(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185584
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】YFI型ゼオライト、その製造方法、炭化水素吸着剤及び炭化水素の吸着方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/48 20060101AFI20221207BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20221207BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20221207BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20221207BHJP
B01D 53/02 20060101ALI20221207BHJP
B01D 53/92 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C01B39/48
B01J20/18 B ZAB
B01J20/18 D
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01D53/02
B01D53/92 280
B01D53/92 350
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089038
(22)【出願日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2021093264
(32)【優先日】2021-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三橋 亮
(72)【発明者】
【氏名】中澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 豊浩
【テーマコード(参考)】
4D002
4D012
4G066
4G073
【Fターム(参考)】
4D002AA33
4D002AC10
4D002BA04
4D002CA07
4D002DA01
4D002DA02
4D002DA03
4D002DA45
4D002EA06
4D002EA08
4D002GA01
4D002GB08
4D002GB12
4D012BA02
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4D012CH05
4G066AA34D
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4G066GA01
4G073BA01
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4G073GA01
4G073GA03
4G073GA12
4G073GA40
4G073GB10
4G073UA06
(57)【要約】
【課題】
水熱耐久処理前後で脱離開始温度の差が小さいYFI型ゼオライト、その製造方法、それを含む炭化水素吸着剤及び炭化水素の吸着方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
含有するアルミニウム質量に対する骨格外アルミニウム質量の割合が0質量%以上28質量%以下であることを特徴とするYFI型ゼオライトを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有するアルミニウム質量に対する骨格外アルミニウム質量の割合が0以上28質量%以下であることを特徴とするYFI型ゼオライト。
【請求項2】
前記ゼオライトのアルミナに対するシリカのモル比(SiO2/Al2O3)が20以上100以下である請求項1に記載のYFI型ゼオライト。
【請求項3】
前記ゼオライトのBET比表面積が300m2/g以上700m2/g以下である請求項1または請求項2に記載のYFI型ゼオライト。
【請求項4】
アルカリ金属を含有する請求項1または請求項2に記載のYFI型ゼオライト。
【請求項5】
ナトリウム、カリウム、セシウム及びルビジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1または請求項2のいずれかの記載のYFI型ゼオライト。
【請求項6】
YFI型ゼオライト前駆体を塩酸及び硫酸のいずれかで処理することを特徴とするYFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
YFI型ゼオライト前駆体を処理する酸が塩酸であり、60℃以上100℃以下で処理することを特徴とする請求項6に記載のYFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項8】
YFI型ゼオライト前駆体のアルミナに対するシリカのモル比(SiO2/Al2O3)が25未満であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のYFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載のYFI型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤。
【請求項10】
請求項9に記載の炭化水素吸着剤を使用する炭化水素の吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、YFI型ゼオライト、その製造方法、炭化水素吸着剤及び炭化水素の吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や船舶などの移動体に使用されている内燃機関から排出される排ガスは炭化水素を多く含み、内燃機関から排出される炭化水素は三元触媒により浄化される。ただし三元触媒が機能するためには200℃以上の温度環境が必要であるため、いわゆるコールドスタート時など、三元触媒が機能しない温度域では炭化水素吸着剤に炭化水素を吸着し、三元触媒が機能し始める温度域で吸着剤から炭化水素を放出し、これを三元触媒で分解・浄化している。
【0003】
自動車排ガスはエンジン運転状況により、排ガス温度が900℃以上に達する。そのため、炭化水素吸着剤には高い耐熱性が求められる。
【0004】
低温時の排ガスからの炭化水素を吸着浄化する方法として、アルミナに対するシリカのモル比(以下、「SiO2/Al2O3モル比」ともいう。)が50~2000であるモルデナイト、BEA型ゼオライト、ZSM-5などのゼオライトにPt、Pd及びRhからなる群から選ばれた少なくとも1種を含む排ガス浄化用吸着触媒(特許文献1)、Agを担持した分子篩(特許文献2)、Cu及びCuとCo,Ni,Cr,Fe,Mn,Ag,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Vからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属でイオン交換したZSM-5ゼオライト(特許文献3)が提案されている。
【0005】
近年、YFI型ゼオライトが新たな炭化水素吸着剤として注目されている。YFI型ゼオライトは、2次元の酸素12員環細孔と1次元の酸素8員環細孔とが交差した3次元細孔構造と、独立した1次元の酸素8員環細孔を有するゼオライトである(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07-213910号公報
【特許文献2】特開平06-126165号公報
【特許文献3】特開平06-210163号公報
【特許文献4】国際公開2018/061827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の炭化水素吸着剤は、何れも熱水雰囲気での耐久性、特に900℃程度の高温下の熱水雰囲気での耐久性が不十分であった。そのため、熱水雰囲気に晒されると吸着した炭化水素がより低温で脱離しやすくなってしまう。
【0008】
本開示は、水熱耐久処理前後で脱離開始温度の差が小さい炭化水素吸着剤を与えるYFI型ゼオライト、その製造方法、並びに、これを含む炭化水素吸着剤及び炭化水素吸着方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、YFI型ゼオライトの高温耐久性の改善について検討した。その結果、脱Al処理を施した後のYFI型ゼオライトの骨格外アルミニウムが高温耐久性に影響を与えることに着目し、骨格外アルミニウムが少なくなることでYFI型ゼオライトの水熱耐久処理前後の脱離開始温度の差が小さくなることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は特許請求の範囲に記載のとおりであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] 含有するアルミニウム質量に対する骨格外アルミニウム質量の割合が0質量%以上28質量%以下であることを特徴とするYFI型ゼオライト。
[2] アルミナに対するシリカのモル比(SiO2/Al2O3)が20以上100以下である上記[1]に記載のYFI型ゼオライト。
[3] BET比表面積が300m2/g以上700m2/g以下である上記[1]または[2]に記載のYFI型ゼオライト。
[4] アルカリ金属を含有する上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のYFI型ゼオライト。
[5] ナトリウム、カリウム、セシウム及びルビジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のYFI型ゼオライト。
[6] YFI型ゼオライト前駆体を塩酸及び硫酸の少なくともいずれかの酸で、60℃以上100℃以下で処理することを特徴とするYFI型ゼオライトの製造方法。
[7] 前記酸が塩酸である、上記[6]に記載のYFI型ゼオライトの製造方法。
[8] 前記YFI型ゼオライト前駆体のアルミナに対するシリカのモル比(SiO2/Al2O3)が25未満であることを特徴とする上記[6]または[7]に記載のYFI型ゼオライトの製造方法。
[9] [1]乃至[5]のいずれかに記載のYFI型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤。
[10] [9]に記載の炭化水素吸着剤を使用する炭化水素の吸着方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、水熱耐久処理前後の脱離開始温度の差が小さいYFI型ゼオライト、その製造方法、並びに、これを含む炭化水素吸着剤及び炭化水素吸着方法の少なくともいずれかを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1のNH
3-TPD測定における差スペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示について、その実施態様の一例を示して説明する。なお、本実施形態における用語は以下の通りである。
【0014】
「アルミノシリケート」は、アルミニウム(Al)とケイ素(Si)とが酸素(O)を介したネットワークの繰返しからなる構造を有する複合酸化物である。アルミノシリケートのうち、その粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンにおいて、結晶性のXRDピークを有するものが「結晶性アルミノシリケート」、及び、結晶性のXRDピークを有さないものが「非晶質アルミノシリケート」である。
【0015】
本実施形態において、XRDパターンは以下の条件のXRD測定より得られるものが挙げられる。
【0016】
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャン条件 : 40°/分
測定範囲 : 2θ=3°から43°
検出器 : 半導体検出器
結晶性のXRDピークは、一般的な解析ソフト(例えば、SmartLab StudioII、リガク社製)を使用したXRDパターンの解析においてピークトップの2θが特定され検出されるピークであり、半値幅が2θ=0.50°以下のXRDピークが例示できる。
【0017】
「ゼオライト」とは、骨格原子(以下、「T原子」ともいう。)が酸素(O)を介した規則的構造を有する化合物であり、T原子が金属原子及び又は半金属原子の少なくともいずれかからなる化合物である。半金属原子としては、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)及びテルル(Te)からなる群から選ばれる少なくとも1種が例示できる。
【0018】
「ゼオライト類似物質」とは、T原子が酸素を介した規則的構造を有する化合物であり、T原子に少なくとも金属及び半金属以外の原子(以下、「非金属原子」ともいう。)を含む化合物である。非金属原子としてリン(P)が例示できる。ゼオライト類似物質として、アルミノフォスフェート(AlPO)やシリコアルミノフォスフェート(SAPO)など、T原子としてリン(P)を含む複合リン化合物が例示できる。
【0019】
ゼオライトやゼオライト類似物質における「規則的構造(以下、「ゼオライト構造」ともいう。)」とは、国際ゼオライト学会(International ZeoliteAssociation)のStructure Commissionが定めている構造コード(以下、単に「構造コード」ともいう。)で特定される骨格構造である。例えば、YFI構造は構造コード「YFI」として、特定される骨格構造である。YFI構造は、IZAの構造委員会のホームページhttp://www.iza-struture.org/databases/のZeolite Framework TypesのYFIに記載のXRDパターン(以下、「参照パターン」ともいう。)との対比によって、ゼオライト構造は同定できる。ゼオライト構造に関し、骨格構造、結晶構造又は結晶相はそれぞれ同義で使用される。
【0020】
本実施形態において、「YFI型ゼオライト」など、「~型ゼオライト」は、当該構造コードのゼオライト構造を有するゼオライトを意味し、好ましくは当該構造コードのゼオライト構造を有する結晶性アルミノシリケートを意味する。
【0021】
以下、本実施形態のYFI型ゼオライトについて説明する。
【0022】
本実施形態のYFI型ゼオライトは、含有するアルミニウム質量に対する骨格外アルミニウム質量の割合(すなわち、YFI型ゼオライト中のアルミニウムに占める骨格外アルミニウムの質量割合;以下、「骨格外Al割合」ともいう。)が0質量%以上28質量%以下であり、好ましくは、5質量%以上28質量%以下であり、より好ましくは、10質量%以上28質量%以下であり、更に好ましくは、15質量%以上28質量%以下であり、特に好ましくは20質量%以上25質量%以下である。骨格外Al割合が上記の範囲となることで水熱耐久処理前後の脱離開始温度の差が小さくなりやすい。また、骨格外Al割合が大きくなるほど、脱離開始温度が高くなりやすい。骨格外Al割合は、上記の上限及び下限の任意の組合せであってもよい。
【0023】
骨格外Al割合は下式から求められる。
【0024】
骨格外Al割合(質量%)=(含有するアルミニウム質量-骨格内Alの質量)(g)
÷含有するアルミニウム質量(g)×100
「含有するアルミニウム」は本実施形態のYFI型ゼオライトに含まれるすべてのアルミニウム原子であり、本実施形態のYFI型ゼオライトのT原子として存在するアルミニウム原子(骨格内Al)、及び、YFI型ゼオライトのT原子以外として存在するアルミニウム原子(以下、「骨格外Al」ともいう。)の合計である。また、「含有するアルミニウム質量」とは、骨格内Al及び骨格外Alの合計をアルミナ(Al2O3)換算した質量であり、骨格内Alと骨格外Alの合計質量に相当する。含有するアルミニウム質量は組成分析により求めることができる。組成分析は例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)を挙げることができる。
【0025】
上述の骨格外Al割合を満たせば、含有するアルミニウム質量は任意である。例えば、本実施形態のYFI型ゼオライトの単位質量(1g)当たりの含有するアルミニウム質量(以下、「AlTotal」ともいう。)として、15mg以上又は20mg以上であり、また、80mg以下、70mg以下又は60mg未満であることが例示できる。YFI型ゼオライトの単位質量(1g)当たりのAlTotalの上限及び下限は上記の任意の組合せであればよい。 骨格内Al及び骨格外Alの質量は、これをアルミナ換算した質量であり、それぞれ、下式から求められる。
【0026】
骨格内Alの質量(g)
=固体酸量(mol/g)÷2×アルミナの分子量(101.96(g/mol))
骨格外Al質量(g)
=AlTotal(g)-骨格内Alの質量(g)
固体酸量は一般的なNH3-TPD法により定量することができる。NH3-TPD測定は通常の触媒分析装置(例えば、BELCATII、MicrotracBEL社製)を使用した、以下に示す方法が例示できる。
【0027】
<測定試料>
試料 :H型又はNH4型のYFI型ゼオライト 0.05g
<前処理>
雰囲気 :ヘリウム流通下
温度 :500℃
ガス流量:50mL/分
時間 :1時間
<NH3-TPD測定>
前処理後の試料について、100℃で、1体積%のアンモニア及び99体積%のヘリウムガスを含む混合ガスを30分流通させた後、混合ガスからヘリウムガスに切り替え、該ヘリウムガスを15分流通させる雰囲気中の残存アンモニアを除去する。残存アンモニアの除去後、流速30mL/分のヘリウム流通下、昇温速度10℃/分で710℃まで昇温し、熱伝導度検出器(TCD)を備えたガスクロマトグラフによってアンモニアを連続的に定量し、アンモニアの脱離スペクトルを得る。
【0028】
また、1体積%のアンモニア及び99体積%のヘリウムガスを含む混合ガスの代わりに、ヘリウムガスを使用すること以外はアンモニアの脱離スペクトルを得る方法と同様の方法で測定することでブランクスペクトルを得る。
【0029】
アンモニアの脱離スペクトルからブランクスペクトルを差し引いたスペクトル(以下、「差スペクトル」ともいう。)において、300℃以上に頂点を有する脱離ピークを固体酸に吸着したアンモニアの脱離ピークとみなし、該ピークのピーク面積からアンモニア脱離量を求め、試料質量(g)に対する該アンモニア脱離量(mmol)の割合(mmol/g)をもって、固体酸量とすればよい。
【0030】
アンモニア脱離量の算出等の差スペクトルの解析は、一般的な解析ソフト(例えば、ChemMaster for Windows ver1.4.9、マイクロトラックベル社製)を使用して行いえばよい。
【0031】
本実施形態のYFI型ゼオライトは、SiO2/Al2O3モル比が好ましくは20以上、25以上、30以上又は40以上であり、かつ、100以下、80以下、60以下又は50以下、である。SiO2/Al2O3モル比がこれらの値を有し、かつ、小さいほど、脱離開始温度が高くなりやすい。SiO2/Al2O3モル比の上限及び下限は上記の任意の組合せであればよい。
【0032】
本実施形態のYFI型ゼオライトは、そのXRDパターンにYFI構造として特定されるXRDピークを有するものであり、少なくとも以下のXRDピークを含むXRDパターンを有することが挙げられる。
【0033】
【0034】
本実施形態において、該XRDパターンは上表における各XRDピークを含むものであればよく、YFI構造に帰属される他のXRDピークを含んでいてもよい。
【0035】
本実施形態のYFI型ゼオライトは、そのXRDパターンに少なくとも以下のXRDピークを含むことが好ましい。
【0036】
【0037】
本実施形態のYFI型ゼオライトは上記のピーク以外に、相対強度が1%未満であるXRDピークを含んでいてもよい。但し、これらの低強度のXRDピークは結晶構造の同定に考慮する必要はない。
【0038】
本実施形態のYFI型ゼオライトは炭化水素吸着能に優れる点で、BET比表面積が300m2/g以上700m2/g以下、300m2/g以上600m2/g以下、400m2/g以上600m2/g以下、又は、400m2/g以上500m2/g以下であることが好ましい。BET比表面積の上限及び下限は上記の任意の組合せであればよい。
【0039】
本実施形態のYFI型ゼオライトはアルカリ金属、好ましくはナトリウム、カリウム、セシウム及びルビジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種、より好ましくはカリウム、セシウム及びルビジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種、更に好ましくはセシウムを含有することが好ましい。アルカリ金属を含有することで、これを炭化水素吸着剤とした場合に炭化水素の吸着量が増加するなど炭化水素吸着能が向上しやすくなる。
【0040】
アルカリ金属を含有する場合、該アルカリ金属はT原子以外として含有されていること(アルカリ金属含有YFI型ゼオライトであること)が好ましく、YFI型ゼオライトに担持されていること(アルカリ金属担持YFI型ゼオライトであること)が好ましい。
【0041】
次に、本実施形態のYFI型ゼオライトの製造方法について説明する。
【0042】
本実施形態のYFI型ゼオライトの製造方法は、YFI型ゼオライト前駆体を塩酸及び硫酸の少なくともいずれかの酸で、60℃以上100℃以下で処理する工程、を有することを特徴とするYFI型ゼオライトの製造方法、である。YFI型ゼオライト前駆体を処理する酸が塩酸であることが好ましい。さらに好ましくは、本実施形態の製造方法は、SiO2/Al2O3モル比が25未満のYFI型ゼオライト前駆体を塩酸で、60℃以上100℃以下で処理する工程を有することを特徴とするYFI型ゼオライトの製造方法、である。上記の製造方法で製造することにより水熱耐久処理前後の脱離開始温度の差が小さいYFI型ゼオライトとなり得る。
<酸処理工程>
塩酸及び硫酸の少なくともいずれかの酸(以下、「塩酸等」ともいう。)で、60℃以上100℃以下で処理する工程(以下、「酸処理工程」ともいう。)に供するYFI型ゼオライト前駆体(以下、「前駆YFI」ともいう。)は、YFI型ゼオライトであればよい。また酸処理工程は繰り返し行ってもよく、本実施形態の製造方法は、酸処理工程後のYFI型ゼオライトを塩酸等で処理する工程を含んでいてもよい。YFI型ゼオライトは有機構造指向材を含む組成物を結晶化して製造される合成ゼオライトであるが、前駆YFIは有機構造指向剤(以下、「SDA」ともいう。)を含有していないYFI型ゼオライトであることが好ましい。
【0043】
前駆YFIはSiO2/Al2O3モル比が10以上、12以上又は15以上であり、かつ、25未満、22以下、20以下又は20未満であることが好ましい。
【0044】
前駆YFIの骨格外Al割合は任意であるが、例えば、28質量%超又は30質量%以上であり、また、50質量%以下又は40質量%以下であることが挙げられる。また、前駆YFIの単位質量(1g)当たりのAlTotalとして、60mg以上又は75mg以上であり、また、150mg以下、100mg以下又は95mg以下であることが例示できる。
【0045】
前駆YFIは、SDAを含有せず、なおかつ、SiO2/Al2O3モル比が25未満のYFI型ゼオライトであることが好ましい。また、前駆YFIは、結晶化及びSDAを除去後の状態のYFI型ゼオライトであることが好ましい。すなわち、前駆YFIは、結晶化後のYFI型ゼオライト及び焼成後のYFI型ゼオライトの少なくともいずれかであることが好ましく、焼成後のYFI型ゼオライト(以下、「焼成YFI型ゼオライト」ともいう。)であることがより好ましい。なお、焼成YFI型ゼオライトにおける焼成は、特に結晶化後のYFI型ゼオライトのSDA除去を目的とした焼成であり、例えば、400℃以上800℃以下の焼成である。
【0046】
前駆YFIがSDAを含有している場合は、酸処理工程に先立ちSDAを除去することが好ましく、例えば、焼成によりSDAを除去することが好ましい。該焼成の条件は任意であるが、酸化雰囲気中、焼成温度400℃以上800℃以下、焼成時間0.5時間以上12時間以下を挙げることができる。
【0047】
酸処理工程は、前駆YFIと、塩酸等を、60℃以上100℃以下で接触させることが挙げられ、好ましくは前駆YFIと塩酸とを混合し、60℃以上又は70℃以上であり、かつ100℃以下又は90℃以下で撹拌する方法が挙げられる。前駆YFIと酸との混合温度(以下、「酸処理温度」ともいう。)が高いほど本実施形態のYFI型ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比が高くなりやすく、また、酸処理温度が低いほど本実施形態のYFI型ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比が低くなりやすい。
【0048】
前駆YFIと、塩酸等を含むスラリーのスラリー濃度は任意であるが、5質量%以上、10質量%以上又は15質量%以上であり、かつ、40質量%以下、30質量%以下又は20質量%以下が好ましい。スラリー濃度は下式から求まるスラリーに占める前駆YFIの質量濃度の値である。
【0049】
スラリー濃度(質量%)=前駆YFI質量(g)/スラリーの質量(g)×100
塩酸等の濃度(以下、「酸濃度」ともいう。)は任意であるが、0.1mol/L以上、10mol/L以下が挙げられ、0.1mol/L以上、0.5mol/L以上又は1.0mol/L超であり、また、8.0mol/L以下、6.0mol/L以下又は5.0mol/L以下であることが好ましい。酸濃度の上限及び下限は上記の任意の組合せであればよい。酸濃度が高いほど得られるYFI型ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比が高くなりやすい。一方、酸濃度が低いほど得られるYFI型ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比が低くなりやすい。
【0050】
酸処理工程後のYFI型ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比が、前駆YFIのSiO2/Al2O3モル比より高くなっていることが好ましい。
<前駆YFIの製造方法>
前駆YFIは上述のYFI型ゼオライトであれば、その製造方法は任意である。前駆YFIは、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を結晶化する工程(以下、「結晶化工程」ともいう。)、を有する製造方法で得られるYFI型ゼオライトであることが挙げられる。
【0051】
シリカ源は、ケイ素(Si)を含む化合物であればよく、例えば、コロイダルシリカ、無定型シリカ、ケイ酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、アルミノシリケートゲル、アルミノシリケートの群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、コロイダルシリカ及び無定型シリカの少なくともいずれかが好ましい。
【0052】
アルミナ源は、アルミニウム(Al)を含む化合物であればよく、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミノシリケートゲル、金属アルミニウム及びアルミノシリケートの群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、水酸化アルミニウム及びアルミノシリケートの少なくともいずれかが好ましい。
【0053】
アルカリ源は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム、マグネシウム、カルシウム又はストロンチウムの水酸化物、ハロゲン化物及び炭酸塩などの各種の塩からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、ナトリウム及びカリウムの少なくともいずれかの水酸化物が好ましく、ナトリウム及びカリウムの水酸化物(すなわち、ナトリウムの水酸化物及びカリウムの水酸化物)であることがより好ましい。
【0054】
結晶化工程において、必要に応じて、原料組成物はSDAを含んでいてもよい。製造操作が簡便になる点で、原料組成物はSDAを含まなくてもよい。一方、原料組成物がSDAを含むことでYFI型ゼオライトが結晶化しやすくなる。
【0055】
SDAは、YFI構造を指向するアンモニウムカチオンであればよく、ジメチルジプロピルアンモニウムカチオン(以下、「Me2Pr2N+」ともいう。)が挙げられる。原料組成物は、Me2Pr2N+を塩として含んでいればよく、Me2Pr2N+を含む塩としては、例えば、ジメチルジプロピルアンモニウムヒドロキシド、ジメチルジプロピルアンモニウムクロリド及びジメチルジプロピルアンモニウムブロミドの群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0056】
原料組成物は、種結晶を含んでいてもよい。種結晶を含むことにより、YFI型ゼオライトの結晶化速度が速くなり、YFI型ゼオライトの結晶化に要する時間が短縮でき、さらに、YFI型ゼオライト収率が向上する。
【0057】
種結晶は、LTL構造、LTA構造、MOR構造、MFI構造、*BEA構造、FAU構造、CHA構造又はYFI構造を有するアルミノシリケートであることが好ましい。
【0058】
種結晶のSiO2/Al2O3モル比は2以上100以下であることが好ましく、3以上60以下であることがより好ましい。
【0059】
種結晶の含有量は、少ない方が好ましいが、反応速度や不純物の抑制効果等を考慮すると、原料組成物に含まれるケイ素(種結晶のケイ素を除く)をシリカ換算した質量に対して0.1質量%以上60質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
原料組成物の好ましい組成として、以下の組成が例示できる。
【0061】
SiO2/Al2O3モル比 =10以上50以下
Me2Pr2N+/SiO2モル比 =0.05以上0.30以下
Na/SiO2モル比 =0.05以上0.60以下
K/SiO2モル比 =0.05以上0.60以下
H2O/SiO2モル比 =3以上50以下
好ましくは、結晶化工程では水熱処理により原料組成物を結晶化する。水熱処理の条件として、以下の条件を挙げることができる。
【0062】
結晶化温度 : 140℃以上180℃以下
結晶化時間 : 1日以上10日以下
結晶化圧力 : 自生圧
以上の結晶化工程によって、前駆YFIが得られる。当該結晶化工程後、得られた前駆YFIは、任意の方法で回収し、洗浄、乾燥、及び焼成することが好ましい。
<イオン交換工程>
酸処理工程後のYFI型ゼオライトは、ゼオライト中の固体酸を増やす工程(以下、「イオン交換工程」ともいう。)に供することが好ましい。イオン交換条件は任意であるが、YFI型ゼオライトと塩化アンモニウム水溶液とを20℃以上200℃以下で接触させることが挙げられる。これによりYFI型ゼオライトのカチオンタイプがアンモニウム型となる。
【0063】
酸処理工程後のYFI型ゼオライトにアルカリ金属を含有させる場合、アルカリ金属の化合物を用いることが好ましく、アルカリ金属を含む無機酸塩、さらには硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及び塩化物の群から選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0064】
アルカリ金属はゼオライトのイオン交換サイト及び細孔の少なくともいずれかに含有していればよく、アルカリ金属を含有させる方法は、具体的な方法として、アルカリ金属化合物を含む水溶液とゼオライトとを混合する方法、イオン交換法、蒸発乾固法及び含浸担持法からなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、含浸担持法またはイオン交換法の少なくともいずれかであることが好ましく、イオン交換法であることがより好ましい。
【0065】
本実施形態のYFI型ゼオライトは、これを含む炭化水素吸着剤として用いられ、さらに、本実施形態のYFI型ゼオライトのみからなる炭化水素吸着剤であってもよい。また、本実施系他のYFI型ゼオライトは、炭化水素吸着剤の担体として使用してもよい。
【0066】
本実施形態の炭化水素吸着剤は用途に応じた任意の形状であればよく、好ましくは、粉末及び成形体の少なくともいずれかが挙げられる。具体的な成形体の形状として、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、多面体状、不定形及び花弁状からなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0067】
炭化水素吸着剤を粉末として利用する場合、上記の炭化水素吸着剤を水やアルコール等の溶媒に混合してスラリーとし、当該スラリーを基材にコーティングした吸着剤とすることができる。
【0068】
本実施形態の炭化水素吸着剤を成形体とする場合、上記の炭化水素吸着剤を必要により結合剤と混合し、任意の方法で成形すればよい。好ましくは、結合剤は、例えば、シリカ、アルミナ、カオリン、アタパルジャイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロェン及びセピオライトからなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げられる。成型方法は、例えば、転動造粒成形、撹拌造粒成形、プレス成形、押し出し成形、射出成形、鋳込み成形及びシート成形からなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0069】
本実施形態の炭化水素吸着剤は、炭化水素の吸着方法で使用することができる。
【0070】
本実施形態の炭化水素吸着剤は、炭化水素含有流体と本実施形態の炭化水素吸着剤とを接触させる工程を有する方法により、炭化水素を吸着することができる。
【0071】
炭化水素含有流体としては、例えば、炭化水素含有ガス又は炭化水素含有液体を挙げることができる。
【0072】
炭化水素含有ガスは少なくとも1種の炭化水素を含むガスであり、2種以上の炭化水素を含むガスであることが好ましい。該炭化水素含有ガスに含まれる炭化水素はパラフィン、オレフィン及び芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。該炭化水素の炭素数は1以上であればよく、1以上15以下であることが好ましい。炭化水素含有ガスに含まれる炭化水素は、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、ブタン、炭素数5以上の直鎖状パラフィン、炭素数5以上の直鎖状オレフィン、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群から選ばれる少なくとも2種が好ましく、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、ブタン、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群から選ばれる少なくとも2種であることがより好ましく、メタン、エタン、エチレン及びプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種と、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群から選ばれる少なくとも1種とであることが更に好ましい。炭化水素含有ガスは一酸化炭素、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び水からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。具体的な炭化水素含有ガスとして、例えば内燃機関の排ガス等の燃焼ガスを挙げることができる。
【0073】
好ましくは当該工程における炭化水素含有流体と本実施形態の炭化水素吸着剤との接触温度は室温~200℃である。
【実施例0074】
以下、実施例において本実施形態をさらに詳細に説明する。しかし、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
(結晶構造の同定)
一般的なX線回折装置(装置名:UltimaIV Protectus、リガク社製)を使用し、試料のXRD測定をした。測定条件は以下のとおりである。
【0076】
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャン条件 : 40°/分
測定範囲 : 2θ=3°から43°
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
受光ソーラースリット : 5°
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
得られたXRDパターンと参照パターンとを対比することで、ゼオライト構造を同定した。
【0077】
(組成分析)
フッ酸と硝酸の混合水溶液に試料を溶解して試料溶液を調製した。一般的なICP装置(装置名:OPTIMA5300DV、PerkinElmer社製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で測定した。得られたSi及びAlの測定値から、試料のSiO2/Al2O3モル比、及び、AlTotalを求めた。
【0078】
(NH3-TPD法による固体酸量の測定)
NH3-TPD測定は通常の触媒分析装置(装置名:BELCATII、MicrotracBEL社製)を使用して、以下に示す方法で測定した。
【0079】
<測定試料>
試料 :0.05g
<前処理>
雰囲気 :ヘリウム流通下
温度 :500℃
ガス流量:50mL/分
時間 :1時間
<NH3-TPD測定>
前処理後の試料について、100℃で、1体積%のアンモニア及び99体積%のヘリウムガスを含む混合ガスを流通させて、試料にアンモニアを飽和吸着させた。混合ガスを30分流通した後、混合ガスからヘリウムガスに替え、ヘリウムガスを15分流通させることで雰囲気中の残存アンモニアの除去をした。残存アンモニアの除去後、流速30mL/分のヘリウム流通下、昇温速度10℃/分で710℃まで昇温した。これにより、試料に吸着されたアンモニアを試料から脱離させた。試料から脱離されたアンモニアは、熱伝導度検出器(TCD)を備えたガスクロマトグラフによって連続的に定量され、これによりアンモニアの脱離スペクトルを得た。
【0080】
また、1体積%のアンモニア及び99体積%のヘリウムガスを含む混合ガスの代わりに、ヘリウムガスを使用すること以外はアンモニアの脱離スペクトルを得る方法と同様の方法でブランクスペクトルを得た。
【0081】
アンモニアの脱離スペクトルからブランクスペクトルを差し引いたスペクトル(以下、「差スペクトル」ともいう。)から固体酸量を定量した。
【0082】
すなわち、差スペクトルにおいて、300℃以上に頂点(極値)を有する脱離ピークをアンモニア脱離ピークとみなし、触媒分析装置付属の解析ソフト(ChemMaster for Windows ver1.4.9、マイクロトラックベル社製)を使用し、該ピークの面積(積分値)を求めアンモニア脱離量とした。アンモニア脱離量(mmol)と試料質量(g)の比を固体酸量(mmol/g)とした。
(BET比表面積の測定)
測定試料を空気雰囲気から、350℃で2時間脱気し、前処理とした。前処理後、通常の窒素吸着装置(装置名:BELSORP-mini II、MicrotracBEL社製)を使用し、測定温度77Kにおける窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線の相対圧力0.01以上0.15以下の範囲について、BET法を使用してBET比表面積を算出した。
(骨格外Al割合の算出)
骨格外Al割合は下式から算出した。
【0083】
骨格外Al割合(質量%)
=[AlTotal(g)-(固体酸量(mol/g)÷2×101.96(g/mol))]÷AlTotal(g)×100
合成例1
コロイダルシリカ(製品名:Ludox AS-40、アルドリッチ社製)、FAU型ゼオライト(製品名:HSZ-350HUA、東ソー社製)、Me2Pr2NOH、NaOH、KOH及びH2Oを混合し、以下のモル組成を有する原料組成物を得た。
【0084】
SiO2:0.025Al2O3:0.17Me2Pr2NOH
:0.15NaOH:0.17KOH:7H2O
すなわち、原料組成物のモル組成は、
SiO2/Al2O3モル比 =40
Me2Pr2N+/SiO2モル比 =0.17
Na/SiO2モル比 =0.15
K/SiO2モル比 =0.17
H2O/SiO2モル比 =7
である。
【0085】
得られた原料組成物を内容積80mLのオートクレーブに充填し、160℃、6日間、静置下で結晶化してゼオライトを得た。得られたゼオライトを大気中550℃で焼成した。得られたゼオライトは、SiO2/Al2O3モル比が18及びAlTotalが86.2mgのYFI型ゼオライト(焼成YFI型ゼオライト)であり、これを前駆YFIとした。
【0086】
実施例1
1.4mol/Lの塩酸と、合成例1で得られた前駆YFIを、スラリー濃度が20質量%となるように混合し、80℃で1時間撹拌してスラリーを得た。得られたスラリーをろ過、洗浄することで固形分を回収した。回収した固形分は、20質量%塩化アンモニウム水溶液と混合、ろ過、及び、洗浄した後、大気中110℃で一晩乾燥した。これによりSiO
2/Al
2O
3モル比が42、Al
Totalが38.0mg及びBET比表面積が479m
2/gであり、カチオンタイプがNH
4型であるYFI型ゼオライトを得た。該YFI型ゼオライトの固体酸量は0.58mmol/gであり、骨格外Al割合が23質量%であった。該YFI型ゼオライトのNH
3-TPD測定における差スペクトルを
図1に示す。差スペクトルにおいて、アンモニアの脱離ピークが2つ確認できる。固体酸に吸着したアンモニアの脱離ピークは、460±5℃に頂点(極値)を有する脱離ピークであることが確認できる。
【0087】
実施例2
4.8mol/Lの塩酸を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で本実施例のカチオンタイプがNH4型であるYFI型ゼオライトを得た。該YFI型ゼオライトはSiO2/Al2O3モル比が94、AlTotalが17.7mg及びBET比表面積が489m2/gであり、固体酸量は0.32mmol/gであり、骨格外Al割合が9質量%であった。
【0088】
実施例3
3.4mol/Lの塩酸を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で本実施例のカチオンタイプがNH4型であるYFI型ゼオライトを得た。該YFI型ゼオライトはSiO2/Al2O3モル比が60、AlTotalが27.5mg及びBET比表面積が496m2/gであり、固体酸量は0.44mmol/gであり、骨格外Al割合が18質量%であった。
【0089】
実施例4
0.8mol/Lの塩酸を使用したこと、スラリー濃度を29質量%としたこと、及び95℃で攪拌したこと以外は、実施例1と同様な方法で本実施例のカチオンタイプがNH4型であるYFI型ゼオライトを得た。該YFI型ゼオライトはSiO2/Al2O3モル比が25、AlTotalが63.6mg及びBET比表面積が451m2/gであり、固体酸量は0.90mmol/gであり、骨格外Al割合が28質量%であった。
【0090】
実施例5
0.7mol/Lの硫酸を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のカチオンタイプがNH4型であるYFI型ゼオライトを得た。該YFI型ゼオライトはSiO2/Al2O3モル比が32、AlTotalが50.4mg及びBET比表面積が470m2/gであり、固体酸量は0.75mmol/gであり、骨格外Al割合が24質量%であった。
【0091】
比較例1
1.0mol/Lの塩酸と、合成例1で得られた前駆YFIを、スラリー濃度が15質量%となるように混合し、25℃で18時間撹拌した。撹拌後に得られたスラリーをろ過、洗浄し、20質量%塩化アンモニウム水溶液で処理し、大気中110℃で一晩乾燥した。これによりSiO2/Al2O3モル比が42、AlTotalが38.8mg及びBET比表面積が452m2/gであり、カチオンタイプがNH4型であるYFI型ゼオライトを得た。該YFI型ゼオライトの固体酸量は0.50mmol/gであり、骨格外Al割合が34質量%であった。
【0092】
比較例2
前駆YFIを、酸処理工程に供さず20質量%塩化アンモニウム水溶液で処理したこと以外は、実施例1と同様な方法により、SiO2/Al2O3モル比が18、AlTotalが86.2mg及びBET比表面積が424m2/gであり、カチオンタイプがNH4型であるYFI型ゼオライトを得た。該YFI型ゼオライトの固体酸量は1.06mmol/gであり、骨格外Al割合が37質量%であった。
【0093】
比較例3
1.4mol/Lの硝酸と合成例1で得られた前駆YFIを、スラリー濃度が20質量%となるように混合し、80℃で1時間撹拌した。撹拌後に得られたスラリーをろ過、洗浄し、20質量%塩化アンモニウム水溶液で処理し、大気中110℃で一晩乾燥した。これによりSiO2/Al2O3モル比が43、AlTotalが38.0mg及びBET比表面積が435m2/gであり、カチオンタイプがNH4型であるYFI型ゼオライトを得た。該YFI型ゼオライトの固体酸量は0.53mmol/gであり、骨格外Al割合が29質量%であった。
【0094】
実施例及び比較例の結果を表3に示す。
【0095】
【0096】
実施例及び比較例の対比より、酸処理を施すことにより骨格外Al割合が低下し、また、酸処理温度を60℃以上とすること、及び、塩酸等を使用する酸処理により、骨格外Al割合が低下することが確認できる。硝酸で処理した比較例3のYFI型ゼオライトと比べ、実施例のYFI型ゼオライト(例えば、比較例3と同じ酸濃度である実施例1及び5)は骨格外Al割合が低くなることが確認できた。また、比較例1と実施例4より、酸処理温度を60℃以上とすることで、酸濃度が低くとも骨格外Al割合が低下することが確認できた。また、実施例1乃至3より酸濃度が高くなること(特に、酸濃度が1.0mol/L以上において)で骨格外Al割合が低下する傾向があることが確認できた。
【0097】
測定例1
(測定試料の作製及び前処理)
実施例及び比較例で得られたカチオンタイプがNH4型のYFI型ゼオライトのAlモル量に対し、4当量のCsモル量となる液量の、2質量%の塩化セシウム水溶液を調製した。カチオンタイプがNH4型のYFI型ゼオライトを、それぞれ、該塩化セシウム水溶液と混合、ろ過、洗浄し、大気中110℃で一晩乾燥することによりアルカリ金属含有YFI型ゼオライト(セシウム含有YFI型ゼオライト)とした。
【0098】
得られたアルカリ金属含有YFI型ゼオライトをそれぞれ炭化水素吸着剤として用いた。炭化水素吸着剤を、各々加圧成形及び粉砕し、凝集径20~30メッシュの不定形の成形体とし、得られた成形体をそれぞれ実施例1乃至5、比較例1乃至3に係る測定試料とした。各測定試料0.1gをそれぞれ常圧固定床流通式反応管に充填し、流速200mL/分の窒素流通下、500℃で1時間処理した後、50℃まで降温することで前処理とした。
【0099】
(炭化水素吸着)
前処理後の各炭化水素吸着剤に炭化水素含有ガスを流通させた。炭化水素含有ガスの組成及び測定条件を以下に示す。
【0100】
炭化水素含有ガス :トルエン 3000体積ppmC(メタン換算濃度)
水 3体積%
窒素 残部
ガス流量 :200mL/分
測定温度 :50~600℃
昇温速度 :10℃/分
測定時間 :55分
(炭化水素の脱離開始温度の測定)
水素イオン化検出器(FID)を使用し、炭化水素吸着剤を通過した後のガス中の炭化水素を連続的に定量分析した。常圧固定床流通式反応管の入口側の炭化水素含有ガスの炭化水素濃度(メタン換算濃度;以下、「入口濃度」とする。)と、常圧固定床流通式反応管の出口側の炭化水素含有ガスの炭化水素濃度(メタン換算濃度;以下、「出口濃度」とする。)を測定した。入口炭化水素濃度が出口炭化水素濃度より高い状態を吸着段階、出口炭化水素濃度が入口炭化水素濃度より高い状態を脱離段階とみなし、吸着段階と脱離段階とが切り替わった温度をもって、炭化水素の脱離開始温度とした。結果を表4に示す。
【0101】
【0102】
(水熱耐久処理)
前処理後の炭化水素吸着剤に以下の条件で処理ガスを流通させたこと以外は上述の(炭化水素吸着)と同様な方法で炭化水素吸着剤を処理し、水熱耐久処理とした。
【0103】
処理ガス :水 10体積%
乾燥空気 残部
ガス流量 :300mL/分
空間速度 :6000hr-1
処理温度 :900℃
処理時間 :20時間
(水熱耐久処理後の炭化水素の脱離開始温度の測定)
水熱耐久処理後の炭化水素吸着剤に、上述の(炭化水素の脱離開始温度の測定)と同様な方法で炭化水素の脱離開始温度を測定した。結果を表5に示す。
【0104】
【0105】
比較例の炭化水素吸着材に対し、実施例の炭化水素吸着剤は、水熱耐久処理後であっても、脱離開始温度が高いことが確認できる。
【0106】
水熱耐久処理前後での脱離開始温度の差を表6に示す。
【0107】
【0108】
本測定例により、骨格外Al割合が0質量%以上28質量%であるYFI型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤は水熱耐久処理前後での脱離開始温度の差が小さいことが確認できる。特に、実施例2乃至4のYFI型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤は水熱耐久処理前後での脱離開始温度の差が5℃以下であり、水熱耐久処理後においても脱離開始温度の低下がほとんど生じていないことが確認でき、安定した炭化水素吸着特性を示すことが確認できる。
本実施形態のYFI型ゼオライトは、吸着剤、触媒及びこれらの担体など、ゼオライトの公知の用途に使用することができ、さらに炭化水素吸着剤及びその担体として使用することができる。より好ましくは、本実施形態のYFI型ゼオライトは、高温高湿下に暴露される環境下における炭化水素の吸着方法に使用することができ、特に自動車排ガス等の内燃機関の排ガス中の炭化水素を吸着する方法に使用することができる。