(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187571
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法
(51)【国際特許分類】
C10G 1/10 20060101AFI20221213BHJP
C10G 11/05 20060101ALI20221213BHJP
B01J 29/40 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C10G1/10
C10G11/05
B01J29/40 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095621
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小栗 元宏
(72)【発明者】
【氏名】花谷 誠
(72)【発明者】
【氏名】幸田 真吾
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA02B
4G169BA07A
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4G169BA43A
4G169BC01A
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4H129NA21
4H129NA24
4H129NA26
4H129NA27
4H129NA43
(57)【要約】
【課題】 多種多様な成分を含むことから従来は原材料として用いることが困難であった炭化水素系プラスチックであっても、石油化学製品として有用な低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素を同時に製造する方法を提供する。
【解決手段】 炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物より低級炭化水素及び芳香族炭化水素を製造する際に、少なくとも、炭化水素系プラスチックを加熱溶融する(1)工程、加熱溶融炭化水素系プラスチックを固体酸量が200μmol/g以下であるゼオライトの存在下で加熱分解し、加熱分解生成物とする(2)工程、加熱分解生成物を特定の特性を満足するゼオライトを含む触媒に加熱条件下で接触し、低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素を同時に製造する(3)工程を経る低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物より低級炭化水素及び芳香族炭化水素を製造する際に、少なくとも下記(1)~(3)工程を経ることを特徴とする低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
(1)工程;炭化水素系プラスチックを加熱溶融する工程。
(2)工程;加熱溶融炭化水素系プラスチックをアンモニア昇温脱離スペクトルにおける高温脱離量から求められる酸量(NH3-TPD法による固体酸量)が200μmol/g以下であるゼオライトの存在下で加熱分解し、加熱分解生成物とする工程。
(3)工程;加熱分解生成物を下記(i)~(iv)の特性を満足するゼオライトを含む触媒に加熱条件下で接触し、低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素を同時に製造する工程。
(i)平均粒子径が100nm以下。
(ii)MFI型又はMEL型である10員環細孔ゼオライト。
(iii)外表面のブレンステッド酸量が0.1~10.0μmol/g。
(iv)全ブレンステッド酸量が0.01~1.0mmol/g。
【請求項2】
(2)工程におけるゼオライトが、プロトン型のアルミノシリケートであることを特徴とする請求項1に記載の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
【請求項3】
(2)工程におけるゼオライトが、プロトン型のアルミノシリケートであり、周期律表第IA族およびIIA族に属する金属から選択される少なくとも1種以上の金属を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
【請求項4】
(2)工程におけるゼオライトが、プロトン型のアルミノシリケートであり、その表面OH基の一部又は全部をシリル化処理したゼオライトであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
【請求項5】
(2)工程が、少なくとも下記(イ)及び(ロ)工程を経るものであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
(イ)工程;加熱溶融炭化水素系プラスチックを無酸素かつ無触媒で加熱分解を行う第1分解工程。
(ロ)工程;(イ)工程の後、ゼオライトと接触・加熱分解し、加熱分解生成物とする第2分解工程。
【請求項6】
前記(イ)工程と(ロ)工程との間に加熱分解物を蒸留により高沸点成分と低沸点成分に分離する工程を有し、(ロ)工程が、高沸点成分とゼオライトとを接触・加熱分解するものであり、更に(ニ)工程として、(イ)工程の低沸点成分と(ロ)工程の分解物を混合し、加熱分解生成物とする工程を経るものであることを特徴とする請求項5に記載の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
【請求項7】
(3)工程におけるゼオライトが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、銀、亜鉛から選択される少なくとも1種以上の金属を含有し、その含有率が0.05~5.0wt%のゼオライトであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
【請求項8】
炭化水素系プラスチックが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、ポリスチレンから選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
【請求項9】
炭化水素系プラスチックが使用済みの廃プラスチックおよび/又は炭化水素系プラスチックの製造・加工時におけるロス品であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
【請求項10】
低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の合計選択率が60%以上であることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
【請求項11】
低級脂肪族炭化水素が、炭素数2~8のオレフィン及び炭素数2~8のパラフィンに属するいずれか1種以上であり、芳香族炭化水素が炭素数6~8の芳香族炭化水素に属するいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系プラスチックより低級炭化水素及び芳香族炭化水素を製造する方法に関するものであり、詳細には炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物の主要成分である炭素数(以下、Cと記す場合がある)1~30のパラフィン、オレフィン、ジオレフィン等からなる脂肪族炭化水素を特定の2種類のゼオライト触媒を用いた特定の工程を経ることにより、石油化学製品として有用な炭素数2~8のオレフィン、パラフィン、芳香族炭化水素に高効率でバランスよく安定的に転換することを可能とする低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題や海洋プラスチック問題がクローズドアップされ、廃プラスチックを化学的に分解して石油化学製品の原料として再利用するケミカルリサイクルが注目されている。なかでも加熱分解による油化技術は、廃プラスチックの半分を占める熱可塑性のポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)を炭化水素油に転換し、この炭化水素油をナフサクラッカー等の原料に用いれば、実質的にプラスチックの循環を可能とする重要な技術である。
【0003】
廃プラスチックの加熱分解による油化技術は古くから知られており、無酸素かつ無触媒条件下で加熱分解した場合、炭素数分布がC1~C30と広い分布範囲の生成物、即ち炭化水素油が得られる。このうち、C5~C10の軽質油はナフサクラッカーの原料油として利用可能であるが、C11以上の灯油、軽油、重油、ワックスは燃料として利用され、製品の付加価値として高いものではなかった。
【0004】
製品の付加価値を高める方法として、ポリオレフィン系(廃)プラスチックを加熱分解し、加熱分解により発生した生成物をゼオライト等の触媒層に接触して炭化水素油を回収する方法(例えば特許文献1、非特許文献1参照。)が提案されている。
【0005】
また、廃プラスチックを加熱分解により気化させて得られた加熱分解生成物をホウ素含有珪酸塩触媒に接触させて、炭化水素油を回収する廃プラスチックの処理法(例えば特許文献2参照。)が提案され、さらに、ガリウム含有珪酸塩触媒を用いた廃プラスチックの処理法(例えば特許文献3参照。)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-178195号公報
【特許文献2】特許第4341162号
【特許文献3】特許第4103198号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】高分子、第45巻、311頁(1996年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に提案の方法においては、ZSM-5触媒を用いることで炭化水素油の炭素数分布がC5~C38からC5~C21に低分子量化するが、依然、C11以上の付加価値の低い灯油、軽油、重油の留分が多いという課題があった。非特許文献1に提案の方法においては、ZSM-5の他、HY、REY、Ni/ReY触媒を用いて加熱分解しており、特にREY触媒を用いたときにC5~C11のガソリン留分の選択性が高くなるが、これらY型ゼオライトは熱安定性に乏しく、またC9以上の付加価値の低い留分が未だ多く、工業触媒としては十分なものではなかった。
【0009】
特許文献2に提案の方法においては、ホウ素含有珪酸塩触媒を用いることで、炭化水素油の低分子量化が著しく進行し、特にC3とC4のオレフィン、パラフィンの合計選択率が上昇したものの、偏った成分の生成は既設プラントとの併用が難しく、例えば、エチレンプラント(ナフサクラッカー)における特定の蒸留塔への負荷が高くなり、過度にナフサクラッカーの稼働率を低減せざるを得なかったり、あるいは特定の蒸留塔の新設が必要となる等、経済的な面での合理性は低かった。また、ホウ素含有珪酸塩の合成が難しいため入手に難があることや、耐コーキング性が十分でなく触媒寿命の点では満足な検討がなされていない。さらに、特許文献3に提案の方法においては、ガリウム含有珪酸塩触媒を用いることで、炭素数分布がC1~C13、特にベンゼン(C6)、トルエン(C7)、キシレン(C8)の選択率が高まり、バランス良く低分子量化が進行するが、ガリウム含有珪酸塩、特にガロシリケートはシリケートの骨格内にGa金属が挿入しづらく、再現性良くかつ工業的に合成することが難しく、また耐コーキング性が十分でないことから、触媒寿命の点で改良の余地が残されたものであった。
【0010】
そこで、炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物を石油化学製品として有用な低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素に高効率、高選択的かつ同時に転換することを可能とする製造方法の出現が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物より低級炭化水素及び芳香族炭化水素を製造する際に、特定の2種類のゼオライト触媒を用いた特定の工程を経ることで、石油化学製品として有用な低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素を同時に高収率で製造でき、しかも触媒寿命に優れた製造方法となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、炭化水素系プラスチックを原料に低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素を製造する方法であって、少なくとも下記(1)~(3)工程を経ることを特徴とする低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法に関するものである。
(1)工程;炭化水素系プラスチックを加熱溶融する工程。
(2)工程;加熱溶融炭化水素系プラスチックをアンモニア昇温脱離スペクトルにおける高温脱離量から求められる酸量(NH3-TPD法による固体酸量)が200μmol/g以下であるゼオライトの存在下で加熱分解し、加熱分解生成物とする工程。
(3)工程;加熱分解生成物を下記(i)~(iv)の特性を満足するゼオライトを含む触媒に加熱条件下で接触し、低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素を同時に製造する工程。
(i)平均粒子径が100nm以下。
(ii)MFI型又はMEL型である10員環細孔ゼオライト。
(iii)外表面のブレンステッド酸量が0.1~10.0μmol/g。
(iv)全ブレンステッド酸量が0.01~1.0mmol/g。
【0013】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の製造方法は、多種多様な成分を含むことから従来は原材料として用いることが困難であった炭化水素系プラスチックであっても、石油化学製品として有用な低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素を同時に製造する方法であり、炭化水素系プラスチックを加熱溶融する(1)工程、加熱溶融炭化水素系プラスチックをアンモニア昇温脱離スペクトルにおける高温脱離量から求められる酸量(NH
3-TPD法による固体酸量)が200μmol/g以下であるゼオライトの存在下で加熱分解し、加熱分解生成物とする(2)工程、加熱分解生成物を(i)平均粒子径が100nm以下、(ii)MFI型又はMEL型である10員環細孔ゼオライト、(iii)外表面のブレンステッド酸量が0.1~10.0μmol/g、(iv)全ブレンステッド酸量が0.01~1.0mmol/gとの特性を満足するゼオライトを含む触媒に加熱条件下で接触し、低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素を同時に製造する(3)工程、を経るものである。その際の好ましい態様としての概略図を
図1に示す。
【0015】
本発明の製造方法は、炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物である炭化水素を原料として(1)~(3)工程を経ることにより炭化水素、特に石油化学製品として有用な低級炭化水素、即ち、炭素数2~8の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素を高選択的に同時に製造することを可能とするものである。その際の原料である炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物としては、炭化水素系プラスチックを加熱分解して得られるものであれば制限はなく、中でもプラスチックの廃棄物を再び資源として活用することにより、資源確保や廃棄物処理の両面での社会的課題の解決に貢献することができることから、プラスチックの構造中に酸素原子や窒素原子を持たずかつ熱可塑性を示す炭化水素系プラスチック、更にはその使用済みの廃プラスチックおよび/又は炭化水素系プラスチックの製造・加工時におけるロス品の加熱分解生成物であることが好ましい。炭化水素系プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、ポリスチレン等が挙げられ、さらに塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩素化ポリエチレンの塩素化プラスチックに構成される塩素原子を分離除去したプラスチックが挙げられる。
【0016】
本発明の製造方法を構成する(1)工程は、炭化水素系プラスチックを加熱溶融する工程であり、炭化水素系プラスチックが加熱溶融し、溶融したプラスチックを後の(2)工程に供給することが可能であれば、その装置、方法等は特に限定されず、例えば、熱媒ジャケットや加熱ヒーターで加温した1軸や2軸の押出し溶融機、攪拌式オートクレーブ等が用いられる。加熱溶融時の温度は、炭化水素系プラスチックが加熱溶融すれば特に制限されず、例えば、140℃~300℃が好ましく、160~250℃がさらに好ましい。
【0017】
本発明の製造方法を構成する(2)工程は、加熱溶融炭化水素系プラスチックをNH3-TPD法による固体酸量が200μmol/g以下であるゼオライトの存在下で加熱分解し、加熱分解生成物とする工程であり、加熱分解生成物である炭素数分布がC1~C30のパラフィン、オレフィン、ジオレフィンからなる脂肪族炭化水素の混合物がより低分子量化し、(3)工程に供給することが可能であれば、そのプロセス、装置は特に限定されず、例えば、加熱溶融炭化水素系プラスチックとNH3-TPD法による固体酸量が200μmol/g以下であるゼオライトが接触する方法、が挙げられる。具体的には、熱媒ジャケットや加熱ヒーターで加温した1軸や2軸の押出し溶融機、攪拌式オートクレーブ等の加熱分解装置に、加熱溶融した炭化水素系プラスチックを供給し、NH3-TPD法による固体酸量が200μmol/g以下であるゼオライトを供給する方法を挙げることができ、更には前記(1)工程と該(2)工程は同一装置内にて同時又は時系列的に行うことができる。
【0018】
(2)工程におけるゼオライトの形状は、特に限定されず、中でもハンドリングが容易なことから、粉末形状が好ましい。反応温度に特に制限はなく、より効率的に加熱分解が進行することから200~600℃の範囲が好ましく、より低分子量化が進行することから250~500℃の範囲がより好ましい。また、反応圧力にも制限はなく、例えば常圧~5MPa程度の圧力範囲で運転が可能である。加熱溶融した炭化水素系プラスチックとゼオライトを供給する際には、窒素等の不活性ガスにより希釈したものとして用いることもできる。
【0019】
(2)工程において用いられるゼオライトは、アンモニア昇温脱離スペクトルにおける高温脱離量から求められる酸量が200μmol/g以下であるゼオライトである。ここで、ゼオライトのNH3-TPD法による固体酸量とは、「アンモニア昇温脱離法による固体酸性質測定,触媒,vol.42,p.218(2000)」に準じたNH3-TPD法により測定される値である。すなわち、本発明におけるゼオライトのNH3-TPD法による固体酸量は、アンモニアを室温で飽和吸着させた試料から100℃以上500℃以下で脱離するアンモニア量を測定することにより得られる値である。具体的には、後述する~NH3-TPD法による固体酸量の測定~による。
【0020】
(2)工程で用いるゼオライトは、NH3-TPD法による固体酸量が200μmol/g以下であり、この範囲であれば炭素数分布がC1~C20の比較的低級の脂肪族炭化水素(オレフィン、パラフィン、ジオレフィン)の収量が高く、この脂肪族炭化水素を(3)工程に供給することにより、(3)工程のゼオライトを含む触媒による触媒反応、即ち脂肪族炭化水素の更なる低級化や環化による低級脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素の効率的な同時製造を可能とするものである。また、該ゼオライトの骨格構造は特に限定されず、国際ゼオライト学会で定義されているアルファベット大文字3個からなる構造コードとして、例えば、ABW、AFG、ANA、*BEA、BIK、BOG、BRE、CAN、CAS、CFI、CHA、DAC、DDR、EAB、EDI、EMT、EPI、ERI、ESV、EUO、FAU、FER、FRA、GIS、GME、GOO、HEU、IFR、ITE、JBW、KFI、LAU、LEV、LIO、LOS、LTA、LTL、LTN、MAZ、MEI、MEL、MER、MFI、MFS、MON、MOR、MSO、MTF、MTN、MTT、MTW、MWW、NAT、NES、NON、OFF、-PAR、PAU、PHI、RHO、RTS、RUT、SFE、SFF、SFG、SOD、SST、STF、STI、STT、TER、THO、TON、TSC、UFI、VET、VFI、WEN、YUG等が挙げられ、触媒活性が高いこと、しかも入手が容易なことから、好ましくは*BEA、FAU、FER、LTA、LTL、MFI、MOR、MWWが挙げられ、さらに好ましくはFAU、MFIが挙げられる。
【0021】
また、ゼオライトの組成も特に限定されず、例えば、アルミノシリケート;ボロアルミノシリケート、チタノアルミノシリケート、バナジウムアルミノシリケート、マンガンアルミノシリケート、鉄アルミノシリケート、亜鉛アルミノシリケート、ガリウムアルミノシリケート、スズアルミノシリケート等のメタロアルミノシリケート;ボロシリケート、チタノシリケート、バナジウムシリケート、マンガンシリケート、鉄シリケート、亜鉛シリケート、ガリウムシリケート、スズシリケート等のメタロシリケートが用いられる。これらのうち、工業レベルで入手が容易なことから、好ましくはアルミノシリケートが用いられる。
【0022】
ここで、上記のアルミノシリケートは、一般にM2/nO・Al2O3・xSiO2・yH2O(nは陽イオンMの原子価、xは2以上の数、yは吸着水量を表わす。)の組成で表され、陽イオンMがプロトン型のアルミノシリケートが好ましく用いられる。また、xはSiO2/Al2O3比と呼ばれ、ゼオライトの耐熱性、耐酸性、固体酸性や反応性を表す指標となる数値である。その範囲はNH3-TPD法による固体酸量が200μmol/g以下であれば、特に限定はなく、炭素数分布がC1~C20の比較的低級の脂肪族炭化水素の収量が高くなることから、SiO2/Al2O3比が好ましくは100以上、さらに好ましくは200以上のプロトン型アルミノシリケートである。その際のSiO2/Al2O3比が100以上のプロトン型アルミノシリケートの製造法は、特に限定されず、例えば、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水の混合物を密閉系で加熱する水熱合成法でアルミノシリケートが合成される。水熱合成法では構造的に安定なSiO2/Al2O3比が5~50のアルミナシリケートが生成することが多いことから、水熱(スチーム)処理や酸処理等の様々な手法で所望のSiO2/Al2O3比が100以上のアルミナシリケートが合成される。水熱合成で生成したアルミナシリケートは陽イオンMがアルカリ金属であることから、プロトン型への転換は、アンモニウム型にイオン交換後、加熱する方法や酸処理による方法で容易に行われる。
【0023】
該ゼオライトは、そのままで高い触媒性能を示すが、効率的にNH3-TPD法による固体酸量が調節できることから、陽イオンMが周期律表第IA族およびIIA族に属する金属から選択される少なくとも1種以上の金属を含有することが好ましい。その含有率はNH3-TPD法による固体酸量が200μmol/g以下であれば、特に限定はなく、0.05~5.0wt%のゼオライトであることが好ましい。これら金属の内、炭素数分布がC1~C20の比較的低級の脂肪族炭化水素の収量が高く、しかも耐熱性が高いことからカルシウムおよびナトリウムであることがさらに好ましい。周期律表第IA族およびIIA族に属する金属から選択される少なくとも1種以上の金属を含有するアルミノシリケートの製造法は、特に限定されず、上記のプロトン型アルミナシリケートを用い、イオン交換法により金属を導入する方法が用いられる。また、その金属含有率は所望の含有率になるようイオン交換する金属の量を適宜使用すればよい。
【0024】
また、該ゼオライトは、精密にNH3-TPD法による固体酸量が調節できることから、その表面OH基の一部又は全部をシリル化処理したゼオライトであることが好ましく、ゼオライトのシリル化処理は、特に限定されず、例えば、上記のプロトン型アルミノシリケートを用いて、ヘキサメチルシラザン、トリメチルシリルクロリド、t-ブチルジメチルクロロシラン、ブチルクロロジメチルシラン等のシリル化剤で適宜処理すれば、容易に処理が可能である。
【0025】
また、該(2)工程の態様としては特に効率的な分解を可能とすることから、少なくとも(イ)工程;加熱溶融炭化水素系プラスチックを無酸素かつ無触媒で加熱分解を行う第1分解工程、(ロ)工程;(イ)工程の後、ゼオライトと接触・加熱分解し、加熱分解生成物とする第2分解工程、とする(イ)工程及び(ロ)工程を経るプロセスとすることが好ましい。その際の好ましい態様としての概略図を
図2に示す。ここで、(イ)工程の装置は特に限定されず、熱媒ジャケットや加熱ヒーターで加温した1軸や2軸の押出し溶融機、攪拌式オートクレーブ等の加熱分解装置が好ましく用いられる。温度は特に制限されるものではなく、より効率的に加熱分解が進行することから200~600℃の範囲が好ましく、より低分子量化が進行することから250~500℃の範囲がより好ましい。反応圧力にも制限はなく、例えば常圧~5MPa程度の圧力範囲で運転が可能である。また、加熱溶融した炭化水素系プラスチックとゼオライトを供給する際には、窒素等の不活性ガスにより希釈したものとして用いることもできる。
【0026】
また、(ロ)工程の装置も特に限定されず、固定床流通式の触媒反応プロセスが好ましく用いられる。ゼオライトの形状は、如何なるものであってもよく、ハンドリングが容易なことから、粒状が好ましく、例えば円柱形状、円筒形状、三角柱形状,四角柱形状,五角柱形状,六角柱形状等の多角柱形状、中空多角柱形状、球形状等を挙げることができ、中でも、連続生産性に優れ、かつ圧壊強度の高い触媒となることから円柱形状、円筒形状であることが好ましい。また、その直径,幅,長さ等のサイズ、嵩密度,真密度等の密度としては充填効率等を考慮し任意に選択可能であり、特に(3)工程に適した炭素数分布の脂肪族炭化水素を供給することが可能となる触媒となることから、径1.0~10mmの円柱形状又は厚さ0.5~5.0mmの円筒形状を有するものであることが好ましい。温度は特に制限されるものではなく、より効率的に加熱分解が進行することから200~600℃の範囲が好ましく、より低分子量化が進行することから250~500℃の範囲がより好ましい。反応圧力にも制限はなく、例えば常圧~5MPa程度の圧力範囲で運転が可能である。そして加熱分解生成物の供給は、該ゼオライト触媒体積に対し加熱分解生成物ガスの体積の比として特に制限されるものではなく、例えば1h-1~50000h-1程度の空間速度を挙げることができる。その際には、窒素等の不活性ガス、水素、一酸化炭素、二酸化炭素から選ばれる単一または混合ガスにより希釈したものとして用いることもできる。
【0027】
また、前記(イ)工程と(ロ)工程との間に加熱分解物を蒸留により高沸点成分と低沸点成分に分離する工程を有し、(ロ)工程が、高沸点成分とゼオライトとを接触・加熱分解するものであり、更に(ニ)工程として、(イ)工程の低沸点成分と(ロ)工程の分解物を混合し、加熱分解生成物とする工程を経るプロセスも、より好ましい態様であり、その概略図を
図3に示す。ここで、蒸留は加熱溶融炭化水素系プラスチックを無酸素かつ無触媒で加熱分解して生成した炭素数分布がC1~C30と広い分布範囲の脂肪族炭化水素の内、高沸点成分と低沸点成分に分離できれば、一般的な蒸留形式で構わない。
【0028】
(イ)工程では、加熱溶融炭化水素系プラスチックを無酸素かつ無触媒で加熱分解を行うことから、炭素数分布がC1~C30と広い分布範囲の脂肪族炭化水素が生成する。この内、C1~C15の比較的低級の脂肪族炭化水素、即ち低沸点成分を蒸留で分離し、(ニ)工程に供給する加熱分解物の一部として用いる。一方、C16~C30の比較的高級の脂肪族炭化水素、即ち高沸点成分は、NH3-TPD法による固体酸量が200μmol/g以下であるゼオライトに接触し、接触・加熱分解して生成した加熱分解物も(ニ)工程に供給する加熱分解生成物の一部として用いる。(イ)工程と(ロ)工程との間に加熱分解物を蒸留により高沸点成分と低沸点成分に分離する工程を加えることにより、NH3-TPD法による固体酸量が200μmol/g以下であるゼオライトに係る負担が軽くなり、該ゼオライト触媒の劣化が抑制できるメリットがある。
【0029】
本発明の製造方法を構成する(3)工程は、加熱分解生成物を前記(i)~(iv)の特性を満足するゼオライトを含む触媒に加熱条件下で接触することにより、高選択的に低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素、特に炭素数2~8のオレフィン、パラフィン、芳香族炭化水素を同時に製造することが可能となるものであり、その際の反応温度は特に制限されるものではなく、より効率的な製造方法となることから350~650℃の範囲が好ましく、有用成分の選択率が高くなることから500~600℃の範囲がより好ましい。また、反応圧力にも制限はなく、例えば0.05MPa~5MPa程度の圧力範囲で運転が可能である。そして加熱分解生成物の供給は、該触媒体積に対し原加熱分解生成物ガスの体積の比として特に制限されるものではなく、例えば1h-1~50000h-1程度の空間速度を挙げることができる。その際には、窒素等の不活性ガス、水素、一酸化炭素、二酸化炭素から選ばれる単一または混合ガスにより希釈したものとして用いることもできる。また、その際の反応装置としては限定はなく、熱媒ジャケットや加熱ヒーターで加温した1軸や2軸の押出し溶融機、攪拌式オートクレーブ等の加熱分解装置を挙げることができる。
【0030】
そして、(3)工程における触媒に含まれるゼオライトは、(i)平均粒子径(以下、PDと記す場合がある。)≦100nmのものであり、特に熱安定性にも優れる触媒となることから、5nm≦PD≦100nmであることが望ましい。ここで、PDが100nmを越えるものである場合、炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素への転換効率に劣るものとなる。
【0031】
なお、本発明におけるPDは、その測定方法に制限はなく、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)の写真から任意の粒子を100個以上選んで、その平均直径を求める方法、ゼオライトの外表面積からPD=6/S×(1/(2.29×106)+0.18×10-6)(Sは外表面積(m2/g)を示すものである。)を用いて算出する方法、等の任意の方法を挙げることができる。
【0032】
なお、外表面積(S(m2/g))は、液体窒素温度における一般的な窒素吸着法を用い、t-plot法から求めることができる。例えば、tを吸着量の厚みとするときに、tについて0.6~1nmの範囲の測定点を直線近似し、得られた回帰直線の傾きからゼオライトの外表面積を求めることができる。
【0033】
そして、中でも簡便な測定が可能であることから、SEM又はTEMによる方法が好ましい。
【0034】
また、該ゼオライトは、(ii)MFI型またはMEL型の10員環細孔ゼオライトである。ここで、MFI型ゼオライトとしては、国際ゼオライト学会で定義される構造コードMFIに属するアルミノシリケート化合物が、またMEL型ゼオライトとしては同構造コードMELに属するアルミノシリケート化合物を挙げることができる。ここで、MFI型またはMEL型の10員環細孔ゼオライト以外のゼオライトを含むものである場合、炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物の転換反応の効率に劣るものとなる。
【0035】
該ゼオライトは、(iii)外表面のブレンステッド酸量(以下、B酸量と記す場合がある。)が0.1~10.0μmol/gであり、特定の範囲内の外表面B酸量を有することで特に優れた触媒性能を示すものとなる。ここで、外表面B酸量が0.1μmol/g未満である場合、炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物の転換を行う際の生産効率や触媒性能に劣るものとなる。一方、10.0μmol/gよりも大きい場合、触媒表面における副反応やコーキングが生じやすく、触媒性能として不十分なものとなる。
【0036】
そして、該ゼオライトにおいては、炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物の転換効率、特に炭素数2~8の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素への選択性に優れる触媒となることから(iv)B酸量が0.01~1.0mmol/gであるものが好ましく、更に0.1~1.0mmol/gであるものが好ましい。
【0037】
ここで、ゼオライトのB酸量とは、ブレンステッド酸点(以下、B酸点と記す場合がある。)の量を示すものであり、ゼオライトに存在する酸性OH基を示すものである。通常、ゼオライトは、その外表面及び(ミクロ)細孔内にB酸点を有するものである。そして、外表面にB酸点をわずかしか有さないものとは、そのB酸点はそのほとんどが(ミクロ)細孔内に存在することを意味するものである。
【0038】
該ゼオライトにおける外表面のB酸量の確認方法としては、その確認を行うことが可能であれば如何なる方法をも用いることが可能であり、例えばB酸点に対する吸着性を有する2,4-ジメチルキノリンの吸着により確認することが可能である。2,4-ジメチルキノリンは、ゼオライト(細孔内を含む)に存在するB酸点(酸性OH基)との吸着性質を有している。しかし、MFI型のようにゼオライトの(ミクロ)細孔径が2,4-ジメチルキノリン分子より小さい場合、(ミクロ)細孔内に侵入することができず、(ミクロ)細孔内のB酸点と吸着することは出来ない。つまり、ゼオライトの外表面のB酸点のみと吸着するものとなる。よって、MFI型ゼオライトの外表面のB酸点への2,4-ジメチルキノリンの吸着量を求めることで、外表面のB酸量を定量することができる。
【0039】
より具体的な方法としては、ゼオライトの前処理として400℃で2時間の脱気・脱水処理を行ったゼオライトの150℃における赤外吸収スペクトル測定を行う。そして、脱気・脱水処理を行ったゼオライトに2,4-ジメチルキノリンガスを導入して30分間吸着させ、150℃での排気により余剰2,4-ジメチルキノリンを除き、2,4-ジメチルキノリン吸着ゼオライトの調製を行い150℃における赤外吸収スペクトル測定を行う。つまり、2,4-ジメチルキノリン吸着前後の赤外吸収の差スペクトルにおいて、3600~3650cm-1の範囲で赤外線吸収の差(減少)を定量することで、外表面のB酸量を得ることができる。なお、2,4-ジメチルキノリンはゼオライト表面のOH部位にも吸着するが、OHのO-H伸縮振動に由来する吸収は、3700~3800cm-1に観測される。一方、ゼオライトの外表面のB酸点のO-H伸縮振動に由来する吸収は、3600~3650cm-1に観測され、2,4-ジメチルキノリンを吸着してB酸点のO-H伸縮振動に由来する吸収3600~3650cm-1の範囲に赤外吸収スペクトルの減少がみられることは、2,4-ジメチルキノリンがゼオライトの外表面のB酸点に吸着したことを示す。
【0040】
また、該ゼオライトのB酸量(外表面及び(ミクロ)細孔内に存在するB酸点)の測定方法としては、その測定を行うことが可能であれば如何なる方法をも用いることが可能であり、例えばB酸点に対する吸着性を有するピリジンの吸着により確認することが可能である。ピリジンは、ゼオライト(細孔内を含む)に存在するB酸点(酸性OH基)との吸着性質を有しており、ゼオライトの(ミクロ)細孔径がピリジンより大きい場合、(ミクロ)細孔内にも侵入することができ、外表面及び(ミクロ)細孔内のB酸点とも吸着出来る。よって、MFI型ゼオライトの細孔内に存在するB酸点も含め、ゼオライトに存在するすべてのB酸量を定量することができる。
【0041】
より具体的な方法としては、ゼオライトの前処理として400℃で2時間の脱気・脱水処理を行ったゼオライトの150℃における赤外吸収スペクトル測定を行う。そして、脱気・脱水処理を行ったゼオライトにピリジンガスを導入して10分間吸着させ、150℃での排気により余剰ピリジンを除き、ピリジン吸着ゼオライトの調製を行い150℃における赤外吸収スペクトル測定を行う。つまり、ピリジン吸着前後の赤外吸収の差スペクトルにおいて、1515~1565cm-1の範囲で赤外線吸収の差(減少)を定量することで、細孔内も含めたB酸量を得ることができる。
【0042】
そして、(3)工程におけるゼオライトは、特に炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物の転換効率、炭素数2~8の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の選択性に優れる触媒となることから、外表面に僅かなB酸点を有し、B酸点のほとんどが(ミクロ)細孔内に存在するものであることが好ましく、その外表面に存在するB酸点は、全B酸点の1~10%のものであることが好ましい。なお、外表面のB酸点の割合は、上述したゼオライトの外表面のB酸量を、ゼオライト(細孔内を含む)に存在するB酸量の割合として求められる。
【0043】
該ゼオライトの製造方法としては、上記(i)~(iv)に記載の特性を満足するゼオライトの製造が可能であれば如何なる方法をも用いることは可能である。そして、外表面に特定量の微量のB酸点を有するゼオライト、つまり、ゼオライト表面のB酸点の選択的な除去方法としては、(i)~(ii)の特性を満足するゼオライトを製造する際の焼成処理(熱処理)の一部又は全部を水熱(スチーム)処理とし、該焼成処理の前後にイオン交換処理を付加する方法を挙げることができる。
【0044】
そして、(i)~(ii)の特性を満足するゼオライトの合成方法としては、一般的な公知の方法を用いることにより、PD≦100nm、MFI型またはMEL型の10員環細孔の骨格構造を有するゼオライトとすることができる。具体的にはカチオンとしてアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む化合物、有機構造指向剤とアルミノシリケートゲルとを混合し、得られた結晶物を焼成することにより製造することができる。その際のアルカリ金属、アルカリ土類金属を含む化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を挙げることでき、中でも水酸化ナトリウムが好ましい。有機構造指向剤としては、例えばテトラプロピルアンモニウム水酸化物、テトラブチルアンモニウム水酸化物、テトラエチルアンモニウム水酸化物等を挙げることができる。また、アルミノシリケートゲルとしては、例えば不定形アルミノシリケートゲル等を挙げることができる。
【0045】
さらに、(i)~(iv)の特性を満足するゼオライトとする際には、上記により得られた結晶物を焼成する前にイオン交換を行い、焼成の際の一部又は全部を水熱処理とし、その後、更にイオン交換を行う方法、上記により得られた結晶物を焼成した後にイオン交換を行いプロトン型ゼオライトとし、その後に水熱雰囲気下で焼成を行う方法、等により製造することが可能となる。
【0046】
その際の焼成条件としては、処理温度としては300~900℃が好ましく、特に400~700℃であることが好ましい。処理時間は、工業的には好ましくは5分~25時間である。雰囲気としては、例えば窒素、空気、酸素、アルゴン、その他不活性ガスのうち一つもしくは二つ以上の組み合わせのガスをも挙げることができる。そして、該焼成工程の一部又は全部は水熱(スチーム)処理を行うことにより、B酸点のアルミニウムが脱離される。水熱処理の処理温度としては400~750℃が好ましく、特に500~650℃が好ましい。また、水蒸濃度は5~100%が好ましく、特に10~80%であることが好ましい。
【0047】
また、イオン交換は、焼成工程の前後に行うものであり、複数回のイオン交換に分割して行ってもよい。また、イオン交換は、塩化アンモニウム、塩酸、硝酸等の酸を用いたイオン交換が挙げられ、塩酸、硝酸によるものが好ましい。また、イオン交換は水での洗浄で代用することもできる。
【0048】
(3)工程で用いられるゼオライトは、そのままで高い触媒性能を示すが、更に高い耐コーキング性や触媒寿命を示す触媒となることから、(v)ナトリウム、カリウム、カルシウム、銀、亜鉛から選択される少なくとも1種以上の金属を含有していても良く、その含有率が0.05~5.0wt%の金属含有ゼオライトであることが好ましい。これら金属の内、炭素数2~8の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の選択性が高まることから、亜鉛及び/またはカルシウム含有ゼオライトであることがさらに好ましい。また、該金属を含有させる際の導入方法としては限定されるものではなく、例えば、含侵担持、イオン交換、物理混合、蒸着等のいずれの方法でも可能である。
【0049】
そして、(3)工程の触媒とする際には、その取り扱い性、触媒性能に優れる触媒となることから成形体としての形状付与を行うことが好ましい。形状付与を行う際には如何なる方法により成形してもよく、例えば、ゼオライト粉末をそのまま圧縮成形等により所定形状に成形し成形体とする方法、所定割合のバインダーをゼオライトに混合し、場合によっては更なる添加剤等を所定割合で混合し、その混合物を所定形状に成形し成形体とする方法、さらには焼結を付随し成形体とする方法などを挙げることが出来る。成形体としての成形性に優れることはもとより、高い圧壊強度を示しその取り扱い性、触媒寿命にも優れるものとなることから、該ゼオライト及びバインダーとからなる成形体であることが好ましく、より良好な触媒性能を示すものとなることから該ゼオライト及びシリカとからなる成形体であることがより好ましい。その際のシリカとしては、シリカと称される範疇に属するものであれば如何なるものであってもよく、特定の結晶構造を有するもの、また、非結晶性のものであってもよい。さらに、シリカの粒子径や凝集径等に関しても如何なる制限もない。また、該ゼオライトとシリカの配合割合は任意であり、中でも特に優れた触媒性能、取り扱い性、触媒寿命を示すゼオライト触媒となることから、該ゼオライト:シリカ=50~95:50~5(重量割合)であることが好ましく、特に60~90:40~10であることが好ましい。
【0050】
該ゼオライト触媒は、その形状が如何なるものであってもよく、例えば円柱形状、円筒形状、三角柱形状,四角柱形状,五角柱形状,六角柱形状等の多角柱形状、中空多角柱形状、球形状等を挙げることができ、中でも、連続生産性に優れ、かつ圧壊強度の高い触媒となることから円柱形状、円筒形状であることが好ましい。また、その直径,幅,長さ等のサイズ、嵩密度,真密度等の密度としては充填効率等を考慮し任意に選択可能であり、特に石油化学製品として有用な炭素数2~8の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素等を有効に製造することが可能となる触媒となることから、径1.0~10mmの円柱形状又は厚さ0.5~5.0mmの円筒形状を有するものであることが好ましい。(3)工程のゼオライト触媒は触媒活性が高く、触媒寿命が延長できることから、NH3-TPD法による固体酸量が10~150が好ましく、20~100がさらに好ましい。
【0051】
該(3)工程は、加熱分解生成物を前記(i)~(iv)の特性を満足するゼオライトを含む触媒に加熱条件下で接触することにより、高選択的に低級炭化水素及び芳香族炭化水素、特に炭素数2~8のオレフィン、パラフィン、芳香族炭化水素を製造することが可能である。その際の反応温度は特に制限されるものではなく、より効率的な製造方法となることから350~650℃の範囲が好ましく、有用成分の選択率が高くなることから500~600℃の範囲がより好ましい。また、反応圧力にも制限はなく、例えば0.05MPa~5MPa程度の圧力範囲で運転が可能である。そして加熱分解生成物の供給は、該触媒体積に対し原加熱分解生成物ガスの体積の比として特に制限されるものではなく、例えば1h-1~50000h-1程度の空間速度を挙げることができる。その際には、窒素等の不活性ガス、水素、一酸化炭素、二酸化炭素から選ばれる単一または混合ガスにより希釈したものとして用いることもできる。
【0052】
本発明の製造方法において、製造される低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素としては、炭素数2~8のオレフィン、パラフィン、芳香族炭化水素であることが好ましく、例えばエタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のパラフィン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等のオレフィン;ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、エチルトルエン等の芳香族炭化水素を挙げることができる。
【0053】
本発明の製造方法により、炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物の低分子量化および環化脱水素反応が効率良く進行し、石油化学製品として有用な低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素が高選択的に、特に60%以上の選択率で製造することが可能となる。また、炭素数2~8のオレフィン、パラフィン、芳香族炭化水素の各成分がバランス良く生成することから、新たな蒸留塔を新設することなく、既設プラントとの効率的な併用運転を行うことが可能になる。具体的には、エチレンプラントの各成分の蒸留塔をフルに活用できることから、過度にナフサクラッカーの稼働率を下げることなく、効率よくエチレンプラントの運転が可能になる。
【発明の効果】
【0054】
本発明の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法は、炭化水素系プラスチックの加熱分解生成物より低級炭化水素及び芳香族炭化水素を同時に製造する際に、特定の2種類のゼオライト触媒を用いた特定の工程を経ることで、石油化学製品として有用な炭素数2~8のパラフィン、オレフィン、芳香族炭化水素を高収率で製造でき、しかも触媒寿命に優れた製造方法となることから、工業的な有用性が期待されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】;低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法の一例を示す概略図。
【
図2】;(2)工程として、(イ)工程及び(ロ)工程を経る低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法の一例を示す概略図。
【
図3】;(2)工程として、(イ)工程と(ロ)工程との間に、更に(ニ)工程を経る低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の同時製造方法の一例を示す概略図。
【実施例0056】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
~NH3-TPD法による固体酸量の測定~
酸量の測定は、アンモニア-TPD法(アンモニア昇温脱離法による固体酸性質測定,触媒,vol.42,p.218(2000)参照。)に準じた方法により行った。装置は、触媒分析装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:BELCATII)を用い、ヘリウム流通下、500℃で1時間前処理したのち、100℃で30分間アンモニアを吸着させた。その後、バブラーを通過することで水蒸気を含むヘリウム流通下、125℃で60分間処理し、弱酸点に吸着されたアンモニアを除去した。その後、ヘリウム流通下、100℃でパージしたのち、ヘリウム流通下、10℃/分で昇温し昇温脱離量を測定した。検出器には、四重極質量分析計(商品名:BELMASS,マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。得られた昇温脱離曲線の脱離温度370℃付近の酸点に由来するピークをガウス関数でフィッティングし、その面積からアンモニア脱離量を求めることで酸量を得た。
【0058】
~平均粒子径(PD)の測定~
平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(以下、TEMと記す場合がある。)及び走査型電子顕微鏡(以下、SEMと記す場合がある。)により測定を行った。TEMは、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、商品名:JEM-2100、加速電圧200kV、観察倍率3万倍)を用い、乳鉢で軽く粉砕した試料をアセトン中に超音波分散し、プラスチック支持膜上に滴下し自然乾燥させたものを検鏡用試料とし、写真を撮影した。写真中の各一次粒子について、最長径とその中点において直角方向の径の平均を測定し、合計300個の粒子の平均を平均粒子径とした。
【0059】
SEMは、走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製、商品名:VE-9800、加速電圧20kV、観察倍率2000倍)を用い、乳鉢で軽く粉砕した試料を試料台に乗せ、金蒸着させたものを検鏡用試料とし、写真を撮影した。写真中の粒子一辺の長さを150個計測し、その平均値を平均結晶径とした。
【0060】
~粉末X線回折の測定~
X線回折測定装置(スペクトリス社製、商品名:X’pert PRO MPD)を用い、管電圧45kV、管電流40mAとしてCuKα1を用いて、大気中において測定した。0.04~5度の範囲を0.08度/ステップ、200秒/ステップで分析した。また、ダイレクトビームの吸収率で補正したバックグラウンドを除去している。
【0061】
ピークの有無の確認を目視で行うことにより結晶構造の同定を行った。他の方法として、ピークサーチプログラムを利用してもよい。ピークサーチプログラムは、一般的なプログラムが利用できる。例えば、横軸が2θ(度)、縦軸が強度(a.u.)の測定結果をSAVITSKY&GOLAYの式とSliding Polynomialフィルターで平滑化した後、2次微分を行ったときに、3点以上連続する負の値がある場合、ピークが存在すると判断できる。
【0062】
~2,4-ジメチルキノリン吸着赤外吸収分光測定(外表面B酸量)~
赤外吸収分光の測定は、FT-IR測定装置(商品名:FT/IR-6700,日本分光株式会社製)を用いて、透過法により測定を行った。MCT検出器を使用し、積算回数256回にてスペクトルを得た。試料は直径13mmのディスクに成形した後、石英製真空脱気セル内のディスクホルダーに設置することで、赤外光路上に垂直に設置した。試料の前処理として、真空排気下、10℃/分で400℃まで昇温し、2時間保持した。150℃に冷却後、2,4ジメチルキノリン吸着前の赤外吸収スペクトルを測定した。2,4-ジメチルキノリンガスを導入し、30分間吸着させ、150℃で1時間真空排気した後、2,4-ジメチルキノリン吸着後の赤外吸収スペクトルを測定した。2,4-ジメチルキノリン吸着後の赤外吸収スペクトルと吸着前のスペクトルの差をとり、吸着による赤外吸収の変化を測定した。この差スペクトルのうち3600cm-1付近のピークがブレンステッド酸に吸着した2,4-ジメチルキノリンの吸収スペクトルのピークであり、この面積強度を求めた後、ランベルト-ベア(Lamber-berr)の法則により、B酸量(μmol/mg)=A・S/(W・ε)(ここで、A;対象のピークのピーク面積強度(cm-1)、S;サンプル断面積(cm2)、W;サンプル重量(mg)、ε;積分吸光係数であり、3.7cm・μmol-1、のそれぞれを示す。)より外表面B酸量を求めた。
【0063】
~ピリジン吸着赤外吸収分光測定(全B酸量)~
上記の2,4-ジメチルキノリン吸着赤外吸収分光測定において、ピリジンガスを導入し、10分間吸着させた点のみを変更し、同一の装置、同一の手法で測定した。
【0064】
ただし、差スペクトルにおける1545cm-1付近のピークをブレンステッド酸に吸着したピリジンの吸収スペクトルのピークとして用い、積分吸光係数を1.67cm・μmol-1とて、ランベルト-ベア(Lamber-berr)の法則より全B酸量を求めた。
【0065】
~外表面B酸率~
外表面B酸量を全B酸量で除した割合を外表面B酸率とした。
【0066】
~SiO2/Al2O3モル比、金属導入量の測定~
ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比および遷移金属の導入量は、ゼオライトをフッ酸と硝酸の混合水溶液で溶解し、ICP装置(商品名:OPTIMA3300DV,PerkinElmer社製)による誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で測定し、求めた。
【0067】
~(3)工程で用いたゼオライトを含む触媒寿命の指標となる触媒の活性試験方法~
炭化水素系プラスチックを原料に用い、低級脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素に転換する実験を行った後、(3)工程におけるゼオライトの触媒性能を把握するため、下記のC4留分を用いて触媒活性試験を行った。反応開始1時間後のC4留分の転化率を触媒寿命の指標とした。
【0068】
(触媒活性試験における触媒反応条件)
C4留分:イソブタン2Nml/分、ノルマルブタン5Nml/分、トランス-2-ブテン8Nml/分、1-ブテン15Nml/分、イソブテン3Nml/分、プロパン7Nml/分、プロピレン2Nml/分
希釈ガス;窒素42Nml/分。
反応温度:530℃。
反応時間:1時間。
【0069】
触媒調製例1
プロトン型のMFI型ゼオライト粉末(東ソー株式会社製、商品名:HSZ-840HOA)を空気下、550℃で1時間焼成後、600℃、30%の水蒸気で処理した。次いで、空気下、550℃で2時間焼成して粉末を得た。
【0070】
触媒調製例2
触媒調製例1により得られたゼオライト粉末を蒸留水に浸し、懸濁液を調製した。この懸濁液に0.2mol/L硝酸ナトリウム水溶液を室温で徐々に添加し、80℃で2時間撹拌することでNaイオン交換を行った。室温に冷却後、濾過、蒸留水で洗浄、乾燥を順次行った後、空気中550℃で4時間焼成し、Naイオンで一部交換したゼオライト粉末を得た。
【0071】
この粉末を100重量部に対して、シリカ(日産化学工業社製、商品名:スノーテックスN-30G)40重量部、セルロース5重量部、純水40重量部を加え混練した。そして、混練物を直径1.5mm、長さ1.0~7.0mm(平均長さ3.5mm)の円柱状の成形体とした。これを100℃で1晩乾燥した。乾燥後の成形体を、空気流通下、600℃で2時間焼成して成形体を得た。
【0072】
触媒調製例3
プロトン型のMFI型ゼオライト粉末(東ソー株式会社製、商品名:HSZ-840HOA)100重量部に対して、シリカ(日産化学工業社製、商品名:スノーテックスN-30G)40重量部、セルロース5重量部、純水40重量部を加え混練した。そして、混練物を直径1.5mm、長さ1.0~7.0mm(平均長さ3.5mm)の円柱状の成形体とした。これを100℃で1晩乾燥した。乾燥後の成形体を、空気流通下、600℃で2時間焼成して成形体を得た。
【0073】
触媒調製例4
触媒調製例3により得られた成形体100gを蒸留水に浸した。0.12mol/Lの水酸化カルシウム水溶液を用いて浸漬させた。成形体を濾別、水洗後、0.2mol/L硝酸ナトリウム水溶液で再度浸漬させた。110℃で一晩乾燥させた後、空気流通下550℃で5時間焼成を行い、カルシウムイオンとナトリウムイオンが一部交換したゼオライト(成形体)を得た。
【0074】
触媒調製例5
テトラプロピルアンモニウム水酸化物と水酸化ナトリウムの水溶液に不定形アルミノシリケートゲルを添加して懸濁させた。得られた懸濁液にMFI型ゼオライトを種晶として加え原料組成物とした。その際の種晶の添加量は、原料組成物中のAl2O3とSiO2の重量に対して、0.7重量%とした。該原料組成物の組成は以下のとおりである。
SiO2/Al2O3モル比=48、TPA/Siモル比=0.05、Na/Siモル比=0.16、OH/Siモル比=0.21、H2O/Siモル比=10。
【0075】
得られた原料組成物をステンレス製オートクレーブに密閉し、115℃で攪拌しながら4日間結晶化させ、スラリー状混合液を得た。結晶化後のスラリー状混合液を遠心沈降機で固液分離した後、十分量の純水で固体粒子を洗浄し、110℃で乾燥して乾燥粉末を得た。
【0076】
得られた乾燥粉末を1mol/Lの常温の塩酸中に分散し、ろ過した後に、十分量の純水で固体粒子を洗浄し、再度ろ過後、100℃で1晩乾燥させた。空気下、550℃で1時間焼成後、600℃、30%の水蒸気で2時間処理した。
【0077】
得られた粉末を1mol/Lの常温の塩酸中に分散し、ろ過した後に、十分量の純水で固体粒子を洗浄し、再度ろ過後、ゼオライトを得た。
【0078】
上記で調製したゼオライト100重量部に対して、シリカ(日産化学工業社製、商品名:スノーテックスN-30G)25重量部、セルロース5重量部、純水40重量部を加え混練した。そして、混練物を直径1.5mm、長さ1.0~7.0mm(平均長さ3.5mm)の円柱状の成形体とした。これを100℃で1晩乾燥した。乾燥後の成形体を、空気流通下、600℃で2時間焼成して成形体を得た。
【0079】
触媒調製例6
触媒調製例5により得られたMFI型ゼオライト成形体100gを、0.75mol/Lの酢酸亜鉛水溶液109.9gに30分間浸漬させた。成形体を濾別後、110℃で一晩乾燥させた後、空気流通下550℃で5時間焼成を行い、亜鉛イオンを一部含有するゼオライト(成形体)を得た。
【0080】
実施例1
炭化水素系プラスチックの溶融である(1)工程および加熱分解である(2)工程を行うステンレス製オートクレーブ(内容積200ml)と加熱分解生成物を低級炭化水素に転換する(3)工程を行うステンレス製反応管(内径16mm、長さ600mm)を有する固定床気相流通式反応装置を連結した装置を用いた。ここで、ステンレス製反応管は中段に、ゼオライト触媒の成形体を充填し、乾燥空気流通下、530℃で加熱前処理を行った。
【0081】
ステンレス製オートクレーブに、低圧ポリエチレン製造設備の製造過程でロス品となった高密度ポリエチレン(HDPE)と触媒調製例1で調製したゼオライト触媒(粉末)5gを入れ、窒素で置換した。温度を180℃までゆっくり昇温することによりHDPEを溶融状態とし、次いで窒素ガス流通(40ml/分)下、450℃まで昇温し、加熱・接触分解を行い生成した炭化水素を加熱分解生成物とした。加熱分解生成物は窒素ガスによりステンレス製反応管にフィードし、触媒調製例5で調製したゼオライト触媒(成形体)と接触し反応を行った(触媒重量:3.8g、流通ガス:窒素40ml/分、反応温度:585℃、反応時間:24時間)。なお、ステンレス製反応管の温度制御はセラミック製管状炉を用いた。
【0082】
反応出口ガスおよび反応液を採取し、ガスクロマトグラフを用い、ガス成分および液成分を個別に分析した。ガス成分は、TCD検出器を備え、充填剤(Waters社製、商品名:PorapakQまたはGLサイエンス社製、商品名:MS-5A)を有するガスクロマトグラフ(島津製作所製、商品名:GC-1700)を用いて分析した。液成分は、FID検出器を備え、分離カラムとしてキャピラリーカラム(GLサイエンス社製、商品名:TC-1)を有するガスクロマトグラフ(島津製作所製、商品名:GC-2015)を用いて分析した。
【0083】
結果を表1に示す。炭素数2~8の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の有用成分は高い収率で得られた。また、反応終了後も触媒調製例5で調製したゼオライト触媒は高い触媒性能を維持しており、安定的な製造を可能とすると共に耐コーキング性にも優れるものであった。
【0084】
実施例2
炭化水素系プラスチックの溶融である(1)工程および加熱分解である(2)工程を行うステンレス製オートクレーブ(内容積200ml)と加熱分解生成物を低級炭化水素に転換する(3)工程を行うステンレス製反応管(内径16mm、長さ600mm)を有する固定床気相流通式反応装置を連結した装置を用いた。ここで、ステンレス製反応管は前段に触媒調製例2で調製したゼオライト触媒(成形体)、後段に、触媒調製例6で調製したゼオライト触媒(成形体)を充填し、乾燥空気流通下、530℃で加熱前処理を行った。
【0085】
ステンレス製オートクレーブに、低圧ポリエチレン製造設備の製造過程でロス品となった高密度ポリエチレン(HDPE)を入れ、窒素で置換した。温度を180℃までゆっくり昇温することによりHDPEを溶融状態とし、次いで窒素ガス流通(40ml/分)下、450℃まで昇温し、加熱分解を行い炭化水素混合物である加熱分解生成物とした。加熱分解生成物は窒素ガスによりステンレス製反応管にフィードし、2種類のゼオライト触媒(成形体)と接触し反応を行った(触媒重量:いずれも3.8g、流通ガス:窒素40ml/分、反応温度:530℃、反応時間:24時間)。
【0086】
生成物の分析は実施例1と同じ方法で行い、結果を表1に示す。
【0087】
実施例3
ステンレス製オートクレーブに、高圧ポリエチレン製造設備の製造過程でロス品となった高密度ポリエチレン(LDPE)を入れ、窒素で置換した。温度を180℃までゆっくり昇温することによりLDPEを溶融状態とし、次いで窒素ガス流通(40ml/分)下、450℃まで昇温し、加熱分解を行った。加熱分解生成物として、常温・常圧におけるガス成分および液成分を個別に捕集した。
【0088】
マントルヒーター式蒸留釜、温度計、還流弁、流出液受器を備えた理論段数35段の充填塔式蒸留塔(柴田科学製、商品名:HP-1000)を用いて液成分の蒸留(圧力2.6kPa、還流比20)を行い、トップ温度150℃の成分が流出した時点で蒸留を終了した。
【0089】
加熱分解生成物を低級炭化水素に転換するステンレス製反応管(内径16mm、長さ600mm)を有する固定床気相流通式反応装置を用い、ステンレス製反応管は前段に触媒調製例2で調製したゼオライト触媒(成形体)、後段に、触媒調製例5で調製したゼオライト触媒(成形体)を充填し、乾燥空気流通下、530℃で加熱前処理を行った。
【0090】
流出液受器に集めた液成分は送液ポンプを用い、またガス成分はガスクロマトグラフで分析し、その分析結果を基に試薬を用いて模擬ガス成分を調製し、マスフローコントローラを用いて、液成分とガス成分をステンレス製反応管にフィードし、ゼオライト触媒(成形体)と接触し反応を行った(触媒重量:いずれも3.8g、流通ガス:窒素40ml/分、反応温度:530℃、反応時間:24時間)。
【0091】
生成物の分析は実施例1と同じ方法で行い、結果を表1に示す。
【0092】
比較例1
触媒調製例2で調製したゼオライト触媒(成形体)を用いなかったこと、触媒調製例6で調製したゼオライト触媒(成形体)の代わりに、触媒調製例3で調製したゼオライト触媒(成形体)を用いたこと以外、実施例2と同様に炭化水素系プラスチックの加熱分解、およびゼオライト触媒による反応評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
本発明の低級脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の製造方法は、炭化水素系プラスチック、特に廃プラスチックの加熱分解生成物を石油化学製品として有用な炭素数2~8のパラフィン、オレフィン、芳香族炭化水素を高選択的に転換することが可能となり、その製造方法としての産業的価値は極めて高いものである。