(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188617
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】プロセス設計支援装置、および、プロセス設計支援方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20221214BHJP
G06F 16/907 20190101ALI20221214BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20221214BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06F16/907
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096793
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 紀彦
【テーマコード(参考)】
3C100
5B175
5L049
【Fターム(参考)】
3C100AA22
3C100AA38
3C100AA43
3C100AA57
3C100AA65
3C100BB12
3C100BB13
3C100BB15
3C100CC02
5B175FB03
5B175HA02
5B175HB03
5L049CC04
(57)【要約】
【課題】新たなプロセス設計書を高品質に作成するために、参照する過去事例を適切に抽出すること。
【解決手段】プロセス設計支援装置100は、入力された新規の設計書111の製造物を検索キーとして、その検索キーに類似範囲内で類似する過去の設計書112に対応する過去の製造・検査情報113をデータベース107から検索する製造・検査情報分析部103と、検索された過去の製造・検査情報113を表示する製造・検査情報表示部104と、を有する。製造工程表示部102は、類似範囲を変更する旨の入力を受け付けると、変更後の類似範囲をもとにした過去の製造・検査情報113の再表示処理を製造・検査情報表示部104に実行させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造物が指定される過去の設計書と、その過去の設計書に基づいて実際に製造物を製造した際の過去の製造情報とが格納されているデータベースと、
新規の設計書で指定される製造物と、その製造物への類似範囲との入力を受け付ける製造物指定部と、
入力された前記新規の設計書の製造物を検索キーとして、その検索キーに前記類似範囲内で類似する前記過去の設計書に対応する前記過去の製造情報を前記データベースから検索する類似検索部と、
検索された前記過去の製造情報を表示する検索結果表示部と、
前記新規の設計書の製造工程への入力を受け付ける製造工程入力部と、
入力された製造物と、入力された製造工程を含む前記新規の設計書を前記データベースに格納するプロセス設計書生成部とを有しており、
前記製造物指定部は、前記類似範囲を変更する旨の入力を受け付けると、変更後の前記類似範囲をもとにした前記データベースの再検索処理を前記類似検索部に実行させるとともに、変更後の前記類似範囲をもとにした前記過去の製造情報の再表示処理を前記検索結果表示部に実行させることを特徴とする
プロセス設計支援装置。
【請求項2】
前記製造物指定部は、前記類似範囲を変更する手段として、前記新規の設計書の製造物と、前記過去の設計書の製造物との類似度のしきい値を変更するスライドバーを表示させ、
前記類似検索部は、類似度のしきい値を超過する類似度となる前記過去の設計書を前記類似範囲内とすることを特徴とする
請求項1に記載のプロセス設計支援装置。
【請求項3】
前記検索結果表示部は、前記類似検索部が検索した前記類似範囲内の製造物に用いた機械タイプが複数存在するときには、それらの機械タイプを互いに区別可能な表示形態となるように、前記過去の製造情報を表示することを特徴とする
請求項1に記載のプロセス設計支援装置。
【請求項4】
前記類似検索部は、検索された前記過去の製造情報に対して、さらに、製造物への検査の合否判定結果の統計値である合否判定率を求め、
前記検索結果表示部は、合否判定率を含めた前記過去の製造情報を表示することを特徴とする
請求項1に記載のプロセス設計支援装置。
【請求項5】
前記類似検索部は、検索された前記過去の製造情報に対して、さらに、製造工程で測定されたパラメータと、製造物への検査で測定されたパラメータとの相関係数を求め、
前記検索結果表示部は、相関係数を含めた前記過去の製造情報を表示することを特徴とする
請求項1に記載のプロセス設計支援装置。
【請求項6】
プロセス設計支援装置は、データベースと、製造物指定部と、類似検索部と、検索結果表示部と、製造工程入力部と、プロセス設計書生成部とを有しており、
前記データベースには、製造物が指定される過去の設計書と、その過去の設計書に基づいて実際に製造物を製造した際の過去の製造情報とが格納されており、
前記製造物指定部は、新規の設計書で指定される製造物と、その製造物への類似範囲との入力を受け付け、
前記類似検索部は、入力された前記新規の設計書の製造物を検索キーとして、その検索キーに前記類似範囲内で類似する前記過去の設計書に対応する前記過去の製造情報を前記データベースから検索し、
前記検索結果表示部は、検索された前記過去の製造情報を表示し、
前記製造工程入力部は、前記新規の設計書の製造工程への入力を受け付け、
前記プロセス設計書生成部は、入力された製造物と、入力された製造工程を含む前記新規の設計書を前記データベースに格納し、
前記製造物指定部は、前記類似範囲を変更する旨の入力を受け付けると、変更後の前記類似範囲をもとにした前記データベースの再検索処理を前記類似検索部に実行させるとともに、変更後の前記類似範囲をもとにした前記過去の製造情報の再表示処理を前記検索結果表示部に実行させることを特徴とする
プロセス設計支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセス設計支援装置、および、プロセス設計支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造に関する過去事例を活用して、今後の製造にフィードバックする技術が提案されている。
特許文献1には、製造プロセスの過去事例を元に製品の材料予測をする方法が記載されている。具体的には、特許文献1には、以下の装置が記載されている。
「指定された時刻から過去時刻までの、指定した所定のプロセス変数値と材質値を時系列データベースから抽出して、それを量子化し、検索用テーブルに量子化したプロセス変数値と材質値を格納する。材質を予測したい製品のプロセス変数値を量子化し、これを検索キーとして、検索用テーブルを検索し、類似する量子化した値を持つ過去事例と取り出し、その過去事例の材質値に基づいて、製品の材質の予測値を算出することを特徴とする装置」
【0003】
特許文献2には、不具合の特徴量を抽出する方法が記載されている。具体的には、特許文献2には、以下の装置が記載されている。
「複数の製造装置をそれぞれ制御する装置パラメータの時系列データを取得する製造情報入力部と、複数の製造装置で製造されたウェーハ上の不良半導体装置のウェーハ面内分布傾向を不良パターンに分類する不良パターン分類部と、時系列データのそれぞれを複数のアルゴリズムにより統計的に処理して複数のアルゴリズムのそれぞれに対応する複数の特徴量を算出する特徴量算出部と、複数の特徴量のそれぞれについて、不良パターンの有無のそれぞれに対する特徴量の頻度分布を求め、不良パターンの有無による頻度分布間の有意差検定を実施する特徴量解析部と、有意差検定で求められた検定値を検定基準値と比較して不良パターンの発生原因特徴量を抽出する異常パラメータ抽出部とを有する装置」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-33536号公報
【特許文献2】特開2005-251925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プロセス設計書には、各プロセスで実行すべき内容が記載される。プロセス設計書の生成をコンピュータを用いて支援する場合を検討する。この場合、新規のプロセス設計書で製造対象となる製品と類似する過去事例の集合から、今回の製品製造に有用な過去事例をどの範囲まで抽出するかが重要となる。つまり、過去事例を類似検索する範囲を適切に設定することが、新規のプロセス設計書の質に大きく影響する。
【0006】
なお、参考にする過去事例が多いほど、新規の製品が高品質になるとは限らない。例えば、今回製造する製品Aを検索キーとして、過去事例から製品Aにかなり類似する製品B,少し類似する製品Cを検索する場合を考える。
もし、過去事例として製品Cが高品質に製造できた実績があるときには、その実績を参考にして今回製造する製品A用の新規のプロセス設計書を作成することが望ましい。つまり、類似検索する範囲を製品Cまで含めて広めに設定するほうがよい。
一方、過去事例として製品Cが低品質になってしまった実績があるときには、その実績をむしろ参考にせず、今回製造する製品A用の新規のプロセス設計書を作成することが望ましい。つまり、類似検索する範囲を製品Cまで含めず製品Bにとどめるように狭く設定するほうがよい。
【0007】
このように、過去事例を類似検索する範囲を適切に設定する手段は、特許文献1,2などの従来の技術では提供されていない。よって、不適切な過去事例を参照して、特許文献1のように製品の材料予測をしたり、特許文献2のように不良パターンの発生原因となる特徴量を抽出したりすると、得られた結果に誤差が含まれるなど低品質となってしまうこともある。
【0008】
つまり、類似する検索の範囲によって誤差の大小が変わってしまうバラツキが発生してしまう。そして、操作者はバラツキがある誤差を含む性能予測値の情報を元に新たに製品を設計する。
操作者は誤差のバラツキを想像しながら設計するため、設計した結果にもバラツキが発生してしまい、手戻りして製品を再設計するなど設計が長期化してしまう。
【0009】
そこで、本発明は、新たなプロセス設計書を高品質に作成するために、参照する過去事例を適切に抽出することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明のプロセス設計支援装置は以下の特徴を有する。
本発明は、製造物が指定される過去の設計書と、その過去の設計書に基づいて実際に製造物を製造した際の過去の製造情報とが格納されているデータベースと、
新規の設計書で指定される製造物と、その製造物への類似範囲との入力を受け付ける製造物指定部と、
入力された前記新規の設計書の製造物を検索キーとして、その検索キーに前記類似範囲内で類似する前記過去の設計書に対応する前記過去の製造情報を前記データベースから検索する類似検索部と、
検索された前記過去の製造情報を表示する検索結果表示部と、
前記新規の設計書の製造工程への入力を受け付ける製造工程入力部と、
入力された製造物と、入力された製造工程を含む前記新規の設計書を前記データベースに格納するプロセス設計書生成部とを有しており、
前記製造物指定部が、前記類似範囲を変更する旨の入力を受け付けると、変更後の前記類似範囲をもとにした前記データベースの再検索処理を前記類似検索部に実行させるとともに、変更後の前記類似範囲をもとにした前記過去の製造情報の再表示処理を前記検索結果表示部に実行させることを特徴とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新たなプロセス設計書を高品質に作成するために、参照する過去事例を適切に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に関するプロセス設計支援装置の系統構成を示す全体構成図である。
【
図2】本実施形態に関する
図1に示すプロセス設計支援装置における処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】本実施形態に関する過去の設計書の一例を示す画面図である。
【
図4】本実施形態に関する新規の設計書の一例を示す画面図である。
【
図5】本実施形態に関する類似検索の類似度が高い場合の検索入力画面の一例を示す画面図である。
【
図6】本実施形態に関する
図5の検索入力画面の入力データと連動して更新される分析結果の表示画面図である。
【
図7】本実施形態に関する類似検索の類似度が低い場合の検索入力画面の一例を示す画面図である。
【
図8】本実施形態に関する
図7の検索入力画面の入力データと連動して更新される分析結果の表示画面図である。
【
図9】本実施形態に関する
図8の表示画面を参照した設計者が得た知見を示す説明図である。
【
図10】本実施形態に関する新規の設計書の一例を示す画面図である。
【
図11】本実施形態に関するプロセス設計支援装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施例を、図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、プロセス設計支援装置100の系統構成を示す全体構成図である。
プロセス設計支援装置100は、製造・検査情報蓄積部101、製造工程表示部102、製造・検査情報分析部103、製造・検査情報表示部104、製造工程入力部105、プロセス設計書生成・蓄積部106、および、データベース107を有する。製造・検査情報とは、製品の製造情報と、製品の検査情報(検査の内容や結果を示す情報)との組み合わせである。
データベース107には、プロセス設計書(新規の設計書111、過去の設計書112)と、その過去の設計書112に基づいて実際に製造物を製造した際の実績データ(製造・検査情報)である過去の製造・検査情報113とが格納される。
【0015】
製造・検査情報蓄積部101は、過去の設計書112に記載された内容(詳細は
図3)に基づいて、実際に製造した際の過去の製造・検査情報113を取得し、データベース107に蓄積する。
製造工程表示部(製造物指定部)102は、新規に作成する製造物(鋼種)に用いられる新規の設計書111(詳細は
図4)を表示し、鋼種などの製造物を特定するための項目と、その製造物への類似範囲との入力を受け付ける。
【0016】
製造・検査情報分析部(類似検索部)103は、新規の設計書111に入力された鋼種などを検索キーとして、その検索キーに類似範囲内で類似する過去の設計書112を検索する。これにより、製造・検査情報分析部103は、類似検索で取得した過去の設計書112に基づく過去の製造・検査情報113を取得する。さらに、製造・検査情報分析部103は、取得した過去の製造・検査情報113を用いて合否判定率、相関係数などを分析してもよい。
【0017】
製造・検査情報表示部(検索結果表示部)104は、
図6で示すように、製造・検査情報分析部103が取得して分析した過去の製造・検査情報113を、文字表示やグラフ表示する。
製造工程入力部105は、
図10で示すように、製造・検査情報表示部104の表示内容を参考にした設計者から、製造要領などの新規の設計書111の各項目の入力を受け付ける。
【0018】
プロセス設計書生成・蓄積部(プロセス設計書生成部)106は、製造工程入力部105に入力された情報に基づいて新規の設計書111を生成し、データベース107に蓄積する。
データベース107は、製造・検査情報蓄積部101、製造・検査情報分析部103、プロセス設計書生成・蓄積部106で得られたデータを蓄積する。
【0019】
ここで、プロセス設計支援装置100の主な特徴として、製造工程表示部102は、類似範囲を変更する旨の入力を受け付けると、変更後の類似範囲をもとにしたデータベース107の再検索処理を製造・検査情報分析部103に実行させるとともに、変更後の類似範囲をもとにした過去の製造・検査情報113の再表示処理を製造・検査情報表示部104に実行させる(詳細は
図2から後記)。
これにより、設計者は、類似検索で取得した過去の製造・検査情報113の表示内容を参照して、類似検索で参照する過去事例を増やすか減らすかを判断し、その類似範囲を変更する。その類似範囲の変更操作に連動して、類似検索の表示内容も更新されるので、新たなプロセス設計書を高品質に作成するために、参照する過去事例を適切に抽出できる。
【0020】
プロセス設計支援装置100の処理について、
図2から
図10を例に取りながら説明する。
図2は、
図1に示すプロセス設計支援装置100における処理手順を示すフローチャートである。本発明の手順は、大きく以下の2種類の処理に分けられる。
S100は、過去の設計書112、過去の製造・検査情報113をデータベース107に蓄積する処理である。
S200は、データベース107を参照して、新規の設計書111を生成する処理である。以下では、機械構造物をなす金属材料の新規の設計書111の作成を例示する。
まず、S100の詳細として、S101~S103を順に説明する。
【0021】
S101では、プロセス設計書生成・蓄積部106は、S200で後記する方法で過去に生成した新規の設計書111を、過去の設計書112としてデータベース107に蓄積する。
【0022】
図3は、S101で蓄積される過去の設計書112の一例を示す画面図である。
過去の設計書112には、設計者によって以下の各項目が入力される。
・案件名201には、「AAA社」が入力されている。
・鋼種名202には、「鋼種A」が入力されている。
・成分表203には、鋼種Aの成分が入力されている。
・工程表204には、「溶解」、「焼鈍」、「加工」、「再溶解」、「分塊」、「仕上」、「熱処理」、「検査」という製造プロセスの工程ごとに、その製造要領が対応付けられている。例えば工程名「焼鈍」に対応する製造要領として、「加熱温度α℃、加熱時間*時間以上*時間以内」が入力されている。また、工程名「検査」に対応する製造要領204aは、後記する過去の製造・検査情報113の表示画面の作成に用いられる。
工程名「分塊」に対応する製造要領204bは、
図6の説明で後記する。
【0023】
S102では、製造・検査情報蓄積部101は、製造した際に得られる情報、検査結果を取得する。ここでは過去の設計書112に記載された工程、製造要領の内容に基づいて、実際に製造した際の過去の製造・検査情報113を取得する。
図3に示す過去の設計書112を例に取ると、以下の情報を取得する。
・工程「溶解」の製造要領には、「真空誘導炉」と記載されているので、実際に鋼種Aを製造したときの炉の種類を取得する。
・工程「焼鈍」の製造要領には、「加熱温度α℃、加熱時間*時間以上*時間以内」と記載されているので、実際に鋼種Aを製造した際の焼鈍の温度、加熱時間を取得する。
・工程「検査」の製造要領には、「寸法、超音波探傷試験、脱炭厚さ*%以内、強さ**以上、硬さ**以上」と記載されているので、実際に鋼種Aを製造した際の、寸法試験の合否判定結果の○、×、超音波探傷試験の合否判定結果の○、×、脱炭厚さ、強さ、硬さといった検査結果を取得する。
【0024】
S103では、製造・検査情報蓄積部101は、S102で取得した過去の製造・検査情報113をデータベース107に蓄積する。
以下、S200の詳細として、S201~S206を順に説明する。
【0025】
S201では、製造工程表示部102は、新規の設計書111を表示する。
図4は、S201で表示された新規の設計書111の一例を示す画面図である。この新規の設計書111は、BBB社に納入する鋼種Bに関するものである。新規の設計書111には、設計者によって以下の各項目が途中まで入力される。
・案件名211には、「BBB社」が入力されている。
・鋼種名212には、「鋼種B」が入力されている。
・成分表213には、鋼種Bの成分がそれぞれ入力されている。
・工程表214aの左列(工程)には、「溶解」、「加工」、「再溶解」、「分塊」、「仕上」、「熱処理」、「検査」が入力されている。工程表214aの右列(製造要領)には、工程「溶解」に対応する「真空誘導炉」、工程「加工」に対応する「切削加工」、工程「再溶解」に対応する「真空アーク再溶解炉」が入力されている。以下、工程「分塊」に対応する製造要領をこれから入力する場合を説明する。
【0026】
S202では、製造・検査情報分析部103は、S201の新規の設計書111を検索キーとして、データベース107から類似する過去の設計書112と、過去の製造・検査情報113とを類似検索する。
図5は、S202の類似検索の類似度が高い場合の検索入力画面の一例を示す画面図である。
鋼種名301には、新規の設計書111の鋼種名212である「鋼種B」が、検索キーとして表示されている。
成分表302には、鋼種名301の鋼種Bに対する成分が表示されている。
【0027】
なお、類似検索方法には様々な種類があり、任意の類似検索手法の利用が可能であるが、ここでは単純なベクトル空間法による類似検索を行う。そのため、鋼種の成分ベクトルD=(d1,d2,…,dn)を考える。di(i=1,2,…n)は鋼種の各成分を表す。過去に蓄積された鋼種の成分ベクトルW=(w1,w2,…,wn)を取得し、ベクトルDとベクトルWとのなす角が小さいほど類似度が高いとする。
またベクトルDとベクトルWとのなす角が大きい場合は類似度が小さいとする。ベクトルDとベクトルWとのなす角はベクトルの内積の公式による算出できる。ここでは鋼種Bを成分ベクトルDとし、過去に蓄積された鋼種を成分ベクトルWとして類似検索する。
【0028】
類似度入力欄303のスライドバー303xは、マウスドラッグなどの操作により、左右に移動可能である。スライドバー303xの横位置はS202の類似検索の範囲を示す類似度のしきい値を示す。
スライドバー303xの横位置が左側に位置するほど、類似度のしきい値が高く設定されることで、類似検索の範囲は狭く(厳しく)なり、しきい値を超過する検索結果は少なく絞り込まれる。
スライドバー303xの横位置が右側に位置するほど、類似度のしきい値が低く設定されることで、類似検索の範囲は広く(ゆるく)なり、しきい値を超過する検索結果は多くなる。
【0029】
類似表304aは、スライドバー303xのしきい値を超過する検索結果のリストである。
図5では類似度が高く(左側に)設定されているので、類似鋼種として、100%一致する「鋼種B」に加え、「鋼種A」、「鋼種C」という少ない検索結果が表示されている。
そして、製造・検査情報分析部103は、類似表304aで得られた各類似鋼種に対して、過去の設計書112の工程の製造要領に記載された内容に関する過去の製造・検査情報113を取得する。
さらに、製造・検査情報分析部103は、取得した過去の製造・検査情報113に対して、合否判定率、相関係数などの分析を行ってもよい。この分析結果は、動的に表示されて、設計にも反映される。
【0030】
S203では、製造・検査情報表示部104は、S202の分析結果などの過去の製造・検査情報113を表示して設計者に可視化する。
図6は、
図5の検索入力画面の入力データと連動して更新される、S203の分析結果の表示画面図である。
設計者は、表示された画面400を参照して、
図4の工程表214aの「分塊」についての製造要領を検討する。
画面400には、以下が表示されている。
・鋼種名401の「鋼種B」は、新規の設計書111で指定されたものである。よって、鋼種Bの類似検索の結果である、鋼種A,B,C(
図5の類似表304a)が表示対象となる。
・工程名402の「分塊」は、過去の設計書112の工程表204(
図3)からプルダウンメニューで選択された工程である。よって、工程「分塊」の製造要領204bに記載された機械タイプ(プレス)、加熱温度、加熱時間が表示対象となる。
【0031】
・機械タイプ403の「プレス」とは、類似検索の結果である鋼種A,B,Cについて、過去の製造で用いた機械の種別を示す。なお、製造要領が炉の種類や機械タイプなどの文字情報であるときには、その文字情報をそのまま画面400内に表示する。
・画面400内の左側には、加熱温度ごとのグラフ411-415が表示される。グラフ411-415の横軸は加熱温度を示し、横軸の右に向かうほど加熱温度が高くなる。
・画面400内の右側には、加熱時間ごとのグラフ421-425が表示される。グラフ421-425の横軸は加熱時間を示し、横軸の右に向かうほど加熱時間が長くなる。
なお、各411-415、421-425には、それぞれ類似検索の結果である各鋼種A,B,Cの情報を同じグラフ内に表示している。
【0032】
ここで、検査情報の製造要領が合否判定結果である場合の表示例を説明する。
画面400内の上側2段に位置する、グラフ411,412,421,422内には、○=合格、×=不合格で合否判定結果を製造情報(加熱温度または加熱時間)ごとに累積してプロットした。グラフ411,421は、製造要領204aが「寸法」の合否判定結果であり、グラフ412,422は、製造要領204aが「超音波探傷試験」の合否判定結果である。
【0033】
なお、プロットが○、×などの2値を取りうるグラフでは、横軸が同じ成分どうしで、○、×それぞれの個数(頻度)を累積する。そして、横軸が同じ成分どうしで0[%]~100[%]の合否判定率を、合否判定結果の分析結果として最上部に追記してもよい。例えば、グラフ421の横軸が最も右の成分は、下から順に「○、○、×」である。よって、×の割合は、1/3=33[%]なので、「○、○、×」の上部に合否判定率「33」を追記する。
【0034】
さらに、検査情報の製造要領が数値情報である場合の表示例を説明する。
画面400内の下側3段に位置する、グラフ413-415,423-425内には、検査情報の数値情報をプロットした。
・グラフ413,423は、製造要領204aが「脱炭厚さ」の検査情報を示し、グラフ内の波線横線(基準線)は、製造要領204a内の「脱炭厚さ *以内」の「*」(基準値)を示す。つまり、グラフ413,423では、波線横線を下回るプロットが、検索結果が良好なものである。
・グラフ414,424は、製造要領204aが「強さ」の検査情報を示し、グラフ内の基準線は、製造要領204a内の「強さ **以上」の「**」(基準値)を示す。つまり、グラフ414,424では、基準線を上回るプロットが、検索結果が良好なものである。
・グラフ415,425は、製造要領204aが「硬さ」の検査情報を示し、グラフ内の基準線は、製造要領204a内の「硬さ **以上」の「**」(基準値)を示す。つまり、グラフ415,425では、基準線を上回るプロットが、検索結果が良好なものである。
【0035】
さらに、グラフ413-415,423-425内の左上には、検査情報の分析結果である相関係数を表示してもよい。相関係数とは、グラフの横軸に示す製造工程で測定されたパラメータと、縦軸に示す製造物への検査で測定されたパラメータとの間にどのくらい相関関係が認められるかを示す数値(R=0~1)であり、数値が大きいほど相関があることを示す。
【0036】
図7は、S202の類似検索の類似度が低い場合の検索入力画面の一例を示す画面図である。
設計者は、
図6の画面400を参照して、鋼種A,B,Cだけでは、参考とする過去事例(グラフのプロット数など)が少ないと判断した。そこで、設計者は、マウスドラッグなどの操作により、
図5のスライドバー303xの位置を
図7の位置まで右側に移動した。
これにより、類似度のしきい値が低く設定されることで、類似検索の範囲は広く(ゆるく)なり、しきい値を超過する今回の検索結果である類似表304bは前回の類似表304aよりもエントリが増えた。具体的には、類似表304bには、新たに、鋼種D、Eが追加された。
【0037】
図8は、
図7の検索入力画面の入力データと連動して更新される、S203の分析結果の表示画面図である。
以下が、
図6の画面400と、
図8の画面400との相違点である。
・新たに追加された鋼種D、Eの製造に使用した機械タイプ403bとして、高速四面鍛造機(SMS group 株式会社のSMX radial forging machinesなど)が追加されている。
・グラフ411-415,421-425に関しては、表示項目は同じであるが、各グラフの表示個数(プロット数)が新たに追加された鋼種D、Eのデータ分だけ増えている。
・グラフ413-415のプロットが成分別に区別して表示される。
図8では、機械タイプの成分別として、プレス=丸記号のプロット、高速四面鍛造機=三角記号のプロットとして互いに区別できるように記号の形状を別々のものにしている。これにより、設計者はどの成分のプロットがグラフ内のどの部分に集中しているかを直観的に把握できる。
【0038】
なお、成分別に区別して表示する対象は、機械タイプの成分別だけでなく、鋼種の成分別(鋼種A,B,C…)としてもよい。さらに、互いに区別できる表示形態として、記号の形状を変える代わりに、記号の色を変えてもよいし、プロット付近にカーソルを持っていくことで、どの成分かを示すホップアップ表示をしてもよい。
【0039】
図9は、
図8の表示画面を参照した設計者が得た知見を示す説明図である。
グラフ411-415の加熱温度から、設計者は、所定範囲432を縦断的に閲覧する。この所定範囲432は、グラフ411,412では合格=○のプロットが多く、グラフ413では基準線を下回る合格データが多く、グラフ414,415では基準線を上回る合格データが多い。つまり、設計者は、所定範囲432の加熱温度431は製造に適していることをグラフ411-415から読み取る。
【0040】
同様に、グラフ421-425の加熱時間から、設計者は、所定範囲442を縦断的に閲覧する。これにより、設計者は、所定範囲432の加熱時間442は製造に適していることをグラフ421-425から読み取る。
また、設計者は、グラフ413,423のプロットが右上がりに配置されており、かつ、相関係数Rの値が高い(R=0.85またはR=0.86)ことを読み取る。これにより、設計者は、脱炭厚さに関して加熱温度または加熱時間に相関があると考える。
そして、設計者は、グラフ414,415では基準線を上回る合格データが多いことから、機械タイプには強さ、硬さなどの特性が良いと考える。
【0041】
S204では、製造工程入力部105は、
図9に示すように分析結果の表示画面を参考にした設計者から、新規の設計書111への入力を受け付ける。
図10は、S204で入力された新規の設計書111の一例を示す画面図である。
図4の新規の設計書111と比較すると、
図10では、工程名「分塊」に対して、以下の製造要領214cが入力されている。
・機械タイプ=高速四面鍛造機。
図9のグラフ413の成分別表示では、高速四面鍛造機のプロット(丸)のほうが、プレスのプロット(三角)よりも基準線を下回る合格範囲に多く存在していることにより、設計者は、高速四面鍛造機を採用した。
・加熱温度=ω℃。設計者は、例えば、
図9の加熱温度431の最大値をω℃として採用した。
・加熱時間=「*時間以上 *時間以内」。設計者は、例えば、
図9の加熱時間441の最小値と最大値とを採用した。
【0042】
S205では、プロセス設計書生成・蓄積部106は、S204で入力された工程名「分塊」を含む新規の設計書111を生成する。
S206では、プロセス設計書生成・蓄積部106は、S205で生成した新規の設計書111をデータベース107に蓄積する。
【0043】
以上説明したように、プロセス設計支援装置100は、新規の設計書111の作成において、過去の新規の設計書111と、過去の製造・検査情報113とを用いて分析および可視化した表示画面を設計者に提示する。これにより、設計者は、可視化された情報に基づいて新規の設計書111に製造要領を記入することで、高品質な新規の設計書111を作成できる。
なお、プロセス設計支援装置100では、表示項目の分析処理を、同一の(1台の)計算機で実行しているように記載している。一方、ネットワーク環境を利用することにより、プロセス設計支援装置100の機能を、異なる(2台以上の)計算機として構成してもよい。
【0044】
図11は、プロセス設計支援装置100のハードウェア構成図である。
プロセス設計支援装置100は、CPU901と、RAM902と、ROM903と、HDD904などの記憶部と、通信I/F905と、入出力I/F906と、メディアI/F907とを有するコンピュータ900として構成される。
通信I/F905は、外部の通信装置915と接続される。入出力I/F906は、入出力装置916と接続される。メディアI/F907は、記録媒体917からデータを読み書きする。さらに、CPU901は、RAM902に読み込んだプログラム(アプリケーションや、その略のアプリとも呼ばれる)を実行することにより、各処理部を制御する。そして、このプログラムは、通信回線を介して配布したり、CD-ROM等の記録媒体917に記録して配布したりすることも可能である。
【0045】
ここで、「プロセス設計支援装置100がデータベース107を有する」とは、以下のいずれかの構成として具体化される。
(構成1)自身のプロセス設計支援装置100が備えるHDD904内に、データベース107が存在する(直接的に有する)構成。
(構成2)プロセス設計支援装置100からネットワーク接続されるクラウド上に存在するデータベース107にアクセスする(間接的に有する)構成。
【0046】
なお、本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、さまざまな変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。
また、前記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【0047】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、または、IC(Integrated Circuit)カード、SDカード、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体におくことができる。また、クラウドを活用することもできる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
さらに、各装置を繋ぐ通信手段は、無線LANに限定せず、有線LANやその他の通信手段に変更してもよい。
【符号の説明】
【0048】
100 プロセス設計支援装置
101 製造・検査情報蓄積部
102 製造工程表示部(製造物指定部)
103 製造・検査情報分析部(類似検索部)
104 製造・検査情報表示部(検索結果表示部)
105 製造工程入力部
106 プロセス設計書生成・蓄積部(プロセス設計書生成部)
107 データベース
111 新規の設計書
112 過去の設計書
113 過去の製造・検査情報