(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187846
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】熱センサ、熱的影響評価システム及び熱的影響評価方法
(51)【国際特許分類】
G01K 11/12 20210101AFI20221213BHJP
G01N 25/20 20060101ALI20221213BHJP
G01K 17/00 20060101ALI20221213BHJP
G01R 31/12 20200101ALN20221213BHJP
【FI】
G01K11/12 B
G01N25/20 Z
G01K17/00 Z
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096051
(22)【出願日】2021-06-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 送付日 令和3年5月11日 一般社団法人 電気学会
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 静枝
(72)【発明者】
【氏名】田所 兼
(72)【発明者】
【氏名】市川 路晴
【テーマコード(参考)】
2F056
2G015
2G040
【Fターム(参考)】
2F056VF12
2F056VF20
2G015AA15
2G015CA02
2G040AA05
2G040AB12
2G040BA14
2G040BA25
2G040CA12
2G040CA23
2G040CB12
2G040DA10
2G040DA12
2G040EA05
2G040EB06
2G040EC02
2G040FA04
2G040FA10
2G040HA05
(57)【要約】
【課題】簡便且つ正確に熱的影響評価を行う熱センサ、熱的影響評価システム及び熱的影響評価方法を提供する。
【解決手段】断熱材140は平板状である。熱反応フィルム130は、断熱材140の一方の面状に配置される。遮光フィルム120は、熱反応フィルム130の断熱材140とは逆の面に接触して熱反応フィルム130を覆い、熱反応フィルム130の受熱量を低減する。断熱材110は、遮光フィルム120の熱反応フィルム130とは逆の面側に配置され、遮光フィルム120を通して熱反応フィルム130が覗く開口111を有する平板状であり、熱反応フィルム130及び遮光フィルム120を断熱材140とで挟持する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の第1断熱材と
前記第1断熱材の一方の面状に配置された熱反応フィルムと、
前記熱反応フィルムの前記第1断熱材とは逆の面に接触して前記熱反応フィルムを覆い、前記熱反応フィルムの受熱量を低減する遮光フィルムと、
前記遮光フィルムの前記熱反応フィルムとは逆の面側に配置され、前記遮光フィルムを通して前記熱反応フィルムが覗く開口を有する平板状であり、前記熱反応フィルム及び前記遮光フィルムを前記第1断熱材とで挟持する第2断熱材と
を備えたことを特徴とする熱センサ。
【請求項2】
前記第1断熱材は、前記第2断熱材の前記開口と対向する位置に前記熱反応フィルムとの間に空間を形成する凹部を有することを特徴とする請求項1に記載の熱センサ。
【請求項3】
前記熱反応フィルムは、受熱量に応じてシアン及びマゼンタの色を発色することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱センサ。
【請求項4】
前記遮光フィルムによる前記熱反応フィルムの受熱量の低減率が調整可能であることを特徴とする請求項1~3の何れか一つに記載の熱センサ。
【請求項5】
熱センサ及び受熱量算出装置を有する熱的影響評価システムであって、
前記熱センサは、
平板状の第1断熱材と
前記第1断熱材の一方の面状に配置された熱反応フィルムと、
前記熱反応フィルムの前記第1断熱材とは逆の面に接触して前記熱反応フィルムを覆う遮光フィルムと、
前記遮光フィルムの前記熱反応フィルムとは逆の面側に配置され、前記遮光フィルムを通して前記熱反応フィルムが覗く開口を有する平板状であり、前記熱反応フィルム及び前記遮光フィルムを前記第1断熱材とで挟持する第2断熱材とを備え、
前記受熱量算出装置は、
前記熱反応フィルムの反応色のCMY値を取得して、前記熱反応フィルムの反応色のCMY値に対応する受熱量を、受熱量算出関数から算出する受熱量算出部を備えた
ことを特徴とする熱的影響評価システム。
【請求項6】
前記熱反応フィルムは、受熱量に応じてシアン及びマゼンタの色を発色することを特徴とし、
前記受熱量算出部は、前記熱反応フィルムの反応色のCMY値におけるC値とM値とを乗算した値をY値で除算して求められるMY/C値を基に、前記熱反応フィルムの反応色のCMY値に対応する受熱量を前記受熱量算出関数を用いて算出する
ことを特徴とする請求項5に記載の熱的影響評価システム。
【請求項7】
前記受熱量算出関数は、前記MY/C値と前記受熱量とを一意に対応付ける単調増加関数であることを特徴とする請求項6に記載の熱的影響評価システム。
【請求項8】
平板状の第1断熱材と、前記第1断熱材の一方の面状に配置された熱反応フィルムと、前記熱反応フィルムの前記第1断熱材とは逆の面に接触して前記熱反応フィルムを覆う遮光フィルムと、前記遮光フィルムの前記熱反応フィルムとは逆の面側に配置され、前記遮光フィルムを通して前記熱反応フィルムが覗く開口を有する平板状であり、前記熱反応フィルム及び前記遮光フィルムを前記第1断熱材とで挟持する第2断熱材とを備えた熱センサを用いた熱的影響評価方法であって、
前記開口及び前記遮光フィルムを通過した熱により前記熱反応フィルムを発色させ、
前記熱反応フィルムの反応色のCMY値を取得し、
前記熱反応フィルムの反応色のCMY値に対応する受熱量を、受熱量算出関数から算出する
ことを特徴とする熱的影響評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱センサ、熱的影響評価システム及び熱的影響評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力流通業界では、万一の短絡故障時にも公衆災害に至らない安全且つ安心な設備形成が望まれている。例えば、各種電力設備において、落雷や、材料の劣化による絶縁性能低下や、ニューマンエラーなどにより、フラッシオーバ―が発生した場合、短絡故障が生じる可能性がある。短絡故障により発生するアークは、中心部が数千~数万度と高温であり、瞬時に大きなエネルギーを放ち且つ放射光が強いことから、設備の損傷やアークからの周囲への熱的影響が懸念される。そのため、短絡故障により発生したアークから周囲への熱的影響評価を行うことが重要である。
【0003】
例えば、従来、電力設備内部でアークが発生した時における公衆安全確保を目的として、スイッチギヤや避雷器などを対象とした試験法が規定されている。また、保護具の耐アーク性能評価を行うために、作業者が着用する作業着、防護面及び高圧ゴム手袋などを対象とした試験法が定められている。これらの試験では、アークによる熱的影響を見積もる手法として、黒色の綿布であるインジケータや熱電対を用いた熱量計が用いられる。
【0004】
インジケータは、スイッチギヤなどの設備の内部アークを対象とした規格で規定されており、チェッカーボード状に配置したインジケータが設備の周囲に配置され、インジケータへの着火の有無により高圧ガスの噴出などによる熱的影響が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IEC 62271-200:2011, High-voltage switchgear and controlgear Part 200: AC metal-enclosed switchgear and controlgear for rated voltages about 1kV and up to and including 52kV.
【非特許文献2】IEC 61482-1-1:2019, Live working-Protective clothing against the thermal hazards of an electric arc-Part 1-1: Test methods-Method 1: Determination of the arc rating (ELIM, ATPV and/or EBT) of clothing materials and of protective clothing using an open arc.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の評価手法では、広域空間、多地点又は電気機器設備内の閉空間などにおいて熱的影響評価を簡便且つ正確に行うことは困難である。例えば、インジケータでは定量的な測定を行うことが困難である。また、溶融飛散物によりインジケータが着火してしまうおそれがあり、正確に熱的影響評価を行うことは困難である。また、熱量計は、定量性には優れているが、熱電対を用いて電力を計測するには波形レコーダーなどを用意することが求められ、測定操作が煩雑となる。また、熱量計本体から波形レコーダーまで熱電対を敷設することになり、電気機器設備内の閉空間などでの作業が困難となる。
【0008】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、簡便且つ正確に熱的影響評価を行う熱センサ、熱的影響評価システム及び熱的影響評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の開示する熱センサ、熱的影響評価システム及び熱的影響評価方法の一つの態様において、第1断熱材は、平板状である。熱反応フィルムは、前記第1断熱材の一方の面状に配置される。遮光フィルムは、前記熱反応フィルムの前記第1断熱材とは逆の面に接触して前記熱反応フィルムを覆い、前記熱反応フィルムの受熱量を低減する。第2断熱材は、前記遮光フィルムの前記熱反応フィルムとは逆の面側に配置され、前記遮光フィルムを通して前記熱反応フィルムが覗く開口を有する平板状であり、前記熱反応フィルム及び前記遮光フィルムを前記第1断熱材とで挟持する。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面では、本発明は、簡便且つ正確に熱的影響評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例に係る熱的影響評価システムのブロック図である。
【
図2】
図2は、実施例に係る熱センサの斜視図である。
【
図3】
図3は、実施例に係る熱センサの断面図である。
【
図4】
図4は、石英ヒータを用いた試験における熱反応フィルムのCMY値と受熱量との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、石英ヒータを用いた試験における受熱量とMY/C値との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、アーク試験における熱反応フィルムの反応色のCMY値を示す図である。
【
図7】
図7は、アーク試験における受熱量とMY/C値との関係を示す図である。
【
図8】
図8は、熱的影響評価処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願の開示する熱センサ、熱的影響評価システム及び熱的影響評価方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する熱センサ、熱的影響評価システム及び熱的影響評価方法が限定されるものではない。
【実施例0013】
図1は、実施例に係る熱的影響評価システムのブロック図である。熱的影響評価システム1は、電力設備10で発生したアークの熱量の評価を行う。熱的影響評価システム1は、熱センサ100及び受熱量算出装置20を有する。
【0014】
熱センサ100は、熱反応フィルム130を有する。熱センサ100は、アーク発生源11から300mm離れたところに設置される。この距離は、作業服の耐アーク性能を評価する規格で規定された距離である。他の評価規格を用いる場合には、熱センサ100とアーク発生源11との距離は規格に応じて調整されることが好ましい。熱センサ100は、電力設備10に設置されたアーク発生源11から発生したアークからの熱を受ける。このアークからの受熱により、熱反応フィルム130が反応して発色する。
【0015】
図2は、実施例に係る熱センサの斜視図である。また、
図3は、実施例に係る熱センサの断面図である。
図3は、
図2に示した熱センサ100のA-A’断面を示す。
【0016】
熱センサ100は、
図2に示すように、断熱材110を有する。さらに、熱センサ100は、
図2及び3に示すように、遮光フィルム120、熱反応フィルム130及び断熱材140を有する。
【0017】
断熱材110は、開口111を有する。断熱材110は、セラミック板を用いることができる。本実施例に係る断熱材110は、1辺が80mmの正方形を表面として、厚さが12mmの形状を有する。開口111は、本実施例では、直径が60mmの円形である。開口111は、断熱材110を貫通する貫通孔である。ただし、断熱材110のサイズ及び形状、並びに、開口111のサイズ及び形状は使用状態に合わせて決定されることが好ましい。
【0018】
図2のように断熱材110及び断熱材140が並べて配置された熱センサ100において、断熱材110の側を表とし、断熱材140の側を裏とした場合、熱センサ100は表側からアークの熱を受ける。以下の説明では、各層のアークの熱を受ける側を受熱面側と呼ぶ。この断熱材110が、「第2断熱材」の一例にあたる。
【0019】
熱反応フィルム130は、断熱材110と断熱材140とで挟持される。熱反応フィルム130は、熱で反応して発色するフィルムである。本実施例に係る熱反応フィルム130の厚さは100μm程度である。熱反応フィルム130は、断熱材110の開口111を通り遮光フィルム200を通過したアークの熱を受けて、受熱量に応じて発色する。
【0020】
熱反応フィルム130は、受熱量に応じて異なる色で発色するフィルムである。熱反応フィルム130は、例えば、支持体である透明のPEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂でできたフィルム上に感熱発色剤が装着され、さらに保護層で覆われることで形成される。熱反応フィルム130は、色の変化で熱分布を表す。
【0021】
本実施例に係る熱反応フィルム130における受熱に対する発色剤は、シアン及びマゼンタの色が用いられる。そして、熱反応フィルム130は、受熱量に応じてシアンやマゼンタなどの反応色を発色する。
【0022】
断熱材110と熱反応フィルム130との間には、遮光フィルム120が設けられる。言い換えれば、遮光フィルム120は、熱反応フィルム130の受熱面側に設けられる。遮光フィルム120は、ポリイミドフィルムである。遮光フィルム120は、例えば、厚さ50μmである。遮光フィルム120は、熱耐性の高い保護フィルムである。遮光フィルム120は、熱反応フィルム130をアークの熱などから保護する。そして、遮光フィルム120と熱反応フィルム130とは接触した状態で配置される。このように遮光フィルム120と熱反応フィルム130とを密着させることで、熱反応フィルム130と遮光フィルム120との間の空間の状態による熱反応フィルム130の反応色の変化を抑制することができる。
【0023】
断熱材140は、例えば、ケイ酸カルシウムを主原料として特殊補強繊維配合したルミボードを用いることができる。本実施例に係る断熱材140は、1辺が80mmの正方形を表面として、厚さが12mmの形状を有する。断熱材140は、断熱材110の開口111と対向する位置、すなわち熱反応フィルム130が配置される側に、凹部141が設けられる。凹部141は、例えば、直径40mmの円形の開口を有し、深さ9.5mmの空間である。断熱材140は比熱が大きいため温度上昇が小さい。そのため、断熱材140と熱反応フィルム130とが接触した状態では、熱反応フィルム130の温度上昇が低下し発色が悪くなる。そこで、凹部141により熱反応フィルム130と断熱材140との間に空間を形成することで、熱反応フィルム130の温度が確実に上昇し、発色が適切に行われるようにすることができる。この断熱材140が、「第1断熱材」の一例にあたる。
【0024】
ここで、凹部141が無くても熱反応フィルム130の温度上昇が十分に行われるのであれば、断熱材140は、凹部141が設けられなくてもよい。断熱材140のサイズ及び形状、並びに、凹部141の有無、サイズ及び形状は使用状態に応じて決定されることが好ましい。ただし、断熱材140の形状が異なると受熱量に対する熱反応フィルム130の発色に違いが出るため、以下で行う受熱量の算出において同じ関数を用いるのであれば、異なる形状の断熱材140の混在は避ける必要がある。
【0025】
図1に戻って説明を続ける。受熱量算出装置20は、アークにより発生した熱を受けた熱センサ100が保持する熱反応フィルム130を用いて受熱量を算出する。受熱量算出装置20は、例えば、プロセッサ、メモリ及びハードディスクを有するコンピュータにより実現される。
【0026】
以下に、受熱量算出装置20について説明する。受熱量算出装置20は、
図1に示すように、読取部21、変換部22、切出部23、受熱量算出部24、通知部25及び関数記憶部26を有する。読取部21、変換部22、切出部23、受熱量算出部24及び通知部25のそれぞれの機能は、例えば、プロセッサにより実現される。また、関数記憶部26の機能は、例えば、ハードディスクにより実現される。
【0027】
受熱したことにより発色した熱反応フィルム130が、熱センサ100から取り外される。読取部21は、熱反応フィルム130の各位置の色をRGB(Red Green Blue)値として読み込む。そして、読取部21は、熱反応フィルム130の各位置の色のRGB値を変換部22へ出力する。ここで各位置とは、読み込んだ画像の各画素の位置や、予め決められた座標系に読み込んだ画像を配置した状態での予め決められた点の位置である。
【0028】
変換部22は、熱反応フィルム130の各位置の色のRGB値の入力を読取部21から受ける。次に、変換部22は、熱反応フィルム130の各位置の色のRGB値をそれぞれCMY(Cyan Magenta Yellow)値に変換する。そして、変換部22は、熱反応フィルム130の各位置の色のCMY値を切出部23へ出力する。
【0029】
切出部23は、熱反応フィルム130の各位置の色のCMY値の入力を変換部22から受ける。そして、切出部23は、熱反応フィルム130の中心の2cm角の領域を切り出す。ここで、中心の2cm角の領域とは、開口111の中心に対応する点を対角線の交点とする1辺が2cmの正方形にあたる領域である。例えば、切出部23は、開口111の中心に対応する位置の情報の入力を受けることで領域を決定することができる。ただし、領域の切り出し方はこれに限らず、色が反応した箇所が切り出した領域全体に亘るように切り出せれば切り出す形状は他の形状でもよい。切出部23は、切り出した領域の各位置の色のCMY値を受熱量算出部24へ出力する。
【0030】
関数記憶部26は、例えば、ハードディスクなどである。関数記憶部26は、熱反応フィルム130の反応色のCMY値と受熱量との関係を表す受熱量算出関数を予め保持する。
【0031】
ここで、本実施例に係る受熱量算出装置20が用いる熱反応フィルム130の反応色のCMY値と受熱量との関係を表す受熱量算出関数について説明する。受熱量算出関数を特定するために、熱制御が容易な石英ヒータを用いて試験を行った場合の熱反応フィルム130のCMY値と受熱量との関係について説明する。
【0032】
ここでは、熱量の出力が一定である石英ヒータからの熱に熱反応フィルム130を暴露させて、受熱による発色を行わせる。さらに、熱反応フィルム130が受けた熱量は、熱反応フィルム130の代わりに熱量計を設置して、熱量計により評価した熱量とする。すなわち、ここでの受熱量は、遮光フィルム120を通過する前の熱量である。
【0033】
図4は、石英ヒータを用いた試験における熱反応フィルムのCMY値と受熱量との関係を示す図である。
図4は、横軸で受熱量を表し、縦軸でCMY値を表す。グラフ201がシアンの値であるC値の変化を表し、グラフ202がマゼンタの値であるM値の変化を表し、グラフ203がイエローの値であるY値の変化を表す。
【0034】
図4に示すように、石英ヒータを用いた試験において、熱反応フィルム130の反応色のCMY値は、受熱量への依存性を有する。受熱量が小さい領域では試案が発色するため、C値が大きくなり、受熱量が大きくなるにつれて、マゼンタの発色に伴い、M値が大きくなる。
【0035】
結果として、C値は受熱量に対して極大を有し、M値は受熱量の増加に伴い増加して飽和領域を有し、Y値は受熱量の増加と共に穏やかに増加する。そして、石英ヒータを熱源とした測定条件下における熱センサ100の受熱量の測定範囲は、熱反応フィルム130の着色が認知できる50kJ/m2から162kJ/m2である。
【0036】
このように、熱反応フィルム130の反応色のCMY値は、受熱量に対して、極大や飽和領域を有する。そこで、熱反応フィルム130の反応色と受熱量の関係が一意になり、且つ、単調に増加する関係となるように以下のパラメータを導入する。
【0037】
具体的には、M値×Y値÷C値というパラメータを導入する。以下では、このパラメータをMY/C値と呼ぶ。
図5は、石英ヒータを用いた試験における受熱量とMY/C値との関係を示す図である。
図5は、横軸で受熱量を表し、縦軸でMY/C値を表す。
【0038】
図5のグラフ210は、各受熱量に応じた測定結果から得られるMY/C値を座標空間上にプロットし、それらをシグモイド関数により近似したカーブである。グラフ210は、次の数式(1)で表される。ここで、K
0=2.90、K
1=242.7、K
2=123.5、K
3=13.0である。
【0039】
【0040】
グラフ210に示すように、MY/C値はシグモイド関数により精度よく近似することが可能である。このシグモイド関数を用いて近似されたカーブにより、熱反応フィルム130の反応色を、受熱量に対して一意に表すことができる。
【0041】
次に、電力設備10を想定した試験として、アークを発生させて熱センサ100で受熱させるアーク試験を行った場合について説明する。
図6は、アーク試験における熱反応フィルムの反応色のCMY値を示す図である。グラフ221は熱反応フィルム130の反応色のC値を表し、グラフ222は熱反応フィルム130の反応色のM値を表し、グラフ223は熱反応フィルム130の反応色のY値を表す。グラフ221~223は、いずれも横軸で受熱量を表し、それぞれ縦軸でC値、M値、Y値を表す。
【0042】
図6に示すように、アーク試験においてもCMY値の増加及び減少、並びに、極大及び飽和領域を有するといった受熱量に対する傾向は、石英ヒータを用いた試験の場合と同様である。ただし、熱反応フィルム130の反応色のCMY値と受熱量の関係は、定量的には異なる。例えば、極大値や急峻か穏やかかといった極大の状態は、それぞれで異なる。
【0043】
図7は、アーク試験における受熱量とMY/C値との関係を示す図である。
図7は、横軸で受熱量を表し、縦軸でMY/C値を表す。
【0044】
図7におけるグラフ230は、
図6で示したC値、M値、Y値からMY/C値を算出し座標空間上にプロットした点を数式(1)で示されるシグモイド関数を用いて近似したカーブである。この場合、K
0=4.68、K
1=1084、K
2=346.2、K
3=47.5である。このように、アーク試験の場合も、試験により得られた熱反応フィルム130の反応色のMY/C値に対してシグモイド関数を用いて近似したカーブを用いることで、MY/C値と受熱量とを一意に対応付ける単調増加関数を得ることができる。ただし、ここで算出したカーブは今回得られたC値、M値、Y値をプロットした点を近似するための一例の値である。そのため、フィッティイング関数の形状や係数は、計測されたC値、M値、Y値を座標空間上にプロットした点を適切に近似することができるように決定されることが好ましい。
【0045】
したがって、
図7のグラフ230で示される関数を用いることで、例えば、熱センサ100が設置された電力設備10の内部でアークが発生した場合に、アークによる受熱量を算出することができる。そこで、関数記憶部26は、グラフ230で示されるMY/C値と受熱量とを一意に対応付ける単調増加関数を受熱量算出関数として保持する。
【0046】
図1に戻って説明を続ける。受熱量算出部24は、切り出された領域の各位置の色のCMY値の入力を切出部23から受ける。そして、受熱量算出部24は、各位置のC値、M値、Y値のそれぞれを平均化した値を、受熱したことにより発色した熱反応フィルム130の反応色のCMY値とする。ここで、受熱量算出部24は、例えば、C値、M値、Y値のそれぞれの平均値を求めることで、平均化を行うことができる。
【0047】
その後、受熱量算出部24は、関数記憶部26に格納された熱反応フィルム130の反応色のMY/C値と受熱量との関係を表す受熱量算出関数を関数記憶部26から取得する。そして、受熱量算出部24は、受熱量算出関数に対して熱反応フィルム130の色のCMY値を用いて、熱センサ100の受熱量を求める。
【0048】
具体的には、受熱量算出部24は、熱反応フィルム130の反応色のCMY値から、熱反応フィルム130の反応色のMY/C値を算出する。次に、受熱量算出部24は、算出したMY/C値に対応する受熱量を
図7のグラフ230で示される受熱量算出関数から求める。これにより、受熱量算出部24は、電力設備10のアーク発生源11から発生したアークによる受熱量を求めることができる。その後、受熱量算出部24は、求めた熱センサ100の受熱量の情報を通知部25へ出力する。
【0049】
通知部25は、熱センサ100の受熱量の情報の入力を受熱量算出部24から受ける。そして、通知部25は、熱センサ100の受熱量の算出結果をモニタなどの表示装置(不図示)に表示させるなどして、電力設備10の管理者に熱的影響の評価結果を通知する。
【0050】
図8は、熱的影響評価処理のフローチャートである。次に、
図8を参照して、熱センサ100が受熱した場合の熱反応フィルム130のCMY値の算出方法について説明する。
【0051】
作業者は、受熱したことにより発色した熱反応フィルム130を熱センサ100から取り外して取得する(ステップS1)。
【0052】
読取部21は、熱反応フィルム130の各位置の色をRGB値として読み込む(ステップS2)。
【0053】
次に、変換部22は、読み込んだRGB値をCMY値に変換する(ステップS3)。
【0054】
次に、切出部23は、読み込んだ熱反応フィルム130の色が反応した領域を切り出す(ステップS4)。
【0055】
次に、受熱量算出部24は、切り出した領域における各位置のCMY値を切出部23から取得する(ステップS5)。
【0056】
次に、受熱量算出部24は、各位置のC値、M値、Y値のそれぞれを平均化した値を算出して、受熱したことにより発色した熱反応フィルム130の反応色のCMY値とする(ステップS6)。
【0057】
次に、受熱量算出部24は、熱反応フィルム130の反応色のCMY値から、熱反応フィルム130の反応色のMY/C値を算出する(ステップS7)。
【0058】
次に、受熱量算出部24は、受熱量算出関数を関数記憶部26から取得する。そして、受熱量算出部24は、熱反応フィルム130の反応色のMY/C値に対応する受熱量を、受熱量算出関数を用いて算出する(ステップS8)。
【0059】
通知部25は、受熱量算出部24により算出された熱センサ100の受熱量をモニタなどに表示させて、熱的影響の評価結果を通知する(ステップS9)。
【0060】
以上に説明したように本実施例に係る、熱センサは、熱反応フィルムの受熱面側が遮光フィルムで覆われた熱反応フィルムが、受熱面側に開口を有する断熱材で挟持された構造を有する。これにより、アーク発生時に受熱した熱センサにおける熱反応フィルムの反応色により受熱量を求めることが可能となる。したがって、簡便に熱的影響評価を行うことができる。
【0061】
また、本実施例に係る熱的影響評価システムは、単調増加で且つMY/C値と受熱量との関係を一意に表す受熱量算出関数を用いて、熱反応フィルムの反応色から熱センサの受熱量を求める。これにより、熱的影響評価システムは、精度よく受熱量を算出でき、正確に熱的影響評価を行うことが可能となる。
【0062】
(変形例)
次に、変形例について説明する。アークにより発生した熱が遮光フィルム120を通過することで、熱反応フィルム130の受熱量が低減する。そこで、熱センサ100は、遮光フィルム120の厚みなどを変え遮光量を調整することで、熱反応フィルム130の受熱量のレンジを調整することができる。
【0063】
例えば、熱反応フィルム130の厚みが50μmの場合、熱反応フィルム130の受熱量はアークにより発生した熱量の50%となり、厚みが100μmの場合、熱反応フィルム130の受熱量はアークにより発生した熱量の25%となる場合が考えられる。
【0064】
すなわち、発生するアークからの熱量が高いと想定される個所では、遮光フィルム120による遮光量を大きくして熱反応フィルム130の受熱量を抑えることができる。また、発生するアークからの熱量が低いと想定される個所では、遮光フィルム120による遮光量を小さくして熱反応フィルム130の受熱量を増大もしくは低減させないようにすることができる。これにより、熱反応フィルム130の反応色のCMY値を測定可能範囲内に適切に分布させることができ、受熱量の算出精度を向上させることが可能となる。
【0065】
ただし、この場合、遮光フィルム120の遮光量に応じて
図7に例示したMY/C値と受熱量との関係を表す受熱量算出関数が変化する。遮光フィルム120の遮光量に応じた受熱量算出関数を用いて受熱量を求めることが好ましい。
【0066】
そこで、関数記憶部26は、遮光フィルム120の遮光量に応じてそれぞれ求められた、
図7に例示したMY/C値と受熱量との関係を表す受熱量算出関数を予め記憶する。
【0067】
受熱量算出部24は、評価対象とする熱センサ100において使用された遮光フィルム120の情報を取得する。そして、受熱量算出部24は、使用された遮光フィルム120の遮光量に対応する受熱量算出関数を関数記憶部26から取得して受熱量を算出する。
【0068】
以上に説明したように、本実施例に係る熱センサは、遮光フィルムの遮光量を変化させることで熱反応フィルムの受熱量のレンジを調整することができる。これにより、想定されるアークに応じて熱反応フィルムの受熱量のレンジを調整することができ、アークからの受熱量の大小に関わらず精度よく受熱量を算出でき、正確に熱的影響評価を行うことが可能となる。