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特開2022-1872512-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187251
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 231/12 20060101AFI20221212BHJP
   C07C 233/05 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C07C231/12
C07C233/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095181
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】金生 剛
(72)【発明者】
【氏名】長江 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】塚口 頌悟
(72)【発明者】
【氏名】轡田 康彦
(72)【発明者】
【氏名】北條 達哉
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 武
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC26
4H006AD11
4H006AD17
4H006BB17
4H006BC10
4H006BD70
(57)【要約】      (修正有)
【課題】工業的に実施可能で、効率的な、MFLBのフェロモンである2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(2)(式中、Arは炭素数6-20の置換または無置換のアリール基を表す。)で表されるα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物をN-2-メチルブチリル化することにより、下記一般式(3)(式中、Arは上記で定義した通りである。)で表されるN-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物を得る工程と、得られた化合物(3)のα-アリールエチル基の脱保護により、下記式(1)で表される2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドを得る工程とを少なくとも含む2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法である。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)
【化1】
(式中、Arは炭素数6-20の置換または無置換のアリール基を表す。)
で表されるα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物をN-2-メチルブチリル化することにより、下記一般式(3)
【化2】
(式中、Arは上記で定義した通りである。)
で表されるN-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物を得る工程と、
得られた化合物(3)のα-アリールエチル基の脱保護により、下記式(1)
【化3】
で表される2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドを得る工程と
を少なくとも含む2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法。
【請求項2】
下記一般式(4)
【化4】
(式中、Arは、上記で定義した通りである。)
で表されるα-アリールエチルアミン化合物をN-2-メチルブチル化することにより、前記α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)を得る工程を更に含む請求項1に記載の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法。
【請求項3】
前記N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)が、下記一般式(2S)-(3)
【化5】
(式中、クサビ形結合(wedged bond)は絶対立体配置を表す。Arは、上記で定義した通りである。)
で表される(2S)-N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物であり、
前記2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)が、下記一般式(2S)-(1)
【化6】
(式中、クサビ形結合は、上記で定義した通りである。)
で表される(2S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドである請求項1に記載の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法。
【請求項4】
前記α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)が、下記一般式(2S)-(2)
【化7】
(式中、クサビ形結合(wedged bond)は絶対立体配置を表す。Arは、上記で定義した通りである。)
で表される(2S)-α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物であり、
前記N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)が、下記一般式(2’S)-(3)
【化8】
(式中、クサビ形結合とArは、上記で定義した通りである。)
で表される(2’S)-N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物であり、
前記2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)が、下記式(2’S)-(1)
【化9】
(式中、クサビ形結合は、上記で定義した通りである。)
で表される(2’S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドである請求項2に記載の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法。
【請求項5】
前記α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)が、下記一般式(2S)-(2)
【化10】
(式中、クサビ形結合(wedged bond)は絶対立体配置を表す。Arは上記で定義した通りである。)
で表される(2S)-α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物であり、
前記N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)が、下記一般式(2S,2’S)-(3)
【化11】
(式中、クサビ形結合とArは、上記で定義した通りである。)
で表される(2S,2’S)-N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物であり、
前記2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)が、下記式(2S,2’S)-(1)
【化12】
(式中、クサビ形結合は、上記で定義した通りである。)
で表される(2S,2’S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドである請求項2または4に記載の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法。
【請求項6】
N-2-メチルブチリル化工程の前に、前記α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)から、下記一般式(2R*,αR*)-(2)と(2S*,αR*)-(2)
【化13】
(式中、破状の結合(Hashed bond)と太い結合(Bold bond)は相対立体配置を表す。Arは上記で定義した通りである。)
で表されるα-アリールエチルアミン化合物のジアステレオマー混合物を分離する工程を更に含み、前記N-2-メチルブチリル化、そして前記脱保護が、前記ジアステレオマー混合物から分離されたα-アリールエチルアミン化合物(2R*,αR*)-(2)と(2S*,αR*)-(2)の少なくとも1つについて行われる、請求項1~5のいずれか1項に記載の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法。
【請求項7】
下記一般式(2)
【化14】
(式中、Arは炭素数6-20の置換または無置換のアリール基を表す。)
で表されるα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物から、下記一般式(2R*,αR*)-(2)と(2S*,αR*)-(2)
【化15】
(式中、破状の結合(Hashed bond)と太い結合(Bold bond)は相対立体配置を表す。Arは炭素数6-20の置換または無置換のアリール基を表す。)
で表されるα-アリールエチルアミン化合物のジアステレオマー混合物を分離する工程を含む、α-アリールエチルアミン化合物のジアステレオマー混合物(2R*,αR*)-(2)と(2S*,αR*)-(2)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド化合物、特には2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昆虫の性フェロモンは、通常雌個体が雄個体を誘引する機能をもつ生物活性物質であり、少量で高い誘引活性を示す。性フェロモンは、発生予察や地理的な拡散(特定地域への侵入)の確認の手段として、また、害虫防除の手段として広く利用されている。害虫防除の手段としては、大量誘殺法(Mass trapping)、誘引殺虫法(Lure & killまたはAttract & kill)、誘引感染法(Lure & infectまたはAttract & infect)や交信撹乱法(Mating disruption)と呼ばれる防除法が広く実用に供されている。性フェロモンの利用にあたっては必要量のフェロモン原体を経済的に製造することが、基礎研究のために、更には、応用のために必要とされる。
【0003】
コウチュウ目カミキリムシ科(Coleoptera:Cerambycidae)に属するカミキリムシ(Longhorn beetle)の一種であるミグドルス=フリヤヌス(Migdolus fryanus;以下、「MFLB」と略する。)は、南米を中心に分布し、サトウキビに大きな被害を与え、経済的に非常に重要な害虫である。
【0004】
MFLBの性フェロモンは、Lealらによって2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(化合物の命名については後述する)であると同定された(非特許文献1)。天然物と合成した二種類のジアステレオマー混合物(mixture of diastereomers)のキラル相GC(Chiral phase gas chromatography)の分析結果から、酸残基(acid moiety)側の不斉炭素原子(2位;位置番号については後述する)の絶対立体配置はSであると決定された。アミン残基側の不斉炭素原子(2’位;位置番号については後述する)の絶対立体配置は分析的に証明できなかったが、生合成的理由付けから(原文:Basaed on biosynthetic reasoning)Sであると予測され、天然物は(2S,2’S)-異性体と同定(推定)された。また、圃場誘引試験において、(2S,2’S)-異性体及び(2S,2’R/S)-異性体のいずれもが誘引活性を示した(非特許文献1及び特許文献1)。
【0005】
MFLBの性フェロモンの合成例として、Santangeloら(非特許文献2)の可能な4つのジアステレオマーの合成、A.E.G.Santanaらの合成(特許文献2)が報告されている。
【0006】
ここで、上記先行技術文献では、同じ化合物を示す場合であってもそれぞれ命名法や位置番号の付与方法が異なっていることから、本願にて使用する命名や位置番号についてあらかじめ説明する。
【0007】
下記式(1)
【化1】
で表されるMFLBのフェロモン化合物は、上記先行文献中で命名法(Nomenclature)の混乱が見られ、非特許文献1ではN-2’-methylbutanoyl 2-methylbutylamine、また非特許文献2ではN-2’-methyl-2-methylbutylamideとされている。本化合物はN-アルキル置換カルボン酸アミド(N-alkyl-substituted carboxamide)であり、カルボン酸誘導体であるアミド(amide)を元になる名前(parent name)として用い、窒素原子上のアルキル基はアミンとしてではなくアミドの窒素上へのアルキル基置換と考えるべきで、本明細書では2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド[2-methyl-N-(2’-methylbutyl)butanamide]の命名を用いる。また、メチル基置換された位置等を表すため等に用いる炭素原子番号として、上記先行文献中では、カルボン酸側アシル基に1’,2’,3’,4’を、窒素上に置換するアルキル基に1,2,3,4を付ける例が見られるが、本明細書では、どちらの炭素鎖の位置番号かを区別する必要がある場合、命名の際に親とした炭素鎖、すなわちアシル基側炭素鎖を主鎖(main chain)として1,2,3,4を、アルキル基側炭素鎖を側鎖(side chain)として1’,2’,3’,4’とする位置番号を採用する。この位置番号の付け方は、非特許文献1及び2で用いられている位置番号の付け方とは異なる。また、非特許文献2の3689ページのScheme 3の構造式の立体表記は誤っている。
【0008】
【化2】
(式中、クサビ形結合(wedged bond)は絶対立体配置を表す。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第96/19919号
【特許文献2】ブラジル特許出願公開第102017000486号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】W.S.Lealら,Experientia,50,853(1994)
【非特許文献2】E.M.Santangeloら,Synthetic Communications,31,3685(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
MFLBの性フェロモンを利用した防除技術の確立の目的のためには、必要量のフェロモン原体を経済的に製造することが、基礎研究、応用研究や実用のために必要とされる。例えば、基礎的な研究として、MFLBフェロモンの天然物が非特許文献1で同定された(2S,2’S)-異性体[または可能性のある(2S,2’R)-異性体いずれかの]単一の立体異性体であるかこれらの異性体混合物であるかの決定、可能な4つのジアステレオ異性体の活性比較研究等のためには、光学純度のよい立体異性体を選択的に合成することが望まれる。一方、発生予察や害虫防除等の応用や実用のために必要とされる大量の原体としては必ずしも純粋な立体異性体でなくともよく、誘引剤(Attractant)あるいは交信攪乱剤(Mating disruptant)として活性がある立体異性体混合物を用いる方が経済的に有利である場合もある。異性体混合物を用いる場合には、天然型異性体を含む混合物と非天然型異性体だけからなる混合物があり得るが、天然型異性体を含む混合物が活性の点からより好ましいと考えられる。
【0012】
このような目的のために、基礎と応用のいずれにも適用できる工業的スケールで実施可能な効率的なMFLBフェロモン化合物の製造方法が強く望まれていた。
【0013】
非特許文献2及び特許文献2に示された合成方法では、いずれも2-メチルブチルアミンを2-メチルブタン酸誘導体でブチリル化(butyrylation)することで目的物を得ている。
【0014】
特許文献2は、2-メチルブタン酸誘導体として2-メチルブチリル=クロリド(2-methylbutyryl chloride;2-methylbutanoyl chloride)を用いた反応工程に関するものである。
2-メチルブチルアミンは、市販されているが価格が高く工業的な大量スケール(bulk)での入手が困難で、特に光学活性体は(S)-異性体は市販されているが、(R)-異性体は入手が困難である。そのため非特許文献2では、メチル=(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオネートから多くの段階の変換(multi step conversion)により、(R)-2-メチルブタノール誘導体を経由して(R)-2-メチルブチルアミンを得ている。
【0015】
また、2-メチルブチルアミンは、その高い揮発性ゆえ取り扱い(例えば、溶液状態から濃縮して単離する操作)が困難で、また、その悪臭等の問題もある。
【0016】
さらに、光学活性な2-メチルブチルアミンの光学純度を決定するために、非特許文献2では対応するMTPA=アミド誘導体に変換して分析しているが、そのH-及び19F-NMRスペクトルにおけるシグナルの分離は不十分であり、キラル相GC(Chiral phase gas chromatography)やキラル相HPLC(Chiral phase high performance liquid chromatography)でのピーク分離も不可能であるため、正確な光学純度決定には至らなかったと報告されている。
【0017】
この際、光学的に純粋な原料から出発したものの、2-メチルブチルアミン=MTPA=アミドのピーク分離が不十分なH-NMRから、光学純度は少なくとも65%(原文:at least 65%)であることが示されたことから、中間体として経由した2-メチルブチリル=クロリド段階でのラセミ化(racemization、原文ではepimerizationとしているが不斉点は一つなのでracemiationが正しい)が起こっている可能性が示唆される。中間体2-メチルブチリル=クロリドは、特許文献2及び非特許文献2の最終工程に用いられていて、光学活性な目的物アミド化合物の合成の際には、光学純度が低下してしまうため、中間体2-メチルブチリル=クロリドによるアシル化反応の適用は適切でないことを示している。
【0018】
以上の様に、公知の合成方法には多くの問題があり、これらの問題を回避できる工業的に実施可能な効率的2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法が強く求められていた。
【0019】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、工業的に実施可能で、効率的な、MFLBのフェロモンである2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明者らは、目的物(1)の製造方法として、以下の様に合成計画を考察した。
【化3】
(式中、白抜き矢印は逆合成解析(retrosynthetic analysis)におけるトランスフォーム、Rは保護基、Xは脱離基を表す。)
【0021】
鍵合成中間体として、保護アミン(protected amine)化合物(B)を想定した。化合物(B)をN-2-メチルブチリル化して保護アミド(protected amide)化合物(A)を得た後、保護アミド化合物中の保護基Rを脱保護(deprotection)すれば、目的物のアミド(1)が合成できる。保護アミン化合物(B)は、2-メチルブチルアミンに保護基を導入する方法ではなく、アミン化合物(C)の脱離基[Leaving group;求核置換反応(nucleophilic substitution)において求核剤(nucleophile)と置換される基]Xを有するメチルブチル化剤(D)によるN-メチルブチル化により得ることができる。これにより、入手が難しく取り扱いの困難な2-メチルブチルアミンの直接使用を避けることができる(この方法の場合、アミン化合物のNH官能基を保護基で保護し、何らかの変換をした後、保護基を除去してNH官能基を再生するという厳密な意味では保護基ではないが、便宜上「保護基」と呼び、その除去を「脱保護」と呼ぶこととする)。2-メチルブチル化剤(D)としては、N-アルキル化が可能な種々の脱離基Xを有する、例えば、2-メチルブチル=ハライド類[脱離基Xがハロ基(ハロゲン原子)の場合]、2-メチルブチル=スルホネート類((脱離基Xがスルホネートの場合)や2-メチルブチル=ホスホネート類((脱離基Xがホスホネートの場合)等を適用することができる。また、これらの2-メチルブチル化剤(D)の原料としては、例えば、安価で(±)-体だけでなく光学活性体も入手可能な2-メチルブタノール(Xが水酸基の場合)を用いることができる。
【0022】
上記事情を考慮して検討を重ねた結果、保護基Rとしてα-アリールエチル基を用いることにより、目的物の立体異性体(エナンチオマー、ジアステレオマー)やこれらの混合物を製造できることを知見し、本発明を完成させた。
【0023】
本発明の一つの態様では、
[1] 下記一般式(2)
【化4】
(式中、Arは炭素数6-20の置換または無置換のアリール基を表す。)
で表されるα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物をN-2-メチルブチリル化することにより、下記一般式(3)
【化5】
(式中、Arは上記で定義した通りである。)
で表されるN-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物を得る工程と、
得られた化合物(3)のα-アリールエチル基の脱保護により、下記式(1)
【化6】
で表される2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドを得る工程と
を少なくとも含む2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法が提供される。
【0024】
本発明の他の態様では、
[2] 下記一般式(4)
【化7】
(式中、Arは、上記で定義した通りである。)
で表されるα-アリールエチルアミン化合物をN-2-メチルブチル化することにより、前記α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)を得る工程を更に含む、上記[1]に記載の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法が提供される。
【0025】
本発明の他の態様では、
[3] 前記N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)が、下記一般式(2S)-(3)
【化8】
(式中、クサビ形結合(wedged bond)は絶対立体配置を表す。Arは、上記で定義した通りである。)
で表される(2S)-N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物であり、
前記2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)が、下記一般式(2S)-(1)
【化9】
(式中、クサビ形結合は、上記で定義した通りである。)
で表される(2S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドである、上記[1]に記載の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法が提供される。
【0026】
本発明の他の態様では、
[4] 前記α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)が、下記一般式(2S)-(2)
【化10】
(式中、クサビ形結合とArは、上記で定義した通りである。)
で表される(2S)-α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物であり、
前記N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)(3)ブタナミド化合物が、下記一般式(2’S)-(3)
【化11】
(式中、クサビ形結合とArは、上記で定義した通りである。)
で表される(2’S)-N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物であり、
前記2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)が、下記式(2’S)-(1)
【化12】
(式中、クサビ形結合は、上記で定義した通りである。)
で表される(2’S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドである、上記[2]に記載の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法が提供される。
【0027】
本発明の他の態様では、
[5] 前記α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)が、下記一般式(2S)-(2)
【化13】
(式中、クサビ形結合(wedged bond)は絶対立体配置を表す。Arは上記で定義した通りである。)
で表される(2S)-α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物であり、
前記N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)が、下記一般式(2S,2’S)-(3)
【化14】
(式中、クサビ形結合とArは、上記で定義した通りである。)
で表される(2S,2’S)-N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物であり、
前記2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)が、下記式(2S,2’S)-(1)
【化15】
(式中、クサビ形結合は、上記で定義した通りである。)
で表される(2S,2’S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドである、上記[2]または[4]に記載の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法が提供される。
【0028】
本発明の他の態様では、
[6] N-2-メチルブチリル化工程の前に、前記α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)から、下記一般式(2R*,αR*)-(2)と(2S*,αR*)-(2)
【化16】
(式中、破状の結合(Hashed bond)と太い結合(Bold bond)は相対立体配置を表す。Arは上記で定義した通りである。)
で表されるα-アリールエチルアミン化合物のジアステレオマー混合物を分離する工程を更に含み、前記N-2-メチルブチリル化、そして前記脱保護が、前記ジアステレオマー混合物から分離されたα-アリールエチルアミン化合物(2R*,αR*)-(2)と(2S*,αR*)-(2)の少なくとも1つについて行われる、上記[1]~[5]のいずれかに記載の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法が提供される。
【0029】
本発明の1つの態様では、
[7] 前記α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)から、下記一般式で表される(2R*,αR*)-(2)と(2S*,αR*)-(2)
【化17】
(式中、破状の結合(Hashed bond)と太い結合(Bold bond)は相対立体配置を表す。Arは、炭素数6-20の置換または無置換のアリール基を表す。)
で表されるα-アリールエチルアミン化合物のジアステレオマー混合物を分離する工程を含む、α-アリールエチルアミン化合物のジアステレオマー混合物(2R*,αR*)-(2)と(2S*,αR*)-(2)の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドを工業的に実施可能に、そして効率的に合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本明細書中の中間体、試薬や目的物の化学式において、構造上、エナンチオマー(エナンチオ異性体;enantiomer)あるいはジアステレオマー(ジアステレオ異性体;diastereomer)等の立体異性体が存在し得るものがあるが、特に記載がない限り、いずれの場合も各化学式はこれらの異性体のすべてを表すものとする。また、これらの異性体は、単独で用いてもよいし、任意の比の混合物として用いてもよい。なお、エナンチオマーの混合物において、エナンチオマーが50:50の比で存在する場合がラセミ混合物(racemic mixture)であり、または、いずれかのエナンチオマーが過剰な比で存在する場合がスカレミック混合物(scalemic mixture)であり、いずれを用いてもよい。
【0032】
本明細書中で立体化学を特に記載する場合の表記法は、国際純粋・応用化学連合の勧告[IUPAC Recommendations 2006;Pure Appl. Chem.,78,1897,(2006)]に基づく。
【0033】
例えば、立体化学を特定しない下記式
【化18】
は、下記の存在可能なエナンチオマーとジアステレオマー
【化19】
(式中、太いクサビ形結合(bold wedged bond)と破状クサビ形結合(hashed wedge bond)は絶対立体配置を示す。)
のいずれか単独、任意の比の任意の組合せの複数の混合物、または、任意の比の全ての混合物を表す。
【0034】
立体化学を特定した下記式
【化20】
は、2位の立体がSに決定されたジアステレオマー
【化21】
(式中、太いクサビ形結合(bold wedged bond)と破状クサビ形結合(hashed wedge bond)は上記で定義した通りである。)
のいずれか単独、または、任意の比の混合物を表す。
【0035】
また、立体化学を特定した下記式
【化22】
(式中、太い結合(bold bond)と波状の結合(Hashed bond)は相対立体配置を表す。)
は、絶対立体配置が決定された下記エナンチオマー
【化23】
(式中、太いクサビ形結合(bold wedged bond)と破状クサビ形結合(hashed wedge bond)は上記で定義した通りである。)
のいずれか単独、または、任意の比の混合物を表す。
【0036】
また、メチル基置換された炭素原子の位置を表すため等に用いる炭素原子の位置番号として、本明細書ではアシル基側炭素鎖とアルキル基側炭素鎖が存在する場合、命名の際に親とした炭素鎖、すなわちアシル基側炭素鎖を主鎖(main chain)として1,2,3,4を、アルキル基側炭素鎖を側鎖(side chain)として1’,2’,3’,4’とする位置番号を採用する。また、α-アリールエチル基を有する合成中間体におけるα-アリールエチル基部分の炭素の位置はα,βで表す。
【化24】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を工程ごとに詳細に説明する。
【0038】
<α-アリールエチルアミン化合物のN-2-メチルブチル化反応工程>
【化25】
(式中、Arは炭素数6-20の置換または無置換のアリール基、Xは脱離基を表す。)
【0039】
本発明の鍵中間体であるα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)は、α-アリールエチルアミン化合物(4)を2-メチルブチル化剤(7)でN-2-メチルブチル化反応することにより得られる。
【0040】
α-アリールエチルアミン化合物(4)中のArは、炭素数6-20の置換または無置換のアリール基である。
無置換アリール基としては、炭素数6-20の芳香族炭化水素化合物またはそれらの水素付加誘導体の任意の一つ水素原子を結合手に変えたアリール基を例示できる。芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、インデン、アズレン、ビフェニレン、インダセン、アセナフチレン、フルオレン、フェナレン、フルオランテン、ピレン、インダン、テトラリン等を例示できる。
置換アリール基としては、上記無置換アリール基の任意の位置の1つまたは複数の水素原子をハロ基、ニトロ基やメチル基、エチル基等の炭化水素基等で置換した基を例示できる。好ましい置換または無置換のアリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基、フェナントリル基、及びそれらのハロ基置換体、メチル基置換体を例示できる。これらのうち、原料や試薬の価格、工業的入手しやすさや後述の中間体でのジアステレオマーを分離して特定の立体異性体を合成する場合にはその分離のしやすさ等の点で、特に好ましくは、フェニル基、トリル基(o-、m-、p-トリル基を含む)、キシリル基(任意の置換位置を含む)、1-ナフチル基、2-ナフチル基等、及びそのハロ基またはニトロ基で置換した基が挙げられる。α-アリールエチルアミン化合物(4)として(±)-体、任意の光学純度の光学活性な(R)-体、(S)-体を用いることができる。光学活性体を用いる場合、工業的な入手しやすさから、(R)-または(S)-α-フェニルエチルアミン、(R)-または(S)-α-1-ナフチルエチルアミンを特に好ましく例示できる。光学的に純粋なこれらのα-アリールエチルアミン化合物(4)の適用の利点については後述する。
【0041】
2-メチルブチル化剤(7)中の脱離基Xとしては、N-アルキル化が進行することが知られる任意の脱離基から選択でき特に限定されないが、ハロ基、アルカンスルホニルオキシ基、アレーンスルホニルオキシ基、ジアルキルホスホリルオキシ基、ジアリールホスホリルオキシ基等が例示できる。これらのうち、原料や試薬の価格、工業的入手しやすさから、具体的には、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等のハロ基;メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等のアルカンスルホニルオキシ基;ベンゼンスルホニルオキシ基、p-トルエンスルホニルオキシ基等のアレーンスルホニルオキシ基;ジメチルホスホリル基、ジフェニルホスホリル基等のホスホリル基が好ましく例示できる。
【0042】
特に好ましい2-メチルブチル化剤(7)の具体例としては、1-クロロ-2-メチルブタン、1-ブロモ-2-メチルブタン、1-ヨード-2-メチルブタン、2-メチルブチル=メタンスルホネート、2-メチルブチル=p-トルエンスルホネートが挙げられる。2-メチルブチル化剤(7)として、(±)-体、任意の光学純度の光学活性な(R)-体、(S)-体を用いることができる。
【0043】
2-メチルブチル化剤(7)は、例えば、対応するアルコールである2-メチルブタノールから常法に従って調製することができる。原料の2-メチルブタノールは、(±)-体、任意の光学純度の光学活性な(R)-体、(S)-体を用いて、光学活性な2-メチルブチル化剤(7)を調製できる。この原料に光学活性な2-メチルブタノールを用いることができる点は、光学活性2-メチルブチルアミンが高価で工業的に入手が非常に困難であることを鑑みると、光学活性2-メチルブチルアミンを用いない本発明の製造方法の大きな利点である。2-メチルブチル化剤(7)は、市販のものでも自ら合成したものでもよく、後者の場合、あらかじめ調製したものを用いてもよいが、系内(in situ)で調製してそのまま用いてもよい。
【0044】
N-2-メチルブチル化反応は、通常、塩基の存在下、溶媒中または無溶媒で、加熱または冷却する等して、α-アリールエチルアミン化合物(4)と2-メチルブチル化剤(7)を順次または一度に混合することで進行させる。
【0045】
α-アリールエチルアミン化合物(4)の2-メチルブチル化剤(7)に対するモル比は任意に決められるが、通常、0.02~500モル、好ましくは0.2~50モル、より好ましくは0.9~5モルの範囲である。過剰分のα-アリールエチルアミン化合物(4)が回収できるのであれば、2-メチルブチル化剤(7)に対して過剰に用いて、2-メチルブチル化剤(7)を完全に消費させることが収率や効率の点で望ましい。
【0046】
N-2-メチルブチル化反応に用いられる塩基として、無機塩基または有機塩基が用いられる。
無機塩基の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム等の水酸化物類;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸バリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸塩類;水素化ナトリウム、水素化リチウム等の水素化物塩類;アンモニア;尿素等が挙げられる。
有機塩基の例として、一級、二級または三級(primary,secondary or tertiary)のアルキルアミン、アリールアミン、アルキルアリールアミン、含窒素芳香族化合物等が挙げられる。一級及び二級アミンを塩基として使用するとその塩基のN-2-メチルブチル化が競争するので、三級アミンの使用が好ましい。三級アミンとして、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ピリジン、ピコリン、ルチジン、コリジン、ピロール、ピラジン、ピリミジン、インドリジン、4-ジメチルアミノピリジン、インドール等が価格や工業的入手のしやすさから好ましい。ただし、一級アミンのうち、α-アリールエチルアミン化合物(4)自身を塩基として用いる方法は余計な副反応が生じないため好ましい。これらの塩基から選択して単独または混合して用い、それらの使用量は、0.1~1000モル、好ましくは0.5~100モル、更に好ましくは0.9~10モルである。
【0047】
N-2-メチルブチル化反応は、無溶媒[α-アリールエチルアミン化合物(4)または2-メチルブチル化剤(7)の一方を過剰に用いて自身を溶媒とする]で行うことができ、余計な濃縮や溶媒回収等の操作を必要としないので好ましいが、溶媒を用いることも可能である。この場合、溶媒として、水;塩化メチレン、クロロフォルム、トリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類;ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコール類;アセトニトリル等のニトリル類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチル=スルフォキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒類が挙げられる。これらの溶媒から選択し、単独または混合して用いる。水と有機溶媒を選択した二層系での反応も好ましい一例として挙げられる。溶媒の使用量は、α-アリールエチルアミン化合物(4)1gに対し、0.1~5,000g、好ましくは1~500g、更に好ましくは1~100gである。
【0048】
N-2-メチルブチル化反応の触媒として、塩類を加えてもよい。例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム等の金属ヨージド類;テトラメチルアンモニウム=ヒドロキシド、テトラエチルアンモニウム=ヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウム=ヒドロキシド、テトラ-n-ブチルアンモニウム=ヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウム=ヒドロキシド、テトラ-n-ブチルアンモニウム=フルオリド、テトラ-n-ブチルアンモニウム=クロリド、テトラ-n-ブチルアンモニウム=ブロミド、テトラ-n-ブチルアンモニウム=ヨージド、テトラ-n-ブチルアンモニウム=ハイドロサルフェート、ベンジルトリエチルアンモニウム=クロリド、ベンジルトリメチルアンモニウム=ブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム=ブロミド、ベンゼトニウム=クロリド(benzethonium chloride)、ベンザルコニウム=クロリド(benzalkonium chloride)、セチルピリジニウム=クロリド等の四級アンモニウム塩;テトラ-n-ブチルホスホニウム=テトラフェニルボレート、トリ-n-ブチルシアノメチルホスホニウム=クロリド、トリ-n-ブチル-n-オクチルホスホニウム=ブロミド、trans-2-ブテン-1,4-ビス(トリフェニルホスホニウムクロリド)、テトラエチルホスホニウム=ヘキサフルオロホスフェート等の四級ホスホニウム塩が挙げられる。上記四級アンモニウム塩及び四級ホスホニウム塩は、上記水と有機溶媒の二層系反応に相間移動触媒として加えると効果が高い。
【0049】
N-2-メチルブチル化反応の反応温度は、用いる反応基質の種類や反応条件により適切な反応温度を選択できるが、一般的には-50℃から溶媒の沸点温度が好ましく、0℃から沸点温度、室温(5℃~35℃、以下同様)から100℃が更に好ましい。
【0050】
N-2-メチルブチル化反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)やシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5~720時間程度である。
【0051】
このN-2-メチルブチル化反応で得られるα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)における、2-メチルブチル基の2位とα-アリールエチル基とのα位によって生じるジアステレオマーの存在比がH-NMRで決定できることがわかった。すなわち、光学活性な2-メチルブチル化剤(7)を原料として用いる合成において、光学的に純粋なα-アリールエチルアミン化合物(4)を用いることにより、原料である2-メチルブチル化剤(7)の2位の、中間体であるα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)の2位の、究極的には目的物(1)の2’位の光学純度を、MTPA[α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセチル;α-methoxy-α-(triflluoromethyl)phenylacetyl]アミド誘導体の様な別なキラル補助因子(chiral auxiliary)を用いることなく決定できることが見いだされた。
【0052】
また、最終目的物である2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)の2’位の立体化学を制御する目的で、光学的に純粋でない2-メチルブチル化剤(7)を原料として用いる合成においても、光学的に純粋なα-アリールエチルアミン化合物(4)を用いることにより、この中間体であるα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)から、下記一般式で表される(2R*,αR*)-(2)と(2S*,αR*)-(2)
【化26】
(式中、破状の結合(Hashed bond)と太い結合(Bold bond)は相対立体配置を表す。Arは上記で定義した通りである。]
で表されるα-アリールエチルアミン化合物のジアステレオマー混合物を分離できる場合があることも見いだされた。
【0053】
ジアステレオマーの分離・精製方法としては、有機化合物の分離・精製に用いられる再結晶や種々のクロマトグラフィーが用いられる。クロマトグラフィーとしては例えば、ガスクロマトグラフィー(GC:gas chromatography)、カラムクロマトグラフィー(column chromatography)、液体クロマトグラフィー(LC:liquid chromatography)が挙げられる。好ましいクロマトグラフィーとしては、分取ガスクロマトグラフィー(preparative GC)や分取液体クロマトグラフィー(preparative LC)が挙げられる。中でも分取型高速液体クロマトグラフィー(preparative HPLC(High performance liquid chromatography)は特に好ましい。これらのクロマトグラフィーに用いる吸着層・固定相である担体としてはアキラルなものでも光学活性な固定相を用いたキラルなものでもよい。
【0054】
上記の様に、α-アリールエチルアミン化合物(4)は、アミン合成のための窒素原子の給源(nitrogen source)としてだけでなく、立体異性体の純度決定(determination of stereoisomeric purity)のためのキラル補助因子としても機能し、更に光学分割(optical resolution)のためのキラル補助因子としても機能することができることが示された。
【0055】
上記の様にして合成したα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)の単離や精製は、蒸留や各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して用いることができるが、工業的大量生産にあっては経済性の観点から蒸留が好ましい。また、化合物(2)が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよい。
【0056】
α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)の立体化学としては、誘引活性を示す天然型を含む点から、下記一般式(2S)-(2)で表される(2S)-α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物が好ましい。
【化27】
【0057】
<α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物のN-2-メチルブチリル化工程>
【化28】
(式中、Yは脱離基を表す。Arは上記で定義した通りである。)
【0058】
この工程は、α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)をN-2-メチルブチリル化剤(8)によるN-2-メチルブチリル化反応により、N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)を合成する工程である。
【0059】
α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)中のArは、上記α-アリールエチルアミン化合物(4)で定義した通りである。
【0060】
N-2-メチルブチリル化剤(8)中の脱離基Yとしては、N-アシル化(アミド合成)が進行することが知られる任意の脱離基から選択でき特に限定されないが、ハロ基、アルカンスルホニルオキシ基、アレーンスルホニルオキシ基、ジアルキルホスホリルオキシ基、ジアリールホスホリルオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、イミダゾリル基及びその四級化塩を有する基、p-ニトロフェニルオキシ基、3,5-ジニトロフェニルオキシ基、p-クロロフェニルオキシ等の様な全体として活性化エステルを構成する基等が例示できる。
【0061】
好ましい2-メチルブチリル化剤(8)の例としては、2-メチルブチリル=クロリド、2-メチルブチリル=ブロミド、2-メチルブチリル=ヨージド等の2-メチルブタン酸ハロゲン化物類;2-メチルブチリック=アンヒドリド(2-methylbutyric anhydride;2-メチルブタン酸無水物)、アセチック=2-メチルブチリック=アンヒドリド、ホルミック=2-メチルブチリック=アンヒドリド、2-メチルブチリック=トリクロロアセチック=アンヒドリド、2-メチルブチリック=トリフルオロアセチック=アンヒドリド等の2-メチルブタン酸カルボン酸混合酸無水物;エチルカルボニック=2-メチルブチリック=アンヒドリド、2-メチルブチリック=メチルカルボニック=アンヒドリド等の2-メチルブタン酸炭酸混合酸無水物;メタンスルホニック=2-メチルブチリック=アンヒドリド、ブタンスルホニック=2-メチルブチリック=アンヒドリド、2-メチルブチリック=トリフルオロメタンスルホニック=アンヒドリド、ベンゼンスルホニック=2-メチルブチリック=アンヒドリド、2-メチルブチリック=p-トルエンスルホニック=アンヒドリド等の2-メチルブタン酸-スルホン酸混合酸無水物;エチルスルフリック=2-メチルブチリック=アンヒドリド、2-メチルブチリック=メチルスルフリック=アンヒドリド等の2-メチルブタン酸-硫酸混合酸無水物;ジエチルホスホリック=2-メチルブチリック=アンヒドリド、ジメチルホスホリック=2-メチルブチリック=アンヒドリド、2-メチルブチリック=ジフェニルホスホリック=アンヒドリド等の2-メチルブタン酸-リン酸混合酸無水物;2-メチルブチリルイミダゾールとその四級化塩等が挙げられる。これらの中から反応性、価格、工業的入手しやすさ、保存安定性、臭気等の観点から選択できるが、2-メチルブタン酸ハロゲン化物、2-メチルブチリック=アンヒドリド、2-メチルブタン酸カルボン酸混合酸無水物、2-メチルブタン酸炭酸混合酸無水物、2-メチルブタン酸-リン酸混合酸無水物、2-メチルブタン酸-スルホン酸混合酸無水物が特に好ましい。ただし、N-2-メチルブチリル化剤(8)として光学活性体を用いる場合には、ラセミ化のリスクのため、2-メチルブタン酸ハロゲン化物類は避けるべきである。2-メチルブチリル化剤(8)として、(±)-体、任意の光学純度の光学活性な(R)-体、(S)-体を用いることができる。N-2-メチルブチリル化剤(8)は、市販のものでも自ら合成したものでもよく、後者の場合、あらかじめ調製したものを用いてもよいが、系内(in situ)で調製してそのまま用いてもよい。
【0062】
N-2-メチルブチリル化反応は、通常、塩基の存在下、溶媒中または無溶媒で、加熱または冷却する等して、α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)と2-メチルブチリル化剤(8)を順次または一度に混合することで進行させる。
【0063】
α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)の2-メチルブチリル化剤(8)に対するモル比は任意に決められるが、通常、0.02~500モル、好ましくは0.2~50モル、より好ましくは0.9~5モルの範囲である。過剰分のα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)が回収できるのであれば、2-メチルブチリル化剤(8)に対して過剰に用いて2-メチルブチリル化剤(8)を完全に消費させることが収率や効率の点で望ましい。
【0064】
N-2-メチルブチリル化反応に用いられる塩基として、無機塩基または有機塩基が用いられる。塩基の例としては、上記α-アリールエチルアミン化合物のN-2-メチルブチル化反応工程で例示した塩基から選択できる。二級アミンであるα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)自身を塩基として用いる方法は余計な副反応が生じないため好ましい。これらの塩基から選択して単独または混合して用い、それらの使用量は、0.1~1000モル、好ましくは0.5~100モル、更に好ましくは0.9~10モルである。
【0065】
N-2-メチルブチリル化反応は無溶媒[α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)または2-メチルブチリル化剤(8)の一方を過剰に用いて自身を溶媒とする]で行うことができ、余計な濃縮や溶媒回収等の操作を必要としないので好ましいが、溶媒を用いることも可能である。この場合、溶媒として、上記α-アリールエチルアミン化合物のN-2-メチルブチル化反応工程で例示した溶媒から選択できる。溶媒の使用量は、α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)1gに対し、0.1~5,000g、好ましくは1~500g、更に好ましくは1~100gである。
【0066】
N-2-メチルブチリル化反応の触媒として、塩類を加えてもよい。塩類の例としては、上記α-アリールエチルアミン化合物のN-2-メチルブチル化反応工程で例示した塩類から選択でき、特に四級アンモニウム塩及び四級ホスホニウム塩は上記水と有機溶媒の二層系反応に相間移動触媒として加えると効果が高い。
【0067】
N-2-メチルブチリル化反応の反応温度は、用いる反応基質の種類や反応条件により適切な反応温度を選択できるが、一般的には-50℃から溶媒の沸点温度が好ましく、0℃から沸点温度、室温(5℃~35℃、以下同様)から100℃が更に好ましい。
【0068】
N-2-メチルブチリル化反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)やシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5~720時間程度である。
【0069】
上記の様にして合成したN-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)の単離や精製は、蒸留や各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して用いることができるが、工業的大量生産にあっては経済性の観点から蒸留が好ましい。また、化合物(3)が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよい。
【0070】
得られたN-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)の立体化学としては、誘引活性を示す天然型を含む点から、下記一般式(2S)-(3)で表される(2S)-N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物、下記一般式(2’S)-(3)で表される(2’S)-N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物、または、下記一般式(2S,2’S)-(3)で表される(2S,2’S)-N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物が好ましい。
【化29】
【0071】
<N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物のα-アリールエチル基の脱保護工程>
【化30】
(式中、Arは上記で定義した通りである。)
【0072】
この工程は、得られたN-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)のα-アリールエチル基の脱保護(除去;removal)反応により、目的物である2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)を合成する工程である。
【0073】
N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)中のArは、上記α-アリールエチルアミン化合物(4)で定義した通りである。
【0074】
α-アリールエチル基の脱保護反応は、通常、酸の存在下、溶媒中または無溶媒で、加熱または冷却する等して、N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)から2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)を合成する工程である。
【0075】
α-アリールエチル基の脱保護反応に用いられる酸としては、ブレンステッド酸(Brφnsted acid)が好ましく、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ヘキサン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸類;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸類が例示できる。こられのうち、カルボン酸類が好ましい。これらのカルボン酸類を用いた酸脱保護反応では、α-アリールエチル基がα-アリールエチル=エステル(α-アリールエチル=カルボキシレート)に変換されるが、生成したα-アリールエチル=ホルメートを蒸留等の分離及び/または精製手段により容易に除去できる点で、ギ酸は特に好ましい。
【0076】
用いられる酸の使用量は、化学量論量(stoichiometric amount)以下であってもよいが、この場合、主としてα-アリールエチル基から対応するビニルアレーンが生成し、その重合物等が目的物の精製の際に問題となることがある。一方、化学量論量以上の酸を使用した場合には、上記の様に対応するα-アリールエチル=エステルが生成物となるため、目的物から蒸留及び/またはクロマトグラフィー等の常法により容易に精製できることから好ましい。酸の使用量は、0.01~10000モル、好ましくは0.1~1000モル、更に好ましくは1~100モルである。
【0077】
α-アリールエチル基の脱保護反応は無溶媒で行うことができるが、反応に用いられる上記カルボン酸を溶媒として用いることができる。更に物質の移送、除熱、濃度調整等の目的のために補助的に溶媒を使用することも可能である。この場合の溶媒として、塩化メチレン、クロロフォルム、トリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類;ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒類が例示できる。これらの溶媒から選択し、単独または混合して用いる。溶媒の使用量は、α-アリールエチルアミン化合物(4)1gに対し、0.1~5,000g、好ましくは1~500g、更に好ましくは1~100gである。
【0078】
α-アリールエチル基の脱保護反応の反応温度は、用いる酸や生成するα-アリールエチル=エステルの種類や反応条件により適切な反応温度を選択できるが、一般的には-50℃から溶媒の沸点温度が好ましく、-20℃から室温(5℃~35℃、以下同様)が更に好ましい。生成するα-アリールエチル=エステルを常圧または減圧下にその沸点温度以上に加熱して留去しながら実施する手法は、更にそのまま蒸留により目的物を単離することもでき、工業的価値が非常に大きい。
【0079】
α-アリールエチル基の脱保護反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)やシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5~720時間程度である。
【0080】
上記の様にして合成した2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)の単離や精製は、蒸留や各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して用いることができるが、工業的大量生産にあっては経済性の観点から蒸留が好ましい。
【0081】
得られた2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)の立体化学としては、ミグドルス=フリヤヌスに対して誘引活性を示す天然型を含む点から、下記式(2S)-(1)で表される(2S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド、下記式(2’S)-(1)で表される(2’S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド、または、下記式(2S,2’S)-(1)で表される(2S,2’S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドが好ましい。
【化31】
【0082】
<保護基としてベンジル基を用いた製造方法との比較>
本発明の目的物である2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)の製造方法検討の初期段階において、上記合成計画中の保護基Rとしてベンジル基の適用も検討した。本発明の保護基Rとしてα-アリールエチル基を用いる方法との比較のために、以下に説明する。
【化32】
(式中、Phはフェニル基を表す。以下同様。)
【0083】
中間体であるベンジル-2-メチルブチルアミン(10)及びN-ベンジル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(11)は、出発原料としてベンジルアミン(9)を用いて、それぞれ上記のα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)及びN-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)の合成で述べた反応と同様の反応工程で得られる。
【0084】
得られたN-ベンジル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(11)をベンジルアミン化合物のベンジル基の脱保護反応(脱ベンジル化反応;debenzylation)により目的物2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)へ変換することを検討した。脱ベンジル化反応のうち、最も一般的と考えられる接触加水素分解(catalytic hydrogenolysis)を様々な金属触媒種、溶媒、温度、添加剤等の条件で検討したが、いずれも反応の進行は遅く、しかも、低い変換率で反応が停止した。これは生じた生成物アミン自体が反応触媒を被毒(poisoning)してしまうことに起因すると考えられる。酸化的脱ベンジル化反応(oxidative debenzylation)等の公知の脱ベンジル化反応も種々検討したが、一部の反応で目的物が得られたものの、その収率は満足のいくものではなかった。反応例は製法比較例として後述する。
【0085】
以上に述べた本発明の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法の利点を列挙すると、例えば、
(1)短工程で収率がよい効率的な合成法である。
(2)高い揮発性のための取り扱いが難しく、悪臭があり、かつ、高価な2-メチルブチルアミンを出発原料としても合成中間体としても用いない。
(3)出発原料のα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物は、例えば、2-メチルブタノールや1-ハロ-2-メチルブタタンから容易に合成でき、これらの原料は安価な(±)-体だけでなく光学活性体が工業的に入手可能である。
(4)出発原料のα-アリールエチルアミン化合物は、(±)-体、(R)-体、(S)-体が安価に工業的に入手可能である。
(5)ジアステレオマー混合物合成にも、2位または2’位のいずれかまたは両方の不斉中心を制御した光学活性体合成にも適用できる。
(6)2’位の不斉中心を制御した合成の場合、光学的に純粋なα-アリールエチルアミンを適用すれば、2’位の光学純度を決定できる。
(7)光学活性なα-アリールエチルアミンを適切に選択することにより、2’位の光学分割や光学純度の向上が可能である。
(8)2位の不斉中心を制御した合成の場合、α-アリールエチル基の脱保護の際、エピメリ化(epimerization)の可能性のある2位の光学純度の低下が少ない。
(9)保護基として採用したα-アリールエチル基の脱保護は、種々のアミン合成で汎用されるベンジル基と比べて、比較的温和な反応条件で進行する。
等が挙げられる。
【0086】
なお、上記のベンジル基を用いた合成においては、利点(9)だけでなく利点(4)、(6)、(7)が原理上不可能であり、本発明のα-アリールエチル基を用いた合成がより優れる。
【0087】
以上の様にして、工業的に実施可能で、効率的な、2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法が実現された。
【実施例0088】
以下、実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
なお、原料、生成物、中間体の純度としてガスクロマトグラフィー(GC)分析によって得られた値を用い%GCと表記する。生成物、中間体の異性体比はGC分析の面積比を用いる。GC条件: GC: Simadzu GC-2025,Column: 5%Ph-Me silicone 25mx0.25mmφx0.25μm,Carrier gas: He,Detector: FID。
収率は%GCに基づく換算収率の値である。反応に用いられる原料及び反応で得られる生成物は100%純度であるとは限らないので、換算収率(%)=[(反応によって得られた生成物の重量×%GC)/生成物の分子量]÷[(反応における出発原料の重量×%GC)/出発原料の分子量]×100とする。なお、化合物によってガスクロマトグラフィーの検出感度が異なるため、特に原料や生成物が粗生成物の場合には、換算収率が100%を超えることもあり得る。
化合物のスペクトル測定のサンプルは、必要に応じて粗生成物を精製した。
【0089】
<(2S,2’S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2S,2’S)-(1)の合成>
【化33】
(式中、Phはフェニル基を表す。以下同様。)
【0090】
実施例1 (2S,αR)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2S,αR)-(2a)[一般式(2)においてAr=Ph=フェニル基の場合]の合成
【化34】
【0091】
窒素雰囲気下、(S)-2-メチルブタノール(99.1%S,98.2%ee)から常法に従って合成した(S)-2-メチルブチル=p-トルエンスルホネート52.8gと(R)-α-フェニルエチルアミン(~100%ee)70.6gの混合物を90~100℃で17時間かき混ぜた。冷却した反応混合物をtert-ブチル=メチル=エーテル100mlで希釈した後、5%水酸化ナトリウム水溶液にあけ、有機層を分離し、水層をtert-ブチル=メチル=エーテルで抽出した。合わせた有機層を濃縮した残渣を減圧蒸留して、(R)-α―フェニルエチルアミン39gを回収した後、目的物(2S,αR)-(2a)37.6g(99.3%GC、収率90%;画分計収率92%)を得た。
【0092】
(2S,αR)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2S,αR)-(2a):C1321
【化35】
【0093】
無色油状物(colorless oil)。
沸点:67℃/0.3kPa。
比旋光度:[α] 22 +67.5(c=1.0,CHCl)。
IR(D-ATR):ν=3083,3063,2960,2925,2874,2810,1603,1463,1452,1369,1305,1210,1128,1028,910,760,700,597,555cm-1
H-NMR(600MHz,CDCl):δ=0.85(3H,t,J=7.4Hz),0.88(3H,d,J=6.7Hz),1.07-1.15(1H,m),1.2-1.8(1H,NH,broad),1.32-1.41(1H,m),1.35(3H,d,J=6.6Hz),1.45-1.54(1H,m),2.18(1H,dd,J=11.5,7.7Hz),2.45(1H,dd,J=11.5,5.5Hz),3.73(1H,q,J=6.6Hz),7.21-7.25(1H,m),7.30-7.35(4H,m)ppm。
【0094】
上記H-NMRスペクトルのシグナルの内、主要な(major)ジアステレオマーである(2S,αR)-(2a)の1位の二つのジアステレオトピックな水素原子(two diastereotopic hydrogen atoms)に由来するシグナルは、δ=2.18(1H,dd,J=11.5,7.7Hz),2.45(1H,dd,J=11.5,5.5Hz)である。微量に存在する(minor)ジアステレオマーである(2R,αR)-(2a)[このジアステレオマーは、原料である(S)-2-メチルブタノール中に微量存在する逆のエナンチオマー(oposite enantiomar)、すなわち、(R)-2-メチルブタノールに由来する。]の1位のシグナルは、δ=2.31(1H,dd,J=11.5,~6.6Hz),2.33(1H,dd,J=11.5,~6.6Hz)に観測され、これらのピークの積分値から、2位の立体化学は、major:minor=(2S,αR):(2R,αR)=98.54:1.46と見積もられた(estimated by calculation)。なお、計算はこのケミカルシフト領域に重なる(overlapped)強いシグナルの13Cサテライトピークを除外した。
【化36】
【0095】
この異性体比から、原料の2位の不斉中心の立体化学が、異性化することなく維持されていることが示された。
また、光学的に純粋なα-フェニルエチルアミンを原料とすれば、別の誘導体に変換することなく本化合物自身で2位の不斉中心の絶対立体配置と光学純度とが決定できることが示された。
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ=11.53,17.87,24.70,27.76,35.15,54.06,58.58,126.71(2C),126.88,128.49(2C),146.17ppm。
GC-MS(EI,70eV):30,41,51,65,77,91,105(ベースピーク),118,134,176,191(M)。
【0096】
実施例2 (2S,2’S,αR)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)-N-(α-フェニルエチル)ブタナミド:(2S,2’S,αR)-(3a)[一般式(3)においてAr=Phの場合]の合成
【化37】
【0097】
窒素雰囲気下、氷冷した(S)-2-ブタン酸(99.3%S,98.5%ee)10.25g、トリエチルアミン30.5gとテトラヒドロフラン80mlの混合物にジフェニルホスホリル=クロリド26.9gを15℃以下で5分間で滴下した。7℃で10分、次いで室温で20分かき混ぜた後、生じた結晶をセライトろ過で除き、ケーキはテトラヒドロフラン30mlで洗浄した。合わせたろ液を窒素雰囲気下でかき混ぜながら、室温で、実施例1で得た(2S,αR)-(2a)18.0g、トリエチルアミン61gを加え、72~75℃で24時間かき混ぜた。反応混合物を減圧濃縮してテトラヒドロフランとトリエチルアミンを除去した残渣をジエチル=エーテルに溶かし、エーテル溶液を希塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲル=カラム=クロマトグラフィーで精製して目的物(2S,2’S,αR)-(3a)23.98g(93.8~98.8%GC、収率91%)を得た。
【0098】
(2S,2’S,αR)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)-N-(α-フェニルエチル)ブタナミド:(2S,2’S,αR)-(3a):C1829NO
【化38】
【0099】
無色油状物(colorless oil)。
比旋光度:[α] 22 +105.0(c=1.0,CHCl)。
IR(D-ATR):ν=3063,3030,2963,2933,2874,1737,1639,1496,1463,1417,1379,1301,1271,1231,1207,1185,1157,1117,1088,1049,1028,970,911,787,745,699cm-1
H-NMR(600MHz,CDCl):δ=0.74(3x0.55H,d,J=6.7Hz),0.771(3x0.45H,t,J=7.3Hz),0.772(3x0.45H,d,J=6.7Hz),0.78(3x0.55H,t,J=7.3Hz),0.84-0.90(0.55H,m),0.89(3H,t,J=7.4Hz),0.90-0.99(0.45H,m),1.07(3x0.45H,d,J=6.8Hz),1.11(3x0.55H,d,J=6.7Hz),1.12-1.29(2x0.55H+0.45H,m),1.39-1.47(0.45H+0.55H,m),1.52-1.58(0.45H,m)1.56(3x0.55H,d,J=7.2Hz),1.65(3x0.45H,d,J=7.1Hz),1.66-1.75(0.55H,m),1.75-1.84(0.45H,m),2.63(0.55H,hex-like,J=~6.8Hz),2.67(0.45H,hex-like,J=6.8Hz),2.88(0.45H,dd,J=13.6,8.4,Hz),2.91(0.55H,dd,J=15.1,8.5Hz),3.04(0.55H,dd,J=15.1,7.0Hz),3.23(0.45H,dd,J=13.6,6.6Hz),5.16(0.45H,q,J=7.0Hz),5.83(0.55H,q,J=7.1Hz),7.21-7.36(5H,m)ppm。
【0100】
H-NMRにおいて、サンプルのCDCl溶液中、互変異性体(tautomers)であるジアステレオマーが~55:45の比で存在し、それぞれ別々のピークを与えた。この現象は、このものが窒素原子上に三つの異なる置換基を持つアミンであり、sp3混成をしている窒素原子が孤立電子対(lone pair)を含め不斉中心となっていて、嵩高い置換基の立体障害のため早い反転が阻止されているため、下記式の様に窒素原子の不斉によるジアステレオマーが存在することによる。これらのジアステレオマーの水素原子一個当たりにそれぞれ係数を用いて0.55H,0.45Hとし、トータルで29Hとなる様に記述した。この係数は積分値と等価である。
【化39】
(式中、:は孤立電子対を表す。)
【0101】
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ=11.62,11.7312.12,12.38,17.0717.16,17.44,17.63,18.25,19.39,27.08,27.48,27.55,27.67,34.05,35.1837.82,38.53,49.80,50.5452.56,55.31,126.93(2C),127.27,127.54,127.84(2C)128.34(2C),128.69(2C),141.55,141.65177.76,178.11ppm。
13C-NMRにおいて、上記の不斉窒素原子によるジアステレオマーは、それぞれ別のシグナルを与えた。存在比の大きいジアステレオマーに帰属されたシグナルをアンダーラインで示した。
GC-MS(EI,70eV):41,57,79,105(ベースピーク),120,134,156,177,204,218,275(M)。
【0102】
実施例3 (2S,2’S)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2S,2’S)-(1)の合成
【化40】
【0103】
窒素雰囲気下、実施例2で得た(2S,2’S,αR)-(3a)3.90gとギ酸14.0gの混合物をかき混ぜながら12時間70~75℃に加熱した。反応混合物を50℃に冷却した後、反応容器に蒸留ヘッドを取り付けて、減圧蒸留した。留分として、過剰のギ酸とα-フェニルエチル=ホルメートに次いで、目的物(2S,2’S)-(1)1.89g(92.0%GC、収率79%)を得た。
【0104】
(2S,2’S)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2S,2’S)-(1):C1021NO
【化41】
【0105】
無色油状物(colorless oil)。
比旋光度:[α] 25 +23.3(c=3.0,CHCHOCHCH)。
IR(D-ATR):ν=3297,3087,2963,2932,2876,1732,1645,1553,1462,1381,1269,1236,1108,968,765,699cm-1
H-NMR(600MHz,CDCl):δ=0.89(3H,d,J=6.7Hz),0.897(3H,t,J=7.5Hz),0.899(3H,t,J=7.5Hz),1.13(3H,d,J=6.9Hz),1.12-1.19(1H,m),1.35-1.46(2H,m),1.49-1.59(1H,m),1.62-1.70(1H,m),2.02-2.14(1H,m),3.09(1H,dt-like,J=~13.4,~6.5Hz),3.17(1H,dt-like,J=~13.4,~6.0Hz),5.46(1H,NH,br.s)ppm。
上記H-NMRスペクトルのシグナルの内、主要な(major)ジアステレオマーである(2S,2’S)-(1)[と、より正確には極微量の(2R,2’R)-(1)を含む]の1位のシグナルは、δ=3.09(1H,dt-like,J=~13.4,~6.5Hz),3.17(1H,dt-like,J=~13.4,~6.0Hz)であり、対応する微量に存在する(minor)ジアステレオマーである(2R,2’S)-(1)と(2S,2’R)-(1)の対応するシグナルは、δ=3.04(1H,dt-like,J=~13.4,~7Hz),3.23(1H,dt-like,J=~13.4,~7Hz)に観測され、これらのピークの積分値から、立体化学は、[(2S,2’S)+(2R,2’R)]:[(2R,2’S)+(2S,2’R)]=91:9であった。
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ=11.42,12.11,17.31,17.80,27.15,27.52,35.10,43.63,45.00,176.56ppm。
GC-MS(EI,70eV):41,57(ベースピーク),71,85,102,114,128,143,156,171(M)。
キラル相GC(Chiral phase GC): HP 7890B,Column:Cyclosil―B 30mx0.25mmφx0.25μm,130℃ const.,Carrier gas:He 1mL/min,Inj:220℃,Detector: FID 230℃:6.56%(Rt17.57min),93.43%(Rt18.11min)。このGCでは、アシル基側不斉中心、すなわち、2位の立体によるピークが分離した。よって、[(2R,2’R)+(2R,2’S)]:[(2S,2’S)+(2S,2’R)]=93.43:6.56であった。
【0106】
上記H-NMRのジアステレオマー比とキラル相GCの2位の立体配置比の値から、2’位の立体配置比の値が算出でき、下記の様に2位が93.44%S,2’位が97.19%S(すなわち、90.99%de,99.80%ee)と決定され、本発明の製造方法によれば、ラセミ化(racemization)やエピメリ化(epimerization)を起こさずに目的物が光学純度よく合成できることが示された。
【化42】
【0107】
<(2S,2’RS)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2S,2’RS)-(1)の合成>
【化43】
【0108】
実施例4 (2RS,αR)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2RS,αR)-(2a)[(2R,αR)-(2a)と(2S,αR)-(2a)の50:50の混合物、一般式(2)においてAr=Phの場合]の合成
【化44】
【0109】
実施例1の(S)-2-メチルブチル=p-トルエンスルホネートの代わりに(±)-2-メチルブチル=p-トルエンスルホネート135gを用いて、実施例1と同様の工程により、目的物(2RS,αR)-(2a)96.3g(99.7%GC、収率90%;画分の合計収率93%)を得た。
【0110】
(2RS,αR)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2RS,αR)-(2a)[(2R,αR)-(2a)と(2S,αR)-(2a)の50:50混合物]:C1321
【化45】
【0111】
無色油状物(colorless oil)。
沸点:69℃/0.3kPa。
比旋光度:[α] 26 +59.3(c=1.0,CHCl)。
IR(D-ATR):ν=3083,3062,3025,2960,2925,2874,2810,1603,1493,1452,1369,1305,1210,1127,1028,910,760,700,597,555cm-1
H-NMR(600MHz,CDCl):δ=0.846(3x0.5H,t,J=7.4Hz),0.850(3x0.5H,t,J=7.4Hz),0.87(3x0.5H,d,J=~6Hz),0.88(3x0.5H,d,J=~6Hz),1.06-1.16(1H,m),1.2-1.6(1H,NH,br.),1.32-1.46(1H,m),1.35(3H,d,J=6.6Hz),1.46-1.54(1H,m),2.18(0.5H,dd,J=11.5,7.7Hz),2.31(0.5H,dd,J=11.5,6.6Hz),2.33(0.5H,dd,J=11.5,6.6Hz),2.45(0.5H,dd,J=11.5,5.5Hz),3.73(1H,q,J=6.6Hz),7.21-7.25(1H,m),7.30-7.35(4H,m)ppm。二種のジアステレオマーの水素原子一個当たりにそれぞれ係数を用いて0.5Hとし、トータルで21Hとなる様に記述した。この係数は積分値と等価である。以下、ジアステレオマー混合物のH-NMRの記載は同様とする。
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ=11.32(0.5C),11.52,(0.5C),17.81(0.5C),17.86(0.5C),24.64(0.5C),24.72(0.5C),27.40(0.5C),27.75(0.5C),35.11(0.5C),35.16(0.5C),54.06(0.5C),54.12(0.5C),58.57(0.5C),58.62(0.5C),126.70(2C),126.86(1C),128.47(2C),146.22(1C)ppm。二種のジアステレオマーの炭素原子一個当たりにそれぞれ係数を用いて0.5Cとし、トータルで13Cとなる様に記述した。この係数はピーク強度や積分値とは必ずしも相関しない。以下、ジアステレオマー混合物の13C-NMRの記載は同様とする。
GC-MS(EI,70eV):30,41,51,65,77,91,105(ベースピーク),118,134,176,191(M)。
【0112】
反応に使用した(R)-α-フェニルエチルアミン:(R)-(4a)と反応後過剰分を回収したそれの比旋光度は、以下の通りで、ラセミ化は進行しておらず、回収使用が可能であることを示した。
使用した(R)-(4a):[α] 26 +38.7(neat)
回収した(R)-(4a):[α] 26 +40.1(neat)
【0113】
実施例5 (2S,2’RS,αR)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)-N-(α-フェニルエチル)ブタナミド:(2S,2’RS,αR)-(3a)[(2S,2’R,αR)-(3a)と(2S,2’S,αR)-(3a)の50:50の混合物、一般式(3)においてAr=Phの場合]の合成
【化46】
【0114】
実施例2の実施例1で得た(2S,αR)-(2a)の代わりに実施例4で得た(2RS,αR)-(2a)14.0gと(S)-2-ブタン酸(98.9%S,97.9%ee)7.10gを用いて、実施例2と同様の工程により、目的物(2S,2’RS,αR)-(3a)13.35g(96.4%GC、収率67%;画分計収率70%)を得た。
【0115】
(2S,2’RS,αR)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)-N-(α-フェニルエチル)ブタナミド:(2S,2’RS,αR)-(3a)[(2S,2’R,αR)-(3a)と(2S,2’S,αR)-(3a)の50:50の混合物]:C1829NO
【化47】
【0116】
無色油状物(colorless oil)。
比旋光度:[α] 26 +97.3(c=1.0,CHCl)。
IR(D-ATR):ν=3063,3030,2964,2933,2874,1639,1496,1463,1418,1380,1271,1231,1207,1186,1156,1119,1089,1049,1028,968,912,787,758,699cm-1
H-NMR(600MHz,CDCl):δ=0.65-0.82(6H,m),0.86-0.92(3H,m),0.97-1.35(~6H,m),1.37-1.48(1H,m),1.56(3x0.55H,br.d,J=~7Hz),1.65(3x0.45H,d,J=~7Hz),1.72-1.84(~1H,m),2.57-2.66(0.55H,m),2.66-2.73(0.45H,m),2.84-3.07(1.55H,m),3.17-3.27(0.45H,m),5.11-5.21(0.45H,m),5.79-5.93(0.55H,2xq-like,J=7.0Hz),7.21-7.37(5H,m)ppm。
【0117】
上記H-NMRスペクトルは、2’位のジアステレオマーに加えて不斉窒素原子によるジアステレオマーが~55:45の比で存在することにより、4組のジアステレオマーに由来するスペクトルが重なり合って観察され非常に複雑に重なり合っていて完全なピークの帰属は不可能であった。しかし、これらの4組のスペクトルのうち2組は上記実施例2で得られた(2S,2’S,αR)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)-N-(α-フェニルエチル)ブタナミドのスペクトルとよく一致した。残り2組は、(2S,2’R,αR)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)-N-(α-フェニルエチル)ブタナミドに由来する。
【0118】
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ=11.619,11.623,11.70,11.7412.12,12.21,12.38,12.40,16.83,17.066,17.070,17.16,17.22,17.4517.63,17.75,18.25,18.30,19.38,19.3927.08,27.26,27.4827.55,27.582,27.584,27.670,27.67334.05,34.60,35.18,35.26,37.83,37.96,38.53,38.54,49.37,49.81,50.37,50.54,52.45,52.5755.32,55.40,126.93,127.01,127.27,127.28,127.54,127.57,127.84,127.90,128.35,128.37,128.69,128.70,141.53,141.54,141.58,141.64177.76,177.80,178.13,178.14ppm。
上記13C-NMRスペクトルにおいて、上記4組のジアステレオマーの内、(2S,2’S,αR)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)-N-(α-フェニルエチル)ブタナミドの2組のジアステレオマーに帰属されたシグナルをアンダーライン付きで、(2S,2’R,αR)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)-N-(α-フェニルエチル)ブタナミドの2組のジアステレオマーのそれらをアンダーラインなしで示した。
GC-MS(EI,70eV):41,57,79,105(ベースピーク),120,134,156,177,204,218,275(M)。
【0119】
実施例6 (2S,2’RS)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2S,2’RS)-(1)[(2S,2’R)-(1)と(2S,2’S)-(1)の50:50の混合物]の合成
【化48】
【0120】
窒素雰囲気下、実施例5で得た(2S,2’RS,αR)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)-N-(α-フェニルエチル)ブタナミド1.00gとギ酸35mlの混合物を50~60℃で5時間、室温で16時間かき混ぜた。反応混合物をtert-ブチル=メチル=エーテルで希釈し、洗浄・乾燥・濃縮の後処理操作の後、シリカゲル=カラム=クロマトグラフィーで精製して目的物(2S,2’RS)-(1)0.54g(99.8%GC、収率90%)を得た。
【0121】
(2S,2’RS)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2S,2’RS)-(1)[(2S,2’R)-(1)と(2S,2’S)-(1)の50:50混合物]:C1021NO
【化49】
【0122】
無色油状物(colorless oil)。
比旋光度:[α] 23 +19.5(c=3.3,CHCHOCHCH)。
IR(D-ATR):ν=3296,3089,2963,2931,2876,1645,1553,1462,1381,1269,1236,1108,968,766,704cm-1
H-NMR(600MHz,CDCl):δ=0.87-0.93(9H,m),1.12-1.19(1H,m),1.13(3H,d,J=6.9Hz),1.34-1.46(2H,m),1.50-1.59(1H,m),1.62-1.70(1H,m),2.05-2.13(1H,m),3.04(0.5H,dt-like,J=~13.4,~7Hz),3.09(0.5H,dt-like,J=~13.4,~6.5Hz),3.17(0.5H,dt-like,J=~13.4,~6.0Hz),3.23(0.5H,dt-like,J=~13.4,~7Hz)5.48(1H,NH,br.s)ppm。
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ=11.40(0.5C),11.42(0.5C),12.11,17.29(0.5C),17.31(0.5C),17.80,27.15,27.52,35.10,43.62,45.01,176.57ppm。
GC-MS(EI,70eV):41,57(ベースピーク),71,85,102,114,128,143,156,171(M)。
キラル相GC(Chiral phase GC;実施例3と同一条件):3.92%(Rt17.51min),96.08%(Rt17.97min)。
【0123】
キラル相GCにより2位の立体配置が96.1%Sと決定され、本法によれば目的物が光学純度よく合成できることが示された。
【化50】
【0124】
<(2RS,2’RS)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(1)の合成 1>
【化51】
【0125】
実施例7 (2RS,2’RS)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(1)[(2R,2’R)-(1)と(2R,2’S)-(1)と(2S,2’R)-(1)と(2S,2’S)-(1)との25:25:25:25の混合物]の合成
窒素雰囲気下、氷冷した(±)-2-ブタン酸0.50g、1-メチルイミダゾール1.20gとアセトニトリル20mlの混合物を室温でかき混ぜながら、ジフェニルホスホリル=クロリド1.44gを加えた。室温で3.5時間かき混ぜた後、水冷しながら実施例1で得た(2RS,αR)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン0.93g、を加え、90~95℃で36時間かき混ぜた。反応混合物をtert-ブチル=メチル=エーテルで希釈した溶液を洗浄・乾燥・濃縮して目的物の粗生成物(2RS,2’RS,αR)-(3a)1.21g(90.9%GC、収率82%)を得た。
【0126】
得られた粗生成物(2RS,2’RS,αR)-(3a)1.21gを実施例3の(2S,2’S,αR)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)-N-(α-フェニルエチル)ブタナミドの代わりに用いて、実施例3と同様の工程により、目的物(2RS,2’RS)-(1)0.745g(99.4-100%GC、収率99%)を得た。
【0127】
(2RS,2’RS)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(1)[(2R,2’R)-(1)と(2R,2’S)-(1)と(2S,2’R)-(1)と(2S,2’S)-(1)との~25:25:25:25の混合物]:C1021NO
【化52】
【0128】
無色油状物(colorless oil)。
このものの各種スペクトルは、実施例6の(2S,2’RS)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2S,2’RS)-(1)のそれらと同一であった。
H-NMRにおいて1’位のシグナルは、δ=3.04(0.5H,dt-like,J=~13.4,~7Hz),3.09(0.5H,dt-like,J=~13.4,~6.5Hz),3.17(0.5H,dt-like,J=~13.4,~6.0Hz),3.23(0.5H,dt-like,J=~13.4,~7Hz)ppmに観察されたが、NH:δ=5.48(br.s)ppmを照射してデカップリングすると、δ=3.04(0.5H,dd,J=13.4,7.3Hz),3.09(0.5H,dd,J=13.4,7.2Hz),3.18(0.5H,dd,J=13.4,6.1Hz),3.23(0.5H,dd,J=13.4,6.1Hz)ppmに変化し、重なり(overlapping)のないピークとして分離できた。これらピークの内、δ=3.04と3.23が(2R,2’R)-(1)[すなわち、(2R,2’R)-(1)及び/または(2S,2’S)-(1)]のジアステレオマーに、δ=3.09と3.18が(2R,2’S)-(1)[(2R,2’S)-(1)及び/または(2S,2’R)-(1)]のジアステレオマーに帰属された。これによりH-NMRで[(2R,2’R)+(2S,2’S)]:[(2R,2’S)+(2S,2’S)]のジアステレオマー比が決定できることが示された。例えば、上記実施例3の異性体純度決定に適用された。
【0129】
キラル相GC(Chiral phase GC): HP 7890B,Column:Cyclosil―B 30mx0.25mmφx0.25μm,116℃+0.4℃/min const.,Carrier gas:He 1mL/min,Inj:200℃,Detector: FID 230℃:49.90%(Rt37.70min),50.10%(Rt38.01min)。2位の立体によるピークが1:1に分離した。これにより[(2S,2’S)+(2S,2’R)]:[(2R,2’R)+(2R,2’S)]のジアステレオマー比が決定できることが示された。例えば、上記実施例3と6の異性体純度決定に適用された。
【0130】
<(2RS,2’RS)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(1)の合成 2>
【化53】
【0131】
実施例8 (2RS,2’RS)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(1)[(2R,2’R)-(1)と(2R,2’S)-(1)と(2S,2’R)-(1)と(2S,2’S)-(1)との~25:25:25:25の混合物]の合成
窒素雰囲気下、(±)-α-フェニルエチルアミン1,201.29g(98.51%GC)と(±)-2-メチルブチル=p-トルエンスルホネート882.36g(89.40%GC;9.7%のトルエンを含む)の混合物を85℃で62時間かき混ぜた。反応混合物を冷却後トルエンで希釈し洗浄・乾燥・濃縮の後処理操作の後、減圧蒸留して中間体(2RS,αRS)-(2a)543.05g(99.29%GC、収率87%、画分計収率95%)を得た。
【0132】
(2RS,αRS)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2RS,αRS)-(2a):(2R,αR)-(2a)と(2R,αS)-(2a)と(2S,αR)-(2a)と(2S,αS)-(2a)との~25:25:25:25の混合物、一般式(2)においてAr=Phの場合]:C1321
【化54】
【0133】
無色油状物(colorless oil)。
沸点:108℃/0.2kPa。
このものの各種スペクトルは、実施例4の(2RS,αR)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2RS,αR)-(2a)のそれらと同一であった。
【0134】
得られた(2RS,αRS)-(2a)538.11gとピリジン704.15gとテトラヒドロフラン270gの混合物を、窒素雰囲気下氷冷し、かき混ぜながら(±)-2-メチルブチリル=クロリド503.18gを15℃以下で滴下した。反応混合物を加熱して55℃で15時間かき混ぜた。反応混合物を冷却後、水を加え、トルエンで抽出した。有機層を洗浄・乾燥・濃縮の後処理操作の後、減圧濃縮して中間体の粗生成物(2RS,2’RS,αRS)-(3a)783.89g(98.22%GC、定量的収率)を得た。
【0135】
得られた粗生成物(2RS,2’RS,αRS)-(3a)783.52gと4-tert-ブチルカテコール0.78gとギ酸3,858gの混合物を窒素雰囲気下60℃で24時間かき混ぜた。冷却後、反応混合物をトルエンで希釈し洗浄・乾燥・濃縮の後処理操作の後、減圧蒸留して目的物(2RS,2’RS)-(1)345.3g(99.52%GC、収率73%、画分計収率85%)を得た。
【0136】
(2RS,2’RS)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(1)[(2R,2’R)-(1)と(2R,2’S)-(1)と(2S,2’R)-(1)と(2S,2’S)-(1)との25:25:25:25の混合物]:C1021NO
【化55】
【0137】
無色油状物(colorless oil)。
沸点:110-113℃/0.1kPa。
このものの各種スペクトルは、実施例6の(2S,2’RS)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2S,2’RS)-(1)のそれらと同一であった。
【0138】
<(2RS,2’S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’S)-(1)[(2RS,2’S)-(1)と(2RS,2’S)-(1)との50:50の混合物]の合成>
【0139】
実施例9 (2RS,2’S)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’S)-(1)[(2R,2’S)-(1)と(2S,2’S)-(1)との50:50の混合物]の合成
【化56】
【0140】
実施例2の(S)-2-ブタン酸の代わりに(±)-2-ブタン酸を用いて実施例2と同様の工程により、実施例1で得られた(2S,αR)-(2a)5.06gから粗生成物(2RS,2’S,αR)-(3a)を得、この粗生成物(2RS,2’S,αR)-(3a)を実施例3の(2S,2’S,αR)-(3a)の代わりに用いて実施例3と同様の工程により、目的物(2RS,2’S)-(1)2.20g(99.4%GC、2工程収率70%)を得た。
【0141】
(2RS,2’S)-2-メチル-N-(2-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’S)-(1)[(2R,2’S)-(1)と(2S,2’S)-(1)との50:50の混合物]:C1021NO
【化57】
【0142】
無色油状物(colorless oil)。
比旋光度:[α] 26 +4.83(c=3.0,CHCHOCHCH)。
このものの各種スペクトルは、実施例6の(2S,2’RS)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2S,2’RS)-(1)のそれらと同一であった。
2’位の立体配置は、実施例1から3と同様の工程で合成したことから、~97%Sと推定された。
【化58】
【0143】
実施例10 (2S,αS)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2S,αS)-(2a)[一般式(2)においてAr=Phの場合]の合成
【化59】
【0144】
窒素雰囲気下、(S)-2-メチルブチル=ブロミド1.60gと(S)-α-フェニルエチルアミン(~100%ee)3.85gの混合物を80~85℃で15時間かき混ぜた。冷却した反応混合物に5%水酸化ナトリウム水溶液を加え、有機層を分離し、水層をtert-ブチル=メチル=エーテルで抽出した。合わせた有機層を濃縮した残渣をシリカゲル=カラム=グラフィーで精製して、目的物(2S,αR)-(2a)1.44g(~99.6%GC、収率70%)を得た。
【0145】
(2S,αS)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2S,αS)-(2a):C1321
【化60】
【0146】
無色油状物(colorless oil)。
比旋光度:[α] 24 -56.6(c=1.01,CHCl)。
IR(D-ATR):ν=3063,3026,2960,2926,2874,2810,1603,1493,1452,1369,1351,1304,1229,1211,1127,1028,760,700cm-1
H-NMR(600MHz,CDCl):δ=0.84(3H,t,J=7.4Hz),1.05-1.13(1H,m),~1.10-1.40(1H,NH,br.),1.34(3H,d,J=6.6Hz),1.39-1.46(1H,m),1.46-1.52(1H,m),2.31(1H,dd,J=11.5,6.5Hz),2.33(1H,dd,J=11.5,6.5Hz),3.72(3H,q,J=6.6Hz),7.21-7.26(1H,m),7.30-7.34(4H,m)ppm。上記と同様に1位の二つのジアステレオトピックな水素原子のシグナル(ジアステレオマー一つ当たり二組のdd;two sets of dd per the single diastereomer)積分値から2位の立体化学は、2S:2R=96.6:3.4と見積もられた。
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ=11.34,17.82,24.67,27.42,35.15,54.15,58.62,126.71(2C),126.85,128.47(2C),146.31ppm。
GC-MS(EI,70eV):41,51,65,77,91,105(ベースピーク),118,134,176,191(M)。
【0147】
実施例11 (2RS,αS)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2RS,αS)-(2a)[(2R,αS)-(2a)と(2S,αS)-(2a)の50:50の混合物、一般式(2)においてAr=Phの場合]の合成
【化61】
【0148】
実施例1の(S)-2-メチルブチル=p-トルエンスルホネートの代わりに(±)-2-メチルブチル=p-トルエンスルホネート132gを、(R)-α-フェニルエチルアミンの代わりに(S)-α-フェニルエチルアミン170gを用いて、実施例1と同様の工程により、目的物(2RS,αS)-(2a)96.3g(99.2-99.6%GC、画分計収率90%)を得た。
【0149】
(2RS,αS)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2RS,αS)-(2a):C1321
【化62】
【0150】
無色油状物(colorless oil)。
沸点:66-69℃/0.5kPa。
比旋光度:[α] 26 -61.4(c=1.0,CHCl)。
このものの各種スペクトルは、実施例4の(2RS,2’R)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2RS,2’R)-(2a)のそれらと同一であった。
【0151】
実施例12 (2S,αS)-2-メチルブチル-α-1-ナフチルエチルアミン:(2S,αS)-(2b)[一般式(2)においてAr=Np=1-ナフチルの場合]の合成
【化63】
(式中、Npは1-ナフチル基を表す。以下同様。)
【0152】
窒素雰囲気下、(S)-2-メチルブチル=ブロミド1.30gと(S)-α-1-ナフチルエチルアミン(~100%ee)4.41gの混合物を70~80℃で24時間かき混ぜた。冷却した反応混合物に5%水酸化ナトリウム水溶液を加え、有機層を分離し、水層をtert-ブチル=メチル=エーテルで抽出した。合わせた有機層を濃縮した残渣をシリカゲル=カラム=グラフィーで精製して、目的物(2S,αS)-(2b)1.66g(~99.7%GC、収率79%)を得た。
【0153】
(2S,αS)-2-メチルブチル-α-1-ナフチルエチルアミン:(2S,αS)-(2b):C1723
【化64】
【0154】
無色油状物(colorless oil)。
比旋光度:[α] 24 -50.1(c=1.03,CHCl)。
IR(D-ATR):ν=3049,2960,2925,2873,2813,1596,15101,1461,1394,1377,1130,799,778cm-1
H-NMR (600MHz, CDCl):δ=0.87(3H,t,J=7.3Hz),0.90(3H,d,J=6.7Hz),1.09-1.18(1H,m),1.25-1.55(1H,NH,broad),1.44-1.51(1H,m),1.49(3H,d,J=6.6Hz),1.51-1.58(1H,m),2.42(1H,dd,J=11.5,6.5Hz),2.46(1H,dd,J=11.5,6.6Hz),4.60(1H,q,J=6.6Hz),7.46-7.53(3H,m),7.68(1H,br.d,J=7.1Hz),7.74(1H,br.d,J=8.1Hz),7.87(1H,br.d,J=7.9Hz),8.21(1H,br.d,J=8.4Hz)ppm。
H-NMRから2位の立体化学は、major:minor=(2S,αS):(2R,αS)=98.06:1.94と見積もられた。
13C-NMR (150MHz, CDCl):δ=11.40,17.89,23.84,27.47,35.39,54.06,54.38,122.84,123.17,125.35,125.77,125.86,127.14,129.07,131.51,134.10,141.74ppm。
【0155】
実施例13 (2RS,αR)-2-メチルブチル-α-1-ナフチルエチルアミン:(2RS,αR)-(2b)[(2R,αR)-(2b)と(2S,αR)-(2b)の50:50の混合物、一般式(2)においてAr=Np=1-ナフチルの場合]の合成
【化65】
【0156】
窒素雰囲気下、(±)-2-メチルブチル=p-トルエンスルホネート8.94gと(R)-α-1-ナフチルエチルアミン20.0gを70℃で25時間かき混ぜた。冷却後反応混合物をtert-ブチル=メチル=エーテルで希釈した溶液から洗浄・乾燥・濃縮の後処理操作で粗生成物26.22g(31.4%GC)を得た。この粗生成物8.08gをシリカゲル=カラム=クロマトグラフィーで精製して目的物(2RS,αR)-(2b)2.61g(94.5-96.7%GC、収率98%)を得た。
【0157】
(2RS,αR)-2-メチルブチル-α-1-ナフチルエチルアミン:(2RS,αR)-(2b)[(2R,αR)-(2b)と(2S,αR)-(2b)の50:50の混合物]:C1723
【化66】
【0158】
無色油状物(colorless oil)。
IR(D-ATR):ν=3048,2959,2925,2873,1596,1510,1461,1394,1376,1130,799,778cm-1
H-NMR(600MHz,CDCl):δ=0.852(3x0.5H,t,J=7.4Hz),0.865(3x0.5H,t,J=7.4Hz),0.90(3x0.5H,d,J=6.7Hz),0.93(3x0.5H,d,J=6.6Hz),1.09-1.18(1H,m),1.35-1.55(1H,NH,br.),1.39(0.5H,ddq,J=~13.2,5.5,7.4Hz),1.44-1.50(0.5H,m),1.490(3x0.5H,d,J=6.6Hz),1.493(3x0.5H,d,J=6.6Hz),1.49-1.57(1H,m),2.32(0.5H,dd,J=11.4,7.6Hz),2.42(0.5H,dd,J=11.5,6.5Hz),2.46(0.5H,dd,J=11.5,6.5Hz),2.55(0.5H,dd,J=11.5,5.5Hz),4.60(1H,q,J=6.5Hz),7.45-7.53(3H,m),7.68(1H,br.dd,J=7.0,3.9Hz),7.75(1H,br.d,J=8.1Hz),7.88(1H,br.d,J=8.2Hz),8.21(1H,br.d,J=8.4Hz)ppm。
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ=11.40(0.5C),11.54(0.5C),17.89(0.5C),17.95(0.5C),23.84(0.5C),23.89(0.5C),27.47(0.5C),27.80(0.5C),35.40(0.5C),35.46(0.5C),54.06,54.38,122.84,123.17,125.36,125.77,125.86,127.14,129.07,131.51,134.10,141.74ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,41,57,77,92,115,129,141,155(ベースピーク),168,184,226,241(M)。
【0159】
実施例14 (2RS,αR)-2-メチルブチル-α-1-ナフチルエチルアミン:(2RS,αR)-(2b)のジアステレオマー分離
【化67】
【0160】
実施例13で得た(2RS,αR)-2-メチルブチル-α-1-ナフチルエチルアミン:(2RS,αR)-(2b)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離した。
HPLC条件:Thermo Fisher Scientific UltiMate-3000,Column:BEH C18(2.1x100mmx1.7μm;30℃,Elution:COH:CHCN:CHOH:10mM NHOCOCH aq=10:10:20:60;0.2ml/min,Detector: UV 210nm。Rt=21.113,22.007minに溶出し、分離度(resolution)R=1.524が得られた。分離度Rは、以下の様に定義され、1.5以上で完全な分離を示す。
R=(tR2-tR1)/[(W+W)÷2]
R:分離度
:成分nのピーク幅
Rn:成分nの保持時間
【0161】
上記条件でのHPLC分取により以下の2成分を得た。
【0162】
(2R,αR)-2-メチルブチル-α-1-ナフチルエチルアミン:(2R,αR)-(2b):C1723
【化68】
【0163】
HPLC保持時間:Rt=21.113min。
無色油状物(colorless oil)。
比旋光度:[α] 23 +48.1(c=1.02,CHCl)。
このものの各種スペクトルは、対掌体である実施例12の(2S,αS)-2-メチルブチル-1-ナフチルエチルアミン:(2S,αS)-(2b)のそれらと同一であった。
H-NMRから2位の立体化学は、major:minor=(2R,αR):(2S,αR)=97.08:2.92と見積もられた。
【0164】
(2S,αR)-2-メチルブチル-α-1-ナフチルエチルアミン:(2S,αR)-(2b):C1723
【化69】
【0165】
HPLC保持時間:Rt=21.113min。
無色油状物(colorless oil)。
比旋光度:[α] 25 +59.3(c=1.01,CHCl)。
IR(D-ATR):ν=3048,2960,2925,2873,1596,1511,1462,1394,1376,1130,799,778cm-1
H-NMR(600MHz,CDCl):δ=0.85(3H,t,J=7.4Hz),0.93(3H,d,J=6.7Hz),1.09-1.18(1H,m),1.35-1.65(1H,NH,broad),1.35-1.43(1H,m),1.50(3H,d,J=6.6Hz),1.51-1.58(1H,m),2.32(1H,dd,J=11.4,7.6Hz),2.56(1H,dd,J=11.4,5.5Hz),4.60(1H,q,J=6.6Hz),7.45-7.53(3H,m),7.68(1H,br.d,J=7.1Hz),7.75(1H,br.d,J=8.4Hz),7.88(1H,br.d,J=7.9Hz),8.21(1H,br.d,J=8.4Hz)ppm。
H-NMRから2位の立体化学は、major:minor=(2S,αR):(2R,αR)=98.54:1.46と見積もられた。
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ=11.54,17.95,23.86,27.80,35.42,54.05,54.37,122.86,123.15,125.37,125.80,125.86,127.17,129.07,131.51,134.10,141.65ppm。
【0166】
実施例15 (2S,αRS)-2-メチルブチル-α-2,4-ジクロロフェニルエチルアミン:(2S,αRS)-(2c)[(2S,αR)-(2c)と(2S,αS)-(2c)の50:50の混合物、一般式(2)においてAr=2,4-ジクロロフェニルの場合]の合成
【化70】
【0167】
窒素雰囲気下、(S)-2-メチルブチル=p-トルエンスルホネート5.70gとα-ジクロロフェニルエチルアミン10.0gの混合物を70℃で10時間かき混ぜた。冷却後、反応混合物に25%水酸化ナトリウム水溶液を加え、有機層を分離した。有機層から洗浄・乾燥・濃縮の後処理操作で得られた残渣をシリカゲル=カラム=クロマトグラフィーで精製して目的物4.20g(81.7-97.0%GC,収率91%)を得た。
【0168】
(2S,αRS)-2-メチルブチル-α-2,4-ジクロロフェニルエチルアミン:(2S,αRS)-(2c)[(2S,αR)-(2c)と(2S,αS)-(2c)の50:50の混合物]:C1319Cl
【化71】
【0169】
無色油状物(colorless oil)。
IR(D-ATR):ν=2961,2927,2874,2814,1588,1560,1464,1380,1370,1342,1135,1101,1068,1046,865,816,692,571cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=0.847(3x0.5H,t,J=7.6Hz),0.851(3x0.5H,t,J=7.3Hz),0.87(3x0.5H,d,J=6.5Hz),0.89(3x0.5H,d,J=6.5Hz),1.05-1.17(1H,m),1.15-1.35(1H,NH,broad),1.290(3x0.5H,d,J=6.5Hz),1.292(3x0.5H,d,J=6.5Hz),1.30-1.39(0.5H,m),1.39-1.53(1.5H,m),2.12(0.5H,dd,J=11.4,7.6Hz),2.25(0.5H,dd,J=11.5,6.5Hz),2.31(0.5H,dd,J=11.5,6.1Hz),2.43(0.5H,dd,J=11.5,5.4Hz),4.178(0.5H,q,J=6.5Hz),4.180(0.5H,q,J=6.5Hz),7.24(1H,dd,J=8.4,1.9Hz),7.33(1H,d,J=2.3Hz),7.49(1H,dd,J=8.4,2.3Hz)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=11.21(0.5C),11.38(0.5C),17.63(0.5C),17.70(0.5C),22.76(0.5C),22.80(0.5C),27.22(0.5C),27.55(0.5C),35.10(0.5C),35.12(0.5C),53.80(0.5C),53.85(0.5C),54.02(0.5C),54.09(0.5C),127.34,128.43(0.5C),128.46(0.5C),129.12,132.45,133.73,141.70ppm。
GC-MS(EI,70eV):30,41,57,75,102,117,137,152,173(ベースピーク),202,244,244,259(M)。
【0170】
実施例12、13、14、15で得られたα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2b)、(2c)は、2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)の合成に適用可能である。
【0171】
<製法比較例:本発明のα-アリールエチル基の代わりにベンジル基を用いた2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの合成の試み>
【化72】
【0172】
比較例1 (2S,2’S)-N-ベンジル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2S,2’S)-(6)の合成
【化73】
【0173】
窒素雰囲気下、氷冷した(S)-2-メチルブタン酸(98.45%S,96.9%ee)2.00gとトリエチルアミン5.95gとテトラヒドロフラン12mlの混合物にジフェニルホスホリル=クロリド5.27gを加えた。氷冷下1時間、次いで室温で30分かき混ぜた後、生じた結晶をセライトろ過で除き、ケーキはトトラヒドロフラン20mlで洗浄し、ろ液として混合酸無水物を得た。(S)-ベンジル-2-メチルブチルアミン3.65g、とテトラヒドロフラン20mlの混合物に上記で得た混合酸無水物溶液を氷冷下かき混ぜながら加えた。反応混合物を室温で18時間かき混ぜた後、希塩酸にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を洗浄・乾燥・濃縮の後処理操作で得られた残渣をシリカゲル=カラム=クロマトグラフィーで精製して目的物3.12g(~100%GC,収率67%)を得た。
【0174】
(2S,2’S)-N-ベンジル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2S,2’S)-(6):C1727NO
【化74】
【0175】
無色液体
比旋光度:[α] 27 +26.1(c=2.0,CHCHOCHCH)。
IR(D-ATR):ν=3064,3030,2963,2931,2875,1645,1496,1464,1454,1425,1380,1264,1216,1121,1078,1029,1000,966,729,698cm-1
H-NMR(600MHz,CDCl):δ=0.84(3x0.5H,t-like,J=~7.4Hz),0.86-0.93(7.5H,m),1.06-1.16(1H,m),1.08(3x0.5H,d,J=6.7Hz),1.15(3x0.5H,d,J=6.7Hz),1.33-1.51(2H,m),1.67-1.85(2H,m),2.53(0.5H,hex,J=6.8Hz),2.67(0.5H,hex,J=6.8Hz),3.03(0.5H,dd,J=14.8,8.3Hz),3.11(0.5H,dd,J=14.8,6.9Hz),3.26(0.5H,dd,J=13.5,7.0Hz),3.29(0.5H,dd,J=13.5,7.9Hz),4.52(0.5H,d-like,J=~15Hz)4.55(0.5H,d-like,J=17Hz),4.62(0.5H,d,J=17.2Hz),4.74(0.5H,d,J=14.7Hz),7.13-7.17(1H,d-like,J=7.39Hz),7.19-7.32(3H,m),7.35(1H,t-like,J=~7.5Hz)ppm。
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ=11.46(0.5C),11.59(0.5C),12.19(0.5C),12.20(0.5C),17.07(0.5C),17.12(0.5C),17.77(0.5C),17.95(0.5C),27.10(0.5C),27.25(0.5C),27.53(0.5C),27.60(0.5C),33.54(0.5C),34.45(0.5C),37.30(0.5C),37.78(0.5C),48.72(0.5C),51.53(0.5C),52.13(0.5C),52.60(0.5C),126.22,127.23(0.5C),127.53(0.5C),128.08,128.62,128.94,137.69(0.5C),138.29(0.5C),177.44(0.5C),177.68(0.5C)ppm。H-及び13C-NMRサンプルのCDCl溶液中、2位、2’位に加えて立体障害のため反転が困難な不斉窒素原子によるジアステレオマーが~50:50の比で存在した。
【0176】
比較例2 (2RS,2’S)-N-ベンジル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’S)-(6)[(2R,2’S)-(6)と(2S,2’S)-(6)との~50:50の混合物]の合成
【化75】
【0177】
比較例1の(S)-2-メチルブタン酸の代わりに(±)-2-メチルブタン酸を用いて、(S)-ベンジル-2-メチルブチルアミン10.30gから比較例1と同様の工程により、目的物(2RS,2’S)-(6)14.33g(98.9%GC、収率97%)を得た。
【0178】
(2RS,2’S)-N-ベンジル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’S)-(6)[(2R,2’S)-(6)と(2S,2’S)-(6)との~50:50の混合物]:C1727NO
淡黄色液体
比旋光度:[α] 27 -0.73(c=2.0,CHCHOCHCH)。
IR(D-ATR):ν=3064,3029,2963,2931,2875,1644,1496,1464,1454,1425,1380,1264,1217,1121,1078,1029,1000,966,729,698cm-1
H-NMR(600MHz,CDCl):δ=0.84(3x0.5H,t-like,J=~7.4Hz),0.86-0.93(7.5H,m),1.06-1.17(4H,m),1.33-1.50(2H,m),1.67-1.85(2H,m),2.49-2.57(0.5H,m),2.62-2.71(0.5H,m),2.96-3.06(0.5H,m),3.08-3.16(0.5H,m),3.17-3.23(0.25H,m),3.23-3.32(0.5H,m),3.32-3.39(0.25H,m),4.49-4.70(1.75H,m),4.75(0.25H,d-like,J=~14.8Hz),7.15(1H,d-like,J=7.39Hz),7.19-7.32(3H,m),7.35(1H,t-like,J=~7.5Hz)ppm。
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ=11.42(0.25C),11.46(0.25C),11.59(0.5C),12.20(0.75C),12.27(0.25C),17.06(0.5C),17.11(0.25C),17.13(0.25C),17.77(0.25C),17.89(0.25C),17.95(0.25C),17.96(0.25C),27.10(0.25C),27.16(0.25C),27.25(0.25C),27.28(0.25C),27.53(0.5C),27.56(0.25C),27.60(0.25C),33.54(0.25C),33.58(0.25C),34.44(0.25C),34.45(0.25C),37.30(0.25C),37.39(0.25C),37.78(0.5C),48.72(0.5C),51.52(0.25C),51.55(0.25C),52.13(0.25C),52.16(0.25C),52.59(0.25C),52.60(0.25C),126.21,127.23(0.5C),127.53(0.5C),128.08(0.5C),128.09(0.5C),128.62,128.93,137.69(0.5C),138.29(0.5C),177.41(0.25C),177.43(0.25C),177.67(0.5C)ppm。H-及び13C-NMRサンプルのCDCl溶液中、2位、2’位に加えて立体障害のため反転が困難な不斉窒素原子によるジアステレオマーが~50:50の比で存在した。
GC-MS(EI,70eV):41,57,77,91,106,120(ベースピーク),134,148,163,190,204,218,232,246,261(M)。
【0179】
比較例3 (2RS,2’RS)-N-ベンジル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(6)[(2R,2’R)-(6)と(2R,2’S)-(6)と(2S,2’R)-(6)と(2S,2’S)-(6)との~25:25:25:25の混合物]の合成
【化76】
【0180】
窒素雰囲気下、(±)-ベンジル-2-メチルブチルアミン10.3g、トリエチルアミン18.0gとテトラヒドロフラン60mlの混合物にブチリル=クロリド10.0gを室温でかき混ぜながら加えた。反応混合物を室温で30時間かき混ぜた後、希塩酸にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を洗浄・乾燥・濃縮の後処理操作で得られた残渣をシリカゲル=カラム=クロマトグラフィーで精製して目的物19.83g(94.5%GC,定量的収率)を得た。
【0181】
(2RS,2’RS)-N-ベンジル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(6)[(2R,2’R)-(6)と(2R,2’S)-(6)と(2S,2’R)-(6)と(2S,2’S)-(6)との~25:25:25:25の混合物]:C1727NO
無色液体
このものの各種スペクトルは、比較例2の(2RS,2’S)-N-ベンジル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’S)-(6)のそれらと同一であった。
【0182】
比較例4 (2RS,2’RS)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(1)[(2R,2’R)-(1)と(2R,2’S)-(1)と(2S,2’R)-(1)と(2S,2’S)-(1)との~25:25:25:25の混合物]の合成の試み 1
【化77】
【0183】
比較例3で得た(2RS,2’RS)-N-ベンジル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(6)4.03g、Pd-C(パラジウム-活性炭)0.25g、Pd(OH)-C(水酸化パラジウム-活性炭)0.25gとメタノール20mlの混合物をオートクレーブに入れ、水素圧力0.47-0.52MPaの下で、室温で3時間、60℃で5.5時間、更に80℃で5.5時間激しくかき混ぜた。反応混合物をGC分析したところ反応進行率(conversion)は6.8%であった。
【0184】
同様の加水素分解反応を種々の触媒、溶媒、酸等の添加剤の条件下に実施したが、いずれも反応は遅く実用的な速度は得られなかった。
【0185】
比較例5 (2RS,2’RS)2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(1)[(2R,2’R)-(1)と(2R,2’S)-(1)と(2S,2’R)-(1)と(2S,2’S)-(1)との~25:25:25:25の混合物]の合成の試み 2
【化78】
【0186】
窒素雰囲気下、比較例3で得た(2RS,2’RS)-N-ベンジル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド:(2RS,2’RS)-(6)0.88gと酢酸エチル20mlの混合物を、室温でかき混ぜながらN-ブロモ=スクシンイミド(NBS)0.55g、次いでアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.10gを加えた。反応混合物を10時間加熱還流した後、室温で16時間かき混ぜた。反応混合物に水を加えて、得られた有機層を洗浄・乾燥・濃縮の後処理操作で得られた残渣をシリカゲル=カラム=クロマトグラフィーで精製して、無色液体の目的物0.20g(94.0%GC、収率36%)を得た。
【0187】
得られた(2RS,2’RS)-(1)の各種スペクトルは、実施例6の(2S,2’RS)-2-メチルブチル-α-フェニルエチルアミン:(2S,2’RS)-(1)のそれらと同一であった。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
この際、光学的に純粋な原料から出発したものの、2-メチルブチルアミン=MTPA=アミドのピーク分離が不十分なH-NMRから、光学純度は少なくとも65%(原文:at least 65%)であることが示されたことから、中間体として経由した2-メチルブチリル=クロリド段階でのラセミ化(racemization、原文ではepimerizationとしているが不斉点は一つなのでracemiationが正しい)が起こっている可能性が示唆される。中間体2-メチルブチリル=クロリドは、特許文献2及び非特許文献2の最終工程に用いられていて、光学活性な目的物アミド化合物の合成の際には、光学純度が低下してしまうため、中間体2-メチルブチリル=クロリドによるアシル化反応の適用は適切でないことを示している。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
本発明の他の態様では、
[4] 前記α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)が、下記一般式(2S)-(2)
【化10】
(式中、クサビ形結合とArは、上記で定義した通りである。)
で表される(2S)-α-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物であり、
前記N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物(3)が、下記一般式(2’S)-(3)
【化11】
(式中、クサビ形結合とArは、上記で定義した通りである。)
で表される(2’S)-N-α-アリールエチル-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド化合物であり、
前記2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミド(1)が、下記式(2’S)-(1)
【化12】
(式中、クサビ形結合は、上記で定義した通りである。)
で表される(2’S)-2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドである、上記[2]に記載の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法が提供される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0051
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0051】
このN-2-メチルブチル化反応で得られるα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)における、2-メチルブチル基の2位とα-アリールエチル基とのα位によって生じるジアステレオマーの存在比がH-NMRで決定できることがわかった。すなわち、光学活性な2-メチルブチル化剤(7)を原料として用いる合成において、光学的に純粋なα-アリールエチルアミン化合物(4)を用いることにより、原料である2-メチルブチル化剤(7)の2位の、中間体であるα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物(2)の2位の、究極的には目的物(1)の2’位の光学純度を、MTPA[α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセチル;α-methoxy-α-(trifluoromethyl)phenylacetyl]アミド誘導体の様な別なキラル補助因子(chiral auxiliary)を用いることなく決定できることが見いだされた。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0085
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0085】
以上に述べた本発明の2-メチル-N-(2’-メチルブチル)ブタナミドの製造方法の利点を列挙すると、例えば、
(1)短工程で収率がよい効率的な合成法である。
(2)高い揮発性のための取り扱いが難しく、悪臭があり、かつ、高価な2-メチルブチルアミンを出発原料としても合成中間体としても用いない。
(3)出発原料のα-アリールエチル-2-メチルブチルアミン化合物は、例えば、2-メチルブタノールや1-ハロ-2-メチルブタンから容易に合成でき、これらの原料は安価な(±)-体だけでなく光学活性体が工業的に入手可能である。
(4)出発原料のα-アリールエチルアミン化合物は、(±)-体、(R)-体、(S)-体が安価に工業的に入手可能である。
(5)ジアステレオマー混合物合成にも、2位または2’位のいずれかまたは両方の不斉中心を制御した光学活性体合成にも適用できる。
(6)2’位の不斉中心を制御した合成の場合、光学的に純粋なα-アリールエチルアミンを適用すれば、2’位の光学純度を決定できる。
(7)光学活性なα-アリールエチルアミンを適切に選択することにより、2’位の光学分割や光学純度の向上が可能である。
(8)2位の不斉中心を制御した合成の場合、α-アリールエチル基の脱保護の際、エピメリ化(epimerization)の可能性のある2位の光学純度の低下が少ない。
(9)保護基として採用したα-アリールエチル基の脱保護は、種々のアミン合成で汎用されるベンジル基と比べて、比較的温和な反応条件で進行する。
等が挙げられる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0088
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0088】
以下、実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
なお、原料、生成物、中間体の純度としてガスクロマトグラフィー(GC)分析によって得られた値を用い%GCと表記する。生成物、中間体の異性体比はGC分析の面積比を用いる。GC条件: GC: Shimadzu GC-2025,Column: 5%Ph-Me silicone 25mx0.25mmφx0.25μm,Carrier gas: He,Detector: FID。
収率は%GCに基づく換算収率の値である。反応に用いられる原料及び反応で得られる生成物は100%純度であるとは限らないので、換算収率(%)=[(反応によって得られた生成物の重量×%GC)/生成物の分子量]÷[(反応における出発原料の重量×%GC)/出発原料の分子量]×100とする。なお、化合物によってガスクロマトグラフィーの検出感度が異なるため、特に原料や生成物が粗生成物の場合には、換算収率が100%を超えることもあり得る。
化合物のスペクトル測定のサンプルは、必要に応じて粗生成物を精製した。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0173
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0173】
窒素雰囲気下、氷冷した(S)-2-メチルブタン酸(98.45%S,96.9%ee)2.00gとトリエチルアミン5.95gとテトラヒドロフラン12mlの混合物にジフェニルホスホリル=クロリド5.27gを加えた。氷冷下1時間、次いで室温で30分かき混ぜた後、生じた結晶をセライトろ過で除き、ケーキはテトラヒドロフラン20mlで洗浄し、ろ液として混合酸無水物を得た。(S)-ベンジル-2-メチルブチルアミン3.65g、とテトラヒドロフラン20mlの混合物に上記で得た混合酸無水物溶液を氷冷下かき混ぜながら加えた。反応混合物を室温で18時間かき混ぜた後、希塩酸にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を洗浄・乾燥・濃縮の後処理操作で得られた残渣をシリカゲル=カラム=クロマトグラフィーで精製して目的物3.12g(~100%GC,収率67%)を得た。