(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185715
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】ナノ結晶合金片の製造方法、およびナノ結晶合金片の製造装置
(51)【国際特許分類】
B21D 28/16 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
B21D28/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093497
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福山 建史
(72)【発明者】
【氏名】秋元 勇哉
【テーマコード(参考)】
4E048
【Fターム(参考)】
4E048GA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生産性が高く、金型かじりが発生しにくい、歪みや割れやカケの少ない、ナノ結晶合金片の製造方法を提供する。
【解決手段】ナノ結晶合金片の製造方法において、非晶質合金リボンの表面に、所定形状の打抜き輪郭線となる凹部を形成する加工溝形成工程と、前記非晶質合金リボンを加熱した凸面に当接させつつ移動させるとともに、前記非晶質合金リボンの、前記凸面に当接する部分を、当接している面の逆側から前記凸面に対して押さえ付けつつ移動する熱処理工程と、前記打抜き輪郭線に沿って、前記所定形状のナノ結晶合金片に打抜き加工する打抜き工程とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質合金リボンの表面に、所定形状の打抜き輪郭線となる凹部を形成する加工溝形成工程と、
前記非晶質合金リボンを加熱した凸面に当接させつつ移動させるとともに、前記非晶質合金リボンの、前記凸面に当接する部分を、当接している面の逆側から前記凸面に対して押さえ付けつつ移動させて熱処理により前記非晶質合金リボンをナノ結晶化する熱処理工程と、
前記打抜き輪郭線に沿って前記非晶質合金リボンを打抜く打抜き工程と、
を有することを特徴とするナノ結晶合金片の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程は、前記非晶質合金リボンの当接する部分を、可撓部材を介して押さえつけることを特徴とする請求項1に記載のナノ結晶合金片の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程は、前記可撓部材を加熱することを特徴とする請求項2に記載のナノ結晶合金片の製造方法。
【請求項4】
前記可撓部材が、金属部材であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のナノ結晶合金片の製造方法。
【請求項5】
非晶質合金リボンの表面に、所定形状の打抜き輪郭線となる凹部を形成する加工溝形成工程と、
前記非晶質合金リボンを加熱した2つの加熱部材で挟み込みつつ移動させて熱処理により前記非晶質合金リボンをナノ結晶化する熱処理工程と、
前記打抜き輪郭線に沿って前記非晶質合金リボンを打抜く打抜き工程と、
を有することを特徴とするナノ結晶合金片の製造方法。
【請求項6】
前記加工溝工程は、刻印治具による押付加工で、前記凹部を形成することを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のナノ結晶合金片の製造方法。
【請求項7】
前記刻印治具を加熱することを特徴とする請求項6に記載のナノ結晶合金片の製造方法。
【請求項8】
ナノ結晶合金片の製造装置において、
非晶質合金リボンの表面に、所定形状の打抜き輪郭線となる凹部を形成する刻印機構と、
前記非晶質合金リボンを加熱した凸面に当接させつつ移動させるとともに、前記非晶質合金リボンの、前記凸面に当接する部分を、当接している面の逆側から前記凸面に対して押さえ付けつつ移動する熱処理機構と、
前記打抜き輪郭線に沿って、前記所定形状のナノ結晶合金片に打抜き加工する打抜き機構と、
を有することを特徴とするナノ結晶合金片の製造装置。
【請求項9】
前記熱処理機構は、前記非晶質合金リボンの当接する部分を押さえる可撓部材を有することを特徴とする請求項8に記載のナノ結晶合金片の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
非晶質合金リボンを所定形状のナノ結晶合金片に加工する、ナノ結晶合金片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非晶質合金は、通常の結晶質合金と同じ組成でも、機械的特性、磁気特性、耐食性等において、優れた特性を示すことが知られている。特に、Fe基やCo基の非晶質合金は、結晶粒界が形成されないことから、保磁力の小さい軟磁性材料にできることが知られている。
非晶質合金は、結晶粒が合金中に形成されないよう、合金溶湯を急冷凝固する必要があり、例えば、回転する冷却ロール表面に合金溶湯を供給し、合金溶湯をロール表面にて連続的に凝固させて作製する。この製法は、単ロール法と呼ばれ、リボン状の非晶質合金が得られる。また、リボン状の非晶質合金から形成される磁心としては、非晶質合金を巻き回したトロイダルコアが容易に作製できることで知られている。
【0003】
非晶質合金は、モータのステータコアやローターコアに適用拡大されることが期待されているものの、これらのコアは、形状が複雑なので、トロイダルコアにて形成することは困難であった。そこで、非晶質合金リボンを所定形状に打抜いて非晶質合金片とし、この非晶質合金片を積層してコアを形成する手法が適用されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
一部の非晶質合金は、熱処理を行いナノ結晶化することで、飽和磁束密度を向上させることが出来る。しかし、ナノ結晶化したリボンは脆化するため、通常の打抜き装置では所定形状に打抜ことは難しく、レーザー加工やワイヤー放電加工など、生産性の低い加工方法しか選択肢がない。
【0005】
熱処理前の非晶質合金の段階で、通常の打抜き加工にて所定形状に成形した後、熱処理によりナノ結晶化させる方法もある。拘束が無い状態で熱処理すると板厚方法に歪みが生じるため、積層時に強制的に平面に戻すと割れてしまたり、ナノ結晶合金内に生じる応力のため、磁気特性の劣化が起こる。
【0006】
熱処理による歪みを抑制する方法として、2枚の加熱板に挟んで熱処理する方法がある。この場合、所定形状に打抜かれた個片を一枚ずつハンドリングするのは生産性が悪いため、一部が連結したリボンの状態で熱処理し、熱処理後に連結した部分を切り離し、個片にする方法が、提案されている。(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-219613号公報
【特許文献2】特開2020-120426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載されている方法は、熱処理後に所定形状の個片に分離するため、熱処理で脆化したナノ結晶合金を切断する必要がある。切断時に割れや亀裂が発生し、所望する形状を得ることは難しく、この時発生した亀裂は、ナノ結晶合金を製品として使用しているときの振動等で拡大、延長してしまう。また、打抜きによる切断の場合、切断時に発生する切断粉が金型の隙間に挟まり、金型かじりが発生してしまう。
【0009】
そこで本発明では、生産性が高く、金型かじりが発生しにくい、歪みや割れやカケの少ない、ナノ結晶合金片の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明であるナノ結晶合金片の製造方法は、非晶質合金リボンの表面に、所定形状の打抜き輪郭線となる凹部を形成する加工溝形成工程と、前記非晶質合金リボンを加熱した凸面に当接させつつ移動させるとともに、前記非晶質合金リボンの、前記凸面に当接する部分を、当接している面の逆側から前記凸面に対して押さえ付けつつ移動させて熱処理により前記非晶質合金リボンをナノ結晶化する熱処理工程と、前記打抜き輪郭線に沿って前記非晶質合金リボンを打抜く打抜き工程とを有することを特徴とする。
【0011】
また、前記熱処理工程は、前記非晶質合金リボンの当接する部分を、可撓部材を介して押さえつけることが好ましい。
【0012】
また、前記熱処理工程は、前記可撓部材を加熱することが好ましい。
【0013】
また、前記可撓部材が、金属部材であることが好ましい。
【0014】
本発明であるナノ結晶合金片の製造方法は、非晶質合金リボンの表面に、所定形状の打抜き輪郭線となる凹部を形成する加工溝形成工程と、前記非晶質合金リボンを加熱した2つの加熱部材で挟み込みつつ移動させて熱処理により前記非晶質合金リボンをナノ結晶化する熱処理工程と、前記打抜き輪郭線に沿って前記非晶質合金リボンを打抜く打抜き工程と、
を有することを特徴とする。
【0015】
また、前記加工溝工程は、刻印治具による押付加工で、前記凹部を形成することが好ましい。
【0016】
また、前記刻印治具を加熱することが好ましい。
【0017】
本発明のナノ結晶合金片の製造装置は、非晶質合金リボンの表面に、所定形状の打抜き輪郭線となる凹部を形成する刻印機構と、前記非晶質合金リボンを加熱した凸面に当接させつつ移動させるとともに、前記非晶質合金リボンの、前記凸面に当接する部分を、当接している面の逆側から前記凸面に対して押さえ付けつつ移動する熱処理機構と、前記打抜き輪郭線に沿って、前記所定形状のナノ結晶合金片に打抜き加工する打抜き機構とを有する。
【0018】
また、前記熱処理機構は、前記非晶質合金リボンの当接する部分を押さえる可撓部材を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、生産性が高く、金型かじりが発生しにくい、歪みや割れや欠けの少ないナノ結晶合金片を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態におけるナノ結晶合金片の製造装置の概念図である。
【
図2】本実施形態における非晶質合金リボンからナノ結晶金属片を製造する手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図1に示す非晶質合金リボンに塑性加工溝を形成する刻印機構22の断面概念図である。(a)は刻印開始時点の状態、(b)は刻印完了後の状態を示している。
【
図4】
図1に示す非晶質合金リボンをナノ結晶合金化する熱処理機構24の概念図である。
【
図5】(a)は
図4に示す熱処理機構にて熱処理を行う前の、非晶質合金リボンの刻印状態を示している。(b)は
図4に示す熱処理機構にて熱処理した後の、ナノ結晶金属合金リボンの刻印状態を示している。
【
図6】
図1に示す非晶質合金リボンをナノ結晶合金化する熱処理機構24の別形態の概念図である。
【
図7】
図1に示す塑性加工溝に沿ってナノ結晶合金片を切り離す打抜き機構25の一形態を示した断面概念図である。(a)は打抜き開始時点の状態、(b)は打抜き終了時点の状態を示している。
【
図8】
図1に示す塑性加工溝に沿ってナノ結晶合金片を切り離す打抜き機構25の一形態を示した断面概念図である。(a)は打抜き開始時点の状態、(b)は打抜き終了時点の状態を示している。
【
図9】
図1に示す塑性加工溝に沿ってナノ結晶合金片を切り離す打抜き機構25の一形態を示した断面概念図である。(a)は打抜き開始時点の状態、(b)は打抜き終了時点の状態を示している。
【
図10】
図1に示す塑性加工溝に沿ってナノ結晶合金片を切り離す打抜き機構25の一形態を示した概念図である。(a)は打抜き途中の状態を示した装置側面の断面図である。(b)は(a)の状態をナノ結晶合金リボンの搬送方向から見た装置側面の断面図である。
【
図11】打抜いたナノ結晶合金片の全体外観と切断部の拡大を示す。
【
図12】打抜かれた側のナノ結晶合金リボンの全体外観と切断部の拡大を示す。
【
図13】打抜いたナノ結晶合金片の切断面を正面から見た外観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
図1は、非晶質合金リボン1aから所定形状のナノ結晶合金片を切出すナノ結晶合金片製造装置20を模式的に示したものである。ここで、非晶質合金リボン1aの材質はこれを特に限定するものではない。例えば、ナノ結晶軟磁性材料であるFe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Si-B-Nb-Cu―Ni系等のFe基ナノ結晶合金等に適用することができる。Fe基ナノ結晶合金は、非晶質合金リボンに熱処理することでナノ結晶を晶出する組成を有する。
【0022】
ナノ結晶合金片製造装置20は、
図1に示すように、巻き出し機構21、刻印機構22、搬送機構23、熱処理機構24、打抜き機構25、及び巻き取り機構26を具備している。
【0023】
巻き出し機構21は、ロール状に巻かれた非晶質合金リボン1aを装着することができ、搬送機構23との協調運動により、非晶質合金リボン1aを巻き出し搬送する。
【0024】
刻印機構22は、例えば、
図3(a)示すように、刻印治具(以下、アンビル221、刻印パンチ222と示す)を有し、刻印パンチ222を非晶質合金リボン1aの表面に押し付けることによる押付加工で、切出したい所定形状のナノ結晶合金片の輪郭線に沿った凹部(以下、塑性加工溝2と示す)を形成する。塑性加工溝2を成形する刻印パンチ222は、上下可動式である必要はなく、例えば、生産性が高い回転刃とアンビルロール挟み込みによる連続刻印方式などでも構わない。
【0025】
熱処理機構24では、非晶質合金リボン1aを、加熱した凸面に当接させつつ移動させ、熱処理により非晶質合金リボン1aに微結晶化が起こり、ナノ結晶合金リボン1bとなる。かかる熱処理機構24は、非晶質合金リボン1aの当接する部分と、上記凸面に対して当接面の逆側から押さえ付ける押付け部を有する。例えば、
図4に示すように、バンド部材、例えば、金属ベルト242を引っ張る2本の加熱ロール241aと、引張られた金属ベルト242が押し付けられる加熱ロール241b、で構成され、加熱ロール241bと金属ベルト242の間に非晶質合金リボン1aを配置できるようにしている。
【0026】
ここで、「当接面」とは、非晶質合金リボンと上記凸面が面で接触していることを意味している。また、「凸面」とは、非晶質リボン側に盛り上がった面を意味し、
図4に示す加熱ロール241a、241bのように、円柱(円筒)形の側面の曲面の他、かまぼこ型部材の曲面のように部材の一部に構成された曲面など、非晶質リボンが追随して十分な接触が確保される形状であればよい。
【0027】
また、バンド部材は、ロールを介して移動可能であれば良い。特に、バンド部材としては、しなやかにたわむ部材(可撓部材)が好ましく、たわみ性、強度及び耐熱性の観点から金属部材がより好ましい。
図4に示した金属ベルト242は、バンド部材の一例である。
【0028】
加熱ロール241a、241bの加熱温度は、非晶質合金リボン1aがFe基ナノ結晶合金等の場合には、ナノ結晶化温度以上に加熱できるように、夫々、500℃以上が好ましい。また、金属ベルト242の輻射による熱損失を考慮すると、2つの加熱ロール241aの表面温度は、加熱ロール241bの表面温度よりも高いことが好ましく、Fe基ナノ結晶合金等の場合、例えば550℃以上がより好ましい。
【0029】
打抜き機構25は、例えば、
図7に示すように、パンチ251、ダイ252、下押さえ253、上押さえ254、にて構成される。打抜き機構25では、熱処理後のナノ結晶合金リボン1bを、ナノ結晶合金リボン1bの表面にある塑性加工溝2に沿って打ち抜き、所定形状のナノ結晶合金片1cが切出すことができる。
【0030】
なお、打抜き機構25としては、
図8に示すように、下押さえ253を使用せずにナノ結晶合金片1cを打抜くことも可能である。また、
図9に示すように、先端に弾性体を用いた弾性体パンチ255を用いてナノ結晶合金片1cを打抜くことも可能である。もしくは、
図10に示すように、外周部に弾性体を有する弾性体回転ロール256を、塑性加工溝2の輪郭に合わせた凹面を有する回転ダイロール257に押し付け、ナノ結晶合金リボン1bを間に挟み込むことにより、ナノ結晶合金片1cを打ち抜くことも可能である。
【0031】
巻き取り機構26は、打抜き機構25で所定形状のナノ結晶合金片1cを切り出した後のナノ結晶合金リボン1bをロール状に巻き取る。
【0032】
次に、
図2におけるフロー図により、本実施形態であるナノ結晶合金片製造装置20における、ナノ結晶合金片の製造方法について説明する。
【0033】
(前準備)
ロール状に巻かれた非晶質合金リボン1aは巻き出し機構21に装着させる。使用する非晶質合金リボン1aは、熱処理によりナノ結晶合金となる、例えば、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Si-B-Nb-Cu―Ni系等のFe基ナノ結晶合金等である。
巻き出し機構21に装着させた非晶質合金リボン1aは、搬送機構23との協調運動により巻き出し搬送される。
【0034】
(加工溝形成工程)
加工溝形成工程では、非晶質合金リボンの表面に、所定形状の打抜き輪郭線となる凹部を形成する。本実施形態では、刻印機構22によって非晶質合金リボン1aの表面に凹部として塑性加工溝2を形成させる。加工溝形成工程の詳細について、
図3を用いて説明する。非晶質合金リボン1aが、アンビル221の先端に配置された状態で、非晶質合金リボン1aの表面に、所定形状の打抜き輪郭線を有した刻印パンチ222の先端を、所定の荷重で押し付けられることにより、所定形状の打抜き輪郭線となる塑性加工溝2が形成される。
【0035】
ここで、本実施形態で示したように常温のアンビル221と刻印パンチ222を用いることで加工溝を形成することは可能であるが、アンビル221と刻印パンチ222を加熱して、刻印時に瞬間的に非晶質合金リボン1aを加熱することも有用である。加熱により非晶質合金リボン1aは軟化するため、刻印に必要な圧力を減らすことができ、アンビルと刻印パンチの寿命を延ばすことが可能となるからである。
【0036】
アンビル221と刻印パンチ222の加熱温度は、非晶質合金リボン1aの軟化点となる温度範囲、例えば、Fe基ナノ結晶合金の場合、390℃以上430℃以下が好ましい。ここで、軟化点とは、非晶質で明確な融点をもたない固形物質が、軟化して変形を起こしはじめる温度のことであり、一般的に、その組成によって軟化点は変化する。
塑性加工溝2が形成された非晶質合金リボン1aは、熱処理機構24に送られる。
【0037】
ここで、本実施形態では、アンビルと刻印パンチを用いて押付加工により塑性加工溝2を形成したが、例えば、レーザーを用いて凹部を形成しても構わない。
【0038】
(熱処理工程)
熱処理工程では、前記非晶質合金リボンを加熱した凸面に当接させつつ移動させるとともに、前記非晶質合金リボンの、前記凸面に当接する部分を、当接している面の逆側から前記凸面に対して押さえ付けつつ移動させて熱処理により前記非晶質合金リボンをナノ結晶化する。熱処理により非晶質合金リボン1aに微結晶化が起こり、ナノ結晶合金リボン1bとなる。
【0039】
ここで、単に非晶質合金リボン1aに熱だけを加えると、ナノ結晶化による組織変化でリボンにシワ等の変形が発生するため、何らかの形でリボンを拘束しながらの熱処理が必要となる。本実施形態では、リボンを上下から加熱ロール241bと金属ベルト242で挟み込む形で拘束する方法について、
図4を用いて説明する。
【0040】
なお、前工程である加工溝形成工程では、非晶質合金リボン1aの片面から刻印するため、塑性加工溝2の周囲には副次的に板厚方向の変形が生じてしまうが、上下から加熱ロール241bと金属ベルト242で挟み込むことにより、塑性加工溝2の周囲に生じた変形を押し戻し、リボン全体が均一に加熱板に接触した状態での熱処理が可能となる。また、塑性加工溝2の周囲に生じた変形を抑制しない場合、加熱板に接触しない部分が生じてしまう可能性が有る。これに対して、上下から加熱ロール241bと金属ベルト242で挟み込むことにより、ナノ結晶化が不均一となる不具合を回避することが可能となる。
【0041】
図4に示すように、熱処理機構24に移動した非晶質合金リボン1aは、加熱ロール241aにより加熱された金属ベルト242と、加熱ロール241bの間に挟み込まれて搬送されることで熱処理され、ナノ結晶合金リボン1bとなる。
この時、金属ベルト242と加熱ロール241bによる挟み込みの力と加熱による軟化により、塑性加工溝2の周囲にあった非晶質合金リボン1aの変形は矯正され、熱処理後のナノ結晶合金リボン1bの状態では、塑性加工溝2以外の部分は平面平坦となる。
その後、熱処理後の非晶質合金リボン1bは、打抜き機構25に送られる。
【0042】
ここで、熱処理前後の変形状態変化の例として、直径9.3mmの円環状の塑性加工溝の変化を
図5に示す。
図5(a)が熱処理前、
図5(b)が熱処理後を示し、
図5(a)では変形による反射や背景の歪みが見られるが、本実施形態による熱処理機構を経ると反射や歪みが解消される。
【0043】
本実施形態では、非晶質合金リボン1aを上下から加熱ロール241bと金属ベルト242で挟み込む機構を用いているが、ナノ結晶化による組織変化でリボンにシワ等の変形を抑制し、加工溝形成工程での塑性加工時の変形を矯正し、均一加熱させることが可能な形態であれば、例示した限りではない。例えば、
図6に示す2つの加熱部材で挟み込むことによる熱処理形態などが考えられる。
【0044】
(打抜き工程)
熱処理後のナノ結晶合金リボン1bは、打抜き機構25において、ナノ結晶合金リボン1bの表面にある塑性加工溝2に沿って打ち抜かれ、所定形状のナノ結晶合金片1cが切出される。
【0045】
打抜き工程の詳細を、断面模式図である
図7にて説明する。
熱処理工程後のナノ結晶合金リボン1bはダイ252と下押さえ253の上に、塑性加工溝2の位置がダイ252と下押さえ253の隙間に来るように設置されたあと、ダイ252と上押さえ254に挟まれて、位置が固定される。この時、ナノ結晶合金リボン1bが、刻印工程22で刻印後の塑性加工溝2の周辺に変形が残っていると、挟み込まれることで割れてしまうが、本実施形態では、熱処理機構24にて変形が矯正され平面化しているため、固定で割れが生じることはない。
【0046】
パンチ251が下押さえ253に対向する形で接触し、下押さえ253の反力を受けつつ更に押し込まれると、ダイ252と上押さえ254で固定された部分と、パンチ251と下押さえ253で固定した部分の間にあるナノ結晶合金リボン1bには、せん断応力や引張応力が発生する。塑性加工溝2の溝底部に応力が集中し、限界に達するとナノ結晶合金リボン1bは塑性加工溝2で切断され、所定形状のナノ結晶合金片1cが切出される。
【0047】
ナノ結晶合金リボン1bは脆性を持つため、所定形状のナノ結晶合金片1cの切断面は、へき開面となり、エッジ部でのバリが見られない特徴を持つ。
ナノ結晶合金片は厚みが薄いため、複数枚積層して使用される。この場合、エッジ部にバリがあると、エッジ部分は他の部分と比べて厚み増えてしまい、エッジ部が膨れた積層部品となってしまう。
【0048】
ここで、層間に接着剤を用いて一体となった積層部品を作る場合、接着層厚みを厚くすることでバリを吸収することは可能だが、積層部品に占めるナノ結晶合金の体積比率が低下し、磁気特性が低下する。その他に、積層部品の上下面を平板で挟んで強制的にバリを変形させながら接着固定する方法もあるが、ナノ結晶合金は応力が掛かると磁気特性が劣化してしまう。これに対して、本実施形態で製造されるナノ結晶合金片はバリがないため、磁気特性の低下を抑えつつ、所望の積層形状部品を得やすくなる。
【0049】
一般的に、打抜き機構で打ち抜いた場合、ナノ結晶合金リボンは、脆性を持つため、カケや亀裂が多発する。カケや亀裂は、パンチやダイのクリアランス内に収まらず、パンチと下押さえ、もしくはダイと上押さえの挟まれた部分まで及ぶため、所望の形状のナノ結晶合金片を得ることは難しい。この場合、パンチとダイのクリアランスを狭くすることで、所望の形状に若干近づく傾向が見られるが、逆に打抜き時に発生した金属破片がパンチとダイの間に噛み込み、かじってしまう確率が高くなる。
【0050】
一般的に、打抜き加工におけるパンチとダイとのクリアランスは、材料板厚の3%~20%程度とされる。例えば、ナノ結晶合金リボンの厚みが30μmの場合、0.9~6μmとなる。しかし、打抜き時に発生する金属片は大小さまざまな大きさのものが含まれるため、容易に噛み込みが発生する。
【0051】
一方、本実施形態では、ナノ結晶合金リボン1aは塑性加工溝2を有し、更に、打抜き時に塑性加工溝2に沿ってへき開切断されるため、カケや亀裂の発生は少なく、所望する形状のナノ結晶合金片1cを得ることが可能である。また、塑性加工溝底に応力が集中すれば良いので、パンチ251とダイ252のクリアランスを大きく取ることが可能となる。元々、塑性加工溝2が無い場合に比べ金属破片の発生は格段に少ないが、クリアランスが大きいと、金属破片がパンチ251とダイ252の間に噛み込むことは無くなり、また、打抜き時には塑性加工溝2をクリアランス間に設置するときに要求される位置決め精度にも余裕が生じることになる。
【0052】
打抜き機構25でのナノ結晶合金片1cの打抜く際には、ナノ結晶合金リボン1bの機械的特性、ナノ結晶合金片1cの形状、塑性加工溝2の形状、パンチ251とダイ252のクリアランスの大きさ、打抜き時のパンチ下降速度などの条件を適宜調整すればよい。例えば、ナノ結晶合金リボンの厚みが30μmの場合、塑性加工溝2の溝深さが20μm以上であれば、パンチ251とダイ252のクリアランスを100μmでも打抜くことが可能である。
【0053】
図10に示すように、外周部に弾性体を有する弾性体回転ロール256を、塑性加工溝2の輪郭に合わせた凹面を有する回転ダイロール257に押し付け、ナノ結晶合金リボン1bを間に挟み込むことにより、ナノ結晶合金片1cを打ち抜く場合、回転方式のため連続打抜きが可能であり、高い生産性が期待できる。
【0054】
なお、
図10で例示した回転方式の場合、弾性体回転ロール256と回転ダイロール257に最初に挟まれた塑性加工溝2の底部がへき開破断したあと、ナノ結晶合金リボン1bの搬送に合わせて、残りの塑性加工溝2の底部に亀裂が伝搬し、ナノ結晶合金片1cの打抜きが完了する。一方、
図10以外の打抜き方式は、パンチや弾性体を押し込んでいくと、塑性加工溝2底部の全体に圧力が掛かって行き、最も弱い部分がへき開破断した途端に、他の塑性加工溝2底部に亀裂が伝搬し、ナノ結晶合金片1cの打抜きが完了する。
【実施例0055】
本実施形態により打抜かれたナノ結晶合金片1cの切断面について、直径9.3mmの円環状の塑性加工溝を、打抜き機構で打抜いた例(実施例)を説明する。
使用したナノ結晶合金リボンの打抜き前の厚みは30μmであり、溝深さは4箇所測定し16.2~22.2μmの範囲で分布し、平均19.1μmであった。本実施例は、
図7に示した形態を使用し、パンチ251とダイ252のクリアランスの大きさは100μmとした。
図11と
図12にそれぞれ、打抜いたナノ結晶合金片と打抜かれたリボンの全体外観と、切断部の拡大を示す。打抜いたナノ結晶合金片と打抜かれたリボンの両方とも、塑性加工溝に沿って切断されていることが分かる。
図13に切断面の外観を示す。へき開により切断されており、切断面エッジ部に、バリが出ていないことが分かる。
よって、本実施形態におけるナノ結晶合金片の製造方法によって、歪みや割れやカケの発生を抑制し、金型かじりが発生し難くすることが可能となる。
【0056】
以上より、本発明によれば、脆性を持つため製造の難しいナノ結晶合金片を、高い生産性で製造することが可能となる。
【0057】
以上、本発明について、上記実施形態を用いて説明してきたが、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されない。