(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187182
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】夜間頻尿の予防又は治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20221212BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20221212BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20221212BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20221212BHJP
A23L 2/54 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P13/02
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L2/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095058
(22)【出願日】2021-06-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム)「乳幼児からの健やかな脳の育成による積極的自立社会創成拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】木内 寛
(72)【発明者】
【氏名】関井 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】福原 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】今村 亮一
(72)【発明者】
【氏名】野々村 祝夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 光
(72)【発明者】
【氏名】小林 悠輝
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD01
4B018MD07
4B018ME14
4B018MF04
4B018MF14
4B117LC04
4B117LK01
4B117LK06
4B117LP11
4B117LP20
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086HA06
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA81
(57)【要約】
【課題】夜間頻尿を予防又は治療できる医薬等を提供することを課題とする。
【解決手段】シリコン微粒子を、経口投与又は皮膚もしくは粘膜上に留置することにより、夜間頻尿を予防又は治療することができる。前記シリコン微粒子は、pH7以上の水溶液に接触すると水素を発生する粒子である。前記シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療剤、医薬組成物、医療機器、食品又は飲料を提供する。夜間多尿を好適に改善する。多くの高齢者のQOLや生存率の改善につながることが期待される。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療剤。
【請求項2】
前記夜間頻尿が夜間多尿による夜間頻尿である、請求項1に記載の予防又は治療剤。
【請求項3】
夜間尿量の調整による夜間頻尿の予防又は治療である請求項1又は2に記載の予防又は治療剤。
【請求項4】
前記シリコン微粒子が、水と接して水素を発生し得るシリコン単体を含有する微粒子である、請求項1~3のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項5】
前記シリコン微粒子が、酸化シリコン膜が表面に形成されているシリコン微粒子である、請求項1~4のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項6】
前記シリコン微粒子が、シリコン微細粒子及び/又は該シリコン微細粒子の凝集体である、請求項1~5のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項7】
前記シリコン微粒子が多孔質シリコン粒子である、請求項1~5のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項8】
前記シリコン微粒子が、親水化処理されたシリコン微粒子である、請求項1~7のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項9】
経口投与用である、請求項1~8のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項10】
シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項11】
シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療用医療機器。
【請求項12】
シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療用の食品又は飲料。
【請求項13】
シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夜間頻尿の予防又は治療に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間頻尿は、夜間排尿のために1回以上起きなければならない症状である。夜間頻尿の有病率は年齢とともに上昇し、高齢者では40-80%と極めて高い。さらに夜間頻尿は睡眠障害や転倒、うつ病などのリスク因子であり、QOLの低下や死亡率の悪化と関連する。このため夜間頻尿を改善することができれば、高齢者のQOLや死亡率を改善できると考えられる。夜間頻尿の原因には夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害等があるが、このうち最も頻度が高い原因は夜間多尿である。夜間多尿は夜間の尿量が増加する状態である。夜間多尿は病態がまだよく分かっておらず治療法も十分確立されていない。夜間多尿の唯一の治療薬であるデスモプレシンは腎臓の集合管においてバソプレシンV2受容体を活性化し尿の水分を再吸収させ尿量を減少させる。しかしデスモプレシンは低ナトリウム血症などの副作用があり副作用の厳重なモニタリングが必要な薬剤である。またデスモプレシンには低ナトリウム血症や腎機能障害があると使用できない、女性には使用できないなどの制約もある。このためデスモプレシンは夜間多尿の治療薬としてあまり普及しておらず、夜間多尿に対する新しい治療薬が求められている。
【0003】
シリコン微粒子は水と接して水素を発生することができる。pHが5未満の酸性水溶液との接触ではこの反応はほとんど進行せず、pH7以上の水溶液に接したときは、反応が進行し、pH8以上で反応がより速く進行する。また、シリコン微粒子を表面処理することにより、上記反応が好適に進む。さらに、シリコン微粒子は水溶液と接触している間、持続的に20時間以上にわたり水素を発生し続け、条件によっては、シリコン微粒子1gで水素を400ml以上発生する(特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。水素400mlは飽和水素水22リットルに含まれる水素に相当する。
【0004】
特許文献3には、シリコン微粒子を主成分とする水素発生能を有する固形製剤が記載されている。しかし、シリコン微粒子により疾病を予防又は治療できることは記載されていない。
【0005】
特許文献4には、シリコン微粒子と水を含有する媒体を備える水素供給材が記載されている。その水素供給材を用いて皮膚又は粘膜に水素を供給することが記載されている。しかし、シリコン微粒子により疾病を予防又は治療できることは記載されていない。
【0006】
特許文献5には、シリコン微粒子の過酸化水素水処理について記載されている。しかし、シリコン微粒子により疾病を予防又は治療できることは記載されていない。
【0007】
特許文献6には、シリコン微粒子を含有する配合物が記載され、動物用医薬品、家畜もしくはペット用食品、動物用飼料、植物用医薬品、植物用肥料、又は植物用堆肥等の「母材」中に含まれる態様が挙げられている。動物の健康増進及び/又は病気予防と記載されているが、シリコン微粒子が医薬品となり得る程度に疾病を予防又は治療できることについては記載されていない。
【0008】
特許文献7には、シリコン微粒子の表面に形成されている酸化シリコン膜について主に記載されている。利用形態として、飼料、サプリメント、食品添加物、経皮及び/又は経粘膜での水素取り込みが記載され、動物の健康増進及び/又は病気予防と記載されている。しかし、シリコン微粒子が医薬品となり得る程度に疾病を予防又は治療できることについては記載されていない。
【0009】
非特許文献2では、過活動膀胱に水素水が効果を有することが記載されている。過活動膀胱は膀胱の過剰収縮による疾患であり、尿意切迫感を主症状とし、通常は頻尿や夜間頻尿を伴っている。しかし、過活動膀胱は夜間多尿とは病態が異なり、非特許文献2は、夜間多尿については何ら言及していない。
【0010】
腎臓疾患、炎症性疾患(炎症性腸疾患、関節炎、肝炎、皮膚炎)、内臓不快感、うつ病又はうつ状態、パーキンソン病、自閉スペクトラム症、記憶障害、脊髄損傷、難聴、脳虚血再灌流障害、糖尿病及び二日酔いについて、シリコン微粒子のこれら疾患の予防又は治療に係る発明を本出願人は特許出願した(特許文献8~22)。
【0011】
糖尿病の予防又は治療剤の特許出願(特許文献19)では、糖尿病の症状の一つとして夜間頻尿を挙げている。糖尿病に伴う夜間頻尿では夜間だけでなく一日中多尿になり夜間多尿とは病態が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2016-155118号公報
【特許文献2】特開2017-104848号公報
【特許文献3】国際公開2017/130709号公報
【特許文献4】国際公開2018/037752号公報
【特許文献5】国際公開2018/037818号公報
【特許文献6】国際公開2018/037819号公報
【特許文献7】国際公開2019/211960号公報
【特許文献8】国際公開2019/021769号公報
【特許文献9】国際公開2019/235577号公報
【特許文献10】特開2019‐214556号公報
【特許文献11】特開2020‐007300号公報
【特許文献12】特開2020-079228号公報
【特許文献13】特開2020-079240号公報
【特許文献14】特開2020-117480号公報
【特許文献15】特開2020-117481号公報
【特許文献16】特開2020-117482号公報
【特許文献17】特開2020-117483号公報
【特許文献18】特開2020-117484号公報
【特許文献19】特開2020-117485号公報
【特許文献20】特開2020-117486号公報
【特許文献21】特開2020-200302号公報
【特許文献22】国際公開2020/152985号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】松田真輔ほか、シリコンナノ粒子による水の分解と水素濃度、第62回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集、2015、11a-A27-6
【非特許文献2】山口脩ほか、平成26年度~平成30年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 研究成果報告書 p.250-253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、夜間頻尿の予防又は治療のための医薬、医療機器、食品又は飲料等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1.シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療剤。
2.前記夜間頻尿が夜間多尿による夜間頻尿である、前項1に記載の予防又は治療剤。
3.夜間尿量の調整による夜間頻尿の予防又は治療である前項1又は2に記載の予防又は治療剤。
4.前記シリコン微粒子が、水と接して水素を発生し得るシリコン単体を含有する微粒子である、前項1~3のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
5.前記シリコン微粒子が、酸化シリコン膜が表面に形成されているシリコン微粒子である、前項1~4のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
6.前記シリコン微粒子が、シリコン微細粒子及び/又は該シリコン微細粒子の凝集体である、前項1~5のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
7.前記シリコン微粒子が多孔質シリコン粒子である、前項1~5のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
8.前記シリコン微粒子が、親水化処理されたシリコン微粒子である、前項1~7のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
9.経口投与用である、前項1~8のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
10.シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療用医薬組成物。
11.シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療用医療機器。
12.シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療用の食品又は飲料。
13.シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の治療剤。
14.シリコン微粒子を投与することを含む夜間頻尿の予防又は治療方法。
15.シリコン微粒子を投与することを含む夜間頻尿の治療方法。
16.シリコン微粒子を含有する、夜間頻尿の予防又は治療に使用するための剤。
17.シリコン微粒子を含有する、夜間頻尿の治療に使用するための剤。
18.夜間頻尿の予防又は治療剤の調製のためのシリコン微粒子の使用。
19.夜間頻尿の治療剤の調製のためのシリコン微粒子の使用。
【発明の効果】
【0016】
本発明の予防又は治療剤は、夜間頻尿を予防及び治療することができる。本発明の予防又は治療剤は、好適には夜間多尿を予防及び治療することができる。本発明の予防又は治療剤は、夜間尿量を調整することができる。本発明の予防又は治療剤は副作用がなく安全であり、他疾患を患っているか否か、既往歴及び性別等に制限されることなく、多くの患者に投与可能である。そして、多くの夜間頻尿の患者の生活の質の向上、健康維持及び生存率の改善に貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された、シリコン微粒子(シリコン結晶子及びその凝集体の混合物)の写真である(実施例2)。
【
図2】
図2は、実施例2で得られたシリコン微粒子を36℃、pH8.2の水に接触させることによって発生したシリコン微粒子1gあたりの水素量(累積量)を示すグラフである。
【
図3】
図3は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された、シリコン微粒子(シリコン結晶子の凝集体)の写真である(実施例3)。
【
図4】
図4は、高塩分食を与えた高齢マウス(80週齢)と若年マウス(19週齢)のマウスの尿量を示す。(a)は、非活動期尿量率、(b)は1日尿量を示す。NSは標準食マウス、HSは高塩分食マウスを示す。19週齢マウスの各群:n=6,80週齢マウスの各群:n=4,*p<0.05,n.s.:not significant,Tukey-Kramer検定
【
図5】
図5は、高齢マウス(80週齢)と若年マウス(19週齢)の1日に排泄される窒素酸化物NOx(NO
2-,NO
3-)の量を示す。19週齢マウス:n=6,80週齢マウス:n=4,*p<0.05,Student T検定
【
図6】
図6は、ヒトにおける塩分摂取量と夜間多尿指数の関係を示す。(a)NOx低グループ:n=13 (b)NOx高グループ:n=14,n.s:not significant,ピアソン積率相関係数の有意差検定
【
図7】
図7は、夜間多尿モデルマウスの非活動期尿量率を示す。コントロール:n=6,夜間多尿モデル:n=6、p<0.05,Student T検定
【
図8】
図8は、夜間多尿に対するシリコン微粒子の効果の検討方法を示す。+Siはシリコン微粒子投与を示す。
【
図9】
図9は、夜間多尿モデルマウスにシリコン微粒子を投与した結果を示すグラフである。縦軸は非活動期尿量率を示す。コントロール:n=6,コントロール+Si:n=7,夜間多尿モデル:n=6,夜間多尿モデル+Si:n=6;*p<0.05,Tukey-Kramer検定
【
図10】
図10は、夜間多尿モデルマウスの腎臓中のNaCl共輸送体(NCC)とリン酸化NCC(pNCC)をウェスタンブロットにより検出した結果(a)と、各タンパク質の比(pNCC/NCC)を示すグラフ(b)である。夜間多尿モデル:n=6,シリコン微粒子投与夜間多尿モデル:n=6; p<0.05
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の予防又は治療剤に含まれるシリコン微粒子は、シリコン単体を含有する微粒子であって、水に接して水素を発生し得る。
【0019】
前記の「水に接して水素を発生し得るシリコン単体を含有する微粒子」(水素発生能を有するシリコン微粒子)とは、36℃、pH8.2の水溶液に接したときに、持続的に水素を発生し、24時間でシリコン微粒子1グラムあたり10ml以上の水素を発生することができるシリコン微粒子を意味する。好ましくは、20ml以上、40ml以上、80ml以上、150ml以上、200ml以上、300ml以上である。
【0020】
前記シリコン単体とは、高純度シリコンである。本明細書において、高純度シリコンとは、シリコンの純度が98%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.9%以上、より好ましくは99.99%以上、さらに好ましくは99.999%以上のシリコンである。
【0021】
本発明の予防又は治療剤に含まれるシリコン微粒子は、好ましくはシリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、及び/又は、多孔質シリコン粒子(ポーラスシリコン粒子)である。
【0022】
本発明の予防又は治療剤の有効成分は、好ましくは、シリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、及び、多孔質シリコン粒子からなる群から選択される少なくとも1種の粒子である。すなわち、好ましい有効成分としては、シリコン微細粒子単独でもよく、シリコン微細粒子の凝集体単独でもよく、多孔質シリコン粒子単独でもよい。また有効成分として2種以上のシリコン微粒子を含んでいてもよい。本発明の予防剤又は治療剤は、好ましくは、シリコン微細粒子及び/又は該シリコン微細粒子の凝集体を含有する。より好ましくは、シリコン微細粒子の凝集体を主成分とする。
【0023】
シリコン単体は、大気に曝露した場合、表面が酸化され酸化シリコン膜が生成する。本発明におけるシリコン微粒子は、好ましくは表面に酸化シリコン膜が形成されている微粒子である。本発明における好ましいシリコン微粒子は、シリコン単体からなる微細粒子であって、その表面に酸化シリコン膜が形成さているシリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、及び多孔質のシリコン単体からなる粒子であって、その表面に酸化シリコン膜が形成されている多孔質シリコン粒子からなる群から選択される少なくとも1種の粒子である。
【0024】
シリコン微粒子中のシリコンの含有量は、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20%重量以上、さらに好ましくは50%重量以上、最も好ましくは70重量%以上である。
【0025】
前記酸化シリコン膜は、好ましくは、水酸基(‐OH基)が付加された酸化シリコン膜である。水酸基が付加された酸化シリコン膜とは、酸化シリコン膜が有する水酸基の数を増加させる処理がなされた酸化シリコン膜である。例えば、親水化処理により水酸基を酸化シリコン膜に付加することができる。水酸基が付加された酸化シリコン膜が形成されたシリコン微粒子は、表面と水の接触効率がよくなり、水素発生反応が促進され、多くの水素を発生することができる。親水化処理の方法は、特に限定されず、公知の親水化処理方法を用いればよい。例えば、過酸化水素水処理、硝酸処理が挙げられる。好ましくは過酸化水素水処理である。過酸化水素水処理により、粒子表面の酸化シリコン膜のSiH基の水素を除去して水酸基を粒子表面に付加することができる。
【0026】
前記水酸基が付加された酸化シリコン膜が表面に形成されているシリコン微粒子は、好ましくは表面に5×1013/cm2以上の水酸基を有する。さらに好ましくは1×1014/cm2以上の水酸基を有する。さらに好ましくは3×1014/cm2以上の水酸基を有する。該粒子表面とは、シリコン微細粒子の表面、多孔質シリコン粒子の表面、シリコン微細粒子の凝集体の表面及び凝集体を形成するシリコン微細粒子の表面である。
【0027】
過酸化水素水処理の具体的方法は、例えば、シリコン微粒子を過酸化水素水中に浸漬して撹拌する。過酸化水素の濃度は1~30%が好ましく、より好ましくは1.5~20%であり、さらに好ましくは2~15%、2.5~10%、最も好ましくは3~5%である。浸漬して撹拌する時間は、5~90分が好ましく、より好ましくは10~80分、さらに好ましくは、20~70分である。最も好ましくは30~60分である。過酸化水素水で処理することによりシリコン微粒子の親水性を向上させることができるが、処理時間が長くなるとシリコン微粒子からの水素発生反応が進行してシリコン微粒子の酸化膜の厚みが増加する。過酸化水素水処理時の過酸化水素水の温度は20~60℃が好ましく、より好ましくは、25~50℃、より好ましくは30~40℃、最も好ましくは35℃である。
【0028】
シリコン微粒子の形に制限はない。不定形、多角形、球、楕円形、円柱状等が挙げられる。
【0029】
前記シリコン微粒子は、結晶性を有する結晶シリコン微粒子であり得る。また、結晶性を有しないアモルファスシリコン微粒子であり得る。結晶性を有している場合、単結晶でも多結晶でもよい。好ましくは、結晶シリコン微粒子であり、より好ましくは単結晶シリコン微粒子である。
【0030】
前記アモルファスシリコン微粒子は、プラズマCVD法やレーザーアブレーション法等で形成されるアモルファスシリコン微粒子であり得る。
【0031】
本発明におけるシリコン微粒子の表面に形成される前記酸化シリコン膜は、大気に曝され自然に酸化されて形成された酸化シリコン膜であり得る。また、硝酸等の酸化剤による化学酸化等の公知の方法により、人為的に形成された酸化シリコン膜であり得る。
【0032】
前記酸化シリコン膜の厚さは、シリコン単体からなる微粒子が安定し、効率的な水素発生を可能にする厚さであればよい。例えば0.3nm~5nm、0.3nm~3nm、0.5nm~2.5nm、0.7nm~2nm、0.8nm~1.8nm、1.0nm~1.7nmである。酸化シリコン膜は、シリコン単体からなる微粒子の表面のシリコンが酸素と結合して生じるSi2O、SiO、Si2O3、SiO2等の酸化物を含む膜であり得る。Si2O、SiO、Si2O3等の不完全にシリコンが酸化された酸化物は水素発生反応を促進する。
【0033】
前記シリコン微細粒子は、結晶性を有する結晶シリコン微細粒子であり得る。また、結晶性を有しないアモルファスシリコン微細粒子であり得る。結晶性を有している場合、単結晶でも多結晶でもよい。好ましいシリコン微細粒子は、結晶シリコン微細粒子であり、より好ましくは単結晶シリコン微細粒子(以下、シリコン結晶子ともいう)である。
【0034】
本発明におけるシリコン微細粒子は、シリコン微細粒子が製造された後に自然に又は人為的に酸化シリコン膜が形成されたシリコン微細粒子であり得る。より好ましいシリコン微細粒子は、シリコン結晶子の表面に酸化シリコン膜が形成されている微細粒子である。
【0035】
本発明におけるシリコン微細粒子は、シリコン単体(高純度シリコン)の塊が粉砕された粒子又はシリコン単体の粒子が粉砕された粒子であり得る。シリコン単体の塊もしくは粒子が粉砕されてシリコン微細粒子が製造されると、そのシリコン微細粒子の表面が自然酸化されて酸化シリコン膜が形成される。
【0036】
本発明におけるシリコン微細粒子の粒子径(微細粒子がシリコン結晶子である場合は結晶子径)は、好ましくは、0.5nm以上100μm以下であり、より好ましくは1nm以上50μm以下、より好ましくは1.5nm以上10μm以下、より好ましくは、2nm以上5μm以下、より好ましくは、2.5nm以上1μm以下、5nm以上500nm以下、7.5nm以上200nm以下、10nm以上100nm以下である。粒子径が500nm以下であれば、好適な水素の発生速度及び水素発生量が得られ、200nm以下であればさらに好適な水素の発生速度及び水素発生量が得られる。
【0037】
本発明におけるシリコン微細粒子の凝集体は、前記シリコン微細粒子の凝集体である。自然に形成されたものでも、人為的に形成されたものでもよい。好ましくは、酸化シリコン膜が形成されたシリコン微細粒子が凝集した凝集体である。自然に形成された凝集体は、消化管内で凝集したままであると考えられる。好ましい凝集体は、内部に空隙を有し水分子が凝集体に浸入して内部の微細粒子と反応できる構造を有する。自然に形成された凝集体の水素発生速度は、凝集体サイズに依存しないことより、該凝集体は、内部に空隙を有し水分子が凝集体に浸入して内部の微細粒子と反応できる構造を有する。
【0038】
シリコン微細粒子の凝集体の大きさに特に制限はない。好ましいシリコン微細粒子の凝集体の粒子径は、50nm以上500μm以下である。
【0039】
本発明におけるシリコン微細粒子の凝集体を構成するシリコン微細粒子の粒子径は、好ましくは、0.5nm以上100μm以下であり、より好ましくは1nm以上50μm以下、より好ましくは1.5nm以上10μm以下、より好ましくは、2nm以上5μm以下、より好ましくは、2.5nm以上1μm以下、5nm以上500nm以下、7.5nm以上200nm以下、10nm以上100nm以下である。シリコン凝集体を構成するシリコン微細粒子は、結晶シリコン微細粒子であってもアモルファスシリコン微細粒子であってもよい。好ましい凝集体は、結晶子径1nm以上10μm以下のシリコン結晶子の凝集体である。好ましくは、表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子が凝集した凝集体である。
【0040】
本発明の予防又は治療剤は、好ましくは結晶子径1nm~1μm、より好ましくは結晶子径1nm以上100nm以下のシリコン結晶子であって、その表面に酸化シリコン膜が形成されている結晶子、及び/又はその凝集体を含有する。好ましくは、表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子の凝集体を主成分として含有する。
【0041】
本発明の予防又は治療剤は、好ましくは結晶子径1nm~1μm、より好ましくは結晶子径1nm以上100nm以下のシリコン結晶子であって、その表面に水酸基が付加された酸化シリコン膜が形成されている結晶子、及び/又はその凝集体を含有する。好ましくは、表面に水酸基が付加された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子の凝集体を主成分として含有する。
【0042】
多孔質シリコン粒子(ポーラスシリコン粒子)は、シリコン粒子の多孔質体であり得る。またシリコン微細粒子が凝集され加工された多孔質体であってもよい。前記多孔質シリコン粒子は、好ましくは、多孔質のシリコン単体からなる粒子であって、表面に酸化シリコン膜が形成されている粒子である。より好ましくは、該酸化シリコン膜は水酸基が付加された酸化シリコン膜である。
【0043】
前記多孔質シリコン粒子は、結晶性を有する多孔質シリコン粒子であり得る。また、結晶性を有しないアモルファス多孔質シリコン粒子であり得る。結晶性を有している場合、単結晶でも、多結晶でもよい。
【0044】
多孔質シリコン粒子に存在する空隙の大きさに制限はないが、通常は0.3nm~1μmであり得、好ましくは、0.5nm~0.1μmであり得る。多孔質シリコン粒子は高い水素発生能を実現するために十分な表面積を有する。多孔質シリコン粒子は凝集して凝集体を形成していてもよい。多孔質シリコン粒子及び多孔質シリコン粒子の凝集体の大きさに特に制限はない。その大きさは、好ましくは200nm~400μmであり得る。
【0045】
シリコン微細粒子の凝集体及び多孔質シリコン粒子は、全体としての粒子径が大きく、かつ表面積が大きい粒子であるため、経口投与用には好適な粒子である。粒子が大きければ消化管、特に腸管の細胞膜及び細胞間を通過せず、体内にシリコン微粒子が吸収されず安全性の観点から優れている。
【0046】
本発明の予防又は治療剤に含まれるシリコン微細粒子の粒子サイズ分布、シリコン単体からなる微細粒子の粒子サイズ分布もしくは結晶子サイズ分布に特に制限はない。多分散であってもよい。特定範囲の粒子サイズもしくは結晶子サイズを持つシリコン微細粒子を含有する製剤であってもよい。また、シリコン微細粒子の凝集体のサイズ分布に特に制限はない。
【0047】
水素の発生速度は、シリコン微粒子の粒子径、粒度分布及び/又は酸化シリコン膜の膜厚により調整することができる。
【0048】
本発明のシリコン微粒子の製造方法に特に制限はないが、シリコン含有粒子を目的とする粒子径まで物理的に粉砕することによって製造することができる。物理的粉砕法の好適な例は、ビーズミル粉砕法、遊星ボールミル粉砕法、衝撃波粉砕法、高圧衝突法、ジェットミル粉砕法、又はこれらを2種以上組み合わせた粉砕法である。また、公知の化学的方法を採用することも可能である。製造コスト又は、製造管理の容易性の観点から、好適な粉砕法は、物理的粉砕法である。シリコン単体の微細粒子からなる微粒子は、大気に曝露することにより、表面が酸化され酸化シリコン膜が形成される。また、粉砕した後に過酸化水素水や硝酸等の酸化剤による化学酸化等の公知の方法により、人為的に酸化シリコン膜を形成させてもよい。
【0049】
シリコン含有粒子をビーズミル装置を用いて目的とする粒子径にまで粉砕して製造する場合、適宜、ビーズの大きさ及び/又は種類を変えることにより、目的とする粒子の大きさ又は粒度分布を得ることができる。
【0050】
出発材料のシリコン含有粒子は、高純度シリコン粒子であれば制限はない。例えば、市販の高純度シリコン粒子粉末が挙げられる。出発材料のシリコン含有粒子は単結晶でも多結晶でも、アモルファスでもよい。
【0051】
本願は、シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療剤に係る発明、シリコン微粒子を投与することを含む夜間頻尿の予防又は治療方法に係る発明、シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療に使用するための剤に係る発明、及び、夜間頻尿の予防又は治療剤の調製のためのシリコン微粒子の使用に係る発明等を含む。本願明細書におけるシリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療剤に係る発明の説明及び実施形態等は、これら全ての発明の説明及び実施形態等である。
【0052】
本発明の夜間頻尿の予防又は治療剤には、夜間頻尿を予防する剤、夜間頻尿を治療する剤、及び夜間頻尿を予防及び治療する剤が含まれる。
【0053】
本明細書において夜間頻尿とは、夜間排尿のために1回以上起きなければならない症状である。本発明の予防又は治療剤は、夜間頻尿の発症の予防、発症の遅延、症状の改善、症状の増悪の抑制、症状の再発防止、症状の早期回復等の効果を奏する。
【0054】
本発明の予防又は治療剤は、好適には、夜間多尿による夜間頻尿を予防及び治療することができる。本明細書において夜間多尿は1日(24時間)の尿量のうち夜間の割合が多い症状である。夜間尿量には就寝前の最後の尿は含まれず、起床後の最初の尿は含まれる。通常、夜間多尿指数(1日尿量に対する夜間尿量の割合)が65歳以上で33%以上、若年成人で20%以上の場合に夜間多尿とされる。
【0055】
本発明の予防又は治療剤は、夜間尿量を調整することができ、本発明は、シリコン微粒子を含有する尿量調整剤と言うこともできる。好適には、夜間尿量調整剤と言うことができる。
【0056】
本発明の予防又は治療剤は、夜間尿量を調整し夜間多尿指数を低下させて夜間頻尿を予防及び治療することができる。本明細書において、夜間尿量の調整とは夜間尿量を減少させること、または、夜間多尿指数を低下させることである。本発明の予防又は治療剤は、1日尿量をそれほど変化させずに夜間の尿量を減少させることができる。
【0057】
本発明におけるシリコン微粒子は、in vitroでは、長時間(20時間以上)にわたり水素を発生し続ける性質を持つ。本発明のシリコン微粒子はpH7以上の水と接触すると水素を発生し、pH8以上でより多くの水素を発生する。一方、pH5以下では水素をほとんど発生しない性質を有する。
【0058】
本発明におけるシリコン微粒子を経口投与した場合には、上記のような性質により、胃では水素をほとんど発生しないと考えらえるが、腸内で水素を発生する。正常マウスに本発明におけるシリコン微粒子を投与すると大腸の一部である盲腸において水素発生が確認され、同条件で正常マウスに通常食を与えても、水素は検出限界以下であった。腸内の食物の滞留時間は、通常ヒトでは20時間以上であることより、本発明の予防又は治療剤は、経口投与されることにより腸内で長時間にわたって水素を発生し続け、体内に水素を配給することができると考えられる。
【0059】
また皮膚又は粘膜上にシリコン微粒子を長時間留置することにより経皮又は経粘膜で体内に水素を長時間にわたって配給することができると考えられる。
【0060】
また、本発明の予防又は治療剤は、水素水のように投与前に水素が拡散してしまうことがない。この性質は医薬品等の製品の品質保持に貢献し、製造者、販売者及び利用者の利便性に貢献する。
【0061】
ラットに本発明に係るシリコン微粒子を投与した後に、血漿の抗酸化力を評価(BAPテスト)したところ、シリコン微粒子投与群で抗酸化力が有意に高くなったことが、本発明者等の研究により確認されている(WO2019/235577)。
【0062】
本発明におけるシリコン微粒子が夜間頻尿の予防又は治療に効果を奏する作用機序について、現在研究段階ではあるが、腎遠位尿細管におけるNCC(NaCl共輸送体)のリン酸化抑制が関与していることが考えられる。酸化ストレスの軽減も関与していることも考えられる。
【0063】
酸化ストレス軽減作用については、酸化ストレスが関与する疾患モデル動物を用いた研究において水素水と比較して顕著な効果を示す(WO2019/235577)ことが本発明者等の研究により確認されている。よって、水素水にはない別の作用があることが考えられる。シリコン微粒子投与マウスと非投与マウスの大腸組織を比較すると、シリコン微粒子投与マウスの大腸には、生体内で抗酸化作用に関わるグルタチオンモノスルフィドやシステインモノスルフィドなどが多く含まれていた。これはシリコン微粒子の特有の作用である可能性がある(特開2020-117481、PCT/JP2021/016176)。また、他の機序として、例えば、シリコン微粒子と水との反応によって腸内で生じる発生初期状態の水素を捕獲したコバルト等の金属元素を含むタンパク質、又は水素原子が電子を供与する結果還元力が強くなったタンパク質が、各器官に輸送され、ヒドロキシラジカルと反応し、それを消滅させる機序が考えられる。
【0064】
本発明の予防又は治療剤の予防又は治療対象は、ヒト及び非ヒト動物である。好ましい非ヒト動物として、ペットや家畜等が挙げられる。
【0065】
本発明におけるシリコン微粒子は、その1種又は2種以上がそのままヒトや非ヒト動物に投与されてもよいが、必要に応じて、許容される添加剤又は担体と混合され、当業者に周知の形態に製剤化されて投与され得る。そのような添加剤又は担体としては、例えば、pH調整剤(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、クエン酸等)、賦形剤(例えば、マンニトール、ソルビトールの如き糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプンの如きデンプン誘導体;又は、結晶セルロースの如きセルロース誘導体等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムの如きステアリン酸金属塩;又はタルク等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムの如きセルロース誘導体等)、防腐剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンの如きパラオキシ安息香酸エステル類;又はクロロブタノール、ベンジルアルコールの如きアルコール類等)が挙げられる。これら添加剤及び担体は、単独又は2種以上を混合してシリコン微粒子に配合され得る。好ましい添加剤としては、pHを8以上に調整可能なpH調整剤が挙げられる。好ましいpH調整剤としては、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0066】
本発明の予防又は治療剤の投与経路に特に制限はないが、好ましい投与経路として、経口、経皮、経粘膜(口腔、直腸、膣等)が挙げられる。
【0067】
経口投与用製剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤(ドライシロップ剤)、経口ゼリー剤等が挙げられる。経皮投与用又は経粘膜投与用製剤としては、貼付剤、軟膏剤等が挙げられる。
【0068】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤及び散剤等は、腸溶性製剤とすることができる。例えば、錠剤、顆粒剤、散剤に腸溶性のコーティングを施す。腸溶性コーティング剤としては、胃難溶性腸溶性コーティング剤を用いることができる。カプセル剤は腸溶性カプセルに、本発明のシリコン微粒子を充填することにより、腸溶性にすることができる。
【0069】
本発明の予防又は治療剤は、上記の剤形に製剤化した後、ヒト又は非ヒト動物に投与され得る。
【0070】
本発明の予防又は治療剤中のシリコン微粒子の含有量は特に制限はないが、例えば、0.1~100重量%、1~99重量%、5~95%が挙げられる。
【0071】
本発明におけるシリコン微粒子の投与量及び投与回数は、投与対象、その年齢、体重、性別、目的(予防用か治療用か等)、症状の重篤度、剤形、投与経路等の条件によって適宜変化しうる。ヒトに投与する場合、シリコン微粒子の好ましい投与量は、例えば、1日当たり、約10mg~10g、好ましくは約100mg~5g、より好ましくは約500mg~2g投与される。また、投与回数は、1日当たり1回又は複数回、又は数日に1回であってもよい。例えば、1日当たり1~3回、1~2回、又は1回であってよい。
【0072】
本発明のシリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療剤は、医薬品、医薬部外品、医療機器、食品、飲料に利用することができる。
【0073】
本願はまた、前記シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療用医薬組成物の発明に係るものである。本願はまた、前記シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療剤を含有する夜間頻尿の予防又は治療用医薬組成物の発明に係るものである。本発明における医薬組成物は、医薬部外品に該当するような作用が緩やかな組成物も含む。本発明の医薬組成物の実施形態は、上述の予防又は治療剤に係る発明の実施形態を挙げることができる。
【0074】
本願はまた、前記シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療剤を含有する夜間頻尿の予防又は治療用医療機器の発明に係るものである。また、前記シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療用医療機器の発明に係るものである。本発明における医療機器とは、ヒト若しくは非ヒト動物の疾病の治療もしくは予防に使用されることが目的とされている用具や器具等である。医療機器として、例えばマスクが挙げられる。本発明のマスクを装着することにより、気管又は肺に直接水素を供給することができる。また、他の例として、絆創膏が挙げられる。
【0075】
本願はまた、前記シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療剤を含有する夜間頻尿の予防又は治療用の食品又は飲料の発明に係るものである。また、前記シリコン微粒子を含有する夜間頻尿の予防又は治療用食品又は飲料の発明に係るものである。本発明の食品又は飲料の好ましい例としては、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品等が挙げられる。該健康食品、該機能性食品、及び該特定保健用食品は、夜間頻尿の症状の発症を予防し、発症を遅延し、及び/又は、症状の再発を防止することができる食品又は飲料である。食品又は飲料の形態に制限はない。例えば、既存の食品や飲料に混合した混合物の形態や製剤化した形態が挙げられる。例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、ゼリー等が挙げられる。
【0076】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0077】
<実施例1>
高純度シリコン粉末(大阪チタニウムテクノロジーズ社製、粒度分布<φ300μm(但し、結晶粒子径が1μm超のシリコン粒子)、純度99.9%)を篩にかけて45μm以上の粒子を除去した。得られたシリコン粒子200gを、99.5wt%のエタノール溶液4L(リットル)中に分散させ、φ0.5μmのジルコニア製ビーズ(容量750ml)を加えて、ビーズミル装置(アイメックス株式会社製、横型連続式レディーミル(型式、RHM-08))を用いて、4時間、回転数2500rpmで粉砕(一段階粉砕)を行って微細化した。
【0078】
微細化されたシリコン粒子を含むエタノール溶液は、ビーズミル装置の粉砕室内部に設けられたセパレーションスリットにより、ビーズと分離された後、減圧蒸発装置を用いて30℃~35℃に加熱された。エタノール溶液を蒸発させることによって、微細化されたシリコン粒子(結晶子)が得られた。
【0079】
上記方法により得られた、微細化されたシリコン粒子(結晶子)の平均結晶子径は、20~30nmであり、ほとんどの結晶子が凝集体を形成していた。また、結晶子は酸化シリコン膜に被覆されており、酸化シリコン膜の厚さは約1nmであった。得られた酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子及びその凝集体の混合物は、本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。
【0080】
<実施例2>
実施例1で得られたシリコン結晶子及びその凝集体を、ガラス容器中で、過酸化水素水(3wt%)と混合し、35℃で30分間撹拌した。過酸化水素水で処理されたシリコン結晶子及びその凝集体を、公知の遠心分離処理装置を用いて、固液分離処理によって過酸化水素水を除いた。さらにその後、得られたシリコン結晶子及びその凝集体とエタノール溶液(99.5wt%)とを混合し、十分に撹拌した。エタノール溶液と混合されたシリコン結晶子及びその凝集体を、公知の遠心分離処理装置を用いて、固液分離処理によって揮発性の高いエタノール溶液を除いてから十分に乾燥させた。得られた過酸化水素水処理された、酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子及びその凝集体の混合物は、本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。得られたシリコン微粒子の電子走査顕微鏡(SEM)写真を
図1に示す。なお、得られたシリコン結晶子の凝集体の水素発生速度は、凝集体サイズに依存しなかった。
【0081】
実施例2で得られたシリコン微粒子(シリコン結晶子及びその凝集体)の水素発生量を測定した。シリコン微粒子10mgを容量100mlのガラス瓶(硼ケイ酸ガラス 厚さ1mm程度、ASONE社製ラボランスクリュー管瓶)に入れた。炭酸水素ナトリウムでpH8.2に調整した水をこのガラス瓶に入れて、液温を36℃の温度条件において密閉し、該ガラス瓶内の液中の水素濃度を測定した。水素濃度の測定には、ポータブル溶存水素計(東亜DKK株式会社製、型式DH-35A)を用いた。シリコン微粒子1gあたりの水素発生量を
図2に示す。
【0082】
<実施例3>
実施例2と同様の方法で、実施例1で得られたシリコン微粒子(シリコン結晶子及びその凝集体)を過酸化水素水で処理しエタノール溶液と混合し撹拌した。エタノール溶液と混合されたシリコン微粒子をスプレードライヤ(ADL311S‐A、ヤマト科学製)を用いて乾燥させた。得られたシリコン結晶子の凝集体は、本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。得られたシリコン微粒子(シリコン結晶子の凝集体)の電子走査顕微鏡(SEM)写真を
図3に示す。
【0083】
<実施例4>
実施例1と同様に一段階粉砕を行った。一段階粉砕に用いたφ0.5μmのジルコニア製ビーズ(容量750ml)は、ビーズミル粉砕室内部において、自動的にシリコン結晶子を含む溶液から分離された。得られたシリコン結晶子を含む溶液に、0.3μmのジルコニア製ビーズ(容量750ml)を加えて4時間、回転数2500rpmでシリコン結晶子をさらに粉砕(二段階粉砕)して微細化した。
【0084】
ビーズは、上述のとおりシリコン結晶子を含む溶液から分離され、得られたシリコン結晶子を含むエタノール溶液は、実施例1と同様に減圧蒸発装置を用いて40℃に加熱された。エタノールは蒸発し、二段階粉砕されたシリコン結晶子が得られた。このように二段階粉砕された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子も本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。
【0085】
<実施例5>
実施例2で得られた過酸化水素水処理された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子及びその凝集体の混合物を、市販のカプセル3号に充填し、カプセル製剤を得た。本カプセル製剤は過酸化水素水処理された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子の凝集体を主成分とし、さらに過酸化水素水処理された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子を含有する。
【0086】
<試験例>
I.夜間多尿モデルの開発
【0087】
シリコン微粒子の薬理作用を研究するために夜間多尿モデルが必要であったが、夜間多尿動物モデルに関する報告は1報のみであった(Ihara T. et al. Neurourol Urodyn. 2017 Apr;36(4):1034-1038)。このモデルは時計遺伝子改変マウスであることよりサーカディアンリズムに異常をきたしている可能性があるが、夜間多尿には睡眠障害はあまり関係がないとされており、ヒトの夜間多尿の病態を模した夜間多尿モデルが必要であると考え、新たに夜間多尿モデルを確立した。
【0088】
ヒトの夜間尿量は、就寝から起床までの尿量(就寝前の最後の尿は含まれず、起床後の最初の尿は含まれる)である。ヒトの夜間尿量に相当するマウスの尿量は非活動期尿量であり、マウスは夜行性であるので昼間の尿量である。本試験例において、マウスの非活動期尿量は、8時~20時までの尿量とした。ヒトの夜間多尿指数に対応するマウスの指標として非活動期尿量率(1日尿量に対する非活動期の尿量の割合)を算出した。本試験例において、マウスの尿量は、aVSOP法(Negoro H, et al. Nat Com, 2017; Takezawa K, et al. Am J Physiol Renal Physiol. 2014)を用いて算出した。
【0089】
A.マウスへの塩分負荷と非活動期尿量率
40歳以上の泌尿器科受診者において1日の塩分摂取量が多いと夜間多尿指数(1日尿量に対する夜間尿量の割合)が増加する(Matsuo T, et al. Int J Urol. 2017)。しかし、塩分摂取量が同じであっても若年者では夜間多尿にならず、高齢者でのみ夜間多尿を呈する。そこで、本発明者等は高齢マウスに高塩分食を摂取させて非活動期尿量率(非活動期尿量/1日尿量)が増加するかを調べた。
【0090】
SLC(日本エスエルシー株式会社)から19週齢と80週齢のマウス(C57BL/6J、雄)を入手した。標準食(オリエンタル酵母工業株式会社製、MF、塩分0.2%含有)又は1%高塩分食(塩分含量以外は前記標準食と同一)を与え、自由に摂食、飲水させた。2週後に尿量を算出した。非活動期尿量率と1日尿量を
図4に示す。高齢マウス(80週齢マウス)のみが塩分負荷により夜間多尿になった。
【0091】
B.高齢マウスと若年マウスの尿中NOxの比較
次に、尿中窒素酸化物NOx(NO
2-,NO
3-)の量を調べた。尿中窒素酸化物NOx(NO
2-,NO
3-)は血管加齢の指標である(林 登志雄、日老医誌 2011;48:142-145)。高齢マウスの尿中NOxをGriess法(同仁化学研究所、Griess Reagent Kit)で測定し、1日排泄量(クレアチニン補正値(μmol/mg Cr))を算出した。高齢マウスは若年マウスに比較して有意にNOx量が低かった(
図5)。高齢マウスでは血管加齢が進行して、尿中NOx量が低下していることが明らかになった。
【0092】
C.ヒトにおける尿中NOx、塩分摂取量及び夜間多尿の関係
ヒトの尿中NOx濃度を調べ、尿中NOx濃度が低いグループ(血管加齢が進行しているグループ)における塩分摂取量と夜間多尿の関連について調べた。
【0093】
ヒト(入院患者)27人(男性10人、女性17人、平均年齢61歳)から同意を得て集めた1日蓄尿中のNOx量を調べた。中央値(0.28μmol/mgCr)以下のNOx低グループと中央値以上のNOx高グループに分け、各グループにおいて推定塩分摂取量との関係を調べた。推定塩分摂取量は、1日蓄尿中のNa排泄量から算出した。塩分摂取量と夜間多尿指数はNOx低グループ(血管加齢が進行しているグループ)では正の相関関係があることが示され、NOx高グループでは相関関係がないことが示された(
図6)。ヒトにおいてもNOxが低いグループは塩分過剰摂取で夜間多尿になることが明らかになった。
【0094】
D.夜間多尿モデル動物の確立
そこで、マウスに一酸化窒素合成酵素阻害剤と過剰の塩分を摂取させて夜間多尿モデル作製を試みた。
【0095】
SLCから19週齢のマウス(C57BL/6J、雄)を入手した。実験施設導入後上記Aに記載の1%高塩分食又は標準食を与え自由に摂食させた。高塩分食マウスには、一酸化窒素合成酵素阻害剤であるL-NAME(NG-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル塩酸塩)(シグマ アルドリッチ ジャパン)を水に溶解し0.5mg/mLとして、飲料水として投与した(自由飲水)。高塩分食開始から2週間後に尿量を測定し非活動期尿量率を算出した。結果を
図7に示す。夜間多尿モデル群では非活動期尿量率がコントロール群と比較し有意に上昇した。全てのマウスが非活動期尿量率0.27以上であり、非活動期多尿(夜間多尿)になっていた。ヒト夜間多尿に模した多尿モデルを確立することができた。
【0096】
II.シリコン微粒子含有食の調製
オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93Mに、実施例2で製造したシリコン微粒子(シリコン結晶子及びその凝集体)を2.5wt%になるように混合した。さらにクエン酸水溶液(pH4)を、該シリコン微粒子と該飼料との総量に対して約0.5wt%の量で加え、公知の混錬装置を用いて混錬し、シリコン微粒子含有食を得た。上記Iに記載の1%高塩分食に、実施例2で製造したシリコン微粒子を1wt%になるように混合して上記と同様にシリコン微粒子含有高塩分食を得た。
【0097】
III.シリコン微粒子の薬理作用
上記Iで作製した夜間多尿モデルを用いてシリコン微粒子の作用を調べた。夜間多尿モデルには、上記Iに記載の1%高塩分食、又は上記IIに記載のシリコン微粒子含有高塩分食を与えた。コントロールマウスには、上記Iに記載の標準食又は上記IIに記載のシリコン微粒子含有食を与えた。各食餌開始から2週間後にaVSOP法により尿量を測定し各群の非活動期尿量率を比較した(
図8)。夜間多尿モデルにシリコン微粒子を投与した群では非活動期尿量率が夜間多尿モデル群と比較し有意に低下した(
図9)。以上から、シリコン微粒子投与により夜間多尿が改善されることが明らかになった。
【0098】
IV.作用機序
ウェスタンブロット法にてNaCl共輸送体(NCC)とリン酸化NCC(pNCC)を定量した。夜間多尿モデルとシリコン微粒子投与夜間多尿モデルから腎を摘出し、タンパク質を抽出した。その後、タンパク質の電気泳動を行い、メンブレンにトランスファーした。抗NCC抗体(Millipore)と抗リン酸化NCC抗体(Phospho Solution)を用いて、タンパク質のバンドを検出し、NCCに対するリン酸化しているNCCの割合(pNCC/NCC)を算出した(
図10)。夜間多尿モデルと比較して、シリコン微粒子投与夜間多尿モデルはリン酸化しているNCCが有意に低下していた。本製剤は従来薬であるデスモプレシンとは異なる全く新しい機序で夜間多尿を改善させると考えられる。