(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185843
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】微粒子吸着材及び微粒子除去方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/26 20060101AFI20221208BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20221208BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B01J20/26 E
B01J20/28 Z
B01D15/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093720
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】川勝 孝博
(72)【発明者】
【氏名】藤村 侑
(72)【発明者】
【氏名】淺川 雅
(72)【発明者】
【氏名】森本 将行
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
4D017AA01
4D017AA06
4D017BA12
4D017CA13
4D017CB01
4D017CB03
4D017CB05
4G066AC11B
4G066AC12B
4G066AC13B
4G066AC15B
4G066BA01
4G066BA03
4G066BA16
4G066BA26
4G066CA45
4G066DA07
(57)【要約】
【課題】含水率の低い溶媒中の微粒子を十分に除去することができる微粒子吸着材及び除去方法を提供する。
【解決手段】微粒子を含む溶媒中の微粒子を吸着して除去するための微粒子吸着材であって、負の荷電基を有する非芳香族高分子材料よりなり、原子間力顕微鏡による計測において、探針サイズ0nmの時に表面積が0.26μm2以上であり、探針サイズ0nmの時の表面積S1と100nmの時の表面積S2との比率S1/S2が、106%以上の表面構造を有する微粒子吸着材。この微粒子吸着材と溶媒とを接触させ、溶媒中の微粒子を該微粒子吸着材に吸着させて溶媒中から除去する溶媒からの微粒子の除去方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子を含む溶媒中の微粒子を吸着して除去するための微粒子吸着材であって、
負の荷電基を有する非芳香族高分子材料よりなり、
原子間力顕微鏡による計測において、探針サイズ0nmの時の表面積S1と100nmの時の表面積S2との比率S1/S2が106%以上の表面構造を有する微粒子吸着材。
【請求項2】
前記探針サイズ0nmの時に表面積が0.26μm2 以上である請求項1の微粒子吸着材。
【請求項3】
前記負の荷電基がスルホン酸基である請求項1の微粒子吸着材。
【請求項4】
前記荷電基は、H型、Na型、又はK型である請求項1~3のいずれかの微粒子吸着材。
【請求項5】
膜、フィルター又は繊維の形状を有している請求項1~4のいずれかの微粒子吸着材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかの微粒子吸着材と溶媒とを接触させ、溶媒中の微粒子を該微粒子吸着材に吸着させて溶媒中から除去する溶媒からの微粒子の除去方法。
【請求項7】
前記溶媒の含水率は56wt%以下である請求項6の溶媒からの微粒子の除去方法。
【請求項8】
前記溶媒はイソプロピルアルコールと水との混合溶媒である請求項6又は7の溶媒からの微粒子の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微粒子吸着材及び微粒子除去方法に係り、好適には機械部品、電子部品の製造及び洗浄工程、あるいは化学合成工程等に用いられる溶媒中の微粒子を除去する微粒子吸着材及び除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセス等において使用される超純水の製造・供給システムは、サブシステムの末端に微粒子除去用のクロスフロー型の限外濾過膜(UF膜)装置を設置し、水回収率90~99%で運転することで、ナノメートルサイズの微粒子の除去を行っている。また、半導体・電子材料洗浄用の洗浄機直前に、ユースポイントポリッシャーとして、ミニサブシステムを設置し、最終段に微粒子除去用のUF膜装置を設置したり、ユースポイントにおける洗浄機内のノズル直前に微粒子除去用のUF膜を設置し、より小さいサイズの微粒子を高度に除去することも検討されている。
【0003】
溶媒中の微粒子除去については、上記超純水のように、明確な微粒子管理は設定されていない。しかし半導体構造の微細化に伴って、パターン倒壊を防ぐために、表面張力の小さな溶媒がウエハ洗浄時に用いられるようになってきており、その結果として、溶媒中の微粒子等の除去ニーズは高まってきている。
【0004】
電子部品の製造及び洗浄用途以外においても、例えば、機械部品の製造及び洗浄工程、あるいは化学合成工程においても、製品の歩留まり向上や不純物の影響の排除するために、溶媒中に含まれる不純物、特に微粒子を除去することが求められている。
【0005】
従来、半導体・電子部品製造用等の濾過フィルターとして、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる1つ以上の官能基を有するポリケトン多孔膜が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、超純水製造プロセスで水中の微粒子を除去する装置として、弱カチオン性官能基を有する精密濾過膜(MF膜)もしくは限外濾過膜(UF膜)を有する膜濾過手段を設けたものが提案されている(特許文献2)。
【0007】
特許文献3には、モノリス状有機多孔質イオン交換体により有機溶媒や水中から微粒子を除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-173013号公報
【特許文献2】特開2016-155052号公報
【特許文献3】特開2019-195763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の微粒子除去は、微粒子とは逆の荷電を有する官能基で除去することが基本であった。本発明者は、非水溶媒中の微粒子の除去について、逆荷電基での除去を実施したが、除去率は低いことが認められた。
【0010】
本発明は、含水率の低い溶媒中の微粒子を十分に除去することができる微粒子吸着材及び除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の微粒子吸着材は、微粒子を含む溶媒中の微粒子を吸着して除去するための微粒子吸着材であって、負の荷電基を有する高分子材料よりなり、原子間力顕微鏡による計測において、探針サイズ0nmの時の表面積S1と100nmの時の表面積S2との比率S1/S2が106%以上の表面構造を有する。
【0012】
本発明の微粒子除去方法は、かかる本発明の微粒子吸着材と溶媒とを接触させ、溶媒中の微粒子を該微粒子吸着材に吸着させて溶媒中から除去する。
【0013】
本発明の一態様では、探針サイズ0nmの時に表面積が0.26μm2以上である。
【0014】
本発明の一態様では、前記負の荷電基がスルホン酸基である。
【0015】
本発明の一態様では、前記荷電基は、H型、Na型、又はK型である。
【0016】
本発明の一態様では、膜、フィルター又は繊維の形状を有している。
【0017】
本発明の一態様では、溶媒の含水率は56wt%以下である。本発明の一態様では、溶媒はイソプロピルアルコールと水との混合溶媒である。
【発明の効果】
【0018】
含水率が低い溶媒における微粒子除去では、微粒子が接触する確率を上げて、吸着除去するための吸着サイトを多く有している必要がある。本発明に用いられる除去材は、AFM計測における表面積が、好ましくは0.26μm2以上かつ探針サイズ0nmと100nmの表面積比が106%以上であることから、十分に吸着サイトを有している。上述の表面積条件を満たし、処理対象溶媒の含水率が56wt%以下であることにより、微粒子除去率は75%程度まで向上する。なお、溶媒中では荷電の正負よりも極性の有無が有効になるため、水中において微粒子と同符号の官能基であっても、極性の強い官能基による吸着サイトが多ければ、微粒子の除去効果が高い。従って、本発明によると、含水率の低い溶媒から微粒子を十分に吸着除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の微粒子吸着材及び微粒子除去方法は、水分含水率の低い溶媒中の微粒子を吸着して除去するためのものである。
【0020】
水分含水率の低い溶媒としては、好ましくは水分含水率が56重量%以下、特に30重量%以下である、イソプロピルアルコール、アセトン、ベンゼンなどが例示されるが、これらに限定されない。この溶媒中の微粒子としては、シリカ、金属酸化物などが例示されるが、これらに限定されない。溶媒中の微粒子濃度は、通常50ppm以下、特に1ppm以下が例示されるが、これに限定されない。
【0021】
本発明の微粒子吸着材は、負の荷電基を有する高分子材料よりなり、原子間力顕微鏡(以下、AFM)による計測において、探針サイズ0nmの時に表面積が好ましくは0.26μm2以上、特に好ましくは0.26~0.40μm2であり、探針サイズ0nmの時の表面積S1と100nmの時の表面積S2との比率(百分比)S1/S2が106%以上、好ましくは106~150%の表面構造を有する。
【0022】
負の荷電基を有するポリマー(有機高分子材料)としては、非芳香族系のポリマー、芳香族系のポリマーのいずれでもよい。非芳香族系ポリマーとしては、PVA(ポリビニルアルコール)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PE(ポリエチレン)、ポリビニリデンフロライドなどが挙げられる。本発明ではこれらの中でも、PEが好適である。
【0023】
荷電性の官能基としては、負の荷電性の官能基が好適であり、特にスルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、カルボキシル基などの1種又は2種以上が好適であるが、この限りではない。これらの官能基はH型だけではなく、Na型、K型などの塩型であってもよい。基材表面の単位面積当たりの荷電性の官能基の量は好ましくは、2.0~3.0mmol/g-Dryであるが、これに限定されない。
【0024】
本発明で用いる吸着材の形状としては、多孔質の平膜、中空糸膜、粒子状の樹脂、繊維状の糸や不織布が上げられる。平膜や不織布は折り畳んでプリーツ形状にしても良く、糸は巻き回して糸巻きフィルターにしても良い。
【実施例0025】
[実施例1、比較例1~4]
<有機溶媒、微粒子及び超純水>
有機溶媒、微粒子及び超純水として以下のものを用いた。
有機溶媒:イソプロピルアルコール(関東化学社製電子工業用ELグレードIPA)
溶媒含水率:73ppm≒0.01wt%(カールフィッシャー法により測定、n=3の平均値)
微粒子:コアフロント社製sicastar(粒径30nmシリカ微粒子)
純水:超純水(比抵抗18.2MΩ・cm以上)
【0026】
<吸着材>
吸着材として表1のものを用いた。吸着材表面のAFM計測条件は次の通りである。
測定装置:自作AFM
カンチレバー:OPUS 160AC-NG (MikroMasch社製)
測定モード:周波数変調方式(FMモード)
ソフトウエア:自作プログラム+Gwyddion(フリーソフト)
【0027】
【0028】
なお、具体的には、吸着材Aのポリマーはポリエチレンベースであり、その荷電基はNa型のスルホン酸基である。吸着材Bのポリマーは、スチレンージビニルベンゼン共重合体であり、その荷電基はNa型のスルホン酸基である。吸着材Cのポリマーはスチレンージビニルベンゼン共重合体であり、その荷電基はNa型の4級アミン基である。
【0029】
<実験方法>
上記微粒子50ppmを含む溶媒100mLを125mLポリエチレン瓶に収容し、この溶媒に吸着材600cm2を浸漬させ、常温にて30分間振盪撹拌し、微粒子の吸着材への吸着操作を行った。その後、溶媒をサンプリングし、モリブデン青吸光光度法によって溶媒中のシリカ濃度を測定し、微粒子除去率を算出した。結果を表2に示す。
【0030】
【0031】
<考察>
表2の通り、実施例1は比較例に比べて、溶媒中の微粒子除去率が高いことが分かる。なお、ここでの膜面積や溶媒種、微粒子濃度などは本発明の一例であり、本発明はこれに限定されない。