(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187707
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】負極活物質、負極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/48 20100101AFI20221213BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095846
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】月形 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 真宏
(72)【発明者】
【氏名】乙坂 哲也
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA16
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA08
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】 二次電池の負極電極に負極活物質として用いた際に、高い初回効率を維持しながら、サイクル特性を向上させることが可能な負極活物質を提供する。
【解決手段】 炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子からなる負極活物質であって、前記一酸化珪素粒子は、レーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布において、粒子径が1μm以下の相対粒子量の積算値が1%以下、粒子径が5μm以下の相対粒子量の積算値が20%以下、累積50%径D50が6.0μm≦D50≦15.0μmを満たす負極活物質。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子からなる負極活物質であって、
前記一酸化珪素粒子は、レーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布において、
粒子径が1μm以下の相対粒子量の積算値が1%以下、
粒子径が5μm以下の相対粒子量の積算値が20%以下、
累積50%径D50が6.0μm≦D50≦15.0μm
を満たすことを特徴とする負極活物質。
【請求項2】
前記一酸化珪素粒子は、前記粒子径が5μm以下の相対粒子量の積算値が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記一酸化珪素粒子は、累積99.9%粒子径をD99.9としたときに18.0μm≦D99.9≦50.0μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子は、リチウムの少なくともその一部がLi2SiO3として存在することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子は、負極活物質を充放電する前において、Cu-Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因するピークを有し、該結晶面に対応する結晶子サイズは5.0nm以下であり、かつ、Li2SiO3(111)結晶面に起因するピークの強度Bに対する前記Si(111)結晶面に起因するピークの強度Aの比率A/Bは、0.5≦A/B≦1.0を満たすことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子の真密度は、2.3g/ccより大きく、2.4g/ccより小さいことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の負極活物質を含むことを特徴とする負極。
【請求項8】
請求項7に記載の負極と、正極と、セパレータと、電解質とを具備することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、広く普及が進んでいる。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極及び負極、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素系活物質が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上のために、負極活物質材として珪素を用いることが検討されている。なぜならば、珪素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。負極活物質材としての珪素材の開発は珪素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。また、活物質形状は、炭素系活物質では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質として珪素系材料に珪素単体を用いると、充放電時に負極活物質が膨張収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、珪素系材料を主材としたリチウムイオン二次電池用負極活物質材料、電極構成についてさまざまな検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用い珪素及びアモルファス二酸化珪素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、酸化珪素粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、珪素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、珪素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO2、MyO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。また、サイクル特性改善のため、SiOx(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm~50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。また、サイクル特性改善のために、負極活物質中における珪素に対する酸素のモル比を0.1~1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。また、サイクル特性を改善させるために、珪素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。
【0010】
また、サイクル特性改善のため、酸化珪素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するRAMANスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm-1及び1580cm-1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I1330/I1580が1.5<I1330/I1580<3となっている。また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化珪素中に分散された珪素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば、特許文献11参照)。また、過充電、過放電特性を向上させるために、珪素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御した酸化珪素を用いている(例えば特許文献12参照)。
【0011】
また、酸化珪素を用いたリチウムイオン二次電池は、日立マクセルが2010年6月にナノシリコン複合体を採用したスマートフォン用の角形の二次電池の出荷を開始した(例えば非特許文献1参照)。Hohlより提案された酸化珪素はSi0+~Si4+の複合材であり様々な酸化状態を有する(非特許文献2)。また、Kapaklisは酸化珪素に熱負荷を与えることでSiとSiO2にわかれる、不均化構造を提案している(非特許文献3)。Miyachiらは不均化構造を有する酸化珪素のうち充放電に寄与するSiとSiO2に注目している(非特許文献4)。
【0012】
また、サイクル特性改善のため、モード径、D50およびD90の粒度分布が規定された酸化珪素粉末を用いている(例えば特許文献13)。なお、粒度分布において、D50は累積50%径を、D90は累積90%径を示し、その他の数値も同様である。また、サイクル特性改善のため、ボールミル粉砕後に水による湿式分級を行った酸化珪素粉末のD90、D90/D10、1μm以下の微粉量が規定されている(例えば特許文献14)。また、初回放電容量およびサイクル特性改善の為、炭素被膜形成前の酸化珪素粉末のD50/D10および炭素被膜形成後の負極活物質のBET比表面積が規定された酸化珪素粉末を用いている(例えば特許文献15)。
【0013】
また、Yamadaらはケイ素酸化物とLiの反応式を次のように提案している(非特許文献5)。
2SiO(Si+SiO2) + 6.85Li+ + 6.85e-
→ 1.4Li3.75Si + 0.4Li4SiO4 + 0.2SiO2
反応式ではケイ素酸化物を構成するSiとSiO2がLiと反応し、LiシリサイドとLiシリケート、一部未反応であるSiO2にわかれる。
【0014】
ここで生成したLiシリケートは不可逆で、1度形成した後はLiを放出せず安定した物質である。この反応式から計算される質量当たりの容量は、実験値とも近い値を有しており、ケイ素酸化物の反応メカニズムとして認知されている。また、Kimらはケイ素酸化物の充放電に伴う不可逆成分、LiシリケートをLi4SiO4として、7Li-MAS-NMRや29Si-MAS-NMRを用いて同定している(非特許文献6)。この不可逆容量はケイ素酸化物の最も不得意とするところであり、改善が求められている。そこでKimらは予めLiシリケートを形成させるLiプレドープ法を用いて、電池として初回効率を大幅に改善し、実使用に耐えうる負極電極を作成している(非特許文献7)。
【0015】
また電極にLiドープを行う手法ではなく、粉末に処理を行う方法も提案し、不可逆容量の改善を実現している(特許文献16)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2001-185127号公報
【特許文献2】特開2002-042806号公報
【特許文献3】特開2006-164954号公報
【特許文献4】特開2006-114454号公報
【特許文献5】特開2009-070825号公報
【特許文献6】特開2008-282819号公報
【特許文献7】特開2008-251369号公報
【特許文献8】特開2008-177346号公報
【特許文献9】特開2007-234255号公報
【特許文献10】特開2009-212074号公報
【特許文献11】特開2009-205950号公報
【特許文献12】特開平06-325765号公報
【特許文献13】特開2015-149171号公報
【特許文献14】特開2011-65934号公報
【特許文献15】国際公開第2012/077268号
【特許文献16】特開2015-156355号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】社団法人電池工業会機関紙「でんち」平成22年5月1日号、第10頁
【非特許文献2】A. Hohl, T. Wieder, P. A. van Aken, T. E. Weirich, G. Denninger, M. Vidal, S. Oswald, C. Deneke, J. Mayer, and H. Fuess : J. Non-Cryst. Solids, 320, (2003 ), 255.
【非特許文献3】V. Kapaklis, J. Non-Crystalline Solids, 354 (2008) 612
【非特許文献4】Mariko Miyachi, Hironori Yamamoto, and Hidemasa Kawai, J. Electrochem. Soc. 2007 volume 154, issue 4, A376-A380
【非特許文献5】M. Yamada, A. Inaba, A. Ueda, K. Matsumoto, T. Iwasaki, T. Ohzuku, J. Electrochem. Soc., 159, A1630 (2012)
【非特許文献6】Taeahn Kim, Sangjin Park, and Seung M. Oh, J. Electrochem. Soc. volume 154,(2007), A1112-A1117.
【非特許文献7】Hye Jin Kim, Sunghun Choi, Seung Jong Lee, Myung Won Seo, Jae Goo Lee, Erhan Deniz, Yong Ju Lee, Eun Kyung Kim, and Jang Wook Choi,. Nano Lett. 2016, 16, 282-288.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
高い充放電容量を持つ珪素系材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高容量、高初回効率かつ実用レベルに耐えうるサイクル特性が望まれている。珪素系材料の中では、酸化珪素がより高いサイクル特性を得る可能性があり、初回効率においてもリチウムドープにより大幅な改善が行われて来た。しかしながら、上記、負極活物質に関する様々な技術を以てしても、充放電の繰り返しを行うにあたり、負極活物質表面における電解液の分解抑制が不十分であり、実用レベルに耐えうるサイクル特性が得られていなかった。
【0019】
その理由としては、以下のことが考えられる。例えば、特許文献14では、水による湿式分級を行い、表面Si酸化状態が変化し、かつxの値が大きく異なるSiOx粉末を用いて、D90/D10および1μm以下の微粉量を規定しており、初回効率およびサイクル特性と粒度分布の相対的な評価ができていない。
【0020】
また、特許文献15では、(特許文献14と同様に水による湿式分級で得られた)SiOx粉末のD50とD50/D10を規定している。しかしながら、実施例ではD50が4.41~5.35μmと比較的粒径が小さい中での初期放電容量の差を述べているだけであり、D50が約5μmである実施例とD50が9.36μmである比較例にサイクル特性(10サイクル)の差はないとの記載がある。一般的にコイン電池評価では、充放電サイクルを繰り返すことでLi正極が劣化してくるため、50サイクルを超える長期サイクル試験には不向きである。したがって、電解液と負極活物質との反応による負極の劣化を評価するには100サイクルを超える充放電サイクルが必要であり、正極には正極活物質としてLCO(コバルト酸リチウム)などを用いたフルセルで行う必要がある。
【0021】
また、粒径1μm以下の微粉は比表面積が大きいことから、サイクル特性を悪化させる大きな要因となるが、1μm以下の微粉をほぼ含まない粒度分布を有する粉末においては、さらなるサイクル特性の向上には、1μmより大きな粒子径での規定が必要となる。
【0022】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、二次電池の負極電極に負極活物質として用いた際に、高い初回効率を維持しながら、サイクル特性を向上させることが可能な負極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために、本発明では、炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子からなる負極活物質であって、前記一酸化珪素粒子は、レーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布において、粒子径が1μm以下の相対粒子量の積算値が1%以下、粒子径が5μm以下の相対粒子量の積算値が20%以下、累積50%径D50が6.0μm≦D50≦15.0μmを満たすことを特徴とする負極活物質を提供する。
【0024】
本発明の負極活物質は、リチウムドープがされた一酸化珪素粒子からなる負極活物質であるので、高い初回効率を維持することができるとともに、上記のような粒度分布を有することによって、充放電を繰り返す長期サイクル試験において、負極活物質の粒子表面における電解液との反応が抑制され、電池のサイクル特性を大幅に向上させることができる。
【0025】
このとき、一酸化珪素粒子は、前記粒子径が5μm以下の相対粒子量の積算値が10%以下であることが好ましい。
【0026】
また、前記一酸化珪素粒子は、累積99.9%粒子径をD99.9としたときに18.0μm≦D99.9≦50.0μmであることが好ましい。
【0027】
これらのような粒子径分布を有する一酸化珪素を含む負極活物質によれば、粒子表面における電解液との反応がより効果的に抑制され、電池のサイクル特性を大幅に向上させることができる。
【0028】
また、本発明の負極活物質においては、前記炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子は、リチウムの少なくともその一部がLi2SiO3として存在することが好ましい。
【0029】
このような負極活物質はドープされたリチウムがLi2SiO3として存在するため、電池にした際に優れた充放電特性およびサイクル特性が得られる。
【0030】
また、本発明の負極活物質においては、前記炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子は、負極活物質を充放電する前において、Cu-Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因するピークを有し、該結晶面に対応する結晶子サイズは5.0nm以下であり、かつ、Li2SiO3(111)結晶面に起因するピークの強度Bに対する前記Si(111)結晶面に起因するピークの強度Aの比率A/Bは、0.5≦A/B≦1.0を満たすことが好ましい。
【0031】
A/Bがこのような範囲である負極活物質はリチウムドープ量が適切であり、電池にした際に優れた充放電特性およびサイクル特性が得られる。
【0032】
また、前記炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子の真密度は、2.3g/ccより大きく、2.4g/ccより小さいことが好ましい。
【0033】
真密度が上記範囲であれば、一酸化珪素とドープされたリチウムの反応率が所望の範囲内であり、一酸化珪素の粒子へのLiの挿入が適切に行われた負極活物質である。よって、サイクル特性がより向上する。
【0034】
また、本発明は、上記の負極活物質を含むことを特徴とする負極を提供する。
【0035】
このような負極は、二次電池に組み込んだときに、充放電を繰り返す長期サイクル試験において、負極活物質の粒子表面における電解液との反応が抑制され、優れた初期電池特性を維持しながら、電池のサイクル特性を大幅に向上させることができる。
【0036】
また、本発明は、上記の負極と、正極と、セパレータと、電解質とを具備することを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
【0037】
このようなリチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返す長期サイクル試験において、負極活物質の粒子表面における電解液との反応が抑制され、優れた初期電池特性を維持しながら電池のサイクル特性を大幅に向上させることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の負極活物質は、上記のような粉体特性の範囲を有することにより、充放電を繰り返す長期サイクル試験において、一酸化珪素粒子表面における電解液との反応が抑制され、優れた初期電池特性を維持しながら、長期サイクル特性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】実施例1、2、4及び比較例2の一酸化珪素粒子の相対粒子量の頻度積算グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明者らは長期サイクル特性における負極の劣化が負極活物質の粒子表面における電解液の分解による所が大きいことを鑑み、負極活物質の基材となる一珪素酸化粒子の小径域の粒径制御において鋭意検討を重ねた結果、特定の粒度分布かつ粉体物性において、初期充放電特性を維持したまま、サイクル特性を大幅に向上させることが可能であることが判明し、本発明に至った。
【0041】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
<負極活物質>
本発明の負極活物質は、炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子からなる負極活物質である。さらに、当該一酸化珪素粒子は、レーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布において、以下の条件を満たす。
・粒子径が1μm以下の相対粒子量の積算値が1%以下、
・粒子径が5μm以下の相対粒子量の積算値が20%以下、
・累積50%径D50が6.0μm≦D50≦15.0μm。
【0043】
さらに好ましくは、本発明の負極活物質に含まれる一酸化珪素粒子は、粒子径が5μm以下の相対粒子量の積算値が10%以下である。また、本発明の負極活物質に含まれる一酸化珪素粒子は、累積99.9%粒子径をD99.9としたときに18.0μm≦D99.9≦50.0μmであることが好ましい。
【0044】
酸化珪素とは、非晶質の酸化珪素の総称であり、不均化前の酸化珪素は、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される。この酸化珪素は、例えば、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出することで、xが1または1に近い一酸化珪素(SiO)が得られる。例えば、0.9≦x≦1.1である。
【0045】
一酸化珪素粒子を、上記した本発明の特定の粒径範囲とするためには、粉砕や分級等の処理により適宜調整することができる。粉砕には良く知られた装置を使用することができる。例えば、ボール、ビーズ等の粉砕媒体を運動させ、その運動エネルギーによる衝撃力や摩擦力、圧縮力を利用して被砕物を粉砕するボールミル、媒体撹拌ミルや、ローラによる圧縮力を利用して粉砕を行うローラミルや、被砕物を高速で内張材に衝突もしくは粒子相互に衝突させ、その衝撃による衝撃力によって粉砕を行うジェットミルや、ハンマー、ブレード、ピン等を固設したローターの回転による衝撃力を利用して被砕物を粉砕するハンマーミル、ピンミル、ディスクミルや、剪断力を利用するコロイドミルやスギノマシン製の高圧湿式対向衝突式分散機「アルティマイザー」等が用いられる。粉砕は、湿式、乾式共に用いられる。なお、粉砕だけでは粒度分布がブロードになるが、さらに、粉砕後に粒度分布を整えるため、乾式分級や湿式分級もしくはふるい分け分級が用いられる。乾式分級は、主として気流を用い、分散、分離(細粒子と粗粒子の分離)、捕集(固体と気体の分離)、排出のプロセスが逐次もしくは同時に行われ、粒子相互間の干渉、粒子の形状、気流の流れの乱れ、速度分布、静電気の影響等で分級効率を低下させないよう、分級をする前に前処理(水分、分散性、湿度等の調整)を行うことや、使用される気流の水分や酸素濃度を調整して用いられる。また、サイクロン等の乾式で分級機が一体となっているタイプでは、一度に粉砕、分級が行われ、所望の粒度分布とすることが可能となる。なお、本発明の一酸化珪素粒子の粒度分布とする際に、一酸化珪素粒子のBET比表面積が大きくならないようなジェットミル粉砕を行い、かつ分級機により小粒径側を気流分級によりカットすることが好ましい。
【0046】
また、一酸化珪素粒子の累積50%径D50は、上記のように、6.0~15.0μmとし、好ましくは7.5~15.0μmとする。また、一酸化珪素粒子の累積99.9%径D99.9は18.0~50.0μmが好ましく、25.0~50.0μmがさらに好ましい。一方で、D99.9が50.0μm以下であれば、充放電によって粗大粒子が膨張収縮することを抑制でき、負極活物質層内で導電パスが失われるおそれを低減することができる。また、電極作製後に、プレス等によって粗大粒子がセパレータを傷つけることも防止できる。
【0047】
一酸化珪素粒子の粒度分布は、レーザー回折法粒度分布測定装置で確認することができ、例えば、以下の条件により行うことができる。
・装置: 島津製作所SALD-3100
・屈折率: 2.05-0.00i
【0048】
また、基材となる一酸化珪素粒子のBET比表面積(N2ガス吸着量によって測定するBET1点法にて測定した値である。)は、1.0~10m2/gが好ましく、1.0~3.5m2/gがさらに好ましい。BET比表面積を3.5m2/g以下にすることで、電解液と一酸化珪素粒子との反応面積が下がり、リチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた際にサイクル特性を大幅に向上させることができる。また、BET比表面積は1.0m2/g以上とすることが好ましい。この理由は、6.0μm≦D50≦15.0μmの一酸化珪素粒子に対して、BET比表面積が1.0m2/g未満の一酸化珪素粒子を作製することは工業的に困難であるからである。
【0049】
上記一酸化珪素粒子に導電性を付与し、電池特性の向上を図る方法として、黒鉛等の導電性のある粒子と混合する方法、上記複合粒子の表面を炭素被膜で被覆する方法、及びその両方を組み合わせる方法が挙げられる。中でも、本発明の負極活物質では、一酸化珪素粒子の表面が、炭素被膜で被覆されている被覆粒子とする。炭素被膜で被覆する方法としては、化学蒸着(CVD)する方法が好適である。
【0050】
化学蒸着(CVD)の方法としては、例えば、一酸化珪素粒子に対して、熱分解して炭素を生成し得る有機物ガス雰囲気中、600~1,200℃の温度範囲で炭素を化学蒸着して炭素被膜を形成させる方法が挙げられる。
【0051】
化学蒸着(CVD)は、常圧、減圧下共に適用可能であり、減圧下としては、50~30,000Paの減圧下が挙げられる。また、炭素被膜の形成工程に使用する装置は、バッチ式炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルンといった連続炉、流動層等の一般的に知られた装置が使用可能である。特に、蒸着装置が粒子を静置して行うバッチ式炉の場合、減圧下で行うことにより炭素をさらに均一に被覆することができ、電池特性の向上を図ることができる。
【0052】
化学蒸着による炭素被膜の形成には、下記のような様々な有機物がその炭素源として挙げられるが、熱分解温度や蒸着速度、また蒸着後に形成される炭素被膜の特性等は、用いる物質によって大きく異なる場合がある。蒸着速度が大きい物質は表面の炭素被膜の均一性が十分でない場合が多く、反面分解に高温を要する場合、高温での蒸着時に、被覆される一酸化珪素粒子中の珪素結晶が大きく成長し過ぎて、放電効率やサイクル特性の低下を招くおそれがある。そのため、上記CVDの温度範囲は950℃以下で行うことがさらに好ましく、850℃以下で行うことが最も好ましい。
【0053】
熱分解して炭素を生成し得る有機物ガスの原料としては、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環~3環の芳香族炭化水素、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油及びナフサ分解タール油等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜選択して用いることができる。経済的な観点から、CxHyの組成からなる炭化水素ガスを使用することが好ましい。
【0054】
炭素被膜の被覆量は、炭素被覆した被覆粒子全体に対して1.0質量%以上5.0質量%以下が好ましい。被覆される粒子にもよるが、炭素被覆量を1.0質量%以上とすることで、概ね十分な導電性を維持することができる。また、炭素被覆量が5.0質量%以下とすることで、負極活物質材料に占める炭素の割合を多くしすぎることなく適度とすることができ、リチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた場合に充放電容量を確保できる。
【0055】
次に、上記の炭素被膜で被覆された一酸化珪素粒子にLiドープし、Liドープされた一酸化珪素粒子を含む負極活物質粒子を作製する。一酸化珪素粒子は、Liドープにより改質され、一酸化珪素粒子内部にLi化合物が生成する。一酸化珪素粒子におけるSi結晶子サイズを粗大化させないようにするため、Liドープは酸化還元法により行うことが好ましい。このLiドープにより、一酸化珪素粒子における不可逆容量を減少させることができ、初回効率の向上に寄与する。また、このとき、リチウムの少なくともその一部がLi2SiO3として存在するようにLiをドープすることが好ましい。Li2SiO3はシリケートの中でも耐水性が高いため、負極スラリーを安定させることができる。リチウムシリケートの種類の調整は、Liドープ工程の条件を調整することによって行うことができる。
【0056】
酸化還元法による改質では、例えば、まず、エーテル溶媒にリチウムを溶解した溶液Aに一酸化珪素粒子を浸漬することで、リチウムを挿入できる。この溶液Aに更に多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物を含ませても良い。リチウムの挿入後、多環芳香族化合物やその誘導体を含む溶液Bに一酸化珪素粒子を浸漬することで、一酸化珪素粒子から活性なリチウムを脱離できる。この溶液Bの溶媒は例えば、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、アミン系溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。または溶液Aに浸漬させた後、得られた一酸化珪素粒子を不活性ガス下で熱処理しても良い。熱処理することでLi化合物を安定化することができる。熱処理温度は、450~700℃が好ましく、500~650℃がさらに好ましい。その後、アルコール、炭酸リチウムを溶解したアルカリ水、弱酸、又は純水などで洗浄する方法などで洗浄しても良い。
【0057】
溶液Aに用いるエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。この中でも特にテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタンを用いることが好ましい。これらの溶媒は、脱水されていることが好ましく、脱酸素されていることが好ましい。
【0058】
また、溶液Aに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができ、直鎖ポリフェニレン化合物としては、ビフェニル、ターフェニル、及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0059】
溶液Bに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0060】
また、溶液Bのエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテル等を用いることができる。
【0061】
ケトン系溶媒としては、アセトン、アセトフェノン等を用いることができる。
【0062】
エステル系溶媒としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、及び酢酸イソプロピル等を用いることができる。
【0063】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、及びイソプロピルアルコール等を用いることができる。
【0064】
アミン系溶媒としては、メチルアミン、エチルアミン、及びエチレンジアミン等を用いることができる。
【0065】
本発明は、上記、一酸化珪素粒子が炭素膜で被覆され、かつリチウムドープされた負極活物質を用いて、負極を作製し、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0066】
炭素膜で被覆され、かつリチウムドープされた一酸化珪素粒子からなる負極活物質において、Si結晶子サイズおよびリチウムシリケートの結晶化度は、例えば以下のXRD装置を用いて確認する事ができる。
・XRD:Bruker社 D8 ADVANCE
X線源はCu Kα線、Niフィルターを使用して、出力40kV/40mA、スリット幅0.3°、ステップ幅0.008°、1ステップあたり0.15秒の計数時間にて10-40°まで測定する。
【0067】
炭素被膜で被覆され、リチウムドープされた一酸化珪素粒子からなる負極活物質のSi結晶子サイズは粉体XRD測定における2θ=28.4±0.3°付近に表れるSi(111)ピークの半値幅からシェラー法により求められ、5nm以下であることが好ましく、非晶質であることがさらに好ましい。Si結晶子サイズが小さいほど、充放電に伴う一酸化珪素の不均化が抑制され、より高いサイクル特性を得ることができる。また、リチウムドープ量およびリチウムドープ後の熱処理温度により、負極活物質におけるSi(111)のピーク強度A、および2θ=26.5±0.3°付近に表れるLi2SiO3(111)のピーク強度Bが変化するが、それらの比率A/Bは0.5≦A/B≦1.0であることが好ましい。この範囲である負極活物質はリチウムドープ量および熱処理温度が適切であり、電池にした際に優れた充放電特性およびサイクル特性が得られる。
【0068】
また、本発明における、炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子の真密度は、2.3g/ccより大きく、2.4g/ccより小さいことが好ましい。この真密度は、一酸化珪素の粒子へのリチウムドープの度合いによって変化する。真密度が上記範囲であれば、一酸化珪素とドープされたリチウムの反応率が所望の範囲内であり、一酸化珪素の粒子へのLiの挿入が適切に行われた負極活物質である。よって、サイクル特性がより向上する。
【0069】
[負極]
上記負極活物質を用いて負極を作製する場合、さらにカーボンや黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよい。具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粒子や金属繊維又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粒子、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。
【0070】
負極の調製方法としては、一例として下記のような方法が挙げられる。上述の負極活物質と、必要に応じて導電剤と、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する)等の結着剤等の他の添加剤と、有機溶剤又は水等の溶剤を混練してペースト状の合剤とし、この合剤を集電体のシートに塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0071】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、少なくとも、正極と、負極と、リチウムイオン導電性の非水電解質とを有するリチウムイオン二次電池であって、上記負極に、本発明に係る負極活物質が用いられたものである。その他の正極、電解質、セパレータ等の材料及び電池形状等は公知のものを使用することができ、特に限定されない。上述のように、本発明の負極活物質は、リチウムイオン二次電池用の負極活物質として用いた場合の電池特性(充放電容量及びサイクル特性)が良好で、特にサイクル耐久性に優れたものである。
【0072】
正極活物質としてはLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、V2O5、MnO2、TiS2、MoS2等の遷移金属の酸化物、リチウム、及びカルコゲン化合物等が用いられる。
【0073】
電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられる。非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ-ブチロラクトン、2-メチルテトラヒドロフラン等の1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用することができる。
【実施例0074】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0075】
[実施例1]
まず、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出することで、xがほぼ1.0の一酸化珪素(SiOx)を得た。次に、このSiOx(x=1.0)をジョークラッシャー(前川工業所製)で粗砕し、さらに、ボールミル(マキノ製)で15分間粉砕し、D50が100μmの一酸化珪素粒子を得た。この粒子をジェットミル(栗本鐵工所製KJ800)で、圧縮空気の圧力0.58MPa、分級機の回転数3,500rpmの条件で微粉砕し、サイクロンで回収した。この粒子をレーザー回折法粒度分布測定装置(島津製作所SALD-3100)で屈折率2.05-0.00iの条件で測定したところ、粒子径が1μm以下の相対粒子量の積算値が0.0%、粒子径が5μm以下の相対粒子量の積算値が20.0%、D50が7.9μm、D99.9が28.1μm、BET比表面積が2.9m2/gの一酸化珪素粒子であった。
【0076】
この粒子を粉体層厚みが10mmとなるようトレイに敷き、バッチ式加熱炉内に仕込んだ。そして油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、200℃/hrの昇温速度で炉内を850℃に昇温した。そして850℃に達した後、炉内にプロパン0.3L/minで通気し、12時間の炭素被覆処理を行った。プロパン停止後、炉内を降温・冷却し、回収した凝集体を解砕することで黒色粒子を得た。黒色粒子は炭素被覆量(黒色粒子全体の質量に対する炭素被覆の質量)2.8質量%の導電性粒子であった。続いて、50質量ppmまで水分を低減させた溶媒を使用し、酸化還元法により一酸化珪素粒子にリチウムドープし、不活性ガス雰囲気下600℃で熱処理し改質を行った。
【0077】
得られた負極活物質は、D50が7.9μm、真密度が2.34g/ccであった。また、負極活物質をCu-Kα線を用いたX線回折で測定したところ、Si(111)結晶面に起因するピークを有しており、Si(111)結晶面に対応する結晶子サイズは5.0nmであった。また、当該X線回折測定において、Li2SiO3(111)結晶面に起因するピークの強度Bに対する前記Si(111)結晶面に起因するピークの強度Aの比率A/Bは0.55であった。
【0078】
<電池評価>
次に、以下の方法で、得られた炭素被膜粒子を負極活物質として用いた電池評価を行った。
【0079】
まず、負極活物質、グラファイト、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2(メジアン径が約50nmの炭素微粒子)、ポリアクリル酸ナトリウム、CMCを9.3:83.7:1:1:4:1の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。
【0080】
このスラリーを厚さ15μmの銅箔に塗布し、真空雰囲気中で100℃1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は7.0mg/cm2であった。
【0081】
次に、溶媒エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合した後、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でEC:DMC=30:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。添加剤として、ビニレンカーボネート(VC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)をそれぞれ、1.0質量%、2.0質量%添加した。
【0082】
次に、以下のようにしてコイン電池を組み立てた。
【0083】
最初に厚さ1mmのLi箔を直径16mmに打ち抜き、アルミクラッドに張り付けた。得られた電極を直径15mmに打ち抜き、セパレータを介してLi対極と向い合せ電解液注液後、2032コイン電池を作製した。
【0084】
初回効率は以下の条件で測定した。まず充電レートを0.03C相当で行った。CCCVモードで充電を行った。CVは0Vで終止電流は0.04mAとした。放電レートは同様に0.03C、放電電圧は1.2V、CC放電を行った。
【0085】
初期充放電特性を調べる場合には、初回効率(以下では初期効率と呼ぶ場合もある)を算出した。初回効率は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。
【0086】
得られた初期データから、対正極を設計し、電池評価を行った。正極活物質はLCO(コバルト酸リチウム)を使用した。
【0087】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に、電池安定化のため25℃の雰囲気下、0.2Cで2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。電池サイクル特性は3サイクル目の放電容量から計算し,放電容量の維持率が70%に達した所で電池試験をとめた。充放電は充電0.7C、放電0.5Cで行った。充電電圧は4.3V、放電終止電圧は2.5V,充電終止レートは0.07Cとした。
【0088】
[実施例2~6、比較例1~4]
実施例1と同じSiOx(x=1.0)を同様にボールミルでD50を100μmにした。次のジェットミル工程で分級機の回転数、粉砕圧および雰囲気制御を行い、表1に示される粉体物性を有する一酸化珪素粒子を作製した。実施例1と同様の方法で、一酸化珪素粒子に炭素膜を被覆させ、リチウムドープを行い、導電性粒子を作製した。このようにして得られた導電性粒子を用いて負極を作製し、電池評価を行った。
【0089】
[実施例7]
実施例1と同じD50を7.9μmに調整した一酸化珪素粒子を用い、リチウムドープ後の熱処理温度を630℃としたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質を作製し、負極を作製して電池評価を行った。
【0090】
[実施例8]
実施例1と同じD50を7.9μmに調整した一酸化珪素粒子を用い、リチウムドープ後の熱処理温度を700℃としたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質を作製し、負極を作製して電池評価を行った。
【0091】
[比較例5~7]
比較例5~7では、それぞれ、実施例1、2、4で得られた炭素被膜で被覆した一酸化珪素粒子に、リチウムドープ処理を行わずに、そのまま負極を作製し、電池評価を行った。
【0092】
[実施例9]
実施例1と同じD50を7.9μmに調整した一酸化珪素粒子を用い、リチウムドープ後の熱処理温度を730℃としたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質を作製し、負極を作製して電池評価を行った。
【0093】
[実施例10]
実施例1と同じD50を7.9μmに調整した一酸化珪素粒子を用い、リチウムドープ後の熱処理温度を800℃としたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質を作製し、負極を作製して電池評価を行った。
【0094】
実施例および比較例の粉体物性および電池特性を表1に示す。また、
図1に実施例1、2、4および比較例2の一酸化珪素粒子の相対粒子量の頻度積算グラフを示す。
図1に示すように、実施例1、2、4では、本発明の粒度分布を満たしているが、比較例2では本発明の粒度分布の範囲を満たしていない。
【0095】
【0096】
表1から、実施例1~10は比較例1~7に比べて、初期充放電特性を維持したまま、サイクル特性が大幅に改善されたリチウムイオン二次電池であることが確認された。特に、実施例2~4および6の粒子径5μm以下の相対粒子量が10%以下の条件では、極めて優れたサイクル特性が得られている。対して、比較例1および2では、粒子径5μm以下の相対粒子量が多いため、実施例ほどのサイクル特性が得られなかった。また、比較例3および4では、D99.9が50μmを超える粒度分布を持った一酸化珪素粒子からなる負極活物質により、サイクル特性が低下してしまうことが確認された。充放電によって粗大粒子が膨張収縮し、導電パスが失われたと推定される。また、比較例5~7では、リチウムドープ処理をしていないことから、サイクル特性は良好であったが、初回効率が低下している。また、実施例9および10では初回効率は高いがリチウムドープ後の熱処理温度が高かったために、Si結晶子サイズが5nmよりも大きくなった。そのため、実施例1~8に比べてサイクル特性が低下している。ただし、実施例9および10では、比較例1~4よりも結果は向上した。
【0097】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
前記一酸化珪素粒子は、累積99.9%粒子径をD99.9としたときに18.0μm≦D99.9≦50.0μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の負極活物質。
前記炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子は、負極活物質を充放電する前において、Cu-Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因するピークを有し、該結晶面に対応する結晶子サイズは5.0nm以下であり、かつ、Li2SiO3(111)結晶面に起因するピークの強度Bに対する前記Si(111)結晶面に起因するピークの強度Aの比率A/Bは、0.5≦A/B≦1.0を満たすことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極活物質。
前記炭素被膜で被覆され、かつリチウムがドープされた一酸化珪素粒子の真密度は、2.3g/ccより大きく、2.4g/ccより小さいことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の負極活物質。