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特開2022-186859溶剤組成物、洗浄方法、塗膜付き基材の製造方法及び熱移動媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186859
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】溶剤組成物、洗浄方法、塗膜付き基材の製造方法及び熱移動媒体
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/50 20060101AFI20221208BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20221208BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20221208BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C11D7/50
C09K5/04 C
C09D7/20
C09D201/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170145
(22)【出願日】2022-10-24
(62)【分割の表示】P 2019537663の分割
【原出願日】2018-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2017162492
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】光岡 宏明
(72)【発明者】
【氏名】三木 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】花田 毅
(72)【発明者】
【氏名】市野川 真理
(72)【発明者】
【氏名】藤森 厚史
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀一
(57)【要約】
【課題】各種有機物の溶解性に優れ、かつ地球環境に悪影響を及ぼさない溶剤組成物の提供。
【解決手段】1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンを含む溶剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンを含む溶剤組成物。
【請求項2】
前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンの含有割合が、前記溶剤組成物の全量に対して50質量%以上である請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項3】
前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンにおいて、(Z)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンおよび(E)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンの全量に対する(Z)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンの含有割合が50質量%以上である、請求項1又は2に記載の溶剤組成物。
【請求項4】
さらに、前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンに可溶な溶剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項5】
前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンに可溶な溶剤として、イソプロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2,2,4-トリメチルペンタン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールメチルエチルアセテート、酢酸エチル、トランス-1,2-ジクロロエチレン、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンおよび1,3-ジクロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項6】
さらに、安定剤を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項7】
前記安定剤は、沸点が80~120℃である、請求項6に記載の溶剤組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の溶剤組成物と被洗浄物品とを接触させることを特徴とする、洗浄方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の溶剤組成物に不揮発性物質を溶解して塗膜形成用組成物を得、前記塗膜形成用組成物を基材上に塗布した後、前記溶剤組成物を蒸発させて、前記不揮発性物質を主成分とする塗膜を形成することを特徴とする、塗膜付き基材の製造方法。
【請求項10】
前記不揮発性物質が潤滑剤、防錆剤及び表面処理剤から選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の塗膜付き基材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の溶剤組成物を含む熱移動媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球環境に悪影響を及ぼさず、各種有機物の溶解性に優れる溶剤組成物に関する。本発明は、また、該溶剤組成物を用いた洗浄方法、塗膜付き基材の製造方法及び熱移動媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、電子部品、精密機械部品、光学部品等の製造では、製造工程、組立工程、最終仕上げ工程等において、部品を洗浄剤によって洗浄し、該部品に付着したフラックス、加工油、ワックス、離型剤、ほこり等を除去することが行われている。また潤滑剤等の各種有機化学物質を含有する塗膜を有する塗膜付き基材の製造方法としては、例えば、該有機化学物質を塗布溶剤に溶解した溶液を調製し、該溶液を基材上に塗布した後に塗布溶剤を蒸発させて塗膜を形成する方法が知られている。塗布溶剤には、有機化学物質を充分に溶解させることができ、また充分な乾燥性を有していることが求められる。
【0003】
このような用途に用いる溶剤としては、不燃性で毒性が小さく、安定性に優れ、金属、樹脂、エラストマー等の基材を侵さず、化学的及び熱的安定性に優れる点から、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン等のクロロフルオロカーボン(以下、「CFC」と記す。)、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン、3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等のハイドロクロロフルオロカーボン(以下、「HCFC」と記す。)等を含有するフッ素系溶剤等が使用されていた。
【0004】
しかし、CFCは、化学的に極めて安定であることから、気化後の対流圏内での寿命が長く、拡散して成層圏にまで達する。そのため、成層圏に到達したCFCが紫外線により分解され、塩素ラジカルを発生してオゾン層が破壊される問題がある。このことから、CFCの生産は世界的に規制されており、先進国での生産は既に全廃されている。
【0005】
また、HCFCも塩素原子を有しており、僅かではあるがオゾン層に悪影響を及ぼすことから、先進国においては2020年に生産が全廃されることになっている。
【0006】
一方、塩素原子を有さず、オゾン層に悪影響を及ぼさない溶剤としては、ペルフルオロカーボン(以下、「PFC」と記す。)が知られている。また、CFC及びHCFCの代替溶剤として、ハイドロフルオロカーボン(以下、「HFC」と記す。)、ハイドロフルオロエーテル(以下、「HFE」と記す。)等も開発されている。
【0007】
しかし、HFCやPFCは、地球温暖化防止のため、京都議定書の規制対象物質となっている。
【0008】
HFC、HFE、PFCの溶剤に替わる新しい溶剤として、炭素原子-炭素原子間に二重結合を持つクロロフルオロオレフィン(CFO)やハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)が提案されている。これらのCFOやHCFOは、分解しやすいために大気中での寿命が短く、オゾン破壊係数や地球温暖化係数が小さく、地球環境への影響が小さいという優れた性質を有している。
【0009】
このようなCFOとしては、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(CFO-1214ya)が、洗浄用溶剤組成物や潤滑剤の塗布溶剤として用いられている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0010】
HCFOとしては、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1223za)が、潤滑剤の塗布溶剤や脱脂洗浄剤として用いられている(例えば、特許文献3、4参照。)。また、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233zd)が洗浄剤として用いられている(例えば、特許文献5参照。)。
【0011】
上述した化合物の沸点は、CFO-1214yaが約46℃、HCFO-1223zaが約54℃、HCFO-1233zdではE体が約19℃、Z体が約40℃であり、いずれも、60℃以下と低沸点である。
【0012】
ここで、洗浄剤や塗布溶剤、熱移動媒体の成分は、その使用される条件に応じて、併用される他の成分との溶解性や化合物の沸点等を考慮して選択される。そのため、より広範な用途に適用できるように、各種有機物の溶解性に優れ、かつ地球環境に悪影響を及ぼさない溶剤であって、上述したCFO-1214ya、HCFO-1223za、HCFO-1233zd等以外にも、これらより沸点の高い溶剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2013-224383号公報
【特許文献2】国際公開第2013/161723号
【特許文献3】特開2016-169256号公報
【特許文献4】特開平2-221388号公報
【特許文献5】米国特許第7985299号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、地球環境に悪影響を及ぼさず、各種有機物の溶解性に優れる溶剤組成物、該溶剤組成物を用いた洗浄方法、該溶剤組成物を塗布溶剤として用いた塗膜付き基材の製造方法、該溶剤組成物を含む熱移動媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記の点を鑑み検討を行った結果、本発明を完成した。すなわち本発明は以下よりなる。
【0016】
[1]1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンを含む溶剤組成物。
[2]前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンの含有割合が、前記溶剤組成物の全量に対して50質量%以上である[1]に記載の溶剤組成物。
[3]前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンにおいて、(Z)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンおよび(E)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンの全量に対する(Z)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンの含有割合が50質量%以上である、請求項1又は2に記載の溶剤組成物。
【0017】
[4]さらに、前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンに可溶な溶剤を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の溶剤組成物。
[5]前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンに可溶な溶剤として、イソプロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2,2,4-トリメチルペンタン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールメチルエチルアセテート、酢酸エチル、トランス-1,2-ジクロロエチレン、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンおよび1,3-ジクロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンから選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の溶剤組成物。
【0018】
[6]さらに、安定剤を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の溶剤組成物。
[7]前記安定剤は、沸点が80~120℃である、[6]に記載の溶剤組成物。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の溶剤組成物と被洗浄物品とを接触させることを特徴とする、洗浄方法。
【0019】
[9][1]~[7]のいずれかに記載の溶剤組成物に不揮発性物質を溶解して塗膜形成用組成物を得、前記塗膜形成用組成物を基材上に塗布した後、前記溶剤組成物を蒸発させて、前記不揮発性物質を主成分とする塗膜を形成することを特徴とする、塗膜付き基材の製造方法。
[10]前記不揮発性物質が潤滑剤、防錆剤及び表面処理剤から選ばれる少なくとも1種である、[9]に記載の塗膜付き基材の製造方法。
[11]請求項1~7のいずれか一項に記載の溶剤組成物を含む熱移動媒体。
【0020】
本明細書においては、特に断りのない限り飽和のHFCをHFCといい、HFOとは区別して用いる。また、HFCを飽和のハイドロフルオロカーボンのように明記する場合もある。また、本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記し、必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。また、略称として、ハイフン(-)より後ろの数字及びアルファベット小文字部分だけを用いることがある。
【0021】
また、分子内に二重結合を有し、E体とZ体の幾何異性体が存在する化合物については、化合物名の場合は前に、略称の場合は後ろに、E体は(E)、Z体は(Z)と表記する。(E)又は(Z)の表記がないものは、E体、Z体、又はE体とZ体の任意の割合の混合物を示す。
【発明の効果】
【0022】
本発明の溶剤組成物は、地球環境に悪影響を及ぼさず、各種有機物の溶解性に優れる。
本発明の洗浄方法は、地球環境に悪影響を及ぼさず、洗浄性に優れる。
本発明の塗膜付き基材の製造方法は、地球環境に悪影響を及ぼさず、均一な塗膜を形成することができる。
本発明の該溶剤組成物を含む熱移動媒体は、地球環境に悪影響を及ぼさず、熱サイクル性能に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<溶剤組成物>
本実施形態の溶剤組成物は、1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(CHCl=CFCFCFCFH;HCFO-1437dycc、以下「1437dycc」と記す。)を含む。本実施形態の溶剤組成物は、1437dyccのみからなっていてもよい。本実施形態の溶剤組成物は、1437dycc以外にも、1437dyccに可溶な溶剤(以下、「溶剤(A)」と記す。)や、1437dyccを安定化させる安定剤等の他の成分を含んでいてもよい。また、本実施形態の溶剤組成物は、1437dycc以外に、1437dyccの製造工程における副生物等の不純物を含むことがある。以下、本発明の一実施形態である溶剤組成物について説明する。
【0024】
(1437dycc)
1437dyccは、炭素原子-炭素原子間に二重結合を持つため、その結合が大気中のOHラジカルによって分解されやすいことから、大気中での寿命が短く、オゾン破壊係数や地球温暖化係数が小さい。1437dyccには、Z体(以下「1437dycc(Z)」と記す。)及びE体(以下「1437dycc(E)」と記す。)の構造異性体が存在する。本発明における、1437dyccは、1437dycc(Z)、1437dycc(E)及び1437dycc(Z)と1437dycc(E)の混合物のいずれであってもよい。1437dyccとしては、1437dycc(Z)が、入手が容易である。
【0025】
1437dycc(Z)の沸点は約89℃であり、1437dycc(E)と比べて揮発性に優れる。また、沸騰させて蒸気となっても約89℃であるので、樹脂部品等の熱による影響を受けやすい部品に対しても悪影響を及ぼし難い。また、1437dyccは引火点を持たず、表面張力や粘度も低く浸透性に優れる等、洗浄剤や塗布溶剤として優れた性能を有している。
【0026】
本実施形態の溶剤組成物において、1437dycc(Z)と1437dycc(E)の合計量に対する1437dycc(Z)の含有割合は、揮発性の観点から50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、95質量%以上が最も好ましい。
【0027】
1437dyccは、例えば、工業的に安定的に入手可能な5-クロロ-1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロペンタン(HCFC-448occc、以下「448occc」と記す。)を液相反応または気相反応により、脱フッ化水素させることで製造できる。液相反応で脱フッ化水素させるとは、液体状態の448occcを脱フッ化水素させることをいう。気相反応で脱フッ化水素させるとは、気体状態の448occcを脱フッ化水素させることをいう。
【0028】
448occcの脱フッ化水素反応は、448occcをメタノールの存在下でナトリウムメトキシドと反応させる、448occcを塩基存在下にて脱フッ化水素反応させる等により行える。具体的には、448occcをアルカリ金属水溶液中で、相間移動触媒の存在下に脱フッ化水素反応させる方法が好ましい。
【0029】
上記製造方法では、1437dyccは、1437dycc(Z)と1437dycc(E)の構造異性体を含む組成物として得られる。これらの異性体を含む組成物をそのまま本実施形態の溶剤組成物として用いてもよいし、精製工程で分離した1437dycc(Z)と1437dycc(E)をそれぞれ単独で、あるいは所望の混合比に調製して用いてもよい。
【0030】
上記製造方法によって得られた1437dyccを含む組成物中には、448occc、5-クロロ-1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロ-4-メトキシペンタン、1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-メトキシペンタン、1-クロロ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-2-メトキシペンタ-1-エン、2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-メトキシペンタ-1-エン、1-クロロ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-メトキシペンタ-1-エン、水等の不純物が含まれる場合がある。本実施形態の溶剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、これらの不純物を含んでいてもよい。または、公知の方法により精製した1437dyccを用いてもよい。
【0031】
例えば、上記の製造方法によって製造される1437dyccを含む組成物をそのまま本実施形態の溶剤組成物として使用する場合、当該組成物の1437dyccの純度は99質量%以上が好ましく、99.5質量%以上がより好ましい。1437dyccの純度が上記下限値以上であれば、1437dyccを含む組成物を、洗浄剤、塗布溶剤、作動媒体等に使用する場合に不純物による影響が少ない。
【0032】
本実施形態の溶剤組成物中の1437dyccの含有割合は、溶剤組成物の全量に対して50質量%以上であることが好ましい。該含有割合の上限は100質量%であってもよい。1437dyccの含有割合は、50質量%以上99.999質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上99.999質量%以下がさらに好ましく、80質量%以上99.8質量%以下が特に好ましく、90質量%以上99.5質量%以下が最も好ましい。1437dyccの量が上述した範囲内であることにより、溶剤組成物の各種有機物の溶解性に優れる。
【0033】
(1437dyccに可溶な溶剤)
本実施形態の溶剤組成物は、さらに各種有機物の溶解性を高める、揮発速度を調節する等の各種の目的に応じて、1437dyccに可溶な溶剤(溶剤(A))を含んでもよい。1437dyccに可溶な溶剤とは、例えば、所望の濃度となるように1437dyccに混合して、常温(25℃)で撹拌後、5分静置した後に二層分離や濁りを起こさずに均一に溶解できる溶剤を意味する。
【0034】
溶剤(A)としては、炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、クロロカーボン、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、クロロフルオロオレフィン(CFO)等から選ばれる溶剤が好ましい。溶剤(A)は、1種が単独で含有されてもよく、2種以上が含有されてもよい。
【0035】
溶剤(A)である炭化水素としては、炭素数が5以上の炭化水素が好ましい。炭素数が5以上の炭化水素であれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和炭化水素であっても、不飽和炭化水素であってもよい。
【0036】
炭化水素としては、具体的には、n-ペンタン、2-メチルブタン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、n-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,4-ジメチルペンタン、n-オクタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,2-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、2-メチル-3-エチルペンタン、3-メチル-3-エチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2-メチルヘプタン、2,2,4-トリメチルペンタン、n-ノナン、2,2,5-トリメチルヘキサン、n-デカン、n-ドデカン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビシクロヘキサン、α-ピネン、ジペンテン、デカリン、テトラリン、アミルナフタレン等が挙げられる。
【0037】
なかでも、鉱物油の溶解性をさらに高められることから、n-ペンタン、シクロペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、2,2,4-トリメチルペンタンがより好ましい。炭化水素としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0038】
溶剤(A)であるアルコールとしては、炭素数1~16のアルコール(ただし、後述のフェノール系化合物として挙げられる化合物は除く)が好ましい。炭素数1~16のアルコールであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和アルコールであっても、不飽和アルコールであってもよい。
【0039】
アルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、アリルアルコール、2-プロピン-1-オール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール、α-テルピネオール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、ノニルアルコール、テトラデシルアルコール等が挙げられる。
【0040】
なかでも、フラックス洗浄性を高められる点および物品に付着した水分の除去性に優れる点から、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノールがより好ましい。アルコールとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0041】
溶剤(A)であるケトンとしては、炭素数3~9のケトンが好ましい。炭素数3~9のケトンであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和ケトンであっても、不飽和ケトンであってもよい。
【0042】
ケトンとしては、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、ジイソブチルケトン、メシチルオキシド、ホロン、2-オクタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン、2,4-ペンタンジオン、2,5-ヘキサンジオン、アセトフェノン等が挙げられる。なかでも、鉱物油の溶解性をさらに高められる点から、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンがより好ましい。ケトンとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0043】
溶剤(A)であるエーテルとしては、炭素数2~8のエーテルが好ましい。炭素数2~8のエーテルであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和エーテルであっても、不飽和エーテルであってもよい。
【0044】
エーテルとしては、具体的には、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アニソール、フェネトール、メチルアニソール、フラン、メチルフラン、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等が挙げられる。なかでも、鉱物油の溶解性をさらに高められる点から、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートがより好ましい。エーテルとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0045】
溶剤(A)であるエステルとしては、炭素数2~19のエステルが好ましい(ただし、前述のエーテルとして挙げられている化合物は除く。)。炭素数2~19のエステルであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和エステルであっても、不飽和エステルであってもよい。
【0046】
エステルとしては、具体的には、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸ペンチル、酢酸メトキシブチル、酢酸sec-ヘキシル、酢酸2-エチルブチル、酢酸2-エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸ベンジル、γ-ブチロラクトン、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジペンチル、マロン酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、酒石酸ジブチル、クエン酸トリブチル、セバシン酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル等が挙げられる。
【0047】
なかでも、鉱物油の溶解性をさらに高められる点から、酢酸メチル、酢酸エチルがより好ましい。エステルとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0048】
溶剤(A)であるクロロカーボンとしては、炭素数1~3のクロロカーボンが好ましい。炭素数1~3のクロロカーボンであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和クロロカーボンであっても、不飽和クロロカーボンであってもよい。
【0049】
クロロカーボンとしては、具体的には、塩化メチレン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、トランス-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2-ジクロロプロパン等が挙げられる。なかでも、鉱物油の溶解性をさらに高められる点から塩化メチレン、トランス-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレンがより好ましく、洗浄性に優れる点から、トランス-1,2-ジクロロエチレンがさらに好ましい。クロロカーボンとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0050】
溶剤(A)であるHFCとしては、炭素数4~8の鎖状又は環状のHFCが好ましく、1分子中のフッ素原子数が水素原子数以上であるHFCがより好ましい。
【0051】
HFCとしては、具体的には、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン等が挙げられる。なかでも、含フッ素系潤滑剤の溶解性をさらに高められる点から、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサンが好ましい。HFCとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0052】
溶剤(A)であるHFEとしては、含フッ素系潤滑剤等の溶解性をさらに高められる点から、(ペルフルオロブトキシ)メタン、(ペルフルオロブトキシ)エタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)ペンタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン等が好ましい。HFEとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0053】
溶剤(A)であるHCFOとしては、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233zd)のE体及びZ体、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd)のE体及びZ体、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1223za)、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1223xd)のE体及びZ体、1,3-ジクロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1223yd)のE体及びZ体が挙げられる。なかでも、鉱物油の溶解性をさらに高められる点から、HCFO-1233zdのZ体、HCFO-1233ydのE体及びZ体、HCFO-1223ydのE体及びZ体が好ましい。HCFOとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0054】
溶剤(A)であるHFOとしては、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン及びメトキシパーフルオロヘプテンが挙げられる。
【0055】
溶剤(A)であるCFOとしては、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(CFO-1214ya)が挙げられる。
【0056】
溶剤(A)は引火点を持たない溶剤であることがさらに好ましい。引火点を持たない溶剤(A)としては、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン等のHFCや、(ペルフルオロブトキシ)メタン、(ペルフルオロブトキシ)エタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)ペンタン等のHFE、HCFO-1233zdのZ体、HCFO-1233ydのE体及びZ体、HCFO-1223ydのE体及びZ体等のHCFO、CFO-1214ya等のCFOが挙げられる。
【0057】
溶剤(A)として引火点を有する溶剤を用いる場合でも、本実施形態の溶剤組成物が引火点を持たない範囲で1437dyccと混合して用いることが好ましい。
【0058】
本実施形態の溶剤組成物が溶剤(A)を含有する場合、1437dyccと溶剤(A)とは共沸組成を形成していてもよく、非共沸組成であってもよい。1437dyccと溶剤(A)が共沸組成を形成する場合は、共沸組成での使用も可能である。
【0059】
本実施形態の溶剤組成物が溶剤(A)を含有する場合、本実施形態の溶剤組成物中の溶剤(A)の含有量は、1437dyccと溶剤(A)の合計量100質量部に対して0.1~50質量部であることが好ましく、0.5~20質量部であることがより好ましく、1~10質量部であることがさらに好ましい。
【0060】
溶剤(A)の含有量が上記下限値以上であれば、溶剤(A)による効果が充分に得られる。溶剤(A)の含有量が上記上限値以下であれば、1437dyccの持つ優れた有機物の溶解性および乾燥性を阻害することがない。
【0061】
(安定剤)
本実施形態の溶剤組成物は、1437dyccの分解を抑えるために安定剤を含むことが好ましい。安定剤としては、フェノール系化合物、エーテル、エポキシド、アミン、アルコール、炭化水素が挙げられる。安定剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
なお、本実施形態の溶剤組成物が含有する安定剤において、アルコール、エーテル、炭化水素については、溶剤(A)として例示した化合物以外の化合物を安定剤として扱う。ただし、溶剤(A)においては、安定剤としての作用を有する化合物があり、以下の例示において、そのような化合物を含めて安定剤として例示するが、該化合物は安定剤としての作用を有する溶剤(A)として扱い、溶剤組成物における含有割合の上限は、上記溶剤(A)の含有割合の上限にしたがうものとする。ただし、安定剤としての作用を有する溶剤(A)の溶剤組成物における含有割合の下限については、以下に示す安定剤の含有割合の下限値と同様にできる。
【0063】
ここで、溶剤組成物の安定性は、例えば、1437dyccに所定の割合で安定剤を溶解させた試験溶液を一定期間保存した後の塩素イオン濃度を指標として評価することができる。塩素イオン濃度は、イオンクロマトグラフで測定する。
【0064】
具体的には、本実施形態の溶剤組成物における安定剤としては、試験溶液を50℃で3日間保存した際に、溶剤組成物中の塩素イオン濃度が100質量ppm以下となる安定剤が好ましく、塩素イオン濃度が50質量ppm以下となる安定剤がより好ましく、塩素イオン濃度が10質量ppm以下となる安定剤がさらに好ましい。
【0065】
また、JIS K 1508-1982の加速酸化試験に準拠する安定性試験により評価することもできる。具体的には、200mLの2口フラスコに試験溶液150mLを収容し、試験溶液の気相および液相に冷間圧延鋼板の試験片を共存させた状態で水分を飽和させた酸素気泡を通しながら電球の発熱で96時間還流した前後の試験片の外観変化を指標とする。溶剤組成物において、上記評価で少なくとも液相の試験片に変化がない安定剤が好ましく、液相と気相の両方の試験片に変化がない安定剤がより好ましい。
【0066】
本実施形態の溶剤組成物における安定剤の含有量は、溶剤組成物に対して、0.5質量ppm以上が好ましく、1質量ppm以上がより好ましく、5質量ppm以上がさらに好ましく、10質量ppm以上が特に好ましい。また、この安定剤の含有量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が特に好ましい。安定剤は上記好ましい範囲内であると、1437dyccの安定性に優れるだけでなく、1437dyccのもつ表面張力や粘度が低く浸透性が良いという特性を損なわない点から特に優れている。
【0067】
本実施形態における安定剤は、それぞれ安定化作用が異なると考えられる。例えば、フェノール系化合物や炭化水素は酸化防止作用により1437dyccの分解を抑制することができる。また、エポキシドは発生した酸性物質を捕捉し、アミンは分解によって生じた酸性物質を中和することにより、酸性物質による1437dyccの分解促進を抑制すると推測される。したがって必要に応じて2種以上の安定剤を含有することにより、各安定剤の相乗効果が得られる。
【0068】
本実施形態におけるフェノール系化合物とは、芳香族炭化水素核に1個以上のヒドロキシ基を有する芳香族ヒドロキシ化合物をいう。芳香族ヒドロキシ化合物としては1437dyccに溶解することが好ましい。芳香族炭化水素核としてはベンゼン核が好ましい。芳香族炭化水素核には、ヒドロキシ以外の置換基が結合していてもよい。置換基としては、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、カルボニル基などが挙げられる。また、芳香族炭化水素核に結合している1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい。炭化水素基には、アルキル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基、アラルキル基などが挙げられる。
【0069】
このうち、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アシル基、カルボニル基の炭素数は6以下が好ましく、芳香族炭化水素基や、アラルキル基の炭素数は10以下が好ましい。炭化水素基としてはアルキル基やアルケニル基が好ましく、特にアルキル基が好ましい。さらに、芳香族炭化水素核のヒドロキシ基に対してオルト位にアルキル基やアルコキシ基を有していることが好ましい。オルト位のアルキル基としてはターシャリーブチル基などの分岐アルキル基が好ましい。オルト位が2つ存在する場合はそのいずれにもアルキル基が存在していてもよい。
【0070】
フェノール系化合物としては、具体的には、フェノール、1,2-ベンゼンジオール、1,3-ベンゼンジオール、1,4-ベンゼンジオール、1,3,5-ベンゼントリオール、2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール、2,4,6-トリターシャリーブチルフェノール、2-ターシャリーブチルフェノール、3-ターシャリーブチルフェノール、4-ターシャリーブチルフェノール、2,4-ジターシャリーブチルフェノール、2,6-ジターシャリーブチルフェノール、4,6-ジターシャリーブチルフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-ジメチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,4,6-トリメチルフェノール、2,5,6-トリメチルフェノール、3-イソプロピルフェノール、2-イソプロピル-5-メチルフェノール、2-メトキシフェノール、3-メトキシフェノール、4-メトキシフェノール、2-エトキシフェノール、3-エトキシフェノール、4-エトキシフェノール、2-プロポキシフェノール、3-プロポキシフェノール、4-プロポキシフェノール、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール及び4-ターシャリーブチルカテコールが挙げられる。
【0071】
なかでも、フェノール、1,2-ベンゼンジオール、2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール、m-クレゾール、2-イソプロピル-5-メチルフェノール、α-トコフェロール、2-メトキシフェノール及び4-メトキシフェノールがより好ましい。
【0072】
本実施形態の溶剤組成物における上記フェノール系化合物の含有量は、本実施形態の溶剤組成物に対して0.5質量ppm~10質量%が好ましく、1質量ppm~10質量%がより好ましく、5質量ppm~5質量%がさらに好ましく、特に好ましくは10質量ppm~1質量%である。フェノール系化合物の含有量が上記好ましい範囲内であると、1437dyccに対する十分な安定性を示すことに加え、1437dyccのもつ表面張力や粘度が低く、浸透性が良いという特性を阻害しない点から特に優れている。
【0073】
また本実施形態におけるエーテルとは、酸素原子に2つの炭化水素基が結合した鎖状エーテルと環を構成する原子として酸素原子を有する環状エーテル(ただし、3員環状エーテルであるエポキシ環を除く)とをいう。鎖状エーテルと環状エーテルにおけるエーテル性酸素原子の数は2以上であってもよい。エーテルの炭素数は12以下が好ましい。また、エーテルを構成する炭化水素基の炭素原子にはハロゲン原子、ヒドロキシ基等の置換基を有していてもよい。ただし、エポキシ基を有するエーテルはエポキシドとみなす。
【0074】
エーテルとしては、具体的には、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジアリルエーテル、エチルメチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、エチルイソブチルエーテル、エチルイソペンチルエーテル、エチルビニルエーテル、アリルエチルエーテル、エチルフェニルエーテル、エチルナフチルエーテル、エチルプロパルギルエーテル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、アニソール、アネトール、トリメトキシエタン、トリエトキシエタン、フラン、2-メチルフラン及びテトラヒドロフランが挙げられる。
【0075】
エーテルとしては4~6員環の環状エーテルが好ましく、なかでも、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、2-メチルフラン及びテトラヒドロフランが好ましい。
【0076】
本実施形態の溶剤組成物における上記エーテルの含有量は本実施形態の溶剤組成物に対して1質量ppm~10質量%が好ましく、10質量ppm~7質量%がより好ましく、0.01質量%~5質量%がさらに好ましい。エーテルの含有量が上記好ましい範囲内であると、1437dyccに対する十分な安定性を示すことに加え、1437dyccのもつ表面張力や粘度が低く、浸透性が良いという特性を阻害しない点から特に優れている。
【0077】
また本実施形態におけるエポキシドとは、3員環状エーテルであるエポキシ基を1個以上有する化合物をいう。エポキシドは、エポキシ基を1分子中に2個以上有していてもよく、また、ハロゲン原子、エーテル性酸素原子、ヒドロキシ基等の置換基を有していてもよい。エポキシドの炭素原子数は12以下が好ましい。
【0078】
エポキシドとしては、具体的には、1,2-プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,2-エポキシ-3-フェノキシプロパン、ブチルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、エピクロロヒドリン、d-リモネンオキシド及びl-リモネンオキシドが挙げられる。なかでも、1,2-プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド及びブチルグリシジルエーテルが好ましい。
【0079】
本実施形態の溶剤組成物における上記エポキシドの含有量は、本実施形態の溶剤組成物に対して1質量ppm~10質量%が好ましく、10質量ppm~7質量%がより好ましく、0.01質量%~5質量%がさらに好ましい。エポキシドの含有量が上記好ましい範囲内であると、1437dyccに対する十分な安定性を示すことに加え、1437dyccのもつ表面張力や粘度が低く、浸透性が良いという特性を阻害しない点から特に優れている。
【0080】
また本実施形態におけるアミンとは、置換又は無置換のアミノ基を1個以上有する化合物(第1級~第3級アミン)をいう。また、アミンは非環状のアミンであっても環状アミン(アミノ酸の窒素原子が環を構成する原子である環状化合物)であってもよい。第2級アミンや第3級アミンの窒素原子に結合している基としては、炭素数6以下のアルキル基やヒドロキシアルキル基が好ましい。非環状のアミンとしては脂肪族アミンや芳香族アミンが挙げられる。脂肪族アミンとしては置換又は無置換のアミノ基を1個以上有するベンゼン核含有化合物が挙げられる。環状アミンとしては、環を構成する窒素原子の数が1~3個の4~6員環化合物が挙げられる。また、アミンの炭素原子数は16以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0081】
アミンとしては、具体的には、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、イソブチルアミン、ジイソブチルアミン、セカンダリー-ブチルアミン、ターシャリー-ブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、アニリン、N-メチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ピリジン、ピコリン、モルホリン、N-メチルモルホリン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、α-メチルベンジルアミン、プロピレンジアミン、ジエチルヒドロキシアミン、ピロール、N-メチルピロール、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、ジプロパノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-エチルモルホリン、ジフェニルアミン及びエチレンジアミンが挙げられる。
【0082】
アミンとしては、アルキルアミンと環状アミンが好ましく、なかでも、ピロール、N-メチルピロール、2-メチルピリジン、n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、N-メチルモルホリン及びN-エチルモルホリンが好ましい。
【0083】
本実施形態の溶剤組成物における上記アミンの含有量は、本実施形態の溶剤組成物に対して1質量ppm~10質量%が好ましく、5質量ppm~5質量%がより好ましく、さらに好ましくは10質量ppm~1質量%であり、10質量ppm~0.1質量%が最も好ましい。アミンの含有量が上記好ましい範囲内であると、1437dyccに対する十分な安定性を示すことに加え、1437dyccのもつ表面張力や粘度が低く、浸透性が良いという特性を阻害しない点から特に優れている。
【0084】
さらに、上記アミンには緩衝作用があるため、1437dyccが分解する際に生じる酸を捕捉して、酸分上昇を防ぎさらなる分解反応を抑制する効果があり、外部から持ち込まれた酸分を捕捉することで外部要因による影響を小さくすることができる。
【0085】
また、本実施形態におけるアルコールとは、直鎖、分岐鎖又は環状構造の炭化水素にヒドロキシ基が結合した、有機化合物(ただし上述のフェノール系化合物として挙げられる化合物を除く)のことをいう。本実施形態におけるアルコールとは、1437dyccへの溶解性があり、1437dyccとともに揮発して物品の表面に残留しにくい点から、沸点が80~120℃であるアルコールが好ましい。
【0086】
アルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール、α-テルピネオール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、ノニルアルコール、テトラデシルアルコール、2-プロピン-1-オール等が挙げられる。
【0087】
なかでも、溶剤組成物の揮発性に優れる点から、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、3-メチル-2-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、2-ペンタノール、1-エチル-1-プロパノール、アリルアルコール、2-プロピン-1-オールがより好ましい。
【0088】
本実施形態の溶剤組成物における上記アルコールの含有量は、本実施形態の溶剤組成物に対して1質量ppm~10質量%が好ましく、5質量ppm~5質量%がより好ましく、さらに好ましくは10質量ppm~1質量%であり、10質量ppm~0.1質量%が最も好ましい。アルコールの含有量が上記好ましい範囲内であると、1437dyccに対する十分な安定性を示すことに加え、1437dyccのもつ表面張力や粘度が低く、浸透性が良いという特性を阻害しない点から特に優れている。
【0089】
また、本実施形態における炭化水素とは、直鎖、分岐鎖又は環状構造の炭化水素分子を有する有機化合物である。本実施形態において、炭化水素は、飽和炭化水素でもよく、炭素-炭素結合の少なくとも一つが不飽和結合である不飽和炭化水素でもよい。本実施形態における炭化水素としては、1437dyccへの溶解性があり、揮発性があって、1437dyccとともに揮発して物品の表面に残留しにくい点で、炭素数が5~9の鎖状又は環状の炭化水素が好ましい。
【0090】
飽和炭化水素としては、具体的には、n-ペンタン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、n-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,4-ジメチルペンタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,2-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、2-メチル-3-エチルペンタン、3-メチル-3-エチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2-メチルヘプタン、2,2,4-トリメチルペンタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。なかでも、n-ペンタン、シクロペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、2,2,4-トリメチルペンタンがより好ましい。
【0091】
不飽和炭化水素としては、具体的には、1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン等のペンテン異性体、1-ヘキセン、2-ヘキセン、3-ヘキセン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ブテン、3-エチル-1-ブテン、3-エチル-2-ブテン、2-メチル-2-ペンテン、3-メチル-2-ペンテン、4-メチル-2-ペンテン、2,3-ジメチル-2-ブテン等のヘキセン異性体、1-ヘプテン、2-ヘプテン、3-ヘプテン、4-ヘプテン、3-エチル-2-ペンテン等のへプテン異性体、1-オクテン、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、2,4,4-トリメチル-2-ペンテン等のオクテン異性体、1-ノネン等のノネン異性体、また、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、ヘプタジエン、オクタジエン等のジエン化合物、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロオクテン、シクロオクタジエン等の不飽和環状化合物が挙げられる。
【0092】
本実施形態では、特に2-メチル-2-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、2-メチル-2-ペンテン、3-エチル-2-ブテン、2,3-ジメチル-2-ブテン、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、2,4,4-トリメチル-2-ペンテンが好ましい。
【0093】
上記炭化水素のうち、酸素捕捉による酸化防止作用は不飽和炭化水素が飽和炭化水素よりも高いため、不飽和炭化水素が1437dyccの安定剤としてより好ましい。
【0094】
本実施形態の溶剤組成物における上記炭化水素の含有量としては、本実施形態の溶剤組成物に対して1質量ppm~10質量%が好ましく、より好ましくは5質量ppm~7質量%、さらに好ましくは10質量ppm~5質量%であり、10質量ppm~0.1質量%が最も好ましい。炭化水素の含有量が上記好ましい範囲内であると、1437dyccに対する十分な安定性を示すことに加え、1437dyccのもつ表面張力や粘度が低く、浸透性が良いという特性を阻害しない点から特に優れている。
【0095】
本実施形態の溶剤組成物が、銅又は銅合金と接触する場合には、それらの金属の腐食を避けるために、ニトロ化合物やトリアゾール系化合物を含有してもよい。ニトロ化合物は、ニトロメタン、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパン、1-ニトロエチレンである。より好ましくは、ニトロメタン又はニトロエタンである。トリアゾール系化合物は、2-(2′-ヒドロキシ-5′-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2′-ヒドロキシ-3′-ターシャリーブチル-5′-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-[(N,N-ビス-2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール等から選ばれるものであり、より好ましくは1,2,3-ベンゾトリアゾールである。上記ニトロ化合物やトリアゾール系化合物の含有量は、溶剤組成物に対して10質量ppm~1質量%が好ましい。
【0096】
本発明の溶剤組成物を洗浄装置で使用する場合には、洗浄装置や使用後の溶剤組成物を回収・再生する装置において、蒸発、凝縮が繰り返される。また、本発明の溶剤組成物を不揮発性物質の塗布溶剤として使用する場合には、使用後の溶剤組成物を回収・再生する装置において、蒸発、凝縮が繰り返される。このように、溶剤組成物の相変化を伴う用途に使用する場合には溶剤組成物は安定剤を含むことが好ましい。安定剤としては、1437dyccと共に蒸発、凝縮する安定剤が好ましいことから、沸点が80~120℃の化合物が好ましい。
【0097】
具体的には、1-プロパノール(沸点:97.2℃)、イソプロパノール(沸点:82.4℃)、1-ブタノール(沸点:118℃)、2-ブタノール(沸点:100℃)、2-メチル-1-プロパノール(沸点:108℃)、2-メチル-2-プロパノール(沸点:82.4℃)、3-メチル-2-ブタノール(沸点:112℃)、2,2-ジメチル-1-プロパノール(沸点:113~114℃)、2-ペンタノール(沸点:119.3℃)、1-エチル-1-プロパノール(沸点:114℃)、アリルアルコール(沸点:97℃)、2-プロピン-1-オール(沸点:112℃)、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン(沸点:112℃)、2,4,4-トリメチル-2-ペンテン(沸点:112℃)、n-ヘプタン(沸点:98℃)、2,2,4-トリメチルペンタン(沸点:約99℃)、N-メチルピロール(沸点:113℃)、N-メチルモルホリン(沸点:116℃)が好ましい。
【0098】
溶剤組成物を長期に安定に使用する観点から、溶剤組成物は沸点が80~120℃の安定剤とフェノール系化合物を含むことが好ましい。フェノール系化合物としては、フェノール、1,2-ベンゼンジオール、2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール、m-クレゾール、2-イソプロピル-5-メチルフェノール、α-トコフェロール、2-メトキシフェノール、4-メトキシフェノールが好ましい。
【0099】
また、溶剤組成物を繰り返し使用する観点から、安定剤としては非水溶性の化合物を用いることが好ましい。非水溶性の安定剤としては、飽和炭化水素、不飽和炭化水素等が挙げられる。安定剤として非水溶性の化合物を用いれば、溶剤組成物を固体吸着剤に接触する等の再生処理を行っても、安定剤は吸着されないため、溶剤組成物の安定性が維持される。
【0100】
以上説明した本実施形態の溶剤組成物は、各種有機物の溶解性に優れ、かつ地球環境に悪影響を及ぼさない溶剤組成物である。
【0101】
本実施形態の溶剤組成物は、金属、樹脂、エラストマー、繊維、ガラス、セラミックス等の広範囲の材質に対して使用できる。
【0102】
本実施形態の溶剤組成物は、特に、物品を洗浄するための洗浄剤、不揮発性溶質を溶解して被塗布物に塗布するための塗布溶剤、物品を加熱や冷却するために用いられる熱サイクルシステム用の熱移動媒体などとして適している。
【0103】
<洗浄方法>
本実施形態の溶剤組成物を用いた被洗浄物の洗浄方法は、本実施形態の溶剤組成物と被洗浄物品とを接触させることを特徴とする。本実施形態の洗浄方法は本実施形態の溶剤組成物を用いて被洗浄物品の表面に本実施形態の溶剤組成物を接触させて被洗浄物品に付着する汚れを除去すること以外は特に限定されない。例えば、手拭き洗浄、浸漬洗浄、スプレー洗浄、浸漬揺動洗浄、浸漬超音波洗浄、蒸気洗浄、及びこれらを組み合わせた方法等を採用すればよい。洗浄装置、洗浄条件等も公知のものを適宜選択でき、分解することなく長期間繰り返し使用することができる。
【0104】
この溶剤組成物が適用可能な被洗浄物品の材質としては、金属、樹脂、ゴム等のエラストマー、繊維、ガラス、セラミックス及びこれらの複合材料が挙げられる。複合材料としては、金属と樹脂の積層体等が挙げられる。
【0105】
本実施形態の溶剤組成物を用いる洗浄用途を例示すると、各種の物品に付着したフラックス、加工油、ワックス、離型剤、ほこり等の洗浄除去が挙げられる。ここで、被洗浄物品のより具体的な例としては、繊維製品、医療器具、電気機器、精密機械、光学物品及びそれらの部品等が挙げられる。電気機器、精密機械、光学物品及びそれらの部品の具体例としては、IC、コンデンサ、プリント基板、マイクロモーター、リレー、ベアリング、光学レンズ、ガラス基板等が挙げられる。
【0106】
本実施形態の洗浄方法においは、液相の本実施形態の溶剤組成物に被洗浄物品を接触させる1回または2回以上の溶剤接触工程と、該溶剤接触工程後に、本実施形態の溶剤組成物を蒸発させて発生させた蒸気に前記被洗浄物品を曝す蒸気接触工程と、を有する洗浄方法が適用できる。具体的には、例えば、国際公開第2008/149907号に示される洗浄装置、及び該洗浄装置による洗浄方法に適用できる。
【0107】
本実施形態の溶剤組成物を用いて国際公開第2008/149907号に示される洗浄装置にて洗浄を行う場合、1回目の溶剤接触工程を行う第1浸漬槽内の本実施形態の溶剤組成物の温度を25℃以上、溶剤組成物の沸点未満とすることが好ましい。上記範囲内であれば、加工油等の脱脂洗浄を容易に行うことができ、超音波による洗浄効果が高い。また、2回目の溶剤接触工程を行う第2浸漬槽内の本実施形態の溶剤組成物の温度を10~55℃とすることが好ましい。上記範囲内であれば、蒸気接触工程において、被洗浄物品の温度と溶剤蒸気の温度差が十分に得られるため、蒸気洗浄のために十分量の溶剤が被洗浄物品表面で凝縮できるためすすぎ洗浄効果が高い。また洗浄性の点から第2浸漬槽の溶剤組成物の温度より第1浸漬槽内の本実施形態の溶剤組成物の温度が高いことが好ましい。
【0108】
本実施形態の溶剤組成物は、衣類の洗浄剤、すなわち、ドライクリーニング用溶剤、として適している。
【0109】
本実施形態の溶剤組成物を用いるドライクリーニング用途は、シャツ、セーター、ジャケット、スカート、ズボン、ジャンパー、手袋、マフラー、ストール等の衣類に付着した汚れの洗浄除去が挙げられる。
【0110】
さらに、本実施形態の溶剤組成物は、綿、麻、ウール、レーヨン、ポリエステル、アクリル、ナイロン等といった繊維からなる衣類のドライクリーニングに適用できる。
【0111】
また、本実施形態の溶剤組成物に含まれる1437dyccは、分子に塩素原子を含むため汚れの溶解性が高く、幅広い溶解力があるジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC-225)等のHCFCと同程度の油脂汚れに対する洗浄力があると推定される。
【0112】
さらに、本実施形態の溶剤組成物をドライクリーニング用溶剤組成物に含有させて使用するには、汗や泥等の水溶性汚れの除去性能を高めるために界面活性剤を組み合せることができる。界面活性剤としては、カチオン系、ノニオン系、アニオン系、及び両イオン性界面活性剤等が挙げられる。1437dyccは、分子に塩素原子を有するため幅広い有機化合物に溶解性を持つためHFE、HFCのように、溶剤によって界面活性剤を最適化する必要がなく、様々な界面活性剤が使用できる。このように、本実施形態の溶剤組成物をドライクリーニング用溶剤組成物に用いる場合には、ドライクリーニング用溶剤組成物は、本実施形態の溶剤組成物とともに、カチオン系、ノニオン系、アニオン系、及び両イオン性界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を含むことができる。
【0113】
カチオン性界面活性剤としてはドデシルジメチルアンモニウムクロライド、トリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。ノニオン性界面活性剤としてはポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、リン酸と脂肪酸のエステル等の界面活性剤が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩などのアルキル硫酸エステル塩、脂肪酸塩(せっけん)などのカルボン酸塩、αオレフィンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩等のスルホン酸塩が挙げられる。両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン等のベタイン化合物が挙げられる。また、上記に挙げた化合物の水素原子がハロゲン原子で置換されている化合物でもよい。
【0114】
ドライクリーニング用溶剤組成物中の界面活性剤の含有割合は0.01~10質量%が好ましく、より好ましくは0.1~5質量%、さらに好ましくは0.2~2質量%である。ドライクリーニング用溶剤組成物中の本実施形態の溶剤組成物の含有割合は、界面活性剤を除く全量であるのが好ましい。
【0115】
<塗膜形成用組成物および塗膜付き基材の製造方法>
本実施形態の溶剤組成物は、不揮発性物質の希釈塗付用の溶剤に使用できる。すなわち本実施形態の溶剤組成物は、本実施形態の溶剤組成物に不揮発性物質を溶解した塗膜形成用組成物として、不揮発性物質からなる塗膜の形成に使用できる。本実施形態の塗膜付き基材の製造方法、言い換えれば基材上への塗膜の形成方法は、上記塗膜形成用組成物を被塗布物である基材上に塗布した後、該溶剤組成物を蒸発させて、不揮発性物質を主成分とする塗膜を形成することを特徴とする。なお、塗膜は好ましくは不揮発性物質からなる。
【0116】
ここで、本発明における不揮発性物質とは、沸点が本発明の溶剤組成物より高く、溶剤組成物が蒸発した後も該不揮発性物質が表面に残留するものをいう。不揮発性物質として、具体的には、被塗布物に潤滑性を付与するための潤滑剤、金属部品の防錆効果を付与するための防錆剤、被塗布物に防湿性、防汚性、撥水撥油性等を付与するための表面処理剤等が挙げられる。
【0117】
本実施形態の溶剤組成物に潤滑剤を溶解させた塗膜形成用組成物を潤滑剤溶液として被塗布物である基材に潤滑剤を主成分とする塗膜(以下、「潤滑剤塗膜」ともいう)を形成する例を以下に説明する。
【0118】
潤滑剤とは、2つの部材が互いの面を接触させた状態で運動するときに、接触面における摩擦を軽減し、熱の発生や摩耗損傷を防ぐために用いるものを意味する。潤滑剤は、液体(オイル)、半固体(グリース)、固体のいずれの形態であってもよい。
【0119】
潤滑剤としては、1437dyccへの溶解性が優れる点から、フッ素系潤滑剤又はシリコーン系潤滑剤が好ましい。なお、フッ素系潤滑剤とは、分子内にフッ素原子を有する潤滑剤を意味する。また、シリコーン系潤滑剤とは、シリコーンを含む潤滑剤を意味する。
【0120】
上記潤滑剤溶液に含まれる潤滑剤は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。フッ素系潤滑剤とシリコーン系潤滑剤は、それぞれを単独で使用してもよく、それらを併用してもよい。
【0121】
フッ素系潤滑剤としては、フッ素オイル、フッ素グリース、ポリテトラフルオロエチレンの樹脂粉末等のフッ素系固体潤滑剤が挙げられる。フッ素オイルとしては、パーフルオロポリエーテルやクロロトリフルオロエチレンの低重合物が好ましい。例えば、製品名「クライトックス(登録商標)GPL102」(デュポン株式会社製)、「ダイフロイル#1」、「ダイフロイル#3」、「ダイフロイル#10」、「ダイフロイル#20」、「ダイフロイル#50」、「ダイフロイル#100」、「デムナムS-65」(以上、ダイキン工業株式会社製)等が挙げられる。
【0122】
フッ素グリースとしては、パーフルオロポリエーテルやクロロトリフルオロエチレンの低重合物等のフッ素オイルを基油として、ポリテトラフルオロエチレンの粉末やその他の増ちょう剤を配合したものが好ましい。例えば、製品名「クライトックス(登録商標)グリース240AC」(デュポン株式会社製)、「ダイフロイルグリースDG-203」、「デムナムL65」、「デムナムL100」、「デムナムL200」(以上、ダイキン株式会社製)、「スミテックF936」(住鉱潤滑剤株式会社製)、「モリコート(登録商標)HP-300」、「モリコート(登録商標)HP-500」、「モリコート(登録商標)HP-870」、「モリコート(登録商標)6169」(以上、東レ・ダウコーニング株式会社製)等が挙げられる。
【0123】
シリコーン系潤滑剤としては、シリコーンオイルやシリコーングリースが挙げられる。シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン、メチルフェニルシリコーン、環状ジメチルシリコーン、側鎖や末端に有機基を導入した変性シリコーンオイルが好ましい。例えば、製品名「信越シリコーンKF-96」、「信越シリコーンKF-96-50CS」、「信越シリコーンKF-965」、「信越シリコーンKF-968」、「信越シリコーンKF-99」、「信越シリコーンKF-50」、「信越シリコーンKF-54」、「信越シリコーンHIVAC F-4」、「信越シリコーンHIVAC F-5」、「信越シリコーンKF-56A」、「信越シリコーンKF-995」(以上、信越化学工業株式会社製)、「MDX4-4159」、「SH200」(以上、東レ・ダウコーニング株式会社製)等が挙げられる。
【0124】
シリコーングリースとしては、上記に挙げた種々のシリコーンオイルを基油として、金属石けん等の増ちょう剤、各種添加剤を配合した製品が好ましい。例えば、製品名「信越シリコーンG-30シリーズ」、「信越シリコーンG-40シリーズ」、「信越シリコーンFG-720シリーズ」、「信越シリコーンG-411」、「信越シリコーンG-501」、「信越シリコーンG-6500」、「信越シリコーンG-330」、「信越シリコーンG-340」、「信越シリコーンG-350」、「信越シリコーンG-630」(以上、信越化学工業株式会社製)、「モリコート(登録商標)SH33L」、「モリコート(登録商標)41」、「モリコート(登録商標)44」、「モリコート(登録商標)822M」、「モリコート(登録商標)111」、「モリコート(登録商標)高真空用グリース」、「モリコート(登録商標)熱拡散コンパウンド」(以上、東レ・ダウコーニング株式会社製)等が挙げられる。
【0125】
またフッ素系潤滑剤としても、シリコーン系潤滑剤としても例示できるものとして、末端又は側鎖をフルオロアルキル基で置換した変性シリコーンオイルであるフロロシリコーンオイルが挙げられる。例えば、製品名「ユニダイン(登録商標)TG-5601」(ダイキン工業株式会社製)、「モリコート(登録商標)3451」、「モリコート(登録商標)3452」(以上、東レ・ダウコーニング株式会社製)、「信越シリコーンFL-5」、「信越シリコーンX-22-821」、「信越シリコーンX-22-822」、「信越シリコーンFL-100」(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0126】
これら潤滑剤は塗膜として、例えば、フッ素系潤滑剤が通常塗膜として用いられる産業機器、パーソナルコンピュータやオーディオ機器におけるCDやDVDのトレー部品、プリンタ、コピー機器、フラックス機器等の家庭用機器やオフィス用機器等に使用できる。また、シリコーン系潤滑剤が通常塗膜として用いられる注射器の注射針やシリンダ、医療用チューブ部品等に使用できる。
【0127】
上記潤滑剤溶液中の潤滑剤の含有量は、潤滑剤溶液の全量に対して0.01~50質量%が好ましく、0.05~30質量%がより好ましく、0.1~20質量%がさらに好ましい。潤滑剤溶液の潤滑剤を除く残部が溶剤組成物である。潤滑剤の含有量が上記範囲内であれば、潤滑剤溶液を塗布したときの塗布膜の膜厚、及び乾燥後の潤滑剤塗膜の厚さを適正範囲に調整しやすい。
【0128】
潤滑剤溶液の塗布方法としては、例えば、刷毛による塗布、スプレーによる塗布、被塗布物を潤滑剤溶液に浸漬することによる塗布、潤滑剤溶液を吸い上げることによりチューブや注射針の内壁に潤滑剤溶液を接触させる塗布方法等が挙げられる。
【0129】
被塗布物に塗布された潤滑剤溶液から溶剤組成物を蒸発させる方法としては、公知の乾燥方法が挙げられる。乾燥方法としては、例えば、風乾、加熱による乾燥等が挙げられる。乾燥温度は、20~100℃が好ましい。
【0130】
本実施形態の溶剤組成物に防錆剤を溶解させた塗膜形成用組成物を防錆剤溶液として被塗布物である基材に防錆剤を主成分とする塗膜(以下、「防錆剤塗膜」ともいう)を形成することもできる。
【0131】
本実施形態における防錆剤とは、空気中の酸素によって容易に酸化されて錆を生じる金属の表面を覆い、金属表面と酸素を遮断することで金属材料の錆を防止する物質のことを言う。防錆剤としては、鉱物油やポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテルのような合成油が挙げられる。
【0132】
防錆剤溶液中の防錆剤の含有量は、上記の潤滑剤溶液中の潤滑剤の含有量と、好ましい範囲も含めて同様とできる。防錆剤溶液の塗布方法は潤滑剤溶液と同様であり、刷毛による塗布、スプレーによる塗布、被塗布物を防錆剤溶液に浸漬することによる塗布等が挙げられる。その後、被塗布物に塗布された防錆剤溶液を乾燥させて防錆剤塗膜とする方法についても潤滑剤塗膜を形成する方法と同様にできる。
【0133】
また、ゴム等のエラストマー、樹脂、金属、ガラス、実装回路板等の被塗布物に防湿性や防汚性を付与するための表面処理剤を本実施形態の溶剤組成物に溶解させた塗膜形成用組成物を表面処理剤溶液として調製し、被塗布物である基材に表面処理剤を主成分とする塗膜(以下、「表面処理剤塗膜」ともいう)を形成することもできる。
【0134】
防湿性を付与する表面処理剤の製品の例としては、環状オレフィン・コポリマーを含む製品であるトパス5013、トパス6013、トパス8007(ポリプラスチックス社製品)、アペル6011T、アペル8008T(三井化学社製品)、シクロオレフィンポリマーを含む製品であるゼオノア1020R、ゼオノア1060R(日本ゼオン社製品)、含フッ素系化合物を含む製品であるエスエフコートSFE-DP02H、SNF-DP20H(セイミケミカル社製品)、オプトエースWP-100シリーズ(ダイキン工業社製品)、フロロサーフFG-3030シリーズ、FG-3020、FG-3650(フロロテクノロジー社製品)、SURECO 1 Series(旭硝子社製品)等が挙げられる。
【0135】
防汚性を付与する表面処理剤としては、ペルフルオロポリエーテル鎖又はペルフルオロアルキル基と加水分解性シリル基を有する含フッ素化合物等が挙げられる。製品例としては、KY-100シリーズ(信越化学工業社製)、オプツールDSX、オプツールDAC(ダイキン工業社製品)、フロロサーフFG-5000シリーズ(フロロテクノロジー社製品)、SR-4000A(セイミケミカル社製品)、Afluid S-550、SURECO 2 Series(旭硝子社製品)等が挙げられる。
【0136】
表面処理剤溶液中の防錆剤の含有量は、上記の潤滑剤溶液中の潤滑剤の含有量と、好ましい範囲も含めて同様とできる。表面処理剤溶液の塗布方法は潤滑剤溶液と同様であり、刷毛による塗布、スプレーによる塗布、被塗布物を表面処理剤溶液に浸漬することによる塗布等が挙げられる。その後、被塗布物に塗布された表面処理剤溶液を乾燥させて表面処理剤塗膜とする方法についても潤滑剤塗膜を形成する方法と同様にできる。
【0137】
上記した潤滑剤や防錆剤、表面処理剤が塗布される被塗布物としては、金属、樹脂、エラストマー、ガラス、セラミックス等、様々な材質の被塗布物を採用できる。
【0138】
これら潤滑剤や防錆剤、表面処理剤等を溶解する前の本実施形態の溶剤組成物の状態でも、上記溶液の状態でも、保管中や使用中に分解することなく使用することができる。以上説明した本実施形態の溶剤組成物は、溶解性に優れ、かつ蒸発しても大気中の寿命が短いことで地球環境に悪影響を及ぼさない。さらに、本実施形態の溶剤組成物は、分解することなく安定な状態で使用することができる。
【0139】
<熱移動媒体>
本実施形態の溶剤組成物は熱移動媒体(作動媒体)として、熱サイクルシステムに用いることができる。これにより物質を加熱したり冷却したりすることができる。
【0140】
熱サイクルシステムとしては、ランキンサイクルシステム、ヒートポンプサイクルシステム、冷凍サイクルシステム、熱輸送システム、二次冷媒冷却システム等が挙げられる。
【0141】
熱サイクルシステムとして、具体的には、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置及び二次冷却機等が挙げられる。
【0142】
発電システムとしては、ランキンサイクルシステムによる発電システム(バイナリ-発電等)が好ましい。発電システムとして、具体的には、蒸発器において地熱エネルギー、太陽熱、50~200℃程度の中温度域から高温度域の廃熱等により作動媒体を加熱し、高温高圧状態の蒸気となった作動媒体を膨張機にて断熱膨張させ、該断熱膨張によって発生する仕事によって発電機を駆動させ、発電を行うシステムが例示される。
【0143】
熱輸送装置としては、潜熱輸送装置が好ましい。潜熱輸送装置としては、装置内に封入された作動媒体の蒸発、沸騰、凝縮等の現象を利用して潜熱輸送を行うヒートパイプ及び二相密閉型熱サイフォン装置が挙げられる。ヒートパイプは、半導体素子や電子機器の発熱部の冷却装置等、比較的小型の冷却装置に適用される。二相密閉型熱サイフォンは、ウィッグを必要とせず構造が簡単であることから、ガス-ガス型熱交換器、道路の融雪促進及び凍結防止等に広く利用される。
【0144】
冷凍・冷蔵機器として、具体的には、ショーケース(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース等)、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等が挙げられる。
【0145】
空調機器として、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン(店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン等)、熱源機器チリングユニット、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等が挙げられる。
【0146】
以下、熱サイクルシステムの一例として、冷凍サイクルシステムについて説明する。
【0147】
冷凍サイクルシステムとは、蒸発器において作動媒体が負荷流体より熱エネルギーを除去することにより、負荷流体を冷却し、より低い温度に冷却するシステムである。冷凍サイクルシステムでは、高温低圧の作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機と、圧縮された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器と、凝縮器から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁と、膨張弁から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器と、蒸発器に負荷流体Eを供給するポンプと、凝縮器に流体Fを供給するポンプとから構成されるシステムである。
【0148】
さらに、本実施形態の作動媒体には潤滑剤を使用することができる。潤滑剤には、熱サイクルシステムに用いられる公知の潤滑剤が用いられる。潤滑剤としては、含酸素系合成油(エステル系潤滑剤、エーテル系潤滑剤等)、フッ素系潤滑剤、鉱物油、炭化水素系合成油等が挙げられる。
【0149】
さらに、本実施形態の作動媒体は二次循環冷却システムにも適用できる。
二次循環冷却システムとは、アンモニアや炭化水素冷媒からなる一次冷媒を冷却する一次冷却手段と、二次循環冷却システム用二次冷媒(以下、「二次冷媒」という。)を循環させて被冷却物を冷却する二次循環冷却手段と、一次冷媒と二次冷媒とを熱交換させ、二次冷媒を冷却する熱交換器と、を有するシステムである。この二次循環冷却システムにより、被冷却物を冷却できる。本実施形態の作動媒体は、二次冷媒としての使用に好適である。
【実施例0150】
(製造例:1437dyccの製造)
撹拌機、ジムロート冷却器を設置した0.2リットル四つ口フラスコに、448occcの100.7g、相間移動触媒としてのテトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(TBAB)の1.0gを入れ、フラスコを10℃に冷却した。反応温度を10℃に維持し、34質量%水酸化カリウム(KOH)水溶液の153.9gを30分かけて滴下した。その後、38時間撹拌を続けた。得られた反応液を有機相と水相に二相分離し、有機層を回収した。
【0151】
回収した有機相を精製して、純度99.5%の1437dycc(Z)と1437dycc(E)の異性体混合物を78.6g得た。なお、異性体混合物中の1437dycc(Z)と1437dycc(E)の質量比(1437dycc(Z)/1437dycc(E))は、99/1であった。また同様の反応により得られた異性体混合物を蒸留精製して、純度99.5%の1437dycc(Z)、純度99.5%の1437dycc(E)を製造した。
【0152】
[例1~3]
<溶剤組成物の調製>
製造例で得られた1437dycc(Z)/1437dycc(E)で示す質量比が99/1の異性体混合物を例1の溶剤組成物とした。1437dycc(Z)/1437dycc(E)で示す質量比が95/5、75/25になるように混合して1437dyccの異性体混合物を調製し、それぞれ例2および例3の溶剤組成物とした。以下、1437dycc(Z)/1437dycc(E)は質量比を示す。
【0153】
なお、上記で調製された例1~3の溶剤組成物を構成する1437dycc(Z)と1437dycc(E)の異性体混合物は全て、組成物中の1437dycc濃度が99.5%の1437dycc組成物である。
【0154】
<乾燥性試験>
溶剤組成物として1437dycc(Z)/1437dycc(E)が99/1の異性体混合物(例1の溶剤組成物)および1437dycc(Z)/1437dycc(E)が75/25の異性体混合物(例3の溶剤組成物)をそれぞれ200mLビーカーに50g入れて、縦100mm×横50mm×厚さ4mmのフェノール樹脂製板(商品名:ケムサーフ)を200mLビーカーに浸漬した。溶剤組成物から取り出して、1秒で200mmの高さまで引き上げた後、フェノール樹脂製板表面からの乾燥性を目視で確認した。その結果、1437dycc(Z)/1437dycc(E)が99/1の異性体混合物の方が、蒸発速度が速いことが確認できた。
【0155】
[例4~17]
<溶剤組成物の調製>
上記の製造例で得られた1437dycc(Z)/1437dycc(E)が99/1の異性体混合物(例1の溶剤組成物)と、表1に示す成分を溶剤(A)として用い、表1に示す質量割合となるように例4~17の溶剤組成物を調製した。なお、1233ydは、国際公開第WO2017/018412号に記載の方法で製造した、1233yd(Z)と1233yd(E)の質量比が95/5の異性体混合物を用いた。1223ydは、特許公報GB709887に記載の方法で製造した、1223yd(Z)と1223yd(E)の質量比が95/5の異性体混合物を用いた。
【0156】
<洗浄性試験>
ステンレス鋼(SUS-304)のテストピース(25mm×30mm×2mm)を、切削油である製品名「ダフニーマーグプラスLA5」(出光興産株式会社製)中に浸漬した後、切削油から取り出して、切削油の付着したテストピースを作製した。該テストピースを例1、例4~17の溶剤組成物50mLに浸漬してからテストピースに付着した切削油が完全に除去されるまでの浸漬時間を目視で観察し、洗浄性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0157】
(評価基準)
SS:浸漬時間30秒超45秒以内で除去された。
S:浸漬時間30秒以内で除去された。
【0158】
【表1】
【0159】
表1に示すように、例1、例4~17の溶剤組成物は、いずれも切削油を十分に除去でき、洗浄性に優れることがわかる。
【0160】
<潤滑剤溶液の評価>
例1、例4~17の溶剤組成物に、シリコーン系潤滑剤である製品名「信越シリコーンKF-96-50CS」(信越化学工業株式会社製品)、「MDX4-4159」(東レダウコーニング株式会社製品)をそれぞれ溶剤組成物と潤滑剤の合計に対して3質量%になるように添加すると、いずれも均一に溶解した。
【0161】
さらに、SUS-304製の板(25mm×30mm×2mm)の表面に、上記で得られた潤滑剤溶液を塗布し、19~21℃の条件下で風乾することにより、SUS-304表面に潤滑剤塗膜を形成した。例1~15の溶剤組成物を塗布溶剤として用いたいずれの例においても、どちらのシリコーン系潤滑剤も目視による評価で均一に塗膜が形成されていた。
【0162】
<防汚性を付与するための表面処理剤溶液の評価>
(溶解性)
例1の溶剤組成物に、防汚性を付与するための表面処理剤である製品名「Afluid S-550」(旭硝子社製品)を溶剤組成物と表面処理剤の合計に対して5質量%になるよう添加すると均一に溶解した。
【0163】
(表面処理剤を塗布したガラス板の防汚性評価)
上述のAfluid S-550を例1の溶剤組成物に溶剤組成物と表面処理剤の合計に対して0.1質量%となるように調製して、Afluid S-550を含有する表面処理剤溶液を得た。
【0164】
水及びn-ヘキサデカンの接触角が5°未満である20mm×30mm×厚さ2mmのガラス板を、上記表面処理剤溶液に浸漬させた後、1秒間に5mmの速度でガラス板を引き上げて乾燥させ、ガラス板表面に防汚層を形成した。
【0165】
その後、室温にて24時間静置した後のガラス板表面の防汚層の水の接触角を測定したところ、112°以上であった。また、室温にて24時間静置した後のガラス板表面の防汚層のn-ヘキサデカンの接触角を測定したところ、68°以上であった。なお、防汚層の水及びn-ヘキサデカンの接触角は、接触角測定装置DM-500(協和界面科学社製)を用いて測定した。防汚層表面における異なる5箇所で測定を行い、その平均値を算出した。接触角の算出には2θ法を用いた。水接触角が100°以上、n-ヘキサデカンの接触角が60°以上であれば、実用上、充分な防汚性を有するといえる。
【0166】
[例18~44]
<溶剤組成物の調製>
上記の製造例で得られた1437dycc(Z)/1437dycc(E)が99/1の異性体混合物(例1の溶剤組成物)、1437dycc(Z)/1437dycc(E)が95/5の異性体混合物(例2の溶剤組成物)、1437dycc(Z)/1437dycc(E)が75/25の異性体混合物(例3の溶剤組成物)、および安定剤または安定剤として作用する溶剤(A)を用いて表2に示す質量割合となるように例18~44の溶剤組成物を調製した。なお、表中、「BHT」は2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノールを示す。
【0167】
<安定性試験>
例1~3、例18~44の溶剤組成物について、JIS K 1508-1982の加速酸化試験に準拠し、安定性を確認する試験を行った。結果を表2に示す。
【0168】
200mLの2口フラスコに例1~3、例18~44の溶剤組成物150mLを収容し、該溶剤組成物の気相および液相に冷間圧延鋼板の試験片を共存させた状態で水分を飽和させた酸素気泡を通しながら、電球で光を照射し、その電球の発熱で還流した。ただし、還流時間を96時間とした。
【0169】
試験後の試験片の外観を試験前の外観と比較して以下の評価基準で評価した。結果を表2に示す。
【0170】
(試験片外観の評価基準)
S(優良):試験前後で変化なし
A(良):わずかに光沢が失われたが、実用上問題ない
【0171】
【表2】
【0172】
表2に示すように、本発明の溶剤組成物が安定剤または安定剤として作用する溶剤(A)を含むことにより、より安定性に優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明の溶剤組成物は、地球環境に悪影響を及ぼさず、各種有機物の溶解性に優れる溶剤組成物である。この溶剤組成物は、洗浄や塗布用途等の広範囲の工業用途に有用であり、金属、樹脂、エラストマー等の様々な材質の基材に対し、悪影響を与えることなく使用することができる。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン及びフェノール系化合物を含む溶剤組成物。
【請求項2】
前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンの含有割合が、前記溶剤組成物の全量に対して50質量%以上である請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項3】
前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンにおいて、(Z)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンおよび(E)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンの全量に対する(Z)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンの含有割合が50質量%以上である、請求項1又は2に記載の溶剤組成物。
【請求項4】
さらに、前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンに可溶な溶剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項5】
前記1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテンに可溶な溶剤として、イソプロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2,2,4-トリメチルペンタン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールメチルエチルアセテート、酢酸エチル、トランス-1,2-ジクロロエチレン、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンおよび1,3-ジクロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項6】
さらに、沸点が80~120℃の安定剤を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の溶剤組成物と被洗浄物品とを接触させることを特徴とする、洗浄方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の溶剤組成物に不揮発性物質を溶解して塗膜形成用組成物を得、前記塗膜形成用組成物を基材上に塗布した後、前記溶剤組成物を蒸発させて、前記不揮発性物質を主成分とする塗膜を形成することを特徴とする、塗膜付き基材の製造方法。
【請求項9】
前記不揮発性物質が潤滑剤、防錆剤及び表面処理剤から選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の塗膜付き基材の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の溶剤組成物を含む熱移動媒体。