(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186521
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、制御プログラム、及び移動体
(51)【国際特許分類】
G08G 3/00 20060101AFI20221208BHJP
B63H 25/04 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G08G3/00 A
B63H25/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094791
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】391013092
【氏名又は名称】BEMAC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 文一
(72)【発明者】
【氏名】八鍬 雅生
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕大
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181AA25
5H181AA26
5H181BB04
5H181CC27
5H181EE02
5H181FF14
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】移動体が軌道を切り替える際に発生する突発的な横すべりを抑制する。
【解決手段】制御装置16は、直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する移動体の移動を制御する。制御装置16は、移動体が直線軌道上を移動した後に円軌道上を移動する際の、所定時間区間内の移動体の各時刻の角速度ω
rの絶対値を、時間が経過するほど大きくするように計算する。制御装置16は、移動体の各時刻の角速度が、計算された各時刻の角速度ω
rとなるように、移動体の移動を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する移動体の移動を制御する制御装置であって、
前記移動体が直線軌道上を移動した後に円軌道上を移動する際の、所定時間区間内の前記移動体の各時刻の角速度ωrの絶対値を、時間が経過するほど大きくするように計算する計算部と、
前記移動体の各時刻の角速度が、前記計算部により計算された各時刻の角速度ωrとなるように、前記移動体の移動を制御する制御部と、
を含む制御装置。
【請求項2】
前記計算部は、
前記移動体からみて右旋回によって直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する場合には、
前記移動体の舵角が変化し始める時刻T
1から前記移動体の舵角の変化が停止する時刻T
2までの時間区間内の前記移動体の各時刻の角速度ω
rを、以下の式(1A)に従って計算し、
前記時刻T
2以降の各時刻の角速度ω
rを、以下の式(2A)に従って計算し、
前記移動体からみて左旋回によって直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する場合には、
前記移動体の舵角が変化し始める時刻T
1から前記移動体の舵角の変化が停止する時刻T
2までの時間区間内の前記移動体の各時刻の角速度ω
rを、以下の式(1B)に従って計算し、
前記時刻T
2以降の各時刻の角速度ω
rを、以下の式(2B)に従って計算する、
請求項1に記載の制御装置。
なお、上記式におけるu
rは前記移動体の速度であり、Rは前記円軌道を形成する円の半径であり、cは前記移動体のスウェイ速度を前記角速度で除した場合に得られる係数であり、tは時刻を表す。
【請求項3】
円軌道上の移動から直線軌道上の移動へ移行する移動体の移動を制御する制御装置であって、
前記移動体が円軌道上を移動した後に直線軌道上を移動する際の、所定時間区間内の前記移動体の各時刻の角速度ωrの絶対値を、時間が経過するほど大きくするように計算する計算部と、
前記移動体の各時刻の角速度が、前記計算部により計算された各時刻の角速度ωrとなるように、前記移動体の移動を制御する制御部と、
を含む制御装置。
【請求項4】
前記計算部は、
前記移動体からみて右旋回によって円軌道上の移動から直線軌道上の移動へ移行する場合には、
前記移動体の舵角が変化し始める時刻T
1までの前記移動体の各時刻の角速度ω
rを、以下の式(3A)に従って計算し、
前記移動体の舵角が変化し始める時刻T
1から前記移動体の舵角の変化が停止する時刻T
2までの時間区間内の前記移動体の各時刻の角速度ω
rを、以下の式(4A)に従って計算し、
前記移動体からみて左旋回によって円軌道上の移動から直線軌道上の移動へ移行する場合には、
前記移動体の舵角が変化し始める時刻T
1までの前記移動体の各時刻の角速度ω
rを、以下の式(3B)に従って計算し、
前記移動体の舵角が変化し始める時刻T
1から前記移動体の舵角の変化が停止する時刻T
2までの時間区間内の前記移動体の各時刻の角速度ω
rを、以下の式(4B)に従って計算する、
請求項3に記載の制御装置。
なお、上記式におけるu
rは前記移動体の速度であり、Rは前記円軌道を形成する円の半径であり、cは前記移動体のスウェイ速度を前記角速度で除した場合に得られる係数であり、tは時刻を表す。
【請求項5】
前記制御部は、前記時刻T2と前記時刻T1との間の差分ΔTを変更することにより、前記移動体の軌道を制御する、
請求項2又は請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記移動体の速度u
rのうちの、x軸方向の速度x
・
rとy軸方向の速度y
・
rとは、以下の式(5)で表される、
請求項1~請求項5の何れか1項に記載の制御装置。
(5)
なお、上記式(5)におけるθ
rは前記移動体とx軸との間のなす角である。
【請求項7】
前記計算部は、計算された所定時間区間内の前記移動体の各時刻の角速度ωrに基づいて、前記移動体の参照軌道を計算し、
前記制御部は、前記計算部により計算された前記参照軌道上を前記移動体が移動するように前記移動体を制御する、
請求項1~請求項6の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記移動体は、船舶、航空機、無人航空機、又は車両である、
請求項1~請求項7の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか1項に記載の制御装置を備えた移動体。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1~請求項8の何れか1項に記載の制御装置の各部として機能させるための制御プログラム。
【請求項11】
請求項1~請求項8の何れか1項に記載の制御装置が実行する各処理をコンピュータが実行する制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置、制御方法、制御プログラム、及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、滑らかで安定な自動変針を実現するための手動入力情報を提供する自動操舵装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この自動操舵装置は、これから自動操舵装置に針路の変更を指示しようとするとき、現時点での船速および船体特性にしたがって、目標針路に向かう軌跡が円弧を描きうる旋回半径および旋回角速度を演算する。
【0003】
また、最適な変針軌道計画を実現し、安定的、効率的な操船を可能とする船舶用自動操舵装置が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。この船舶用自動操舵装置は、参照針路を加速モード、等速モード及び減速モードに分けて出力し、加速モードにおいて、変針開始時点の旋回角加速度初期値と旋回角速度との初期値がゼロでない場合にその値を取り込んで参照針路を演算する。そして、この船舶用自動操舵装置は、初期値をゼロとした場合の変針量と最大舵速度との関係に基づき、変針量に応じて最大舵速度を求める。そして、この船舶用自動操舵装置は、その舵速度を用いて初期値がある場合の各モードの参照針路の演算を行なう。
【0004】
また、変針時の船舶の角加速度及び角速度の値を取り込み且つ操舵機の性能及び船舶の特性を考慮した最適な変針軌道計画を可能にする船舶用自動操舵装置が知られている(例えば、特許文献3を参照。)。船舶用自動操舵装置は、軌道計画に基づいた最適参照針路を演算する軌道演算部と制御ループを安定化させるために閉ループ制御を提供するフィードバック制御器と制御ループの変針特性を高めるために開ループ制御を提供するフィードフォワード制御器と有する。
【0005】
また、カーブ走行時に直線走行時と異なる方法で車両位置推定を行なうナビゲーション装置及び車両位置推定方法が知られている(例えば、特許文献4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-337197号公報
【特許文献2】特開2007-290695号公報
【特許文献3】特開平8-207894号公報
【特許文献4】特開2007-93541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、移動体がその軌道を直線軌道から円軌道へ切り替える際には、移動体に対し横すべりが発生する。移動している移動体に横すべりが発生した場合には、移動体の乗員の乗り心地は悪化する。
【0008】
上記特許文献1~4は、船舶の操舵又は車両の走行を制御する技術が開示されているものの、そのいずれにも横すべりに関する内容は開示されていない。このため、上記特許文献1~4に開示されている技術は、移動体が軌道を切り替える際に発生する突発的な横すべりを抑制することができない、という課題がある。
【0009】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、移動体が軌道を変更する際に発生する突発的な横すべりを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第一態様は、直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する移動体の移動を制御する制御装置であって、前記移動体が直線軌道上を移動した後に円軌道上を移動する際の、所定時間区間内の前記移動体の各時刻の角速度ωrの絶対値を、時間が経過するほど大きくするように計算する計算部と、前記移動体の各時刻の角速度が、前記計算部により計算された各時刻の角速度ωrとなるように、前記移動体の移動を制御する制御部と、を含む制御装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、移動体が軌道を切り替える際に発生する突発的な横すべりを抑制することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る制御システムの概略構成を示す図である。
【
図2】船舶の運動モデルを説明するための図である。
【
図3】円軌道(または円弧軌道とも称される。)を説明するための図である。
【
図5】円軌道における関係式を説明するための図である。
【
図6】実施形態に係る制御装置の機能構成例を示す図である。
【
図7】実施形態に係る制御装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図8】実施形態に係る制御処理ルーチンの一例である。
【
図9】実施例のシミュレーション結果を示す図である。
【
図10】実施例のシミュレーション結果を示す図である。
【
図11】実施例のシミュレーション結果を示す図である。
【
図12】実施例のシミュレーション結果を示す図である。
【
図13】実施例のシミュレーション結果を示す図である。
【
図14】実施例のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一又は等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
(制御システム10の構成)
図1は、実施形態に係る制御システム10の概略構成を示す図である。
図1に示されるように、本実施形態の制御システム10は、速度検出器12と、軌道指示装置14と、制御装置16と、推進器18と、スクリュー19とを備えている。本実施形態の制御システム10は、移動体の一例である船舶Sに搭載される。
【0015】
実施形態の制御システム10は、移動体の一例である船舶Sの速度を制御する。以下、具体的に説明する。
【0016】
従来、自動操船制御においては、船舶の横すべりが考慮されていない運動モデルが利用されていた。
図2は、船舶の運動モデルを説明するための図である。
図2のx,yは船舶の位置を表し、θは船舶とX軸とのなす角を表し、ωは船舶の角速度を表し、u
rはサージ速度を表す。以下の式は、船舶の横すべりが考慮されていない運動モデルの式である。なお、以下の式において変数の上部に付与されている「・」は、変数の微分を表す。
【0017】
【0018】
上記式では横すべりが考慮されていない。上記式の運動モデルを採用して船舶を制御した場合には、横すべりが発生し乗員の乗り心地が悪化するため、横すべりを考慮した運動モデルを利用する必要がある。そこで、本実施形態では、以下の式(1)に示されるような、横すべりのある運動モデルを採用する。
【0019】
【0020】
cは船舶Sのスウェイ速度を角速度ωで除した場合に得られる係数であり、以下では横すべり係数と称する。三角関数の合成を用いることにより、上記式(1)は以下の式(2)のように表される。なお、φは斜航角を表す。
【0021】
【0022】
ここで、
図3に、円軌道(または円弧軌道とも称される。)を説明するための図を示す。
図3では、旋回半径rと、サージ速度u
r又は軌道速度αとが、予め与えられているものとする。なお、横すべり係数cは、旋回中の斜航角φによって定まる定数でもある。
図3の円軌道上の時刻tの船舶の位置x(t)、y(t)は、以下の式によって表される。
【0023】
【0024】
次に、
図4に、目標軌道を説明するための図を示す。
図4に示されるように、本実施形態における目標軌道は、直線軌道O
1と円軌道O
2とを組み合わせた軌道である。ここで、本実施形態では、直線軌道O
1上でも円軌道O
2上でも、船舶のサージ速度u
rが一定となるようにする。船舶のサージ速度u
rが一定であることにより、乗員の乗り心地が良くなる。
【0025】
次に、
図5に円軌道O
2における関係式を説明するための図を示す。上記式(2)及び上記式(3)で表される横すべりを考慮した運動モデルにおいて、半径r、船舶の目標サージ速度u
rを与えると、目標となる軌道速度αが求まる。目標となる軌道速度αが求まることにより、円軌道O
2における目標となる角速度ω
r、目標となる斜航角度φ
rが一意に定まる。具体的には、以下の式(4)及び(5)が導かれる。
【0026】
【0027】
上記式(5)は、時刻tの船舶の参照位置xr(t),yr(t)であり、参照位置の時系列が船舶の参照軌道となる。なお、添え字rは、参照(Reference)を表す。
【0028】
上述したように、直線軌道O1上及び円軌道O2上における船舶の速度を一定(ur=U)とし、円軌道を描く円の半径を一定(r=R)とした場合、ωrとφrとは一意に求まる。この場合、以下の式が成立する。なお、直線と円弧とが接続する時刻T1は任意である。
【0029】
船舶が直線軌道上を移動している間(0≦t≦T1)は、船舶は以下の式(6)に示されるような速度で移動するように制御される。
【0030】
【0031】
また、船舶が円軌道上を移動している間(T1≦t≦T2)は、船舶は以下の式(7)に示されるような速度で移動するように制御される。
【0032】
【0033】
上記の様な場合、軌道速度α、なす角θ、及びωrが不連続となる。そこで、角速度ωrを変化させるような緩和曲線(等角速度運動への遷移曲線)を考える。ここで、上述したように、以下の式に示されるような運動モデルを考える。以下の関係式は、サージ速度urのうちの、x軸方向の速度x・
r及びy軸方向の速度y・
rを表す式である。θrは船舶とx軸との間のなす角である。
【0034】
【0035】
直線軌道が終了する時刻T1の後、船舶が旋回を開始して角速度一定運動に遷移するまでの緩和時間をΔTとする。ここで、任意の時刻T2=T1+ΔT(緩和曲線のY方向の大きさ(横距離)を定める)からなる以下の関数ωrを考える。
【0036】
まず、船舶が直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する場合であって、かつ船舶からみて右旋回によって直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する場合には、船舶の角速度ωrが以下の式(9A)及び(10A)に示す角速度となるように制御される。以下の式(9A)は、船舶の舵角が変化し始める時刻T1から船舶の舵角の変化が停止する時刻T2までの時間区間内の船舶の各時刻の角速度ωrである。
【0037】
【0038】
また、以下の式(10A)は、時刻T2以降の船舶の角速度ωrである。
【0039】
【0040】
船舶からみて左旋回によって直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する場合には、船舶の角速度ωrが以下の式(9B)及び(10B)に示す角速度となるように制御される。なお、左旋回の場合には、反時計回りであるため角速度の符号はマイナスとなる。
【0041】
【0042】
一方、船舶が円軌道上の移動から直線軌道上の移動へ移行する場合であって、かつ移動体からみて右旋回によって円軌道上の移動から直線軌道上の移動へ移行する場合には、船舶の角速度ωrが以下の式(11A)及び(12A)に示す角速度となるように制御される。以下の式(11A)は、船舶の舵角が変化し始める時刻T1までの船舶の各時刻の角速度ωrである。
【0043】
【0044】
また、以下の式(12A)は、船舶の舵角が変化し始める時刻T1から船舶の舵角の変化が停止する時刻T2までの時間区間内の船舶の各時刻の角速度ωrである。
【0045】
【0046】
船舶からみて左旋回によって円軌道上の移動から直線軌道上の移動へ移行する場合には、船舶の角速度ωrが以下の式(11B)及び(12B)に示す角速度となるように制御される。
【0047】
【0048】
上述したように船舶の角速度ωrを制御することにより、船舶が走行すべき参照軌道が生成される。この参照軌道の一部の曲線は、横すべりを緩和する緩和曲線でもある。
【0049】
本実施形態の制御システム10は、上述したように角速度ωrを制御することにより、船舶の軌道が切り替わる際の突発的な横すべりの発生を抑制する。以下、具体的に説明する。
【0050】
速度検出器12は、船舶Sの水に対する速度を逐次取得する。速度検出器12は、既存の技術によって実現される。
【0051】
軌道指示装置14は、船舶Sの軌道を指示する指示信号を制御装置16に対して出力する。
【0052】
制御装置16は、船舶Sの速度を制御する。制御装置16は、直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する船舶Sの移動を制御する。また、制御装置16は、円軌道上の移動から直線軌道上の移動へ移行する船舶Sの移動を制御する。
図6は、制御装置16の機能構成を表すブロック図である。
図6に示されるように、制御装置16は、取得部30と、計算部32と、制御部34とを備えている。
【0053】
取得部30は、速度検出器12により検出された各時刻の速度を取得する。また、取得部30は、軌道指示装置14から出力された軌道の指示を表す指示信号を取得する。
【0054】
計算部32は、船舶Sが直線軌道上を移動した後に円軌道上を移動する場合、所定時間区間内の船舶Sの各時刻の角速度ωrの絶対値を、時間が経過するほど大きくするように計算する。また、計算部32は、船舶Sが円軌道上を移動した後に直線軌道上を移動する場合も、所定時間区間内の船舶Sの各時刻の角速度ωrの絶対値を、時間が経過するほど大きくするように計算する。
【0055】
(船舶Sが直線軌道上を移動した後に円軌道上を移動する場合)
具体的には、計算部32は、船舶Sからみて右旋回によって直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する場合には、船舶Sの舵角が変化し始める時刻T1から船舶Sの舵角の変化が停止する時刻T2までの時間区間内の船舶Sの各時刻の角速度ωrを、以下の式(1A)に従って計算する。そして、計算部32は、時刻T2以降の各時刻の角速度ωrを、以下の式(2A)に従って計算する。
【0056】
一方、計算部32は、船舶Sからみて左旋回によって直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する場合には、船舶Sの舵角が変化し始める時刻T1から船舶Sの舵角の変化が停止する時刻T2までの時間区間内の船舶Sの各時刻の角速度ωrを、以下の式(1B)に従って計算する。そして、計算部32は、時刻T2以降の各時刻の角速度ωrを、以下の式(2B)に従って計算する。
【0057】
【0058】
なお、上記各式におけるurは船舶Sの速度であり、Rは円軌道を形成する円の半径であり、cは船舶Sのスウェイ速度を角速度で除した場合に得られる係数であり、tは時刻を表す。
【0059】
(船舶Sが円軌道上を移動した後に直線軌道上を移動する場合)
具体的には、計算部32は、船舶Sからみて右旋回によって円軌道上の移動から直線軌道上の移動へ移行する場合には、船舶Sの舵角が変化し始める時刻T1までの船舶Sの各時刻の角速度ωrを、以下の式(3A)に従って計算する。そして、計算部32は、船舶Sの舵角が変化し始める時刻T1から船舶Sの舵角の変化が停止する時刻T2までの時間区間内の船舶Sの各時刻の角速度ωrを、以下の式(4A)に従って計算する。
【0060】
一方、計算部32は、船舶Sからみて左旋回によって円軌道上の移動から直線軌道上の移動へ移行する場合には、船舶Sの舵角が変化し始める時刻T1までの船舶Sの各時刻の角速度ωrを、以下の式(3B)に従って計算する。そして、計算部32は、船舶Sの舵角が変化し始める時刻T1から船舶Sの舵角の変化が停止する時刻T2までの時間区間内の船舶Sの各時刻の角速度ωrを、以下の式(4B)に従って計算する。
【0061】
【0062】
制御部34は、計算部32によって計算された各時刻の角速度ωrに基づいて、各時刻の船舶Sの角速度が、計算部32により計算された各時刻の角速度ωrとなるように、船舶Sの移動を制御する。具体的には、制御部34は、船舶Sの角速度が、計算部32により計算された角速度ωrとなるように船舶Sの推進器18を制御する。なお、推進器18は、駆動部の一例である。
【0063】
推進器18は、制御部34による制御に応じて、後述するスクリュー19を駆動させる。スクリュー19は、推進器18から出力された駆動力に応じて回転する。
【0064】
図7は、制御装置16を構成するコンピュータ20のハードウェア構成を示すブロック図である。
図7に示されるように、コンピュータ20は、CPU(Central Processing Unit)21、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)23、ストレージ24、入力部25、表示部26及び通信インタフェース(I/F)27を有する。各構成は、バス29を介して相互に通信可能に接続されている。
【0065】
CPU21は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU21は、ROM22又はストレージ24からプログラムを読み出し、RAM23を作業領域としてプログラムを実行する。CPU21は、ROM22又はストレージ24に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM22又はストレージ24には、入力装置より入力された情報を処理する各種プログラムが格納されている。
【0066】
ROM22は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM23は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ24は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0067】
入力部25は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0068】
表示部26は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部26は、タッチパネル方式を採用して、入力部25として機能しても良い。
【0069】
通信I/F27は、入力装置等の他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0070】
次に、制御システム10の作用について説明する。
【0071】
船舶Sが移動し始めると、速度検出器12は各時刻の船舶Sの速度の検出を開始する。そして、制御装置16が制御処理の開始を表す指示信号を受け付けると、
図8に示す制御処理ルーチンを実行する。具体的には、制御装置16は、軌道指示装置14から指示信号が出力されると、
図8に示す制御処理ルーチンを実行する。
【0072】
具体的には、制御装置16のCPU21がROM22又はストレージ24から制御処理プログラムを読み出して、RAM23に展開して実行することにより、制御処理が行なわれる。
【0073】
ステップS50において、取得部30は、軌道指示装置14から出力された指示信号を取得する。なお、この指示信号は軌道の切り替えを表す信号であり、例えば、直線軌道から円軌道への切り替えを指示する信号である。なお、以下では、船舶Sの軌道が直線軌道から円軌道へと切り替えられ、かつ船舶からみて右旋回によって直線軌道から円軌道へ切り替えられる場合を例に説明する。
【0074】
ステップS52において、計算部32は、上記ステップS50で取得した指示信号に基づいて、船舶Sの軌道が直線軌道から円軌道へと切り替えられる地点である切替点を特定する。そして、計算部32は、速度検出器12によって検出された船舶Sの速度に基づいて、船舶Sが切替点へ到達する時刻T1を特定する。なお、切替点へ船舶Sが到達すると、船舶Sの舵角が変更され、船舶Sの旋回が開始される。
【0075】
ステップS54において、計算部32は、上記ステップS50で取得した指示信号に基づいて、船舶Sが旋回する際に舵角の変化が停止する時刻T2を特定する。
【0076】
ステップS56において、計算部32は、上記ステップS52で特定された時刻T1及び上記ステップS54で特定された時刻T2に基づいて、時刻T1から時刻T2までの各時刻の船舶の角速度ωrを、上記式(9A)に従って計算する。また、ステップS56において、計算部32は、時刻T2以降の各時刻の船舶の角速度ωrを、上記式(10A)に従って計算する。なお、上記式(9A)及び上記式(10A)のサージ速度ur、円軌道を形成する円の半径R、及び横すべり数cは、予め与えられている。
【0077】
ステップS58において、制御部34は、船舶Sの各時刻の角速度が、上記ステップS56で計算された各時刻の角速度ωrとなるように、船舶Sの推進器18に対して制御信号を与える。
【0078】
推進器18は、制御部34による制御に応じて、後述するスクリュー19を駆動させる。
【0079】
以上のように、本実施形態の制御装置は、直線軌道上の移動から円軌道上の移動へ移行する船舶の移動を制御する制御装置であって、船舶が直線軌道上を移動した後に円軌道上を移動する際の、所定時間区間内の船舶の各時刻の角速度ωrの絶対値を、時間が経過するほど大きくするように計算する。制御装置は、船舶の各時刻の角速度が、計算された各時刻の角速度ωrとなるように、船舶の移動を制御する。なお、本実施形態の制御装置は、円軌道上の移動から直線軌道上の移動へ移行する船舶の移動を制御する制御装置でもあって、船舶が円軌道上を移動した後に直線軌道上を移動する際の、所定時間区間内の船舶の各時刻の角速度ωrの絶対値を、時間が経過するほど大きくするように計算する。制御装置は、船舶の各時刻の角速度が、計算された各時刻の角速度ωrとなるように、船舶の移動を制御する。これにより、移動体の一例である船舶が軌道を変更する際に発生する突発的な横すべりを抑制することができる。これにより、突発的な横すべりによる船舶の乗員の乗り心地の悪化を抑制することができる。
【0080】
なお、後述する実施例において説明するように、時刻T2と時刻T1との間の差分ΔTを、所定範囲内の値とすることにより、船舶の軌跡を目標軌跡に追従させることができる。
【実施例0081】
次に、本実施形態に係る制御システムの実施例について説明する。本実施例では、数値シミュレーションを実施する。なお、本実施例の数値シミュレーションは、コンピュータ上の仮想的な船舶を仮想的な海上で移動させた場合の数値シミュレーションである。本実施例の数値シミュレーションは、船舶が左旋回によって直線軌道から円軌道へと軌道を切り替える場合のシミュレーションである。以下の式に基づいている。
【0082】
図9に、本実施例の数値シミュレーションのシミュレーション結果を示す。
図9の左側の図は、船舶が左旋回によって直線軌道から円軌道へと軌道を切り替えた場合の各軌道が示されている。なお、実線(
図9では「Proposed transition curve」と表記)は、本実施形態で提案された手法によって角速度を制御した場合の船舶の軌道を表す。一点鎖線(
図9では「Equal angular velocity motion’s curve」と表記)は、角速度を一定とした場合の船舶の軌道を表す。破線(
図9では「Desired trajectory」と表記)は、目標軌跡を表す。アスタリスクは、目標軌跡の円弧の中心(
図9では「Arc center of desired trajectory」と表記)を表す。破線の丸印は、目標軌跡における、直線軌道から円軌道への切替点(
図9では「Proposed transition : Wheel Over Point」と表記)を表す。プラス印(「+」)は、本実施形態で提案された手法によって角速度を制御した場合の船舶の軌道において、以降の角速度を一定とする開始地点である(
図9では「Transition point to equal angular velocity motion」と表記)。このため、プラス印の地点へ船舶が到達する時刻が時刻T
2である。実線の丸印は、舵角の変更が開始される地点である(
図9では「Equal angular velocity motion : Wheel Over Point」と表記)。このため、実線の丸印の地点へ船舶が到達する時刻が時刻T
1である。なお、
図9に示されるシミュレーション結果は、以下の条件によって実施したものである。
【0083】
[シミュレーション条件]
目標サージ速度:5.7(m/s)
目標軌跡の円の半径R:135(m)
横すべり係数c:9
【0084】
図9の左側の図は、船舶の軌道が直線軌道から円軌道へ切り替わる切替点付近を拡大した図である。
図9に示されるように、一点鎖線で表される、角速度を一定とした場合の船舶の軌道は、横すべり(またはキック現象とも称される)が発生していることにより、軌道が右側へふれていることがわかる。一方、実線で表される、本実施形態で提案された手法によって角速度を制御した場合の船舶の軌道は、滑らかな軌跡となっており、横すべりの発生が抑制されていることがわかる。
【0085】
図10は、シミュレーションにおける軌道速度αの時系列を表す図である。
図10の縦軸(Velocity)は、軌道速度αを表す。
図10の上側の図の破線で囲われた部分の拡大図は、
図10の下側の図である。一点鎖線で表される、角速度を一定とした場合の船舶の軌道は、軌道速度が不連続に変化していることがわかる。一方、実線で表される、本実施形態で提案された手法によって角速度を制御した場合の船舶の軌道は、時刻T
1から時刻T
2までの時間区間において、軌道速度が連続的に変化していることがわかる。
【0086】
図11は、シミュレーションにおけるサージ速度u
rの時系列を表す図である。
図11の縦軸(Surge)は、サージ速度u
rを表す。
図11の上側の図の破線で囲われた部分の拡大図は、
図11の下側の図である。一点鎖線で表される、角速度を一定とした場合の船舶の軌道及び実線で表される、本実施形態で提案された手法によって角速度を制御した場合の船舶の軌道上共に、サージ速度u
rは一定となっていることがわかる。
【0087】
図12は、シミュレーションにおける角速度ω
rの時系列を表す図である。
図12の縦軸(Rate of turn)は、角速度ω
rを表す。
図12の破線で囲われた部分を参照すると、一点鎖線で表される、角速度を一定とした場合の船舶の軌道では、角速度が不連続に変化していることがわかる。一方、実線で表される、本実施形態で提案された手法によって角速度を制御した場合の船舶の軌道では、角速度は時間の経過とともに単調増加し、連続的に変化していることがわかる。なお、本シミュレーション結果は、船舶が左旋回である場合のシミュレーション結果であるため、本来であれば角速度の値は負となるが、ここでは、便宜的に角速度の絶対値をグラフに示している。
【0088】
図13は、シミュレーションにおける横すべり角の時系列を表す図である。
図13の縦軸(Side-Slip angle)は、横すべり角を表す。
図13の破線で囲われた部分を参照すると、一点鎖線で表される、角速度を一定とした場合の船舶の軌道では、横すべり角が不連続に変化し、突発的な横すべりが発生していることがわかる。一方、実線で表される、本実施形態で提案された手法によって角速度を制御した場合の船舶の軌道では、横すべり角は時間の経過とともに単調増加し、連続的に変化していることがわかる。このため、本実施形態で提案された手法によって角速度を制御することにより、突発的な横すべりの発生が抑制されていることがわかる。
【0089】
次に、本実施形態で提案された手法によって角速度を制御した場合の船舶の軌道を、目標軌跡へと追従させるための方法を説明する。
(手順1)T2=T1+ΔTとおく。
(手順2)ΔTを調整することにより、角速度を制御した場合の船舶の円軌道を目標軌跡へ追従させる。
【0090】
図14は、シミュレーションにおいてΔTを調整した場合、船舶が左旋回によって直線軌道から円軌道へと軌道を切り替えた場合の軌道が示されている。実線(
図14では「Proposed transition curve」と表記)は、本実施形態で提案された手法によって角速度を制御した場合の船舶の軌道を表す。一点鎖線(
図14では「Equal angular velocity motion’s curve」と表記)は、角速度を一定とした場合の船舶の軌道を表す。破線(
図14では「Desired trajectory」と表記)は、目標軌跡を表す。
図14では、実線と破線とがほぼ重なっており、本実施形態で提案された手法によって角速度を制御した場合の船舶の軌道は、目標軌道とほぼ一致していることがわかる。
【0091】
以下の表に、
図9のシミュレーション結果の時刻の設定情報と、
図14のシミュレーション結果の時刻の設定情報とを示す。
【0092】
【0093】
上記表に示されるように、
図9のシミュレーション結果は、ΔT=20である場合の結果である。これに対し、
図14のシミュレーション結果は、ΔT=5.4とすることにより得られた結果である。このように、ΔTを変更することにより、船舶の軌道を目標軌道へと追従させることができる。なお、ΔTの値が変化しなければ、目標軌道への追従が可能となるため、時刻T
2と時刻T
1とを調整する際に、所望となったΔTの値が変化しないようにすることにより、船舶の軌道を目標軌道へと追従させることができる。
【0094】
以上のように、提案手法を用いることで、船舶が軌道を切り替える際に発生する突発的な横すべりを抑制することができる。また、提案手法によれば、時刻T2と時刻T1との間の差分ΔTを変更することにより、船舶の軌道を制御することができる。更に、ΔTの値を所望の値とすることにより、船舶の軌道を目標軌道へと追従させることができる。
【0095】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0096】
例えば、上記実施形態では、制御対象の移動体が船舶である場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。制御対象の移動体は流体に接しているものであれば、どのようなものであってもよい。
【0097】
例えば、移動体は航空機又は無人航空機であってもよい。または、例えば、移動体は車両であってもよい。または、例えば、移動体は水中航走体であってもよい。
【0098】
また、計算部32は、計算された所定時間区間内の船舶の各時刻の角速度ωrに基づいて、船舶の参照軌道を計算し、制御部34は、計算された参照軌道上を船舶が移動するように船舶を制御してもよい。