設備として特定する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする配電設備管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電設備管理装置、配電設備管理方法及び配電設備管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
台風襲来時に内陸まで海塩粒子が運ばれてくることがあり、需要者に低電圧での電力供給を行う引込線や配電線から高電圧で電力供給を行うための計器用変成器(VCT:Voltage Current Transformer)に対して高電圧で電気を供給するVCTリード線に海塩が付着する。これにより、引込線火花事象やVCTリード線短絡等の被害が沿岸部だけでなく内陸においても発生する場合がある。以下では、引込線及び配電線を含めて配電設備と呼ぶ。
【0003】
これらの被害は、設備が劣化するほど発生し易くなるため、被害発生抑制のためには適切な設備更新が必要である。配電設備は一律の周期で更新されることが考えられるが、海塩による設備の急速汚損に伴う設備被害が発生し易い地域を重点的に更新することが合理的である。そのためには、海塩による設備の急速汚損に伴う被害が発生し易い地域を特定して、地域ごとの設備被害の発生し易さを把握することが重要となる。
【0004】
ここで、電気事業が抱える気象や海塩に起因する課題の解決を図る技術として、日々の気象予測や台風等の低気圧の解析に用いられる気象予測解析システムや、電力設備の海塩腐食による劣化対策を目指した海塩の累積汚損量評価に用いられる風況海塩粒子輸送解析技術や、台風や低気圧の通過に伴う海塩の急速汚損評価に用いられる領域海塩解析技術がある。
【0005】
領域海塩解析技術を用いることで、時々刻々の気象状況に応じた海塩の濃度の空間分布を求めることができる。そこで、気象予測解析システムと領域海塩解析技術とを組み合わせることにより、台風や爆弾低気圧通過時における海塩急速汚損の被害の分析や予測が可能となると考えられる。
【0006】
一方、海塩粒子輸送解析技術を用いることで、水平格子間隔が200m~400mで地形の起伏や河川等の土地利用の影響を考慮して、海岸線から内陸に飛散する海塩濃度を推定することができる。海塩粒子輸送解析技術では、海岸線では海上風速及び吹送距離に応じた海塩濃度の鉛直分布が与えられ、その状態での定常的な海塩濃度が求められる。入力風に評価対象エリアの統計的な風況データを用いることにより、そのエリアに飛散する海塩濃度を統計的に示すことが可能となる。この解析結果をマップ化することで、海塩が多量に飛散する傾向にあるエリアと、そうでないエリアとを区別することができる。
【0007】
なお、塩分付着を計測する技術として、がいし類の表面にパルスレーザ光を照射した際に受光される発光強度の異なる発光スペクトルのいずれかを用いてがいし類の塩分付着密度を求める従来技術がある(特許文献1)。また、がいしの表面を複数の円環状エリアに区分してプラズマ発光の発光強度を検出することで、がいしに付着した、塩分等の付着物の付着密度を測定する従来技術がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-198593号公報
【特許文献2】特開2013-15404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、気象予測解析システムと領域海塩解析技術とを組み合わせた技術では、水平格子解像度が数kmオーダーであるため、河川のような幅が数百mの地形の影響を表現することが困難である。一方、海塩粒子輸送解析技術の場合、あるエリアでの定常的な海塩濃度が求められるが、降水が海塩濃度へ与える影響を考慮することが困難である。したがって、いずれのであっても、配電設備の海塩急速汚損に対して正確な分析や予測を行うことは困難である。そのため、海塩被害が発生する前に適切に配電設備を交換することが難しく、配電設備の安全性及び信頼性が低下してしまう。
【0010】
また、がいしからの発光強度の異なる発光スペクトルを用いて塩分付着密度を求める技術や表面を円環状エリアに区分してプラズマ発光の発光強度を検出する技術は、実際の計測値を用いる技術であり、シミュレーションにより海塩被害を推定することは困難である。
【0011】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、配電設備の安全性及び信頼性を向上させる、配電設備管理装置、配電設備管理方法及び配電設備管理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の開示する配電設備管理装置、配電設備管理方法及び配電設備管理プログラムの一つの態様において、気象計算部は、特定時点での気象情報を基に、計算領域の各地点における時間経過に応じた気象情報を求める気象計算を行う。海塩飛散計算部は、前記気象計算部により求められた前記気象情報を基に、各前記地点における前記時間経過に応じた海塩飛散量を算出する。海塩付着量計算部は、各前記地点における前記時間経過に応じた前記気象状況及び前記海塩飛散量を基に、各前記地点における配電設備への海塩付着量を算出する。更新設備決定部は、前記計算領域において過去に発生した海塩急速汚損による被害の数の増加率が所定値以上である前記海塩急速汚損による被害が発生した位置及び時間における前記配電設備への海塩付着量を閾値とし、前記閾値を超えた配電設備を海塩被害の発生する可能性が高い配電設備として特定する。
【発明の効果】
【0013】
1つの側面では、本発明は、配電設備の海塩急速汚損に対する分析や予測を高精度で行ことにより、配電設備の安全性及び信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、配電設備管理装置のブロック図である。
図2図2は、実施例に係る気象計算の計算領域を示す図である。
図3図3は、粒子条件と風速条件を表す図である。
図4図4は、台風通過後の海塩被害発生時における海塩付着量の累積頻度分布を表す図である。
図5図5は、更新対象となる配電設備の決定処理のフローチャートである。
図6図6は、配電設備管理装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本願の開示する配電設備管理装置、配電設備管理方法及び配電設備管理プログラムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する配電設備管理装置、配電設備管理方法及び配電設備管理プログラムが限定されるものではない。
【実施例0016】
図1は、配電設備管理装置のブロック図である。配電設備管理装置1は、データ取得部11、気象計算部12、海塩飛散計算部13、平均飛来海塩量算出部14、海塩付着量計算部15及び更新設備決定部16を有する。
【0017】
データ取得部11は、気象条件の初期値及び境界値、並びに、海面温度情報を外部の気象情報提供システム2から取得する。そして、データ取得部11は、海面温度情報、並びに、気象条件の初期値及び境界値を気象計算部12へ出力する。気象条件の初期値が計測された時点が、「特定時点」の一例にあたる。
【0018】
また、データ取得部11は、沿岸海上気象データを含む気象データを外部の気象情報提供システム2から取得する。また、データ取得部11は、外部の気象情報提供システム2が有する過去の気象及び気候再現データベースから気象統計データを取得する。そして、データ取得部11は、取得した気象データ及び気象統計データを平均飛来海塩量算出部14へ出力する。
【0019】
図2は、実施例に係る気象計算の計算領域を示す図である。本実施例では、気象計算部12は、図2における領域101を計算領域として気象計算を行う。
【0020】
気象計算部12は、地形標高データ及び土地利用区分データを予め有する。また、気象計算部12は、海面温度情報、並びに、気象条件の初期値及び境界値の入力をデータ取得部11から受ける。
【0021】
気象計算部12は、取得した情報を用いて、計算領域の台風通過時における気象計算を実施して、台風通過時の時間経過に応じた気象情報を求める。これにより、気象計算部12は、計算領域の各地点における地上風速や降水強度を含む気象情報を求める。その後、気象計算部12は、求めた気象情報を海塩飛散計算部13及び海塩付着量計算部15へ出力する。
【0022】
海塩飛散計算部13は、地形標高データ及び土地利用区分データを予め有する。また、海塩飛散計算部13は、例えば10分間隔などというように定期的に気象情報の入力を気象計算部12から受ける。本実施例に係る海塩飛散計算部13は、図2における領域102を計算領域とする。そして、海塩飛散計算部13の格子解像度は、図2における領域103で表される200km四方が水平1km解像度であり、そこから離れるにつれて水平解像度が粗くなる。
【0023】
海塩飛散計算部13は、取得した情報を用いて、台風が計算領域の台風通過時における海塩飛散計算を実施する。これにより、海塩飛散計算部13は、各時刻での気中及び降水中の海塩濃度の空間分布を算出する。これにより、台風通過時における気中海塩濃度の面的な分布及び時間変化を予測することができる。海塩飛散計算部13は、算出した各時刻での気中及び降水中の海塩濃度の空間分布の情報を海塩付着量計算部15へ出力する。
【0024】
海塩付着量計算部15は、気象情報の入力を気象計算部12から受ける。また、海塩付着量計算部15は、各時刻での気中及び降水中の海塩濃度の空間分布の情報の入力を海塩飛散計算部13から受ける。
【0025】
ここで、海塩飛散計算から得られた気中海塩濃度と気象計算から得られた風速及び降水強度を用いて、次の数式(1)から配電設備へ付着する海塩量を推定することが可能である。
【0026】
【数1】
【0027】
ここで、Wは、時刻tにおける海塩付着量を表す。Δtは、配電設備表面の海塩付着量を推定する時間間隔である。本実施例では、Δtを10分とした。
【0028】
また、uは、地上風速を表す。また、pは、降水強度(mm/h)を表す。また、Cは、気中Na+濃度を表す。海塩付着量計算部15は、気象計算部12から取得した気象情報からu及びpの値を取得する。また、海塩付着量計算部15は、海塩飛散計算部13から取得した気中及び降水中の海塩濃度の空間分布である気中海塩濃度をCの値として用いる。
【0029】
また、Eは、衝突効率を表す。ここでの衝突効率とは、配電設備に対して海塩粒子が衝突する割合を示す値である。また、γは、雨洗効率を表す。γは、がいしの雨洗効果について定量化された情報を基にモデル化した値である。
【0030】
ただし、数式(1)を用いて推定された配電設備へ付着する海塩付着量の時間及び空間変化と実際の被害の発生日及び場所の対応が正確ではない。この原因としては、数式(1)での雨洗効果については、がいしの雨洗効果を用いており、引込線を対象とした雨洗効果ではないため実態よりも過剰な可能性がある。
【0031】
そこで、海塩付着量計算部15は、以下のように海塩付着量の雨洗効果を修正した配電設備への海塩付着量の算出式を使用する。海塩付着量計算部15は、次の数式(2)を用いて海水付着量を再度計算して、被害の実態に対応する雨洗効果を用いた海塩付着量を計算する。
【0032】
【数2】
【0033】
ここで、雨洗効果の強さを示すγ’について、γ’=0.03p、γ’=0.1p、γ’=0.3p、γ’=0.01p、γ’=0.03p、γ’=0.1p、としてそれぞれの場合の海塩付着量の変化と被害発生日及び被害発生場所を比較した場合、以下のような結果が得られる。γ’=0.03pは、がいしの雨洗効果の実験データと整合が取れるように設定された式であり、がいし下面に対する雨洗効果と同等の強さである。γ’=0.3pは、がいしの雨洗効果の実験データと整合が取れるように設定された式であり、がいし上面に対する雨洗効果と同等の強さである。また、γ’=0.1pは、がいし下面とがいし上面との中間程度の雨洗効果の強さである。また、雨洗効果が降雨の強さに依存した場合についても考慮するため、雨洗効果の強さを示す係数γ’を降水強度の二乗の式としたγ’=0.01p、γ’=0.03p、γ’=0.1pも検討に加える。
【0034】
γ’=0.03p又はγ’=0.01pとした場合、被害の実態よりも雨洗効果が弱く表れる。また、γ’=0.3p又はγ’=0.1pとした場合、被害の実態よりも雨洗効果が強く表れる。これに対して、γ’=0.1p又はγ’=0.03pとした場合、概ね被害に対応した雨洗効果が得られる。このことから、海塩付着量計算部15は、γ’=0.1p又はγ’=0.03pを用いて海塩付着量を計算する。
【0035】
海塩付着量計算部15は、計算領域における各地点について配電設備へ付着する海塩量の推定を行う。そして、海塩付着量計算部15は、各地点における配電設備へ付着する海塩量の推定結果を更新設備決定部17へ出力する。
【0036】
平均飛来海塩量算出部14は、気象データ及び気象統計データの入力をデータ取得部11から取得する。平均飛来海塩量算出部14は、地表面条件の非一様性の再現を可能とするための数値流体解析と長期間累積の海塩量評価を効率よく行うための統計的手続きとを組み合わせて用いることで平均飛来海塩量マップを作成する。
【0037】
平均飛来海塩量マップとは、所定の領域を対象に作成された水平格子解像度1kmの年平均飛来海塩量の空間分布データである。平均飛来海塩量マップにより、海塩粒子が多量に飛散する傾向にあるエリアと、そうでないエリアとを区別することが可能となる。配電設備への海塩付着は、配電設備の腐食劣化速度を速める。引込線火花事象やVCTリード線短絡等の海塩被害は、配電設備の劣化も要因と考えられる。そのため、平均飛来海塩量マップとは、設備腐食劣化速度の地域差を判定する観点から、配電設備の保守及び運用上の判断を行う資料となり得る。さらに、年平均飛来海塩量と強風時のみを対象とした平均飛来海塩量との空間分布に類似性が認められることから、平均飛来海塩量マップは、強風に伴う海塩被害に対しても一定の指標になり得る。
【0038】
平均飛来海塩量算出部14は、一般曲線座標系で表示された大気の連続式、連動量保存式、及び、海塩粒子濃度の輸送方程式を基礎方程式として数値流体解析に用いる。また、平均飛来海塩量算出部14は、流入側境界を海上に設定し、対数則に基づく風速分布と、海上風速と海域の長さである吹送距離に応じた対数関数形の海塩粒子濃度鉛直分布を使用する。また、平均飛来海塩量算出部14は、地表境界では、地表面粗度を考慮した対数則から定まる風速と粒子の沈着モデル式を用いる。
【0039】
そして、平均飛来海塩量算出部14は、以下の統計的手続きにより累積的な飛来塩分の広域分布の推定を行う。平均飛来海塩量算出部14は、まず、気象データを用いて、複数の階級に分類した風向、風速及び粒子毎に、風及び海塩粒子輸送の数値解析を実施する。次に、平均飛来海塩量算出部14は、離岸距離が10km程度の海上の複数地点の気流統計データを気象モデルから取得する。そして、平均飛来海塩量算出部14は、海上の複数地点の気流統計データから任意の地上位置の風向及び風速の出現頻度を推定する。次に、平均飛来海塩量算出部14は、風向、風速及び粒子別の解析結果に、風向及び風速の出現頻度の重みづけ積算を行うことで、飛来海塩量の期間平均値を算出する。具体的には、平均飛来海塩量算出部14は、次の数式(3)を用いて飛来海塩量の期間平均値を算出する。
【0040】
【数3】
【0041】
meanは、飛来海塩量の期間平均値を表す。飛来海塩量は、粒子移流フラックスであり、風向きに直角な面の単位面積及び単位時間あたりに通過する海塩粒子の質量(移流フラックス、濃度と風速の積で表される量)である。飛来海塩量は、物体に付着する海塩量と相関を有する。また、Uは風速を表し、Cは粒子質量濃度を表し、CPは粒子経路階級を表し、CVは風速階級を表し、WDは解析風向を表す。
【0042】
そして、平均飛来海塩量算出部14は、求めた飛来海塩量の期間平均値を用いて平均飛来海塩量マップを生成する。平均飛来海塩量マップは地表付近における水平方向の格子間隔は1kmであり、鉛直の格子間隔は50mである。また、粒子の輸送過程は粒子の大きさと風速に依存することから、平均飛来海塩量算出部14は、図3に示すように、粒子を3階級に分類し、風速を5階級に分類して平均飛来海塩量マップを生成する。図3は、粒子条件と風速条件を表す図である。その後、平均飛来海塩量算出部14は、作成した平均飛来海塩量マップを更新設備決定部16へ出力する。
【0043】
更新設備決定部16は、各地点の環境情報及び配電設備の設置状況が登録されたデータベースを有する。環境情報としては、例えば、各地点に配置された電柱毎の土地利用状態、標高及び傾斜度の情報が含まれる。また、配電設備の設置状況としては、各地点に配置された電柱毎の引込線数及び引込線の経年といった情報が含まれる。
【0044】
また、更新設備決定部16は、海塩被害を引き起こす可能性がある配電設備を特定するための海塩付着量の閾値を有する。ここで、海塩被害を引き起こす可能性がある海塩付着量の閾値について説明する。台風通過後に引込線に海塩被害が発生したと考えられる時刻及び場所において、被害発生を誘発する微小降水が見られた時刻での海塩付着量を以下の手順で抽出する。まず、引込線被害が報告されている各点における海塩付着量の時系列分布を得る。次に、引込線の被害は、それが報告されている時刻より早い時間帯に起きていることから、引込線被害が報告されている時刻の6時間前から引込線被害が報告されている時間帯における海塩付着量を抽出する。海塩急速汚損による被害は降水強度が2mm/h以下で発生すると報告されていることから、同時間帯において降水があるものの降水強度が2mm/h以下となる時刻における海塩付着量を抽出して、各点における最大値を求める。雨洗効果の評価にγ’=0.1p又はγ’=0.03pを用いて推定された台風通過後の海塩付着量分布から、上記手順で抽出された各点での被害発生時における海塩付着量の累積頻度分布を求める。海塩付着量の累積頻度分布は、被害発生数にあたる。
【0045】
図4は、台風通過後の海塩被害発生時における海塩付着量の累積頻度分布を表す図である。グラフ121及び122ともに、縦軸で累積頻度分布を表し、横軸で海塩付着量を表す。そして、線123は、雨洗効果の評価にγ’=0.1pを用いた場合の結果であり、線124は、雨洗効果の評価にγ’=0.03pを用いた場合の結果である。図4に示すように、どちらの雨洗効果の評価式を用いて分析を行った場合でも、海塩付着量が6×10-4mg/cmを超えると累積被害発生数が急激に増加することがわかる。また、海塩付着量が6×10-4mg/cmを超えると、海塩付着量に応じた顕著な変化が累積被害発生数に見られないことから、海塩付着量が6×10-4mg/cmを超えると,被害発生が海塩付着量に依存しないことがわかる。したがって、海塩付着量が6×10-4m/cmを超えると、引込線被害が発生する可能性があることがわかる。そこで、本実施例に係る更新設備決定部16は、6×10-4mg/cmを海塩付着量の閾値として有する。すなわち、更新設備決定部16は、過去に発生した海塩急速汚損による被害発生数の増加率を基に閾値決定基準位置及び閾値決定基準時刻を特定し、特定した閾値決定基準位置及び閾値決定基準時刻における前記配電設備への海塩付着量を閾値とし、前記閾値を超えた配電設備を海塩被害の発生する可能性が高い配電設備として特定する。ここで、図4において累積頻度分布が急激に増加する点に対応する位置及び時刻が、閾値決定基準位置及び閾値決定基準時刻の一例にあたる。
【0046】
更新設備決定部16は、各地点における配電設備への海塩量付着量の推定結果の入力を海塩付着量計算部15から受ける。また、更新設備決定部16は、平均飛来海塩量マップの入力を平均飛来海塩量算出部14から受ける。
【0047】
そして、更新設備決定部16は、各地点における配電設備への海塩量付着量、配電設備の情報、並びに、土地利用状態、標高及び傾斜度の情報を用いて海塩被害が発生する可能性が高い配電設備を特定する。以下にそれぞれの要因についての判定手順について説明する。
【0048】
ここで、電柱1本あたりの引込線数の増加に伴い被害率は概ね上昇する。一本の電柱に接続している引込線が多くなるとそれだけ曝露している数が多くなるため、結果として被害が発生する可能性が高くなると考えられ、本結果は一般性があるものと考えられる。そこで、更新設備決定部16は、引込線数が多い電柱の配電設備を海塩被害が発生する可能性が高い配電設備であると判定する。
【0049】
また、一本の電柱に設置されている引込線の平均経年の増加に伴い、被害率が高くなっている傾向には一般性がある。特に、平均経年10年を超えるあたりから被害率が高くなる傾向を示すといえる。そこで、更新設備決定部16は、例えば、平均経年が10年以上でより平均経年が高い電柱の配電設備を海塩被害が発生する可能性が高い配電設備であると判定する。
【0050】
また、被害報告時刻の海塩付着量と台風通過中の最大海塩付着量の間には相関が高い。一方、最大海塩付着量と被害率との関係にはあまり有意な相関関係がない。このことから、急速汚損による海塩付着量がある閾値を超えると付着量によらず火花事故が発生する危険度が等しく高くなるといえる。そこで、更新設備決定部16は、海塩付着量の閾値である6×10-4m/cm以上の海塩付着量の配電設備を海塩被害が発生する可能性が高いと判定する。
【0051】
また、建物用地に被害が集中することが明らかである。一方、森林地域は引込線や電柱の敷設数が多くても被害率は建物用地などに比べると低くなるといえる。すなわち、森林地域が樹木により海塩が引込線に付着することを抑制する効果があると考えられる。そこで、更新設備決定部16は、土地利用が市街地の住宅地である地点の配電設備を海塩被害が発生する可能性が高い配電設備であると判定する。
【0052】
また、標高によらずほぼ電柱施設数に比例して被害が発生しており、被害率が高い標高は各地点でばらつきが大きい。この結果から標高にはあまり有意な被害との相関はないこと考えられる。また、電柱数と被害箇所数とはほぼ比例的な関係があり、且つ電柱敷設の多い傾斜度のゆるい平野部に被害が集中する傾向がある。この結果は,傾斜度と被害との相関はそれほど高くないといえる。そこで、本実施例に係る更新設備決定部16は、海塩被害が発生する可能性の判定材料として標高及び傾斜度は除いて判定を行う。
【0053】
例えば、更新設備決定部16は、1本の電柱に対する引込線数、引込線の経年、海塩付着量及び土地利用のそれぞれを、海塩被害の発生の判定の指標とする値に換算する。そして、更新設備決定部16は、各配電設備の指標の値の合計を算出し、算出した値が高い順に配電設備を並べて、そのなかで上位の所定数の配電設備を海塩被害が発生する可能性が高い配電設備として特定する。
【0054】
さらに、更新設備決定部16は、平均飛来海塩量マップから海塩粒子が多量に飛散する傾向のあるエリアを特定する。そして、更新設備決定部16は、海塩被害が発生する可能性が高い配電設備として特定した配電設備のうち、その特定したエリアに含まれる配電設備を更新する配電設備として決定する。その後、更新設備決定部16は、管理者の端末などに更新する配電設備として決定した配電設備の情報を送信して、管理者に更新が望ましい配電設備を通知する。
【0055】
次に、図5を参照して、本実施例に係る配電設備管理装置1による更新対象となる配電設備の決定処理の流れについて説明する。図5は、更新対象となる配電設備の決定処理のフローチャートである。
【0056】
データ取得部11は、海面温度情報、気象条件の初期値及び境界値を外部の気象情報提供システム2から取得する。また、データ取得部11は、沿岸海上気象データを含む気象データ及び気象統計データを外部の気象情報提供システム2から取得する(ステップS1)。そして、データ取得部11は、海面温度情報、並びに、気象条件の初期値及び境界値を気象計算部12へ出力する。また、データ取得部11は、取得した気象データ及び気象統計データを平均飛来海塩量算出部14へ出力する。
【0057】
気象計算部12は、海面温度情報、並びに、気象条件の初期値及び境界値の入力をデータ取得部11から受ける。そして、気象計算部12は、取得した情報を用いて、計算領域の台風通過時における気象計算を実施して台風通過時の気象情報を求める(ステップS2)。その後、気象計算部12は、求めた気象情報を海塩飛散計算部13及び海塩付着量計算部15へ出力する。
【0058】
海塩飛散計算部13は、定期的に気象情報の入力を気象計算部12から受ける。そして、海塩飛散計算部13は、取得した情報を用いて、台風が計算領域の台風通過時における海塩飛散計算を実施して、各時刻での気中及び降水中の海塩濃度の空間分布の情報を取得する(ステップS3)。その後、海塩飛散計算部13は、算出した各時刻での気中及び降水中の海塩濃度の空間分布の情報を海塩付着量計算部15へ出力する。
【0059】
海塩付着量計算部15は、気象情報の入力を気象計算部12から受ける。また、海塩付着量計算部15は、各時刻での気中及び降水中の海塩濃度の空間分布の情報の入力を海塩飛散計算部13から受ける。そして、海塩付着量算出部15は、海塩付着量の雨洗効果を修正した数式(2)を用いて配電設備の海塩付着量を算出する(ステップS4)。その後、海塩付着量計算部15は、各地点における配電設備への海塩付着量の推定結果を更新設備決定部17へ出力する。
【0060】
平均飛来海塩量算出部14は、気象データ及び気象統計データの入力をデータ取得部11から取得する。平均飛来海塩量算出部14は、数値流体解析と統計的手続きとを組み合わせて用いることで平均飛来海塩量マップを作成する(ステップS5)。その後、平均飛来海塩量算出部14は、作成した平均飛来海塩量マップを更新設備決定部16へ出力する。
【0061】
更新設備決定部16は、各地点における配電設備への海塩量付着量の推定結果の入力を海塩付着量計算部15から受ける。また、更新設備決定部16は、平均飛来海塩量マップの入力を平均飛来海塩量算出部14から受ける。そして、更新設備決定部16は、各地点における配電設備への海塩量付着量、配電設備の情報及び土地利用状態の情報を用いて海塩被害が発生する可能性が高い配電設備を特定する。次に、平均飛来海塩量マップから海塩粒子が多量に飛散する傾向のあるエリアを特定する。そして、更新設備決定部16は、海塩被害が発生する可能性が高い配電設備として特定した配電設備のうち、その特定したエリアに含まれる配電設備を更新する配電設備として決定する(ステップS6)。
【0062】
その後、更新設備決定部16は、管理者の端末などに更新する配電設備として決定した配電設備の情報を送信して、管理者に更新が望ましい配電設備を通知する(ステップS7)。
【0063】
以上に説明したように、本実施例に係る配電設備管理装置は、気象計算を実行して台風経路の再現を行い、台風通過時の気象情報を求める。次に、配電設備管理装置は、求めた台風通過時の気象情報を用いて海塩飛散計算を行い、台風通過時の気中及び降水中の海塩濃度の空間分布を求める。その後、配電設備管理装置は、気象情報及び海塩飛散計算の結果を基に、雨洗効果を修正した海塩付着量の算出式を用いて配電設備への海塩付着量の推定を行う。さらに、配電設備管理装置は、平均飛来海塩量マップを生成して海塩粒子が多量に飛散する傾向にあるエリアとそうでないエリアとを区別し、海塩付着量、配電設備の情報及び土地利用状態の情報を用いて、更新する配電設備を決定して通知する。
【0064】
これにより、台風通過時の気象状況が正確に再現して、実際の被害に精度よく対応する海塩付着量を算出することができ、海塩被害が発生する可能性の高い配電設備を特定することが可能となる。また、海塩粒子が大量に飛散するエリアの情報を考慮することで、より海塩被害が発生する可能性の高い配電設備をより精度よく特定することが可能となる。このように、配電設備の海塩急速汚損に対する分析や予測を高精度で行ことが可能となる。したがって、海塩被害が発生する前に配電設備を更新することができ、配電設備の安全性及び信頼性を向上させることが可能となる。
【0065】
また、電気事業者の配電部門もマンパワーが限られているため全ての配電設備を網羅的に更新することは困難である。そこで、本実施例に係る配電設備管理装置を用いて優先順位を付けて更新する配電設備を決定することで、限られたマンパワーの中でも適切な配電設備の管理を行うことができ、且つ、有効な設備投資を行うことが可能となる。
【0066】
(ハードウェア構成)
図6は、配電設備管理装置のハードウェア構成図である。以上の各実施例で説明した配電設備管理装置1は、例えば、図6に示したコンピュータ90により実現可能である。コンピュータ90は、プロセッサ91、メモリ92、記憶装置93、入力装置94、出力装置95及び通信装置96を有する。プロセッサ91は、バスを介してメモリ92、記憶装置93、入力装置94、出力装置95及び通信装置96に接続する。
【0067】
入力装置94は、例えばキーボードやマウスなどである。各実施例では、データ取得部11は、外部の気象情報提供システム2からデータを取得したが、利用者は、入力装置94を用いてデータを入力してもよい。
【0068】
出力装置95は、例えばモニタやプリンタなどである。利用者は、出力装置95を用いて更新が望ましい配電設備の通知を確認してもよい。
【0069】
通信装置96は、気象情報提供システム2などに接続するためのインタフェースを有する。通信装置96は、プロセッサ91と外部の装置との間の通信を制御する。
【0070】
記憶装置93は、補助記憶装置であり、例えばハードディスクやSSD(Solid State Drive)などである。記憶装置93は、各種プログラムを格納する。例えば、記憶装置93は、図1に例示した、データ取得部11、気象計算部12、海塩飛散計算部13、平均飛来海塩量算出部14、海塩付着量計算部15及び更新設備決定部16の機能を実現するプログラムを含む各種プログラムを格納する。
【0071】
プロセッサ91は、記憶装置93から各種プログラムを読み出してメモリ92に展開して実行する。これにより、プロセッサ91及びメモリ92は、図1に例示した、データ取得部11、気象計算部12、海塩飛散計算部13、平均飛来海塩量算出部14、海塩付着量計算部15及び更新設備決定部16の機能を実現する。
【符号の説明】
【0072】
1 配電設備管理装置
11 データ取得部
12 気象計算部
13 海塩飛散計算部
14 平均飛来海塩量算出部
15 海塩付着量計算部
16 更新設備決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6