(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187264
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】疎水性シリカエアロゲル、及び水を含むペースト状組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/159 20060101AFI20221212BHJP
C01B 33/16 20060101ALI20221212BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C01B33/159
C01B33/16
A61K8/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095202
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】三道 光喜
(72)【発明者】
【氏名】福寿 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】谷口 貴史
【テーマコード(参考)】
4C083
4G072
【Fターム(参考)】
4C083AB171
4C083FF01
4G072AA28
4G072BB05
4G072BB15
4G072CC07
4G072CC08
4G072DD03
4G072EE01
4G072EE06
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH21
4G072HH30
4G072JJ15
4G072LL06
4G072LL15
4G072MM03
4G072MM21
4G072MM22
4G072MM23
4G072PP03
4G072QQ07
4G072RR06
4G072RR12
4G072RR15
4G072SS02
4G072SS10
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】 化粧品などに対して添加する多孔質シリカにイオン性不純物が含まれていると給油量が低下するなどの問題を生じる場合があるため、水洗などを行ってイオン性不純物量の低減を行う必要があるが、洗浄水を多量に要し、それに伴い廃液も増えてしまう
【解決手段】 多孔質シリカを製造するに際して用いる酸及び塩基を、生じる塩が硫酸ナトリウムとなるように選択する。具体的には、酸としては硫酸、塩基としては水酸化ナトリウム等のナトリウム系の塩基を採用し、またケイ素源もケイ酸ナトリウムを用いる。硫酸ナトリウムは32℃付近を境に急激に水への溶解度を減じ10水和物として析出してくるため、これをろ過などにより分離してしまえば、その後で行うイオン性不純物を低減する工程が大幅に効率化できる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)硫酸とケイ酸ナトリウムとから水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)加熱することにより前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをシリカゲルの分散液へと変換する工程、
(4)有機相と、前記シリカゲルが分散した水相とに分相させた後、該有機相を除去する工程、
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤と硫酸を添加して該シリカゲルを疎水化する工程、
(6)ナトリウムを含む塩基性物質を添加する工程、
(7)温度を30℃以下に冷却し、硫酸ナトリウム10水和物を析出させる工程、
(8)析出した硫酸ナトリウム10水和物を除去する工程、及び、
(9)液中の疎水化シリカゲルを回収して乾燥させる工程
を含んでなる、疎水性シリカエアロゲル粉末の製造方法。
【請求項2】
前記(9)液中の疎水化シリカゲルを回収して乾燥させる工程が、
(9a)疎水性有機溶媒により疎水化シリカゲルを抽出する工程、
(9b)疎水性有機溶媒から疎水化シリカゲルを回収する工程、及び、
(9c)回収した疎水化シリカゲルを乾燥させる工程、
の少なくとも3つの工程を含む、請求項1記載の疎水性シリカエアロゲル粉末の製造方法。
【請求項3】
(1)硫酸とケイ酸ナトリウムとから水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)加熱することにより前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをシリカゲルの分散液へと変換する工程、
(4)有機相と、前記シリカゲルが分散した水相とに分相させた後、該有機相を除去する工程、
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤と硫酸を添加してシリカゲルを疎水化する工程、
(6)ナトリウムを含む塩基性物質を添加する工程、
(7)温度を30℃以下に冷却し、硫酸ナトリウム10水和物を析出させる工程、
(8)析出した硫酸ナトリウム10水和物を除去する工程、及び、
(10)水の一部を除去してペースト状とする工程
を含んでなる、疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法。
【請求項4】
前記(10)水の一部を除去してペースト状とする工程の実施前あるいは実施と同時に、
(11)水の添加と除去によるイオン性物質の低減操作
を行う請求項3記載の疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性シリカエアロゲル、及び疎水性シリカと水とを含むペース状組成物の新規な製造方法に関する。より詳しくは、イオン性不純物の含有量を少なくするための洗浄に用いる水の使用量を従来よりも削減できる製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルは、高い空隙率を有する材料であり、吸油性に優れる。ここで言うエアロゲルとは、多孔質な構造を有し分散媒体として気体を伴う固体材料を意味し、特に空隙率60%以上の固体材料を意味する。なお、空隙率とは、見掛けの体積中に含まれている気体の量を体積百分率で表した値である。エアロゲルは、上記空隙率が高いことに起因して、優れた吸油性を有している。
【0003】
シリカエアロゲルの用途は様々であるが、中でも化粧品材料として有用であり、ファンデーションを例に挙げると、皮膚に塗布した際の、その外観持続性を向上させるための添加剤として用いられている。詳述すれば、シリカエアロゲルの多孔質な構造は、皮脂を良く吸収するため、皮膚が皮脂で濡れて光の正反射率を高まりテカリが生じることが防止できる。しかも、シリカエアロゲルは、疎水化して製造されたものであると、ファンデーション等の化粧品材料の有機成分と親和性が良くなり均一に分散するため、上記テカリ防止の外観持続性効果を一層に高める。
【0004】
例えば、ファンデーションの材料として、粉体の状態で使用される場合、高い吸油量を有するシリカエアロゲルは、テカリの原因となる皮脂を大量に吸収できるため、化粧仕上がり時の外観を長時間にわたって持続させることができる(特許文献3参照)。
【0005】
また、これらシリカエアロゲルは、化粧品に配合した際に、滑らかな触感を得るために、粒径は1~数10μmであり、且つ肌へのローリング性を向上させるために、その形状が球状であることが望ましい。
【0006】
こうした適度な粒径を有する球状シリカエアロゲルの製造方法として、例えば次の方法が提案されている。
【0007】
特許文献1には、水性シリカゾルを調製する工程、該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/Oエマルションを形成させる工程、シリカゾルをゲル化させて、W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程、ゲル化体中の水分を、20℃における表面張力が30mN/m以下である溶媒に置換する工程、ゲル化体を疎水化剤(シリル化剤)により疎水化処理(シリル化処理)する工程、上記置換した溶媒を除去する工程を上記順に有する球状シリカエアロゲルを製造する方法が開示されている。
【0008】
特許文献2には、前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程で得られたゲル化体の分散液を、O相とW相の2層に分離させる工程、W相に塩基性物質を加えて、該W相に分散するゲル化体を熟成する工程、W相に分散するゲル化体をシリル化処理する工程、疎水性有機溶媒でゲル化体を抽出する工程、ゲル化体を回収し、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得る工程を順に有する球状シリカエアロゲルを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2012/057086号公報
【特許文献2】特開2018-177620号公報
【特許文献3】特開2014-88307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1や2の方法では、水性シリカゾルの調製や疎水化に際して用いる原料等に由来して生じる塩類が、得られた球状シリカエアロゲル粉末中に残りやすい。シリカエアロゲルは含有する塩類が多いと、高い吸油量を維持できなくなり、皮脂を大量に吸収できなくなるため、例えば特許文献3では、前記ゲル化体抽出工程において、ゲル化体を疎水性有機溶媒中に抽出した後に、当該有機溶媒相をアルコール水溶液で洗浄しており、経済的ではないという問題があった。さらに洗浄する際に45~70℃に昇温しているため、製造時間が長くなるという問題もあった。
【0011】
また別に、化粧品には水性のものも多いが、上記特許文献に記載のようにして得られた疎水性シリカエアロゲル粉末では、疎水性であるが故に分散させにくいという問題もある。この問題を解決するために、特許文献2などに記載の製造方法において中間体として製造される疎水化されたゲル化体が分散した水性分散液から、そのまま水量を調製して疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物を製造し、これを用いることを本発明者等は既に提案している(特願2021-014785)。即ち、疎水化されたゲル化体が分散したW相における水含有量を、ゲル化体が乾燥してしまわない程度に減少させることによりペースト状とすることができる。ペースト状組成物とすることで、疎水性シリカエアロゲル粉末では困難であった、水あるいは水を主成分とする媒体に分散させることを可能としている。
【0012】
しかしながら、この製造方法では疎水化されたゲル化体を疎水性有機溶媒に抽出して分散液とする工程を経ないため、前記したようなアルコール水溶液(あるいは水)による洗浄を実施することはできない。そのため、ゲル化体が乾燥しないように注意しながら、水の添加と除去を連続的(あるいは断続的)に行うという特許文献2とは異なる洗浄工程を実施することで塩類を除去している。
【0013】
しかしながら、塩分や硫酸塩等を十分に取り除くには、この洗浄工程においてイオン交換水を大量に使用しなければならないという問題があった。また、この洗浄に伴い、大量の廃液を排出してしまい、経済的ではないという問題があった。
【0014】
そこで本発明は、塩類の含有量の十分に少ない疎水性球状シリカエアロゲルの、経済的に優れた製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、これら文献に開示される、水性シリカゾルの調製に始まる製造方法において、使用する酸と塩基性物質の組み合わせを特定のものとすることで、生成する塩を溶解度の低いものとでき、よって、その塩を析出させて除去することが可能となるため、水洗に必要な水の量が削減でき、より経済的に製造できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0016】
即ち、本発明は、
(1)硫酸とケイ酸ナトリウムとから水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)加熱することにより前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをシリカゲルの分散液へと変換する工程、
(4)有機相と、前記シリカゲルが分散した水相とに分相させた後、該有機相を除去する工程、
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤と硫酸を添加して該シリカゲルを疎水化する工程、
(6)ナトリウムを含む塩基性物質を添加する工程、
(7)温度を30℃以下に冷却し、硫酸ナトリウム10水和物を析出させる工程、
(8)析出した硫酸ナトリウム10水和物を除去する工程、及び、
(9)液中の疎水化シリカゲルを回収して乾燥させる工程
を含んでなる、疎水性シリカエアロゲル粉末の製造方法である。
【0017】
また他の発明は、
(1)硫酸とケイ酸ナトリウムとから水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)加熱することにより前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをシリカゲルの分散液へと変換する工程、
(4)有機相と、前記シリカゲルが分散した水相とに分相させた後、該有機相を除去する工程、
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤と硫酸を添加してシリカゲルを疎水化する工程、
(6)ナトリウムを含む塩基性物質を添加する工程、
(7)温度を30℃以下に冷却し、硫酸ナトリウム10水和物を析出させる工程、
(8)析出した硫酸ナトリウム10水和物を除去する工程、及び、
(10)水の一部を除去してペースト状とする工程
を含んでなる、疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法では溶解度の低い硫酸ナトリウム10水和物を生じさせ、かつこれを除去する工程を挟むことにより、水の使用量を抑えることで、従来よりも経済的に優れた方法で疎水性シリカエアロゲルを製造できることを可能とした。また逆に、水の使用量が同等であれば、相対的にイオン性不純物の含有量を少なくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の疎水性シリカエアロゲル粉末の製造方法は以下の工程を含む。即ち、
(1)硫酸とケイ酸ナトリウムとから水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)加熱することにより前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをシリカゲルの分散液へと変換する工程、
(4)有機相と、前記シリカゲルが分散した水相とに分相させた後、該有機相を除去する工程、
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤と硫酸を添加して該シリカゲルを疎水化する工程、
(6)ナトリウムを含む塩基性物質を添加する工程、
(7)温度を30℃以下に冷却し、硫酸ナトリウム10水和物を析出させる工程、
(8)析出した硫酸ナトリウム10水和物を除去する工程、及び、
(9)液中の疎水化シリカゲルを回収して乾燥させる工程
を順に行うことである。
【0020】
上記の製造方法を、順序立てて以下に詳述する。
【0021】
(1)硫酸とケイ酸ナトリウムとから水性シリカゾルを調製する工程
【0022】
本発明の製造方法では、まず、水性シリカゾルを調製する。水性シリカゾルの調整方法は硫酸とケイ酸ナトリウムとを原料とし、他は公知の方法を適宜採用すればよいが、好適には以下の方法で行う。なお、水性シリカゾルの調製に際して他の酸ではなく硫酸を採用するのは、生成する塩類を硫酸ナトリウムに限定するためである。
【0023】
具体的には、硫酸を撹拌しながら、ケイ酸ナトリウムを加えていく。硫酸の量は、ケイ酸ナトリウムのナトリウム分に対する水素イオンのモル比として、1.05~1.2とすることが望ましい。硫酸の量をこの範囲にした場合には調製したシリカゾルのpHは1~5程度となる。より好ましくは、調製したシリカゾルのpHが2.5~3.5となるよう、硫酸の量を調整する。
【0024】
上記の方法により作成したシリカゾルの濃度としては、ゲル化が比較的短時間で完了し、またシリカ粒子の骨格構造の形成を十分なものとして乾燥時の収縮を抑制でき、大きな細孔容量を得られやすい点で、シリカ分の濃度(SiO2換算濃度)として50g/L以上とすることが好ましい。その一方で、シリカ粒子の密度を相対的に小さくして、良好な細孔容積を得、また吸油量を多くできやすい点で、160g/L以下とすることが好ましく、100g/L以下とすることがより好ましい。更に好ましくは90~100g/Lである。
【0025】
硫酸は、濃度が3~12%の水溶液を使用できる。好ましくは、6~10%である。ケイ酸ナトリウムは、1号~3号ケイ酸ソーダとして販売される水性溶液などが使用できる。操作性を向上させ、或いは混合後のpHやシリカ分の濃度を所望の範囲とするために、予め水で希釈するなどしてもよい。
【0026】
水性シリカゾルの濃度を上記下限値以上とすることにより、最終的に得られる疎水性シリカエアロゲル(以下、単に「エアロゲル」と記す場合がある)のBJH法による細孔容積を8mL/g以下とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを50nm以下とすることが容易になる。また、水性シリカゲルの濃度を上記上限値以下とすることにより、エアロゲルのBJH法による細孔容積を2mL/g以上とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを10nm以上とすることが容易になる。
【0027】
(2)水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程
【0028】
本発明の製造方法では、上記のような方法で得られた水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させて、W/Oエマルションを形成させる。このようなW/Oエマルションを形成することにより、シリカゾルは表面張力等により球状になるので、該球状形状で疎水性溶媒中に分散しているシリカゾルをゲル化させることにより、球状のゲル化体を得ることができる。このように、W/Oエマルションを形成するエマルション形成工程を経ることにより、通常は0.8以上の高い円形度を有するエアロゲルを製造することが可能になる。
【0029】
当該疎水性溶媒としては、水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる程度の疎水性を有した溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、炭化水素類やハロゲン化炭化水素類等の有機溶媒を使用することが可能である。より具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロプロパン等が挙げられる。これらの中でも、適度な粘度を有するヘプタンを特に好適に用いることができる。なお必要に応じて、複数の溶媒を混合して用いてもよい。また水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる範囲であれば、低級アルコール類などの親水性溶媒を併用する(混合溶媒として使用する)ことも可能である。
【0030】
使用する疎水性溶媒の量は、エマルションがW/O型となる程度の量であれば特に限定されることはない。ただし、一般的には、水性シリカゾル1体積部に対して疎水性溶媒が1~10体積部程度となる量を使用する。
【0031】
上記のW/Oエマルションを形成する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤のいずれも使用することが可能である。これらの中でも、W/Oエマルションを形成しやすい点で、ノニオン系界面活性剤が好ましい。本発明においては、シリカゾルが水性であるため、界面活性剤の親水性及び疎水性の程度を示す値であるHLB値が3以上6以下の界面活性剤を好適に用いることができる。なお本発明において「HLB値」とは、グリフィン法によるHLB値を意味する。
【0032】
上述したように、本発明においては、W/Oエマルションの液滴の形状によってエアロゲル粒子の形状がほぼ定められる。液滴の形状は用いる界面活性剤によって左右される。前記の通り、エアロゲル粒子の形状は球状であることが好ましく、この観点から好適に用いることのできる界面活性剤の具体的としては、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノセスキオレート等が挙げられる。
【0033】
界面活性剤の使用量は、W/Oエマルションを形成させる際の一般的な量と変わるところがない。具体的には、水性シリカゾル100mlに対して0.05g以上10g以下の範囲を好適に採用することができる。界面活性剤の使用量が多いと、W/Oエマルションの液滴がより微細になり易く、逆に界面活性剤の使用量が少ないと、W/Oエマルションの液滴がより大きくなり易い。したがって界面活性剤の使用量を増減することにより、エアロゲルの平均粒径を調整することが可能である。
【0034】
W/Oエマルションを形成する際に、水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させる方法としては、W/Oエマルションの公知の形成方法を採用することができる。工業的な製造の容易性などの観点からは、機械乳化によるエマルション形成が好ましく、具体的には、ミキサー、ホモジナイザー等を使用する方法を例示できる。好適には、ホモジナイザーを用いることができる。
【0035】
W/Oエマルション中のシリカゾル液滴の平均粒径とエアロゲルの平均粒径とは概ね対応関係にあるから、ここでの液滴径を制御することにより、エアロゲルの平均粒径が制御できる。
【0036】
なお、エマルション中のシリカゾル液滴の粒径を十分小さくすることにより、シリカゾル液滴の形状が乱されにくくなるので、より高い円形度を有する球状のエアロゲルを得ることが一層容易になる(ただし、エアロゲルの平均粒径も小さくなる)。
【0037】
(3)加熱することにより前記シリカゾルをゲル化させて、W/O型エマルションをシリカゲルの分散液へと変換する工程
【0038】
本発明の製造方法では、上述した方法で形成させたW/Oエマルション中のシリカゾルをゲル化させる。酸性領域にあるシリカゾルは加熱により容易にゲル化する。従って、該ゲル化は、上記W/Oエマルションを加熱すればよい。
【0039】
ゲル化温度は、50℃~80℃にすることが好ましく、60℃~70℃にすることがより好ましい。温度が高い方がより早くゲル化が進行しやすいが、高すぎるとゲル化が進行しすぎて、比表面積が低くなる傾向にある。
【0040】
また、ゲル化時間は温度にもよるが、上記温度範囲とした場合には30分~24時間とすることが好ましく、5~12時間とすることがより好ましい。
【0041】
ゲル化することで、W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する。
【0042】
(4)有機相と、前記シリカゲルが分散した水相とに分相させた後、該有機相を除去する工程
【0043】
本発明の製造方法では、上述のようにして調製したゲル化体の分散液をO相とW相とに分離する。分離後、前記工程により得られたゲル化体は、W相側に分散して存在する。
【0044】
当該分離方法としては、エマルションの解乳方法として公知の方法を援用することが可能であるが、具体的には、水溶性有機溶媒の添加、塩の添加、遠心力の付与、酸の添加、容積比の変化(水又は疎水性溶媒の添加)等から選ばれる一つ、あるいは複数を組み合わせて実施することができる。好適には、一定量の水溶性有機溶媒を、必要に応じて水と共にエマルション中に加えてO相とW相に分離することができる。分離工程を経ると、一般に、上層がO相(有機層)、下層がW相(水層)となる。なお、この工程でW相を形成させるには、必ずしも水の添加は必須ではなく、原料として用いた水のうち、該ゲル化体が分散可能な程度の量の水がゲル化体のなかから排出される方法を採用すればよい。この方法としては、具体的には添加する水溶性有機溶媒として、ゲル化体の細孔に侵入し、水を追い出す機能を有する水溶性有機溶媒を選択すれば実施できる。
【0045】
上記の水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールは、後述の疎水化処理の際にも、処理の効率を高める上で効果があるため、好適に用いることができる。
【0046】
上記の水溶性有機溶媒の添加量は、エマルション形成時に用いた界面活性剤の種類および量によって調整することが好ましい。例えば、W/O型エマルションの界面活性剤としてソルビタンモノオレエートを用いた場合には、O相の量に対して質量で0.1~0.4倍程度の水溶性有機溶媒を加え、必要に応じて撹拌後、静置することにより、O相とW相に分離することができる。ただしこの際には、上記水溶性有機溶媒と供に水も、O相の量に対して質量で0.6~0.9倍程度の添加量で加えるのが好ましい。また、該分離操作を行う際の温度は特に限定されないが、通常は、20~70℃程度で行うことができる。
【0047】
本発明の製造方法を実施するにあたっては、引き続いて熟成を行うことが好ましい。該熟成は、O相と相分離されたW相(ゲル化体が分散)に塩基性物質を加えてW相のpHを弱酸性ないし塩基性に調整して実施する。
【0048】
塩基性物質を加えることで、酸性域下にあるW相のpHは上昇して、弱酸性ないし塩基性が呈される状態になるが、具体的には、W相のpHは4.5~10とすることが好ましく、5.5~8.5とすることがより好ましく、6.0~8.0とすることが特に好ましい。
【0049】
本発明において上記塩基性物質としては、ナトリウムを含む塩基性物質を用いる。当該塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基、酢酸ナトリウム等の有機酸のナトリウム塩などを用いることができるが、有機酸が好ましくない不純物となりうる可能性があるため、無機塩基が好ましい。中でも水酸化ナトリウムを用いることがpH調整を容易に行うことができるため、好ましい。
【0050】
また、上記ゲル化体の熟成は、熟成温度を室温~80℃程度で保持することによって行うことができる。熟成時間は、W相のpHと熟成温度によって適宜設定すればよいが、0.5~12時間程度である。
【0051】
本発明の製造方法では、次いでゲル化体の分散した水相から有機相を分離する。これは、さらにこの後に行うゲル化体を疎水化処理する工程に際して、その処理効率を向上させるためである。分離方法は特に限定されないが、2相に分かれているO相とW相とを、例えばデカンテーション等でO相を除去し、W相を回収することで容易に達成できる。
【0052】
ここで、完全にO相を分離除去する必要はないが、当該W相に含まれるゲル化体を疎水化処理する工程において、効率的に疎水化処理を行うためには除去されずに残るO相の割合はなるべく少ない方が良く、W相の量(ゲル化体質量含む)に対して20質量%以下となるようにすることが好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0053】
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤と硫酸を添加して該シリカゲルを疎水化する工程
【0054】
本発明の製造方法においては、上記のようにして得たゲル化体を疎水化剤によって疎水化する。この疎水化に際しては、通常は反応の効率を高めるために酸を添加して液性を再度強酸性とすることが行われるが、本発明の製造方法においては当該酸として硫酸を用いることを必須とする。水性シリカゾル調製時と同じく、ここでも硫酸を使用することで生成する塩類を硫酸ナトリウムに限定することができる。
【0055】
換言すれば、酸として硫酸を用いることを除けば公知の疎水化方法と同様に処理を行えばよいが、より具体的には以下の通りである。
【0056】
用いる硫酸の濃度は5~95%の範囲で使用できる。好ましくは、10~80%で、より好ましくは25%~65%である。添加する硫酸の量(純H2SO4としての量)としては、後述する疎水化剤の種類にもよるが、例えばヘキサメチルジシロキサンを疎水化剤として用いる場合には、シリカ(使用したシリカゾル量から計算されるSiO2量)100質量部に対して300~1000質量部が好適である。より好ましくは350~900質量部であり、更に好ましくは400~800質量部である。また、疎水化剤としてオクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサン類を用いる場合には、硫酸の添加量は、W相のpHが0.3~1.0となるようにすることが、反応の効率を高める上で好ましい。
【0057】
疎水化剤としては、Si-OHと反応して、Si-O-Si結合を生じさせる化合物を用いればよく、当該疎水化剤としては、疎水性シリカエアロゲルの製造において使用される公知の疎水化剤を採用することができる。
【0058】
より具体的に、本発明において使用可能な疎水化剤としては、シラノール基:
M-OH (2)
[式中、Mはゲル化体を形成しているSi原子を表す。式(2)においてはMの残りの原子価は省略されている。以下の式において、すべて同じ。]
【0059】
と反応し、これを
(M-O-)(4-n)SiRn (3)
[式(3)中、nは1~3の整数であり、Rは炭化水素基であり、nが2以上である場合には、複数のRは同一でも相互に異なっていてもよい。]へと変換することが可能なシリル化剤を一例として挙げることができる。
【0060】
このような疎水化剤を用いて疎水化処理を行うことにより、エアロゲル粉体表面のヒドロキシ基が疎水性のシリル基でエンドキャッピングされて不活性化されるので、表面ヒドロキシ基相互間での脱水縮合反応を抑制できる。よって、臨界点未満の条件で乾燥を行っても乾燥収縮を抑制できるので、2mL/g以上のBJH細孔容積を有する疎水性シリカエアロゲル粉末を得ることが可能になる。
【0061】
上記の疎水化剤としては、以下の一般式(4)または(6)で示される化合物が知られている。
【0062】
RnSiX(4-n) (4)
[式(4)中、nは1~3の整数を表し;Rは炭化水素基等の疎水基を表し;Xはヒドロキシ基を有する化合物との反応においてSi原子との結合が開裂して分子から脱離可能な基(脱離基)を表す。nが2以上のとき複数のRは同一でも異なっていてもよい。また、nが2以下のとき複数のXは同一でも異なっていてもよい。]
【0063】
【0064】
[式(6)中、R6及びR7は各々独立に炭化水素基を表し、mは3~6の整数を表す。複数のR6は同一でも異なっていてもよい。また、複数のR7は同一でも異なっていてもよい。]
前記式(4)において、Rは炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~10の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1~4の炭化水素基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0065】
Xで示される脱離基としては、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基等を例示できる。-O-SiR3で示される基(式中、Rは前記式(4)におけるRと同義である)等を例示できる。
【0066】
上記式(4)で示される疎水化剤を具体的に例示すると、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン等が挙げられる。反応性が良好である点で、ヘキサメチルジシロキサンが特に好ましい。
【0067】
脱離基Xの数(4-n)に応じて、エアロゲル粉体骨格上のヒドロキシ基と結合する数は変化する。例えば、nが2であれば:
(M-O-)2SiR2 (7)
という結合が生じることになる。
【0068】
また、nが3であれば:
M-O-SiR3 (8)
という結合が生じることになる。このようにヒドロキシ基がシリル化されることにより、疎水化処理がなされる。
【0069】
前記式(6)において、R6及びR7は各々独立に炭化水素基であり、好ましい基としては、前記式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。mは3~6の整数を示す。この式(6)で示される化合物(環状シロキサン)でゲル化体を処理した場合、ゲル化体中のエアロゲル粉体骨格表面上には、
(M-O-)2SiR6R7 (10)
という結合が生じることになる。このように上記式(6)の環状シロキサン類によっても、ヒドロキシ基がシリル化され、疎水化処理がなされる。
【0070】
上記式(6)で示される環状シロキサン類を具体的に例示すると、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0071】
上記の疎水化処理の際に使用する疎水化剤の量としては、処理剤の種類にもよるが、ヘキサメチルジシロキサンを疎水化剤として用いる場合には、シリカ(使用したシリカゾル量から計算されるSiO2量)100質量部に対して10~150質量部が好適である。より好ましくは20~130質量部であり、更に好ましくは30~120質量部である。
【0072】
上記の疎水化処理の条件は、W相に対して硫酸及び疎水化剤を加え、一定時間反応させることにより行うことができる。例えば、疎水化剤としてヘキサメチルジシロキサンを用い、処理温度を50℃とした場合には、6~12時間程度以上保持することで行うことでき、処理温度を70℃とした場合には3~12時間程度以上保持することで行うことができる。また硫酸と疎水化剤との添加順は特に限定されず、同時に添加しても良いし、どちらか一方を先に全て添加した後に他方を添加してもよい。
【0073】
当該疎水化処理工程においては、W相中への疎水化剤の溶解度を高めて、反応の効率を高める目的で、水溶性有機溶媒を加えることが好ましい。この水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールを好適に用いることができる。添加量は、ゲル化体を含むW相中の濃度で15~80wt%程度にすればよい。
【0074】
(6)ナトリウムを含む塩基性物質を添加する工程、
【0075】
本発明の疎水性シリカエアロゲル粉末を製造するには、ナトリウムを含む塩基性物質を加えて硫酸を中和する。中和を行わずに強酸性のまま乾燥すると、得られる疎水性シリカエアロゲル粉末の物性に悪影響を与えるためである。
【0076】
前記W相に塩基性物質を加えることで、W相のpHが中性から弱酸性に呈される状態になるが、具体的には、W相のpHは1.0~7.5とすることが好ましく、1.5~7.0とすることがより好ましい。
【0077】
本発明の製造方法では、上記塩基性物質としてナトリウムを含む塩基性物質を用いる。本発明の製造方法においては上述の通り酸として硫酸を用いるため、ナトリウムを含む塩基性物質を用いることで、中和により生じる酸が硫酸ナトリウムとなる。これは、後述するように溶解度の低い硫酸ナトリウム10水和物として析出しやすいため、析出物を除去することで系内のイオン性物質の量を容易に低減できる。
【0078】
当該塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基、酢酸ナトリウム等の有機酸のナトリウム塩などを用いることができるが、有機酸が好ましくない不純物となりうる可能性があるため、無機塩基が好ましい。中でも水酸化ナトリウムを用いることがpH調製を容易に行うことができるため、特に好ましい。
【0079】
また、この工程は、35℃~80℃程度で保持することによって行うことができる。この工程では発熱反応である酸塩基中和反応が生じているため、特に加熱しなくてもこの温度範囲とすることができる。塩基性物質を加えるのに要する時間は、W相の温度によって適宜設定すればよいが、0.5時間~1時間程度である。
【0080】
(7)温度を30℃以下に冷却し、硫酸ナトリウム10水和物を析出させる工程
【0081】
上述した方法では酸として硫酸、塩基としてナトリウムを含む物質を用いているため、上記工程を経て得られているW相中には、液中に硫酸イオンとナトリウムイオンのかたちで硫酸ナトリウムが存在している。硫酸ナトリウムは転移温度である32.4℃を境に急激に水への溶解度を減じ、硫酸ナトリウム10水和物として析出してくる。
【0082】
本発明の製造方法では、この硫酸ナトリウム10水和物の低温での溶解度の低さを利用し、液温を下げることで析出させる。他の硫酸塩やナトリウム塩では低温でも溶解度がかなり高く、析出させることが困難である。
【0083】
本発明の製造方法においては、上記原理に基づき、硫酸ナトリウム10水和物を析出させるために、W相の温度を30℃以下にする。32.4℃以下の温度域では液温の低下に伴い、急激に溶解度も低下するためW相の温度はより低い方が好ましいが、一方で、室温よりも温度を下げるためには強制的な冷却が必要になりコストが高くなっていく傾向にある。これらを考慮すると、W相の温度は25℃以下まで下げることがより好ましく、23℃以下が特に好ましく、下限は5℃以上でよく、10℃以上でもよい。
【0084】
30℃以下に保持している時間は、W相の温度によって適宜設定すればよいが、24時間~48時間程度である。なお30℃以下としていれば常に一定の温度としておく必要はなく、例えば、室温あるいは外気温に合わせて上下するような環境であってもよい。また冷却の方法も強制冷却とする必要はなく、自然放冷で構わない。
【0085】
(8)析出した硫酸ナトリウム10水和物を除去する工程
【0086】
本発明の製造方法では、次いで上記のようにして析出させた硫酸ナトリウム10水和物を除去する。
【0087】
硫酸ナトリウム10水和物を除去する方法としては、例えば、篩を通すことで行うことができる。篩の目開きは生成しているゲル化体が通過し、析出した硫酸ナトリウム10水和物を取り除ける大きさに適宜設定すればよいが、0.5mm~3mm程度が好ましい。
【0088】
(9)液中の疎水化シリカゲルを回収して乾燥させる工程
【0089】
上記のようにして析出した硫酸ナトリウム10水和物を除去したW相は、その除去した分だけイオン性物質の濃度が低下しているため、次いでゲル化体を液中から回収、乾燥させて疎水性シリカエアロゲル粉末を得れば、該粉末は、硫酸ナトリウム10水和物の除去を行わなかった場合に比較して(他の工程が全て同じであれば)イオン性不純物の含有量が少ないものとなっている。
【0090】
当該回収、乾燥の方法は公知の方法を適宜選択して実施すればよいが、乾燥時の収縮を抑制しやすい点で、以下の方法で行うことが好ましい。即ち、疎水化されているゲル化体を疎水性有機溶媒でいったん抽出し、ろ過等により用いた疎水性有機溶媒と分離後、加熱して残存する有機溶媒を揮発させて除去する方法である。以下、この方法についてより詳しく説明する。
【0091】
まず、析出した硫酸ナトリウム10水和物を除去したW相に疎水性有機溶媒を加える。前記疎水化剤により疎水化されているゲル化体は疎水性有機溶媒への親和性が高くなっているため、疎水性有機溶媒を加えて撹拌等を行うことにより、該疎水性有機溶媒側へ移動する。ゲル化体抽出に用いる疎水性有機溶媒の選定基準としては、後の乾燥の際、乾燥収縮を起こさないために表面張力が小さいことが挙げられる。具体的にはヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエン等を用いることができ、好適にはヘキサン、ヘプタン、デカン、トルエンを用いることが出来る。使用する疎水性有機溶媒の量は、W相の体積に対して0.5倍~10倍を目処に適宜設定すればよい。
【0092】
本発明の製造方法においては、前述の通り析出した硫酸ナトリウム10水和物を除去する工程を実施しているため、上記のようにして得たゲル化体の分散液をそのまま乾燥させてもイオン性不純物の含有量が少ない疎水化シリカエアロゲル粉末を得ることができるが、イオン性不純物の含有量をより低減するために、この分散液を特許文献2などに記載の方法に従いアルコール水溶液あるいは水で洗浄(水洗)を行っても良い。
【0093】
硫酸ナトリウム10水和物除去工程を実施することにより、水洗に用いる洗浄液の量が同じであれば、イオン性不純物の量をいっそう少なくできるし、或いはイオン性不純物の量を同等にするのであれば洗浄液の量(即ち、廃液量)を少なくできる。
【0094】
上記のようにして、抽出したゲル化体が疎水性有機溶媒に分散した分散液が得られるから、これからゲル化体を回収し乾燥すれば、疎水化シリカエアロゲル粉末を得ることができる。回収は、いわゆる固液分離の方法として公知の方法を適宜選択して実施すればよい。簡便かつ低コストな方法としては、疎水性有機溶媒に分散しているゲル化体が通過しない目開き(開口径)のフィルターなどを用いて濾別、回収すればよい。
【0095】
ついで、濾別して得られたゲル化体から疎水性有機溶媒を除去(すなわち乾燥)する。乾燥は用いた疎水性有機溶媒に応じた公知の方法で行えば良く、例えば乾燥する際の温度は、溶媒の沸点以上で、用いた疎水化剤により導入されている有機基の分解温度以下であることが好ましく、圧力は常圧ないし減圧下で行うことが好ましい。
【0096】
上記説明から明らかなように、本発明における最大の特徴は、硫酸ナトリウム10水和物を析出させて除去する点にある。このため、酸としては硫酸を用い、塩基としてはナトリウムを含む塩基性物質を用いる。従って、硫酸ナトリウム10水和物を析出させることが可能な範囲で、他の酸や塩基を併用することも可能である。但しこの場合、特に酸として硫酸以外の酸を用いた場合には、用途によっては当該酸や酸根が不純物として問題になる可能性があることは留意すべきである。
【0097】
このような本発明の製造方法により、疎水性シリカエアロゲル粉末を製造することができる。得られた疎水性シリカエアロゲルは、通常、以下の様な物性を有する。
【0098】
シリカエアロゲル粉末であるとは、質量基準で50%以上がシリカから構成されていることをいう。好ましくは同60%以上、より好ましくは同75%以上である。シリカ以外の成分としては、疎水化処理剤に由来する成分が含まれる。
【0099】
本発明の製造方法で製造されるシリカエアロゲルは疎水性である。疎水性であることにより、経時劣化の原因となる水分の吸着が少なく、疎水性の樹脂との馴染みが向上するため疎水性の樹脂に分散させる場合に極めて有用である。また、エアロゲルが疎水性であることは、このものを超臨界乾燥および溶媒置換を伴わずに製造できるという観点からも、意義を有する。ここで、シリカエアロゲルが疎水性であるか否かは、当該粉末を純水と一緒に容器に入れ攪拌等を行うことにより極めて容易に確認できる。疎水性であれば、その粉末は水に分散することなく、かつ、静置すれば水を下層、粉末を上層とする2層に分かれた状態を取り戻す。
【0100】
また、疎水性、及びその程度についてはM値で評価することも可能である。なお、M値は、実施例に記載した測定方法にしたがって測定した値である。
【0101】
本発明で製造される疎水性シリカエアロゲル粉末のM値は30~55であることが好ましく、35~55であることがより好ましく、40~55であることが特に好ましい。
【0102】
また、疎水性シリカエアロゲル粉末が疎水性であることを示す指標の一つとして、炭素含有量を挙げることができる。ペースト状組成物に含まれる球状シリカ中の炭素含有量は、表面処理剤に由来するものであって、1000~1500℃程度の温度において、空気中、若しくは酸素中で酸化処理した際に発生する二酸化炭素の量を定量することにより、測定することができる。
【0103】
本発明の製造方法で製造される疎水性シリカエアロゲル粉末は、上記炭素含有量が5~12質量%であることが好ましく、6~10質量%であることがより好ましい。炭素含有量が多いほど、ペースト状組成物をファンデーション用の添加剤として用いた場合に、汗による化粧崩れを防止することができるため好ましい。
【0104】
本発明の製造方法で製造される疎水性シリカエアロゲル粉末はW/Oエマルション形成時の液滴形状に由来して球状であるため、これを化粧品に用いた場合、肌へのローリング性に優れる。当該用途を考慮すると、シリカ粒子の平均円形度は0.8以上であればよく、0.85以上であることが好ましい。
【0105】
なお上記「平均円形度」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察したSEM像を得、画像解析により個々の粒子について下記式(1)によって定義される値C(円形度)を求め、この円形度Cを2000個以上の粒子について相加平均値として出した値である。なお、この際、一個の凝集粒子を形成している粒子群は1粒子として計数する。
【0106】
C=4πS/L2 (1)
[式(1)において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
該平均円形度が1に近くなるほど、粒子は真球に近い形状となる。
【0107】
本発明の製造方法で製造される疎水性シリカエアロゲル粉末は、コールターカウンター法により測定される体積累積50%径(D50)が1~30μmの範囲にあることが好ましく、当該体積累積50%径(D50)は、1~20μmの範囲にあることがより好ましく、1~10μmの範囲にあることが更に好ましい。
【0108】
さらに、当該疎水性シリカエアロゲル粉末は、同法により測定される粒子径が1~30μmの粒子を、個数基準で50%以上、さらには60%以上含むことが好ましい。該1~30μmの粒径範囲の粒子は、疎水性シリカエアロゲル粉末を化粧品に配合した際に、滑らかな触感を得るために適切な粒径になる。
【0109】
窒素吸着法によるBET法による比表面積は、400~1000m2/gであることが好ましい。疎水性シリカエアロゲル粉末の比表面積が大きいほど、独立粒子の多孔質構造(網目構造)を構成する一次粒子の粒径が小さいことを示し、化粧品の添加剤として用いた際に増粘効果が高まる。増粘効果が高いと皮膚または頭髪等に塗布した際、液垂れを防止することが可能である。したがって、上記比表面積は500m2/g以上であることが好ましく、550m2/g以上であることがより好ましい。
【0110】
一方、比表面積は、大きくなりすぎると細孔容積が小さくなり、吸油量が小さくなることから、比表面積は850m2/g以下であることが好ましく、700m2/g以下であることがより好ましい。なお通常、比表面積が1000m2/gを超えて大きいシリカを得ることは困難である。
【0111】
当該BET法による比表面積は、測定対象のサンプル粉末を、1kPa以下の真空下において、150℃の温度で2時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を取得し、BET法により解析して求めた値であり、解析時の分圧(P/P0)の範囲は0.1~0.25である。
【0112】
BJH法による細孔容積は通常は2~8ml/gである。細孔容量が大きい程、優れた吸油性能が得られるため好ましい。下限値は、より好ましくは2.5ml/g以上、特に好ましくは4ml/g以上である。また上限は6ml/g以下であることがより好ましい。細孔容積が2ml/g以下である場合には、優れた吸油性能を得ることはできない。また、8ml/gを超えて大きなものを得ることは、通常、困難である。
【0113】
本発明において、BJH法による、疎水性シリカエアロゲル粉末の細孔容積は、前記BET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法(Barrett, E. P.; Joyner, L. G.; Halenda, P. P., J. Am. Chem. Soc. 73, 373 (1951)により、解析して得られたものである(以下において、「BJH細孔容積」ということがある)。本方法により測定される細孔は、半径1~100nmの細孔であり、この範囲の細孔の容積の積算値が本発明における細孔容積となる。
【0114】
本発明の製造方法で製造される疎水性シリカエアロゲル粉末のBJH法による細孔半径のピークは、通常は通常10~50nmの範囲にある。なお、該細孔半径のピークも、前記BET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法により解析して得られたものである。該細孔半径のピークは、細孔半径の対数による累積細孔容積(体積分布曲線)が最大のピーク値をとる細孔半径の値である。
【0115】
シリカエアロゲルは、通常は高い吸油量を有することが特徴であり、本発明の製造方法で製造される疎水性シリカエアロゲル粉末も、吸油量が400ml/100g以上であることが好ましく、550ml/100g以上であることがより好ましく、650ml/100g以上であることが特に好ましい。吸油量は大きいほど、化粧品用途に用いた際のテカリ防止効果が得られるため、好ましい。吸油量の上限は特に限定されるものではないが、最大で750mL/100g程度である。
【0116】
なお、当該吸油量の測定は、JIS K6217-4「オイル吸収量の求め方」記載の方法により行うものとする。
【0117】
疎水性シリカエアロゲル粉末に含まれる塩化物イオンの含有量は、イオンクロマトグラフィーによって、定量できる。塩化物イオンの含有量は、1ppm以下であることが好ましく、0.5ppm以下であることがより好ましい。
【0118】
上述のように、硫酸ナトリウム10水和物を析出させ除去する工程を有する本発明の製造方法によれば種々の物性に優れた疎水性シリカアエロゲル粉末を得ることができるが、前述したように、この製造方法における中間体であるゲル化体が分散したW相からは、疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物を製造することもできる。即ち、疎水化されたゲル化体が分散したW相(水性分散液)における水含有量を、ゲル化体が乾燥してしまわない程度に減少させることによりペースト状とすることができる。そしてW相として硫酸ナトリウム10水和物を析出させ除去する前記工程を経たものを採用すれば、得られるペースト状組成物に含まれるイオン性不純物を少なくすることが容易となる。以下、このペースト状組成物の製造方法について詳述する。
【0119】
(10)水の一部を除去してペースト状とする工程
【0120】
前述した(8)析出した硫酸ナトリウム10水和物を除去する工程を経たW相は、ゲル化体が水に分散したスラリー状(自己流動性あり)のものであるから、当該スラリーに含まれる水の一部を除去することで、ペースト状組成物(自己流動性が実質なし)とすることができる。
【0121】
水の一部を除去する方法は、疎水性有機溶媒に分散しているゲル化体を回収したのと同様に、ゲル化体が通過しない目開き(開口径)のフィルターにかけることで実施できる。前記方法で製造したゲル化体の分散液(W相)はろ過性が悪く、フィルターにかけたとしてもキレイに固液分離され、ゲル化体が湿った粉末のような状態で回収されることはなく、フィルター上に粘着したペースト(ゲル化体+水)として回収される。ペースト状を呈した後も、フィルター上でろ過し続ければ徐々にではあるが水分量は減っていくから、所望の水分量となった時点で回収すればよいし、水分量が不足する場合は、新たに水を加えて調整することもできる。
【0122】
疎水性シリカエアロゲル粉末の製造において述べたのと同様、本発明の製造方法においては硫酸ナトリウム10水和物の除去工程を実施しているため、上記ペースト状組成物においても相対的にイオン性不純物の含有量は少なくなっているが、その量をより低減させて吸油量等の物性をさらに良好なものとするために、この段階で水洗を行うことが好ましい。
【0123】
即ち、前述した硫酸ナトリウム10水和物を除去する工程を経て篩を通過させたW相には、通常は、篩で除去しきれなかった硫酸ナトリウム10水和物の微結晶及び溶解している硫酸ナトリウム(以下では、結晶化しているか、解離してイオンとして存在しているかによらず「硫酸ナトリウム」とする)が含まれる。
【0124】
そこで、この硫酸ナトリウムを除去するために、水で洗浄を行うことが好ましい。水での洗浄方法としては、例えば、濾過機にゲル化体を含むW相を投入し、そこに水を流す、即ち、水の添加と除去を同時に行うことで洗浄を行うことができる。この際、加圧または吸引することで、投入する水と排出する水のバランスを調整することが可能となる。また、ゲル化体に残存している水溶性有機溶媒の沸点を超えない範囲で、高温にすることが洗浄効率を高める上では好ましい。通常は、20~60℃の範囲で行うことができる。なおこの洗浄で、各工程で用いた有機溶媒やシリル化剤の反応残渣等も除去される。また水の添加と除去は交互に行っても良い。
【0125】
用いる水は、イオン交換水、純水などのイオン性不純物の含有量の少ないものを用いることが好ましい。
【0126】
水での洗浄を終える目安は、排出される水の電気伝導率を測定することで確認することができる。排出される水の電気伝導率は、100μS/cm以下にすることが好ましく、70μS/cmにすることがより好ましく、40μS/cmにすることがさらに好ましい。排出される水の電気伝導率を100μS/cmにすることで、最終的に得られる疎水性シリカエアロゲル粉末が高吸油量を有している状態となる。
【0127】
排出される水の電気伝導率が所定の値を下回った後、前記のようにして水分量を調整すればペースト状組成物を得ることができる。
【0128】
なお上記スラリー/ペーストでの水洗によるイオン性不純物の低減操作は、前記した疎水化シリカエアロゲル粉末の製造方法にも適用しうる(工程(8)と工程(9)の間で実施可能)。この場合には、ゲル化体を疎水性有機溶媒に抽出した後の洗浄に換えて行っても良いし、併用してもよい。
【0129】
上記方法で製造されるペースト状組成物における組成比は特に限定されないが、ペーストとしての扱いやすさを考慮すると、疎水性シリカ100質量部に対して、水を300~1900質量部の範囲で含んでいることが好ましい。
【0130】
上記のようにして製造したペースト状組成物は、疎水性シリカと水により構成されている。ここでいうシリカとは二酸化ケイ素のことであって、二酸化ケイ素で構成されている物質の総称を指し、化学組成はSiO2で表される。
【0131】
当該疎水性シリカは、製造方法に由来して多孔質であり、残存物中の水分量が1質量%以下となるまで温度が60℃以上150℃以下で、かつゲージ圧力が-100kPaG以上-20kPaG以下である雰囲気下におき、水分を揮発させれば、細孔容積と吸油量が少なく、細孔半径のピークが小さい以外な点は、前記方法で製造した疎水性シリカエアロゲル粉末と同等の物性を有するものとなる。
【0132】
細孔容積と吸油量及び細孔半径のピークが異なるのは、疎水性シリカエアロゲル粉末の製造においては、分散媒をいったん表面張力の低い疎水性有機溶媒に置換してから乾燥するのに対し、上記方法では水から直接乾燥をかけるため乾燥収縮を生じるためである。換言すれば、上記方法に換え、前記疎水性シリカエアロゲルの製造方法と同様の手順に従って疎水性有機溶媒に置き換えてから乾燥を行えば、前記疎水性シリカゲル粉末と同じ物性を示す。
【0133】
(物性、及び用途)
本発明で製造される疎水性シリカエアロゲル粉末は、化粧品用添加剤として適度な粒度分布及び比表面積となるように製造条件を選択すれば、同用途、具体的にはファンデーションや液体化粧品の添加剤として利用した際に、外観保持性に優れ、滑らかな触感が得られる。加えて、疎水性シリカエアロゲル粉末として、吸油量が高く、皮膚及び頭皮表面の脂分を効率良く吸収し、また、疎水性を呈し汗をはじく効果もあることから、上記ファンデーションや液体化粧品以外の、ペースト、クリームタイプのメイクアップ・スキンケア化粧料、さらにはデオドラント用品、整髪料などの化粧品としても好適に用いることができる。
【0134】
また本発明で製造されるペースト状組成物は、水と混合した場合、含まれるシリカが疎水性であるにも係わらず、容易に水に分散する。さらに、化粧品用添加剤として適度な粒度分布及び比表面積となるように製造条件を選択すれば、同用途、具体的には液体化粧品の添加剤として利用した際に、外観保持性に優れ、滑らかな触感が得られる。加えて、疎水性シリカが多孔質シリカである場合、吸油量が高く、皮膚及び頭皮表面の脂分を効率良く吸収し、また、疎水性を呈し汗をはじく効果もあることから、上記液体化粧品以外の、ペースト、クリームタイプのメイクアップ・スキンケア化粧料、さらにはデオドラント用品、整髪料などの化粧品としても好適に用いることができる。
【0135】
無論、疎水性シリカエアロゲル粉末及びペースト状組成物は前記適度な粒子性状を備えていることから、断熱性付与剤、艶消し剤等の各種用途材料にも好適に用いることができる。
【0136】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。なお、実施例及び比較例の評価は以下の方法で実施した。
【0137】
<評価方法>
実施例1、2及び比較例1~6で製造した疎水性シリカエアロゲル粉末とペースト状組成物に対して、以下の項目について試験を行った。
【0138】
なお「ペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカ」とは、ペースト状組成物の水分量が1質量%以下となるまで、真空乾燥機で150℃、-100kPaG(ゲージ圧)条件下で16時間乾燥し、水を除去した後に残るシリカについてのものである。
【0139】
(電気伝導率)
株式会社堀場製作所製のCOND METER ES-51を用いて、電気伝導率を測定した。
【0140】
硫酸ナトリウムを取り除くための洗浄で排出される水の電気伝導率は、直接測定した。
【0141】
乾燥して得られる疎水性シリカエアロゲル粉末あるいはペースト状組成物に含まれる疎水性シリカの電気伝導率は、50mlスクリュー管瓶に疎水性シリカエアロゲル粉末またはペースト状組成物に含まれる疎水性シリカを1g、イソプロピルアルコールを7g、イオン交換水を30g加えた後、超音波で30分分散させた混合液について測定した。
【0142】
(水分量)
水分量の測定は、オーハウス社製のハロゲン水分計(MB25)を使用し、以下の方法で測定した。
【0143】
専用のアルミ皿に疎水性シリカエアロゲル粉末、あるいはペースト状組成物3.0gを載せて、水分計にセットし、分析した。測定条件は、160℃、30分間とした。
【0144】
(塩化物イオン含有量)
200mlビーカーに疎水性シリカエアロゲル粉末1g、あるいは疎水性シリカを含むペースト状組成物6.7g、超純水100mlを加え、撹拌子で15分間撹拌する。この分散液を0.45μmシリンジフィルターでろ過後、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製のイオンクロマトグラフィー(ICS-2100)で塩化物イオン含有量の測定を行った。結果は、シリカ質量に対する塩化物イオン含有量として記載した。
【0145】
(D50)
製造した疎水性シリカエアロゲル粉末、あるいは疎水性シリカを含むペースト状組成物をエタノールに添加し、30分超音波分散を行った。得られたエタノール分散液は、ベックマン・コールター株式会社製精密粒度分布測定装置Multisizer3を用い、100μmのアパチャーチューブを使用して、D50を測定した。
【0146】
(比表面積、細孔容積及び吸油量)
疎水性シリカエアロゲル粉末あるいはペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカのBET比表面積、及びBJH細孔容積の測定は、前述の定義に従ってマイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-maxにより行った。吸油量の測定は、JIS K6217-4「オイル吸収量の求め方」により行った。
【0147】
(M値)
疎水性シリカ粉末は水には浮遊するが、メタノールには完全に懸濁する。このことを利用し、以下の方法によって測定した修飾疎水度をM値として、疎水化の程度の指標とした。
【0148】
疎水性シリカエアロゲル粉末、あるいはペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカ0.2gを容量200mLのビーカー中の50mlの水に加え、マグネティックスターラーで攪拌した。これに、ビュレットを使用してメタノールを加え、疎水性シリカエアロゲル粉末、あるいはペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカの全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した時点を終点として、滴下した。この際、メタノールが直接試料に触れないように、チューブで溶液内に導いた。終点におけるメタノール-水混合溶媒中のメタノールの容量%を疎水度(M値)とした。
【0149】
M値 = メタノール滴下量 / (メタノール滴下量+50ml)
【0150】
(平均円形度)
疎水性シリカエアロゲル粉末あるいはペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカについて日立ハイテクノロジーズ製SEM(S-5500)を用いて、加速電圧3.0kV、二次電子検出、倍率1000倍で観察した。得られたSEM画像を画像解析することにより、下記式により疎水性シリカエアロゲル粉末あるいはペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカの円形度を算出した。なお、平均円形度は、2000個以上の疎水性シリカエアロゲル粉末あるいはペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカについて円形度を算出し、平均したものである。
【0151】
C=4πS/L2
[上記式において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
【0152】
(炭素含有量)
疎水性シリカエアロゲル粉末あるいはペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカについて、エレメンター・ジャパン株式会社製の元素分析装置(vario MICRO cube)を用い、炭素含有量を測定した。
【0153】
<実施例1>
9%硫酸0.8kgを撹拌羽で撹拌しながら、ケイ酸ナトリウム1kgを徐々に添加し、水性シリカゾルを調整した。このとき、pHは2.9であった。
【0154】
上記調整した水性シリカゾル1.8kgに、1.7kgのヘプタンを加え、ソルビタンモノオレエートを0.02kg添加した。この溶液をホモジナイザーを用いて、4600回転/分の条件で2.5分撹拌することで、W/Oエマルションを形成させた。
【0155】
得られたW/Oエマルションを撹拌羽で撹拌しながら、70℃、1時間かけてゲル化した。続けて、イソプロピルアルコール1kgとイオン交換水0.7kgを加えて、攪拌羽で攪拌しながら上層(O相)と下層(W相)とに分離させた。続けて、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を0.09kg添加した。このとき、W相のpHは6.8であった。60℃、1時間かけて、ゲル化体の熟成を行った。デカンテーションにより、O相を除去することで、W相を回収した。
【0156】
得られたW相に30%硫酸を1.1kg、ヘキサメチルジシロキサンを0.1kg添加し、撹拌しながら70℃のウォーターバスで8時間保持することにより、シリル化処理を行った。
【0157】
シリル化処理後、攪拌羽で攪拌しながら24%水酸化ナトリウム水溶液を1kg添加し、中和処理を行った。このときのpHは2.3であった。
【0158】
中和処理後、23℃に冷却し、30時間静置した。
【0159】
静置後、全液を1mmの篩に通して、析出した硫酸ナトリウム10水和物を取り除いた。
【0160】
加圧濾過機に移液した後、イオン交換水を流し、フィルターを通過した液の電気伝導率が100μS/cm以下になるまで洗浄を行った。洗浄に使用したイオン交換水は、15kgであった。
【0161】
上記スラリーを容器に移し、ヘプタン1.2kgを加え、ゲル化体を抽出した。水層を除去後、吸引濾過機で濾別しゲル化体を回収した。さらにゲル化体を真空圧力下、150℃で12時間以上加熱すること乾燥し、疎水性シリカエアロゲル粉体を得た。評価した各物性を表1に示す。
【0162】
<比較例1>
中和処理後、冷却して硫酸ナトリウム10水和物を析出させて取り除く工程を行わなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。なお、洗浄工程において、使用したイオン交換水は、51kgであった。評価した各物性を表1に示す。
【0163】
【0164】
<実施例2>
加圧濾過機に移液後、イオン交換水にて洗浄を行ったところまでは、実施例1と同様の操作を行った。なお、洗浄に使用したイオン交換水は14kgであった。
【0165】
洗浄後、ダイヤフラムポンプで吸引し、水分の一部を除去することで、疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物を得た。
【0166】
ペースト状組成物における水分含有量は84質量%であり、また水分量が1質量%以下となるまで、真空乾燥機で150℃、-100kPaG(ゲージ圧)条件下で16時間乾燥し、水を除去した後に残るシリカを分析した結果を表2に示す。
【0167】
<比較例2~6>
中和処理後、冷却して硫酸ナトリウム10水和物を析出させて取り除く工程を行わなかった以外は、実施例2と同様の操作を行った。洗浄のため加圧濾過機に通水したイオン交換水の量が表2に示す時点における洗浄水の電気伝導率を測定し、比較例2~5とした。洗浄水の電気伝導率が実施例2と同様となった時点の比較例6ではペースト状組成物を得、これを実施例2と同様に評価した。
【0168】