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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188555
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】エックス線診療車
(51)【国際特許分類】
   B60P 3/00 20060101AFI20221214BHJP
   A61B 6/00 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
B60P3/00 N
A61B6/00 390M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096686
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三澤 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 利克
(72)【発明者】
【氏名】新田 尚隆
(72)【発明者】
【氏名】高田 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】岩井 彩
(72)【発明者】
【氏名】篠原 直秀
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA01
4C093CA33
4C093EE12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】エックス線装置操作者への感染症のリスクを抑えるエックス線診療車を提供する。
【解決手段】車両に胸部のエックス線撮影装置33を備えるエックス線診療車1であって、車両内の前端部に設けられる第1室11と、車両内の後端部に設けられる第3室13と、第1室と第3室とを流体連通するように接続される狭通路である第2室12とを含み、第1室と第2室および第3室とに隣接し、かつ第3室と流体連通し、車両内の中央部に設けられる第4室14と、車両内の第1室に空気を給気する給気機構21と、第3室および第4室から車両外にフィルタを介して空気を排気する排気機構22とを備え、各室内に、空気流を生じさせ、定常的な一方向流れを維持させることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に胸部のエックス線撮影装置を備えるエックス線診療車であって、前記エックス線診療車は、
前記車両内の前端部に設けられる第1室と、
前記車両内の後端部に設けられる第3室と、
前記第1室と前記第3室とを流体連通するように接続される狭通路である第2室と、
前記第1室と前記第2室と前記第3室とに隣接し、かつ前記第3室と流体連通し、前記車両内の中央部に設けられる第4室と、
前記車両内の前記第1室に空気を給気する給気機構と、
前記車両内の前記第3室および前記第4室から前記車両外にフィルタを介して空気を排気する排気機構と、を備え、
前記給気機構は、前記第1室に配置され、前記排気機構は、前記第3室および前記第4室に配置され、
前記第1室から前記第4室に、前記第2室および前記第3室を経由して、空気流を生じさせ、
給気と排気の空気量のバランスを調整することによって、定常的な一方向流れが維持され、
前記第4室は被診療者が入退出可能な扉を有し、かつ前記エックス線撮影装置が配置され、
前記第2室は、エックス線撮影装置操作者が前記エックス線撮影装置を操作するために待機することができる空間を有し、
少なくとも前記第2室の一部は、前記第3室との間に、前記エックス線撮影装置操作者が入退出可能なシート体または板状体を有することを特徴とするエックス線診療車。
【請求項2】
前記第2室は、前記第1室との境界に、前記第3室に向かって空気を送風するための送風機構が配置されることを特徴とする請求項1に記載のエックス線診療車。
【請求項3】
前記第4室に設けられた前記排気機構は、前記第3室よりも排気能力が高いことを特徴とする請求項1または2に記載のエックス線診療車。
【請求項4】
前記第4室に設けられた前記排気機構は、前記第3室よりも数が多いこと、を特徴とする請求項3に記載のエックス線診療車。
【請求項5】
前記車両は、オンライン診断設備と前記車両内外の被診療者および前記エックス線撮影装置操作者の状況を共有するビデオシステムをさらに備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のエックス線診療車。
【請求項6】
前記オンライン診断設備は、オンライン診断をするための問診用デバイスを備え、前記問診用デバイスは、前記第3室に有することを特徴とする請求項5に記載のエックス線診療車。
【請求項7】
前記オンライン診断設備は、前記エックス線撮影装置の撮影データを外部に送信する装置を備えていることを特徴とする請求項5に記載のエックス線診療車。
【請求項8】
前記第2室は、前記第1室との境界に開閉可能な開口部を有する仕切りを有することを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のエックス線診療車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症の疑いがある患者等に対しエックス線の撮影および医師による遠隔診療をするエックス線診療車に関する。
【背景技術】
【0002】
健康診断や病院から離れた場所でエックス線撮影のためにエックス線撮影装置を搭載した車両が利用されている(特許文献1等参照)。
【0003】
また、このようなエックス線撮影車両は一般の医療施設とは隔離した状態で撮影および診察を行うことができるものの、感染防護の考え方や換気方法については明確な基準や指針が定められていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-131750号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような構成では、エックス線装置操作者と被診療者が同室にいなければならず、エックス線装置操作者が感染症に感染する恐れがある。また、医師は問診や診断結果を伝えるために、感染症患者と同室で対面しなければならず、医療従事者の感染リスクを払しょくできない。
【0006】
これらを鑑み、本発明は、エックス線装置操作者および医師への二次感染のリスクを抑えるエックス線診療車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態は、車両に胸部のエックス線撮影装置を備えるエックス線診療車であって、エックス線診療車は、車両内の前端部に設けられる第1室と、車両内の後端部に設けられる第3室と、第1室と第3室とを流体連通するように接続される狭通路である第2室と、
第4室は、第1室と第2室および第3室とに隣接し、かつ第3室を経由して流体連通し、車両内の中央部に設けられ、
車両内の第1室に空気を給気する給気機構と、車両内の第3室および第4室から車両外にフィルタを介して排気する排気機構と、を備え、給気機構は、第1室に配置され、排気機構は、第3室および第4室に配置され、第1室から第4室に、第2室および第3室を経由して、空気流を生じさせ、給気と排気の空気量のバランスを調整することによって、定常的な一方向流れが維持され、第4室は、被診療者が入退出可能な扉を有し、かつエックス線撮影装置が配置され、第2室は、エックス線撮影装置操作者がエックス線装置を操作するために待機することができる空間を有し、少なくとも第2室の一部は、第3室との間に、エックス線撮影装置操作者が入退出可能なシート体または板状体を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エックス線撮影装置操作者及び医師への感染症の感染を抑制しながら、エックス線撮影および診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るエックス線診療車の模式的な側面図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係るエックス線診療車の模式的な上面図である。
図3図3(a)および(b)は、本発明の第1実施形態に係るエックス線診療車の他の変形例における模式的な上面図である。
図4図4は、本発明の第2実施形態に係るエックス線診療車の模式的な側面図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態に係るエックス線診療車のオンライン診断設備およびビデオシステムのブロック図である。
図6A図6Aは、本発明の一実施形態に係るエックス線診療車内の空気流の流れを数値シミュレーションした結果を示す図である。
図6B図6Bは、本発明の一実施形態におけるエックス線診療車内の空気流の速度プロファイルを示すグラフである。
図7図7は、本発明の一実施形態に係るエックス線診療車の第1室のスライドドアの開閉を調整したときの第1室と、第3室および第4室との差圧の測定結果を示すグラフである。
図8図8は、第1室11のスライドドア15aを開いた時の開口面積を示す図である。
図9図9は、本発明の一実施形態に係るエックス線診療車内のウイルスを噴霧した時の模式的な図である。
図10A図10Aは、本発明の一実施形態に係るエックス線診療車内の第3室13から第4室14に流れ込む空気流を測定した結果を示す図である。
図10B図10Bは、本発明の一実施形態に係るエックス線診療車内の第2室12の出口付近でエックス線撮影装置操作者の下流位置に流れ込む空気流を測定した結果を示す図である。
図11A図11Aは、本発明の実施形態に係るエックス線診療車内の各場所における換気条件を示す図である。
図11B図11Bは、本発明の実施形態に係るエックス線診療車内の各場所における換気速度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0011】
(第1実施形態)
(エックス線診療車の構造)
図1は、本発明の第1実施形態に係るエックス線診療車の模式的な側面図であり、図2は、本発明の第1実施形態に係るエックス線診療車の模式的な上面図である。
【0012】
本発明のエックス線診療車1は、車両内の前端部に設けられる第1室11と、車両内の後端部に設けられる第3室13と、第1室11と第3室13とを流体連通するように接続される狭通路である第2室12と、第1室11と第2室12と第3室13とに隣接し、第3室と流体連通するように車両内の中央部に設けられる第4室14と、を備えている。また、本発明のエックス線診療車1は、車両内の第1室に空気を給気する給気機構と、車両外にフィルタを介して空気を排気するよう第3室および第4室に設置された排気機構と、を備えている。
【0013】
(第1室)
第1室11は車両1の前端部に設けられ、第2室12と流体連通している。また、第1室11には、車両外部から空気を取り込む給気機構21が配置されている。給気機構21は、好ましくは、第1室11の天井に配置されている。給気機構21は、第1室11の天井に配置されるが、これに限らず、第1室11内の車両の側端面に配置されてもよい。さらに、第1室11には、給気機構付きエアコン25を配置してもよく、例えば、第3室13の境界付近に配置してもよい。給気機構付きエアコン25によって取り込まれた空気は、給気機構21の空気と合流するようにしてもよい。
【0014】
第1室11は、さらにエックス線撮影装置操作者やオペレータが入退出をするための扉2を備えてもよい。第1室11の扉2によって、感染症の疑いのある被診療者と接触することなく、第1室11内から入退出することができる。
【0015】
第1室11は、例えば、第2室12との境界に仕切り15(図8参照)を備えていてもよい。仕切り15は、扉であってもよい。仕切り15は、開閉可能なスライドドア15aを有しており、スライドドア15aの開閉を調整することによって第2室から第4室までの室内の陰圧を調整することができる。スライドドア15aは、連続的に開口部を調節できるものであれば、開閉可能な窓、風量調整ダンパなどでもよい。なお、スライドドア15aの開閉による陰圧の調整については、後述する。
【0016】
(第2室)
第2室12は、第1室11と第3室13を流体連通する狭通路である。第2室12は、エックス線撮影装置操作者が待機する待機場所である。エックス線撮影装置操作者は、エックス線撮影装置を操作することが認められた者であり、日本では、診療放射線技師または医師(以下、診療放射線技師等とも言う)である。第2室12は、好ましくは診療放射線技師等が待機する待機場所である。第2室12は診療放射線技師等が待機できる程度の幅を有し、例えば車両の側面から60センチ程度の幅を有している。
【0017】
第2室12の一部は、第3室13との間に、診療放射線技師等が入退出可能なシート体16aまたは板状体16bを有している。シート体16aは、例えば、一端を車両の天井に、他端を床に、スライド可能に固定するようにしてもよく、一端を車両の天井にスライド可能に固定し、他端にチェーンのような重りを取付けて、スライド可能にしてもよい。板状体16bの場合、例えば、一端を車両の天井に、他端を床に、蛇腹状にスライド可能に固定するようにしてもよい。また、シート体16aの長さは、後述する第3室13の排気機構22の真横までとし、第2室12と第3室13の境界はオープンとして障害物がなく、送風機構31の一方向流れが、排気機構22にすぐに吸入されず、第3室後部まで達することが望ましい。
【0018】
シート体16aに用いられる材料としては、一部が透明なまたは半透明な素材であればよく、例えば、塩化ビニールのような透明な樹脂製の素材であってもよい。板状体16bに用いられる材料としては、シート体16aと同様に、少なく一部が透明または半透明な素材であればよく、例えば、ポリエチレン樹脂などの素材であってもよい。シート体16aまたは板状体16bの厚さは、第1室11からの空気流で大きく変形しない厚さであればよく、例えば0.3mm~0.5mm程度であればよい。これにより、診療放射線技師等は、感染症の疑いのある被診療者が、後述する第4室に入室するのを確認後に、エックス線撮影のための操作をするために第2室12から第3室13に入室することができる。
【0019】
第2室12は、第3室に空気を送付するための送風機構31が配置されていてもよい。送風機構31は、第1室11と第2室12との境界に配置され、診療放射線技師等の背後から送風することが好ましい。送風機構16は、第1室11と第2室12との境界に限らず、診療放射線技師等の待機位置の上流であれば、第2室12内であればどこに配置されてよい。これにより、第2室で待機する診療放射線技師等は、常に第1室11からの空気を受けることとなる。
【0020】
第2室12は、さらに低濃度・高濃度オゾン発生器を備えてもよい。オゾン発生器は、第2室12と第3室13との境界に配置されることが好ましい。オゾン発生器を配置することにより、診察時は、低濃度のオゾンを発生させ、感染症微生物を殺菌することができる。さらに、診察終了後には、高濃度のオゾンを発生させ、残留する感染症微生物をより強力に殺菌することができる。
【0021】
(第3室)
第3室13は、車両1の後端部に設けられ、第2室12の一部と第4室14とに隣接し、これらと流体連通するように設けられている。
【0022】
第3室13は、感染症の疑いのある被診療者が車両1内に入退出するための扉3を備えている。第3室13が扉3を備えることによって、感染症の疑いのある被診療者は、オペレータや診療放射線技師などと接触することなく、第3室13内への入退出をすることができる。また、第3室13は、被診療者が待機またはオンライン診療をうけることができる。
【0023】
第3室13は、車両1内の空気を、車両1外に排気する排気機構22を少なくとも1か所、備えている。排気機構22は、車両1内の空気を、フィルタを介して排気するものである。排気機構22は、第3室内の天井や側端部のいずれかに配置されてもよい。好ましくは、第3室内の天井である。
【0024】
排気機構22のフィルタは、車両内から排気される空気からからウイルスなどの感染性微生物を濾過し、除去するものである。排気機構22のフィルタは、粒径0.3ミクロンの粒子の捕集効率が99.97%以上のHEPAフィルタが好ましい。排気機構22のフィルタは、HEPAフィルタに限られることなく、ULPAフィルタなどを用いてもよい。排気機構22のフィルタにより、第3室13に入室した被診療者の飛沫に含まれる可能性のある感染症微生物を濾過除去することができる。
【0025】
第3室13は、第4室14に空気を送風するための送風機構32が配置されてもよい。送風機構32は、第1室11および第2室12から送られてきた空気を第4室14へ送る。第3室13に送風機構32が配置されることによって、第3室13内のより多くの空気が第4室に運ばれ、それに伴い第1室11から第3室13に、第2室12を経由して、より多くの空気が流れることができる。
【0026】
(第4室)
第4室14は、エックス線撮影装置33を備えている。エックス線撮影装置33は、日本では、「胸部一般エックス線撮影装置」または「胸部単純エックス線撮影装置」とも呼ばれている。第4室14は、鉛遮蔽を含む重量構造物なので、エックス線診療車1の走行バランスを保つために中央部に置かれることが望ましい。第4室14は、車両1内の中央部に設けられ、第1室11と、第2室12の一部と、第3室13とに隣接し、前記第3室と流体連通するように設けられている。
【0027】
第4室14は、第3室13と隣接する位置に、被診療者の入退出可能な扉17を備えている。扉17は、エックス線を遮蔽する鉛遮蔽体で形成されている。第4室14に、被診療者が入室後、扉17を閉めたのち、エックス線の漏洩を予防しながらエックス線撮影をすることができる。
【0028】
第4室14は、車両内の空気を、フィルタを介して車両外に排気する排気機構を備えており、第3室の排気機構よりも排気能力が高い。第4室14の扉17は、撮影中は一時的に、5秒程度、閉止される。扉17は、透明な鉛ガラス窓をさらに備え、曝射中の放射線は遮蔽されるが、エックス線撮影装置操作者は、患者を視認できる。閉止中は、第3室13からの気流は遮断されるが、患者の呼気を含む第4室14の空気は、天井の排気機構23および24からHEPAフィルタを介して車外に放出される。また、鉛扉閉止時も、エックス線撮影室である第4室14内には、後述する紫外線殺菌空気清浄機が備えてあるので、気流が止まって空気が第4室14で循環していても、継続的に殺菌されている。本実施形態の第4室14は、車両内の空気を、フィルタを介して車両外に排気する排気機構23、24を少なくとも複数個所、備えている。第4室14は、排気機構23、24によって、車両内の空気を車両外に排気することができる。第4室の排気機構の数は、第3室の排気機構の数よりも多い。第4室14の排気機構の数が、第3室13の排気機構よりも多いことで、第4室14はより強く排気することができ、よりその陰圧レベルを下げることができる。
【0029】
第4室14は、紫外線殺菌空気清浄機を備えてもよい。紫外線殺菌空気清浄器を備えることにより、エックス線撮影時の密閉状態においても、空気を清浄化することができ、清浄化された空気をさらに、排気機構23、24によって排気することができる。
【0030】
このように、第1室11、第2室12、第3室13および第4室14は、それぞれが流体連通しており、第1室11から車両内に給気された空気を、第2室12を通って、第3室13に流れ、さらに第4室14へと流れることによって、定常的な一方向の空気流の流れを維持することができ、排気機構22、23、24によって、第3室13および第4室14を陰圧にすることができ、診療放射線技師等の感染症への感染リスクを抑制することができる。
【0031】
本発明の第1実施形態において、第4室14は、図2に示すように六角形の形状に設けられている。第4室14の形状は、六角形状としたが、これに限られることはなく、後述する図3で説明する形状でもよい。
【0032】
(エックス線診療車の変形例)
次に、図3(a)および(b)を参照して、エックス線診療車1の変形例について説明する。図3(a)のエックス線診療車1は、図2の第4室14の六角形状とは異なり、三角形状に形成されている。第4室14の総面積は減少するが、三角形状にすることにより、第4室14内の陰圧レベルをさらに下げることができる。また、第2室12の他端は、第1室11の境界から第3室13の境界に亘ってシート体16aまたは板状体16bを有している。第2室12の他端がシート体16aまたは板状体16bであることにより、診療放射線技師等が、第4室14への被診療者の入室確認をしやすくすることができる。また、シート体16aが長くなるため、エックス線撮影装置操作者が第2室のどの位置にいても、第3室や第4室への患者の入退室を容易に視認できる。
【0033】
図3(b)の変形例は、エックス線診療車1の第4室14を四角形状に形成される形態である。第4室14を四角形状にすることにより、図2および図3(a)とは異なり、第2室12と第4室14との間に第3室13の空間が少なくなるため、滞留する空気流が少なくなり、診療放射線技師等が感染症へのリスクをさらに抑制することができる。
【0034】
(第2実施形態)
次に、図4および図5を参照して本発明の第2実施形態に係るエックス線診療車1について説明する。図4は、エックス線診療車のオンライン診断設備を模式的に示す図であり、図5は、第2実施形態に係るエックス線診療車のオンライン診断設備を示すブロック図である。
【0035】
なお、前記したエックス線診療車1の実施形態と同様の構成要素については同一符号を付し、特段の説明を加えない。
【0036】
本実施形態のエックス線診療車1は、オンライン診断設備500をさらに備えている。
【0037】
オンライン診断設備500は、被診療者の状態を診療する診療情報系510と、遠隔診察室100に情報を送信する無線LAN系520と、車両内の被診療者の問診または予診を行う問診予診ビデオ系530と、を備えている。
【0038】
診療情報系510は、被診療者の状態を診療する診療装置群511(エックス線撮影装置33、超音波装置(エコー装置)51、心電図装置52、血圧計53、バイタルモニタ54)と、診療装置群511のデータを制御および集約するPC群512と、PACS(Picture Archiving and Communication System)513と、医療情報伝送PC514と、を備えている。
【0039】
診療情報系510では、診療装置群511によって測定されたデータを、PC群512に集約し、PACS513を介して、医療情報伝送PC514に送られる。そして、診療情報系510では、測定されたデータを医療情報伝送PC514から無線LAN系520へ送られる。
【0040】
無線LAN系520は、室外アクセスポイント521aおよび室内アクセスポイント521bと、HUB522と、4G/5Gルータ523と、を備えている。無線LAN系520は、診療情報系510から測定されたデータを室外アクセスポイント521a、HUB522および4G/5Gルータ523を介して、遠隔診察室100のPC101へと送信される。また、無線LAN系520は、後述する問診予診ビデオ系530から送信されるデータや映像を室内アクセスポイント521b、HUB522および4G/5Gルータ523を介して、遠隔診察室100のPC101へと送信される。
【0041】
好ましくは、第1室11には、オペレータがおり、PC群512を制御して、遠隔診察室100に診断データ送信している。第3室13には、遠隔診察室100にいる医師から診療を受けるために被診療者が待機することができる。
【0042】
診療装置群511は、被診療者の臓器を断層撮像する超音波装置(エコー装置)51、心電図装置52、血圧計53、被診療者のバイタルを測定するバイタルモニタ(除細動器含む)54、を備えてもよい。被診療者は、遠隔診察室100にいる医師の指示のもと、診療装置群511の診療を受ける。診療装置群511によって収集されたデータは、第1室11のPC群512に集約される。
【0043】
PACS513は、画像保存通信システムのことであり、エックス線撮影装置33等によって撮影された画像データを受信して保存したり、接続された医療機器の要求に応じて画像データを送信したり、する装置である。本実施形態におけるPACS513は、例えば、エックス線撮影装置によって撮影された画像およびPC群512に集約されたデータを保存したり、送信したりする。また、PACS513は、医療情報伝送PC514を介して、無線LAN系520を介して、遠隔診察室100のPC101にデータを送信することができる。
【0044】
問診予診ビデオ系530は、被診療者と遠隔診察室100にいる医師と映像による問診やオペレータや診療放射線技師等の状況の確認など行うためのシステムである。問診予診ビデオ系530は、ビデオカメラ、マイク、スクリーンなどを有する問診用PC531と、看護師による体温と酸素飽和度などを測定したデータを入力する予診用Tablet532と、を備え、問診予診ビデオ系530を介して医師と映像による問診などを行うことができる。また、問診予診ビデオ系530は、第3室13内の全体を映す、または扉3(図1参照)から入退室する被診療者を映す、ビデオカメラ(不図示)を備えてもよい。この問診の映像やビデオカメラの映像はオペレータや診療放射線技師等などが持つタブレット端末にも共有されてもよい。これにより、オペレータや診療放射線技師等が、医師の問診やビデオカメラの映像により、被診療者の行動を把握しやすくすることができる。
【0045】
遠隔診察室100にいる医師は、PC101を用いて、PACS513から、医療情報伝送PC514を介して送られてきた診断データおよびエックス線の撮影画像データを確認しながら、被診療者の状態を把握しながら診断を行う。
【0046】
このように、医師と被診療者が直接対面することなく、被診療者に対して診療することができ、遠隔診察室100にいる医師は、感染症の感染リスクを抑制することができる。
【0047】
<実施例>
(空気流れ数値シミュレーション試験)
図6Aは、本発明の一実施形態におけるエックス線診療車1内の空気流A(白い矢印)の流れを数値シミュレーションした結果を示す図である。H=0.1m、H=1.0m、H=1.5mは、それぞれエックス線診療車1の床からの高さHのときの断面であり、それぞれの空気流Aの流れを示している。なお、空気流Aは、白い矢印の濃淡で空気流の速度を示しており、濃いときは空気流Aが速く、薄いときは空気流Aが遅いことを表している。第2室12の幅が0.6mの場合と1.2mの場合を比較する。
【0048】
図6A(a)は、第2室12である通路の幅が0.6mの場合を示している。高さH=0.1mおよび1.0mでは、空気流Aが第1室11から第2室12の全体に流れており、さらに空気流Aが第3室13および第4室14へと流れている。H=1.5mの高さでは、第1室11と第2室12との境界に送風機構31が配置されているため、送風機構31によって、第2室12から第3室13および第4室14への空気流Aの流速が一方向にさらに大きくなっている。
【0049】
一方、図6A(b)は、第2室12である通路の幅が1.2mの場合を示している。高さH=0.1mでは、空気流Aが第1室11から第2室12へ流れてきているが、第2室12の幅が広いため、空気流Aが拡散している。高さH=1.0mでは、第1室11から空気流Aが第2室12を通過しているが、空気流Aの速度が小さい。また、第3室13へ流れた空気流Aが第2室12へと逆流している。高さH=1.5mでは、送風機構31によって空気流Aが強くなっているが、第3室13へ流れた空気流Aが第2室12へと逆流してしまっている。
【0050】
このように、第2室12の幅を上述のように広くしてしまうと、第3室13に流れた空気流Aが第2室12へと逆流してしまい、第2室12で待機している診療放射線技師等に感染症微生物が空気流Aとともに流れてきてしまう。したがって、第2室12は、0.6m程度の幅であると、空気流Aが逆流せず、診療放射線技師等の感染症リスクを抑制することができる。
【0051】
図6Bに、第2室の幅0.6mの場合について、エックス線撮影装置操作者の位置(図6B(a)参照)と、患者の位置(図6B(b)参照)における、高さ0.1m、1.0m、1.5mの場合の車幅方向の速度プロファイル(車両中央が幅方向距離の原点)をプロットした。X方向は車軸に垂直方向で進行方向右から左がプラス、Y方向は車軸方向で前から後ろ方向がプラス、Z方向は垂直方向で床から天井方向がプラスとなる。第2室のU_y(実線)が幅方向距離0.5mから1.0mでプラスとなり、第4室のU_y(実線)が幅方向距離-1.0mから0.0mでマイナスとなっていることから、このプロット結果も、図6A(a)の結果を、より定量的に示す結果となっている。
【0052】
(陰圧度確認試験)
次に、図7は、本発明の一実施形態によるエックス線診療車の第1室のスライドドア15aの開閉を調整したときの第1室11と、第3室13および第4室14との差圧の測定結果を示すグラフである。また図7の黒い棒グラフは、排気機構のフィルタに粗塵フィルタを用いた場合であり、白い棒グラフは、排気機構のフィルタにHEPAフィルタを用いた場合である。図8は、第1室11のスライドドア15aを開いた時の開口面積を示す図である。これらによれば、図8(a)のように、第1室11のスライドドア15aを閉めた状態開口面積が0cm2では、-7.5Pa付近の差圧であり、第3室13および第4室14は陰圧状態であることを示している。図8(b)のように、スライドドア15aを開口面積が200cm2では、粗塵フィルタであれば-5Pa付近の差圧、HEPAフィルタであれば、-3.5Pa付近の差圧である。図8(c)のように、スライドドア15aの開口面積が400cm2や600cm2では、粗塵フィルタであれば-2.5Paや-1.5Pa付近の差圧、HEPAフィルタであれば、-1.9Paや-0.9Pa付近の差圧である。スライドドア15aの開口面積が800cm2やオープン状態であると、粗塵フィルタおよびHEPAフィルタであれば、差圧はほぼ0Paである。
【0053】
このように、スライドドア15aの開口面積によって、第1室11と、第3室13および第4室14との陰圧レベルを低下されることから、スライドドア15aの開閉を調整することで第3室13および第4室14の陰圧レベルを調整することができる。
【0054】
(拡散試験)
図9は、本発明の一実施形態によるエックス線診療車内のウイルスを噴霧した時の模式的な図であり、溶菌プラークを測定した数値結果を示す図である。図9(a)は、被診療者がマスクをしていない状態を示しており、図9(b)は、被診療者がマスクをした状態を示している。なお、φX174ファージウイルスは、核酸としてDNAを持ち、サイズも30nm程度のため、核酸としてRNAをもつ100nmのコロナウイルスよりも消毒耐性が高く、浸透しやすいと考えられる。φX174の大腸菌感染を使う試験は、日本工業規格 JIS. T 8061:2015. 「血液及び体液の接触に対する防護服-防護服材料の. 血液媒介性病原体に対する耐浸透性の求め方-」に規定される試験方法で、本実験ではその実験系を応用している。エックス線診療車1内の複数個所に、大腸菌を培養したディッシュを設置する。給気機構21および排気機構22、23、24を稼働して、空気流Aを流した状態で、被診療者92の位置からφX174ファージウイルスを含む培養液を5L/min.の流量で、患者滞在時間に相当する10分間、噴霧した。図9において、数字が四角で囲われている箇所については、感染を示す大腸菌の溶菌プラークが検出された箇所である。図9(a)では、床上など複数の溶菌プラークが検出され、図9(b)では、被診療者92の後方に1か所検出された。また、図9(b)では、診療放射線技師等91がいる位置の溶菌プラークは検出されなかった。
【0055】
本発明のような、空気流を生じさせた状態であれば、被診療者がマスクをしていないでも、第3室13のみに飛散し、被診療者がマスクをしていれば、被診療者の後方のみであることから、第1室11や第2室12への飛散することはない。
【0056】
したがって、診療放射線技師等への感染症リスクを抑制しながら、エックス線撮影を行うことができ、さらに、オンライン診断設備を用いることで、医師の感染リスクも抑制することができる。
【0057】
(流速測定試験)
また、これらの結果は、流速計を用いた流速測定によっても裏付けられている。図10Aには、第3室13から第4室14に流れ込む空気速度の平均値を、高さ0.1m、1.0m、1.5mの高さで測定した結果が示されている。マイナス方向の速度が流入、プラス方向の速度が流出を示す。足元で若干の流出が見られるが、エックス線撮影のため、第4室14に入る患者上半身では、第4室14が吸い込みになっていて、最終的に第4室14の天井から排出される状況が確認できた。図10Bでは、第2室12の出口付近で診療放射線技師等の下流位置における空気速度の平均値を、高さ0.1m、1.0m、1.5mの高さで測定した結果が示されている。ここでも、足元では、床に障害物となるタイヤハウスがあるため、若干の逆流となるプラス方向の流れがあるが、診療放射線技師等の上半身では速度の大きい一方向の流れが形成されており、患者の居る第3室13側からエアロゾルを浴びることはない。数値計算においても、実測に置いても、車両前方から後方への一方向流れが形成され、第4室14に吹き込んでいることが確認できた。
【0058】
(換気速度試験)
図11AおよびBは、二酸化炭素を車内に6000から7000ppmの濃度で均質に分散させた後、給気機構および排気機構等の車内換気設備を稼働させて、それぞれの強度を変えたときの、車内換気回数を、二酸化炭素濃度の変化によって推定したグラフである。第3室13の診察エリア、エックス線撮影室の第4室14、第3室13の前後、第2室12、第1室11などに二酸化炭素濃度計を設置し、約10Hzでサンプリングし、二酸化炭素濃度の低下を測定し、その時間変化から、換気回数を求めた。病院などの陰圧室では、HEPAフィルタであれば2回以上、中性能フィルタ(50%以上の除菌効果)で1時間に12回以上の換気が求められているが(米国疾病管理予防センター公表のガイドライン)、排気機構の外側にHEPAフィルタを装着したエックス線診療車では、これらの条件を十分クリアしていることが分かる。
【符号の説明】
【0059】
1 エックス線診療車
2 3 扉
11 第1室
12 第2室
13 第3室
14 第4室
16a シート体
16b 板状体
21 給気機構
22 排気機構
23 24 排気機構
25 給気付きエアコン
31 32 送風機構
33 エックス線撮影装置
51 超音波装置(エコー装置)
52 心電図装置
53 血圧計
54 バイタルモニタ
100 遠隔診察室
101 PC
500 オンライン診断設備
510 診療情報系
511 診療装置群
512 PC群
513 PACS
514 医療情報伝送PC
520 無線LAN系
521a 室外アクセスポイント
521b 室内アクセスポイント
522 HUB
523 4G/5Gルータ
530 問診予診ビデオ系
531 問診用PC
532 予診用Tablet
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B