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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186414
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】検出装置及び電磁波検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20221208BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01N24/00 Z
G01N24/08 510D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094625
(22)【出願日】2021-06-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 予稿集による公開、公開日:令和2年9月27日、掲載アドレス:http://www.ssdm.jp/2020/index.html 学会における公開、学会名:”the 2020 International Conference on Solid State Devices and Materials”、開催日:令和2年9月29日
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 幸志
(72)【発明者】
【氏名】野村 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 聡
(57)【要約】
【課題】高い空間分解能及び高い検出感度を有する、電磁波の検出装置を提供する。
【解決手段】検出装置10は、NV中心を有するダイヤモンド結晶101と、所定の供給シーケンスに従って、第1振幅の磁場を有する第1電磁波又は第1振幅とは異なる第2振幅の磁場を有する第2電磁波のいずれか一方の供給電磁波を、ダイヤモンド結晶101に供給する電磁波供給部と、第1電磁波の振幅に応じた強度を有する第1蛍光に基づく第1受光信号と、第2電磁波の第2振幅に応じた第2強度を有するに基づく第2受光信号とを取得する、受光部と、第1受光信号に基づく第1検出信号と第2受光信号に基づく第2検出信号とを生成する検出信号生成部1035と、第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、前記ダイヤモンド結晶に入射する外部電磁場の分布を示す検出画像1501を生成する画像生成部1036と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NV中心を有するダイヤモンド結晶と、
所定の供給シーケンスに従って、第1振幅の磁場を有する第1電磁波又は前記第1振幅とは異なる第2振幅の磁場を有する第2電磁波のいずれか一方の供給電磁波を、前記ダイヤモンド結晶に供給する電磁波供給部と、
前記ダイヤモンド結晶に、前記NV中心を励起するレーザを照射するレーザ照射部と、
前記レーザにより励起された前記NV中心から、前記第1電磁波の前記第1振幅に応じた第1強度を有する第1蛍光を受光し、前記レーザにより励起された前記NV中心から、前記第2電磁波の前記第2振幅に応じた第2強度を有する第2蛍光を受光する受光素子を有し、受光信号として、前記第1蛍光に基づく第1受光信号及び前記第2蛍光に基づく第2受光信号を取得する、受光部と、
検出信号として、前記第1受光信号に基づく第1検出信号と前記第2受光信号に基づく第2検出信号とを生成する検出信号生成部と、
前記第1検出信号及び前記第2検出信号に基づいて、前記ダイヤモンド結晶に入射する外部電磁場の強度の分布を示す検出画像を生成する画像生成部と、を備える検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検出装置であって、
前記第2振幅は前記第1振幅より大きく、
前記電磁波供給部は、前記第1電磁波、前記第2電磁波又は前記第2振幅より大きい第3振幅の磁場を有する第3電磁波のいずれかの電磁波を、前記供給シーケンスに従って前記ダイヤモンド結晶に供給し、
前記受光部は、前記レーザにより励起された前記NV中心から、前記第3電磁波の前記第3振幅に応じた第3強度を有する第3蛍光を受光し、前記第3蛍光に基づく第3受光信号を前記受光信号として取得し、
前記検出信号生成部は、
前記検出信号として、第3受光信号に基づく第3検出信号を生成し、
前記画像生成部は、前記第1検出信号と前記第3検出信号とに基づいて、背景信号を算出し、
前記第2検出信号から前記背景信号を除いた信号に基づいて、前記検出画像を生成する、検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の検出装置であって、
前記供給シーケンスは第1供給シーケンスと第2供給シーケンスとを含み、
前記電磁波供給部は、
前記第1供給シーケンスにおいて、
前記NV中心のスピン状態を第1スピン状態とする前記供給電磁波を前記ダイヤモンド結晶に供給し、
前記第1スピン状態の第1スピン方向に振動する磁場を有し、前記スピン状態を第2スピン状態とする前記供給電磁波を前記ダイヤモンド結晶に供給し、
前記第2スピン状態を第3スピン状態とする前記供給電磁波を前記ダイヤモンド結晶に供給し、
前記第2供給シーケンスにおいて、
前記スピン状態を前記第1スピン状態とする前記供給電磁波を前記ダイヤモンド結晶に供給し、
前記スピン状態を前記第2スピン状態とする、前記第1スピン方向に振動する磁場を有する前記供給電磁波を前記ダイヤモンド結晶に供給し、
前記第2スピン状態を前記第3スピン状態のスピン方向と反対のスピン方向を有する第4スピン状態とする前記供給電磁波を前記ダイヤモンド結晶に供給し、
前記受光部は、前記第3スピン状態にある前記NV中心から発された第3受光信号と前記第4スピン状態にある前記NV中心から発された第4受光信号とを取得し、
前記検出信号生成部は、前記第3受光信号と前記第4受光信号との差に基づいて前記検出信号を生成する、検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の検出装置であって、
前記電磁波供給部は、
前記第2供給シーケンスにおいて、前記第1供給シーケンスにおける前記スピン状態を前記第3スピン状態とする前記電磁波の位相と180度異なる位相を有し、前記スピン状態を前記第4スピン状態とする前記電磁波を供給する、検出装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の検出装置であって、
前記ダイヤモンド結晶は、前記ダイヤモンド結晶の表面の内側であって、前記ダイヤモンド結晶において所定の体積を占める範囲に分布する複数の前記NV中心を有する、検出装置。
【請求項6】
電磁波検出方法であって、
検出装置が、
所定の供給シーケンスに従って、第1振幅の磁場を有する第1電磁波又は前記第1振幅とは異なる第2振幅の磁場を有する第2電磁波のいずれか一方の供給電磁波を、NV中心を有するダイヤモンド結晶に供給することと、
前記ダイヤモンド結晶に、前記NV中心を励起するレーザを照射することと、
前記レーザにより励起された前記NV中心から、前記第1電磁波の前記第1振幅に応じた第1強度を有する第1蛍光を受光し、前記レーザにより励起された前記NV中心から、前記第2電磁波の前記第2振幅に応じた第2強度を有する第2蛍光を受光することと、
受光信号として、前記第1蛍光に基づく第1受光信号及び前記第2蛍光に基づく第2受光信号を取得することと、
検出信号として、前記第1受光信号に基づく第1検出信号と前記第2受光信号に基づく第2検出信号とを生成することと、
前記第1検出信号及び前記第2検出信号に基づいて、前記ダイヤモンド結晶に入射する外部電磁場の強度の分布を示す検出画像を生成すること、とを含む
電磁波検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置及び電磁波検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の表面あるいは物体から離れた空間における無線周波数(Radio Frequency:RF)信号及び電磁波の分布を可視化する技術が存在する。特許文献1には、複数の磁気抵抗センサを有し、複数の磁気抵抗センサのそれぞれが、経時変化する外部磁場に応答した出力電圧を発生することによって、電磁波の強度分布を可視化するRFセンサシステムが示される。電磁波の強度とは例えば、電場又は磁場の振幅である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-014720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のRFセンサシステムのように、電気的に結合された磁気抵抗センサを配列し各磁気抵抗センサの出力を用いて電磁波の強度を可視化する場合、センサのサイズ及びセンサ間の配列の本数によって、空間分解能と画素数が制限される。空間分解能及び画素数に制限がある場合、微小な対象物からの電磁波の可視化を行うことが難しくなる。さらに、対象物が微小である場合は、電磁波の信号強度が小さいことがあるので、空間分解能に加えて、検出感度を高くする必要がある。加えて、センサ間及びセンサと対象物間の相互干渉の影響が避けられず、相互干渉の影響を補正する方法が煩雑であり、加えて測定精度が低下する。これらの理由により、μmからmmオーダーの高い空間分解能による電磁波強度の可視化は困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、高い空間分解能及び高い検出感度を有する、電磁波の検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る検出装置は、NV中心を有するダイヤモンド結晶と、所定の供給シーケンスに従って、第1振幅の磁場を有する第1電磁波又は第1振幅とは異なる第2振幅の磁場を有する第2電磁波のいずれか一方の供給電磁波を、ダイヤモンド結晶に供給する電磁波供給部と、ダイヤモンド結晶に、NV中心を励起するレーザを照射するレーザ照射部と、レーザにより励起されたNV中心から、第1電磁波の第1振幅に応じた第1強度を有する第1蛍光を受光し、レーザにより励起されたNV中心から、第2電磁波の第2振幅に応じた第2強度を有する第2蛍光を受光する受光素子を有し、受光信号として、第1蛍光に基づく第1受光信号及び第2蛍光に基づく第2受光信号を取得する、受光部と、検出信号として、第1受光信号に基づく第1検出信号と第2受光信号に基づく第2検出信号とを生成する検出信号生成部と、第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、前記ダイヤモンド結晶に入射する外部電磁場の分布を示す検出画像を生成する画像生成部と、を備える。
【0007】
上記態様の検出装置では、ダイヤモンド結晶のNV中心に、第1振幅の磁場を有する第1電磁波及び第2振幅の磁場を有する第2電磁波がそれぞれ異なるタイミングで供給される。
【0008】
第1電磁波が供給されたNV中心のスピンは、第1振幅に応じた第1周波数を有するラビ振動(第1ラビ振動)を行う。第1ラビ振動を行うスピンは、第1周波数に近い周波数の外部電磁場から強く影響を受ける。第1ラビ振動を行うスピンは、外部電磁場が、第1周波数に近い周波数であるほど、蛍光を強く発する。
【0009】
第2電磁波が供給されたNV中心のスピンは、第2振幅に応じた第2周波数を有するラビ振動(第2ラビ振動)を行う。第2振幅は第1振幅とは異なる振幅であるので、第2周波数は、第1周波数とは異なる周波数となる。第2振幅が第1振幅より大きい場合、第2周波数は第1周波数より高くなる。
【0010】
第2ラビ振動を行うスピンは、第2周波数に近い周波数の外部電磁場から強く影響を受ける。第2ラビ振動を行うスピンは、外部電磁場が、第2周波数に近い周波数であるほど、蛍光を強く発する。
【0011】
受光部は、レーザ照射部がNV中心を励起した結果生じる、第1電磁波及び外部電磁場に基づく第1受光信号と、第2電磁波及び外部電磁場に基づく第2受光信号とを取得する。検出信号生成部は、第1受光信号に基づく第1検出信号と第2受光信号に基づく第2検出信号とを生成する。
【0012】
第1検出信号は、第1電磁波が供給されたNV中心によって検出された、第1周波数の外部電磁場の強度を示す信号となる。第2検出信号は、第2電磁波が供給されたNV中心によって検出された、第2周波数の外部電磁場の強度を示す信号となる。
【0013】
画像生成部は、第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、ダイヤモンド結晶に入射する外部電磁場の強度の分布を示す検出画像を生成する。
【0014】
第1検出信号のみでは、外部電磁場の強度の分布は適切に画像化されない。なぜなら、外部電磁場の周波数が第1周波数から離れた周波数である場合、第1検出信号は外部電磁場の影響をほとんど受けないからである。そのため、第1検出信号が、ダイヤモンド結晶において空間的に分布する信号強度を有している場合であっても、当該強度の分布は、ノイズに起因する分布であるのか、外部電磁場を反映した分布であるのかを切り分けることが難しい。これにより、外部電磁場の強度の分布の適切な画像化が難しくなる。
【0015】
そこで、検出装置は、第1周波数とは異なる第2周波数の外部電磁場の強度を示す第2検出信号をさらに取得する。第1検出信号と第2検出信号とによって、第1周波数と第2周波数のそれぞれの周波数における外部電磁場の強度が算出可能となる。第1検出信号と第2検出信号とに基づくことで、ノイズに起因する外部電磁場の強度分布の影響を抑えることができる。
【0016】
検出装置は、NV中心という微小な構造を用いることにより高い空間分解能を有し、異なる周波数における外部電磁場の検出信号を用いることによって高い検出感度を有する。
【0017】
上記態様において、第2振幅は第1振幅より大きく、電磁波供給部は、第1電磁波、第2電磁波又は第2振幅より大きい第3振幅の磁場を有する第3電磁波のいずれかの電磁波を、供給シーケンスに従ってダイヤモンド結晶に供給し、受光部は、レーザにより励起されたNV中心から、第3電磁波の第3振幅に応じた第3強度を有する第3蛍光を受光し、第3蛍光に基づく第3受光信号を受光信号として取得し、検出信号生成部は、検出信号として、第3受光信号に基づく第3検出信号を生成し、画像生成部は、第3検出信号と第1検出信号とに基づいて、背景信号を算出し、画像生成部は、第2検出信号から背景信号を除いた信号に基づいて、検出画像を生成してもよい。
【0018】
検出信号生成部が、第1検出信号と第3検出信号とに基づいて、ノイズとしての背景信号を算出する。画像生成部は、第2検出信号から背景信号を除いた信号に基づいて検出画像を生成することができるので、ノイズに起因する外部電磁場の強度分布の影響が抑えられる。
【0019】
第2振幅の磁場を有する第2電磁波による第2ラビ振動の周波数が、外部電磁場の周波数に近い場合、第2検出信号は大きい値となる。第2振幅は第1振幅と第3振幅の中間の大きさの磁場振幅であるため、第1周波数及び第3電磁波に基づく第3ラビ振動の周波数である第3周波数は、外部電磁場の周波数から離れた値となる。したがって、第1検出信号及び第3検出信号の値は、第2検出信号より小さくなる。よって、第1検出信号、第2検出信号、及び第3検出信号それぞれの強度を、周波数を横軸としてプロットした場合、周波数プロットは、第2検出信号に基づく極値を有する。
【0020】
検出装置は、背景信号が除かれ、かつ極値である第2検出信号に基づいて、検出画像を生成することで、より高い検出感度にて外部電磁場の検出及び可視化を行う。
【0021】
上記態様において、供給シーケンスは第1供給シーケンスと第2供給シーケンスとを含み、電磁波供給部は、第1供給シーケンスにおいて、NV中心のスピン状態を第1スピン状態とする供給電磁波をダイヤモンド結晶に供給し、第1スピン状態の第1スピン方向に振動する磁場を有し、スピン状態を第2スピン状態とする供給電磁波をダイヤモンド結晶に供給し、第2スピン状態を第3スピン状態とする供給電磁波をダイヤモンド結晶に供給してもよい。
【0022】
また、電磁波検出部は、第2供給シーケンスにおいて、スピン状態を第1スピン状態とする供給電磁波をダイヤモンド結晶に供給し、スピン状態を第2スピン状態とする、第1スピン方向に振動する磁場を有する供給電磁波をダイヤモンド結晶に供給し、第2スピン状態を第3スピン状態のスピン方向と反対のスピン方向を有する第4スピン状態とする供給電磁波をダイヤモンド結晶に供給してもよい。
【0023】
また、受光部は、第3スピン状態にあるNV中心から発された第3受光信号と第4スピン状態にあるNV中心から発された第4受光信号とを取得し、検出信号生成部は、第3受光信号と第4受光信号との差に基づいて検出信号を生成してもよい。
【0024】
第1供給シーケンス及び第2供給シーケンスにより、受光部は、ある振幅を有する供給電磁波の磁場の振幅に基づく、第3受光信号と第4受光信号という2つの受光信号を得ることができる。第3受光信号と、第4受光信号とは、それぞれの基となるスピン状態のスピン方向が反対である。第2スピン状態にあるNV中心は、検出対象の外部電磁場の影響と他のノイズとの影響を受ける。ノイズの方向はランダムであるため、第3受光信号と第4受光信号との差をとることにより、ノイズを打ち消すことができる。第3スピン状態と第4スピン状態は互いに逆向きであるため、第3受光信号と第4受光信号との差をとることにより、第2スピン状態に対する外部電磁場の正味の影響を取り出すことが可能となる。
【0025】
上記態様において、電磁波供給部は、第2供給シーケンスにおいて、第1供給シーケンスにおけるスピン状態を第3スピン状態とする電磁波の位相と180度異なる位相を有し、スピン状態を第4スピン状態とする電磁波を供給してもよい。これにより、第2スピン状態に対する外部電磁場の正味の影響を取り出すことが可能となる。
【0026】
上記態様において、ダイヤモンド結晶は、ダイヤモンド結晶の表面の内側であって、ダイヤモンド結晶において所定の体積を占める範囲に分布する複数のNV中心を有してもよい。これにより、外部電磁場を発する電磁波検出対象のより広い範囲からの外部電磁場を検出することが可能となる。
【0027】
本発明の他の態様に係る蛍光検出方法は、蛍光検出装置が、所定の供給シーケンスに従って、第1振幅の磁場を有する第1電磁波又は第1振幅とは異なる第2振幅の磁場を有する第2電磁波のいずれか一方の供給電磁波を、NV中心を有するダイヤモンド結晶に供給することと、ダイヤモンド結晶に、NV中心を励起するレーザを照射することと、レーザにより励起されたNV中心から、第1電磁波の第1振幅に応じた第1強度を有する第1蛍光を受光し、レーザにより励起されたNV中心から、第2電磁波の第2振幅に応じた第2強度を有する第2蛍光を受光することと、受光信号として、第1蛍光に基づく第1受光信号及び第2蛍光に基づく第2受光信号を取得することと、検出信号として、第1受光信号に基づく第1検出信号と第2受光信号に基づく第2検出信号とを生成することと、第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、ダイヤモンド結晶に入射する外部電磁場の強度の分布を示す検出画像を生成すること、とを含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高い空間分解能及び高い検出感度を有する、電磁波の検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本実施形態に係る検出装置のブロック図である。
図2】本実施形態に係るダイヤモンド結晶、アンテナ、及びサンプルの配置を示す図である。
図3】本実施形態に係る外部電磁場の検出を説明するための図である。
図4】本実施形態に係る第1供給シーケンスの一例を説明する図である。
図5】本実施形態に係る第2供給シーケンスの一例を説明する図である。
図6】本実施形態に係る第1供給シーケンスの他の一例を説明する図である。
図7】本実施形態に係る第2供給シーケンスの他の一例を説明する図である。
図8】本実施形態に係る検出信号のビニングを説明する図である。
図9】本実施形態に係る外部電磁場の検出処理を説明するためのフローチャートである。
図10】本実施形態に係るNV中心の共振周波数を説明するための図である。
図11】本実施形態に係る検出画像の生成処理を説明するためのフローチャートである。
図12】本実施形態に係るサンプルの一例の平面図である。
図13】本実施形態に係る蛍光強度を説明するための図である。
図14】本実施形態に係る蛍光強度の一例を説明するための図である。
図15】本実施形態に係る検出画像の一例を説明するための図である。
図16】NV中心を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0031】
図1には、本実施形態に係る検出装置10のブロック図が示される。検出装置10は、ダイヤモンド結晶101、アンテナ部102、制御部103、パルス発生器104、レーザ照射器105、撮像装置106、局所発振器107、任意波形生成器108、ミキサ109、スイッチ110、増幅器111、及び信号生成器112を有する。検出装置10は、サンプルSが発する外部電磁場を検出するために用いられる。
【0032】
ダイヤモンド結晶101は、サンプルSと非常に近い位置又は接する位置に設けられる。ダイヤモンド結晶101は、以下に説明するNV中心を有する。
【0033】
ここで、NV中心について簡単に説明する。図16には、NV中心の構造を説明するための構造図が示される。NV中心とは、炭素原子Cで構成されるダイヤモンド結晶の格子点の一つを窒素原子Nと、窒素原子Nに隣接する炭素原子の抜けによる空孔Vとによって形成される複合欠陥である。この複合欠陥は、図16に概念を示すように、電子eを捕獲することができる。電子eは、量子状態(スピンs)を有する。NV中心は、所定波長の光、例えば、緑色のレーザ光を強く吸収し、他の所定波長の光、例えば、赤い蛍光を発する。NV中心からの蛍光の強度は、電子eのスピンsに応じて変化するという特徴を有する。
【0034】
ダイヤモンド結晶101に所定波長の光、例えば、緑色のレーザが入射されると、ダイヤモンド結晶101のNV中心は、他の所定波長の光、例えば、赤色の蛍光を発する。ダイヤモンド結晶101及びアンテナ部102の形状については後述する。
【0035】
アンテナ部102は、ダイヤモンド結晶101に接して設けられる。ダイヤモンド結晶101はアンテナ部102とサンプルSとで挟まれる。アンテナ部102は、増幅器111を通じて入力される、所定の周波数及び選択された振幅を有する無線周波数信号に基づく電磁波(供給電磁波)を、ダイヤモンド結晶101に送信することで、当該電磁波をダイヤモンド結晶101に伝搬させる。
【0036】
制御部103は、パルス発生器104、撮像装置106、局所発振器107、任意波形生成器108に接続される制御部品である。制御部103は、検出装置10による電磁波の検出の各種制御を行う装置である。制御部103は、物理的構成として、制御に必要な処理を行うCPU(Central Processing Unit)、記憶領域としてのRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、あるいはHDD(Hard Disk Drive)、各種通信を行う通信装置を備える。
【0037】
制御部103は、機能的構成として、記憶部1031、信号生成部1032,電磁波供給制御部1033,受光信号取得部1034,検出信号生成部1035、及び画像生成部1036を備える。これらの各部は、例えば、RAMやROM等の記憶領域を用いたり、記憶領域に記憶されたプログラムをCPUが実行したりすることにより実現される。例えば、プログラムは、記憶部1031に記憶される。
【0038】
記憶部1031は、制御部103における各種処理に必要なプログラムや情報が記憶される記憶領域である。
【0039】
信号生成部1032は、後述の信号生成器112を制御することで、サンプルSに対する無線周波数信号(RF信号)の供給を制御する。「無線周波数信号」とは、無線通信に用いられる周波数帯域を有する信号を意味している。無線周波数信号はサンプルSに対して有線で供給される。なお、無線周波数信号はサンプルSに対して無線で供給されてもよい。
【0040】
電磁波供給制御部1033は、局所発振器107及び任意波形生成器108を制御することで、アンテナ部102に供給される電磁波の供給を制御する。
【0041】
受光信号取得部1034は、撮像装置106によって検出されたNV中心からの蛍光に基づく受光信号を、撮像装置106から取得する。
【0042】
検出信号生成部1035は、受光信号取得部1034が取得した受光信号に基づいて、検出信号を生成する。
【0043】
画像生成部1036は、検出信号生成部1035が生成した検出信号に基づいて、サンプルSが外部に発する外部電磁場の強度分布を示す検出画像を生成する。
【0044】
制御部103の各部による具体的な処理については後述する。
【0045】
パルス発生器104は、制御部103、レーザ照射器105、撮像装置106、任意波形生成器108、及びスイッチ110に接続される。パルス発生器104は、制御部103の制御に基づいて、所定のパルス幅を有するパルス信号(以降、単に「パルス」とも呼ぶ)を、レーザ照射器105、撮像装置106、任意波形生成器108、及びスイッチ110に供給する。
【0046】
パルス発生器104は、アンテナ部102に供給されるRF信号用のパルスを、スイッチ110に供給する。パルス発生器104は、レーザ照射器105によるレーザの照射を制御する照射用パルスを、レーザ照射器105に供給する。パルス発生器104は、撮像装置106による撮像タイミングをトリガする撮像用パルスを、撮像装置106に供給する。パルス発生器104は、任意波形生成器108による信号生成を制御する波形生成パルスを、任意波形生成器108に供給する。パルス発生器104は、スイッチ110のオンオフの切り替えを制御する切替制御パルスを、スイッチ110に供給する。
【0047】
レーザ照射器105は、の周波数を有するレーザ光Lを照射する。例えば、レーザ光Lの波長は例えば520nmであり、レーザ光Lは緑色のレーザとなる。レーザ光Lの出力は、例えば7mWである。なお、レーザ光Lの波長及び出力は、上記の値に限定されず、ダイヤモンド結晶101のNV中心を励起可能であればよい。
【0048】
レーザ光Lは、ミラー1051、ハーフミラー1052、及び対物レンズ1053を有する光学系を通じて、ダイヤモンド結晶101に照射される。レーザ照射器105、ミラー1051、ハーフミラー1052、及び対物レンズ1053をまとめてレーザ照射部と呼ぶことができる。
【0049】
撮像装置106は、レーザ光Lが照射されたダイヤモンド結晶101から発される蛍光PLを受光する。蛍光は、例えば、赤色の蛍光となる周波数及び波長を有する。撮像装置106は、対物レンズ1053、長波長フィルタ1061、及び結像レンズ1062を通じて、ダイヤモンド結晶101から発せられる蛍光PLを受光する。長波長フィルタ1061は、赤色より長い波長の蛍光を透過させるフィルタである。結像レンズ1062は、蛍光を撮像装置106の受光に適するように調整するレンズである。
【0050】
撮像装置106は例えば、複数の受光素子を有するCMOSカメラである。撮像装置106にCMOSカメラを用いた場合、CMOSカメラは冷却CMOSカメラであってもよい。撮像装置106は、受光素子への蛍光の入射に基づいて、受光信号を生成する。生成された受光信号は、受光信号取得部1034に送信される。撮像装置106及び受光信号取得部1034をまとめて受光部と呼ぶことができる。なお、ハーフミラー1052、対物レンズ1053は、レーザ照射部及び受光部の両方に含まれてもよい。
【0051】
局所発振器107は、制御部103及びミキサ109に接続される。局所発振器107は、電磁波供給制御部1033からの信号に基づいて、所定の周波数のRF信号を生成する。局所発振器107は、生成したRF信号をミキサ109に送信する。
【0052】
任意波形生成器108は、パルス発生器104からの波形生成パルスに基づいて、ミキサ109に互いに直交するI信号及びQ信号を供給する。I信号とQ信号とは、位相がπ/2異なる信号である。
【0053】
ミキサ109は、局所発振器107からのRF信号と任意波形生成器108からのI信号及びQ信号とに基づいて、RF信号がパルス化された信号を生成する。パルス化されたRF信号は、スイッチ110に送信される。
【0054】
スイッチ110は、パルス発生器104からの切替制御パルスに基づいて、ミキサ109からのパルス化されたRF信号が増幅器111を通じてアンテナ部102に供給されるように、ミキサ109と増幅器111とを接続するスイッチである。スイッチ110は、ミキサ109がパルス化されたRF信号を生成している場合にのみオンとなるように制御される。
【0055】
増幅器111は、パルス化されたRF信号の電力を増幅する。増幅器111は、増幅された、パルス化されたRF信号を、アンテナ部102に供給する。アンテナ部102、制御部103、パルス発生器104、局所発振器107、任意波形生成器108、ミキサ109、スイッチ110をまとめて電磁波供給部と呼ぶことができる。
【0056】
信号生成器112は、信号生成部1032からの信号に基づいて、所定の無線周波数信号(RF信号)をサンプルSに供給する。信号生成器112が生成するRF信号は、局所発振器107が生成するRF信号とは独立して生成される信号である。サンプルSにRF信号が供給されることにより、ダイヤモンド結晶101の近傍にサンプルSによる外部電磁場が発生する。
【0057】
検出装置10における外部電磁場の検出の概略は以下の通りである。アンテナ部102にパルス化されたRF信号が供給される。アンテナ部102は、パルス化されたRF信号に基づいて、ダイヤモンド結晶101に電磁波を供給する。ダイヤモンド結晶101は、供給された電磁波によって、外部電磁場の検出を可能とする状態になる。
【0058】
サンプルSにRF信号が供給されることで外部電磁場がダイヤモンド結晶101近傍に発生する。外部電磁場により影響を受けたダイヤモンド結晶101に、レーザ照射器105がレーザ光Lを照射する。ダイヤモンド結晶101は、レーザ光Lにより励起され、蛍光PLを発する。蛍光PLは、撮像装置106に入力され、受光信号が、受光信号取得部1034により取得される。
【0059】
制御部103には、パルス発生器104からのパルス信号が供給されている。アンテナ部102へのRF信号の供給、レーザ照射器105によるレーザ光Lの照射、及び撮像装置106による受光信号の生成のタイミングは、当該パルス信号により同期されている。
【0060】
検出信号生成部1035はあるタイミングにおける受光信号に基づいて、検出信号を生成する。画像生成部1036は、検出信号に基づいて、サンプルSにおける外部電磁場の強度分布を示す検出画像を生成する。
【0061】
図2を参照して、ダイヤモンド結晶101、アンテナ部102、及びサンプルSの構造について説明する。
【0062】
ダイヤモンド結晶101は、ダイヤモンド結晶層201及びNV中心層202を有する。
【0063】
ダイヤモンド結晶層201は、xy平面に平行な主面を有するダイヤモンドの結晶構造である。ダイヤモンド結晶層201は、NV中心層202を挟んで設けられる。なお、NV中心層202によって、ダイヤモンド結晶101が区切られるため、便宜上、ダイヤモンド結晶層201を層と呼んでいる。
【0064】
NV中心層202は、ダイヤモンド結晶101中に形成される複数のNV中心を含む層である。NV中心層202は、ダイヤモンド結晶層201のz軸負方向を向く表面からz軸正方向に所定範囲、例えば、約10nmの範囲に形成される。NV中心層202は、ダイヤモンド結晶の表面の内側であって、ダイヤモンド結晶において所定の体積を占める範囲に分布する。
【0065】
NV中心層202のNV中心には、永久磁石207a、永久磁石207bによって、静磁場が印加される。静磁場によって、NV中心層202のNV中心のスピン状態の縮退が分離され、検出装置10によって検出可能となる。
【0066】
アンテナ部102は、基板203及びアンテナ204を有する。基板203は、例えば、樹脂材料によって形成される実装基板である。アンテナ204は、ダイヤモンド結晶101の主面に平行に、基板203内に形成される金属パターンである。アンテナ204は、例えば、金を材料とすることができる。アンテナ204は、増幅器111を通じて信号MWが入力されると、ダイヤモンド結晶101に対して電磁波を発する。
【0067】
サンプルSは、基板205及び配線206を有する。基板205は、ダイヤモンド結晶101の主面に平行な主面を有する。基板205は、例えば樹脂材料によって形成される実装基板である。図2ではサンプルSとダイヤモンド結晶101とは、接しているように図示されているが、微小な距離を空けて離れていてもよい。
【0068】
配線206は、基板205上に形成される金属配線である。配線206の材料は、例えば、Ti/Au合金である。配線206は、基板205に、フォトリソグラフィーを用いて形成される。
【0069】
配線206には、信号生成器112を通じて無線周波数信号である信号RFが入力される。信号RFによって、配線206は外部に向かって外部電磁場を発する。
【0070】
図3を参照して、検出装置10における、外部電磁場の検出の概略について説明する。
【0071】
検出装置10では、プロセス(A)として、配線206に信号RFが供給される。配線206は、信号RFに基づく外部電磁場を発する。
【0072】
続くプロセス(B)として、レーザ照射器105からのレーザ光L1が、ダイヤモンド結晶101より具体的にはNV中心層202に照射される。レーザ光L1が照射されたNV中心層202のNV中心は、所定のスピン状態を有するように初期化される。
【0073】
プロセス(C)として、信号MWがアンテナ204に入力され、アンテナ204からの電磁波がNV中心層202に供給される。供給された電磁波によって、NV中心層202のNV中心は、所定の外部電磁場を検出可能なスピン状態となるように設定される。
【0074】
プロセス(D)として、配線206が発する外部電磁場が、NV中心層202のNV中心のスピン状態に影響することによって、外部電磁場の強度が、NV中心層202のNV中心のスピン状態に反映される。
【0075】
プロセス(E)として、レーザ照射器105からのレーザ光L2が、NV中心層202に照射される。レーザ光L2は、NV中心層202のNV中心のスピン状態を読み出すためのレーザ光である。
【0076】
プロセス(F)として、レーザ光L2により励起されたNV中心層202のNV中心から蛍光PLが発される。蛍光PLは、ハーフミラー1052を通じて、撮像装置106にて検出される。
【0077】
以上のプロセスによって、配線206が発する外部電磁場の強度が検出される。
【0078】
図4から図6を参照して、レーザ照射器105によるレーザ光の照射及びアンテナ部102による、ダイヤモンド結晶101への電磁波の供給シーケンスについて説明する。
【0079】
図4には、レーザ供給シーケンスLS,電磁波供給シーケンスMSx,MSy(第1供給シーケンス)が示される。レーザ供給シーケンスLSは、レーザ照射器105が所定の時間τにわたって、ダイヤモンド結晶101にレーザ光を照射することを示す。
【0080】
当該レーザ光が照射されることによって、NV中心のスピン状態は、|0〉状態に初期化される。初期化されたスピン方向は3次元のxyz回転座標系においてz軸正方向を向く。
【0081】
電磁波供給シーケンスMSxは、アンテナ部102が、所定の振幅A1(第1振幅)の磁場を有し、NV中心層202のNV中心のスピン状態を所定のスピン状態とする電磁波(第1電磁波)を、ダイヤモンド結晶101に供給することを示す。具体的には、上記座標系において、スピン方向をx軸正方向に90度回転させる電磁波が供給される。この電磁波をπ/2パルスとも呼ぶ。
【0082】
電磁波供給シーケンスMSxにおける1回目のπ/2パルスの供給によって、初期化されたスピン状態は、所定のスピン状態(第1スピン状態)となる。
【0083】
電磁波供給シーケンスMSxにおける2回目のπ/2パルスの供給によって、後述の電磁波供給シーケンスMSyに基づくスピン状態が、所定のスピン状態(第3スピン状態)となる。
【0084】
電磁波供給シーケンスMSyは、アンテナ部102が、振幅A1の磁場を有し、NV中心層202のNV中心のスピン状態を所定のスピン状態(第2スピン状態)とする電磁波を、ダイヤモンド結晶101に供給することを示す。第2スピン状態は以下の数式で示されるような、スピンと電磁波の混成状態であるドレスト状態となる。
【数1】
【0085】
ドレスト状態となったスピン|+〉と|-〉との間には、エネルギーギャップΩ1が生じる。エネルギーギャップΩ1は、振幅A1の大きさに比例するラビ周波数を有する電磁波のエネルギーに相当するエネルギーギャップである。ラビ周波数とは、電磁波照射下においてエネルギー状態の間で遷移を繰り返すラビ振動の周波数のことである。
【0086】
スピンは、エネルギーギャップΩ1と同じエネルギーを有する電磁波すなわちエネルギーギャップΩ1と共鳴する周波数の電磁波のみによって影響される。エネルギーギャップΩ1と共鳴しない周波数の電磁波による影響は受けない。
【0087】
電磁波供給シーケンスMSyによって、電磁波がダイヤモンド結晶101に所定の時間にわたって印加された後、電磁波供給シーケンスMSxにおける2回目のπ/2パルスが供給される。この供給によって、NV中心のスピン状態が、所定のスピン状態(第3スピン状態)となる。
【0088】
図5には、レーザ供給シーケンスLS,電磁波供給シーケンスMSx,MSy(第2供給シーケンス)が示される。第2供給シーケンスは、第1供給シーケンスと、電磁波供給シーケンスMSxにおける2回目の電磁波の供給が異なる。第2供給シーケンスの電磁波供給シーケンスMSxでは、2回目の電磁波の供給において、スピン方向をx軸負方向に90度回転させる電磁波が供給される。この電磁波を-π/2パルスとも呼ぶ。電磁波供給シーケンスMSxにおける-π/2パルスの供給によって、後述の電磁波供給シーケンスMSyに基づくスピン状態が、所定のスピン状態(第4スピン状態)となる。
【0089】
第3スピン状態と第4スピン状態とは、第2スピン状態におけるエネルギーギャップΩと共鳴する電磁波による影響と、他のノイズ成分による影響とを含む。このうち、エネルギーギャップΩと共鳴する電磁波による影響は、第3スピン状態と第4スピン状態において、ほぼ同じ大きさであり、正負が異なるスピン状態となる。また、ノイズによる影響は第3スピン状態と第4スピン状態のいずれにおいてもランダムである。
【0090】
第3スピン状態と第4スピン状態は互いに逆向きであるため、第3スピン状態と第4スピン状態との差をとることにより、第2スピン状態における外部電磁場の正味の影響を取り出すことが可能となる。
【0091】
図6には、第1供給シーケンスの他の例が示される。図4に示される第1供給シーケンスとの差異は、電磁波供給シーケンスMSx,MSyにおける磁場が振幅A2(第2振幅)を有することである。
【0092】
振幅A2は振幅A1より大きい。これにより、第2スピン状態において、振幅A2の電磁波(第2電磁波)に基づくエネルギーギャップΩ2は、振幅A1の電磁波に基づくエネルギーギャップΩ1より大きくなる。
【0093】
エネルギーギャップΩ2は、エネルギーギャップΩ1に対応する外部電磁場の周波数より高い周波数の外部電磁場による影響を受ける。磁場の振幅を変更することによって、第2スピン状態におけるエネルギーギャップを用いて検出可能な外部電磁場の周波数を変更することができる。これにより、外部電磁場の周波数が未知の場合に、検出装置10は、磁場の振幅を走査することで、外部電磁場の未知周波数に対応可能に、検出周波数を走査することができる。
【0094】
図7は、磁場が振幅A2を有する場合の第1供給シーケンスに対応した第2供給シーケンスである。
【0095】
図8を参照して、画像生成部1036による、撮像装置106からの信号のビニングについて説明する。ダイヤモンド結晶101からの外部電磁場に対応する蛍光PLは、撮像装置106の受光素子801に入光する。
【0096】
受光素子801は、サンプルSが発生する外部電磁場の強度分布を検出するために十分な解像度となる画素数、例えば、528×512ピクセルとなる画素802を有する。画素802の大きさが対物レンズ1053による解析限界を超えている場合、個々の画素802は、蛍光PLを適切に検出することが難しくなる。
【0097】
画像生成部1036は、例えば、16×16ピクセルの画素802からの信号に対応する検出信号を、まとめる(ビニングする)ことによって、画像生成部1036が生成する画像804を、33×32ピクセルとする。これにより、これにより信号雑音比の向上とダイナミックレンジの増大が可能となる。
【0098】
図9を参照して、検出装置10による、検出信号の記録までの処理について説明する。
【0099】
ステップS901において、制御部103は、パルス発生器104を通じて、レーザ照射器105に、ダイヤモンド結晶101へとレーザ光を照射させる。
【0100】
ステップS902において、受光信号取得部1034は、撮像装置106を通じてNV中心層202のNV中心からの蛍光強度を示す信号を取得する。取得された蛍光強度は記憶部1031に記憶される。
【0101】
ステップS903において、電磁波供給制御部1033は、ある周波数の電磁波をアンテナ部102に供給する。
【0102】
ステップS904において、制御部103は、レーザ照射器105にダイヤモンド結晶101へとレーザ光を照射させる。
【0103】
ステップS905において、受光信号取得部1034は、撮像装置106にNV中心層202のNV中心からの蛍光を取得させ、蛍光強度を示す信号を取得する。取得された蛍光強度は記憶部1031に記憶される。
【0104】
上記ステップS901からステップS905までの処理を繰り返すことによって、複数の周波数について、以下の関係、規格化蛍光強度=(電磁波供給下の蛍光強度)/(電磁波非照射下の蛍光強度)、を満たす規格化蛍光強度を算出する。規格化蛍光強度の一例は、図10に示される。
【0105】
ステップS906において、電磁波供給制御部1033は、規格化蛍光強度が小さい、すなわち、NV中心がレーザ光に共振することによって電磁波供給下の蛍光強度が小さくなる周波数を選択することができる。例えば、図10における周波数fを共振周波数とすることができる。
【0106】
ステップS907において、信号生成部1032は、信号生成器112を通じて、サンプルSにRF信号を供給する。これによりサンプルSが外部電磁場を発生させる。RF信号は、例えば、周波数が15MHz、電力が-30dBmの信号である。
【0107】
ステップS908において、電磁波供給制御部1033は、アンテナ部102がダイヤモンド結晶101に供給する電磁波の磁場の振幅を選択する。
【0108】
ステップS909において、電磁波供給制御部1033は、第1シーケンスに従って、周波数が共鳴周波数であり、選択された振幅を有する信号を、ダイヤモンド結晶101に供給する。なお、このときレーザ照射器105はレーザ供給シーケンスに従ってレーザを照射する。
【0109】
ステップS910において、制御部103は、レーザ照射器105にダイヤモンド結晶101へとレーザ光を照射させる。
【0110】
ステップS911において、受光信号取得部1034は、選択された振幅に応じた強度を有する蛍光を、撮像装置106に取得させる。ステップS912において、受光信号取得部1034は取得された強度に基づく受光信号SG1(第3受光信号)を取得し、記憶する。
【0111】
ステップS913において、電磁波供給制御部1033は、第2シーケンスに従って、周波数が共鳴周波数であり、選択された振幅を有する信号を、ダイヤモンド結晶101に供給する。なお、このときレーザ照射器105はレーザ供給シーケンスに従ってレーザを照射する。
【0112】
ステップS914において、制御部103は、レーザ照射器105にダイヤモンド結晶101へとレーザ光を照射させる。
【0113】
ステップS915において、受光信号取得部1034は、選択された振幅に応じた強度を有する蛍光を撮像装置106に取得させる。ステップS916において、受光信号取得部1034は取得された強度に基づく受光信号SG2(第4受光信号)を取得し、記憶する。受光信号SG1、受光信号SG2は、いずれも、選択された振幅に応じた強度(第1強度)を有する蛍光(第1蛍光)の強度に基づく受光信号(第1受光信号)である。
【0114】
ステップS917において、検出信号生成部1035は、受光信号SG1と受光信号SG2とに基づいて、画像生成部1036が生成する検出画像の各ピクセルに対応する検出信号(第1検出信号)を生成し、記憶する。具体的には、検出信号生成部1035は、各ピクセルについて、受光信号SG1と受光信号SG2との差分をとることで検出信号とする。
【0115】
なお、ステップS909からステップS917の処理を複数回繰り返すことによって、検出信号において、受光信号の誤差によるノイズを低減するようにしてもよい。
【0116】
ステップS918において、検出信号生成部1035は、外部電磁場に対応して定められた、検出対象となる周波数範囲について、検出信号の記憶が終わったかを判断する。
【0117】
検出信号が、検出対象の周波数範囲にわたって記憶されていない場合、ステップS908からの処理が繰り返される。このとき、電磁波供給制御部1033は、アンテナ部102がダイヤモンド結晶101に供給する電磁波の磁場の振幅を、既に供給した電磁波の磁場の振幅より大きい振幅の磁場として選択する。これにより、振幅を走査する、すなわち周波数を走査することが可能となる。振幅は、例えば、10.2MHzから20.8MHzまでのラビ周波数に対応する振幅である。
【0118】
ステップS908からの処理が繰り返されることによって、選択された他の振幅に応じた強度(第2強度)を有する蛍光(第2蛍光)の強度に基づく受光信号(第2受光信号)として、新たな受光信号SG1と受光信号SG2が繰り返し取得される。検出信号生成部1035は、新たな受光信号SG1と受光信号SG2に基づいて、画像生成部1036が生成する検出画像の各ピクセルに対応する検出信号(第2検出信号)を生成し、記憶する。
【0119】
検出信号が、検出対象の周波数範囲にわたって記憶されている場合、処理は終了する。
【0120】
図11から図15を参照して、検出画像の生成処理について、検出画像の例とともに説明する。ここでは、検出信号の記憶は全て終了しているとして、説明する。
【0121】
ステップS1101において、画像生成部1036は、検出範囲における、あるピクセルについて、検出対象の周波数範囲の周波数ごとの検出信号を取得する。
【0122】
例えば、図12のサンプルSの平面図に示されるように、35μm×35μmの基板205上に幅10μmの配線206が設けられている。検出装置10は、基板205の35μm×35μmの範囲を検出範囲としている。検出画像は、図8で説明したピクセル803を有する画像である。
【0123】
ステップS1102において、画像生成部1036は、取得した検出信号が極値をとるピーク周波数を算出する。
【0124】
例えば、図13にはあるピクセルにおける、複数の周波数における検出信号の一例が示されている。検出信号は、横軸を周波数とし、縦軸を規格化蛍光強度としてプロットされる。
【0125】
図13における各周波数は、電磁波供給制御部1033がダイヤモンド結晶101に供給する電磁波の磁場の振幅に基づく。磁場の振幅が振幅A1,振幅A2、振幅A3(第3振幅)のそれぞれである場合についての規格化蛍光強度が、図13でそれぞれ矢印によって示される。振幅は、振幅A1,振幅A2、振幅A3の順に大きくなり、それに伴って対応するラビ周波数も順に高くなる。
【0126】
図13では、振幅A2すなわち、第2周波数が15MHzである場合に、検出信号は極値をとる。よって、画像生成部1036は、ピーク周波数(第2周波数)として15MHzを算出する。この周波数は、図9のステップS907において、信号生成部1032がサンプルSに供給したRF信号の周波数(15MHz)に対応する。なぜなら、15MHzの外部電磁場の影響を受けるNV中心層202のNV中心は、振幅A2の磁場を有する電磁波を供給されたときに、最も強く蛍光を発するからである。
【0127】
このように、検出信号の極値をとることで、画像生成部1036は、検出したい外部電磁場の周波数を算出することが可能となる。
【0128】
ステップS1103において、画像生成部1036は、検出信号の傾きの変化に基づいて、ピーク周波数前後の、第1周波数と第2周波数を算出する。例えば、検出信号の傾きの絶対値が所定の値より小さくなる周波数として、図13の振幅A1に対応する周波数と振幅A3に対応する周波数のそれぞれを、第1周波数と第2周波数とする。
【0129】
ステップS1104において、画像生成部1036は、第1周波数における検出信号と第2周波数における検出信号(第3検出信号)に基づいて、背景信号を算出する。具体的には、画像生成部1036は、図13において、第1周波数における規格化蛍光強度を示す点と第2周波数における規格化蛍光強度を示す点とを結ぶ直線を示す式を算出する。画像生成部1036は、算出された直線の式において、周波数を第2周波数とした場合の規格化蛍光強度を算出する。画像生成部1036は、この規格化蛍光強度を背景信号とする。
【0130】
ステップS1105において、画像生成部1036は、ピーク周波数における検出信号から背景信号を減算する。
【0131】
ステップS1106において、画像生成部1036は、背景信号が減算された検出信号であるスピンロッキング信号を、当該ピクセルに関連付けて記憶する。
【0132】
ステップS1107において、画像生成部1036は、検出範囲のすべてのピクセルについて、スピンロッキング信号の算出が終了したかを判断する。
【0133】
検出範囲のすべてのピクセルについて、スピンロッキング信号の算出が終了していない場合、画像生成部1036は、ステップS1101からS1106までの処理を繰り返す。
【0134】
検出範囲のすべてのピクセルについて、スピンロッキング信号の算出が終了した場合、ステップS1108において、画像生成部1036は、スピンロッキング信号に基づいて検出画像を生成する。
【0135】
図14には、あるy方向の位置における、x方向にわたる各ピクセルにおけるスピンロッキング信号の強度の一例が示される。図14に示されるように、スピンロッキング信号は、図12の配線206のx方向における端部に相当する位置において、大きい値をとる。すなわち、当該位置において、配線206が強い外部電磁場を発していること及び、その周波数は15MHzであることがわかる。
【0136】
図15には、画像生成部1036が生成した検出画像1501の一例が示される。図14のようなスピンロッキング信号がy方向の各ピクセルにおいて算出されている。したがって、図12の配線206のx方向における端部に相当する位置において、スピンロッキング信号が大きい値をとることが可視化されている。
【0137】
検出画像1501は、スピンロッキング信号に基づいて、配線206が発する電磁波の可視化を行った結果得られる画像である。検出画像1501は、ダイヤモンド結晶101を励起するラビ周波数を走査することによって、配線206が発する電磁波の可視化を行っている。
【0138】
以上本実施形態について説明した。検出装置10では、ダイヤモンド結晶101の表面からNV中心層202の距離(約10nm)によって空間分解能が制限され、空間分解能を格段に向上させることが可能である。また、検出画像の画素数は配線の本数で制限されない。NV中心のインダクタンスは極小であり、センサ間、センサと対象物間の相互干渉の影響を避けられる。よって検出装置10は、電磁波の検出感度を格段に向上させることが可能である。検出装置10は、数学的な処理を行うことによって、透明・不透明材料によらない誘電率変化の可視化や、電子回路の電流経路や分布を推定し可視化する技術へも応用可能となる。
【0139】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0140】
10…検出装置、101…ダイヤモンド結晶、102…アンテナ部、204…アンテナ、103…制御部、104…パルス発生器、105…レーザ照射器、106…撮像装置、107…局所発振器、108…任意波形生成器、109…ミキサ、110…スイッチ、111…増幅器、112…信号生成器、S…サンプル、201…ダイヤモンド結晶層、202…NV中心層、203,205…基板、206…配線、1031…記憶部、1032…信号生成部、1033…電磁波供給制御部、1034…受光信号取得部、1035…検出信号生成部、1036…画像生成部
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