(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186643
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/05 20060101AFI20221208BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20221208BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20221208BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20221208BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C08L83/05
C08K5/05
C08K5/098
C08L71/00 B
C08L71/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088539
(22)【出願日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2021094163
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田村 誠基
(72)【発明者】
【氏名】ファン ソン タイン
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 裕之
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CH023
4J002CH05X
4J002CP04W
4J002EC046
4J002EG027
4J002HA01
(57)【要約】
【課題】低価格なグリコールエーテル化合物を原料として使用した場合であっても、高価な原料を使用した場合と同等の品質および整泡性を有する(AB)n型ポリエーテル変性シリコーン組成物のヒドロシリル化反応プロセスを提供する。
【解決手段】
(a1)両末端アルケニルポリエーテル、(a2)両末端SiHオルガノポリシロキサンとを、(B’)特定のグリコールエーテル化合物、(N1+S0) 酢酸ナトリウム溶液、ヒドロシリル化反応触媒の存在下、ヒドロシリル化反応させる工程(ただし、重量部で成分(a1)、成分(a2)および成分(B’)の合計量:成分(B’)=100:40~80、成分(B’)に対して、成分(N1)は16~60 wt.ppmであり、成分(S0)は0.02~1.2 wt.%)を有する、ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を含む組成物の製造方法、およびそれにより得られた組成物の使用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)下記一般式(1):
【化1】
(式中、xは2ないし4の数であり、yは(C
xH
2xO)yで示されるポリエーテル部分の分子量が400~5000の範囲となる数を表し、Yは末端に反応性C=C基を有する炭素数2~8の1価の炭化水素基を表し、ポリエーテル部分は少なくとも1のオキシプロピレン基を含有する)
で表される両末端アルケニル基含有ポリエーテル、
(a2)下記一般式(2):
【化2】
(式中、Rは各々独立に脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1~9の1価の炭化水素基を表し、aは1~200の数を表す)、
で表される両末端SiH基含有オルガノポリシロキサンとを、
(B’)末端水素が炭素数1~8の炭化水素基により置換され、かつ、他の末端に、2級のアルコール性水酸基を有する、炭素数2~4のオキシアルキレン単位の繰り返し数が1~3の範囲の数であり、酸素以外のヘテロ原子を含有しないことを特徴とする、1種または2種類以上のグリコールエーテル化合物、
(N1+S0) 以下の成分(N1)および成分(S0)を含む酢酸ナトリウム塩溶液、
(N1)酢酸ナトリウム
(S0)プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、PEG-200,PEG-400から選択される1種類以上のジオール化合物
有効量のヒドロシリル化反応触媒の存在下、ヒドロシリル化反応させる工程
(ただし、成分(a1)、成分(a2)および成分(B’)の合計量を100重量部としたとき、成分(B’)の使用量が40~80重量部の範囲であり、かつ、成分(B’)の使用量に対して、成分(N1)の使用量は16~60 wt.ppmの範囲内となる量であり、成分(S0)の使用量は0.02~1.2 wt.%の範囲内となる量である)
を有する、
下記一般式(3):
【化3】
(式中、Rは前記同様の基、a,x,yは前記同様の数であり、nは少なくとも2の数であり、Y′は炭素-珪素結合によって隣る珪素原子に且つ酸素原子によってポリオキシアルキレンブロックに結合している炭素数2~8の2価の炭化水素基を表す)
で表される構成単位を分子内に有するポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を含む組成物の製造方法。
【請求項2】
成分(A’)が、その分子鎖末端に、
Z1:ポリエーテル部分に結合したアルケニル基、水酸基、アルコキシ基またはアセトキシ基;および
Z2:ケイ素原子に結合し、ヘテロ原子を有しない一価の炭化水素基、水酸基、アルコキシ基またはC1~C8ハイドロカーボンオキシアルキレンオキシ基
から選ばれる1種類以上の官能基を有するポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体である、請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
前記の一般式(2)および(3)において、aが10~45の範囲の数であり、
前記の一般式(1)および(3)において、yが(CxH2xO)yで示されるポリエーテル部分の分子量が1500~5000の範囲となる数であり、かつ、当該ポリエーテル部分全体に対するオキシエチレン(C2H4O)単位の平均含有量が、30~80質量%の範囲内にある、
請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法。
【請求項4】
ヒドロシリル化反応後の組成物を、光透過率(580nm)が90%以上となるように濾過する工程をさらに有する、請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法。
【請求項5】
前記の成分(S0)が、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオールから選ばれる1種類以上のジオール化合物であり、かつ、成分(B’)の使用量に対する成分(S0)の使用量が0.03~0.6 wt.%の範囲内となる量である、請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法。
【請求項6】
成分(B’)が、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる1種または2種類以上のグリコールエーテルである、請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法。
【請求項7】
ヒドロシリル化反応触媒が、白金金属を含有する中性のヒドロシリル化反応触媒である、請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法。
【請求項8】
ヒドロシリル化反応後に、
(C)前記の成分(A’)および成分(B’)を含む組成物に相溶し、かつ、下記の(C1)~(C3)成分から選ばれるポリエーテル化合物を添加し、混合均質化する工程(ただし、成分(C)の使用量は、最終的に得られる組成物中の成分(A’)の含有量が1重量%以上となる量)をさらに有する、請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法。
(C1)下記一般式(4)に示すポリエーテルモノオール
一般式(4):
【化4】
(式中、Rは脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1~9の1価の炭化水素基を表し、R″はメチル基又はエチル基を表し、kは0≦k≦20、lは4≦l≦50の条件を満たし、且つポリエーテル部分のオキシエチレン部のwt.%は60以下である)、
(C2)下記一般式(5)に示すポリエーテルジオール
一般式(5):
【化5】
(式中、R″は前記と同じ意味を表し、k′は0≦k′≦10、l′は4≦l′≦70の条件を満たし、且つポリエーテル部分のオキシエチレン部のwt.%は30以下である)、
(C3)ポリエーテル部分のオキシエチレン部のwt.%が20以下であり、平均分子量が500~4500の範囲内にあり、グリセリンおよび/またはトリメチロールプロパンへの炭素数2~4のアルキレンオキシドの付加重合により得られるポリエーテルトリオール
【請求項9】
任意のタイミングで、前記の成分(A’)および成分(B’)の和100質量部に対して、1~1000wt%の範囲で酸化防止剤を添加する工程をさらに有する、請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法。
【請求項10】
ストリピング工程を実質的に有しない、請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法により得られた組成物の、界面活性剤、ポリウレタンフォーム用整泡剤、又はポリウレタンフォーム用プレミクス液としての使用。
【請求項12】
請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法を含む、界面活性剤、ポリウレタンフォーム用整泡剤、又はポリウレタンフォーム用プレミクス液の製造方法。
【請求項13】
請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法により得られた組成物を含む、ポリウレタン発泡体形成組成物。
【請求項14】
請求項1または請求項2に記載の組成物の製造方法により得られた組成物を原料とする、ポリウレタンフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定構造を有するポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体とグリコールエーテル化合物とを含有するポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体含有組成物を製造するための改良されたヒドロシリル化反応プロセスに関する。また、本発明は、当該組成物を含有する界面活性剤、ポリウレタンフォーム用整泡剤(気泡制御剤および気泡安定剤としての機能を含む、以下同じ)に関する。
【背景技術】
【0002】
(1)両末端SiH基含有オルガノポリシロキサンと(2)両末端にC=C基を含有するポリエーテルとのヒドロシリル化反応により得られる直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーは、非加水分解型の(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンとして知られている(特許文献1、2)。これらのブロックコポリマーは、ヒドロシリル化反応をトルエン溶媒中で実施することにより得られたが、トルエンはその有害性や引火性などの危険リスクが高いため、通常は加熱又は減圧条件下で、ストリピング処理により製品系から除かれる。同様に、当該ブロックコポリマーを含むキシレン溶液が知られ、また商品化されていたが、同様に引火性かつ有害な有機溶媒を含む問題があった。
【0003】
特許文献3は、トルエン中で当該コポリマーの合成を行なった後、希釈剤であるポリプロピレングリコールを添加し、更にトルエンをストリピング操作によって除去した溶媒交換法による実施例を開示したほか、希釈剤としてウレタンフォーム処方で使用されるポリオール類も使用可能であることに言及した。更に、比較例として長鎖アルキルベンゼンを反応溶媒兼希釈剤とした市販整泡剤を取り上げた。前記溶媒交換法は、(AB)n型ポリエーテル変性シリコーン整泡剤の粘度を下げハンドリング性を改善するほか、ウレタンフォームの低VOC(Volatile Organic Compound)化という点でも有利であるが、溶媒交換時の泡立ちによる生産効率の低さに課題がある。長鎖アルキルベンゼンは、整泡剤の製造工程を簡略化できる利点はあるが、ウレタンフォーム中に残存してVOCの原因となり、更には最終製品からマイグレーション(滲み出し)する問題がある。
【0004】
特許文献4は、減圧下にヒドロシリル化反応を行うことによるシロキサン―ポリオキシアルキレンコポリマーの製造法に関するものであり、IPP(パルミチン酸イソプロピル)を反応溶媒兼希釈剤とした(AB)n型ポリエーテル変性シリコーン組成物を開示した。しかし、IPPに代表されるエステル油は、特に低温下で前記コポリマーとの相溶性不良による分離を起こし易い問題があるほか、整泡剤に含まれているとウレタンフォームからのVOC及びマイグレーションの原因となり得る。
【0005】
特許文献5は、(AB)n型ポリエーテル変性シリコーン或いはこれに類する構造体のうち、特に高分子量の共重合体を、増粘やゲル化を起こさずに安定的に製造する技術を開示した。この中で、当該共重合体を流動イソパラフィン中で合成した後、ストリピングにより未反応物等の低沸物を留去(但し、流動イソパラフィンの大半は共重合体の希釈剤として残存)した実施例を示した。しかし、流動イソパラフィンは、整泡剤に含まれているとウレタンフォームからのVOC及びマイグレーションの原因となり得る。
【0006】
特許文献6は、これら文献1~5にかかる問題を解決すべく為された発明であり、(A)(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンと、(B)末端水素が炭素数1~8の炭化水素基により置換され、かつ、他の末端に2級のアルコール性水酸基を有する特定のグリコールエーテル化合物とを含有する組成物、整泡剤等を開示した。この(B)成分は、(A)成分の製造用の反応溶媒兼希釈剤として利用でき、更にウレタンフォーム形成時には水酸基の反応性によりウレタン樹脂骨格に取り込まれるため、フォームのVOC最小化と整泡剤の効率的生産を両立できる利点がある。
【0007】
特許文献7は、SiH含有化合物とオレフィン性不飽和基を末端に有する化合物との塩化白金酸触媒によるヒドロシリル化が、水やアルコール類の存在下では相当の副反応を生ずるため充分に行えない問題に対する解決策として、強酸の存在下でも系のpHを5~7に維持する緩衝剤水溶液を共存させ、前記ヒドロシリル化を実施することを提案した。この文献中にポリエーテル変性シリコーンの製造例は示されていなかったが、実施例5~8に、複数のアルコール性水酸基を有する有機シラン化合物やジシロキサン化合物等の調製例が開示されており、緩衝剤溶液として0.1Molar酢酸ナトリウムのエタノール溶液(pHは約5.5)が使用されていた。
【0008】
特許文献8は、一般的なポリエーテル変性シリコーン界面活性剤を、ジプロピレングリコール等のオレフィン性不飽和基を有さない高沸点ポリオール溶媒中で調製するプロセス、および当該シリコーン界面活性剤とポリオール溶媒からなる混合物(ここで、混合物中のポリオール含有量は少なくとも5wt.%であり、少なくとも100ppmの反応促進剤であるC2~C19の一価カルボン酸のアルカリ又はアルカリ土類金属塩を含有する)を請求した。この文献中の試験例では、塩化白金酸のエタノール溶液をヒドロシリル化の触媒として使用し、緩衝剤としては、混合物全体に対して550ppmのオレイン酸ナトリウム(例7)、550ppmの酪酸ナトリウム(例8)、550ppmの酢酸カリウム(例9)が使用されていた。
【0009】
特許文献9は、一般的なポリエーテル変性シリコーンの、有機溶媒中での白金触媒によるヒドロシリル化による製造方法を請求しており、過酸化物価とカルボニル総量を抑制した高純度のモノアルケニル末端ポリエーテルを使用することにより、低臭化されたポリエーテル変性シリコーンが得られることを特徴とし、反応後の水蒸留工程と所定量の酸化防止剤の添加、および任意で、水に溶かした時のpHが5.5~8であるような緩衝剤の添加を具備していた。この技術では、緩衝剤の添加はポリエーテル変性シリコーンが合成された後に行われる。参考例1~4では、触媒として塩化白金酸のIPA溶液が、緩衝剤として酢酸ナトリウムのメタノール溶液(有機溶媒を除くポリエーテル変性シリコーン組成物に対して、酢酸ナトリウムとして100ppm)が使用された。
【0010】
特許文献10は、ポリオルガノシロキサン-ポリオキシエチレンブロック共重合体[特定の(AB)n型ポリエーテル変性シリコーン]、その製法、及びそれを含むベシクル組成物を開示した。例1~4では、l,3-diethenyl-l,l,3,3-tetramethyldisiloxane白金錯体のジメチルシロキサン溶液を触媒として、484~688ppmの酢酸ナトリウム存在下、キシレン溶媒中で反応を行い、前記(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンを調製した。例8~11では、同様の(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンを、同じ触媒により、438~500ppmの酢酸ナトリウム存在下、IPA溶媒中で反応を行って調製した。これらの反応溶媒は、反応終了後にストリピング操作により除去された。
【0011】
なお、特許文献10には、当該(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンを製造するにあたり必要に応じて使用可能な多数の反応溶媒が開示され、プロピレングリコール又はジプロピレングリコールのモノエーテルも含まれていたが、選択可能な溶媒の非限定的な一例としての開示に留まっていた。加えて、これら多数の溶媒には、(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンの製造に用いると、反応の阻害や反応系の不均一化、副反応等を引き起こすために実用性がない溶媒が多数列記されており、最適な溶媒を探索するには当業者が膨大な実験を行って、これらの溶媒の反応性および安定性を検証する必要があり、好適な溶媒を選定する上での具体的な記述を欠いていた。特に、(B)末端水素が炭素数1~8の炭化水素基により置換され、かつ、他の末端に2級のアルコール性水酸基を有する特定のグリコールエーテル化合物を、ポリウレタンフォーム用整泡剤の主成分として適する構造の(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンの合成反応溶媒兼希釈剤として用いることができる点、それによる当該整泡剤の工業的生産プロセスの改良、当該整泡剤とプレミクス液との良好な相溶性によるウレタンフォームの微細セル化の実現や利益については、何ら記載も示唆もされていなかった。従って、特許文献10には、特許文献6の発明及びその技術的利益について当業者が理解できるような明確な教示はされていなかった。
【0012】
以上のように、特許文献1~10においては、様々な弱アルカリ性緩衝剤がヒドロシリル化によるポリエーテル変性シリコーンの製造過程で添加剤として利用できるとされてきたが、その役割或いは期待効果は、緩衝剤=系中の酸性物質を中和する(これにより製造時の副反応を抑制=主反応を促進、或いは製造後、製品保管中の経時変化を抑制)機能を基盤としたものである。即ち、これらの文献における弱アルカリ性緩衝剤は、文言上の表現として、緩衝剤、反応促進剤、触媒変性剤、低臭化のための添加剤などと複数あるが、それを発現させる根本の機能は中和或いは系のpH調整に帰結するものであった。
【0013】
すなわち、特許文献1~10には、特定構造の「(AB)n型ポリエーテル変性シリコーン」と「末端水素が炭素数1~8の炭化水素基により置換され、かつ、他の末端に2級のアルコール性水酸基を有する特定のグリコールエーテル化合物」を主成分として含む組成物のヒドロシリル化反応を用いる製造方法において、限定された量の酢酸ナトリウムを特定のジオール化合物に溶かして使用した事例、およびその特異的な技術的効果について、何ら記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第3957842号明細書(特開昭56-22395号公報)
【特許文献2】米国特許第4150048号明細書
【特許文献3】特開平08-156143号公報
【特許文献4】米国特許第5869727号明細書(特開平11-116670号公報)
【特許文献5】特開2006-282820号公報(特許第4875314号公報)
【特許文献6】国際公開第2016/166979号公報(米国特許第10717872号明細書)
【特許文献7】米国特許第3398174号明細書
【特許文献8】米国特許第4857583号明細書(特開平01-87633号公報)
【特許文献9】米国特許第5696192号明細書(特開平09-202829号公報)
【特許文献10】国際公開第2005/103117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上述べたように、(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンは、共重合体の平均分子量の設計が可能であり、ポリエーテル部のEO/PO比やサイズ、シリコーン部の重量%等によっても、界面活性能やウレタンフォームシステムへの親和性等をコントロールする事ができるため、様々なポリウレタンフォーム処方で、気泡コントロール或いは気泡安定用の界面活性剤として優れた効果を発揮することが期待される。しかしながら、公知技術においては、上記のような工業的生産コストに直結する製造上の課題、性能や品質上の課題およびこれらに起因してその潜在的価値にもかかわらず市場への普及が不十分である等の課題を抱えている。
【0016】
本発明者らが先に特許文献6で提案した(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンおよび有する特定のグリコールエーテル化合物とを含有する組成物、整泡剤等は上記の課題をある程度好適に解決可能であったが、本発明者らは、当該組成物を得るにあたり、グリコールエーテル化合物の品質が、その製造時の品質に大きく影響することという新たな課題を見出した。すなわち、低価格かつ酸価の高いグリコールエーテル化合物を用いると、ヒドロシリル化反応時に組成物全体が低粘度になって整泡性が低下したり、その透明度(光透過率)が損なわれ、整泡剤として期待される性能が十分に達成できなくなる場合がある。
【0017】
本発明は、これら複数の課題を解決すべくなされたものであり、ポリウレタンフォーム用のシリコーン整泡剤に関する市場からの要求、および高性能なシリコーン整泡剤の市場への普及を鑑み、原料の品質およびロットばらつきに起因する影響が抑制されており、低コスト、かつ原料の計量誤差やロットの影響(酸価など)を受けにくく、安定的かつ平易に製造可能であって、コストインユースと供給性に優れ、かつ、ポリウレタンフォーム用整泡剤の用途において十分なパフォーマンスを有する、(AB)n型ポリエーテル変性シリコーン組成物の製造プロセスおよび得られた組成物の整泡剤等の用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討の結果、(a1)両末端アルケニル基含有ポリエーテル、(a2)両末端SiH基含有オルガノポリシロキサンとを、(B’)特定のグリコールエーテル化合物、(N1+S0) 酢酸ナトリウムと特定のジオール化合物を含む溶液、ヒドロシリル化反応触媒の存在下、ヒドロシリル化反応させる工程(ただし、成分(a1)、成分(a2)および成分(B’)の合計量を100重量部としたとき、成分(B’)の使用量が40~80重量部の範囲であり、かつ、成分(B’)の使用量に対して、成分(N1)の使用量は16~60 wt.ppmの範囲内となる量であり、成分(S0)の使用量は0.02~1.2 wt.%の範囲内となる量である)を有する、特定構造のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を含む組成物の製造方法(以下、「本製造方法」または「本発明の製造方法」ということがある)により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0019】
本製造方法は、ヒドロシリル化反応後の組成物を濾過する工程;ヒドロシリル化反応後に上記の成分(A’)および成分(B’)と相溶し、かつ、特定の(C1)~(C3)成分から選ばれるポリエーテル化合物を添加し、混合均質化する工程;および任意のタイミングで酸化防止剤を添加する工程から選ばれる工程をさらに有してもよく、かつ、ストリピング工程を実質的に有しない製造方法であってもよい。
【0020】
また、上記課題は、本製造方法により得られた組成物を含む界面活性剤、ポリウレタンフォーム用整泡剤、又はポリウレタンフォーム用プレミクス液(以下、「界面活性剤等」という)により解決される。同様に、上記課題は、本製造方法を含む界面活性剤等の製造方法、および本組成物または上記の製造方法により得られた本組成物を含むポリウレタン発泡体形成組成物、およびこれらを原料とするポリウレタンフォームにより解決される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法により、原料の品質およびロットばらつきに起因する影響が抑制されており、低コスト、かつ原料の計量誤差やロットの影響(酸価など)を受けにくく、安定的かつ平易に製造可能であって、コストインユースと供給性に優れ、かつ、ポリウレタンフォーム用整泡剤の用途において十分なパフォーマンスを有する、(AB)n型ポリエーテル変性シリコーン組成物の改良されたヒドロシリル化反応プロセスを含む製造方法、および当該製造方法により得られた組成物の整泡剤等の用途を提供することができる。
【0022】
特に、本発明の製造方法により、低価格のグリコールエーテル化合物を原料として使用した場合であっても、酸価が非常に少なく高価格であるグリコールエーテル化合物を使用した場合と同等の品質および整泡剤としての性能を有する(AB)n型ポリエーテル変性シリコーン組成物を提供することができるため、高性能な(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンを主成分とする界面活性剤等(特に、整泡剤)を低コストで安定的かつ大量に製造することが可能となり、これらを市場に広く普及させることが可能となると期待される。
【0023】
より具体的には、本発明により、機械発泡法による高密度マイクロセルラーフォーム、その他の硬質フォームや軟質フォーム等の様々な分野においても、特に微細セル形成性と泡保持力、起泡力、フォーム体積という点で優れ、プレミックス液の均質性や安定性に優れ、またフォーム形成用エマルション組成物中での各種成分との相溶性にも優れた、ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物を提供することができる。また、該組成物からなるポリウレタンフォーム用整泡剤を提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】酢酸ナトリウムをPG溶液として使用した場合の、酢酸ナトリウムのBDPGに対する添加量[ppm]と、ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物の粘度変化率(H基準品に対して)との関係を示した図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の、ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体を含む組成物の改良されたヒドロシリル化反応プロセスによる製造方法について詳細に説明する。まず、前記組成物の製造に用いる各原料について説明する。
【0026】
[原料成分(a1)]
成分(a1)は、下記一般式(1):
【化1】
(式中、xは2ないし4の数であり、yは(C
xH
2xO)yで示されるポリエーテル部分の分子量が400~5000の範囲となる数を表し、Yは末端に反応性C=C基を有する炭素数2~8の1価の炭化水素基を表し、ポリエーテル部分は少なくとも1のオキシプロピレン基を含有する)
で表される両末端アルケニル基含有ポリエーテルであり、後述する成分(a2)とヒドロシリル化反応することにより前記ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を与える。
【0027】
ここで、基Yはビニル基、アリル基、メタリル基、イソプレニル基、へキセニル基、オクテニル基などから選択可能であるが、特に好ましくは、アリル基及び/又はメタリル基である。y は、好ましくは、(CxH2xO)yで示されるポリエーテル部分の分子量が1500~5000の範囲となる数であり、当該ポリエーテル部分全体を構成するオキシエチレン(C2H4O)単位の質量比は、平均して30~80%の範囲内にあることが好ましい。
【0028】
成分(a1)は、一般的には、末端に水酸基を有するポリエーテルと強アルカリとのアルコラートを、ハロゲン化アルケニルと求核置換反応させたのち、低沸点物や副生した塩などを取り除くことによって製造される。この反応では、水酸基の封鎖率が完全でない場合が多く、基Yの中に不純物としての水酸基が若干量含まれるのが通常である。封鎖率は、好ましくは90モル%以上であり、より好ましくは95モル%以上であり、特に好ましくは98モル%以上である。
【0029】
成分(a1)に含まれる水分量は0.5wt.%以下が望ましく、より好ましくは0.2wt.%以下、特に好ましくは0.1wt.%以下である。成分(a1)は吸湿し易いため、状況によっては、ヒドロシリル化反応の開始前に反応器内で脱水処理を行っても良い。
【0030】
また、成分(a1)は酸化劣化を起こし易いため、成分(a1)の合成反応終了後に100~1000ppm程度の酸化防止剤を添加し、原料中に溶解させておいてもよい。好適な酸化防止剤の一例は、ビタミンEである。
【0031】
[原料成分(a2)]
成分(a2)は、一般式(2)で表される両末端SiH基含有オルガノポリシロキサン
一般式(2):
【化2】
(式中、Rは各々独立に脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1~9の1価の炭化水素基を表し、aは1~200の数を表す)であり、前記の成分(a1)とのヒドロシリル化反応により前記ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を与える。
【0032】
ここで、特に好ましいRはメチル基である。また、製造される整泡剤の有用性およびハンドリング性の見地からは、上記一般式(5)において、aが10~45の範囲の数であることが好ましい。
【0033】
成分(a2)は、通常は、両末端SiH基含有オルガノジシロキサンと低分子環状ジオルガノシロキサンとを所望のモル比で仕込み、酸触媒の存在下に重合を行わせ、平衡状態に達した後に触媒を中和し、中和塩等を除去することにより製造される。平衡反応の性質上、生成系には目的物である両末端SiH基含有オルガノポリシロキサンの他、10~15wt.%相当の低分子環状ジオルガノシロキサンが残存していることが一般的である。
【0034】
ここで、本発明にかかるポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物を、低VOC/エミッション型ポリウレタンフォーム用整泡剤として使用する場合、組成物中にケイ素原子数が20以下の低分子シロキサンを実質的に含まないことが好ましい。
【0035】
一方、本組成物の製造方法において、当該共重合体の合成後(すなわち、ヒドロシリル化反応後)にストリピング工程を実質的に有しなければ大変生産効率が改善される。特に、前記共重合体を合成した後のストリピング工程は、減圧に伴う激しい発泡現象を起こし易いため、避けることが好ましい。従って、成分(a2)から事前に低分子シロキサン、特に低分子環状シロキサンを除去しておくことが好ましい。成分(a2)から低分子シロキサンを除去するには数多くの方法がある。例えば、SiH基含有オルガノポリシロキサンの平衡混合物中にアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを少量ずつ吹き込みながら高温、高真空下で処理する方法、SiH基含有オルガノポリシロキサンの平衡混合物を薄膜化して、例えば、0.5mm以下の減圧下において50~130℃の加熱条件下でストリッピングする方法、SiH基含有オルガノポリシロキサンの平衡混合物に、低分子シロキサンを溶解し高分子シロキサンを溶解しない有機溶剤、例えば、メタノ-ル,エタノ-ル、アセトン等の有機溶剤を加えて低分子シロキサンを抽出除去する方法がある。
【0036】
具体的には、成分(a2)は、ケイ素原子数が6以下の低分子環状シロキサンの含有量の合計が3000ppm(重量)以下であることが好ましく、300ppm(重量)以下が特に好ましい。このような低分子環状シロキサンとしては、例えば、式、[(CH3)2SiO]n(式中、nは3~10の整数である。)で表される環状ジメチルシロキサンが代表的なものである。なお、成分(a2)中の低分子シロキサンの含有量は、例えば、成分(a2)に有機溶媒を加えて希釈し、その希釈液をガスクロマトグラフィ分析装置に導入して分析することにより測定できる。
【0037】
[成分(B’)]
成分(B’)は、末端水素が炭素数1~8の炭化水素基により置換され、かつ、他の末端に、2級のアルコール性水酸基を有する、炭素数2~4のオキシアルキレン単位の繰り返し数が1~3の範囲の数であり、酸素以外のヘテロ原子を含有しないことを特徴とする、1種または2種類以上のグリコールエーテル化合物である。本発明にかかる製造方法において、成分(B’)は、成分(A’)の合成反応における溶媒として組成物中に導入され、当該組成物即ち整泡剤のハンドリング性やポリウレタンフォーム処方中で併用される他成分との相溶性などを改善する機能を有する。
【0038】
成分(B’)は、蒸留または蒸留による精製が可能な沸点を有するモノオール有機化合物であることが好ましく、この様な化合物の例としては、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルから選ばれる1種または2種類以上のグリコールエーテルが挙げられる。特に好ましいものは、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる1種または2種類以上のグリコールエーテルである。
【0039】
本発明にかかる製造方法において、単一の前記グリコールエーテルを使用する場合、その純度は少なくとも90wt.%以上であることが望ましい。好ましくは、純度は95wt.%以上であり、98.5wt.%以上であることが特に好ましい。原料 iv) として複数種の前記グリコールエーテルを併用する場合にも、各々のグリコールエーテルの純度は前述の通り高純度であることが好ましい。
【0040】
また、前記の通り、成分(B’)は製造業者により、或いは保管状況等の影響により微量の酸性物質を含有している場合がある。成分(B’)中の酸性物質の含有量は、0.02wt.%以下であることが望ましく、0.01wt.%以下であることが更に好ましく、0.001wt.%以下であることが特に好ましい。
【0041】
成分(B’)に含まれる水分量は0.5wt.%以下が望ましく、より好ましくは0.2wt.%以下、特に好ましくは0.1wt.%以下である。成分(B’)は吸湿し易いため、状況によっては、ヒドロシリル化反応の開始前に反応器内で脱水処理を行っても良い。
【0042】
なお、本発明において、後述する成分(N1)および成分(S0)を含む酢酸ナトリウム塩溶液を一定量使用し、かつ、合成後の成分(A’)および成分(B’)の使用量が前記範囲を満たす場合、酸性物質等、成分(B’)の品質に由来する影響を低減できる利点がある。
【0043】
本発明にかかる製造法により得られる組成物において、成分(A’):成分(B’)の質量比は20:80~60:40となる範囲である。従って、成分(a1)、成分(a2)および成分(B’)の合計100重量部に対して成分(B’)の使用量が40~80重量部の範囲内となる範囲で使用することが、当該組成物の性能、品質、使用時の利便性、取扱作業性(ハンドリング)等の点から重要である。
【0044】
[成分(N1+SO)]
成分(N1+SO)は、本発明の製造方法の特徴的な構成の一つであり、特に原料成分(B’)及びその他の原料に由来する微量の酸分を中和する働きのある緩衝剤システムであり、これにより前記ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を製造する際の副反応を抑制し、所望の設計及び品質の共重合体(A’)或いは(A’)と(B’)とを主成分とする組成物/整泡剤を安定的かつ効率的に得ることを可能にすることができる。一方、当該緩衝剤システムは、後述する酢酸ナトリウムと特定のジオール化合物を特定の量的範囲で使用した場合に実現できる効果であり、他の緩衝剤を用いても、本発明の目的が十分達成できない場合がある。
【0045】
より具体的には、成分(N1+SO)は、(N1)酢酸ナトリウムおよび以下の成分(S0)を含む酢酸ナトリウム塩溶液である。成分(B’)の使用量に対して、成分(N1)の使用量は16~60 wt.ppmの範囲内である。なお、酢酸ナトリウムの添加量の範囲の技術的意義については、実施例の項目(特に
図1)において詳説する通りであり、実験データに基づいて確認した臨界的意義を有する数値範囲である。
【0046】
成分(S0)は、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、PEG-200,PEG-400から選択される1種類以上のジオール化合物である。好ましくは、成分(S0)は、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオールから選ばれる1種類以上であり、特に好ましくは、プロピレングリコール、1,2-ペンタンジオールから選ばれる1種類以上である。
【0047】
本発明の技術的効果を発揮する上で、成分(S0)は、酢酸ナトリウムを1%以上溶解でき、かつ、原料の品質やロットばらつきに対して、副反応を安定的に抑制し、所望の設計及び品質の共重合体(A’)を与えるものでなければならない。例えば、水やメタノールは酢酸ナトリウムの良溶媒であるが、これらの溶媒を成分(S0)の代わりに用いると、原料の品質や製造工程によっては、再現性が得られなかったり、必要な工程が増えたりして、十分な技術的効果が実現できない場合がある。
【0048】
成分(S0)の使用量は、成分(B’)の使用量に対して、0.02~1.2 wt.%の範囲内であり、0.03~0.6 wt.%の範囲であることが好ましく、0.03~0.3 wt.%の範囲であることが特に好ましい。
【0049】
[原料成分:ヒドロシリル化反応触媒]
本発明にかかる製造方法において、先に述べた成分(a1)および成分(a2)は、有効量のヒドロシリル化反応触媒の存在下、ヒドロシリル化反応により成分(A’)を形成する。ここで、ヒドロシリル化反応触媒は、ヒドロシリル化反応を促進することができる限り特定のものに限定されず、公知のヒドロシリル化反応触媒の中から適宜選択して本発明に用いることができる。ヒドロシリル化反応触媒の具体的な例として、シリカ微粉末又は炭素粉末担体上に吸着させた微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、塩化白金酸とビニルシロキサンの配位化合物、白金黒などの白金を含むヒドロシリル化反応触媒が挙げられる。
【0050】
本発明にかかる製造方法において、特に好適なヒドロシリル化反応触媒は、中性の白金錯体触媒であり、1、3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン白金錯体が特に好ましい。他方、塩化白金酸やアルコール変性塩化白金酸などの酸性のヒドロシリル化反応触媒を使用する場合、緩衝剤システムを構成する(N1)酢酸ナトリウムまたはその他の緩衝剤の使用または増量が必要になる場合がある。
【0051】
ヒドロシリル化反応触媒の使用量は有効量であって特に制限されるものではないが、成分(a1)および成分(a2)の全体質量を100質量%とする場合、ヒドロシリル化反応触媒中の金属原子(特に白金族金属原子)が質量単位で0.1~200ppmとなる量であり、1~50ppmの範囲となる量が好ましい。これは、ヒドロシリル化反応触媒の含有量が前記下限未満であると、ヒドロシリル化反応による共重合反応の進行が不十分となる場合があり、前記上限を超えると、不経済であり、かつ、得られる組成物の着色等、透明性に悪影響を及ぼす場合があるためである。
【0052】
[原料成分:酸化防止剤]
本発明にかかるポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物は、空気中の酸素により徐々に酸化され、変質する場合がある。これを防止するため、フェノール系、ヒドロキノン系、ベンゾキノン系、芳香族アミン系、又はビタミン類等の酸化防止剤を添加し、酸化安定性を向上させることができる。このような酸化防止剤としては、例えば、BHT(2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール)、ビタミンEなどを用いることができる。
【0053】
酸化防止剤は、成分(A’)、成分(B’)、および任意で成分(C)の和100質量部に対して1~1000wt.ppmの範囲で含有させることが好ましく、より好ましくは50~500ppmとなる範囲である。
【0054】
本発明の製造方法において、酸化防止剤を製造原料系に添加するタイミングは任意であり、ヒドロシリル化反応前後を含む任意の時点で原料または合成後の組成物に添加することができるが、特に、上記の量的範囲となるように、前記の成分(a1)と共に添加することが好ましい。
【0055】
[原料成分:その他の緩衝剤]
本発明の製造方法において、緩衝剤システムは前記の成分(N1+SO)である酢酸ナトリウム塩溶液であるが、任意選択により、さらに、
(N)炭素原子数が2~18の範囲にある一価カルボン酸ナトリウム塩(ただし、成分(N1)を除く)、
(K)炭素、水素、酸素のみから成り、炭素原子数は1~8の範囲内にあり、ベンゼン環構造を含まない一価の対アニオンを有するカリウム塩、
およびその他のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩から選ばれる緩衝剤を添加してもよい。
【0056】
一例として、その他の緩衝剤となるカリウム塩またはナトリウム塩として、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、イソ酪酸ナトリウム、2-エチルヘキサン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、酪酸カリウム、イソ酪酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
緩衝剤の添加に当たっては、当該緩衝剤を前記の成分(S0)であるジオール化合物に溶解乃至分散させた緩衝剤溶液の形態で本組成物中に配合することが好ましい。また、これらの緩衝剤の溶解性と他成分との相溶性、安全性の見地から許容される溶媒であれば、(S1)水、(S2)炭素原子数1~4の一価飽和アルコール、および(S3)炭素原子数3~9の範囲内にある飽和ジオール化合物(ただし、前記の成分(S0)であるジオール化合物を除く)から選ばれる1種類以上の液体化合物に溶解乃至分散させた緩衝剤溶液として用いてもよい。また、発明の技術的効果を損なわない範囲であれば、緩衝剤を固体のまま用いてもよい。
【0058】
[原料成分:その他の中和剤]
本発明の製造方法において、前記の成分(N1+SO)である酢酸ナトリウム塩溶液と共に、中和剤として、
(M)下記一般式:
【化3】
(式中、R´は炭素数1~18の1価の炭化水素基を表し、R″はメチル基又はエチル基を表し、pは0~20の数を表し、qは1~20の数を表し、(ポリ)オキシエチレン部及びもう一方の(ポリ)オキシアルキレン部の結合様式はランダム型でもブロック型でもよい)
で表される(ポリ)オキシアルキレン3級アミン化合物を適量添加してもよい。
【0059】
このような(ポリ)オキシアルキレン3級アミン化合物は、具体的には、R'N[(CH2CH2O)4{CH2CH(CH3)O}4H]2 (R´=ココアルキル基)の平均分子式で表される3級アミン化合物等が挙げられる。
【0060】
これらの緩衝剤(その溶解乃至分散溶媒含む)または中和剤は、本発明にかかる製造方法における技術的効果を損なわない範囲で、製造原料系に添加することができる。前記の成分(N1+SO)である酢酸ナトリウム塩溶液に加えて、上記の緩衝剤や中和剤を用いて、その存在下にヒドロシリル化反応を行うことで、製造原料系の酸性物質等の中和により、成分(B’)等の品質に由来する影響をさらに低減できる場合があるほか、添加剤の種類によっては、最終的に得られる組成物の泡増強効果などが実現できる場合がある。
【0061】
[成分(A’)]
本発明にかかる製造方法は、前記の成分(a1)および成分(a2)の改良されたヒドロシリル化反応プロセスであり、特定構造のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を含む組成物を与える。本製造方法により合成される成分(A’)は、界面活性剤等の主剤であり、特に、ポリウレタンフォーム用の整泡剤として利用できる。
【0062】
成分(A’)は本組成物の主たる成分の一つであり、
一般式(1):
【化4】
で表される構成単位を分子内に有するポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体である。
【0063】
上記の構造を満たす限り、成分(A’)の末端基は特に制限されるものではないが、後述するヒドロシリル化反応により合成される場合、その分子鎖末端の構造は、
Z1:ポリエーテル部分に結合したアルケニル基、水酸基、アルコキシ基またはアセトキシ基;および
Z2:ケイ素原子に結合し、ヘテロ原子を有しない一価の炭化水素基、水酸基、アルコキシ基、C1~C8ハイドロカーボンオキシアルキレンオキシ基又は水素
から選ばれる1種類以上の官能基であることが好ましい。
【0064】
式中、Rは各々独立に脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1~9の1価の炭化水素基を表し、炭素数1~9のアルキル基が例示される。工業的には、メチル基が特に好ましい。Y′は炭素-珪素結合によって隣る珪素原子に且つ酸素原子によってポリオキシアルキレンブロックに結合している炭素数2~8の2価の炭化水素基であり、炭素数3~4の2価の炭化水素基であることが好ましく、イソブチレン基であることが特に好ましい。
【0065】
aは1~200の数であり、xは2ないし4の数であり、yは(CxH2xO)yで示されるポリエーテル部分の分子量が400~5000の範囲となる数を表し、ポリエーテル部分は少なくとも1のオキシプロピレン基を含有し、nは少なくとも2の数である。
【0066】
整泡剤としての有用性およびハンドリング性の見地から、aは10~45の範囲の数であり、y はポリエーテル(ポリオキシアルキレン)部分の分子量が1500~5000の範囲となる数であり、かつ当該ポリエーテル部分全体を構成するオキシエチレン(C2H4O)単位の質量比が、平均して30~80%の範囲内にある事が特に好ましい。上記の範囲では、ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体の親水性のバランスがよく、ある量のオキシプロピレン単位或いはオキシブチレン単位が必然的に含まれる事となるので、ポリウレタンフォーム形成組成物の主成分であるポリオールやイソシアネートと整泡剤との相溶性が改善され、プレミックス液の安定性向上による利便性拡大や望ましい整泡効果などを得る上で有利となる。界面活性剤または整泡剤としての機能および合成時または合成後のハンドリング性も改善される。
【0067】
整泡剤としての有用性および共重合体の安定性の見地から、成分(A’)であるポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体の片末端または両末端はポリエーテル部分を含む官能基で封鎖されていることが好ましく、その場合、末端基は前記のZ1で表され、ポリエーテル部分に結合したアルケニル基、水酸基、アルコキシ基またはアセトキシ基であることが好ましく、特に、メタリル基であることが好ましい。なお、成分(A’)の原料に両末端SiH基含有オルガノポリシロキサンを用いた場合、末端SiHの一部は、後述する成分(B’)の水酸基と反応する場合があり、その末端基の一部が(B’)に由来するグリコールエーテルの残基となっていてもよい
【0068】
一方、成分(A’)の末端基は、ヘテロ原子を有する反応性官能基を含まないことが好ましく、特に、エポキシ基である開環反応性の反応性官能基やアミン基などを含まないことが好ましい。
【0069】
成分(A’)は、その原料である両末端SiH基含有オルガノポリシロキサンと両末端アルケニル基含有ポリエーテルとのモル比(反応比)を調節することにより、共重合体の平均分子量の設計が可能である。また、ポリエーテル部のEO%やサイズ、共重合体末端部への水酸基或いは疎水基の導入によっても、界面活性能やウレタンフォームシステムへの親和性等のコントロールがしやすい。従って、当該共重合体組成物は様々なタイプのポリウレタンフォーム処方で、気泡コントロール或いは気泡安定用の界面活性剤として優れた効果を発揮できるものである。
【0070】
[ヒドロシリル化反応プロセス]
本発明の製造方法は、前記の成分(a1)と成分(a2)とを、前記の成分(B’)、(N1+S0) 酢酸ナトリウム(N1)と特定のジオール化合物(S0)を含む溶液およびヒドロシリル化反応触媒の存在下、ヒドロシリル化反応させる工程(ただし、成分(a1)、成分(a2)および成分(B’)の合計量を100重量部としたとき、成分(B’)の使用量が40~80重量部の範囲であり、かつ、成分(B’)の使用量に対して、成分(N1)の使用量は16~60 wt.ppmの範囲内となる量であり、成分(S0)の使用量は0.02~1.2 wt.%の範囲内となる量である)を有することにより特徴づけられる。
【0071】
ここで、成分(N1+S0)である酢酸ナトリウム塩溶液は、ヒドロシリル化反応前に製造原料系と混合されていることが好ましいが、原料系における微細分散の見地から、前記の酢酸ナトリウム塩溶液を前記の成分(a1)の少なくとも一部と共に投入して全体を混合することが特に好ましい。特に成分(a1)中に成分(N1)を予め分散させることにより、原料中の酸不純物(特に成分(B’)の品質に由来するもの等)を効果的に中和できる利点があるためである。一方、当該酢酸ナトリウム塩溶液は、ヒドロシリル化反応中に系中に添加することもできる。なお、任意成分であるその他の緩衝剤または中和剤の添加のタイミング、方法についても、成分(N1+S0)である酢酸ナトリウム塩溶液に準じたものであることが好ましい。なお、ヒドロシリル化反応時には、各原料成分が混合され、均質化されていることが特に好ましい。
【0072】
本発明にかかるヒドロシリル化反応プロセスにおいて、成分(a1)中の末端アルケニル基(R-Vi)の物質量が、成分(a2)のケイ素原子結合水素原子(Si-H)に対し、等量あるいは小過剰となる量であることが好ましく、より具体的には[R-Vi]/[Si-H]で表される物質量比(モル比)が1.0~1.5であることが好ましく、1.1~1.3となる範囲にあることが特に好ましい。
【0073】
特許文献6(国際公開第2016/166979号公報)に記載の通り、一般的に、整泡剤であるポリエーテル部分を含有するシリコーン類と、発泡樹脂の種類の適合性には相関があり、低分子量体が適するフォームから高分子量体が適するフォームまでを順に並べると、
高弾性フォーム<硬質フォーム<軟質フォーム<マイクロセルラーフォーム
となる。
【0074】
加えて、ポリエーテル部分の構造もフォームのサイズ等に大きく影響するので、セルサイズを小さくして通気性を下げたい場合にはEO含有量の高いポリエーテル構造を選択したり、気泡の安定化・保持をしたいケースでは分子量の大きなポリエーテルを選択したり、プロセスレンジを広げたり、幅広い用途・処方への適合性を持たせるために分子量や構造の異なる複数のポリエーテルを原料に使用する等、ポリエーテル部分の分子量分布を広げるなどの手法が存在しており、本発明にかかるポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物およびその製造方法にもこれらの手法が適用可能である。また、ポリウレタンの主原料の一つであるポリオールがPPG構造部を有することから、フォーム処方中での相溶性の観点よりポリエーテル変性シリコーン中のポリエーテル部分にもまたPO(プロピレンオキシ)鎖を含有させておく事が望ましい場合が多い。
【0075】
整泡剤に対する要求は、本発明に係る(AB)n型ポリエーテル変性シリコーン組成物を配合するポリウレタン発泡体の種類に応じて異なるものであるが、例えば前記一般式(5)で表される両末端SiH基含有オルガノポリシロキサン(a2)の鎖長や前記一般式(4)で表される両末端アルケニル基含有ポリエーテル(a1)の種類、これらの反応比率や質量比等を適宜調節し、或いはポリエーテル部のEO/PO%や分子量によっても、界面活性能やウレタンフォームシステムへの親和性等をコントロールする事ができるので、所望により、好適な整泡剤を自由に設計することができる。
【0076】
本発明にかかるヒドロシリル化反応条件は、任意に選択することができるが、トコフェロール(ビタミンE)等の抗酸化剤を少量添加し、窒素等の不活性ガス雰囲気下で室温~200℃、好適には50~100℃で加熱攪拌することで得ることができる。なお、抗酸化剤はヒドロシリル化反応の終了後に添加しても良い。反応時間は、反応スケール、触媒の使用量および反応温度に応じて選択可能であり、数分~数時間の範囲であることが一般的である。また、反応は、品質の改善等を目的として減圧下で行ってもよく、例えば、特許文献4(特開平11-116670号公報)で提案された反応条件等が特に制限なく適用可能である。
【0077】
ヒドロシリル化反応の終点は、赤外線分光法(IR)によるSi-H結合吸収の消失あるいは以下のアルカリ分解ガス発生法により、水素ガス発生がなくなったことで確認することができる。なお反応原料である両末端SiH基含有オルガノポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子(Si-H)を、同方法により分析することで、水素ガス発生量を特定することもできる。以下はその概要である。
<アルカリ分解ガス発生法:試料をトルエン又はIPAに溶解した溶液と、28.5質量%苛性カリのエタノール/水混合溶液を室温で反応させ、発生する水素ガスを捕集管に集めてその体積を測定する方法>
【0078】
本組成物の製造方法において、ヒドロシリル化反応によりポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を合成する工程の後、ストリピング工程を有しないことが好ましい。成分(A’)の合成後の製造工程における、プロセス中の泡立ち現象を回避するためである。なお、前記成分(A’)および成分(B’)を主成分とする組成物は、25℃での粘度が100~60,000mm2/s の範囲にあることが、使用時の利便性、ハンドリング等の点から望ましい。
【0079】
[成分(C)の添加]
本組成物の製造方法において、前記成分(A’)および成分(B’)を主成分とする組成物に、さらに、以下の成分(C)を、成分(A’)の含有量が1質量%以上となるよう添加し、混合均質化してもよい。
【0080】
成分(C)は、合成後の成分(A’)、成分(B’)および成分(N1)等と相溶し、かつ、下記の(C1)~(C3)成分から選ばれるポリエーテル化合物であり、組成物全体を混合均質化することで、本組成物の整泡剤または界面活性剤としての機能に悪影響を及ぼすことなく、本発明にかかる組成物の粘度等を調整し、使用時の利便性、取扱作業性(ハンドリング)を改善できる利点がある。また、本組成物を含むポリウレタン発泡体形成組成物における水酸基価の調整、すなわちポリウレタン発泡体の架橋密度や強度など各種物性コントロールの目的で、成分(C)を使用してもよく、かつ好ましい。なお、成分(C)を系中に添加するタイミングは任意で選択可能である。
【0081】
(C1)下記一般式(4)に示すポリエーテルモノオール。
一般式(4):
【化5】
(式中、Rは脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1~9の1価の炭化水素基を表し、R″はメチル基又はエチル基を表し、kは0≦k≦20、lは4≦l≦50の条件を満たし、且つポリエーテル部分のオキシエチレン部のwt.%は60以下である)、
【0082】
成分(C1)の好ましい具体例としては、k=0,R=n-C4H9,R″=CH3であるポリプロピレングリコールn-ブチルエーテルが挙げられ、これはハンドリングが容易で安価に入手し易い利点がある。特に、4≦l≦33の範囲のものは前記組成物との相溶性に優れ、好ましい。更に、低VOCを追求したり(C1)由来の水酸基濃度を減らしたい場合には、10≦l≦33の範囲のものが好ましい。
【0083】
(C2)下記一般式(5)に示すポリエーテルジオール。
一般式(5):
【化6】
(式中、R″は前記と同じ意味を表し、k′は0≦k′≦10、l′は4≦l′≦70の条件を満たし、且つポリエーテル部分のオキシエチレン部のwt.%は30以下である)
【0084】
成分(C2)の好ましい具体例としては、k′=0,R″=CH3であるポリプロピレングリコールが挙げられ、これはハンドリングが容易で安価に入手し易い利点がある。特に、4≦l′≦34の範囲のものは前記組成物との相溶性に優れ、好ましい。
【0085】
(C3)ポリエーテル部分のオキシエチレン部のwt.%が20以下であり、平均分子量が500~4500の範囲内にあり、グリセリンおよび/またはトリメチロールプロパンへの炭素数2~4のアルキレンオキシドの付加重合により得られるポリエーテルトリオール。
【0086】
成分(C3)の好ましい具体例としては、グリセリンへのプロピレンオキシド付加重合により得られるポリエーテルトリオールが挙げられ、平均分子量が概ね1500~3500程度までのものが、ハンドリングが容易で前記組成物との相溶性に特に優れるため好ましい。
【0087】
成分(C)は、前記組成物に対して、成分(A’)の含有量が1質量%以上となる範囲で含有させてよい。
【0088】
成分(C)を添加するタイミングは、好適には、ヒドロシリル化反応の後であり、このとき、成分(C)を含む組成物全体の25℃における粘度が100~35,000mm2/s の範囲にあることが好ましく、当該粘度範囲を満たすように、或いは求められるポリウレタン発泡体の物性に応じて、成分(C)、成分(A’)および成分(B’)の含有量を調整し、これらを混合均質化することができる。なお、既に説明した通り、成分(C)を添加する技術的意図は粘度等の調整に限られるものではない。
【0089】
[その他の任意成分]
本発明の製造方法により得られる組成物は、主として界面活性剤等として使用することが好ましく、その技術的特徴を損なわない範囲で、他のポリエーテル変性シリコーン等の有機変性シリコーン類、ストレートシリコーン類、有機系の界面活性剤等を含んでもよい。その場合、これらの含有量は、本組成物全体において、前記の成分(A’)の質量に対して同量を超えない範囲であることが好ましい。なお、このような組成物も、界面活性剤等の用途、特に、ポリウレタンフォーム用整泡剤として好適に利用することができる。
【0090】
本組成物には、本発明の技術的効果を損なわない範囲において、後述するポリウレタン発泡体形成性組成物に使用可能な成分の少なくとも一部を、その他の任意成分として事前に添加してよい。
【0091】
本組成物の製造方法において、すでに説明したその他の任意成分、前記の成分(B’),成分(C)を添加し、混合均質化してもよい。また、本組成物の製造方法において、本発明の技術的効果を損なわない範囲において、後述するポリウレタン発泡体形成性組成物に使用可能な成分の少なくとも一部を、その他の任意成分として本組成物に添加し、混合均質化してもよい。これにより、整泡剤成分と所望の成分を含む、均質なポリウレタンフォーム用プレミクス液が調整できる利点がある。
【0092】
本組成物には有機溶媒を使用してもよいが、本発明にかかる製造方法において、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)溶媒等の、芳香族炭化水素系溶媒の使用および混入を避けることができるため、厳しいVOC/エミッション管理やBTX等不含を必要とする現在のポリウレタン産業界のニーズに応えることが可能である。
【0093】
[濾過工程]
本組成物の製造方法において、ヒドロシリル化反応の後に、任意で、得られた組成物の濾過工程をさらに有することが好ましい。ここで、濾過に用いるフィルター、濾材等の手段は、製造スケール、異物の種類または程度に応じて適宜選択可能であるが、廃棄物低減、作業者の安全確保、作業効率、本組成物の整泡剤用途における品質や性能確保の見地から、ゼータ電位式吸着濾過フィルター、バッグフィルター、カートリッジフィルター等の使用が好適である。
【0094】
上記の濾過工程は特に制限されるものではないが、ヒドロシリル化反応後の組成物を、光透過率(580nm)が90%以上、より好ましくは95%以上となるように濾過することができる。
【0095】
[本製造法がもたらす利益]
本組成物の製造方法は、安価で品質にばらつきのある原料も利用できる効率的な製造プロセスであり、所望の高分子量或いは整泡性の強い共重合体を設計しても、製造工程中で発生する泡制御の問題を起こさないか、容易に解消してしまうことができるので、生産性に優れ、工業的生産コストに直結する製造上の課題、および品質上の課題を総合的に解決することができる。このため、本製造方法により得られたポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物を用いることで、当該組成物を含む整泡剤を市場に十分に安定的に普及させ、高性能な原料として活用することが可能になると期待される。
【0096】
以上の通り、本発明のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物(上記の製造方法により得られたものを含む)は、ポリウレタンフォームの製造に用いる整泡剤として特に有用であり、界面活性剤、ポリウレタンフォーム用整泡剤としてそのまま利用できる。或いは、ウレタンフォーム用プレミクス液に配合し、システムとして利用してよい。
【0097】
[本組成物を含むポリウレタン発泡体形成組成物およびポリウレタンフォーム]
本発明にかかるポリウレタン発泡体形成組成物およびポリウレタンフォームは、本発明のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物(上記の製造方法により得られたものを含む)を含む、または、少なくとも一部の原料として用いるものであればフォームの種類、特性、適用される処方の種類において制限されるものではない。
【0098】
一般的に、ポリウレタンフォームには、硬質のものと軟質のものがあり、詳細には、軟質ウレタンフォーム、高弾性ウレタンフォーム、硬質ウレタンフォーム、特殊フォームに大別される。これらの詳細については、例えば、特許文献6(国際公開第2016/166979号公報)を参照することができる。本発明にかかる組成物および整泡剤は汎用性であり、これらの様々なポリウレタンフォーム処方に配合した場合でも、整泡剤として優れた効果または工業的生産上の利益を実現できるものである。
【0099】
また、前記の通り、本発明にかかる組成物および整泡剤は、BTX溶媒を不含とすることが容易であり、安価かつ大量に製造が可能であるので、Low VOC/エミッション型のポリウレタンフォームを得るのに適する。また、フォーム製造業者やフォームの処方(システム)設計業者がBTX不含のフォーム或いはプレミクスシステム等を製造することを容易にする。なお、VOC/エミッション或いは臭気の少ないポリウレタンフォームを製造するためには、後述するポリオールに不揮発性の酸化防止剤を添加しておくことが好ましい。
【0100】
本発明の製造方法により得られたポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物は、以下の成分を含むポリウレタン発泡体形成性組成物中の一原料:(d)整泡剤として使用することが好適である。
(a)ポリオール、
(b)ポリイソシアネート、
(c)触媒、
(d)整泡剤、および
(e)任意選択で、(d)成分以外の整泡剤、発泡剤、希釈剤、鎖伸長剤、架橋剤、水、非水性発泡剤、充填剤、強化剤、顔料、染料、着色剤、難燃剤、抗酸化剤、抗オゾン剤、紫外線安定化剤、静電気防止剤、殺菌剤および抗菌剤からなる群より選択される、少なくとも一つの添加成分、
【0101】
上記の(d)整泡剤以外の、ポリウレタン発泡体形成性組成物の原料成分およびその使用量については、当該分野における公知の原料を選択して用いることができ、例えば、特許文献6(国際公開第2016/166979号公報)に記載の各成分を参照することができる。
【0102】
なお、殆どのポリウレタンフォームに好適な整泡剤として、本発明にかかる組成物を用いることができる。その配合量は、(a)ポリオール100質量部に対して、前記組成物中の(A’)ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体が0.1~10質量部となる範囲であり、0.5~5質量部となる範囲が好ましく、1.0~3.0質量部がより好ましい。
【0103】
本発明にかかる「ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を含む組成物」を利用して得られるポリウレタン発泡体は、硬質フォーム、半硬質フォーム、軟質フォーム、低反発フォーム、HRフォーム、又はマイクロセルラーフォームであることができる。これらの詳細およびその製造プロセスについては、例えば、特許文献6(国際公開第2016/166979号公報)を参照することができ、特許文献6に記載の整泡剤の少なくとも一部または全部を本発明にかかる組成物を整泡剤に置き換えて、これらのポリウレタン発泡体を得ることができる。また、特許文献3(特開平08-156143号公報)や国際公開第2021/131378号公報の実施例・比較例等に記載された整泡剤或いはポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物の製造方法に、本発明で得られた手法[例えば、本発明の(N1+S0)成分を反応前に適量添加してから反応させる]を追加して活用すること、これにより各種ポリウレタン発泡体において泡性能の増強を図ることやセルサイズの調節を行うことは任意に可能である。
【0104】
その他、個別のポリウレタンフォームの製造方法は、適宜選択可能であるが、特に、本発明の製造方法により得られる「ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を含む組成物」は、以下の特許公開公報または特許公表公報の詳細な説明、特に実施例等に記載されたポリウレタンフォームの製造法において、シリコーン系整泡剤またはシリコーン界面活性剤、シリコーンコポリマー界面活性剤を置き換えて、好適に適用することができ、フォームの低VOC/エミッション化に貢献できるものである。なお、これらの詳細な説明又は実施例の開示は、製造装置に関する開示を含むものであり、当業者の通常の設計変更により、成分の一部をさらに置き換え、粘度等の変化に応じて、その製造条件を適宜変更するものであってもよい。
・米国特許第7825205号明細書(特許第5422115号公報)
・特開2014-210832号公報
・特開平07-090102号公報
・特許文献3(特開平08-156143号公報)、特公昭57-014797号公報
・特許文献6(国際公開第2016/166979号公報)
・特表2005-534770号公報、特表2005-534770号公報、特表2010-535931号公報に記載されたポリウレタン発泡体の製造方法;
・特表2010-539280号公報に記載された開放セルポリウレタンの製造プロセス
・特開2012-246397号公報、特開2009-265425号公報等に記載されたウレタンフォームを含むシール材
・特開2012-082273号公報、特開2010-247532号公報、特開2010-195870号公報、特開2002-137234号公報等に記載されたウレタンフォームの製造
・特表2010-500447号公報、特表2010-504391号公報、特表2010-538126号公報、特表2011-528726号公報、特表2013-529702号公報等に記載された粘弾性ポリウレタンフォームの製造
【0105】
更に、本発明の製造方法により得られるポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物を、ポリウレタンフォーム以外の、(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンにとって既知の工業用途、例えば繊維処理剤、衣類用柔軟剤、塗料添加剤等に利用することは任意である。
【0106】
[本発明の技術要素をその他のヒドロシリル化反応プロセスに転用することの開示および教示]
本発明にかかる酢酸ナトリウムのジオール溶液、および後述する比較例等で使用するカルボン酸塩等は、その機能を鑑みて、類似したヒドロシリル化反応プロセスにおいても同様のプロセス上の有利な効果が期待される。従って、本発明にかかるヒドロシリル化反応プロセスを参考にして、オルガノポリシロキサン主鎖にポリエーテル側鎖及び/又は末端鎖がグラフト結合した構造体を主成分とする、汎用的な非加水分解型ポリエーテル変性シリコーンを、本発明に係る酢酸ナトリウムのジオール溶液、或いは比較例にて検討したカルボン酸塩のジオール溶液等をこれらのヒドロシリル化反応プロセスに適用して、その生産効率および生産コスト等を改善することができる。
【実施例0107】
以下、実施例と比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらにより限定されるものではない。なお、下記組成式において、Me3SiO基(又は、Me3Si基)を「M 」、Me2SiO基を「D 」、MeHSiO基を「MH 」と表記し、MおよびD中のメチル基をいずれかの置換基によって変性した単位をMRおよびDRと表記する。また、IPAはイソプロパノール、MeOHはメタノール、BDPGはジプロピレングリコールモノブチルエーテル、EOはエチレンオキシド又はオキシエチレン基、POはプロピレンオキシド又はオキシプロピレン基を表す。
【0108】
<参考データ1>
本発明の組成物および製造方法は、使用する原料の品質の影響を緩和し、実用上十分な性能を実現することを特徴の一つとする。BDPGの供給業者による品質の違いは表1の通りであり、H社、L社のBDPGは純度、水分量、酸価などが異なる。
[表1]:BDPGの供給業者による品質の違い
【表1】
【0109】
以下の実験例において、直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーの原料成分として、
(a1-1)平均組成式 CH2=C(CH3)CH2-O(C2H4O)35(C3H6O)27-CH2-C(CH3)=CH2 で表されるビスメタリルポリエーテル(不飽和度0.67meq/g、水酸基価0.8mg-KOH/g)
(a1-2)平均組成式CH2=C(CH3)CH2-O(C2H4O)35(C3H6O)27-CH2-C(CH3)=CH2 で表されるビスメタリルポリエーテル(不飽和度0.64meq/g、水酸基価2.1mg-KOH/g)
(a1-3)平均組成式CH2=C(CH3)CH2-O(C2H4O)35(C3H6O)27-CH2-C(CH3)=CH2 で表されるビスメタリルポリエーテル(不飽和度0.60meq/g、水酸基価3.8mg-KOH/g)
(a1-4)平均組成式CH2=C(CH3)CH2-O(C2H4O)35(C3H6O)27-CH2-C(CH3)=CH2 で表されるビスメタリルポリエーテル(不飽和度0.63meq/g、水酸基価0.7mg-KOH/g)
*備考:(a1-1)~(a1-4)はビスメタリルポリエーテルのロット違い原料に対応する。
(a2-1)平均組成式 MHD20MH で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン
ヒドロシリル化反応触媒:1、3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン白金錯体の配位子溶液(Pt濃度0.43wt%)
を用いた。
また、(B´)成分として上記のH社製またはL社製のBDPGを使用する場合、「(B´)BDPG(H社)」または「(B´)BDPG(L社)」と表記する。
【0110】
[各実験例における光透過率(T%)]
以下の実験例において、得られた各組成物の透明度(T%)は、波長580nmの光透過率を分光光度計により測定した。結果をT%として表中に示す。
【0111】
<参考試験1>
酢酸ナトリウムの各種溶媒中への溶解度を、濃度水準や実験時の都合等に応じて、以下の2種類の手法で調査した。酢酸ナトリウムは、試薬特級グレードのものをそのまま使用した。水は、イオン交換水を用いた。それ以外の各種溶媒については、試薬或いは商業的に入手できる市販グレードのものをそのまま利用した。
【0112】
[手法Iの手順]
1)酢酸ナトリウム粉末と溶媒を所定量、25mLスクリュウ菅に仕込み、栓をして1分間激しく振り混ぜる。少し間をおいて、振り混ぜを10回程度繰り返す。
2)溶解させるために、スクリュー菅を50℃の恒温槽に30~60分程度静置する。その後、取り出して振り混ぜを10回程度繰り返す。
3)酢酸ナトリウム粉末が完全には溶解してない場合は、スクリュー菅を5℃の冷蔵庫に30分程度静置する。その後、取り出して振り混ぜを10回程度繰り返す。
4)得られた混合物の外観を観察する。この段階で未だ完全には溶解してない場合、更に1日、或いは場合により2~3日間、室温で静置した後の外観を観察して記録する。
注)溶媒が水の場合、溶解性に優れるため上記1)の手順のみで終了した。一方、溶媒がIPAなど引火点の低い液体の場合には、上記2)と3)の手順を省略した。この他のケースは、上記4段階のステップのうち、酢酸ナトリウムが完全に溶解した段階で手順を終了した。そして、上記4)の工程を終えても完全に溶解しなかったケースは、その時の状態を記録した。
【0113】
[手法IIの手順]
1′)酢酸ナトリウム粉末と溶媒を所定量、200mLガラス瓶に仕込んだ後、ホモディスパーミクサーの攪拌羽根が混合物に浸り、ガラス瓶には触れぬようにセットする。
2′)3000rpm、5分間の攪拌を行う。
3′)酢酸ナトリウムの粉末が完全には溶解してない場合、状況に応じて2′)を2~3回繰り返す。
4′)得られた混合物の外観を観察して記録する。この段階で未だ完全には溶解してない場合、更に1日、或いは場合により2~3日間、室温で静置した後の外観を観察して記録する。
注)上記4段階のステップのうち、酢酸ナトリウムが完全に溶解した段階で手順を終了した。そして、上記4′)の工程を終えても完全に溶解しなかったケースは、その時の状態を記録した。
【0114】
下表2に、酢酸ナトリウムの各種溶媒への濃度ごとの溶解性試験の結果をまとめた。なお、表中の溶解性を示す記号の右に示したカッコは、手順Iと手順IIのどちらで試験を行ったかを示したものである。
[表2]:酢酸ナトリウムの各種溶媒への溶解性
【表2】
注)表2中の各セルの記号(溶解性の程度を示す)の意味は以下の通りである。
-:試験を行っていない
◎:完全に溶解(明らかな透明均一液体)
〇:ほぼ透明均一な液体に見える
△:ごく少量の沈殿物(未溶解物)が認められる
×:沈殿物が明瞭に、且つ相当量認められる
注)表2および以下の実験例中、溶媒名の略字は以下の意味である。
PG: プロピレングリコール、DPG: ジプロピレングリコール、TPG: トリプロピレングリコール、1,3-BG: 1,3-ブチレングリコール、EG: エチレングリコール、DEG: ジエチレングリコール、TEG: トリエチレングリコール、1,2-PD: 1,2-ペンタンジオール、1,2-HD: 1,2-ヘキサンジオール、PEG-200: ポリエチレングリコール (Mw 200)、PEG-300: ポリエチレングリコール (Mw 300)、PEG-400: ポリエチレングリコール (Mw 400)、PEG-600: ポリエチレングリコール (Mw 600)、PPG-250: ポリプロピレングリコール (Mw 250)、PPG-425: ポリプロピレングリコール (Mw 425)、PPG-700: ポリプロピレングリコール (Mw 700)、GPEG-450: グリセリンのEO付加物 (Mw 450)、GPPG-330: グリセリンのPO付加物 (Mw 330)、MPD: 2-メチル-2,4-ペンタンジオール(ヘキシレングリコール)、MPEG-400: ポリエチレングリコールモノメチルエーテル (Mw 400)、MPEG-400M: ポリエチレングリコールジメチルエーテル (Mw 400)
【0115】
[実施例1-1]
500mL反応器に、(a2-1) メチルハイドロジェンポリシロキサン 45.81g、(a1-3)ビスメタリルポリエーテル104.19g(天然ビタミンEを500ppm含有)、(B´)BDPG(L社)150g、(N1+S0)2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.30gを仕込み、窒素ガス流通下で攪拌しながら60℃まで加温した。ヒドロシリル化反応触媒を0.04mL添加し、60~80℃で2.5時間反応を行なったところ、反応がほぼ完結した。これにより、平均組成式
【化7】
(ここで、a=20,x1=35,y1=27,n<6)
で表される構成単位を少なくとも含有する直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーとBDPGとを50:50の比率で含む、淡黄色ほぼ透明液状
のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1606mm2/s,(25℃)」を得た。
【0116】
原料のC=C基とSi-H基のモル比をC=C/SiH=1.10としたため、共重合体の両末端は主としてポリエーテルで封鎖された形(=末端官能基はポリエーテルに結合したメタリル基又は水酸基)と考えられる。また、反応中に一部のSi-H基は系内の水分やアルコール類と脱水素縮合を起こし得るので、共重合体末端の一部はSiOH或いはSiO-R1(R1はBDPG等の残基)の構造を含むと考えられる。なお、ここでポリエーテル部分は、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム付加体である。なお、これは以下の実施例1-2~1-3,比較例2-2~2-4,参考例1,参考例2でも同様である。
【0117】
[実施例1-2]
2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.30gを、
1%酢酸ナトリウムのTPG溶液0.77gに代え、ヒドロシリル化反応触媒を0.08~0.09mL使用し、60~80℃で6時間反応を行なって反応をほぼ完結させた他は実施例1-1と同様にして実験を行い、褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1653mm2/s,(25℃)」を得た。
【0118】
[実施例1-3]
2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.30gを、
1%酢酸ナトリウムの1,3-BG溶液0.75gに代え、ヒドロシリル化反応触媒を0.08~0.09mL使用し、60~80℃で3.5時間反応を行なって反応をほぼ完結させた他は実施例1-1と同様にして実験を行い、褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1694mm2/s,(25℃)」を得た。
【0119】
[比較例1]
1L反応器に(a2-1) メチルハイドロジェンポリシロキサン75.25g、(a1-2)ビスメタリルポリエーテル174.75g、(B´)BDPG(H社)250g、天然ビタミンEを0.25g仕込み、窒素流通下で攪拌しながら80~90℃まで加温した。1、3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン白金錯体のIPA溶液(Pt濃度0.41wt%)を0.56g添加し、2.5時間反応を行なった。次いで反応液を少量採取し、アルカリ分解ガス発生法(残存したSi-H基をKOHのエタノール/水溶液によって分解し、発生した水素ガスの体積から反応率を計算する)により確認したところ反応は完結していた。これにより、平均組成式
【化8】
(ここで、a=20,x1=35,y1=27,n≒6)
で表される構成単位を少なくとも含有する直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーとBDPGとを50:50の比率で含む、ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1680mm2/s,(25℃)」を得た。
【0120】
なお、平均組成式を簡易に表記したが、原料のC=C基とSi-H基のモル比はC=C/SiH=1.18としたため、共重合体の両末端はポリエーテルで封鎖された形(=末端官能基はポリエーテルに結合したメタリル基又は水酸基)となっている。また、反応中に一部のSi-H基は系内の水分やアルコール類と脱水素縮合を起こし得るので、共重合体末端の一部はSiOH或いはSiO-R1(R1はBDPG或いはIPA等の残基)の構造を含むと考えられる。なお、ここでポリエーテル部分は、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム付加体である。
【0121】
[比較例2-1]
500mL反応器に、(a2-1) メチルハイドロジェンポリシロキサン45.81g、(a1-3)ビスメタリルポリエーテル104.19g(天然ビタミンEを500ppm含有)、(B´)BDPG(L社)150gを仕込み、窒素ガス流通下で攪拌しながら60℃まで加温した。ヒドロシリル化反応触媒を0.04mL添加し、60~80℃で3時間反応を行なった。次いで反応液を少量採取し、アルカリ分解ガス発生法により確認したところ反応はほぼ完結していた。これにより、平均組成式
【化9】
(ここで、a=20,x1=35,y1=27,n<6)
で表される構成単位を少なくとも含有する直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーとBDPGとを50:50の比率で含む、不透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「931mm2/s,(25℃)」を得た。
【0122】
[比較例2-2]
500mL反応器に、(a2-1) メチルハイドロジェンポリシロキサン45.81g、(a1-3)ビスメタリルポリエーテル104.19g(天然ビタミンEを500ppm含有)、(B´)BDPG(L社)150g、酢酸ナトリウム固体0.009gを仕込み、窒素流通下で攪拌しながら56℃まで加温した。ヒドロシリル化反応触媒を0.08mL添加し、60~80℃で6時間反応を行なった結果、反応がほぼ完結した。これにより、平均組成式
【化10】
(ここで、a=20,x1=35,y1=27,n≒6)
で表される構成単位を少なくとも含有する直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーとBDPGとを50:50の比率で含む、半透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1528mm2/s,(25℃)」を得た。
【0123】
[比較例2-3]
酢酸ナトリウム固体0.009gを5wt.%酢酸ナトリウムのMeOH溶液0.15gに代え、ヒドロシリル化反応触媒を0.08mL添加し、60~90℃で6時間反応を行って反応をほぼ完結させた他は比較例2-2とほぼ同様にして実験を行った。これにより、平均組成式
【化11】
(ここで、a=20,x1=35,y1=27,n≒6)
で表される構成単位を少なくとも含有する直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーとBDPGとを50:50の比率で含む、半透明~ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1581mm2/s,(25℃)」を得た。
【0124】
[比較例2-4]
2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.30gを、
2.5%酢酸ナトリウムのDPG溶液0.30gに代え、ヒドロシリル化反応触媒を0.05mL使用し、60~80℃で3時間反応を行なって反応をほぼ完結させた他は実施例1-1と同様にして実験を行い、淡褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1406mm2/s,(25℃)」を得た。
【0125】
[参考例1]
500mL反応器に、(a1-3)ビスメタリルポリエーテル104.19g(天然ビタミンEを500ppm含有)、5wt.%酢酸ナトリウムのMeOH溶液0.15gを仕込み、窒素流通下で攪拌しながら加温を開始した。60~80℃,2mmHgの条件下で30分間のストリピング操作によりMeOHを系外に取り除いた。復圧し、攪拌下に(a1-1)メチルハイドロジェンポリシロキサン45.81g、(B´)BDPG(L社)150gを追加し、更にヒドロシリル化反応触媒を0.08mL添加し、60~80℃で5時間反応を行なった結果、反応がほぼ完結した。これにより、平均組成式
【化12】
(ここで、a=20,x1=35,y1=27,n≒6)
で表される構成単位を少なくとも含有する直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーとBDPGとを50:50の比率で含む、ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1619mm2/s,(25℃)」を得た。
【0126】
[参考例2]
2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.30gを、
25%酢酸ナトリウム水溶液0.04gに代え、ヒドロシリル化反応触媒を0.04~0.05mL使用し、60~80℃でのエージングを4時間行なって反応をほぼ完結させた他は実施例1-1と同様にして実験を行い、淡黄色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1652mm2/s,(25℃)」を得た。
【0127】
[各実験における評価基準]
直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーを与えるヒドロシリル化反応プロセスについては、原料および反応系の相違を考慮し、以下のように評価した。
実施例1-1~1-3、比較例2-1~2-4、参考例1および参考例2について、
・参考例1 :望ましい基準品(High Standard:H基準)
・比較例2-3:許容下限としての基準品(Low Standard:L基準)
とし、これらの基準品に対する相対的な物性を評価した。
さらに、ヒドロシリル化反応性(以下、単に「反応性」ということがある)については、参考例1を「可」として、
より良好な反応性の場合「良」、
特に優れた反応性の場合「優」
として評価した。
また、得られた組成物の粘度(変化率)については、参考例1を「0%」(=基準)とした各実験例における粘度の上下値を%で表中に示した。ただし、比較例1については、BDPGソースが異なるため、粘度変化率の評価対象としていない。
【0128】
[小括]
実施例1-1~実施例1-3は、比較的安価で酸価がやや高いL社製のBDPGを原料に用いたものであり、望ましい基準品(H基準)である参考例1と対比した場合、ほぼ遜色のない反応性、粘度、透明性(すなわち、光透過率T%)を備えたポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物を製造することができた。即ち、酢酸ナトリウムのPG溶液、TPG溶液、または1,3-BG溶液を用いることで、ストリピング工程を全く含まない簡便なプロセスにより、副反応が効果的に抑制され、高粘度であって、共重合体の重合度がより高く、設計構造により近い、実用上十分な品質を備えた組成物が得られることが分かった。この中でも、酢酸ナトリウムの溶解し易さと溶媒の汎用性という両面から、実施例1-1(PG溶液)が実用上、最も好ましいものと思われる。
【0129】
一方、比較例1は緩衝剤や酢酸ナトリウムを含まず、国際公開第2016/166979号公報(特許文献6)の参考例1-1の内容に概ね対応する。酸価が低く、高純度、高価なH社製のBDPGを使用することで、コポリマーの分子量を含め、実用的な粘度、外観を有する組成物を得ることができたが、H社製のBDPGは高価であるので、本組成物を低価格かつ安定的に市場に供給することが困難である。
【0130】
他方、比較的安価で酸価がやや高いL社製のBDPGを原料に用いた比較例2-1では低粘度で不透明な組成物しか得られなかった。同様に、比較例2-2においては、特許文献8と特許文献11の実施例の製造方法を参考に、酢酸ナトリウムを固体のまま本発明に係る(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンの合成反応系に添加し、緩衝剤として使用を試みたものであるが、基準品と比較すると、得られた組成物の粘度及び透明性が不足する結果となった。すなわち、酢酸ナトリウムを系中に微細分散させ、残存する酸性物質の中和および組成物外観の透明性の改善の見地から、固体のまま使用するより溶液系で使用する方が効果的であることが分かった。
【0131】
比較例2-3は特許文献7と特許文献9の実施例の製造方法を参考に、酢酸ナトリウムをMeOH溶液として本発明に係る(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンの合成反応系に添加し、緩衝剤として使用を試みたものである。比較例2-3によりL基準品を得ることはできたが、実施例1-1~実施例1-3には粘度、透明性などの点で及ぶものではない。同様に、比較例2-4は実施例1-1(=PG溶液)と異なり、酢酸ナトリウムをDPG溶液の形態で添加したものであるが、低粘度であり、共重合体の重合度が高い組成物を得ることができなかった。このことから、緩衝剤としての酢酸ナトリウムとして、本願発明の成分(S0)以外の溶液を使用しても、本発明の技術的効果が十分に達成できない場合があることが確認できた。
【0132】
他方、参考例1は、比較例2-3と同じ処方(各原料の使用量が同一)であるが、溶液として添加した酢酸ナトリウムの溶媒であるMeOHを、予め加熱減圧操作により反応系から除いた後、触媒を添加してヒドロシリル化反応を開始した点が異なる。これにより、同一の原料ロットを使用した一連の実験(比較例2-1~比較例2-3、及び参考例1)の中で、最も高粘度(即ち、最も副反応の少ない示唆)かつ透明性に優れる組成物が得られたため、H基準品とした。しかしながら、MeOH溶液の場合には、実施例1-1~実施例1-3と異なり、ストリピング操作が必要であり、工程的に不利であった。
【0133】
参考例2は、比較例2-3と同じ処方であるが、緩衝剤として添加する酢酸ナトリウムの溶媒として、水溶液を用いることで、望ましい基準品(H基準)である参考例1と対比した場合、ほぼ遜色のない反応性、粘度、透明性を備えたポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物を製造することができた。しかしながら、後述する比較例4に示す通り、原料ロットが変わると、この結果が再現できなかったことから、水を溶媒とする場合、安定した技術的効果が実現できない場合がある。なお、後述する通り、実施例1-1については、異なる原料ロットにおける実施例3-1においても良好な再現性が得られている。
【0134】
以上の結果を下表3に示す。
【表3】
(**)原料成分のロットを変えた比較例4では再現できなかった。
【0135】
[参考例3、実施例2-1~2-4、実施例3-1,3-2,比較例3-1~3-7、比較例4]
以下、(a1-3)ビスメタリルポリエーテルに代えて、同一構造で製造ロットの異なる(a1-1)ビスメタリルポリエーテル(不飽和度0.67meq/g、水酸基価0.8mg-KOH/g)を用いて、酢酸ナトリウムを溶解する溶媒の効果および実施例1-1の再現性確認(実施例3-1)、参考例2の再現性確認(比較例4)を行った。
【0136】
なお、これらの実験例においては、評価基準として、
・参考例3 :望ましい基準品(High Standard:H基準)
・比較例3-1:許容下限としての基準品(Low Standard:L基準)
とし、これらの基準品に対する相対的な物性を評価した他は、実施例1-1等と同様にして評価した。
【0137】
[参考例3]
500mL反応器に、(a1-1)ビスメタリルポリエーテル(天然ビタミンEを500ppm含有)86.19g、5wt.%酢酸ナトリウムのMeOH溶液0.12~0.13gを仕込み、窒素流通下で攪拌しながら加温を開始した。60~80℃,1-3mmHgの条件下で40分間のストリピング操作によりMeOHを系外に取り除いた。復圧し、攪拌下に(a2-1)メチルハイドロジェンポリシロキサン38.31g、(B´)BDPG(L社)125gを追加し、更にヒドロシリル化反応触媒を0.06mL添加し、60~90℃で6時間反応を行なった結果、反応の完結を確認できた。
これにより、平均組成式
【化13】
(ここで、a=20,x1=35,y1=27,n≒6)
で表される構成単位を少なくとも含有する直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーとBDPGとを50:50の比率で含む、ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1714mm2/s,(25℃)」を得た。原料のC=C基とSi-H基のモル比をC=C/SiH=1.20とした。
【0138】
参考例3では主原料の合計量を250gとした点が、参考例1の300gでの実験と異なった。また、ポリエーテルの製造ロット違いに由来するメタリル封鎖率(残存水酸基価により判別)や不飽和度(平均分子量の目安)の違いを考慮して、共重合体組成物の粘度が目標範囲に入るよう、C=C/SiHモル比を参考例1の1.10から1.20に変更した。しかし、参考例1の製造プロセスと処方中に微細分散させた酢酸ナトリウム(反応系全体の25wt.ppm,BDPGに対して50wt.ppm)の効果については、共重合体組成物の粘度と外観から分かるように、参考例3において良好に再現できたと考えられる。
【0139】
[実施例2-1]
500mL反応器に、(a2-1)メチルハイドロジェンポリシロキサン38.81g、(a1-1)ビスメタリルポリエーテル 86.19g(天然ビタミンEを500ppm含有)、(B´)BDPG(L社)125g、(N1+S0)5%酢酸ナトリウムのDEG溶液0.13~0.14gを仕込み、窒素流通下で攪拌しながら46℃まで加温した。ヒドロシリル化反応触媒を0.06mL添加し、50~90℃で7時間反応を行なった。反応液を少量採取しアルカリ分解ガス発生法により確認したところ、反応はほぼ完結していた。
これにより、平均組成式
【化14】
(ここで、a=20,x1=35,y1=27,n≒6)
で表される構成単位を少なくとも含有する直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーとBDPGとを50:50の比率で含む、淡褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1646mm2/s,(25℃)」を得た。
【0140】
[実施例2-2]
5%酢酸ナトリウムのDEG溶液0.13~0.14gを、
3%酢酸ナトリウムのPEG-200溶液0.20gに代え、50~80℃でのエージングを3時間行なって反応をほぼ完結させた他は、実施例2-1と同様にして実験を行い、淡褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1647mm2/s,(25℃)」を得た。
【0141】
[実施例2-3]
5%酢酸ナトリウムのDEG溶液0.13~0.14gを、
1%酢酸ナトリウムのPEG-400溶液0.63gに代え、40~90℃でのエージングを6時間行なって反応をほぼ完結させた他は、実施例2-1と同様にして実験を行い、淡黄褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1639mm2/s,(25℃)」を得た。
【0142】
[実施例2-4]
5%酢酸ナトリウムのDEG溶液0.13~0.14gを、
2%酢酸ナトリウムの1,2-PD溶液0.33gに代え、55~90℃でのエージングを6.5時間行って反応をほぼ完結させた他は、実施例2-1と同様にして実験を行い、淡黄褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1686mm2/s,(25℃)」を得た。
【0143】
[実施例3-1]
500mL反応器に、(a2-1) メチルハイドロジェンポリシロキサン 46.58g、(a1-1)ビスメタリルポリエーテル103.44g(天然ビタミンEを500ppm含有)、(B´)BDPG(L社)150g、(N1+S0)2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.30g(酢酸ナトリウムとしてBDPGに対して50wt.ppm)を仕込み、窒素ガス流通下で攪拌しながら50℃まで加温した。ヒドロシリル化反応触媒を0.07mL添加し、50~80℃で4時間反応を行なったところ、反応がほぼ完結した。これにより、平均組成式
【化15】
(ここで、a=20,x1=35,y1=27,n≒6)
で表される構成単位を少なくとも含有する直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーとBDPGとを50:50の比率で含む、淡黄褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1639mm2/s,(25℃)」を得た。
【0144】
原料のC=C基とSi-H基のモル比をC=C/SiH=1.20としたため、共重合体の両末端は主としてポリエーテルで封鎖された形(=末端官能基はポリエーテルに結合したメタリル基又は水酸基)と考えられる。また、反応中に一部のSi-H基は系内の水分やアルコール類と脱水素縮合を起こし得るので、共重合体末端の一部はSiOH或いはSiO-R1(R1はBDPG等の残基)の構造を含むと考えられる。なお、ここでポリエーテル部分は、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム付加体である。
【0145】
上記の実施例3-1は、実施例1-1の再現性確認試験に相当するところ、実施例3-1で得られた組成物は、実施例1-1の外観と粘度を概ね再現していた。ここで利用した緩衝剤システム(酢酸ナトリウムのPG溶液)の効果の再現性は良好と考えられる。
【0146】
[実施例3-2]
2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.30gを、
2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.13g(酢酸ナトリウムとしてBDPGに対して22wt.ppm)に代え、50~80℃で3時間反応を行って、反応をほぼ完結させた他は、実施例3-1と同様にして実験を行い、淡黄褐色半透明~ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1671mm2/s,(25℃)」を得た。
【0147】
[比較例3-1]
5%酢酸ナトリウムのDEG溶液0.13~0.14gを、
5wt.%酢酸ナトリウムのMeOH溶液0.12~0.13gに代え、60~80℃で4時間反応を行って、反応をほぼ完結させた他は、実施例2-1と同様にして実験を行い、半透明~ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1533mm2/s,(25℃)」を得た。
【0148】
上記の比較例3-1は、比較例2-3の再現性確認試験に相当し、参考例3との対比の観点から主原料の合計量を250g(各原料の使用量も参考例3と同一)とした点が、比較例2-3の300gでの実験と異なる。しかし、比較例3-1で得られた重合体組成物の粘度と外観は、比較例2-3と類似していた。また、MeOHを除いてから反応を実施した場合とMeOH共存下で反応を実施した場合での共重合体組成物の粘度傾向(前者は高く、後者は低い)についても、再現性が得られた。
【0149】
[比較例3-2]
5%酢酸ナトリウムのDEG溶液0.13~0.14gを、
10%酢酸ナトリウムのEG溶液0.08gに代え、50~80℃でのエージングを3時間行った他は、実施例2-1と同様にして実験を行い、淡黄褐色半透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1581mm2/s,(25℃)」を得た。
【0150】
[比較例3-3]
5%酢酸ナトリウムのDEG溶液0.13~0.14gを、
5%酢酸ナトリウムのTEG溶液0.14gに代え、60~90℃で6.5時間反応を行なった他は、実施例2-1と同様にして実験を行い、淡褐色半透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1579mm2/s,(25℃)」を得た。
【0151】
[比較例3-4]
5%酢酸ナトリウムのDEG溶液0.13~0.14gを、
2%酢酸ナトリウムのPEG-300溶液0.31gに代え、55~80℃でのエージングを3.5時間行った他は、実施例2-1と同様にして実験を行い、淡褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1526mm2/s,(25℃)」を得た。
【0152】
[比較例3-5]
5%酢酸ナトリウムのDEG溶液0.13~0.14gを、
2%酢酸ナトリウムの1,2-HD溶液0.32gに代え、50~90℃でのエージングを5.5時間行った他は、実施例2-1と同様にして実験を行い、淡黄褐色半透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1508mm2/s,(25℃)」を得た。
【0153】
[比較例3-6]
5%酢酸ナトリウムのDEG溶液0.13~0.14gを、
1%酢酸ナトリウムのPPG-250溶液0.63gに代え、50~80℃でのエージングを3時間行った他は、実施例2-1と同様にして実験を行い、淡黄褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1558mm2/s,(25℃)」を得た。
【0154】
[比較例3-7]
5%酢酸ナトリウムのDEG溶液0.13~0.14gを、
1%酢酸ナトリウムのGPEG-450溶液0.64gに代え、55~80℃でのエージングを3時間行った他は、実施例2-1と同様にして実験を行い、淡黄褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1400mm2/s,(25℃)」を得た。
【0155】
[比較例4]
500mL反応器に、(a2-1) メチルハイドロジェンポリシロキサン 46.58g、(a1-1)ビスメタリルポリエーテル 103.44g(天然ビタミンEを500ppm含有)、(B´)BDPG(L社)150g、25%酢酸ナトリウム水溶液0.04gを仕込み、窒素流通下で攪拌しながら50℃まで加温した。ヒドロシリル化反応触媒を0.07mL添加し、50~90℃で7.5時間反応を行なったところ反応がほぼ完結した。これにより、平均組成式
【化16】
(ここで、a=20,x1=35,y1=27,n<6)
で表される構成単位を少なくとも含有する直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーとBDPGとを50:50の比率で含む、淡黄色半透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1486mm2/s,(25℃)」を得た。これは、参考例2に比して著しく低粘度である。
【0156】
比較例4は参考例2の再現性確認を目的とし、(a1-3)ビスメタリルポリエーテルに代えて、同一構造で製造ロットの異なる(a1-1)ビスメタリルポリエーテルに置き換え、ポリエーテルの製造ロット違いに由来するメタリル封鎖率(残存水酸基価により判別)や不飽和度(平均分子量の目安)の違いを考慮して、共重合体組成物の粘度が目標範囲に入るよう、C=C/SiHモル比を参考例2の1.10から1.20に変更したものである。なお、同様なC=C/SiHモル比の変更を行った参考例3において、参考例1と同水準の品質が得られた。
【0157】
[小括]
実施例2-1~2-4に示す通り、本願発明の成分(S0)を用いて調製した酢酸ナトリウム溶液を用いることで、ビスメタリルポリエーテルの製造ロットを変更し、比較的安価で酸価がやや高いL社製のBDPGを原料に用いても、ストリピング工程を全く含まない簡便なプロセスにより、副反応が効果的に抑制され、高粘度であって、共重合体の重合度がより高く、設計構造により近い、実用上十分な品質を備えた組成物が得られることが分かった。特に望ましい基準品(H基準)である参考例3と対比した場合、ほぼ遜色のない反応性、粘度、透明性(すなわち、光透過率T%)を備えたポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物を製造することができる。なお、参考例3はMeOH溶液を用いることからストリピング操作が必要であり、工程的に不利である点は参考例1と同様である。
【0158】
さらに、実施例3-1に示す通り、実施例1-1からビスメタリルポリエーテルの製造ロットを変更しても、良好な再現性が確認できた。これは、ビスメタリルポリエーテルの製造ロット変更により、参考例2および比較例4で再現性が得られなくなった結果と対照的な結果であり、本願発明の成分(S0)を用いて調製した酢酸ナトリウム溶液を用いることの技術的優位性が認められる。なお、本願発明の範囲内で酢酸ナトリウムの使用量を低減した実施例3-2においても、参考例3(H基準)、実施例3-1とほぼ遜色のないポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物を製造することができた。
【0159】
これに対して、比較例3-1~3-7に示す通り、成分(S0)以外の溶媒を用いた酢酸ナトリウム溶液を用いた場合、いずれも対応する実施例や参考例3(H基準)に比して、低粘度であるか、透明性に劣る結果となった。本結果の通り、本発明にかかる製造方法において、成分(S0)としてごく限られた溶媒を選択しない限り、酢酸ナトリウム溶液を用いても、副反応の抑制等が不十分であり、目的とする技術的効果を実現できない場合があるので、成分(S0)の限定は、本発明の技術的効果との関係で必要不可欠である。
【0160】
比較例4は溶媒に水を用いており、参考例2において一見良好な製造が可能であった酢酸ナトリウム水溶液を用い、原料であるビスメタリルポリエーテルの製造ロットを変更した実験(=再現性確認試験)であるが、参考例2に比して著しく低粘度の共重合体組成物しか得ることはできなかった。従って、成分(S0)に代えて、水を用いた場合、所望の技術的効果が発揮される条件が非常に狭いか、不安定であり、得られる組成物の品質の再現性に難があるので、本発明の製造方法に比して実用性に乏しく、安定した生産が行えないという不利があると思われる。
【0161】
以上の結果を下表4に示す。
【表4】
(**)原料成分のロットを変えた結果、参考例2の結果を再現できなかった。
【0162】
[比較例5-1~5-3、比較例6-1~6-3]
実施例3-1をベースとして、酢酸ナトリウム以外の幾つかのカルボン酸塩(酪酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酢酸アンモニウム)の効果を比較例5-1~5-3において確認した。また、酢酸ナトリウムの添加量が本願発明の範囲(16~60ppm)の外にある場合の効果を比較例6-1~6-3において確認した。
【0163】
なお、比較例5-1~5-3におけるカルボン酸塩の2.5%PG溶液は試薬グレードのカルボン酸塩を用い、全手法IIの手順に従って調製したものである。比較のため、カルボン酸塩のモル数或いはモル濃度を、「酢酸ナトリウムとしてBDPGに対して50wt.ppm」の場合と同一にした。そのため、緩衝剤成分の分子量によって、添加したwt.ppmの数値は異なっている点に留意されたい。
【0164】
[比較例5-1]
2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.30gを、
2.5%酪酸ナトリウムのPG溶液0.40gに代え、55~90℃でのエージングを4.5時間行って、反応をほぼ完結させた他は、実施例3-1と同様にして実験を行い、淡黄褐色ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1606mm2/s,(25℃)」を得た
【0165】
[比較例5-2]
2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.30gを、
2.5%プロピオン酸ナトリウムのPG溶液0.36gに代え、45~90℃でのエージングを5時間行って、反応をほぼ完結させた他は、実施例3-1と同様にして実験を行い、淡黄褐色半透明~ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1545mm2/s,(25℃)」を得た
【0166】
[比較例5-3]
2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.30gを、
2.5%酢酸アンモニウムのPG溶液0.23gに代え、ヒドロシリル化反応触媒を0.06mL使用し、50~80℃でエージングを開始した他は、実施例3-1と同様にして実験を行った。しかしながら、20分経過しても他の実験例とは異なり反応による発熱がほとんど認められず、反応混合物の外観も白濁したままであった。
【0167】
そこで、ヒドロシリル化反応触媒を0.06mL追加したが、白金黒のスカム生成(触媒失活)が認められ、更に1時間エージングを継続したが、白濁した外観に変化がなかったので、実験終了し、反応性「不良」と評価した。比較例5-3では、目的とするポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物は得られなかった。
【0168】
[比較例6-1]
2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.30gを、
5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.32g(酢酸ナトリウムとしてBDPGに対して106wt.ppm)に代え、50~80℃でのエージングを3.5時間行って、反応をほぼ完結させた他は、実施例3-1と同様にして実験を行い、黄褐色半透明~ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1563mm2/s,(25℃)」を得た。
【0169】
[比較例6-2]
500mL反応器に、(a2-1) メチルハイドロジェンポリシロキサン 38.81g、(a1-1)ビスメタリルポリエーテル86.18g(天然ビタミンEを500ppm含有)、(B´)BDPG(L社)150g、5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.37~0.38g(酢酸ナトリウムとしてBDPGに対して150wt.ppm)を仕込み、窒素ガス流通下で攪拌しながら50℃まで加温した。ヒドロシリル化反応触媒を0.06mL添加し、55~90℃で7時間反応を行なったところ、反応が完結した。これにより、平均組成式
【化17】
(ここで、a=20,x1=35,y1=27,n<6)
で表される構成単位を少なくとも含有する直鎖状オルガノポリシロキサン-ポリエーテルブロックコポリマーとBDPGとを50:50の比率で含む、淡黄褐色半透明~ほぼ透明液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1479mm2/s,(25℃)」を得た。
【0170】
[比較例6-3]
5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.37~0.38gを、
2.5%酢酸ナトリウムのPG溶液0.04g(酢酸ナトリウムとしてBDPGに対して8wt.ppm)に代え、ヒドロシリル化反応触媒を0.06mL使用し、45~80℃でのエージングを3時間行って、反応をほぼ完結させた他は、比較例6-2と同様にして実験を行い、黄褐色半透明~濁り液状のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物「1453mm2/s,(25℃)」を得た
【0171】
[小括]
比較例5-1~5-3と実施例3-1または参考例3(H基準)を対比した場合、粘度または透明性において、いずれも劣る結果となった。特に、比較例5-3において、酢酸アンモニウムはヒドロシリル化反応を阻害し、不均質な生成物と副反応を起こすことから、本発明にかかる製造原料系に適しないものであった。
【0172】
他方、比較例6-1~6-3と実施例3-1または参考例3(H基準)を対比した場合、本願発明における酢酸ナトリウムの添加量の上限を超える比較例6-1、6-2では、組成物の粘度低下が生じた。酢酸ナトリウムの添加量自体はL社製のBDPGの酸不純物を中和乃至緩衝するには十分な量であることから、酢酸ナトリウムが過剰量となると副反応の影響が再び現れることが考えられる。また、比較例6-3は、本願発明における酢酸ナトリウムの添加量の下限未満であり、L社製のBDPGの酸不純物を十分に中和乃至鑑賞できず、副反応の影響により粘度低下および濁りを生じたものと考えられる。
【0173】
以上の通り、本願発明の技術的効果を実現するため、カルボン酸塩として酢酸ナトリウムを選択することが必要であり、その使用量の範囲には臨界的意義があり、添加量が過剰もしくは不足すると、本発明の技術的効果が実現できないことが確認できた。
【0174】
以上の結果を下表5に示す。
【表5】
*反応が進行せず、共重合体組成物を得られず。外観白濁。
【0175】
[酢酸ナトリウムのBDPGに対する添加量[ppm]の有効範囲]
実施例3-1、3-2、比較例6-1~6-3により得たデータに基づき、酢酸ナトリウムをPG溶液として使用した場合の、酢酸ナトリウムのBDPGに対する添加量[ppm]と、ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物の粘度変化率(H基準品に対する粘度変化率%)をプロットした結果を
図1に示す。ここで、粘度変化率に関する基準線は、以下の通り設定した。
参考例3(H基準品):粘度変化率0%
比較例3-1(L基準品):粘度変化率 -10.3%
目標水準: 前記の参考例3と比較例3-1の粘度変化率の中間値であり、-5.2%
【0176】
ここで、
図1のグラフに基づき、得られたポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物が上記の目標水準(H/L水準の中間値)より小さな絶対値の粘度変化率を与える酢酸ナトリウムの添加量は、BDPGに対して16~60ppmの範囲であった。当該実績値に基づき、本発明にかかる酢酸ナトリウムの添加量の上限値および下限値を決定した。
【0177】
[参考例3、比較例3-1、実施例3-1の29SiNMR分析結果]
本発明にかかるH基準品(参考例3)、L基準品(比較例3-1)及び実施例3-1サンプルの29SiNMRによる分析結果のまとめであり、得られた組成物中の主成分であるポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)の平均構造情報を示したものである。なお、表6における平均構造(物質量比)は成分(A’)の末端基の合計を2とした値のモル比として示した。
【0178】
[表6]:参考例3、比較例3-1、実施例3-1の
29SiNMR分析結果
【表6】
R = -CH
2CHMeCH
2O(EO)
x1(PO)
y1-, OX = OH 又は アルコキシ基
【0179】
実施例3-1の主成分の化学構造は、H基準品やL基準品と遜色なく、29SiNMRから判断する限り、正常に合成できていると判断された。
【0180】
以下は、H基準品(参考例3)、L基準品(比較例3-1)及び実施例3-1サンプルの、クロロホルム溶離液によるGPC(検出器:屈折率計)分析結果のまとめである。ここで、平均分子量はポリスチレン換算値である。
[表7]:上記各試料のGPCデータ(共重合体の設計上重合度n=6)
【表7】
【0181】
GPC分析結果より、実施例3-1の主成分の化学構造は、H基準品と遜色なく、正常に合成できていると判断された。一方、L基準品は、共重合体のピークが若干低分子量よりであった。3検体とも、ポリウレタンマイクロセルラーフォーム用の気泡安定剤として性能を発揮できる目安とされる分子量30,000を超えた共重合体が得られ、未反応で残存する両末端メタリル基含有ポリエーテル原料の割合も少なかったことを確認できた。
【0182】
[実施例4~6:成分(C)を含む組成物およびその相溶性評価]
以下の実験では、実施例3-1のサンプル(以下、「Exサンプル」または「Ex」と表現する)と成分(C)を混合し、相溶性を評価した。Exサンプルと相溶性に優れる成分(C)は、希釈剤または本発明にかかる組成物を含むポリウレタンフォーム用プレミクス液のベースポリオールとして好適であると考えられる。なお、これら希釈剤の別の効果としては、前記整泡剤の水酸基価を調節することができ、それによってポリウレタンフォームの予め設計された強度、或いは架橋密度への影響を制御することが可能となる。更には、フォームの通気性やセルサイズのコントロールにも有効である。
【0183】
ここで、実施例4~6の位置づけは以下の通りである。
実施例4:Exサンプルとポリエーテルモノオール(C1)の相溶性評価試験
実施例5:Exサンプルとポリエーテルジオール(C2)の相溶性評価試験
実施例6:Exサンプルとポリエーテルトリオール(C3)の相溶性評価試験
【0184】
[相溶性の評価試験]
Exサンプルと成分(C)を、合計が10gとなるようEx/C=5.0g/5.0g,2.0g/8.0g,0.5g/9.5gという3段階の配合比で25mlスクリュウ菅に仕込み、以下の手順で相溶性の試験:液外観の目視確認を行った。
手順:
1. スクリュウ菅に栓をして10回程度上下によく振り混ぜたのち、50℃の恒温槽に10~15分程度静置して気泡を大体消す。
2. 50℃での外観を記録したのちスクリュウ菅を取り出し、室温に戻す。
3. 室温での外観を記録したのち、外観が白濁して不均一なサンプルは、そのまま1夜間静置して経過観察する。外観が半透明~透明であり目視で均一なサンプルは、5℃の冷蔵庫に1~2時間静置して外観の変化を観察する。
4. 冷蔵庫に入れたサンプルの5℃での外観を記録したのちスクリュウ菅を取り出し、室温に戻す。また、室温での外観が手順3の外観記録(室温)と大差ないか確認する。
5. 手順3で白濁したサンプルの1夜間静置後の外観を記録する。
なお、外観の評価は以下の基準に従って記入した。
*両者の中間的な場合は「~」とした。
◎:透明均一液体
〇:半透明~ほぼ透明均一液体
△:半透明均一液体
×:不透明な白濁液体
また、相溶せず、一夜おいて分離(ガムアップ)した場合等はその旨を表中に記入した。
【0185】
<実施例4:ポリエーテルモノオール(C1)との相溶性評価試験>
Exサンプルと下表8に示す構造および分子量を有するポリエーテルモノオール(C1)について相溶性を評価した結果を表8に示す。
【表8】
注)表8中のC1の構造について、EO鎖とPO鎖は簡単のためブロック型の表記をしているが、実際にはランダム共重合体である。
【0186】
<実施例5:ポリエーテルジオール(C2)との相溶性評価試験>
Exサンプルと下表9に示す構造および分子量を有するポリエーテルモノオール(C1)について相溶性を評価した結果を表8に示す。
【表9】
注)表9中のC2の構造(実施例5-4)について、EO鎖とPO鎖は簡単のためブロック型の表記をしているが、実際にはランダム共重合体である。
【0187】
<実施例6:ポリエーテルトリオール(C3)との相溶性評価試験>
Exサンプルと下表10に示す構造および分子量を有するポリエーテルトリオール(C3)について相溶性を評価した結果を表10に示す。
【表10】
注)表10中のC3の構造(実施例6-4)は EO/PO ランダム共重合体である
【0188】
[成分(C1)について]
表8に示す通り、ポリエーテルモノオールを希釈剤として利用した場合、PO(プロピレンオキシド)の単独付加重合物の場合には、付加モル数が40近くと長鎖になっても(A’)成分との相溶性が維持されており、混合液の安定性が良好であった。一方で、EO(エチレンオキシド)とPOの付加共重合体の場合には、EOのwt.% =50で一定として分子量を500,1000,3000で比較した結果、EOの付加モル数の合計が30を超えた最後のケースで安定性が極端に悪化した。更に、EOの単独付加重合物は成分(A’)と全く相溶しないことから、ポリエーテルモノオールの構造中にPOの重合単位が必要であることも明らかとなった。
【0189】
これらの結果から、ポリエーテルモノオールを希釈剤として利用する場合のEO付加モル数の上限は20付近、POの付加モル数の上限は50付近、且つ構造中のEOのwt.%の上限は60付近と推定した。また、本発明者らの経験上、ポリエーテルモノオールのEOのwt.%が70以上となると凝固点が上昇し、冬場の低温下ではそれ自体が沈殿物や外観の白濁を生じる傾向にあるため、本発明においてポリエーテルモノオールを希釈剤として利用する場合のEOのwt.%の上限を60付近に設定した。
【0190】
[成分(C2)について]
表9に示す通り、ポリエーテルジオールを希釈剤として利用する場合、PO(プロピレンオキシド)の単独付加重合物の場合には、付加モル数が35付近の長鎖になっても成分(A’)との相溶性が非常に良好であり、混合液の安定性も良好であった。POの付加モル数が70付近となると相溶性の低下が認められるが、Ex/C2 = 50/50という成分(A’)の濃度の高い条件下では混合液の安定性は許容範囲内であり、整泡剤としても使用可能と考えられる。一方、EO(エチレンオキシド)とPOの付加共重合体としてはEOのwt.% =50且つ分子量1750のものを試験したが、安定性が極端に悪化することが分かった。
【0191】
これらの結果から、ポリエーテルジオールを希釈剤として利用する場合のEO付加モル数の上限は10付近、POの付加モル数の上限は70付近、且つ構造中のEOのwt.%の上限は30付近と推定した。
【0192】
[成分(C3)について]
表10に示す通り、ポリエーテルトリオールは、ポリエーテルジオール(C1)やポリエーテルモノオール(C2)と比較して、本発明にかかる組成物との相溶性がやや低い傾向であった。POの単独付加重合体であるポリエーテルトリオールの場合、Mw 3000 のものを除き、Ex/C3 = 20/80 の配合比で相溶性が不十分な結果となった。しかし、Ex/C3 = 50/50という成分(A’)の濃度の高い条件下では混合液の安定性は許容範囲内であり、整泡剤として使用可能と考えられる。また、Ex/C3 = 5/95という成分(A’)の濃度の低い条件(ポリウレタンフォーム用プレミクス液の状況を想定)でも、混合液の安定性は許容範囲内であった。一方、EO(エチレンオキシド)とPOの付加共重合体としてはEOのwt.% =50且つ分子量2800のものを試験したが、安定性が極端に悪化することが分かった。
【0193】
これらの結果から、ポリエーテルトリオールを希釈剤として利用する場合、その構造中のEOのwt.%の上限は20付近、平均分子量の範囲は凡そ500~4500と推定した。
【0194】
[整泡剤としての更なる性能評価および濾過品の意義]
実施例7~9として、先に述べた実施例3-1,実施例1-3および実施例2-4の濾過品を準備し、後述するホモディスパーミキサーを用いる「泡保持力の試験」を行い、実施例等にかかる組成物についてより詳細な性能評価を行った。また、その外観変化の有無を確認した。
【0195】
[実施例7]
実施例3-1で得られたポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物100gを、直径90mmのゼータ電位式吸着濾過フィルターによって濾過し、微黄色透明均一な濾液82.5gを得た。これにより、組成物の光透過率T%(580nm)は、ろ過前74%からろ過後97%に改善した。
【0196】
[実施例8]
実施例1-3で得られたポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物100gを、直径90mmのゼータ電位式吸着濾過フィルターによって濾過し、微黄色透明均一な濾液80.0gを得た。これにより、組成物の光透過率T%(580nm)は、ろ過前81%からろ過後93%に改善した。
【0197】
[実施例9]
実施例2-4で得られたポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物100gを、直径90mmのゼータ電位式吸着濾過フィルターによって濾過し、微黄色透明均一な濾液82.2gを得た。これにより、組成物の光透過率T%(580nm)は、ろ過前76%からろ過後98%に改善した。
【0198】
[泡保持力の試験]
実施例3-1と実施例7、実施例1-3と実施例8、実施例2-4と実施例9のサンプルについて、ホモディスパーミキサーを用いて以下の手順により、界面活性剤としての泡保持能力を試験した。なお、攪拌力を高めるためにディスパーの鋸刃の向きは回転方向に対して逆向きで固定した。
[手順]
1. 清浄な200mL広口ガラス瓶に整泡剤サンプル30gを仕込み、静置する。
2. サンプルの液面の高さを計測し、記録する。メニスカスに沿って油性マジックペンで線を引き、線の上端部の高さを液面の初期高さとして扱う。概ね、線の下端は瓶の底から18mm、栓の上端が瓶の底から20mmの位置となる。
3. ホモディスパーの鋸刃を液中央部に浸し、高さは鋸刃がガラス瓶の底に触れぬ程度に、わずかに高い位置にセットする。
4. サンプルの入ったガラス瓶をクランプで固定する。
5. ホモディスパーにより3000rpm、2分間の攪拌を行う。
6. 攪拌が止まったら、鋸刃を泡だった液に触れぬよう約1cm高い位置に動かして固定し、短時間の空回転をさせて鋸刃に付着した液を取り除く。
7. ガラス瓶を取り外し、泡の高さ(上端)に油性マジックペンで印をつけ、初期高さとの差[cm]を求める。この数値の大小により泡保持力の良し悪しを判断した。
注)手順6~7は30秒程度の短時間で行った。但し、発生した泡の高さは、少なくとも
3~5分程度はほとんど変化しないという事が、試験後の観察により分かった。
【0199】
上記のサンプルについて、泡保持力および初期および室温で経過月数(X月経過=XM)後の外観および光透過率を下表11にまとめた。
[表11]:実施例サンプルの泡保持力と保存安定性試験結果
【表11】
【0200】
表11より、本発明の製造方法により得られる「ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を含む組成物は、ろ過を行わなくとも分離等の不都合は生じず均一液体の性状を維持していた(実施例3-1、実施例1-3、実施例2-4)。しかしながら、これらの組成物を上記方法でろ過をすることにより、外観の安定性が更に改善すると共に泡保持力までも向上する(実施例7、実施例8、実施例9)という予期せぬ利益が見いだされた。本発明の製造方法で用いる緩衝剤システムとして、酢酸ナトリウムの溶媒は汎用性や利便性からはプロピレングリコールが優れているが、整泡剤の泡保持性能(界面活性能)という点からは1,2-ペンタンジオールが優れていることが分かった。
【0201】
[総括]
以上の実施例により、特定の溶媒(S0)に分散乃至溶解させた酢酸ナトリウム溶液を一定の量的範囲で使用することを特徴とする、本発明の改善されたヒドロシリル化反応プロセスを含む製造方法を用いることにより、安価で酸値の高いグリコールエーテル化合物(B’)を原料に用いた場合のポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体(A’)を含む組成物およびそれを用いる整泡剤の生産効率を著しく改善し、かつ、その品質上の課題を解決可能であり、かつ、その技術的効果は、品質にばらつきのあるビスメタリルポリエーテル等の原料を使用した場合であっても、良好な再現性を確認することができた。
【0202】
特に、本発明により、安価なグリコールエーテル化合物(B’)を原料として使用しても、酸価が非常に少なく高価格であるグリコールエーテル化合物(B’)を使用した場合と同等の品質を達成できる、好適な緩衝剤成分或いは緩衝剤システム、当該緩衝剤の好適な添加量の範囲を明らかにし、当該緩衝剤を利用する前記(AB)n型ポリエーテル変性シリコーン組成物の好適な製造方法を提供するものである。
【0203】
以上の実験結果により、本発明により、従来の品質およびプロセス上の問題を簡便な手段により解決し、低コストで安定的かつ大量に市場に供給できる、前記ポリエーテル-ポリシロキサンブロック共重合体組成物、その改良された製造方法、更に、コストインユースおよび泡増強性にも優れた該組成物、及びそれからなるポリウレタンフォーム用整泡剤が実現可能であることが理解され、期待される。