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特開2022-186039プローバ制御装置、プローバ制御方法、及びプローバ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186039
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】プローバ制御装置、プローバ制御方法、及びプローバ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20221208BHJP
   G01R 31/28 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
H01L21/66 B
G01R31/28 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094056
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】吉田 徹夫
(72)【発明者】
【氏名】大竹 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】松岡 達也
【テーマコード(参考)】
2G132
4M106
【Fターム(参考)】
2G132AE03
2G132AF02
2G132AF06
2G132AL03
2G132AL21
4M106AA01
4M106BA01
4M106CA60
4M106CA62
4M106DD05
4M106DD10
4M106DD13
4M106DD30
4M106DH11
4M106DJ03
4M106DJ14
4M106DJ21
4M106DJ32
(57)【要約】
【課題】プローブ針の先端位置をより正確に予測することが可能なプローバ制御装置、プローバ制御方法、及びプローバを提供する。
【解決手段】プローブ針を半導体チップに接触させるプローバ制御装置において、プローブカード及びカードホルダの少なくとも一方の温度データを含む入力データを取得する入力データ取得部と、入力データ取得部が取得した入力データに基づき、入力データを入力とし且つプローブ針の先端位置を出力とする予測モデルを用いて、プローブ針の先端位置を予測する予測部と、予測部の予測前に、予測モデルの機械学習に教師データとして用いられた入力データと、入力データ取得部が取得した入力データとに基づき、予測部による予測の実行の可否を決定する決定部と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の半導体チップが形成されたウェーハを保持するウェーハチャックと、プローブ針を有するプローブカードと、前記プローブカードの外周を保持して、前記プローブカードを前記ウェーハに対向させるカードホルダと、前記ウェーハチャックを前記プローブ針に対して相対移動させる相対移動部と、を備えるプローバの前記相対移動部を駆動して前記プローブ針を前記半導体チップに接触させるプローバ制御装置において、
前記プローブカード及び前記カードホルダの少なくとも一方の温度データを含む入力データを取得する入力データ取得部と、
前記入力データ取得部が取得した前記入力データに基づき、前記入力データを入力とし且つ前記プローブ針の先端位置を出力とする予測モデルを用いて、前記プローブ針の先端位置を予測する予測部と、
前記予測部の予測前に、前記予測モデルの機械学習に教師データとして用いられた前記入力データと、前記入力データ取得部が取得した前記入力データとに基づき、前記予測部による予測の実行の可否を決定する決定部と、
を備えるプローバ制御装置。
【請求項2】
前記決定部は、
前記入力データのパラメータごとに、前記入力データ取得部が取得した前記入力データと前記教師データとして用いられた前記入力データとの差分を演算する処理と、
前記パラメータごとに前記差分の二乗和平方根を演算して、前記パラメータごとの前記差分の二乗和平方根の中で、予め定められた一定範囲内になるものが少なくとも1つあるか否かに基づき、前記予測部による予測の実行の可否を判定する処理と、
を行う請求項1に記載のプローバ制御装置。
【請求項3】
前記決定部が否と決定した場合に、
前記プローブ針の先端位置を取得する針位置取得部と、
前記入力データ取得部が取得した前記入力データと前記針位置取得部が取得した前記プローブ針の先端位置とを加えた前記教師データを用いて、前記予測モデルを再学習させる再学習部と、
を備え、
前記決定部が可と決定するまで、前記針位置取得部と前記再学習部と前記入力データ取得部と前記決定部とが繰り返し作動する請求項1又は2に記載のプローバ制御装置。
【請求項4】
前記再学習部が、前記教師データの中から最も古い前記入力データ及び前記入力データに対応する前記プローブ針の先端位置を除外してから、前記教師データに基づき前記予測モデルの再学習を実行する請求項3に記載のプローバ制御装置。
【請求項5】
前記決定部が可と決定した場合に、前記予測部が前記プローブ針の先端位置を予測し、
前記予測部が予測した前記プローブ針の先端位置に基づき、前記相対移動部を制御して、前記半導体チップに前記プローブ針を接触させる移動制御部を備える請求項1から4のいずれか1項に記載のプローバ制御装置。
【請求項6】
前記入力データ取得部が、前記入力データとして、前記温度データの他に、前記半導体チップのチップサイズと、前記ウェーハの位置と、前記半導体チップの検出に用いられる第1カメラ及び前記プローブ針の検出に用いられる第2カメラの位置関係と、の少なくともいずれか1つを含むアライメントデータを取得する請求項1から5のいずれか1項に記載のプローバ制御装置。
【請求項7】
複数の半導体チップが形成されたウェーハを保持するウェーハチャックと、
プローブ針を有するプローブカードと、
前記プローブカードの外周を保持して、前記プローブカードを前記ウェーハに対向させるカードホルダと、
前記ウェーハチャックを前記プローブ針に対して相対移動させる相対移動部と、
請求項1から6のいずれか1項に記載のプローバ制御装置と、
を備えるプローバ。
【請求項8】
複数の半導体チップが形成されたウェーハを保持するウェーハチャックと、プローブ針を有するプローブカードと、前記プローブカードの外周を保持して、前記プローブカードを前記ウェーハに対向させるカードホルダと、前記ウェーハチャックを前記プローブ針に対して相対移動させる相対移動部と、を備えるプローバの前記相対移動部を駆動して前記プローブ針を前記半導体チップに接触させるプローバ制御方法において、
前記プローブカード及び前記カードホルダの少なくとも一方の温度データを含む入力データを取得する入力データ取得ステップと、
前記入力データ取得ステップで取得した前記入力データに基づき、前記入力データを入力とし且つ前記プローブ針の先端位置を出力とする予測モデルを用いて、前記プローブ針の先端位置を予測する予測ステップと、
前記予測ステップの前に、前記予測モデルの機械学習に教師データとして用いられた前記入力データと、前記入力データ取得ステップで取得した前記入力データとに基づき、前記予測ステップの実行の可否を決定する決定ステップと、
を有するプローバ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハに形成された半導体チップの電気的特性の検査に用いられるプローバのプローバ制御装置、プローバ制御方法、及びプローバに関する。
【背景技術】
【0002】
ウェーハの表面には、同一の電気素子回路を有する複数の半導体チップが形成されている。各半導体チップは、ダイサーで個々に切断される前に、ウェーハテストシステムにより電気的特性が検査される。このウェーハテストシステムは、プローバとテスタとを備える(特許文献1から特許文献4参照)。
【0003】
プローバは、ウェーハをウェーハチャック上に保持した状態で、プローブ針を有するプローブカードとウェーハチャックとを相対移動させることにより、半導体チップの電極パッドにプローブ針を電気的に接触(コンタクト)させる。テスタは、プローブ針に接続された端子を介して、半導体チップに各種の試験信号を供給すると共に、半導体チップから出力される信号を受信及び解析して半導体チップが正常に動作するか否かをテストする。
【0004】
半導体チップは広い用途に使用されており、広い温度範囲で使用される。そのため、半導体チップの検査は、例えば室温(常温)、高温、及び低温で行う必要がある。このため、プローバのウェーハチャックには、例えばヒータ機構、チラー機構、ヒートポンプ機構などの温度調整部を設けられており、この温度調整部によってウェーハチャック上に保持されているウェーハが加熱又は冷却される。
【0005】
この際に、プローバのウェーハチャック以外の各部の温度もウェーハチャックの温度に近づくように徐々に変化する。このため、各部が加熱による熱膨張又は冷却により収縮することによって変形し、この変形に伴いプローブ針と半導体チップとの相対位置も変化する。その結果、半導体チップの検査を行うためにプローブ針とウェーハとを相対移動させた際に、プローブ針が半導体チップに正しく接触しないプロービングミスが生じるおそれがある。
【0006】
そこで、特許文献1には、プローブ針を有するプローブカードに温度センサを取り付け、この温度センサの測定結果に基づき、プローブ針と半導体チップとを接触させる際のウェーハチャックの高さ位置を補正するプローバが開示されている。この特許文献1に記載のプローバでは、プローブカードの温度とプローブ針の高さ方向の変位量との関係を予め求めておくことで、温度センサの測定結果からウェーハチャックの高さ位置の補正量を求めることができる。
【0007】
特許文献2には、プローブカード及びX方向移動ステージに温度センサを設け、温度センサの測定結果に基づきプローバの所定部位の温度が安定している状態でプローブ針を半導体チップに接触させるプローバが開示されている。この特許文献2に記載のプローバによれば、ウェーハ及びプローブカード等を予め加熱するプリヒート時間を短縮することができる。
【0008】
特許文献3には、ウェーハチャック、プローブカードを保持するカードホルダ、及びカードホルダを保持するヘッドステージにそれぞれ温度センサを取り付け、各温度センサの測定結果に基づき、プローブ針と半導体チップとの接触位置を補正するプローバが開示されている。この特許文献3のプローバでは、ウェーハチャック、及びカードホルダの各温度とプローブ針の位置との関係を予め求めることで、各温度の変化に伴うプローブ針の位置変化を示す予測モデルを生成する。これにより、特許文献3のプローバは、各温度センサの温度測定結果に基づき、予測モデルを参照することで、プローブ針と半導体チップとの接触位置を補正することができる。
【0009】
特許文献4には、プローブカード及びカードホルダの双方の温度測定を行い、双方の温度測定結果に基づき、双方の温度と、双方の熱変形により変位したプローブ針の先端位置との関係を示す予測モデルを参照して、プローブ針の先端位置を予測するプローバが開示されている。この特許文献4に記載のプローバによれば、プローブ針を半導体チップに効率良く安定して接触させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-173206号公報
【特許文献2】特開2005-228788号公報
【特許文献3】特開2007-311389号公報
【特許文献4】特開2018-117095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献3及び特許文献4に記載のプローバでは予測モデルを予め生成しているが、ウェーハチャックが温度変化した直後などのようにプローバ内の温度が安定しない状態で予測モデルが生成された場合には、予測モデルによるプローブ針の先端位置の予測値とプローブ針の先端位置の実測値との間に乖離が生じる。その結果、プロービングミスが発生するおそれがある。従って、この場合には、プローバ内の温度が安定するまで予測モデルの生成(学習)を長時間続ける必要がある。
【0012】
また、プローバ内の温度が安定した状態で生成された予測モデルを用いたとしても、長時間の経過によって温度センサのドリフトが発生したり、或いはプローバ内で温度測定していない箇所の温度変動に伴うプローブ針の先端位置の変位が発生したりした場合には、プローブ針の先端位置の予測値と実測値との間に乖離が生じてしまうおそれがある。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、プローブ針の先端位置をより正確に予測することが可能なプローバ制御装置、プローバ制御方法、及びプローバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的を達成するためのプローバ制御装置は、複数の半導体チップが形成されたウェーハを保持するウェーハチャックと、プローブ針を有するプローブカードと、プローブカードの外周を保持して、プローブカードをウェーハに対向させるカードホルダと、ウェーハチャックをプローブ針に対して相対移動させる相対移動部と、を備えるプローバの相対移動部を駆動してプローブ針を半導体チップに接触させるプローバ制御装置において、プローブカード及びカードホルダの少なくとも一方の温度データを含む入力データを取得する入力データ取得部と、入力データ取得部が取得した入力データに基づき、入力データを入力とし且つプローブ針の先端位置を出力とする予測モデルを用いて、プローブ針の先端位置を予測する予測部と、予測部の予測前に、予測モデルの機械学習に教師データとして用いられた入力データと、入力データ取得部が取得した入力データとに基づき、予測部による予測の実行の可否を決定する決定部と、を備える。
【0015】
このプローバ制御装置によれば、予測部による予測前に、この予測に用いられる予測モデルが現在の入力データに基づいて正確なプローブ針の先端位置を予測可能であるか否かを判定することができる。
【0016】
本発明の他の態様に係るプローバ制御装置において、決定部は、入力データのパラメータごとに、入力データ取得部が取得した入力データと教師データとして用いられた入力データとの差分を演算する処理と、パラメータごとに差分の二乗和平方根を演算して、パラメータごとの差分の二乗和平方根の中で、予め定められた一定範囲内になるものが少なくとも1つあるか否かに基づき、予測部による予測の実行の可否を判定する処理と、を行う。
【0017】
本発明の他の態様に係るプローバ制御装置において、決定部が否と決定した場合に、プローブ針の先端位置を取得する針位置取得部と、入力データ取得部が取得した入力データと針位置取得部が取得したプローブ針の先端位置とを加えた教師データを用いて、予測モデルを再学習させる再学習部と、を備え、決定部が可と決定するまで、針位置取得部と再学習部と入力データ取得部と決定部とが繰り返し作動する。これにより、プローブ針の先端位置を正確に予測することができる。
【0018】
本発明の他の態様に係るプローバ制御装置において、再学習部が、教師データの中から最も古い入力データ及び入力データに対応するプローブ針の先端位置を除外してから、教師データに基づき予測モデルの再学習を実行する。これにより、入力データ取得部(温度センサ)のドリフトの影響を低減させることができる。
【0019】
本発明の他の態様に係るプローバ制御装置において、決定部が可と決定した場合に、予測部がプローブ針の先端位置を予測し、予測部が予測したプローブ針の先端位置に基づき、相対移動部を制御して、半導体チップにプローブ針を接触させる移動制御部を備える。これにより、プローブ針を半導体チップに正しく接触させることができる。
【0020】
本発明の他の態様に係るプローバ制御装置において、入力データ取得部が、入力データとして、温度データの他に、半導体チップのチップサイズと、ウェーハの位置と、半導体チップの検出に用いられる第1カメラ及びプローブ針の検出に用いられる第2カメラの位置関係と、の少なくともいずれか1つを含むアライメントデータを取得する。
【0021】
本発明の目的を達成するためのプローバは、複数の半導体チップが形成されたウェーハを保持するウェーハチャックと、プローブ針を有するプローブカードと、プローブカードの外周を保持して、プローブカードをウェーハに対向させるカードホルダと、ウェーハチャックをプローブ針に対して相対移動させる相対移動部と、上述のプローバ制御装置と、を備える。
【0022】
本発明の目的を達成するためのプローバ制御方法は、複数の半導体チップが形成されたウェーハを保持するウェーハチャックと、プローブ針を有するプローブカードと、プローブカードの外周を保持して、プローブカードをウェーハに対向させるカードホルダと、ウェーハチャックをプローブ針に対して相対移動させる相対移動部と、を備えるプローバの相対移動部を駆動してプローブ針を半導体チップに接触させるプローバ制御方法において、プローブカード及びカードホルダの少なくとも一方の温度データを含む入力データを取得する入力データ取得ステップと、入力データ取得ステップで取得した入力データに基づき、入力データを入力とし且つプローブ針の先端位置を出力とする予測モデルを用いて、プローブ針の先端位置を予測する予測ステップと、予測ステップの前に、予測モデルの機械学習に教師データとして用いられた入力データと、入力データ取得ステップで取得した入力データとに基づき、予測ステップの実行の可否を決定する決定ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、プローブ針の先端位置をより正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ウェーハに形成された複数の半導体チップの電気的特性を検査するウェーハテストシステムに用いられるプローバの概略図である。
図2】プローバの外観斜視図である。
図3】ウェーハチャックに保持されているウェーハの上面図である。
図4】温度センサによるカードホルダ及びプローブカードの温度測定ポイントの一例を示した説明図である。
図5】プローバの制御部の機能を示す機能ブロック図である。
図6】予測モデル生成部による予測モデルの機械学習に用いられる教師データの一例を示した説明図である。
図7】プローバによる半導体チップへのプローブ針の接触方法の流れを示すフローチャートである。
図8】決定部による決定及び予測モデルの再学習を実行しない比較例において、プローブ針の先端位置の予測値と実測値とを示したグラフ(符号VIIIA参照)と、プローブ針の先端位置の予測値と実測値との差分値を示したグラフ(符号VIIIB参照)である。
図9】本実施形態において、プローブ針の先端位置の予測値と実測値とを示したグラフ(符号IXA参照)と、プローブ針の先端位置の予測値と実測値との差分値を示したグラフ(符号IXB参照)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[プローバの構成]
図1は、ウェーハWに形成された複数の半導体チップ9(図3参照)の電気的特性を検査するウェーハテストシステムに用いられるプローバ10の概略図である。図2はプローバ10の外観斜視図である。
【0026】
図1及び図2に示すように、プローバ10は、ベース12と、Yステージ13と、Y移動部14と、Xステージ15と、X移動部16と、Zθステージ17と、Zθ移動部18と、ウェーハチャック20と、支柱23(図2参照)と、ヘッドステージ24(図2参照)と、カードホルダ25と、プローブカード26と、ウェーハ位置合わせカメラ29と、上下ステージ30と、針位置合わせカメラ31と、クリーニング板32と、温度センサ34と、を備える。なお、プローバ10の外観構成は、図1及び図2に示した例に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0027】
ベース12の上面には、Y移動部14を介してYステージ13がY軸方向に移動自在に支持されている。
【0028】
Y移動部14は、例えば、ベース12の上面に設けられ且つY軸に平行なガイドレールと、Yステージ13の下面に設けられ且つガイドレールに係合するスライダと、Yステージ13をY軸方向に移動させるモータ等のアクチュエータと、を備える。このY移動部14は、ベース12上でYステージ13をY軸方向に移動させる。
【0029】
Yステージ13の上面には、X移動部16を介してXステージ15がX軸方向に移動自在に支持されている。X移動部16は、例えば、Yステージ13の上面に設けられ且つX軸に平行なガイドレールと、Xステージ15の下面に設けられ且つガイドレールに係合するスライダと、Xステージ15をX軸方向に移動させるモータ等のアクチュエータと、を備える。このX移動部16は、Yステージ13上でXステージ15をX軸方向に移動させる。
【0030】
Xステージ15の上面には、Zθステージ17及び上下ステージ30が設けられている。Zθステージ17にはZθ移動部18が設けられている。また、Zθステージ17の上面には、Zθ移動部18を介してウェーハチャック20が保持されている。
【0031】
Zθ移動部18は、例えば、Zθステージ17をZ軸方向(上下方向)に移動させる昇降機構と、Zθステージ17をZ軸の軸周りに回転させる回転機構とを有する。このため、Zθ移動部18は、Zθステージ17の上面に保持されているウェーハチャック20をZ軸方向に移動させると共に、Z軸周りに回転させる。
【0032】
ウェーハチャック20の上面には、真空吸着等の各種保持方法によりウェーハWが保持される。また、ウェーハチャック20には、ウェーハWの温度調整を行うための温度調整部20aが設けられている。この温度調整部20aとしては、例えばヒータ機構、チラー機構、及びヒートポンプ機構などの公知の機構が用いられる。温度調整部20aは、ウェーハチャック20に保持されているウェーハWの温度を調整する。
【0033】
ウェーハチャック20は、既述のYステージ13とY移動部14とXステージ15とX移動部16とZθステージ17とZθ移動部18とを介して、XYZ軸方向に移動自在に支持されている共に、Z軸の軸周りに回転自在に支持されている。これにより、ウェーハチャック20に保持されているウェーハWと、後述のプローブ針35とを相対移動させることができる。すなわち、Yステージ13及びY移動部14と、Xステージ15及びX移動部16と、Zθステージ17及びZθ移動部18とは、本発明の相対移動部として機能する。
【0034】
図3は、ウェーハチャック20に保持されているウェーハWの上面図である。図3に示すように、ウェーハWには複数の半導体チップ9が形成されている。また、各半導体チップ9には、複数の電極パッド9aが形成されている。
【0035】
図1及び図2に戻って、支柱23は、ベース12の上面に設けられており、Yステージ13、Xステージ15、及びZθステージ17(以下、単に各ステージ13,15,17という)の上方位置において、ヘッドステージ24を支持する。これにより、ヘッドステージ24が支柱23を介してベース12上に固定される。
【0036】
ヘッドステージ24の中央部には、カードホルダ25が保持される。カードホルダ25にはプローブカード26の外周を保持する保持穴25aが形成され、この保持穴25aにプローブカード26が保持される。これにより、プローブカード26が、ヘッドステージ24及びカードホルダ25を介して、ウェーハWに対向する位置に保持される。
【0037】
プローブカード26は、検査対象の半導体チップ9の電極パッド9aの配置等に応じて配置されたプローブ針35を有している。これらカードホルダ25及びプローブカード26は、半導体チップ9の種類に応じて交換される。
【0038】
プローブカード26には、プローブ針35に電気的に接続された不図示の接続端子が設けられており、この接続端子には不図示のテスタが接続される。テスタは、プローブカード26の接続端子、及びプローブ針35を介して、半導体チップ9の電極パッド9aに各種の試験信号を供給すると共に、電極パッド9aから出力される信号を受信及び解析して半導体チップ9が正常に動作するか否かをテストする。なお、テスタの構成及びテスト方法は公知技術であるので詳細な説明は省略する。
【0039】
ウェーハ位置合わせカメラ29は、本発明の第1カメラに相当するものであり、ウェーハチャック20に保持されているウェーハWの半導体チップ9を撮影する。このウェーハ位置合わせカメラ29にて撮影された撮影画像に基づき、検査対象の半導体チップ9の電極パッド9aの位置を検出可能である。なお、ウェーハ位置合わせカメラ29の設置位置及び構造については特に限定されないが、本実施形態では、特開2003-303865号公報に開示されているように、後述の針位置合わせカメラ31との間の相対距離を測定可能な設置位置及び構造(スポット光の照射光学系)が採用されている。
【0040】
上下ステージ30には、ヘッドステージ24等に略対向する位置に針位置合わせカメラ31及びクリーニング板32が設けられている。また、この上下ステージ30は、Z軸方向に移動自在な昇降機構(不図示)を有しており、針位置合わせカメラ31及びクリーニング板32のZ軸方向位置を調整可能である。なお、針位置合わせカメラ31及びクリーニング板32は、Yステージ13及びY移動部14と、Xステージ15及びX移動部16と、上下ステージ30と、を介して、XYZ軸方向に移動自在に支持されている。これにより、針位置合わせカメラ31及びクリーニング板32と、プローブ針35とを相対移動可能である。
【0041】
針位置合わせカメラ31は、本発明の第2カメラに相当するものであり、プローブカード26のプローブ針35を撮影する。この針位置合わせカメラ31にて撮影されたプローブ針35の撮影画像に基づき、プローブ針35の位置を検出可能である。具体的には、プローブ針35の先端位置のXY座標は針位置合わせカメラ31の位置座標から検出され、プローブ針35の先端位置のZ座標は針位置合わせカメラ31の焦点位置から検出される。
【0042】
上記構成のプローバ10でウェーハWの半導体チップ9の検査を行う場合には、プローブカード26を交換するごと或いは所定個数の半導体チップ9を検査するごとに、各ステージ13,15,17を駆動して針位置合わせカメラ31をプローブ針35の撮影位置に相対移動させた後、針位置合わせカメラ31でプローブ針35を撮影する。この針位置合わせカメラ31の撮影画像に基づき、既述の通りプローブ針35の先端位置を検出する。
【0043】
また、ウェーハチャック20に検査対象のウェーハWを保持させた状態で、各ステージ13,15,17を駆動してウェーハ位置合わせカメラ29をウェーハWの撮影位置に相対移動させた後、ウェーハ位置合わせカメラ29でウェーハWの半導体チップ9を撮影する。このウェーハ位置合わせカメラ29の撮影画像に基づき、検査対象の半導体チップ9の電極パッド9aの位置を検出する。
【0044】
そして、各ステージ13,15,17を駆動して、プローブ針35を最初に検査する半導体チップ9の電極パッド9aに電気的に接触させる。この状態で不図示のテスタにより最初に検査する半導体チップ9の検査が実行される。以下同様に検査対象の残りの半導体チップ9の検査が実行される。なお、半導体チップ9の具体的な検査方法は、公知技術であるのでここでは具体的な説明は省略する(例えば特許文献4参照)。
【0045】
温度センサ34は、カードホルダ25及びプローブカード26の各々の下面に対向する位置、例えばZθステージ17の側面と上下ステージ30の側面とにそれぞれ設けられている。従って、各温度センサ34は、各ステージ13,15,17,30によって、カードホルダ25及びプローブカード26に対して相対移動自在に保持されている。
【0046】
温度センサ34は、例えば放射エネルギー検出方式を用いた非接触式の温度センサであり、カードホルダ25及びプローブカード26の温度を非接触で測定する。カードホルダ25及びプローブカード26はウェーハチャック20の温度の影響を受けて熱変形し、この熱変形に伴いプローブ針35の先端位置が変位する。このため、温度センサ34によりカードホルダ25及びプローブカード26の温度を測定することで、プローブ針35の先端位置[変位(変位方向、変位量)]を予測可能である(上記特許文献4参照)。
【0047】
図4は、温度センサ34によるカードホルダ25及びプローブカード26の温度測定ポイントの一例を示した説明図である。なお、図4では、プローブ針35の図示は省略している。図4に示すように、温度センサ34は、カードホルダ25及びプローブカード26の双方の温度分布を検出するために、プローブカード26内の複数の温度測定ポイントP1~P5と、カードホルダ25内の複数の温度測定ポイントP6~P13と、を含む双方の複数箇所の温度を測定する。なお、図4中の各温度測定ポイントP1~P13は例示であり、その位置及び数は適宜変更してもよい。
【0048】
温度センサ34は、後述の制御部40(図5参照)の制御の下、各温度測定ポイントP1~P13の温度測定を行い、その温度測定結果である温度データを制御部40へ出力する。なお、各温度測定ポイントP1~P13の温度測定時には、温度センサ34が各温度測定ポイントP1~P13の温度を測定可能な位置に配置されるように、後述の制御部40の制御の下で各ステージ13,15,17,30の駆動される、すなわちカードホルダ25及びプローブカード26に対して温度センサ34が相対移動される。これにより、各温度測定ポイントP1~P13の温度の定点測定が可能となる。
【0049】
<制御部の機能>
図5は、プローバ10の制御部40の機能を示す機能ブロック図である。なお、図5では、制御部40の各機能の中でプローブ針35とウェーハW(半導体チップ9の電極パッド9a)との接触制御に係る機能のみを図示し、他の機能については公知技術であるため図示を省略している。
【0050】
図5に示すように、制御部40は、本発明のプローバ制御装置に相当するものであり、プローバ10の各部を統括制御する。なお、制御部40は、プローバ10の本体に内蔵されていてもよいし、或いはこの本体と別体に設けられていてもよい。
【0051】
制御部40は、例えばパーソナルコンピュータのような演算装置により構成され、各種のプロセッサ(Processor)及びメモリ等から構成された演算回路を備える。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス[例えばSPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays)]等が含まれる。なお、制御部40の各種機能は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、同種または異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0052】
また、制御部40には、各種の通信インタフェース(不図示)を介して、既述のウェーハ位置合わせカメラ29、針位置合わせカメラ31、及び温度センサ34等が接続されている他、アライメントデータ測定部38及び記憶部39が接続されている。
【0053】
アライメントデータ測定部38は、ウェーハ位置合わせカメラ29及び針位置合わせカメラ31等を制御して、アライメントデータを測定する。アライメントデータは、既述の温度データと共に、プローブ針35の先端位置(変位)の予測に用いられるデータである。このアライメントデータには、例えば、検査対象の半導体チップ9の3次元のチップサイズと、ウェーハWの3次元の位置と、ウェーハ位置合わせカメラ29及び針位置合わせカメラ31の間の3次元の相対距離(以下、カメラ相対距離と略す)と、が含まれる。なお、カメラ相対距離は、ウェーハ位置合わせカメラ29及び針位置合わせカメラ31の位置関係を示す。
【0054】
具体的にはアライメントデータ測定部38は、ウェーハ位置合わせカメラ29で撮影されたウェーハW(半導体チップ9)の撮影画像に基づき、半導体チップ9のチップサイズ(膨張量)を測定する。また、アライメントデータ測定部38は、ウェーハ位置合わせカメラ29で撮影された半導体チップ9の特定パターン(図示は省略)の撮影画像に基づき、ウェーハWの位置を測定する。さらに、アライメントデータ測定部38は、特開2003-303865号公報に開示されているように、ウェーハ位置合わせカメラ29と、針位置合わせカメラ31と、スポット光を照射する光学系(図示は省略)と、を用いてカメラ相対距離を測定する。そして、アライメントデータ測定部38は、半導体チップ9のチップサイズ、ウェーハWの位置、及びカメラ相対距離を含むアライメントデータを、制御部40へ出力する。
【0055】
記憶部39には、制御部40を動作させる制御プログラム(図示は省略)及びプローバ10による半導体チップ9の検査結果の他に、後述の予測モデル47の機械学習に用いられた教師データ56(訓練データともいう)が格納されている。
【0056】
制御部40は、ウェーハW内の検査対象の半導体チップ9の検査時には、記憶部39から読み出した不図示の制御プログラムを実行することにより、入力データ取得部42、針位置取得部44、予測部46、予測モデル生成部48、決定部50、及び移動制御部52として機能する。
【0057】
入力データ取得部42は、検査対象の半導体チップ9にプローブ針35を接触させる接触制御前(以下、単に接触制御前と略す)と、後述の予測モデル47の生成前及び再学習前とにおいて、温度センサ34による各温度測定ポイントP1~P13の温度測定と、アライメントデータ測定部38によるアライメントデータの測定と、を実行させる。これにより、入力データ取得部42は、上述の各タイミングにおいて、温度センサ34からの各温度測定ポイントP1~P13の温度データと、アライメントデータ測定部38からのアライメントデータと、を含む入力データを取得する。
【0058】
また、入力データ取得部42は、接触制御前に取得した入力データを後述の予測部46及び決定部50へ出力し、予測モデル47の生成前及び再学習前に取得した入力データを後述の予測モデル生成部48へ出力する。
【0059】
針位置取得部44は、プローブカード26の交換後、所定個数の半導体チップ9の検査後、及び後述の予測モデル47の生成前及び再学習前において、針位置合わせカメラ31によるプローブ針35の撮影を実行させて針位置合わせカメラ31からプローブ針35の撮影画像を取得し、この撮影画像に基づきプローブ針35の先端位置を取得する。
【0060】
また、針位置取得部44は、予測モデル47の生成前及び再学習前に取得したプローブ針35の先端位置を後述の予測モデル生成部48へ出力し、プローブカード26の交換後等に取得したプローブ針35の先端位置を後述の移動制御部52へ出力する。
【0061】
予測部46は、接触制御前であって且つ後述の決定部50が予測部46による予測の実行を「可」と決定した場合に、プローブ針35の先端位置を予測する。具体的には予測部46は、入力データ取得部42が取得した入力データ(各温度測定ポイントP1~P13の温度データ、アライメントデータ)に基づき、予め生成された後述の予測モデル47を参照してプローブ針35の先端位置を予測し、この先端位置の予測結果を移動制御部52へ出力する。なお、予測モデル47により予測されるプローブ針35の先端位置には、針位置取得部44により取得されたプローブ針35の先端位置からの変動量(補正量)も含まれる。
【0062】
予測モデル47は、後述の予測モデル生成部48によって、重回帰モデル(重回帰式、重回帰分析という)による機械学習(教師あり学習)で生成された学習済みモデルである。予測モデル47は、説明変数である複数の入力データ(各温度測定ポイントP1~P13の温度データ、アライメントデータ)を入力として、目的変数であるプローブ針35の先端位置の予測値を出力する。
【0063】
予測モデル生成部48は、製品用のウェーハWの半導体チップ9の検査前に予測モデル47の生成を行う。最初に予測モデル生成部48は、製品用のウェーハW或いはこれと同一の試験用(予測モデル作成用)のウェーハWを用いて、教師データ56(入力データ、アライメントデータ、及びプローブ針35の先端位置)の測定を行う。
【0064】
図6は、予測モデル生成部48による予測モデル47の機械学習に用いられる教師データ56の一例を示した説明図である。なお、図6では、図面の煩雑化を防止するため、XYZ方向のうちで一方向(ここではY方向)のアライメントデータ、及び一方向のプローブ針35の先端位置のみを例示している。
【0065】
図6及び既述の図5に示すように、予測モデル生成部48は、温度センサ34、アライメントデータ測定部38、及び後述の移動制御部52等を制御して、入力データの測定(各温度測定ポイントP1~P13の温度測定、アライメントデータの測定)を所定時間実行させる。これにより、各温度測定ポイントP1~P13の温度データT1~T13が得られる。また、アライメントデータとして、半導体チップ9のチップサイズD1(ロット開始時からの変化量)、ウェーハWのウェーハ位置D2(ロット開始時からの変動量)、及びカメラ相対距離D3(ロット開始時からの変動量)が得られる。
【0066】
予測モデル生成部48は、上述の入力データの測定タイミングに合わせて、針位置合わせカメラ31、針位置取得部44、及び後述の移動制御部52等を制御して、プローブ針35の先端位置の測定を実行させる。これにより、入力データの測定タイミングごとのプローブ針35の先端位置Y[α](αは任意の自然数)が得られる。
【0067】
このように予測モデル生成部48は、入力データと、入力データに対応するプローブ針35の先端位置Y[α]と、を含む教師データ56を複数取得する。なお、詳しくは後述するが、本実施形態では予測モデル47の再学習を可能にしているため、教師データ56は予測モデル47の機械学習に必要な最低限の数だけ取得すればよく、例えば本実施形態では1枚のウェーハWを用いて教師データ56の取得を行う。
【0068】
次いで、予測モデル生成部48は、複数の教師データ56、すなわち説明変数である入力データ(T1~T13、D1~D3)及び目的変数であるプローブ針35の先端位置Y[α]に基づき、重回帰モデルによる機械学習によって、入力データからプローブ針35の先端位置を予測するための予測モデル47を生成する。この予測モデル47の具体的な生成方法、すなわち重回帰モデルを用いた機械学習のアルゴリズムは公知技術であるので、ここで具体的な説明は省略する。これにより、予測部46が、現在の入力データから現在のプローブ針35の先端位置を予測することができる。
【0069】
なお、予測モデル47を生成するための機械学習のアルゴリズムは、重回帰モデルに限定されず、例えば畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional neural network:CNN)等の公知の機械学習のアルゴリズムを用いてもよい。
【0070】
また、予測モデル生成部48は、予測モデル47の機械学習に用いた教師データ56(入力データだけでも可)を記憶部39に記憶させる。記憶部39に記憶された教師データ56は、後述の決定部50が行う予測部46による予測の実行の可否決定に用いられる。
【0071】
さらに、予測モデル生成部48は、詳しくは後述するが、予測モデル47の生成後であって且つ後述の決定部50が予測部46による予測の実行を「否」と決定した場合に作動して、予測モデル47の再学習を行う。
【0072】
図5に戻って決定部50は、接触制御前(予測部46による予測前)に作動して、入力データ取得部42が取得した現在(最新)の入力データと、記憶部39内の教師データ56の入力データと、を比較することで、予測部46による予測の実行の可否を決定(単に予測可否決定という)する。
【0073】
現在の入力データが予測モデル47の機械学習に用いられた教師データ56の入力データから大きく離れていなければ、この予測モデル47は、現在の入力データに対応する教師データ56での機械学習を既に済ませた学習済み状態である。このため、予測部46が現在の入力データに基づき予測モデル47を用いてプローブ針35の先端位置を予測した場合に、正確なプローブ針35の先端位置を予測することができる。
【0074】
一方、現在の入力データが教師データ56の入力データから大きく外れている場合には、この予測モデル47は、現在の入力データに対応する教師データ56で機械学習を行っていない未学習状態である。このため、予測部46が、この未学習状態の予測モデル47を用いてプローブ針35の先端位置の予測を行ったとしても、正確なプローブ針35の先端位置を予測することができない。
【0075】
従って、決定部50は、現在の入力データと記憶部39内の教師データ56の入力データとを比較して、現在の入力データに対して予測モデル47が学習済み状態であるのか或いは未学習状態であるのかを判定することで、予測可否決定を行う。
【0076】
最初に決定部50は、入力データのパラメータ(温度データT1~T13、チップサイズD1、ウェーハ位置D2、カメラ相対距離D3)ごとに、現在の入力データと教師データ56の入力データとの差分を演算する。次いで、決定部50は、パラメータごとに差分の二乗和平方根を演算してパラメータごとの二乗和平方根の中で一定範囲内(閾値以下)になるものが少なくとも1つあるか否かに基づき、予測モデル47が学習状態であるのか或いは未学習状態であるのかを判定する。
【0077】
以下、決定部50による決定方法(判定方法)について具体的に説明する。なお、説明の煩雑化を防止するため、ここでは入力データが温度データT1~T13のみで構成されているものとして説明を行う。
【0078】
入力データのパラメータ数をm個とし、学習済み回数をN回とした場合に、学習済みの入力データ(説明変数)は下記の[数1]式で表される。また、学習済みのプローブ針35の先端位置Y[α](目的変数)は下記の[数2]式で表される。そして、重回帰モデルを用いた機械学習のアルゴリズムによって得られる関数、すなわち予測モデル47は下記の[数3]式で表される。
【0079】
【数1】
【0080】
【数2】
【0081】
【数3】
【0082】
プローブ針35の先端位置の予測を行う段階で取得した「現在の入力データ」を下記の[数4]式に示すX[T]で表した場合に、この現在の入力データX[T]と、任意のs回目の教師データ56の入力データであるX[s]とのユークリッド距離D[s]は、下記の[数5]式で表される。
【0083】
【数4】
【0084】
【数5】
【0085】
決定部50は、全てのユークリッド距離D[s](s=1、2、…、N)について予め定めた閾値Dthとの比較を行い、閾値Dthを下回るユークリッド距離D[s]が少なくとも1つ存在する場合には、予測モデル47([数3]式)が学習済み状態であると判定し、この予測モデル47による予測の実行を決定する。この場合に既述の予測部46は、説明変数である現在の入力データX[T]に基づき、[数3]式で示す予測モデル47を用いて、目的変数であるプローブ針35の先端位置Y[T]を予測する。
【0086】
一方、決定部50は、閾値Dthを下回るユークリッド距離D[s]が1つも存在しない場合には、予測モデル47が未学習状態であると判定し、この予測モデル47による予測の実行を否と決定する。この場合に予測モデル生成部48は、決定部50からの決定結果の入力を受けて本発明の再学習部として機能することで、予測モデル47の再学習を実行する。
【0087】
予測モデル生成部48は、予測モデル47の再学習を行う場合に、針位置取得部44及び後述の移動制御部52等を制御して、現在の入力データX[T]に対応する目的変数であるプローブ針35の先端位置Y[T]を取得する。なお、この際に予測モデル生成部48が、温度センサ34、アライメントデータ測定部38、及び移動制御部52等を制御して、入力データの再測定を実行してもよい。
【0088】
次いで、予測モデル生成部48は、記憶部39内の教師データ56に対して、現在の入力データX[T]及びプローブ針35の先端位置Y[T]を加えて新たな教師データ56を作成する。この際に予測モデル生成部48は、温度センサ34のドリフトの影響を低減させるために、下記の[数6]式及び[数7]式に示すように、記憶部39内の教師データ56(説明変数、目的変数)から最も古いデータ(X[1]、Y[1])を除外することが好ましい。
【0089】
【数6】
【0090】
【数7】
【0091】
そして、予測モデル生成部48は、記憶部39内に記憶されている教師データ56、すなわち上記[数6]式に示した入力データ(説明変数)及び上記[数7]式に示したプローブ針35の先端位置(目的変数)に基づき、重回帰モデルによる機械学習を行って予測モデル47の再学習を行う。これにより、下記[数8]式に示すように、新たな予測モデル47(関数)が得られる。
【0092】
【数8】
【0093】
予測モデル47の再学習が完了すると、入力データ取得部42による入力データの取得が実行された後、決定部50による予測可否決定が実行される。
【0094】
以下、決定部50が予測可否決定で可と決定するまで、針位置取得部44、予測モデル生成部48、入力データ取得部42、及び決定部50が繰り返し作動することで、プローブ針35の先端位置の取得、記憶部39内の教師データ56の更新、予測モデル47の再学習、入力データの取得、及び予測可否決定が繰り返し実行される。これにより、予測部46が、常に学習済み状態の予測モデル47を用いてプローブ針35の先端位置を予測することができる。
【0095】
移動制御部52は、Y移動部14、X移動部16、及びZθ移動部18を介して、各ステージ13,15,17の駆動を行う。この移動制御部52は、ウェーハ位置合わせカメラ29から入力された撮影画像に基づき、ウェーハチャック20に保持されているウェーハWの検査対象の半導体チップ9(電極パッド9a)の位置を取得する。また、移動制御部52は、針位置取得部44からプローブ針35の先端位置(プローブカード26の交換時等に測定された値)を取得する。
【0096】
そして、移動制御部52は、製品用のウェーハWの検査時には各ステージ13,15,17を駆動して、プローブ針35に対してウェーハWを相対移動させることで、プローブ針35をウェーハWの検査対象の半導体チップ9に順番に接触させる。この際に、移動制御部52は、予測部46によるプローブ針35の先端位置の予測結果に基づき、各ステージ13,15,17を駆動して、検査対象の半導体チップ9ごとに、半導体チップ9に対するプローブ針35の接触位置の補正を行う。これにより、カードホルダ25及びプローブカード26の熱変形等によりプローブ針35の先端位置が変位したとしても、この変位後の先端位置に対応した補正後の各接触位置でプローブ針35を検査対象の半導体チップ9に接触させることができる。
【0097】
[本実施形態の作用]
図7は、本発明のプローバ制御方法に相当する、上記構成のプローバ10による半導体チップ9へのプローブ針35の接触方法の流れを示すフローチャートである。なお、予測モデル47が予め生成されており且つその機械学習に用いられた教師データ56が記憶部39に記憶され、さらに針位置取得部44によるプローブ針35の先端位置の取得も行われているものとして説明を行う。
【0098】
製品用のウェーハWがウェーハチャック20に保持されると、ウェーハ位置合わせカメラ29によるウェーハWの半導体チップ9の撮影が実行される。そして、移動制御部52が、ウェーハ位置合わせカメラ29により撮影された撮影画像に基づき、検査対象の半導体チップ9(電極パッド9a)の位置を判別する。
【0099】
また、入力データ取得部42が、温度センサ34による各温度測定ポイントP1~P13の温度測定と、アライメントデータ測定部38によるアライメントデータの測定と、を実行させる。これにより、入力データ取得部42が、各温度測定ポイントP1~P13の温度データと、アライメントデータと、を含む現在の入力データを取得する(ステップS1、本発明の入力データ取得ステップに相当)。
【0100】
現在の入力データの取得が完了すると、決定部50が作動して、入力データ取得部42が取得した現在の入力データと、記憶部39内の教師データ56の入力データと、を比較して予測可否決定を行う(ステップS2、本発明の決定ステップに相当)。具体的には決定部50が、上記[数5]式で表されるユークリッド距離D[s](s=1、2、…、N)の各々と閾値Dthとを比較した結果に基づき、予測モデル47が現在の入力データを学習済み状態であるのか或いは未学習状態であるのかを判定する。
【0101】
決定部50が予測可否決定で否と決定した場合(ステップS3でNO)、予測モデル生成部48が、針位置取得部44及び移動制御部52等を制御して、現在の入力データに対応するプローブ針35の先端位置を取得する(ステップS4)。なお、この際に入力データの再取得を実行してもよい。
【0102】
次いで、予測モデル生成部48が、上記[数6]式及び[数7]式に示したように、記憶部39内の教師データ56に対して、現在の入力データ及びプローブ針35の先端位置Yを加えると共に最も古いデータを除外することにより、教師データ56の更新を行う(ステップS5)。そして、予測モデル生成部48が、記憶部39内の新たな教師データ56に基づき、予測モデル47の再学習を実行して新たな予測モデル47を生成する(ステップS6)。
【0103】
予測モデル47の再学習が完了すると、入力データ取得部42が入力データを再び取得して(ステップS2)、この入力データに基づき決定部50が予測可否決定を行う(ステップS3)。以下、決定部50が予測可否決定で可と決定するまで、ステップS4~ステップS6、ステップS1、及びステップS2の処理が繰り返される。
【0104】
決定部50が予測可否決定で可と決定した場合(ステップS3でYES)、予測部46が、直近のステップS1で取得した入力データに基づき、予測モデル47を参照してプローブ針35の先端位置を予測する(ステップS7、本発明の予測ステップに相当)。そして、予測部46は、プローブ針35の先端位置の予測結果を移動制御部52へ出力する。
【0105】
次いで、移動制御部52が、予測部46から入力されたプローブ針35の先端位置の予測結果と、先に判別した検査対象の半導体チップ9の位置とに基づき、各ステージ13,15,17の移動を制御して、プローブ針35を検査対象の半導体チップ9に接触させる(ステップS8)。この接触後、不図示のテスタにより半導体チップ9の検査が実行される(ステップS9)。
【0106】
以下、残りの検査対象の半導体チップ9についても同様に検査が実行される。この際に、所定個数の半導体チップ9が検査されるごと或いは所定時間が経過するごとに、ステップS1からステップS7の処理を繰り返し実行してもよい。
【0107】
[本実施形態の効果]
以上のように本実施形態では、決定部50が、接触制御前に取得された現在の入力データと教師データ56の入力データとを比較して予測可否決定を行い、この決定部50が否と決定した場合には予測モデル47の再学習を実行することで、プローブ針35の先端位置を従来よりも正確に予測することができる。
【0108】
図8は、決定部50による決定及び予測モデル47の再学習を実行しない比較例において、プローブ針35の先端位置の予測値PVと実測値MVとを示したグラフ(符号VIIIA参照)と、プローブ針35の先端位置の予測値PVと実測値MVとの差分値を示したグラフ(符号VIIIB参照)である。図9は、本実施形態において、プローブ針35の先端位置の予測値PVと実測値MVとを示したグラフ(符号IXA参照)と、プローブ針35の先端位置の予測値PVと実測値MVとの差分値を示したグラフ(符号IXB参照)である。
【0109】
なお、図8及び図9のグラフは、ウェーハチャック20の温度を200°に設定した状態において、XYZ方向の中の任意の一方向(ここではY方向)におけるプローブ針35の先端位置の予測値PV及び実測値MVの時間変化と、その差分値の時間変化と、を示す。また、図8及び図9中の符号WAは、機械学習が行われた機械学習範囲を示す。
【0110】
図8に示すように比較例では、温度センサ34のドリフトが発生したり、或いはプローバ10内で温度測定していない箇所の温度変動に伴うプローブ針35の先端位置の変位が発生したりすることで、機械学習範囲WA以降でプローブ針35の先端位置の予測値PVと実測値MVとの間に乖離が生じ、差分値が次第に大きくなることが確認された。
【0111】
これに対して図9に示すように、本実施形態では、機械学習範囲WA以降でも決定部50による予測可否決定及び予測モデル47の再学習を実行することで、プローブ針35の先端位置の予測値PVと実測値MVとがほぼ一致し、差分値が低減することが確認された。これにより、本実施形態では、温度センサ34のドリフトが発生したり、或いはプローバ10内で温度測定していない箇所の温度変動に伴うプローブ針35の先端位置の変位が発生したりした場合であっても、予測モデル47の再学習が実行されることで、プローブ針の先端位置をより正確に予測することができる。
【0112】
また、本実施形態では、予測モデル47の再学習を可能にすることで、初回の予測モデル47の生成(機械学習)を長時間続ける必要がなくなるので、予測モデル47の生成に要する作業を低減させることができる。
【0113】
[その他]
上記実施形態では、予測モデル生成部48が予測モデル47の生成及び再学習の両方を行っているが、予測モデル47の生成はプローバ10の製造メーカ或いは別のプローバ10等で行ってもよい。この場合には、予測モデル生成部48の代わりに予測モデル47の再学習のみを行う再学習部を制御部40に設けてもよい。
【0114】
上記実施形態では、決定部50が上記[数5]式を用いて予測可否決定を実行しているが、この決定方法は特に限定はされない。例えば、入力データのパラメータごとに、教師データ56の入力データの最大値と最小値との間(以下、最大最小範囲という)に現在の入力データが含まれるか否かを判定し、全てのパラメータにおいて現在の入力データが最大最小範囲内に含まれるか否かに基づいて予測可否決定を実行してもよい。
【0115】
上記実施形態として、入力データとして、カードホルダ25及びプローブカード26の温度データと、アライメントデータとを測定しているが、温度データのみを測定してもよい。また、上記実施形態では、入力データとしてカードホルダ25及びプローブカード26の双方の温度データを測定しているが、カードホルダ25及びプローブカード26の少なくとも一方の温度データを測定してもよい。さらに、上記実施形態では、アライメントデータとして半導体チップ9のチップサイズ、ウェーハWの位置、及びカメラ相対距離を測定しているが、これらの少なくとも1つを測定してもよい。
【0116】
上記実施形態では、非接触式の温度センサ34を用いているが、接触式の温度センサ34を用いてもよい。
【符号の説明】
【0117】
9 半導体チップ
9a 電極パッド
10 プローバ
12 ベース
13 Yステージ
14 Y移動部
15 Xステージ
16 X移動部
17 Zθステージ
18 Zθ移動部
20 ウェーハチャック
20a 温度調整部
23 支柱
24 ヘッドステージ
25 カードホルダ
25a 保持穴
26 プローブカード
29 ウェーハ位置合わせカメラ
30 上下ステージ
31 針位置合わせカメラ
32 クリーニング板
34 温度センサ
35 プローブ針
38 アライメントデータ測定部
39 記憶部
40 制御部
42 入力データ取得部
44 針位置取得部
46 予測部
47 予測モデル
48 予測モデル生成部
50 決定部
52 移動制御部
56 教師データ
D ユークリッド距離
D1 チップサイズ
D2 ウェーハ位置
D3 カメラ相対距離
Dth 閾値
MV 実測値
P1~P13 温度測定ポイント
PV 予測値
T1~T13 温度データ
W ウェーハ
WA 機械学習範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9