(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188415
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】スラリー中継槽、及び、高濃度スラリーの処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 3/02 20060101AFI20221214BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20221214BHJP
C25C 5/04 20060101ALI20221214BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20221214BHJP
B01F 27/61 20220101ALI20221214BHJP
B01F 27/73 20220101ALI20221214BHJP
【FI】
C22B3/02
C25C7/06 302
C25C5/04
C22B23/00 102
B01F7/02 A
B01F7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096422
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英明
【テーマコード(参考)】
4G078
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4G078AA02
4G078BA03
4G078CA05
4G078DA23
4G078EA10
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA19
4K001DB21
4K058AA21
4K058BA21
4K058BB05
4K058FC30
(57)【要約】
【課題】高濃度のスラリー用のスラリー中継槽において、スラリー排出時のスラリーに含まれる固体分の槽内への残存量を少なく抑えること。
【解決手段】対向する一対の側面壁15、16、対向する前面壁11と背面壁12、及び、底面によって形成される箱型の容器10と、抜き取りノズル30と、を含んでなり、容器10の底面は、前面壁11側に向かって下り勾配で傾斜している傾斜底面14を含んでなり、抜き取りノズル30は、容器10の前面壁11の下端に設置されている、スラリー中継槽1とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度スラリー用のスラリー中継槽であって、
対向する一対の側面壁、対向する前面壁と背面壁、及び、底面によって形成される箱型の容器と、
抜き取りノズルと、
を含んでなり、
前記容器の前記底面は、前記前面壁側に向かって下り勾配で傾斜している傾斜底面を含んでなり、
前記抜き取りノズルは、前記容器の前記前面壁の下端に設置されている、スラリー中継槽。
【請求項2】
前記傾斜底面の下り勾配の傾斜角度が、処理対象とする高濃度スラリーに含まれる高密度微粉末の安息角以上とされている、
請求項1に記載のスラリー中継槽。
【請求項3】
前記高濃度スラリーは、真密度が4g/cm3以上の物質からなる高密度微粉末が固体分であって、前記固体分の濃度が、100g/L以上のスラリーである、
請求項2に記載のスラリー中継槽。
【請求項4】
前記傾斜底面の下り勾配の傾斜角度が15°以上20°以下である、
請求項3に記載のスラリー中継槽。
【請求項5】
前記抜き取りノズルの接続断面の最下端の位置が、前記傾斜底面の最下端の位置と同じ高さの位置であるか、より低い位置である、
請求項1から4の何れかに記載のスラリー中継槽。
【請求項6】
前記容器には、回転軸の下端側に攪拌翼が備えられてなる攪拌装置が設置されていて、
前記攪拌装置は、前記回転軸の下端側が上端側よりも前記前面壁側に近づく向きに傾斜した状態で設置されている、
請求項1から5の何れかに記載のスラリー中継槽。
【請求項7】
前記容器の前記底面は、前記前面壁の下端を起点とする水平底面と、前記背面壁の下端を起点とする前記傾斜底面と、からなり、
前記攪拌装置の前記回転軸の軸心の延長線が、前記水平底面と前記傾斜底面の接線と交差する向きとされている、
請求項6に記載のスラリー中継槽。
【請求項8】
前記容器の前記底面の全面が、前記傾斜底面である、
請求項1から6の何れかに記載のスラリー中継槽。
【請求項9】
高濃度スラリーを中継槽から排出する工程を含んでなるスラリー処理方法であって、
前記高濃度スラリーは、真密度が4g/cm3以上の物質からなる高密度微粉末が固体分であり、前記固体分の濃度が、100g/L以上のスラリーであって、
前記中継槽が、請求項1から8の何れかに記載のスラリー中継槽である、
高濃度スラリーの処理方法。
【請求項10】
前記高密度微粉末が、電解銅粉であり、前記高濃度スラリーが、固体分の濃度が300g/L以上500g/L以下のスラリーである、
請求項9に記載の高濃度スラリーの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の非鉄金属製錬プロセスにおいて広く用いられているレパルプ槽等、高濃度のスラリーを中継して、次工程を行う設備に向けて排出する、スラリー中継槽に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ニッケル製錬プロセスの一工程である脱銅電解工程においては、電解槽から排出された銅粉を含む高濃度のスラリーは、レパルプ槽等の中継槽を経由して、次工程を行う、固液分離装置に送られる(特許文献1参照)。
【0003】
尚、スラリーを中継して、次工程に向けて排出する中継槽は、上記工程に限らず様々な工業的プロセスにおいて用いられているが、その形状については、特許文献2に開示されている混合槽のように、円筒形状の槽であることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-199858号公報
【特許文献2】特開2010-104949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなスラリー中継槽においては、スラリーを排出する際に、スラリー中の固体分の槽内への残存量を極力少なく抑えることが求められるときがある。しかしながら、特に、固体分が一定以上の高密度であって、スラリー濃度が一定以上の高濃度である場合には、スラリーを排出する際に、中継槽の底面にスラリーに含まれる固体分が残存しやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、高濃度のスラリー用のスラリー中継槽において、スラリー排出時のスラリーに含まれる固体分の槽内への残存量を少なく抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、以下に示すように、スラリー中継槽の形状を最適化することで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1) 高濃度スラリー用のスラリー中継槽であって、対向する一対の側面壁、対向する前面壁と背面壁、及び、底面によって形成される箱型の容器と、抜き取りノズルと、を含んでなり、前記容器の前記底面は、前記前面壁側に向かって下り勾配で傾斜している傾斜底面を含んでなり、前記抜き取りノズルは、前記容器の前記前面壁の下端に設置されている、スラリー中継槽。
【0009】
(1)のスラリー中継槽によれば、高濃度のスラリー用のスラリー中継槽において、スラリー排出時のスラリーに含まれる固体分の槽内への残存量を少なく抑えることができる。
【0010】
(2) 前記傾斜底面の下り勾配の傾斜角度が、処理対象とする高濃度スラリーに含まれる高密度微粉末の安息角以上とされている、(1)に記載のスラリー中継槽。
【0011】
(2)のスラリー中継槽によれば、高濃度スラリーの排出時の容器の底面上への固体分の残存を、より少なく抑えることができる。
【0012】
(3) 前記高濃度スラリーは、真密度が4g/cm3以上の物質からなる高密度微粉末が固体分であって、前記固体分の濃度が、100g/L以上のスラリーである、(2)に記載のスラリー中継槽。
【0013】
(3)のスラリー中継槽によれば、特に容器の底面に残存しやすい密度の高い固体分を含有したスラリーを処理対象とする場合においても、高濃度スラリーの排出時の容器の底面上への固体分の残存を、少なく抑えることができる。
【0014】
(4) 前記傾斜底面の下り勾配の傾斜角度が15°以上20°以下である、(3)に記載のスラリー中継槽。
【0015】
(4)のスラリー中継槽によれば、真密度が4g/cm3以上の物質からなる高密度微粉末が固体分であって、100g/L以上の高濃度スラリーを処理対象とする場合において、スラリー排出時の容器の底面上への固体分の残存を少なく抑えることができる。
【0016】
(5) 前記抜き取りノズルの接続断面の最下端の位置が、前記傾斜底面の最下端の位置と同じ高さの位置であるか、より低い位置である、(1)から(4)の何れかに記載のスラリー中継槽。
【0017】
(5)のスラリー中継槽によれば、(1)から(4)の何れかに記載のスラリー中継槽において、スラリー排出時の容器の底面上への固体分の残存を、より少なく抑えることができる。
【0018】
(6) 前記容器には、回転軸の下端側に攪拌翼が備えられてなる攪拌装置が設置されていて、前記攪拌装置は、前記回転軸の下端側が上端側よりも前記前面壁側に近づく向きに傾斜した状態で設置されている、(1)から(5)の何れかに記載のスラリー中継槽。
【0019】
(6)のスラリー中継槽によれば、高濃度スラリーを攪拌する攪拌装置の回転軸を斜めに傾斜させて設置することにより、(1)から(5)の何れかに記載のスラリー中継槽において、抜き取りノズル近傍の高濃度スラリーを集中的に攪拌することによって、速やかな固体分の排出を促すことができる。又、最も固体分が残存しやすい容器の底面隅部への固体分の残存を、より少なく抑えることができる。又、必要最低限の攪拌で済ますことができ、効率的な攪拌を行うことができる。
【0020】
(7) 前記容器の前記底面は、前記前面壁の下端を起点とする水平底面と、前記背面壁の下端を起点とする前記傾斜底面と、からなり、前記攪拌装置の前記回転軸の軸心の延長線が、前記水平底面と前記傾斜底面の接線と交差する向きとされている、(6)に記載のスラリー中継槽。
【0021】
(7)のスラリー中継槽によっても、高濃度スラリーを攪拌する攪拌装置の回転軸を斜めに傾斜させて設置することにより、不必要な攪拌を回避しつつ、水平底面部のみを効率的に攪拌することができ、水平底面部への固体分の残存を、より少なく抑えることができる。尚、水平底面を設けて、水平底面部のみを効率的に攪拌することにより、最も固体分が残存しやすい容器の底面隅部への固体分の残存を、全面が傾斜底面であるときよりも少なく抑えることができる。
【0022】
(8) 前記容器の前記底面の全面が、前記傾斜底面である、(1)から(6)の何れかに記載のスラリー中継槽。
【0023】
(8)のスラリー中継槽によれば、高濃度スラリー用の中継槽において、スラリーに含まれる固体分の槽内への残存量を少なく抑えながら、速やかに高濃度のスラリーを排出することができる。
【0024】
(9) 高濃度スラリーを中継槽から排出する工程を含んでなるスラリー処理方法であって、前記高濃度スラリーは、真密度が4g/cm3以上の物質からなる高密度微粉末が固体分であり、前記固体分の濃度が、100g/L以上のスラリーであって、前記中継槽が、(1)から(8)の何れかに記載のスラリー中継槽である、高濃度スラリーの処理方法。
【0025】
(9)の高濃度スラリーの処理方法によれば、特に容器の底面に残存しやすい密度の高い固体分を含有したスラリーを処理対象とする場合においても、高濃度スラリーの排出時の容器の底面上への固体分の残存を、少なく抑えることができる。
【0026】
(10) 前記高密度微粉末が、電解銅粉であり、前記高濃度スラリーが、固体分の濃度が、300g/L以上500g/L以下のスラリーである、(9)に記載の高濃度スラリーの処理方法。
【0027】
(10)の高濃度スラリーの処理方法によれば、各種の金属製錬プロセスにおいて電解槽から排出される銅粉(本明細書において、「電解銅粉」とも言う)等、特にスラリー中継槽の容器の底面に残存しやすい密度の高い銅粉を固体分として含むスラリーを処理対象とする場合においても、高濃度スラリーの排出時の容器の底面上への固体分の残存を、少なく抑えることができる。これにより、例えば、含銅塩化ニッケル水溶液から電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスの生産性向上に寄与することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高濃度のスラリー用のスラリー中継槽において、スラリー排出時のスラリーに含まれる固体分の槽内への残存量を少なく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明のスラリー中継槽の全体構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明のスラリー中継槽の全体構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】電気ニッケルの製造プロセスにおいて行われる脱銅電解設備の構成を示す設備フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のスラリー中継槽の好ましい実施形態について説明する。本明細書において「スラリー中継槽」とは、各種の非鉄金属製錬プロセスにおいて広く用いられているレパルプ槽等、高濃度のスラリーを中継して、次工程を行う設備に向けて排出する工業用の処理槽全般を指すものとする。本発明の「スラリー中継槽」も、同様に各種の工業プロセスにおいて特に限定されることなく用いることができる。そのような本発明の「スラリー中継槽」の好ましい用途の一例としては、含銅塩化ニッケル水溶液から電気ニッケルを製造するプロセス内で行われる「脱銅電解工程」(
図3参照)において、含液状態の銅粉とレパルプ水とを混合攪拌する脱銅レパルプ槽としての使用を挙げることができる。
【0031】
<スラリー中継槽>
[基本構成と基本動作]
図1及び
図2に示すスラリー中継槽1は、本発明の好ましい実施形態の一例である。スラリー中継槽1は、高濃度スラリーを中継しながら、必要に応じて、槽内で、攪拌や洗浄等の処理を施した後に、次工程を行う設備に向けて排出する高濃度スラリー用の中継槽である。
【0032】
本明細書においては、真密度が4g/cm3以上の物質からなる高密度微粉末が固体分であり、固体分濃度が100g/L以上のスラリーのことを、「高濃度スラリー」と言うものとする。上記で例示した電気ニッケルを製造するプロセスで処理対象となる「電解銅粉」等の金属粉末や金属酸化物を固体分として含むスラリー等が、この「高濃度スラリー」に該当する。
【0033】
スラリー中継槽1は、
図1、2に示すように、高濃度スラリーを中継しながら、必要に応じて、槽内で、攪拌、洗浄等の処理を施す容器10と、容器10からスラリーを排出する抜き取りノズル30とを、最小限の構成とする。又、スラリー中継槽1は、高濃度スラリーを攪拌するための攪拌装置20が更に設置されている構成であることが好ましい。
【0034】
[容器]
容器10は、鉛直上方から見た場合における外縁形状が略矩形状の箱型の槽である。容器10は、対向する一対の側面壁15、16、対向する前面壁11と背面壁12、及び、底面13、14(水平底面13、傾斜底面14)によって形成されている。天面側は使用目的に応じて閉鎖されいてもよいし、開放されていてもよい。このような形状からなる容器10は、その底面が、背面壁12の下端を起点とし前面壁11側に向かって下り勾配で傾斜している傾斜底面14を含んで構成されていることを主たる特徴とする。
【0035】
容器10の特徴的部分である底面は、上述の通り、前面壁11側に向かって下り勾配で傾斜している傾斜底面14を含んで構成されているものであればよい。底面全体としては、
図1、2に示すように、傾斜底面14及び前面壁11の下端を起点とする水平底面13からなる構成であってもよく、この場合、傾斜底面14は、背面壁12の下端を起点とする傾斜面とすることが好ましい。或いは、容器10の底面は、底面の全面が傾斜底面14とされている構成であってもよい。
【0036】
容器10の底面の構成が上記の何れの構成である場合においても、傾斜底面14は、その下り勾配の傾斜角度(
図2における傾斜角度θ)が、スラリー中継槽1が処理対象とする高濃度スラリーに含まれる高密度微粉末の安息角以上とされていることが好ましい。例えば、安定性が極めて高い安息角が30°である高濃度スラリーを処理対象とする場合には、容器10の傾斜底面14の傾斜角度θを30°以上とすることによって、容器10からのスラリーの排出時における底面への固体分の残存を有効に低減させることができる。
【0037】
尚、上述の「高密度微粉末の安息角」とは、乾燥した高密度微粉末の大気中における安息角では無く、所定の水溶液中に固体分として高純度微粉末を所定濃度だけ含んだ高濃度スラリーにおける高密度微粉末の安息角を意味する。本発明の「高密度微粉末の安息角」は、一般的な指標である高密度微粉末の大気中における安息角に対して低い値を示す。
【0038】
尚、容器10の背面壁12は、鉛直方向に沿って直立していてもよいが、
図1、2に示すように、下端側が上端側よりも前面壁11側に近づく向きで傾斜している形状であってもよい。背面壁が傾斜していることによって、背面壁の下端部に固形分が残留することが無く、又、スラリーの排出時に背面壁側から前面壁側に向かって円滑な流れを形成することができる。
【0039】
上述した、「含銅塩化ニッケル水溶液から電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセス」内で行われる「脱銅電解工程」の「スラリー中継槽」において処理される「電解銅粉」を含んだ高濃度スラリーでは、安息角が10°程度である。液体分の物性や固体分の形状や物性等によって安息角は変わってくるが、真密度が4g/cm3以上の高密度微粉末の安息角は、概ね同様の値を示す。よって、傾斜底面14の傾斜角度θは、具体的には、15°以上20°以下であることが好ましく、これにより、各種の非鉄金属製錬プロセス用途においてスラリーに含まれる固体分の槽内への残存量を少なく抑えることができる、汎用性の高いスラリー中継槽とすることができる。
【0040】
又、スラリー中継槽1は、特には、処理対象となるスラリーが、真密度が、4g/cm3以上の物質からなる高密度微粉末が固体分であって、固体分濃度が、100g/L以上の高濃度スラリーである場合に、上述した特有の形状からなる傾斜底面14を有することによる特段の有意性を発揮する。上記のような高密度粉末を含有する高濃度スラリーの具体例として、「含銅塩化ニッケル水溶液から電気ニッケルを製造するプロセス」において行われる「脱銅電解工程」で発生する「電解銅粉を含有するスラリー」を挙げることができる。このような金属粉末を含有する高濃度スラリーを処理対象とする場合においても、傾斜底面14の傾斜角度θを15°以上とすることによって、多くの場合において、容器10からのスラリーの排出時における底面への固体分の残存を有効に低減させることができる。
【0041】
尚、上述の「電解銅粉」は、その粒子の形状が、主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状の形状であることが広く知られている(特開2013-19034号公報段落[0007]、[
図2]参照)。例えば、このような特殊な粒子形状からなる「電解銅粉」を高濃度で含むスラリーを処理対象とする場合には、固体分の槽内への残存の問題が特に顕在化しやすい。本発明のスラリー中継槽、及び、高濃度スラリーの処理方法は、「電解銅紛」を処理対象とする場合にも、十分に有効な技術的手段となり得ることは、後段の実施例において実証されている通りである。
【0042】
[抜き取りノズル]
抜き取りノズル30は、容器10から高濃度スラリーを排出できる構造のものであれば、特に限定なく、各種のノズル部材によって構成することできる。例えば、処理対象とする高濃度スラリーに対して求められる、耐摩耗性、耐食性等、必要な特性を備える材料からなるものであれば、公知のサクションノズル等を適宜選択して用いることができる。但し、抜き取りノズル30の容器10への設置位置については、抜き取りノズル30の接続断面の最下端の位置が、容器10の傾斜底面14の最下端の位置と同じ高さの位置であるか、或いは、それよりも低い位置とすることが好ましい。尚、
図2のスラリー中継槽1においては、抜き取りノズル30の接続断面の最下端の位置が、容器10の傾斜底面14の最下端の位置と同じ高さとされている。
【0043】
[攪拌装置]
スラリー中継槽1は、更に容器10内のスラリーを攪拌可能な態様で攪拌装置20が備えられているものとすることもできる。
図1及び
図2に示すように、攪拌装置20は、その回転軸22の下端側が上端側よりも前面壁11側に近づく向きに傾斜した状態で設置することが好ましい。又、上記各図に示すように、容器10の底面が前面壁11側の水平底面13と、背面壁12側の傾斜底面14とからなる形状である場合には、攪拌装置20の回転軸22の軸心の延長線が、傾斜底面14と水平底面13の接線と交差する向きとなるように配置することが好ましい。攪拌装置20を上記態様で配置することによって、不必要な攪拌を回避しつつ、水平底面部のみを効率的に攪拌することができ、水平底面部への固体分の残存を、より少なく抑えることができる。尚、水平底面を設けて、水平底面部のみを効率的に攪拌することにより、最も固体分が残存しやすい容器の底面隅部への固体分の残存を、全面が傾斜底面であるときよりも少なく抑えることができる。
【0044】
<スラリー処理方法>
本発明の「高濃度スラリー用のスラリー中継槽」を用いて好適に行うことができる「スラリー処理方法」は、銅を含有する塩化ニッケル水溶液(含銅塩化ニッケル水溶液)から銅を電解採取して除去するニッケル製錬プロセスの一工程である「脱銅電解工程」内での使用を、好ましい実施形態の一つとする。以下、同工程において本発明のスラリー処理方法を実施する場合の実施態様について説明する。
【0045】
[脱銅電解工程]
ニッケル製錬プロセスの一工程である脱銅電解工程は、
図3に示すように、脱銅電解槽100、脱銅レパルプ槽200、固液分離装置300を備える脱銅電解設備500において同図に示す流れに沿って行われる。
【0046】
脱銅電解槽100に供給される電解液は、銅を含む塩化ニッケル水溶液であり、ニッケル濃度が200g/L前後、銅濃度が25~60g/Lである。脱銅電解槽100では電解採取によりカソードに銅粉を析出させる。脱銅電解槽100内の電解液は銅が除去された後、脱銅電解槽100からオーバーフローして電解後液として排出される。一方、カソードに電着した銅粉は、カソードから脱落させる。脱銅電解槽100の底部に銅粉が所定量堆積したら、電解槽の底から銅粉を抜き出す。抜き出された銅粉には電解液が付着しており、含液状態(スラリー状)である。脱銅電解槽100の底部と脱銅レパルプ槽200とは流路で接続されおり、排出された含液状態の銅粉は流路を通って脱銅レパルプ槽200に供給される。
【0047】
脱銅レパルプ槽200には攪拌装置が備えられており、銅粉とレパルプ水とが混合される。レパルプ槽から排出された脱銅スラリーは固液分離装置300に供給され、銅粉と、ろ液とに固液分離される。この処理により回収した銅粉は系外に払出し、銅粉を分離した後の脱銅ろ液は、脱銅ろ液槽400を経由して、上流工程に繰り返される。
【0048】
上述した「脱銅電解工程」において、脱銅電解槽100内で、下記化学式(1)、(2)の反応により、含銅塩化ニッケル水溶液(浸出液)に含まれる銅をカソードに析出させている。
Cu++e-=Cu0 ・・・(1)
Cu2++2e-=Cu0 ・・・(2)
この際、浸出液に2価の銅イオンが多く含まれていると、一旦カソードに析出して脱落した銅粉(金属銅)が、下記化学式(3)の反応により再溶解する。そのため、浸出液に2価の銅イオンが多く含まれていると総合電流効率が低下する。又、アノードでは塩素ガスが発生するため、アノード室側から微量に逆拡散した電解液に溶解した塩素ガスによって、下記化学式(4)の反応により金属銅が再溶解することでも総合電流効率、即ち、銅粉回収率は低下する。そのため、析出した金属銅は極力短い時間で固液分離することが望ましい。
Cu0+Cu2+=2Cu+ ・・・(3)
Cu0+Cl2=CuCl2 ・・・(4)
尚、総合電流効率は次式で定義される。
総合電流効率[%]=〔産出銅粉×銅品位[%]〕/〔Cu2+電気化学等量×通電時間×通電電流〕
【0049】
例えば、
図3に流れを示す「脱銅電解工程」において、脱銅レパルプ槽200を、本発明のスラリー中継槽1によって構成することにより、同槽内の銅粉残存量を最小化することができる。これにより、固液分離までに要する銅粉の滞留時間が短縮される。従って、上記化学式(3)(4)の反応による金属銅の再溶解を抑制して、上記の総合電流効率を高い効率に維持することができる。
【0050】
尚、脱銅レパルプ槽200には、多くの場合において、高濃度のスラリーを攪拌するための攪拌装置20が設けられている。操業中における攪拌装置20の空運転は故障の原因となるため、攪拌装置20の運転時には、脱銅レパルプ槽200に常に一定レベル以上の被処理液S(この場合における高濃度のスラリー)を保有することにより、攪拌翼を常に液浸しておくに足るだけの液面高さを保持しておくことが好ましい。一方で、レパルプ槽内に一定レベル以上の被処理液Sを保有しておくことは、上記化学式(3)(4)の反応による金属銅の再溶解が進行することを意味する。従って、金属銅の回収率を高率に維持するためには、レパルプ槽内に保有する被処理液Sの総量は、必要最小限に少なく抑えることが好ましい。脱銅レパルプ槽200を、傾斜底面14を有するスラリー中継槽1によって構成することにより、攪拌翼21の液浸を維持するために必要となる被処理液Sの総量を、底面が水平な従来の中継槽による場合よりも減少させることができる。具体的な一例として、スラリー中継槽を構成する容器の底面の全面が、1.3m×0.6mの水平底面である場合と比較して、背面壁12側の下端から1.0mの範囲を、傾斜角度θが15°の傾斜底面14とした場合には、攪拌翼21を液浸させておくために必要な被処理液Sの総量(容積)を、容積比で30%減少させて、これにより、金属銅の再溶解の進行を抑制することができる。
【0051】
以上説明した通り、本発明のスラリー中継槽及びそれを用いた高濃度スラリーの処理方法によれば、高濃度のスラリー用のスラリー中継槽において、スラリー排出時のスラリーに含まれる固体分の槽内への残存量を少なく抑えることができる。又、併せて、スラリー中継槽内の高濃度スラリーの処理量を最小限に抑えながら操業することもできる。このため、本発明の採用により、例えば、脱銅電解工程における総合電流効率を、従来よりも高い水準に保持することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 スラリー中継槽
10 容器
11 前面壁
12 背面壁
13 水平底面
14 傾斜底面
15、16 側面壁
20 攪拌装置
21 攪拌翼
22 回転軸
30 抜き取りノズル
S 被処理液
100 脱銅電解槽
200 脱銅レパルプ槽
300 固液分離装置
400 脱銅ろ液槽
500 脱銅電解設備