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特開2022-188182改変型アマドリアーゼ及びその製造法、並びにアマドリアーゼの界面活性剤耐性向上剤及びこれを用いたHbA1c測定用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188182
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】改変型アマドリアーゼ及びその製造法、並びにアマドリアーゼの界面活性剤耐性向上剤及びこれを用いたHbA1c測定用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20221213BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160139
(22)【出願日】2022-10-04
(62)【分割の表示】P 2020003038の分割
【原出願日】2014-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2013167005
(32)【優先日】2013-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2013221515
(32)【優先日】2013-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鉞 陽介
(72)【発明者】
【氏名】一柳 敦
(57)【要約】
【課題】従来よりも強い界面活性剤の存在下でも、糖化ヘモグロビンを測定できる組成物を提供する。またアマドリアーゼの残存活性を維持する又は残存活性の低下を軽減する緩衝剤及び/又は安定化剤を提供する。
【解決手段】本発明は配列番号1又は3に示すConiochaeta属由来のアマドリアーゼの262位、257位、249位、253位、337位、340位、232位、129位、132位、133位、44位、256位、231位および81位よりなる群から選択されるアミノ酸に対応する位置で1つまたはそれ以上のアミノ酸残基の置換を有するアマドリアーゼ、および界面活性剤の存在下においても活性が残存するアマドリアーゼを含む糖化ヘモグロビン測定用組成物を提供する。また、本発明は特定の安定化剤及び/又は緩衝剤を含む糖化ヘモグロビン測定用組成物及びキットを提供する。
本発明により界面活性剤にさらされた場合でも保存安定性に優れた酵素および糖化ヘモグロビン測定用組成物を提供できる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤を添加してから5分後の残存活性(%)が、配列番号1、3、または37に示すアミノ酸配列を有するアマドリアーゼと比較して向上しているアマドリアーゼであって、
(i)配列番号1、3、または37に示すアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の欠失、挿入、付加、および/または置換がなされたアミノ酸配列を有し、かつ/又は
(ii)配列番号1、3、または37に示すアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、
前記アマドリアーゼ。
【請求項2】
界面活性剤がイオン性界面活性剤である、請求項1記載のアマドリアーゼ。
【請求項3】
配列番号1または3に示すアミノ酸配列における以下の(i)から(xiv):
(i)262位のアスパラギン、
(ii)257位のバリン、
(iii)249位のグルタミン酸
(iv)253位のグルタミン酸、
(v)337位のグルタミン、
(vi)340位のグルタミン酸、
(vii)232位のアスパラギン酸、
(viii)129位のアスパラギン酸、
(ix)132位のアスパラギン酸、
(x)133位のグルタミン酸、
(xi)44位のグルタミン酸、
(xii)256位のグリシン、
(xiii)231位のグルタミン酸、及び
(xiv)81位のグルタミン酸、
よりなる群から選択されるアミノ酸に対応する位置で1つまたはそれ以上のアミノ酸残基の置換を有する、請求項1又は2記載のアマドリアーゼ。
【請求項4】
配列番号1または3に示すアミノ酸配列のアミノ酸が、
以下の(i)から(xiv)の置換:
(i)262位のアスパラギンがヒスチジンに置換されている;
(ii)257位のバリンがシステイン、セリン、トレオニンに置換されている;
(iii)249位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(iv)253位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(v)337位のグルタミンがリジン、アルギニンに置換されている;
(vi)340位のグルタミン酸がプロリンに置換されている;
(vii)232位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(viii)129位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(ix)132位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(x)133位のグルタミン酸がアラニン、メチオニン、リジン、アルギニンに置換されている;
(xi)44位のグルタミン酸がプロリンに置換されている;
(xii)256位のグリシンがリジン、アルギニンに置換されている;
(xiii)231位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;及び
(xiv)81位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
のいずれか1以上を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のアマドリアーゼ。
【請求項5】
配列番号1または3に示すアミノ酸配列において、以下の(i)から(ix):
(i)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換;
(ii)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換;
(iii)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換;
(iv)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換および232位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;
(v)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換および249位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;
(vi)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換;
(vii)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換および129位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;
(viii)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、133位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換;並びに
(ix)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、133位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、337位のグルタミンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換
よりなる群から選択されるアミノ酸残基の置換を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のアマドリアーゼ。
【請求項6】
配列番号37に示すアミノ酸配列のアミノ酸が、
以下の(i)から(ix)の置換:
(i)247位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(ii)251位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(iii)335位のトレオニンがリジン、アルギニンに置換されている;
(iv)230位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(v)129位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(vi)132位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(vii)133位のグルタミン酸がアラニン、メチオニン、リジン、アルギニンに置換されている;
(viii)254位のアスパラギンがリジン、アルギニンに置換されている;及び
(ix)229位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
のいずれか1以上を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のアマドリアーゼ。
【請求項7】
配列番号37に示すアミノ酸配列において、以下の(i)から(iv):
(i)251位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンの置換;
(ii)132位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;
(iii)133位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;並びに
(iv)229位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;
よりなる群から選択されるアミノ酸残基の置換を有する、請求項1~3および6のいずれか1項に記載のアマドリアーゼ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のアミノ酸配列をコードするアマドリアーゼ遺伝子。
【請求項9】
請求項8記載のアマドリアーゼ遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項10】
請求項9記載の組換えベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
以下の工程:
(i)請求項10記載の宿主細胞を培養する工程;
(ii)宿主細胞に含まれるアマドリアーゼ遺伝子を発現させる工程;及び
(iii)培養物からアマドリアーゼを単離する工程を含む、アマドリアーゼを製造する方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれかに記載のアマドリアーゼを含む、糖化ヘモグロビンの測定に用いるための組成物。
【請求項13】
1以上の界面活性剤及びアマドリアーゼを含む、糖化ヘモグロビン測定用組成物。
【請求項14】
アマドリアーゼが、
(i)界面活性剤を添加してから5分後の残存活性(%)が、添加しない場合と比較して、15%以上残存し、かつ/又は
(ii)終濃度0.04%の界面活性剤の存在下において、発色基質N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4′-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミンナトリウム(DA-64)を添加し5分間反応させた後の751nmにおける吸光度と、糖化アミノ酸溶液または糖化ペプチド溶液の代わりにイオン交換水を用いた対照液添加から5分後の751nmにおける吸光度との差が0.006以上となるアマドリアーゼである、
請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
アマドリアーゼが配列番号1、3、37または40に示すアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を有するアマドリアーゼである、請求項13又は14に記載の組成物。
【請求項16】
界面活性剤が、70mM以下の臨界ミセル濃度を有するものである、請求項13~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
界面活性剤が、以下の一般式(I)で表される第四級アンモニウム塩、
【化1】
[式中、R~Rは、同一又は異なっていてもよく、置換若しくは非置換のC~C20アルキル、アルケニル、アリール又はベンジルを表し、Zは、1価の陰イオンを表す。]
以下の一般式(II)で表されるピリジニウム塩、
【化2】
[式中、Rは、置換若しくは非置換のC~C20アルキルを表し、各Rは、同一又は異なっていてもよく、水素原子又は置換若しくは非置換のC~C20アルキル、アルケニル、アリール又はベンジルを表し、nは1~5の整数を表し、Zは、1価の陰イオンを表す。]
以下の一般式(III)で表されるホスホニウム塩、
【化3】
[式中、R~Rは、同一又は異なっていてもよく、置換若しくは非置換のC~C20アルキル、アルケニル、アリール又はベンジルを表し、Zは、1価の陰イオンを表す。]
並びにドデシル硫酸ナトリウムからなる群より選択される1以上のイオン性界面活性剤である、請求項13~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
界面活性剤が、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、エイコシルトリメチルアンモニウムクロリド及びエイコシルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルドデシルジメチルアンモニウムクロリド、ベンジルドデシルジメチルアンモニウムブロミド、ベンジルテトラデシルジメチルアンモニウムクロリド、ベンジルテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロリド、およびベンジルセチルジメチルアンモニウムブロミド、
1-デシルピリジニウムクロリド、1-デシルピリジニウムブロミド、1-ドデシルピリジニウムクロリド、1-ドデシルピリジニウムブロミド、1-テトラデシルピリジニウムクロリド、1-テトラデシルピリジニウムブロミド、1-ヘキサデシルピリジニウムクロリド、1-ヘキサデシルピリジニウムブロミド、N-セチル-2-メチルピリジニウムクロリド、N-セチル-2-メチルピリジニウムブロミド、N-セチル-3-メチルピリジニウムクロリド、N-セチル-3-メチルピリジニウムブロミド、N-セチル-4-メチルピリジニウムクロリド、N-セチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-オクタデシルピリジニウムクロリド、1-オクタデシルピリジニウムブロミド、1-エイコシルピリジニウムクロリド及び1-エイコシルピリジニウムブロミド、
テトラエチルホスホニウムクロリド、テトラエチルホスホニウムブロミド、トリブチルメチルホスホニウムクロリド、トリブチルメチルホスホニウムブロミド、トリブチルメチルホスホニウムヨージド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラ-n-オクチルホスホニウムクロリド、テトラ-n-オクチルホスホニウムブロミド、トリブチルドデシルホスホニウムクロリド、トリブチルドデシルホスホニウムブロミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムクロリド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムクロリド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムヨージド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、並びにテトラフェニルホスホニウムブロミド、
からなる群より選択される1以上のイオン性界面活性剤である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
含まれる界面活性剤が、測定時における終濃度として、0.01%(w/v)以上である、請求項13~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
ホウ酸緩衝剤、トリス塩酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、フマル酸緩衝剤、グルタル酸緩衝剤、シトラコン酸緩衝剤、メサコン酸緩衝剤、マロン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、アジピン酸緩衝剤、ACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)緩衝剤、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)緩衝剤、Bicin(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン)緩衝剤、Bis-Tris(ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン)緩衝剤、EPPS(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸)緩衝剤、HEPPSO(N-(ヒドロキシエチル)ピペラジン-N'-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)緩衝剤、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)緩衝剤、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)緩衝剤、MOPSO(2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸)緩衝剤、PIPES(ピペラジン-N,N'-ビス(2-エタンスルホン酸))緩衝剤、POPSO(ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸))緩衝剤、TAPS(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸)緩衝剤、TAPSO(3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)緩衝剤、TES(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸)緩衝剤、トリシン(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン)緩衝剤及びこれらの組合せからなる群より選択される1以上の緩衝剤をさらに含む、請求項13に記載の糖化ヘモグロビン測定用組成物。
【請求項21】
測定溶液における終濃度が100mM以上となるリン酸緩衝剤、測定溶液における終濃度が10mM以上となるクエン酸緩衝剤、測定溶液における終濃度が150mM以上となるMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)緩衝剤、測定溶液における終濃度が100mM以上となるMOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)緩衝剤、測定溶液における終濃度が100mM以上となるMOPSO(2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸)緩衝剤、及び測定溶液における終濃度が200mM以上となるACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)緩衝剤からなる群より選択される1以上の緩衝剤を含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
リン酸、トリカルボン酸、ジカルボン酸、モノカルボン酸、式(IV)の化合物、
【化4】
[式中、nは0、1、2または3であってもよく、R10は、それぞれ独立にH、OH、-CH2OHまたは-COOHであってもよい]
硫酸アンモニウム及びこれらの組合せからなる群より選択される1以上の安定化剤をさらに含む、請求項13に記載の糖化ヘモグロビン測定用組成物。
【請求項23】
トリカルボン酸がクエン酸であるか、または、ジカルボン酸がフマル酸、グルタル酸、シトラコン酸、メサコン酸、マロン酸、酒石酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸及びこれらの組合せからなる群より選択されるものであるか、モノカルボン酸が酢酸であるか、または、式(IV)の化合物がMES、MOPS、MOPSO及びこれらの組合せからなる群より選択されるものである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記安定化剤が、測定溶液における終濃度が2mM以上となるリン酸、測定溶液における終濃度が0.2mM以上となるクエン酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となるリンゴ酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となるマレイン酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となるシトラコン酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となるマロン酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となるグルタル酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となる酒石酸、測定溶液における終濃度が10mM以上となる酢酸、測定溶液における終濃度が10mM以上となるMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、測定溶液における終濃度が10mM以上となるMOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、測定溶液における終濃度が10mM以上となるMOPSO(2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸)、測定溶液における終濃度が2mM以上となる硫酸アンモニウム、及びこれらの組合せからなる群より選択される1以上の安定化剤である、請求項22または23に記載の組成物。
【請求項25】
請求項20又は21に記載の緩衝剤、及び、請求項22、23又は24に記載の安定化剤を含む糖化ヘモグロビン測定用組成物。
【請求項26】
アマドリアーゼが、配列番号1、配列番号37もしくは配列番号40のアミノ酸配列を有するアマドリアーゼ、または請求項1~7のいずれか1項に記載のアマドリアーゼである、請求項20~25のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病の診断用酵素として、また、糖尿病マーカーの測定キットに有利に利用され得る界面活性剤耐性に優れたアマドリアーゼ、その遺伝子および組換え体DNAならびに界面活性剤耐性に優れたアマドリアーゼの製造法に関する。また、本発明はアマドリアーゼの安定化剤及び/又は緩衝剤、並びにこれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖化タンパク質は、グルコースなどのアルドース(アルデヒド基を潜在的に有する単糖およびその誘導体)のアルデヒド基と、タンパク質のアミノ基が非酵素的に共有結合を形成し、アマドリ転移することにより生成したものである。タンパク質のアミノ基としてはアミノ末端のαアミノ基、タンパク質中のリジン残基側鎖のεアミノ基が挙げられる。生体内で生じる糖化タンパク質としては血液中のヘモグロビンが糖化された糖化ヘモグロビン、アルブミンが糖化された糖化アルブミンなどが知られている。
【0003】
これら生体内で生じる糖化タンパク質の中でも、糖尿病の臨床診断分野において、糖尿病患者の診断や症状管理のための重要な血糖コントロールマーカーとして、糖化ヘモグロビン(HbA1c)が注目されている。血液中のHbA1c濃度は過去の一定期間の平均血糖値を反映しており、その測定値は糖尿病の症状の診断や管理において重要な指標となっている。
【0004】
このHbA1cを迅速かつ簡便に測定する方法として、アマドリアーゼを用いる酵素的方法、すなわち、HbA1cをプロテアーゼ等で分解し、そのβ鎖アミノ末端より遊離させたα-フルクトシルバリルヒスチジン(以降「αFVH」と表す。)もしくはα-フルクトシルバリン(以降「αFV」と表す。)を定量する方法が提案されている(例えば、特許文献1~7参照。)。実際には、HbA1cからαFVを切り出す方法では、夾雑物等による影響が大きく、正確な測定値が得られないという課題があり、より正確な測定値を得る目的から、特に現在ではαFVHを測る方法が主流となっている。
【0005】
アマドリアーゼは、酸素の存在下で、イミノ2酢酸もしくはその誘導体(「アマドリ化合物」ともいう)を酸化して、グリオキシル酸またはα-ケトアルデヒド、アミノ酸またはペプチドおよび過酸化水素を生成する反応を触媒する。
【0006】
アマドリアーゼは、細菌、酵母、真菌から見出されているが、特にHbA1cの測定に有用である、αFVHおよび/またはαFVに対する酵素活性を有するアマドリアーゼとしては、例えば、コニオカエタ(Coniochaeta)属、ユーペニシリウム(Eupenicillium)属、ピレノケータ(Pyrenochaeta)属、アルスリニウム(Arthrinium)属、カーブラリア(Curvularia)属、ネオコスモスポラ(Neocosmospora)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、フェオスフェリア(Phaeosphaeria)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、エメリセラ(Emericella)属、ウロクラディウム(Ulocladium)属、ペニシリウム(Penicillium)属、フザリウム(Fusarium)属、アカエトミエラ(Achaetomiella)属、アカエトミウム(Achaetomium)属、シエラビア(Thielavia)属、カエトミウム(Chaetomium)属、ゲラシノスポラ(Gelasinospora)属、ミクロアスカス(Microascus)属、レプトスフェリア(Leptosphaeria)属、オフィオボラス(Ophiobolus)属、プレオスポラ(Pleospora)属、コニオケチジウム(Coniochaetidium)属、ピチア(Pichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属由来のアマドリアーゼが報告されている(例えば、特許文献1、6~15、非特許文献1~11参照。)。なお、上記報告例の中で、アマドリアーゼは、文献によってはケトアミンオキシダーゼやフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、フルクトシルペプチドオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ等の表現で記載されている場合もある。
【0007】
HbA1cを測定する際に、測定用の試薬組成物中にはアマドリアーゼが過剰に含有されていることが知られている。例えば、終濃度0.36μMのHbA1cを測定する際に、アマドリアーゼは1.4kU/L、すなわち1分間当たり1.4mMの基質を反応させることができる濃度を用いている(特許文献16参照。)。アマドリアーゼを用いたHbA1cの測定は、自動分析装置を用いた手法が主流となっており、そのアマドリアーゼの基質との反応時間は5分~25分程度で測定を行うことが多い。アマドリアーゼを過剰量で含有させる理由は、上記のような短時間の測定時間の中で基質に対し十分に反応させるためであり、また、アマドリアーゼの反応性や安定性に大きな負の影響を与え得る物質が測定用組成物中に共存する場合には、この影響への対策として、アマドリアーゼを過剰に配合せざるを得ないためである。
【0008】
アマドリアーゼを用いて全血または赤血球からHbA1cを測定するための前処理方法として、界面活性剤を用いて溶血する事例が挙げられている(例えば、特許文献2、16~18参照。)。HbA1cをプロテアーゼで分解する際に、反応促進剤として界面活性剤が用いられることもある(例えば、特許文献19参照。)。したがって、アマドリアーゼを用いてHbA1cを測定するに当たり、界面活性剤は必要不可欠であるが、界面活性剤およびプロテアーゼで処理したHbA1c溶液とアマドリアーゼ溶液を混合してからHbA1c定量反応を開始する際に、また、界面活性剤とアマドリアーゼを混合して保存した際に、界面活性剤がアマドリアーゼを変性させる可能性が極めて高い。現在のHbA1c測定用キットは、アマドリアーゼを必要量より多分に処方し、かつ、安定化剤を処方しているために正確な測定を成し得ているが、多量の試薬を用いているために高コストになることは避けられない。また、現行より効果の強い界面活性剤を使用できるならば、HbA1cのプロテアーゼ分解効率がより改善され、HbA1cの測定感度が向上する可能性が高い。さらに、界面活性剤にはヘモグロビンやHbA1c由来の不溶性ペプチド断片の可溶化効果もあるため、濁りの発生を防止し、測定精度の向上に寄与する。したがって、アマドリアーゼを糖尿病の臨床診断用酵素としてキット試薬に処方する上で要望される性質のひとつに、界面活性剤を含んだ液状の良好な安定性があるといえる。
【0009】
実際の測定条件は個々に異なるが、公知の文献中に各種アマドリアーゼの液状における安定性に関する開示がみられる:Coniochaeta sp. NISL 9330株由来アマドリアーゼを含んだ溶液に、5mMのエチレンジアミン4酢酸および3%のグリシンを添加した際は、30℃、7日間後において79%の残存活性を維持していることが示されている(例えば、特許文献20参照。)。また、Fusarium oxysporum IFO-9972株由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを含んだ溶液に、3%のL-アラニン、3%のグリシンまたは3%のザルコシンを添加した際は、37℃、2日間後において100%の残存活性を維持していることが示されている(例えば、特許文献21参照。)。
【0010】
しかしながら、上述のようなアマドリアーゼタンパク質を含んだ溶液には界面活性剤は添加されておらず、界面活性剤の影響を低減する記述は一切ない。また、界面活性剤耐性が高いアマドリアーゼは報告されていない。また界面活性剤存在下でのアマドリアーゼの残存活性を維持する又は残存活性の低下を軽減する安定化剤や緩衝剤は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2004/104203号
【特許文献2】国際公開第2005/49857号
【特許文献3】特開2001-95598号公報
【特許文献4】特公平05-33997号公報
【特許文献5】特開平11-127895号公報
【特許文献6】国際公開第97/13872号
【特許文献7】特開2011-229526号公報
【特許文献8】特開2003-235585号公報
【特許文献9】特開2004-275013号公報
【特許文献10】特開2004-275063号公報
【特許文献11】特開2010-35469号公報
【特許文献12】特開2010-57474号公報
【特許文献13】国際公開第2010/41715号
【特許文献14】国際公開第2010/41419号
【特許文献15】国際公開第2011/15325号
【特許文献16】国際公開第2012/020744号
【特許文献17】国際公開第2005/87946号
【特許文献18】国際公開第2002/06519号
【特許文献19】国際公開第2006/120976号
【特許文献20】特開2006-325547号公報
【特許文献21】特開2009-000128号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Biochem. Biophys. Res. Commun. 311, 104-11, 2003
【非特許文献2】Biotechnol. Bioeng. 106, 358-66, 2010
【非特許文献3】J. Biosci. Bioeng. 102, 241-3, 2006
【非特許文献4】Eur. J. Biochem. 242, 499-505, 1996
【非特許文献5】Arch.Microbiol.178,344-50,2002
【非特許文献6】Mar.Biotechnol.6,625-32,2004
【非特許文献7】Biosci. Biotechnol. Biochem.59, 487-91,1995
【非特許文献8】Appl. Microbiol. Biotechnol. 74, 813-819, 2007
【非特許文献9】Biosci. Biotechnol. Biochem. 66, 1256-61, 2002
【非特許文献10】Biosci. Biotechnol. Biochem. 66, 2323-29, 2002
【非特許文献11】Biotechnol. Letters 27, 27-32,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように従来、アマドリアーゼは、測定時間中に基質に対し十分に反応するよう過剰量で使用されてきた。本発明者らは、界面活性剤がアマドリアーゼの安定性に顕著に負の影響を与え得る成分であることを今回新たに見出した。よって、従来のアマドリアーゼよりも、さらに優れた界面活性剤耐性を有する酵素を作製すれば、酵素およびキットの流通における利便性や、キットに処方するアマドリアーゼや安定化剤の量を低減することで低コスト化、強力な界面活性剤が処方可能になることによるHbA1cの測定感度向上において多大に貢献することが期待される。したがって本発明が解決しようとする課題は、従来のアマドリアーゼと比較して界面活性剤耐性が優れたアマドリアーゼを提供すること、並びに界面活性剤存在下でも、HbA1cまたはそれに由来する糖化ペプチドの定量が可能な試薬組成物を提供することにある。
【0014】
また、本発明が解決しようとする課題は、界面活性剤存在下でのアマドリアーゼの残存活性を維持する、又は残存活性の低下を軽減する安定化剤及び/又は緩衝剤並びにこれらを含む組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
酵素に界面活性剤耐性を付与するための情報はほとんど開示されていない現状の中で、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、Coniochaeta属由来のアマドリアーゼに対して、特定のアミノ酸残基の置換を導入することにより、また、界面活性存在下でも活性が残存するアマドリアーゼを試薬組成物に含有することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、さらに、特定の安定化剤及び/又は緩衝剤を用いると、界面活性剤存在下でのアマドリアーゼの残存活性が維持されるか、又は残存活性の低下が有意に軽減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0017】
[1] 界面活性剤を添加してから5分後の残存活性(%)が、配列番号1、3、または37に示すアミノ酸配列を有するアマドリアーゼと比較して向上しているアマドリアーゼであって、
(i)配列番号1、3、または37に示すアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の欠失、挿入、付加、および/または置換がなされたアミノ酸配列を有し、かつ/又は
(ii)配列番号1、3、または37に示すアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、
前記アマドリアーゼ。
【0018】
[2] 界面活性剤がイオン性界面活性剤である、[1]記載のアマドリアーゼ。
【0019】
[3] 配列番号1または3に示すアミノ酸配列における以下の(i)から(xiv):
(i)262位のアスパラギン、
(ii)257位のバリン、
(iii)249位のグルタミン酸
(iv)253位のグルタミン酸、
(v)337位のグルタミン、
(vi)340位のグルタミン酸、
(vii)232位のアスパラギン酸、
(viii)129位のアスパラギン酸、
(ix)132位のアスパラギン酸、
(x)133位のグルタミン酸、
(xi)44位のグルタミン酸、
(xii)256位のグリシン、
(xiii)231位のグルタミン酸、及び
(xiv)81位のグルタミン酸、
よりなる群から選択されるアミノ酸に対応する位置で1つまたはそれ以上のアミノ酸残基の置換を有する、[1]又は[2]記載のアマドリアーゼ。
【0020】
[4] 配列番号1または3に示すアミノ酸配列のアミノ酸が、
以下の(i)から(xiv)の置換:
(i)262位のアスパラギンがヒスチジンに置換されている;
(ii)257位のバリンがシステイン、セリン、トレオニンに置換されている;
(iii)249位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(iv)253位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(v)337位のグルタミンがリジン、アルギニンに置換されている;
(vi)340位のグルタミン酸がプロリンに置換されている;
(vii)232位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(viii)129位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(ix)132位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(x)133位のグルタミン酸がアラニン、メチオニン、リジン、アルギニンに置換されている;
(xi)44位のグルタミン酸がプロリンに置換されている;
(xii)256位のグリシンがリジン、アルギニンに置換されている;
(xiii)231位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;及び
(xiv)81位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
のいずれか1以上を有する、[1]~[3]のいずれかに記載のアマドリアーゼ。
【0021】
[5] 配列番号1または3に示すアミノ酸配列において、以下の(i)から(ix):
(i)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換;
(ii)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換;
(iii)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換;
(iv)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換および232位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;
(v)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換および249位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;
(vi)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換;
(vii)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換および129位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;
(viii)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、133位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換;並びに
(ix)44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、133位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、337位のグルタミンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換
よりなる群から選択されるアミノ酸残基の置換を有する、[1]~[4]のいずれかに記載のアマドリアーゼ。
【0022】
[6] 配列番号37に示すアミノ酸配列のアミノ酸が、
以下の(i)から(ix)の置換:
(i)247位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(ii)251位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(iii)335位のトレオニンがリジン、アルギニンに置換されている;
(iv)230位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(v)129位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(vi)132位のアスパラギン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
(vii)133位のグルタミン酸がアラニン、メチオニン、リジン、アルギニンに置換されている;
(viii)254位のアスパラギンがリジン、アルギニンに置換されている;及び
(ix)229位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに置換されている;
のいずれか1以上を有する、[1]~[3]のいずれかに記載のアマドリアーゼ。
【0023】
[7] 配列番号37に示すアミノ酸配列において、以下の(i)から(iv):
(i)251位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンの置換;
(ii)132位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;
(iii)133位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;並びに
(iv)229位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換;
よりなる群から選択されるアミノ酸残基の置換を有する、[1]~[3]および[6]のいずれかに記載のアマドリアーゼ。
【0024】
[8] [1]~[7]のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードするアマドリアーゼ遺伝子。
【0025】
[9] [8]記載のアマドリアーゼ遺伝子を含む組換えベクター。
【0026】
[10] [9]記載の組換えベクターを含む宿主細胞。
【0027】
[11] 以下の工程:
(i)[10]記載の宿主細胞を培養する工程;
(ii)宿主細胞に含まれるアマドリアーゼ遺伝子を発現させる工程;及び
(iii)培養物からアマドリアーゼを単離する工程を含む、アマドリアーゼを製造する方法。
【0028】
[12] [1]~[7]のいずれかに記載のアマドリアーゼを含む、糖化ヘモグロビンの測定に用いるための組成物。
【0029】
[13] 1以上の界面活性剤及びアマドリアーゼを含む、糖化ヘモグロビン測定用組成物。
【0030】
[14] アマドリアーゼが、
(i)界面活性剤を添加してから5分後の残存活性(%)が、添加しない場合と比較して、15%以上残存し、かつ/又は
(ii)終濃度0.04%の界面活性剤の存在下において、発色基質N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4′-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミンナトリウム(DA-64)を添加し5分間反応させた後の751nmにおける吸光度と、糖化アミノ酸溶液または糖化ペプチド溶液の代わりにイオン交換水を用いた対照液添加から5分後の751nmにおける吸光度との差が0.006以上となるアマドリアーゼである、
[13]に記載の組成物。
【0031】
[15] アマドリアーゼが配列番号1、3、37または40に示すアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を有するアマドリアーゼである、[13]又は[14]に記載の組成物。
【0032】
[16] 界面活性剤が、70mM以下の臨界ミセル濃度を有するものである、[13]~[15]のいずれかに記載の組成物。
【0033】
[17] 界面活性剤が、以下の一般式(I)で表される第四級アンモニウム塩、
【化1】
[式中、R~Rは、同一又は異なっていてもよく、置換若しくは非置換のC~C20アルキル、アルケニル、アリール又はベンジルを表し、Zは、1価の陰イオンを表す。]
以下の一般式(II)で表されるピリジニウム塩、
【化2】
[式中、Rは、置換若しくは非置換のC~C20アルキルを表し、各Rは、同一又は異なっていてもよく、水素原子又は置換若しくは非置換のC~C20アルキル、アルケニル、アリール又はベンジルを表し、nは1~5の整数を表し、Zは、1価の陰イオンを表す。]
以下の一般式(III)で表されるホスホニウム塩、
【化3】
[式中、R~Rは、同一又は異なっていてもよく、置換若しくは非置換のC~C20アルキル、アルケニル、アリール又はベンジルを表し、Zは、1価の陰イオンを表す。]
並びにドデシル硫酸ナトリウムからなる群より選択される1以上のイオン性界面活性剤である、[13]~[16]のいずれかに記載の組成物。
【0034】
[18] 界面活性剤が、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、エイコシルトリメチルアンモニウムクロリド及びエイコシルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルドデシルジメチルアンモニウムクロリド、ベンジルドデシルジメチルアンモニウムブロミド、ベンジルテトラデシルジメチルアンモニウムクロリド、ベンジルテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロリド、およびベンジルセチルジメチルアンモニウムブロミド、
1-デシルピリジニウムクロリド、1-デシルピリジニウムブロミド、1-ドデシルピリジニウムクロリド、1-ドデシルピリジニウムブロミド、1-テトラデシルピリジニウムクロリド、1-テトラデシルピリジニウムブロミド、1-ヘキサデシルピリジニウムクロリド、1-ヘキサデシルピリジニウムブロミド、N-セチル-2-メチルピリジニウムクロリド、N-セチル-2-メチルピリジニウムブロミド、N-セチル-3-メチルピリジニウムクロリド、N-セチル-3-メチルピリジニウムブロミド、N-セチル-4-メチルピリジニウムクロリド、N-セチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-オクタデシルピリジニウムクロリド、1-オクタデシルピリジニウムブロミド、1-エイコシルピリジニウムクロリド及び1-エイコシルピリジニウムブロミド、
テトラエチルホスホニウムクロリド、テトラエチルホスホニウムブロミド、トリブチルメチルホスホニウムクロリド、トリブチルメチルホスホニウムブロミド、トリブチルメチルホスホニウムヨージド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラ-n-オクチルホスホニウムクロリド、テトラ-n-オクチルホスホニウムブロミド、トリブチルドデシルホスホニウムクロリド、トリブチルドデシルホスホニウムブロミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムクロリド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムクロリド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムヨージド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、並びにテトラフェニルホスホニウムブロミド、
からなる群より選択される1以上のイオン性界面活性剤である、[17]に記載の組成物。
【0035】
[19] 含まれる界面活性剤が、測定時における終濃度として、0.01%(w/v)以上である、[13]~[18]のいずれかに記載の組成物。
【0036】
[20] ホウ酸緩衝剤、トリス塩酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、フマル酸緩衝剤、グルタル酸緩衝剤、シトラコン酸緩衝剤、メサコン酸緩衝剤、マロン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、アジピン酸緩衝剤、ACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)緩衝剤、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)緩衝剤、Bicin(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン)緩衝剤、Bis-Tris(ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン)緩衝剤、EPPS(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸)緩衝剤、HEPPSO(N-(ヒドロキシエチル)ピペラジン-N'-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)緩衝剤、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)緩衝剤、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)緩衝剤、MOPSO(2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸)緩衝剤、PIPES(ピペラジン-N,N'-ビス(2-エタンスルホン酸))緩衝剤、POPSO(ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸))緩衝剤、TAPS(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸)緩衝剤、TAPSO(3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)緩衝剤、TES(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸)緩衝剤、トリシン(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン)緩衝剤及びこれらの組合せからなる群より選択される1以上の緩衝剤をさらに含む、[13]に記載の糖化ヘモグロビン測定用組成物。
【0037】
[21] 測定溶液における終濃度が100mM以上となるリン酸緩衝剤、測定溶液における終濃度が10mM以上となるクエン酸緩衝剤、測定溶液における終濃度が150mM以上となるMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)緩衝剤、測定溶液における終濃度が100mM以上となるMOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)緩衝剤、測定溶液における終濃度が100mM以上となるMOPSO(2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸)緩衝剤、及び測定溶液における終濃度が200mM以上となるACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)緩衝剤からなる群より選択される1以上の緩衝剤を含む、[20]に記載の組成物。
【0038】
[22] リン酸、トリカルボン酸、ジカルボン酸、モノカルボン酸、式(IV)の化合物、
【化4】
[式中、nは0、1、2または3であってもよく、R10は、それぞれ独立にH、OH、-CH2OHまたは-COOHであってもよい]
硫酸アンモニウム及びこれらの組合せからなる群より選択される1以上の安定化剤をさらに含む、[13]に記載の糖化ヘモグロビン測定用組成物。
【0039】
[23] トリカルボン酸がクエン酸であるか、または、ジカルボン酸がフマル酸、グルタル酸、シトラコン酸、メサコン酸、マロン酸、酒石酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸及びこれらの組合せからなる群より選択されるものであるか、モノカルボン酸が酢酸であるか、または、式(IV)の化合物がMES、MOPS、MOPSO及びこれらの組合せからなる群より選択されるものである、[22]に記載の組成物。
【0040】
[24] 前記安定化剤が、測定溶液における終濃度が2mM以上となるリン酸、測定溶液における終濃度が0.2mM以上となるクエン酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となるリンゴ酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となるマレイン酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となるシトラコン酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となるマロン酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となるグルタル酸、測定溶液における終濃度が2mM以上となる酒石酸、測定溶液における終濃度が10mM以上となる酢酸、測定溶液における終濃度が10mM以上となるMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、測定溶液における終濃度が10mM以上となるMOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、測定溶液における終濃度が10mM以上となるMOPSO(2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸)、測定溶液における終濃度が2mM以上となる硫酸アンモニウム、及びこれらの組合せからなる群より選択される1以上の安定化剤である、[22]又は[23]に記載の組成物。
【0041】
[25] [20]又は[21]に記載の緩衝剤、及び、[22]、[23]又は[24]に記載の安定化剤を含む糖化ヘモグロビン測定用組成物。
【0042】
[26] アマドリアーゼが、配列番号1、配列番号37もしくは配列番号40のアミノ酸配列を有するアマドリアーゼ、または[1]~[7]のいずれかに記載のアマドリアーゼである、[20]~[25]のいずれかに記載の組成物。
【0043】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2013-167005号、2013-221515号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、糖尿病の診断用酵素として、また、糖尿病マーカーの測定キットに有利に利用され得る界面活性剤耐性の優れたアマドリアーゼおよびそれをコードする遺伝子等を提供することができる。このアマドリアーゼを用いると、高濃度の界面活性剤の存在下でも糖化ヘモグロビンの測定を行うことができる。また本発明の安定化剤及び/又は緩衝剤を用いることにより界面活性剤存在下でのアマドリアーゼの残存活性を維持でき又は残存活性の低下を軽減でき、高濃度の界面活性剤の存在下でも糖化ヘモグロビンの測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1-1】図1-1は、各種公知のアマドリアーゼのアミノ酸配列のアライメントである。
図1-2】図1-2は、各種公知のアマドリアーゼのアミノ酸配列のアライメントである。
図1-3】図1-3は、各種公知のアマドリアーゼのアミノ酸配列のアライメントである。
図2図2は、0.01%のCTACの混合下でCFP-T7を用いて、αFVHを測定した結果を示す。
図3図3は、0.02%のCTACの混合下でCFP-T7を用いて、αFVHを測定した結果を示す。
図4図4は、0.02%のCTACの混合下でCFP-D7を用いて、αFVHを測定した結果を示す。
図5図5は、0.2%のCTACの混合下でCFP-D7を用いて、αFVHを測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0047】
(アマドリアーゼ)
アマドリアーゼは、ケトアミンオキシダーゼ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、フルクトシルペプチドオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ等とも称され、酸素の存在下で、イミノ2酢酸またはその誘導体(アマドリ化合物)を酸化して、グリオキシル酸またはα-ケトアルデヒド、アミノ酸またはペプチドおよび過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素のことをいう。アマドリアーゼは、自然界に広く分布しており、微生物や、動物または植物起源の酵素を探索することにより、得ることができる。微生物においては、例えば、糸状菌、酵母または細菌等から得ることができる。
【0048】
本発明のアマドリアーゼの一態様は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するConiochaeta属由来のアマドリアーゼまたは配列番号37に示されるアミノ酸配列を有するCurvularia clavata由来のアマドリアーゼに基づき作製された、界面活性剤耐性が向上したアマドリアーゼの変異体である。このような変異体の例としては、配列番号1または配列番号37と高い配列同一性(例えば、70%以上、好ましくは、75%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上)を有するアミノ酸配列を有するアマドリアーゼおよび配列番号1または配列番号37のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が改変もしくは変異、または、欠失、置換、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を有するアマドリアーゼを挙げることができる。
【0049】
なお、本発明のアマドリアーゼは例えば、Eupenicillium属、Pyrenochaeta属、Arthrinium属、Curvularia属、Neocosmospora属、Cryptococcus属、Phaeosphaeria属、Aspergillus属、Emericella属、Ulocladium属、Penicillium属、Fusarium属、Achaetomiella属、Achaetomium属、Thielavia属、Chaetomium属、Gelasinospora属、Microascus属、Leptosphaeria属、Ophiobolus属、Pleospora属、Coniochaetidium属、Pichia属、Corynebacterium属、Agrobacterium属、Arthrobacter属などのの生物種に由来するアマドリアーゼに基づき作製されたものでもよい。これらの中でも界面活性剤耐性を有し、かつ/又はアミノ酸配列が上記のように配列番号1又は配列番号37と高い配列同一性を有するものが好ましい。
【0050】
界面活性剤耐性が改変されたアマドリアーゼの変異体(改変体)は、アマドリアーゼのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸残基を置換する、または付加する、または欠失させることによって得ることができる。
【0051】
界面活性剤耐性の向上をもたらすアミノ酸の置換として、配列番号1または3に示すアミノ酸配列における以下の位置のアミノ酸に対応する位置のアミノ酸の置換が挙げられる。
【0052】
(1)262位のアスパラギンの置換、例えば、ヒスチジンへの置換。
(2)257位のバリンの置換、例えば、システイン、セリン、トレオニンへの置換。 (3)249位のグルタミン酸の置換、例えば、リジン、アルギニンへの置換。
(4)253位のグルタミン酸の置換、例えば、リジン、アルギニンへの置換。
(5)337位のグルタミンの置換、例えば、リジン、アルギニンへの置換。
(6)340位のグルタミン酸の置換、例えば、プロリンへの置換。
(7)232位のアスパラギン酸の置換、例えば、リジン、アルギニンへの置換。
(8)129位のアスパラギン酸の置換、例えば、リジン、アルギニンへの置換。
(9)132位のアスパラギン酸の置換、例えば、リジン、アルギニンへの置換。
(10)133位のグルタミン酸の置換、例えば、アラニン、メチオニン、リジン、アルギニンへの置換。
(11)44位のグルタミン酸の置換、例えば、プロリンへの置換。
(12)256位のグリシンの置換、例えば、リジン、アルギニンへの置換。
(13)231位のグルタミン酸の置換、例えば、リジン、アルギニンへの置換。
(14)81位のグルタミン酸の置換、例えば、リジン、アルギニンへの置換。
【0053】
界面活性剤耐性が向上したアマドリアーゼの変異体は、上記アミノ酸置換を少なくとも1つ有していればよく、複数のアミノ酸置換を有していてもよい。例えば、上記アミノ酸置換の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14を有している。
【0054】
その中でも、以下のアミノ酸の位置に対応するアミノ酸の置換を有している変異体が好ましい。
(11)-(6) 44位のグルタミン酸の置換および340位のグルタミン酸の置換、例えば、44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換を有する変異体。
(11)-(1)-(6) 44位のグルタミン酸の置換、262位のアスパラギンの置換および340位のグルタミン酸の置換、例えば、44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換を有する変異体。
(11)-(2)-(1)-(6) 44位のグルタミン酸の置換、257位のバリンの置換、262位のアスパラギンの置換および340位のグルタミン酸の置換、例えば、44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換を有する変異体。
(11)-(7)-(2)-(1)-(6) 44位のグルタミン酸の置換、257位のバリンの置換、262位のアスパラギンの置換、340位のグルタミン酸の置換、および232位のアスパラギン酸の置換、例えば、44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、および232位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンまたはアルギニンへの置換を有する変異体。
(11)-(3)-(2)-(1)-(6) 44位のグルタミン酸の置換、257位のバリンの置換、262位のアスパラギンの置換、340位のグルタミン酸の置換、および249位のグルタミン酸の置換、例えば、44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、および249位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンまたはアルギニンへの置換を有する変異体。
【0055】
(11)-(4)-(2)-(1)-(6) 44位のグルタミン酸の置換、253位のグルタミン酸の置換、257位のバリンの置換、262位のアスパラギンの置換および340位のグルタミン酸の置換、例えば、44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンまたはアルギニンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換を有する変異体。
(11)-(8)-(4)-(2)-(1)-(6) 44位のグルタミン酸の置換、253位のグルタミン酸の置換、257位のバリンの置換、262位のアスパラギンの置換、340位のグルタミン酸の置換、および129位のアスパラギン酸の置換、例えば、44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンまたはアルギニンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、および129位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンまたはアルギニンへの置換を有する変異体。
(11)-(10)-(4)-(2)-(1)-(6) 44位のグルタミン酸の置換、133位のグルタミン酸の置換、253位のグルタミン酸の置換、257位のバリンの置換、262位のアスパラギンの置換および340位のグルタミン酸の置換、例えば、44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、133位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンまたはアルギニンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換を有する変異体。
(11)-(10)-(4)-(2)-(1)-(5)-(6) 44位のグルタミン酸の置換、133位のグルタミン酸の置換、253位のグルタミン酸の置換、257位のバリンの置換、262位のアスパラギンの置換、337位のグルタミンのリジンへの置換および340位のグルタミン酸の置換、例えば、44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、133位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換、253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンまたはアルギニンへの置換、257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステインへの置換、262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、337位のグルタミンに対応する位置のアミノ酸のリジンまたはアルギニンへの置換および340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換を有する変異体。
【0056】
本発明の界面活性剤耐性の優れたアマドリアーゼ変異体は、配列番号1に示すアミノ酸配列において、上記の界面活性剤耐性の向上をもたらすアミノ酸の置換を有し得る。さらに、本発明の界面活性剤耐性アマドリアーゼ変異体は、それらの置換アミノ酸以外の位置で、さらに1または数個(例えば1~15個、例えば1~10個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1個)のアミノ酸が欠失、挿入、付加および/または置換されていてもよい。さらに本発明は、上記の界面活性剤耐性の向上をもたらすアミノ酸の置換変異、基質特異性等、界面活性剤耐性以外の性質を向上させるアミノ酸の置換変異を有し、配列番号1または3に示すアミノ酸配列における前記置換したアミノ酸以外のアミノ酸を除いた部分のアミノ酸配列に対して、70%以上、75%以上、80%以上、90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上のアミノ酸配列同一性を有し、アマドリアーゼ活性を有し、界面活性剤耐性が改変されたアマドリアーゼ変異体を包含する。
【0057】
なお、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するアマドリアーゼは、国際公開2007/125779号においてpKK223-3-CFP-T7と称する組換え体プラスミド(寄託番号:FERM BP-10593)を保持する大腸菌が生産するConiochaeta属由来のアマドリアーゼ(CFP-T7)であり、先に出願人が見出した熱安定性の優れた改変型アマドリアーゼである。このCFP-T7は、天然型のConiochaeta属由来のアマドリアーゼに対し、272位、302位および388位に人為的な変異を順次導入することにより獲得した3重変異体である。
【0058】
また、配列番号3は国際公開第2012/18094号で示される基質特異性改善型変異(E98A)と国際公開第2007/125779号および国際公開第2013/100006号で示される熱安定性向上型変異(F43Y、G184D、カルボキシル末端の3アミノ酸残基が欠失)を導入したConiochaeta属由来アマドリアーゼのアミノ酸配列である。
【0059】
上記のアミノ酸置換において、アミノ酸の位置は配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列における位置を表しているが、他の生物種由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列においては、配列番号1に示されるアミノ酸配列における位置に対応する位置のアミノ酸が置換されている。「対応する位置」の意味については後述する。
【0060】
また界面活性剤耐性の向上をもたらすアミノ酸の置換として、配列番号37に示すアミノ酸配列における以下の位置のアミノ酸に対応する位置のアミノ酸の置換が挙げられる。(i)247位のグルタミン酸の置換、例えばリジン、アルギニンへの置換;
(ii)251位のグルタミン酸の置換、例えばリジン、アルギニンへの置換;
(iii)335位のトレオニンの置換、例えばリジン、アルギニンへの置換;
(iv)230位のアスパラギン酸の置換、例えばリジン、アルギニンへの置換;
(v)129位のアスパラギン酸の置換、例えばリジン、アルギニンへの置換;
(vi)132位のアスパラギン酸の置換、例えばリジン、アルギニンへの置換;
(vii)133位のグルタミン酸の置換、例えばアラニン、メチオニン、リジン、アルギニンへの置換;
(viii)254位のアスパラギンの置換、例えばリジン、アルギニンへの置換;及び
(ix)229位のグルタミン酸の置換、例えばリジン、アルギニンへの置換。
【0061】
界面活性剤耐性が向上したアマドリアーゼの変異体は、上記アミノ酸置換を少なくとも1つ有していればよく、複数のアミノ酸置換を有していてもよい。例えば、上記アミノ酸置換の1、2、3、4、5、6、7、8、または9を有している。
【0062】
その中でも、以下のアミノ酸の位置に対応するアミノ酸の置換を有している変異体が好ましい。
配列番号37に示すアミノ酸配列において、以下の(i)から(iv):
(i)251位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンの置換を有する変異体;
(ii)132位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換を有する変異体;
(iii)133位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換を有する変異体;並びに(iv)229位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換および335位のトレオニンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換を有する変異体。
【0063】
(アマドリアーゼをコードする遺伝子の取得)
これらのアマドリアーゼをコードする本発明の遺伝子(以下、単に「アマドリアーゼ遺伝子」ともいう。)を得るには、通常一般的に用いられている遺伝子のクローニング方法が用いられる。例えば、アマドリアーゼ生産能を有する微生物菌体や種々の細胞から常法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(WILEY Interscience,1989)記載の方法により、染色体DNAまたはmRNAを抽出することができる。さらにmRNAを鋳型としてcDNAを合成することができる。このようにして得られた染色体DNAまたはcDNAを用いて、染色体DNAまたはcDNAのライブラリーを作製することができる。
【0064】
次いで、上記アマドリアーゼのアミノ酸配列に基づき、適当なプローブDNAを合成して、これを用いて染色体DNAまたはcDNAのライブラリーからアマドリアーゼ遺伝子を選抜する方法、あるいは、上記アミノ酸配列に基づき、適当なプライマーDNAを作製して、5’RACE法や3’RACE法などの適当なポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)により、アマドリアーゼをコードする目的の遺伝子断片を含むDNAを増幅させ、これらのDNA断片を連結させて、目的のアマドリアーゼ遺伝子の全長を含むDNAを得ることができる。
【0065】
このようにして得られたアマドリアーゼをコードする遺伝子の好ましい一例として、Coniochaeta属由来のアマドリアーゼ遺伝子(特開2003-235585号公報)の例などが挙げられる。
【0066】
これらのアマドリアーゼ遺伝子は、常法通り各種ベクターに連結されていることが、取扱い上好ましい。例えば、Coniochaeta sp. NISL 9330株由来のアマドリアーゼ遺伝子をコードするDNAがpKK223-3 Vector(GEヘルスケア社製)に挿入された組換え体プラスミドpKK223-3-CFP(特開2003-235585号公報)が挙げられる。
【0067】
(ベクター)
本発明において用いることのできるベクターとしては、上記プラスミドに限定されることなくそれ以外の、例えば、バクテリオファージ、コスミド等の当業者に公知の任意のベクターを用いることができる。具体的には、例えば、pBluescriptII SK+(STRATAGENE社製)等が好ましい。
【0068】
(アマドリアーゼ遺伝子の変異処理)
アマドリアーゼ遺伝子の変異処理は、企図する変異形態に応じた、公知の任意の方法で行うことができる。すなわち、アマドリアーゼ遺伝子あるいは当該遺伝子の組み込まれた組換え体DNAと変異原となる薬剤とを接触・作用させる方法;紫外線照射法;遺伝子工学的手法;またはタンパク質工学的手法を駆使する方法等を広く用いることができる。
【0069】
上記変異処理に用いられる変異原となる薬剤としては、例えば、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、亜硝酸、亜硫酸、ヒドラジン、蟻酸または5-ブロモウラシル等を挙げることができる。
【0070】
上記接触・作用の諸条件は、用いる薬剤の種類等に応じた条件をとることが可能であり、現実に所望の変異をアマドリアーゼ遺伝子において惹起することができる限り特に限定されない。通常、好ましくは0.5~12Mの上記薬剤濃度において、20~80℃の反応温度下で10分間以上、好ましくは10~180分間接触・作用させることで、所望の変異を惹起可能である。紫外線照射を行う場合においても、上記の通り常法に従い行うことができる(現代化学、p24~30、1989年6月号)。
【0071】
タンパク質工学的手法を駆使する方法としては、一般的に、Site-Specific Mutagenesisとして知られる手法を用いることができる。例えば、Kramer法(Nucleic Acids Res.,12,9441(1984):Methods Enzymol.,154,350(1987):Gene,37,73(1985))、Eckstein法(Nucleic Acids Res.,13,8749(1985):Nucleic Acids Res.,13,8765(1985):Nucleic Acids Res,14,9679(1986))、Kunkel法(Proc. Natl. Acid. Sci. U.S.A.,82,488(1985):Methods Enzymol.,154,367(1987))等が挙げられる。DNA中の塩基配列を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(Transformer Mutagenesis Kit;Clonetech社, EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製, Quick Change Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の利用が挙げられる。
【0072】
また、一般的なPCR法(ポリメラーゼチェインリアクション、Polymerase Chain Reaction)として知られる手法を用いることもできる(Technique,1,11(1989))。なお、上記遺伝子改変法の他に、有機合成法または酵素合成法により、直接所望の改変アマドリアーゼ遺伝子を合成することもできる。
【0073】
上記方法により得られるアマドリアーゼ遺伝子のDNA塩基配列の決定もしくは確認を行う場合には、例えば、マルチキャピラリーDNA解析システムCEQ2000(ベックマン・コールター社製)等を用いることにより行うことができる。
【0074】
(形質転換・形質導入)
上述の如くして得られたアマドリアーゼ遺伝子を、常法により、バクテリオファージ、コスミド、または原核細胞もしくは真核細胞の形質転換に用いられるプラスミド等のベクターに組み込み、各々のベクターに対応する宿主を常法により、形質転換または形質導入をすることができる。例えば、得られた組換え体DNAを用いて、任意の宿主、例えば、エッシェリシア属に属する微生物、具体例としては大腸菌K-12株、好ましくは大腸菌JM109株、大腸菌DH5α株(ともにタカラバイオ社製)や大腸菌B株、好ましくは大腸菌BL21株(ニッポンジーン社製)等を形質転換またはそれらに形質導入してそれぞれの菌株を得ることができる。
【0075】
(アミノ酸配列の同一性)
アミノ酸配列の同一性は、GENETYX Ver.11(ゼネティックス社製)のマキシマムマッチングやサーチホモロジー等のプログラムまたはDNASIS Pro(日立ソフト社製)のマキシマムマッチングやマルチプルアライメント等のプログラムにより計算することができる。
【0076】
(アミノ酸に対応する位置の特定)
「アミノ酸に対応する位置」とは、配列番号1に示すConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列の特定の位置のアミノ酸に対応する他の生物種由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列における位置をいう。
【0077】
「アミノ酸に対応する位置」を特定する方法としては、例えばリップマン-パーソン法等の公知のアルゴリズムを用いてアミノ酸配列を比較し、各アマドリアーゼのアミノ酸配列中に存在する保存アミノ酸残基に最大の同一性を与えることにより行うことができる。アマドリアーゼのアミノ酸配列をこのような方法で整列させることにより、アミノ酸配列中にある挿入、欠失にかかわらず、相同アミノ酸残基の各アマドリアーゼ配列における配列中の位置を決めることが可能である。相同位置は、三次元構造中で同位置に存在すると考えられ、対象となるアマドリアーゼの特異的機能に関して類似した効果を有することが推定できる。
【0078】
図1-1、1-2、1-3に種々の公知の生物種由来のアマドリアーゼの配列を例示する。配列番号1で示されるアミノ酸配列を最上段に示す。図1に示される各種配列は、いずれも配列番号1の配列と70%以上の同一性を有し、公知のアルゴリズムを用いて整列させた。図中に、本発明の変異体における変異点を示す。図1-1、1-2、1-3からConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列の特定の位置のアミノ酸に対応する他の生物種由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列における位置を知ることができる。図1-1、1-2、1-3には、Coniochaeta属由来のアマドリアーゼ(配列番号1)、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ(配列番号34)、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号35)、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号36)、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号37)、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号38)、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号39)、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ(配列番号40)、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号41)、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号42)およびPenicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号43)のアミノ酸配列を示してある。
【0079】
(置換箇所に対応する位置)
なお、本発明において、「配列番号1記載のアミノ酸配列の44位のグルタミン酸に対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの44位のグルタミン酸に対応するアミノ酸を意味するものである。これにより、上記の「相当する位置のアミノ酸残基」を特定する方法でアミノ酸配列を整列させた図1-1により特定することができる。
【0080】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは44位のリジン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは44位のプロリン、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは44位のプロリン、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは44位のプロリン、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは44位のプロリン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは44位のロイシン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは44位のプロリン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは43位のプロリン、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは44位のプロリン、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは44位のプロリンである。
【0081】
また、「配列番号1記載のアミノ酸配列の81位のグルタミン酸に対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの81位のグルタミン酸に対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-1より特定することができる。
【0082】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは81位のアスパラギン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは81位のグルタミン酸、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは81位のヒスチジン、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは81位のグルタミン酸、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは81位のアスパラギン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは81位のアスパラギン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは81位のグルタミン酸、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは80位のアスパラギン、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは81位のグルタミン酸、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは81位のアスパラギンである。
【0083】
また、「配列番号1記載のアミノ酸配列の133位のグルタミン酸に対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1記載のアミノ酸配列の133位のグルタミン酸に対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-1より特定することができる。
【0084】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは133位のグルタミン酸、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは133位のグルタミン酸、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは133位のアラニン、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは133位のグルタミン酸、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは133位のアラニン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは133位のグルタミン酸、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは131位のグルタミン酸、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは132位のグルタミン酸、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは133位のリジン、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは133位のアスパラギン酸である。
【0085】
また、「配列番号1記載のアミノ酸配列の253位のグルタミン酸に対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1記載のアミノ酸配列の253位のグルタミン酸に対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-2より特定することができる。
【0086】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは253位のアラニン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは251位のアラニン、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは253位のグルタミン酸、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは251位のグルタミン酸、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは253位のバリン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは253位のグルタミン酸、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは249位のアルギニン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは253位のアラニン、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは251位のグルタミン酸、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは253位のグルタミンである。
【0087】
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の256位のグリシンに対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの256位のグリシンに対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-2より特定することができる。
【0088】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは256位のアスパラギン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは254位のアスパラギン酸、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは256位のグリシン、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは254位のアスパラギン、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは256位のグリシン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは256位のグルタミン酸、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは252位のアスパラギン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは256位のアスパラギン、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは254位のアスパラギン、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは256位のアスパラギン酸である。
【0089】
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の257位のバリンに対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの257位のバリンに対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-2より特定することができる。
【0090】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは257位のバリン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは255位のトレオニン、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは257位のシステイン、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは255位のバリン、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは257位のシステイン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは257位のシステイン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは253位のセリン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは257位のトレオニン、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは255位のバリン、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは257位のバリンである。
【0091】
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の262位のアスパラギンに対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの262位のアスパラギンに対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-2より特定することができる。
【0092】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは262位のアスパラギン酸、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは260位のアスパラギン、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは262位のヒスチジン、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは260位のアスパラギン、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは262位のヒスチジン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは262位のアスパラギン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは258位のアスパラギン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは262位のアスパラギン酸、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは260位のアスパラギン、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは262位のアスパラギン酸である。
【0093】
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の337位のグルタミンに対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの337位のグルタミンに対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-2より特定することができる。
【0094】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは337位のリジン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは335位のリジン、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは338位のグルタミン、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは335位のトレオニン、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは337位のリジン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは337位のリジン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは333位のリジン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは337位のアスパラギン、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは335位のトレオニン、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは337位のリジンである。
【0095】
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の340位のグルタミン酸に対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの340位のグルタミン酸に対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-2より特定することができる。
【0096】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは340位のグルタミン酸、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは338位のグルタミン酸、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは341位のグルタミン酸、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは338位のグルタミン酸、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは340位のプロリン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは340位のグルタミン酸、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは336位のリジン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは340位のグルタミン酸、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは338位のグルタミン酸、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは340位のグルタミン酸である。
【0097】
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の129位のアスパラギン酸に対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの129位のアスパラギン酸に対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-1より特定することができる。
【0098】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは129位のグルタミン酸、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは129位のアスパラギン酸、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは129位のアスパラギン酸、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは129位のアスパラギン酸、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは129位のアスパラギン酸、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは129位のセリン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは127位のアスパラギン酸、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは128位のグルタミン酸、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは129位のアスパラギン酸、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは129位のグルタミン酸である。
【0099】
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の132位のアスパラギン酸に対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの132位のアスパラギン酸に対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-1より特定することができる。
【0100】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは132位のアスパラギン酸、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは132位のアスパラギン酸、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは132位のアスパラギン酸、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは132位のアスパラギン酸、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは132位のグルタミン酸、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは132位のアスパラギン酸、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは130位のアスパラギン酸、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは131位のアスパラギン酸、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは132位のアスパラギン酸、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは132位のアスパラギン酸である。
【0101】
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の231位のグルタミン酸に対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの231位のグルタミン酸に対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-2より特定することができる。
【0102】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは231位のグルタミン酸、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは229位のグルタミン酸、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは231位のグルタミン酸、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは229位のグルタミン酸、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは231位のグルタミン酸、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは231位のグルタミン酸、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは227位のヒスチジン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは231位のグルタミン酸、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは229位のグルタミン、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは231位のグルタミン酸である。
【0103】
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の232位のアスパラギン酸に対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの232位のアスパラギン酸に対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-2より特定することができる。
【0104】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは232位のアスパラギン酸、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは230位のアスパラギン酸、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは232位のグルタミン酸、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは230位のアスパラギン酸、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは232位のグルタミン酸、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは232位のグリシン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは228位のグルタミン酸、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは232位のグルタミン酸、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは230位のアスパラギン酸、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは232位のアスパラギン酸である。
【0105】
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の249位のグルタミン酸に対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの249位のグルタミン酸に対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1-2より特定することができる。
【0106】
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは249位のリジン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは247位のリジン、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは249位のヒスチジン、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは247位のグルタミン酸、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは249位のグルタミン酸、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは249位のグルタミン酸、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは245位のグルタミン酸、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは249位のアラニン、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは247位のセリン、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは249位のグルタミンである。
【0107】
(本発明のアマドリアーゼの生産)
上記のようにして得られた界面活性剤耐性の優れたアマドリアーゼの生産能を有する菌株を用いて、当該アマドリアーゼを生産するには、この菌株を通常の固体培養法で培養してもよいが、可能な限り液体培養法を採用して培養するのが好ましい。
【0108】
また、上記菌株を培養する培地としては、例えば、酵母エキス、トリプトン、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカーまたは大豆もしくは小麦ふすまの浸出液等の1種以上の窒素源に、塩化ナトリウム、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化第2鉄、硫酸第2鉄または硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、さらに必要により糖質原料、ビタミン等を適宜添加したものが用いられる。
【0109】
なお、培地の初発pHは、pH7~9に調整するのが適当である。
【0110】
また、培養は任意の条件を用いることができるが、例えば、20~42℃の培養温度、好ましくは30℃前後の培養温度で4~24時間、さらに好ましくは30℃前後の培養温度で8~16時間、通気攪拌深部培養、振盪培養、静置培養等により実施することができる。
【0111】
培養終了後、該培養物よりアマドリアーゼを採取するには、通常の酵素採取手段を用いて得ることができる。例えば、常法により菌体を、超音波破壊処理、磨砕処理等するか、またはリゾチーム等の溶菌酵素を用いて本酵素を抽出するか、またはトルエン等の存在下で振盪もしくは放置して溶菌を行わせ、本酵素を菌体外に排出させることができる。そして、この溶液を濾過、遠心分離等して固形部分を除去し、必要によりストレプトマイシン硫酸塩、プロタミン硫酸塩または硫酸マンガン等により核酸を除去したのち、これに硫安、アルコール、アセトン等を添加して分画し、沈澱物を採取し、アマドリアーゼの粗酵素を得る。
【0112】
上記アマドリアーゼの粗酵素よりさらにアマドリアーゼ精製酵素標品を得るには、例えば、セファデックス、スーパーデックス若しくはウルトロゲル等を用いるゲル濾過法;イオン交換体を用いる吸着溶出法;ポリアクリルアミドゲル等を用いる電気泳動法;ヒドロキシアパタイトを用いる吸着溶出法;蔗糖密度勾配遠心法等の沈降法;アフィニティクロマトグラフィー法;分子ふるい膜若しくは中空糸膜等を用いる分画法等を適宜選択し、またはこれらを組み合わせて実施することにより、精製されたアマドリアーゼ酵素標品を得ることができる。このようにして、所望の基質特異性が改善されたアマドリアーゼを得ることができる。
【0113】
(本発明における界面活性剤)
本発明における界面活性剤としては、本発明のHbA1cの測定方法を可能とする界面活性剤であれば特に制限は無く、非イオン性界面活性剤やイオン性の界面活性剤、例えば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられるが、特にカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤が好ましい。本明細書において界面活性剤というとき、特に断らない限り、この表現は1以上の界面活性剤を包含するものとする。
【0114】
本発明における界面活性剤は、臨界ミセル濃度(CMC)が70mM以下、50mM以下、20mM以下、10mM以下、7mM以下、6mM以下、5mM以下、4.5mM以下、4mM以下、3.5mM以下、3mM以下、2.5mM以下、2mM以下、1.5mM以下、1.3mM以下、又は1mM以下のものであり得る。ある実施形態において本発明の界面活性剤の臨界ミセル濃度は0.1mM又は0.01mM以上であり得る。好ましくは、臨界ミセル濃度は50mM以下であり、より好ましくは20mM以下であり、より好ましくは10mM以下であり、より好ましくは7mM以下であり、より好ましくは6mM以下であり、最も好ましくは5mM以下である。臨界ミセル濃度とは界面活性剤が溶液中でミセルを形成する臨界濃度であり、これよりも低濃度ではミセルは形成されない。一般に臨界ミセル濃度が低い方が、低濃度の界面活性剤でもミセル形成し、界面活性剤としての作用は強くなる傾向がある。当業者であれば、慣用の手法により所望の界面活性剤の臨界ミセル濃度を決定することができる。例えば界面活性剤と相互作用する蛍光試薬の蛍光変化を利用して、界面活性剤の臨界ミセル濃度を測定する市販のキット等を用いることができる(例えばPFP社のDetergent Critical Micelle Concentration(CMC) Assay Kit等)。
【0115】
例えば、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド(C8、OTAB)のCMCは約140mMであり、デシルトリメチルアンモニウムクロリド(C10)のCMCは約65mMであり、デシルトリメチルアンモニウムブロミド(C10)のCMCは約70mMであり、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C12)のCMCは約20mMであり、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(C12、DTAB)のCMCは約16mMであり、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C14,TTAC) のCMCは約4.5mMであり、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(C14、TTAB)のCMCは約5mMであり、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C16,CTAC) のCMCは約1.3mMであり、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(C16)のCMCは約1mMであり、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C18、STAC)のCMCは約0.3mMであり、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド(C18、STAB)のCMCは約0.3mMである(例えば、J. PHYS. COLLIDE. CHEM., 52, 130(1948)、J. PHYS. CHEM., 66, 1839(1962)、J. AM. OIL. CHEMISTS. SOC., 30, 74(1953)、J. PHARM. SCI., 54, 436(1965)、KONINKI. NED. AKAD. WETEN. PROC. SER B, 58, 97(1955)、J. PHYS. CHEM., 65, 1807(1961)、J. AM. CHEM. SOC., 65, 692(1943)、J. AM. CHEM. SOC., 69, 2095(1947)、J. COLLIDE. INTERFACE. SCI., 22, 430(1966)、J. AM. CHEM. SOC., 70, 3803(1948)参照。)。なお、かっこ内に最も長い置換基の炭素鎖数を示した。
【0116】
また、例えば、1-ドデシルピリジニウムブロミド(C12)のCMCは約12mMであり、1-ドデシルピリジニウムクロリド(C12、1-DPC)のCMCは約14mMであり、1-テトラデシルピリジニウムブロミド(C14)のCMCは約2.9mMであり、1-ヘキサデシルピリジニウムクロリド(C16、1-CPC)のCMCは約0.6mMであり、1-ヘキサデシルピリジニウムブロミド(C16、1-CPB)のCMCは約0.9mMであり、N-セチル-4-メチルピリジニウムクロリド(C16、4Me-1-CPC)のCMCは約1.9mMであり、1-オクタデシルピリジニウムブロミドのCMCは約0.6mMであり、1-オクタデシルピリジニウムクロリドのCMCは約0.24mMである(例えば、J. COLLIDE. INTERFACE. SCI., 21, 522(1966)、J. PHARM. SCI., 54, 436(1965)、TRANS. FARADAY. SOC., 62, 3244(1966)、J. AM. CHEM. SOC., 70, 3803(1948)、REV. CHIM. AC. REP. POP. ROUM., 6, 309(1961)、J. AM. CHEM. SOC., 70, 3049(1948)参照。)。
【0117】
またベンジルドデシルジメチルアンモニウムクロリドのCMCは約2.8mMであり、ベンジルテトラデシルジメチルアンモニウムクロリド(C14、BDTAC)のCMCは約0.37mMであり、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロリド(C16、BCDAC)のCMCは約0.042mMである(例えば、界面活性剤便覧, 131(1960)、J. COLLIDE. INTERFACE. SCI., 22, 430(1966)、J. COLLIDE.SCI., 8, 385(1953)参照)。
【0118】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテルなどが挙げられる。
【0119】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、例えばアルキルピリジニウム塩、ホスホニウム塩、例えばアルキルホスホニウム塩、イミダゾリウム塩、例えばアルキルイミダゾリウム塩、イソキノニウム塩、例えばアルキルイソキノニウム塩などが挙げられる。
【0120】
また本発明のカチオン性界面活性剤としては、以下の一般式で表される第四級アンモニウム塩(I)、ピリジニウム塩(II)やホスホニウム塩(III)が挙げられる。
【化5】
[式中、R~Rは、同一又は異なっていてもよく、置換若しくは非置換のC~C20アルキル、アルケニル、アリール又はベンジルを表し、Zは、1価の陰イオンを表す。]
【化6】
[式中、Rは、置換若しくは非置換のC~C20アルキルを表し、各Raは、同一又は異なっていてもよく、水素原子又は置換若しくは非置換のC~C20アルキル、アルケニル、アリール又はベンジルを表し、nは1~5の整数を表し、Zは、1価の陰イオンを表す。]
【化7】
[式中、R~Rは、同一又は異なっていてもよく、置換若しくは非置換のC~C20アルキル、アルケニル、アリール又はベンジルを表し、Zは、1価の陰イオンを表す。]
【0121】
第四級アンモニウム塩としては、例えば、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド(OTAC)、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド(OTAB)、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド(TTAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド(STAB)、エイコシルトリメチルアンモニウムクロリド、エイコシルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルドデシルジメチルアンモニウムクロリド、ベンジルドデシルジメチルアンモニウムブロミド(BDDAB)、ベンジルテトラデシルジメチルアンモニウムクロリド(BDTAC)、ベンジルテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロリド(BCDAC)、ベンジルセチルジメチルアンモニウムブロミド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、およびジオクチルジメチルアンモニウムブロミド、が挙げられる。
【0122】
ピリジニウム塩としては、例えば、1-デシルピリジニウムクロリド、1-デシルピリジニウムブロミド、1-ドデシルピリジニウムクロリド(1-DPC)、1-ドデシルピリジニウムブロミド、1-テトラデシルピリジニウムクロリド、1-テトラデシルピリジニウムブロミド、1-ヘキサデシルピリジニウムクロリド(1-CPC)、1-ヘキサデシルピリジニウムブロミド(1-CPB)、N-セチル-2-メチルピリジニウムクロリド、N-セチル-3-メチルピリジニウムクロリド、N-セチル-4-メチルピリジニウムクロリド(4Me-1-CPC)、1-オクタデシルピリジニウムクロリド、1-オクタデシルピリジニウムブロミド、1-エイコシルピリジニウムクロリド及び1-エイコシルピリジニウムブロミドが挙げられる。
【0123】
ホスホニウム塩としては、例えば、テトラエチルホスホニウムクロリド、テトラエチルホスホニウムブロミド、トリブチルメチルホスホニウムクロリド、トリブチルメチルホスホニウムブロミド、トリブチルメチルホスホニウムヨージド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラ-n-オクチルホスホニウムクロリド、テトラ-n-オクチルホスホニウムブロミド、トリブチルドデシルホスホニウムクロリド、トリブチルドデシルホスホニウムブロミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムクロリド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド(TBCPB)、メチルトリフェニルホスホニウムクロリド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムヨージド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミドが挙げられる。
【0124】
カチオン性界面活性剤の対となる陰イオンZ-は例えばCl-、Br-、I-等でありうる。
【0125】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルファーオレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩及び天然脂肪酸のアルカリ金属塩などが挙げられる。このような界面活性剤としては例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられる。
【0126】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタインなどが挙げられる。
【0127】
(本発明のアマドリアーゼ及び界面活性剤を含むキット)
本発明はアマドリアーゼ及び界面活性剤を含む糖化ヘモグロビン測定用キットを提供する。界面活性剤は非イオン性又はイオン性界面活性剤とすることができる。また、アマドリアーゼと界面活性剤とは、キット中に同一又は別個の成分として含まれ得る。一般に、同一の成分としてアマドリアーゼと界面活性剤とがキット中に含まれる場合、界面活性剤はアマドリアーゼを失活させない濃度で含まれるのが好ましい。別個の成分としてアマドリアーゼと界面活性剤とがキット中に含まれる場合、界面活性剤は測定時における終濃度よりも高濃度のストック溶液を用いてもよい。このストック溶液を適宜希釈して、測定に用いる溶液を調製する。
【0128】
本発明のアマドリアーゼ及び界面活性剤を含むキットは、さらにαFVH測定用試薬、αFVHを切り出すためのプロテアーゼまたはペプチダーゼ、その他公知の安定化剤や緩衝溶液を含み得る。αFVHを測定するための各種キットに用いられている技術を、本発明のアマドリアーゼ及び界面活性剤を含むキットの製造に適宜用いることができる。すなわち本発明は、適当なアマドリアーゼ及び界面活性剤を用意するステップを含む、アマドリアーゼ及び界面活性剤を含むキットの製造方法を提供する。このとき、アマドリアーゼ及び界面活性剤は同一又は別個の成分として用意することができる。キット中に別個の成分としてアマドリアーゼと界面活性剤とが提供される場合、これらはαFVH測定の直前に混合され得る。
【0129】
本発明のキットに含まれるアマドリアーゼは、好ましくはキットに含まれる界面活性剤を終濃度に調製したものを添加してから5分後の残存活性(%)が、添加しない場合と比較して、好ましくは13%以上、より好ましくは15%以上、最も好ましくは19%以上、例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上又は99%以上である。残存活性については下記に説明する。
【0130】
本発明のキットに含まれるアマドリアーゼは、好ましくは測定時における終濃度として、界面活性剤0.01%(w/v)当たり110μg/ml以下、例えば100μg/ml以下、70μg/ml以下、又は50μg/ml以下である。また、キットに含まれる界面活性剤は、測定時における終濃度として、0.01%(w/v)以上、例えば0.02%(w/v)以上、0.04%(w/v)以上、0.05%(w/v)以上、0.06%(w/v)以上、0.07%(w/v)以上、0.08%(w/v)以上、0.09%(w/v)以上、0.1%(w/v)以上、0.15%(w/v)以上、0.2%(w/v)以上、0.25%(w/v)以上、又は0.3%(w/v)以上である。ここで、測定時における終濃度、とは最終的に成分を希釈して糖化ヘモグロビン測定を行うときの濃度をいう。したがってキット中では、測定時における終濃度よりも高濃度のストック溶液を用いてもよい。
【0131】
本発明のキットに含まれるアマドリアーゼは、配列番号1又は配列番号37に示されるアミノ酸配列を有するアマドリアーゼ又はこれに基づき作製された、界面活性剤耐性が向上した変異体であり得る。該変異体は、配列番号1又は配列番号37と例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するか、或いは配列番号1又は配列番号37のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が改変もしくは変異、または、欠失、置換、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を有し得る。
【0132】
また本発明のキットに含まれるアマドリアーゼは、Eupenicillium属、Pyrenochaeta属、Arthrinium属、Curvularia属、Neocosmospora属、Cryptococcus属、Phaeosphaeria属、Aspergillus属、Emericella属、Ulocladium属、Penicillium属、Fusarium属、Achaetomiella属、Achaetomium属、Thielavia属、Chaetomium属、Gelasinospora属、Microascus属、Leptosphaeria属、Ophiobolus属、Pleospora属、Coniochaetidium属、Pichia属、Corynebacterium属、Agrobacterium属、Arthrobacter属などに由来する天然のアマドリアーゼ又はそれらの変異体であり得る。こうした変異体は、場合により配列番号1または3に示すアミノ酸配列の262位のアスパラギン、257位のバリン、253位のグルタミン酸、337位のグルタミン、340位のグルタミン酸、133位のグルタミン酸、44位のグルタミン酸、256位のグリシン、81位のグルタミン酸、129位のアスパラギン酸、132位のアスパラギン酸、231位のグルタミン酸、232位のアスパラギン酸、249位のグルタミン酸よりなる群から選択されるアミノ酸に対応する位置で1またはそれ以上のアミノ酸置換を有しうる。当業者であれば、例えば後述する試験法や実施例7の評価法等により、あるアマドリアーゼ又はその変異体が本発明のキットに使用可能か、すなわち所望の界面活性剤耐性を有するか容易に調べることができる。
【0133】
(緩衝剤)
本発明のキット又は組成物には、アマドリアーゼの活性が失活しない範囲であるpH5.0~pH10.0、好ましくはpH6.0~pH8.0の範囲で緩衝能を有する緩衝剤または緩衝液を適宜加えて良い。本明細書において緩衝剤というとき、特に断らない限り、この用語は1以上の緩衝剤を包含するものとする。緩衝液とは溶液のpHを一定範囲に保つ緩衝作用(緩衝能)のある溶液のことをいい、緩衝剤とは溶液に緩衝作用を付与する物質をいう。緩衝剤は、弱酸を例にとると、弱酸とその塩から構成され、この場合、当該塩を共役塩と呼ぶ。例えば緩衝剤がリン酸とそのカリウム塩から構成される場合、本明細書ではベースとなる化合物がリン酸であることからこれを便宜上、リン酸緩衝剤と呼ぶことがある。またある緩衝剤についての濃度は、当該緩衝剤のベースとなる化合物の単独形態とその共役塩の形態とを合計したベース化合物についての濃度をいう。例えば100mMのリン酸緩衝剤というとき、これは終濃度として溶液に含まれるリン酸及びその共役塩(例えばリン酸カリウム塩)を合計したリン酸濃度が100mMであることをいう。
【0134】
種々の緩衝剤(緩衝液)の中でも、特に、界面活性剤存在下でアマドリアーゼの残存活性を維持する、又は残存活性の低下を軽減するものが好ましい。本明細書においてこのような好ましい緩衝剤を特に、アマドリアーゼ安定化作用を有する緩衝剤、又は本発明の緩衝剤と呼ぶことがある。例えばHEPESは500mM(pH 7.0)で用いても、Coniochaeta属由来アマドリアーゼ(CFP-T7、配列番号1)に対してアマドリアーゼ安定化作用を示さない。したがってHEPESは本発明のアマドリアーゼ安定化作用を有する緩衝剤に該当しない。このように、あらゆる緩衝剤がアマドリアーゼ安定化作用を有するわけではない。よって本発明のアマドリアーゼ安定化作用を有する緩衝剤は、単に溶液のpHを一定に保つに留まらず、pHを緩衝する際にアマドリアーゼを安定化させる作用を有する。ここで本発明の緩衝剤についていうアマドリアーゼ安定化作用とは、界面活性剤存在下でのアマドリアーゼの残存活性を維持する、又は残存活性の低下を軽減する作用をいう。このようなアマドリアーゼ安定化作用は、界面活性剤存在下において、緩衝剤を追加しない溶液或いは本発明のアマドリアーゼ安定化作用を有しない緩衝剤を用いた溶液の残存アマドリアーゼ活性と、本発明の緩衝剤を用いた溶液の残存アマドリアーゼ活性とを比較することにより評価できる。
【0135】
本発明のキット(組成物)に用いることのできる緩衝剤(緩衝液)としては、例えば、ホウ酸及び/又はその塩を含むホウ酸緩衝剤、トリス塩酸緩衝剤、リン酸及び/又はその塩を含むリン酸緩衝剤、例えばリン酸カリウム緩衝剤又はリン酸ナトリウム緩衝剤、有機酸緩衝剤及び/又はその塩を含む有機酸緩衝剤、例えばトリカルボン酸緩衝剤及び/又はその塩を含むトリカルボン酸緩衝剤、例えばクエン酸及び/又はその塩を含むクエン酸緩衝剤、モノカルボン酸緩衝剤及び/又はその塩を含むモノカルボン酸緩衝剤、例えば酢酸緩衝剤及び/又はその塩を含む酢酸緩衝剤等の緩衝剤が挙げられる。また、本発明のキット等に用いることのできる緩衝剤としては、ACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、Bicin(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン)、Bis-Tris(ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン)、CHES(N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸)、EPPS(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸)、HEPES(4-2-ヒドロキシエチル-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、HEPPSO(N-(ヒドロキシエチル)ピペラジン-N'-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、MOPSO(2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-N,N'-ビス(2-エタンスルホン酸))、POPSO(ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸))、TAPS(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸)、TAPSO(3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、TES(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸)、トリシン(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン)及び/又はそれらの塩等を含むグッド緩衝剤が挙げられる。また、以下の式(IV)
【化8】
[式中、nは0、1、2または3であってもよく、R10は、それぞれ独立にH、OH、-CH2OHまたは-COOHであってもよい]の化合物及び/又はその塩を含む緩衝剤も挙げられる。また、フタル酸及び/又はその塩を含むフタル酸緩衝剤、マレイン酸及び/又はその塩を含むマレイン酸緩衝剤、フマル酸及び/又はその塩を含むフマル酸緩衝剤、グルタル酸及び/又はその塩を含むグルタル酸緩衝剤、シトラコン酸及び/又はその塩を含むシトラコン酸緩衝剤、メサコン酸及び/又はその塩を含むメサコン酸緩衝剤、マロン酸及び/又はその塩を含むマロン酸緩衝剤、酒石酸及び/又はその塩を含む酒石酸緩衝剤、コハク酸及び/又はその塩を含むコハク酸緩衝剤、アジピン酸及び/又はその塩を含むアジピン酸緩衝剤、リンゴ酸及び/又はその塩を含むリンゴ酸緩衝剤等のジカルボン酸をベースとした緩衝剤も挙げることができる。HEPESおよびCHESを除き、これらは本発明のアマドリアーゼ安定化作用を有する緩衝剤でありうる。好ましい本発明のアマドリアーゼ安定化作用を有する緩衝剤としてはリン酸緩衝剤、ACES緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、マレイン酸緩衝剤、シトラコン酸緩衝剤、マロン酸緩衝剤、グルタル酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、及び式(IV)で表される緩衝剤、例えばMES緩衝剤、MOPS緩衝剤、及びMOPSO緩衝剤が挙げられるがこれに限られない。これらのうち1種のみを適用しても良いし、2種以上を用いても良い。また、本発明のアマドリアーゼ安定化作用を有する緩衝剤を上記緩衝剤以外の物質(例えばアマドリアーゼ安定化作用を有しない緩衝剤)と組み合わせて用いてもよい。塩としてはベース化合物のナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩及びアンモニウム塩が挙げられるがこれに限らない。
【0136】
本発明の緩衝剤は、適当な濃度で本発明のキットまたは組成物に用いることができる。通常、本発明のキットまたは組成物に添加する本発明の緩衝剤の量は、測定溶液での終濃度に基づいて算出することができる。ある実施形態において測定溶液における本発明の緩衝剤の終濃度は、好ましくは当該測定溶液に生じうるpH変化を緩衝するのに十分な濃度である。別の実施形態において、測定溶液における本発明の緩衝剤の終濃度は、界面活性剤を含む溶液におけるアマドリアーゼの残存活性が20%以上、好ましくは40%以上、好ましくは60%以上、好ましくは80%以上となる濃度である。本発明の緩衝剤の終濃度は、例えば1mM以上、5mM以上、10mM以上、20mM以上、例えば50mM以上、1M以下、500mM以下、400mM以下、300mM以下、200mM以下、100mM以下、例えば1mM~1M、5mM~500mM、10mM~300mM、例えば50mM~100mMであり得る。本発明のアマドリアーゼ安定化作用を有する緩衝剤として、リン酸緩衝剤を用いる場合、その濃度は50mM~500mM、例えば50mM~300mM好ましくは100mM~300mMであり得る。本発明の緩衝剤としてクエン酸緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、マレイン酸、シトラコン酸緩衝剤、マロン酸緩衝剤、グルタル酸緩衝剤、または酒石酸緩衝剤を用いる場合、その濃度は5mM~500mM、好ましくは10mM~200mM、例えば10mM~100mMであり得る。本発明の緩衝剤として式(IV)で表される緩衝剤、例えばMES緩衝剤、MOPS緩衝剤、またはMOPSO緩衝剤を用いる場合、その濃度は10mM~500mM、例えば100mM~500mM、例えば150mM~300mMであり得る。本発明の緩衝剤としてACES緩衝剤を用いる場合、その濃度は200mM~1M、例えば200mM~500mMであり得る。本発明の緩衝剤として、複数の緩衝剤を組み合わせてもよい。なお、組成物に用いる本発明の緩衝剤の量は、組成物に安定化剤も添加する場合、当該安定化剤の量に応じて変化しうる。
【0137】
(安定化剤)
本発明のキット又は組成物には、界面活性剤存在下でのアマドリアーゼの残存活性を維持する又は残存活性の低下を軽減する安定化剤を適宜加えてもよい。本明細書において安定化剤とは、界面活性剤存在下でのアマドリアーゼの残存活性を維持する又は残存活性の低下を軽減する物質を言う。本明細書において安定化剤というとき、特に断らない限り、この表現は1以上の安定化剤を包含するものとする。本発明のキット又は組成物に含まれる安定化剤(安定剤)としては、例えば、リン酸、トリカルボン酸(例えば、クエン酸)、ジカルボン酸(例えば、リンゴ酸、マレイン酸、シトラコン酸、マロン酸、グルタル酸、酒石酸)、モノカルボン酸(例えば、酢酸)、式(IV)で表される化合物(例えばMES、MOPS、MOPSO)、硫酸アンモニウム、これらの塩及びこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0138】
本発明の安定化剤は、適当な濃度で本発明のキット又は組成物に用いることができる。通常、本発明のキットまたは組成物に添加する安定化剤の量は、測定溶液における終濃度に基づいて算出する。ある実施形態において添加する安定化剤の量は、界面活性剤を含む溶液中のアマドリアーゼの残存活性が35%以上、37.5%以上、好ましくは40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、好ましくは60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、好ましくは80%以上、85%以上、90%以上又は95%以上となる量である。本発明の安定化剤は例えば、測定溶液における終濃度が0.1mM~100mM、0.2mM~100mM、0.5mM~50mM、1mM~30mM、2mM~30mM、5mM~20mM又は10mM~20mMとなる様にキット又は組成物に添加しうる。本発明の組成物に緩衝剤も添加する場合、安定化剤の量は当該緩衝剤の量に応じて変化しうる。例えば安定化剤を添加した際に、pHの変化を防ぐために、添加する緩衝剤の種類及び量を適宜選択し調整してもよいし、安定化剤の溶液のpHを適宜調整してもよい。
【0139】
本発明の緩衝剤のうち、特にリン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、およびMES緩衝剤については、溶液のpHを一定に保つ緩衝能を発揮する濃度、すなわちリン酸緩衝剤については例えば100mM、クエン酸緩衝剤については例えば50mM、MES緩衝剤については例えば150mMにて用いた場合、アマドリアーゼ安定化作用が観察された。しかしながら、pH緩衝剤として、アマドリアーゼ安定化作用を示さないHEPESを用いて溶液のpHを一定範囲に保ちつつ、組成物に加えるリン酸及び/又はそのカリウム塩、クエン酸及び/又はそのナトリウム塩、あるいはMES及び/又はそのナトリウム塩の濃度をさらに低減させても、界面活性剤存在下でのアマドリアーゼの残存活性の安定化が観察された。この安定化作用は、リン酸及び/又はそのカリウム塩、クエン酸及び/又はそのナトリウム塩、およびMES及び/又はそのナトリウム塩が緩衝作用を有効に発揮する濃度よりも低い濃度、具体的にはリン酸については5mM、クエン酸については0.5mM、MESについては20mM、でも観察された。このことから、リン酸及び/又はそのカリウム塩、クエン酸及び/又はそのナトリウム塩、並びにMES及び/又はそのナトリウム塩については、本発明の緩衝剤としてのアマドリアーゼ安定化作用以外にも、別にアマドリアーゼ活性を残存させる安定化作用があることが確認された。本発明の緩衝剤のアマドリアーゼ安定化作用と区別するため、便宜上、このような作用を、本発明の安定化剤のアマドリアーゼ安定化作用と呼ぶことがある。したがってリン酸及び/又はそのカリウム塩、クエン酸及び/又はそのナトリウム塩、並びにMES及び/又はそのナトリウム塩は本発明の緩衝剤のアマドリアーゼ安定化作用を有し、かつ本発明の安定化剤のアマドリアーゼ安定化作用を有する。別の言い方をすると、リン酸及び/又はそのカリウム塩、クエン酸及び/又はそのナトリウム塩、並びにMES及び/又はそのナトリウム塩は本発明の緩衝剤に該当する一方で、本発明の安定化剤にも該当する。
【0140】
また、アマドリアーゼ安定化作用を有するマレイン酸、シトラコン酸、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、MOPS、およびMOPSOは緩衝作用を有効に発揮する濃度よりも低い濃度である10mMまたは20mMでアマドリアーゼ安定化作用が観察されたが、これらはより高濃度(50mM、100mM、150mM等)では緩衝作用を発揮しうる化合物である。したがってマレイン酸、シトラコン酸、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、MOPS、MOPSO、式(IV)で表される化合物もまた本発明の緩衝剤に該当し、かつ、本発明の安定化剤にも該当する。
【0141】
本発明のキットまたは組成物が、アマドリアーゼ、界面活性剤、安定化剤及び/又は緩衝剤を含む場合、これらは任意の順でキット又は組成物に添加することができる。好ましくは本発明のキット又は組成物には、安定化剤及び/又は緩衝剤を(それらを含める場合には)先に添加し、界面活性剤はその後添加することで、アマドリアーゼの残存活性低下を軽減できる。
【0142】
(本発明のアマドリアーゼにおける界面活性剤耐性の向上)
上記のような手段で得られる本発明のアマドリアーゼは、遺伝子改変等により、そのアミノ酸配列に変異を生じた結果、改変前のものと比較して界面活性剤耐性が向上していることを特徴とする。具体的には、改変前のアマドリアーゼの活性と比較して、改変アマドリアーゼは、本明細書中に記載の活性測定方法および界面活性剤耐性評価方法に記載した反応条件下で、所定の界面活性剤処理、例えば、0.01%(w/v)のヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(以下、「CTAC」と表す)を添加してから、30℃、5分後の残存活性(%)が、向上していることを特徴とする。ここで、残存活性(%)とは、界面活性剤処理前の活性を100とした場合の界面活性剤処理後の活性の割合をパーセンテージ(%)で表したものである。なお、本明細書において界面活性剤の濃度をパーセンテージで記載する場合、特に断らない限りこれは%(w/v)を意味するものとする。
【0143】
本発明の改変アマドリアーゼの残存活性(%)の向上度合は限定されないが、例えば、本発明の変異を導入する前及び後のアマドリアーゼについて界面活性剤処理を行った後の残存活性(%)が好ましくは13%以上、より好ましくは15%以上、最も好ましくは19%以上、例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上又は99%以上である改変アマドリアーゼが本発明に包含される。また、本発明の変異を導入する前及び後のアマドリアーゼについて界面活性剤処理を行った後の残存活性(%)同士の数値比較において2%以上、好ましくは9%以上、最も好ましくは19%以上、例えば20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上又は99%以上、残存活性が向上している改変アマドリアーゼが本発明に包含される。
【0144】
ある実施形態では、本発明の変異を導入する前のアマドリアーゼについて界面活性剤処理を行うと活性が全て消失することがある。このような場合、本発明の変異を導入した後のアマドリアーゼの残存活性(%)の向上を見るには、界面活性剤処理によっても活性が全て消失しない基準となるアマドリアーゼを用い、基準となるアマドリアーゼの界面活性剤処理後の残存活性と、変異導入後のアマドリアーゼの界面活性剤処理後の残存活性とを比較してもよい。
【0145】
実際には、測定時の温度条件に加えて、変異導入前のアマドリアーゼの界面活性剤耐性の程度によっても相対的な評価結果は異なってくるため、残存活性(%)や残存活性比率数値の大小のみを比較して、各変異体の絶対的な界面活性剤耐性を評価することは難しい。ただし、本発明における実施例の条件を踏襲することで、各変異体の界面活性剤耐性を絶対的に評価することが可能である。また、本発明のアマドリアーゼの選抜を容易にする意図から変異導入前のアマドリアーゼの残存活性(%)が十分に低く算出される界面活性剤処理条件を選択することにより、一般的には、残存活性(%)の向上度合および残存活性比率が高く算出される傾向を有する。
【0146】
例えば、本発明に包含される、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-T7/253K)株が生産する本発明のアマドリアーゼを、0.01%のCTACと混合して、30℃、5分間に供したときには、本発明の変異を導入する前のアマドリアーゼであるCFP-T7の残存活性が69.9%であるのに対し、本発明の変異導入後のアマドリアーゼは残存活性が72%を上回る。また、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D7)株が生産する本発明のアマドリアーゼを、0.04%のCTACと混合して、30℃、5分間に供したときには、本発明の変異を導入する前のアマドリアーゼであるCFP-Dの残存活性が12.7%であるのに対し、本発明の変異導入後のアマドリアーゼは残存活性が15%を上回る。このように界面活性剤耐性が向上したアマドリアーゼは、該酵素含有製品等における保存性が著しく向上し、また、HbA1cのプロテアーゼ分解効率を向上させ、測定感度を高めるために強い界面活性剤を使用する場合にも安定であるため、産業上非常に有利である。
【0147】
(アマドリアーゼ活性の測定方法)
アマドリアーゼの活性の測定方法としては、種々の方法を用いることができるが、一例として、以下に、本発明で用いるアマドリアーゼ活性の測定方法について説明する。
【0148】
(アマドリアーゼ活性の測定方法)
本発明におけるアマドリアーゼの酵素活性の測定方法としては、酵素の反応により生成する過酸化水素量を測定する方法や酵素反応により消費する酸素量を測定する方法などが主な測定方法として挙げられる。以下に、一例として、過酸化水素量を測定する方法について示す。
【0149】
以下、本発明におけるアマドリアーゼの活性測定には、断りのない限り、フルクトシルバリンを基質として用いる。なお、酵素力価は、フルクトシルバリンを基質として測定したとき、1分間に1μmolの過酸化水素を生成する酵素量を1Uと定義する。フルクトシルバリン等の糖化アミノ酸、およびフルクトシルバリルヒスチジン等の糖化ペプチドは、阪上らの方法に基づき合成、精製することができる(特開2001-95598号参照)。
【0150】
A.試薬の調製
(1)試薬1:POD-4-AA溶液
4.0kUのパーオキシダーゼ(キッコーマン社製)、100mgの4-アミノアンチピリン(東京化成工業社製)を0.1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に溶解し、1Lに定容する。
【0151】
(2)試薬2:TOOS溶液
500mgのTOOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジンナトリウム、同仁化学社製)をイオン交換水に溶解し、100mlに定容する。
【0152】
(3)試薬3:基質溶液(150mM;終濃度 5mM)
フルクトシルバリン417mgをイオン交換水に溶解して10mlに定容する。
【0153】
B.測定法
2.7mlの試薬1,100μlの試薬2、および100μlの試薬3を混和し、37℃で5分間予備加温する。その後、酵素液を100μl加えてよく混ぜた後、分光光度計(U-3010、日立ハイテクノロジーズ社製)により、555nmにおける吸光度を測定する。測定値は、555nmにおける1分後から3分後の1分間あたりの吸光度変化とする。なお対照液は、100μlの試薬3の代わりに100μlのイオン交換水を加える以外は前記と同様に調製する。37℃、1分当たりに生成される過酸化水素のマイクロモル数を酵素液中の活性単位(U)とし、下記の式に従って算出する。
活性(U/ml)= {(ΔAs-ΔA0)×3.0×df}÷(39.2×0.5×0.1)
ΔAs : 反応液の1分間あたりの吸光度変化
ΔA : 対照液の1分間あたりの吸光度変化
39.2: 反応により生成されるキノンイミン色素の
ミリモル吸光係数(mM-1・cm-1
0.5 : 1molの過酸化水素による生成されるキノンイミン色素のmol数
df : 希釈係数
【0154】
(界面活性剤耐性測定方法)
アマドリアーゼ粗酵素液、またはアマドリアーゼ精製標品を約1.0U/mlとなるように、30mM MES/21mM Tris緩衝液(pH6.5)で希釈し、CTAC(例えば、東京化成工業社製)を終濃度0.01%(w/v)または0.04%となるように添加後、30℃にて5分間加温する。加温後、0.15%のBSAを含む10mM リン酸緩衝液(pH7.0)で2倍希釈し、上述のB.の方法を用いて界面活性剤処理前と界面活性剤処理後のサンプルの酵素活性を測定し、界面活性剤処理前の活性を100とした場合の界面活性剤処理後の活性の割合、すなわち、残存活性(%)を求めることにより、界面活性剤耐性を評価する。
【0155】
(緩衝剤評価方法)
上記の界面活性剤耐性測定方法において、30mM MES/21mM Tris緩衝液の代わりに種々の緩衝剤を用いてアマドリアーゼの残存活性の測定を行うことで、緩衝剤によるアマドリアーゼ活性残存への寄与を評価することができる。例えば30mM MES/21mM Tris緩衝液(pH 6.5)の代わりに、リン酸緩衝液(pH 7.0)、クエン酸緩衝液(pH 6.0)、HEPES緩衝液(pH 7.0)、ACES緩衝液(pH 7.0)等を用いることができる。他の条件及び手順は上記の界面活性剤耐性測定方法と同様としうる。
【0156】
(安定化剤評価方法)
上記の界面活性剤耐性測定方法において、種々の安定化剤をさらに添加してアマドリアーゼの残存活性の測定を行うことで、当該安定化剤の作用を評価することができる。評価対象である安定化剤が緩衝作用をも有する化合物である場合、当該化合物の緩衝作用によるアマドリアーゼ活性残存への寄与によらないアマドリアーゼ安定化作用を評価するためには、アマドリアーゼ安定化作用を有しない緩衝剤を溶液に緩衝能を付与するのに十分な濃度で使用しつつ(例えばHEPES(pH 7.0)を500mMにて使用)、安定化剤を低濃度で、すなわち溶液に緩衝能を付与するには十分でない低濃度で用いることができる。溶液に緩衝能を付与するのに十分な濃度とは、当該溶液に添加する他の試薬に起因するpH変動が生じずpHが一定の範囲(例えばpH5~10、pH6~8)に保たれる濃度をいう。溶液に緩衝能を付与するには十分でない濃度とは、当該溶液に他の試薬を添加するとpH変動が生じpHが一定範囲から逸脱する濃度をいう。これらの濃度は溶液に添加される他の試薬の種類及び量に応じて変化するが、当業者であれば慣用法により該濃度を適宜決定することができる。他の条件及び手順は上記の界面活性剤耐性測定方法と同様としうる。
【0157】
(併用作用)
本発明の緩衝剤と、本発明の安定化剤とを併用した場合のアマドリアーゼ安定作用を評価するために、本発明のアマドリアーゼ及び界面活性剤を含む溶液に、安定化剤及び緩衝剤を適宜濃度調整しつつ添加し、アマドリアーゼの残存活性を測定することもできる。他の条件及び手順は上記の界面活性剤耐性測定方法と同様としうる。
【0158】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【0159】
[実施例1]
(界面活性剤耐性向上型変異について)
(1)組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAの調製
CFP-T7遺伝子(配列番号2)を含む組換え体プラスミドを有する大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-T7)株(国際公開2007/125779号参照)を、LB-amp培地[1%(W/V) バクトトリプトン、0.5%(W/V) ペプトン、0.5%(W/V) NaCl、50μg/ml Ampicilin]2.5mlに接種して、37℃で20時間振とう培養し、培養物を得た。
【0160】
この培養物を7,000rpmで、5分間遠心分離することにより集菌して菌体を得た。次いで、この菌体よりQIAGEN tip-100(キアゲン社製)を用いて組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7を抽出して精製し、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7のDNA2.5μgを得た。
【0161】
(2)組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAの部位特異的改変操作
得られた組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号5、6の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、以下の条件でPCR反応を行った。
【0162】
すなわち、10×KOD-Plus-緩衝液を5μl、dNTPが各2mMになるよう調製されたdNTPs混合溶液を5μl、25mMのMgSO溶液を2μl、鋳型となるpKK223-3-CFP-T7 DNAを50ng、上記合成オリゴヌクレオチドをそれぞれ15pmol、KOD-Plus-を1Unit加えて、滅菌水により全量を50μlとした。調製した反応液をサーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、94℃で2分間インキュベートし、続いて、「94℃、15秒」-「50℃、30秒」-「68℃、6分」のサイクルを30回繰り返した。
【0163】
反応液の一部を1.0%アガロースゲルで電気泳動し、約6,000bpのDNAが特異的に増幅されていることを確認した。こうして得られたDNAを制限酵素DpnI(NEW ENGLAND BIOLABS社製)で処理し、残存している鋳型DNAを切断した後、大腸菌JM109を形質転換し、LB-amp寒天培地に展開した。生育したコロニーをLB-amp培地に接種して振とう培養し、上記(1)と同様の方法でプラスミドDNAを単離した。該プラスミド中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列を、マルチキャピラリーDNA解析システムApplied Biosystems 3130xlジェネティックアナライザ(Life Technologies社製)を用いて決定し、その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の262位のアスパラギンがヒスチジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-262H)を得た。
【0164】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の257位のバリンをシステインに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号7、8の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の257位のバリンがシステインに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-257C)を得た。
【0165】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の257位のバリンをセリンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号8、9の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の257位のバリンがセリンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-257S)を得た。
【0166】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の257位のバリンをトレオニンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号8、10の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の257位のバリンがトレオニンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-257T)を得た。
【0167】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の253位のグルタミン酸をリジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号11、12の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の253位のグルタミン酸がリジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-253K)を得た。
【0168】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の253位のグルタミン酸をアルギニンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号12、13の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の253位のグルタミン酸がアルギニンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-253R)を得た。
【0169】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の337位のグルタミンをリジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号14、15の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の337位のグルタミンがリジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-337K)を得た。
【0170】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の340位のグルタミン酸をプロリンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号16、17の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の340位のグルタミン酸がプロリンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-340P)を得た。
【0171】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の133位のグルタミン酸をアラニンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号18、19の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の133位のグルタミン酸がアラニンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-133A)を得た。
【0172】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の133位のグルタミン酸をメチオニンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号19、20の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の133位のグルタミン酸がメチオニンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-133M)を得た。
【0173】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の133位のグルタミン酸をリジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号19、21の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の133位のグルタミン酸がリジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-133K)を得た。
【0174】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の44位のグルタミン酸をプロリンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号22、23の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の44位のグルタミン酸がプロリンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-44P)を得た。
【0175】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の256位のグリシンをリジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号8、24の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の256位のグリシンがリジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-256K)を得た。
【0176】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の256位のグリシンをアルギニンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号8、25の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の256位のグリシンがアルギニンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-256R)を得た。
【0177】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の81位のグルタミン酸をリジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号26、27の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の81位のグルタミン酸がリジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-81K)を得た。
【0178】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の129位のアスパラギン酸をリジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号46、47の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の129位のアスパラギン酸がリジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-129K)を得た。
【0179】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の132位のアスパラギン酸をリジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号19、48の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の132位のアスパラギン酸がリジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-132K)を得た。
【0180】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の231位のグルタミン酸をリジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号49、50の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の231位のグルタミン酸がリジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-231K)を得た。
【0181】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の232位のアスパラギン酸をリジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号50、51の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の232位のアスパラギン酸がリジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-232K)を得た。
【0182】
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の249位のグルタミン酸をリジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7 DNAを鋳型として、配列番号52、53の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の249位のグルタミン酸がリジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-T7-249K)を得た。
【0183】
(3)各種改変型アマドリアーゼの生産
上記の手順により得られた上記組換え体プラスミドを保持するそれぞれの大腸菌JM109株を、0.1mMのIPTGを添加したLB-amp培地3mlにおいて、30℃で16時間培養した。その後、各菌体をpH7.0の0.01Mリン酸緩衝液で洗浄、超音波破砕、15,000rpmで10分間遠心分離し、各粗酵素液1.5mlを調製した。
【0184】
(4)各種改変型アマドリアーゼの界面活性剤耐性評価
このようにして調製した各粗酵素液をサンプルとし、CTACの終濃度を0.01%として、上記の界面活性剤耐性測定法に従って、各種改変型アマドリアーゼの界面活性剤耐性評価を行った。結果を表1-1に示す。なお加温後のサンプルをBSA溶液で2倍希釈してから30分後に再度活性測定を行っても、活性値に変化がないことを確認した。表1-1において、CFP-T7は、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-T7)株由来のアマドリアーゼを示す。なお、本実施例では大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-T7)株由来のアマドリアーゼであるCFP-T7を変異元酵素としたため、表中に記載の「アミノ酸変異」の記載には、CFP-T7に既に導入済みの各種変異点は含めていない。
【表1-1】
【0185】
表1-1に示す通り、本実施例の条件下では、CFP-T7の残存活性は69.9%となった。これに対し、部位特異的変異導入により得られた15の変異体、すなわち、CFP-T7の262位のアスパラギンがヒスチジンに、257位のバリンがシステイン、セリン、トレオニンに、253位のグルタミン酸がリジン、アルギニンに、337位のグルタミンがリジンに、340位のグルタミン酸がプロリンに、44位のグルタミン酸がプロリンに、133位のグルタミン酸がアラニン、メチオニン、リジンに、256位のグリシンがリジン、アルギニンに、81位のグルタミン酸がリジンに、129位のアスパラギン酸がリジンに、132位のアスパラギン酸がリジンに、231位のグルタミン酸がリジンに、232のアスパラギン酸がリジンに、または249位のグルタミン酸がリジンにそれぞれ変異したアマドリアーゼにおいては、残存活性がいずれも72%以上に向上し、顕著なものでは79%以上に向上し、より顕著なものでは89%以上に向上した。したがって、これらの各変異点が、アマドリアーゼの界面活性剤耐性を向上させる変異点であることが確認された。
【0186】
なおCFP-T7の253位および256位については、塩基性アミノ酸残基であるリジンへの置換およびアルギニンへの置換のいずれについても界面活性剤耐性の向上が見られた。したがって81位、129位、132位、133位、231位、232位、249位、および337位についてもリジンと同様に塩基性アミノ酸残基であるアルギニンへの置換により界面活性剤耐性が向上すると考えられる。
【0187】
(5)Curvularia clavata由来CcFXについて
配列番号37はCurvularia clavata由来ケトアミンオキシダーゼ(以降CcFXと称する)のアミノ酸配列である(国際公開第2004/104203号)。配列番号37のアミノ酸配列をコードする遺伝子(配列番号55)を定法である遺伝子断片のPCRによる全合成によりcDNAを全合成することで取得した(終止コドンTAAを含む)。このとき、配列番号55の5´末端、3´末端にはそれぞれEcoRIサイトとHindIIIサイトを付加した。また、クローニングした遺伝子配列から予想されるアミノ酸配列全長は図1のCcFXの配列と一致していることを確認した。続いて、取得した配列番号55の遺伝子を大腸菌で発現させるために、以下の手順を行った。まず、上記で全合成した遺伝子をEcoRIサイトとHindIIIサイト(タカラバイオ社製)の2種類の制限酵素で処理し、pKK-223-3 Vector(GEヘルスケア社製)のEcoRI-HindIIIサイトに挿入することで、組換え体プラスミドpKK223-3-CcFXを取得し、上記と同様の条件で大腸菌JM109株を形質転換し、大腸菌JM109(pKK223-3-CcFX)株を得た。
【0188】
次に、CcFXに界面活性剤耐性向上変異を導入した。具体的にはConiochaeta属由来アマドリアーゼ(CFP-T7)における129位、132位、133位、231位、232位、249位、253位、256位、および337位に対応する位置であるCcFXの129位、132位、133位、229位、230位、247位、251位、254位、および335位に変異を導入した。
【0189】
出発プラスミドとしてCcFX遺伝子(配列番号55)を含む組換え体プラスミドを使用し、これを有する大腸菌JM109(pKK223-3-CcFX)株について、上記(1)および(2)に記載の手順と同様にして各種変異体を作製した。変異導入に用いたプライマーの配列は、配列番号56~74に示すとおりである。次に上記(3)に記載の手順で改変型アマドリアーゼを生産した。続いて、(4)に記載の界面活性剤耐性測定方法に従って、ただし、界面活性剤処理条件に関しては、アマドリアーゼを20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で希釈し、0.01%のCTACの混合を行うことで、各種改変型アマドリアーゼの界面活性剤耐性評価を行った。結果を表1-2に示す。なお加温後のサンプルをBSA溶液で2倍希釈してから30分後に再度活性測定を行っても、活性値に変化がないことを確認した。
【表1-2】
【0190】
表1-2に示す通り、本実施例の条件下では、CcFXの残存活性は27.4%となった。これに対し、部位特異的変異導入により得られた12の変異体アマドリアーゼにおいては、残存活性がいずれも34%以上に向上し、顕著なものでは56%以上に向上し、より顕著なものでは64%以上に向上した。
【0191】
このように、CFP-T7について界面活性剤耐性向上が確認された変異を、CcFXの対応する位置に導入したところ、上記のとおり同様の界面活性剤耐性向上が確認された。したがって、これらの各変異導入の効果は特定の種に由来するアマドリアーゼに限定されるものではなく、対応する位置に変異を導入することで各種のアマドリアーゼについても界面活性剤耐性を向上させる効果がある。
【0192】
なおConiochaeta属由来アマドリアーゼとCurvularia clavata由来ケトアミンオキシダーゼは約80%のアミノ酸配列同一性を有する。よってConiochaeta属由来アマドリアーゼまたはCurvularia clavata由来ケトアミンオキシダーゼと80%以上のアミノ酸配列同一性を有する他の種由来のアマドリアーゼについても、上記位置に対応する位置に変異を導入することで界面活性剤耐性を向上させることができると考えられる。
【0193】
またCcFXの251位および335位ではリジンまたはアルギニンへの置換により界面活性剤耐性の向上が見られた。このことから、CcFXの81位、129位、132位、133位、229位、230位、247位、251、254、および335位は塩基性アミノ酸残基であるリジンまたはアルギニンへの置換により界面活性剤耐性が向上すると考えられる。また他の各種のアマドリアーゼについても同様である。
【0194】
また、CFP-T7の133位ではアラニンまたはメチオニンへの置換、CcFXの133位ではアラニンへの置換により界面活性剤耐性の向上が見られた。このことから、CFP-T7の133位およびCcFXの133位は疎水性アミノ酸残基であるアラニン、メチオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリンへの置換により界面活性剤耐性が向上すると考えられる。また他の各種のアマドリアーゼについても同様である。
【0195】
なお、特定の論理に拘束されるものではないが、本発明の変異体アマドリアーゼが界面活性剤耐性となる機構は、例えば次のようなものと考えられる。すなわち、アマドリアーゼの酸性アミノ酸を疎水性アミノ酸や塩基性アミノ酸へ置換することで、アマドリアーゼとカチオン性界面活性剤との親和性が低下し、アマドリアーゼが界面活性剤の変性作用から保護されるものと考えられる。特に、塩基性アミノ酸残基であるリジンまたはアルギニンを導入すると、塩基性アミノ酸残基がカチオン性界面活性剤と反発することで、さらにアマドリアーゼが界面活性剤の変性作用から保護されるものと考えられる。
【0196】
本発明のこれらの変異点は、単独変異として有効であるのみならず、既に知られている各種公知の変異と組み合わせ、また、本発明の変異同士を組み合わせることによって、実用上の利点を有する変異体を創出することに貢献することが期待される。
【0197】
[実施例2]
(界面活性剤耐性向上型変異の蓄積)
実施例1で見出された界面活性剤耐性向上変異の知見に基づき、これらを組み合わせて変異を蓄積させることにより、さらに界面活性剤耐性を高めたアマドリアーゼを取得することを目的として、多重変異体(2重変異体、3重変異体、4重変異体、5重変異体、6重変異体、7重変異体)の作製による界面活性剤耐性向上型変異の蓄積を試みた。
【0198】
配列番号3は基質特異性改善型変異(E98A)と熱安定性向上型変異(F43Y、G184D、カルボキシル末端の3アミノ酸残基が欠失)を導入したConiochaeta属由来アマドリアーゼのアミノ酸配列(以下、「CFP-D」と表記。)であり、配列番号4の遺伝子にコードされている。pKK223-3ベクターにCFP-D遺伝子が挿入されたプラスミドDNAを鋳型として、界面活性剤耐性向上型変異の蓄積を行った。合成オリゴヌクレオチド(配列番号5、6、7、16、17、18、19、23、28、29、30、31、32、33、46、47、50、51、52、54)、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記(2)と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109株の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。
【0199】
これにより、44位のグルタミン酸がプロリンに置換された変異体であるpKK223-3-CFP-D1;44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、かつ340位のグルタミン酸がプロリンに置換された二重変異体であるpKK223-3-CFP-D2;44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、262位のアスパラギンがヒスチジンに置換され、かつ340位のグルタミン酸がプロリンに置換された三重変異体であるpKK223-3-CFP-D3;44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、257位のバリンがシステインに置換され、262位のアスパラギンがヒスチジンに置換され、かつ340位のグルタミン酸がプロリンに置換された四重変異体であるpKK223-3-CFP-D4;44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、257位のバリンがシステインに置換され、262位のアスパラギンがヒスチジンに置換され、340位のグルタミン酸がプロリンに置換され、かつ232位のアスパラギン酸がリジンに置換された五重変異体であるpKK223-3-CFP-D4/232K;44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、257位のバリンがシステインに置換され、262位のアスパラギンがヒスチジンに置換され、340位のグルタミン酸がプロリンに置換され、かつ249位のグルタミン酸がリジンに置換された五重変異体であるpKK223-3-CFP-D4/249K;44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、253位のグルタミン酸がリジンに置換され、257位のバリンがシステインに置換され、262位のアスパラギンがヒスチジンに置換され、かつ340位のグルタミン酸がプロリンに置換された五重変異体であるpKK223-3-CFP-D5;44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、253位のグルタミン酸がリジンに置換され、257位のバリンがシステインに置換され、262位のアスパラギンがヒスチジンに置換され、340位のグルタミン酸がプロリンに置換され、かつ129位のアスパラギン酸がリジンに置換された六重変異体であるpKK223-3-CFP-D5/129K;44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、133位のグルタミン酸がアラニンに置換され、253位のグルタミン酸がリジンに置換され、257位のバリンがシステインに置換され、262位のアスパラギンがヒスチジンに置換され、かつ340位のグルタミン酸がプロリンに置換された六重変異体であるpKK223-3-CFP-D6;44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、133位のグルタミン酸がアラニンに置換され、253位のグルタミン酸がリジンに置換され、257位のバリンがシステインに置換され、262位のアスパラギンがヒスチジンに置換され、337位のグルタミンがリジンに置換され、かつ340位のグルタミン酸がプロリンに置換された七重変異体であるpKK223-3-CFP-D7を得た。
【0200】
そして、上記と同様の条件で大腸菌JM109株を形質転換し、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D1)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D2)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D3)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D4)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D4/232K)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D4/249K)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D5)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D5/129K)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D6)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D7)株を得た。
【0201】
上記のようにして得られた改変型アマドリアーゼ生産能を有する大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-T7)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D1)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D2)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D3)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D4)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D4/232K)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D4/249K)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D5)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D5/129K)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D6)株、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-D7)株を、上記の方法で培養して、各種改変型アマドリアーゼの粗酵素液1.5mlを調製した。得られた各粗酵素液をサンプルとし、上記(4)に記載の界面活性剤耐性測定方法に従って、ただし、界面活性剤処理条件に関しては、より厳しい条件である0.04%のCTACの混合に変更し、各種改変型アマドリアーゼの界面活性剤耐性評価を行った。結果を表2-1に示す。なお加温後のサンプルをBSA溶液で2倍希釈してから30分後に再度活性測定を行っても、活性値に変化がないことを確認した。
【表2-1】
【0202】
表2-1に示す通り、本実施例の条件下では、CFP-T7の残存活性はわずか2.27%であった。このように過酷な界面活性剤条件下においては、従来のアマドリアーゼは、ほとんど活性を失ってしまうことが確認された。
【0203】
これに対し、実施例1で確認された各種の単独変異を組み合わせて作製した各種多重変異体においては、残存活性がいずれも顕著に向上していた。具体的には、44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、かつ340位のグルタミン酸がプロリンに置換された二重変異体における残存活性は37.1%であり、CFP-T7と比較して向上した。さらに、この変異に262位のアスパラギンがヒスチジンに置換された三重変異体における残存活性は51.4%であり、CFP-T7と比較してさらに向上した。さらに、この変異に257位のバリンがシステインに置換された四重変異体における残存活性は60.7%であり、CFP-T7と比較して顕著に向上した。さらに、この変異に253位のグルタミン酸がリジンに置換された五重変異体における残存活性は95.6%であり、さらに、この変異に133位のグルタミン酸がアラニンに置換された六重変異体における残存活性は99.2%であり、さらに、この変異に337位のグルタミンがリジンに置換された七重変異体における残存活性は100%であり、CFP-T7と比較して顕著に向上し、CTACによるアマドリアーゼの失活はほとんど無かった。また前記四重変異体CFP-D4の232位のアスパラギン酸がリジンにさらに置換された五重変異体における残存活性は66.2%であり、前記四重変異体CFP-D4の249位のグルタミン酸がリジンにさらに置換された五重変異体における残存活性は91.0%であり、前記五重変異体CFP-D5の129位のアスパラギン酸がリジンにさらに置換された六重変異体における残存活性は98.1%でありCFP-T7と比較して顕著に向上し、CTACによるアマドリアーゼの失活はほとんど無かった。
【0204】
しかも、CFP-Dに変異を蓄積する都度、得られたさらなる多重変異体の界面活性剤耐性は段階的に向上しており、実施例1で確認された本発明の変異点を適宜組み合わせることによって、一層優れた界面活性剤耐性を有するアマドリアーゼが作出され得ることが明らかとなった。
【0205】
次にpKK223-3ベクターにCcFX遺伝子が挿入されたプラスミドDNAを鋳型として、界面活性剤耐性向上型変異の蓄積を行った。CFP-D遺伝子の代わりにCcFX遺伝子を用いた以外は、手順は上記と同様に行った。合成オリゴヌクレオチド(配列番号72、73)、KOD-Plus-(東洋紡績社製)を用い、上記(2)と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109株の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。
【0206】
これにより、132位のアスパラギン酸がリジンに置換され、335位のトレオニンがリジンに置換された変異体であるpKK223-3-CcFX/132K/335K;133位のグルタミン酸がアラニンに置換され、335位のトレオニンがリジンに置換された変異体であるpKK223-3-CcFX/133A/335K;229位のグルタミン酸がリジンに置換され、335位のトレオニンがリジンに置換された変異体であるpKK223-3-CcFX/229K/335K;および251位のグルタミン酸がリジンに置換され、335位のトレオニンがリジンに置換された変異体であるpKK223-3-CcFX/251K/335Kを得た。そして、上記と同様の条件で大腸菌JM109株を形質転換し、形質転換株を、上記の方法で培養し、各種改変型アマドリアーゼの粗酵素液1.5mlを調製した。得られた各粗酵素液をサンプルとし、上記(4)に記載の界面活性剤耐性測定方法に従って、ただし、界面活性剤処理条件に関しては、アマドリアーゼを20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で希釈し、0.01%のCTACの混合を行うことで、各種改変型アマドリアーゼの界面活性剤耐性評価を行った。結果を表2-2に示す。なお加温後のサンプルをBSA溶液で2倍希釈してから30分後に再度活性測定を行っても、活性値に変化がないことを確認した。
【表2-2】
【0207】
表1-2、表2-2に示す通り、本実施例の条件下では、CcFXの残存活性は27.4%であったのに対し、実施例1で確認された各種の単独変異を組み合わせて作製した各種二重変異体においては、残存活性がいずれも顕著に向上していた。また表1-2のCcFXの単変異体と比較してもCcFXの二重変異体の界面活性剤耐性は向上しており、やはりアマドリアーゼ酵素の種類を問わず変異の効果は蓄積するものであることが確認された。
【0208】
[実施例3-1]
(界面活性剤TTACに対する評価)
実施例2で用いた界面活性剤CTACに変わり、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド(以下、「TTAC」と表記。)を用いて、CFP-Dの安定性を評価した。実施例1に準じた界面活性剤耐性測定方法に従って、ただし、界面活性剤処理条件に関しては、アマドリアーゼを20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で希釈し、0.04%のTTACの混合を行うことで、各種改変型アマドリアーゼの界面活性剤耐性評価を行った。結果を表3-1に示す。なお加温後のサンプルをBSA溶液で2倍希釈してから30分後に再度活性測定を行っても、活性値に変化がないことを確認した。
【表3-1】
【0209】
表3-1に示す通り、本実施例の条件下では、CFP-Dの残存活性は29.2%であった。
【0210】
これに対し、実施例2で作製した各種多重変異体においては、残存活性がいずれも顕著に向上していた。具体的には、44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、かつ340位のグルタミン酸がプロリンに置換された二重変異体における残存活性は69.9%であり、CFP-Dと比較して向上した。さらに、この変異に262位のアスパラギンがヒスチジンに置換された三重変異体における残存活性は85.3%であり、CFP-Dと比較してさらに向上した。さらに、この変異に257位のバリンがシステインに置換された四重変異体における残存活性は91.1%であり、CFP-Dと比較して顕著に向上した。さらに、この変異に253位のグルタミン酸がリジンに置換された五重変異体における残存活性は94.9%であり、さらに、この変異に133位のグルタミン酸がアラニンに置換された六重変異体における残存活性は96.4%であり、さらに、この変異に337位のグルタミンがリジンに置換された七重変異体における残存活性は100%であり、CFP-Dと比較して顕著に向上し、TTACによるアマドリアーゼの失活はほとんど無かった。
【0211】
したがって、これらのアミノ酸置換はアマドリアーゼのTTACに対する耐性を向上させることが分かった。
【0212】
[実施例3-2]
(CFP-T7、CFP-D2、CFP-D7の精製)
実施例1,2で得たCFP―T7、CFP-D2およびCFP-D7の粗酵素を用いて、調製した粗酵素液を20mM リン酸カリウム緩衝液(pH8.0)で平衡化した4mlのQ Sepharose Fast Flow樹脂(GEヘルスケア社製)に吸着させ、次に80mlの同緩衝液で樹脂を洗浄し、続いて100mM NaClを含む20mM リン酸カリウム緩衝液(pH8.0)で樹脂に吸着していた蛋白質を溶出させ、アマドリアーゼ活性を示す画分を回収した。
【0213】
得られたアマドリアーゼ活性を示す画分を、Amicon Ultra-15, 30K NMWL(ミリポア社製)で濃縮した。その後、150mM NaClを含む20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したHiLoad 26/60 Superdex 200pg(GEヘルスケア社製)にアプライし、同緩衝液で溶出させ、アマドリアーゼ活性を示す画分を回収し、野生型および改変型アマドリアーゼの精製標品を得た。得られた精製標品はSDS-PAGEによる分析により、単一なバンドまで精製されていることを確認した。
【0214】
(種々の界面活性剤に対する評価)
種々の界面活性剤を用い、上記のようにして得た精製酵素CFP-T7、CFP-D2およびCFP-D7の安定性を評価した。実施例1に準じた界面活性剤耐性測定方法に従って、ただし、界面活性剤処理条件に関しては、アマドリアーゼを20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で希釈し、各種濃度の界面活性剤の混合を行うことで、各種改変型アマドリアーゼの界面活性剤耐性評価を行った。結果を表3-2に示す。なお加温後のサンプルをBSA溶液で2倍希釈してから30分後に再度活性測定を行っても、活性値に変化がないことを確認した。
【表3-2】
【0215】
表3-2より、変異導入前のCFP-T7は、界面活性剤としてOTABおよびOTACを用いた場合を除き、ほとんどの界面活性剤により大幅に活性が低下した。これに対して二重変異体CFP-D2は試験した全ての種類の界面活性剤に関し、CFP-T7よりも優れた界面活性剤耐性を示した。また、七重変異体CFP-D7も試験した全ての種類の界面活性剤に関し、CFP-T7よりも優れた界面活性剤耐性を示し、ほとんどの場合、二重変異体CFP-D2よりも界面活性剤耐性が向上していた。
【0216】
表3-2より、界面活性剤として炭素鎖の長さの異なるOTAB(C8)、DTAB(C12)、TTAB(C14)、STAB(C18)を用いた場合に、D2もD7も界面活性剤耐性が向上していた。したがって炭素鎖C10のデシルトリメチルアンモニウムブロミドや炭素鎖C16のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等の界面活性剤についても同様と考えられる。これらの臭化物塩に対応する塩化物塩であるOTAC(C8)、TTAC(C14)、CTAC(C16)、およびSTAC(C18)についても同様であり、本発明のアマドリアーゼは炭素鎖C10のデシルトリメチルアンモニウムクロリドや炭素鎖C12のドデシルトリメチルアンモニウムクロリドに対して耐性を有すると考えられる。
【0217】
また、表3-2よりD2およびD7は共に、対イオン(Z)が塩化物イオンであっても臭化物イオンであっても界面活性剤耐性を示した。
【0218】
また、表3-2よりD2およびD7は共に、アンモニウムイオン系の界面活性剤のみならず、ピリジニウムイオン系界面活性剤およびホスホニウムイオン系界面活性剤についても耐性を示したことから、界面活性剤耐性は、各種のカチオン性界面活性剤に対するものであることが示された。
【0219】
以上をまとめると、本発明の界面活性剤耐性アマドリアーゼは、界面活性剤の対イオンの種類にかかわらず、鎖長にかかわらず、そしてカチオン性界面活性剤の基本構造にかかわらず、幅広い界面活性剤耐性スペクトルを有することが実証された。
【0220】
なお、用いた各種界面活性剤の名称及び構造をまとめると以下のとおりである。
【表3-3】
【0221】
[実施例4]
(界面活性剤SDSに対する評価)
実施例2で用いた界面活性剤CTACに変わり、ドデシル硫酸ナトリウム(以下、「SDS」と表記。)を用いて、CFP-Dの安定性を評価した。実施例1に準じた界面活性剤耐性測定方法に従って、ただし、界面活性剤処理条件に関しては、アマドリアーゼを30mM MES/21mM Tris緩衝液(pH6.5)で希釈し、0.04%のSDSの混合を行うことで、各種改変型アマドリアーゼの界面活性剤耐性評価を行った。結果を表4に示す。なお加温後のサンプルをBSA溶液で2倍希釈してから30分後に再度活性測定を行っても、活性値に変化がないことを確認した。
【表4】
【0222】
表4に示す通り、本実施例の条件下では、CFP-T7の残存活性は2.76%であった。
【0223】
これに対し、実施例2で作製した各種多重変異体においては、残存活性がいずれも顕著に向上していた。具体的には、44位のグルタミン酸がプロリンに置換され、かつ340位のグルタミン酸がプロリンに置換された二重変異体における残存活性は19.2%であり、CFP-T7と比較して向上した。さらに、この変異に262位のアスパラギンがヒスチジンに置換された三重変異体における残存活性は11.3%であり、CFP-T7と比較して向上した。さらに、この変異に257位のバリンがシステインに置換された四重変異体における残存活性は17.1%であり、CFP-T7と比較して向上した。さらに、この変異に253位のグルタミン酸がリジンに置換された五重変異体における残存活性は5.07%であり、さらに、この変異に133位のグルタミン酸がアラニンに置換された六重変異体における残存活性は3.62%であり、さらに、この変異に337位のグルタミンがリジンに置換された七重変異体における残存活性は3.92%であり、CFP-T7と比較して向上した。
【0224】
したがって、これらのアミノ酸置換はアマドリアーゼのSDSに対する耐性を向上させることが分かった。
【0225】
[実施例5](界面活性剤混合下におけるフルクトシルペプチド試料の測定)
実施例3-2で得たCFP-T7、およびCFP-D7の精製酵素を用いて、下記に示した試料の測定を実施した。なお、CFP-T7、およびCFP-D7の活性値はアマドリアーゼ活性の測定方法に記載の方法に従い、終濃度5mMのαFVHを基質として、pH7.0に調整した(試薬1)を用いて決定した。
【0226】
(11)フルクトシルペプチド試料の調製
(試薬4)αFVH 125mgをイオン交換水に溶解し、10mlに定容することにより、基質溶液30mMを得た。さらに、CTAC溶液で714倍希釈することにより、42μMのαFVH/0%~0.2%のCTAC溶液を得た。
【0227】
(12)フルクトシルペプチド試料の測定
(試薬5)
0.21mM DA-64(N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4′-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミンナトリウム、和光純薬工業社製)
20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)
(試薬6)
6.7U/ml CFP-T7、あるいはCFP-D7
19U/ml パーオキシダーゼ(キッコーマン社製)
20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)
予め37℃で5分間加温しておいた135μlの(試薬5)と上記(11)で調製した25μlの試料の混合溶液に対し、50μlの(試薬6)を添加して反応を開始し、37℃で5分間反応後の波長751nmにおける吸光度を自動分析装置Bio Majesty JCA‐BM1650(日本電子)で測定した。基質溶液の代わりにイオン交換水を用いて作製した(試薬4)に対しても、同様に操作して測定した波長751nmにおける吸光度(試薬ブランク)を対照として、下記の式により、それぞれの試料を測定した場合の吸光度変化量(差)を算出した。発色基質DA-64の終濃度は0.15mMであり、基質ありの場合はαFVHの終濃度は5μMであり、吸光度測定に用いたセルの長さ(光路)は1cmであった。
吸光度変化量=ΔAes-Ae0
ΔAes:反応開始から5分経過後の吸光度
ΔAe0:対照液を添加した場合の反応開始から5分経過後の吸光度
【0228】
αFVH/0%~0.2%CTACを試料とした際の吸光度変化量を算出した。結果を表5に示す。
【表5】
【0229】
表5に示す通り、本実施例の条件下では、0%のCTAC混合下においては、CFP-T7の吸光度変化量は0.150であり、0.005%のCTAC混合下においては、CFP-T7の吸光度変化量は0.111であった。さらに、0.01%のCTAC混合下においては、CFP-T7の吸光度変化量は0.077であり、0.02%のCTAC混合下においては、CFP-T7の吸光度変化量は0.031であり、0.04%のCTAC混合下においては、CFP-T7の吸光度変化量は0.005まで減少し、CTAC濃度が高くなるほど吸光度変化量が減少することが分かった。
【0230】
これに対し、CFP-D7においては、0.02%のCTAC混合下においては、CFP-D7の吸光度変化量は0.140であり、0.2%のCTAC混合下においては、CFP-D7の吸光度変化量は0.069であった。すなわち、CFP-T7がCTACを混合するほど、吸光度変化量が減少したのに対し、CFP-D7は、吸光後変化量の減少が抑制され、さらに、0.1%以上のCTAC存在下において吸光度変化量が一定になった。また、CTACの臨界ミセル濃度である1.3mM(0.04%)まで吸光度変化量の減少幅が大きいが、臨界ミセル濃度以上の濃度においては、アマドリアーゼに与える影響の変化が小さくなった。したがって、CFP-D7は高いCTAC濃度混合下においても、安定に存在し、αFVHを測定可能であることが分かった。
【0231】
[実施例6]
(界面活性剤混合下におけるフルクトシルペプチド試料の定量)
CFP-T7、およびCFP-D7の精製酵素を用いて、CTAC混合下において、0.5~3μMの範囲でαFVH測定値の直線性を比較した。CFP-T7は、0.01%または0.02%のCTAC混合をし、さらに4.2μM、8.4μM、13μM、17μM、21μMまたは25μMのαFVH、つまり終濃度では、0.5μM、1.0μM、1.5μM、2.0μM、2.5μMまたは3.0μMのαFVHを用いる条件で、実施例5と同様に吸光度変化量を測定し、相関係数を算出した。同様に、CFP-D7は、0.02%または0.2%のCTAC混合をし、上記と同様のαFVHを用いる条件で、実施例5と同様に吸光度変化量を測定し、相関係数を算出した。その結果を表6に示し、各相関データを図2、3、4、5に示す。図2は、0.01%のCTACの混合下でCFP-T7を用いて、αFVHを測定した結果であり、図3は、0.02%のCTACの混合下でCFP-T7を用いて、αFVHを測定した結果であり、図4は、0.02%のCTACの混合下でCFP-D7を用いて、αFVHを測定した結果であり、図5は、0.2%のCTACの混合下でCFP-D7を用いて、αFVHを測定した結果である。
【表6】
【0232】
表6に示す通り、本実施例の条件下では、0.01%のCTAC混合下においては、CFP-T7による0.5μM~3.0μMのαFVHの相関係数は、0.924と高かったが、0.02%のCTAC混合下においては、0.625と低い相関係数であった。これに対し、CFP-D7を用いると、0.2%のCTAC混合下においても、0.5μM~3.0μMのαFVHの相関係数は、0.965と高い直線性を示した。
【0233】
また、酵素法のHbA1c測定キットであるサンク HbA1c(アークレイ社製)の添付文書によると、全血検体を416倍希釈した状態でアマドリアーゼと反応させている。例えば、NGSP値におけるHbA1c値が6.5%であり、また、全Hb濃度が141~150g/lであり、血液試料を416倍希釈して測定した場合に、プロテアーゼで切り出されるαFVHの濃度は、0.50~0.53μMである。実際の糖尿病診断のHbA1c値の境界値は、NGSP値で6.5%である。したがって、CFP-D7は実際のHbA1c測定において十分に利用することができ、また、強い界面活性剤、例えばCTACを併用することで、測定感度を高めることができるといえる。
【0234】
[実施例7]
(各種アマドリアーゼの界面活性剤耐性の評価)
界面活性剤、好ましくはイオン性界面活性剤の存在下においても活性が残存するアマドリアーゼを含む糖化ヘモグロビン測定用組成物を提供するために、上述のようにConiochaeta属由来アマドリアーゼを改変して界面活性剤耐性を向上させた。また、Coniochaeta属由来アマドリアーゼ以外のアマドリアーゼにおいては、イオン性界面活性剤存在下においてのHbA1c測定が可能か知られていない。そこで、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼおよびNeocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼとイオン性界面活性剤を組み合わせて、αFVHの測定を試みた。
【0235】
1.Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼの生産・精製
配列番号40はPhaeosphaeria nodorum由来フルクトシルペプチドオキシダーゼ(以降PnFXと称する)のアミノ酸配列である(Biotechnology and Bioengineering, 106, 358-366, 2010参照)。配列番号40のアミノ酸配列をコードする遺伝子(配列番号44)を定法である遺伝子断片のPCRによる全合成によりcDNAを全合成することで取得した。このとき、配列番号40の5´末端、3´末端にはそれぞれNdeIサイトとBamHIサイトを付加した。また、クローニングした遺伝子配列から予想されるアミノ酸配列全長は図1のPnFXの配列と一致していることを確認した。続いて、取得した配列番号44の遺伝子を大腸菌で発現させるために、以下の手順を行った。まず、上記で全合成した遺伝子をNdeIサイトとBamHI(タカラバイオ社製)の2種類の制限酵素で処理し、pET-22b(+) Vector(ノバジェン社製)のNdeI-BamHIサイトに挿入することで、組換え体プラスミドpET22b-PnFXを取得し、上記と同様の条件で大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、大腸菌BL21(DE3)(pET22b-PnFX)株を得た。
【0236】
上記のようにして得られたPnFX生産能を有する大腸菌BL21(DE3)(pET22b-PnFX)株を、終濃度0.1mMとなるようにIPTGを添加したLB-amp培地に植菌し、25℃で16時間培養した。得られた各培養菌体を10mM リン酸カリウム緩衝液(pH8.0)で洗浄した後、同緩衝液に菌体を懸濁して超音波破砕処理を行い、20,000×gで10分間遠心分離し、粗酵素液を調製した。
【0237】
調製したPnFXの粗酵素液を前述の非特許文献(Biotechnology and Bioengineering, 106, 358-366, 2010)記載の方法に従い、精製した。すなわち、粗酵素液を硫酸アンモニウムにより分画し、10mM リン酸カリウム緩衝液(pH8.0)で透析し、陰イオン交換クロマトグラフィー(本実施例ではQ Sepharose Fast Flowを用いた)により精製し、ゲルろ過クロマトグラフィー(本実施例ではHiLoad 26/600 Sueprdex 200を用いた)により精製した。得られた画分をSDS-PAGEにより分析し、他の夾雑タンパク質を含まない純度まで精製されていることを確認し、PnFXの精製標品とした。
【0238】
2.Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼの生産・精製
配列番号38はNeocosmospora vasinfecta由来ケトアミンオキシダーゼ(NvFX)のアミノ酸配列であり、配列番号38のアミノ酸配列をコードする遺伝子(配列番号45)を挿入した組換え体プラスミドpET22b―NvFXを大腸菌で発現させることにより、NvFXの活性が確認されている(国際公開第2012/18094号参照)。実施例1と同様に大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、得られた大腸菌BL21(DE3)(pET22b―NvFX)株を用いて上記の方法で培養して、NvFXの粗酵素液を調製した。
【0239】
調製した粗酵素液を10mM リン酸カリウム緩衝液(pH8.0)で平衡化したQ Sepharose Fast Flow樹脂(GEヘルスケア社製)に吸着させ、次に20mM NaClを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH8.0)で樹脂を洗浄し、続いて300mM NaClを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH8.0)で樹脂に吸着していたNvFXを溶出させ回収した。
【0240】
得られたNvFXを含む粗酵素液を、150mM NaClを含む20mM MES-NaOH緩衝液(pH7.0)で平衡化したHiLoad 26/600 Superdex 200カラムにアプライして同緩衝液でNvFXを溶出させ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ活性(アマドリアーゼ活性)を示す画分を回収した。得られた画分をSDS-PAGEにより分析し、他の夾雑タンパク質を含まない純度まで精製されていることを確認し、NvFXの精製標品とした。
【0241】
上記のようにして得られた各種アマドリアーゼ精製標品をサンプルとし、実施例5と同様に、PnFXとNvFXを用いてCTAC混合下におけるαFVHの測定を行った。結果を表7に示す。
【表7】
【0242】
表7に示す通り、本実施例の条件下では、0%のCTAC混合下においては、PnFXの吸光度変化量は0.173であり、0.01%のCTAC混合下においては、吸光度変化量は0.115であった。また、0.02%のCTAC混合下においては、PnFXの吸光度変化量は0.084であるのに対し、CFP-T7の吸光度変化量は0.031であり、0.04%のCTAC混合下においては、PnFXの吸光度変化量は0.026であるのに対し、CFP-T7の吸光度変化量は0.005であった。すなわち、PnFXは、0.02%以上という高い濃度のCTACの混合下で、基質であるαFVHを測定することができるといえる。
【0243】
NvFXについては、0.02%までのCTAC混合下において、吸光度が増加したが、濁りが発生した影響で基質の代わりにイオン交換水を用いたブランクにおいても吸光度が増加し、正確にαFVHを測定することができなかった。
【0244】
[実施例8]
(各種緩衝剤存在下におけるアマドリアーゼの界面活性剤耐性評価)
30mM MES/21mM Tris緩衝剤(pH6.5)以外の緩衝剤を用いた場合に、アマドリアーゼの界面活性剤耐性が向上するか検討した。上記のように精製したCFP-T7をサンプルとし、CTACの終濃度を0.01%として、30mM MES/21mM Tris緩衝剤(pH6.5)の代わりに各種緩衝剤、具体的にはリン酸とリン酸カリウムとを含むリン酸緩衝剤(pH7.0)、クエン酸とクエン酸ナトリウムとを含むクエン酸緩衝剤(pH6.0)、MESとそのナトリウム塩とを含むMES緩衝剤(pH7.0)、HEPESとそのナトリウム塩とを含むHEPES緩衝剤(pH7.0)、ACESとそのナトリウム塩とを含むACES緩衝剤(pH7.0)の存在下において、実施例1の界面活性剤耐性測定法に従って、CFP-T7の界面活性剤耐性評価を行った。結果を表8に示す。なお加温後のサンプルをBSA溶液で2倍希釈してから30分後に再度活性測定を行っても、活性値に変化がないことを確認した。
【表8】
【0245】
表8に示す通り、本実施例の条件下では、リン酸緩衝剤、MES緩衝剤、ACES緩衝剤の存在下においては、緩衝剤の濃度依存的に、CFP-T7の界面活性剤耐性が向上することが明らかとなった。クエン酸緩衝剤においては、10mMであっても界面活性剤による失活がみられず、特に有用であった。HEPES緩衝剤は、アマドリアーゼ活性を残存させる効果は見られなかった。以上のことから、驚くべきことに、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、MES緩衝剤、ACES緩衝剤には、アマドリアーゼに界面活性剤に対する耐性を向上させる効果があることを示している。
【0246】
[実施例9]
(各安定化剤添加時におけるアマドリアーゼの界面活性剤耐性評価)
種々の安定化剤を添加した際に、アマドリアーゼの界面活性剤耐性が向上するか検討した。安定化剤として、リン酸、トリカルボン酸(例えば、クエン酸)、ジカルボン酸(例えば、リンゴ酸、マレイン酸、シトラコン酸、マロン酸、グルタル酸、酒石酸)、モノカルボン酸(例えば、酢酸)、MES、MOPS、MOPSO、硫酸アンモニウムを用いた。また比較例としてCHESを用いた。安定化剤を添加した際に、pHの変化を防ぐようにするために、緩衝液は500mM HEPES(pH7.0)を用い、上記のように精製したCFP-T7をサンプルとし、CTACの終濃度を0.01%として、さらに、種々の安定化剤を添加し、実施例1の界面活性剤耐性測定法に従って、CFP-T7の界面活性剤耐性評価を行った。結果を表9-1、9-2に示す。また、500mM HEPES(pH7.0)緩衝剤を用い、上記のように精製したCFP-D2をサンプルとし、さらに、種々の安定化剤を添加し、実施例1の界面活性剤耐性測定法に従って、ただし、界面活性剤処理条件に関しては、CTACの終濃度を0.08%、処理温度を37℃とより過酷な条件を設定し、CFP-D2の界面活性剤耐性評価を行った。結果を表9-3に示す。実際に、安定化剤を添加した際に、pHは実際に7.0を示すことを確認した。なお加温後のサンプルをBSA溶液で2倍希釈してから30分後に再度活性測定を行っても、活性値に変化がないことを確認した。
【表9-1】
【表9-2】
【表9-3】
【0247】
表9-1、9-2に示す通り、本実施例の条件下では、安定化剤として、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、シトラコン酸、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、酢酸、MES、MOPS、MOPSO、硫酸アンモニウムを添加した際に、安定化剤の濃度依存的に、CFP-T7の界面活性剤耐性が向上することが明らかとなった。特に、クエン酸は0.2mMと極微量に添加した際にもCFP-T7の界面活性剤耐性を向上させることができることが分かった。また表9-3に示す通り、安定化剤としてリン酸、リンゴ酸、MOPSを添加すると、安定化剤が存在しない場合と比較して顕著にCFP-D2精製酵素の界面活性剤耐性が向上した。アマドリアーゼの界面活性剤に対する安定性が種々の化合物によって向上できることは公知ではなく、驚くべきことであった。特に以下の構造を有するCHES
【化9】
は安定化作用を有しなかったのに対し、驚くべきことに、これと非常に構造の類似する式(IV)
【化10】
[式中、nは0、1、2または3であってもよく、R10は、それぞれ独立にH、OH、-CH2OHまたは-COOHであってもよい]
に包含されるMES(n=1, R10はH)、MOPS(n=2, R10はいずれもH)、MOPSO(n=2, R10はOHおよびH)はいずれもアマドリアーゼ安定化作用を示した。以上のことから、リン酸、トリカルボン酸、ジカルボン酸、モノカルボン酸、MES、MOPS、MOPSO等の式(IV)で表される化合物、硫酸アンモニウムには、アマドリアーゼの界面活性剤耐性を向上させる効果があることを示している。また、本発明の変異を導入していないアマドリアーゼCFP-T7についても、本発明の変異を導入したアマドリアーゼCFP-D2についても界面活性剤耐性の向上が観察された。
【0248】
なお、表8及び9-1の結果を合わせると、本発明の安定化剤のアマドリアーゼ安定化作用が、本発明の緩衝剤のアマドリアーゼ安定化作用と異なる作用であることが分かる。具体的には表8からはMESを本発明の緩衝剤として用いた場合、濃度50mMにてCFP-T7アマドリアーゼの残存活性が14.3%であり、濃度100mMにて同残存活性が17.6%であり、濃度150mMにて同残存活性が62.9%であることが確認された。これに対して表9からは、アマドリアーゼ安定化作用を有しない単なるpH緩衝剤としてHEPES(pH 7.0)を使用しつつMESを本発明の安定化剤として用いると、MESの濃度10mMにてCFP-T7アマドリアーゼの残存活性が19.5%であり、MES濃度20mMにて同残存活性が54.1%であることが確認された。すなわち緩衝能を十分に発揮できない20mMといった低濃度でもMESはアマドリアーゼ安定化作用を示し、確認されたアマドリアーゼの残存活性は、驚くべきことに本発明の緩衝剤としてMESを濃度100mMにて用いた場合の残存活性(表8、17.6%)を上回った。したがって本発明の安定化剤のアマドリアーゼ安定化作用は、本発明の緩衝剤のアマドリアーゼ安定化作用とは異なる安定化作用であることが分かる。リン酸及びクエン酸についても同様である。また、安定化作用を示したジカルボン酸、MOPS、MOPSOについても、これらは緩衝剤としても使用可能であることから、同様と考えられる。
【0249】
(各安定化剤添加時におけるPnFXの界面活性剤耐性評価)
Coniochaeta属由来アマドリアーゼ以外のアマドリアーゼとして、例えば、PnFXに対し、上記の安定化剤は界面活性剤耐性向上効果があるか検討した。安定化剤は上記と同様のものを用い、安定化剤を添加した際に、pHの変化を防ぐようにするために、緩衝液は300mM HEPES(pH7.0)を用い、上記のように精製したPnFXをサンプルとし、CTACの終濃度を0.04%として、上記と同様に、PnFXの界面活性剤耐性評価を行った。実際に、安定化剤を添加した際に、pHは実際に7.0を示すことを確認した。結果を表10に示す。なお加温後のサンプルをBSA溶液で2倍希釈してから30分後に再度活性測定を行っても、活性値に変化がないことを確認した。
【表10】
【0250】
表10に示す通り、本実施例の条件下では、CFP-T7と同様にPnFXに対しても、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、MES、硫酸アンモニウムを添加した際に、界面活性剤耐性向上効果が示された。したがって、リン酸、トリカルボン酸、ジカルボン酸、モノカルボン酸、MES、硫酸アンモニウムには、多種多様なアマドリアーゼの界面活性剤耐性を向上させる安定化剤として有用であるといえる。CFP-T7とPnFXのアミノ酸配列同一性は75%であることから、CFP-T7と75%のアミノ酸配列同一性を有するアマドリアーゼは、上記の効果を有するといえる。
【配列表フリーテキスト】
【0251】
配列番号1. CFP-T7のアミノ酸配列
配列番号2. CFP-T7の遺伝子配列
配列番号3. CFP-Dのアミノ酸配列
配列番号4. CFP-Dの遺伝子配列
配列番号5. N262H導入プライマーFw
配列番号6. N262X導入プライマーRv
配列番号7. V257C導入プライマーFw
配列番号8. V257X導入プライマーRv
配列番号9. V257S導入プライマーFw
配列番号10. V257T導入プライマーFw
配列番号11. E253K導入プライマーFw
配列番号12. E253X導入プライマーRv
配列番号13. E253R導入プライマーFw
配列番号14. Q337K導入プライマーFw
配列番号15. Q337X導入プライマーRv
配列番号16. E340P導入プライマーFw
配列番号17. E340X導入プライマーRv
配列番号18. E133A導入プライマーFw
配列番号19. E133X導入プライマーRv
配列番号20. E133M導入プライマーFw
配列番号21. E133K導入プライマーFw
配列番号22. E44P導入プライマーFw
配列番号23. E44X導入プライマーRv
配列番号24. G256K導入プライマーFw
配列番号25. G256R導入プライマーFw
配列番号26. E81K導入プライマーFw
配列番号27. E81X導入プライマーRv
配列番号28. F43Y/E44P導入プライマーFw
配列番号29. V257X/N262H導入プライマーRv
配列番号30. E253K/V257C導入プライマーFw
配列番号31. E253X/V257C/N262H導入プライマーRv
配列番号32. Q337K/E340P導入プライマーFw
配列番号33. Q337X/E340P導入プライマーRv
配列番号34. Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ配列番号35. Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ
配列番号36. Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼ
配列番号37. Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ配列番号38. Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ
配列番号39. Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ
配列番号40. Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ
配列番号41. Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ
配列番号42. Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ
配列番号43. Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ
配列番号44. Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼの遺伝子
配列番号45. Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼの遺伝子
配列番号46. D129K導入プライマーFw
配列番号47. D129K導入プライマーRv
配列番号48. D132K導入プライマーFw
配列番号49. E231K導入プライマーFw
配列番号50. E231X導入プライマーRv
配列番号51. D232K導入プライマーFw
配列番号52. E249K導入プライマーFw
配列番号53. E249K導入プライマーRv
配列番号54. E249K/V257C導入プライマーRv
配列番号55. Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼの遺伝子
配列番号56. CcFXのD129K導入プライマーFw
配列番号57. CcFXのD129K導入プライマーRv
配列番号58. CcFXのD132K導入プライマーFw
配列番号59. CcFXのE133K導入プライマーFw
配列番号60. CcFXのE133A導入プライマーFw
配列番号61. CcFXのE133X導入プライマーRv
配列番号62. CcFXのE229K導入プライマーFw
配列番号63. CcFXのD230K導入プライマーFw
配列番号64. CcFXのD230X導入プライマーRv
配列番号65. CcFXのE247K導入プライマーFw
配列番号66. CcFXのE247K導入プライマーRv
配列番号67. CcFXのE251K導入プライマーFw
配列番号68. CcFXのE251X導入プライマーRv
配列番号69. CcFXのE251R導入プライマーFw
配列番号70. CcFXのN254K導入プライマーFw
配列番号71. CcFXのN254K導入プライマーRv
配列番号72. CcFXのT335K導入プライマーFw
配列番号73. CcFXのT335X導入プライマーRv
配列番号74. CcFXのT335R導入プライマーFw
【0252】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2022188182000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2022-11-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載された発明。