(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187005
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】信号伝送用ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/00 20060101AFI20221208BHJP
H01B 11/18 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
H01B11/00 J
H01B11/18 D
H01B11/00 G
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173088
(22)【出願日】2022-10-28
(62)【分割の表示】P 2017241998の分割
【原出願日】2017-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】末永 和史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
(72)【発明者】
【氏名】佐川 英之
(57)【要約】
【課題】絶縁体層とシールド層との密着性が高い信号伝送用ケーブルを提供すること。
【解決手段】信号伝送用ケーブルは、信号線と、前記信号線の周囲を被覆する絶縁体層と、前記絶縁体層を被覆するシールド層とを備える。前記絶縁体層の外周面における酸素量A
1が、前記絶縁体層の内部における酸素量A
2の1.2倍以上である。前記絶縁体層の外周面における接触角が130°以下である。前記絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面エネルギーが27mJ/m
2以上である。前記絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量が、前記絶縁体層の内部におけるヒドロキシ基の量より多い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号線と、
前記信号線の周囲を被覆する絶縁体層と、
前記絶縁体層を被覆するシールド層と、
を備え、
前記絶縁体層の外周面における酸素量A1が、前記絶縁体層の内部における酸素量A2の1.2倍以上であり、
前記絶縁体層の外周面における接触角が106.1°以上117.8°以下であり、
前記絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面エネルギーが39mJ/m2以上53mJ/m2以下である信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の信号伝送用ケーブルであって、
前記絶縁体層が、ポリエチレン、又はパーフルオロエチレンプロペンコポリマーを含む信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の信号伝送用ケーブルであって、
前記シールド層は、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、遷移金属薄、及び遷移金属の合金から成る群から選択される少なくとも1種を含む信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の信号伝送用ケーブルであって、
前記シールド層はめっき層である信号伝送用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は信号伝送用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器間の信号伝送、又は、電子機器内の基板間の信号伝送に、信号伝送用ケーブルが用いられる。信号伝送用ケーブルは、例えば、信号線と、信号線の周囲を被覆する絶縁体層と、絶縁体層を被覆するシールド層とを備える。シールド層は、例えば、金属テープや金属編組等を絶縁体層の外周に巻き付けることにより構成される(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-289047号公報
【特許文献2】特開2003-234025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の信号伝送用ケーブルでは、絶縁体層とシールド層との密着性が十分ではないことがあった。絶縁体層とシールド層との密着性が十分でないと、絶縁体層とシールド層との間に空隙が生じることがある。絶縁体層とシールド層との間に空隙が生じると、シールド層によるシールド効果が十分に得られないおそれがある。
【0005】
本開示の一局面は、絶縁体層とシールド層との密着性が高い信号伝送用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面は、信号線と、前記信号線の周囲を被覆する絶縁体層と、前記絶縁体層を被覆するシールド層と、を備え、前記絶縁体層の外周面における酸素量A1が、前記絶縁体層の内部における酸素量A2の1.2倍以上である信号伝送用ケーブルである。本開示の一局面である信号伝送用ケーブルでは、絶縁体層とシールド層との密着性が高い。
【0007】
本開示の別の局面は、信号線と、前記信号線の周囲を被覆する絶縁体層と、前記絶縁体層を被覆するシールド層と、を備え、前記絶縁体層の外周面における接触角が130°以下である信号伝送用ケーブルである。本開示の別の局面である信号伝送用ケーブルでは、絶縁体層とシールド層との密着性が高い。
【0008】
本開示の別の局面は、信号線と、前記信号線の周囲を被覆する絶縁体層と、前記絶縁体層を被覆するシールド層と、を備え、前記絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面エネルギーが27mJ/m2以上である信号伝送用ケーブルである。本開示の別の局面である信号伝送用ケーブルでは、絶縁体層とシールド層との密着性が高い。
【0009】
本開示の別の局面は、信号線と、前記信号線の周囲を被覆する絶縁体層と、前記絶縁体層を被覆するシールド層と、を備え、前記絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量が、前記絶縁体層の内部におけるヒドロキシ基の量より多い信号伝送用ケーブルである。本開示の別の局面である信号伝送用ケーブルでは、絶縁体層とシールド層との密着性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】信号伝送用ケーブル1の構成を表す斜視図である。
【
図2】酸素量A
1、酸素量A
2の測定方法を表す説明図である。
【
図3】製造システム101の構成を表す説明図である。
【
図4】製造システム201の構成を表す説明図である。
【
図5】表面改質処理の後のA
1/A
2比と、試料の表面における接触角とを表すグラフである。
【
図6】表面改質処理の後のA
1/A
2比と、試料の表面における付着ぬれ表面エネルギーとを表すグラフである。
【
図7】
図7Aは、試料の内部における赤外吸収スペクトルを表すグラフであり、
図7Bは、試料の表面における赤外吸収スペクトルを表すグラフである。
【
図8】
図8Aは、未処理試料に無電解銅めっきを行った後の外観を表す写真であり、
図8Bは、表面改質処理J3Aを行った試料に無電解銅めっきを行った後の外観を表す写真であり、
図8Cは、表面改質処理J3Bを行った試料に無電解銅めっきを行った後の外観を表す写真である。
【
図9】
図9Aは、実施例4で製造した信号伝送用ケーブルについて、周波数12.5GHzでの伝搬信号減衰量を測定した結果を表すグラフであり、
図9Bは、実施例4で製造した信号伝送用ケーブルについて、周波数5GHzでの伝搬信号減衰量を測定した結果を表すグラフである。
【
図10】
図10Aは、実施例4で製造した信号伝送用ケーブルについて、周波数12.5GHzでの差動同相変換量を測定した結果を表すグラフであり、
図10Bは、実施例4で製造した信号伝送用ケーブルについて、周波数5GHzでの差動同相変換量を測定した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の例示的な実施形態を説明する。
1.信号伝送用ケーブル
(1-1)信号伝送用ケーブルの基本的な構成
本開示の信号伝送用ケーブルは、信号線と、前記信号線の周囲を被覆する絶縁体層と、前記絶縁体層を被覆するシールド層とを備える。本開示の信号伝送用ケーブルは、例えば、差動信号伝送用ケーブルであってもよいし、それ以外の信号伝送用ケーブルであってもよい。差動信号伝送用ケーブルは一対の信号線を備える。
【0012】
本開示の信号伝送用ケーブルが差動信号伝送用ケーブルである場合、受信側に対し、差動信号による信号伝送を行うことができる。差動信号による信号伝送では、一対の信号線に、互いに逆位相の信号を入力する。受信側は、互いに逆位相の信号の差分を合成して出力を得る。
【0013】
本開示の信号伝送用ケーブルは、例えば、
図1に示す構成を有する。この信号伝送用ケーブルの例は差動信号伝送用ケーブルである。
図1示すように、信号伝送用ケーブル1は、一対の信号線3と、絶縁体層5と、シールド層7と、を備える。絶縁体層5は信号線3の周囲を被覆する。
図1に示す例では、絶縁体層5は、一対の信号線3を一括して被覆する。信号線3は、例えば、素線により構成される。信号線3は、例えば、複数の素線を撚って形成された撚線であってもよい。撚線である場合、信号線3の屈曲性が向上する。
【0014】
本開示の信号伝送用ケーブルは、例えば、電子機器間の信号伝送、又は、電子機器内の基板間の信号伝送等に使用することができる。電子機器として、例えば、数Gbps以上の高速信号を扱うサーバ、ルータ、ストレージ製品等が挙げられる。また、本開示の信号伝送用ケーブルは、例えば、音響用ケーブルとして使用することができる。本開示の信号伝送用ケーブルは、例えば、25GHz以上の高速信号を伝送するケーブルである。
(1-2)絶縁体層
絶縁体層の外周面における酸素量をA1とする。絶縁体層の内部における酸素量をA2とする。酸素量A2に対する酸素量A1の比率を以下ではA1/A2比とする。本開示の信号伝送用ケーブルにおいて、A1/A2比は1.2以上であることが好ましい。A1/A2比が1.2以上である場合、絶縁体層とシールド層との密着性が高くなる。特に、シールド層がめっき層である場合、絶縁体層とシールド層との密着性が高くなり、シールド層が均質になる。
【0015】
酸素量A
1、酸素量A
2の測定方法は以下のとおりである。
図2に示すように、信号線3及び絶縁体層5から成る試料9を用意する。試料9はシールド層を備えない。試料9は、信号伝送用ケーブル1からシールド層7を剥離したものであってもよいし、未だシールド層を形成していないものであってもよい。次に、試料9を切断し、絶縁体層5の断面11を形成する。断面11は、信号伝送用ケーブル1の長手方向と直交する断面である。
【0016】
絶縁体層5の外周面5Aに、第1測定領域13を設定する。第1測定領域13は、大きさが100μm×100μmである正方形の領域である。また、断面11に第2測定領域15を設定する。第2測定領域15の形状及び大きさは第1測定領域13と同じである。第2測定領域15と外周面5Aとの距離Dは10μmである。第2測定領域15の位置は、絶縁体層の内部に対応する。
【0017】
SEM-EDXを用いて、第1測定領域13に電子線を照射し、特性X線を検出する。電子線の加速電圧は10keVである。酸素に対応する波長に現れたX線のピークの面積を算出する。このピークの面積を酸素量A1とする。また、第2測定領域15においても同様に、酸素に対応する波長に現れたX線のピークの面積を算出する。このピークの面積を酸素量A2とする。
【0018】
A1/A2比を大きくする方法として、絶縁体層5に対し表面改質処理を行う方法が挙げられる。表面改質処理は、例えば、信号線3を絶縁体層5で被覆した後であって、シールド層7を形成する前に行うことができる。
【0019】
A1/A2比を大きくする表面改質処理として、例えば、湿式処理、乾式処理が挙げられる。湿式処理として、例えば、酸化力が強い薬液に浸漬する処理等が挙げられる。
A1/A2比を大きくする表面改質処理の具体例として、電子線照射、イオン照射、コロナ放電暴露、プラズマ暴露、紫外線照射、X線照射、γ線照射、オゾン含有液浸漬、酸性/アルカリ性溶液浸漬、過マンガン酸溶液浸漬、キレート溶液浸漬、サンドブラスト、ウェットブラスト、ドライアイスブラスト等が挙げられる。これらのうち、2以上の処理を行ってもよい。
【0020】
過マンガン酸溶液浸漬で用いる過マンガン酸溶液の濃度は、例えば、500ml/L以上である。過マンガン酸溶液浸漬で用いる過マンガン酸溶液の温度は、例えば、90℃である。例えば、燃焼加熱やヒータ加熱により、過マンガン酸溶液の温度を90℃に保持することができる。
【0021】
過マンガン酸溶液浸漬を行うとき、例えば、処理対象物を液中で揺動させることができる。この場合、処理対象物の表面を一様に改質することができる。過マンガン酸溶液浸漬における浸漬時間は、例えば、1~60分間である。
【0022】
過マンガン酸溶液は、例えば、石英ガラスやステンレスの容器に収容することができる。過マンガン酸溶液浸漬の後、処理対象物を水中に浸漬し、揺動させて洗浄することが好ましい。この場合、過マンガン酸溶液が後の工程に影響を与えることを抑制できる。
【0023】
ドライアイスブラストにおいて用いる装置として、例えば、株式会社協同インターナショナル製のドライアイス洗浄装置である、スーパーブラストDSC-V Reborn、DSC-I等が挙げられる。ドライアイスブラストの処理条件として、以下の条件が好ましい。
【0024】
エアー圧力:0.1~1.0MPa
ドライアイス粒子の粒径φ:0.3~3mm
改質処理面からドライアイス粒子を放出するノズル先端までの距離:0~10cm
ドライアイスブラストを行うときの改質処理部の表面及び対象全体の温度:-80℃~室温
コロナ放電又はプラズマ放電において用いる装置として、例えば、信光電気計装株式会社製のコロナ放電表面改質装置(コロナマスターPS-1M型)等が挙げられる。コロナ放電又はプラズマ放電は、例えば、以下のように行うことができる。アース電極上に処理対象物を設置する。放電プローブに高電圧を印加する。放電プローブを処理対象物に接触させるか、あるいは、放電プローブと処理対象物との間隔を数mm程度とする。その状態で、処理対象物に対し、0.15~15mm/secの速度で放電プローブを走査する。走査回数、あるいは暴露時間は、適宜調整することができる。
【0025】
A1/A2比を大きくする表面改質処理は、例えば、第1の処理を行い、次に、第2の処理を行うものであってもよい。第1の処理として、例えば、サンドブラスト、ウェットブラスト、ドライアイスブラスト、酸性/アルカリ性溶液浸漬、過マンガン酸溶液浸漬、キレート溶液浸漬等が挙げられる。第1の処理として、上記の処理のうち、2種以上の処理を行ってもよい。
【0026】
第2の処理として、例えば、電子線照射、イオン照射、コロナ放電暴露、プラズマ暴露、紫外線照射、X線照射、γ線照射、オゾン含有液浸漬等が挙げられる。
A1/A2比を大きくする表面改質処理として、例えば、まず、ドライアイスブラストを行い、次に、コロナ放電又はプラズマ暴露を行う処理が挙げられる。A1/A2比を大きくする表面改質処理として、例えば、まず、ドライアイスブラストを行い、次に、過マンガン酸溶液浸漬を行う処理が挙げられる。A1/A2比を大きくする表面改質処理として、例えば、まず、コロナ放電又はプラズマ暴露を行い、次に、過マンガン酸溶液浸漬を行う処理が挙げられる。A1/A2比を大きくする表面改質処理として、例えば、まず、-79℃以下の温度でドライアイスブラストを行い、次に、-79℃以上の温度でコロナ放電又はプラズマ暴露を行う処理が挙げられる。A1/A2比を大きくする表面改質処理として、例えば、まず、-79℃以下の温度でドライアイスブラストを行い、次に、常温以上の温度で過マンガン酸溶液浸漬を行う処理が挙げられる。
【0027】
表面改質処理の強度を高くするほど、A1/A2比は大きくなる。例えば、過マンガン酸溶液浸漬の場合、過マンガン酸溶液の濃度を高くするほど、A1/A2比は大きくなる。また、浸漬時間を長くするほど、A1/A2比は大きくなる。また、過マンガン酸溶液の温度を高くするほど、A1/A2比は大きくなる。なお、表面改質処理を行わない場合、例えば、A1/A2比は1程度である。表面改質処理の前後で、酸素濃度A2は変化し難い。
【0028】
本開示の信号伝送用ケーブルにおいて、絶縁体層の外周面における接触角が130°以下であることが好ましい。絶縁体層の外周面における接触角が130°以下である場合、絶縁体層とシールド層との密着性が高くなる。特に、シールド層がめっき層である場合、絶縁体層とシールド層との密着性が高くなり、シールド層が均質になる。
【0029】
絶縁体層の外周面における接触角を小さくする方法として、絶縁体層5に対し表面改質処理を行う方法が挙げられる。表面改質処理は、例えば、信号線3を絶縁体層5で被覆した後であって、シールド層7を形成する前に行うことができる。絶縁体層の外周面における接触角を小さくする表面改質処理として、上述した、A1/A2比を大きくする表面改質処理が挙げられる。
【0030】
表面改質処理の強度を高くするほど、絶縁体層の外周面における接触角は小さくなる。例えば、過マンガン酸溶液浸漬の場合、過マンガン酸溶液の濃度を高くするほど、絶縁体層の外周面における接触角は小さくなる。また、浸漬時間を長くするほど、絶縁体層の外周面における接触角は小さくなる。また、過マンガン酸溶液の温度を高くするほど、絶縁体層の外周面における接触角は小さくなる。
【0031】
本開示の信号伝送用ケーブルにおいて、絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面エネルギーが27mJ/m2以上であることが好ましい。 付着ぬれ表面エネルギーΔGの絶対値は以下の式(1)により算出される。
【0032】
【数1】
式(1)におけるγ
LGは定数であり、72.75mJ/m
2である。θは、絶縁体層の外周面における接触角である。付着ぬれ表面エネルギーΔGは、シールド層を形成する前の時点における値である。
【0033】
付着ぬれ表面エネルギーが27mJ/m2以上である場合、絶縁体層とシールド層との密着性が高くなる。特に、シールド層がめっき層である場合、絶縁体層とシールド層との密着性が高くなり、シールド層が均質になる。
【0034】
絶縁体層の外周面における接触角を小さくする方法として、絶縁体層5に対し表面改質処理を行う方法が挙げられる。表面改質処理は、例えば、信号線3を絶縁体層5で被覆した後であって、シールド層7を形成する前に行うことができる。絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面エネルギーを大きくする表面改質処理として、上述した、A1/A2比を大きくする表面改質処理が挙げられる。
【0035】
表面改質処理の強度を高くするほど、絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面エネルギーは大きくなる。例えば、過マンガン酸溶液浸漬の場合、過マンガン酸溶液の濃度を高くするほど、絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面エネルギーは大きくなる。また、浸漬時間を長くするほど、絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面エネルギーは大きくなる。また、過マンガン酸溶液の温度を高くするほど、絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面エネルギーは大きくなる。
本開示の信号伝送用ケーブルにおいて、絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量が、絶縁体層の内部におけるヒドロキシ基の量より多いことが好ましい。絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量が、絶縁体層の内部におけるヒドロキシ基の量より多い場合、絶縁体層とシールド層との密着性が高くなる。特に、シールド層がめっき層である場合、絶縁体層とシールド層との密着性が高くなり、シールド層が均質になる。
【0036】
絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量、及び、絶縁体層の内部におけるヒドロキシ基の量を測定する方法は以下のとおりである。酸素量A
1、酸素量A
2を測定する場合と同様に、
図2に示す試料9を用意する。FT-IRを用いて、第1測定領域13における赤外吸収スペクトルを測定する。その赤外吸収スペクトルにおいて、ヒドロキシ基に対応するピークを同定し、そのピーク面積を、絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量とする。また、第2測定領域15においても同様に、ヒドロキシ基に対応するピークを同定し、そのピーク面積を、絶縁体層の内部におけるヒドロキシ基の量とする。
【0037】
絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量を多くする方法として、絶縁体層5に対し表面改質処理を行う方法が挙げられる。表面改質処理は、例えば、信号線3を絶縁体層5で被覆した後であって、シールド層7を形成する前に行うことができる。絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量を多くする表面改質処理として、上述した、A1/A2比を大きくする表面改質処理が挙げられる。
【0038】
表面改質処理の強度を高くするほど、絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量は多くなる。例えば、過マンガン酸溶液浸漬の場合、過マンガン酸溶液の濃度を高くするほど、絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量は多くなる。また、浸漬時間を長くするほど、絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量は多くなる。また、過マンガン酸溶液の温度を高くするほど、絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量は多くなる。なお、表面改質処理を行わない場合、例えば、絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量は、絶縁体層の内部におけるヒドロキシ基の量と同程度である。絶縁体層の内部におけるヒドロキシ基の量は、表面改質処理を行っても変化し難い。
本開示の信号伝送用ケーブルにおいて、絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaは、0.1μm以上であることが好ましい。この場合、シールド層と絶縁体層との密着性が高くなり、シールド層が絶縁体層からはがれ難い。また、算術平均粗さRaが0.16μm以上である場合、絶縁体層とシールド層との密着性が向上し、絶縁体層とシールド層との間に空隙が生じ難い。そのため、シールド層によるシールド効果が高い。
【0039】
絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaを大きくする方法として、例えば、ブラスト処理、酸性又はアルカリ性溶液浸漬、クロム酸溶液浸漬、キレート溶液浸漬等の表面粗化処理を行う方法がある。
【0040】
ブラスト処理において処理対象物に吹き付ける粉体として、例えば、ドライアイス、金属粒子、カーボン粒子、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子等から成る粉体が挙げられる。ドライアイスから成る粉体は、ブラスト処理後に絶縁体層の中に残留し難いため好ましい。
【0041】
ブラスト処理において、粉体を噴出するときの速度を高くするほど、絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaを大きくすることができる。ブラスト処理の時間を長くするほど、絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaを大きくすることができる。粉体を噴き出すノズルの先端と絶縁体層の外周面との距離を小さくするほど、絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaを大きくすることができる。
【0042】
絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaは、5μm以下であることが好ましい。この場合、伝送損失を抑制できる。
算術平均粗さRaの測定方法は、キーエンス製のレーザ顕微鏡VK8500を使用する測定方法である。具体的な測定条件は以下のとおりである。絶縁体層の外周面のうち、互いに反対側に位置し、平坦又は最も曲率が小さい2箇所(以下では第1測定位置及び第2測定位置とする)を選択する。第1測定位置において、ケーブルの長手方向の長さが150μmであり、ケーブルの周方向の長さが120μmである矩形の測定領域を設定する。その測定領域において、上記のレーザ顕微鏡を用いて算術平均粗さRaを測定する。また、第2測定位置においても、同様に、算術平均粗さRaを測定する。最後に、第1測定位置における算術平均粗さRaと、第2測定位置における算術平均粗さRaとの平均値を算出し、その平均値を絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaとする。算術平均粗さRaは、シールド層を形成する前の時点における値である。
本開示の信号伝送用ケーブルが一対の信号線を備える場合、絶縁体層は、一対の信号線を一括して被覆することが好ましい。一括して被覆するとは、一体である絶縁層により、一対の信号線の両方を被覆することを意味する。絶縁体層が一対の信号線を一括して被覆する場合、個々の信号線ごとに被覆する場合のように、絶縁体層同士の間の隙間が生じない。そのため、信号伝送用ケーブルの長手方向における誘電率のばらつきを抑制できる。その結果、本開示の信号伝送用ケーブルが差動信号伝送用ケーブルである場合は、同相変換量を一層抑制することができる。
【0043】
また、一対の信号線のうちの一方の信号線を被覆する絶縁体層と、他方の信号線を被覆する絶縁体層とは、別体であってもよい。
信号線の延在方向に直交する断面において、絶縁体層の外縁の形状が、長円形又は楕円形であることが好ましい。この場合、絶縁体層の外周面における全体にわたって均一に表面粗化又は表面改質を行うことが容易になる。長円形とは、対向する平行な2本の直線と、その直線の端部同士を接続する円弧から成る形状である。
絶縁体層の材質として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシ(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレンーパーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、シリコーン、ポリエチレン(PE)等が挙げられる。
【0044】
絶縁体層の材質は、発泡性樹脂であってもよい。絶縁体層の材質が発泡性樹脂である場合、絶縁体層の誘電率と誘電正接とが小さくなる。発泡性樹脂から成る絶縁体層の製造方法として、例えば、樹脂と発泡剤とを混練しておき、絶縁体層を成型するときに温度や圧力を制御して発泡させる方法がある。また、発泡性樹脂から成る絶縁体層の他の製造方法として、例えば、絶縁体層を高圧成型するときに窒素ガス等を注入しておき、後に減圧して発泡させる方法がある。
【0045】
また、発泡性樹脂から成る絶縁体層を以下のように製造してもよい。押出機に、所望の形状の押出口金を設置する。その押出機を用いて、信号線と、発泡性樹脂とを同時に押し出す。発泡性樹脂が絶縁体層を形成する。
(1-3)シールド層
シールド層は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、遷移金属薄、及び遷移金属の合金から成る群から選択される少なくとも1種を含む。この場合、電磁ノイズを除去したり、減衰させたりすることができる。
【0046】
シールド層は、例えば、積層された複数の薄膜により構成される。複数の薄膜の少なくとも一部は、例えば、アルミニウム薄膜、アルミニウム合金薄膜、銅薄膜、銅合金薄膜、遷移金属薄膜、及び遷移金属の合金薄膜から成る群から選択される。この場合、電磁ノイズを除去したり、減衰させたりすることができる。
【0047】
シールド層は、例えば、磁性を示す元素を含む。この場合、ケーブル外部や内部の漏洩磁場からの磁気を遮断することができる。磁性を示す元素として、例えば、Fe、Co、Ni、及びGdから成る群から選択される1以上が挙げられる。
【0048】
シールド層は、例えば、希土類元素を含む。この場合、ケーブル外部や内部の漏洩磁場からの磁気を遮断することができる。希土類元素として、例えば、Tb、Dy、Ho、Er、及びTmから成る群から選択される1以上が挙げられる。
【0049】
シールド層は、例えば、貴金属元素、及び/又は、希少金属を含む。この場合、電磁ノイズを除去したり、減衰させたりすることができる。これらの元素として、例えば、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、及びOsから成る群から選択される1以上が挙げられる。シールド層は、例えば、カーボンナノチューブを含む。この場合、電磁ノイズを除去したり、減衰させたりすることができる。
【0050】
シールド層は、例えば、めっき層である。めっき層の形成方法として、例えば、絶縁体層の表面に、高い触媒活性を示す元素を含有する物質を付着させ、めっきを行う方法が挙げられる。高い触媒活性を示す元素を含有する物質として、例えば、金属、金属酸化物等が挙げられる。金属として、例えば、Pd、Pt等が挙げられる。金属酸化物として、例えば、TiO2等が挙げられる。
【0051】
めっきの方法として、例えば、電解めっき法、無電解めっき法、それらの組み合わせが挙げられる。めっき浴として、例えば、硫酸化合物溶液のめっき浴、シアン化化合物溶液のめっき浴、ピロりん酸化合物溶液のめっき浴等が挙げられる。
【0052】
めっき浴として、例えば、銅イオンの価数が+2となる銅化合物溶液のめっき浴、銅イオンの価数が+1となる銅化合物溶液のめっき浴、銅イオンの価数が+2である液と銅イオンの価数が+1である液との混合溶液のめっき浴等が挙げられる。
【0053】
シールド層は、例えば、スパッタリング成膜法、エアロゾル成膜法、及び化学気相成膜(CVD)法等により形成できる。これらを組み合わせた方法によりシールド層を形成してもよい。シールド層は、例えば、スパッタリング成膜法とめっきとを組み合わせた方法により形成することができる。シールド層は、例えば、エアロゾル成膜法とめっきとを組み合わせた方法により形成することができる。シールド層は、例えば、化学気相成膜(CVD)法とめっきとを組み合わせた方法により形成することができる。
【0054】
シールド層は、例えば、導電性の材料から成る導電層を備えたテープを、絶縁体層の外周面に巻き付けて構成することができる。テープは、例えば、接着剤から成る接着層を備える。その接着層により、テープを絶縁体層に接着することができる。
【0055】
テープが備える導電層の材料として、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、遷移金属薄、及び遷移金属の合金から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
テープが備える導電層は、例えば、単層であってもよいし、積層された複数の薄膜により構成されてもよい。複数の薄膜の少なくとも一部は、例えば、アルミニウム薄膜、アルミニウム合金薄膜、銅薄膜、銅合金薄膜、遷移金属薄膜、及び遷移金属の合金薄膜から成る群から選択される。
2.信号伝送用ケーブルの製造方法
本開示の信号伝送用ケーブルは、例えば、以下の方法で製造できる。
図3は、差動信号伝送用ケーブルの製造に用いる製造システム101を表す。差動信号伝送用ケーブルは信号伝送用ケーブルに対応する。製造システム101は、脱脂ユニット103と、表面改質ユニット105と、第1活性化ユニット107と、第2活性化ユニット109と、無電解めっきユニット111と、電解めっきユニット113と、搬送ユニット115と、を備える。
【0056】
脱脂ユニット103は、脱脂槽117と、脱脂液119とから成る。脱脂液119は脱脂槽117に収容されている。脱脂液119は、例えば、ホウ酸ソーダ、リン酸ソーダ、界面活性剤等のうちの1種以上を含む。脱脂液119の温度は、例えば、40~60℃である。
【0057】
表面改質処理を行うための表面改質ユニット105は、処理槽121と、処理液123とから成る。処理液123は処理槽121に収容されている。処理液123は、例えば、過マンガン酸溶液等を含む。処理液123の温度は、例えば、65~90℃である。
【0058】
第1活性化ユニット107は、第1活性化槽125と、第1活性化液127とから成る。第1活性化液127は第1活性化槽125に収容されている。第1活性化液127は、例えば、塩化パラジウム、塩化第一錫、濃塩酸等のうちの1種以上を含む。第1活性化液127の温度は、例えば、30~40℃である。
【0059】
第2活性化ユニット109は、第2活性化槽129と、第2活性化液131とから成る。第2活性化液131は第2活性化槽129に収容されている。第2活性化液131は、例えば、硫酸等を含む。第2活性化液131の温度は、例えば、0~50℃である。
【0060】
無電解めっきユニット111は、無電解めっき槽133と、無電解めっき液135とから成る。無電解めっき液135は無電解めっき槽133に収容されている。無電解めっき液135は、例えば、硫酸銅、ロッシエル塩、ホルムアルデヒド、水酸化ナトリウム等を含む。無電解めっき液135の温度は、例えば、20~30℃である。
【0061】
電解めっきユニット113は、電解めっき槽137と、電解めっき液139と、一対のアノード141と、電源ユニット143と、を備える。電解めっき液139は電解めっき槽137に収容されている。電解めっき液139は、例えば、表1又は表2に示す組成を有する。電解めっき液139の温度は、例えば、20~25℃である。
【0062】
【0063】
【表2】
アノード141は電解めっき液139の中に浸漬されている。アノード141は、例えば、銅湯から作製した溶融銅を圧延鋳造したものである。あるいは、アノード141は、以下のように製造されたものであってもよい。粗銅をアノードとし、ステンレス又はチタンをカソードとして種板電解を行う。カソード表面に析出した純銅板を剥ぎ取って、アノード141とする。電源ユニット143は、アノード141と、後述するボビン165、169との間に直流電圧を印加する。
【0064】
搬送ユニット115は、複数のボビン145、147、149、151、153、155、157、159、161、163、165、167、169を備える。以下ではこれらをまとめてボビン群と呼ぶこともある。ボビン165、169は導電性を有する。ボビン167は絶縁性を有する。
【0065】
ボビン群は、基本的に、
図3に示す搬送方向Dに沿って直列に配置されている。搬送方向Dは、脱脂ユニット103から、表面改質ユニット105、第1活性化ユニット107、第2活性化ユニット109、及び無電解めっきユニット111を順次経て、電解めっきユニット113に向かう方向である。
【0066】
ボビン147の一部は脱脂液119に浸漬されている。ボビン151の一部は処理液123に浸漬されている。ボビン155の一部は第1活性化液127に浸漬されている。ボビン159の一部は第2活性化液131に浸漬されている。ボビン163の一部は無電解めっき液135に浸漬されている。ボビン167の全体は電解めっき液139に浸漬されている。
【0067】
搬送ユニット115は、ボビン群により、差動信号伝送用ケーブル171を搬送方向Dに沿って連続的に搬送する。搬送される差動信号伝送用ケーブル171は、当初の状態においては、信号線と、絶縁体層とは備えているが、めっき層は未だ形成されてない。絶縁体層は、例えば、公知の押出成形により設けることができる。
【0068】
搬送される差動信号伝送用ケーブル171は、まず、脱脂ユニット103において脱脂液119に3~5分間浸漬される。このとき、絶縁体層の表面に付着していた油脂が除去される。
次に、差動信号伝送用ケーブル171は、表面改質ユニット105において、処理液123に8~15分間浸漬される。このとき、例えば、A1/A2比が大きくなる。また、例えば、絶縁体層の外周面における接触角が小さくなる。また、例えば、絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面エネルギーが大きくなる。また、例えば、絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量が増加する。
【0069】
次に、差動信号伝送用ケーブル171は、第1活性化ユニット107において、第1活性化液127に1~3分間浸漬される。このとき、絶縁体層の外周面に触媒層が形成される。
次に、差動信号伝送用ケーブル171は、第2活性化ユニット109において、第2活性化液131に3~6分間浸漬される。このとき、触媒層の表面が洗浄される。
【0070】
次に、差動信号伝送用ケーブル171は、無電解めっきユニット111において、無電解めっき液135に浸漬される。浸漬時間は、例えば、10分間以下である。このとき、絶縁体層の外周面に無電解めっき層が形成される。無電解めっき液135中の浸漬時間が長いほど、無電解めっき層の厚みは大きくなる。
【0071】
次に、差動信号伝送用ケーブル171は、電解めっきユニット113において、電解めっき液139に浸漬される。浸漬時間は、例えば、3分間以下である。このとき、無電解めっき層の外周面に電解めっき層が形成される。無電解めっき層及び電解めっき層はシールド層に対応する。電解めっき液139中の浸漬時間が長いほど、電解めっき層の厚みは大きくなる。電解めっきユニット113における電解めっきの具体的な条件は表3に示すとおりである。以上の工程により、差動信号伝送用ケーブル171が完成する。
【0072】
【表3】
なお、
図3では記載を省略しているが、各ユニットの間では、差動信号伝送用ケーブル171を純水で洗浄する。洗浄の方法として、超音波洗浄、揺動洗浄、流水洗浄等がある。純水で洗浄することにより、前のユニットで付着した残留薬剤が後のユニットに持ち込まれることを抑制できる。
【0073】
差動信号伝送用ケーブル171の搬送速度は、適宜調整することができる。搬送の途中で搬送速度を変えてもよいし、一時停止を行ってもよい。
図4に示す製造システム201を用いて差動信号伝送用ケーブルを製造してもよい。製造システム201の構成は、基本的には製造システム101と同様であるが、一部において相違する。以下では相違点を中心に説明する。製造システム201は、脱脂ユニット103と、表面改質ユニット105とを備えず、表面改質ユニット203を備える。
【0074】
表面改質ユニット203は、筐体204と、微細形状形成装置205と、親水化処理装置207と、を備える。筐体204は、表面改質ユニット203の各構成を収容する。筐体204は、方向Dにおける上流側に入口204Aを備え、方向Dにおける下流側に出口204Bを備える。
【0075】
搬送ユニット115は、筐体204内に4つのボビン209、211、213、215を備える。差動信号伝送用ケーブル171は、ボビン145に案内され、入口204Aから筐体204内に導入される。導入された差動信号伝送用ケーブル171は、ボビン209からボビン211に送られ、再びボビン209に戻る8の字型の経路に沿って搬送される。次に、差動信号伝送用ケーブル171は、ボビン209からボビン213に送られ、さらに、ボビン213からボビン215に送られ、再びボビン213に戻る8の字型の経路に沿って搬送される。次に、差動信号伝送用ケーブル171は、出口204Bから導出され、ボビン153に案内され、第1活性化ユニット107に送られる。
【0076】
微細形状形成装置205は、ボビン209とボビン211との間に存在する差動信号伝送用ケーブル171に対し、ノズル205Aからドライアイス粉体を噴射する。噴射の駆動力はエアー圧である。絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaは、ドライアイス粉体と衝突することにより大きくなる。よって、微細形状形成装置205はドライアイスブラスト処理を行う。ドライアイスブラスト処理は表面粗化処理に対応する。
【0077】
ボビン209からボビン211に送られるときと、ボビン211からボビン209に戻るときとでは、絶縁体層の外周面のうち、ノズル205Aに対向する面が反対になる。そのため、微細形状形成装置205は、絶縁体層の外周面の全体にわたって算術平均粗さRaを大きくすることができる。
【0078】
ドライアイス粉体の粒径、ノズル205Aの先端から差動信号伝送用ケーブル171までの距離等は、適宜設定することができる。差動信号伝送用ケーブル171の温度は、例えば20℃である。
【0079】
ドライアイスブラスト処理における条件は、適宜変更することができる。ドライアイスブラスト処理における条件として、例えば、ドライアイス粉体の粒径、ドライアイス流量、エアー圧、ノズル205Aの先端から差動信号伝送用ケーブル171までの距離、差動信号伝送用ケーブル171の搬送速度、差動信号伝送用ケーブル171の温度等が挙げられる。例えば、絶縁体層の材料のガラス転移温度より低い温度でドライアイスブラスト処理を行ってもよい。絶縁体層の材料のガラス転移温度より低い温度として、例えば、-79℃以上、20℃以下の温度が挙げられる。ノズル205Aの位置は固定されていてもよいし、揺動又は走査してもよい。
【0080】
親水化処理装置207はコロナ放電暴露による親水化処理を行う。コロナ放電暴露処理は表面改質処理に対応する。縁体層の外周面が親水化し、ぬれ性が向上すると、A1/A2比が大きくなり、絶縁体層の外周面における接触角が小さくなり、絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値が大きくなり、絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量が増加する。
【0081】
コロナ放電暴露によって絶縁体層の外周面が親水化し、ぬれ性が向上する理由は以下のとおりであると推測される。コロナ放電暴露で発生する高エネルギー電子は空気中に存在する酸素分子を電離・解離し、酸素ラジカルやオゾン等が発生する。それとともに、絶縁体層の外周面近傍に到達した高エネルギー電子は、絶縁体層に含まれる例えばポリエチレンやパーフルオロエチレンプロペンコポリマー等の主鎖や側鎖を切断し、開裂させる。コロナ放電で発生した上記の酸素ラジカルやオゾン等は、上記のように開裂した主鎖や側鎖と再結合し、ヒドロキシ基やカルボニル基等の極性官能基が絶縁体層の外周面に形成される。その結果、絶縁体層の外周面は、親水化し、ぬれ性が向上する。
コロナ放電暴露における印加電圧は、例えば2~14kVであり、周波数は15kVである。絶縁体層の外周面と平板電極との距離は、例えば0.1~3mmである。筐体204内の雰囲気は、例えば、大気である。
【0082】
コロナ放電暴露における条件は、適宜変更することができる。コロナ放電暴露における条件として、例えば、印加電圧の大きさ、印加電圧の周波数、絶縁体層の外周面と平板電極との距離、筐体204内の雰囲気等が挙げられる。筐体204内の雰囲気は、酸素、窒素、二酸化炭素、希ガス等を含んでいてもよい。また、絶縁体層の外周面と平板電極との間にシリコーンゴム等の材料を挟んでもよい。この場合、コロナ放電を行うとき、平板電極は間接的に絶縁体層に接触し、シリコーンゴムに対して摺動する。
筐体204内の空気を排気する排気機構や、筐体204内を乾燥させる乾燥装置を設けてもよい。この場合、差動信号伝送用ケーブル171の錆を抑制できる。また、筐体204内に徐電機器を設けてもよい。この場合、筐体204内の静電気を抑制できる。
【0083】
上記のとおり、製造システム201を用いる差動信号伝送用ケーブルの製造方法では、絶縁体層の外周面にドライアイスブラスト処理を行い、その後、絶縁体層の外周面にコロナ放電暴露処理を行い、その後、絶縁体層の外周面にめっき層を形成する。
【0084】
コロナ放電暴露処理の後、過マンガン酸溶液浸漬をさらに行ってもよい。過マンガン酸溶液浸漬を行うことにより、A1/A2比が一層大きくなり、絶縁体層の外周面における接触角が一層小さくなり、絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面自由エネルギーの絶対値が一層大きくなり、絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量が一層増加する。表面粗化処理の後に過マンガン酸溶液浸漬を行い、その後、コロナ放電暴露処理を行ってもよい。差動信号伝送用ケーブル以外の信号伝送用ケーブルも、上記と同様の方法で製造することができる。
【0085】
3.実施例
(3-1)実施例1
ポリエチレンから成る板状の試料を用意した。この試料は絶縁体層に対応する。試料に対し、J1A~J1Hの表面改質処理を行った。表面改質処理は、ドライアイスブラスト処理と、その後の過マンガン酸溶液浸漬と、その後の脱脂処理とである。J1A~J1Hにおける表面改質処理の条件の違いは、ドライアイスブラスト処理における噴射圧力と、脱脂処理の強度とである。表面改質処理の条件は、J1A、J1B、J1C、J1D、J1E、J1F、J1G、J1Hの順に、ドライアイスブラスト処理における噴射圧力が弱まってゆき、また、脱脂処理の強度が弱まっていくという条件である。
【0086】
それぞれの表面改質処理の後、A
1/A
2比と、試料の表面における接触角と、試料の表面における付着ぬれ表面エネルギーとを測定した。A
1/A
2比と、試料の表面における接触角との測定結果を
図5に示す。A
1/A
2比と、試料の表面における付着ぬれ表面エネルギーとの測定結果を
図6に示す。
【0087】
図5に示すように、A
1/A
2比が1.2~1.3の範囲では、A
1/A
2比が増加するにつれて、試料の表面における接触角が減少した。表面改質処理を十分に行えば、A
1/A
2比を1.2以上とすることができ、試料の表面における接触角を130°以下にすることができた。なお、J1Gの場合の接触角は128.7°である。
【0088】
図6に示すように、A
1/A
2比が1.2~1.3の範囲では、A
1/A
2比が増加するにつれて、試料の表面における付着ぬれ表面エネルギーが増加した。表面改質処理を十分に行えば、A
1/A
2比を1.2以上とすることができ、試料の表面における付着ぬれ表面エネルギーを27mJ/m
2以上とすることができた。なお、J1Gの場合の付着ぬれ表面エネルギーは27.3mJ/m
2である。
【0089】
(3-2)実施例2
ポリエチレンから成る板状の試料を用意した。この試料は絶縁体層に対応する。試料に対し、表面改質処理を行った。表面改質処理は、過マンガン酸溶液浸漬である。
【0090】
FT-IRを用いて、第1測定領域13における赤外吸収スペクトルを測定した。その結果を
図7Bに示す。
図7Bに示す赤外吸収スペクトルにおいて、ヒドロキシ基に対応するピークを検出することができた。また、第2測定領域15における赤外吸収スペクトルを測定した。その結果を
図7Aに示す。
図7Aに示す赤外吸収スペクトルにおいて、ヒドロキシ基に対応するピークを検出することはできなかった。
【0091】
なお、本実施例において、第1測定領域13は、板状の試料の表面に設定された領域である。また、第2測定領域15は、板状の試料の断面に設定された領域である。第2測定領域15と試料の表面との距離Dは10μmである。
【0092】
表面改質処理を行うことにより、試料の表面におけるヒドロキシ基の量を、試料の内部におけるヒドロキシ基の量より多くすることができた。なお、表面改質処理を行うことにより、A1/A2比が大きくなり、絶縁体層の外周面における接触角が小さくなる理由は、絶縁体層の外周面におけるヒドロキシ基の量が増加するためであると推測される。
【0093】
(3-3)実施例3
ポリエチレンから成る板状の試料を用意した。未処理の状態にある試料(以下では未処理試料とする)において、A1/A2比、試料の表面における接触角、試料の表面における付着ぬれ表面エネルギー、試料の表面における算術平均粗さRaは、表4に示すとおりであった。
【0094】
【表4】
未処理試料に対し、表面改質処理J3Aを行った。表面改質処理J3Aは、粗化処理と、過マンガン酸溶液浸漬とを含む。表面改質処理J3Aを行った後の試料におけるA
1/A
2比、試料の表面における接触角、試料の表面における付着ぬれ表面エネルギー、試料の表面における算術平均粗さRaは、上記表4に示すとおりであった。
【0095】
未処理試料に対し、表面改質処理J3Bを行った。表面改質処理J3Bは、粗化処理と、過マンガン酸溶液浸漬とを含む。表面改質処理J3Bを行った後の試料におけるA1/A2比、試料の表面における接触角、試料の表面における付着ぬれ表面エネルギー、試料の表面における算術平均粗さRaは、上記表4に示すとおりであった。
【0096】
未処理試料、表面改質処理J3Aを行った試料、及び表面改質処理J3Bを行った試料に対し、それぞれ、無電解銅めっきを行った。
図8Aは、未処理試料に無電解銅めっきを行った後の外観を表す。銅めっき不着部81と、銅めっき形成部82とが混在していた。
【0097】
図8Bは、表面改質処理J3Aを行った試料に無電解銅めっきを行った後の外観を表す。試料の表面の全体が銅めっき形成部82であった。この理由は以下のように推測される。表面改質処理J3Aを行った試料では、試料の表面におけるぬれ性が向上した。そのため、めっき液が試料の表面全体に一様にゆきわたり、均一なめっき層が形成された。表面改質処理J3Aを行った試料の表面には、ブリスターと呼ばれるめっき膨れが存在していた。
【0098】
図8Cは、表面改質処理J3Bを行った試料に無電解銅めっきを行った後の外観を表す。試料の表面の全体が銅めっき形成部82であった。この理由は、表面改質処理J3Bを行った試料の場合と同様であると推測される。表面改質処理J3Bを行った試料では、ブリスターは存在しなかった。この理由は、試料の表面における算術平均粗さRaが大きいためであると推測される。
【0099】
(3-4)実施例4
シールド層を未だ形成していない信号伝送用ケーブルを用意した。この信号伝送用ケーブルが備える絶縁体層の材質はポリエチレンである。絶縁体層に対し、表面改質処理J4A~J4Fを行った。表面改質処理J4A~J4Cは、過マンガン酸溶液浸漬を含む。表面改質処理J4D~J4Fは、過マンガン酸溶液浸漬を含まない。表面改質処理J4A、J4B、J4D、J4Eは、粗化処理を含む。表面改質処理後における絶縁体層の外周面での算術平均粗さRaは、J4D、J4E、J4A、J4B、J4F、J4Cの順に大きい。
【0100】
表面改質処理J4A~J4Fを行った後におけるA1/A2比、絶縁体層の外周面における接触角、絶縁体層の外周面における付着ぬれ表面エネルギー、絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaは、表5に示すとおりである。
【0101】
【表5】
次に、絶縁体層の外周面に、銅めっきによりシールド層を形成し、信号伝送用ケーブルを完成した。完成した信号伝送用ケーブルについて、周波数12.5GHzでの伝搬信号減衰量を測定した。測定結果を
図9Aに示す。また、完成した信号伝送用ケーブルについて、周波数5GHzでの伝搬信号減衰量を測定した。測定結果を
図9Bに示す。
【0102】
表面改質処理J4A~J4Cを行った場合は、表面改質処理J4D~J4Fを行った場合に比べて、伝搬信号減衰量が小さかった。この理由は以下のように推測される。表面改質処理J4A~J4Cを行うことにより、シールド層が均質な金属薄膜となった。その結果、シールド層の抵抗率が減少し、伝搬信号減衰量が小さくなった。
【0103】
完成した信号伝送用ケーブルについて、周波数12.5GHzでの相同信号減衰量を測定した。測定結果を
図10Aに示す。また、完成した信号伝送用ケーブルについて、周波数5GHzでの相同信号減衰量を測定した。測定結果を
図10Bに示す。
【0104】
表面改質処理J4A~J4Cを行った場合は、表面改質処理J4D~J4Fを行った場合に比べて、算術平均粗さRaが同じ条件の下では、差動同相変換量が小さかった。この理由は以下のように推測される。表面改質処理J4A~J4Cを行ったことにより、絶縁体層の外周面における濡れ性が向上し、絶縁体層の外周面の全体にわたってめっき液が入り込んだ。そのため、絶縁体層とシールド層との密着性が向上し、絶縁体層とシールド層との界面付近の隙間が減少した。その結果、対内スキューが減少し、差動同相変換量が小さくなった。
5.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0105】
(1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0106】
(2)上述した信号伝送用ケーブルの他、それを構成要素とするシステム、信号伝送用ケーブルの製造方法、信号伝送用ケーブルを用いた信号送受信方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0107】
1…信号伝送用ケーブル、3…信号線、5…絶縁体層、5A…外周面、7…シールド層、11…断面、13…第1測定領域、15…第2測定領域、81…銅めっき不着部、82…銅めっき形成部、101、201…製造システム、103…脱脂ユニット、105…表面改質ユニット、107…第1活性化ユニット、109…第2活性化ユニット、111…無電解めっきユニット、113…電解めっきユニット、115…搬送ユニット、117…脱脂槽、119…脱脂液、121…処理槽、123…処理液、125…第1活性化槽、127…第1活性化液、129…第2活性化槽、131…第2活性化液、133…無電解めっき槽、135…無電解めっき液、137…電解めっき槽、139…電解めっき液、141…アノード、143…電源ユニット、145、147、149、151、153、155、157、159、161、163、165、167、169、209、211、213、215…ボビン、171…差動信号伝送用ケーブル、203…表面改質ユニット、204…筐体、204A…入口、204B…出口、205…微細形状形成装置、205A…ノズル、207…親水化処理装置