(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186647
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20221208BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
A41D13/11 H
A62B18/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089126
(22)【出願日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2021094727
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和昌
(72)【発明者】
【氏名】若杉 慶
(72)【発明者】
【氏名】星加 和彦
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA08
2E185CC36
(57)【要約】
【課題】耳掛け部の材料として伸縮性を有するシート状部材を用い、装着し易さや装着の安定性を高めつつ、装着者が耳掛け部により耳に痛みを覚えることを抑制可能なマスクを提供する。
【解決手段】マスク1は、マスク本体部2と、マスク本体の横方向の両端部に接合された一対の耳掛け部3と、を備える。耳掛け部は、伸縮性シートで形成されている。耳掛け部は、マスク本体部の上下方向の上側端部における横方向の端部から延出する上側延出部11と、マスク本体部の上下方向の下側端部における横方向の端部から延出する下側延出部12と、を含む。上側延出部及び下側延出部の少なくとも一方は、伸縮方向が第1方向G1である。第1方向は、横方向に対して、上下方向の上側に所定の傾斜角度γ1だけ傾斜した方向である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向及び横方向を有し、マスク本体部と、前記マスク本体部の前記横方向の両端部に接合された一対の耳掛け部と、を備えるマスクであって、
前記一対の耳掛け部の各々は、
伸縮性シートで形成されており、
前記マスク本体部の前記上下方向の上側端部における前記横方向の端部から延出する上側延出部と、
前記マスク本体部の前記上下方向の下側端部における前記横方向の端部から延出する下側延出部と、
を含み、
前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方は、伸縮方向が第1方向であり、
前記第1方向は、前記横方向に対して、前記上下方向の上側に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向である、
マスク。
【請求項2】
前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方は、
前記第1方向と直交する第2方向に延在し、前記第1方向に間隔を空けて配置された複数の凸部と、
前記複数の凸部の隣り合う凸部の間に位置し、前記第2方向に延在する複数の凹部と、
を含む、
請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
上下方向及び横方向を有し、マスク本体部と、前記マスク本体部の前記横方向の両端部に接合された一対の耳掛け部と、を備えるマスクであって、
前記一対の耳掛け部の各々は、
伸縮性シートで形成されており、
前記マスク本体部の前記上下方向の上側端部における前記横方向の端部から延出する上側延出部と、
前記マスク本体部の前記上下方向の下側端部における前記横方向の端部から延出する下側延出部と、
を含み、
前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方は、
第2方向に延在し、前記第2方向と直交する第1方向に間隔を空けて配置された複数の凸部と、
前記複数の凸部の隣り合う凸部の間に位置し、前記第2方向に延在する複数の凹部と、
を含み、
前記第1方向は、前記横方向に対して、前記上下方向の上側に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向である、
マスク。
【請求項4】
前記上側延出部及び前記下側延出部は、前記横方向に対して、前記上下方向の上側に傾斜するような形状を有しており、
前記所定の傾斜角度は、前記上側延出部が前記横方向と成す上側角度から、前記下側延出部が前記横方向と成す下側角度まで、の範囲の角度である、
請求項1又は3に記載のマスク。
【請求項5】
前記所定の傾斜角度は、前記マスクの装着時に伸長された前記上側延出部が前記横方向と成す上側伸長角度から、前記マスクの装着時に伸長された前記下側延出部が前記横方向と成す下側伸長角度まで、の範囲の角度である、
請求項1又は3に記載のマスク。
【請求項6】
前記マスクの装着時に伸長された前記上側延出部における伸長された伸長長さ、及び、前記マスクの装着時に伸長された前記下側延出部における伸長された伸長長さのうち、伸長長さが長い方の延出部を長方延出部としたとき、
前記上側延出部及び前記下側延出部のうちの少なくとも前記長方延出部は、伸縮方向が前記第1方向であり、前記第1方向が前記横方向に対して前記上下方向の上側に前記所定の傾斜角度だけ傾斜した方向であり、
前記所定の傾斜角度は、前記マスクの装着時に伸長された前記長方延出部が前記横方向と成す角度と同じである、
請求項1又は3に記載のマスク。
【請求項7】
前記マスクは、立体型のマスクであり、
前記上側延出部及び前記下側延出部のうちの少なくとも前記下側延出部は、伸縮方向が前記第1方向であり、前記第1方向が前記横方向に対して前記上下方向の上側に前記所定の傾斜角度だけ傾斜した方向であり、
前記所定の傾斜角度は、前記下側延出部が前記横方向と成す角度と同じである、
請求項1又は3に記載のマスク。
【請求項8】
前記所定の傾斜角度は、40~60度である、
請求項7に記載のマスク。
【請求項9】
前記マスクは、プリーツ型のマスクであり、
前記上側延出部及び前記下側延出部のうちの少なくとも前記上側延出部は、伸縮方向が前記第1方向であり、前記第1方向が前記横方向に対して前記上下方向の上側に前記所定の傾斜角度だけ傾斜した方向であり、
前記所定の傾斜角度は、前記上側延出部が前記横方向と成す角度と同じである、
請求項1又は3に記載のマスク。
【請求項10】
前記所定の傾斜角度は、20~40度である、
請求項9に記載のマスク。
【請求項11】
前記上側延出部及び前記下側延出部の両方は、伸縮方向が前記第1方向であり、前記第1方向が前記横方向に対して前記上下方向の上側に前記所定の傾斜角度だけ傾斜した方向である、
請求項1又は3に記載のマスク。
【請求項12】
前記マスクの装着時の伸長された前記上側延出部に生じる張力と、前記マスクの装着時の伸長された前記下側延出部に生じる張力と、は同じである、
請求項11に記載のマスク。
【請求項13】
前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方を構成する不織布を製造するときの横断方向と、前記不織布をギア延伸加工するときの延伸方向と、が互いに40度~60度ずれており、
前記不織布の前記横断方向は前記横方向に沿っており、
前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方における、前記第1方向を含む伸縮し易い伸縮適正方向は、前記延伸方向と、前記横断方向から前記延伸方向に向かって20度の方向と、の間の方向である、
請求項1又は3に記載のマスク。
【請求項14】
前記マスク本体部の前記横方向の両端部の各々と前記一対の耳掛け部の各々とは、前記上下方向に沿って延設された接合部で接合されている、
請求項1又は3に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
マスク本体部と、マスク本体部の両端部に接合された、シート状の一対の耳掛け部と、を備えるマスクが知られている。例えば、特許文献1には、着用者の少なくとも鼻及び口を覆うマスク本体部と、着用者の耳に掛けられると共に伸長性を備える耳掛け部と、を有する立体型のマスクが開示されている。このマスクでは、着用時での鼻と口とにより規定される直線の方向を上下方向とし、顔と後頭部とにより規定される直線の方向を前後方向とすると、耳掛け部は前後方向に伸長し易くなるよう設計されている。特許文献2には、マスク本体部と、マスク本体部に連接される耳掛け部と、を備えるプリーツ型のマスクが開示されている。このマスクでは、マスク本体部の横幅方向を第1の方向とし、縦幅方向を第2の方向とすると、耳掛け部は、第1の方向に伸長し易くなるように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-197885号公報
【特許文献2】特許第5762804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人の顔では、鉛直方向において、耳が口よりも高い位置にある。それゆえ、例えば、特許文献1のマスクでは、装着時に、耳掛け部が、前後方向の後方かつ上下方向の上方、すなわち、前後方向に対して上方に傾斜した方向に引っ張られた状態になる。ところが、耳掛け部は、上記のように、前後方向に伸長し易くなるように構成される。そのため、伸長し易い方向(前後方向)と装着時に伸長される方向(傾斜した方向)とにずれが生じる。
【0005】
このように、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じると、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力が大きくなる。そうなると、耳掛け部に生じる張力が大きくなってしまい、装着者が、耳掛け部の張力を受ける耳に痛みを覚えるおそれがある。このような事態は、例えば、特許文献2のようなマスクでも、同様に生じ得る。
【0006】
そして、マスク装着時の装着し易さや装着の安定性を高めるために、耳掛け部の材料として、伸長性だけでなく、収縮性も有する、すなわち伸縮性を有するシート状の部材を用いる場合には、このような事態は、より顕著に生じ得る。
【0007】
そこで、本発明の目的は、耳掛け部の材料として伸縮性を有するシート状部材を用い、装着し易さや装着の安定性を高めつつ、装着者が耳掛け部により耳に痛みを覚えることを抑制可能なマスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のマスクは、上下方向及び横方向を有し、マスク本体部と、前記マスク本体部の前記横方向の両端部に接合された一対の耳掛け部と、を備えるマスクであって、前記一対の耳掛け部の各々は、伸縮性シートで形成されており、前記マスク本体部の前記上下方向の上側端部における前記横方向の端部から延出する上側延出部と、前記マスク本体部の前記上下方向の下側端部における前記横方向の端部から延出する下側延出部と、を含み、前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方は、伸縮方向が第1方向であり、前記第1方向は、前記横方向に対して、前記上下方向の上側に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向である、マスク、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耳掛け部の材料として伸縮性を有するシート状部材を用い、装着し易さや装着の安定性を高めつつ、装着者が耳掛け部により耳に痛みを覚えることを抑制可能なマスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るマスクを示す側面図である。
【
図2】第1実施形態に係るマスクを示す展開図である。
【
図3】第1実施形態に係るマスクの耳掛け部の一部を伸縮方向に対して垂直な方向から見た図である。
【
図4】第1実施形態に係るマスクの装着の様子を示す模式図である。
【
図5】第2実施形態に係るマスクを示す背面図及び断面図である。
【
図6】第2実施形態に係るマスクを示す展開図である。
【
図7】第2実施形態に係るマスクの耳掛け部の一部を伸縮方向に対して垂直な方向から見た図である。
【
図8】第2実施形態に係るマスクの装着の様子を示す模式図である。
【
図9】マスクの伸縮方向の測定方法を示す模式図である。
【
図10】第3実施形態に係るマスクを示す側面図である。
【
図11】第3実施形態に係るマスクに使用される不織布の製造方法を示す模式図である。
【
図12】実施形態に係るマスクの接合部を示す側面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態は、以下の態様に関する。
[態様1]
上下方向及び横方向を有し、マスク本体部と、前記マスク本体部の前記横方向の両端部に接合された一対の耳掛け部と、を備えるマスクであって、前記一対の耳掛け部の各々は、伸縮性シートで形成されており、前記マスク本体部の前記上下方向の上側端部における前記横方向の端部から延出する上側延出部と、前記マスク本体部の前記上下方向の下側端部における前記横方向の端部から延出する下側延出部と、を含み、前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方は、伸縮方向が第1方向であり、前記第1方向は、前記横方向に対して、前記上下方向の上側に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向である、マスク。
【0012】
本マスクは、耳掛け部が伸縮性シートで形成されており、耳掛け部における上側延出部及び下側延出部の少なくとも一方の伸縮方向である第1方向が、横方向に対して、上下方向の上方に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向である。
すなわち、本マスクでは、上側延出部及び下側延出部の少なくとも一方が横方向に対して上下方向の上方に傾斜した方向に伸長し易いことにより、耳掛け部が、全体として横方向に対して上下方向の上方に傾斜した方向に伸長し易くなるように構成されている。そのため、装着時に、耳掛け部が、耳に掛けられて、上下方向の上方に傾斜した方向に引っ張られたとき、伸長し易い方向と装着時に伸長される方向とが互いに近づいた状態にすることができる。
したがって、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じることによる、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力が大きくなるという事態を抑制できる。すなわち、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力を低減できる。それにより、装着時に、耳掛け部に生じる張力、すなわち、耳掛け部を耳の付け根の部分に押し付ける力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
よって、本マスクは、耳掛け部の材料として伸縮性を有するシート状部材を用い、装着し易さや装着の安定性を高めつつ、マスクの装着時に、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
【0013】
[態様2]
前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方は、前記第1方向と直交する第2方向に延在し、前記第1方向に間隔を空けて配置された複数の凸部と、前記複数の凸部の隣り合う凸部の間に位置し、前記第2方向に延在する複数の凹部と、を含む、態様1に記載のマスク。
【0014】
本マスクでは、上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方に、伸縮方向の第1方向と直交する第2方向に延びる凸部と凹部とが第1方向に交互に配置されている。
このような凸部及び凹部は、例えば、不織布をギア延伸加工して第1方向に伸縮し易くしたときに形成される凸部及び凹部や、伸縮部材と不織布とを積層したときに第1方向に伸縮し易い伸縮部材の収縮で形成される皺による凹凸などである。したがって、上側延出部及び下側延出部の少なくとも一方は、ギア延伸加工や伸縮部材と不織布との積層により、第1方向に伸縮し易くなるように構成されるということができる。それにより、耳掛け部が、装着時に、より安定的かつ確実に耳に掛けられると共に、横方向に対して上下方向の上方に傾斜した方向に引っ張られたときに、伸長し易い方向と装着時に伸長される方向とを互いに近づいた状態にすることができる。したがって、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じることによる、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力が大きくなるという事態を抑制できる。
【0015】
[態様3]
上下方向及び横方向を有し、マスク本体部と、前記マスク本体部の前記横方向の両端部に接合された一対の耳掛け部と、を備えるマスクであって、前記一対の耳掛け部の各々は、伸縮性シートで形成されており、前記マスク本体部の前記上下方向の上側端部における前記横方向の端部から延出する上側延出部と、前記マスク本体部の前記上下方向の下側端部における前記横方向の端部から延出する下側延出部と、を含み、前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方は、第2方向に延在し、前記第2方向と直交する第1方向に間隔を空けて配置された複数の凸部と、前記複数の凸部の隣り合う凸部の間に位置し、前記第2方向に延在する複数の凹部と、を含み、前記第1方向は、前記横方向に対して、前記上下方向の上側に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向である、マスク。
【0016】
本マスクでは、耳掛け部が伸縮性シートで形成され、上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方に、第2方向に延びる凸部と凹部とが第1方向に交互に配置されている。
このような凸部及び凹部は、例えば、不織布にギア延伸加工を施して伸縮性シートを形成したときに形成される凸部及び凹部や、伸縮部材と不織布とを積層して伸縮性シートを形成したときに、伸縮部材の収縮でシートに形成される皺による凹凸などである。したがって、上側延出部及び下側延出部の少なくとも一方は、凸部や凹部が延在する第2方向に直交する第1方向に、相対的に伸縮し易いということができる。
そして、本マスクでは、第1方向は、横方向に対して、上下方向の上側に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向である。
すなわち、本マスクでは、上側延出部及び下側延出部の少なくとも一方が横方向に対して上下方向の上方に傾斜した方向に伸長し易いことにより、耳掛け部が、全体として横方向に対して上下方向の上方に傾斜した方向に伸長し易くなるように構成されている。そのため、耳掛け部が、装着時に耳に掛けられて、上下方向の上方に傾斜した方向に引っ張られたときに、伸長し易い方向と装着時に伸長される方向とが互いに近づいた状態にすることができる。
したがって、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じることによる、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力が大きくなるという事態を抑制できる。すなわち、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力を低減できる。それにより、装着時に、耳掛け部に生じる張力、すなわち、耳掛け部を耳の付け根の部分に押し付ける力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
よって、本マスクは、耳掛け部の材料として伸縮性を有するシート状部材を用い、装着し易さや装着の安定性を高めつつ、マスクの装着時に、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
【0017】
[態様4]
前記上側延出部及び前記下側延出部は、前記横方向に対して、前記上下方向の上側に傾斜するような形状を有しており、前記所定の傾斜角度は、前記上側延出部が前記横方向と成す上側角度から、前記下側延出部が前記横方向と成す下側角度まで、の範囲の角度である、態様1乃至3のいずれか一項に記載のマスク。
【0018】
本マスクでは、(装着する前の状態において、)上側延出部及び下側延出部が横方向に対して上下方向の上側に傾斜するような形状を有しており、所定の傾斜角度が、上側延出部の上側角度から下側延出部の下側角度までの範囲の角度である。
そのため、装着時に、耳掛け部、すなわち上側延出部及び下側延出部が、耳に掛けられて、横方向に対して上下方向の上方に傾斜した方向に引っ張られたとき、耳掛け部全体として、伸長し易い方向と装着時に伸長される方向とが互いにより近づいた状態にすることができる。したがって、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じることによる、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力が大きくなるという事態を抑制できる。
【0019】
[態様5]
前記所定の傾斜角度は、前記マスクの装着時に伸長された前記上側延出部が前記横方向と成す上側伸長角度から、前記マスクの装着時に伸長された前記下側延出部が前記横方向と成す下側伸長角度まで、の範囲の角度である、態様1乃至4のいずれか一項に記載のマスク。
【0020】
本マスクでは、装着した後の状態において、所定の傾斜角度が、伸長された上側延出部の上側伸長角度から伸長された下側延出部の下側伸長角度までの範囲の角度である。
そのため、装着時に、耳掛け部、すなわち上側延出部及び下側延出部が、耳に掛けられて、横方向に対して上下方向の上方に傾斜した方向に引っ張られたとき、伸長し易い方向と装着時に伸長される方向とが互いにより近づいた状態にすることができる。したがって、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じることによる、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力が大きくなるという事態を抑制できる。
【0021】
[態様6]
前記マスクの装着時に伸長された前記上側延出部における伸長された伸長長さ、及び、前記マスクの装着時に伸長された前記下側延出部における伸長された伸長長さのうち、伸長長さが長い方の延出部を長方延出部としたとき、前記上側延出部及び前記下側延出部のうちの少なくとも前記長方延出部は、伸縮方向が前記第1方向であり、前記第1方向が前記横方向に対して前記上下方向の上側に前記所定の傾斜角度だけ傾斜した方向であり、前記所定の傾斜角度は、前記マスクの装着時に伸長された前記長方延出部が前記横方向と成す角度と同じである、態様1乃至5のいずれか一項に記載のマスク。
【0022】
長方延出部はマスクの装着時に伸長された長さが相対的に長いため、装着時に長方延出部に生じる張力がもう一方の延出部に生じる張力よりも大きくなり易く、長方延出部が耳に接する部分に装着者が痛みを覚え易くなるおそれがある。そこで、本マスクでは、上側延出部及び下側延出部のうちの少なくとも長方延出部が横方向に対して上下方向の上方に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向に伸長し易く、その所定の傾斜角度がマスクの装着時に伸長された長方延出部が横方向と成す角度としている。そのため、装着時に長方延出部を伸長するために要する力を低減でき、それにより、装着時に長方延出部に生じる張力を低減できるので、長方延出部が耳に接する部分に装着者が痛みを覚えることを抑制できる。
【0023】
[態様7]
前記マスクは、立体型のマスクであり、前記上側延出部及び前記下側延出部のうちの少なくとも前記下側延出部は、伸縮方向が前記第1方向であり、前記第1方向が前記横方向に対して前記上下方向の上側に前記所定の傾斜角度だけ傾斜した方向であり、前記所定の傾斜角度は、前記下側延出部が前記横方向と成す角度と同じである、態様1乃至6のいずれか一項に記載のマスク。
【0024】
立体型のマスクでは、上側延出部よりも、下側延出部の方が、装着時に生じる張力が相対的に大きくなり易い。そこで、本マスク(立体型のマスク)では、少なくとも下側延出部が横方向に対して上下方向の上方に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向に伸長し易く、その所定の傾斜角度を、下側延出部が横方向と成す角度としている。そのため、装着時に下側延出部を伸長するために要する力を低減でき、それにより、装着時に、耳掛け部に生じる張力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
【0025】
[態様8]
前記所定の傾斜角度は、40~60度である、態様7に記載のマスク。
【0026】
本マスク(立体型のマスク)では、所定の傾斜角度を、40~60度としている。そのため、装着時に下側延出部を伸長するために要する力をより低減でき、それにより、装着時に、耳掛け部に生じる張力をより低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることをより抑制できる。
【0027】
[態様9]
前記マスクは、プリーツ型のマスクであり、前記上側延出部及び前記下側延出部のうちの少なくとも前記上側延出部は、伸縮方向が前記第1方向であり、前記第1方向が前記横方向に対して前記上下方向の上側に前記所定の傾斜角度だけ傾斜した方向であり、前記所定の傾斜角度は、前記上側延出部が前記横方向と成す角度と同じである、態様1乃至6のいずれか一項に記載のマスク。
【0028】
プリーツ型のマスクでは、下側延出部よりも、上側延出部の方が、装着時に生じる張力が相対的に大きくなり易い。
そこで、本マスク(プリーツ型のマスク)では、少なくとも上側延出部が横方向に対して上下方向の上方に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向に伸長し易く、その所定の傾斜角度を、装着時に上側延出部が横方向と成す角度としている。そのため、装着時に上側延出部を伸長するために要する力を低減でき、それにより、装着時に、耳掛け部に生じる張力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
【0029】
[態様10]
前記所定の傾斜角度は、20~40度である、態様9に記載のマスク。
【0030】
本マスク(プリーツ型のマスク)では、所定の傾斜角度を、25~40度としている。そのため、装着時に上側延出部を伸長するために要する力をより低減でき、それにより、装着時に、耳掛け部に生じる張力をより低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることをより抑制できる。
【0031】
[態様11]
前記上側延出部及び前記下側延出部の両方は、伸縮方向が前記第1方向であり、前記第1方向が前記横方向に対して前記上下方向の上側に前記所定の傾斜角度だけ傾斜した方向である、態様1乃至10のいずれか一項に記載のマスク。
【0032】
本マスクでは、上側延出部及び下側延出部の両方が横方向Wに対して上下方向の上方に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向に伸長し易くしている。そのため、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力をより低減でき、それにより、装着時に、耳掛け部に生じる張力をより低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることをより抑制できる。
【0033】
[態様12]
前記マスクの装着時の伸長された前記上側延出部に生じる張力と、前記マスクの装着時の伸長された前記下側延出部に生じる張力と、は同じである、態様11に記載のマスク。
【0034】
本マスクでは、マスクの装着時における、伸長された上側延出部に生じる張力と伸長された下側延出部に生じる張力とは同じである。ただし、「同じ」とは、一方が他方の0.8倍から1.2倍の範囲をいう。
そのため、マスクの装着時における、上側延出部を伸長するために要する力と、下側延出部を伸長するために要する力をバランスさせることができる。それにより、耳掛け部に生じる張力をバランスさせて、耳に掛かる張力を耳全体に分散させることができ、耳の特定の部分に張力が集中することを抑制できる。したがって、装着者が耳に痛みを覚えることをより抑制できる。
【0035】
[態様13]
前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方を構成する不織布を製造するときの横断方向と、前記不織布をギア延伸加工するときの延伸方向と、が互いに40度~60度ずれており、前記不織布の前記横断方向は前記横方向に沿っており、前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方における、前記第1方向を含む伸縮し易い伸縮適正方向は、前記延伸方向と、前記横断方向から前記延伸方向に向かって20度の方向と、の間の方向である、態様1乃至12のいずれか一項に記載のマスク。
本マスクは、耳掛け部が伸縮性シートで形成されており、耳掛け部における上側延出部及び下側延出部の少なくとも一方における、第1方向を含む伸長し易い伸長方向が、横方向に対して、上下方向の上方に所定の傾斜角度だけ傾斜した方向である。
すなわち、本マスクでは、上側延出部及び下側延出部の少なくとも一方が横方向に対して上下方向の上方に傾斜した方向に伸長し易いことにより、耳掛け部が、全体として横方向に対して上下方向の上方に傾斜した方向に伸長し易くなるように構成されている。そのため、装着時に、耳掛け部が、耳に掛けられて、上下方向の上方に傾斜した方向に引っ張られたとき、伸長し易い方向と装着時に伸長される方向とが互いに近づいた状態にすることができる。
したがって、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じることによる、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力が大きくなるという事態を抑制できる。すなわち、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力を低減できる。それにより、装着時に、耳掛け部に生じる張力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
特に、本マスクでは、上側延出部及び下側延出部の少なくとも一方を構成する不織布を製造するときの横断方向と、不織布をギア延伸加工するときの延伸方向とが互いに40度~60度ずれ、第1方向を含む伸縮し易い伸縮適正方向が、延伸方向と、横断方向から延伸方向に向かって20度の方向と、の間の方向である。それゆえ、延伸方向と横断方向とが同じ場合と比較して、伸縮適正方向の範囲を拡げることができる。すなわち、耳掛け部は、延伸方向と、横断方向から延伸方向に向かって20度の方向と、の間の方向であれば、どの方向でも伸縮し易くなっている。それゆえ、使用者が耳に痛みを覚え難い伸縮方向の許容範囲を拡げることができる。それにより、上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方を、伸縮適正方向に、より伸縮し易くすることができ、耳掛け部に生じる張力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
よって、本マスクは、耳掛け部の材料として伸縮性を有するシート状部材を用い、装着し易さや装着の安定性を高めつつ、マスクの装着時に、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
【0036】
[態様14]
前記マスク本体部の前記横方向の両端部の各々と前記一対の耳掛け部の各々とは、前記上下方向に沿って延設された接合部で接合されている、態様1乃至13のいずれか一項に記載のマスク。
マスクは口を動かすことで上下方向にずれ易く、上下方向にずれると、耳への負担(下側に向かう力)が増加して、痛みが生じ得る。しかし、上下方向に沿って接合部(マスク本体部と耳掛け部とが積層し、接合されているので高坪量、高剛性)が存在するので、接合部での摩擦が大きくなり、上下方向にずれ難くすることができ、耳への負担(下側に向かう力)が抑制され、痛みが生じ難くなる。
【0037】
以下、本発明のマスクの実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0038】
ただし、本明細書において用いられる各種方向・配置・構成等については、特に断りのない限り、以下のとおりである。
「上下方向」及び「横方向」とは以下のとおりである。
(a)立体型のマスク:人体の正中面(中間の矢状部:median-sagittal plane)MSP、冠状面(coronal plane)CP及び横断面(transverse plane)TPのうち、正中面MSPと冠状面CPとが交わって形成される直線である基準直線を考える。基準直線は鉛直方向の直線でもある。そのとき、「上下方向」は、装着されたマスクに関してその基準直線と平行な方向とし、装着されていない、
図1のように折り畳まれて平面に載置された状態のマスクにも適用されるものとする(
図1の上下方向)。「横方向」とは、
図1のような状態のマスクに適用された「上下方向」に直交する方向をいう(
図1の左右方向)。なお、正中面MSP、冠状面CP及び横断面TPの各々と平行(又は同一)な面をそれぞれ平面MSP1、平面CP1及び平面TP1とする。
(b)プリーツ型又はフラット型のマスク:「上下方向」は、
図5のような背面図のマスクにおける縦方向(
図5の上下方向)とし、「横方向」は、
図5のような背面図のマスクにおける横方向(
図5の左右方向)とする。
【0039】
ある構成が「所定の方向に(沿って)延在する(形成される)」とは、当該構成が所定の方向に平行に、連続的に、直線的に延在する(形成される)場合だけでなく、所定の方向に対して±30°(、好ましくは±15°、より好ましくは±5°)の角度の範囲内で、連続的又は間欠的に、直線的又は一部曲線的に延在する(形成される)場合を含む。
ある複数の構成同士が互いに「間隔を空けて配置される」とは、当該複数の構成が互いに等しい間隔で配置される場合だけでなく、互いに接していなければ様々な異なる間隔で配置される場合を含む。更に隣り合う構成同士の間隔が位置により変動する場合を含む。
「肌側」とは、マスクの厚さ方向において「マスクの装着時に、装着者の肌面に対して相対的に近位側」をいい、「非肌側」とは「マスクの装着時に、装着者の肌面に対して相対的に遠位側」をいう。
これらに関連して、マスク及び当該マスクを構成する各種部材(例示:肌側シート、フィルタシート、非肌側シート等)の「肌側の表面」及び「非肌側の表面」を、それぞれ単に「肌側面」及び「非肌側面」という。
【0040】
(第1実施形態)
図1~
図4は、第1実施形態に係るマスク1の構成を示す図であり、
図1は側面図であり、
図2は展開図であり、
図3はマスク1の耳掛け部3の一部を示す模式図であり、
図4はマスク1の装着の様子を示す模式図である。マスク1は、上下方向L及び横方向Wを有し、着用者の口及び鼻を覆うマスク本体部2と、着用者の耳に掛けられる一対の耳掛け部3とを備える。本実施形態では、着用者の鼻上部の形状に適合するように変形可能なノーズフィット部4を更に備える。なお、
図1の平面CP1及び平面TP1は、平面CP1と平面TP1との交差線の方向から見た平面CP1及び平面TP1を仮想的に示し、
図2の平面MSP1及び平面TP1は、平面MSP1と平面TP1との交差線の方向から見た平面MSP1及び平面TP1を仮想的に示す。
【0041】
マスク本体部2は、横方向Wの左側の部分、すなわち着用者の顔の左半分を覆う左半面シート2aと、横方向Wの右側の部分、すなわち着用者の顔の右半分を覆う右半面シート2bとを含む。左半面シート2aと右半面シート2bとは、向かい合う端部同士が端縁に沿って接合部5で接合されることにより一体化されている。その接合部5は、例えば熱溶着や接着剤などで形成される。そのとき、両シートの端部の端縁が互いに凸な略曲線形状を有するため、一体化された両シートは、マスク1の着用時に着用者の顔面に対して凹面となる立体形状(立体構造)を形成することができる。このようなマスク本体部2を有するマスク1は立体型のマスクということができる。
【0042】
本実施形態では、マスク本体部2(左半面シート2a及び右半面シート2b)は、肌側の内側シートと、非肌側の外側シートと、内側シートと外側シートとの間に位置するフィルタシートとを備えた積層体である。ただし、積層体は、その例に限定されるものでなく、内側シートの機能も有するフィルタシートと外側シートとの積層体、外側シートの機能も有するフィルタシートと内側シートとの積層体、又は、内側シート及び外側シートの機能も有するフィルタシート(この場合も積層体と呼ぶこととする。)であってもよい。なお、内側シート、外側シート、及びフィタシートは、いずれも一枚(一層)でもよいし、二枚(二層)以上でもよい。
【0043】
内側シート及び外側シートの材料としては、マスクで一般的に使用されている、又は使用可能な材料であれば、特に制限はなく、例えば、天然繊維、再生繊維又は合成樹脂繊維などを構成繊維とするスパンレース不織布やエアスルー不織布のような不織布が挙げられる。坪量としては、例えば20~50g/m2が挙げられる。フィルタシートの材料としては、マスクで一般的に使用されている、又は使用可能な材料であれば、特に制限はなく、例えば、合成樹脂繊維などを構成繊維とするメルトブローン不織布やフラッシュ紡糸不織布のような不織布が挙げられる。不織布はエレクトレット化されていることが好ましい。坪量としては、例えば5~20g/m2が挙げられる。
【0044】
一対の耳掛け部3は、マスク本体部2の横方向Wの両端部2EW、すなわち左半面シート2a及び右半面シート2bにおける接合部5と反対側の端部2EWに、接合部6で接合されている。その接合部6は、上下方向Lに沿って、例えば圧搾や熱溶着や接着剤などで形成される。耳掛け部3は、マスク本体部2の横方向Wの両端部2EWから外側へ延出するように、又は(当初は内側だが)装着時に外側へ延出可能なように形成されている。以下では、耳掛け部3が「外側へ延出する」又は「装着時に外側へ延出可能である」ことを、単に、耳掛け部3が「外側へ延出する」と記載することとする。耳掛け部3の内部には、マスク本体部2側からその反対側へ向かって延びる開口部10が形成されており、開口部10に着用者の耳を入れることで、マスク1は着用者に装着される。本実施形態では、耳掛け部3は実際に外側へ延出する。なお、耳掛け部3は実際に内側に延出してもよい。
【0045】
一対の耳掛け部3の各々は、マスク本体部2の上下方向Lの上側端部における横方向Wの端部2EWから延出する上側延出部11と、マスク本体部2の上下方向Lの下側端部における横方向Wの端部2EWから延出する下側延出部12と、を含む。上側延出部11は、耳掛け部3における開口部10の上下方向Lの上側に位置する部分であり、下側延出部12は、耳掛け部3における開口部10の上下方向Lの下側に位置する部分である。
【0046】
上側延出部11及び下側延出部12は、マスク本体部2の両端部2EWから横方向Wの外側へ延出していれば、延出する方向や形状については特に制限はない。本実施形態では、
図1に示すように、上側延出部11及び下側延出部12は、略帯状又は略矩形の形状を有しており、マスク本体部2の両端部2EWから上下方向Lの上方へ向いつつ、横方向Wの外側へ延出している。言い換えると、上側延出部11は、横方向Wに対して角度α1(上側角度:例えば、25°)だけ斜め上方へ傾斜した方向A1に延出し、下側延出部12は、横方向Wに対して角度β1(下側角度:例えば、50°)だけ斜め上方へ傾斜した方向B1に延出している。それにより、マスク装着時にマスク本体部2よりやや高い位置にある耳への距離を短くでき、耳掛け部3の伸びを抑制できる。ここで、角度α1(β1)は、上側延出部11(下側延出部12)におけるマスク本体部2の端部2EW側の端部を基準として、上側延出部11(下側延出部12)における端部2EWと反対側の端部が位置する方向に基づいて評価する。なお、角度α1>角度β1でもよく、角度α1<角度β1でもよく、角度α1=角度β1でもよい。本実施形態では角度α1<角度β1である。角度α1と角度β1との大小関係は例えば連結部14の大きさ/長さで調整できる。
【0047】
本実施形態では、耳掛け部3は、更に、上側延出部11と下側延出部12とをつなぐ基部13と連結部14とを含む。基部13は、上側延出部11及び下側延出部12における横方向Wの内側(マスク本体部2側)の端部をつないでいる。連結部14は、上側延出部11及び下側延出部12における横方向Wの外側(マスク本体部2と反対の側)の端部をつないでいる。耳掛け部3における横方向Wの内側の端部3EWは、上側延出部11と下側延出部12と基部13とで構成される。開口部10は、基部13と上側延出部11と連結部14と下側延出部12とで形成される。
【0048】
耳掛け部3は、伸縮性を有する伸縮性シートで形成されている。ここで、「伸縮性を有する」とは、対象物にある方向に引っ張り力が印加されると、その対象物がその方向に伸び、引っ張り力が消失したとき、その対象物の長さが概ね元の長さ(例示:元の長さの少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の長さ)に戻る性質をいうものする。元の長さの100%の長さに戻る場合には弾性を有するともいえる。伸縮性は、材料の特性(例示:エラストマーシート、エラストマー繊維)、材料の構造(例示:ギア延伸加工の凹凸構造、蛇腹構造)、他の材料との組み合わせ(例示:不織布とエラストマーシートとの積層体、エラストマー繊維と伸長性繊維との混合(交絡))、又はこれらの組み合わせなどで発現させることができる。伸縮性における伸びの程度については、例えば、引張伸度(破断伸度)が少なくとも5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上が挙げられる。
【0049】
耳掛け部3は、すべての部分で伸縮性を有する必要はなく、上側延出部11及び下側延出部12のうちの少なくとも一方において伸縮性を有すればよい。上側延出部11及び下側延出部12がいずれも伸縮性を有する場合でも、両者の伸縮の程度が、異なってもよいが、同じが好ましい。更に、伸縮性を有する延出部(上側延出部11及び/又は下側延出部12)において、平面視で、全体の100%の領域が伸縮性を有する必要はないが、40%以上の領域、好ましくは60%以上の領域、更に好ましくは80%以上の領域が伸縮性を有すればよい。いずれも、装着時に耳掛け部3を伸長するために要する力を低減する観点からである。本実施形態では、耳掛け部3の上側延出部11及び下側延出部12の両方とも同じ程度の伸縮性を有し、平面視で、上側延出部11及び下側延出部12の100%の領域が伸縮性を有している。
【0050】
耳掛け部3において、上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方では、伸縮方向は第1方向G1である。そして、第1方向G1は、横方向Wに対して、上下方向Lの上側に所定の傾斜角度γ1だけ傾斜した方向である。ここで、伸縮方向は、耳掛け部3の伸縮性シートの最も伸縮し易い方向(伸縮容易方向)をいう。耳掛け部3の伸縮方向である第1方向G1の測定方法は後述される。なお、上側延出部11及び下側延出部12のうちの一方の伸縮方向が、第1方向G1であれば、他方の伸縮方向は第1方向G1でなくてもよい。ただし、好ましくは±30°、より好ましくは±15°、更に好ましくは±5°の範囲で同じであると、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力を低減より低減でき、耳掛け部に生じる張力をより低減できる。本実施形態では、上側延出部11及び下側延出部12の両方の伸縮方向が第1方向G1である。
【0051】
第1方向G1の傾斜角度γ1としては、10~60°が好ましく、本実施形態のような立体型のマスクの場合には、40~60°がより好ましい。傾斜角度が小さすぎると耳掛け部3の張力の低下が小さくなってしまい、傾斜角度が大き過ぎると、耳掛け部3の張力が大きくなってしまう。
【0052】
耳掛け部3用の材料として使用される伸縮性シートは、所望の方向に伸縮可能であれば特に制限はないが、例えば、ポリオレフィン繊維等の伸長性繊維と、エラストマー部材等の伸縮性部材と、を含む伸縮性不織布が挙げられる。エラストマー部材としては、例えば、エラストマー繊維等の伸縮性繊維、及び、エラストマーシート等の伸縮性を有するシート、の少なくとも一方が挙げられる。伸縮性シートは弾性的に伸縮可能なシートとすることができる。なお、伸縮性部材(エラストマー部材)が伸縮性繊維の場合には、伸縮性シートにおいて、伸縮性繊維と伸長性繊維とは混合(例示:交絡)されている。
【0053】
本実施形態では、伸縮性シートが伸長性繊維と伸縮性繊維とを含む。その場合、伸縮性シートは、ギア延伸加工が行われることにより第1方向G1の伸縮性が付与される。ギア延伸加工における一対のギアロールの歯により、伸縮性シートには、第1方向G1に直交する第2方向R1に沿って延在する複数の凸部15と、複数の凸部15の隣り合う凸部15の間に位置し、第2方向R1に沿って延在する複数の凹部16とが形成されている(
図1~
図3参照)。ただし、
図3は耳掛け部3の一部を伸縮方向(第1方向G1)に対して垂直な方向(第2方向R1)から見た図である。
【0054】
なお、この伸縮性シートにおいて、このような伸縮性を付与する手段は特に限定されないが、上記の伸縮性を精度よく、効率的に付与できる等の点から、ギア延伸加工を行う手段を採用することが好ましい。所望の伸縮性の程度は、ギア延伸加工時の条件(例示:ギア深さ、ギアピッチ等)を適宜調整することで得ることができる。伸縮性不織布の具体的な製造方法については後述される。
【0055】
伸縮性シートが伸縮性部材として伸縮性繊維を含むことで、伸縮性繊維及び伸長性繊維との混合により、伸縮性不織布を薄く丈夫に形成することができる。
【0056】
別の実施形態として、伸縮性シートは、伸長性繊維と伸縮性を有するシートとを含んでもよい。その場合、伸縮性シートは、伸長性繊維を含み、互いに積層された第1不織布及び第2不織布と、第1不織布と第2不織布との間に位置する伸縮性を有するシートと、を備えている。第1不織布及び第2不織布は、ギア延伸加工等の方法により第1方向G1に伸縮性を付与されてもよい。伸縮性を有するシートは、少なくとも第1方向G1の伸縮性を有している。第1不織布と第2不織布と伸縮性を有するシートとは、互いに接着、圧着及び融着の少なくとも一つの方法で結合されている。伸縮性シートを第1方向G1に伸長及び収縮させることで、伸縮性シートには、第2方向R1に沿って延在する複数の凸部15と、複数の凸部15の隣り合う凸部15間に位置し、第2方向R1に沿って延在する複数の凹部16とが形成される(
図1~
図3)。
【0057】
伸縮性シートが第1不織布及び第2不織布との間に伸縮性部材として、伸縮性を有するシートを含むことで、伸縮性シート全体として所望の伸縮性を付与し易くできる。
【0058】
伸縮性シートの構成繊維として用い得る伸長性繊維は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン系樹脂からなるポリオレフィン繊維やこれらのポリオレフィン系樹脂を複数種類組み合わせてなる芯鞘型の複合繊維などが挙げられる。なお、これらの繊維は単独で用いても、二種類以上の繊維を併用してもよい。
【0059】
また、伸縮性シートの構成繊維として用い得る伸縮性繊維は、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン系エラストマー繊維、ポリスチレン系エラストマー繊維、ポリオレフィン系エラストマー繊維、ポリアミド系エラストマー繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ゴム系エラストマー繊維等のエラストマー繊維などが挙げられる。なお、これらのエラストマー繊維は単独で用いても、二種類以上の繊維を併用してもよい。
【0060】
伸縮性シートの伸長性繊維と伸縮性繊維の混合割合(質量比)は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されず、例えば、80:20~25:75が挙げられ、好ましくは60:40~40:60である。伸長性繊維の割合が80質量%以下であると、伸縮性不織布の歪みをより小さく抑えることができ、また、伸縮性繊維の割合が75質量%以下であると、べたつき等の不快な触感がより生じにくくなるという利点がある。
【0061】
伸縮性シートの構成シートとして用いる伸縮性シートは、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン系フィルム、ポリスチレン系フィルム、シート状スチレン系ゴム、シート状オレフィン系ゴム、シート状ウレタン系ゴムなどのエラストマーシート、それらと不織布や紙等とを複合した複合エラストマーシートなどが挙げられる。
【0062】
なお、伸縮性シートは、本発明の効果を阻害しない限り、耳掛け部3に求められる特性等に応じて、伸長性繊維及び伸縮性繊維以外の任意の繊維やシートを含んでもよい。
【0063】
伸縮性シートの坪量は、耳掛け部3に求められる特性等に応じた任意の坪量を採用することができ、例えば、90g/m2以下の坪量が挙げられ、好ましくは15g/m2~90g/m2の範囲内の坪量であり、更に好ましくは20g/m2~85g/m2の範囲内の坪量である。坪量は、JIS L 1906の5.2に従って測定することができる。
【0064】
マスク1の装着の様子を示す
図4において、
図4(a)はマスク1のマスク本体部2が口及び鼻を覆っているが、耳掛け部3が耳に掛けられていない状態を示し、
図4(b)はマスク本体部2が口及び鼻を覆い、耳掛け部3が耳に掛けられた状態、すなわちマスク1が装着された状態を示す。
【0065】
本実施形態では、
図4(a)において、マスク1では、耳掛け部3の伸縮方向である第1方向G1が、横方向Wに対して、上下方向Lの上方に所定の傾斜角度γ1だけ傾斜した方向である(
図1(b)参照)。そして、
図4(b)において、上側延出部11が、方向A1と概ね同じ方向A1’に伸長され、下側延出部12が、方向B2と概ね同じ方向B1’に伸長されて、マスク1が装着される。このとき、傾斜角度γ1は、角度α1及び角度β1の少なくとも一方と同じでもよい。ただし、同じ角度とは、一方の角度が他方の角度の±30°(好ましくは±15°、より好ましくは±5°)の範囲とする。あるいは、傾斜角度γ1は、角度α1と角度β1との間の角度であってもよい。いずれの場合にも、上側延出部11及び/又は下側延出部12の伸長(伸縮)し易い伸縮方向(G1)と装着時に伸長される方向(A1~B1)とが概ね同じ方向になっている。本実施形態では、傾斜角度γ1は、角度β1と同じである。
【0066】
耳掛け部3の製造方法は、例えば、不織布原反ロールから加工前の不織布(伸長性繊維及び伸縮性繊維を含む)を搬送方向に連続的に繰り出す繰出し工程と、繰り出された不織布を搬送しながら加熱する加熱工程と、加熱された不織布を上下一対のギアロールを備えたギア延伸加工装置によって搬送方向と直交する横断方向に延伸するギア延伸工程と、横断方向に延伸されて複数の凸部及び複数の凹部が形成された延伸不織布(すなわち、伸縮性シートの連続シート)を冷却する冷却工程と、冷却された伸縮性シートから、横断方向(延伸方向)が耳掛け部3の伸縮方向(第1方向G1)となるように、耳掛け部3を切り出す切断工程と、を有する。切断工程では、耳掛け部3の伸縮方法が、ギア延伸工程での延伸方向である横断方向に沿うように、耳掛け部3が切り出される。その後、形成された一対の耳掛け部3の各々が、別途形成された又は形成途中のマスク本体部2に接合部6で接合されて、マスクが製造される。なお、耳掛け部3(伸縮性シート)の製造方法は、このような製造方法に限定されず、従来知られた技術を用いた種々の変更を行ってもよい。
【0067】
マスク1は、耳掛け部3が伸縮性シートで形成されており、耳掛け部3における上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方の伸縮方向である第1方向G1が、横方向Wに対して、上下方向Lの上方に所定の傾斜角度γ1だけ傾斜した方向である。
すなわち、マスク1では、上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方が横方向Wに対して上下方向Lの上方に傾斜した方向に伸長し易いことにより、耳掛け部3が、全体として横方向Wに対して上下方向Lの上方に傾斜した方向に伸長し易くなるように構成されている。そのため、装着時に、耳掛け部3が、耳に掛けられて、上下方向Lの上方に傾斜した方向に引っ張られたとき、伸長し易い方向と装着時に伸長される方向とが互いに近づいた状態にすることができる。
したがって、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じることによる、装着時に耳掛け部3を伸長するために要する力が大きくなるという事態を抑制できる。すなわち、装着時に耳掛け部3を伸長するために要する力を低減できる。それにより、装着時に、耳掛け部3に生じる張力、すなわち、耳掛け部3を耳の付け根の部分に押し付ける力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
よって、本マスクは、耳掛け部3の材料として伸縮性シートを用い、装着し易さや装着の安定性を高めつつ、マスクの装着時に、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
【0068】
本実施形態の好ましい態様において、上側延出部11及び下側延出部12の両方が、伸縮方向が第1方向G1であり、第1方向G1が横方向Wに対して上下方向Lの上側に所定の傾斜角度γ1だけ傾斜した方向である。この場合、上側延出部11の伸縮する第1方向G1と、下側延出部12の伸縮する第1方向G1とは、互いに平行である場合だけでなく、±30度の範囲でずれている場合を含む。すなわち、マスク1では、上側延出部11及び下側延出部12の両方が横方向Wに対して上下方向Lの上方に所定の傾斜角度γ1だけ傾斜した方向に伸長し易くしている。そのため、マスク1の装着時に耳掛け部3を伸長するために要する力をより低減でき、それにより、耳掛け部3に生じる張力をより低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることをより抑制できる。
【0069】
本実施形態の好ましい態様において、マスク1では、上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方に、第2方向R1に延びる凸部15と凹部16とが第1方向G1に交互に配置されている。
この凸部15及び凹部16は、例えば、不織布(伸長性繊維と伸縮性繊維とを含む不織布)をギア延伸加工して第1方向G1に伸縮し易くしたときに形成される凸部及び凹部や、伸縮部材と不織布との積層体(不織布間に伸縮性のシートを含む積層体)において、第1方向G1に伸縮し易い伸縮部材の伸長・収縮で形成される皺による凹凸、などである。したがって、上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方は、ギア延伸加工や伸縮部材と不織布との積層などにより、第1方向G1に伸縮し易くなるように構成されているということができる。
それにより、耳掛け部3が、装着時に、より安定的かつ確実に耳に掛けられると共に、横方向Wに対して上下方向Lの上方に傾斜した方向に引っ張られたときに、伸長し易い方向と装着時に伸長される方向とを互いに近づいた状態にすることができる。したがって、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じることによる、装着時に耳掛け部3を伸長するために要する力が大きくなるという事態を抑制できる。
【0070】
言い換えれば、耳掛け部3が伸縮性シートで形成され、上側延出部11及び/又は下側延出部12に、第2方向R1に延在する凸部15と凹部16とが第1方向G1に交互に配置されていれば、上側延出部11及び/又は下側延出部12は、ギア延伸加工や伸縮部材と不織布との積層などにより、第1方向G1に伸縮し易く構成されているといえる。
すなわち、マスク1の別の実施形態として、耳掛け部3が伸縮性シートで形成されており、上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方に、第2方向R1に延びる凸部15と凹部16とが第1方向G1に交互に配置されている(その結果として、第1方向G1が伸縮方向になる)、という態様があり得る。
【0071】
その別の実施形態のマスク1では、第1方向G1は、横方向Wに対して、上下方向Lの上側に所定の傾斜角度γ1だけ傾斜した方向である。すなわち、上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方が横方向Wに対して上下方向Lの上方に傾斜した方向に伸長し易い構成を有するということができる。それにより、耳掛け部3が、全体として横方向Wに対して上下方向Lの上方に傾斜した方向に伸長し易くなる。そのため、耳掛け部3が、装着時に耳に掛けられて、上下方向Lの上方に傾斜した方向に引っ張られたとき、伸長し易い方向と装着時に伸長される方向とが互いに近づいた状態にすることができる。
したがって、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じることによる、装着時に耳掛け部3を伸長するために要する力が大きくなるという事態を抑制できる。すなわち、装着時に耳掛け部3を伸長するために要する力を低減できる。それにより、装着時に、耳掛け部3に生じる張力、すなわち、耳掛け部3を耳の付け根の部分に押し付ける力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
よって、本マスクは、耳掛け部3の材料として伸縮性を有するシート状部材を用い、装着し易さや装着の安定性を高めつつ、マスクの装着時に、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
【0072】
本実施形態の好ましい態様として、マスク1では、装着する前の状態において、上側延出部11及び下側延出部12が横方向Wに対して上下方向Lの上側に傾斜するような形状を有している。すなわち、上側延出部11は、横方向Wに対して角度α1だけ斜め上方へ傾斜した方向A1に延出し、下側延出部12は、横方向Wに対して角度β1だけ斜め上方へ傾斜した方向B1に延出している。そして、
図1(b)に示すように、所定の傾斜角度γ1が、上側延出部11の角度α1(上側角度)から下側延出部12の角度β1(下側角度)までの範囲の角度である。
そのため、装着時に、耳掛け部3、すなわち上側延出部11及び下側延出部12が、耳に掛けられて、横方向Wに対して上下方向Lの上方に傾斜した方向に引っ張られたとき、耳掛け部3全体として、伸長し易い方向と装着時に伸長される方向とが互いにより近づいた状態にすることができる。したがって、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じることによる、装着時に耳掛け部3を伸長するために要する力が大きくなるという事態を抑制できる。
【0073】
本実施形態の好ましい態様として、マスクの装着時に伸長された上側延出部11における伸長長さ、及び、前記マスクの装着時に伸長された下側延出部12における伸長長さのうち、伸長長さが長い方の延出部を長方延出部(本実施形態では下側延出部12、後述の第2実施形態では上側延出部11)とする。ここで、長方延出部ではマスクの装着時の伸長長さが相対的に長いため、装着時に長方延出部に生じる張力が、もう一方の延出部に生じる張力よりも大きくなり易く、長方延出部が耳に接する部分に装着者が痛みを覚え易くなるおそれがある。そこで、少なくとも長方延出部は、伸縮方向が第1方向G1で、第1方向G1が横方向Wに対して上下方向Lの上側に所定の傾斜角度γ1だけ傾斜した方向であり、したがって、横方向Wに対して上下方向Lの上方に所定の傾斜角度γ1だけ傾斜した方向に伸長し易くしている。そして、その所定の傾斜角度γ1が、マスク1の装着時に伸長された長方延出部が横方向Wと成す角度と同じにしている。ただし、同じとは一方の角度が他方の角度の±30°(、好ましくは±15°、より好ましくは±5°)以内をいう。本実施形態(
図4)の例では、第1方向G1が横方向Wに対して成す角と、下側延出部12が伸長する方向B1’が横方向Wに対して成す角とは、同じである。そのため、装着時に長方延出部を伸長するために要する力を低減でき、それにより、装着時に、長方延出部に生じる張力を低減できるので、長方延出部が耳に接する部分に装着者が痛みを覚えることを抑制できる。
【0074】
本実施形態の好ましい態様として、マスク1は、立体型のマスクである。その場合、上側延出部11よりも、下側延出部12の方が、装着時に生じる張力が相対的に大きくなり易い。その理由は、立体型のマスクでは、下側延出部12の方が装着時の伸長長さが長くなるからである(
図4(b)参照)。そこで、マスク1(立体型のマスク)では、少なくとも下側延出部12は、伸縮方向が第1方向G1で、第1方向G1が横方向Wに対して上下方向Lの上側に所定の傾斜角度γ1だけ傾斜した方向として、横方向Wに対して上下方向Lの上方に所定の傾斜角度γ1だけ傾斜した方向に伸長し易くしている。そして、その所定の傾斜角度γ1を、下側延出部12が横方向Wと成す角度と同じにしている。ただし、同じとは一方の角度が他方の角度の±30°(、好ましくは±15°、より好ましくは±5°)以内をいう。そのため、装着時に下側延出部12を伸長するために要する力を低減でき、それにより、装着時に、耳掛け部3に生じる張力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
【0075】
本実施形態の好ましい態様として、上記の立体型のマスク1では、所定の傾斜角度γ1は、40~60度である。そのため、装着時に下側延出部12を伸長するために要する力をより低減でき、それにより、装着時に、耳掛け部3に生じる張力をより低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることをより抑制できる。
【0076】
本実施形態の好ましい態様において、マスク1の装着時の伸長された上側延出部11に生じる張力と、前記マスクの装着時の伸長された前記下側延出部12に生じる張力と、は同じである。この場合、上側延出部11に生じる張力と、下側延出部12に生じる張力とは、互いに同一である場合だけでなく、一方が他方の0.8~1.2倍の場合を含む。そのため、マスクの装着時における、上側延出部11を伸長するために要する力と、下側延出部12を伸長するために要する力をバランスさせることができる。それにより、耳掛け部3に生じる張力をバランスさせて、耳に掛かる張力を耳全体に分散させることができ、耳の特定の部分に張力が集中することを抑制できる。したがって、装着者が耳に痛みを覚えることをより抑制できる。
【0077】
(第2実施形態)
図5~
図8は第2実施形態に係るマスク1の構成を示す図であり、
図5は背面図及び断面図であり、
図6は展開図であり、
図7はマスク1の耳掛け部3の一部を示す模式図であり、
図8はマスク1の装着の様子を示す模式図である。マスク1は、上下方向L及び横方向Wを有し、着用者の口及び鼻を覆うマスク本体部2と、着用者の耳に掛けられる一対の耳掛け部3とを備える。本実施形態ではマスク1がプリーツ型のマスク(後述)である点で、立体型のマスクである第1実施形態と相違する。以下では、主に、第1実施形態との相違点につき説明する。なお、
図5、
図6の平面MSP1及び平面TP1は、それぞれ平面MSP1と平面TP1との交差線の方向から見た平面MSP1及び平面TP1を示す。
【0078】
マスク本体部2(積層体)は、横方向Wに長い略矩形の形状を有しており、横方向Wに沿って延び、上下方向Lに間隔を空けて並んだ複数の襞部21を備える(プリーツ構造)。複数の襞部21は、マスク本体部2を上下方向Lに折り畳んで形成される。このようなマスク本体部2を有するマスク1はプリーツ型のマスクということができる。プリーツ型のマスクでは、マスク本体部2における横方向Wの中央部において、上下方向Lの両端部を外側に引っ張ると、複数の襞部21が伸ばされる。それにより、マスク本体部2の横方向Wの中央部と着用者との間に所定の口元空間を形成できる。
【0079】
一対の耳掛け部3の各々は、マスク本体部2の横方向Wの両端部2EWから内側へ延出するように(
図5参照)、かつ、装着時に外側へ延出可能なように(
図6、
図8参照)形成されている。したがって、本実施形態の耳掛け部3も、マスク本体部2の横方向Wの両端部2EWから「外側へ延出する」ということができる。なお、耳掛け部3は最初から外側に延出してもよい。
【0080】
耳掛け部3の上側延出部11及び下側延出部12は、マスク本体部2の両端部2EWから横方向Wに沿って、横方向Wの内側へ延出している。言い換えると、上側延出部11は、横方向Wに対して傾斜角度が実質的に0(±10°)の方向で延出し、下側延出部12は、横方向Wに対して傾斜角度が実質的に0(±10°)の方向で延出している。一対の耳掛け部3における一方の連結部14と他方の連結部14とは、横方向Wの内側(上側延出部11及び下側延出部12と反対の側)の端縁において接合部8で接合されている。この場合、一対の耳掛け部3は一体に形成され、よって接合部8は元々連結していてもよいし、一体の耳掛け部3は別々に形成され、よって接合部8は事後的に接着、融着、圧着などの方法で連結してもよい。
【0081】
耳掛け部3の上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方では、伸縮方向(伸縮容易方向)は第1方向G2である。そして、第1方向G2は、横方向Wに対して、上下方向Lの上側に所定の傾斜角度γ2だけ傾斜した方向である。耳掛け部3の伸縮方向である第1方向G2の測定方法は後述される。なお、上側延出部11及び下側延出部12のうちの一方の伸縮方向が、第1方向G2であれば、他方の伸縮方向は第1方向G2でなくてもよい。ただし、好ましくは±30°、より好ましくは±15°、更に好ましくは±5°の範囲で同じであると、装着時に耳掛け部を伸長するために要する力を低減でき、耳掛け部に生じる張力をより低減できる。本実施形態では、上側延出部11及び下側延出部12の両方の伸縮方向が第1方向G2である。
【0082】
第1方向G2の傾斜角度γ2としては、10~60°が好ましく、本実施形態のようなプリーツ型のマスクの場合には、20~40°がより好ましい。傾斜角度が小さすぎると耳掛け部3の張力の低下が小さくなってしまい、傾斜角度が大き過ぎると、耳掛け部3の張力が大きくなってしまう。
【0083】
本実施形態では、伸縮性シートは、伸長性繊維と伸縮性繊維とを含み、ギア延伸加工に例示される伸縮性を付与する手段が行われることにより第1方向G2の伸縮性が付与される。ギア延伸加工により、
図5~
図7に示すように、伸縮性シートには、第1方向G2に直交する第2方向R2に沿って延在する複数の凸部15と、複数の凸部15の隣り合う凸部15の間に位置し、第2方向R2に沿って延在する複数の凹部16とが形成されている。ただし、
図7は耳掛け部3の一部を伸縮方向(第1方向G2)に対して垂直な方向(第2方向R2)から見た図である。なお、別の実施形態として、伸縮性シートは、伸長性繊維と伸縮性を有するシートとを含んでもよい。
【0084】
マスク1の装着の様子を示す
図8において、
図8(a)はマスク1のマスク本体部2が口及び鼻を覆っているが、耳掛け部3が耳に掛けられていない状態を示し、
図8(b)はマスク本体部2が口及び鼻を覆い、耳掛け部3が耳に掛けられた状態、すなわちマスク1が装着された状態を示し、
図8(c)は第1方向G2、上側延出部11のマスク装着時に伸長する方向A2、下側延出部12のマスク装着時に伸長する方向B2との関係を示す図である。
【0085】
本実施形態では、
図8(a)において、マスク1では、耳掛け部3の伸縮方向である第1方向G2が、横方向Wに対して、上下方向Lの上方に所定の傾斜角度γ2だけ傾斜した方向である(
図8(c)参照)。そして、
図8(b)において、上側延出部11が、横方向Wに対して角度α2(上側伸長角度)となる方向A2に伸長され、下側延出部12が、横方向Wに対して角度β2(下側伸長角度)となる方向B2に伸長されて、マスク1が装着される。このとき、傾斜角度γ2は、角度α2及び角度β2の少なくとも一方と同じでもよい。ただし、同じ角度とは、一方の角度が他方の角度の±30°(好ましくは±15°、より好ましくは±5°)の範囲とする。あるいは、傾斜角度γ2は、角度α2と角度β2との間の角度であってもよい。いずれの場合にも、上側延出部11及び/又は下側延出部12の伸長(伸縮)し易い伸縮方向(G2)と装着時に伸長される方向(A2~B2)とが概ね同じ方向になっている。本実施形態では、傾斜角度γ2は、角度α2と角度β2との間の角度である。
【0086】
耳掛け部3は、例えば、第1実施形態と同様の製造方法で形成される。そのとき、一対の耳掛け部3の各々を互いに接合部8で一体化しておいてもよい(一体的に形成してもよい)。その後、形成された一対の耳掛け部3の各々が別途形成された又は形成途中のマスク本体部2に接合部6で接合されて、マスクが製造される。
【0087】
本実施形態でも、立体型のマスク特有の作用効果を除き、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、本発明は、プリーツ型ではなく、襞のないフラットなマスク本体部を有するマスクにも適用可能である。
【0088】
本実施形態の好ましい態様として、マスク1の所定の傾斜角度γ2は、マスク1の装着時に伸長された上側延出部11が横方向Wと成す角度α2(上側伸長角度)から、マスク1の装着時に伸長された下側延出部12が横方向Wと成す角度β2(下側伸長角度)まで、の範囲の角度である。
そのため、装着時に、耳掛け部3、すなわち上側延出部11及び下側延出部12が、耳に掛けられて、横方向Wに対して上下方向Lの上方に傾斜した方向に引っ張られたとき、伸長し易い方向(第1方向G2)と装着時に伸長される方向(A2~B2)とが互いにより近づいた状態にすることができる。したがって、伸長し易い方向と伸長される方向とにずれが生じることによる、装着時に耳掛け部3を伸長するために要する力が大きくなるという事態を抑制できる。
【0089】
本実施形態の好ましい態様として、マスク1は、プリーツ型のマスクである。その場合、下側延出部12よりも、上側延出部11の方が、装着時に生じる張力が相対的に大きくなり易い。その理由は、プリーツ型のマスクでは、マスク本体部2が装着時に顎の下側まで回り込むため、下側延出部12の方が伸長される長さが短くなるからである(
図8(b)参照)。そこで、マスク1(プリーツ型のマスク)では、少なくとも上側延出部11は、伸縮方向が第1方向G2で、第1方向G2が横方向Wに対して上下方向Lの上側に所定の傾斜角度γ2だけ傾斜した方向として、横方向Wに対して上下方向Lの上方に所定の傾斜角度γ2だけ傾斜した方向に伸長し易くしている。そして、その所定の傾斜角度γ2を、装着時に上側延出部11が横方向Wと成す角度としている。そのため、装着時に上側延出部11を伸長するために要する力を低減でき、それにより、装着時に、耳掛け部3に生じる張力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
【0090】
本実施形態の好ましい態様として、上記のプリーツ型のマスク1では、所定の傾斜角度γ2は、25~40度である。そのため、装着時に上側延出部11を伸長するために要する力をより低減でき、それにより、装着時に、耳掛け部3に生じる張力をより低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることをより抑制できる。
【0091】
(第3実施形態)
図10は、第3実施形態に係るマスク1の構成を示す側面図である。本実施形態のマスク1は、第1実施形態のマスク1と基本的に同じ構成を有している。ただし、本実施形態のマスク1では、耳掛け部3の製造方法において、耳掛け部3の材料である不織布の横断方向CDと、不織布をギア延伸加工するときのギア延伸方向Jとの関係が特定されている。以下では、その点に関し、主に説明する。なお、横断方向CDは、耳掛け部3の材料である不織布そのものを製造するときの不織布の搬送方向MDに対して垂直な方向である。
【0092】
本実施形態では、耳掛け部3は、以下の構成を有している。上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方(耳掛け部3)を構成する不織布を製造するときの横断方向CDと、その不織布をギア延伸加工するときの延伸方向Jと、が互いに角度ζ(40°~60°)ずれている。このとき、その不織布の横断方向CDは、マスク1の横方向Wに沿っている。そして、上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方における、上記の第1方向を含む伸縮し易い伸縮適正方向K、すなわち、耳掛け部3が伸縮し易い方向は、延伸方向Jと、横断方向CDから延伸方向Jに向かって角度η(20°)の方向Fと、の間の方向である。すなわち、耳掛け部3は、延伸方向Jと、方向Fと、の間の方向であれば、どの方向でも伸縮し易いということができる。
【0093】
この角度ηは、延伸方向Jと横断方向CDとの概ね中間の方向を示している。横断方向CDを基準とすると、延伸方向Jの角度は、角度ζであるから、その中間の方向の角度である角度ηは、角度ζ/2となる。ここで、耳掛け部3が伸縮し易い伸縮適正方向Kが、延伸方向Jと、横断方向CDから延伸方向Jに向かって角度ηの方向Fと、の間の任意の方向になるのは、以下の理由によると考えられる。耳掛け部3は、延伸方向Jに伸縮し易く、かつ、不織布の特性により横断方向CDにも伸縮し易い。ただし、延伸方向Jの方がより大きく伸縮可能であるため、伸縮し易い範囲(伸縮適正方向K)は、延伸方向J側に偏った角度範囲になると考えられる。
【0094】
具体的には、角度ζ=40°~60°(一般的な鼻と耳との位置関係による)とすると、角度η=角度ζ/2=20°~30°となるが、ここでは、不織布やギア延伸加工の特性のばらつきなどから、角度η=20°とする。その場合、耳掛け部3が伸縮し易い伸縮適正方向Kは、延伸方向Jと、横断方向CDから延伸方向Jに向かって角度η(20°)の方向Fとの間の角度範囲Δ=ζ-η=20°~40°の範囲である。
【0095】
本マスク1は、上記構成を有することにより、第1実施形態と同様の効果を奏することができると共に、以下の効果を奏することができる。耳掛け部3において、延伸方向Jと横断方向CDとが同じ場合と比較して、伸縮適正方向Kの範囲を拡げることができる。すなわち、耳掛け部は、延伸方向と、横断方向から延伸方向に向かって20度の方向と、の間の方向であれば、どの方向でも伸縮し易くなっている。それゆえ、使用者が耳に痛みを覚え難い伸縮方向の許容範囲を拡げることができる。それにより、上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方を、伸縮適正方向Kに、より伸縮し易くすることができ、耳掛け部3に生じる張力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。したがって、鼻の位置に対して耳の位置が高い場合や、耳の大きさが大きい場合でも、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
【0096】
また、本実施形態では、上側延出部11が横方向W(横断方向CD)に対して角度α1(図示されず:例えば25°)だけ斜め上方へ傾斜した方向に延出し、下側延出部12が横方向W(横断方向CD)に対して角度β1(図示されず:例えば、50°)だけ斜め上方へ傾斜した方向に延出している。すなわち、これら角度α1及び角度β1が、上記の延伸方向Jと方向Fとの間の角度範囲Δに入っている。それにより、マスク装着時にマスク本体部2よりやや高い位置にある耳の方向を、伸縮適正方向Kの範囲にし易くすることができる。したがって、耳掛け部3に生じる張力を低減できるので、装着者が耳に痛みを覚えることを抑制できる。
【0097】
耳掛け部3において、上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方では、ギア延伸加工による伸縮方向は延伸方向Jであり、この方向は第1実施形態の第1方向G1(図示されず)と一致する。本実施形態では、延伸方向J(第1方向G1)と、横断方向CDとを互いにずらすことにより、耳掛け部3(上側延出部11及び下側延出部12の少なくとも一方)が伸縮し易い範囲を拡げることができる。
【0098】
耳掛け部3は、不織布にギア延伸加工を施して形成される。
図11は、第3実施形態に係るマスクに使用される不織布の製造方法の一例を示す模式図である。
【0099】
耳掛け部3の製造方法は、例えば、以下のとおりである。まず、繰出し工程において、不織布原反ロール(図示されず)から加工前の不織布70(伸長性繊維及び伸縮性繊維を含む)を、上下一対の搬送ロール61で搬送方向MDに連続的に繰り出す。次いで、加熱工程において、繰り出された不織布70を搬送方向MDに搬送しながら加熱装置(図示されず)で加熱する。次いで、ギア延伸工程において、加熱された不織布70を上下一対のギアロール62の凹凸62aによって横断方向CDに対して所定角度ζだけ傾斜した延伸方向Jに延伸する。次いで、冷却工程において、横断方向CDに対して所定角度ζだけ傾斜した延伸方向Jに延されて複数の凹部71aが形成された延伸不織布71(すなわち、伸縮性シートの連続シート)を搬送方向MDに搬送しながら冷却装置(図示されず)で冷却する。次いで、切断工程において、冷却された延伸不織布71(伸縮性シート)を上下一対の搬送ロール63で搬送方向MDに搬送しつつ、横断方向CD及び搬送方向MDが、それぞれ耳掛け部3、すなわちマスク1の横方向W及び上下方向Lとなるように、切断装置(図示されず)で耳掛け部3を切り出す。その後、形成された一対の耳掛け部3の各々が、別途形成された又は形成途中のマスク本体部2に接合部6で接合されて、マスクが製造される。なお、本実施形態の耳掛け部3(伸縮性シート)の製造方法は、このような製造方法に限定されず、従来知られた技術を用いた種々の変更を行ってもよい。
【0100】
上記説明にない耳掛け部3の他の構成については、第1実施形態の耳掛け部3と同じである。
【0101】
次に、一対の耳掛け部3の各々とマスク本体部2との接合部6について説明する。
図12は実施形態に係るマスク1の接合部6を示す側面図及び断面図であり、
図12(a)は
図1(a)と同じである。
図12(b)は
図12(a)におけるXIIb-XIIb線に沿った断面図である。
【0102】
本実施形態では、一対の耳掛け部3は、マスク本体部2の横方向Wの両端部2EW、すなわち左半面シート2a及び右半面シート2bにおける接合部5と反対側の端部2EWに、接合部6で接合されている。その接合部6は、上下方向Lに沿って、超音波溶着又は熱溶着で形成される。それにより、接合部6は、マスク本体部2(の両端部2EW)と耳掛け部3とが積層し、接合されているので高坪量かつ高剛性である。
【0103】
マスク1は、着用者が口を動かすことで上下方向Lにずれ易く、上下方向Lにずれる場合があり得る。その場合、耳への負担(下側に向かう力)が増加して、耳掛け部3か掛かる耳に痛みが生じ得る。そこで、本実施形態のマスク1では、上下方向Lに沿って、高坪量(二層の積層による)且つ高剛性(溶着による)の接合部6が設けられている。それにより、接合部6と顔との摩擦が大きくなり、マスク1を上下方向Lにずれ難くすることができ、耳への負担(下側に向かう力)を抑制でき、痛みを生じ難くすることができる。
【0104】
特に、本実施形態では、超音波溶着用の超音波ホーンや、熱融着用の加熱治具には、凹凸部が設けられている。そして、超音波溶着や熱溶着のとき、耳掛け部3とマスク本体部2とが重ねられた部分に凹凸部を押し当てつつ、超音波や熱を印加するので、接合部6に凹凸6aが形成される。それにより、接合部6は、高坪量、高剛性であるだけでなく、凹凸6aを有することになる。それゆえ、接合部6と顔との摩擦がより大きくなり、マスク1を上下方向Lに、よりずれ難くすることができ、耳への負担(下側に向かう力)をより抑制でき、痛みをより生じ難くすることができる。
【0105】
<伸縮方向(伸縮容易方向)の測定方法>
耳掛け部における伸縮方向(伸縮容易方向)の測定方法を、
図9を参照して説明する。
図9はマスクの伸縮方向の測定方法を示す模式図である。
(1)測定対象のマスクを準備する。例えば、立体型のマスクを準備する。
(2)
図9(a)に示すように、測定対象のマスクの耳掛け部から1.5cm×1.5cmの正方形の部分を切断して試料Saとする(
図9(b))。
(3)
図9(c)に示すように、試料Saの対向する二つの角部p1を、二つの治具51で把持する。治具51同士の距離を1cmとする。
(4)治具51を一定の力F0で引張り、治具51同士の距離D1を測定する。
(5)
図9(d)に示すように、試料Saの他の対向する二つの角部p2を、二つの治具51で把持する。治具51同士の距離を1cmとする。
(6)治具51を一定の力F0(例示:50gf)で引張り、治具51同士の距離D2を測定する。
(7)マスクの耳掛け部から、耳掛け部に対する正方形の角度をずらして、複数(例示:2個)の試料Saを切り出して、(2)~(6)を実施し、試料ごとに距離D1,D2を測定する。
(8)二つの角部を結ぶ複数の方向のうち、最も距離の大きい方向を、試料Saにおける伸縮方向とする。
【0106】
<耳掛け部の張力の測定方法>
耳掛け部における伸長長さと張力との関係は以下のようにして測定する。
(1)測定対象のマスクを準備する。例えば、立体型のマスクの場合、
図1に示す状態のマスクを準備する。プリーツ型のマスクの場合、
図6に示すマスクをマスク本体部における横方向の中心を通り上下方向に延びる線で二つ折りにしたマスクを準備する。
(2)最大荷重容量が50Nであるロードセルを備えた引張試験機(島津製作所(株)製、オートグラフ、型式AGS-1kNG)を使用する。測定対象のマスクの一対の耳掛け部を環状の治具に引っ掛け、その治具を引張試験機の一方のチャックに固定する。一方、マスク本体部を引張試験機の他方のチャックに固定する。
(3)所定の引張速度(例示:10mm/分)で二つのチャックを離間させつつ、チャックに生じる荷重を測定する。
(4)チャック間距離の初期値からの伸び量を、耳掛け部の伸長長さ(mm)とし、測定される荷重を、耳掛け部の張力(N)として、両者の関係を求める。
【0107】
<耳掛け部の耳への負荷の測定方法>
マスク着用時の耳掛け部の耳への負荷の測定方法を、
図4を参照し説明する。
(1)測定対象のマスクを準備する。例えば、立体型のマスクを準備する。
(2)試験用に設定した所定の人頭のマネキンを準備し、その耳の付け根の後部、すなわち耳掛け部が引っ掛かる(接する)部分を覆うように、所定の厚さ(例示:3mm)及び所定の幅(例示:5mm)の粘度を配置する。
(3)マネキンにマスクを装着し、その後、マスクを外す。
(4)粘度を取り外し、耳の、上部[1]、後上部[2]、後中央部[3]、後下部[4]、下部[5](
図4(b)では〇に数字で記載)における、耳掛け部3の粘度への食い込み深さを測定する。食い込み深さが0~1mmの場合を負荷が相対的に小さいとして評価Aとし、1~2mmを評価Bとし、2mm以上を負荷が相対的に大きいとして評価Cとした。
【0108】
<上側延出部及び下側延出部の伸長長さの測定方法>
マスク着用時の上側延出部及び下側延出部の伸長長さの測定方法を、
図4及び
図8を参照して説明する。
(1)測定対象のマスクを準備する。例えば、立体型のマスクやプリーツ型のマスクを準備する。
(2)マスクの上側延出部及び下側延出部に測定領域の印を付け、装着前の測定領域の長さを測定する。立体型のマスクの場合、上側延出部及び下側延出部に、
図4(a)のように線を引き、上側延出部及び下側延出部の各々における装着前の長さdA10及びdB10を測定する。一方、プリーツ型のマスクの場合、上側延出部及び下側延出部に、
図8(a)のように線を引き、上側延出部及び下側延出部の各々における装着前の長さdA20及びdB20を測定する。
(3)試験用に設定した所定の人頭のマネキンを準備し、それにマスクを装着する。立体型のマスクの場合には
図4(b)に示すとおりであり、プリーツ型のマスクの場合には
図8(b)に示すとおりである。
(4)マスクの上側延出部及び下側延出部における測定領域の、装着後の長さを測定する。立体型のマスクの場合、
図4(b)のように、上側延出部及び下側延出部の各々における装着後の長さdA11及びdB11を測定する。一方、プリーツ型のマスクの場合、
図8(a)のように、上側延出部及び下側延出部の各々における装着後の長さdA21及びdB21を測定する。
(5)装着前後の測定領域の長さの変化を求め、上側延出部及び下側延出部の伸長長さとする。立体型のマスクの場合には、上側延出部の伸長長さ=dA11-dA10、であり、下側延出部の伸長長さ=dB11-dB10、である。一方、プリーツ型のマスクの場合には、上側延出部の伸長長さ=dA21-dA20、であり、下側延出部の伸長長さ=dB21-dB20、である。
なお、試験用に設定した所定の人頭のマネキンとしては、例えば、特定の人間の頭部の形状を示すデータや、複数の人間の頭部の平均的な形状を示すデータに基づいて3Dプリンタ等で形成された人頭のマネキンや、JIS T8151の試験用人頭のマネキンなどが挙げられる。
【0109】
<繊維シートの引張伸度(破断伸度)>
(1)測定対象のシートから所定の大きさ(例示:長さ30mm×幅10mm)の短冊状の試験片を切り取って、測定用試料とする。
(2)測定用試料を、最大荷重容量が50Nであるロードセルを備えた引張試験機(島津製作所(株)製、オートグラフ、型式AGS-1kNG)を使用して、3つの測定用試料について、所定の初期チャック間距離(例示:10mm)、所定の引張速度(例示:10mm/分)の条件で引張伸度を測定する。
(3)3つの測定用試料の引張伸度の平均値を引張伸度(破断伸度)とする。
【0110】
本発明は、上述した実施形態や後述する実施例等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。また、技術的矛盾が生じない限り、第1実施形態の技術と第2に実施形態の技術とを適宜組み合わせてもよい。なお、本明細書において、「第1」、「第2」等の序数は、当該序数が付された事項を区別するためのものであり、各事項の順序や優先度、重要度等を意味するものではない。
【実施例0111】
以下、実施例及び比較例を例示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0112】
(1)耳掛け部における伸縮方向の角度と張力との関係
図1に示す立体型のマスクであって、第1方向G1の傾斜角度γ1が50°、25°の耳掛け部を有するマスク(実施例1、2)、及び、傾斜角度γ1が0°、70°、90°の耳掛け部を有するマスク(比較例1~3)を作成した。
それらのマスクについて、上記の耳掛け部の張力の測定方法を用いて、耳掛け部における伸長長さ50mmでの張力を測定した。
その結果、実施例1、2ではそれぞれ0.46N、0.47Nと低い張力となった。一方、比較例1~3ではそれぞれ0.53N、0.66N、0.85Nと高い張力となった。実施例1、2の方が、伸長し易い方向と装着時に伸長される方向とが互いに近づいた状態であったためと考えられる。
(2)マスク着用時の耳掛け部の耳への負荷
上記(1)の実施例1(γ1=50°)及び比較例1(γ1=0°)のマスクについて、上記の耳掛け部の耳への負荷の測定方法を用いて、マスク着用時の耳掛け部の耳への負荷を測定方した。
その結果、実施例1では、上部[1]、後上部[2]、後中央部[3]、後下部[4]、下部[5]のすべてが評価Aであった。張力が小さく、かつ分散されていて、耳への負荷が低いと考えられる。一方、比較例1では、上部[1]、後上部[2]、後中央部[3]、後下部[4]、下部[5]はそれぞれ評価B、評価C、評価B、評価A、評価Aであった。上部[1]、後上部[2]、後中央部[3]において、張力が大きく、かつ一部に集中していて、耳への負荷が比較的大きいと考えられる。
【0113】
(3)上側延出部及び下側延出部の伸長長さ
実施例1の立体型のマスク、及び、
図5に示すプリーツ型のマスクであって、第1方向G2の傾斜角度γ2が25°の耳掛け部を有するマスク(実施例3)を作成した。
それらのマスクについて、上記の上側延出部及び下側延出部の伸長長さの測定方法を用いて、立体型のマスク及びプリーツ型のマスクにおける上側延出部及び下側延出部の伸長長さを測定した。
その結果、実施例1の立体型のマスクの場合には、上側延出部の伸長長さ=83mm(dA11)-46mm(dA10)=37mm(1.80倍)、であり、下側延出部の伸長長さ=127mm(dB11)-70mm(dB10)=57mm(1.81倍)、であった。立体型のマスクの場合、下側延出部の方が、伸長長さが長かった。一方、プリーツ型のマスクの場合には、上側延出部の伸長長さ=74mm(dA21)-39mm(dA20)=35mm(1.90倍)、であり、下側延出部の伸長長さ=54mm(dB21)-37mm(dB20)=17mm(1.46倍)、であった。プリーツ型のマスクの場合、上側延出部の方が、伸長長さが長かった。
【0114】
本発明は、上述の各実施形態等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、各実施形態に記載の技術を適宜組み合わせたり、代替したり、変更したりすることが可能である。