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  • 特開-固体電解質の製造方法及び製造設備 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188180
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】固体電解質の製造方法及び製造設備
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20221213BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221213BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20221213BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20221213BHJP
   H01B 1/10 20060101ALN20221213BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01B13/00 Z
C01B25/14
H01B1/10
H01B1/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160026
(22)【出願日】2022-10-04
(62)【分割の表示】P 2017180630の分割
【原出願日】2017-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 岳志
(72)【発明者】
【氏名】籠田 康人
(72)【発明者】
【氏名】井関 勇介
(72)【発明者】
【氏名】楢島 雅俊
(57)【要約】
【課題】製造設備からの廃液の排出量を低減しながら、高性能の固体電解質を製造し得る製造方法、及びその製造設備を提供する。
【解決手段】少なくともリチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含む原料を溶媒中で反応させて、固体電解質含有液を得ること、前記固体電解質含有液を固液分離すること、及び前記固液分離により得られた液体から硫黄含有化合物を除去すること、を含む固体電解質の製造方法、及びその製造装置を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともリチウム元素、硫黄元素、およびリン元素を含む原料を溶媒中で反応させて、固体電解質を含むスラリーを得ること、
前記スラリーを乾燥処理し、前記溶媒を除去すること、
前記溶媒を除去することにより得られた溶媒から硫黄含有化合物を除去すること、及び
前記硫黄含有化合物を除去することにより得られた液体を、前記スラリーを得ることにおいて溶媒として再利用すること、
を含む固体電解質の製造方法。
【請求項2】
少なくともリチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含む原料を反応槽内の溶媒中で反応させて、固体電解質を含むスラリーを得ること、
前記スラリーを乾燥処理し、前記溶媒を除去すること、
前記溶媒を除去することにより得られた溶媒から硫黄含有化合物を除去すること、及び
前記硫黄含有化合物を除去することにより得られた液体を、前記反応槽に供給すること、
を含む固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記硫黄含有化合物の除去を蒸留で行う請求項1又は2に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記硫黄含有化合物を除去した液体中の該硫黄含有化合物の含有量が、1000質量ppm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項5】
リチウム元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素を含む原料を用いる請求項1~4のいずれか1項に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒を除去することにより得られた溶媒から、更に前記原料に含まれるハロゲン元素を含む有機ハロゲン化合物を除去すること、を含む請求項5に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記有機ハロゲン化合物の除去を蒸留で行う請求項6に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記有機ハロゲン化合物を除去した液体中の該有機ハロゲン化合物の含有量が、200質量ppm以下である請求項6又は7に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項9】
ハロゲン元素を含む原料として、少なくとも下記一般式(1)に示される物質を用いる請求項5~8のいずれか1項に記載の固体電解質の製造方法。
…(1)
(一般式(1)中、Xは、ハロゲン元素である。)
【請求項10】
ハロゲン元素が、フッ素元素、塩素元素、臭素元素及びヨウ素元素から選ばれる少なくとも一種である請求項5~9のいずれか1項に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項11】
少なくともリチウム元素、硫黄元素、リン元素およびハロゲン元素を含む固体電解質の製造方法であって、
少なくとも硫化リチウム及び下記一般式(1)に示される物質を含む原料を溶媒中で反応させること、
前記原料の反応に用いた溶媒を乾燥処理し、除去すること、
前記乾燥処理により得られた溶媒から硫黄含有化合物を除去すること、及び
前記硫黄含有化合物を除去した液体を、前記反応させることにおいて、溶媒として再利用すること、
を含む固体電解質の製造方法。
…(1)
(一般式(1)中、Xは、ハロゲン元素である。)
【請求項12】
少なくともリチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含む原料を溶媒中で反応させて固体電解質を含むスラリーを得る反応装置、
前記スラリーを乾燥処理する装置、
前記乾燥処理する装置から得られた溶媒から硫黄含有化合物を除去する装置、及び
前記硫黄含有化合物を除去する装置から得られた液体を、前記反応装置に供給する手段
を備える固体電解質の製造設備。
【請求項13】
リチウム元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素を含む原料を用い、下記一般式(1)に示される物質を供給する手段を更に備える請求項12に記載の固体電解質の製造設備。
…(1)
(一般式(1)中、Xは、ハロゲン元素である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質の製造方法及び製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、携帯電話等の情報関連機器、通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。これらの機器に用いられる電池としては、エネルギー密度が高いという観点から、リチウム電池が着目されており、中でも電池内に可燃性の有機溶媒を用いないことから安全装置が不要となり、製造コスト及び生産性に優れ、また安全性にも優れていることから、固体電解質の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、硫化リチウムと五硫化二リンとヨウ化リチウムとを有機溶媒中で湿式メカニカルミリングで反応させて固体電解質を製造することが報告されている。また、特許文献2には、リチウム化合物、リン化合物及びハロゲン化合物を炭化水素及びエーテル化合物を含む溶媒中で反応させて固体電解質を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-228570号公報
【特許文献2】特開2017-100907号公報
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】実施例で用いた反応装置の模式図である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで近年、上記の情報関連機器、通信機器等の急速な普及に伴い、より安価に、多量の固体電解質が求められるようになり、これまでの規模の製造設備では不足するため、より大型の製造設備の開発が要望されるようになっている。より大型の製造設備を用いる場合、小型の製造設備では問題となっていなかったことが問題となる場合がある。例えば、特許文献1及び2に記載される製造方法のように、溶媒中で原料を反応させる方法では、得られた反応物の乾燥処理を行うこととなり、乾燥処理の負荷軽減のため、溶媒(上澄み液)を廃棄した後に乾燥処理を行うことが一般的である。しかし、より大型の製造設備を用いるようになると、溶媒の廃棄量が多くなり、製造コスト、環境負荷への影響が大きくなるため、従来のように廃棄することは困難となっている。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、製造設備からの廃液の排出量を低減しながら、高性能の固体電解質を製造し得る製造方法、及びその製造設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。
【0009】
[1]少なくともリチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含む原料を溶媒中で反応させて、固体電解質含有液を得ること、
前記固体電解質含有液を固液分離すること、及び
前記固液分離により得られた液体から硫黄含有化合物を除去すること、
を含む固体電解質の製造方法。
[2]前記硫黄含有化合物を除去した液体を、前記溶媒として用いる上記[1]に記載の固体電解質の製造方法。
[3]前記硫黄含有化合物の除去を蒸留で行う上記[1]又は[2]に記載の固体電解質の製造方法。
[4]前記硫黄含有化合物を除去した液体中の該硫黄含有化合物の含有量が、1000質量ppm以下である上記[1]~[3]のいずれか1に記載の固体電解質の製造方法。
[5]リチウム元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素を含む原料を用いる上記[1]~[4]のいずれか1に記載の固体電解質の製造方法。
[6]前記固液分離により得られた液体から、更に前記原料に含まれるハロゲン元素を含む有機ハロゲン化合物を除去すること、を含む前記[5]に記載の固体電解質の製造方法。
[7]ハロゲン元素を含む原料として、少なくとも下記一般式(1)に示される物質を用いる上記[5]又は[6]に記載の固体電解質の製造方法。
…(1)
(一般式(1)中、Xは、ハロゲン元素である。)
[8]ハロゲン元素が、フッ素元素、塩素元素、臭素元素及びヨウ素元素から選ばれる少なくとも一種である前記[5]~[7]のいずれか1に記載の固体電解質の製造方法。
[9]前記有機ハロゲン化合物の除去を蒸留で行う上記[5]~[8]のいずれか1に記載の固体電解質の製造方法。
[10]前記有機ハロゲン化合物を除去した液体中の該有機ハロゲン化合物の含有量が、200質量ppm以下である上記[5]~[9]のいずれか1に記載の固体電解質の製造方法。
[11]少なくともリチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含む原料を溶媒中で反応させて固体電解質含有液を得る反応装置、
前記固体電解質含有液を固液分離する装置、及び
前記固液分離する装置から得られた液体から硫黄含有化合物を除去する装置、
を備える固体電解質の製造設備。
[12]リチウム元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素を含む原料を用い、下記一般式(1)に示される物質を供給する手段を更に備える上記[11]に記載の固体電解質の製造設備。
…(1)
(一般式(1)中、Xは、ハロゲン元素である。)
[13]前記硫黄含有化合物を除去する装置から得られた液体を、前記反応装置に供給する手段を更に備える上記[11]又は[12]に記載の固体電解質の製造設備。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造設備からの廃液の排出量を低減しながら、高性能の固体電解質を製造し得る製造方法、及びその製造設備を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」、「~」等に係る数値は任意に組み合わせできる数値である。
【0012】
〔固体電解質の製造方法〕
本実施形態の固体電解質の製造方法は、少なくともリチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含む原料を溶媒中で反応させて、固体電解質含有液を得ること、前記固体電解質含有液を固液分離すること、及び前記固液分離により得られた液体から硫黄含有化合物を除去すること、を含むものである。
【0013】
(原料)
本実施形態で用いられる原料は、少なくともリチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含む原料である。
リチウム元素を含む原料としては、例えば、硫化リチウム(LiS)、酸化リチウム(LiO)、炭酸リチウム(LiCO)等のリチウム化合物、及びリチウム金属単体等が好ましく挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。リチウム化合物としては、イオン伝導度がより高く、優れた電池性能を得る観点から、硫化リチウム(LiS)が特に好ましい。硫化リチウム(LiS)はリチウム元素と硫黄元素とを含む原料であるが、本実施形態においては、このようにリチウム元素と硫黄元素とを含む原料であってもよいし、またリチウム金属単体のようにリチウム元素のみからなる原料であってもよいし、またリチウム元素と、硫黄元素及びリン元素以外の元素とを含む、上記酸化リチウム(LiO)、炭酸リチウム(LiCO)等のような原料であってもよい。
【0014】
リン元素を含む原料としては、例えば、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、硫化ケイ素(SiS)、硫化ゲルマニウム(GeS)、硫化ホウ素(B)、硫化ガリウム(Ga)、硫化スズ(SnS又はSnS)、硫化アルミニウム(Al)、硫化亜鉛(ZnS)、リン酸ナトリウム(NaPO)等のリン化合物、及びリン単体等が好ましく挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。リン化合物としては、イオン伝導度がより高く、優れた電池性能を得る観点から、硫化リンが好ましく、五硫化二リン(P)がより好ましい。五硫化二リン(P)等のリン化合物、リン単体は、工業的に製造され、販売されているもの等を、特に限定なく使用することができる。
【0015】
硫黄元素を含む原料としては、上記のリチウム元素を含む原料、リン元素を含む原料を挙げた原料のうち、硫黄元素を含んだものが好ましく挙げられる。また、硫黄元素を含む原料としては、硫化ナトリウム(NaS)、硫化カリウム(KS)、硫化ルビジウム(RbS)、硫化セシウム(CsS)等の硫化アルカリ金属等も好ましく挙げられる。これらの硫化アルカリ金属としては、分子量がより小さいアルカリ金属を用いることで、イオン伝導度が向上する傾向があることを考慮すると、硫化ナトリウム(NaS)がより好ましい。また、硫化アルカリ金属としては、上記リチウムを含む原料として例示した硫化リチウム(LiS)もあり、イオン伝導度の向上の観点から分子量がより小さいアルカリ金属を用いることが好ましいことを考慮すると、硫化リチウム(LiS)が好ましいことはいうまでもない。
【0016】
本実施形態において、イオン伝導度がより高く、優れた電池性能を得る観点から、原料としてハロゲン元素を含む原料を好ましく用いることができる。
ハロゲン元素を含む原料としては、例えば、下記一般式(1)に示される物質(以下、「物質X」と称することがある。)が好ましく挙げられる。
…(1)
(一般式(1)中、Xは、ハロゲン元素である。)
物質Xとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等が挙げられ、高いイオン伝導度を有する固体電解質を得る観点から、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が好ましく、臭素(Br)、ヨウ素(I)がより好ましい。これらの物質Xは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
物質Xは、不純物として含まれる水分量が少ないことが好ましい。
【0017】
また、本実施形態においては、上記原料の他、リチウム元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素を含む原料として、例えば以下の原料を用いることもできる。
硫化ケイ素(SiS)、硫化ゲルマニウム(GeS)、硫化ホウ素(B)、硫化ガリウム(Ga)、硫化スズ(SnS又はSnS)、硫化アルミニウム(Al)、硫化亜鉛(ZnS)等の硫化金属を用いて、硫黄元素を供給することができる。
【0018】
各種フッ化リン(PF、PF)、各種塩化リン(PCl、PCl、PCl)、オキシ塩化リン(POCl)、各種臭化リン(PBr、PBr)、オキシ臭化リン(POBr)、各種ヨウ化リン(PI、P)等のハロゲン化リンを用いて、リン元素とハロゲン元素とを同時に供給することができる。また、フッ化チオホスホリル(PSF)、塩化チオホスホリル(PSCl)、臭化チオホスホリル(PSBr)、ヨウ化チオホスホリル(PSI)、二塩化フッ化チオホスホリル(PSClS)、二臭化フッ化チオホスホリル(PSBrF)等のハロゲン化チオホスホリルを用いて、リン元素と硫黄元素とハロゲン元素とを同時に供給することができる。
【0019】
ヨウ化ナトリウム(NaI)、フッ化ナトリウム(NaF)、塩化ナトリウム(NaCl)、臭化ナトリウム(NaBr)等のハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ケイ素、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化セレン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化テルル、ハロゲン化ビスマス等のハロゲン化金属を用いて、ハロゲン元素を供給することができる。
【0020】
また、フッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI)等のハロゲン化リチウムを用いて、リチウム元素とハロゲン元素とを供給することができる。
【0021】
本実施形態において、リチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含む原料を用いる場合、上記の原料の中でも、リチウム化合物、硫化アルカリ金属、リン化合物を用いることが好ましく、硫化リチウム(LiS)、硫化リンを用いることが好ましく、硫化リチウム(LiS)と五硫化二リン(P)とを組み合わせて用いることが好ましい。
また、本実施形態において、リチウム元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素を含む原料を用いる場合、上記の原料の中でも、リチウム化合物、硫化アルカリ金属、リン化合物、物質X、ハロゲン化リチウムを用いることが好ましく、硫化リチウム(LiS)、硫化リン、物質X及びハロゲン化リチウム、又は硫化リチウム(LiS)、硫化リン、物質Xを用いることがより好ましく、硫化リチウム(LiS)、五硫化二リン(P)、臭素(Br)及び/又はヨウ素(I)、並びに臭化リチウム(LiBr)及び/又はヨウ化リチウム(LiI)、あるいは硫化リチウム(LiS)、五硫化二リン(P)、臭素(Br)及び/又はヨウ素(I)を用いることが更に好ましい。
【0022】
リチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含む原料の使用量は特に限定されるものではなく、所望の固体電解質に基づき適宜決定すればよい。例えば、原料として硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P)を用いる場合、硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P)の合計に対する硫化リチウム(LiS)の割合は、オルト組成近傍の組成を採用することで、化学的安定性が高く、イオン伝導度がより高く、優れた電池性能を有する固体電解質を得る観点から、好ましくは68mol%以上、より好ましくは70mol%以上、更に好ましくは72mol%以上、特に好ましくは74mol%以上であり、上限として好ましくは82mol%以下、より好ましくは80mol%以下、更に好ましくは78mol%以下、特に好ましくは76mol%以下である。
【0023】
原料として硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P)を用い、かつハロゲン元素を含む原料として物質Xを用いる場合、物質Xのモル数と同モル数の硫化リチウム(LiS)を除いた硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P)の合計モル数に対する、物質Xのモル数と同モル数の硫化リチウム(LiS)とを除いた硫化リチウム(LiS)のモル数の割合は、イオン伝導度がより高く、優れた電池性能を得る観点から、好ましくは60mol%以上、より好ましくは65mol%以上、更に好ましくは68mol%以上、更により好ましくは72mol%以上、特に好ましくは73mol%以上であり、上限として好ましくは90mol%以下、より好ましくは85mol%以下、更に好ましくは82mol%以下、更により好ましくは78mol%以下、特に好ましくは77mol%以下である。
【0024】
原料として硫化リチウム(LiS)等の硫化アルカリ金属とリン化合物と物質Xとを用いる場合、硫化アルカリ金属、リン化合物、及び物質Xの合計量に対する物質Xの含有量は、イオン伝導度がより高く、優れた電池性能を得る観点から、好ましくは1mol%以上、より好ましくは2mol%以上、更に好ましくは3mol%以上であり、上限として好ましくは50mol%以下、より好ましくは40mol%以下、更に好ましくは25mol%以下、更により好ましくは15mol%以下である。
【0025】
原料として硫化リチウム(LiS)等の硫化アルカリ金属とリン化合物と物質Xとハロゲン化リチウムとを用いる場合には、これらの合計量に対する物質Xの含有量(αmol%)、及びハロゲン化リチウムの含有量(βmol%)は、下記数式(1)を満たすことが好ましく、下記数式(2)を満たすことがより好ましく、下記数式(3)を満たすことが更に好ましく、下記数式(4)を満たすことが更により好ましい。
2≦2α+β≦100…数式(1)
4≦2α+β≦80 …数式(2)
6≦2α+β≦50 …数式(3)
6≦2α+β≦30 …数式(4)
【0026】
原料中に、ハロゲン元素として二種類の元素が含まれている場合には、一方のハロゲン元素の原料中のモル数をHMとし、もう一方のハロゲン元素の原料中のモル数をHMとすると、HMとHMとの合計に対するHMの割合は、好ましくは1mol%以上、より好ましくは10mol%以上、更に好ましくは20mol%以上、更により好ましくは30mol%以上であり、上限として好ましくは99mol%以下、より好ましくは90mol%以下、更に好ましくは80mol%以下、更により好ましくは70mol%以下である。
【0027】
また、原料中に、ハロゲン元素として臭素元素とヨウ素元素が含まれる場合には、臭素元素の原料中のモル数をBMとし、ヨウ素元素の原料中のモル数をIMとすると、BM:Iは、好ましくは1~99:99~1、より好ましくは15:85~90:10、更に好ましくは20:80~80:20、更により好ましくは30:70~75:25、特に好ましくは35:65~75:25である。
【0028】
(溶媒中で反応)
本実施形態の固体電解質の製造方法において、少なくともリチウム辺素、硫黄元素及びリン元素を含む原料の反応は、溶媒中で行うことを要する。溶媒中で反応させることにより、原料同士の接触がより促進され、反応が進行しやすくなるため、イオン伝導度が高くなり、より優れた電池性能が得られる。
【0029】
本実施形態で用いられる溶媒としては、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等の炭化水素溶媒;アルコール系溶媒、エステル系溶媒、アルデヒド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒、等の炭素原子を含む溶媒が好ましく挙げられる。
より具体的には、ヘキサン、ペンタン、2-エチルヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、クロロトルエン、ブロモベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ジメチルホルムアミド等のアルデヒド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;二硫化炭素、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等の炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、炭化水素溶媒が好ましく、芳香族炭化水素溶媒がより好ましく、トルエン、キシレン、エチルベンゼンが更に好ましく、特にトルエンが好ましい。なお、溶媒として水を用いることは、固体電解質の電池性能を低下させるため、好ましくない。
【0031】
また、原料として物質Xを用いる場合、物質Xを溶解し得る溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒を選択することにより、物質Xと反応槽等の各種装置との直接的な接触が低減されるので、各種装置の腐食をより抑制することができる。また、物質Xが溶媒に溶解することにより固体電解質から未反応物の物質Xを容易に除去することができるので、不純物として物質Xが含まれないか、又は少ない固体電解質を得ることができ、更に、反応速度が向上するため、より効率的に固体電解質が得られる。
物質Xを溶解し得る溶媒としては、その物質Xの溶解度が、好ましくは0.01質量%以上のもの、より好ましくは0.03質量%以上のもの、更に好ましくは0.05質量%以上のもの、特に好ましくは0.1質量%以上のものが用いられる。また、物質Xの溶解度の上限に特に制限はないが、例えば、60質量%以下、55質量%以下、10質量%以下の溶解度を例示することができる。
【0032】
ここで、物質Xの溶解度の測定は、以下のようにして測定した値である。
物質X(2g)を溶媒3mLに加えて、室温(25℃)で20分撹拌した。上澄み液0.1gを秤量し、その上澄み液にチオ硫酸ナトリウム水溶液(10質量%、Na)1gを加え、1分程度振とうして溶液の着色が消えたのを確認した。上記溶液のヨウ素濃度をICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)で定量し、物質Xの溶解度を算出した。
【0033】
また、溶媒としては、硫化アルカリ金属を溶解しにくい溶媒、例えば、硫化アルカリ金属の溶解度が1質量%以下の溶媒であることが好ましい。硫化アルカリ金属を原料として用いた場合、このような溶媒を用いることにより、硫化アルカリ金属の溶媒への溶解量が低減されるため、より効率的に物質X等との反応に消費することができる。硫化アルカリ金属の溶解度は、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、より更に好ましくは0.07質量%以下である。また、硫化アルカリ金属の溶解度の下限についての制限はない。
【0034】
ここで、硫化アルカリ金属の溶解度の測定は以下のようにして測定した値である。
溶媒に、硫化アルカリ金属を加え、20℃(室温)で十分に混合した。溶媒に溶解できなかった硫化アルカリ金属が溶液中に存在することを目視した。次いで、得られた溶液について、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法を行った。これにより得られた溶液中のアルカリ金属、すなわち溶媒中に溶解しているアルカリ金属の含有量を測定し、硫化アルカリ金属の溶解度(質量%)を算出した。
【0035】
このような溶媒としては、上記例示した、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等の炭化水素溶媒;炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒、等の炭素原子を含む溶媒が好ましく挙げられる。
また、例えば物質Xとして臭素(Br)を用いる場合は、臭素(Br)と他の原料との反応を効率的に行う観点から、電子求引基で置換したもの、例えば、tert-ブチルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、クロロトルエン等のベンゼン環を有する溶媒を用いることができる。
【0036】
溶媒の使用量は、溶媒1リットルに対する原料全量の使用量が好ましくは0.01kg以上となる量、より好ましくは0.05kg以上となる量、更に好ましくは0.2kg以上となる量であり、上限として好ましくは1kg以下となる量、より好ましくは0.8kg以下となる量、更に好ましくは0.7kg以下となる量である。溶媒の使用量が上記範囲内であると、スラリー状となり、原料をより円滑に反応させることができる。
【0037】
原料の反応は、溶媒中、上記の原料を、例えば混合、撹拌、粉砕又はこれらを組み合わせた処理により行うことができる。
混合の方法には特に制限はなく、例えば、溶媒と原料とを混合できる装置に、原料、必要に応じて溶媒等を投入して混合すればよい。装置としては、原料、溶媒等とを混合できるものであれば特に制限はなく、例えば、媒体式粉砕機を用いることができる。
媒体式粉砕機には、容器駆動式粉砕機、媒体撹拌式粉砕機に大別される。容器駆動式粉砕機としては、撹拌槽、粉砕槽、あるいはこれらを組み合わせたボールミル、ビーズミル等が挙げられる(例えば、実施例で用いるような、図1に示される構成を有するものが挙げられる。)。また、媒体撹拌式粉砕機としては、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃式粉砕機;タワーミルなどの塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機;一軸又は多軸混練機などの各種粉砕機が挙げられる。
【0038】
これらの粉砕機は、所望の規模等に応じて適宜選択することができ、比較的小規模であれば、ボールミル、ビーズミル等の容器駆動式粉砕機を用いることができ、また比較的大規模、又は量産化の場合には、他の形式の粉砕機を用いてもよい。
これらの粉砕機を用いる場合、原料と溶媒等、また粉砕メディアとを投入し、装置を起動させて、混合、撹拌、粉砕を行えばよい。ここで、原料、溶媒等を、粉砕メディアを投入することになるが、投入する順序に制限はない。
【0039】
本実施形態の固体電解質の製造方法では、原料と溶媒とを混合することにより、原料同士がより接触しやすくなり、反応がより進行し、固体電解質が得られる。原料同士の接触を促進させ、効率よく固体電解質を得る観点から、溶媒と原料とを混合し、更に、撹拌、粉砕、あるいはこれらを組み合わせた処理を行うことが好ましい。また、原料同士の接触を促進させる観点から、特に粉砕を含む処理、すなわち、粉砕、又は撹拌及び粉砕の処理を行うことが好ましい。粉砕を含む処理を行うことで、原料の表面が削られて、新たな表面が露出し、該新たな表面と他の原料の表面とが接触するため、原料同士の反応がより進行し、効率よく固体電解質が得られる。
【0040】
例えば、ボールミル、ビーズミル等の装置を例に説明すると、これらのミルは、ボール、ビーズ等のメディアの粒径(ボールは通常φ2~20mm程度、ビーズはφ0.02~2mm程度)、材質(例えば、ステンレス、クローム鋼、タングステンカーバイド等の金属;ジルコニア、窒化ケイ素等のセラミックス;メノウ等の鉱物)、ロータの回転数、及び時間等を選定することにより、混合、撹拌、粉砕、これらを組み合わせた処理を行うことができ、また得られる固体電解質の粒径等の調整を行うことができる。
【0041】
本実施形態において、これらの条件に特に制限はないが、例えば、ボールミル、中でも遊星型ボールミルを用い、セラミックス製、中でもジルコニア製で、粒径がφ1~10mmのボールを用い、ロータ回転数として300~1000rpmで、0.5~100時間、撹拌及び粉砕を行うことができる。
また、混合、撹拌、粉砕の際の温度は、特に制限はないが、例えば、20~80℃としておけばよい。
【0042】
本実施形態において、原料と溶媒等とを混合した後、更に原料を加えて混合してもよく、これを2回以上繰り返してもよい。
原料と溶媒等とを混合し、撹拌する場合は、混合及び撹拌中並びに/若しくはその後に、更に原料を加えて混合し、混合及び撹拌してもよく、これを2回以上繰り返してもよい。例えば、原料と溶媒等とをボールミル、又はビーズミルの容器に投入して、混合及び撹拌を開始し、混合及び撹拌中に更に原料を該容器に投入してもよいし、混合及び撹拌後(混合及び撹拌を一旦停止した後)に原料を該容器に投入し、混合及び撹拌を再開してもよいし、また、混合及び撹拌中、並びにその後に原料を該容器に投入してもよい。
【0043】
また、原料と溶媒等とを混合し、粉砕する場合、また撹拌及び粉砕する場合も、上記の撹拌する場合と同様に、更に原料を加えてもよい。
このように、原料を更に加えることで、必要に応じて行う溶媒の除去等の処理の回数を少なくすることができるので、より効率的に固体電解質を得ることができる。
なお、更に原料を加える場合、必要に応じて溶媒も加えてもよいが、固体電解質を得る際に溶媒を除去する場合もあるので、その添加量は必要最小限に留めておくことが好ましい。
【0044】
(固体電解質含有液)
上記の溶媒中の原料の反応により、固体電解質、溶媒、未反応の原料、反応副生成物等を含む固体電解質含有液が得られる。固体電解質含有液は、主に固体電解質、未反応の原料(例えば、硫化リチウム、五硫化二リン等の固体原料)等を含む固体と、主に溶媒、未反応の原料(例えば、物質X等)、反応副生成物等を含む液体とからなるものである。
【0045】
反応副生成物としては、例えば、原料として物質Xを用いた場合は、硫黄が生成する。また、溶媒として、例えばトルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒を用いた場合は、これらの溶媒と反応副生成物である硫黄、また原料に含まれるハロゲン元素等との反応により生成する、例えば以下の一般式(2)及び(3)で示される化合物等が例示される。
【0046】
【化1】
【0047】
一般式(2)中、R21及びR22は、それぞれ独立に-A21-B21で示され、A21は単結合又は2価の有機基であり、B21はハロゲン元素又は-SB22(B22は水素元素又はアルカリ金属)であり、m21は0以上6以下の整数であり、n21は0以上6-m以下の整数である。また、R21とR22とはその少なくとも一つが互いに異なり、R21及びR22が複数ある場合、これらのR21及びR22は同じでも異なっていてもよい。
一般式(3)中、R31及びR34はそれぞれ独立に-A31-B31で示され、A31は単結合又は2価の有機基であり、B31はハロゲン元素又は-SB32(B32は水素元素又はアルカリ金属)であり、R32及びR33はそれぞれ独立に単結合又は2価の有機基であり、m31及びm32は0以上5以下の整数である。R31及びR34が複数ある場合、これらのR31及びR34は同じでも異なっていてもよい。
【0048】
21、A31、R32及びR33の2価の有機基としては、炭素数1~4のアルキレン基、炭素数2~4のアルケニレン基、炭素数6~10のアリーレン基、炭素数7~11のアリールアルキレン基等が挙げられる。
21、B31のハロゲン元素としては、フッ素元素、塩素元素、臭素元素、ヨウ素元素が挙げられる。また、B22、B32のアルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が挙げられる。
なお、B21、B22、B31及びB32のハロゲン元素、アルカリ金属は、原料に含まれるものであり、原料として含まれるハロゲン元素、アルカリ金属以外のハロゲン元素、アルカリ金属を含む化合物は通常検出されることはない。
【0049】
上記一般式(2)及び(3)で示される化合物としては、代表的には以下の化学式で示される化合物が挙げられる。なお、以下の化学式で示される化合物は、反応副生成物の代表的な一例を示すものであり、他の反応副生成物を含む場合もあり、反応副生成物はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0050】
【化2】
【0051】
(固液分離)
上記の方法により得られた固体電解質含有液は、主に固体電解質、未反応の原料(例えば、硫化リチウム、五硫化二リン等の固体原料)等を含む固体と、主に溶媒、未反応の原料(例えば、物質X等)、原料同士の反応による反応副生成物である硫黄、上記一般式(2)及び(3)で示される化合物を一例とする、溶媒と、硫黄や原料に含まれるハロゲン元素等と、の反応により生成する反応副生成物等を含む液体とからなる。本実施形態の製造方法では、このように固体と液体とからなる固体電解質含有液を、固液分離により固体と液体とに分離することを要する。固体電解質含有液を固液分離することにより、液体に含まれる溶媒を回収することができ、またその後の必要に応じて行う乾燥処理における負荷軽減を図ることができる。
【0052】
固液分離の方法としては、特に制限はないが、例えば、遠心分離を利用した遠心分離機を用いる方法、回分式真空ろ過機等の真空ろ過機を用いる方法、デカンテーションにより液体を回収する方法等が挙げられる。本実施形態においては、その後に必要に応じて乾燥処理を行い得ることから、固体に溶媒等の液体を伴うスラリー状のものでも許容されること、またより軽微な設備で行うことができること等を考慮すると、デカンテーションによる液体の回収により固液分離することが好ましい。
【0053】
固液分離により回収される固体は、主に固体電解質、未反応の原料(例えば、硫化リチウム、五硫化二リン等の固体原料)等を含むものであるが、溶媒等の液体を伴うものであってもよい、すなわちスラリー状のものでもよく、スラリー中の固体の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、上限としては好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
固形分離により、固体を含むスラリー中の固体の含有量を上記範囲内とすれば、液体の回収による製造設備からの廃液の排出量を低減効果と、固液分離に用いる機器の規模及びコストとのバランスが良好なものとなる。
【0054】
また、固液分離して回収される液体は、上記の通り主に溶媒、未反応の原料(例えば、物質X)反応副生成物を含むものであるが、固体電解質、未反応の原料等の固体が含まれていてもよい。
固液分離により回収される液体中の、原料同士の反応による反応副生成物である硫黄の含有量は、使用する原料の種類及びその配合比に応じてかわるため一概に定めることはできないが、硫黄原子換算で、通常0.1質量%以上程度であり、上限としては3質量%以下程度である。
上記一般式(2)及び(3)で示される化合物は、通常固体電解質含有液の液体に溶解して又は浮遊して存在している。これらの化合物の液体中の含有量は、化合物によって異なるため一概に定めることはできないが、これらの化合物の合計含有量は、通常30質量ppm以上であり、上限としては3000質量ppm以下程度である。
【0055】
(硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物の除去)
本実施形態の固体電解質の製造方法は、上記の固液分離により得られた液体に含まれる硫黄含有化合物を除去すること、を含む。液体に硫黄含有化合物が含まれていると、該液体を原料の反応に用いた場合に、イオン伝導度が低下し、優れた電池性能が得られにくくなる。また、該液体を他の用途に用いる場合も、安全性等の観点から望ましくない。
【0056】
硫黄含有化合物としては、主に原料同士の反応による反応副生成物である硫黄、及び上記一般式(2)及び(3)で示される化合物を一例とする、溶媒と、硫黄や原料に含まれるハロゲン元素等と、の反応により生成する、少なくとも硫黄元素を含有する反応副生成物が挙げられる。後者の反応副生成物は、より具体的には、上記の一般式(2)及び(3)で示される化合物の代表的な例として例示した化学式で示される化合物のうち、硫黄元素を含む化合物(例示化合物の2列目及び3列目の化合物)が挙げられる。ここで、塩素元素が含まれる化合物は、主に溶媒としてクロロベンゼンを用いた場合に検出される化合物であり、臭素元素が含まれる化合物は、主に原料として臭素(Br)、例えば臭化リチウム(LiBr)等の臭素元素を含む原料を用いた場合に検出される化合物である。また、例えば、原料としてヨウ素(I)、ヨウ化リチウム(LiI)等のヨウ素元素を含む原料を用いた場合は、上記臭素元素が含まれる化合物の臭素元素がヨウ素元素におきかわった化合物が主に検出される。よって、硫黄含有化合物のうち、後者の反応副生成物は、原料の種類に応じてかわり得る化合物である。
【0057】
また、原料としてハロゲン元素を含む原料を用いる場合、反応副生成物として有機ハロゲン化合物が生成するが、有機ハロゲン化合物を含む液体を原料の反応に用いた場合、イオン伝導度が低下し、優れた電池性能が得られにくくなる。また、該液体を他の用途に用いる場合も、安全性等の観点から望ましくない。よって、原料としてハロゲン元素を含む原料を用いる場合、本実施形態の製造方法は、液体から有機ハロゲン化合物を除去すること、を含むことが好ましい。
【0058】
有機ハロゲン化合物は、上記一般式(2)及び(3)で示される化合物を一例とする、溶媒と、原料に含まれるハロゲン元素等との反応により生成する、少なくとも原料に含まれるハロゲン元素を含む反応副生成物である。よって、クロロベンゼン等のハロゲン元素を含む溶媒は、本実施形態における有機ハロゲン化合物ではない。
【0059】
有機ハロゲン化合物としては、上記の一般式(2)及び(3)で示される化合物の代表的な例として例示した化学式で示される化合物のうち、ハロゲン元素を含み、かつ硫黄元素を含まない化合物(例示化合物の1列目の化合物)が挙げられる。ここで、塩素元素が含まれる化合物は、主に溶媒としてクロロベンゼンを用いた場合に検出される化合物であり、臭素元素が含まれる化合物は、主に原料として臭素(Br)、例えば臭化リチウム(LiBr)等の臭素元素を含む原料を用いた場合に検出される化合物である。また、例えば、原料としてヨウ素(I)、ヨウ化リチウム(LiI)等のヨウ素元素を含む原料を用いた場合は、上記臭素元素が含まれる化合物の臭素元素がヨウ素元素におきかわった化合物が主に検出される。よって、有機ハロゲン化合物は、原料の種類に応じてかわり得る化合物である。
【0060】
液体から硫黄含有化合物を除去する方法としては、例えば酸化鉄、酸化亜鉛等の酸化物系脱硫剤、銅(Cu)、セリウム(Ce)でイオン交換したY型ゼオライト、銀(Ag)でイオン交換したβゼオライト等のゼオライト系脱硫剤等を用いた液相吸着脱硫法;アルミナ、シリカ-アルミナ等の担体に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)等の金属を担持した水素化脱硫触媒を用いた水素化脱硫法;フラッシュドラム、蒸留塔等を用いた蒸留法;等が好ましく挙げられる。
硫黄の沸点は通常444℃程度であり、上記一般式(2)及び(3)で示される硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物の沸点は、通常170~210℃程度であり、溶媒の沸点(例えば、トルエンは111℃、クロロベンゼンは131℃)と比べて高いことから、より簡便に硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物を除去する観点から、フラッシュドラム、蒸留塔等を用いた蒸留法がより好ましい。また、固液分離した後の液体に有機ハロゲン化合物が含まれる場合、有機ハロゲン化合物も同時に除去できる観点からも、蒸留法を採用することが好ましい。
【0061】
蒸留法について、反応において一種の溶媒を用いている場合、あるいは二種以上の溶媒を用いる場合であって、各溶媒に分離する必要がない場合は、より簡便に硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物を除去する観点から、フラッシュドラムを用いた蒸留法が更に好ましい。また、反応において二種以上の溶媒を用いる場合であって、各溶媒に分離する必要がある場合は、蒸留塔を用いた蒸留法を採用すればよい。
【0062】
硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物を除去する方法として蒸留法を採用する場合、蒸留条件は液体に含まれる溶媒、硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物の種類によって適宜選択することとなるが、通常100~200℃で、常圧又は減圧雰囲気(特に真空)とすることが好ましい。
【0063】
硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物を除去した後の液体(例えば、蒸留法の場合は、フラッシュドラム、蒸留塔の塔底液)中の硫黄含有化合物の含有量は、該液体を再利用すること、また特に該液体を反応に用いる場合に、イオン伝導度がより高く、優れた電池性能を得ることを考慮すると、少なければ少ないほど好ましく、通常1000質量ppm以下、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは250質量ppm以下、更に好ましくは100質量ppm以下である。なお、硫黄含有化合物の含有量は、硫黄原子換算の含有量である。
【0064】
硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物を除去した後の液体中の有機ハロゲン化合物の含有量は、該液体を再利用すること、また特に該液体を反応に用いる場合に、イオン伝導度がより高く、優れた電池性能を得ることを考慮すると、少なければ少ないほど好ましく、通常200質量ppm以下、好ましくは150質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下、更に好ましくは50質量ppm以下である。
【0065】
また、硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物を除去した後の液体中の硫黄含有化合物及び有機ハロゲン化合物の合計の含有量は、通常1200質量ppm以下、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下、更に好ましくは200質量ppm以下である。
【0066】
(液体の再利用)
本実施形態において、硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物を除去した後の液体は、反応副生成物等の不純物が少ない溶媒となり、所望に応じた用途で再利用することができる。製造設備からの廃液の排出量を低減する観点から、原料の反応における溶媒として用いることが好ましい。硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物を除去した後の液体を原料の反応における溶媒として再利用することにより、製造設備からの廃液の排出量を低減でき、また原料の反応に新たに供給する溶媒の供給量を低減することもでき、より安価に固体電解質を製造することが可能となる。
【0067】
(固体の乾燥処理)
上記の固液分離した後に得られる、主に固体電解質を含む固体が、溶媒を伴うスラリー状となっている場合、本実施形態の製造方法は、更に、固体電解質等の固体を含むスラリーを乾燥処理すること、を含むことが好ましい。また、固体を含むスラリーを乾燥処理し、溶媒を除去することで、反応副生成物である硫黄の除去も可能となる。
【0068】
固体を含むスラリーの乾燥処理の方法としては、固体を含むスラリーの乾燥処理量に応じて適宜方法を選択すればよく、固体を含むスラリーが比較的少量であれば、固体をホットプレート等の加熱器にのせて、50~90℃で加熱し、溶媒を揮発させる方法、また比較的多量であれば工業用の各種乾燥機等の乾燥装置を用いて乾燥する方法等が挙げられる。
また、乾燥装置としては、例えば、1~80kPa程度の減圧雰囲気下で、50~90℃程度で加熱し、かつ撹拌しながら乾燥し得る乾燥装置を用いることもできる。このような乾燥装置を用いることで、より効率的に固体を乾燥することができ、また溶媒を回収することも容易となる。このような乾燥装置として、ヘンシェルミキサー、FMミキサーとして市販されているものを用いることができる。
【0069】
固体を含むスラリーの乾燥処理により得られた溶媒(気体)には、固体電解質、未反応の原料(例えば、硫化リチウム、五硫化二リン等の固体原料)等の微粒子状の固体が含まれることがある。本実施態様においては、微粒子状の固体を含む溶媒(気体)は、バグフィルター等の微粒子除去手段によりこれら微粒子状の固体を除去し、凝縮して液体とすることで、所望に応じた用途に再利用することが可能である。製造設備からの廃液の排出量、また原料の反応に新たに供給する溶媒の供給量を低減することができ、より安価に固体電解質を製造する観点から、固体を含むスラリーの乾燥処理により得られた溶媒は、原料の反応における溶媒として再利用することが好ましい。また、固体を含むスラリーの乾燥処理により得られた溶媒は、硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物等を含まないため、原料の反応における溶媒として再利用するのに有利である。
【0070】
(非晶質の固体電解質)
上記固液分離、必要に応じて乾燥処理して得られる固体電解質は、リチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含む、又はリチウム元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素を含む、非晶質の固体電解質である。本明細書において、非晶質の固体電解質とは、X線回折測定においてX線回折パターンが実質的に材料由来のピーク以外のピークが観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものであることを意味する。
【0071】
非晶質の固体電解質は、イオン伝導性が高く、電池の高出力化を図ることができる。
非晶質の固体電解質としては、例えば、代表的なものとしては、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS-P-LiI等が挙げられる。非晶質の固体電解質を構成する元素の種類は、例えば、ICP発光分光分析装置により確認することができる。
【0072】
非晶質の固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の非晶質の固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm~500μm、0.1~200μmの範囲内を例示できる。
【0073】
(加熱)
本実施形態の固体電解質の製造方法は、固液分離、必要に応じて乾燥処理し固体電解質を更に加熱をすること、を含むことができる。更に加熱することにより、非晶質の固体電解質を結晶性の固体電解質とすることができる。
加熱温度は、非晶質の固体電解質の構造に応じて適宜選択することができ、例えば、非晶質の固体電解質を、示差熱分析装置(DTA装置)を用いて、10℃/分の昇温条件で示差熱分析(DTA)を行い、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップを起点に好ましくは±40℃、より好ましくは±30℃、さらに好ましくは±20℃の範囲とすればよい。
より具体的には、加熱温度としては、150℃以上が好ましく、170℃以上がより好ましく、190℃以上が更に好ましい。一方、加熱温度の上限値は特に制限されるものではないが、300℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましく、250℃以下が更に好ましい。
【0074】
加熱時間は、所望の結晶性の固体電解質が得られる時間であれば特に制限されるものではないが、例えば、1分間以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましい。また、加熱時間の上限は特に制限されるものではないが、24時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、5時間以下が更に好ましい。
【0075】
また、加熱は、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気)、または減圧雰囲気(特に真空中)で行なうことが好ましい。結晶性の固体電解質の劣化(例えば、酸化)を防止できるからである。加熱の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、ホットプレート、真空加熱装置、アルゴンガス雰囲気炉、焼成炉を用いる方法等を挙げることができる。また、工業的には、加熱手段と送り機構を有する横型乾燥機、横型振動流動乾燥機等を用いることもできる。
【0076】
(結晶性の固体電解質)
上記のように、非晶質の固体電解質を加熱することで、結晶性の固体電解質が得られる。結晶性の固体電解質とは、X線回折測定においてX線回折パターンに、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいての固体電解質の原料由来のピークの有無は問わない材料である。すなわち、結晶性の固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよい、ものである。そして、結晶性の固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶質の固体電解質が含まれていてもよいものである。
【0077】
結晶性の固体電解質の結晶構造としては、より具体的には、LiPS結晶構造、Li結晶構造、LiPS結晶構造、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造(例えば、特開2013-16423号公報)を例示することができる。
ここで、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造が好ましい。例えば、2θ=20.2°±0.3°及び23.6°±0.3°にピークを有する結晶構造である。
【0078】
結晶性の固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の結晶性の固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm~500μm、0.1~200μmの範囲内を例示できる。
【0079】
本実施形態の製造方法で得られる固体電解質は、イオン伝導度が高く、優れた電池性能を有しており、電池に好適に用いられる。伝導種としてリチウム元素を採用した場合、特に好適である。本実施形態の製造方法で得られた固体電解質は、正極層に用いてもよく、負極層に用いてもよく、電解質層に用いてもよい。なお、各層は、公知の方法により製造することができる。
【0080】
また、上記電池は、正極層、電解質層及び負極層の他に集電体を使用することが好ましく、集電体は公知のものを用いることができる。例えば、Au、Pt、Al、Ti、又は、Cu等のように、上記の固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
【0081】
〔固体電解質の製造設備〕
本実施形態の固体電解質の製造設備は、少なくともリチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含む原料を溶媒中で反応させて固体電解質含有液を得る反応装置、前記固体電解質含有液を固液分離する装置、及び前記固液分離する装置から得られた液体から硫黄含有化合物を除去する装置、を備えるものである。
【0082】
反応装置としては、溶媒の存在下、上記の原料を、例えば混合、撹拌、粉砕又はこれらを組み合わせた処理を行えるような装置であれば特に制限はなく、溶媒の存在下でこれらの処理を行い得る装置として例示した各種粉砕機が好ましく挙げられ、撹拌槽、粉砕槽を有する媒体式粉砕機がより好ましい。この撹拌層、粉砕層を有する媒体式粉砕機のより具体的な例としては、実施例で用いるような、図1に示される構成を有する装置が挙げられる。
固液分離する装置としては、上記に例示した遠心分離機、真空ろ過機、デカンテーションし得る槽等が好ましく挙げられ、デカンテーションし得る槽がより好ましい。
また、液体から硫黄含有化合物を除去する装置としては、上記に例示した液相吸着脱硫法、水素化脱硫法、蒸留法を行い得る、各々液相吸着脱硫装置、水素化脱硫装置、フラッシュドラム、蒸留塔等が好ましく挙げられ、フラッシュドラム、蒸留塔がより好ましい。
【0083】
本実施形態の固体電解質の製造設備は、ハロゲンを含む原料として物質Xを用いる場合、該物質Xを供給する手段(以下、「物質X供給手段」と称することがある。)を更に備えることが好ましい。上記の通り、物質Xは、そのまま供給することもできるが、腐食性が高い物質であることから、物質Xを溶解し得る溶媒とともに供給することが好ましい。また、物質Xが気体の場合は、例えば窒素ガス等の不活性ガスとともに供給してもよい。
二種以上の物質Xを用いる場合、物質X供給手段は一つで兼用してもよいし、異なる物質Xごとに別々に有してもよい。
【0084】
物質Xの供給箇所としては、特に制限はないが、例えば、撹拌槽、粉砕槽、あるいはこれらを組み合わせたボールミル、ビーズミル等の容器駆動式粉砕機を用いる場合は、腐食による製造装置の劣化を防止する観点から、該撹拌槽中に供給することが好ましい。すなわち、物質X供給手段は、該撹拌槽に接続して設けることが好ましい。
【0085】
物質X供給手段は、腐食による装置の劣化を防止する観点から、物質Xの流量を調節して一定の時間をかけて供給できる機能を有していることが好ましい。具体的には、物質Xの貯蔵部と、供給部とを備えており、該貯蔵部としては、気体の物質Xを貯蔵し得る槽、あるいは物質Xと溶媒と混合し得る槽、更に必要に応じて物質Xと溶媒とを撹拌し得る攪拌機を有しているもの、供給部としては物質Xを流通させる配管と流量調節弁とを有したものを用いればよい。
【0086】
物質X供給手段を形成する材料としては、耐ハロゲン腐食性が高い材料、例えばステンレス鋼でニオブ、クロム、モリブデン、チタン等の含有量が多いもの、あるいは通常の炭素鋼の内側を樹脂、ガラス等によりライニングした材料を用いることが好ましい。
【0087】
また、本実施形態の固体電解質の製造設備は、硫黄含有化合物を除去する装置から得られた液体を、原料の反応における溶媒として再利用するため、反応装置に供給する手段を更に有することができる。該反応装置に供給する手段としては、例えば、硫黄含有化合物を除去する装置から反応装置への配管、必要に応じて液体を圧送するためのポンプを有するものが挙げられる。
【実施例0088】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら制限されるものではない。
【0089】
(実施例1)
図1に示される反応装置を用いて固体電解質を製造した。図1に示される反応装置について説明する。図1に示される反応装置は、原料を混合、撹拌、粉砕又はこれらを組み合わせた処理により反応させるビーズミル10と反応槽20とを備える。反応槽20は容器22と撹拌翼24を備え、撹拌翼24はモータ(M)により駆動される。
ビーズミル10には、ミル10の周りに温水(HW)を通すことのできるヒータ30が設けられており、該温水(HW)はヒーター30で熱を供給し、ヒーター30の出口から排出された温水(RHW)は加熱した後、ヒーター30に温水(HW)として外部循環される。反応槽20は、オイルバス40に入っている。オイルバス40は容器22内の原料と溶媒を所定温度に加熱する。反応槽20には気化した溶媒を冷却して液化する冷却管26が設けられており、冷却水(CW)は冷却管26で溶媒を冷却し、冷却管26の出口から排出された冷却水(RCW)は冷却した後、冷却管26に冷却水(CW)として外部循環される。 ビーズミル10と反応槽20とは、第1の連結管50と第2の連結管52とで連結されている。第1の連結管50は、ビーズミル10内の原料と溶媒を反応槽20に移動させ、第2の連結部52は、反応槽20内の原料及び溶媒をビーズミル10内に移動させる。原料等を連結管50,52を通して循環させるために、ポンプ54(例えば、ダイアフラムポンプ)が、第2の連結管52に設けられている。また、反応槽20及びポンプ54の吐出には温度計(Th)が設けられており、常時温度管理を行うことができるようになっている。
【0090】
また、反応槽20には、物質Xの貯蔵部60、供給部61を有する物質X供給手段が連結されており、貯蔵部60上部に物質Xの投入口を、底部に排出口を有しており、また溶媒、不活性ガス等を供給する配管が連結されている。貯蔵部60の貯蔵槽の底部の排出口には、配管及び流量調節弁を有する物質Xの供給部61が設けられており、該供給部61は反応槽20に連結されている。また、供給部61の先端は、物質X以外の他の原料と物質Xとの効率的な反応が促進されるように、また物質Xが反応槽20の内壁となるべく直接的に接しないように、反応槽20中の原料、溶媒等が撹拌されることにより形成される層内に届くように設けられており、物質Xは原料、溶媒等により形成される層に供給される。
【0091】
本実施例においては、ビーズミルとして「ビーズミルLMZ015」(アシザワ・ファインテック(株)製)を用い、直径0.5mmのジルコニアボール485gを仕込んだ。また、反応槽として、撹拌機付き2.0リットルガラス製反応器を使用した。
【0092】
硫化リチウム34.77g、及び五硫化二リン45.87gを反応槽20投入し、更に脱水トルエン1000mLを追加してスラリーとした。反応槽20に投入したスラリーを、ポンプ54を用いて600mL/分の流量で循環させ、周速10m/sでビーズミル10の運転を開始した後、200mLの脱水トルエンに溶解させたヨウ素(和光純薬 特級)13.97g、臭素(和光純薬 特級)13.19gを物質Xを供給する供給設備60から反応槽20に10分かけて投入した。
ヨウ素及び臭素の投入終了後、ビーズミル10の周速を12m/sとし、外部循環により温水(HW)を通水し、ポンプ54の吐出の温度が70℃に保持されるように反応させて、固体電解質含有液を調製した。
【0093】
得られた、非晶質の固体電解質、溶媒、その他硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物等の反応副生成物を含む固体電解質含有液を、デカンテーション用の槽に移し、デカンテーションによる固液分離を行い、上澄み液を液体として回収した。回収した液体を、フラッシュドラム(温度:150℃、圧力:常圧)でフラッシュさせた。回収した液体と、フラッシュさせた後の液体について、硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物の種類の同定と、その含有量の測定をガスクロマトグラフにより行った。この際、フラッシュさせた後の液体について、ミリポアフィルタにて固体電解質を除去した後、該液体をガスクロマトグラフにより訂正、定量分析を実施し、化合物の種類の同定及びその含有量を決定した。
測定の結果、硫黄含有化合物としては硫黄が、また、有機ハロゲン化合物としては、下記化学式(1)及び(2)で示される化合物の存在が確認され、回収した液体中の硫黄の硫黄原子換算の含有量は0.4質量%、化合物(1)及び(2)の合計の含有量は400質量ppmであり、フラッシュさせた後の液体中の硫黄の硫黄原子換算の含有量は100質量ppm以下、化合物(1)及び(2)の合計の含有量は200質量ppm以下となった。これらの結果から、フラッシュさせた後の液体は、該液体中の硫黄含有化合物及び有機ハロゲン化合物の含有量が各々1000質量ppm以下、200質量ppm以下と極めて少なく、上記脱水トルエンの代わりに使用し得る品質の高いトルエンであることが確認された。
【0094】
【化3】
【0095】
また、上記固液分離後の固体分は、乾燥機を用いて80℃で乾燥させて、粉末状の非晶質の固体電解質を得た。得られた粉末状の非晶質の固体電解質について、X線回折(XRD)装置(SmartLab装置、(株)リガク製)を用いて粉末X線解析(XRD)測定を行った。原料由来のピーク以外ピークがないことがわかった。また、乾燥機から排気された気体を凝縮させた液体について、ガスクロマトグラフにより分析したところ、硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物は検出されない、高い品質のトルエンであることが確認された。
【0096】
また、得られた粉末状の非晶質の固体電解質の一部を、グローブボックス内に設置したホットプレートを用いて、203℃で3時間加熱した。
加熱後の粉末について、X線回折(XRD)装置(SmartLab装置、(株)リガク製)を用いて粉末X線解析(XRD)測定を行った。X線解析スペクトルによれば、2θ=19.9°、23.6°に結晶化ピークが検出され、結晶性の固体電解質が得られたことが確認された。得られた結晶性の固体電解質について、下記(イオン伝導度の測定)に従い、イオン伝導度を測定したところ、5.55×10-3(S/cm)であり、高いイオン伝導度を有していることが確認された。
(イオン伝導度の測定)
結晶性の固体電解質から、直径10mm(断面積S:0.785cm)、高さ(L)0.1~0.3cmの円形ペレットを成形して試料とした。その試料の上下から電極端子を取り、25℃において交流インピーダンス法により測定し(周波数範囲:5MHz~0.5Hz、振幅:10mV)、Cole-Coleプロットを得た。高周波側領域に観測される円弧の右端付近で、-Z’’(Ω)が最小となる点での実数部Z’(Ω)を電解質のバルク抵抗R(Ω)とし、以下式に従い、イオン伝導度σ(S/cm)を計算した。
【0097】
(実施例2)
実施例1において、脱水トルエンを脱水クロロベンゼン(水分量:10ppm以下)とした以外は、実施例1と同様にして固体電解質を作製した。回収した液体と、フラッシュさせた後の液体について、硫黄含有化合物、有機ハロゲン化合物の種類の同定と、その含有量の測定を上記のガスクロマトグラフにより行った。
測定の結果、硫黄含有化合物としては硫黄が、また、有機ハロゲン化合物としては、下記化学式(3)で示される化合物の存在が確認され、回収した液体中の硫黄の硫黄原子換算の含有量は0.4質量%、化合物(3)の含有量は10質量ppmであり、フラッシュさせた後の液体中の硫黄の硫黄原子換算の含有量は200質量ppm以下、化合物(3)の含有量は5質量ppm以下となった。これらの結果から、フラッシュさせた後の液体は、該液体中の硫黄含有化合物及び有機ハロゲン化合物の含有量が各々1000質量ppm以下、200質量ppm以下と極めて少なく、上記脱水クロロベンゼンの代わりに使用し得る品質の高いクロロベンゼンであることが確認された。
【0098】
【化4】
【0099】
また、得られた粉末状の非晶質の固体電解質の一部を、グローブボックス内に設置したホットプレートを用いて、188℃で3時間加熱し、結晶性の固体電解質を得た。なお、得られた固体電解質について粉末X線解析(XRD)測定を行ったところ、2θ=19.9°、23.6°に結晶化ピークが検出された。得られた結晶性の固体電解質について、イオン伝導度を測定したところ、5.74×10-3(S/cm)であり、高いイオン伝導度を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本実施形態の固体電解質の製造方法及び製造設備によれば、製造設備からの廃液の排出量を低減しながら、高性能の固体電解質を製造することができる。この固体電解質は、電池に、とりわけ、パソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器、通信機器等に用いられる電池に好適に用いられる。
図1